説明

農薬含有樹脂被覆作物種子

【課題】作物種子の表面に農薬を保持させてなる、優れた性能を有する農薬被覆作物種子を提供すること。
【解決手段】作物種子の表面が、農薬活性成分を含有する粉状物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる平均粒子径が10〜100μmの農薬含有樹脂微粉末と、ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子とを含有する被覆材で被覆されてなる農薬含有樹脂被覆作物種子は、優れた性能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬含有樹脂被覆作物種子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作物に対する病虫害などを防除するために多くの農薬が開発され、実用に供されている。また農薬の適用形態に関しても、多くの手法が開発されている。そしてその適用形態の一例としては、播種前の作物種子の表面に農薬を付着させる方法も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、作物種子の表面に農薬を保持させた農薬被覆作物種子は、多くの農薬活性成分を保持するため、その後の播種から発芽及びそれ以降の比較的初期の生育段階においては防除効果の発現と同時に薬害が生じ易く、一方で薬害回避のために農薬の保持量を少なくした場合には、生育途中での防除効力の低下により改めて農薬の施用が必要となるなど、必ずしも充分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−532390公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、作物種子の表面に農薬を保持させてなる、優れた性能を有する農薬被覆作物種子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、作物種子の表面に農薬を保持させてなる、優れた性能を有する農薬被覆作物種子を見出すべく検討の結果、以下の〔1〕〜〔9〕により優れた性能を有する農薬被覆作物種子を提供できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔9〕の通りである。
〔1〕 作物種子の表面が、
農薬活性成分を含有する粉状物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる平均粒子径が10〜200μmの農薬含有樹脂微粉末と、
ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子と
を含有する被覆材で被覆されてなる農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔2〕 被覆材全量に対して農薬含有樹脂微粉末と水溶性高分子との合計含有量が、90〜100重量%である〔1〕記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔3〕 被覆材全量に対して、農薬含有樹脂微粉末の含有量が50〜95重量%であり、水溶性高分子の含有量が5〜50重量%である〔1〕又は〔2〕記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔4〕 農薬含有樹脂微粉末の平均粒子径が、10〜100μmである〔1〕〜〔3〕いずれか一項記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔5〕 農薬含有樹脂被覆作物種子1kgあたりの被覆材の合計含有量が、1〜100gである〔1〕記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔6〕 農薬活性成分を含有する粉状物が、農薬活性成分及び粉状鉱物質担体の混合物である〔1〕〜〔5〕いずれか一項記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔7〕 農薬活性成分が、クロチアニジンである〔6〕記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔8〕 作物種子が、ダイズ、テンサイ又はトウモロコシの種子である〔1〕〜〔7〕いずれか一項記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
〔9〕 農薬活性成分を含有する粉状物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる平均粒子径が10〜100μmの農薬含有樹脂微粉末と、
ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子の水溶液
との混合物を作物種子の表面に噴霧し、次いで乾燥する工程を有してなる農薬含有樹脂被覆作物種子の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、優れた性能を有する農薬被覆作物種子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の農薬含有樹脂被覆作物種子とは、作物種子の表面が、農薬活性成分を含有する粉状物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる平均粒子径が10〜100μmの農薬含有樹脂微粉末と、ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子とを含有する被覆材で被覆されてなるものである。
【0008】
本発明において作物種子とは、特に限定されるものではなく、例えば野菜種子、草花種子、牧草種子、野草種子、穀物種子及び工芸作物種子が挙げられ、詳しくは以下のものが挙げられる。
【0009】
野菜種子としては、例えばキュウリ、メロン、カボチャ等のウリ科の野菜種子、例えばナス、トマト等のナス科の野菜種子、例えばエンドウ、インゲン等のマメ科の野菜種子、例えばタマネギ、ネギ等のユリ科の野菜種子、例えば、カブ、ハクサイ、キャベツ、ハナヤサイ等のブラシカ属及びダイコンなどのアブラナ科の野菜種子、例えばニンジン、セロリ等のセリ科の野菜種子、例えばゴボウ、レタス、シュンギク等のキク科の野菜種子、例えばシソ等のシソ科の野菜種子、例えばホウレンソウ等のアカザ科の野菜種子等が挙げられる。
【0010】
草花種子としては、例えばハボタン、ストック、アリッサム等のアブラナ科の草花種子、例えばロベリア等のキキョウ科の草花種子、例えばアスター、ジニア、ヒマワリ等のキク科の草花種子、例えばデルフィニウム等のキンポウゲ科の草花種子、例えばキンギョソウ等のゴマノハグサ科の草花種子、例えばプリムラ等のサクラソウ科の草花種子、例えばベゴニア等のシュウカイドウ科の草花種子、例えばサルビア等のシソ科の草花種子、例えばパンジー、ビオラ等のスミレ科の草花種子、例えばペチュニア等のナス科の草花種子、例えばユーストマ等のリンドウ科の草花種子等が挙げられる。
【0011】
牧草種子としては、例えば、チモシー(オオアワガエリ)、イタリアンライグラス(ネズミムギ)、バーミューダグラス(ギョウギシバ)、オーツヘイ(燕麦)、スーダングラス、クレイングラス、フェスク、及び、オーチャードグラス(カモガヤ)の牧草種子が挙げられる。
【0012】
野草種子としては、例えば、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、クローバー(シロツメクサ)等のマメ科の野草種子、例えばメヒシバ等のイネ科の野草種子等が挙げられる。
【0013】
穀物種子としては、例えば、イネ、オオムギ、コムギ、ダイズ、アワ、ヒエ及びキビが挙げられる。
【0014】
工芸作物種子としては、例えば、テンサイなどのアカザ科種子、タバコなどのナス科種子、ナタネなどのアブラナ科種子、イグサ等のイネ科種子が挙げられる。
【0015】
また、本発明において農薬含有樹脂被覆作物種子として適用可能な作物種子には、イソキサフルトール等のHPPD阻害剤、イマゼタピル、チフェンスルフロンメチル等のALS阻害剤、グリホサート等のEPSP合成酵素阻害剤、グルホシネート等のグルタミン合成酵素阻害剤、セトキシジム等のアセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤、フルミオキサジン等のPPO阻害剤、ブロモキシニル、ジカンバ、2,4−D等の除草剤に対する耐性を、古典的な育種法もしくは遺伝子組換え技術により付与された植物の種子も含まれる。
【0016】
古典的な育種法により耐性を付与された植物の例として、イマゼタピル等のイミダゾリノン系ALS阻害型除草剤に耐性のナタネ、コムギ、ヒマワリ、イネがありClearfield(登録商標)の商品名で既に販売されている。同様に古典的な育種法によるチフェンスルフロンメチル等のスルホニルウレア系ALS阻害型除草剤に耐性のダイズがあり、STSダイズの商品名で既に販売されている。同様に古典的な育種法によりトリオンオキシム系、アリールオキシフェノキシプロピオン酸系除草剤等のアセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性が付与された植物の例としてSRコーン等がある。アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性が付与された植物は、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)87巻,p.7175−7179,(1990年)等に記載されている。
またアセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性の変異アセチルCoAカルボキシラーゼがウィード・サイエンス(Weed Science)53巻,p.728−746,(2005年)等に報告されており、こうした変異アセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子を遺伝子組換え技術により植物に導入するか、もしくは抵抗性付与に関わる変異を植物アセチルCoAカルボキシラーゼに導入することにより、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性の植物を作出することができる。
さらに、キメラプラスティ技術(Gura T. 1999.Repairing the Genome's Spelling Mistakes. Science 285:316−318.)に代表される塩基置換変異導入核酸を植物細胞内に導入して植物のアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子やALS遺伝子等に部位特異的アミノ酸置換変異を導入することにより、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤やALS阻害剤等に耐性の植物を作出することができる。
【0017】
遺伝子組換え技術により耐性を付与された植物の例として、グリホサート耐性のトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイ品種があり、ラウンドアップアップレディ(RoundupReady(登録商標))、AgrisureGT等の商品名で既に販売されている。同様に遺伝子組換え技術によるグルホシネート耐性のトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ品種があり、リバティーリンク(LibertyLink(登録商標))等の商品名ですでに販売されている。同様に遺伝子組換え技術によるブロモキシニル耐性のワタはBXNの商品名で既に販売されている。
【0018】
本発明において農薬含有樹脂被覆作物種子として適用可能な作物種子には、遺伝子組換え技術を用いて、例えば、バチルス属で知られている選択的毒素等を合成する事が可能となった植物の種子も含まれる。
この様な遺伝子組換え植物で発現される毒素として、バチルス・セレウスやバチルス・ポピリエ由来の殺虫性タンパク;バチルス・チューリンゲンシス由来のCry1Ab、Cry1Ac、Cry1F、Cry1Fa2、Cry2Ab、Cry3A、Cry3Bb1またはCry9C等のδ−エンドトキシン、VIP1、VIP2、VIP3、またはVIP3A等の殺虫タンパク;線虫由来の殺虫タンパク;さそり毒素、クモ毒素、ハチ毒素または昆虫特異的神経毒素等動物によって産生される毒素;糸状菌類毒素;植物レクチン;アグルチニン;トリプシン阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、パタチン、シスタチン、パパイン阻害剤等のプロテアーゼ阻害剤;リシン、トウモロコシ−RIP、アブリン、ルフィン、サポリン、ブリオジン等のリボゾーム不活性化タンパク(RIP);3−ヒドロキシステロイドオキシダーゼ、エクジステロイド−UDP−グルコシルトランスフェラーゼ、コレステロールオキシダーゼ等のステロイド代謝酵素;エクダイソン阻害剤;HMG−CoAリダクターゼ;ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル阻害剤等のイオンチャネル阻害剤;幼若ホルモンエステラーゼ;利尿ホルモン受容体;スチルベンシンターゼ;ビベンジルシンターゼ;キチナーゼ;グルカナーゼ等が挙げられる。
【0019】
またこの様な遺伝子組換え植物で発現される毒素として、Cry1Ab、Cry1Ac、Cry1F、Cry1Fa2、Cry2Ab、Cry3A、Cry3Bb1、Cry9C、Cry34AbまたはCry35Ab等のδ−エンドトキシンタンパク、VIP1、VIP2、VIP3またはVIP3A等の殺虫タンパクのハイブリッド毒素、一部を欠損した毒素、修飾された毒素も含まれる。ハイブリッド毒素は組換え技術を用いて、これらタンパクの異なるドメインの新しい組み合わせによって作り出される。一部を欠損した毒素としては、アミノ酸配列の一部を欠損したCry1Abが知られている。修飾された毒素としては、天然型の毒素のアミノ酸の1つまたは複数が置換されている。
これら毒素の例およびこれら毒素を合成する事ができる組換え植物は、EP−A−0374753、WO93/07278、WO95/34656、EP−A−0427529、EP−A−451878、WO03/052073等に記載されている。
これらの組換え植物に含まれる毒素は、特に、甲虫目害虫、半翅目害虫、双翅目害虫、鱗翅目害虫、線虫類への耐性を植物へ付与する。
【0020】
また、1つもしくは複数の殺虫性の害虫抵抗性遺伝子を含み、1つまたは複数の毒素を発現する遺伝子組換え植物は既に知られており、いくつかのものは市販されている。これら遺伝子組換え植物の例として、YieldGard(登録商標)(Cry1Ab毒素を発現するトウモロコシ品種)、YieldGard Rootworm(登録商標)(Cry3Bb1毒素を発現するトウモロコシ品種)、YieldGard Plus(登録商標)(Cry1AbとCry3Bb1毒素を発現するトウモロコシ品種)、Herculex I(登録商標)(Cry1Fa2毒素とグルホシネートへの耐性を付与する為にホスフィノトリシン N−アセチルトランスフェラーゼ(PAT)を発現するトウモロコシ品種)、NuCOTN33B(登録商標)(Cry1Ac毒素を発現するワタ品種)、Bollgard I(登録商標)(Cry1Ac毒素を発現するワタ品種)、Bollgard II(登録商標)(Cry1AcとCry2Ab毒素とを発現するワタ品種)、VIPCOT(登録商標)(VIP毒素を発現するワタ品種)、NewLeaf(登録商標)(Cry3A毒素を発現するジャガイモ品種)、NatureGard(登録商標)Agrisure(登録商標)GT Advantage(GA21 グリホサート耐性形質)、Agrisure(登録商標) CB Advantage(Bt11コーンボーラー(CB)形質)、Protecta(登録商標)等が挙げられる。
【0021】
本発明において農薬含有樹脂被覆作物種子として適用可能な作物種子には、遺伝子組換え技術を用いて、選択的な作用を有する抗病原性物質を産生する能力を付与された植物の種子も含まれる。
抗病原性物質の例として、PRタンパク等が知られている(PRPs、EP−A−0392225)。このような抗病原性物質とそれを産生する遺伝子組換え植物は、EP−A−0392225、WO95/33818、EP−A−0353191等に記載されている。
こうした遺伝子組換え植物で発現される抗病原性物質の例として、例えば、ナトリウムチャネル阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤(ウイルスが産生するKP1、KP4、KP6毒素等が知られている。)等のイオンチャネル阻害剤;スチルベンシンターゼ;ビベンジルシンターゼ;キチナーゼ;グルカナーゼ;PRタンパク;ペプチド抗生物質、ヘテロ環を有する抗生物質、植物病害抵抗性に関与するタンパク因子(植物病害抵抗性遺伝子と呼ばれ、WO03/000906に記載されている。)等の微生物が産生する抗病原性物質等が挙げられる。このような抗病原性物質とそれを産生する遺伝子組換え植物は、EP−A−0392225、WO95/33818、EP−A−0353191等に記載されている。
【0022】
本発明において農薬含有樹脂被覆作物種子として適用可能な作物種子には、遺伝子組換え技術を用いて、油糧成分改質やアミノ酸含量増強形質等の有用形質を付与した植物も含まれる。例として、VISTIVE(登録商標)(リノレン含量を低減させた低リノレン大豆)あるいは、high−lysine(high−oil)corn(リジンあるいはオイル含有量を増量したコーン)等が挙げられる。
【0023】
さらに、上記の古典的な除草剤形質あるいは除草剤耐性遺伝子、殺虫性害虫抵抗性遺伝子、抗病原性物質産生遺伝子、油糧成分改質やアミノ酸含量増強形質等の有用形質について、これらを複数組み合わせたスタック品種も含まれる。
【0024】
本発明に用いられる農薬含有樹脂微粉末とは、農薬含有粉体が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる樹脂微粉末である。
【0025】
かかる農薬含有樹脂微粉末は、例えば、特開2007−119442公報に記載される通り、含有される農薬活性化合物をそのまま粉状化して得られる、または、含有される農薬活性化合物と必要に応じて添加される粉状担体等とを混合及び粉砕して得られる、農薬含有粉体を熱硬化性樹脂で固化せしめ、被覆することにより製造することができる。
【0026】
具体的には、農薬含有樹脂微粉末は、例えば次のようにして製造される。即ち、その製造方法(以下、本樹脂微粉末製造方法と記す場合もある。)は、
