説明

農産物検査装置及び農産物検査方法

【課題】内部がほぼ均質な農産物の内部の空洞の有無を、高速かつ廉価に検査すること。
【解決手段】X線ビームを農産物312に照射し、かつ、X線ビームを最小のエネルギとするべく電気的に制御するエネルギ制御部を有するX線源(301、302)と、農産物を透過したX線ビームの強度を測定するX線測定器(X線受光器304)と、X線源からX線測定器に向かうX線ビームを前記農産物が相対的に横切るようにした機構部(ベルトコンベア310)と、農産物のサイズを測定する農産物測定器(306,307、308)とを有し、農産物のサイズの測定結果をX線源のエネルギ制御部への入力により、X線源から農産物に対して照射されるX線ビームを必要最小のエネルギに制御し、かつ、X線測定器の出力の前記農産物の位置に対する依存性の波形から農産物内の空洞欠損の有無を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を利用した農産物検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農産物の内部に発生する空洞欠損は、生育過程における水、乾燥、施肥等の諸条件、また、収穫後の保管条件等の結果、頻度及びその程度は格別、その発生を避けがたいものである。これは単に外見や食味の点で商品価値の低下を招くばかりでなく、自動機械による加工の際に高速裁断機の刃を破損させる等、加工過程における障害をもたらす場合がある。このため、こうした空洞欠損を持つ個体は出荷又は加工に先立って選別する必要がある。しかしながら、空洞欠損の有無は、外形上容易に判別することができず、また、切断して検査を行うのでは商品としての価値を失う。
【0003】
従来、これらは人の経験又は勘によって手選別されていたが、近年、X線又は赤外線を用いた検査装置が開発され、実用に供されるようになった。特許文献1乃至特許文献5等が知られており、これらの手法は、検査対象農産物の内部の様子を二次元又は三次元の映像として撮像したものを、人が観察し、あるいは電子計算機等を用いた画像処理及び判定プログラムを介して、その良否を判定するものである。検査対象農産物内部の精細な撮像を得るための手法及び空洞欠損の評価方法について各々差別化が図られているが、検査対象農産物内部の精細な撮像を行う必要がある点で概ね共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−273087
【特許文献2】特開平8−242681
【特許文献3】特開平11−174001
【特許文献4】特開平11−211677
【特許文献5】特開2002−168807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のような従来の方法においては、以下のような課題が存在する。即ち、検査対象農産物内部の精細な映像を得るためには、概して複雑な撮像装置を要するが、これは設備構築又は維持管理上の困難となる。また、かなり大きなエネルギの赤外線、X線を用いる必要があり、その取り扱いに細心の注意、特にX線を用いるものについては、特段の防護措置が求められる。また、高エネルギのX線では農産物自体にも影響を与えてしまう。
【0006】
さらには良否判定を人が行う場合、人が判定できる速度と精度以上には検査の効率が上がらない。また、電子計算機等を用いて自動判定をする場合には、自動判定プログラムが複雑化し、手法によっては検査対象農産物を静止させての撮像を伴う程の複雑な過程と相まって、検査対象農産物一個体あたりの検査に少なからぬ時間を要する。
【0007】
こうした詳細な判定方法は、メロンやスイカのような、検査対象農産物が比較的大きい場合、又は、一個あたりの市場価格が比較的高額である場合等の個別詳細に判定する価値が認められる場合には許容されうるとも考えられる。しかし、例えばジャガイモのような、さほど大きくなく、かつ収穫期には一時期に大量に収穫され、一個あたりの市場価格が低額作物の場合には、処理効率が上がらず効果が薄い。このため、より簡便で高速かつ大量に処理できる検査方法が望まれる。