説明

農薬散布情報公開システム

【課題】散布された農薬に関する詳細な情報を、即座に且つ遠隔地からでも入手可能なシステムを提供する。
【解決手段】農薬散布情報公開システム1は、コンピュータ22を含む検出部と、サーバ50と、を備える。検出部は、圃場に散布した農薬の散布量を示す散布量情報を光分析技術によって検出する。散布量情報とは、植物への農薬の付着量、農薬の散布量の分布、及び前記農薬散布対象地域の外側に飛散した農薬の量等の情報である。コンピュータ22は、散布量情報を含む農薬散布情報を送信可能である。サーバ50は、送信装置から受信した農薬散布情報を農薬散布実施情報と対応付けて記憶可能であり、認証データが入力されることで、記憶されている農薬散布情報を出力可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬の散布に関する情報を公開するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物の品質及び栽培状況等に関する情報を消費者に公開するシステムが知られている。特許文献1及び特許文献2は、この種のシステムを開示する。
【0003】
特許文献1は、インターネットを通じて農作物の栽培履歴を公開する管理装置を開示する。この管理装置は、生産農家が記入したマークシートに基づいて農作物の栽培履歴をデータベースに記憶している。また、管理装置は、この栽培履歴を分析することで、地域全体の生産状況を算出したり、品質保証証明書を作成したりできるように構成されている。消費者及び流通業者は、インターネットを通じてこれらのデータを入手することができる。
【0004】
特許文献2は、玄米に関する検査確認データを消費者が入手可能なシステムを開示する。このシステムは、以下のように構成されている。即ち、検査機関は、玄米を一定量のロット毎に検査して、当該ロットごとの検査確認データを管理サーバに記憶する。精米工場は、玄米に対して精米及び袋詰めを行い、各ロットから販売用のパッケージを複数生産している。また、精米工場は、管理サーバにアクセスすることで、各ロットの検査確認データを入手することができる。そして、精米工場において、ロットから生産されたパッケージに対して2次元バーコードラベル(QRコード(登録商標))が付与される。この2次元バーコードラベルには、このロットに対応する検査確認データが記録されている。販売店及び消費者は、この2次元バーコードラベルを所定の手段で読み取ることで、パッケージに対応する米の検査確認データを入手することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−326563号公報
【特許文献2】特開2005−284972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなシステムで公開される情報は、産地、品種、肥料の種類及び農薬の散布量等が含まれる。この中でも農薬の散布量に関しては、以下の2つの理由から詳細な情報が即座に公開されることが望まれていた。
【0007】
第1の理由は、散布された農薬が風等の影響により圃場内に均一に散布せず、圃場の位置によって農薬の付着量にバラツキが生じるが、このバラツキを防止するためである。農薬の散布に関する詳細な情報が即座に得られると、農薬の散布量を、農薬の散布中に調整することができる。
【0008】
第2の理由は、散布された農薬が風等の影響で圃場外へ飛散する場合が考えられることから、圃場外へどの程度の農薬が飛散しているかを素早く且つ正確に把握して必要な対策を講じる必要があるためである。また、農薬の飛散は周囲に大きな影響を与える可能性があるので、農薬の散布量に関する情報は生産者以外の者(例えば、環境保護団体及び官公庁等)に対しても公開されることが必要であり、遠隔地からでも当該情報を入手可能であることが望まれる。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、散布された農薬に関する詳細な情報を、遠隔地からでも即座に入手可能なシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成の農薬散布情報公開システムが提供される。即ち、この農薬散布情報公開システムは、検出部と、送信装置と、サーバと、を備える。前記検出部は、農薬散布対象地域に散布した農薬の散布量を示す散布量情報を光分析技術によって検出する。前記送信装置は、前記散布量情報を含む農薬散布情報を送信可能である。前記サーバは、前記送信装置から受信した前記農薬散布情報を農薬散布実施情報と対応付けて記憶可能であり、認証データが入力されることで、記憶されている前記農薬散布情報を出力可能である。
