説明

迂回ルート抽出装置及び方法

【課題】車両の走行軌跡を用いて、あるエリアの地元のドライバが運転する地元車両を特定し、地元車両の走行軌跡から迂回ルートを抽出する。
【解決手段】複数の車両が走行しているときに、各車両からプローブデータを収集し、プローブデータ記憶部21に予め収集しておく。そして、プローブデータ記憶部21のプローブデータに基づいて、複数の車両の中から所定のエリア内に拠点を有する者の地元車両を推定する(S1)。プローブデータ記憶部21に記憶されている地元車両のプローブデータに基づいて、所定のエリアの迂回ルート候補を抽出する(S3)。所定の出発地から目的地まで、本線を通る経路よりも、一つ以上の迂回ルート候補を通る経路の方が所要時間が短くなるような迂回ルート候補を、迂回ルートとして選別する(S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーナビゲーションなどの経路案内のための迂回ルートを抽出する技術に関し、特に車両の走行軌跡から、迂回ルートに詳しい地元のドライバが運転する車両を特定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、迂回ルートに詳しい地元のドライバが運転する車両の走行軌跡から迂回ルートを抽出することが、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2006−317157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1では、地元のドライバが運転する車両であるか否かは、予め登録されている車両属性に基づいて判定している。
【0004】
従って、特許文献1の技術では、車両属性として地元のエリアが登録されていないときは迂回ルートを抽出できない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、車両の走行軌跡を用いて、あるエリアの地元のドライバが運転する地元車両を特定し、地元車両の走行軌跡から迂回ルートを抽出することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様に従う迂回ルート抽出装置は、複数の車両が走行しているときに、各車両からそれぞれの車両の位置データを継続的に収集する収集手段と、前記収集手段が収集した各車両の位置データを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている各車両の位置データに基づいて、前記複数の車両の中から所定のエリア内に拠点を有する者のエリア車両を推定する推定手段と、前記記憶手段に記憶されている前記エリア車両の位置データに基づいて、前記所定のエリアの迂回ルート候補を抽出する抽出手段と、本線を通る経路の所要時間に対して、一つ以上の迂回ルート候補を通る経路の所要時間が所定の条件を充たすような迂回ルート候補を、迂回ルートとして選別する選別手段と、を備える。
【0007】
好適な実施形態では、前記推定手段は、前記複数の車両のうちの一つである第1の車両について、前記記憶手段に記憶されている前記第1の車両の位置データに基づいて、前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点を特定し、前記特定された地点のうち、所定以上の頻度で前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点が、前記所定のエリア内であれば、前記第1の車両を前記エリア車両と推定するようにしてもよい。
【0008】
好適な実施形態では、前記推定手段は、前記複数の車両のうちの一つである第1の車両について、前記第1の車両の所有者の住所が前記所定のエリア内であり、かつ、前記記憶手段に記憶されている前記第1の車両の位置データに基づいて、前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点を特定し、前記特定された地点のうち、所定以上の頻度で前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点と、前記第1の車両の所有者の住所とが所定の距離以下であれば、前記第1の車両を前記エリア車両と推定するようにしてもよい。
【0009】
好適な実施形態では、前記抽出手段は、前記エリア車両の位置データに基づいて前記エリア車両の走行軌跡を求め、当該走行軌跡に含まれる本線ルート以外のルートを迂回ルート候補として抽出することができる。
【0010】
好適な実施形態では、前記選別手段は、曜日、時間帯、天気及び特定日のうちの少なくとも一つ以上を条件として、前記迂回ルート候補の中から前記条件ごとに迂回ルートを選別するようにしてもよい。
