説明

農薬の分析方法および分析システム

【課題】農作物における残留農薬、環境水中の農薬、土壌中の残留農薬等の被検試料中の農薬を簡便に分析する方法を提供すること。
【解決手段】(a)含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬と、所定量の被検試料とを混合するステップと、
(b)前記ステップ(a)で得られた安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料を抽出処理し、有機層を得るステップと、
(c)前記ステップ(b)で得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理するステップと、
(d)前記ステップ(c)で得られた分析結果に基づき、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較するステップとを含むことを特徴とする農薬の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬の分析方法および分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農作物における残留農薬、環境水中のゴルフ場使用農薬等の農薬、土壌中の残留農薬等については、それぞれ人の健康等への影響を考慮して、各種法律によって、例えば残留基準値、指針値等の許容される含有量の上限値、すなわち含有上限値が定められている。
【0003】
このような含有上限値が定められている農作物、環境水、土壌等の被検試料中に含まれる農薬を分析する方法としては、該被検試料を抽出処理する操作を数回繰り返し、得られる有機層を、必要に応じて濃縮処理した後、例えばカラムクロマトグラフィーや活性炭等により精製処理し、ガスクロマトグラフィー分析する方法が知られているが、抽出操作、濃縮操作等の煩雑な前処理操作に長時間要するという問題があった。そのため、例えば農作物の残留農薬の分析の場合を例に取ると、農作物が収穫されてから出荷されるまでの限られた時間内に分析を終了させ、農作物の安全性を流通前に確認するという要求に必ずしも十分応える分析方法とはいえなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況のもと、本発明者は、農作物における残留農薬、環境水中の農薬、土壌中の残留農薬等の被検試料中の農薬を簡便に分析する方法を開発すべく鋭意検討したところ、被検試料に、含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬を加え、抽出処理し、得られる有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理し、得られる分析結果に基づいて、検出された分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較することにより、被検試料中の分析対象農薬が、含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値よりも小さいのか、あるいは大きいのかを容易に判定することができることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、(a)含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬と、所定量の被検試料とを混合するステップと、(b)前記ステップ(a)で得られた安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料を抽出処理し、有機層を得るステップと、(c)前記ステップ(b)で得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理するステップと、(d)前記ステップ(c)で得られた分析結果に基づき、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較するステップとを含むことを特徴とする農薬の分析方法および分析システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被検試料中に含まれる農薬の量と残留基準値等の含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値との比較が極めて容易にでき、例えば農作物が収穫されてから出荷されるまでの限られた時間内に分析を終了させ、農作物の安全性を流通前に確認するという要求にも応えることができるため、実用上極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の分析方法は、(a)含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬と、所定量の被検試料とを混合するステップ(以下、ステップ(a)と略記する。)と、(b)前記ステップ(a)で得られた安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料を抽出処理し、有機層を得るステップ(以下、ステップ(b)と略記する。)と、(c)前記ステップ(b)で得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理するステップ(以下、ステップ(c)と略記する。)と、(d)前記ステップ(c)で得られた分析結果に基づき、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較するステップ(以下、ステップ(d)と略記する。)とを含むことを特徴とする農薬の分析方法である。以下、図1に示した概略フロー図に基づき、本発明の分析方法をステップごとに説明する。また、図2に、本発明の分析システムの概略構成図を示した。
【0008】