これを解決することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による農産物検査装置は、被検査物である農産物にX線を照射してX線の透過により当該農産物の空洞欠損の有無を判定するものであって、X線ビームを前記農産物に照射し、かつ、前記X線ビームを最小のエネルギとするべく電気的に制御するエネルギ制御部を有するX線源と、前記農産物を透過した前記X線ビームの強度を測定するX線測定器と、前記X線源から前記X線測定器に向かう前記X線ビームを前記農産物が相対的に横切るようにした機構部と、前記農産物のサイズを測定する農産物測定器とを有し、前記農産物測定器による前記農産物のサイズの測定結果を前記X線源の前記エネルギ制御部に入力することにより、前記X線源から前記農産物に対して照射されるX線ビームを必要最小のエネルギに制御し、かつ、前記X線測定器の出力の前記農産物の位置に対する依存性の波形から前記農産物内の空洞欠損の有無を検出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明による農産物検査装置は、前記X線測定器の出力の前記農産物の位置に対する依存性の波形における凸部を前記農産物内の空洞欠損として検出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の前記X線ビームの最大エネルギは、常に前記農産物の大きさに応じた必要最小限のもので、前記農産物の大きさが直径5×10-2(m)程度のとき、1.5×10電子ボルト(eV)程度のものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の農産物検査方法は、前記農産物検査装置において、前記農産物測定器により前記農産物のX線照射方向の長さを測定する第1の工程と、前記第1の工程後に、前記農産物の密度及びX線吸収能等のデータから予め求められた前記農産物における照射X線のエネルギの減衰長のデータと、前記農産物のX線照射方向の長さのデータとから、前記農産物の減衰長が前記農産物の前記X線照射方向の長さと略等しくなるように前記エネルギ制御部によって前記X線エネルギを制御する第2の工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極めて微弱なX線をもって、農産物内部の空洞欠損の有無を、非破壊で簡便かつ正確に判定することが可能となる。使用するX線エネルギが十分に小さいことから、簡易な防護対策によってX線を完全に遮断することができ、例えば放射線管理区域の必要もない。またX線は光であり、これにより誘導放射能を生成するには、もとより1×10(eV)オーダーのエネルギを要するが、さらに桁違いに低いエネルギのX線を使用するため、検査によって農産物に誘導放射能を生ずる心配が全くない。
【0013】
また、本発明によれば、精細な撮像を得るための(X線照射及び受光)装置、及び、画像処理並びに良否判定のための複雑な判定プログラム等を要しない。さらに、本発明によれば、検査対象農産物に関して、個別に重量及び体積を検出し、以って該個体の密度を算出し、該個体の空洞欠損の判定につき必要最小限のX線エネルギを求め、X線管の陽極電圧を制御することにより、該個体に対し各々必要最小限のX線をもって空洞欠損の有無を判定することができ、農産物検査従事者に対してより安全性の高いX線に係る農産物検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】鉛に対する光子の減衰を示すグラフである。
【図2】水(液体)に対する光子の減衰を示すグラフである。
【図3】乾燥空気(大気圧)に対する光子の減衰を示すグラフである。
【図4】拡がりの無いX線の水に対する減弱効果評価グラフである。
【図5】空洞欠損の有無によるX線強度差を示すグラフである。
【図6】ジャガイモを例としたX線検査装置を示す図である。
【図7】ジャガイモを例とした良品、不良品のX線受光器からの電圧出力の違いを示す図である。
【図8】連続X線に係る農産物検査装置を示す図である。
【図9】X線照射窓にスリットを用いたX線検査装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面及び数式を参照して、本発明による農産物検査装置及び農産物検査方法を説明する。本発明は、取り扱いの容易な微弱なX線を用い、検査対象農産物にそのほとんどを減衰させ、農産物内部の空洞欠損についてのみX線の透過として検出するものである。また、検査対象農産物のX線透過の変動を以って空洞欠損の有無を判定することにより、X線撮像フィルム、X線撮像素子等を不要とすることも可能であり、さらには、照射するX線量を検査対象農産物内部の空洞欠損の検出に必要な最小限のものにするために、検査対象農産物の大きさ(幅及び体積)、重量及びこれらから求められる密度(それらの総称をサイズという)を逐次計算し、これに応じてX線管の陽極電圧を逐次加減することのできるものである。
