説明

近接場光発電素子および近接場光発電装置

【課題】赤外線領域の近接場光によって発電を行う近接場光発電素子および近接場光発電装置の提供。
【解決手段】赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光によって発電を行う発電素子であって、前記赤外線放射体に対して、前記近接場光の効果が顕著となる距離に離隔して対面配置された発電部を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線領域の近接場光によって発電を行う近接場光発電素子および近接場光発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の1kW級のディーゼルエンジンやガスエンジンによるコジェネレーションシステムにおいて、発電効率は約20〜30%程度であり、一方、排ガスによって放出される排熱はおよそ50〜60%である。この排熱エネルギは給湯や暖房などに供されるが、一般の家庭あるいは中規模の熱電併給システムでは熱余り状態である。そのうえ排ガス温度が600〜700℃程度と比較的低いので、温水以外での排熱回収が困難となっているのが現状である。また、発電効率が高くなるほど排熱温度は低くなり、ますます排熱を利用したエネルギ回収は困難となる。
【0003】
ところで、通常、物体の表面からは、表面温度の4乗に比例する強度の赤外線が放射される(伝播光)。また、この伝播光に加えて表面の近傍では近接場光がその波長以下の近接した領域に発生し、その電界強度は、表面に近づくにつれて高くなり、前記伝播光の強度の100〜1000倍にも達すると従来から予測されている。そこで、厚さ80nmの金ディスクを200℃まで加熱し、タングステンプローブを金ディスクの近接場領域まで近づけ、発生している近接場光を散乱させ、その散乱光をカセグレンレンズで集光し、その強度を検出する試みがなされた(非特許文献1)。
【0004】
また、非特許文献2には、インジウム・ガリウム・ヒ素系の光起電力電池などを、発熱体との間にシリカ製のスペーサを挟んで、発熱体に0.2μmの距離まで近づけて近接場光による発電を行ったことが報告されている。
【非特許文献1】Nature, Letters, Vol.444, 7 Dec., 2006, pp.740-743| doi:10.1038/nature05265
【非特許文献2】Thermophotovoltaic Generation of Electiricity, 6th Conf. on TPV Gen. Electricity, Freiburg, Germany, 14-16, June, 2004, pp.42-51| AIP Conf. Proc. vol.738
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記の試みでは、スペーサを通して光起電力電池に熱が伝導するため、長時間、光起電力電池をスペーサを介して発熱体に接触させていると光起電力電池が熱によって破損する問題が避けられなかった。そこで、光起電力電池の温度が高くなる前に、光起電力電池を発熱体から遠ざける方法も試されているが、赤外線の近接場効果による発電を明確に実証する結果は、今まで報告されていなかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、前記した問題を解決し、赤外線領域の近接場光によって発電を行う近接場光発電素子および近接場光発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光によって発電を行う発電素子であって、前記赤外線放射体に対して、前記近接場光の効果が顕著となる距離に離隔して対面配置された発電部を備えることを特徴とする。
【0008】
この近接場光発電素子では、赤外線放射体に対して、近接場光の効果が顕著となる距離に離隔して対面配置された発電部によって、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光を電気に変換することが可能となる。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記発電部が、GaSb系化合物半導体、GaInAs系化合物半導体、GaInAsSb系化合物半導体、InPAsSb系化合物半導体から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなるものであることを特徴とする。
【0010】
この近接場光発電素子では、GaSb系化合物半導体、GaInAs系化合物半導体、GaInAsSb系化合物半導体、InPAsSb系化合物半導体から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる発電部によって、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光を電気に変換することが可能となる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記赤外線放射体によって加熱され、前記発電部に入射して発電が可能な波長の近接場光を発生する波長選択エミッタを備えることを特徴とする。
