説明

農薬の飛散軽減液体

【課題】 農薬散布時の飛散を防止して、効果の低下なく対象外作物への残留及び薬害を軽減させる技術を提供する。
【解決手段】 ポリアクリル酸ナトリウム水溶液にグリコール類、非イオン界面活性剤を添加して製品粘度を低下させながら散布時の粘度を上げることにより簡便な使用と農薬の飛散防止を可能にする。また非イオン界面活性剤の添加により薬液の均一付着を促し農薬の効果を安定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
農薬の飛散による作物汚染、及び薬害の防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水滴粒径を大きくして農薬を散布する飛散防止用ノズルが実用化されている。また、水溶性高分子化合物を水に溶解させることによって粘度の高い水溶液が得られることは良く知られており、農薬を航空散布する場合の飛散防止を目的としてポリアクリル酸ナトリウムが使用されている。ポリアクリルアミドやポリアクリル酸ナトリウムは、極低濃度であっても粘度の高い水溶液を作る性質を有することは良く知られたことであり、トンネルなどの掘削現場で発生する泥水を凝集させるためなど広く利用されている。特に、ポリアクリル酸ナトリウムは安全性の高い物質であり、化粧品の保湿剤として、また食品添加物として使用されている。
【0003】
グリコール類、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、糖脂肪酸エステルは、高い水溶性を有し、少し粘性のある高沸点化合物であって、安全性も高いことから、一部は食品添加物として、また医薬品、化粧品などに添加され、生活に密着した様々な場面で利用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
農薬を水で希釈して散布する場合、散布時に発生する霧状の細かな水滴を防止して対象外への農薬飛散を抑えることは薬害を防止すると共に残留農薬を無くす重要な技術である。対象作物に農薬を散布した場合であっても、近接する対象外作物に飛散して使用が許されていない農薬が検出される残留農薬の問題、もしくは除草剤の飛散による近傍作物への薬害などは、栽培作物の多様化や農業生産場面への居住環境の接近によって増加している。そのため、飛散防止用ノズルを使用する方法や、予め農薬を鉱物で低濃度に希釈して比重を大きくし、そのまま散布する微粒剤、細粒剤などが検討されている。しかし、高濃度の農薬を水で希釈して散布する方法は製剤費用、輸送費用を考慮すれば今後も不可欠の技術と考えられる。
【0005】
現在、農薬の飛散防止を目的に唯一農薬登録されているポリアクリル酸ナトリウム2%液(商品名アロンA 東亞合成株式会社製品 以下アロンA剤という)は航空散布用に限られ、一般の農耕地場面で使用することはできない。アロンA剤は50倍から200倍に希釈して農薬と共に散布されるが、農薬の多くは数百倍から数千倍程度の希釈領域で使用される事が多く農薬に比較して多くの量を必要とする。一方で分子量の大きいポリアクリル酸ナトリウムの高濃度水溶液はゲル化して利用する場面で水に希釈することは非常に難しく、比較的低濃度のポリアクリル酸ナトリウム液を低希釈倍率で使用せざるを得ないのが現状である。アロンA剤を水に希釈する場合、製品の粘度が高いことと同時に水への溶解速度が遅いため、強い攪拌能力を持った散布装置が必要であった。また、工業原料として販売されているポリアクリル酸ナトリウムの高濃度水溶液(ポリアクリル酸ナトリウム20%水溶液 商品名ビスコメ−ト−SL140Y 昭和電工株式会社製品 以下ビスコメート剤という)はポリエチレングリコールを添加して作業性の向上を図ってあるものの容易に均一溶解が出来ないため農薬の飛散防止用に使うことは困難である。すなわち、広範な使用場面に適合させるためには、農薬の希釈倍率に合わせた希釈領域で散布した時に農薬が飛散しないために必要な粘度をもたらすことと同時に、容易に取り扱える物理化学的性状を整えることが求められる。
【0006】
また一方で、細かな水滴を減らし飛散を抑制する作用は農薬の対象への付着量を減らしたり、付着を不均一したりする結果をもたらす。そのため、特に対象生物への浸透移行能力が劣る薬剤においては、本来の効果を低下させることが知られている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ポリアクリル酸ナトリウムは吸水剤、生理用品、食品添加物として広範な用途に利用されている。ポリアクリル酸ナトリウム水溶液の粘度は、ポリアクリル酸ナトリウムの分子量、濃度、分子量分布、温度、共存する金属イオン、及びpHで変化する。例えば、分子量は大きいほど、濃度は高いほど粘度が上昇し、分子量分布が広い場合や温度が高い場合は粘度が低下する。従って、ポリアクリル酸ナトリウムの使用量をできるだけ減少させるためには、分子量の大きなポリアクリル酸ナトリウムを用いて取り扱い容易な粘度に低下させる製品化技術が必要である。現在使用されているアロンA剤の場合、ポリアクリル酸ナトリウムの散布時濃度は最低100ppmに設定されている。
