説明

農業用除菌フィルター

【課題】化学パルプを主体とするフィルターに無機銀系抗菌剤を付着させ、養液中の病原菌の捕捉、病原菌の繁殖抑制を瞬時行う点に着目したもので、稲、花き、果物、等の作物栽培中に発生する立ち枯れ病、根腐れ病、等の原因となる病原菌に対し除菌効果のある農業用除菌フィルターを提供する。
【解決方法】非溶出性の無機銀系抗菌剤3wt%、化学パルプが67wt%、熱溶融型合成繊維30wt%の配合で3%のスラリーを作製し、吸引機をスラリー中に作用させて、農業用除菌フィルターを形成する。この農業用除菌フィルターは、化学パルプの含有量が40〜80wt%、前記熱溶融型合成繊維の含有量が20〜60wt%であり、絶対濾過精度が10μm以下である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業用水中に存在する病原菌を捕捉し、その後も病原菌の繁殖を抑制する農業用除菌フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用水、特に養液栽培に使用する水は、栽培状況を左右する非常に重要な要因である。この水において、水道水を利用している場合は病原菌の混入は比較的少ない。しかしながら、用水や地下水を利用している場合は、その原水に病原菌が含まれる可能性が多い。その病原菌は水を介して繁殖し、栽培物に付着することで発病し、栽培物へ大きな悪影響を及ぼす。例えば、循環する養液を介して根腐れ病が繁殖して、栽培物の根に感染してほとんどの栽培物を枯らしてしまう被害も出ている。この悪影響を最小限に留めるフィルタリング方式として、フィルターから銀などの除菌成分を養液中へ溶出させて除菌する方法や精密濾過膜で菌を捕捉する方法などがある。この銀などの除菌成分を養液中へ溶出させて除菌する方法は、養液中に溶出した銀イオンが病原菌の生殖機能を阻害し、病原菌を死滅させる方法である。また、精密濾過膜による菌の捕捉方法は、そこを通過する養液中の菌を濾過膜で高精度に取り除く方法である。
【0003】
しかしながら、銀などの除菌成分を養液中へ溶出させる除菌方法は、銀の溶出量の制御が難しく効果にばらつきがある。更に多量の銀イオンが養液中に溶出した場合は根に薬害を及ぼし、栽培物の成長を阻害すると同時に効果寿命も短くなる可能性がある。
【0004】
一方、精密濾過膜による菌の捕捉方法は、病原菌を捕捉する性能は非常に高いが、単位面積あたりの通過流量が少ないため多くの水を流すことができない。また、膜自体に除菌性能が無いため捕捉した病原菌はそこで繁殖し、病巣になる可能性もある。更には、フィルターが高精度であるため、養液中に含まれる養分をも除去(捕捉)してしまう場合がある等の問題点がある。
【特許文献1】無
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するために化学パルプを主体とするフィルターに無機銀系抗菌剤を付着させることで、養液中の病原菌の捕捉、病原菌の繁殖抑制を瞬時に行うことができる点に着目したもので、稲、花き、果物、等の作物栽培中に発生する立ち枯れ病、根腐れ病、等の原因となる病原菌に対し除菌効果のある農業用除菌フィルターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載の農業用除菌フィルターは、化学パルプと、熱溶融型合成繊維と、無機銀系抗菌剤からなり、該無機系抗菌剤が前記熱溶融型合成繊維の表面に均一に付着していることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の農業用除菌フィルターは、請求項1に記載の構成において、前記化学パルプの含有量が40〜80wt%、前記熱溶融型合成繊維の含有量が20〜60wt%であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の農業用除菌フィルターは、請求項1又は請求項2に記載の構成において、絶対濾過精度が10μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の農業用除菌フィルターによれば、化学パルプと熱溶融型合成繊維と無機銀系抗菌剤とからなるもので、無機系抗菌剤が熱溶融型合成繊維の表面に均一に付着している。このため、水圧により化学パルプが横方向に広がってフィルター目が小さくなり、熱溶融型合成繊維で効率よく病原菌を捕捉できる。捕捉された病原菌は、表面に均一に付着している無機系抗菌剤によって繁殖を抑制される。さらに、無機系抗菌剤は抗菌成分の溶出が無いため、長期にわたってその効果が持続する。
【0010】
請求項2に記載の農業用除菌フィルターは、請求項1に記載の構成において、化学パルプの含有量が40〜80wt%で、熱溶融型合成繊維の含有量が20〜60wt%であるので、抗菌剤を捕捉する役目の化学パルプが比較的多く存在するため、病原菌の捕捉効率を上昇させる。また熱溶融型繊維は表面に均一に付着した無機銀系抗菌剤の効果で病原菌の繁殖を抑制すると同時に、水の流れをスムーズにするため大きな圧力損失を受けずに多くの水を通すことができる。
【0011】
