説明

農薬配合物

【課題】保存安定性が高く、水に希釈する際の分散性も良好な水不溶解性農薬の濃縮溶液を提供する。
【解決手段】水混和性極性溶媒、好ましくはN−メチルピロリドン中に溶解された1種以上の水不溶解性農薬(通常は0.5〜50%w/v)とリグニン(適切には1:10〜1:1のリグニン:農薬の重量比)とを含んでなる濃縮農薬溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農薬配合物に関し、特に水不溶解性農薬の濃縮溶液に関する。本発明はまた、これらの濃縮溶液の調製およびその水で希釈された形態での使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
水中での溶解度が低く、かつ水中で化学的に安定である農薬は、水性懸濁濃縮物(suspension concentrate:SC)の形態で一般に市販され、そして希釈されて当該分野において使用される。懸濁された農薬活性成分は、濃縮物として保存される間そして水で更に希釈される時に、懸濁された状態を保つために小さな粒径を有する必要がある。このためには該活性成分が粉砕されることが必要であり、これは時間と費用がかかることがある。たとえ粉砕されるとしても、懸濁濃縮物はしばしば、長期保存中の沈殿、沈殿した粒子の再懸濁に対する抵抗性および場合により保存中の該活性成分の粒径の増大の結果として、問題に直面する。
【0003】
1つの代替法は、水不溶解性活性成分を水不混和性溶媒、例えば芳香族炭化水素、に溶解させて、乳化性濃縮物(emulsifiable concentrate:EC)を形成することである。この乳化性濃縮物は、安定な溶液として保存することができ、使用の準備ができた時に水で希釈されて小粒径の乳白状エマルジョンを形成することができる。通常の水不溶解性溶媒に容易に溶解しない水不溶解性粒子は、水混和性溶媒中に溶解されて、保存安定性の溶解性濃縮物(soluble concentrate:SL)を形成し得る。農薬は水による希釈により懸濁液を形成する。この種の溶解性濃縮物は、例えばWO92/10937に記載されている。このようなSL類は、水混和性溶媒中に固体水不溶解性農薬と分散剤とが可溶化された3成分配合物である。アルキル化ビニルピロリドンポリマー、エチレンオキシドプロピレンオキシド/プロピレングリコール縮合物、ノニルフェノールエチレンオキシド付加物および種々のエトキシレート類など、様々な分散剤が言及されている。溶媒としては、アセトニトリル、α−ブチロラクトン、ジメチルケトン、ジメチルフラン、ジメチルスルホキシド、メタノールおよびN−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0004】
水溶解性の低い活性成分を溶解させるために水溶解性溶媒を使用することの欠点は、水中でのそれら活性成分の乏しい希釈性である。活性成分はしばしば、スプレーフィルター又はノズルの閉塞および乏しい又は一貫性の無い生物有効性などの両方の適用の問題を生じる粗い結晶として急速に沈殿する。沈殿を防止するため又は通常の場合には遅延させるために、活性成分に対して通常1:1の比における過剰な乳化剤または分散剤を添加する必要があり、このような濃度においては界面活性剤がそれ自体で植物毒性の問題を生じ得る。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、水混和性極性溶媒中に溶解された1種以上の水不溶解性農薬とリグニンとを含んでなる濃縮農薬溶液が提供される。
【0006】
本発明に係る溶液濃縮物に用いられる農薬は水不溶解性であり、固体でも液体でもよいが、本発明は周囲温度で固体である農薬に特に有益である。通常、該農薬は、0.2%w/v以下の水中での溶解度を有するであろう。また、該農薬は、選択された水混和性極性溶媒中で溶解性でなければならない。
【0007】
用いられる農薬の量は、全溶液の、通常は0.5〜50%w/v、より通常には1〜30%w/v、そして典型的には5〜20%w/vであろう。
【発明を実施するための形態】
【0008】