【0011】
好適な実施形態では、前記選別手段は、出発地点及び目的地点を共通としたときに、前記迂回ルート候補を含む迂回経路の所要時間が、前記本線ルートを含み、前記迂回ルート候補を含まない本線経路の所要時間よりも短いときに、前記迂回経路に含まれる迂回ルート候補を迂回ルートとして選別するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るナビゲーションシステムについて、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係るナビゲーションシステムの概要図である。
【0014】
本システムは、情報センタ1と、プローブカーと呼ばれるGPSセンサなどを搭載した自動車等の移動する車両2に搭載された車載器3とを備える。情報センタ1と複数の車両2に搭載された各車載器3とは、無線などによって相互に通信を行う。
【0015】
各車載器3は、GPSなどによって特定された車両2の現在位置データなどを含むプローブデータを定期的に情報センタ1へ送信する。また、各車載器3は、情報センタ1へ出発地と目的地を特定した経路案内をリクエストして、それに対する応答として、情報センタ1が作成した経路の情報を取得する。
【0016】
情報センタ1は、例えば汎用的なコンピュータシステムにより構成され、以下に説明する情報センタ1内の個々の構成要素または機能は、例えば、コンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
図2は、情報センタ1の構成図である。
【0018】
同図に示すように、情報センタ1は、車載器3から送信されたプローブデータを取得するプローブデータ収集部11と、取得したプローブデータを記憶するプローブデータ記憶部21と、地元車両判定のためのエリアを定義するエリアデータ記憶部22と、エリアごとに地元車両を抽出する地元車両判定部12と、各車両2の属性情報などを記憶した車両データ記憶部23と、地元車両の走行ルートから迂回ルート候補を抽出する迂回ルート候補抽出部13と、迂回ルート候補から迂回ルートとして使用可能なルートを選定する迂回ルート判定部14と、迂回ルートに関する迂回ルートデータを記憶する迂回ルートデータ記憶部24と、車載器3からのリクエストに応じて経路案内をする経路案内処理部15と、VICS(Vehicle Information and Communication System)から取得したVICSデータを記憶したVICSデータ記憶部26と、プローブデータが欠落しているときに、プローブデータから算出したリンク旅行時間に相当する推定リンク旅行時間を算出するリンク旅行時間推定部16と、プローブデータ記憶部21のプローブデータから、統計処理を行ってリンク旅行時間データを生成する統計処理部17と、それぞれのリンクのリンク旅行時間を記憶するリンク旅行時間データ記憶部25とを備える。
【0019】
プローブデータ収集部11は、車載器3から随時送られてくるプローブデータを継続的に収集する。プローブデータ収集部11は、収集したプローブデータをプローブデータ記憶部21に格納する。
【0020】
図3は、プローブデータ記憶部21のデータ構造の一例を示す。プローブデータ記憶部21は、データ項目として、車両の識別情報である車両ID211と、そのプローブデータを受信した時刻212と、その時刻における車両の緯度213および経度214と、その時刻にその車両が走行中のリンクNo215とを有する。
【0021】
車両ID211、時刻212、緯度213および経度214は、車載器3から送られてくるプローブデータに含まれている。
【0022】
リンクNo215は、緯度213および経度214から公知のリンクマッチング処理により求められる。
【0023】
統計処理部17は、プローブデータ記憶部21に記憶されているプローブデータを処理して、リンク旅行時間データを生成して、リンク旅行時間データ記憶部25に格納する。例えば、統計処理部17は、プローブデータ記憶部21からプローブデータを読み出し、リンクごとに、それぞれのリンクを通過するのに要するリンク旅行時間を算出する。例えば、一つのリンクに対して複数のプローブデータが存在するときは、統計処理部17は、各プローブデータに基づくリンク旅行時間の平均値をそのリンクのリンク旅行時間とする。
【0024】
また、統計処理部17は、各リンクのリンク旅行時間を、様々な条件別に算出する。その条件とは、例えば、曜日、時間帯、天気及び特定日(年末、正月、お盆の時期など)の一つ以上でよい。
【0025】
統計処理部17は、プローブデータ記憶部21に記憶されているプローブデータのうち、国道などの主要道路(以下「本線」と称する)のみを対象とし、本線のリンクのリンク旅行時間のみを算出するようにしてもよい。
