説明

農業用空気膜構造ハウス

【課題】
施設園芸での作物栽培に良好で、暖房用燃料消費の大幅な削減化が達成でき、また、夏期の酷暑の期間や台風の時期においても使用が可能であり、保温性、透光性、耐伸び弛み性、防曇性、防塵性、強度、耐久性、経済性に優れた農業用空気膜構造ハウスを提供する。
【解決手段】
農業用ハウスの少なくとも天井部の構造が上面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムと下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムとの間に送風機により空気が圧入されて成る農業用空気膜構造ハウスであり、上記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面のポリオレフィン系積層フィルムが内層A、中間層Bおよび外層Cで構成されたポリオレフィン系積層フィルムであって、内層Aおよび外層Cを構成する配合物が、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の群から選ばれた1種もしくは2種類以上の樹脂の配合物より構成され、中間層Bを構成する配合物が、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30重量%以上の配合物より構成された組成より成る農業用空気膜構造ハウス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用空気膜構造ハウスに関し、詳しくは、保温性、透光性、耐伸び弛み性、防曇性、防塵性、強度、耐久性、経済性に優れた農業用空気膜構造ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、農業用ハウスにおいて、秋期から冬期の期間、春先の期間の夜間や朝方でのハウス内の気温は、外気温の大幅な低下の影響を受けて冷え込みが厳しく、そのため、作物の生育に悪影響を及ぼすことから、重油や灯油を燃料とした暖房ボイラーを設置運転しての温風暖房対策の方法がとられているのが一般的である。ところが、昨今の燃料の高騰化の流れを受けて、最近では、暖房ボイラー稼動を軽減して重油や軽油の燃料費用負担の節約化を図る方法として、農業用ハウスの保温性改良を目的とした高保温性能被覆材の採用、外張り被覆材と内張り被覆材との併用など、種々の方法が考案され、実用化されている。
【0003】
その中でも、農業用ハウスの保温性改良の最も効果的な方法の1つとして、新しい農業用ハウスの形態、すなわち、夜間の保温性と日中の昇温性を高める目的で、農業用ハウスの天井部に二重の透明なプラスチックフィルムを用いて被覆を設置し、その間隙に空気を送風、圧入した空気膜構造のハウスが考案され、試験的な検討を経て、最近では、一部の限られた市場ではあるが、実用展開が進められてきている(特許文献1〜4)。
【0004】
【特許文献1】特開昭52−81242号公報
【特許文献2】実開昭56−55360号公報
【特許文献3】特開平1−300831号公報
【特許文献4】特開平6−141688号公報
【0005】
その際、被覆材として、耐久性に優れ、透光性が極めて良好なポリエステルフィルム、フッ素フィルム等を代表としたプラスチック硬質フィルムを採用する方法も考えられる。しかしながら、その場合は、被覆材自身が極めて高価であり、また、その被覆材の農業用ハウス骨材部への固定方法の制約上、次のような問題がある。
【0006】
すなわち、採用可能な農業用ハウスの構造としては、農業用ハウスとして最も普及している安価な簡易ハウス、即ち、基礎を用いず、肩部で曲げられたパイプを地中に挿入し、棟部で二本のパイプを接続した、いわゆる、地中押し込み式パイプ型ハウスや、コンクリート製の独立基礎を施して、屋根部に曲げパイプを用い、鉄骨と組み合わせて補強した、いわゆる、鉄骨補強パイプ型ハウス(以下、両者を「パイプ型ハウス」と称する)に対する被覆展張が不可であり、独立基礎を施して、天井がガラス温室と同型の屋根型鉄骨構造を有した設備が高価な、いわゆる、鉄骨屋根型ハウスの被覆展張に限定されるというハウスの構造的な問題、経済上の課題がある。そのため、現在においても一部の特殊な市場でしか展開、活用されていないのが実態である。
【0007】
一方、被覆材としてパイプ型ハウスと屋根型ハウスの両方に展開が可能である特徴を活かして、ポリオレフィン系積層フィルムを用いて二重の被覆を行ない、その間隙に空気を送風、圧入した空気膜構造ハウスも考えられるが、次のような問題がある。
【0008】
