説明

農業用不織布

【課題】脂肪族ポリエステルを主たる成分として含んでいるため環境影響が低く、かつ農業用不織布として使用するに好適な特性を備えた熱可塑性フィラメント不織布を提供するものである。
【解決手段】本発明は、熱可塑性フィラメントからなる農業用不織布であって、該熱可塑性フィラメントが脂肪族ポリエステルとポリアミドとのブレンドポリマーからなることを特徴とする農業用不織布に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性フィラメントからなる農業用不織布に関するものであり、脂肪族ポリエステルとポリアミドとのブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントを含むものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農業用不織布として石油由来からなる不織布が用いられている。しかしながら従来の農業用不織布は不要となったときの廃棄に大きな問題を有するものであった。例えば埋め立て処理をした場合には、農業用不織布が化学的に安定であり、形態的にも崩壊しにくいため、長期間にわたって形状を保ち続けてしまうという問題点があった。また焼却処理をした場合には、燃焼時の発熱量が高いため、焼却炉を傷めてしまったり、黒煙を発生したりするという問題点があった。
【0003】
そこで、近年では環境志向の高まりとともに、種々の生分解性を有する脂肪族ポリエステル繊維、さらにはそれからなる不織布が提案されている。生分解性を有する不織布は、自然環境下で、日光、紫外線、熱、水、酵素、微生物等の作用により化学的に分解され、さらには形態的に崩壊するため、焼却処理の必要がなく、埋め立て処理や屋外への放置により処分が可能である。仮に焼却処理をした場合でも、生分解性樹脂は従来の不織布に使用されているポリエステル等に比べ、一般的に燃焼熱量が低いため、焼却時に焼却炉を傷めないというメリットがある。
【0004】
さらに生分解性樹脂の中でもポリ乳酸を始めとするいわゆる非石油系原料の樹脂は、主原料が石油由来でなく、例えばポリ乳酸ではデンプンを主原料として合成が可能であるため、石油資源の消費による大気中への二酸化炭素排出量の増加を防ぐことができるというメリットも有している。しかしながら、ポリ乳酸やその他の脂肪族ポリエステルを主原料とした不織布は、一般的なポリエチレンテレフタレートやナイロンからなる不織布に比べ、耐熱性や強度の点で劣るものが多く、農業用不織布として使用するに十分な強度や寸法安定性、耐熱性、加工安定性等を兼ね備えたものは、これまで存在しなかった。
【0005】
例えば、特許文献1には生分解性農業用繊維集合体が提案されている。当該文献においては、一般式−O−CHR−CO−(但し、RはHまたは炭素数1〜3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする繊維からなる農業用の繊維集合体が記載されており、具体的な例として、ポリ乳酸繊維からなる不織布が提案されている。しかしながら当該文献においては、不織布の詳細な物性が記載されておらず、さらに繊維集合体を構成する繊維の切断伸度は5%程度であり十分な伸度が得られていないため、施工時や施工後の風雨により不織布が破れてしまう問題がある。また、特許文献2には生分解性マルチシートとして、ポリ乳酸系重合体にて形成されてなる長繊維不織布に関する技術が詳細に記載されている。当該技術によれば、農業用不織布として一定期間使用可能な耐候性および強度保持率を有するポリ乳酸系繊維からなる長繊維不織布を得ることができるものとある。さらにポリ乳酸を使用しているため、一定期間使用後のほぼ完全に分解され廃棄が容易である。しかしながら、当該文献では強度についての記載はあるものの、伸度および強度と伸度の積である抗張積の具体的数値についての記載が無く、不明である。この場合、強度保持率が維持できたとしても、伸度が十分無い不織布で有れば、施工時や施工後の風雨により不織布が破れてしまう問題がある。また、特許文献3には生分解性農業用被覆資材として、ポリ乳酸系重合体にて形成されてなる長繊維不織布に関する技術が詳細に記載されている。当該技術によれば、農業用不織布として一定期間使用可能な耐候性および強度保持率を有するポリ乳酸系繊維からなる長繊維不織布を得ることができるものとある。さらにポリ乳酸を使用しているため、一定期間使用後のほぼ完全に分解され廃棄が容易である。しかしながら、当該文献では強度、抗張積についての記載はあるものの、不織布のタテ方向に関する数値のみ記載されており、ヨコ方向についての記載が無く、不明である。この場合、タテ方向で十分な強度が得られたとしても、ヨコ方向の強度が不十分で有れば、施工時や施工後の風雨により不織布が破れてしまう問題がある。
【特許文献1】特許第3711409号公報
【特許文献2】特開2000−45164号公報
【特許文献3】特開2000−333542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、機械的強伸度に優れ、廃棄処分しても環境影響の低い農業用不織布を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
すなわち、
(1)熱可塑性フィラメントからなる農業用不織布であって、該熱可塑性フィラメントが脂肪族ポリエステルとポリアミドとのブレンドポリマーからなることを特徴とする農業用不織布。
【0008】
(2)下記関係式(I)を満足することを特徴とする(1)記載の農業用不織布。
50≦(MDタフネス×CDタフネス)1/2/(目付)≦200(I)
ここで、MDタフネス、CDタフネスとは、それぞれ不織布の機械方向(MD)及びその直角方向(CD)における強度(N/5cm)と伸度(%)の積を表わす。また、目付は不織布の単位面積当たりの重量を示すものである(g/m)。
【0009】
(3)前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの単繊維繊度が1〜15デシテックスであって、目付が20〜300g/mである(1)または(2)記載の農業用不織布。
【0010】
(4)前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントが、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0011】
