説明

農薬捕集用部材

【課題】農薬散布量分布の測定を行う場合に、回収を容易にできるとともに、測定毎に新たな捕集材を設置する手間を省くことができる農薬捕集用部材を提供する。
【解決手段】圃場内外の所定の位置に回収可能に配置され、この圃場内外に散布された農薬の農薬散布量分布測定に用いられる農薬捕集用部材21であって、農薬付着部20aを表面に有する薄膜状の捕集材20を複数枚着脱可能に重ね合わせ、これらのうちの最も表層に位置する捕集材20の農薬付着部20aによって、圃場内外に散布された農薬の一部を捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬散布時の散布量分布を測定する場合に用いられる農薬捕集用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品衛生法の改正に伴い、農作物によっては厳密な残留農薬基準値が設けられたことを受けて、農作物の残留農薬に対する注目が集まっている。そこで、適切な農薬散布や、出荷時の残留農薬値の正確な測定等が求められている。
農薬散布時に、圃場内の特定の箇所に散布が集中し、散布量が多くなって、収穫時の残留農薬値が基準値より大きくなり出荷できなくなってしまう可能性や、農薬散布時に突風などの自然現象によって、散布対象圃場外に農薬が飛散する、いわゆるドリフトにより、収穫間際の農作物に農薬が付着してしまった場合には、残留農薬値が基準値を超えて出荷できなくなってしまう可能性があった。そこで、かかる損失を回避するために、同出願人により、農薬散布時の散布量分布、ドリフト測定等の散布状況の確認する技術が開示されている(特許文献1参照)。
これは、農薬捕集用部材である測定板を圃場内外の測定箇所に支持台を介して複数設置し、分析装置を用いて測定板表面に付着した農薬量を測定し、その測定結果に基づいて農薬散布時の散布量分布を測定可能とした技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−064689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のように農薬捕集用部材として測定板を用いる場合、農薬散布量分布測定の精度を上げる等の理由で測定板の数を増やしたときには、測定板は大きくて嵩張るため、これらを一度に回収して持ち帰ることが困難となった。また、再測定する際には、測定場所に赴き、回収した測定板を支持台に設置する必要があるため、作業者にとっては手間となった。
【0005】
本発明では、係る問題を鑑みてなされたもので、農薬散布量分布の測定を行う場合に、回収を容易にできるとともに、測定毎に新たな農薬捕集用部材を設置する手間を省くことができる農薬捕集用部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1においては、圃場内外の所定の位置に回収可能に配置され、この圃場内外に散布された農薬の農薬散布量分布測定に用いられる農薬捕集用部材であって、農薬付着部を表面に有する薄膜状の捕集材を複数枚着脱可能に重ね合わせ、これらのうちの最も表層に位置する捕集材の農薬付着部によって、圃場内外に散布された農薬の一部を捕集するものである。
【0008】
請求項2においては、前記各捕集材を同一形状に形成し、それぞれの捕集材の外周が略一致するように重ね合わせて接着したものである。
【0009】
請求項3においては、前記各捕集材の外周部に外側へ突出する突片を備えて、この突片を各捕集材の本体に対して折り曲げるものである。
【0010】
請求項4においては、前記突片に、農薬散布状況に関する情報を入力可能な情報入力部を設けるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1においては、農薬捕集用部材の回収時、捕集材を一枚ずつ回収して、農薬散布量分布測定に利用することが可能となる。したがって、農薬散布量分布測定を行う場合に、農薬捕集用部材の回収を容易にできるとともに、回収後に新たな農薬捕集用部材を設置する手間を省くことができる。
【0013】