すなわち、従来の農業用ハウスの外張り用の被覆材として採用されている汎用的なポリオレフィン系積層フィルムを採用した農業用空気膜構造ハウスの場合には、二重のプラスチックフィルムがハウス天井部に展張された構造となるため、ハウス内に到達する作物の生育に必要な太陽光線(特には、可視光線領域)の一部が遮られることでの日照不足による生育不良を呈する傾向にあり、また、その被覆フィルム厚を、例えば、0.04mm以下の薄い被覆材に変更して対応を図る方法も考えられるが、従来の汎用的なポリオレフィン系積層フィルムを用いた農業用空気膜構造ハウスでは、被覆材自身が空気膜内圧の応力で伸張現象を呈する不具合を来たし、また、その耐久性が2〜3年以上に及ぶ性能を発現することは極めて困難である。
【0009】
また、前記の農業用空気膜構造ハウスは、一般には、秋期から冬期、春先の期間の夜間や朝方のハウス内の冷え込みの厳しい時間帯に活用され、ハウス内の気温低下を防いで作物生育を助長する目的で使用されるものである。従って、夏期などの期間では空気膜構造は不要で、その期間での空気膜形成のための送風機の稼動は本来では不要である。しかしながら、夏期から秋期の期間は日本では台風時期に遭遇し、そのため、送風機の運転を停止して、二枚のフィルム被覆材を萎ませた状態で放置しておくと、被覆材が強風の影響によってバタツキやはためき現象を呈して、ハウス天井部のパイプ等の骨材に強く叩かれ、被覆材が機械的に大いなる損傷を受ける結果となり、被覆材の経時での透光性や耐久性に支障を来たす問題を生じる。そのため、夏期の酷暑の期間でも送風機の稼動を継続して、内圧を掛けて空気膜構造を形成させた状態を維持する必要がある。しかしながら、その場合、夏期の期間においては、外気の高温度と内圧の影響で被覆材自身が著しい伸張現象を呈して、秋期以降の期間には、空気膜形成の被覆材がダブツキ現象を呈した状態となる不具合が生じ、そのため、農業用空気膜構造ハウス用の被覆材として耐伸び弛み性に優れた物性のものが強く望まれている。
【0010】
また、農業用空気膜構造ハウスは、その優れた保温性(保冷性)を活かして、夏期の期間に夜間冷房を施した野菜や果実の育苗栽培法に活用される場合があり、そのとき、同じく、夏期の酷暑の期間においても送風機の運転で内圧を掛けて空気膜構造を形成させた状態を維持させるため、同様に、農業用空気膜構造ハウス用の被覆材として耐伸び弛み性に優れた物性のものが強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みされたものであり、その目的は、施設園芸での作物栽培に良好で、暖房用燃料消費の大幅な節減化が達成でき、また、夏期の酷暑の期間や台風の時期においても使用が可能となる、保温性、透光性、耐伸び弛み性、防曇性、防塵性、強度、耐久性、経済性に優れた農業用空気膜構造ハウスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、農業用ハウスの少なくとも天井部の構造が上面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムと下面の透光姓ポリオレフィン系積層フィルムとの間に送風機により空気が圧入されて成る農業用空気膜構造ハウスであり、上記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面のポリオレフィン系積層フィルムが内層A,中間層Bおよび外層Cで構成されたポリオレフィン系積層フィルムであって、内層Aおよび外層Cを構成する配合物が、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の群から選ばれた1種もしくは2種類以上の樹脂の配合物より構成され、中間層Bを構成する配合物が、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30重量%以上の配合物より構成された組成より成ることを特徴とする農業用空気膜構造ハウスに存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、農業用ハウスにおいて、作物栽培に良好で、暖房用燃料の一層の削減化が達成でき、また、夏期の酷暑の期間においても使用可能な、保温性、透光性、耐伸び弛み性、防曇性、防塵性、強度、耐久性、経済性に優れた農業用空気膜構造ハウスを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の農業用空気膜構造ハウスは、農業用ハウスの少なくとも天井部の構造が、上面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムと下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムとの間に送風機により空気が圧入されてなる構造のものである。上記の上面および下面の各ポリオレフィン系積層フィルムの層構成としては、三層以上の構成であればよく、具体的には、二種三層、三種三層、三種五層、四種四層、四種五層、五種五層などのフィルム構成が挙げられる。
