説明

農薬捕集装置及び農薬捕集材

【課題】農薬捕集装置において、上向き面以外に付着した農薬を計測でき、乾燥までの時間を軽減できる農薬捕集装置を提供する。
【解決手段】農薬捕集装置11は、4本の脚部21と、この脚部21によって支持される測定台22と、農薬を捕集するために6面体状の測定台22に固定される捕集材23と、を備える。捕集材23は、測定台22の複数の面に貼り付けることができるように構成されている。捕集材23は吸水性又は速乾性がある素材を用いて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散布された農薬の分布を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農薬散布後に作物に付着している農薬を見積もる方法としては、農薬付着部を有する捕集材を設置し、前記捕集材を回収後に分析する方法がとられている。
【0003】
特許文献1には、平面状かつ非吸水性の1枚の農薬付着部を有する捕集材を上向きに設置し、前記捕集材を回収後に光分析技術を用いることにより、付着した農薬量を計測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−64689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、上向き面に付着した農薬しか計測できず、作物の葉の裏面の農薬付着量を見積もることができなかった。また、特許文献1のように非吸水性の捕集材を用いる場合、乾燥までの時間が必要なため取扱い性に優れず、改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、上向き面以外に付着した農薬を計測でき、乾燥までの時間を軽減できる農薬捕集装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、散布された農薬の付着量を計測するために用いられる農薬捕集装置において、農薬付着部を異なった向きで2面以上備えることを特徴とする農薬捕集装置が提供される。
【0009】
この構成により、散布された農薬が複数面の農薬付着部に付着する。従って、それらの農薬付着部を分析することにより、散布された農薬の作物への付着をより詳細な観点から推測することができる。
【0010】
前記の農薬捕集装置においては、上面と下面に農薬付着部を備えることが好ましい。
【0011】
この構成により、散布された農薬が作物の葉の上面だけでなく下面にも付着することを考慮して、農薬の付着量の推測を行うことができる。
【0012】
前記の農薬捕集装置においては、単一のシート状の捕集材の両面を農薬付着部とすることが好ましい。
【0013】
この構成により、簡単な構成で農薬の付着量を計測することができる。また、透過法を用いることにより、両面の付着量を一度に計測することができる。
【0014】
前記の農薬捕集装置においては、多面体の有する面のうち少なくとも2面以上に前記農薬付着部を備えることが好ましい。
【0015】
この構成により、農薬の付着量を3次元的に計測することができる。
【0016】
前記の農薬捕集装置においては、農薬付着部が吸水性又は速乾性があることが好ましい。
【0017】
この構成により、農薬付着部に付着した農薬の乾燥時間を短縮し、又は不要とすることができる。そのため、現場での取扱い性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る農薬捕集装置を使用した農薬捕集作業を示す模式図。
【図2】農薬捕集装置の斜視図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る農薬捕集装置の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る農薬捕集装置11を使用した農薬捕集作業を示す模式図であり、図2は農薬捕集装置11の斜視図である。
【0020】
図1に示すように、第1実施形態の農薬捕集装置11は、計測対象となる圃場ヘ複数設置される。農薬捕集装置11は、圃場において予め設定された計測ポイントにそれぞれ設置される。そして、農薬は無人ヘリコプター1によって圃場に散布され、飛散した農薬2の一部が農薬捕集装置11によって捕集される。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の農薬捕集装置11は、4本の脚部21と、この脚部21によって支持される測定台22と、農薬を捕集するために測定台22に固定される捕集材23と、を備える。
【0022】