ステップ(a)は、前記のとおり、含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬と、所定量の被検試料とを混合するステップである。
【0009】
被検試料としては、該被検試料中に含まれ得る農薬の含有上限値が法律等で規定されているものであれば特に制限されず、例えば農場や農地等から採取した野菜、果樹等の農作物、ゴルフ場からの排水や河川、湖沼、地下水等から採取した水等の環境水、土壌等が挙げられる。例えば農作物の残留農薬の場合には、農作物の種類によって、分析対象農薬が定められ、さらに、分析対象農薬ごとに、残留基準値として、含有上限値が定められている。
【0010】
まず、分析しようとする被検試料を所定量量り取る(図1 S1)。被検試料によって、量り取る量を適宜決めればよいが、分析対象農薬の含有上限値が小さい場合には、測定誤差をより小さくするため、被検試料を50g以上量り取ることが好ましい。なお、農作物の残留農薬を分析する場合には、農作物の部位による偏り等を小さくするため、通常農作物と所定量の水とを混合した後、ミキサー等で磨砕して均一化したものを被検試料として用いる。
【0011】
続いて、量り取った所定量の被検試料と含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬とを混合する(図1 S2)。
【0012】
安定同位体で標識された分析対象農薬としては、分析対象農薬を構成する原子の一つもしくは二つ以上が、対応する安定同位体に変換されたものであればよく、安定同位体としては、例えば重水素(D)、炭素13(13C)、窒素15(15N)、酸素18(18O)、硫黄34(34S)等が挙げられ、なかでも重水素が好ましい。また、安定同位体で標識された分析対象農薬中の安定同位体は、一種類でもよいし、複数種でもよい。かかる安定同位体で標識された分析対象農薬は、市販されているものを用いてもよいし、例えば安定同位体で標識された試剤を使用して、分析対象農薬を製造する方法に準じて製造したものを用いてもよい。
【0013】
被検試料と混合する安定同位体で標識された分析対象農薬は、一種類でもよいし、二種類以上でもよく、被検試料等に応じて、決定すればよい。
【0014】
かかる安定同位体で標識された分析対象農薬は、そのまま被検試料と混合してもよいし、溶媒に溶解した後、被検試料と混合してもよい。安定同位体で標識された分析対象農薬の秤量誤差をより小さし、被検試料と安定同位体で標識された分析対象農薬とを混合しやすくするという点で、安定同位体で標識された分析対象農薬を溶媒に溶解した溶液を用いることが好ましい。安定同位体で標識された分析対象農薬を溶解する溶媒としては、安定同位体で標識された分析対象農薬が溶解し、前記溶液中で安定に存在する溶媒であって、被検試料と前記溶液とが均一に混ざりやすい溶媒であればよく、通常親水性溶媒が用いられる。親水性溶媒としては、例えばアセトン等の親水性ケトン系溶媒、例えばメタノール、エタノール等の親水性アルコール系溶媒、例えばアセトニトリル等の親水性ニトリル系溶媒等の単独もしくは混合溶媒が挙げられる。また、前記溶液中の安定同位体で標識された分析対象農薬の濃度は特に制限されない。
【0015】
本発明において、含有上限値に相当する量とは、量り取った被検試料中にその農薬が含まれていた場合に、許容される上限量を意味する。含有上限値としては、例えば農作物における農薬残留基準値、ゴルフ場使用農薬に係る水質の指針値等が挙げられ、これらは、通常被検試料単位重量もしくは単位体積あたりに、含まれていてもよい農薬の最大量で規定されており、含有上限値と量り取った被検試料の量との積が含有上限値に相当する量となる。例えば量り取った被検試料の量が50gで、分析対象農薬の含有上限値が0.2mg/kgであるとき、含有上限値に相当する量は、50(g)×0.2(mg/kg)=0.01mgとなり、安定同位体で標識された分析対象農薬0.01mgを被検試料50gと混合すればよい。また、含有上限値に所定の係数を乗じた値の所定の係数としては、例えば0.1、0.5等任意の正数が挙げられ、好ましくは1以下の任意の正数が挙げられる。
【0016】
量り取った所定量の被検試料と含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬とを混合しやすくするため、前記親水性溶媒を共存させることが好ましい。
【0017】
混合温度は、通常5〜40℃の範囲であり、混合時間は、被検試料と安定同位体で標識された分析対象農薬とが十分に混合する時間であればよい。
【0018】
かかる所定量の被検試料と含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬との混合は、混合手段1により実施され、混合手段1としては、被検試料と含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬とを十分に混合可能なものであれば特に制限されない。
【0019】
所定量量り取った被検試料と含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬とが十分混合すれば、次ステップ(b)に進む。
【0020】
ステップ(b)は、前記ステップ(a)で得られた安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料を抽出処理し、有機層を得るステップ(図1 S3)であり、かかるステップにより、被検試料中に含まれていた分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬が有機層中に抽出される。
【0021】