【0015】
本発明の農業用空気膜構造ハウスの特徴は、上記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面のポリオレフィン系積層フィルムが内層A,中間層Bおよび外層Cで構成されたポリオレフィン系積層フィルムであって、内層Aおよび外層Cを構成する配合物が、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の群から選ばれた1種もしくは2種類以上の樹脂の配合物より構成され、中間層Bを構成する配合物が、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30重量%以上の配合物より構成された組成より成ることにある。これにより、優れた透光性、耐伸び弛み性、防塵性、強度、耐久性を発現することが出来る。
【0016】
上記の内層Aおよび外層Cを構成する配合物のポリエチレンとは、高圧法ポリエチレン樹脂、低圧法中密度ポリエチレン樹脂等が挙げられ、その密度(JIS K7112に準拠した測定値)は、要求されるフィルムの透光性、防塵性、強度、耐久性等の観点から、通常910〜940kg/m、好ましくは915〜935kg/mの範囲である。また、MFR(JIS K7210に準拠した測定値、測定温度190℃)は、特に制限されないが、フィルム成形性、透光性、強度、耐久性等の観点から、通常0.2〜20g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分の範囲である。
【0017】
上記の内層Aおよび外層Cを構成する配合物のエチレン−αオレフィン共重合体の製造に当たって使用されるαオレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、デセン−1等が挙げられ、特に、炭素数4〜8のαオレフィンが好ましく、また、その合成法としては、従来汎用のチーグラー系触媒合成法や最近のメタロセン触媒合成法等が挙げられる。また、その密度(JIS K7112に準拠した測定値)は、要求されるフィルムの透光性、防塵性、強度、耐久性等の観点から、通常905〜935kg/m、好ましくは910〜930kg/mの範囲である。また、MFR(JIS K7210に準拠した測定値、測定温度190℃)は、特に制限されないが、フィルム成形性、透光性、強度、耐久性等の観点から、通常0.2〜20g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分の範囲である。
【0018】
上記の内層Aおよび外層Cを構成する配合物のエチレン−酢酸ビニル共重合体は、その酢酸ビニル含有量としては、要求されるフィルムの透光性、防塵性、強度、耐久性等の観点から、通常1〜15重量%、好ましくは3〜12重量%の範囲であり、また、MFR(JIS K7210に準拠した測定値、測定温度190℃)は、特に制限されないが、フィルム成形性、透光性、強度、耐久性等の観点から、通常0.2〜20g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分の範囲である。
【0019】
尚、上記の内層Aおよび外層Cを構成する配合物は全く同一の組成である必要はなく、また、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の群から選ばれた1種もしくは2種類以上の樹脂以外に、本発明の農業用空気膜構造ハウスの被覆材としての耐伸び弛み性や剛性を高める等の目的で、その被覆材としての透光姓、防曇性、防塵性、強度、耐久性などの品質を損なわない範囲で、その他の樹脂、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体、高密度ポリエチレンなどのその他のポリオレフィン系樹脂等を適量配合することが出来る。
【0020】
上記の中間層Bを構成するプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂の製造に当たって使用されるαオレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられ、その中の1種もしくは2種類以上の組み合わせとプロピレンとの共重合体であり、特には、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体等が好ましく、その際のプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂の密度(JIS K7112に準拠した測定値)は、要求されるフィルムの透光性、耐伸び弛み性、強度、耐久性の観点から、890〜910kg/m、好ましくは895〜905kg/mの範囲である。また、プロピレン−αオレフィン共重合体樹脂の合成法としては、従来汎用のチーグラー系触媒や最近のメタロセン触媒等を用いてランダム共重合法またはブロック共重合法による合成法が挙げられる。