脚部21は4本の金属製の棒材から構成されている。それぞれの棒材は細長い形状をしており、一端が測定台22の下部に固定されている。脚部21同士は十分な間隔をあけて配置されており、測定台22の下面に農薬が回り込むのを妨げないように配慮されている。
【0023】
測定台22は立方体状(多面体としての6面体状)に形成されており、6枚の正方形の板から構成されている。それぞれの板は図示しないフレームに対してボルトによって固定されており、捕集材23の設置面を形成している。また、測定台22の下面の4つの角部には脚部21の上端がボルトによって固定されており、これにより、測定台22を所定の高さに配置することができる。
【0024】
捕集材23は、平面状の捕集材であり、その一方の面を農薬付着面(農薬付着部)として用いるように構成されている。農薬付着面として用いる面の材質は吸水性のある繊維である。もう一方の面はテープ等により測定台22に貼り付けられている。
【0025】
本実施形態において、捕集材23は測定台22の6面全てに貼り付けられている。これにより、捕集材23の農薬付着面を上下左右前後の6方向に向けた状態で、散布された農薬を捕集することができる。また、間隔をあけて配置された細い複数本の脚部21で測定台22を支持する構成となっているので、測定台22の下面に貼り付けられた捕集材23も農薬を問題なく捕集することができる。なお、必ずしも6面全てに捕集材23を設置する必要はなく、状況と目的に応じて、例えば横向きの4面のうち1〜3面について設置を省略したり、上面と下面だけに配置したり、上面と前面だけに配置したりすることもできる。
【0026】
捕集材23は、農薬散布後に農薬捕集装置11から取り外されて回収される。なお、捕集材23の農薬付着面は吸水性のある繊維となっているので、農薬の乾燥時間を短縮でき、作業性が良好である。その後、赤外分光等の光分析技術を用いることにより、捕集材23の農薬付着面の農薬付着量を計測することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、測定台22の6つの面に捕集材23が独立して配置されている。従って、それぞれの面の向きについて農薬付着量を個別に計測することができるので、従来と比較して、散布した農薬の挙動をより詳細に考慮した分析が可能になる。例えば、実際に捕場に農薬を散布した場合、農薬は通常、作物の葉の上向きの面だけでなく、葉の下向きの面や茎の側面等にも付着する。この点、本実施形態によれば、そのような作物への農薬の付着形態をより適切に考慮した付着量の推測を行うことができる。
【0028】
以上に説明したように、本実施形態の農薬捕集装置11は、散布された農薬の付着量を計測するために用いられる。また、この農薬捕集装置11は、農薬付着面を互いに異なった向きで測定台22の6面に備えている。
【0029】
これにより、散布された農薬が複数の農薬付着面に付着するので、この農薬付着量を分析することにより、散布された農薬が実際に作物に付着する挙動に関するデータをより詳細に得ることができる。
【0030】
また、本実施形態の農薬捕集装置11においては、測定台22の上面と下面に捕集材23が取り付けられ、農薬付着面が構成されている。
【0031】
これにより、散布された農薬が作物の葉の上面だけでなく下面にも付着することを考慮して、農薬の作物への付着量の推定を行うことができる。
【0032】
また、本実施形態の農薬捕集装置11においては、多面体状に形成された測定台22の有する6つの面の全てに捕集材23が取り付けられ、農薬付着面が構成されている。
【0033】
これにより、農薬の付着量を3次元的に計測することができる。
【0034】
また、本実施形態の農薬捕集装置11に用いられる捕集材23においては、農薬付着面が吸水性及び速乾性を有している。
【0035】
これにより、農薬付着面に付着した農薬の乾燥時間を短縮し、又は不要とすることができる。そのため、現場での取扱い性を向上させることができる。
【0036】
次に、第2実施形態を説明する。図3は本発明の第2実施形態に係る農薬捕集装置12の斜視図である。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0037】
図3に示すように、本実施形態の農薬捕集装置12は、脚部21と、上枠32と、下枠33と、を備える。
【0038】
脚部21は、第1実施形態と同様に細長い棒状に構成されており、上枠32及び下枠33を所定の高さに配置するように支持することができる。
【0039】