【0012】
これにより、光分析技術による正確な分析結果を取得して即座にサーバへ送信することができるので、たとえ農薬散布対象地域から離れていても、詳細な散布量情報を迅速に知ることができる。特に、農薬散布対象地域に農薬を散布している者は、農薬の散布状況を確認しながら適切な量の農薬を散布することができる。
【0013】
前記の農薬散布情報公開システムにおいては、前記農薬散布実施情報は、前記農薬散布対象地域を地理的に特定する情報又は農薬散布のタイミング情報のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0014】
これにより、利用者は、地理的な位置又はタイミングを条件とした検索をすることで、利用者に必要な農薬散布情報を適切に抽出して入手することができる。
【0015】
前記の農薬散布情報公開システムにおいては、前記散布量情報は、植物への農薬の付着量、農薬の散布量の分布、及び前記農薬散布対象地域の外側に飛散した農薬の量のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0016】
これにより、植物(雑草、樹木及び農作物等)への農薬の付着量、及び農薬の散布量の分布、を知ることで、例えば農薬散布対象地域に農薬を散布している者は、農薬のより詳細な散布状況を確認しながら適切な量の農薬を適切な場所へ散布することができる。また、農薬散布対象地域の外側に飛散した農薬の量を知ることで、例えば農薬散布対象地域の近隣者は、自己の居住地域に対する農薬の影響を詳細に知ることができる。
【0017】
前記の農薬散布情報公開システムにおいては、前記農薬散布情報は、使用した農薬の種類、農薬を散布した時の気象状況、及び農薬の散布に用いた散布装置の作業軌跡のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0018】
これにより、使用した農薬の種類を知ることで、利用者は、適切な農薬が使用されていることを確認することができる。また、農薬を散布した時の気象状況、及び農薬の散布に用いた散布装置の作業軌跡、を知ることで、農薬の飛散状況をより詳細に把握することができる。
【0019】
前記の農薬散布情報公開システムにおいては、前記検出部及び前記送信装置は一体的に構成されていることが好ましい。
【0020】
これにより、検出部から送信装置へ農薬散布情報を伝達する時間を軽減できるので、より迅速に農薬散布情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る農薬散布情報公開システムの主要な構成を示す模式図。
【図2】本実施形態に係る検出部の設置例を示す説明図。
【図3】変形例に係る検出部の設置例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る農薬散布情報公開システム1の主要な構成を示す模式図である。図2は、本実施形態に係る検出部20の設置例を示す説明図である。
【0023】
図1に示す本実施形態の農薬散布情報公開システム1においては、圃場等に設置された検出部20が農薬の散布量に関する情報を検出しており、サーバ50はこの散布量情報等を受信して記憶可能に構成されている。圃場の所有者及び圃場の近隣住民等は、このサーバ50にアクセスすることで、上記の情報を入手することができるようになっている。
【0024】
以下、農薬散布情報公開システム1について詳しく説明する。本実施形態の農薬散布情報公開システム1は、検出部20と、サーバ50と、から構成されている。
【0025】
検出部20は、農薬の散布量に関する散布量情報を検出する。本実施形態の散布量情報には、農作物への農薬の付着量、農薬の散布量の分布、及び散布対象外の圃場に農薬が飛散した飛散量、が含まれている。なお、以下の説明では、この飛散量のことをドリフト量と称することがある。この検出部20は、図2に示すように、農薬捕集装置10と、分析装置21と、コンピュータ22と、を備えている。
【0026】