【0021】
中でも、メタロセン触媒(メタロセン系オレフィン重合用触媒、通常、シクロペンタジエニル骨格の配位子を有する遷移金属化合物からなるメタロセン触媒成分と有機アルミニウムオキシ化合物触媒成分と微粒子状担体から形成)を用いて合成されたプロピレン−αオレフィンのランダム共重合体樹脂は、従来汎用的なチーグラー系触媒合成によるプロピレン−αオレフィンのランダム共重合体樹脂と比較して、樹脂としての分子量と結晶性が揃っており、低分子量、低結晶性成分が少ないため、透明性、剛性、耐熱性に優れ、これにより、優れた透光性、耐伸び弛み性、強度、耐久性を発現することが出来る。また、そのMFR(JIS K7210に準拠した測定値、測定温度230℃)は、特に制限されないが、フィルム成形性、透光性、強度、耐久性等の観点から、通常0.5〜15g/10分、好ましくは1〜10g/10分の範囲である。
【0022】
上記の中間層Bを構成する配合物は、前記のプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30重量%以上より含まれる構成された組成であり、好ましくは40重量%以上である。このとき、前記の中間層Bを構成するプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂の配合量が30重量%未満では、フィルムの耐伸び弛み性、強度が不足して目的とする性能が得られない。
【0023】
更に、上記の中間層Bを構成する配合物として、前記のプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30〜95重量%で、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が5〜50重量%で、ポリエチレン樹脂またはエチレン−αオレフィン共重合体樹脂が0〜20重量%の配合物より構成された組成とすることで、該中間層Bと隣接するポリオレフィン樹脂層(上記の透光性ポリオレフィン系積層フィルムが三層構成の場合は、内層Aおよび外層Cが相当)との層間接着力を高めることが出来、強度、耐久性の性能が良好な透光性ポリオレフィン系積層フィルムを得ることが出来る。このとき、上記の3つの樹脂の配合割合の範囲を外れた組成では、該中間層Bと隣接するポリオレフィン樹脂層との層間接着力が不十分となり、あるいは、該ポリオレフィン系積層フィルムの透光性、耐伸び弛み性、強度が不十分となる。
【0024】
また、上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の酢酸ビニル含有量は、通常5〜30重量%、好ましくは8〜25重量%であり、この範囲を外れた組成では、同様に、該中間層Bと隣接するポリオレフィン樹脂層との層間接着力が不十分となり、あるいは、該ポリオレフィン系積層フィルムの透光性、耐伸び弛み性、強度が不十分となる。
【0025】
また、上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂のMFRや、上記のポリエチレン樹脂またはエチレン−αオレフィン共重合体樹脂の組成、密度、MFR、合成法に関しては、前記の内層Aおよび外層Cを構成する配合物の関する記載を行った内容と同一である。
【0026】
本発明における上面および下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムの厚みは、通常0.04〜0.18mm、好ましくは0.05〜0.17mmである。厚みが0.04mm未満では、農業用空気膜構造ハウスの被覆材として目標とする強度、耐久性が得られず、また、厚みが0.18mmを越える場合は、目標とする透光性が得られない。
【0027】
本発明における上面および下面のポリオレフィン系積層フィルムの透光性は、フィルム直光線透過率(光線波長領域:555nm、測定方法:ASTM D1003に準拠)として、通常70%以上、好ましくは75%以上である。透光性が70%未満の場合は、農業用空気膜構造ハウスの被覆材に用いた場合、作物生育に必要なハウス内に到達する太陽光が不十分で好ましくない。
【0028】
