説明

農薬粒状組成物及びその製造方法

【解決手段】農薬活性成分、結合剤及び固体担体からなる粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体を含む被覆材料で被覆してなることを特徴とする、播種育苗期施用のための農薬粒状組成物。
【効果】本発明の農薬粒状組成物は、農薬活性成分の水中溶出パターンが適正に制御され、長期間に亘って優れた生物効果を発揮する。かつ、該3成分系共重合体による水稲種子の発芽・発根又は幼苗の生育に対する悪影響も無い。農薬散布回数の低減が可能で、作業量、農作業の負担の低減、化学物質による環境負荷の軽減が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬活性成分、結合剤及び固体担体からなる粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体を含む被覆材料で被覆してなり、農薬活性成分の溶出パターンを制御した播種育苗期施用のための農薬粒状組成物に関するものである。また、農薬活性成分、結合剤及び固体担体からなる粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体を含む被覆材料で被覆することを特徴とする該播種育苗期施用のための農薬粒状組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の農薬散布においては、人力負担の軽減(省力化)及び環境負荷軽減が重要視されている。省力化場面では大がかりな散布器具を必要としない農薬剤形や農薬施用技術が開発されている。環境負荷軽減場面では、農薬の使用量及び使用回数の減少が望まれ、それに見合った農薬開発が進められている。このような農薬開発においては、防除対象に最低限量の農薬を簡単に施用して、最大の薬効を得ることが目標となる。さらに最近は、液剤希釈散布や粉剤散布等において、薬剤が防除対象地域外に飛散すること、いわゆる「ドリフト」も大きな問題点となっている。例えば、都市部では居住環境への、田園地では周辺栽培作物への薬剤飛散の影響が指摘されている。
このような状況下、水稲栽培では、これまで本田で施用していた農薬を播種・育苗期に施用して、移植後本田においてその効果を発揮させる育苗箱施用が普及定着している。また野菜等園芸作物の栽培においても、水稲育苗箱施用と類似したセルトレイ施用が普及拡大の途上にある。いずれの施用も省力化と環境負荷軽減が図られ、ドリフトの心配もなく理想的である。その際に用いる農薬の形態としては粒状組成物がその目的に特に合致している。
しかしながら、農薬活性成分の種類によっては、粒状組成物として水稲育苗箱施用や園芸作物のセルトレイ施用を行っても、農薬活性成分が短期間で水中又は土壌中に溶出してしまい、薬害が発生したり、薬効の持続期間が短くなるなど、問題となる場合があった。このような問題を解決するために、農薬活性成分の溶出を制御して、溶出期間の長期化を図る試みが種々検討されており、特に農薬活性成分を含む粒状組成物を非水溶性又は難水溶性の被膜材料で被覆した農薬粒状組成物が多数開発されている。
【0003】
被膜材料としては、ワックス、合成樹脂及び合成ゴム類が多く用いられており、例えばワックス類ではパラフィンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタン酸ワックス等が、合成樹脂類では、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカルボン酸樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂及びロジンエステル等が用いられる。
そのなかでもアクリル樹脂は、耐水・耐透水性に優れ、低温造膜性が良く、経時劣化も少ないなどの特徴を有しており、被膜材料として適している。
一般的なアクリル樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体や、これらの2種以上の共重合体、又はこれら単量体とエチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、重合性不飽和シリコーンなどから選ばれる1種以上の単量体との共重合体が知られており、これらアクリル樹脂で被覆した農薬粒状組成物が多数開示されている(例えば、特許文献1、2又は3を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−9304号公報
【特許文献2】特開昭60−202801号公報
【特許文献3】特開2002−121101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被覆された農薬粒状組成物を育苗箱やセルトレイに施用する際、農薬活性成分の溶出を抑制しているにもかかわらず薬害が発生する場合があり、これは被覆材料自体に基づく薬害であることが明らかとなった。また、このような被覆材料自体による薬害の発生は、一般的な本圃移植直前や移植時の施用よりも、播種時の施用や育苗初期の催芽期施用において顕著であった。
このように、被覆による農薬活性成分の放出制御が達成されても、水稲育苗箱施用やセルトレイ施用への適用に関しては、播種から処理時期に薬害を発生させない被覆材料を選定する必要があるが、そのような知見をもとに被覆樹脂が選抜された先行技術はこれまでのところ見当たらない。
【0006】