(5)前記ブレンドポリマーの脂肪族ポリエステル:ポリアミドの重量比率が20:80〜95:5であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0012】
(6)前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの紡糸方向に対して直角方向に切断された断面において、ポリアミド成分が平均単繊維繊度1×10−7〜1×10−3デシテックスで微分散していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0013】
(7)前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であり、前記ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0014】
(8)前記不織布を構成する繊維同士の熱接着が、不織布の全面積に対して5〜50%の範囲で部分的になされてなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0015】
(9)前記不織布を構成する繊維同士が、機械的絡合処理されてなることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0016】
(10)前記不織布を構成する繊維同士が、繊維同士の接触点において互いに全面的に熱接着してなることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の農業用不織布。
【0017】
(11)前記不織布を構成する繊維同士の接点が、バインダー樹脂によって接着されてなることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の農業用不織布。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、脂肪族ポリエステルを主たる成分の一つとして含みながら、優れた機械的強伸度を有する農業用不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の農業用不織布は、熱可塑性フィラメント不織布からなるものであり、熱可塑性フィラメント不織布を構成する熱可塑性フィラメントとして、脂肪族ポリエステルとポリアミドがブレンドされたブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントを含有するものである。
【0020】
脂肪族ポリエステルは生分解性の脂肪族ポリエステルであれば特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートバリレート、あるいはこれらの共重合体や変成物を、単独またはブレンドして用いることができる。なかでも紡糸性、力学的特性が良好であり、かつ植物由来のデンプンからの合成が可能であるため環境影響が小さい、ポリ乳酸が最も好ましいものである。かかるポリ乳酸としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、あるいはこれらのブレンド体(ステレオコンプレックスを含む)が好ましいものである。かかるポリ乳酸の重量平均分子量は5万〜30万が好ましく、より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量が5万を下回る場合は、繊維の強力が低くなる傾向があり、また、重量平均分子量が30万を越える場合は、粘度が高いためノズルから押し出したポリマーの曳糸性が乏しく、高速延伸ができにくくなり、究極的には未延伸状態になり、十分な繊維強度を得ることができない傾向がでてくる。
【0021】
また、本発明に用いる脂肪族ポリエステルは、分子鎖末端のカルボキシル基の一部、またはすべてが末端封鎖剤により末端封鎖されてなるものが好ましい。脂肪族ポリエステルの分子鎖末端のカルボキシル基の一部、またはすべてが末端封鎖されることにより、加水分解によるフィラメント、さらにはシートの強度低下が抑制される。末端封鎖剤の添加により脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端濃度を、0〜20当量/tonとすることが好ましく、0〜15当量/tonとすることがより好ましく、0〜10当量/tonとすることがさらに好ましい。ここで脂肪族ポリエステルのカルボキシルキ基末端濃度は、精秤したサンプルをo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めることができる。
【0022】
本発明にて用いられる脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤としては、何ら制限されるものではないが、カルボジイミド化合物や、イソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物が好ましいものである。これら末端封鎖剤の添加量は、脂肪族ポリエステルに対して、0.05〜10wt%が好ましい範囲であり、0.1〜7wt%がさらに好ましい範囲である。
【0023】
本発明にて脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として用いられるカルボジイミド化合物としては、特に限定されるものではないが、モノカルボジイミド化合物が用いられる場合は、5%重量減少温度(以下、T5%と示す)が170℃以上のモノカルボジイミド化合物であることが好ましく、T5%が190℃以上のモノカルボジイミド化合物であることがより好ましい。モノカルボジイミド化合物のT5%が170℃未満の場合、モノカルボジイミド化合物が紡糸時に分解および/または気化し、糸切れの増加や製品品位の悪化が発生する傾向であり好ましくない方向である。さらにはモノカルボジイミド化合物が脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端に有効に反応、作用せず十分な耐加水分解性の向上効果を得られない傾向もあり好ましくない。なお、ここで5%重量減少温度とは、MACSCIENCE社製“TG−DTA2000S”TG−DTA測定機により、試料重量10mg程度、窒素雰囲気中にて昇温速度10℃/分として測定した時の、測定開始前の試料重量に対して重量が5%減量したときの温度として求めた温度である。