更に、上記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面のポリオレフィン系積層フィルムの引張弾性率(JIS K7161に準拠した測定値)は通常200MPa以上、好ましくは250MPa以上である。引張弾性率が200MPa未満の場合は、目標とする耐伸び弛み性、強度の性能が発現できず、好ましくない。
【0029】
また、天井部の構造を構成する二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面または下面の何れかにおけるフィルム表面のハウス内面側に当たる片側面に、シリカ系無機物またはアルミナ系無機物より構成される防曇剤組成物が塗布されているのが好ましい。
【0030】
フィルム表面のハウス内面側に当たる片面側に防曇性を発現する処方としては、フィルム成形時に従来公知の有機化合物界面活性剤を樹脂に溶融混錬する方法も想定されるが、その場合、農業用空気膜構造ハウスの被覆材に採用した場合、有機化合物界面活性剤がフィルム表面に過度に移行してフィルム表面の透明性を損なう場合があり、また、2〜3年以上の長期に亘ってフィルム表面の防曇持続性を発現することは極めて困難である。そのため、フィルム表面のハウス内面側に当たる片面側に透明性を阻害することなく長期の防曇持続性を発現する処方として、上記の方法が好ましい。
【0031】
斯かる方法においては、特開平7−52343号公報、特開平8−319476号公報などに記載されているコロイド状のシルカ系無機物またはアルミナ系無機物より構成される防曇剤組成物を採用するのが好ましい。その場合、防曇剤塗膜層成分には、上記のシリカ系無機物またはアルミナ系無機物の他に、必要に応じて、無機系バインダー成分、有機系バインダー樹脂成分、架橋剤成分、有機系界面活性剤成分などを適宜配合することが出来る。
【0032】
前記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムは、農業用空気膜構造ハウス用の被覆材としての耐久性や滑り性を高める目的で、フィルムの透光性、防曇性、防塵性などの性能を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、滑剤(有機系、無機系)などの各種添加物を適量含有することが出来る。更に、被覆材としての保温性を高める目的で、フィルムの透光性、強度などの性能を損なわない範囲で、Mg、Al、Ca、Siの群から選ばれる少なくとも1つの原子を含有する無機酸化物、無機水酸化物、ハイドロタルサイト類などの保温剤成分を適量含有することが出来る。
【0033】
前記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムは、全くの同一物である必要はなく、少なくとも上面のポリオレフィン系積層フィルムが内層A、中間層Bおよび外層Cで構成されたポリオレフィン系積層フィルムであって、内層Aおよび外層Cを構成する配合物が、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体かの群から選ばれた1種もしくは2種類以上の樹脂の配合物より構成され、中間層Bを構成する配合物が、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30重量%以上の配合物より構成された組成である限り、農業用空気膜構造ハウスの被覆材としての優れた透光性、耐伸び弛み性、防塵性、強度、耐久性などの物性を発現することが出来る。また、フィルム厚み、フィルム直光線透過率、フィルム引張弾性率が前記の範囲内にあれば好ましい。通常は、二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、上面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムは、ハウス外部の厳しい環境下に直接曝されることから、下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムと比較し、特に、被覆材としての強度や耐久性の一層の性能が要求され、従って、フィルム厚は、相対的に、同等かそれ以上の厚さのものが用いられる場合がある。また、フィルム引張弾性率も同様に、相対的に、同等かそれ以上の剛性、強度のものが求められる。
【0034】
本発明の農業用空気膜構造ハウスの設営方法としては、地中押し込み式パイプ型ハウス、鉄骨補強パイプ型ハウス、鉄骨屋根型ハウスの何れを採用しても構わない。その場合、透光性ポリオレフィン系積層フィルムの固定方法は、通常の塩化ビニルフィルムやポリオレフィン系フィルムの固定と同様の方法を採用することが出来、ハウス専用固定レールに専用スプリングを介してフィルムを押さえ込むことによりハウス本体に展張被覆することが出来る。展張作業手順は、通常、次の要領で行うことが出来る。