本発明は、育苗箱やセルトレイへの施用時に薬害を発生させることのない、特定の樹脂によって被覆されることにより農薬活性成分が放出制御された水稲育苗箱施用及び/又は園芸作物セルトレイ施用のための農薬粒状組成物を提供することを課題とする。即ち、水稲育苗箱栽培における、育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、催芽期から移植時まで、セルトレイ育苗における播種時から移植時までに処理しても薬害を発生することのない被覆材料を用いて被覆された農薬粒状組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アクリル樹脂の中でもメタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体で被覆した農薬粒状組成物において、水稲育苗箱準備から本田移植直前までの水稲育苗期間や、園芸作物の播種から本圃移植までのセルトレイ育苗期間のいずれの時期に施用しても被覆材料自体による薬害が発生せず、経済的な被覆量で農薬活性成分の溶出を効率的に制御することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち本発明は、
[1] 農薬活性成分、結合剤及び固体担体を含有する粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、及びアクリル酸アルキルエステルからなる3成分系共重合体を含む被覆材料で被覆してなることを特徴とする、播種育苗期施用のための農薬粒状組成物、
[2] 農薬粒状組成物中の被覆材料の含有量が0.1〜60重量%である[1]に記載の農薬粒状組成物、
[3] 播種育苗期施用が水稲育苗箱施用であり、その施用時期が育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、催芽期から移植時までの期間である[1]又は[2]に記載の農薬粒状組成物、
[4] 播種育苗期施用が園芸作物セルトレイ施用であり、その施用時期が播種時から移植時までの期間である[1]又は[2]に記載の農薬粒状組成物、
[5] 農薬活性成分がチアジニル、プロベナゾール、アシベンゾラル−S−メチル、イソチアニル、オリサストロビン、ピロキロン、イソプロチオラン、アゾキシストロビン、フラメトピル、イミダクロプリド、チアクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン、クロチアニジン、チアメトキサムからなる群より選択される1種又は2種以上である[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の農薬粒状組成物、
[6] 農薬活性成分がチアジニルである[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の農薬粒状組成物、
[7] 農薬活性成分、結合剤及び固体担体を含有する粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体を含む被覆材料で被覆するこ
とを特徴とする、播種育苗期施用のための農薬粒状組成物の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体を含む被覆材料を用いて、農薬活性成分、結合剤及び固体担体を含有する粒状物を被覆してなることを特徴とする本発明の、例えば水稲育苗箱施用のための農薬粒状組成物は、農薬活性成分の水中溶出パターンが適正に制御されている。その結果、本発明の農薬粒状組成物は、長期間に亘って優れた生物効果を発揮する。かつ、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体自体も水稲種子の発芽・発根又は幼苗の生育に悪影響を及ぼさず、水稲育苗期間や本田移植後の薬害が回避される。こうした性能により、農薬散布回数の低減が可能である。また、特に水田本田での作業量を減らすことにより、農作業の負担を低減することができる。あわせて、化学物質による環境負荷軽減が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明の粒状農薬組成物及びその製造方法について具体的に説明する。
農薬活性成分としては、殺虫剤及び殺菌剤が主体となるが、場合によっては除草剤や植物成長調節剤等も配合可能であり、これらは一種又は二種以上を同時に配合することができる。また、その配合量は農薬粒状組成物の全量100重量%に対して0.01〜60重量%の割合が好ましく、さらに好ましくは0.1〜50重量%である。
【0011】
具体的な農薬有効成分(一般名)としては、例えば、フィプロニル(fipronil)、アセトプロール(acetoprole)等のフェニルピラゾール系殺虫剤、イミダクロプリド(imidacloprid)、アセタミプリド(acetamiprid)、ニテンピラム(nitenpyram)、ジノテフラン(dinotefuran)、チアクロプリド(thiacloprid)、チアメトキサム(thiamethoxam)、クロチアニジン(clothianidin)等のネオニコチノイド系殺虫剤、スピノサド(spinosad)等のマクロライド系殺虫剤、ベンフラカルブ(benfuracarb)等のカーバメート系殺虫剤、アセフェート(acephate)等の有機リン系殺虫剤、フロニカミド(flonicamid)、フルベンジアミド(flubendiamide)、クロラントラニリプロール(chlorantraniliprole)等の各種殺虫剤、チアジニル(tiadinil)、プロベナゾール(probenazole)、アシベンゾラル−S−メチル(acibenzolar-S-methyl)、イソチアニル(開発コード:BYF−1047)等の植物抵抗性誘導型病害防除剤、イソプロチオラン(isoprothiolan)、カルプロパミド(carpropamid)、ジクロシメット(diclocymet)、ピロキロン(pyroquilon)、オリサストロビン(orysastrobin)、アゾキシストロビン(azoxystrobin)、トリシクラゾール(tricyclazole)、フラメトピル(furametpyr)、フルトラニル(flutolanil)、チフルザミド(thifluzamide)等の殺菌剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明における農薬の活性成分としては、例えば水稲用植物抵抗性誘導型病害防除剤として使用されているチアジニル、プロベナゾール、アシベンゾラル−S−メチル及びイソチアニル、水稲用殺菌剤として使用されているオリサストロビン、ピロキロン、イソプロチオラン、アゾキシストロビン及びフラメトピル、水稲用殺虫剤として使用されているイミダクロプリド、チアクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン、クロチアニジン及びチアメトキサムが好ましく、特にチアジニルが好ましい。