(1)農薬含有粉体と熱硬化性樹脂の原料となる第1液状原料とを混合する工程、
(2)前工程で得られた混合物に熱硬化性樹脂の原料となる第2液状原料を添加する工程、(3)該第1液状原料と該第2液状原料とを反応させて熱硬化性樹脂を生成させることで粉状農薬を得る工程、及び、
(4)前工程で得られた粉状農薬に熱硬化性樹脂の原料となる第1液状原料と第2液状原料とを同時又は順次加え、該第1液状原料と該第2液状原料とを反応させて、該粉状農薬を熱硬化性樹脂で被覆する工程、
を備える。
【0027】
工程(1)においては、通常、農薬含有粉体を容器内にて転動させながら、熱硬化性樹脂の原料となる第1液状原料を添加し、該農薬含有粉体と該第1液状原料とを容器内にて転動させ混合する。
工程(2)においては、通常、前工程にて得られた混合物を容器内にて転動させながら、熱硬化性樹脂の原料となる第2液状原料を添加する。
工程(3)においては、通常、前工程にて得られた混合物に回転する羽根でせん断力を与えながら、該第1液状原料と該第2液状原料とを反応させて、熱硬化性樹脂を生成させることで農薬含有粉体が熱硬化性樹脂を介在して凝集した粉状農薬を得る。
工程(4)においては、通常、前工程で得られた粉状農薬を容器内にて転動させながら、熱硬化性樹脂の原料となる第1液状原料と第2液状原料とを同時又は順次加え、得られた混合物に回転する羽根でせん断力を与えながら、該第1液状原料と該第2液状原料とを反応させて、該粉状農薬を熱硬化性樹脂で被覆する。また、工程(4)は必要により複数回繰り返される。
【0028】
本発明において、用いられる農薬含有粉体(以下、本農薬粉体と記す場合もある。)の平均粒子径は通常1〜100μm、好ましくは1〜30μmであり、得られる農薬含有樹脂微粉末(以下、本農薬含有樹脂微粉末と記す場合もある。)の平均粒子径は通常10〜200μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは10〜100μmである。本発明において、本農薬粉体は粉末状の農薬活性成分の単独でもよいが、通常、農薬活性成分と希釈粉体とを含有する組成物であり、好ましくは実質的に農薬活性成分と希釈粉体とからなる組成物である。本農薬粉体の平均粒子径は、通常、原料として用いた希釈粉体の平均粒子径の1〜30倍である。
なお、本農薬粉体及び本農薬含有樹脂微粉末における平均粒子径とは、例えばMALVERN製MASTERSIZER2000等のレーザー回折式粒子径測定機を用いて求められる体積中位径の値が適用される。
【0029】
本発明において、本農薬含有樹脂微粉末に含有される農薬活性成分としては、一般的に殺虫活性成分、殺菌活性成分、昆虫成長制御活性成分、植物成長制御活性成分等を挙げることができ、例えば次に示す化合物を具体的に挙げることができる。これらは、常温(20℃)において固体であるが、より融点の高い、例えば50℃において固体であるものが好ましい。
【0030】
殺虫活性成分としては、デルタメトリン、トラロメトリン、アクリナトリン、テトラメトリン、テフルスリン等のピレスロイド系化合物;プロポキサー、イソプロカルブ、キシリルカルブ、メトルカルブ、チオジカルブ、XMC、カルバリル、ピリミカルブ、カルボフラン、メソミル、フェノキシカルブ、フェノブカルブ等のカーバメート系化合物;アセフェート、トリクロルホン、テトラクロルビンホス、ジメチルビンホス、ピリダフェンチオン、アジンホスエチル、アジンホスメチル等の有機リン系化合物;ジフルベンズロン、クロルフルアズロン、ルフェヌロン、ヘキサフルムロン、フルフェノクスロン、フルシクロクスロン、シロマジン、ジアフェンチウロン、ヘキシチアゾクス、ノヴァルロン、テフルベンズロン、トリフルムロン、4−クロロ−2−(2−クロロ−2−メチルプロピル)−5−(6−ヨード−3−ピリジルメトキシ)ピリダジン−3(2H)−オン、1−(2,6−ジフルオロベンゾイル)−3−[2−フルオロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、1−(2,6−ジフルオロベンゾイル)−3−[2−フルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)フェニル]ウレア、2−tert−ブチルイミノ−3−イソプロピル−5−フェニル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2H−1,3,5−チアジアゾン−4−オン、1−(2,6−ジフルオロベンゾイル)−3−[2−フルオロ−4−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]ウレア等のウレア系化合物;イミダクロプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、ニテンピラム、チアメトキサム、ジノテフラン、チアクロプリド等のクロロニコチル系化合物;スピノサドなどのスピノシン類;フルベンジアミド、クロラントラニリプロール、シアントラニリプロールなどのジアミド系化合物;フィプロニル、エチプロールなどのフェニルピラゾール系化合物、スピロテトラマット、スピロメシフェン、スピロジクロフェンなどのテトラミックアシッド系、カルタップ、ブプロフェジン、チオシクラム、ベンスルタップ、フェナザキン、フェンピロキシメート、ピリダベン、ヒドラメチルノン、、クロルフェナピル、フェンプロキシメート、ピメトロジン、ピリミジフェン、テブフェノジド、テブフェンピラド、トリアザメート、インドキサカーブ、スルフルラミド、ミルベメクチン、アベルメクチン、ホウ酸、パラジクロロベンゼン等を挙げることができる。
【0031】
殺菌活性成分としては、ベノミル、カルベンダジム、チアベンダゾール、チオファネートメチル等のベンズイミダゾール系化合物;ジエトフェンカルブ等のフェニルカーバメート系化合物;プロシミドン、イプロジオン、ビンクロゾリン等のジカルボキシイミド系化合物;ジニコナゾール、プロペナゾール、エポキシコナゾール、テブコナゾール、ジフェノコナゾール、シプロコナゾール、フルシラゾール、トリアジメフォン等のアゾール系化合物;メタラキシル等のアシルアラニン系化合物;フラメトピル、メプロニル、フルトラニル、トリフルザミド等のカルボキシアミド系化合物;トルクロホスメチル、フォセチルアルミニウム、ピラゾホス等の有機リン系化合物;ピリメサニル、メパニピリム、シプロジニル等のアニリノピリミジン系化合物;フルジオキソニル、フェンピクロニル等のシアノピロール系化合物;ブラストサイジンS、カスガマイシン、ポリオキシン、バリダマイシン等の抗生物質;アゾキシストロビン、クレソキシムメチル、SSF−126等のメトキシアクリレート系化合物;クロロタロニル、マンゼブ、キャプタン、フォルペット、トリシクラゾール、ピロキロン、プロベナゾール、フサライド、シモキサニル、ジメトモルフ、CGA245704、ファモキサドン、オキソリニック酸、フルアジナム、フェリムゾン、ジクロシメット、クロベンチアゾン、イソバレジオン、テトラクロオロイソフタロニトリル、チオフタルイミドオキシビスフェノキシアルシン、3−アイオド−2−プロピルブチルカーバメイト、パラヒドロキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、オリサストロビン、イソチアニル、チアジニル、チウラム等を挙げることができる。
【0032】
植物成長調節活性成分としては、マレイックヒドラジド、クロルメカット、エテフォン、ジベレリン、メピカットクロライド、チジアズロン、イナベンファイド、パクロブトラゾール、ウニコナゾール等を挙げることができる。昆虫忌避活性成分としては、1S,3R,4R,6R−カラン−3、4−ジオール、ジプロピル 2,5−ピリジンジカルボキシレート等を挙げることができる。
【0033】
本発明において、本農薬粉体が農薬活性成分と希釈粉体とを含有する組成物である場合、農薬活性成分の量は本農薬粉体に対して通常1〜95重量%、好ましくは10〜90重量%であり、希釈粉体の量は本農薬粉体に対して通常5〜99%、好ましくは10〜90%である。
本農薬粉体中に希釈粉体を存在させる目的は、体積中位径が1〜100μmの本農薬粉体を製造する際の粉砕性の改善、本農薬粉体の流動性等の粉体物性の改善や、本農薬粉体の粉塵爆発下限等の防災物性の改善等である。希釈粉体の体積中位径は1〜100μmの範囲である。
希釈粉体は、通常、農薬粉剤において用いられる粉状の固体担体を使用することができ、一般には鉱物質粉体が挙げられ、鉱物質粉体としては、例えばカオリン鉱物(カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロサイト等)、蛇紋石(クリソタイル、リザータイト、アンチコライト、アメサイト等)、モンモリロナイト鉱物(ナトリウムモンモリロナイト、カルシウムモンモリロナイト、マグネシウムモンモリロナイト等)、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、ハイデライト等)、パイロフィライト、タルク、蝋石、雲母(白雲母、フェンジャイト、セリサイト、イライト等)、シリカ(クリストバライト、クォーツ等)、複鎖型粘土鉱物(アタパルジャイト、セピオライト等)、石膏等の硫酸塩鉱物、ドロマイト、炭酸カルシウム、ギプサム、ゼオライト、沸石、凝灰石、バーミキュライト、ラポナイト、軽石、珪藻土、酸性白土、活性白土が挙げられる。これらの固体担体は単独で用いてもよく、あるいは2種以上併用してもよい。比重が大きな固体担体が好ましく用いられる。