【0016】
[空洞欠損の検知理論の概要]
本発明の着目点としては、農産物の空洞欠損を非破壊で検査する目的に照らせば、空洞欠損の有無自体の確実な判定こそが重要であり、必ずしも空洞欠損の位置、形状、大きさ等に関する情報が詳細に求められているのではない。
【0017】
特に、ジャガイモのような根菜類の多くは種子又は元来あるべき空洞部分を伴わず、内部構造が概ね均一であるため、空洞欠損以外の理由で減衰量に変動が生じない。また水分が多く、照射したX線は検査対象農産物によって大きく減衰される。尚、これはジャガイモのような根菜類の多くに限らず、元来、内部に明らかな空洞部分を伴わない農産物について同じである。
【0018】
このことからX線のエネルギを変える事で減衰の度合いを制御できるため、そのエネルギを適切なものにすると、X線が検査対象農産物により減衰され、X線感受素子の検出限界にごくわずか足りない強度となる状態として、目的を達成することができる。
【0019】
X線やγ線はエネルギの高い光子であり、物質中の原子や電子、原子核との間で起きる電磁相互作用で散乱、吸収されることにより、物質中を進む距離とともに減弱(減衰)していく。
【0020】
有限の立体角を持って真空中に放出される光子は発生源からの距離の逆二乗に比例した減衰を起こす。これは幾何学的要因で決まるものである。物質中の場合、この幾何学的要因の他に物質中の電子等との相互作用による減衰を起こす。その主なものは光電効果、コンプトン効果、電子対生成である。
【0021】
まず、光電効果であるが、光子が原子と強く束縛された軌道電子と相互作用を起こし、軌道電子を原子の外へはじき出して吸収される過程をいう。はじき出された電子を光電子という。光電子の持つ運動エネルギは光子の失ったエネルギから光電子が軌道にいたときの束縛されるエネルギの差となる。K殻電子についてのこの光電効果の反応断面積φは以下の「数1」に示す通り与えられる。ここで、rは電子の古典半径、Zは物質の原子番号、αは微細構造定数、mは電子の質量、Eは光子のエネルギである。
【0022】
【数1】

【0023】
即ち、反応断面積φは、原子番号の5乗に比例し、光子のエネルギの7/2乗に逆比例する。そのため、主に低いエネルギのX線やγ線、あるいは重い元素からなる物質において大きく寄与する。また、光子のエネルギを連続的に増加させた場合、K、L…の各軌道の束縛エネルギに等しくなるところで反応断面積が大きくなることが知られており、K吸収端、L吸収端等と呼ばれる。
【0024】
次にコンプトン効果であるが、これは光子と自由電子との間で起きる散乱現象である。この効果は光子のエネルギに比べて電子が軌道に束縛されているエネルギが十分に無視でき、かつ自由電子様であるとみなせる場合に支配的となる。その散乱断面積はKlein−仁科の式として知られている。低エネルギの場合の近似式として、以下の「数2」に示すものが用いられる。ここで、rは電子の古典半径、Zは物質の原子番号、Eは光子のエネルギである。
【0025】
【数2】

【0026】
尚、光子のエネルギが電子・陽電子対の質量である1.02×10(eV)を超えた場合、原子核の近傍で電子・陽電子対を生成し光子が消滅する現象がおきる。これを電子対生成という。この際、運動量保存則とエネルギ保存則を同時に満たすためには電子・陽電子対に加えて原子核も運動量を担う必要があることから、原子核の近傍でのみ生じる現象である。
【0027】
実際には光子が物質中に入った場合、上記の光電効果、コンプトン効果、電子対生成といった素過程に基づく減衰を受けることになる。
【0028】
単一エネルギの強度Iの光子が物質中の深さxの位置から微小距離dxを進んだ場合の減衰量dIは以下の「数3」に示す式で示される。
【0029】
【数3】

【0030】
尚、μは物質中での線減弱係数とよばれるもので、光電効果による減衰、コンプトン効果による減衰、電子対生成による減衰の和となる。単位は長さの逆数となる。即ち、μを光電効果、μをコンプトン効果、μを電子対生成による各減弱係数とするとμは以下の「数4」に示す式で与えられる。
【0031】
【数4】

【0032】
従って、深さxでの光子の強度I(x)は積分したものとなり、以下の「数5」に示す式で示される。
【0033】
【数5】

【0034】
