説明

農薬粒状製剤及びその製造方法

【課題】下記本発明特定の被覆材料によって、農薬活性成分を含有する粒状物を被覆することにより、農薬活性成分の放出を抑制方向に制御することができ、かつ、農作物の播種期及び育苗期の施用を含む農薬の全施用時期において薬害を発生させず、その結果、農薬散布における省力化、環境負荷軽減、ドリフト防止及び薬害防止を達成できる農薬粒状製剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体(特に、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体)を含有する被覆材料で被覆してなる、農薬粒状製剤。農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆する工程を含む、農薬粒状製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬活性成分を含有する粒状物をメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆してなることを特徴とし、農薬活性成分の放出を抑制方向に制御することができ、かつ、農作物の播種期及び/又は育苗期に施用した場合でも薬害の問題がない、農薬粒状製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の農薬散布において、省力化及び環境負荷軽減が重要視されている。省力化場面では大がかりな散布器具を必要としない農薬や施用技術が開発されている。環境負荷軽減場面では、農薬の施用量及び施用回数の減少が望まれ、それに見合った農薬開発が進められている。このような農薬開発においては、防除対象に最低限の農薬を簡単に施用して、最大の薬効を得ることが目標となる。さらに最近は、液剤希釈散布や粉剤散布等において、薬剤が防除対象地域外に飛散すること、いわゆる「ドリフト」も大きな問題点となっており、例えば都市部では居住環境への影響が、田園地では周辺栽培作物への影響が指摘されている。
このような状況下、水稲栽培における農薬の施用方法として、これまで本田で施用していた農薬を本田に移植する前の育苗箱での播種期及び/又は育苗期に施用して、苗を本田に移植後、本田においてその効果を発揮させる育苗箱施用が普及定着している。また野菜等の園芸作物の栽培における農薬の施用方法として、水稲栽培の育苗箱施用と類似したセルトレイ施用が普及拡大の途上である。いずれの施用方法も省力化と環境負荷軽減が図られ、ドリフトの心配もなく理想的である。また、ドリフト防止の見地から、農薬の形態としては液剤や粉剤よりも粒状製剤がその目的に合致している。
しかしながら、通常の粒状製剤では、農薬活性成分の種類によっては、農薬活性成分が短期間で水中又は土壌中に放出してしまい、薬害が発生したり、薬効の持続期間が短くなる等、問題となる場合があった。特に、水稲の育苗箱施用やセルトレイ施用では、本田又は本圃での効果を発揮させるため、一般に高濃度で施用する必要があり、その結果薬害が生じやすく、また、高濃度で施用した場合でも薬効の持続期間は充分に延長されない等、問題となる場合があった。
このような問題を解決するために、農薬活性成分の放出を抑制方向に制御して、放出期間の長期化を図る試みが種々検討されており、特に農薬活性成分を含有する粒状物を非水溶性又は難水溶性の被覆材料で被覆した農薬粒状製剤が多数開発されている。
【0003】
被覆材料としては、ワックス、合成樹脂及び合成ゴム類が多く用いられており、例えばワックス類ではパラフィンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタン酸ワックス等が、合成樹脂類では、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカルボン酸樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂及びロジンエステル等が用いられる。
そのなかでもアクリル樹脂は、耐水・耐透水性に優れ、低温造膜性が良く、経時劣化も少ない等の特徴を有しており、被覆材料として適している。
特許文献3には、従来のアクリル樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体や、これらの2種以上の共重合体、又はこれら単量体とエチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル等から選ばれる1種以上の単量体との共重合体が知られていることが記載されている。
【0004】
農薬活性成分を含有する粒状物を非水溶性又は難水溶性の被覆材料で被覆した農薬粒状製剤として、具体的に例えば、特許文献1に、農薬成分を含む粒状担体の表面に、アルカリ物質からなる第一被覆層が形成され、該第一被覆層の表面に、オレフィン系重合体とアルカリ水可溶性重合体との混合物からなる第二被覆層が形成されてなる被覆粒状農薬が開示されている。また、特許文献2には、農薬有効成分及び固体希釈剤等から成る粒剤形成核に対し、ワックス、及びアクリル樹脂を被覆してなる徐放型粒状物質が開示されている。さらに、特許文献3には、農薬活性成分、結合剤及び固体担体を含有する粒状物と、該粒状物を被覆するアクリルシリコーン樹脂とからなる被覆粒状農薬組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平6−9304号公報
【特許文献2】特開昭60−202801号公報
【特許文献3】特開2002−121101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究により、農薬活性成分を含有する粒状物を非水溶性又は難水溶性の被覆材料で被覆した従来の農薬粒状製剤を、農作物の播種期や育苗期に施用(例えば、稲(特に、水稲)の育苗箱施用や園芸作物のセルトレイ施用等)すると、農薬活性成分の放出が抑制方向に制御されているにもかかわらず薬害が発生する場合があること、そしてその薬害の原因が被覆材料自身が農作物の種子の発芽・発根又は幼苗の生育に悪影響を及ぼすことによるものであることの知見を得た。また、本発明者らは、このような被覆材料自身による薬害の発生は、農作物の苗の本田又は本圃への移植直前や移植時の施用よりも、播種時や育苗初期の乳苗期の施用において顕著であることの知見を得た。
本発明者らは、上記の知見から、農薬散布における省力化、環境負荷軽減、ドリフト防止及び薬害防止を達成するためには、農薬の製剤設計において、被覆による農薬活性成分の放出の抑制方向への制御が達成され、かつ、農作物の播種期及び育苗期の施用(例えば、稲(特に、水稲)の育苗箱施用や園芸作物のセルトレイ施用等)を含む農薬の全施用時期において薬害を発生させない被覆材料を選定する必要があることに着目した。そのような知見をもとに被覆樹脂が選抜された先行技術はこれまでのところ見当たらない。