抽出処理は、通常前記ステップ(a)で得られた安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料と抽出溶媒とを十分混合した後、分液処理することにより実施される。抽出溶媒としては、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬を抽出可能なものであればよく、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えばヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、例えば酢酸エチル等のエステル系溶媒、例えばジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、例えばジエチルエーテル等のエーテル系溶媒等の疎水性溶媒が挙げられる。被検試料によっては、かかる抽出処理の際に、水を加えてもよく、また、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の抽出率を高めるため、例えば塩化ナトリウム水溶液等の無機塩が溶解した水溶液を加えてもよい。かかる抽出溶媒、水や無機塩が溶解した水溶液の使用量は特に制限されない。
【0022】
抽出処理の処理温度は、通常5〜100℃の範囲である。処理時間も、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬が十分抽出される時間であればよい。また、抽出回数も制限されないが、通常1回抽出処理すればよい。
【0023】
かかる抽出処理は、抽出手段2により実施され、抽出手段2としては、安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料中の分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬を有機層中に抽出可能なものであれば特に制限されず、例えば遠心分離機等が挙げられる。
【0024】
抽出処理し、有機層が得られれば、次ステップ(c)に進む。
【0025】
ステップ(c)は、前記ステップ(b)で得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理するステップ(図1 S4)である。
【0026】
ガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理は、質量分析手段3により実施され、質量分析手段3としては、通常のガスクロマトグラフ質量分析装置もしくは液体クロマトグラフ質量分析装置が用いられる。前記有機層から所定量を採取し、前記質量分析手段3に注入し、分析が行われる。ガスクロマトグラフィー質量分析処理する場合のイオン化法としては、例えば電子イオン化法(EI法)、化学イオン化法(CI法)、負化学イオン化法(NCI法)等が挙げられ、電子イオン化法(EI法)が好ましい。液体クロマトグラフィー質量分析処理する場合のイオン化法としては、例えば大気圧イオン化法(ESI法、APCI法)、高速原子衝撃イオン化法(FAB法)、電子イオン化法(EI法)、化学イオン化法(CI法)等が挙げられ、大気圧イオン化法(ESI法、APCI法)が好ましい。
【0027】
前記ステップ(b)で得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理することにより、前記有機層中に含まれる分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークが検出され、分析結果として、質量(マス)クロマトグラムが得られる。
【0028】
前記ステップ(b)で得られた有機層について、ガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理が終了すれば、次ステップ(d)に進む。
【0029】
ステップ(d)は、前記ステップ(c)で得られた分析結果に基づき、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較するステップ(図1 S5)であり、比較手段4により行われる。
【0030】
得られた分析結果から、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬のそれぞれの質量数もしくはフラグメントに対応するピークが比較手段4により比較され、被検試料中に含まれる分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬の大小関係が判定される。ピークの比較は、ピーク高さを比較してもよいし、ピーク面積を比較してもよい。なお、分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬とで、検出感度比が異なっている場合には、該検出感度比を考慮して、ピークが比較される。検出感度比は、予め分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬をそれぞれ既知量含む標準液を調製し、該標準液をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理し、その両者の質量数もしくはフラグメントに対応するピークをもとに算出することができる。
【0031】
分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬とは、略同一の抽出挙動を示すため、前記ステップ(b)で得られた有機層中に含まれる安定同位体で標識された分析対象農薬の量を、含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値と仮定し、分析対象農薬と相対比較することにより、被検試料中に含まれる分析対象農薬と加えた安定同位体で標識された分析対象農薬との大小関係を容易に把握し、判定することができる。
【0032】