一般の物質は単一元素で構成されておらず、複数の異なる元素から成り立っている。この場合異なる種類の原子が一定割合で混じっていることになるが、素過程より各種類単体の断面積が物質中の存在割合に応じて寄与することになる。よって、複数元素A、B・・・からなる物質における単一エネルギの強度Iの光子が物質中の深さxの位置からごくわずかの距離dxだけ進んだ場合の減衰量dIは以下の「数6」に示す式で示される。式中( )内が線減弱係数となる。なお式中W・・・は物質中各元素の重量パーセントである。
【0035】
【数6】

【0036】
線減弱係数は物質の厚さに対する強度が計算できるので便利である一方、同じ物質であっても物質の状態(例えば液体と気体)によって減弱係数が大きく異なる。これは一つ一つの素過程が変化しているのではなく、物質の単位体積あたりに含まれる原子の個数が異なるために素過程の起きる回数が異なって起きるためである。そこである物質について単位体積あたりの原子数が同じ状態で減弱係数を定義しておくと、任意の状態の密度が判れば線減弱係数へ簡単に換算できる。これを質量減弱係数という。ある物質の質量減弱係数は、その物質における線減弱係数μをその物質の密度ρで除したものとして定義され、以下の「数7」に示すような関係を満たす。
【0037】
【数7】

【0038】
図1は、鉛に対する光子の減衰を示すグラフである。同図には、鉛での質量減弱係数の例が示されており、鉛の場合の各素過程の寄与が示されている。低エネルギ側では光電効果が支配的で、エネルギが上がるにつれてコンプトン効果、電子対生成が支配的になる。尚、図1は、石川友清編「放射線概論」通商産業研究社、1996年1月、100ページより抜粋したものである。
【0039】
図2は、水(液体)に対する光子の減衰を示すグラフであり、図3は、乾燥空気(大気圧)に対する光子の減衰を示すグラフである。図2及び図3には水(液体)、乾燥空気(大気圧)に対する光子減衰の実例が示されている。尚、これら図2及び図3は米国 National Institute of Standards and Technology (NIST)の公開データである。グラフ中のμ/ρは質量減弱係数、μen/ρはそのうち物質に吸収されるものの割合を示す。
【0040】
本発明においては、低エネルギのX線(10(eV)オーダー)を用いる。この場合は素過程として光電効果が支配的な領域である。このため農産物に入射したX線は内部で光電効果を起こして吸収され、減衰する。
【0041】
農産物の主要構成物質は水である。そこで、前記NISTの公開している質量減弱係数を利用し、広がりの無いX線の水に対する減弱の効果を評価したものを図4として示す。図4は、拡がりの無いX線の水に対する減弱効果評価グラフである。減衰は指数関数的になる。
【0042】
図4に示す通り、5〜10×10-2(m)程度の農産物では、各エネルギに対する減弱効果に著しい差が得られることがわかる。
【0043】
さし渡し(直径)5×10-2(m)の大きさの農産物を想定し、計算したものを図5として示す。図5は、空洞欠損の有無によるX線強度差を示すグラフである。農産物内部に1×10-2(m)の空洞欠損がある場合とない場合で、1.5×10(eV)のエネルギのX線を用いると透過してくるX線強度に大きな差が得られ、空洞欠損を発見できることがわかる。
【0044】
[X線による検査装置の概要]
上述した空洞欠損の検知理論に基づくX線による検査装置の概要を説明するに、農産物の場合、空洞欠損の位置及び形状等を特定することは本質的には必要でない。特にジャガイモのような根菜類の場合、内部が均一又は不均一であることを判定できれば良否判定が可能である。従って、内部の様子を精細に映像化する必要はない。
【0045】
また、X線管から放射されるX線は検査対象農産物の全部を透過するものであればよく、従ってX線通過範囲、またX線感受素子、即ち、X線受光器の種類、形状等は限定されない。
【0046】
その一例として、図6を用いて説明する。図6は、ジャガイモを例としたX線検査装置を示す図である。ジャガイモであれば、最も簡単に同図に示すようなX線検査装置を構成可能である。図6において、101はX線管、102はX線放射窓、103はX線通過範囲、104はX線受光窓、105はX線受光器、106はジャガイモを載置するベッド、107はジャガイモである。
【0047】
ベッド106はジャガイモの直径よりも大きいものとし、丁度X線通過範囲103を遮る様にジャガイモ107を置く。このときX線はジャガイモの全部分に当たり、かつX線受光窓104に到達するX線強度は所定の最小値となる。
【0048】