【0006】
本発明は、後述の本発明特定の被覆材料によって農薬活性成分を含有する粒状物を被覆することにより、農薬活性成分の放出を抑制方向に制御することができ、かつ、農作物の播種期及び育苗期の施用(例えば、稲(特に、水稲)の育苗箱施用や園芸作物のセルトレイ施用等)を含む農薬の全施用時期において薬害を発生させず、その結果、農薬散布における省力化、環境負荷軽減、ドリフト防止及び薬害防止を達成できる農薬粒状製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アクリル樹脂の中でもメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、特に、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体を含有する被覆材料で農薬活性物質を含有する粒状物を被覆した農薬粒状製剤とすることで、農作物の播種期及び育苗期(例えば具体的には、稲(特に、水稲)の育苗箱準備・播種から苗の本田移植直前までの播種期及び育苗期や、園芸作物のセルトレイ準備・播種から苗の本圃移植直前までの播種期及び育苗期等)を含む農薬の全施用時期のいずれの時期に施用しても被覆材料自身による薬害が発生せず、かつ、農薬活性成分の放出を抑制方向に制御することができ、その結果、農薬散布における省力化、環境負荷軽減、ドリフト防止及び薬害防止が可能となることを見出し、さらに研究を進めて本発明を完成させた。
本発明の農薬粒状製剤は、さらに、上記被覆材料に含有されるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体として、重量平均分子量、最低造膜温度及びガラス転移温度(以下、Tgと略記する。)が後述の特定の範囲内のものを使用することで、経済的な被覆量で農薬活性成分の放出をより効率的に抑制方向に制御することができる。
【0008】
即ち本発明は、
[1]農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆してなる、農薬粒状製剤、
[2]農作物の播種期及び/又は育苗期に施用するための、上記[1]記載の農薬粒状製剤、
[3]農作物が稲である、上記[2]記載の農薬粒状製剤、
[4]農作物が園芸作物である、上記[2]記載の農薬粒状製剤、
[5]共重合体が、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体である、上記[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の農薬粒状製剤、
[6]共重合体が、メタクリル酸とアクリル酸エチルとを、1:0.7〜1:1.3の割合で共重合してなる共重合体である、上記[5]記載の農薬粒状製剤、
[7]農薬粒状製剤中の被覆材料の含有量が0.1〜60重量%である、上記[1]乃至[6]のいずれか1項に記載の農薬粒状製剤、
[8]農薬活性成分がチアジニルである、上記[1]乃至[7]のいずれか1項に記載の農薬粒状製剤、
[9]農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆する工程を含む、農薬粒状製剤の製造方法、
[10]さらに、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する水溶液中でメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとを重合して、前記被覆材料に含有される共重合体を得る工程を含む、上記[9]記載の製造方法、及び、
[11]農薬粒状製剤が、農作物の播種期及び/又は育苗期に施用するための農薬粒状製剤である、上記[9]又は[10]に記載の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0009】
農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆してなる、本発明の農薬粒状製剤は、農薬活性成分の水中への放出を抑制方向に制御することができ、かつ、被覆材料に含有されるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体自身が農作物(例えば、稲(特に、水稲)、園芸作物等)の種子の発芽・発根及び幼苗の生育に悪影響を及ぼさないため、多量の農薬製剤を施用する等の理由から一般に薬害の発生し易い農作物の播種期や育苗期の施用(特に、育苗箱内又はセルトレイ内の施用等)においても薬害を発生させることなく施用でき、従って、本田又は本圃移植前の播種期や育苗期の施用、本田又は本圃移植後の施用等の農薬の全施用時期に渡り、薬害が回避される。加えて、本発明の農薬粒状製剤は、農薬活性成分の水中への放出が適性に抑制方向に制御できるので、長期間に亘って優れた効果(防除性能等)を発揮する。このように、本発明の農薬粒状製剤によれば、(1)農薬散布の省力化、環境負荷軽減及びドリフト防止を可能とする農作物の育苗箱施用又はセルトレイ施用を、被覆材料自身の薬害の問題なく行うことができ、かつ、(2)農薬活性成分の放出が抑制方向に制御できることにより、農薬活性成分が短期間に放出されることによる薬害を防止できるので、本発明の農薬粒状製剤を例えば農作物の育苗箱施用又はセルトレイ施用に用いることで、農薬散布における省力化、環境負荷軽減、ドリフト防止及び薬害防止が可能となる。
さらに、本発明の農薬粒状製剤は、被覆材料に含有されるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体として、重量平均分子量、最低造膜温度及びTgが後述の特定の範囲内のものを使用することで、経済的な被覆量で農薬活性成分の放出をより効率的に抑制方向に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明の農薬粒状製剤及びその製造方法について具体的に説明する。
本発明に用いられる農薬活性成分としては、特に限定されず、例えば、殺虫剤、殺菌剤、病害防除剤、除草剤、植物成長調節剤等が挙げられ、一種又は二種以上を同時に配合することができる。具体的には例えば、殺虫剤や殺菌剤を主体とし、場合によってはこれに除草剤や植物成長調節剤等を配合したものが挙げられる。
本発明の農薬粒状製剤中の農薬活性成分の含有量は、農薬活性成分の種類等により異なり特に限定されるものではないが、農薬粒状製剤100重量部に対して好ましくは0.01〜60重量部であり、さらに好ましくは0.1〜50重量部である。例えば、農薬活性成分として後述のチアジニルを用いる場合には、農薬粒状製剤100重量部に対してチアジニルを好ましくは0.01〜60重量部、さらに好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部の割合で含有させればよい。
【0011】