農薬捕集装置10は、農薬捕集材11と、この農薬捕集材11を支持するための支持台と、を備えている。農薬捕集装置10は、農薬散布の対象となっている圃場に配置され、無人ヘリで散布された農薬が農薬捕集材11に付着するように構成されている。この農薬捕集材11は取外し可能であり、分析装置21で当該農薬捕集材11の表面を分析することができるようになっている。
【0027】
農薬捕集材11はシート状又は板状であり、矩形状に形成されている。農薬捕集材11の素材については特に限定しないが、吸水性のある材質(例えば繊維状のシート)で構成すれば、農薬散布後に農薬捕集材11の表面を乾燥させなくても当該農薬捕集材11を回収することができるため、好適である。
【0028】
本実施形態では、農薬捕集材11は、上面及び下面の両面に農薬を付着させることができるように構成されている。そのため、農作物の葉裏等に対する農薬の付着量を分析することで、農作物への農薬の付着量を把握することができる。
【0029】
また、農薬捕集装置10は、農薬散布対象の圃場内にマトリックス状に縦横に並べて複数配置されており、当該圃場内における農薬付着量のバラツキを効果的に測定することができる。このバラツキを基に、圃場のどの位置でどのくらいの農薬が散布されたかを示す農薬の散布量の分布を得ることができる。また、散布対象の圃場と散布対象外の圃場との間にも農薬捕集装置10が配置されているため、前記ドリフト量を測定することもできる。
【0030】
分析装置21は、フーリエ赤外分光光度計(FT−IR)であって、その測定方法は拡散反射法を用いたものである。この分析装置21は、光源と、干渉計と、検出器と、A/D変換器と、を備える。また、分析装置21は、農薬捕集材11をセットして、前記拡散反射法により当該農薬捕集材11の表面を測定できるように構成されている。前記拡散反射法について簡単に説明すると、光源から出た赤外光が干渉計を通過して干渉光となり、その干渉光が農薬捕集材11に照射され、農薬捕集材11から反射する光を検出器で検出するものである。分析装置21は、検出器で検出した光をA/D変換器でデジタル信号に変換し、コンピュータ22へと送信するように構成されている。
【0031】
コンピュータ22は、分析装置21から受信したデジタル信号に対してフーリエ変換などの演算処理を行うことにより、赤外線スペクトルデータを作成するように構成されている。また、コンピュータ22の記憶装置には、様々な農薬の赤外線スペクトルデータと、当該農薬の検量式データと、がデータベース化された検索ライブラリが記憶されている。コンピュータ22は、前記赤外線スペクトルデータを検索ライブラリのデータベースに基づいて分析することにより、赤外線スペクトルに含まれる農薬の定性分析及び定量分析を行うことができる。このようにして、農薬捕集材11に付着している農薬を分析して得られた分析結果と、当該農薬捕集材11の設置箇所と、から前記散布量情報(農作物への農薬の付着量、農薬の散布量の分布、及びドリフト量)を算出することができる。
【0032】
また、このコンピュータ22の近傍には図略の温度計及び風向風速計等が配置されており、この測定によって得られた気象情報(温度、風向及び風速等)がコンピュータ22に送信されている。
【0033】
また、無人ヘリを地上から操作するための無線操縦機は、コンピュータ22と接続可能に構成されている。そして、農薬散布時の無人ヘリの作業軌跡である軌跡情報は、コンピュータ22に送信されている。
【0034】
コンピュータ22は送信装置としての機能も有しており、WAN(Wide Area Network)としてのインターネット70に接続されている。そしてコンピュータ22は、上記のようにして得られた前記散布量情報、気象情報、及び軌跡情報、を含んだ情報である農薬散布情報をサーバ50へ送信している。なお、コンピュータ22は、この農薬散布情報とともに、圃場の位置、圃場の名称、日時及び農薬を散布した者等の農薬を散布したときの状況を示す情報である農薬散布実施情報をサーバ50へ送信している。
【0035】
サーバ50は記憶装置を備え、農薬散布情報を農薬散布実施情報と対応付けて記憶している。また、サーバ50は、インターネット70に接続可能な状況にあるコンピュータ(図1におけるサーバアクセス用コンピュータ60)からアクセス可能に構成されている。そして、サーバは、農薬散布実施情報(例えば圃場の住所)が指定されることにより、当該農薬散布実施情報に対応する農薬散布情報のタイトル部分を出力することができる。