【0026】
エリアデータ記憶部22は、所定の区画に区切ったエリアを定義する。各エリアは、例えば緯度経度の範囲によって特定してもよいし、複数のリンクの集合としてもよい。各エリアには、エリア識別情報が付されている。
【0027】
車両データ記憶部23は、各車両の属性データを記憶する。
【0028】
図4は、車両データ記憶部23のデータ構造の一例を示す。車両データ記憶部23は、データ項目として、車両ID231と、その車両の所有者の氏名232と、その所有者の住所233及び電話番号234と、地元エリア235を有する。
【0029】
住所233は、例えば緯度経度で特定してもよい。
【0030】
地元エリア235は、次に説明する地元車両判定部12の処理によって設定される。
【0031】
地元車両判定部12は、エリアデータ記憶部22で定義されているエリアごとに、プローブデータ記憶部21に記憶されているプローブデータに基づいて、各エリア内に居住あるいは勤務しているなど、そのエリアに何らかの拠点を有するドライバが運転する地元車両を抽出する。
【0032】
地元車両判定部12は、例えば、以下のようにして各車両の走行軌跡から地元車両を推定する。すなわち、地元車両判定部12は、車両データ記憶部23の住所233が登録されている車両ID231に係る車両を、その住所233が属するエリアの地元車両と推定する。また、地元車両判定部12は、車両データ記憶部23の住所233が登録されていない車両ID231に係る車両については、プローブデータ記憶部21に記憶されているプローブデータに基づく走行軌跡を求め、その出発地または目的地となることが多い地点を特定し、その地点が属するエリアの地元車両と推定としてもよい。さらに、車両データ記憶部23の住所233が登録されているときに、登録されている住所233と出発地または目的地となることが多い地点とが所定の距離よりも近いときに、この地点が属するエリアの地元車両と推定してもよい。
【0033】
地元車両判定部12は、地元車両と推定された車両ID231について、車両データ記憶部23の地元エリア235に、その地元であるエリアの識別情報を登録する。地元エリア235には、複数のエリア識別情報を登録することもできる。これは、車両の利用頻度の高いドライバであれば、複数のエリア(居住地及び勤務地などの他、頻繁に利用するエリアなど)の道路に詳しいからである。
【0034】
迂回ルート候補抽出部13は、プローブデータ記憶部21に記憶されている地元車両のプローブデータに基づいて、迂回ルートの候補となるルートを抽出する。
【0035】
例えば、迂回ルート候補抽出部13は、車両データ記憶部23を参照し、地元エリア235が設定されている地元車両の車両ID231を抽出する。そして、その抽出した車両ID231をキーにして、プローブデータ記憶部21からプローブデータを取得する。この取得したプローブデータから地元車両の走行軌跡を求め、この走行軌跡から迂回ルート候補を抽出する。ここで、迂回ルート候補となるのは、例えば、地元エリア235で特定されるエリア内の本線以外の道路である。迂回ルート候補は、リンク単位で抽出され、リンクNoで特定される。さらに、迂回ルート候補抽出部13は、地元車両が走行した本線以外の道路のリンクのうち、使用頻度が所定以上高いものだけを迂回ルート候補としてもよい。
【0036】
図5は、迂回ルート候補の一例を示す図である。
【0037】
この図は、プローブデータによる走行軌跡の例を示したものである。同図では、車両A及び車両Bが、出発地Sから目的地Dまで、それぞれ異なるルートで走行している。つまり、車両Bは、出発地Sから本線のみを通って目的地Dまで到達しているが、車両Aは、一部本線とは異なる道路を通っている。車両Aが、このエリアの地元車両であるとき、迂回ルート候補抽出部13は、本線以外の道路R1,R2のリンクを迂回ルート候補として抽出する。
【0038】
再び図2を参照すると、迂回ルート判定部14は、迂回ルート候補抽出部13が抽出した迂回ルート候補の中から、本線ルートよりも短い時間で走行できる迂回ルートを選別する。例えば、オペレータなどが予め指定した交差点について、その交差点を通過する様々な経路パターン(直進、右折、あるいは左折など)ごとに、本線のみを走行した場合と迂回ルート候補を含む経路を走行した場合のそれぞれの所要時間を比較して、迂回ルート候補を含む経路を走行した場合に所要時間が短くなるときは、その経路に含まれる迂回ルート候補を迂回ルートとして選択する。
【0039】
迂回ルート判定部14は、種々の条件別に迂回ルートの選択を行ってもよい。例えば、迂回ルート判定部14は、曜日、時間帯、天気及び特定日(年末、正月、お盆の時期など)の一つ以上について条件分けを行って、それぞれのときに本線のみの経路より所要時間が短くなる迂回ルートを抽出する。