具体的な農薬活性成分(一般名)としては、例えば、フィプロニル(fipronil)、アセトプロール(acetoprole)等のフェニルアゾール系殺虫剤、イミダクロプリド(imidacloprid)、アセタミプリド(acetamiprid)、ニテンピラム(nitenpyram)、ジノテフラン(dinotefuran)、チアクロプリド(thiacloprid)、チアメトキサム(thiamethoxam)、クロチアニジン(clothianidin)等のネオニコチノイド系殺虫剤、フロニカミド(flonicamid)等のニコチノイド系殺虫剤、スピノサド(spinosad)等のマクロライド系殺虫剤、ベンフラカルブ(benfuracarb)等のカーバメート系殺虫剤、フルベンジアミド(flubendiamide)等のフタル酸ジアミド系殺虫剤、アセフェート(acephate)等の有機リン系殺虫剤等の各種殺虫剤、チアジニル(tiadinil)、プロベナゾール(probenazole)、アシベンゾラル−S−メチル(acibenzolar-S-methyl)、BYF−1047(開発コード)等の植物抵抗性誘導型病害防除剤、イソプロチオラン(isoprothiolan)、カルプロパミド(carpropamid)、ジクロシメット(diclocymet)、ピロキロン(pyroquilon)、オリサストロビン(orysastrobin)、アゾキシストロビン(azoxystrobin)、トリシクラゾール(tricyclazole)、フラメトピル(furametpyr)、フルトラニル(flutolanil)、チフルザミド(thifluzamide)等の殺菌剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明における農薬活性成分としては、チアジニルが好ましく用いられる。
【0012】
本発明の農薬粒状製剤の粒状物は、農薬活性成分を含有し、さらに、固体担体及び/又は結合剤を含有して形成されるものが例示される。結合剤は、天然系、半合成系及び合成系の高分子類等に分類され、例えば、天然系のものとしては、デンプン、アラビヤガム、トラガントガム、グアーガム、マンナン、ペクチン、ソルビトール、キサンタンガム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。また、半合成系としては、デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、α化デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、合成系のものとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、エチレン−アクリル酸共重合体、無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、もちろん、これらに限定されるものではない。また、結合剤は、1種類を単独で用いることも、2種以上を併用することも可能であり、その含有量は、農薬粒状製剤全量に対して、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.3〜10重量%である。結合剤としては、例えばポリビニルアルコール等が好ましい。
【0013】
一方、固体担体としては、非水溶性固体担体及び水溶性固体担体とに分類され、非水溶性固体担体としては、例えば、クレー、炭酸カルシウム、タルク、ベントナイト、焼成珪藻土、未焼成珪藻土、含水ケイ酸、セルロース、パルプ、モミガラ、木粉、ケナフ粉等が挙げられ、また、水溶性固体担体としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖等の糖類、尿素、尿素ホルマリン縮合物、有機酸塩、水溶性アミノ酸類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら固体担体は単独で用いてもよく又は2種以上を混合して用いてもよい。これら固体担体の含有量は、農薬粒状製剤全量に対して、通常、0.5〜99.79重量%、好ましくは20〜98重量%である。固体担体としては、例えば含水ケイ酸、クレー等が好ましい。
【0014】
また、本発明の農薬粒状製剤は、含有される農薬活性成分の薬効を最大限に発揮させたり、農薬粒状製剤の品質を良好なものとするため、必要に応じて、界面活性剤、溶剤、粉砕助剤、吸収剤、分解防止剤、色素等様々な補助成分が添加されてもよい。またそれらの選択や配合比は使用する農薬活性成分の性質に適合するように決定すればよい。
【0015】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルケニルエステル(例えば、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等)等のノニオン界面活性剤、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等のアニオン界面活性剤等が例示される。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル等が好ましい。
【0016】
以上のように種々の目的に沿って配合される農薬活性成分、結合剤、固体担体、補助成分を含有する粒状物は、一般に知られている押出し造粒法、転動造粒法、転動流動層造粒法、流動層造粒法、撹拌混合造粒法等により製造することができる。例えば、円柱状の粒状物を得る場合は押出し造粒法が好ましく、農薬活性成分、結合剤、固体担体及び各種補助成分を混合し、適量の水を加え混練したのち、バスケット型造粒機、ディスク回転型造粒機、スクリュー型横出し造粒機、スクリュー型前出し造粒機、ツインドームグラン(不二パウダル社製)等の押し出し造粒機を用いて造粒し、適当な長さに切断して乾燥して、ふるい分けることにより製造することができる。
球状の粒状物を得る場合は転動造粒法及び撹拌混合造粒法が好ましく、農薬活性成分、固体担体、結合剤及び各種補助成分を混合して、この混合物を造粒機の造粒ベッセル内で撹拌羽根を回転させて撹拌転動状態にした後、水及び/又は結合剤の水溶液等を滴下又は噴霧して、適度な大きさまで粒子を成長させて造粒・乾燥・ふるい分けることにより製造することができる。
造粒後の乾燥温度は、吹き込み空気の温度として、20℃〜150℃程度が挙げられ、乾燥時間は5分〜150分程度が挙げられる。
【0017】