本農薬粉体は、農薬活性成分及び希釈粉体の他に、本農薬粉体に対して30重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲にて、界面活性剤、安定化剤、着色剤、香料等の農薬補助剤を含有していてもよい。
【0034】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルフェノールホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルモノ脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、高級脂肪酸グリセリンエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アルキロールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のノニオン性界面活性剤、ドデシルアミン塩酸塩などのアルキルアミン塩酸塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモルホリニウム塩などのアルキル四級アンモニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ポリアルキルビニルピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤、パルミチン酸ナトリウムなどの脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルカルボン酸ナトリウムなどのエーテルカルボン酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸のアミノ酸縮合物、高級アルキルスルホン酸塩、ラウリン酸エステルスルホン酸塩などの高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、ジオクチルスルホサクシネートのどのジアルキルスルホコハク酸塩、オレイン酸アミドスルホン酸などの高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸塩などのアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ペンタデカン−2−サルフェートなどの高級アルコール硫酸エステル塩、ジポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸塩等のポリオキシエチレンアルキルリン酸塩、スチレン−マレイン酸塩共重合体等のアニオン性界面活性剤、N−ラウリルアラニン、N,N,N−トリメチルアミノプロピオン酸、N,N,N−トリヒドロキシエチルアミノプロピオン酸、N−ヘキシル−N,N−ジメチルアミノ酢酸、1−(2−カルボキシエチル)ピリミジニウムベタイン、レシチン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
【0035】
安定化剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、紫外線吸収剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化菜種油等のエポキシ化植物油、イソプロピルアシッドホスフェート、流動パラフィン、エチレングリコールなどが挙げられる。
着色剤としては、例えば、ローダミンB,ソーラーローダミンなどのローダミン類、黄色4号、青色1号、赤色2号などの色素等が、香料としては、例えば、アセト酢酸エチル、エナント酸エチル、桂皮酸エチル、酢酸イソアミル等のエステル系香料、カプロン酸、桂皮酸等の有機酸系香料、桂皮アルコール、ゲラニオール、シトラール、デシルアルコール等のアルコール系香料、バニリン、ピペロナール、ペリルアルデヒド等のアルデヒド類、マルトール、メチルβ−ナフチルケトン等のケトン系香料、メントールなどが挙げられる。
本農薬粉体は、農薬活性成分、必要により希釈粉体、更に必要により農薬用補助剤を混合し、粉砕して得られる。また、予め粉末状に粉砕された各々を混合して得ることもできる。
【0036】
本農薬粉体を固めて被覆する熱硬化性樹脂としては、例えばウレタン樹脂、尿素樹脂、ウレタン−尿素樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。本発明においては、熱硬化性樹脂としてはウレタン樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂は一般的に、2種類の異なる液状原料を反応させて得られ、本農薬含有樹脂微粉末は、例えば、本農薬粉体と熱硬化性樹脂の原料となる第1液状原料とを混合し、次いで得られた混合物に熱硬化性樹脂の原料となる第2液状原料を添加し、該第1液状原料と該第2液状原料とを反応させて熱硬化性樹脂を生成させて粉状農薬を得て、更に得られた粉状農薬に熱硬化性樹脂の原料となる第1液状原料と第2液状原料とを同時又は順次加え、該第1液状原料と該第2液状原料とを反応させて、該粉状農薬を熱硬化性樹脂で被覆することにより製造することができる。
第1液状原料及び第2液状原料は、夫々必ずしも1種の成分のみから構成されるもののみに限定されず、混合物であってもよい。
【0037】
ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートとを液状原料とする熱硬化性樹脂である。ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートとを、例えば40〜100℃に加熱して反応させることにより生成する。その際、必要により有機金属やアミン等の硬化触媒の存在下に反応させる場合もある。
ポリオールとしては、縮合系ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリ(メタ)アクリル酸ポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、天然ポリオールやその変性物等が挙げられる。縮合系ポリエステルポリオールは、通常、ポリオールと二塩基酸との縮合反応によって得られる。ポリエーテルポリオールは、通常、多価アルコール等にプロピレンオキサイドやエチレンオキサイドを付加重合によって得られる。ポリ(メタ)アクリル酸ポリオールは、通常、ポリ(メタ)アクリル酸とポリオールとの縮合反応、(メタ)アクリル酸とポリオールとの縮合反応、または、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合反応によって得られる。ラクトン系ポリエステルポリオールは多価アルコールを開始剤とするε−カプロラクトンの開環重合によって得られる。ポリカーボネートポリオールは、通常、グリコールとカーボネートとの反応によって得られ、ポリオールとしては、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレンジオール、トリメチロールプロパン、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖、および.これらのオリゴマー等が挙げられる。
本発明に用いられるポリオールとしては、分岐型ポリオールと直鎖型ポリオールとを、夫々のポリオール中に存在する水酸基の数が40:60〜100:00の比率になるように混合したものが好ましい。分岐型ポリオールとは、分子中に3個以上の水酸基を有するポリオールであり、分子中に3個の水酸基を有するポリオールが好ましい。直鎖型ポリオールとは、分子中に2個の水酸基を有するポリオールであり、通常は分子の両末端に水酸基を有する。
【0038】
本発明に用いられるポリオールは、また、OH当量が100以下の直鎖型ポリオールとOH当量が100以上の直鎖型ポリオールとを、夫々のポリオール中に存在する水酸基の数が40:60〜100:00の比率になるように混合したものも好ましい。OH当量が100以下の直鎖型ポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール等が挙げられる。
本発明に用いられるポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェイト、及び、これらの混合物等が挙げられる。なお、上記のポリイソシアネートに代えて、流動性を有する限りにおいて、これらの変性体やオリゴマーを用いることもできる。変性体としては、アダクト変性体、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、ブロック変性体、プレポリマー変性体、2量化変性体等が挙げられる。アニリンとホルマリンの縮合によりポリアミンを経て、これをホスゲン化して得られるポリメチレンポリフェニルイソシアネート(ポリメリックMDI)が、反応制御が容易である点ならびに蒸気圧が低く作業性に優れる点で好ましい。