【0012】
農薬粒状組成物を形成する上で結合剤と固体担体は不可欠である。結合剤は、天然系、半合成系及び合成系の高分子類等に分類され、例えば、天然系のものとしては、デンプン、アラビヤガム、トラガントガム、グアーガム、マンナン、ペクチン、ソルビトール、キサンタンガム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。また、半合成系としては、デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、α化デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒド
ロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられ、合成系のものとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、エチレン-アクリル酸共重合体、無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコールなどが挙げられるが、もちろん、これらに限定されるものではない。また、1種類を単独で用いることも、2種以上を併用することも可能であり、その添加量は、粒状農薬組成物全量に対して、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.3〜10重量%である。
【0013】
一方、固体担体としては、非水溶性固体担体及び水溶性固体担体とに分類され、非水溶性固体担体としては、例えば、クレー、炭酸カルシウム、タルク、ベントナイト、焼成珪藻土、未焼成珪藻土、含水ケイ酸、セルロース、パルプ、モミガラ、木粉、ケナフ粉等が挙げられる。また、水溶性固体担体としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖等の糖類、尿素、尿素ホルマリン縮合物、有機酸塩、水溶性アミノ酸類等が挙げられる。これら増量剤(固体担体)は単独で用いてもよく又は2種以上を混合して用いてもよい。これら固体担体の添加量は、粒状農薬組成物全量に対して、通常、0.5〜99.79重量%、好ましくは20〜98重量%である。
【0014】
また、本発明に関する農薬粒状組成物は、含有される農薬活性成分の薬効を最大限に発揮させたり、農薬粒状組成物の品質を良好なものとするため、必要に応じて、界面活性剤、溶剤、粉砕助剤、吸収剤、分解防止剤、色素等様々な補助成分が添加される。またそれらの選択や配合比は、使用する農薬有効成分の性質に適合するように決定することが必要である。
【0015】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等のノニオン界面活性剤、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等のアニオン界面活性剤等が例示される。
【0016】
以上のように種々の目的に沿って配合される農薬活性成分、結合剤及び固体担体を含有する粒状物は、一般に知られている押出し造粒法、転動造粒法、転動流動層造粒法、流動層造粒法、撹拌混合造粒法などにより製造することができる。例えば、円柱状の造粒物を得る場合は押出し造粒法が好ましく、農薬活性成分を結合剤、固体担体及び各種補助成分と混合し、適量の水を加え混練したのち、バスケット型造粒機、ディスク回転型造粒機、スクリュー型横出し造粒機、スクリュー型前出し造粒機、ツインドームグラン(不二パウダル社製)等の押し出し造粒機を用いて造粒し、適当な長さに切断して乾燥して、ふるい分けることにより製造することができる。
球状の造粒物を得る場合は転動造粒法及び撹拌混合造粒法が好ましく、農薬活性成分、固体担体、結合剤及びその他補助成分を混合して、この混合物を造粒機の造粒ベッセル内で撹拌羽根を回転させて撹拌転動状態にした後、水及び/又は結合剤の水溶液等を滴下又は噴霧して、適度な大きさまで粒子を成長させて造粒・乾燥・ふるい分けることにより製造することができる。
【0017】
本発明における被覆材料は、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルからなる3成分系共重合体を含有する。該共重合体であれば、種子の発芽・発根又は幼苗の生育に悪影響を及ぼさない。アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12であって、直鎖又は分岐のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、
アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル及びアクリル酸ドデシルなどが挙げられる。被覆材料の形態は特に限定されないが、界面活性剤を用いた乳化重合法により得られる水性乳濁液が好ましい。商業的に市販されているものとしては、例えば商品名「バナゾールKB660」、「バナゾールK―3608HN」(新中村化学工業(株))が挙げられる。
【0018】
また、本発明における被覆材料は、上記の共重合体単独でも、農薬粒状物として薬害の発生しない組合せである限り、他の被覆材料との混合物であってもよい。
他の被覆材料としては、ワックス、合成樹脂及び合成ゴム類が挙げられる。