【0008】
一般の農薬散布器具で容易に均一溶解ができる適度な粘度をもたらす溶媒の濃度及び種類の選定と同時に、農薬は広域に散布されるものであり食用に供する作物に施用されることから、添加する溶剤は安全性が確保されたもので無ければならない。検討した結果、水溶性溶剤の中から、安全性が懸念されるエチレングリコール、ジエチレングリコールを除くグリコール類である、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールを選抜した。
【0009】
また、細かな水滴を減らして農薬の飛散を抑制することにより生じる対象への付着量減少や、付着の不均一化を防止するため散布農薬の効果を安定させるために使われている展着剤について検討を行い、グリコール類と同様、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液の粘度低下作用を有することを見出した。多くの界面活性剤の中で、食用作物への使用場面を考え、安全性が高いと判断されているポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリルエステルなどのポリオキシアルキレン系界面活性剤を使用することが望ましい。また、ソルビタン脂肪酸エステル、たとえばラウリルソルビタンエステルなど、ポリオキシアルキレン基を有さない非イオン系界面活性剤は、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液に対する溶解性がやや劣る性質を有するが懸濁状態であっても粘度低下作用を有しており使用することができる。一方、安全性が懸念されているポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどは使用を避けるべきである。粘度低下能力の不足する界面活性剤やポリアクリル酸ナトリウム水溶液と相溶性の悪い界面活性剤を使用する場合は、上記グリコール類を混合して用いることも可能であるが、一般的に低分子量のアルコール類は界面活性剤の能力を低下させる性質を持っていることを考慮する必要がある。
【0010】
ポリアクリル酸ナトリウム水溶液にグリコール類、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、糖脂肪酸エステル類のいずれか一種以上を混合することによって農薬散布時の粘度を低下させることなく2%から8%の高濃度ポリアクリル酸ナトリウム溶液の粘度を低下させることを可能にする。これらグリコール類、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、糖脂肪酸エステル類の添加量は、少ない場合は粘度が高くなり、多い場合は分離を起こすため化合物によって異なるものの5から30重量%が適切である。
【発明の効果】
【0011】
ポリアクリル酸ナトリウム水溶液にグリコール類、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、糖脂肪酸エステル類を混合することで農薬散布時における容易な飛散防止方法を提供して農薬の残留、薬害を減少させる。同時に農薬の効率的利用と均一付着を促して効果の安定性を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(試験例1)
平均分子量の異なるポリアクリル酸(以下PAAという)に中和等量の水酸化ナトリウム、及び水を混合して得たポリアクリル酸ナトリウム(以下PAANaという)2%水溶液の粘度を下記の方法を用い相対粘度指数として測定した。アロンA剤、及びビスコメ−ト剤を所定濃度に希釈したものを比較対照とした。平均分子量75万のポリアクリル酸ナトリウムは、平均分子量25万、45万、100万、125万のアクリル酸の等量混合物から調製した。
粘度は、各溶液50mlを内径36mm、100ml容のガラス瓶に入れ、ゆっくり傾け流動性の高低についてアロンA剤を製品の基準粘度3として相対評価した。
指数1はわずかに流動性が認められる。
指数2はアロンA剤より低い流動性。
指数3はアロンA剤と同等。
指数4はアロンA剤より高い流動性。
指数5はジプロピレングリコールと同等。
また、各指数の中間位も設定した。その結果を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
(試験例2)
ビスコメ−ト剤に水及び各種グリコール類を添加してポリアクリル酸ナトリウム4%、5%溶液を調製し、試験例1と同じ方法で相対粘度指数の測定と溶液の状態を観察した。その結果を表2に示す。
表中のPEGはポリエチレングリコール、PGはプロピレングリコール、DPGはジプロピレングリコール、TPGはトリプロピレングリコール、PPGはポリプロピレングリコールを表し、和光純薬工業株式会社商品を使用した。末尾に付帯する数字は平均分子量を表す。
【0015】
【表2】