【0024】
本発明において末端封鎖剤として用いることのできるモノカルボジイミド化合物の例としては、例えば、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。末端封鎖剤として用いられるモノカルボジイミド化合物は、1種の単独使用であっても複数種の混合物であってもよいが、耐熱性および反応性や脂肪族ポリエステルとの親和性の点でN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICと記す)が好ましく、複数種のモノカルボジイミド化合物を併用する場合は、末端封鎖剤として用いるモノカルボジイミド化合物の総量のうち50%以上がTICであることが好ましい。
【0025】
モノカルボジイミド化合物により末端カルボキシル基を封鎖する方法としては、脂肪族ポリエステルの溶融状態でモノカルボジイミド化合物を末端封鎖剤として適量反応させることで得ることができるが、脂肪族ポリエステルの高重合度化、残存低分子量物の抑制などの観点から、ポリマーの重合反応終了後にモノカルボジイミド化合物を添加、反応させることが好ましい。上記したモノカルボジイミド化合物と脂肪族ポリエステルとの混合、反応としては、例えば、重縮合反応終了直後の溶融状態の脂肪族ポリエステルにモノカルボジイミド化合物を添加し攪拌・反応させる方法、脂肪族ポリエステルのチップにモノカルボジイミド化合物を添加、混合した後に反応缶あるいはエクストルーダなどで混練、反応させる方法、エクストルーダで脂肪族ポリエステルに液状のモノカルボジイミド化合物を連続的に添加し、混練、反応させる方法、モノカルボジイミド化合物を高濃度含有させた脂肪族ポリエステルのマスターチップと脂肪族ポリエステルのホモチップとを混合したブレンドチップをエクストルーダなどで混練、反応させる方法などにより行うことができる。
【0026】
本発明において加水分解抑制剤として用いられるカルボジイミド化合物は、特に限定されるものではないが、ポリカルボジイミド化合物が用いられる場合は、[化1]
【0027】
【化1】

【0028】
で表される4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、および[化2]
【0029】
【化2】

【0030】
で表されるイソホロンジイソシアネート、および、[化3]
【0031】
【化3】

【0032】
で表されるテトラメチルキシリレンジイソシアネートの少なくとも1種に由来し、分子中に2以上のカルボジイミド基を有し、かつそのイソシアネート末端がカルボン酸で封止されてなるポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。
【0033】
ポリカルボジイミド化合物は、上記式1で表される4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、HMDIと略記)、または、上記式2で表されるイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)、または、上記式3で表されるテトラメチルキシリレンジイソシアネート(以下、TMXDIと略記)のいずれか1種に由来するカルボジイミド、もしくは上記化合物の2種混合物、又は3種混合物のいずれかの混合物に由来するカルボジイミドで、分子中に2以上のカルボジイミド基、好ましくは5以上のカルボジイミド基を有するものを主成分とする。なお、ポリカルボジイミド中のカルボジイミド基の上限は20である。このようなカルボジイミドは、HMDI、またはIPDI、またはTMXDI又は上記化合物の2種混合物、または3種混合物を原料とする脱二酸化炭素反応を伴うカルボジイミド化反応により製造することができる。なお、この中でも、得られた繊維の力学的特性が優れているという点で、HMDIを50重量%以上用いたカルボジイミドが好ましく、HMDIを80重量%以上用いたカルボジイミドがより好ましい。
【0034】
また、本発明にて使用されるポリカルボジイミド化合物としては、脂肪族ポリエステル樹脂中に未反応のポリカルボジイミド化合物が存在しても、熱安定性に優れるために、フィラメント化する際の紡糸性悪化や刺激性ガスの発生を抑えることができることから、イソシアネート末端がカルボン酸を用いて末端を封止されたものであることが必要である。好ましく用いられるカルボン酸はモノカルボン酸であり、例えばシクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、無水トリメリット酸、2−ナフトエ酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、2−フル酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、メタクリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ケイ皮酸、グリセリン酸、アセト酢酸、ベンジル酸、アントラニル酸等が挙げられ、この中で最も好ましいのはシクロヘキサンカルボン酸である。
【0035】
なお、未反応のポリカルボジイミド化合物の熱劣化によって生じる熱分解ガスの発生量を減じるため、ポリカルボジイミド化合物の添加量を、カルボジイミド基当量として脂肪族ポリエステルのトータルカルボキシル基末端量の2倍当量以下にすることが好ましい。ポリカルボジイミド化合物の添加量は、より好ましくはトータルカルボキシル基末端量の1.5倍当量以下であり、さらに好ましくは1.2倍当量以下である。
【0036】
本発明にて脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として用いられるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物とは、下記[化4]で表されるものである。
【0037】
【化4】

【0038】
(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)
