説明

農業用塩化ビニル系樹脂フィルム用ベタツキ防止液

【課題】 農業用塩化ビニル系樹脂フィルムについて特別なフィルム加工を施さなくても、フィルム表面に塗布することにより、フィルムの透明性を低下させることが無く、フィルム同士のベタツキを防止し、展張作業や換気のためのフィルムの巻き上げ、巻き下げ作業等の作業性に優れ、効果の持続性に優れ、さらにフィルム自体に傷の付きにくい、ベタツキ防止液を提供すること。
【解決手段】 有機樹脂粒子の粉末と水系バインダー樹脂液とからなることを特徴とする農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液であり、有機樹脂粒子が、アクリル系樹脂粒子またはシリコン系樹脂粒子であり、水系バインダー樹脂液が、シリコン系化合物水分散液またはアマイド系化合物水分散液である農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用塩化ビニル系樹脂フィルム用ベタツキ防止液に係わり、詳細には、ハウスへの展張作業や換気のために樹脂フィルムの巻き上げ、巻き下げ等に際し、樹脂フィルム同士のベタツキを防止する液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業用ハウスや、トンネル等の農業用施設の被覆材としては、軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリエステルフィルムや、これらの積層フィルム等の合成樹脂フィルムが使用されている。そのなかでも、軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、他の合成樹脂フィルムに比較して各種添加剤が配合し易いものであり、種々の特性を付与することができるため、光線透過率、保湿性、機械的強度、耐久性、作業性、経済性に優れたフィルムとして、最も広く使用されているものである。
【0003】
しかしながら、軟質ビニル系樹脂フィルムは、上記のような優れた特性を持つ反面、配合された可塑剤、防曇剤、安定剤等の各種添加剤が使用中に表面側にしみ出すため、表面がベタつき、フィルム同士が密着してしまい、展張作業、換気のためのフィルムの巻き上げ、巻き下げ作業の作業性が悪いといった欠点を有している。
【0004】
そのため、従来から、フィルム自体をスムースに巻き上げ、巻き下げすることができるように、換気部分(フィルムの巻き上げ、巻き下げ部分)のフィルム表面に梨地模様を施すか、あるいは粉を塗布する等の処理が行われていた。例えば、エンボスロール等により、フィルム表面に梨地の凹凸を施し、フィルム表面同士の密着を防止するもの(特許文献1)であるが、フィルムの透明性が悪化し、作物の生育に支障がきたす可能性があると共に、可塑剤等のブリードによるフィルム表面のベタツキを防止するには不十分なものであった。さらに、フィルムの生産時にこのような加工をする必要があり、フィルムを展張する場所によって使い分けをする等の対応が必要になり、使用対応が容易ではなかった。
また、フィルム表面に炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなどの粉末を散布してベタツキを防止する方法は、初期効果は良好なものであるが、風雨などにより、粉末が離脱すると共に、効果がなくなっていくために、持続性の面での問題があった。
【0005】
そのため、シリカ、タルク、カーボン、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン等の微粒子状無機粒子を塩化ビニル樹脂に添加して、フィルムを成形することでフィルム表面に無機粒子の微細な凹凸を形成する方法もあるが、フィルム表面のベタツキは少なくなるものの、フィルム自体の透明性や透光性が悪化し、植物の生育の面で好ましくない問題があった。
【0006】
また、フィルムの換気部分(フィルムの巻き上げ、巻き下げ部分)の少なくとも一方を梨地加工とし、該フィルムの片面あるいは両面にアクリル樹脂等を塗布し防塵性を持たせた農業用ビニルフィルムも登場している(特許文献2)。このフィルムはフィルムの巻き上げ、巻き下げ部分におけるフィルムのベタツキを梨地加工することで防止すると共に、残りのフィルムを平滑な部分とし、そのフィルム自体に防塵性を持たせ、透明性の悪化を防止しようとするものである。しかしながら、かかるフィルムにあっては、フィルムの加工は煩雑なものであり、換気部分と一般用のフィルム部分とを使い分ける必要があり、作業性等を悪化させるものであった。
【0007】