ワックス類としては、例えば、パラフィンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタン酸ワックス等が、合成樹脂では、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカルボン酸樹脂、キシレン樹脂、ロジンエステル及び本発明における上記の共重合体以外のアクリル樹脂等が用いられる。
【0019】
本発明における上記の共重合体以外のアクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体又はこれら単量体とエチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、重合性不飽和シリコーンなどから選ばれる1種以上の単量体との共重合体などが挙げられる。
混合して使用する場合の混合割合は、農薬活性成分の放出制御の観点から、本発明における共重合体が被覆材料の全重量のうち、少なくとも2重量%程度、好ましくは5重量%程度以上である。
【0020】
本発明における被覆材料の使用量は、粒状農薬組成物中の含有量として、通常0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜50重量%、さらに好ましくは1〜35重量%の範囲である。使用量が0.1重量%より少ない場合には、被覆が不完全であったり、被覆の厚みが充分でなく、結果として農薬活性成分の放出制御が不充分となって、薬害が生じたり、防除効果の持続性が不足する。一方、使用量が60重量%を超えると、被覆が厚すぎて農薬活性成分がほとんど溶出されなくなり、所望の防除効果が得られないばかりか、被覆作業に膨大な時間を要して生産性に問題がある。望ましい被覆の厚みとしては、概ね0.3〜900μm厚、好ましくは1〜500μm厚程度である。
【0021】
該共重合体を含む被覆材料を農薬活性成分、結合剤及び固体担体を含有する粒状物に被覆する方法としては、例えば、加熱気流下での流動層中あるいは回転パン、回転ドラムでの転動中の粒状物に、該共重合体の乳濁液を連続的あるいは断続的に噴霧又は滴下し、乾燥する方法や、ナウタミキサやドラムミキサにて粒状物と該共重合体の乳濁液とを混合・吸収させて、流動層乾燥する方法等が示されるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の粒状農薬組成物は、農薬施用におけるあらゆる場面に適用可能であるが、特に種子の発芽・発根又は幼苗の生育段階で施用する場面、いわゆる播種育苗期に於いて有効である。例えば水稲箱育苗に於ける育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、催芽期から移植直前時までの期間の施用がこれにあたり、さらに近年移植同時施用も開発されており、この分野への適用も可能である。また、野菜等のセルトレイ育苗に於いても同様育苗培土混和時から移植時まで適用され得るが、特に好ましくは播種時及び催芽期施用や、移植時における植穴処理等が挙げられる。
尚、播種育苗期での栽培は、通常育苗培土が用いられるが、育苗マットやシート等培土以外の栽培に於いても適用可能である。
【0023】
施用の方法としては、通常の粒状農薬組成物と同様な方法によって施用することができ
、例えば、手での直接散粒、人力式散粒機、電動式散粒機、背負形動力式散粒機、走行形動力散粒機、トラクター搭載型散粒機、田植機搭載型散粒機、側条施用用施薬機、無人ヘリコプター等航空散粒機による方法等を挙げることができる。
例えば水稲育苗箱施薬においては、粒状農薬組成物を所定量の計り取れる計量カップですくい取り、育苗箱に振りかける方法、専用の育苗箱散布容器に入れて育苗箱に散粒する方法、農薬粒状組成物の包装容器に施された排出口や穴等から直接育苗箱に散粒する方法、動力式散粒機を用いて広範囲に配置した数多くの育苗箱に散粒する方法、播種作業時に専用の装置にて育苗箱に散粒する方法、育苗土壌と混和する方法等が例示される。
【0024】
上記のような散布を適正に行うためには、本発明の農薬粒状組成物の物理性は種々の項目に対してそれぞれ一定範囲内にあることが好ましい。例えば見掛け比重は農薬公定検査法において0.3〜2.0が好ましく、より好ましくは0.5〜1.5である。粒の硬度は全農ボールミル法において20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。粒度は目開き1700μmのふるいを通過して、目開き300μmのふるいを通過しない粒が粒状組成物全体の90重量%以上であることが好ましい。また、粒が円柱状である場合は、断面円の直径は0.3〜2.0mmが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5mmである。円柱の高さに当たる粒長は、断面円直径に対して0.5〜6倍であることが好ましいが、播種作業時の専用装置を用いて散布する場合、例えば苗箱施用薬剤散布装置(美善製、型式KS−25:ローラー式散粒機)や苗箱施薬ホッパー(スズテック製、型式SDP−33S、SDP−103S:ローラー式散粒機)、ポット育苗用箱施薬装置(みのる産業株式会社製、形式MPA−21:ローラー式散粒機)にて散布する場合は、断面円直径に対して2.5倍以上の粒長を有する粒が粒状組成物全体の50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%である。
【0025】
尚、本発明の粒状農薬組成物を施用する際の施用量は、水田や畑地の場合、10アールあたり、0.1〜20kg、好ましくは0.2kg〜5kgであり、水稲育苗箱の場合、育苗箱(通常、0.16m2)一枚あたり10〜200g、好ましくは10g〜100gである。又、例えばセルトレイに施用する際はセルトレイ(128穴)あたり30g程度の施用量で良い。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施例につき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例において「部」は「重量部」を意味するものである。