本発明において末端封鎖剤として用いられるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物としては、上記[化4]で表される化合物であれば特に限定されるものではないが、上記[化4]のRのうち、いずれか一つがグリシジル基、残る二つがアリル基であるジアリルモノグリシジルイソシアヌレートや、上記[化4]のR〜Rのうち、いずれか二つがグリシジル基、残る一つがアリル基であるモノアリルジグリシジルイソシアヌレートや、上記[化4]のR〜Rの全てがグリシジル基であるトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートなどが好ましく用いられる。なお、前記脂肪族ポリエステルに結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、親水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0039】
本発明において脂肪族ポリエステルとブレンドポリマーを構成するポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−10、ナイロン12、あるいはこれらの共重合体や変性物を、単独またはブレンドして用いることができる。ポリアミドの選定にあたっては、脂肪族ポリエステルとの融点差の少ないものを選ぶことが好ましい。なお、前記ポリアミドに結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、親水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0040】
本発明において最も好ましいブレンドポリマーは、脂肪族ポリエステルとして前述のポリ乳酸を使用し、ポリアミドとしてナイロン6を使用してなるものである。ナイロン6は融点が220℃とポリ乳酸の融点170℃に対し融点差が少なく、親和性も高く複合紡糸した場合の紡糸性がよいため特に好ましい。
【0041】
また、本発明においてブレンドされる脂肪族ポリエステル:ポリアミドの重量比率は、20:80〜95:5の範囲が好ましく、さらに好ましくは40:60〜90:10であり、最も好ましくは、50:50〜85:15である。ポリアミドの重量比率が80を越えると、脂肪族ポリエステルをブレンドすることによる環境影響を低くする効果が小さくなるため好ましくない方向である。またポリアミドの重量比率が5以上であれば、不織布の強伸度や熱収縮特性が十分となる傾向であり好ましいものである。
【0042】
本発明におけるブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントは、その断面方向において、ポリアミドが平均単繊維繊度1×10−7〜1×10−3デシテックスで微分散してなることが好ましい。ポリアミドの平均単繊維繊度が上記範囲内で微分散していれば、不織布の強伸度や熱収縮特性が十分となる傾向であり好ましい。微分散したポリアミドの平均単繊維繊度は2×10−7〜5×10−4デシテックスがより好ましく、9×10−7〜4×10−4デシテックスの範囲が最も好ましい。なお本発明におけるポリアミド成分の平均単繊維繊度は、以下の方法で求められる。すなわち、試料からランダムに小片サンプルを10個採取し、エポキシ樹脂に包埋して断面方向に超薄切片として切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM、例えば日立製H7100FA型)で、4万〜10万倍の倍率で写真を撮影する。各サンプルからポリアミド成分の断面積の大きさを20本ずつ、計200本測定して平均値を算出し、これを円形繊維の繊維径に換算し、ポリマーの密度で補正して求められるものである。なおTEM観察において、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとが識別しにくい場合には、適宜試料を染色してもよい。
【0043】
本発明において、ポリアミドを脂肪族ポリエステル中に微分散させる方法としては、溶融混練押出機や静止混練器等によって混練することが好ましい。また混練性を高める方法として、ポリアミドと脂肪族ポリエステルの組み合わせも重要であり、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましい。相溶性の指標として、ポリアミドと脂肪族ポリエステルの溶解度パラメーター(SP値)の差を、1〜9(MJ/m1/2とすることが好ましい。ここでSP値とは、(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。ポリアミドと脂肪族ポリエステルのSP値の差を1〜9(MJ/m1/2の範囲にすれば、ポリマー同士の相溶性が良くなるためポリアミドの分散性が良くなり、さらには紡糸安定性も向上する傾向となるため好ましい方向である。例えば、前述のポリ乳酸とナイロン6の組み合わせは、SP値の差が2(MJ/m1/2であり、相溶性の点からも好ましいものである。
【0044】
またさらに、ポリアミドの溶融粘度を脂肪族ポリエステルより低くすることが好ましい。ポリアミドの溶融粘度を脂肪族ポリエステルより低くすると、剪断力によりポリアミドが変形しやすく、微分散しやすいため好ましい。
上記ブレンドポリマーを熱可塑性フィラメント不織布の原料ポリマーとして用いるが、熱可塑性フィラメント不織布を後述するスパンボンド法で製造する場合には、ブレンドと紡糸を連続して行ってもよい。また、ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメント以外の熱可塑性フィラメントを含んでいてもよい。
【0045】
また、本発明におけるブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの単繊維繊度は1〜15デシテックスであることが好ましい。フィラメントの単繊維繊度が1デシテックスを下回る場合は、不織布としてシートにした場合、通気性が無くなり、農業用シートとして用いる際、通気性がないため、風雨によりシートが破れやすくなり好ましくない。フィラメントの単繊維繊度が15デシテックスを超える場合は、紡糸で糸条の冷却が不十分となり、紡糸安定性が悪くなる傾向であり好ましくない。より好ましい単繊維繊度の範囲は、3〜12デシテックスである。なお、ここでいう単繊維繊度は、試料からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の0.01μmの位を四捨五入して算出した繊維径を、ポリマーの密度で補正し、小数点第一位を四捨五入して求められるものである。またさらに、前記フィラメントの断面形状は何ら制限されるものではなく、丸形、楕円型、中空丸形、扁平型、あるいはX形、Y形、多葉形等の異形、等が好ましく使用されるが、製造が簡便である点から丸形形状が最も好ましいものである。