【0040】
このとき、まず、迂回ルート判定部14は、プローブデータ記憶部21に記憶されているプローブデータに基づいて、それぞれの条件のときに各迂回ルート候補となっているリンクを通過するのに要するリンク旅行時間を算出する。各条件下で、一つのリンクに複数のプローブデータが存在するときは、各プローブデータに基づくリンク旅行時間の平均値をそのリンクのリンク旅行時間とする。
【0041】
そして、迂回ルート判定部14は、ここで算出した迂回ルートのリンクのリンク旅行時間と、それ以外のリンクのリンク旅行時間とをリンク旅行時間データ記憶部25から取得して、オペレータなどが予め指定した交差点を通過する様々な経路パターンの所要時間をそれぞれ算出する。この結果、迂回ルート候補を含む経路の所要時間が短いときに、その迂回ルート候補のリンクを迂回ルートとして選択する。迂回ルート判定部14は、種々の条件別に迂回ルートの選択を行うときは、それぞれの条件ごとに上記処理を行う。
【0042】
また、迂回ルート判定部14は、いずれかの条件のときに迂回ルートとして選択されたリンクについては、すべての条件においても迂回ルートとして迂回ルートデータ記憶部24に登録しておいてもよい。
【0043】
迂回ルート判定部14は、迂回ルートとして選別したリンクについて、リンク旅行時間などを迂回ルートデータ記憶部24に登録する。
【0044】
迂回ルートデータ記憶部24及びリンク旅行時間データ記憶部25は共通のデータ構造を有し、その一例を図6に示す。
【0045】
迂回ルートデータ記憶部24及びリンク旅行時間データ記憶部25は、データ項目として、リンクNo241、251と、曜日242、252と、天気243、253と、時間帯244、254と、特定日245、255と、リンク旅行時間246、256とを含む。曜日242、252、天気243、253、時間帯244、254及び特定日245、255は、各項目の条件が設定されているときはそれぞれの条件を示す値が設定される。
【0046】
経路案内処理部15は、車載器3から出発地及び目的地を指定した経路設定のリクエストを受けると、出発地から目的地までの経路案内を行う。経路案内処理部15は、例えば、出発地から目的地までのあらゆる経路の中から、所要時間が短いものをいくつか選択して、車載器3へ送り、ユーザに提供する。
【0047】
経路設定リクエストには、ユーザの希望に応じて、迂回ルートを含まない経路とするか(「迂回利用不可」)、あるいは、迂回ルートを含んだ経路でもよいか(「迂回利用可」)を示す迂回利用設定を含んでいてもよい。そして、「迂回利用不可」のリクエストに対しては、経路案内処理部15は、迂回ルートデータ記憶部24に登録されている迂回ルートのリンクを含まない経路を作成し、リンク旅行時間データ記憶部25のリンク旅行時間データを利用して所要時間が短い経路をユーザへ提供する。一方、「迂回利用可」のリクエストに対しては、経路案内処理部15は、迂回ルートデータ記憶部24及びリンク旅行時間データ記憶部25に記憶されているリンク旅行時間データを利用して、所要時間が短い経路をユーザへ提供する。
【0048】
ここで、リンク旅行時間データ記憶部25に所望の時間帯のリンク旅行時間データがないときは、経路案内処理部15は、リンク旅行時間推定部16により算出されたリンク旅行時間を用いて所要時間を算出する。リンク旅行時間推定部16の処理は、以下に説明する。
【0049】
VICSデータ記憶部26は、VICSから送られてくるVICSデータを記憶している。
【0050】
リンク旅行時間推定部16は、リンク旅行時間データ記憶部25に本線のリンク旅行時間データが欠落しているときに、他のデータに基づいてそれを推測する。
【0051】
その第1の態様として、リンク旅行時間推定部16は、例えば、VICSデータのリンク旅行時間(以下、「VICS旅行時間」と称する)を、プローブデータから求めたリンク旅行時間(以下、「プローブ旅行時間」と称する)と同等のリンク旅行時間になるように変換して、欠落しているプローブ旅行時間を推定する。
【0052】
これは、VICS旅行時間は、路側に設置された光ビーコンまたは電波ビーコンなどのセンサで測定した走行車両の速度から算出したものであり、プローブデータから算出するプローブ旅行時間とは、その算出の過程が異なる。そのため、VICS旅行時間とプローブ旅行時間とを直接対比しても、正確な比較を行うことができない。そこで、本実施形態では上記のような変換を行う。
【0053】