農薬としては、除草剤、殺虫剤および殺菌剤が含まれる。本発明は、0.2%w/v以下の水中での溶解度を有する何れの農薬または農薬混合物にも特に適している。本発明に用いられる農薬の例は、ナプロパミド、ハロキシホップ、クロジナホッププロパギル、メソトリオン、シペルメトリン、α−シペルメトリン、β−シペルメトリン、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、ペンコナゾール、テブコナゾール、アゾキシストロビン、ピコキシストロビン、クレソキシムメチル、メトミノストロビン、ピラクロストロビン、トリフロキシストロビン、シプロジニル、メタラキシル、メフェノキサム、フルアジナム、フルジオキソニル、パクロブトラゾール、チアベンダゾールおよびキノキシフェンである。しかしながら、本発明は、殺菌剤に、殊にトリアゾール系殺菌剤およびストロビルリン系殺菌剤に、ならびに殺菌剤混合物に、殊にストロビルリン系殺菌剤、例えばピコキシストロビンと、トリアゾール系殺菌剤、例えばヘキサコナゾールまたはシプロコナゾールとの混合物に、特に有用である。特に関心があるのは、アゾキシストロビン、ピコキシストロビン、テブコナゾール、シプロコナゾール、およびシプロコナゾールとの混合物であるピコキシストロビンからなる群より選択される殺菌剤より調製された溶液濃縮物である。
【0009】
リグニンとは、遊離酸状態のリグニンであって、ナトリウム塩等のようなリグニンのアルカリ金属塩ではないリグニン、又はリグノスルホネートを意味する。様々な分子量のフェニルプロペンポリマーであるリグニンは、木材パルプ産業で用いられるサルフェートおよびソーダプロセスの廃液より得られ得る。そのようにして得られるリグニンはアルカリリグニンとして知られており、さらにサルフェート(またはクラフト)リグニンまたはソーダリグニンと呼ばれる。本発明に用いられるのに特に適しているのは、松材サルフェート黒液より調製されそして自由流動性褐色粉体の形態で生産された高度精製リグニンである、インデュリン(Indulin) AT(Indulin ATは商品名)である。
【0010】
用いられる農薬の量との関連において本発明の溶液濃縮物に用いられるリグニンの量は、適切には1:10〜1:1、通常は1:8〜1:2、好ましくは1:6〜1:4、そして典型的には1:5の、リグニン:全農薬の重量比にある。
【0011】
農薬とリグニンの両方を溶解することができる何れの水混和性極性溶媒も本発明に使用してよい。適した溶媒としては、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフルフリルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドおよび乳酸エチルが挙げられる。好適な溶媒はγ−ブチロラクトンおよびテトラヒドロフルフリルアルコールであり、特に好適な溶媒はN−メチルピロリドンである。極性溶媒の混合物も使用してよく、例えばN−メチルピロリドンとポリエチレングリコール200の50:50混合物が挙げられる。用いられる溶媒の量は全溶液を100%w/vにするのに十分な量である。
【0012】
必須ではないが、溶液濃縮物は、他の添加剤、例えば希釈を改善するためのポリマー安定剤または沈殿防止剤を含んでよい。適した安定剤または沈殿防止剤の例としては、水溶解性ポリマーおよび水不溶解性ポリマー、例えばエチルセルロース、カゼイン、ヒドロキシプロピルセルロース、アビセル(Avicel)(商標)CL−611(微結晶性セルロースをベースとするもの)、アグリマー(Agrimer)(商標)VEMA AN−216(ビニルエーテル無水マレイン酸コポリマー,MW55,000〜80,000)、NU−FILM−P(商標)(ポリ−1−p−メンテン)およびケルザン(Kelzan)(商標)(キサンタンガム)である。このような添加剤は、用いられる極性溶媒中での該添加剤の溶解度に依存して、全配合物の0.5%w/vまで、例えば0.1〜0.4%w/v、典型的には0.25%w/v、の量で好適に用いられる。例えば、N−メチルピロリドンをベースとする濃縮物中に溶解させることができるアビセル(Avicel)CL−611およびケルザン(Kelzan)の最大量は約0.1%w/vである。
【0013】
1つの実施態様において、本発明は、
(a)1〜30%w/v、通常は5〜30w/v、そして典型的には10〜20w/vの1種以上の水不溶解性農薬と、
(b)1:10〜1:1、通常は1:8〜1:2、好ましくは1:6〜1:4、そして典型的には1:5の、成分(a)との重量比にあるリグニンとを含み、(a)と(b)の両方が
(c)水混和性極性溶媒、例えばγ−ブチロラクトン、テトラヒドロフルフリルアルコールおよび乳酸エチルおよび好ましくはN−メチルピロリドン、中に溶解される、濃縮農薬溶液を提供する。
【0014】
この実施態様において、該濃縮溶液は、0.5%w/vまでの他の添加剤、例えばエチルセルロースのような沈殿防止剤または安定剤、を任意に含有してよい。