また、必要により用いられる該硬化触媒としては、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルチオ錫酸、オクチル酸第一錫、ジ−n−オクチル錫ジラウレートなどの有機金属、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、N,N−ジメチルジドデシルアミン、N−ドデシルモルホリン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N−エチルモルホリン、ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、イソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、オキシイソプロピルバナデート、n−プロピルジルコネート、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等が挙げられる。ウレタン樹脂の原料であるポリイソシアネートとポリオールは通常モノマー単独で使用される。
【0039】
尿素樹脂は、ポリアミンとポリイソシアネートとを液状原料とする熱硬化性樹脂である。
ポリイソシアネートとしては、前記のポリイソシアネートが挙げられる。
ポリアミンとしては、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラアミン等が挙げられる。
【0040】
ウレタン−尿素樹脂は、ポリイソシアネートと、ポリオールおよびポリアミンとを液状原料とする熱硬化性樹脂である。
【0041】
エポキシ樹脂は、硬化剤とグリシジル基含有の化合物とを液状原料とする熱硬化性樹脂である。本発明においては、硬化剤としてはポリアミンが好ましく、グリシジル基含有の化合物としては、ポリグリシジルエーテル又はポリグリシジルアミンが好ましい。
好ましい硬化剤である該ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、メンセンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ポリアミド変性ポリアミン、ケトン変性ポリアミン、エポキシ変性ポリアミン、チオ尿素変性ポリアミン、マンニッヒ変性ポリアミン、マイケル付加変性ポリアミン等が挙げられる。
好ましいグリシジル基含有の化合物である該ポリグリシジルエーテルとしては、ビスフェノールA型ポリグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ポリグリシジルエーテル、ナフタレン型ポリグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールA型ポリグリシジルエーテル、ビスフェノールS型ポリグリシジルエーテル、ビスフェノールAF型ポリグリシジルエーテル、ビフェニル型ポリグリシジルエーテル、フルオレイン型ポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック型ポリグリシジルエーテル、O−クレゾールノボラック型ポリグリシジルエーテル、DPPノボラック型ポリグリシジルエーテル、トリスヒドロキシフェニルメタン型ポリグリシジルエーテル、テトラフェニロールエタン型ポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
好ましいグリシジル基含有の化合物である該ポリグリシジルアミンとしては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型ポリグリジジルアミン、ヒダントイン型ポリグリシジルアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアモノメチル)シクロヘキサン、アニリン型ポリグリシジルアミン、トルイジン型ポリグリシジルアミン、トリグリシジルイソシアヌレート型ポリグリシジルアミン、アミノフェノール型ポリグリシジルアミン等が挙げられる。
【0042】
ウレタン樹脂において、第1液状原料としてポリオール(2種以上のポリオールの混合物も含む)又はポリイソシアネート(2種以上のポリイソシアネートの混合物も含む)のいずれを用いてもよいが、好ましくは第1液状原料としてポリオールが用いられ、第2液状原料としてポリイソシアネートが用いられる。尚、硬化触媒を用いる場合は、硬化触媒は第1液状原料又は第2液状原料のいずれに添加されていてもよい。
尿素樹脂において、第1液状原料としてポリアミン(2種以上のポリアミンの混合物も含む)又はポリイソシアネート(2種以上のポリイソシアネートの混合物も含む)のいずれを用いてもよいが、好ましくは第1液状原料としてポリアミンが用いられ、第2液状原料としてポリイソシアネートが用いられる。
ウレタン−尿素樹脂において、好ましくは第1液状原料としてポリアミンとポリオールの混合物が用いられ、第2液状原料としてポリイソシアネートが用いられる。
エポキシ樹脂において、好ましくは第1液状原料としてポリアミンが用いられ、第2液状原料としてポリグリシジルエーテル又はポリグリシジルアミンが用いられる。
本発明において、第1液状原料及び第2液状原料は、通常2000mPa・s以下の粘度である。
本発明において好ましくは、ウレタン樹脂の原料であるポリオールの粘度は1000mPa・s以下、更に好ましくは800mPa・s以下(B型粘度計、25℃、12回転)であり、ポリイソシアネートの粘度は300mPa・s以下、更に好ましくは200mPa・s以下(B型粘度計、25℃、12回転)である。
【0043】
次に本樹脂微粉末製造方法の4つの工程について、説明する。
工程(1)は、本農薬粉体を液体媒体に分散させることない乾式条件下において、通常、本農薬粉体を容器内で転動させながら容器に第1液状原料を添加することにより、本農薬粉体と第1液状原料とを混合して、本農薬粉体と第1液状原料との混合物を得る工程である。本農薬粉体と第1液状原料との混合物を容器内にて適当な時間転動させることにより、本農薬粉体における個々の粒子が第1液状原料により被覆された状態となる。
工程(1)は通常、0〜100℃、好ましくは20〜90℃で行われる。安全性の観点から、窒素雰囲気下における実施が好ましい。
【0044】
工程(1)において、本農薬粉体を乾式条件下に容器内で転動させる方法としては、例えば以下に示すような方法が用いられる。
a)本農薬粉体が入ったパン型またはドラム型形状の容器を斜め又は水平軸の周りに回転させる方法;
b)本農薬粉体が入った容器にて、容器の底面部の直径と同程度の大きさの攪拌羽根を設置し、これを回転させる方法;
c)本農薬粉体が入った容器にて、本農薬粉体に気流を当てる方法。
工程(1)において、転動状態にある本農薬粉体に対して、第1液状原料を添加されると、第1液状原料は本農薬粉体の個々の粒子の表面上に延展され、本農薬粉体の個々の粒子が第1液状原料により被覆された状態となる。さらに転動状態を続けることにより、通常、第1液状原料が本農薬粉体の全ての粒子表面にほぼ均一に行き渡る。
工程(1)において、第1液状原料で本農薬粉体の全ての粒子を均一に被覆する為に、粘度の低い(例えば、1000m・Pa(25℃)以下)第1液状原料を用いることが好ましい。
【0045】
工程(2)は、前工程(1)で得られた混合物、即ち本農薬粉体と第1液状原料との混合物を容器内で転動させながら、該容器に第2液状原料を添加することにより、本農薬粉体と第1液状原料と第2液状原料との混合物を得る工程である。
工程(2)は通常、工程(1)と同じ温度、即ち0〜100℃、好ましくは20〜90℃で行われる。安全性の観点から、窒素雰囲気下における実施が好ましい。
【0046】
工程(2)において添加される第2液状原料は、前の工程(1)で添加された第1液状原料における反応性官能基の当量に対して、第2液状原料における反応性官能基の当量が通常、0.9〜1.05、好ましくは0.95〜1.00となるような量を用いる。
熱硬化性樹脂がウレタン樹脂で、第1液状原料がポリオールである場合、第2液状原料はポリイソシアネートとなるが、前の工程(1)で用いられたポリオールにおける水酸基(OH)の当量に対して、工程(2)で添加されるポリイソシアネートにおけるイソシアネート基(NCO)の当量が0.8〜1.1、好ましくは0.9〜1.1、更に好ましくは0.95〜1.05となるように、ポリイソシアネートの量を適宜調整する。
工程(2)において、添加された第2液状原料は、本農薬粉体と第1液状原料との混合物と混合される際、第2液状原料の粘度が低いことが好ましい。工程(2)において、粘度の低い(例えば、300m・Pa(25℃)以下)第2液状原料を用いることが好ましい。
【0047】
工程(3)は、前の工程(2)で得られた混合物に、通常、回転する羽根等を用いてせん断力を与えながら、第1液状原料と第2液状原料とを反応させて、熱硬化性樹脂を生成させる工程である。未硬化の熱硬化性樹脂を硬化する際に、本農薬粉体が該熱硬化性樹脂を介在して凝集し、粉状農薬を与える。
工程(3)は通常0〜100℃、好ましくは20〜95℃で行われるが、更に好ましくは40〜90℃で行われる。工程(1)及び工程(2)と同じ温度にて行うことが操作上簡便である。本工程も、安全性の観点から、窒素雰囲気下における実施が好ましい。
工程(3)の操作温度、熱硬化性樹脂の種類、硬化触媒の有無等の条件により、未硬化の熱硬化性樹脂が硬化するまでに必要な時間が変化する。熱硬化性樹脂の硬化速度が十分に速い場合には、工程(2)における第2液状原料の全てを添加し終わる前に、実質的に工程(3)における第1液状原料と第2液状原料と反応が開始して、熱硬化樹脂の一部が生成する。このような場合には、工程(2)において、本農薬粉体と第1液状原料との混合物を容器内で転動させ、更に該混合物に回転する羽根等でせん断力を与えながら、第2液状原料を添加することが好ましい。
【0048】