例えば含有上限値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬を混合した場合であって、分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬との検出感度比が1であるとき、分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積の方が、安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積に比べて小さい場合は、被検試料中に含まれる分析対象農薬は、含有上限値よりも少ないと判定でき、分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積の方が、安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積に比べて大きい場合は、被検試料中に含まれる分析対象農薬は、含有上限値よりも多いと判定できる。
【0033】
また、含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬を混合した場合であって、分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬との検出感度比が1であるとき、分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積の方が、安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積に比べて小さい場合は、被検試料中に含まれる分析対象農薬は、含有上限値に所定の係数を乗じた値よりも少ないと判定でき、分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積の方が、安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積に比べて大きい場合は、被検試料中に含まれる分析対象農薬は、含有上限値に所定の係数を乗じた値よりも多いと判定できる。
【0034】
さらに、検出感度比を考慮することにより、分析対象農薬の含有量を定量することもできる。例えば含有上限値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬を加え、該安定同位体で標識された分析対象農薬に対する分析対象農薬の検出感度比が2である場合であって、分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積が10000で、安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数に対応するピークのピーク面積が4800であったときは、被検試料中に含まれる分析対象農薬は、含有上限値を超える量(含有上限値の1.04倍量)が含まれていることが分かる。なお、分析対象農薬の含有量を定量する場合は、分析対象農薬と安定同位体で標識された分析対象農薬の含有量の異なる標準液を複数調製し、検量線を作成し、該検量線に基づいて定量を行ってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0036】
実施例1
キュウリ(O,O−ジメチル−O−4−ニトロ−m−トリルホスホロチオエート(一般名:フェニトロチオン、以下、フェニトロチオンと称す。)が含まれていないことを確認済みのもの)2kgを4分割法により分割した。分割試料500gに、水250mLを加え、ミキサーにより磨砕均一化し、均一化試料750gを得た。そのうちの75g(キュウリ50g相当)を遠心分離管に入れ、さらに、フェニトロチオン濃度が10μg/mLであるフェニトロチオン/アセトン溶液1mLを加え、フェニトロチオン10μgを含むモデル試料A(フェニトロチオン含有量:0.2mg/kg)を調製した。
【0037】
フェニトロチオンの二つのO−メチル基の水素原子6個すべてが重水素原子で標識されたフェニトロチオン−d(関東化学より購入)をアセトンに溶解させ、フェニトロチオン−d濃度が1mg/mLであるフェニトロチオン−d/アセトン溶液を調製した。
【0038】
キュウリにおけるフェニトロチオンの残留基準値0.2mg/kgとモデル試料A調製に使用したキュウリ50gとから、含有上限値に相当する量は10μgとなるため、前記フェニトロチオン−d/アセトン溶液を100倍に希釈した後、そのうちの1mL(フェニトロチオン−d10μg含有)を採取し、前記モデル試料Aに加え、5分振とうした。
【0039】
さらに、5重量%塩化ナトリウム水溶液50mLおよびヘキサン10mLを加え、5分振とうした後、遠心分離管を遠心分離機に入れ、3000rpmで5分遠心分離し、ヘキサン層を得た。
【0040】
ヘキサン層を4μL採取し、ガスクロマトグラフ質量分析装置に注入し、ガスクロマトグラフィー質量分析処理を行い、得られた質量(マス)クロマトグラムを図3に示した。図3に示した質量(マス)クロマトグラムにおいて、フェニトロチオンの質量数277に対応するピークのピーク面積は142933、フェニトロチオン−dの質量数283に対応するピークのピーク面積は84211であった。なお、分析条件は下記に示すとおりである。
【0041】
<分析条件>
機器:株式会社島津製作所製GC−17AおよびQP−5000
カラム:DB−5 内径0.53mm、膜厚1.5μm、長さ15m
キャリアガス(流速):ヘリウム(15mL/分)
注入口温度:250℃
昇温条件:170℃で1分保持した後、10℃/分で210℃まで昇温
イオン化法:電子イオン化法(EI法)
イオン化電圧:70ev
イオン源温度:250℃
【0042】
一方、フェニトロチオンとフェニトロチオン−dとを含むアセトン標準液(それぞれの濃度は1μg/mL)を別途調製し、該アセトン標準液を4μL採取し、同様にガスクロマトグラフ質量分析装置に注入し、ガスクロマトグラフィー質量分析処理を行い、得られた質量(マス)クロマトグラムを図4に示した。図4に示した質量(マス)クロマトグラムにおいて、フェニトロチオンの質量数に対応するピークのピーク面積は144208、フェニトロチオン−dの質量数に対応するピークのピーク面積は83890であることから、フェニトロチオン−dを基準とするフェニトロチオンの検出感度比は、1.719であることがわかった。