【0015】
本発明に係る濃縮溶液は、上記農薬、上記リグニンおよび任意に安定剤または他の添加剤を、上記極性溶媒中に溶解させることにより調製される。これらの成分は何れの順序で溶媒に添加してもよい。通常、これは周囲温度で適当な掻き混ぜまたは攪拌により行われる。溶解を補助するために、溶媒を例えば50℃までの温度に加熱してよい。
【0016】
使用の準備ができた時に、該濃縮溶液は水で希釈され、通常は、該濃縮溶液をある量の攪拌される水に添加して、例えば0.0001〜1%w/vの農薬を含有する、農薬の水性分散体を得ることにより行われる。次に、この水性農薬溶液は、スプレーにより又は他の何れかの公知方法により、位置決めを必要とする処理に適用される。
【0017】
このように、本発明の更なる実施態様において、農業的有害生物の駆除または抑制方法であって、本発明による濃縮農薬溶液を水中に分散させることによって調製された農薬として有効量の水性分散体を、有害生物に又は有害生物の位置に適用することを含んでなる方法が提供される。
【0018】
本発明に係る濃縮濃縮溶液の利点は、水への希釈により後続の少なくとも24時間の成長に対して安定であるサブミクロン(約0.4μm)の本質的に単分散の粒子を生成することができることである。
【実施例】
【0019】
以下の実施例を参照して本発明を例示する。実施例において以下の略記が用いられる。
ai=活性成分 SL=溶解性濃縮物
ppm=100万分の1 w/v=重量/体積
w/w=重量/重量 init=初期
NMP=N−メチルピロリドン GBL=γ−ブチロラクトン
DMSO=ジメチルスルホキシド THFA=テトラヒドロフルフリルアルコール
PEG200=ポリエチレングリコール,平均分子量200
EL=乳酸エチル
【0020】
例1
この例は本発明により調製された様々な濃縮農薬溶液が水中に希釈されるときにどのようにして粒径を評価するかを示す。多数の発明に係る溶液について結果が与えられる。
【0021】
分散試験の方法
97.5mlのCIPAC標準硬水を含有するストッパー付きクロウ受器(Crow receiver)にピペットにより2.5mlの溶液濃縮物を添加することによって配合物を分散性について試験した。最初の数滴を水に添加した時の初期「ブルーム」(bloom)に注目し、次に受器を3回反転して分散体の均一性に注目した。いかなる沈降または結晶化もチェックするために24時間にわたり設定時間間隔でチェックを行った。
【0022】
希釈による初期および24時間後の粒径のチェックは、マルベン・マスターサイザーS(Malven Mastersizer S)を使用して行った。機器パラメータは以下の通りである。
多分散モデル 引用される粒径値:
オブスキュレーション2〜4% 体積メジアン直径D(v,0.5)
ポンプ速度40% 体積平均直径D[4,3]
攪拌機速度20% 1μm未満の%
超音波(ultrasonics)−ゼロ
【0023】
用いられたCIPAC標準硬水タイプはCIPAC AおよびCIPAC Cである。これらは以下の特性を有する。
CIPAC A: 20ppm硬度; pH5.0〜6.0; Ca2+:Mg2+=1:1
CIPAC C: 500ppm硬度; pH7.0〜8.0; Ca2+:Mg2+=4:1
【0024】
(a)アゾキシストロビンの溶解性濃縮物
NMP中の10%w/vのアゾキシストロビンを含有しリグニンのレベルが様々異なるSL配合物を調製し、希釈性について試験した。下の表1および表2に結果を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
これらの結果は、微細粒径を維持するためのインデュリン(Indulin)ATの最適レベルが2〜3%付近にあることを示す。
【0028】
5〜10%では、殊にCIPAC C において、平均粒径値の増大と粒径1μm未満の割合の減少とにより示される24時間後のフロキュレーション(flocculation)の証拠が見られる。
【0029】
(b)ピコキシストロビンの溶解性濃縮物
1%,2%および5%w/vリグニンを含有するNMP中の10%w/vのSL配合物を調製し、24時間後の粒径について希釈分析した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
(c)テブコナゾールの溶解性濃縮物
5%リグニンを含有するNMP中の10%w/vのSL配合物を調製した。24時間後の希釈により表4に示す結果を得た。
【0032】
【表4】