工程(3)における、本農薬粉体と第1液状原料と第2液状原料との混合物に対して、回転する羽根によりせん断力を与える方法としては、具体的には羽根の先端部分が50〜3000m/分、好ましくは100〜2000m/分、更に好ましくは200〜1000m/分の範囲で回転している羽根を、本農薬粉体と第1液状原料と第2液状原料との混合物と接触させる方法が挙げられる。この際、このせん断力を与える操作は熱硬化性樹脂が粘着性を示さなくなる時間まで行われ、本農薬粉体と第1液状原料と第2液状原料との混合物の全体がほぼ均等にせん断力を与えられるように、容器に仕込まれる本農薬粉体の量、回転する羽根の組数等を適宜調整することが好ましい。
【0049】
工程(3)は、通常、未硬化の熱硬化性樹脂が完全に硬化して、得られる粉状農薬が粘着性を示さなくなる時間まで行われる。この時間は、熱硬化性樹脂の性質や操作温度により変化する。
【0050】
本樹脂微粉末製造方法においては、上記の工程(1)〜工程(3)に加えて、更に、工程(4)を1回又は複数回行われる。工程(4)は、上記のようにして得られる粉状農薬に、第1液状原料と第2液状原料とを同時又は順次加え、第1液状原料と第2液状原料とを反応させて、粉状農薬を熱硬化性樹脂で被覆する工程であるが、工程(4)により熱硬化性樹脂の被膜を厚くすることにより、農薬活性成分の放出をより遅くすることができる。即ち、農薬活性成分の放出速度を目的に合わせて調節することができる。
工程(4)においては、好ましくは第1液状原料と第2液状原料とを順次加えることにより行われるが、粉状農薬に第1液状原料を先に加えて、その後第2液状原料を加えても、粉状農薬に第2液状原料を先に加えて、その後第1液状原料を加えても、いずれでもよい。
工程(4)を複数回繰り返して行うことにより、粉状農薬の表面における熱硬化性樹脂の被膜の形成と成長が生じ、場合により粉状農薬の粒子同士の凝集が生じる。
【0051】
本農薬含有樹脂微粉末は、上記の工程(4)の繰り返し回数、及び、1回の工程(4)で使用される第1液状原料と第2液状原料の合計量を変化させることにより、本農薬含有樹脂微粉末における熱硬化性樹脂の割合を変化させることができ、これにより農薬活性成分の徐放性能を調整することが出来る。
本樹脂微粉末製造方法においては、粉状農薬に対して熱硬化性樹脂の原料を少量ずつ、更に好ましい態様においては第1液状原料と第2液状原料とを別箇に添加している。この為に、農薬活性成分の溶出を徐放化する為の熱硬化性樹脂の被膜が均一に形成されて、粒径の比較的揃った農薬含有の粒子を得ることができる。また、熱硬化性樹脂の被膜が均質に形成される為、好ましい徐放性能が得られる。
【0052】
工程(1)及び工程(2)、或いは工程(4)の1回の操作において添加される、第1液状原料及び第2液状原料との合計量、即ち未硬化熱硬化性樹脂の量は、熱硬化性樹脂の種類、操作温度や、使用する機器等の条件により変化させることができるが、通常は本農薬粉体100重量部に対して、通常0.3〜15重量部、好ましくは0.5〜10重量部の範囲である。工程(1)及び工程(2)、或いは工程(4)において、変化させても変化させなくてもよい。
1回の工程にて硬化させる未硬化の熱硬化性樹脂の量が過剰になった場合は、工程(3)において十分なせん断力を熱硬化性樹脂粒子に対して与えることができずに、得られる熱硬化性樹脂組成物の粒子径が大きくなりすぎたり、過負荷により回転する羽根が停止したりする場合がある。
【0053】
本樹脂微粉末製造方法において、工程(1)〜工程(4)(場合により、複数回の工程(4))は連続する工程として、一つの容器内にて行われることが好ましい。即ち、回転する羽根により、内容物を転動させ、且つ、せん断力を与えることのできる容器を使用することが好ましい。
このような2つの手段を備えた容器としては、例えば下記のような容器が用いられる。
(a)斜め又は水平軸の周りにパン型またはドラム型形状の容器全体を回転させることができ、更に容器の下部位置で、容器内の内容物と接触する位置に回転する羽根を設けた容器
(容器が回転させられることにより容器内の粒子全体が転動させられ、容器の下部に集積された粒子が回転する羽根によりせん断力を与えられる。);
(b)略円筒形状の容器の底部に、容器の底面部に設けた底面部の直径と同程度の大きさの羽根(以下、攪拌羽根と記す。)を有し、更に該容器の側面より突出させた水平軸の周りに回転する羽根を設けた容器
(容器の底面部に設けられた攪拌翼が回転することにより容器内の粒子全体が転動させられ、更に粒子が側面より突出させた水平軸の周りに回転する羽根によりせん断力を与えられる。);
(c)容器内の内容物の全体を動かすのに十分な量の気流を送る手段を有し、更に容器内の内容物と接触する位置に回転する羽根を設けた容器(気流により容器内の粒子全体が転動させられ、更に粒子が容器内に設置された回転する羽根によりせん断力を与えられる。)。
本樹脂微粉末製造方法においては、上記の(b)の容器が好ましく用いられる。以下、該容器を例として、本樹脂微粉末製造方法における、操作方法を説明する。
【0054】
回転する羽根により与えられるせん断力の強さは、容器の側面より突出させた水平軸の周りに回転する羽根(以下、解砕羽根と記す。)の回転数や羽根の大きさを変更することにより、調整することができる。(b)の容器においては、攪拌羽根によってもせん断力を与えることができる。
本樹脂微粉末製造方法においては、解砕羽根の回転数や熱硬化性樹脂の硬化速度を調節することにより、得られる本農薬含有樹脂微粉末の体積中位径を変化させることができる。具体的には、解砕羽根の回転数を上げるか、熱硬化性樹脂の硬化速度が遅くなると、本農薬含有樹脂微粉末の体積中位径は小さくなる。
【0055】
本樹脂微粉末製造方法において用いることのできる具体的な容器として、粒子が容器内を外周に沿って円運動を起こす装置として、株式会社セイシン企業製ニューグラマシンが挙げられ、混合機内に低速回転のアジテータと側面部に高速回転のチョッパーを備え、投入した原料を両羽根の作用により、短時間で混合・分散・せん断する装置として、深江パウテック株式会社製ハイスピードミキサーやハイフレックスグラルが挙げられる。更に、同様の性能を有する装置として、フロイント産業株式会社製ハイスピードミキサー、株式会社パウレック製バーチカルグラニュレーター、岡田精工株式会社製ニュースピードミルを挙げることができる。
例えば、特開平9−75703号公報に記載の装置が具体的に挙げられる。
【0056】
本農薬含有樹脂微粉末において、熱硬化性樹脂の量は、本粉状農薬100重量部に対して、通常10〜300重量部、好ましくは20〜200重量部、更に好ましくは50〜150重量部である。
【0057】
本農薬含有樹脂微粉末には、その流動性の改善及び本農薬含有樹脂微粉末どうしの固結を防止する目的で、流動助剤を含有していてもよい。かかる流動助剤としては、前記した希釈粉体が用いられ、中でも見かけ比重が0.6g/ml以下である流動性の改善及び固結防止の効果を最も顕著にするためには、熱硬化性樹脂からなる被膜の表面に前記希釈粉体を均一に保持せしめることが好ましい。
【0058】
本発明には、ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子が用いられる。
【0059】
ポリビニルアルコールとしては、例えば完全けん化型と部分けん化型が挙げられる。詳しくは、完全けん化型としては、例えば、PVA102(クラレ製)、PVA105(クラレ製)、PVA117(クラレ製)、ゴーセノールNL−05(日本合成化学製)、ゴーセノールNM−11(日本合成化学製)及びゴーセノールNM−14(日本合成化学製)が挙げられ、部分けん化型としては、例えば、PVA210(クラレ製)、PVA217(クラレ製)、ゴーセノールGL−03(日本合成化学製)及びゴーセノールGL−05(日本合成化学製)が挙げられる。
【0060】
リグニンスルホン酸塩としては、例えばリグニンスルホン酸ナトリウム及びリグニンスルホン酸カルシウムが挙げられる。詳しくは、リグニンスルホン酸ナトリウムとしては、例えば、Reax83A(Westvaco製)、Reax85A(Westvaco製)、Reax907(Westvaco製)、Reax910(Westvaco製)、ニューカルゲンWG−4(竹本油脂製)、ニューカルゲンRX−B(竹本油脂製)、ニューカルゲンRX−C(竹本油脂製)及びサンエキスP252(日本製紙ケミカル製)が挙げられ、リグニンスルホン酸カルシウムとしては、例えばサンエキスP201(日本製紙ケミカル製)が挙げられる。
【0061】
カルボキシメチルセルロース塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられ、詳しくは、カルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、例えばセロゲン7A(第一工業製薬製)、セロゲン6A(第一工業製薬製)、セロゲン5A(第一工業製薬製)、CMCダイセル1105(ダイセル化学工業製)及びCMCダイセル1110(ダイセル化学工業製)が挙げられる。
【0062】
水溶性セルロースエーテルとは、天然由来のセルロース(パルプ)を原料とし、これを苛性ソーダ等で処理した後、塩化メチル、酸化プロピレン及び酸化エチレンなどのエーテル化剤と反応させてセルロースに存在する多数の水酸基の一部をエーテル化し、セルロースに存在する多数の水酸基に起因する分子間の水素結合を消失させることにより、水溶性が付与された非イオン性のセルロースエーテルである。