【0035】
すなわち、一旦、下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムを固定レールに専用スプリングを介して押さえ込んだ後に、上面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムを同一の固定レールを用いて重ね合わせて別の専用スプリングを介して展張被覆するか、または、それと近傍に平行に併設された別の固定レールに専用スプリングを介してフィルムを押さえ込んで展張被覆することにより、二枚のフィルムにて空気膜構造用に被覆することが出来る。また、これとは別に、二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムの端部を事前にヒートシール方法などで袋状に密封化した後に、固定レールに専用スプリングを介してフィルムを押さえ込むことによりハウス本体に展張被覆することが出来る。このとき、農業用空気膜構造ハウスのハウス形態に関しては、何れのハウス形態を採用することが出来るが、特には、ハウス自身の経済性や、空気膜構造のための透光性ポリオレフィン系積層フィルムの固定作業容易性、空気膜構造の保温性などを考慮すると、地中押し込み式パイプ型ハウスや鉄骨補強パイプ型ハウスなどのパイプ型構造の農業用ハウスを採用するのが好ましい。
【0036】
本発明の農業用空気膜構造ハウスにおいて、空気膜構造を有する構成箇所は、ハウスの天井部の他に、ハウス妻面部や側面部を含んでいても差し支えなく、その場合、各構成箇所に空気膜を形成するためには、送風機によって圧入された空気を、接続ホースを介して、送風機に対して直列、または並列の関係で各構成箇所に接続を行なうことで形成することが出来る。
【0037】
その際、農業用ハウスの全被覆面積に対する空気膜構造箇所の面積の比率が高ければ高いほど、農業用空気膜構造ハウスの保温性能は高くなるが、通常、農業用ハウスにおいては、日中のハウス内の大幅な温度上昇を緩和するために、日中の或る一定時間帯でハウスの側面部や天窓部や一部の天井部を開放して、ハウス内に外気を導入、換気を行なう必要があるため、天窓部を除く天井部、或いは、天井部と併せて出入り扉を除く妻面部に空気膜構造を採用する型の農業用空気膜構造ハウスが形態としては好ましい。
【0038】
また、用いられる送風機は、その構造や仕様や性能は特には限定しないが、ハウス内の空気、或いはハウス屋外の空気を従来の羽根付きファン構造、シロッコファン構造、またはエアーポンプ構造の送風機を用いることが出来る。そして、二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムで構成された空気膜構造部に継続的に、或いは断続的に空気を送風する。その時、二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムで構成された空気膜構造部は完全な気密構造を有しているのではなく、送風された空気は二枚の被覆材を農業用空気膜構造ハウスに固定する専用留め具と被覆材との微かな間隙部から外に徐々に漏れ出す傾向にあり、また、二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムの端部を事前にヒートシール方法などで袋状に密封化した農業用空気膜構造ハウスとして採用した場合でも、シール部から空気の漏れ出しは殆どないが、それ以外での漏れ出す加減を加味しながら空気膜構造部の適正内圧を調整する必要があり、何れの場合でも、好ましい空気膜内圧は、外部に対して、1〜20mmHOの範囲にあるのが好ましく、空気膜内圧が低過ぎる場合は、空気膜構造部が十分に風船状に膨らむことが出来ず、空気膜構造部に被覆材のシワなどが発生して外部の風による被覆材のバタツキ現象を呈して、保温性、透光性、強度、耐久性などに問題を来たす場合があり、一方、空気膜内圧が高過ぎる場合は、被覆材が内圧で強く引き伸ばされる不具合を来たし、耐久性に問題を来たす場合がある。
【0039】
なお、送風される空気は、保温性の観点からは外気よりも相対的に温度の高いハウス内の空気を用いて送風機にて接続ホースを介して空気膜構造部に空気を送り込むのが好ましいが、ハウス内の空気は外気と比較して相対湿度、絶対湿度が高いため、空気膜構造部の内部で経時で結露現象を呈する場合があり、そのため、透光性ポリオレフィン系積層フィルムの空気膜構造部の内面側は日中の透光性を保持するためには、より一層の防曇性能を有する被覆材を選定する必要がある。
【0040】