【0046】
本発明における熱可塑性フィラメント不織布の目付は20〜300g/mであることが好ましい。目付が20g/mを下回ると農業用不織布として使用するに十分な強度が得られにくい傾向であり好ましくなく、目付が300g/mを超える場合は、コスト的に好ましくない。より好ましい不織布の目付は30〜250g/m、さらに好ましくは50〜200g/mの範囲である。ここで目付は以下の方法で求めるものである。すなわち、縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入することで求めるものである。
【0047】
本発明の農業用不織布は、前記式(I)の関係を満足することを特徴としている。
50≦(MDタフネス×CDタフネス)1/2/(目付)≦200(I)
式(I)において、(MDタフネス×CDタフネス)1/2の項目は、不織布全体が有する平均強伸度能力を表している。通常目付が増加すると、それに伴い強伸度の値も増加する。よって、強伸度能力のみの値では、不織布の能力を単純に比較することはできない。しかしながら、平均強伸度能力を目付(g/m)で除することで、不織布1g/mあたりの比較可能な基本能力(以降、式(I)中、不等式で囲まれた数式を基本能力式と呼ぶ)を得ることができる。ここで、MDタフネス、CDタフネスとは、それぞれ不織布の機械方向(MD)及びその直角方向(CD)における強度(N/5cm)と伸度(%)の積を表わす。前記基本能力式で表される値が50未満の場合、不織布の強度もしくは伸度が低いために、緩衝性に劣ることとなり、使用に耐えない。また、基本能力式で表される値が200を大きく超えると、強度が非常に大きくなっているために加工性が悪くなる。また、そのような不織布は剛性も発現するため、作業性が悪くなる。従って基本能力式の値が前記式(I)を満足することが好ましい。また、より好ましい基本能力式は60〜180の範囲である。なお本発明における不織布の基本能力式は、不織布の目付と引張強力、伸度の関係を示すものである。引張強力と伸度は以下の方法で求めるものである。すなわち、不織布の機械方向(MD)およびその直角方向(CD)について、長さ30cm、幅5cmの試験片をそれぞれ10点採取する。試験片を定速伸長型引張試験機にて、つかみ間隔20cm、引張速度10±1cm/minで引張試験を実施し、破断するまでの最大荷重時の強さ(N)を0.1Nの位まで求め、これを引張強力(N/5cm)とする。また最大荷重時の伸び(cm)を0.1cmの位まで求め、これを試験長(20cm)で除し、小数点以下第二位を四捨五入して、伸度(%)を求める。得られた引張強力と伸度の10点の平均値を小数点以下第一位を四捨五入して求め、これを不織布の引張強力、伸度とする。得られた機械方向(MD)およびその直角方向(CD)の各々の引張強力と伸度の積を小数点以下第二位を四捨五入したものをMDタフネスおよびCDタフネスとする。また目付は前述の方法で求めるものである。ここで基本能力式とはMDタフネスとCDタフネスの積の平方根を取ったものを、目付で除し、小数点以下第一位を四捨五入することで求めるものである。
【0048】
本発明において熱可塑性フィラメント不織布を構成する熱可塑性フィラメントは、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することが好ましい。脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1wt%以上含有することにより、フィラメント表面の摩擦抵抗が小さくなり、タフティング時のタフト針による不織布のダメージが小さくなる傾向であり好ましいものであり、含有量を5.0wt%以下とすることにより、紡糸性の悪化も発生しにくい傾向であり好ましい。より好ましい含有量の範囲は0.3〜4.0wt%、最も好ましい範囲は0.5〜2.0wt%である。なお、本発明においては、脂肪族ビスアミドまたはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをそれぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用して含有するものでもよい。
【0049】
本発明において用いられる脂肪族ビスアミドは特に制限されるものではないが、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、および芳香族系脂肪酸ビスアミド等であり、例えばメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスバルミチン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
本発明において用いられるアルキル置換型の脂肪族モノアミドとしては、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置換した構造の化合物を示し、N−ラウリルラウリル酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0050】
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを熱可塑性フィラメントに含有させるにあたっては、熱可塑性フィラメントの表面に付与する等の方法もあるが、原料となるブレンドポリマーに添加する方法が好ましい。脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを、紡糸するための原料となるブレンドポリマーに添加する方法は何ら制限されるものではないが、予め原料樹脂と添加する物質を加熱溶融混合したマスターチップを作製し、これを紡糸の際に原料樹脂に必要量添加して、添加物質量を調整する方法が最も好ましい。
【0051】