さらに、フィルム上に、コロイド状無機化合物の水性分散液と水性オルガノポリシロキサンエマルジョンの混合物からなるベタツキ防止液を塗布する技術も提案されている(特許文献3)。この方法は、フィルム自体を特別に加工するものではなく、換気を行うフィルムの巻き上げ、巻き下げ部分に防止液を塗布するという簡単な方法でフィルムのベタツキを防止する点で優れたものである。しかしながら、コロイド状無機化合物の安定性が悪いために、防止液の調製時や塗布作業時に作業性が悪く、無機物の塗布面に汚れが付きやすく、透明性が低下するとともに、無機物が欠落しやすいためにベタツキ防止効果の面で問題があった。
【特許文献1】特開2002−315446号公報
【特許文献2】特開2000−4684号公報
【特許文献3】特開2000−129210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、従来から汎用されている農業用塩化ビニル系樹脂フィルムについて、特別な加工をフィルム成形時に施さなくとも、ビニルハウス等に展張した後に、換気のためにフィルムの巻き上げ、巻き下げ作業を行うフィルム表面に塗布するだけで、フィルムの透明性を低下させることなく、フィルム同士のベタツキによる密着を防止し、フィルムの巻き上げ、巻き下げ作業性に優れ、効果の持続性に優れた農業用塩化ビニル系樹脂フィルム用ベタツキ防止液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための本発明は、その態様として;
(1)有機樹脂粒子の粉末と水系バインダー樹脂液とからなることを特徴とする農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液;
(2)有機樹脂粒子の平均粒子径が0.1μm〜10μmであることを特徴とする前記1に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液;
(3)有機樹脂粒子の粉体と水系バインダー樹脂液とを、固形分比が95:5〜5:95となるように混合したことを特徴とする前記1または2に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液;
(4)有機樹脂粒子が、アクリル系樹脂粒子またはシリコン系樹脂粒子であることを特徴とする前記1、2または3に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液;
(5)水系バインダー樹脂液が、シリコン系化合物水分散液またはアマイド系化合物水分散液であることを特徴とする前記1、2または3に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液;
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明が提供する農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液は、フィルム自体を特別なフィルムとして加工する必要が無く、有機樹脂粒子の粉末と水系バインダー樹脂液とを混合し、換気を行うフィルム部分に塗布(噴霧)することにより、効率的にフィルム同士のベタツキを防止しうるものであり、その作業性は極めて良好なものである。
また、有機樹脂粒子を水系バインダー樹脂液に分散させているので、フィルムの透明性を損なうことなく、長期間にわたり、良好なベタツキ防止効果を発揮することができる。さらに、有機樹脂粒子を使用することで、水系バインダー樹脂液への分散性に優れているために、塗布作業性に優れており、無機粒子に比べ塗布面の防汚性に優れた塗膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のベタツキ防止液は、上記したように、その基本的態様は、有機樹脂粒子の粉末と水系バインダー樹脂液とからなる農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液である。
使用される有機樹脂粒子の粉末としては、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系、シリコン樹脂系等のいずれの樹脂粒子の粉末を使用することができる。
【0012】
有機樹脂粒子の粒子径は、平均粒子径として0.1μm〜10μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であるとベタツキ防止効果が得られず、また10μmを超えると、ベタツキ防止液中に分散しにくくなり、また、フィルムから粒子が欠落し易くなるため、ベタツキ防止効果を得にくくなる。
【0013】