【0016】
(試験例3)
ビスコメ−ト剤に水及び各種非イオン界面活性剤を添加してポリアクリル酸ナトリウムの4%溶液を調製し、試験例1と同じ方法で相対粘度指数の測定と溶液の状態を観察した。その結果を表3に示す。
表中の、POEOEはポリオキシエチレンオレイルエーテル、POEDDEはポリオキシエチレンドデシルエーテル78%(商品名サーファクタントWK 花王株式会社)、POATDEはポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル(商品名ワンダーサーフS−800、ワンダーサーフS−1000、ワンダーサーフS−1400 青木油脂工業株式会社)、POELESはポリオキシエチレンモノラウリルエステル、POESLESはポリオキシエチレンソルビタンモノラウリルエステル、SFAESはソルビタン脂肪酸エステル70%、及びPOERESはポリオキシエチレン樹脂酸エステル5%(商品名スカッシュ 花王株式会社)を表し、記載のないものは和光純薬工業株式会社商品を使用した。末尾に付帯する数字はアルキレンの重合数を表す。
【0017】
【表3】

【0018】
(試験例4)
試験例2、試験例3で用いた代表的な試作品を水で所定濃度に調製し、散布器(丸山製作所社製 ラウンドバッテリースプレーMSB10−RH、及びスプレ−イングシステムジャパン株式会社製 ティージェットノズル噴口8006)を使って高さ84cm上から帯状に散布した。明らかに濡れる散布幅を測定して飛散程度の判定を行った。アロンA剤、及びビスコメ−ト剤から調製した4%水溶液の各400倍液、200倍液を比較対照とした。水の散布幅83cmを100として各調製液を3回測定し、その平均値を相対散布幅として算出した。その結果を表4に示す。
【0019】
【表4】

【0020】
(試験例5)
試験例2、試験例3で用いた代表的な試作品を100リットルタンクに100ppm溶液を20リットル調製した。散布器の吐出圧3kg/m(富士重工業社製 霧女神EH025 株式会社永田製作所製 超遠距離鉄砲ノズル)で予め溶液を1分間循環させた後、2分間散布を行い、5分間停止後に再散布を3回行って可否を判定した。アロンA剤の200倍液を比較対照とした。その結果を表5に示す。
【0021】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
農薬散布時に併用することによって農薬の飛散を防止するポリアクリル酸ナトリウムの2から8重量パーセント、及びポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの中から選ばれた一種以上の化合物を5から30重量パーセント含有する水溶液、もしくは水懸濁液。
【請求項2】
農薬散布時に併用することによって農薬の飛散を防止するポリアクリル酸ナトリウムの2から8重量パーセント、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルの中から選ばれた一種以上の化合物を5から30重量パーセント含有する水溶液、もしくは水懸濁液。

【公開番号】特開2009−280559(P2009−280559A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159742(P2008−159742)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】