【0036】
なお、このタイトル部分の出力段階では、散布量情報までは出力されない。即ち、このタイトル部分は圃場の名称や日時等で構成されており、散布量情報は含まれていない。対応する散布量情報は、認証(詳細については後述)が行われることで入手可能になっている。
【0037】
次に、このシステムを運用する流れを詳細に説明する。下記の例では、所有者(生産者)から委託を受けた防除業者が農薬の散布、データの分析及び各種情報の送信を行う。そして、防除業者は、サーバ50を有するサーバ業者と共同でこのシステムを運営している。
【0038】
圃場の所有者は、防除業者に対して圃場の防除委託を行う。委託を受けた防除業者は、農薬捕集装置10を前述のように圃場に設置した後に、無人ヘリ等を操作して農薬を散布する。散布された農薬は農薬捕集材11の上面に付着するとともに、当該農薬捕集材11の下面にも付着する。
【0039】
その後、防除業者は、農薬捕集材11を支持台から取り外して回収し、表面に付着した農薬の濃度を分析装置21によって測定する。そして、得られたデジタル信号に対してコンピュータ22が演算処理を行い、散布量情報を算出する。また、コンピュータ22には、前述のように、気象情報及び軌跡情報が送信されている。
【0040】
また、防除業者は、コンピュータ22を操作して、圃場の住所、圃場の名称、日時及び自らの業者名を入力する。なお、気象情報については、このときに手動で入力することもできる。
【0041】
そして、防除業者は、このコンピュータ22をインターネットに接続させ、サーバ業者の有するサーバ50と接続させる。そして、農薬散布情報及び農薬散布実施情報をサーバ50へ送信する。
【0042】
ここでサーバ50が記憶している農薬散布情報は、広く一般に開放することも可能であるが、本実施形態の農薬散布情報公開システム1においては、この農薬散布情報を利用者に対して有償で提供している。その手順について以下に説明すると、利用者は、初めにインターネット70に接続されているサーバアクセス用コンピュータ60からサーバ50に接続する。そして、このサーバアクセス用コンピュータ60のディスプレイ上に表示される指示に従って自らの希望する情報を検索する。
【0043】
特に圃場を地理的に特定して検索をする場合は、GIS(地理情報システム)を利用して地図から圃場を特定することができる。上記の他にも、圃場の住所を入力して、購入した認証データを入力することで、サーバ50から当該圃場の農薬散布情報を入手することができる。また、住所以外にも、散布された日時、防除業者名等の様々な条件で検索をすることができる。
【0044】
そして、自らの希望する農薬散布情報を特定すると、当該農薬散布情報に対応している認証データをサーバ業者から適宜の方法で購入する。この認証データは、パスワードのような文字列及び適宜のデータファイルであり、当該認証データを適用することで農薬散布情報を入手することができる。
【0045】
また、サーバ50からは、農薬散布情報に加えて、当該農薬散布における農薬散布量が規定量どおりに行われたこと等を証明する証明書を発行可能に構成されている。
【0046】
次に、この農薬散布情報公開システム1を導入するメリットを利用者ごとに分けて説明する。考えられる利用者としては、圃場の所有者、隣接圃場の所有者、近隣住民、国及び地方公共団体等を挙げることができる。
【0047】
圃場の所有者(又は委託を受けた防除業者)にとっては、農薬散布情報公開システム1を用いることにより即座に正確な分析結果を得ることができるので、その場で農薬の散布状況を確認することができる。従って、散布作業の途中で散布状況を分析し、当該分析結果を確認しながら残りの作業を行うことができる。この方法により、必要な箇所に必要な量だけ農薬を散布することができる。
【0048】
隣接圃場の所有者にとっては、農薬散布情報公開システム1を用いることにより自己の圃場に飛散してきた農薬量を知ることができるので、自己の農作物に対する影響を推定することができる。また、このドリフト量を即座に知ることができるので、自己の農作物に対する影響が大きい場合等は、散布方法の変更の要請等の適切な対策を早期に行うことができる。
【0049】
近隣住民にとっては、農薬散布情報公開システム1を用いることにより、自己の居住地等にドリフトが無いことを確認することができる。仮に、ドリフトが発生した場合においても、当該事実を即座に知ることができるので、適切な対策を早期に行うことができる。