請求項2においては、重ね合わされた各捕集材が、揃った状態に密着して剥がれにくくなる。したがって、無人ヘリコプターよる農薬散布作業等で発生する風や、突風等により捕集材の一部が剥がれ落ちたり、たなびいたりすることを防止することができ、ひいては散布された農薬を最も表層に位置する捕集材のみに付着させて捕集することができる。つまり、下層の捕集材を無駄にせずに済む。
【0014】
請求項3においては、突片を挟掴して、最も表層に位置する捕集材を下層の捕集材から剥がすことが可能となる。したがって、捕集材の回収を容易にできる。
【0015】
請求項4においては、情報入力部に入力された情報を参照することが可能となる。したがって、複数の捕集材を取り間違えることなく測定することが可能となる。また、農薬捕集材の設置位置、散布された農薬データ等の農薬散布状況に関する情報を事後管理するとき、データ処理を容易に行うことができる。しかも、処理したデータと気象条件等を併せて検討することで、次回以降の農薬散布の際にフィードバックして作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例に係る測定体の斜視図。
【図2】農薬捕集部材の一側端部の側面図。
【図3】農薬散布後の測定時の模式図。
【図4】農薬散布時の測定体の配置例に係る平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の一実施形態に係る農薬捕集用部材21を含む測定体1について説明する。
【0018】
図1に示すように、測定体1は、板材2と、該板材2を着脱自在に固定し、支持する支持台3と、を備えている。板材2はポリプロピレン(PP)、若しくはアクリロニトリル・ブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)等の非吸水性素材であって耐薬品性の高い合成樹脂または金属または硝子または陶磁器等からなる、十分な剛性を有するもので構成され、略直方体形状に形成される。板材2の上面には、本発明の一実施形態である農薬捕集用部材21が配置される。
【0019】
図2に示すように、前記農薬捕集用部材21は、複数枚、本実施形態においては8枚の薄膜状(フィルム状、シート状)の捕集材20で構成される。各捕集材20は平面視で略正方形状に形成され、同一の形状、大きさとされる。各捕集材20はそれぞれの外周が略一致するように上下に重ね合わせられ(積層され)、測定体1の板材2上に載置される。
各捕集材20は、樹脂等からなり、日光や雨、温度変化に影響を受けない耐候性を有するものである。また、各捕集材20は、散布された農薬を付着させるものである。各捕集材20の厚さは数十μm〜数mm程度で、その形状は平面視で前記板材2と同程度の大きさの略正方形状として、単位面積当たりの散布量を容易に演算できるようにしている。
【0020】
前記各捕集材20の表面(上面)には、後述する挟掴部20cを除き、散布された農薬を付着させる農薬付着部20aが全面にわたって形成される。農薬付着部20aには、表面処理を施してもよい。例えば付着した農薬が流れ落ちないように、適度な粘着性を有する粘着剤を塗布したり、化学的に変化しない状態で溶け込む物質を塗布したりする表面処理を施すことも可能である。これにより、残留農薬の定量的な分析を精度よく行なうことができる。また、この表面処理剤が後述する積層する捕集材20・20・・・の接着剤を兼ねる構成としてもよい。
【0021】
各捕集材20の裏面には、後述する挟掴部20cを除き、有機系もしくは無機系等の接着剤が適宜に塗布され、接着部20bが形成される。これにより、複数の捕集材20・20・・・をそれぞれの外周が略一致するように重ね合わせた場合には、それぞれの捕集材20が接着され、捕集材20が無人ヘリコプターやその他の散布機よる農薬散布作業等で発生する風や、突風等で捕集材20がその下側の捕集材20や板材2から剥がれ落ちたり、ずれたり、たなびいたりすることを防止することができ、ひいては農薬捕集用部材21の表層の捕集材20のみに散布された農薬を付着させることができる。本実施形態における捕集材20の接着方法について詳しくは後述する。ただし、接着剤は人の手で捕集材20をその下側の捕集材20や板材2から剥がすことが可能な程度の粘着性を有するものであって、下側の捕集材20の農薬付着部20aに付着したまま当該捕集材20が回収された場合であっても、後述する分光分析を可能として、残留農薬測定に影響を与えない性質を有するものとする。