水溶性セルロースエーテルとしては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースが挙げられる。詳しくは、メチルセルロースとしては、例えば、マーポローズM(松本油脂製薬製)及びメトローズSM(信越化学工業製)が挙げられ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、例えば、マーポローズ60MP(松本油脂製薬製)、マーポローズ65MP(松本油脂製薬製)、マーポローズ90MP(松本油脂製薬製)、マーポローズMP(松本油脂製薬製)、メトローズ60SH(信越化学工業製)、メトローズ65SH(信越化学工業製)及びメトローズ90SH(信越化学工業製)が挙げられ、ヒドロキシエチルメチルセルロースとしては、例えばメトローズSEB(信越化学工業製)及びメトローズSNB(信越化学工業製)が挙げられる。
【0063】
酵素変性デキストリンとしては、例えば、アミコールNo.6−L(日澱化学製)、アミコールNo.3L(日澱化学製)、アミコールNo.1(日澱化学製)、アミコールNo.5−L(日澱化学製)、アミコールNo.6−H(日澱化学製)、アミコールNo.7−H(日澱化学製)及びアミコールNo.10(日澱化学製)が挙げられる。
【0064】
ポリビニルピロリドンとしては、例えば、ポリビニルピロリドン K−30(日本触媒製)ポリビニルピロリドン K−60(日本触媒製)、ポリビニルピロリドン K−85(日本触媒製)、ポリビニルピロリドン K−90(日本触媒製)、ピッツコールK−30(第一工業製薬製)、ピッツコールK−90(第一工業製薬製)、アグリマー15(アイエスピー製)、アグリマー30(アイエスピー製)、アグリマー60(アイエスピー製)及びアグリマー90(アイエスピー製)が挙げられる。
【0065】
本発明の農薬含有樹脂被覆作物種子1kgあたりの被覆材の含有量は、通常1〜100g、好ましくは2〜80g、さらに好ましくは5〜50g程度であり、被覆材全量に対する農薬含有樹脂微粉末の含有割合は、通常30〜95重量%、好ましくは50〜95重量%程度であり、水溶性高分子の含有量は、通常5〜70重量%、好ましくは5〜50重量%程度である。
本発明の農薬含有樹脂被覆作物種子には、被覆材として農薬含有樹脂微粉末及び水溶性高分子とともに、着色剤を含有していてもよい。かかる着色剤としては、例えば染料及び顔料が挙げられる。
【0066】
本発明において、作物種子の表面に、本農薬含有樹脂微粉末と、ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子とを含有する被覆材を被覆する方法としては、例えば、水溶性高分子の水溶液と本農薬含有樹脂微粉末との混合物を作物種子に噴霧した後に乾燥する方法、作物種子を該混合物に浸漬した後に乾燥する方法、又は、水溶性高分子の水溶液を作物種子に噴霧した後、本農薬含有樹脂微粉末を添加・混合する方法が挙げられる。
【0067】
本発明により得られる本発明の農薬含有樹脂被覆作物種子は、通常の作物種子と同様に用いることができる。本発明の農薬含有樹脂被覆作物種子は、農薬活性成分が熱硬化性樹脂に被覆されており、その溶出が抑制され徐放化されているので、通常の農薬被覆作物種子において懸念される播種後の発芽時以降の生育段階での薬害が軽減されるとともに、長期間にわたり農薬活性成分の病虫害に対する防除効果を持続させることができる。
【実施例】
【0068】
次に本発明を製造例などの実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0069】
参考例
(1) 本粉状農薬1の調製
70.0重量部の(E)−1−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−3−メチル−2−ニトログアニジン(一般名:クロチアニジン)及び30.0重量部の勝光山クレーS(勝光山鉱業所製)を均一に混合し、遠心粉砕機にて全量粉砕して、体積中位径が8.20μm(MALVERN製MASTERSIZER2000)の(E)−1−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−3−メチル−2−ニトログアニジンを含有する粉状農薬(以下、本粉状農薬1と記す。)を得た。
(2) ポリオールプレミックス1の調製
46.3重量部のスミフェンTM(住化バイエルウレタン製:分岐型ポリエーテルポリオール)、52.2重量部のスミフェン1600U(住化バイエルウレタン製:直鎖型ポリエーテルポリオール)、及び1.5重量部の2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(化薬アクゾ製)を均一に混合し、ポリオールと触媒との液状混合物(以下、ポリオールプレミックス1と記す。)を得た。ポリオールプレミックス1の粘度は322m・Pa(B型粘度計、25℃、12回転、ロータNo.1)であった。
(3) 本農薬含有樹脂微粉末1の調製
ハイスピードミキサー装置(深江パウテック株式会社製FS−GS−25型;丸皿型の容器部の底面の中心を通る垂直線を回転軸とするアジテータ羽根および丸皿型の容器部の側面を貫通する水平線を回転軸とするチョッパー羽根を有する装置)の容器内に、100重量部の本粉状農薬1を仕込み、該装置のアジテータ羽根(回転数:382rpm)及びチョッパー羽根(回転数:3500rpm)を回転させた。次に、混合容器を加温し、本農薬粉体1の品温を85±5℃に保持したまま、1.93重量部のポリオールプレミックス1を2分間かけて添加した。該ポリオールプレミックス1が本粉状農薬1に湿潤される様子が観察された。3分後、品温を85±5℃に保持したまま、1.07重量部のスミジュール44V10(住化バイエルウレタン製:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、粘度130m・Pa(25℃))を2分間かけて添加した。添加直後から、増粘現象が確認され、その後、粘度が低下し、ポリウレタン樹脂の硬化が観察された(100重量部の本粉状農薬1に対して、3.0重量部のポリウレタン樹脂に相当)。6分後、品温を85±5℃に保持したまま、下記の操作(以下、ウレタン添加操作と記す。)を28回繰り返し行った。
〔ウレタン添加操作〕
1.93重量部のポリオールプレミックス1を2分間かけて添加する→3分間待つ→1.07重量部のスミジュール44V10を2分間かけて添加する→6分間待つ。
上記のウレタン添加操作の間、ハイスピードミキサー装置は、同条件にてせん断力のある攪拌混合を継続させた。
100重量部の本粉状農薬1に対し、合計87重量部のポリウレタン樹脂原料を添加した。上記操作終了後、3.74重量部の炭酸カルシウムNS#2300(日東粉化株式会社製)を添加し、3分間混合した。混合後、該混合物を冷却することにより、本粉状農薬1がポリウレタン樹脂で固められ、被覆されてなる農薬含有樹脂微粉末(以下、本農薬含有樹脂微粉末1と記す;体積中位径:43μm、見掛比重:0.41g/ml、クロチアニジン含量:36w/w%)を得た。
【0070】
参考製造例1 水溶性高分子溶液1の調製
20重量部のゴーセノール GL−05(製品名、日本合成化学製:ポリビニルアルコール)と80重量部の水を均一に混合し、水溶性高分子溶液1を得た。
水溶性高分子溶液1の粘度は663m・Pa(B型粘度計、25℃、12回転、ロータNo.2)であった。
【0071】
参考製造例2 水溶性高分子溶液2の調製
25重量部のREAX85A(製品名、Westvaco製:リグニンスルホン酸ナトリウム)と75重量部の水を均一に混合し、水溶性高分子溶液2を得た。
水溶性高分子溶液2の粘度は2m・Pa(B型粘度計、25℃、60回転、ロータNo.0)であった。
【0072】
参考製造例3 水溶性高分子溶液3の調製
8重量部のセロゲン7A(製品名、第一工業製薬製:カルボキシメチルセルロースナトリウム)と92重量部の水を均一に混合し、水溶性高分子溶液3を得た。
水溶性高分子溶液3の粘度は1358m・Pa(B型粘度計、25℃、12回転、ロータNo.2)であった。
【0073】
参考製造例4 水溶性高分子溶液4の調製
10重量部のメトローズ 60SH−03(製品名、信越化学工業製:ヒドロキシプロピルメチルセルロース)と90重量部の水を均一に混合し、水溶性高分子溶液4を得た。
水溶性高分子溶液4の粘度は51m・Pa(B型粘度計、25℃、12回転、ロータNo.1)であった。
【0074】
参考製造例5 水溶性高分子溶液5の調製
20重量部のアミコール No.6−L(製品名、日澱化学製:酵素変性デキストリン)と80重量部の水を均一に混合し、水溶性高分子溶液5を得た。
水溶性高分子溶液5の粘度は3m・Pa(B型粘度計、25℃、60回転、ロータNo.0)であった。
【0075】
参考製造例6 水溶性高分子溶液6の調製
20重量部のポリビニルピロリドン K−60(製品名、日本触媒製:ポリビニルピロリドン)と80重量部の水を均一に混合し、水溶性高分子溶液6を得た。
水溶性高分子溶液6の粘度は275m・Pa(B型粘度計、25℃、12回転、ロータNo.2)であった。
【0076】
製造例1
甜菜種子(品種:モンテソ)10g(粒数:約600粒)を100mlのポリ容器にて転動させながら、本農薬含有樹脂微粉末1を33重量部と水溶性高分子溶液1を67重量部にて構成される溶液1gを噴霧させた。噴霧後2分間転動した後、真空乾燥を20分間行い、水分を除去した。前記の噴霧及び乾燥の工程を4回繰り返し、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0077】