【0050】
国及び地方公共団体にとっては、農薬散布情報公開システム1を用いることにより、適切な農薬が適量で使用されているか等を監視することができる。特に、農薬散布情報公開システム1は信頼性の高い測定結果に基づいて証明書を発行することができるため、上記の監視の実効を効果的に確保することができる。
【0051】
このように、本実施形態の農薬散布情報公開システム1を使用することで、農薬散布に係る正確な情報にアクセスする手段を圃場の所有者と地域住民等に提供することができ、無用な不安を適切に取り除くことができる。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態の農薬散布情報公開システム1は、コンピュータ22を含む検出部20と、サーバ50と、を備える。検出部20は、圃場に散布した農薬の散布量を示す散布量情報を光分析技術によって検出する。コンピュータ22は、散布量情報を含む農薬散布情報を送信可能である。サーバ50は、送信装置から受信した農薬散布情報を農薬散布実施情報と対応付けて記憶可能であり、認証データが入力されることで、記憶されている農薬散布情報を出力可能である。
【0053】
これにより、光分析技術による正確な分析結果を取得して即座にサーバ50へ送信することができるので、たとえ圃場から離れていても、詳細な散布量情報を迅速に知ることができる。特に、圃場に農薬を散布している者は、農薬の散布状況を確認しながら適切な量の農薬を散布することができる。
【0054】
また、本実施形態の農薬散布情報公開システム1においては、農薬散布実施情報は、圃場を地理的に特定するための住所及び農薬散布の日時の情報を含んでいる。
【0055】
これにより、利用者は、住所又は日時を条件とした検索をすることで、利用者に必要な農薬散布情報を適切に得ることができる。
【0056】
また、本実施形態の農薬散布情報公開システム1においては、散布量情報は、植物への農薬の付着量、農薬の散布量の分布、及び圃場の外側に飛散した農薬の量を含んでいる。
【0057】
これにより、農作物への農薬の付着量、及び農薬の散布量の分布、を知ることで、圃場の所有者(又は委託を受けた防除業者)は、農薬のより詳細な散布状況を確認しながら適切な量の農薬を適切な場所へ散布することができる。また、圃場の外側に飛散した農薬の量を知ることで、例えば圃場の近隣者は、自己の居住地域に対する農薬の影響を詳細に知ることができる。
【0058】
また、本実施形態の農薬散布情報公開システム1においては、農薬散布情報は、使用した農薬の種類、農薬を散布した時の気象状況、及び農薬の散布に用いた無人ヘリの作業軌跡を含んでいる。
【0059】
これにより、使用した農薬の種類を知ることで、利用者は、適切な農薬が使用されていることを確認することができる。また、農薬を散布した時の気象状況、及び農薬の散布に用いた無人ヘリの作業軌跡を知ることで、農薬の飛散状況をより詳細に把握することができる。
【0060】
また、本実施形態の農薬散布情報公開システム1においては、検出部20がコンピュータ22を含んでおり、検出部20及びコンピュータ22は一体的に構成されている。
【0061】
これにより、検出部20で散布量情報を検出すると同時にサーバ50へ農薬散布情報を送信することができるため、より迅速に当該農薬散布情報を提供できる。
【0062】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。図3は、変形例に係る検出部20の設置例を示す説明図である。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0063】
この検出部20aは、反射鏡35と、分析装置21aと、コンピュータ22と、を備えている。
【0064】
分析装置21aは、上記実施形態と同様にFT−IRとして構成されているが、上記実施形態とは異なり、測定方法としてオープンパスシステムを採用している。この分析装置21aは、光源と、干渉計と、望遠鏡と、検出器と、A/D変換器と、を備えている。
【0065】