尚、接着剤は必要な分量だけ適所に塗布すればよく、例えば裏面の端または周囲のみに塗布してもよい。これにより、接着剤の使用量を削減できるだけでなく、剥がすために必要な労力も低減できる。
尚、各捕集材20の接着方法は、前記の接着剤を塗布する方法に限定するものでなく、積層した捕集材20・20・・・の挟掴部20cを除く周囲を融着させたり、挟掴部20cを除く側面に接着剤を塗布したり、周囲の複数箇所に綴じ代を設けて該綴じ代部分を接着したり、または、綴じ代部分を糸や針金等で綴じたりして捕集材20が剥がれ落ちない構造としてもよい。
【0022】
また、捕集材20は、本体(農薬付着部20a)の一辺より外側へ突片を突出して挟掴部20cを形成している。該挟掴部20cと本体(農薬付着部20a)との境界には折曲線20dが形成されて、挟掴部20cが本体(農薬付着部20a)の表面に対して適宜の角度で上方に折り曲げられている。該挟掴部20cは農薬付着部20aの少なくとも一つの辺に設けられ、本実施形態では、後述する天板部4の突起部4aを避けた位置に配置される。該挟掴部20cの形状は本実施例では略長方形状としているがその形状及び大きさは限定するものではなく、作業者が指でつまめる程度の大きさを有すればよい(図2参照)。
これにより、挟掴部20cが折曲線20dで上方に折り曲げられていれば、捕集材20が厚さを有するために、上側の捕集材20の挟掴部20cの端と下側の捕集材20の挟掴部20cの端とが一致せずにずれることとなる。言い換えれば、上側の捕集材20の挟掴部20cの端がより上方に突出するので、上側の捕集材20の挟掴部20cを挟掴することが容易となり、ひいては残留農薬測定に必要な最上位置の捕集材20を容易に剥がすことが可能となるのである。
【0023】
また、前記挟掴部20cには情報入力部としての識別部20eが設けられている。該識別部20eには日時や圃場名や所有者や散布農薬名や位置情報等の農薬散布状況に関する情報を直接書き込んだり、バーコードもしくはQRコードを印字または貼り付けたり、ICタグを取り付けたりしている。但し、識別部20eは捕集材20の裏面に設けることも可能である。また、裏面と突片に識別部20eを設け、突片は千切れるようにして、回収後の保管やデータ収集作業が容易にできるようにすることもできる。こうして、個々の捕集材20を識別できるようにしている。
これにより、複数の捕集材20・20・・・を集めて測定する時に間違うことがなく、捕集材20の配置箇所、散布された農薬データ等の散布情報を事後管理する際、データの処理が容易にできるようになり、同時に散布時の気象条件等を併せて検討することで、次回以降の農薬散布の際にフィードバックできるようになる。
【0024】
このような捕集材20が複数枚重ね合わせられて、農薬捕集用部材21が形成される。詳細には、図2に示すように、前記板材2の上面に、同形状の捕集材20A、捕集材20B、捕集材20C・・がそれぞれの捕集材の外周が略一致するように積み重ねられる。このとき、例えば上側の捕集材20Aの裏面の接着部20bと、下側の捕集材20Bの表面の農薬付着部20aは接着される。また、上側の捕集材20Bの裏面の接着部20bと、下側の捕集材20Cの表面の農薬付着部20aは接着される。このようにして、捕集部20Aと捕集材20Bとが、捕集材20Bと捕集材20Cがそれぞれ着脱可能に接着されて積層され、以下同様に多数の捕集材20・20・・・が着脱可能に接着されつつ積層される。
尚、重ねる枚数は、測定回数に応じて調整すればよく、本実施形態に限定するものではない。
【0025】
そして図1に示すように、前記支持台3は、天板部4、角度調節部5、高さ調節部6、脚部7から構成される。より詳細には、支持台3の最上部に正方形状の天板部4が配置され、該天板部4は前記板材2と略同じ、或いは多少大きい程度の面積の上面を有するものとし、該上面には前記板材2を脱着容易に固定する手段を備える。例えば、所定の高さを有するL字形状の突起部4a・4a・・・を該板材2の各角部に備える。