図7は、第1の態様を図示したものである。例えば、図7(A)に示すように、ある時間帯T1で本線のリンクには、VICS旅行時間M1とプローブ旅行時間M1の双方を得ることができる。一方、図7(B)に示すように、別の時間帯T2ではVICS旅行時間M2は得られるものの、この時間帯のプローブデータが得られなかったため、プローブ旅行時間M2を得ることができない。
【0054】
このようなときに、リンク旅行時間推定部16は、まず時間帯T1の状態に基づいて変換係数Kを求める。すなわち、以下の式(1)により変換係数Kを算出する。
変換係数K=プローブ旅行時間M1/VICS旅行時間M1 …(1)
【0055】
そして、リンク旅行時間推定部16はこの変換係数Kを用いて、以下の式(2)により本線のプローブ旅行時間M2(変換)を算出する。
プローブ旅行時間M2(変換)=変換係数K×VICS旅行時間M2 …(2)
【0056】
これにより、経路案内処理部15は、リンク旅行時間データ記憶部25に所望の時間帯のデータがないでも、この変換により算出された本線のプローブ旅行時間M2(変換)と、迂回ルートのプローブ旅行時間D2とを用いて、いずれのリンクを走行したときの所要時間が短いかを判定できるようになる。
【0057】
なお、変換係数Kは、VICS旅行時間とプローブ旅行時間のいずれも得られる複数の時間帯についてそれぞれ求めた変換係数の平均値であってもよい。
【0058】
上記の変換係数Kによる速度変換は、それぞれ対応するリンクごとに行う。また、同一のリンクであっても、リンク旅行時間の値の範囲に応じて分けて、変換係数を算出するようにしてもよい。例えば、リンク旅行時間推定部16は、プローブ旅行時間またはVICS旅行時間が0〜10秒の範囲、10〜20秒の範囲、20〜30秒の範囲及び30秒以上の範囲に分けて、それぞれの変換係数を算出してもよい。この場合、リンク旅行時間推定部16は、VICS旅行時間に応じて、それぞれ対応する変換係数を用いてプローブ旅行時間(変換)を算出する。
【0059】
この第1の態様は、例えば、本線を走行する車載器3を搭載した車両2が存在しないために本線のプローブデータが得られないので、本線のプローブ旅行時間が得られないようなときに適用できる。
【0060】
次に、第2の態様では、VICSデータ記憶部26に記憶されている対象のリンクのVICSデータに、一部欠落があるために第1の態様を適用できないときに、リンク旅行時間推定部16が、対象リンクの前後のリンクの情報に基づいてプローブ旅行時間を推定する。
【0061】
すなわち、リンク旅行時間推定部16は、対象リンクについて第1の態様の変換係数を算出できない場合に、対象リンクの前後のリンクについて、第1の態様のようにして変換係数を算出し、その前後のリンクの変換係数の平均値を対象リンクの変換係数とする。そして、この変換係数を用いて、第1の態様と同様に対象リンクのプローブ旅行時間を算出する。
【0062】
さらに、第3の態様では、センサの故障など、何らかの不具合が原因でVICSデータに含まれるリンク旅行時間が異常値を示しているときに、リンク旅行時間推定部16が、対象リンクの他の時間帯のプローブ旅行時間を流用して所望の時間帯のプローブ旅行時間を推定する。ここで、異常値とは、例えば、リンク旅行時間の値がまったく変動せず、所定期間(例えば12時間、あるいは24時間)以上一定の値であるようなときである。なぜならば、深夜の時間帯であっても、通勤時間帯であっても、リンク旅行時間が常に一定であるとは考えにくいからである。
【0063】
VICSデータ記憶部26に記憶されている対象リンクのVICS旅行時間がこのような異常値を示すときは、そのリンクのVICS旅行時間を取得することはできない。そこで、リンク旅行時間推定部16は、対象リンクの過去のプローブ旅行時間を用いて、所望の時間帯(例えば現在)のプローブ旅行時間を推定する。例えば、リンク旅行時間推定部16は、曜日、天気、時間帯及び特定日であるか否かなどの条件が一致する過去のプローブ旅行時間をリンク旅行時間データ記憶部25から抽出して、所望の時間のプローブ旅行時間と推定するようにしてもよい。
【0064】
図8に、リンク旅行時間推定部16の処理手順を示すフローチャートを示す。
【0065】
まず、リンク旅行時間推定部16は、対象となるリンクの所望の時間帯のプローブ旅行時間がリンク旅行時間データ記憶部25に記憶されているか否かを判定する(S100)。そして、リンク旅行時間データ記憶部25に所望の時間帯のプローブ旅行時間が登録されていれば(S100:Yes)、何も行わずに処理を終了する。
【0066】