製造例2
水溶性高分子溶液2を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0078】
製造例3
水溶性高分子溶液3を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0079】
製造例4
水溶性高分子溶液4を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0080】
製造例5
水溶性高分子溶液5を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0081】
製造例6
水溶性高分子溶液6を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0082】
製造例7
大豆種子(品種:サチユタカ)20g(粒数:約56粒)を100mlのポリ容器にて転動させながら、本農薬含有樹脂微粉末1を20重量部と水溶性高分子溶液1を80重量部にて構成される溶液1gを噴霧させた。噴霧後2分間転動した後、真空乾燥を20分間行い、水分を除去し、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0083】
製造例8
水溶性高分子溶液2を用いた以外は製造例7と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0084】
製造例9
水溶性高分子溶液3を用いた以外は製造例7と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0085】
製造例10
水溶性高分子溶液4を用いた以外は製造例7と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0086】
製造例11
水溶性高分子溶液5を用いた以外は製造例7と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0087】
製造例12
水溶性高分子溶液6を用いた以外は製造例7と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0088】
製造例13
コーン種子(品種:白色デント)20g(粒数:約46粒)を100mlのポリ容器にて転動させながら、本農薬含有樹脂微粉末1を13重量部と水溶性高分子溶液1を87重量部にて構成される溶液1gを噴霧させた。噴霧後2分間転動した後、真空乾燥を20分間行い、水分を除去し、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0089】
製造例14
水溶性高分子溶液2を用いた以外は製造例13と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0090】
製造例15
水溶性高分子溶液3を用いた以外は製造例13と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0091】
製造例16
水溶性高分子溶液4を用いた以外は製造例13と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0092】
製造例17
水溶性高分子溶液5を用いた以外は製造例13と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0093】
製造例18
水溶性高分子溶液6を用いた以外は製造例13と同様の操作を行い、農薬含有樹脂被覆作物種子を調製した。
【0094】
次に本発明の効果を試験例に示す。
【0095】
試験例1
ビート用ペーパーポットに育苗培土を充填し、製造例1〜6により得られた農薬含有樹脂被覆作物種子をそれぞれ播種し、温室内で2.5葉期まで育苗する。次いで、生育した甜菜苗の根部を取り除き、茎葉部をポリエチレンカップ(容量500ml)に入れ、ヨトウガ(Mamestra brassicae)の1令幼虫10頭を放飼し、25℃でさらに7日間保管する。その後、ヨトウガの生存虫数および死虫数を数えて、下記式により死虫率を求める。
併せて、本農薬含有樹脂微粉末を被覆していない甜菜種子(品種:モンテソ)で同様の試験を行い、死虫率を対比することにより、製造例1〜6により得られた農薬含有樹脂被覆作物種子が奏する優れた殺虫効果を確認できる。

死虫率(%) = {死虫数/(生存虫数+死虫数)}×100
【0096】
試験例2
1/5000aワグネルポットに育苗培土を充填し、製造例7〜12により得られた農薬含有樹脂被覆作物種子をそれぞれ播種し、温室内で2.5葉期まで育苗する。次いで、生育した大豆苗の根部を取り除き、茎葉部をポリエチレンカップ(容量500ml)に入れ、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の1令幼虫10頭を放飼し、25℃でさらに7日間保管する。その後、ハスモンヨトウの生存虫数および死虫数を数えて、下記式により死虫率を求める。
併せて、本農薬含有樹脂微粉末を被覆していない大豆種子(品種:サチユタカ)で同様の試験を行い、死虫率を対比することにより、製造例7〜12により得られた農薬含有樹脂被覆作物種子が奏する優れた殺虫効果を確認できる。

死虫率(%) = {死虫数/(生存虫数+死虫数)}×100
【0097】
試験例3
1/5000aワグネルポットに育苗培土を充填し、製造例13〜18により得られた農薬含有樹脂被覆作物種子をそれぞれ播種し、温室内で2.5葉期まで育苗する。次いで、生育したコーン苗の葉部を採取し、ポリエチレンカップ(容量500ml)に入れ、アワヨトウ(Pseudaletia separata)の1令幼虫10頭を放飼し、25℃でさらに7日間保管する。その後、アワヨトウの生存虫数および死虫数を数えて、下記式により死虫率を求める。
併せて、本農薬含有樹脂微粉末を被覆していないコーン種子(品種:白色デント)で同様の試験を行い、死虫率を対比することにより、製造例13〜18により得られた農薬含有樹脂被覆作物種子が奏する優れた殺虫効果を確認できる。

死虫率(%) = {死虫数/(生存虫数+死虫数)}×100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物種子の表面が、
農薬活性成分を含有する粉状物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる平均粒子径が10〜200μmの農薬含有樹脂微粉末と、
ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子と
を含有する被覆材で被覆されてなる農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項2】
被覆材全量に対して農薬含有樹脂微粉末と水溶性高分子との合計含有量が、90〜100重量%である請求項1記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項3】
被覆材全量に対して、農薬含有樹脂微粉末の含有量が50〜95重量%であり、水溶性高分子の含有量が5〜50重量%である請求項1又は2記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項4】
農薬含有樹脂微粉末の平均粒子径が、10〜100μmである請求項1〜3いずれか一項記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項5】
農薬含有樹脂被覆作物種子1kgあたりの被覆材の合計含有量が、1〜100gである請求項1記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項6】
農薬活性成分を含有する粉状物が、農薬活性成分及び粉状鉱物質担体の混合物である請求項1〜5いずれか一項記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項7】
農薬活性成分が、クロチアニジンである請求項6記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項8】
作物種子が、ダイズ、テンサイ又はトウモロコシの種子である請求項1〜7いずれか一項記載の農薬含有樹脂被覆作物種子。
【請求項9】
農薬活性成分を含有する粉状物が熱硬化性樹脂で固められ被覆されてなる平均粒子径が10〜100μmの農薬含有樹脂微粉末と、
ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性セルロースエーテル、酵素変性デキストリン及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1以上の水溶性高分子の水溶液
との混合物を作物種子の表面に噴霧し、次いで乾燥する工程を有してなる農薬含有樹脂被覆作物種子の製造方法。

【公開番号】特開2011−57629(P2011−57629A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210146(P2009−210146)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】