このとき、ジャガイモ107内部に空洞欠損があれば、X線受光窓104に到達するX線強度は所定よりも大きくなり、空洞欠損の有無を判定することができる。
【0049】
以上、ジャガイモをベッド上に静置した場合で説明したが、実際には、X線通過範囲103に収まるようにジャガイモ107をベッド106上で移動させることが望ましい。その点を図7を参照して説明する。図7は、ジャガイモを例とした良品、不良品のX線受光器からの電圧出力の違いを示す図である。図7に示すように、X線受光器105が電圧としてX線強度を出力するものであれば、空洞欠損をもたない個体であれば、X線受光器105からの電圧出力は、個体の移動に伴い漸減したのちに漸増する滑らかな曲線(農産物の位置に対する依存性の波形)を描くが、空洞欠損がある場合には、局所的に減衰率が下がり、突発的に出力が上昇する現象を生じる(依存性の波形における凸部)。これをもって個体内に空洞欠損が存在するものと判定する。
【0050】
尚、ジャガイモ107をベッド106に静置し、X線管101、X線放射窓102、X線通過範囲103、X線受光窓104、X線受光器105をジャガイモ107に対して移動させてもよい。
【0051】
即ち、検査対象農産物とX線検査装置の位置関係は、X線管から放射されるX線は検査対象農産物の全部を透過し、減衰してX線感受素子に到達する、相対的に変わるものであればよく、検査対象農産物とX線検査装置の位置関係を変えるための機構は特に限定されない。
【0052】
空洞欠損の検出精度を上げ、検査に必要となる最小限のX線エネルギを決定するためには、X線放射窓とX線受光窓の間に位置させる、検査対象農産物の大きさ(幅及び体積)、重量及びこれらから求められる密度(それらの総称をサイズという)を予め個別把握する必要がある。尚、X線エネルギは、X線管の陽極直流印加電圧を変えることによって、素早く簡単に変更することができる。
【0053】
検査対象農産物の密度を把握するにはいくつかの方法があり、特に限定されないが、直接体積を測定し、素早く電気信号量とすることができるものがよく、光学式三次元体積測定器と電気式重量計とを組み合わせたものが望ましい。
【0054】
三次元体積測定器と電気式重量計とを組み合わせたものから、検査対象農産物の大きさ(幅及び体積)、重量及びこれらから求められる密度が得られ、これより検査対象農産物を透過するために必要な最小限のX線エネルギを計算することができる。これに応じてX線管の陽極電圧を逐次、増減させる。
【0055】
また、この体積及び密度を求める過程で、腐っている等の理由で不適格に密度の低い個体、又は逆に不適格に硬い個体等を弁別し、除外することもできる。
【0056】
尚、各検査対象農産物の検査に必要なX線エネルギを個別推定計算・決定する根拠、即ち、初期式は、精確には別途、サンプルを実測して決定した複数多元のものを用いるとよい。
【0057】
しかし、農産物の空洞欠損検査は実用上、選別の最終で行われる、概ね密度、大きさ、形状の揃ったものの検査、良品のばらつきは想定範囲内にあることから、図2、図3及び図4に係る数値を根拠として、これによって想定される、ばらつきによる変動要素を加えた、ひとつの初期式を用いることができる。
【0058】
即ち、X線エネルギは、農産物の密度が大きい、又は、体積が大きい場合には、ひとつの初期式に従って高く、逆は低くすればよい。
【0059】
[農産物検査装置の構成]
上記X線による検査装置を用いたX線に係る農産物検査装置について図8を用いて説明する。図8は、X線に係る農産物検査装置を示す図である。301はX線管電源(エネルギ制御部)、302はX線の発生を担うX線管(X線源)、303はX線通過範囲、304はX線受光器(X線測定器)、305はジャガイモ等の検査対象物となる農産物の空洞欠損の有無を判定する比較器、306は農産物の重量測定器、307は農産物の体積測定器、308は農産物の体積密度計算機(前記重量測定器306及び前記体積測定器307とともに農産物測定器を構成)、309は農産物の排除を担うプランジャ、310は農産物の搬送を行うベルトコンベア、311は排除対象の農産物が排除される排除口、312は農産物である。
【0060】
図8において、搬送手段として作用するベルトコンベア310に載せられた検査対象農産物は体積測定器307、重量測定器306を通過してX線通過範囲303に送られる(搬送方向を矢印Oで示す)。体積測定器307、重量測定器306より得られた検査対象農産物の体積、重量のデータは体積密度計算機308にて直ちに必要なX線エネルギデータに変換され、X線管電源301に送られる。X線管電源301はこれに従って、X線管302の陽極電圧を加減して、検査に最適なエネルギのX線を、X線管302より発生させる。