上枠32は、例えば4本の棒材を組み合わせてボルトによって固定し、又は矩形状の板の中央に貫通孔を形成することによって製造される。下枠33も同様の方法によって製造され、上枠32と同形状となっている。前記脚部21は下枠33に対してボルトによって固定されており、上枠32及び下枠33は、水平に向けた状態で脚部21によって支持されている。
【0040】
前記捕集材31はシート状に構成されている。また、捕集材31は光透過性のある紙製であり、その両面を農薬付着面として用いることができる。捕集材31は矩形状に構成されており、その寸法は、矩形枠状に形成された上枠32及び下枠33の内側の寸法と比較して、若干大きくなるように設定されている。
【0041】
この構成で、上枠32と下枠33は、捕集材31の外縁を挟み込んだ状態でボルトによって互いに締結され、これにより、1枚の捕集材31の上下両面を露出させた状態で保持することができる。そして、農薬が散布されると、飛散した農薬は捕集材31の上面に付着するとともに、当該捕集材31の下面にも付着する。その後、捕集材31を上枠32及び下枠33から取り外して回収し、透過法を用いた赤外分光を行うことにより、捕集材31の両面の農薬付着量を一度に計測することができる。
【0042】
以上に示すように、本実施形態の農薬捕集装置12においては、単一のシート状の捕集材31の両面(互いに反対を向く面)が農薬付着面とされている。
【0043】
これにより、簡単な構成で農薬の付着量を計測することができる。また、透過法を用いることにより捕集材31の両面の付着量を一度に計測でき、便宜である。
【0044】
以上に本発明の好適な実施の形態(第1実施形態及び第2実施形態)を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0045】
第1実施形態及び第2実施形態において、脚部21は、4本にすることに代えて任意の本数にすることができる。
【0046】
第1実施形態において、測定台22の形状は立方体に限定されず、例えば直方体、立法体を複数組み合わせた形状、4面体、8面体等、様々な形状に変更することができる。また、捕集材23を貼り付ける枚数を必要に応じて変化させることができる。
【0047】
第2実施形態において、捕集材31の素材は、紙とすることに代えて、吸水性又は速乾性のある繊維等とすることができる。また、捕集材31は透過性のある物質とされているが、これに代えて例えば非透過性の物質とすることもできる。また、上枠32及び下枠33で捕集材31を取外し可能に保持する構成に代えて、平面剛性体としての水平板を脚部21によって支持し、この水平板の両面にシート状の捕集材をそれぞれ貼り付ける構成に変更することができる。この場合、上面と下面の農薬付着量を個別に計測することができる。
【0048】
第2実施形態において、上枠32と下枠33の締結方法は、ボルトで締結することに代えて、弾性体を用いた部材で挟み込む等、様々な方法に変更することができる。
【0049】
第2実施形態において、上枠32と下枠33の向きは、農薬付着面の向きを鉛直方向(上向き及び下向き)とすることに代えて、水平方向とする等、様々に変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
11,12 農薬捕集装置
21 脚部
22 測定台(多面体)
23 捕集材
31 シート状の捕集材
32 上枠
33 下枠


【特許請求の範囲】
【請求項1】
散布された農薬の付着量を計測するために用いられる農薬捕集装置において、農薬付着部を異なった向きで2面以上備えることを特徴とする農薬捕集装置。
【請求項2】
請求項1に記載の農薬捕集装置であって、上面と下面に農薬付着部を備えることを特徴とする農薬捕集装置。
【請求項3】
請求項2に記載の農薬捕集装置であって、単一のシート状の捕集材の両面を農薬付着部とすることを特徴とする農薬捕集装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の農薬捕集装置であって、多面体の有する面のうち少なくとも2面以上に前記農薬付着部を備えることを特徴とする農薬捕集装置。
【請求項5】
請求項1から4までの農薬捕集装置に用いられる捕集材であって、農薬付着部が吸水性又は速乾性があることを特徴とする農薬捕集材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−210274(P2010−210274A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53872(P2009−53872)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】