本発明における被覆材料は、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する。該共重合体であれば、農作物の種子の発芽・発根及び幼苗の生育に悪影響を及ぼさない。アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアルキル基の炭素数が1〜12であって、直鎖又は分岐のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、具体的には例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル及びアクリル酸ドデシル等が挙げられる。本発明において、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体としては、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体が、農薬活性成分の放出制御の観点、薬害が発生しない点及び工業的入手の容易性から特に好ましい。
【0018】
共重合体におけるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステル(特に、アクリル酸エチル)のモル比(メタクリル酸:アクリル酸アルキルエステル(特に、アクリル酸エチル))は、農薬活性成分の放出制御の観点から、好ましくは1:0.7〜1:1.3、さらに好ましくは1:0.8〜1:1.2である。
メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体は、具体的には例えば、下記の式(1):
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、n及びmは整数を表す。]等で表される。式(1)におけるnとmとのモル比(n:m)は、農薬活性成分の放出制御の観点から、好ましくは1:0.7〜1:1.3、さらに好ましくは1:0.8〜1:1.2である。
【0021】
本発明に用いられるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体の重量平均分子量[ポリエチレングリコールを標準とするGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)による測定]は、好ましくは100,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜300,000である。また、本発明に用いられる該共重合体の最低造膜温度は1〜22℃が好ましい。本発明に用いられる該共重合体のTgは好ましくは55〜100℃、さらに好ましくは75〜100℃である。本発明において該共重合体の重量平均分子量、最低造膜温度及びTgが上記の範囲内であれば、さらに経済的な被覆量で農薬活性成分の放出を効率的に抑制方向に制御することができる。
【0022】
本発明に用いられるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体の製造方法は、特に限定されず、例えば通常のラジカル重合方法等で行うことができる。ラジカル重合の様式には、例えば、乳化重合、懸濁重合、溶液重合及び塊状重合等が挙げられる。共重合体は重合の方法により、共重合体を含有する乳濁液、溶液又は固状物等として得られる。得られる共重合体の取り扱いしやすさの観点から、好ましいのは乳濁液である。本発明に用いられるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する乳濁液は、具体的には例えば、通常の乳化重合に用いられる乳化剤(例えば、前述のノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等)を含有する水溶液中で重合開始剤を加えてメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとを乳化重合して得ることができる。
得られたメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する乳濁液は、そのまま、あるいは後述の他の被覆材料と混合して、本発明の農薬粒状製剤の製造に用いることができる。
【0023】
本発明においては、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する水溶液中でメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとを乳化重合して、被覆材料に含有されるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を得ることが好ましい。オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する水溶液中で乳化重合して得られるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する乳濁液は、農薬活性成分の放出制御の観点から好ましい。本発明に用いられるオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンとしては、特に限定されず、通常
の乳化重合の乳化剤等として用いられるものをいずれも用いることができるが、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等のオレイン酸ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル(エチレンオキシド(E.O.)付加モル数が5〜30程度)が挙げられ、具体的には例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)(ポリソルベート80(Tween80))、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)(ポリソルベート85)、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(6E.O.)等が挙げられ、ポリソルベート80が好ましい。オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンは市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、ソルボンT−80(商品名、ポリソルベート80、東邦化学工業社製)、ソルボンT−85(商品名、ポリソルベート85、東邦化学工業社製)、レオドールTW−O106V(商品名、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(6E.O.)、花王株式会社製)、レオドールTW−O120V(商品名、ポリソルベート80、花王株式会社製)、レオドールTW−O320V(商品名、ポリソルベート85、花王株式会社製)等が挙げられる。
【0024】
本発明に用いられるメタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体としては、例えば厚生労働省の医薬品添加物規格2003で腸溶性コーティング剤に分類される「メタクリル酸コポリマーLD」が特に好ましく、商品名「ポリキッドPA−30S」(重量平均分子量=約220,000、最低造膜温度=約15℃、Tg=約87℃:三洋化成工業株式会社製)として市販されている。