なお、天板部4の突起部4a・4a・・・の代わりに、クリップ等を用いて板材2を固定することも可能であり、板材2の天板部4への固定手段は本実施形態のみに限らない。
【0026】
そして、該天板部4の中心位置下部に角度調節部5が配置され、該角度調節部5の下方に高さ調節部6が配置される。高さ調節部6のさらに下方に脚部7が配置される。
【0027】
前記角度調節部5は、前記天板部4の中心位置下部に球形ジョイントを配置してボルト5aにより角度固定可能とされる。こうして、天板部4が上を向く(水平となる)ように調節して固定支持するものである。すなわち、角度調節部5は、捕集材20の農薬付着部20aが上を向くように支持するものであって、圃場の傾斜等の土地条件にかかわらず測定体1による測定の正確性を担保するものである。なお、角度調節部5は、前後方向及び左右方向の回動支点軸により支持して各支点軸を固定する構成であってもよく、所定範囲の角度調節が可能であれば、本実施例の構成に限定するものではない。
【0028】
前記高さ調節部6は、第一軸61と、第二軸62と、から主に構成される。前記角度調節部5からは第一軸61が下方に延設され、第一軸61からさらに下方に第二軸62が延設される。該第二軸62の上端には嵌合部62aが形成される。前記第一軸61及び第二軸62は中空とされ、該第一軸61の一部または全部が第二軸62に摺動自在に挿入される。第二軸62上端に形成される前記高さ調節部6には、ボルト6a等によって締め付け固定する手段が設けられ、該高さ調節部6によって該第一軸61が第二軸62に任意の摺動位置で締着固定可能とされる。この締着固定時における第一軸61の第二軸62に対する突出幅を調整することで、天板部4の高さを所望の高さに設定することができる。こうして、前記板材2の設定高さを農作物と略同じにすることが可能となり、農作物の高さによらず測定体1による測定の正確性を担保することが可能となる。なお、高さ調節部6は、所定範囲で高さ調節が可能であれば、本実施例の構成に限らず、適用可能である。
【0029】
前記脚部7は第二軸62下端部にボルト等によって固定される。脚部7は、第二軸62との連結部から放射状に延びる複数の接地足8・8・・・によって構成され、各接地足8の先端部には略円形状の固定部9を有する。該固定部9・9・・・は杭等によって地面と固定するための孔9a・9a・・・を有する。なお、該接地足8の数は、測定体1の安定性を担保できればいくつでもよい(例えば、本実施例では3つとした)。また、接地足8の代わりに多角形または円盤状の板状体を接地部とすることも可能であり、所謂、スタンドとなり安定させることができる構成であればその構造は限定するものではない。
好ましくは、外的要因によって転倒したり、設置位置が変化したりするのを回避するために、杭等で地面に固定するのが良い。なお、脚部7は図1に示した実施例の形状に限らず、所定の重量を有し、地面に固定可能ならば適用可能である。
【0030】
このように構成したので、測定体1を測定箇所に設置するときは、まず、脚部7の固定部9を地面に固定し、次に、高さ調節部6によって、天板部4の高さを圃場の農作物と略同じ高さになるように調節する。さらに、角度調節部5によって、天板部4が上向き(水平)になるように調節し、最後に、農薬捕集用部材21を備える板材2を天板部4に固定するようにすればよい。
こうして、圃場内外を問わず、地面の状況によらないで、測定体1を所望の設置位置に測定に適した状態で固定することができる。また、農作物の種類によらず、板材2を適切な高さ、及び、適切な向きで測定することが可能となり、散布農薬の正確な測定が可能となる。
【0031】
次に、図3を用いて本実施例に用いる光分析技術を用いた測定手段となる分析装置10及び、該分析装置10に接続されたコンピュータ11について説明する。
【0032】
本実施例で使用する分析装置10は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた測定機器であって、その測定方法は拡散反射法を適用するものである。この拡散反射法とは、光源から出た光が干渉計を通過して干渉光となり、その干渉光が被検体に照射され、検知部が被検体から反射する拡散反射光を検出し、検出された拡散反射スペクトルを定量的、或いは定性的に分析する方法である。