【0012】
この近接場光発電素子では、赤外線放射体に配置された波長選択エミッタによって、赤外線放射体の近傍に発生する近接場光の波長を調整して、発電部が発電可能な波長の近接場光を発電部に入射させて効率的に電気に変換することが可能となる。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記波長選択エミッタは、前記発電部に対面する側に前記近接場光の波長の半波長と同程度の大きさのキャビティサイズを有するマイクロキャビティを備えることを特徴とする。
【0014】
この近接場光発電素子は、発電部に対面する側に前記近接場光の波長の半波長と同程度の大きさのキャビティサイズを有するマイクロキャビティを有することによって、赤外線放射体の近傍に発生する近接場光の波長を調整して発電部が発電可能な波長の近接場光を発電部に入射させて効率的に電気に変換することが可能となる。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記の近接場光発電素子を赤外線放射体の周囲に直列および/または並列に配置してなる電池部を有することを特徴とする近接場光発電装置を提供する。
【0016】
この近接場光発電装置では、前記の近接場光発電素子を赤外線放射体の周囲に直列および/または並列に配置してなる電池部によって、前記赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光によって発電を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の近接場光発電素子は、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光を電気に変換して発電することができる。そのため、本発明の近接場光発電素子は、例えば、携帯電話の電源や家庭用小型発電機、工場から出る排熱を利用した業務用の発電機など様々な機器に配備して、これらの機器から排出される熱エネルギを利用して発電を行うための発電素子として有用である。
【0018】
本発明の近接場光発電装置は、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光によって発電を行うことができる。例えば、ディーゼルエンジンやガスエンジンで電気と熱を供給するコジェネレーションシステムにおいて、排気ガスが有する熱エネルギを、近接場光を介して電気エネルギに変換して発電することができる。これによって、コジェネレーションシステム全体のエネルギ変換効率を向上させることができ、従来のコジェネレーションシステムにおいて、温水として給湯や暖房に利用され、残余は利用されずに排出されていた排熱エネルギを容易に電気に変換して有効に利用することが可能となる。これによって、エンジンによる電力量をベースとして、より多く電気が必要である場合には、本発明の近接場光発電素子または近接場光発電装置による排熱発電により電気を、熱が必要である場合には、スイッチひとつで排熱発電を止めて、給湯や暖房に配分する、といった、熱と電気の供給バランスを自在に変えることができる柔軟なコジェネシステムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の近接場光発電素子(以下、「本発明の素子」という)および近接場光発電装置について詳細に説明する。
本発明の素子は、赤外線放射体に対して対面配置された発電部を有し、その発電部のp型半導体部によって、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光を電気に変換するものである。
【0020】
本発明において、赤外線放射体は、発電部によって発電可能な赤外線領域の近接場光を発生可能なものであれば、特に制限されない。特に、排熱によって加熱される部位、部材、部分等を赤外線放射体として、この排熱によって加熱された部位等の表面近傍に発生する赤外線領域の近接場光を利用して発電を行う場合に、本発明の素子は有用である。例えば、定置型のコジェネレーションシステムにおけるガスタービン、デーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関の排ガス路、あるいは乗用車、バス、トラック等の移動用自動車に搭載される内燃機関の排ガス路、また、鉄鋼業における均熱炉や予熱炉の炉壁、ガラス溶融炉における炉壁、さらに、各種の燃焼炉における炉壁などの、例えば、600℃程度以上の温度に加熱される部位、部材、部分等である。本発明の素子は、この赤外線放射体の外面近傍に発生する赤外線領域の近接場光によって発電を行うものである。
【0021】