該ポリキッドPA−30S(三洋化成工業株式会社製)は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体の、重量平均分子量、最低造膜温度及びTgが前述の範囲内であるので、本発明に用いる場合は、経済的な被覆量で農薬活性成分の放出を効率的に抑制方向に制御できる点で特に好ましい。
【0025】
また、重量平均分子量、最低造膜温度及びTgが前述の範囲内のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステル(特に、アクリル酸エチル)との共重合体は、例えば、特開2004−51578号公報に準じた方法で製造することができる。
【0026】
また、本発明における被覆材料は、前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体単独でも、農薬粒状製剤として薬害の発生しない組合せである限り、前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体と他の被覆材料との混合物であってもよい。
他の被覆材料としては、ワックス、合成樹脂及び合成ゴム類が挙げられる。
ワックス類としては、例えば、パラフィンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタン酸ワックス等が、合成樹脂では、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカルボン酸樹脂、キシレン樹脂、ロジンエステル及び本発明における前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体以外のアクリル樹脂等が挙げられる。
【0027】
本発明における前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体以外のアクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体又はこれら単量体とエチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、重合性不飽和シリコーン等から選ばれる1種以上の単量体との共重合体等が挙げられる。
混合して使用する場合の混合割合は、農薬活性成分の放出制御の観点から、本発明におけるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体が被覆材料の全重量のうち、少なくとも2重量%程度、好ましくは5重量%程度以上である。
【0028】
本発明における被覆材料の含有量は、農薬粒状製剤中の含有量として、好ましくは0.1〜60重量%、さらに好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは1〜35重量%の範囲である。含有量が0.1重量%より少ない場合には、被覆が不完全であったり、被覆の厚みが充分でなく、結果として農薬活性成分の放出の抑制方向への制御が不充分となって、薬害が生じたり、防除効果の持続性が不足する。一方、含有量が60重量%を超えると、被覆が厚すぎて農薬活性成分がほとんど放出されなくなり、所望の防除効果が得られないばかりか、被覆作業に膨大な時間を要して生産性に問題がある。望ましい被覆の厚みとしては、概ね0.3〜900μm厚、好ましくは1〜500μm厚程度である。
本発明の農薬粒状製剤において、被覆材料に含有されるメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体として、重量平均分子量、最低造膜温度及びTgが前述の範囲内のものを使用した場合は、短時間で望ましい被覆の厚みの農薬粒状製剤とすることができる。
【0029】
被覆材料における前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体の混合割合、及び本発明の農薬粒状製剤における被覆材料の量を調整することによって、農薬活性成分の放出の抑制程度をコントロールすることができる。
【0030】
本発明の農薬粒状製剤は、前述の農薬活性成分を含有する粒状物を、前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆することにより製造することができる。
前述の農薬活性成分を含有する粒状物を、前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆する方法としては、例えば、加熱気流下での流動層中あるいは回転パン、回転ドラムでの転動中の粒状物に、該被覆材料(好ましくは、前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する乳濁液)を連続的あるいは断続的に噴霧又は滴下し、乾燥する方法や、ナウターミキサーやリボンミキサーにて粒状物と該被覆材料(好ましくは、前述のメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する乳濁液)とを混合・吸収させて、流動層乾燥する方法等が示されるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
加熱・乾燥温度としては、吹き込み空気の温度として、20℃〜150℃程度が挙げられ、加熱・乾燥時間としては、5分〜150分程度が挙げられる。
このようにして得られる、本発明の農薬粒状製剤は、粉状や液状の農薬製剤に比べ防除対象地域外への飛散が少なく、ドリフトを防止できる点で好ましい。
【0031】
本発明の農薬粒状製剤の施用対象は、特に限定されないが、一般的な農作物、例えば稲(特に、水稲)、園芸作物(例えば、穀類(例えば、稲、大麦、小麦、ライ麦、オート麦、トウモロコシ、高粱等)、豆類(例えば、大豆、小豆、そら豆、えんどう豆、落花生等)、果樹・果実類(例えば、リンゴ、柑橘類、梨、ブドウ、桃、梅、桜桃、クルミ、アーモンド、バナナ、イチゴ等)、野菜類(例えば、キャベツ、トマト、ほうれん草、ブロッコリー、レタス、タマネギ、ネギ、ピーマン等)、根菜類(例えば、ニンジン、馬鈴薯、サツマイモ、大根、蓮根、かぶ等)、加工用作物類(例えば、綿、麻、コウゾ、ミツマタ、菜種、ビート、ホップ、サトウキビ、テンサイ、オリーブ、ゴム、コーヒー、タバコ、茶等)、瓜類(例えば、カボチャ、キュウリ、スイカ、メロン等)、牧草類(例えば、オーチャードグラス、ソルガム、チモシー、クローバー、アルファルファ等)、芝類(例えば、高麗芝、ベントグラス等)、香料等用作物類(例えば、ラベンダー、ローズマリー、タイム、パセリ、胡椒、しょうが等)、花卉類(例えば、キク、バラ、蘭等)等の植物)等が挙げられる。
【0032】