また、コンピュータ11には測定対象となる農薬の質量を予測算出する検量式を予め記憶させておく。該検量式は、予め試験等により求められるものであり、より詳細には、既知の質量の農薬を表面に付着させた捕集材20に対して測定を行ない、検出される拡散反射スペクトルと、農薬の質量との関係式を導いたものである。このようにして求められた検量式をコンピュータ11に記憶させておき、前記分析装置10による測定時にこの検量式を用いて単位面積当たりの農薬質量を予測算出し、表示部11aに予測結果を表示するように構成しておく。
このようにして、分析装置10によって捕集材20の農薬付着部20aの一又は複数箇所に付着する農薬の質量の測定を行なう。そして、前記検量式を用いて単位面積当たりの農薬質量を予測算出することができ、作業者は予測結果を知ることができる。また、この予測結果をコンピュータ11に記憶するとともに、該コンピュータ11に農薬散布時期、散布農薬量、農薬散布時の風向、風速等の記帳データを併せて記憶しておくことで、次回散布時のドリフト防止に役立てることもできる。
なお、本実施例では、拡散反射法を適用したが、所定の条件下でATR法等の測定方法も適用可能である。
【0033】
図3、図4に示すように、前記測定体1を農薬散布対象となる圃場内外の適所に複数設置し、農薬散布後、前記測定体1の捕集材20を回収してまわる。そして、前記分析装置10及びコンピュータ11を用いて、測定体1を設置した場所における単位面積当たりの農薬質量を予測算出でき、農薬散布量分布を測定することができる。
また、農薬散布対象圃場だけでなく、散布非対象圃場にも設置することで、農薬散布時のドリフト状況を検知することも可能である。
具体的には、農薬散布対象圃場では圃場端から所定間隔ごとに測定体1を設置する。また、農薬散布対象圃場に近接する農薬散布非対象圃場または畦または農道などに、農薬散布対象圃場の端部から所定距離離れた位置に測定体1を設置する。この設置した測定体1・1・・の設置位置は識別部20eにデータとして書き込んでおく。そして、農薬を散布し、捕集材20を回収して、捕集材20に付着した農薬の量を前記方法にて測定する。こうして、農薬散布非対象圃場に設置した捕集材20からはドリフト量を検出することができ、この結果から、風速に対して風上側のどの位置まで散布可能であるか、どれだけ離れた位置までは許容範囲であるか等を判断することができる。
【0034】
このような構成において、農薬散布量分布を測定する際は、まず、農薬散布対象となる圃場の内外において、複数の測定体1を適所に設置する。そして、無人ヘリコプター等による農薬散布後に、各測定体1の農薬捕集用部材21を回収する。ここでは、農薬捕集用部材21の最も表層に位置する捕集材20のみをその挟掴部20cを挟掴して下層の捕集材20から剥がし回収する。回収後にはこの下層の捕集材20が最も表層に位置して、新たな捕集材20として利用可能となる。
【0035】
なお、回収後に新たな捕集材20を続けて利用しない場合や、測定体1を他の場所に移動させてから利用する場合などには、当該農薬捕集用部材21を蓋やカバー等で覆うことが望ましい。
【0036】
次に、回収した複数の捕集材20を分析装置10およびコンピュータ11が設置された場所まで、袋に収納したり冊子状に綴じたりして持ち運び、それぞれを分析装置10およびコンピュータ11により測定する。各測定体1の設置位置等の種種の情報は、散布状況に関する情報の一部として、識別部20eに書き込んでおく。
【0037】
この際、これらの捕集材20のうち、農薬散布対象圃場内に配置されたものの測定を行うことによって、測定した捕集材20を含む測定体1を設置した位置における単位面積当たりの農薬質量を予測算出し、農薬散布対象圃場内における農薬散布量分布を測定することが可能となる。
【0038】