また、発電部は、赤外線放射体に対して対面する側に設けられ、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光を電気に変換するものである。この発電部は、前記赤外線放射体に対して、赤外線放射体の近傍に発生する近接場光の効果が顕著となる距離に離隔して対面配置される。ここで、近接場光の効果が顕著となる距離とは、入射する近接場光によって発電部が発電可能な距離を言う。例えば、赤外線領域の近接場光に対しては、数十nm程度の距離を言う。赤外線放射体に対して、発電部を、近接場光の波長と同程度の距離に配置して、その赤外線放射体と発電部との間の距離を一定に保持する方法としては、例えば、赤外線放射体と、発電部の表面に設けた集電電極との間の静電容量等を検知し、検知された静電容量等に基づいて、赤外線放射体と発電部との間の距離を計測し、その計測された距離に基づいて、赤外線放射体と発電部とを平行かつ所定の距離に保つ方法、あるいは、後記の図2(A)に示すように、ピエゾアクチュエータ等を介して発電部を支持し、発電部における発電電力に応じて発電部と赤外線放射体の間の距離を一定に保持する方法などを採用することができる。これらの方法によって、赤外線放射体と発電部とを、完全に独立に駆動し、平行を保ちながら、両者の間にナノ・オーダーの隙間を設けて、長時間、近接場光による発電を行うことが可能となる。このとき、赤外線放射体と発電部との間の空間は、気体の熱伝導による熱移動を避けるため、真空にすることが好ましい。
【0022】
この発電部は、赤外線放射体から入射する赤外線領域の近接場光によって発電できるものであれば、特に制限されない、例えば、GaSb系化合物半導体、GaInAs系化合物半導体、GaInAsSb系化合物半導体、InPAsSb系化合物半導体から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなるものが挙げられる。また、これらの化合物半導体は、アンドープまたはZnやBe等のドーパントを適宜ドープしたものでもよい。これらの中でも、GaSb系化合物半導体は、波長1.8μm(カットオフ波長)以下の近接場光によって発電が可能なものである。また、GaInAs系化合物半導体は、式:Ga1−xInAs(xは正の数)で表される組成を有し、波長2.5μm(カットオフ波長)以下の近接場光によって発電が可能なものである。さらに、GaInAsSb系化合物半導体は、波長2.5μm(カットオフ波長)以下の近接場光によって発電が可能なものである。また、InPAsSb系化合物半導体は、波長3.5μm(カットオフ波長)以下の近接場光によって発電が可能なものである。これらの化合物半導体は、赤外線放射体の近傍に発生する近接場光の波長、波長分布等に応じて適宜選択することができる。
【0023】
また、本発明の素子において、赤外線放射体と発電部の間に、赤外線放射体によって加熱され、前記発電部に入射して発電が可能な波長の近接場光を発生する波長選択エミッタを備えると、好ましい。この波長選択エミッタによって、赤外線放射体の近傍に発生する近接場光の波長を調整して、発電部が発電可能な波長の近接場光を発電部に入射させて近接場光を効率的に電気に変換することが可能となる。特に、この波長選択エミッタは、前記発電部に対面する側に前記近接場光の波長の半波長と同程度の大きさのキャビティサイズL(開口面が立方体状のキャビティの側辺の長さ)で構成されるマイクロキャビティを有する構造のものが好ましい。このマイクロキャビティは、金属表面に光リソグラフィと高速原子線エッチング(FAB)で刻設されていてもよいし、用いる金属の種類によっては、シリコンに光リソグラフィによって、マイクロキャビティに応じた凸部を有する型を作製した後、電解鋳造で反転写することによって形成されていてもよい。この溝部を有する構造の波長選択エミッタによって、赤外線放射体の近傍に発生する近接場光の波長を調整して発電部が発電可能な波長の近接場光を発電部に入射させて近接場光を効率的に電気に変換することが可能となる。
【0024】
また、本発明の近接場光発電装置は、赤外線放射体の周囲に本発明の素子からなる電池部を直列および/または並列に配置してなる構成を有するものである。この電池部は、赤外線放射体の形態に合わせて、所要の電圧または電流が得られるように、赤外線放射体の周囲に直列および/または並列に本発明の素子からなる電池部を配置して構成される。このとき、本発明の素子は、赤外線放射体の形態に合わせて発電部および波長選択エミッタ等の形態を選択することができる。例えば、赤外線放射体が円筒状の排気ガス路である場合には、その排気ガス路を被覆するように円筒状に形成された発電部および波長選択エミッタを有する近接場光発電素子を有する発電装置を構成することができる。
【0025】
以下、この近接場光発電素子および近接場光発電装置の実施形態に基づいて、本発明を具体的かつ詳細に説明する。
図1(A)は、本発明の実施形態に係る近接場光発電素子の構造を示す分解斜視図、図1(B)は、その近接場光発電素子の断面模式図である。
図1に示す近接場光発電素子1は、発電部2と、発電部2に対面して配置される波長選択エミッタ3とを有するものである。
【0026】