リンク旅行時間データ記憶部25に所望の時間帯のプローブ旅行時間が登録されていなければ(S100:No)、リンク旅行時間推定部16は、同じ時間帯のVICS旅行時間がVICSデータ記憶部26に登録されているか否かを判定する(S110)。VICSデータ記憶部26に同じ時間帯のVICS旅行時間が登録されていれば(S110:Yes)、リンク旅行時間推定部16はその値が異常値でないか判定する(S120)。VICS旅行時間が異常値でなければ(S120:No)、リンク旅行時間推定部16は、対象となるリンクについて、他の時間帯のVICS旅行時間とプローブ旅行時間とを用いて、変換係数Kを算出する(S130)。そして、リンク旅行時間推定部16は、この変換係数Kと、所望の時間帯のVICS旅行時間とを用いて、所望の時間帯のプローブ旅行時間を推定する(S140)。
【0067】
なお、ステップS130では、対象リンクのVICS旅行時間またはプローブ旅行時間の少なくともいずれか一方が0〜10秒、10〜20秒、20〜30秒及び30秒以上となる時間帯について、それぞれ変換係数を算出し、ステップS140で所望の時間帯のVICS旅行時間と対応する変換係数を用いてプローブ旅行時間を推定するようにしてもよい。例えば、ステップS130では、対象リンクのVICS旅行時間で上記のように範囲を分けて、それぞれの変換係数を算出する。そして、ステップS140で所望の時間帯のVICS旅行時間が属する範囲の変換係数を用いてプローブ旅行時間を推定する。
【0068】
ステップS120で、VICS旅行時間が異常値であると判定されたときは(S120:Yes)、リンク旅行時間推定部16は、リンク旅行時間データ記憶部25に記憶されている対象リンクの他の時間帯のプローブ旅行時間に基づいて、所望の時間帯のプローブ旅行時間を推定する(S150)。
【0069】
また、ステップS110で、VICSデータ記憶部26に同じ時間帯のVICS旅行時間が登録されていないときは(S110:No)、リンク旅行時間推定部16は、対象リンクの前後のリンクについて、所望の時間帯のVICS旅行時間とプローブ旅行時間とを用いてそれぞれ変換係数を算出する(S160)。そして、前後のリンクの変換係数から、対象リンクの変換係数Kを算出する(S170)。
【0070】
次に、上記のような構成を備えたナビゲーションシステムでの処理手順について、図9〜図11のフローチャート用いて説明する。
【0071】
図9は、迂回ルートを抽出するための全体処理を示すフローチャートである。この迂回ルート抽出処理を行う前に、予めプローブデータ収集部11によりプローブデータが収集されて、プローブデータ記憶部21に記憶されている。
【0072】
同図では、まず、プローブデータ記憶部21に蓄積されているプローブデータに基づいて、エリアデータ記憶部22に予め定義されているエリアごとに、地元車両判定部12が各エリアの地元車両を特定し、車両データ記憶部23に登録する(S1)。
【0073】
迂回ルート候補抽出部13は、プローブデータ記憶部21に蓄積されているプローブデータに基づいて、地元車両であることが車両データ記憶部23に登録されている車両の走行経路を求め、その走行経路の中の本線以外のリンクを迂回ルート候補として抽出する(S3)。
【0074】
迂回ルート判定部14は、上記処理で抽出された迂回ルート候補の中から、本線ルートよりも所要時間が短くなるルートを迂回ルートとして抽出し、迂回ルートデータ記憶部24に登録する(S5)。
【0075】
図10は、ステップS1の地元車両抽出処理の詳細な処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに従って地元車両抽出処理の詳細な手順を説明する。
【0076】
まず、地元車両判定部12は、エリアデータ記憶部22から対象となるエリアを示すエリアデータを読み出す(S11)。地元車両判定部12は、さらに、車両データ記憶部23から車両データを一つ読み出す(S12)。
【0077】
そして、地元車両判定部12は、車両データ記憶部23から読み出した車両データに住所233が登録されているか否かを判定する(S13)。ここで住所233が登録されているときは(S13:Yes)、登録されている住所233が対象エリア内であるか否かを判定する(S14)。住所233が対象エリア内であるときは(S14:Yes)、地元車両判定部12は、その対象車両のプローブデータをプローブデータ記憶部21から読み出し、読み出したプローブデータから得られる走行軌跡の出発地または目的地を特定する。そして、この出発地及び目的地が住所233で示す地点と所定距離よりも近いか否かを判定する(S15)。出発地及び目的地と住所233との距離が所定距離より近ければ(S15:Yes)、地元車両判定部12は、その車両をそのエリアの地元車両と判定する(S16)。
【0078】
なお、ステップS14及びS15でNoであれば、いずれのときもステップS19へスキップする。
【0079】