本発明において農業用不織布として用いられる熱可塑性フィラメント不織布は、連続したフィラメントからなる長繊維不織布であることが好ましく、生産効率が高く、かつ機械的強度や寸法安定性に優れる点からスパンボンド法により得られる長繊維不織布が最も好ましい。本発明におけるスパンボンド法とは、溶融した原料ポリマーをノズルより押し出し、これを高速吸引ガスにより吸引延伸してフィラメントとし、これを帯電開繊し移動コンベア上に堆積捕集させて繊維ウェブとし、この繊維ウェブを機械的絡合、熱接着、バインダー樹脂接着、あるいはこれらの方法を組み合わせることにより一体化したシートとする方法である。本発明においては原料ポリマーを溶融させる温度は、脂肪族ポリエステルの融点より30〜90℃高いことが好ましく、40〜80℃高いことがより好ましく、50〜70℃高いことが最も好ましい。溶融温度と脂肪族ポリエステルの融点の差が30℃未満の場合は、原料の溶融粘度が高くなり過ぎ、紡糸性が不安定となる傾向であり、好ましくない方向である。溶融温度と脂肪族ポリエステルの融点の差が90℃を超える場合は、特に脂肪族ポリエステルの熱分解が激しくなる傾向であり、好ましくない方向である。さらにフィラメントを吸引延伸する紡糸の速度は、1500〜6000m/minが好ましいものである。紡糸速度が1500m/minを下回る場合は、延伸不足によりフィラメントの強度が不十分となる場合があり好ましくない。紡糸速度が6000m/minを超える場合は、紡糸の安定性が悪くなる傾向であり、好ましくない。より好ましい紡糸速度の範囲は2000〜5000m/minである。
【0052】
また、繊維ウエブを一体化する方法としては、機械的絡合、熱接着、バインダー樹脂接着、あるいはこれらの方法を組み合わせたものが好ましいものであるが、本発明における機械的絡合とは、突起を有する針でフィラメント同士を絡めるニードルパンチ処理、あるいは柱状水流によりフィラメントを絡合させるウォータージェットパンチ処理が好ましいものである。ニードルパンチ処理の場合は、針密度20〜120回/cmで処理したものが好ましい。針密度が20回/cmを下回る場合は、絡合が不十分で強度が低くなる傾向であり好ましくない。針密度が120回/cmを超える場合は、絡合は十分となるが、フィラメントの損傷が激しく不織布の強度が低下する傾向となり好ましくない。より好ましい針密度は30〜100回/cmである。またウォータージェットパンチ処理の場合は、5〜20MPaの水圧で、表裏両面を、それぞれ1回以上処理することが好ましい。処理水圧が5〜20MPaの範囲であれば、絡合も適切に行われ不織布の強度も十分となる傾向である。
【0053】
また、本発明において、熱接着による一体化は、繊維同士が接触点において互いに熱接着してなるもの、または熱接着が不織布の全面積に対して5〜50%の範囲で部分的になされているものが好ましい。繊維同士を接触点において互いに熱接着させる方法としては、一対のフラットロールによる熱処理や、熱風を吹き付ける処理(エアースルー接着処理)が好ましいものである。また部分的に熱接着させる方法としては、一対のエンボスロールによる熱エンボス処理、またはエンボスロールとフラットロールによる熱エンボス処理が好ましいものである。部分的な熱接着において、接着面積の割合が、不織布の全面積に対して5%未満である場合は、不織布の強度が不十分となる傾向であり、好ましくない。部分的熱接着の割合が、不織布の全面積に対して50%を超える場合は、不織布の風合いが硬くなり過ぎる傾向であり、好ましくない。より好ましい部分的熱接着の割合は8〜30%である。さらにこれら熱接着の温度は、フィラメントを構成する脂肪族ポリエステルの融点より5〜70℃低いことが好ましく、10〜60℃低いことがより好ましい。熱接着の温度と、脂肪族ポリエステルの融点の温度差が5℃を下回る場合は、熱接着が強くなり過ぎる傾向であり好ましくない方向である。70℃を上回る場合は熱接着が不十分となる場合があり好ましくない方向である。
【0054】
また、本発明の不織布は、繊維同士の接点がバインダー樹脂によって接着されてなるものも好ましい。バインダー樹脂としては、ポリ乳酸系樹脂や、ポリビニルアルコール、デンプン等の多糖類の他、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、メラミン樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、等が好ましく使用でき、エマルジョンやラテックス系の樹脂を含浸法、スプレー法、コーティング法、ロールコーター法、グラビアコーター法、発泡含浸法、等の公知の方法により付与することができる。またさらにバインダー樹脂の付着量(固形分付着量)は、不織布の総重量に対して、2〜15wt%であることが好ましい。バインダー樹脂の付着量が2wt%を下回る場合、樹脂による接着効果が不十分となる傾向であり好ましくない。バインダー樹脂の付着量が15wt%を超えると、経済的でもなく好ましくない。より好ましいバインダー樹脂の付着量は、5〜12wt%である。
【0055】
また、本発明において繊維ウエブを一体化する方法としては、上記の通り機械的絡合、熱接着、バインダー樹脂接着、が好ましいものであるが、これらを組み合わせたものも好ましいものである。例えば、ニードルパンチにより機械的絡合を付与した後に部分的に熱接着させる方法や、エアースルー熱接着した後にバインダー樹脂を付着させる方法、さらにはニードルパンチにより機械的絡合を付与した後にバインダー樹脂を付着させる方法、等も好ましいものである。
【実施例】
【0056】

以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例で用いた評価法とその測定条件について以下に説明する。
【0057】
(1)ポリマーの溶融粘度(poise)
東洋精機製作所(株)製キャピラログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0058】
(2)融点(℃)
Perkin Elmer DSC−7を用いて2nd runでポリマーの溶融を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は20℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0059】
(3)重量平均分子量
ポリ乳酸の重量平均分子量は以下の方法で求めた。試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とし、これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフ(GPC)Waters2690を用いて、25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。各試料につき3回の測定を行い、平均値を算出し、千の位を四捨五入してそれぞれの重量平均分子量とした。
【0060】