【0033】
(d)シプロコナゾールの溶解性濃縮物
5%リグニンを含有するNMP中の10%w/vのSL配合物を調製した。得られた結果を表5に示す。
【0034】
【表5】

【0035】
(e)ピコキシストロビン/シプロコナゾール混合物の溶解性濃縮物
8%w/vリグニンを含有する12.5%w/vピコキシストロビンと5%w/vシプロコナゾールのSL配合物を調製した。24時間後の希釈により表6に示す結果を得た。
【0036】
【表6】

【0037】
例2
この例は本発明に係る濃縮溶液を調製するための別の極性溶媒の使用および他の農薬の使用を例示する。
【0038】
溶媒としてNMPと共に活性成分アゾキシストロビン、ヘキサコナゾール、シペルメトリンおよびメソトリオンを用いて、10%w/w活性成分と4%w/wインデュリン(Indulin)ATとを含有するSL配合物を調製した。さらに、以下の溶媒:GBL、DMSO、THFA、乳酸エチルおよび50%NMP/50%PEG200を用いて、アゾキシストロビンの類似の配合物を調製した。
【0039】
これらの配合物の希釈(CIPAC C水中の 2500ppm活性成分)を例1に記載した方法により試験し、その結果を表7に示す。
【0040】
【表7】

【0041】
これらの結果は、活性成分と溶媒の全ての組合せが24時間後の満足できる希釈を与え、何れの微細懸濁体も75μmふるいを通過することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水混和性極性溶媒中に溶解された1種以上の水不溶解性農薬とリグニンとを含んでなる濃縮農薬溶液。
【請求項2】
用いられる農薬の量が0.5〜50%w/vである、請求項1に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項3】
農薬がストロビルリン系殺菌剤またはトリアゾール系殺菌剤またはこれらの混合物である、請求項1または請求項2に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項4】
農薬が、アゾキシストロビン、ピコキシストロビン、テブコナゾール、シプロコナゾール、およびシプロコナゾールとの混合物であるピコキシストロビンからなる群より選択される殺菌剤である、請求項1または請求項2に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項5】
用いられるリグニンの量が1:10〜1:1のリグリン:農薬の重量比にある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項6】
極性溶媒が、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフルフリルアルコール、乳酸エチルおよびN−メチルピロリドンからなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項7】
ポリマー安定剤または沈殿防止剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項8】
ポリマー安定剤または沈殿防止剤がエチルセルロースである、請求項7に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項9】
(a)1〜30%w/vの1種以上の水不溶解性農薬と、
(b)1:10〜1:1の成分(a)との重量比にあるリグニンを含み、(a)と(b)の両方が水混和性極性溶媒中に溶解される、濃縮農薬溶液。
【請求項10】
0.5%w/vまでの他の添加剤を含む、請求項9に記載の濃縮農薬溶液。
【請求項11】
農業的有害生物の駆除または抑制方法であって、本発明による濃縮農薬溶液を水中に分散させることによって調製された農薬として有効量の水性分散体を、有害生物に又は有害生物の位置に適用することを含んでなる方法。

【公開番号】特開2012−67112(P2012−67112A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−236118(P2011−236118)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【分割の表示】特願2003−539441(P2003−539441)の分割
【原出願日】平成14年10月15日(2002.10.15)
【出願人】(500371307)シンジェンタ リミテッド (141)
【Fターム(参考)】