一方、ステップS13で、住所233が未登録であるときは(S13:No)、その対象車両のプローブデータをプローブデータ記憶部21から読み出し、読み出したプローブデータから得られる走行軌跡の出発地または目的地を特定する。そして、同じ出発地または同じ目的地が設定されている頻度が所定よりも高いか否かを判定する(S17)。そして、同じ出発地または同じ目的地が設定されている頻度が所定よりも高いときは(S17:Yes)、その出発地または目的地が対象エリア内であるか否かを判定する(S18)。その出発地または目的地が対象エリア内であれば(S18:Yes)、その車両が地元車両と判定する(S16)。
【0080】
なお、ステップS17及びS18でNoであれば、ステップS19へスキップする。
【0081】
そして、ステップS19では、全車両について上記の判定処理が行われたか否かを判定し、全車両について上記判定処理が完了していないときは、ステップS12以降が繰り返される。
【0082】
さらに、ステップS20では、エリアデータ記憶部22に定義されている全エリアについて、上記の判定処理が行われたか否かを判定し、全エリアについて上記判定処理が完了していないときは、ステップS11以降が繰り返される。
【0083】
次に、図11は、ステップS5の迂回ルート選定処理の詳細な処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに従って迂回ルート選定処理の詳細な手順を説明する。
【0084】
まず、迂回ルート判定部14は、所定の交差点などにおいて、設定が可能な出発地と目的地との組み合わせについて、それぞれの出発地からそれぞれの目的地への複数の経路を作成する(S51)。このとき、作成される経路は、本線のみで構成される本線経路と、迂回ルート候補抽出部13で抽出された迂回ルート候補を含む迂回経路とが含まれる。ここで、本線経路は複数あってもよいし、一つの本線経路に対して、迂回経路が複数あってもよい。
【0085】
つぎに、迂回ルート判定部14は、プローブデータ記憶部21に記憶されているプローブデータを用いて、迂回ルート候補のリンクのリンク旅行時間を算出する。また、迂回ルート判定部14は、本線のリンクのリンク旅行時間をリンク旅行時間データ記憶部25から取得する。そして、ステップS51で生成した各本線経路及び迂回経路の所要時間を算出する(S52)。なお、既に繰り返し述べているように、曜日、時間帯、天気などの種々の条件別に迂回ルートを設定するため、ここで算出する所要時間もそれぞれの条件別に行う。
【0086】
そして、同じ出発地から目的地までの本線経路及び迂回経路の所要時間を比較して、迂回経路の方が早いときは、その迂回経路に含まれる迂回ルート候補のリンクを、それぞれの条件下における迂回ルートとして、迂回ルートデータ記憶部24に登録する(S53,S54)。
【0087】
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施形態に係るナビゲーションシステムの概要図である。
【図2】情報センタ1の構成図である。
【図3】プローブデータ記憶部21のデータ構造の一例を示す。
【図4】車両データ記憶部23のデータ構造の一例を示す。
【図5】迂回ルート候補の一例を示す図である。
【図6】迂回ルートデータ記憶部24及びリンク旅行時間データ記憶部25のデータ構造の一例を示す。
【図7】リンク旅行時間推定部16の第1態様の説明図である。
【図8】リンク旅行時間推定部16の処理手順を示すフローチャートを示す。
【図9】迂回ルートを抽出するための全体処理を示すフローチャートである。
【図10】地元車両抽出処理の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【図11】迂回ルート選定処理の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0089】
1 情報センタ
2 車両
3 車載器
11 プローブデータ収集部
12 地元車両判定部
13 迂回ルート候補抽出部
14 迂回ルート判定部
15 経路案内処理部
16 リンク旅行時間推定部
17 統計処理部
21 プローブデータ記憶部
22 エリアデータ記憶部
23 車両データ記憶部
24 迂回ルートデータ記憶部
25 リンク旅行時間データ記憶部
26 VICSデータ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両が走行しているときに、各車両からそれぞれの車両の位置データを継続的に収集する収集手段と、
前記収集手段が収集した各車両の位置データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている各車両の位置データに基づいて、前記複数の車両の中から所定のエリア内に拠点を有する者のエリア車両を推定する推定手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記エリア車両の位置データに基づいて、前記所定のエリアの迂回ルート候補を抽出する抽出手段と、