本発明の農薬粒状製剤は、農薬施用におけるあらゆる場面に適用可能であるが、特に農作物の種子の発芽・発根又は幼苗の生育段階で施用する場面、いわゆる播種期及び/又は育苗期に於いて施用できる点で有用である。農作物の播種期と育苗期とは厳密に区分されるものではなく、農作物の播種期及び/又は育苗期とは、特に限定されるものではないが、一般に播種前の育苗培土の準備期から、播種、育苗を経て、育った苗を本田又は本圃へ移植するまでの期間を言う。稲(特に、水稲)の播種期及び/又は育苗期とは、例えば育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、乳苗期から田植え直前時までの期間がこれにあたる。本発明の農薬粒状製剤の施用はこれらの時期に限定されるものではなく、さらに近年開発されている田植え同時施用の分野への適用も可能である。園芸作物の播種期及び/又は育苗期とは、例えば育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、乳苗期から本圃移植時までの期間がこれにあたる。本発明の農薬粒状製剤の施用はこれらの時期に限定されるものではなく、園芸作物に対する施用時期として、特に好ましくは播種時及び稚苗期施用や、移植時における植穴処理等が挙げられる。
尚、播種期及び/又は育苗期の栽培には、通常育苗培土が用いられるが、育苗マットやシート等培土以外の栽培に於いても適用可能である。
【0033】
本発明の農薬粒状製剤において、稲(特に、水稲)の播種期及び/又は育苗期の施用は、育苗箱施用が好ましい。稲(特に、水稲)の育苗箱施用とは、一般に、本田に移植する前の育苗箱での播種期及び/又は育苗期(例えば、育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、乳苗期から田植えまでの期間)に施用する農薬の施用方法である。
育苗箱とは、一般に育苗培土等を入れて育苗する(例えば、種子撒きや仮植した苗を育てる)ための容器であって、容器の大きさ、形等は育苗に適していればよく特に限定されないが、例えば、水稲の育苗においては一般的に、大きさ約60cm×約30cmの長方形、高さ3cm程度の育苗箱が使用される。
また、本発明の農薬粒状製剤において、園芸作物(野菜等)の播種期及び/又は育苗期の施用は、セルトレイ施用が好ましい。園芸作物のセルトレイ施用とは、一般に、本圃に移植する前のセルトレイでの播種期及び/又は育苗期(例えば、播種時から移植時までの期間、具体的には例えば、育苗培土混和時、播種時覆土前又は覆土後、乳苗期から本圃移植時までの期間)に施用する農薬の施用方法である。
セルトレイとは、一般に育苗培土等を入れて主に園芸作物等を育苗する(例えば、種子撒きや仮植した苗を育てる)ための容器であって、容器の大きさ、形等は育苗に適していればよく特に限定されないが、形状としては例えば、逆円錐形や逆四角錐状の鉢(ポット)を連結してトレイ状にしたものが挙げられる。セルトレイの大きさとしては、栽培する植物種や栽培期間によって異なるが、一般に約55cm×約30cm程度の長方形トレイ中に、数十〜数百の鉢穴を有する物が主に使用される。
【0034】
本発明の農薬粒状製剤による、稲(特に、水稲)の育苗箱施用及び園芸作物のセルトレイ施用は、薬害の心配なく行うことができ、かつ、育苗箱内又はセルトレイ内で施用して苗を本田又は本圃に移植後、本田又は本圃においてその効果を発揮させることができるので、農薬散布における省力化、環境負荷軽減が図られ、かつ従来の本田又は本圃における農薬散布で問題となるドリフトの問題が回避できる点で好ましい。
【0035】
本発明の農薬粒状製剤の散布(散粒)の方法としては、通常の農薬粒状製剤と同様な方法によって散布することができ、例えば、手での直接散粒、人力式散粒機、電動式散粒機、背負型動力式散粒機、走行型動力散粒機、トラクター搭載型散粒機、田植機搭載型散粒機、側条施用用施薬機、無人ヘリコプター等航空散粒機による方法等を挙げることができる。
特に稲(特に、水稲)の育苗箱施用においては、例えば、農薬粒状製剤を所定量の計り取れる計量カップですくい取り、育苗箱に振りかける方法、専用の育苗箱散布容器に入れて育苗箱に散粒する方法、包装された農薬粒状製剤の場合に包装容器に施された排出口や穴等から直接育苗箱に散粒する方法、動力式散粒機を用いて広範囲に配置した数多くの育苗箱に散粒する方法、播種作業時に専用の装置にて育苗箱に散粒する方法、育苗土壌と混和する方法等が例示される。園芸作物のセルトレイ施用においても、上記育苗箱施用に準じて行えばよい。
【0036】
上記のような散布を適正に行うためには、本発明の農薬粒状製剤の物理性は下記に例示されるような種々の項目に対してそれぞれ一定範囲内にあることが好ましい。例えば本発明の農薬粒状製剤の見掛け比重は農薬公定検査法において好ましくは0.3〜2.0、より好ましくは0.5〜1.5である。本発明の農薬粒状製剤の粒の硬度は全農ボールミル法において好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。本発明の農薬粒状製剤の粒度は目開き1700μmのふるいを通過して、目開き300μmのふるいを通過しない粒が農薬粒状製剤全体の90重量%以上であることが好ましい。また、本発明の農薬粒状製剤の粒が円柱状である場合は、断面円の直径は好ましくは0.3〜2.0mm、より好ましくは0.5〜1.5mmである。また、本発明の農薬粒状製剤の粒が円柱状である場合、円柱の高さに当たる粒長は、通常は、断面円の直径に対して0.5〜6倍であることが好ましいが、播種作業時の専用装置を用いて散布する場合、例えば加振式苗箱施用薬剤散布装置(美善製、型式KS−10:シャッター式散粒機)や苗箱施薬ホッパー(スズテック製、型式SDP−33S:ローラー式散粒機)にて散布する場合は、断面円の直径に対して2.5倍以上の粒長を有する粒が農薬粒状製剤全体の好ましくは50重量%以下、より好ましくは10〜40重量%である。
【0037】
尚、本発明の農薬粒状製剤を施用する際の施用量は、農薬活性成分の種類等によっても異なるが、水田や畑地の場合、10アールあたり、通常0.1〜20kg、好ましくは0.2〜5kgであり、稲(特に、水稲)の育苗箱施用の場合、育苗箱(通常、0.16m2)一枚あたり通常10〜200g、好ましくは10〜100gであり、園芸作物のセルトレイ施用の場合、セルトレイ(通常、0.15m2)一枚あたり通常1〜2000g、好ましくは5〜1000gである。
本発明の農薬粒状製剤の農薬活性成分としてチアジニルを用いる場合においても、上記と同様の施用量で施用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例につき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例において「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味するものである。