また、この有機樹脂粒子の水分散液と混合する水系バインダー樹脂液としては、種々の水系バインダー樹脂液をあげることができるが、なかでも、シリコン系化合物水分散液あるいはアマイド系化合物水分散液を好ましく使用することができる。これらの水系バインダー樹脂液は、いわゆる水系樹脂エマルジョンとして市販されているもの(例えば、SH−7024、SM−7001EX、SA−20など)を使用することができる。本発明においては、特にシリコン系化合物水分散液あるいはアマイド系化合物水分散液を、有機樹脂粒子の水分散液に対する分散液として使用することにより、フィルムに対するワックス効果を発揮する。したがって、フィルム表面に塗布された有機樹脂粒子を継続的にフィルム表面上に保持し得ることによりベタツキ防止効果が持続することとなる。
【0014】
さらに、これらのシリコン系化合物水分散液あるいはアマイド系化合物水分散液は、滑剤としての性質を発揮するものでもあり、したがって農業用塩化ビニル樹脂フィルムの巻き上げ、巻き下げ作業をよりスムースに行い得る効果を、より優れたものとすることができる。
【0015】
本発明のベタツキ防止液にあっては、上記した有機樹脂粒子と水系バインダー樹脂液との混合液からなるものである。かかる混合液は、水で希釈して農業用塩化ビニル樹脂フィルムに塗布することによって使用される。したがって、当該混合液中に含有される有機樹脂粒子の濃度としては、所望するベタツキ防止効果が得られる量であればよく、有機樹脂粒子と水系バインダー樹脂液とを、固形分比が95:5〜5:95となるように混合するのがよい。
有機樹脂粒子を水系バインダー樹脂液に混合させる方法としては、有機樹脂粒子を直接水系バインダー樹脂液に必要量を混合分散させてもよいし、有機樹脂粒子を予め水系バインダー樹脂液に必要量以上に分散させたものを作製しておき、それを水系バインダー樹脂液に添加して、成分調節を行って作成してもよい。
【0016】
なお、本発明のベタツキ防止液は、水中への均一な分散性を更に向上させるために、界面活性剤を添加してもよい。そのような界面活性剤としては各種の界面活性剤をあげることができ、なかでも非イオン性の界面活性剤を使用するのがよい。
【0017】
本発明が提供するベタツキ防止液が適用される農業用塩化ビニル樹脂フィルムとしては、その組成が塩化ビニル系樹脂、可塑剤および安定剤を主成分とし、必要に応じてフッ素系化合物等の防霧剤、非イオン系界面活性剤等の防曇剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、加工助剤、滑剤、帯電防止剤、無機充填剤、防かび剤、防藻剤、着色剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。
その種類、添加量としては、従来の農業用塩化ビニル系樹脂フィルムに使用可能な添加剤を、通常の添加量で添加すればよく、特に制限はない。
【0018】
なお、塩化ビニル系樹脂としては、通常塩化ビニル系樹脂フィルムに使用されるものであれば使用することができる。具体的には、ポリ塩化ビニル樹脂、または塩化ビニルと他のモノマー、例えば、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、マレイン酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、高級ビニルエーテル等との共重合体、もしくはこれらのブレンド体が挙げられる。
【0019】
本発明のベタツキ防止液は、水で希釈され、これらの農業用塩化ビニル樹脂フィルム表面に塗布(噴霧)されるものであるが、その塗布量は、水との希釈比率により一概に限定されず、所望のベタツキ防止効果が得られる量を塗布すればよい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を実施例および比較例により、より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜11:
下記表1に記載の処方により、本発明のベタツキ防止液を得、水で希釈し、全量を5,000mLとして一般農業用塩化ビニル系樹脂フィルムに塗布し、そのベタツキ防止効果と透明性を確認した。
ベタツキ防止効果としては、後記する巻きほぐし試験、ベタツキ防止液のフィルム上への塗布の持続性、フィルムの外観変化を評価し、併せてその結果を表中に示した。
【0022】
比較例1〜8:
下記表2に記載の処方により、比較例のベタツキ防止液を得、水で希釈し、全量を5,000mLとして一般農業用塩化ビニル系樹脂フィルムに塗布し、そのベタツキ防止効果と透明性を確認した。
ベタツキ防止効果としては、実施例と同様の巻きほぐし試験、ベタツキ防止液のフィルム上への塗布の持続性、フィルムの外観を評価し、併せてその結果を表中に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
実施例および比較例、およびその結果を示す表1および2中における注記は、以下のとおりである。