本線を通る経路の所要時間に対して、一つ以上の迂回ルート候補を通る経路の所要時間が所定の条件を充たすような迂回ルート候補を、迂回ルートとして選別する選別手段と、を備える迂回ルート抽出装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記複数の車両のうちの一つである第1の車両について、前記記憶手段に記憶されている前記第1の車両の位置データに基づいて、前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点を特定し、前記特定された地点のうち、所定以上の頻度で前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点が、前記所定のエリア内であれば、前記第1の車両を前記エリア車両と推定することを特徴とする請求項1記載の迂回ルート抽出装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記複数の車両のうちの一つである第1の車両について、前記第1の車両の所有者の住所が前記所定のエリア内であり、かつ、前記記憶手段に記憶されている前記第1の車両の位置データに基づいて、前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点を特定し、前記特定された地点のうち、所定以上の頻度で前記第1の車両の出発地または目的地となっている地点と、前記第1の車両の所有者の住所とが所定の距離以下であれば、前記第1の車両を前記エリア車両と推定することを特徴とする請求項1記載の迂回ルート抽出装置。
【請求項4】
前記抽出手段は、前記エリア車両の位置データに基づいて前記エリア車両の走行軌跡を求め、当該走行軌跡に含まれる本線ルート以外のルートを迂回ルート候補として抽出することを特徴とする請求項1記載の迂回ルート抽出装置。
【請求項5】
前記選別手段は、曜日、時間帯、天気及び特定日のうちの少なくとも一つ以上を条件として、前記迂回ルート候補の中から前記条件ごとに迂回ルートを選別することを特徴とする請求項1記載の迂回ルート抽出装置。
【請求項6】
前記選別手段は、出発地点及び目的地点を共通としたときに、前記迂回ルート候補を含む迂回経路の所要時間が、前記本線ルートを含み、前記迂回ルート候補を含まない本線経路の所要時間よりも短いときに、前記迂回経路に含まれる迂回ルート候補を迂回ルートとして選別することを特徴とする請求項1記載の迂回ルート抽出装置。
【請求項7】
複数の車両が走行しているときに、各車両からそれぞれの車両の位置データを継続的に収集するステップと、
前記収集した各車両の位置データを記憶手段に記憶するステップと、
前記記憶手段に記憶されている各車両の位置データに基づいて、前記複数の車両の中から所定のエリア内に拠点を有する者のエリア車両を推定するステップと、
前記記憶手段に記憶されている前記エリア車両の位置データに基づいて、前記所定のエリアの迂回ルート候補を抽出するステップと、
所定の出発地から目的地まで、本線を通る経路よりも、一つ以上の迂回ルート候補を通る経路の方が所要時間が短くなるような迂回ルート候補を、迂回ルートとして選別するステップと、を有する迂回ルートの抽出方法。
【請求項8】
迂回ルートの抽出のためのコンピュータプログラムであって、
複数の車両が走行しているときに、各車両からそれぞれの車両の位置データを継続的に収集するステップと、
前記収集した各車両の位置データを記憶手段に記憶するステップと、
前記記憶手段に記憶されている各車両の位置データに基づいて、前記複数の車両の中から所定のエリア内に拠点を有する者のエリア車両を推定するステップと、
前記記憶手段に記憶されている前記エリア車両の位置データに基づいて、前記所定のエリアの迂回ルート候補を抽出するステップと、
所定の出発地から目的地まで、本線を通る経路よりも、一つ以上の迂回ルート候補を通る経路の方が所要時間が短くなるような迂回ルート候補を、迂回ルートとして選別するステップと、をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−250450(P2008−250450A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88295(P2007−88295)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000155469)株式会社野村総合研究所 (1,067)
【Fターム(参考)】