このようにして得られた農業用空気膜構造ハウスにおいては、施設園芸での作物栽培に良好で、暖房用燃料消費の大幅な節減化が達成でき、また、夏期の酷暑の期間や台風の時期においても使用が可能であり、保温性、透光性、耐伸び弛み性、防曇性、防塵性、強度、耐久性、経済性に優れた性能を発現することが出来る。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
本発明の実施例で使用したオレフィン系樹脂の内訳は表1の通りであり、これらの樹脂を用いて、表2に記載の層構成、配合構成で、厚さ0.075〜0.15mmの基体フィルムを下記の条件で成形を行ない、その後、表3に記載の防曇剤組成物の塗布を行ない、目的とする積層フィルムを得た(詳細構成は表2に記載)。
【0043】
【表1】

【0044】
(1)基体フィルムの調製:
90mmΦの3台の押出装置、1300mmΦの三層ダイを用いて、成形温度200℃、ブロー比2.0、引取速度10m/分にて、フィルム外面層/中間層/内面層=20/60/20の層比(外面層はハウス展張した際にハウス外面側となるフィルム面を称する、フィルム成形時での内層側に相当する)の三層構成の基体フィルムを得た。
【0045】
(2)防曇剤組成物の塗布:
上記の基体フィルムを用いて、フィルム内面層(フィルム成形時でのフィルム外層面に相当する)側にコロナ処理放電を施し、フィルム濡れ指数(測定方法:JIS−K6768に準拠)が42dyn/cm以上となうように表面改質を行なった後、表3に記載の防曇剤組成物をグラビアコート法により塗布を行ない、80℃に温度調整した温風乾燥炉に1分間滞留させ、液状分散溶媒を飛散させて防曇剤膜を形成させた。なお、防曇剤塗膜の塗布量(固形分)は全て1g/mであった。
【0046】
【表2−1】

【0047】
【表2−2】

【0048】
【表2−3】

【0049】
【表3】

【0050】
なお、本発明の実施例における積層フィルムの直光線透過率、引張破断強度の測定方法、引張弾性率の測定方法、農業用空気膜構造ハウスの設営方法、農業用空気膜構造ハウス内の作物の栽培方法、農業用空気膜構造ハウス内に設置した暖房機の灯油燃料消費度合の評価方法、農業用空気膜ハウスの夏期における上面フィルムの耐伸び弛み性の評価方法は以下の通り。
【0051】
(3)直光線透過率の測定方法:
得られた積層フィルムを、分光光度計((株)日立製作所製:U3500型)を用いて、ASTM D1003に準拠して、積層フィルムの外面層側から光線を照射して、555nmの光線波長領域の直光線透過率(単位:%)を測定した。
【0052】
(4)引張破断強度の測定方法:
得られた積層フィルムを、引張試験装置((株)東洋精機製作所製)を用いて、JIS K7161に準拠して、測定温度23℃、引張速度:300mm/分の条件にて、フィルムの流れ方向(MD)と横方向(TD)の引張破断強度(単位:N/10mm幅)の測定を行ない、その値の平均値を計測した。
【0053】
(5)張破弾性率の測定方法:
得られた積層フィルムを、引張試験装置((株)東洋精機製作所製)を用いて、JIS K7161に準拠して、測定温度23℃、引張速度:10mm/分の条件にて、フィルムの流れ方向(MD)と横方向(TD)の引張弾性率(単位:MPa)の測定を行ない、その値の平均値を計測した。
【0054】
(6)農業用空気膜構造ハウスの設営方法:
間口4.5m、奥行10m、高さ3mの地中押し込み式パイプ型ハウスの天井部(幅2.7m、奥行10m)全面に、上記の積層フィルムを、下面用の被覆材として、ハウスのサイド部に平行に取り付けた固定レール(東都興業(株)製:ビニペット)に専用スプリング(東都興業(株)製:ソフトスプリング)を介して押さえ込んだ後に、上面用の積層フィルムを重ね合わせて、同一の固定レールに別の専用スプリング(東都興業(株)製:ソフトスプリング)を介して押さえ込んで二重の展張、被覆を行ない、また、その際、送風機(ネポン(株)製:EBM400S2M型)と専用接続ホースを用いて、上記の空気膜被覆層にハウス内の空気を挿入して、空気膜内圧が概ね3〜7mmHOの範囲となるように送風機の出力を調整して、目的とする農業用空気膜構造ハウスを設営した。なお、ハウスの妻面部とサイド部には積層フィルム(A)を用いて被覆を行ない、ハウスの密閉化を図った。(農業用空気膜構造ハウスの設営場所:三重県松阪市嬉野川北町、ハウスの設置向き:南北棟(天井部は東西面向き)、設営時期:2006年12月1日、設営時の外気温度:10℃)
【0055】
(7)農業用空気膜構造ハウス内の作物の栽培方法:
上記の農業用空気膜構造ハウス内に、トマトの土耕栽培を2006年12月初旬から2007年3月下旬にかけて栽培を行ない、適宜潅水と施肥を行って作物の生育管理を行なった。その際、栽培の温度管理方法としては、日中でのハウス内温度が25℃を越えるとハウスのサイド部の巻上げ換気を行って、日中でのハウス内の大幅な温度上昇を抑制し、一方、夜間や朝方のハウス内温度が下降する場合や、日中で曇天下でのハウス内温度が所定温度に達しない場合は、下記の温風暖房機の運転にて、ハウス内温度を適度に保つように温度管理を行なった。