*1:シリコン系化合物水分散液1:SH−7024(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製);固形分比 35%
*2:シリコン系化合物水分散液2:SH−7001EX(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製);固形分比 53%
*3:アマイド系化合物水分散液:SA−20(日本化成社製);固形分比 20%
*4:アクリル系樹脂粒子水分散液:スタフィロイドAC−4030Em(ガンツ化成社製);固形分比 40%;平均粒子径 400〜600nm
*5:アクリル系樹脂粒子粉体:スタフィロイドAC−4030(ガンツ化成社製);一次粒子径 0.5μm;二次粒子径 25〜35μm
*6:シリコン系樹脂粒子粉体:トスパール120(東芝シリコーン社製);粒子径 2.0μm
*7:コロイダルシリカ水分散体:スノーテックス20(日産化学社製);固形分比 20%;粒子径 20nm
*8:界面活性剤:サーフィノールSE(エアープロダクツジャパン社製)
【0026】
*9:ベタツキ防止効果の試験方法および評価方法は以下のとおりである。
長さ16m、高さ0.6m、間口1mのハウスを作製し、一般農業用塩化ビニル樹脂フィルムを展張して、展張したフィルムの80cm幅毎に実施例1〜11および比較例1〜8で調製したベタツキ防止液を吹き付け、各期間経過後にフィルムを10×30cmにカットし、それぞれ測定サンプルとした(試験期間:2004年8月9日〜9月6日)。
【0027】
(1)巻きほぐし及び効果の持続性について
上記で得た測定サンプルのフィルムを、直径:1.9cm/長さ:14cmの鉄管に巻き付け、70℃/7時間放置後、傾斜が60度の板の上に貼り付け、鉄管の自重で落下するまで時間を計測した。
(2)評価は以下のとおりである。
◎:3分以内
○:3〜4分
△:4〜5分
×:5分以上
【0028】
*10:フィルムの外観は、上記の測定サンプルフィルムの透明性について、目視により測定した。
評価は以下の基準にしたがった。
(透明性に問題ない)◎>○>△>×(フィルムが白くなり透明性が悪い)
【0029】
以上の実施例および比較例の結果からも判明するように、本発明のベタツキ防止液は、良好な結果を示していることが理解された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上記載のように、本発明は、フィルムの透明性を害することなく、ハウスへの展張作業や換気のために樹脂フィルムの巻き上げ、巻き下げ等を行うに際し、樹脂フィルム同士のベタツキを防止するベタツキ防止液を提供するものであり、有機樹脂粒子の粉末と水系バインダー樹脂液とのからなるベタツキ防止液である。本発明のベタツキ防止液は、フィルム自体を特別なフィルムとして加工する必要が無く、換気を行う部分に塗布(噴霧)することにより、効率的にフィルム同士のベタツキを防止し得る。
したがって、その作業性は極めて良好なものであり、展張作業や換気のためのフィルムの巻き上げ、巻き下げ作業がより容易なものとなり、その作業労力の軽減が図れ、産業上の利用度は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂粒子の粉末と水系バインダー樹脂液とからなることを特徴とする農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液。
【請求項2】
有機樹脂粒子の平均粒子径が0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液。
【請求項3】
有機樹脂粒子の粉体と水系バインダー樹脂液とを、固形分比が95:5〜5:95となるように混合したことを特徴とする請求項1または2に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液。
【請求項4】
有機樹脂粒子が、アクリル系樹脂粒子またはシリコン系樹脂粒子であることを特徴とする請求項1、2または3に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液。
【請求項5】
水系バインダー樹脂液が、シリコン系化合物水分散液またはアマイド系化合物水分散液であることを特徴とする請求項1、2または3に記載の農業用塩化ビニル樹脂フィルム用ベタツキ防止液。

【公開番号】特開2006−223116(P2006−223116A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37673(P2005−37673)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】