一方、農薬散布対象圃場外、たとえばこの圃場に近接する農薬散布非対象圃場や畦や農道に配置されたものの測定を行うことによって、前記同様に農薬散布対象圃場外における農薬散布量分布を測定し、農薬散布時のドリフト状況を検知することが可能となる。つまり、測定結果から、風速に対して風上側のどの位置まで散布可能であるか、どれだけ離れた位置までは許容範囲であるか等を判断することが可能となる。
【0039】
以上のように、圃場内外の所定の位置に回収可能に配置され、この圃場内外に散布された農薬の農薬散布量分布測定に用いられる農薬捕集用部材21であって、農薬付着部20aを表面に有する薄膜状の捕集材20を複数枚着脱可能に重ね合わせ、これらのうちの最も表層に位置する捕集材20の農薬付着部20aによって、圃場内外に散布された農薬の一部を捕集するので、農薬捕集用部材21の回収時、捕集材20を一枚ずつ回収して、農薬散布量分布測定に利用することが可能となる。したがって、農薬散布量分布測定を行う場合に、農薬捕集用部材21の回収を容易にできるとともに、回収後に新たな農薬捕集用部材21を設置する手間を省くことができる。
【0040】
また、前記各捕集材20・20・・・を同一形状に形成し、それぞれの捕集材20の外周が略一致するように重ね合わせて接着したので、重ね合わされた各捕集材20・20・・・が、揃った状態に密着して剥がれにくくなる。したがって、無人ヘリコプターよる農薬散布作業等で発生する風や、突風等により捕集材20の一部が剥がれ落ちたり、たなびいたりすることを防止することができ、ひいては散布された農薬を最も表層に位置する捕集材20のみに付着させて捕集することができる。つまり、下層の捕集材20を無駄にせずに済む。
【0041】
また、前記各捕集材20・20・・・の外周部に外側へ突出する突片を備えて、この突片を各捕集材20・20・・・の本体に対して折り曲げるので、突片を挟掴して、最も表層に位置する捕集材20を下層の捕集材20から剥がすことが可能となる。したがって、捕集材20の回収を容易にできる。
【0042】
また、前記突片に、農薬散布状況に関する情報を入力可能な情報入力部を設けるので、情報入力部に入力された情報を参照することが可能となる。したがって、複数の捕集材20を取り間違えることなく測定することが可能となる。また、農薬捕集材20の設置位置、散布された農薬データ等の農薬散布状況に関する情報を事後管理するとき、データ処理を容易に行うことができる。しかも、処理したデータと気象条件等を併せて検討することで、次回以降の農薬散布の際にフィードバックして作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0043】
1 測定体
2 板材
20 捕集材
20a 農薬付着部
20b 接着部
20c 挟掴部
20d 折曲線
20e 識別部
21 農薬捕集用部材
3 支持台
4 天板部
5 角度調節部
6 高さ調節部
7 脚部
8 接地足
9 固定部
10 分析装置
11 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場内外の所定の位置に回収可能に配置され、この圃場内外に散布された農薬の農薬散布量分布測定に用いられる農薬捕集用部材であって、
農薬付着部を表面に有する薄膜状の捕集材を複数枚着脱可能に重ね合わせ、これらのうちの最も表層に位置する捕集材の農薬付着部によって、圃場内外に散布された農薬の一部を捕集する農薬捕集用部材。
【請求項2】
前記各捕集材を同一形状に形成し、それぞれの捕集材の外周が略一致するように重ね合わせて接着した請求項1に記載の農薬捕集用部材。
【請求項3】
前記各捕集材の外周部に外側へ突出する突片を備えて、この突片を各捕集材の本体に対して折り曲げる請求項2に記載の農薬捕集用部材。
【請求項4】
前記突片に、農薬散布状況に関する情報を入力可能な情報入力部を設ける請求項3に記載の農薬捕集用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−203798(P2010−203798A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46747(P2009−46747)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】