このオープンパスシステムについて簡単に説明すると、図3に示すように、計測対象空間の一端側に分析装置21aを、他端側に反射鏡35をそれぞれ配置する。そして、光源からの赤外光を、干渉計を介して望遠鏡から分析装置21の外部に投光し、反射鏡35によって反射された光を再び望遠鏡で集光して、集光された光を検出器で検出する。この計測方法により、屋外のように開放された空間における大気中のガス濃度を測定することができる。そして、分析装置21aは、検出器で検出した光をA/D変換器でデジタル信号に変換し、コンピュータ22へ送信するように構成されている。
【0066】
なお、このコンピュータ22はインターネット70に接続されており、測定で得られた農薬散布情報をサーバ50に送信可能に構成されている。
【0067】
コンピュータ22は、前記分析装置21から入力されるデジタル信号に基づいて赤外線スペクトルデータを作成し、検索ライブラリに基づいて、前記赤外線スペクトルデータに含まれる農薬の定性分析と定量分析を行えるように構成されている。
【0068】
また、コンピュータ22は、赤外線スペクトルデータを分析することによって得られた大気中の農薬濃度に基づいて、作物に対する農薬の付着量を予測することができるように構成されている。具体的には以下のとおりである。まず、予め試験的な農薬の散布を行い、そのときに測定した大気中の農薬濃度と、所定時間経過後に(例えば上記実施形態の農薬捕集装置を用いて)測定した農薬の付着量と、を付着量データベースとしてコンピュータ22の記憶装置に記憶しておく。そして、コンピュータ22は、前記付着量データベースを参照することで、農薬散布後(又は農薬散布途中)における大気中の農薬濃度から、最終的に作物に付着する農薬の量を予測できるように構成されている。
【0069】
まず、農薬の散布に先立って、分析装置21aとコンピュータ22と反射鏡35とを適宜の位置に配置し、農薬散布対象の圃場内、又はその近傍に光路を設定する。分析装置21aとコンピュータ22と反射鏡35との配置方法の例を図3に示す。図3は、この図3に示すように、農薬散布対象の圃場の周囲に光路を設定することで、ドリフト量を測定することができる。
【0070】
また、反射鏡35は1つでも良いが、図3の例に示すように複数の反射鏡35を用いて農薬散布対象の圃場の周囲を囲むようにして光路を設定すれば、より確実にドリフトを検出することができる。また、複数の反射鏡35を用いることで光路が長くなり、検出精度を高めることができる。
【0071】
なお、上記実施形態では、空気中に浮遊している農薬が農薬捕集材11に付着するまでの間は農薬捕集材11を回収することができなかったが、本変形例では農薬散布終了後直ちに分析を行うことができる。また、農薬捕集材11を回収する手間も不要になる。そのため、より素早くサーバ50へ散布量情報を送信することができ、農薬散布情報が利用者に提供可能になるまでの時間をより短くすることができる。
【0072】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0073】
上記では農薬散布対象地域として圃場を採用して本発明を適用する例を説明したが、これに代えて、例えば森林や公園等にも本発明を適用することができる。
【0074】
農薬散布情報としては、上記で示した情報の全てを分析しなくてもよく、少なくとも何れか1つで良い。例えば農薬のドリフト量を分析しない場合、上記実施形態では農薬散布対象の圃場の周囲に農薬捕集装置10を配置する必要がなくなる。また、農薬のドリフト量を分析しない場合、上記変形例においては、圃場を横断するように光路を設定することもできる。
【0075】
コンピュータ22は、検出部20,20aの一部であるとともに送信装置としても機能しているが、検出部20,20aが送信機能を含まない構成にしても良い。つまり、検出部が、分析装置21,21aの機能と、その分析結果を解析する機能と、を備えた構成である。
【0076】
この場合、送信装置については、例えば以下の2つの構成が考えられる。第1の例は、送信装置が防除業者の作業車等に備えられている構成である。この場合、圃場近傍の前記検出部が分析した散布量情報等は携帯型メモリ等にいったん記憶させるようにした上で、この携帯型メモリ等を送信装置にセットすることで、当該送信装置が散布量情報を読み出してサーバ50へ送信するように構成すれば良い。第2の例は、送信装置が前記検出部の近傍に備えられており、両者はケーブル等で電気的に接続されている構成である。この場合、圃場近傍の前記検出部が分析した農薬散布情報等は、このケーブルを通じて送信装置に送信され、当該送信装置が農薬散布情報等を自動的にサーバ50へ送信することになる。