以下の実施例において、「見掛け比重」は農薬公定検査法による値であり、「硬度」は全農ボールミル法による値であり、「粒度(300〜1700μm)(%)」は目開き1700μmのふるいを通過して目開き300μmのふるいを通過しない粒の農薬粒状製剤全体に対する割合(%)であり、「断面円直径に対して2.5倍以上の粒(%)」は、粒を円柱と見なしたときの円柱の高さを粒長とし、円柱の断面円の直径に対して粒長が2.5倍以上である粒の農薬粒状製剤全体に対する割合(%)である。
【0039】
実施例1 チアジニル13.3部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.2部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物90.0部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、「ポリキッドPA−30S」(メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体乳濁液、純分30%含有、三洋化成工業株式会社製)33.3部と水1.7部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体の農薬粒状製剤中の含有量は10.0%である。
この被覆農薬粒状製剤の物理性は、見掛け比重0.85、硬度1、粒度(300〜1700μm)98%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒31%であった。
【0040】
実施例2 チアジニル13.0部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.5部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.5部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物92.5部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、「ポリキッドPA−30S」(メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体乳濁液、純分30%含有、三洋化成工業株式会社製)25.0部と水7.5部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体の農薬粒状製剤中の含有量は7.5%である。
この被覆農薬粒状製剤の物理性は、見掛け比重0.84、硬度1、粒度(300〜1700μm)97%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒32%であった。
【0041】
実施例3 チアジニル12.6部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.9部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水31.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物95部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、「ポリキッドPA−30S」(メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体乳濁液、純分30%含有、三洋化成工業株式会社製)16.7部と水13.3部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体の農薬粒状製剤中の含有量は5.0%である。
この被覆農薬粒状製剤の物理性は、見掛け比重0.83、硬度1、粒度(300〜1700μm)98%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒33%であった。
【0042】
実施例4 チアジニル13.0部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー74.5部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水28.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして粒状物を得た。この粒状物90部を糖衣パン(株式会社菊水製作所製)に入れ、「ポリキッドPA−30S」(メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体乳濁液、純分30%含有、三洋化成工業株式会社製)5.0部、「ニューコート4111」(アクリル樹脂乳濁液、純分46%含有、新中村化学工業株式会社製)18.5部と水11.5部を混合した液を噴霧した。被覆処理された粒状物(湿物)を糖衣パンより取り出した後、流動層乾燥機で乾燥を行い、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体の農薬粒状製剤中の含有量は1.5%であり、上記アクリル樹脂の農薬粒状製剤中の含有量は8.5%である。
この被覆農薬粒状製剤の物理性は、見掛け比重0.85、硬度1、粒度(300〜1700μm)98%、断面円直径に対して2.5倍以上の粒30%であった。
【0043】
比較例1 実施例1において、「ポリキッドPA−30S」33.3部を、ポリ乳酸系樹脂乳濁液(商品名:プラセマL110、純分39%含有、第一工業製薬製)の25.6部に置き換え、これと混合する水を9.4部とする以外は実施例1と同様にして、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記ポリ乳酸系樹脂の農薬粒状製剤中の含有量は10.0%である。
比較例2 実施例1において、「ポリキッドPA−30S」33.3部を、酢酸ビニル系樹脂乳濁液(商品名:モビニールM110、純分45%含有、ヘキスト製)の22.2部に置き換え、これと混合する水を12.8部とする以外は実施例1と同様にして、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記酢酸ビニル系樹脂の農薬粒状製剤中の含有量は10.0%である。
【0044】
比較例3 実施例1において、「ポリキッドPA−30S」33.3部を、エステルエーテル系樹脂乳濁液(商品名:スーパーフレックス126、純分46%含有、第一工業製薬製)の21.7部に置き換え、これと混合する水を13.3部とする以外は実施例1と同様にして、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記エステルエーテル系樹脂の農薬粒状製剤中の含有量は10.0%である。