(4)単繊維繊度(デシテックス):
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の0.01μmの位を四捨五入して算出した繊維径を、ポリマーの密度で補正し、小数点第一位を四捨五入して求めた。
【0061】
(5)目付(g/m):
不織布から縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
【0062】
(6)ポリアミド成分の分散状態(平均単繊維繊度:デシテックス)
不織布からランダムに小片サンプルを10個採取し、エポキシ樹脂に包埋して断面方向に切削して超薄切片として切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM:日立製H7100FA型)で、4万〜10万倍の倍率で写真を撮影した。各サンプルからポリアミド成分の断面積の大きさを20本ずつ、計200本測定してそれらの平均値を算出し、これを円形繊維の繊維径に換算し、ポリマーの密度で補正してポリアミド成分の単繊維繊度を求めた。なおTEM観察において、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとが識別しにくい場合には、適宜試料を染色した。
【0063】
(7)引張強力、引張伸度
不織布の機械方向(MD)およびその直角方向(CD)について、長さ30cm、幅5cmの試験片をそれぞれ10点ずつ採取する。試験片を定速伸長型引張試験機にて、つかみ間隔20cm、引張速度10±1cm/minで引張試験を実施し、破断するまでの最大荷重時の強さ(N)を0.1Nの位まで求め、これを引張強力(N/5cm)とする。また最大荷重時の伸び(cm)を0.1cmの位まで求め、これを試験長(20cm)で除し、小数点以下第二位を四捨五入して、伸度(%)を求める。得られた引張強力と伸度の10点の平均値を小数点以下第一位を四捨五入して求め、これを不織布の引張強力、伸度とする。得られた機械方向(MD)およびその直角方向(CD)の各々の引張強力と伸度の積を小数点以下第二位を四捨五入したものをMDタフネスおよびCDタフネスとする。得られたMDタフネスとCDタフネスの積の平方根を取り、小数点以下第二位を四捨五入し、前記(5)項の方法で求めた目付で除し、小数点以下第一位を四捨五入することで基本能力式の値を求める。
【0064】
(実施例1)
溶融粘度570poise(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のナイロン6(40重量%)、と重量平均分子量12万、溶融粘度300poise(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点170℃のポリ(L−乳酸)(光学純度99.5%以上)(60重量%)を2軸押出混練機にて240℃で混練してブレンドポリマーチップを得た。
【0065】
このブレンドポリマーチップを原料とし、240℃で押出機にて原料を溶融し、紡糸温度240℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度4200m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、圧着面積率が16%となるようなエンボスロールとフラットロールを用いて、ロール温度140℃、線圧50kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度1.8デシテックス、目付50g/mの不織布を得た。
【0066】
(実施例2)
実施例1で使用したブレンドポリマーチップに、エチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加し、240℃で押出機にて溶融し、紡糸温度240℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度4000m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、圧着面積率が16%となるようなエンボスロールとフラットロールを用いて、ロール温度140℃、線圧50kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度1.8デシテックス、目付100g/mの不織布を得た。
【0067】
(実施例3)
実施例1と同様の条件で、ナイロン6:ポリ(L−乳酸)の重量比率のみを20:80に変更して、ブレンドチップを得た。このブレンドポリマーチップに、エチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加し、240℃で押出機にて原料を溶融し、紡糸温度245℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度3900m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、圧着面積率が13%となるようなエンボスロールとフラットロールを用いて、ロール温度140℃、線圧50kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度2デシテックス、目付130g/mの不織布を得た。
【0068】
(実施例4)
実施例1で使用したブレンドポリマーチップに、エチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加、さらにTICをポリ(L−乳酸)の含有量に対して1wt%添加し、240℃で押出機にて溶融し、紡糸温度245℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度3500m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、圧着面積率が16%となるようなエンボスロールとフラットロールを用いて、ロール温度135℃、線圧50kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度2デシテックス、目付130g/mの不織布を得た。
【0069】
(実施例5)