【0027】
実施例1
チアジニル13.3部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.2部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機(株式会社菊水製作所製)にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物90.0部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部と水4.7部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体10%を被覆した農薬粒状組成物を得た。
この被覆農薬粒状組成物の物理性は、見掛け比重0.93、硬度1、粒度(300〜1700μm)98%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒21%であった。
【0028】
実施例2
チアジニル13.0部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.5部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機(株式会社菊水製作所製)にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物92.5部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)22.7部と水12.3部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体7.5%を被覆した農薬粒状組成物を得た。
この被覆粒状農薬組成物の物理性は、見掛け比重0.92、硬度1、粒度(300〜1700μm)97%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒24%であった。
【0029】
実施例3
チアジニル12.6部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.9部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機(株式会社菊水製作所製)にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物95.0部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)15.2部と水19.8部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体5.0%を被覆した農薬粒状組成物を得た。
この被覆粒状農薬組成物の物理性は、見掛け比重0.91、硬度1、粒度(300〜1700μm)98%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒22%であった。
【0030】
実施例4
チアジニル13.5部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.0部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機(株式会社菊水製作所製)にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。
一方、フィプロニル30.0部、ポリビニルアルコール0.5部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1.0部、シリコーンオイル0.1部、水68.4部を混合し、ビーズ攪拌型湿式粉砕機(ダイノミルKDL,ウィリー・エ・バッコーフェン社製)を用いて平均粒径2μmまで粉砕し、懸濁液を得た。
上記粒状物88.9部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部、該フィプロニル含有懸濁液3.4部(純分で1.1部)及び水2.4部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエス
テルの共重合体10.0%を被覆した農薬粒状組成物を得た。
この被覆粒状農薬組成物の物理性は、見掛け比重0.92、硬度1、粒度(300〜1700μm)98%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒20%であった。
【0031】
比較例1
実施例1において、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部を、ポリ乳酸系樹脂乳濁液(商品名:プラセマL110、純分50%含有、第一工業製薬製)の20.0部に置き換え、これと混合する水を15.0部とする以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系樹脂10.0%被覆した農薬粒状組成物を得た。
比較例2
実施例1において、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部を、酢酸ビニル系樹脂乳濁液(商品名:モビニールM110、純分55%含有、ヘキスト製)の18.2部に置き換え、これと混合する水を16.8部とする以外は実施例1と同様にして、酢酸ビニル系樹脂10.0%被覆した農薬粒状組成物を得た。
【0032】
比較例3
実施例1において、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部を、エステルエーテル系樹脂乳濁液(商品名:スーパーフレックス126、純分30%含有、第一工業製薬製)の33.3部に置き換え、これと混合する水を1.7部とする以外は実施例1と同様にして、エステルエーテル系樹脂10.0%被覆した農薬粒状組成物を得た。