比較例4 実施例1において、「ポリキッドPA−30S」33.3部を、シリカ・アクリル系樹脂乳濁液(商品名:PM541−3426、純分47%含有、第一工業製薬製)の21.3部に置き換え、これと混合する水を13.7部とする以外は実施例1と同様にして、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記シリカ・アクリル系樹脂の農薬粒状製剤中の含有量は10.0%である。
【0045】
比較例5 実施例1において、「ポリキッドPA−30S」33.3部を、カーボネート系樹脂乳濁液(商品名:スーパーフレックス420、純分50%含有、第一工業製薬製)の20.0部に置き換え、これと混合する水を15.0部とする以外は実施例1と同様にして、被覆した農薬粒状製剤を得た。上記カーボネート系樹脂の農薬粒状製剤中の含有量は10.0%である。
比較例6 チアジニル12.0部、ポリビニルアルコール2.0部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5部、含水ケイ酸10.0部及びクレー75.5部を双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混合後、水30.0部を加えて充分混練した。次に、この加水混練物を孔径1.2mmのスクリーンを装着したバスケット型押出し造粒機にて造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(株式会社大河原製作所製)で乾燥した後、目開き500μm及び1400μmのふるい網を装着したふるい振とう機でふるい別けして農薬粒状製剤を得た。
【0046】
実施例1〜4及び比較例1〜6で調製した農薬粒状製剤について、次の方法にて試験を行った。
試験例1 水中放出性試験
225mlマヨネーズ瓶(ガラス製容器)に3度硬水100mlを注ぎ静置した。実施例1〜4、及び比較例1〜6に準じて調製した試料を夫々500mg精秤後、均一に水中に投下した。粒が水面上に浮遊している場合には、水底に沈降せしめた。マヨネーズ瓶を20℃遮光恒温条件で静置し、6時間後、24時間後に中層より採水し、採水試料中のチアジニル濃度を、高速液体クロマトグラフを用いて測定した。結果を表1に示す。
本発明の農薬粒状製剤(実施例1〜4)は、表1に示される結果から、非水溶性又は難水溶性の被覆材料で被覆されていない比較例6の農薬粒状製剤と比較して、6時間後、24時間後のいずれにおいてもチアジニルの放出は抑制方向に制御されていることが示された。また、非水溶性又は難水溶性の被覆材料で被覆された比較例1〜5の農薬粒状製剤も、比較例6の農薬粒状製剤と比較して、チアジニルの放出は抑制方向に制御されている。
【0047】
【表1】

【0048】
試験例2 水稲薬害試験
イネ籾(品種:ひとめぼれ)を殺菌剤(スポルタックスターナSE、日産化学工業株式会社製、200倍希釈)に24時間浸漬及び風乾後、15℃にて6日間浸種し、催芽を30℃24時間行い試験に供した。標準育苗箱底面に新聞紙、床土2.2kg(クミアイ宇部培土2号、宇部興産農材株式会社)を敷き、育苗箱当たり150gの籾を播種した。播種後、殺菌剤(ダコニール1000、クミアイ化学工業株式会社製、800倍希釈)を箱当たり500mlシャワーにて散水、土壌消毒を行った。実施例1〜4及び比較例1〜5で調製した農薬粒状製剤を夫々育苗箱あたり50g散布し、上部より覆土(1.1kg)を行った。30℃の恒温装置内で積み重ねにて72時間出芽を行った後、温室内(25〜18℃設定)にて21日間栽培を行った。21日間栽培後にイネに対する薬害を、-(薬害なし:植物に対する薬害が全く認められない)、±(微:植物に対して極僅かな薬害が認められるが、該薬害は実用上問題ない程度である)、+(軽度:植物に対して軽度の薬害が認められ、該薬害は実用上問題がある)、++(中度:植物に対して明らかな薬害が認められ、該薬害は実用上問題がある)、+++(重度:植物に対して重篤な薬害が認められ、該薬害は実用上問題がある)の判定基準で判定した。結果を表2に示す。
本発明の農薬粒状製剤(実施例1〜4)は、表2に示される結果から、イネの播種期や育苗期に施用しても薬害が発生せず、イネの種子の発芽・発根及び幼苗の生育に悪影響を及ぼすものでないことが示された。これに対して、比較例1〜5の農薬粒状製剤は、試験例1の結果からチアジニルの放出は抑制方向に制御されているにもかかわらず、イネの播種期や育苗期の施用により薬害が発生することが示された。
【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆してなる、農薬粒状製剤。
【請求項2】
農作物の播種期及び/又は育苗期に施用するための、請求項1記載の農薬粒状製剤。
【請求項3】
農作物が稲である、請求項2記載の農薬粒状製剤。
【請求項4】
農作物が園芸作物である、請求項2記載の農薬粒状製剤。
【請求項5】
共重合体が、メタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の農薬粒状製剤。
【請求項6】
共重合体が、メタクリル酸とアクリル酸エチルとを、1:0.7〜1:1.3の割合で共重合してなる共重合体である、請求項5記載の農薬粒状製剤。
【請求項7】
農薬粒状製剤中の被覆材料の含有量が0.1〜60重量%である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の農薬粒状製剤。
【請求項8】
農薬活性成分がチアジニルである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の農薬粒状製剤。
【請求項9】
農薬活性成分を含有する粒状物を、メタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体を含有する被覆材料で被覆する工程を含む、農薬粒状製剤の製造方法。
【請求項10】
さらに、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びラウリル硫酸ナトリウムを含有する水溶液中でメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとを重合して、前記被覆材料に含有される共重合体を得る工程を含む、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
農薬粒状製剤が、農作物の播種期及び/又は育苗期に施用するための農薬粒状製剤である、請求項9又は10に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−308413(P2007−308413A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138334(P2006−138334)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】