【0077】
フーリエ変換等の演算処理をコンピュータ22によって行う構成に代えて、可能であれば分析装置21側で当該フーリエ変換等を行っても良い。
【0078】
無人ヘリによって農薬散布を行う構成に代えて、その他の方法で防除作業をすることができる。
【0079】
農薬捕集装置10を用いた光分析と、オープンパスシステムを用いた光分析とを併用しても良い。例えば、農薬付着量のバラツキの測定には農薬捕集装置を、ドリフト量の測定にはオープンパスシステムを、というように測定対象に合わせて使い分けることができる。ただし、2つの分析方法を併用すると、分析装置も2つ必要となるとともに、農薬捕集装置や反射鏡をそれぞれ配置することが必要になるので、測定の簡素化の観点からは何れか1つの方法を用いることが好ましい。
【0080】
上記実施形態において、農薬捕集材11の設置位置及び枚数は上記の構成に限られず、例えば圃場の農作物の形状等に応じて変化させても良い。例えば、立方体及び直方体等の台座を備え、その各面に農薬捕集材11を貼り付ける構成に変更することができる。これにより、農作物のどの面にどのくらいの量の農薬が付着するかを推定することができる。
【0081】
上記変形例では、圃場の縁部に沿わせるようにして赤外線の光路を設定したが、これに限らず、例えば農薬散布対象の圃場を横断するようにして赤外線の光路を設定しても良い。ただし、付着量の予測精度を向上させる観点からは、付着量データベースを作成するための試験的な農薬散布が行われた時に設定されていた光路に可能な限り近い条件で光路を設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0082】
10 農薬捕集装置
11 農薬捕集材
20,20a 検出部
21,21a 分析装置
22 コンピュータ(送信装置)
35 反射鏡
50 サーバ
60 サーバアクセス用コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農薬散布対象地域に散布した農薬の散布量を示す散布量情報を光分析技術によって検出する検出部と、
前記散布量情報を含む農薬散布情報を送信可能な送信装置と、
前記送信装置から受信した前記農薬散布情報を農薬散布実施情報と対応付けて記憶可能であり、認証データが入力されることで、記憶されている前記農薬散布情報を出力可能なサーバと、
を備えることを特徴とする農薬散布情報公開システム。
【請求項2】
請求項1に記載の農薬散布情報公開システムであって、
前記農薬散布実施情報は、前記農薬散布対象地域を地理的に特定する情報又は農薬散布のタイミング情報のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする農薬散布情報公開システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の農薬散布情報公開システムであって
前記散布量情報は、植物への農薬の付着量、農薬の散布量の分布、及び前記農薬散布対象地域の外側に飛散した農薬の量のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする農薬散布情報公開システム。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の農薬散布情報公開システムであって、
前記農薬散布情報は、使用した農薬の種類、農薬を散布した時の気象状況、及び農薬の散布に用いた散布装置の作業軌跡のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする農薬散布情報公開システム。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の農薬散布情報公開システムであって、
前記検出部及び前記送信装置は一体的に構成されていることを特徴とする農薬散布情報公開システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−45292(P2011−45292A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196713(P2009−196713)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)