比較例4
実施例1において、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部を、シリカ・アクリル系樹脂乳濁液(商品名:PM541−34、純分45%含有、第一工業製薬製)の22.2部に置き換え、これと混合する水を12.8部とする以外は実施例1と同様にして、シリカ・アクリル系樹脂10.0%被覆した農薬粒状組成物を得た。
【0033】
比較例5
実施例1において、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルの共重合体乳濁液(純分33%)30.3部を、カーボネート系樹脂乳濁液(商品名:スーパーフレックス420、純分32%含有、第一工業製薬製)の31.3部に置き換え、これと混合する水を3.7部とする以外は実施例1と同様にして、カーボネート系樹脂10.0%被覆した農薬粒状組成物を得た。
比較例6
チアジニル12.0部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー75.5部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機(株式会社菊水製作所製)にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして農薬粒状組成物を得た。
【0034】
実施例1〜4及び比較例1〜6で調製した農薬粒状組成物について、次の方法にて試験を行った。
試験例1 水中溶出性試験
225mlマヨネーズ瓶に3度硬水100mlを注ぎ静置した。
実施例1〜4、及び比較例1〜6で調製した試料を夫々500mg精秤後、均一に該硬
水中に投下した。粒が水面上に浮遊している場合には、水底に沈降せしめた。マヨネーズ瓶を20℃遮光恒温条件で静置し、6時間、24時間後に中層より採水し、採水試料中のチアジニル濃度を、高速液体クロマトグラフを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
試験例2 水稲薬害試験
試験及び調査方法:イネ籾(品種:ひとめぼれ)はスポルタックスターナSE(200倍希釈)に24時間浸漬及び風乾後、15℃にて6日間浸種し、催芽を30℃24時間行い試験に供試した。標準育苗箱底面に新聞紙、床土2.2kg(クミアイ宇部培土2号)を敷き、箱当たり150gの籾を播種した。播種後、ダコニール1000(800倍希釈)を箱当たり500mlシャワーにて散水、土壌消毒を行った。各薬剤を標準育苗箱あたり50g処理し、上部より覆土(1.1kg)を行った。30℃接種箱内で積み重ねにて72時間出芽を行った後、温室内(25〜18℃設定)にて21日間栽培を行った。処理21日後にイネに対する薬害を(-:薬害なし、±:微、+軽度、++中度、+++重度;+以上の表記は実用上問題あり)の判定基準で調査した。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
比較例1〜5は従来技術により被覆された粒剤であり、比較例6と対比すると有効成分の溶出は制御されているが、薬害がでている。又、比較例6は全く被覆されていない粒剤
であり、有効成分の溶出が制御されていないので、有効成分に起因する薬害が強く出ている。例えば、本発明の実施例3は比較例1〜5と同程度に溶出制御されているが、薬害は見られない。このことは、本発明が有効成分の溶出を制御し、本発明の被覆材料を使用することで有効成分及び被覆材料に起因する薬害が見られないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農薬活性成分、結合剤及び固体担体からなる粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体を含む被覆材料で被覆してなることを特徴とする、播種育苗期施用のための農薬粒状組成物。
【請求項2】
農薬粒状組成物中の被覆材料の含有量が0.1〜60重量%である請求項1に記載の農薬粒状組成物。
【請求項3】
播種育苗期施用が水稲育苗箱施用であり、その施用時期が育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、催芽期から移植時までの期間である請求項1又は2に記載の農薬粒状組成物。
【請求項4】
播種育苗期施用が園芸作物セルトレイ施用であり、その施用時期が播種時から移植時までの期間である請求項1又は2に記載の農薬粒状組成物。
【請求項5】
農薬活性成分がチアジニル、プロベナゾール、アシベンゾラル−S−メチル、イソチアニル、オリサストロビン、ピロキロン、イソプロチオラン、アゾキシストロビン、フルメトピル、イミダクロプリド、チアクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン、クロチアニジン、チアメトキサムからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の農薬粒状組成物。
【請求項6】
農薬活性成分がチアジニルである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の農薬粒状組成物。
【請求項7】
農薬活性成分、結合剤及び固体担体からなる粒状物を、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸及びアクリル酸アルキルエステルの3成分系共重合体を含む被覆材料で被覆することを特徴とする、播種育苗期施用のための農薬粒状組成物の製造方法。




【公開番号】特開2009−29797(P2009−29797A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169529(P2008−169529)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】