この場合、化学パルプの含有量が40wt%未満であると除菌率が低下し、80wt%を超えると瞬間流量が減少する。また、熱溶融型合成繊維の含有量が20wt%未満であるとフィルターの強度が減少して水圧で変形する可能性があり、60wt%を超えると菌の捕捉効率が減少する。
【0012】
請求項3に記載された農業用除菌フィルターによれば、請求項2に記載の構成において、絶対濾過過精度が10μm以下であるので、10μm以上の病原菌等を化学パルプ及び熱溶融型合成繊維で確実に捕捉することができる。
【実施例】
【0013】
(実施例)
非溶出性の無機銀系抗菌剤3wt%、化学パルプが67wt%、熱溶融型合成繊維30wt%の配合で3%のスラリーを作製し、吸引機を該スラリー中に作用させて、内径42mm、肉厚12mm、長さ250mm、絶対濾過精度が10μmの農業用除菌フィルターを得た。ここで非溶出性の無機銀系抗菌剤とは、溶出量が0.05ppb以下であるものをいう。また、化学パルプとは、木材から取り出した繊維から硫酸などの薬品や熱を使ってリグニンを溶かし出し、繊維だけを取り出したものである。
【0014】
(比較例1)
非溶出性の無機銀系抗菌剤3wt%、化学パルプが97wt%、熱溶融型合成繊維0wt%の配合であること以外は、実施例と同様の農業用除菌フィルターを得た。
【0015】
(比較例2)
非溶出性の無機銀系抗菌剤3wt%、化学パルプが0wt%、熱溶融型合成繊維97wt%の配合であること以外は、実施例と同様の農業用除菌フィルターを得た。
【0016】
(比較例3)
非溶出性の無機銀系抗菌剤0wt%、化学パルプが70wt%、熱溶融型合成繊維30wt%の配合であること以外は、実施例と同様の農業用除菌フィルターを得た。
【0017】
(比較例4)
非溶出性の無機銀系抗菌剤3wt%、パルプが85wt%、熱溶融型合成繊維15wt%の配合であること以外は、実施例と同様の農業用除菌フィルターを得た。
【0018】
(比較例5)
非溶出性の無機銀系抗菌剤3wt%、パルプが30wt%、熱溶融型合成繊維67wt%の配合であること以外は、実施例と同様の農業用除菌フィルターを得た。
【0019】
(比較例6)
絶対濾過精度が20μmであること以外は、実施例と同様の農業用除菌フィルターを得た。
【0020】
上記実施例及び比較例1〜6によって得られた各農業用除菌フィルターFを、図1及び図2に示すように除菌装置1のフィルターハウジング2内に設置し、それぞれ流速50L/minで根腐れ病(Pythium helicoides)菌液(1.0×103 cfu/ml)を通過させた時の瞬間流量、トータル流量(フィルター寿命流量)、圧力損失、菌液通過後の減菌率及びフィルター表面の菌数を確認した。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
上記表1の比較例2及び比較例5に示されるように、化学パルプの含有量が40wt%未満であると除菌率が約20%も低下し、比較例1及び比較例4に示されるように80wt%を超えると・瞬間流量が減少するだけでなく、フィルター表面の菌数が増大する。また、比較例1及び比較例4に示されるように熱溶融型合成繊維の含有量が20wt%未満であると、フィルターの変形により圧力損失が上昇するだけでなく、抗菌剤の付着量が減少するためにフィルター表面の菌数が増加し、比較例2及び比較例5に示されるように60wt%を超えると、菌の捕捉効率が低下するため、通過後の除菌率が低下する。比較例6に示されるように、絶対濾過精度が20μmであると菌の捕捉効率が低下するため、通過後の除菌率が低下する。
【0023】
以上の結果、本発明品によれば化学パルプが効率よく病原菌をトラップし、熱溶融型合成繊維の表面に付着した非溶出性の無機銀系抗菌剤が病原菌の繁殖を抑制するため、1回通過後での除菌率が非常に高くフィルター自体も病巣になりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】除菌装置を例示したブロック図である。
【図2】農業用除菌フィルターの使用状況を示した説明図である。
【符号の説明】
【0025】
F 農業用除菌フィルター
1 除菌装置
2 フィルターハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学パルプと、熱溶融型合成繊維と、無機銀系抗菌剤からなり、該無機系抗菌剤が前記熱溶融型合成繊維の表面に均一に付着していることを特徴とする農業用除菌フィルター。
【請求項2】
前記化学パルプの含有量が40〜80wt%、前記熱溶融型合成繊維の含有量が20〜60wt%であることを特徴とする請求項1に記載の農業用除菌フィルター。
【請求項3】
絶対濾過精度が10μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の農業用除菌フィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221145(P2009−221145A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67066(P2008−67066)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】