実施例1で使用したブレンドポリマーチップに、エチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加し、240℃で押出機にて溶融し、紡糸温度240℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度3800m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、圧着面積率が16%となるようなエンボスロールとフラットロールを用いて、ロール温度80℃、線圧50kg/cmの条件で接着し、単繊維繊度2デシテックスの仮接着不織布を得た。これを1バーブのニードル針を植え込んだニードルパンチ機にて90回/cmでニードルパンチを行い、不織布を機械的に絡合させた。これをアクリル酸エステル共重合樹脂中に含浸し、150℃で乾燥した後に、一対のフラットロールで温度110℃、線圧40kg/cmで熱処理を実施し、目付150g/mの不織布を得た。なお樹脂接着剤の固形分付着量は16wt%とした。
【0070】
【表1】

【0071】
得られた不織布の特性は表1に示した通りであるが、実施例1〜5の不織布はいずれも脂肪族ポリエステルであるポリ(L−乳酸)樹脂を含んでいるにも関わらず、引張強力、伸度が高く、基本能力式の値がそれぞれ、67、102、74、75、99と、優れた特性を有するものであった。
【0072】
(比較例1)
実施例1記載のポリ(L−乳酸)樹脂を原料とし、230℃で押出機にて原料を溶融し、紡糸温度235℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度4400m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、圧着面積率が16%となるようなエンボスロールとフラットロールを用いて、ロール温度140℃、線圧50kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度2デシテックス、目付50g/mの不織布を得た。
【0073】
(比較例2)
融点が280℃であるポリエチレンテレフタレートを原料とし、295℃で押出機にて原料を溶融し、紡糸温度310℃で丸形細孔より紡出した後、エジェクターにて紡糸速度4000m/minで紡糸し、公知の開繊装置により糸条を開繊して、移動コンベア上に捕集し得られたウェブを、フラットロールを用いて、温度130℃、線圧50kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度5デシテックスの仮接着不織布を得た。
【0074】
これを1バーブのニードル針を植え込んだニードルパンチ機にて90回/cmでニードルパンチを行い、不織布を機械的に絡合させ、目付170g/mの不織布を得た。
【0075】
得られた不織布の特性は表1に示した通りであるが、比較例1の不織布は、基本能力式の値の値が26と低く、農業用不織布として好ましい特性を有するものではなかった。比較例2の不織布はポリエチレンテレフタレートであるため、生分解性を有さず、環境負荷が高いだけでなく、基本能力式の値の値が、224と高く、使用する際に施工性が悪く、農業用不織布として好ましい特性を有するものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性フィラメントからなる農業用不織布であって、該熱可塑性フィラメントが脂肪族ポリエステルとポリアミドとのブレンドポリマーからなることを特徴とする農業用不織布。
【請求項2】
下記関係式(I)を満足することを特徴とする請求項1記載の農業用不織布。
50≦(MDタフネス×CDタフネス)1/2/(目付)≦200(I)
ここで、MDタフネス、CDタフネスとは、それぞれ不織布の機械方向(MD)及びその直角方向(CD)における強度(N/5cm)と伸度(%)の積を表わす。また、目付は不織布の単位面積当たりの重量を示す(g/m)。
【請求項3】
前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの単繊維繊度が1〜15デシテックスであって、目付が20〜300g/mである請求項1または2記載の農業用不織布。
【請求項4】
前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントが、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項5】
前記ブレンドポリマーの脂肪族ポリエステル:ポリアミドの重量比率が20:80〜95:5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項6】
前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの紡糸方向に対して直角方向に切断された断面において、ポリアミド成分が平均単繊維繊度1×10−7〜1×10−3デシテックスで微分散していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項7】
前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であり、前記ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項8】
前記不織布を構成する繊維同士の熱接着が、不織布の全面積に対して5〜50%の範囲で部分的になされてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項9】
前記不織布を構成する繊維同士が、機械的絡合処理されてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項10】
前記不織布を構成する繊維同士が、繊維同士の接触点において互いに全面的に熱接着してなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の農業用不織布。
【請求項11】
前記不織布を構成する繊維同士の接点が、バインダー樹脂によって接着されてなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の農業用不織布。

【公開番号】特開2008−7884(P2008−7884A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179155(P2006−179155)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】