【0061】
即ち、前記農産物の密度及びX線吸収能等のデータから予め求められた農産物における照射X線のエネルギの減衰長のデータと、前記農産物312の大きさであるX線照射方向の長さ(農産物の最大幅)のデータとから、前記農産物の減衰長が前記農産物312の前記X線照射方向の最大長と略等しくなるようにX線強度(X線エネルギ)を制御して常にX線受光器304に到達するX線強度が所定の最小値になるようにする。検査対象農産物がX線通過範囲303を通過した際、X線受光器304がX線強度の急変を検出すると、比較器305は検査対象農産物内部に空洞欠損があるものと判定し、プランジャ309を駆動させて、検査対象農産物を排除口311に導き、空洞欠損を有する検査対象農産物をラインより除外する(プランジャ309の駆動方向を矢印Pで示す)。
【0062】
また、体積密度計算機308は、体積測定器307、重量測定器306より得られた検査対象農産物の体積、重量のいずれかのデータが、不適格の範囲にある場合、比較器305の判断によらず、プランジャ309を駆動させ、検査対象農産物を排除口311に導き、ラインより除外する。
【0063】
また、より揃った農産物の場合、簡易に予め計算した一定エネルギの微弱なX線照射を行い、X線通過範囲内に検査対象の個体があることを重量計、感圧計等で検知し、X線通過範囲内に検査対象の個体がある間に、透過したX線が急増した場合をもって、該個体に空洞欠損があると判定する方法も可能である。
【0064】
また、X線検査装置について、X線照射窓にスリットを置き、より精密にX線量の制御をおこない、また空洞欠損の判別を確実にする点について図9を用いて説明する。図9は、X線照射窓にスリットを用いたX線検査装置を示す図である。
【0065】
図9において、401はX線の発生を担うX線管、402はX線を帯状として精密な制御を可能とするための開口からなるスリット、403は帯状のX線、404は受光窓、405は受光器、406は農産物の測定を行う三次元体積測定器、407は農産物の搬送を行うベルトコンベア(搬送方向を矢印Qで示す)、408はジャガイモ等の検査対象物となる農産物、409は農産物の測定結果の出力や読み出しの端緒となるマーカー、410は前記三次元体積測定器406の測定及び測定データの外部出力の開始を指令する第1のマーカー検出器、411は農産物のX軸データの読み出し開始を指令する第2のマーカー検出器である。
【0066】
三次元体積測定器406の方式は特に限定されないが、ここでは光学式のものを用いた例を示す。マーカー409が三次元体積測定器406に入り、第1のマーカー検出器410を通過すると、三次元体積測定器406は農産物408の形状をX、Y、Z三軸座標として測定し、外部出力を開始する。尚、マーカー409、第1のマーカー検出器410、第2のマーカー検出器411も特に限定はされないが、簡便なものがよく、例えばベルトコンベア407のコンベアベルトについて可視光を通過させないものとし、これに開けた穴をマーカーとし、穴より進入する可視光を可視光フォトダイオード等によって検出する構造とした、光学式のものが一般的である。
【0067】
帯状X線403の方向をX軸とするならば、このうちのX軸の座標情報を抽出し、別途設けた外部記憶装置に、経過時刻、即ち、ベルトコンベアの速度と同期させたシリアルデータとして一度記憶する。
【0068】
次に、マーカー409が第2のマーカー検出器411を通過した時、外部記憶装置に記憶させたX軸データ、即ち、農産物の幅を同期して読み出し、これによりX線管401の発生させるX線エネルギを逐次細かく調整、即ち、農産物の幅に合わせて細かく調整し、常に受光窓404に到達するX線強度が所定の最小値になるようにする。即ち、前記農産物の密度及びX線吸収能等のデータから予め求められた農産物における照射X線のエネルギの減衰長のデータと、前記農産物408の大きさであるX線照射方向の長さ(農産物の幅)のデータとから、前記農産物の減衰長が前記農産物408の前記X線照射方向の長さと略等しくなるようにX線強度(X線エネルギ)を制御して常に受光窓404に到達するX線強度が所定の最小値になるようにする。
【0069】
この結果、農産物内部に空洞欠損がなければ、受光器405から得られる出力は常に低いほぼ一定のものになるが、空洞欠損がある場合には急に出力が上昇する。これをもって良否判別をおこなうことができる。