【0043】
図3と上記検出感度比から、モデル試料A中に含有上限値に相当する量のフェニトロチオンが含まれていた場合には、フェニトロチオンのピーク面積は、84211×1.719=144760となると考えられるが、フェニトロチオンのピーク面積は142933であったことから、モデル試料A中のフェニトロチオンの回収率は、142933/144760×100=98.7%となり、本発明の方法は、高い測定精度で被検試料中の農薬を分析でき、定量的な測定も可能であることが分かった。
【0044】
実施例2
実施例1において、フェニトロチオン10μgを含むモデル試料Aに代えて、フェニトロチオン5μgを含むモデル試料B(フェニトロチオン含有量:0.1mg/kg)を調製した以外は、実施例1と同様に実施して、図5に示す質量(マス)クロマトグラムを得た。図5に示した質量(マス)クロマトグラムにおいて、フェニトロチオンの質量数に対応するピークのピーク面積は87159、フェニトロチオン−dの質量数に対応するピークのピーク面積は102830であることから、実施例1で算出したフェニトロチオン−dを基準とするフェニトロチオンの検出感度比=1.719を考慮すると、102830×1.719=176765>87159となり、モデル試料B中のフェニトロチオンは含有上限値以下であり、モデル試料Bは残留基準値を満足していると判断された。
【0045】
また、モデル試料Bのフェニトロチオンとフェニトロチオン−dのそれぞれの質量数に対応するピークのピーク面積比は、87159/102830=0.493であることから、モデル試料B中のフェニトロチオン濃度を算出すると、0.2×0.493=0.099mg/kgとなった。
【0046】
実施例3
実施例1において、フェニトロチオン10μgを含むモデル試料Aに代えて、フェニトロチオン2μgを含むモデル試料C(フェニトロチオン含有量:0.04mg/kg)を調製した以外は、実施例1と同様に実施して、図6に示す質量(マス)クロマトグラムを得た。図6に示した質量(マス)クロマトグラムにおいて、フェニトロチオンの質量数に対応するピークのピーク面積は33840、フェニトロチオン−dの質量数に対応するピークのピーク面積は101947であることから、実施例1で算出したフェニトロチオン−dを基準とするフェニトロチオンの検出感度比=1.719を考慮すると、101947×1.719=175247>33840となり、モデル試料C中のフェニトロチオンは含有上限値以下であり、モデル試料Cは残留基準値を満足していると判断された。
【0047】
また、モデル試料Cのフェニトロチオンとフェニトロチオン−dのそれぞれの質量数に対応するピークのピーク面積比は、33840/101947=0.193であることから、モデル試料C中のフェニトロチオン濃度を算出すると、0.2×0.193=0.039mg/kgとなった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の分析方法の概略フロー図である。
【図2】本発明の分析システムの概略構成図である。
【図3】実施例1のフェニトロチオン−dを加えた後のモデル試料Aをガスクロマトグラフィー質量分析処理して得られた質量(マス)クロマトグラムである。
【図4】実施例1のアセトン標準液をガスクロマトグラフィー質量分析処理して得られた質量(マス)クロマトグラムである。
【図5】実施例2のフェニトロチオン−dを加えた後のモデル試料Bをガスクロマトグラフィー質量分析処理して得られた質量(マス)クロマトグラムである。
【図6】実施例3のフェニトロチオン−dを加えた後のモデル試料Cをガスクロマトグラフィー質量分析処理して得られた質量(マス)クロマトグラムである。
【符号の説明】
【0049】
1・・混合手段、2・・抽出手段、3・・質量分析手段、4・・比較手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬と、所定量の被検試料とを混合するステップと、
(b)前記ステップ(a)で得られた安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料を抽出処理し、有機層を得るステップと、
(c)前記ステップ(b)で得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理するステップと、
(d)前記ステップ(c)で得られた分析結果に基づき、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較するステップとを含むことを特徴とする農薬の分析方法。
【請求項2】
含有上限値もしくは含有上限値に所定の係数を乗じた値に相当する量の安定同位体で標識された分析対象農薬と、所定量の被検試料とを混合する混合手段と、
安定同位体で標識された分析対象農薬を含む被検試料を抽出処理する抽出手段と、
抽出処理して得られた有機層をガスクロマトグラフィー質量分析処理もしくは液体クロマトグラフィー質量分析処理する質量分析手段と、
質量分析手段により得られた分析結果に基づき、分析対象農薬および安定同位体で標識された分析対象農薬の質量数もしくはフラグメントに対応するピークを比較する比較手段とを備えてなることを特徴とする農薬の分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−78419(P2006−78419A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264936(P2004−264936)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(502165263)住化テクノサービス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】