【0056】
(8)農業用空気膜構造ハウス内に設置した暖房機の灯油燃料消費度合の評価方法:
上記の農業用空気膜構造ハウス内に灯油燃料使用の温風型暖房機(ネポン(株)製:KA125型)を設置し、ハウス内温度が16℃以下になると暖房機が稼動し、ハウス内温度が20℃を越えると暖房機が停止する温度制御管理を行ない、上記の作物の栽培期間内での灯油燃料消費量を計測した。
【0057】
(9)農業用空気膜ハウスの夏期における上面フィルムの耐伸び弛み性の評価方法:
上記の農業用空気膜ハウスを作物栽培終了後も設営を継続して行ない、夏期における上面の積層フィルムの寸法安定性(ハウス設営初期と比較してのフィルムの伸張率(%))を天井部の東面部の3箇所と西面部の3箇所の合計6箇所を測定して、その平均値を算出した。(測定時期:2007年8月21日、外気温度:35℃)
【0058】
上記の表2に記載の積層フィルムの組み合わせを用いて、農業用空気膜構造ハウスとしての各実施例および各比較例を行った結果を表4に示す。
【0059】
【表4−1】

【0060】
【表4−2】

【0061】
【表4−3】

【0062】
【表4−4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用ハウスの少なくとも天井部の構造が上面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムと下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムとの間に送風機により空気が圧入されて成る農業用空気膜構造ハウスであり、上記の二枚の透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面のポリオレフィン系積層フィルムが内層A、中間層Bおよび外層Cで構成されたポリオレフィン系積層フィルムであって、内層Aおよび外層Cを構成する配合物が、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体の群から選ばれた1種もしくは2種類以上の樹脂の配合物より構成され、中間層Bを構成する配合物が、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30重量%以上の配合物より構成された組成より成ることを特徴とする農業用空気膜構造ハウス。
【請求項2】
請求項1において、中間層Bを構成する配合物が、メタロセン触媒を用いて合成された、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィンのランダム共重合体樹脂が30重量%以上の配合物より構成された組成よりなる、請求項1に記載の農業用空気膜構造ハウス。
【請求項3】
請求項1において、中間層Bを構成する配合物が、密度が890〜910kg/mの範囲にあるプロピレン−αオレフィン共重合体樹脂が30〜95重量%で、酢酸エチル含有量が5〜30重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が5〜50重量%で、ポリエチレン樹脂またはエチレン−αオレフィン共重合体樹脂が0〜20重量%の配合物より構成された組成よりなる、請求項1又は2に記載の農業用空気膜構造ハウス。
【請求項4】
上面および下面の透光性ポリオレフィン系積層フィルムの厚みが0.04〜0.18mmであって、直光線透過率(光線波長領域:555nm)が70%以上であり、また、少なくとも上面におけるフィルムの引張弾性率が200MPa以上である、請求項1〜3の何れかに記載の農業用空気膜構造ハウス。
【請求項5】
透光性ポリオレフィン系積層フィルムにおいて、少なくとも上面または下面の何れかにおけるフィルム表面のハウス内面側に当たる片側面に、シリカ系無機物またはアルミナ系無機物より構成される防曇剤組成物が塗布されている、請求項1〜4の何れかに記載の農業用空気膜構造ハウス。
【請求項6】
農業用空気膜構造ハウスの設営方法が、地中押し込み式パイプ型ハウス又は鉄骨補強パイプ型ハウスの構造である、請求項1〜5の何れかに記載の農業用空気膜構造ハウス。

【公開番号】特開2009−95296(P2009−95296A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270959(P2007−270959)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【Fターム(参考)】