【0070】
尚、農産物408がより揃ったものである場合、前記農産物408の個別X線照射方向の長さ(農産物の幅)及び密度測定の工程を省略し、予め計算した一定エネルギの微弱なX線照射、即ち、前記農産物408の平均密度と、前記農産物408の大きさであるX線照射方向の平均長さ(農産物の平均幅)から予め計算した、前記農産物408の減衰長が前記農産物408の前記X線照射方向の長さと、略等しくなるとみなされる、一定エネルギの微弱なX線照射を行い、透過したX線が急増した場合をもって、該個体に空洞欠損があると判定することもできる。
【0071】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
内部がほぼ均質な農産物の内部の空洞の有無を、高速かつ廉価に検査することが求められる用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
101 X線管
102 X線放射窓
103 X線通過範囲
104 X線受光窓
105 X線受光器
106 ベッド
107 ジャガイモ(農産物)
301 X線管電源
302 X線管
303 X線通過範囲
304 X線受光器
305 比較器
306 重量測定器
307 体積測定器
308 体積密度計算機
309 プランジャ
310 ベルトコンベア
311 排除口
312 農産物
401 X線管
402 スリット
403 帯状のX線
404 受光窓
405 受光器
406 三次元体積測定器
407 ベルトコンベア
408 農産物
409 マーカー
410 第1のマーカー検出器
411 第2のマーカー検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物である農産物にX線を照射してX線の透過により当該農産物の空洞欠損の有無を判定する農産物検査装置であって、
X線ビームを前記農産物に照射し、かつ、前記X線ビームを最小のエネルギとするべく電気的に制御するエネルギ制御部を有するX線源と、
前記農産物を透過した前記X線ビームの強度を測定するX線測定器と、
前記X線源から前記X線測定器に向かう前記X線ビームを前記農産物が相対的に横切るようにした機構部と、
前記農産物のサイズを測定する農産物測定器とを有し、
前記農産物測定器による前記農産物のサイズの測定結果を前記X線源の前記エネルギ制御部に入力することにより、前記X線源から前記農産物に対して照射されるX線ビームを必要最小のエネルギに制御し、かつ、前記X線測定器の出力の前記農産物の位置に対する依存性の波形から前記農産物内の空洞欠損の有無を検出することを特徴とする農産物検査装置。
【請求項2】
前記X線測定器の出力の前記農産物の位置に対する依存性の波形における凸部を前記農産物内の空洞欠損として検出することを特徴とする請求項1に記載の農産物検査装置。
【請求項3】
前記X線ビームの最大エネルギは、常に前記農産物の大きさに応じた必要最小限のもので、前記農産物の大きさが直径5×10-2(m)程度のとき、1.5×10電子ボルト(eV)程度であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の農産物検査装置。
【請求項4】
前記農産物検査装置において、
前記農産物測定器により前記農産物のX線照射方向の長さを測定する第1の工程と、
前記第1の工程後に、前記農産物の密度及びX線吸収能等のデータから予め求められた前記農産物における照射X線のエネルギの減衰長のデータと、前記農産物のX線照射方向の長さのデータとから、前記農産物の減衰長が前記農産物の前記X線照射方向の長さと略等しくなるように前記エネルギ制御部によって前記X線エネルギを制御する第2の工程とを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1に記載の農産物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−52971(P2012−52971A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197223(P2010−197223)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(594010733)株式会社田中衡機工業所 (1)
【出願人】(505387864)合資会社平川研究所 (2)
【Fターム(参考)】