発電部2は、n型半導体部6と、n型半導体部6の波長選択エミッタ3に対面する側に形成されたp型半導体部5とを有する。n型半導体部6は、Teがドープされたn型GaSb等で形成される。このn型半導体部6は、チョクラルスキー法等によって作製でき、市販されているものを用いてもよいし、Ge/Au金属間化合物基板に分子線エピタキシャル成長によって形成されたものでもよい。また、p型半導体部5は、n型半導体部6の表面に、GaSb、ZnドープGaSb、BeドープGaSbを分子線エピタキシャル成長させる方法、あるいはn型のGaSb層に600℃の恒温槽内でZnを拡散させる方法などによって形成することができる。p型半導体部5を構成する化合物半導体からなる膜は、通常、200nm〜1000nm程度の膜厚に形成される。
【0027】
波長選択エミッタ3は、発電部2に対面する側に配置され、発電部2に対面する基材3の表面に立方柱状に刻設された井桁状のマイクロキャビティ4を有する。マイクロキャビティ4のキャビティサイズL(立方柱の側辺の長さ)は、例えば、発電部2がGaSb系化合物半導体(カットオフ波長:1.8nm)、GaInAs系化合物半導体(カットオフ波長:2.5nm)、GaInAsSb系化合物半導体(カットオフ波長:2.5nm)、またはInPAsSb系化合物半導体(カットオフ波長:3.5nm)で形成されている場合、それぞれカットオフ波長の半波長程度、すなわち、必要な近接場光の波長の半波長の長さに形成される。例えば、発電部2がGaSb系化合物半導体(カットオフ波長:1.8μm)、GaInAs系化合物半導体(カットオフ波長:2.5μm)、GaInAsSb系化合物半導体(カットオフ波長:2.5μm)、またはInPAsSb系化合物半導体(カットオフ波長:3.5μm)で形成されている場合、マイクロキャビティ4のキャビティサイズLは、それぞれカットオフ波長の半波長程度に形成される。また、マイクロキャビティ4の深さは、通常、L以上程度である。このマイクロキャビティ4によって、発生する近接場光の波長を調整して発電部2が発電可能な波長の近接場光を発電部2に入射させて近接場光を効率的に電気に変換することが可能となる。
【0028】
また、波長選択エミッタ3と発電部2との間の距離、すなわち、マイクロキャビティ4の凸部4aの先端と発電部2との間の距離Wは、前記近接場光の波長の半波長と同程度の大きさに保持される。これによって、発電部2によって、赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光を電気に変換することが可能となる。
【0029】
この波長選択エミッタ3と、発電部2との間の距離Wを近接場光の波長の半波長と同程度に保つ方法は、両者の間の距離Wを、近接場光の波長の半波長、すなわち、ナノオーダの距離に一定に保つことができる方法であれば、特に制限されない、例えば、ピエゾアクチュエータ等を用いて、波長選択エミッタ3と、発電部2との間の距離Wを、発電電力が最大となる距離に保つ方法、発電部2と、波長選択エミッタ3に取り付けられた同極性の磁力部の引力または斥力によって、両者の間の距離を一定に保つ方法などが採用される。
【0030】
ピエゾアクチュエータを用いて、波長選択エミッタ3と発電部2との間の距離を一定に保つ方法の具体例として、図2(A)に示す近接場光発電素子11の構造を採用する方法が挙げられる。
図2(A)に示す近接場光発電素子11は、天井壁19および側壁19a等で構成される真空容器VC内に、発電部12と、波長選択エミッタ14のマイクロキャビティ14aとを収納した構造を有する。発電部12は電池セル13で構成され、電池セル13は、波長選択エミッタ14に対面する側に形成されたp型半導体部15と、その反対側に形成されたn型半導体部16とを有する。また、p型半導体部15の波長選択エミッタ14に対面する表面には、図2(B)に示すように、4組のフィンガー電極17a,17b,17c,17dが、p型半導体部15の表面が平坦となるように埋設され、n型半導体部16の外表面には、電極18が設けられている。さらに、電極18と、近接場光発電素子11の天井壁19との間には、4隅に4本の支柱20a,20b,20c,20dが架設されている。この支柱20a,20b,20c,20dには、内部にピエゾアクチュエータが配設されている。そして、支柱20a,20b,20c,20dに配設されたピエゾアクチュエータは、その両端に印加される電圧に応じて、支柱20a,20b,20c,20dの長手方向に伸縮自在である。
【0031】
この近接場光発電素子11は、波長選択エミッタ14から入射する近接場光によって発電部12において発電される。この発電部12における発電において、p型半導体部15と、n型半導体部16との間に生じる電圧が、フィンガー電極17a,17b,17c,17d(またはそのフィンガー電極に電気的に接続された、天井壁19に設けられた電極:図示せず)と、電極18とを介して、支柱20a,20b,20c,20dに配設されたピエゾアクチュエータに印加される。このとき、フィンガー電極17aと、電極18との間に生じる電圧の変化、すなわち、発電電圧の変化に応じて、支柱17aに設けられたピエゾアクチュエータに印加される電圧を調整すれば、その印加される電圧に応じてピエゾアクチュエータが伸縮するとともに、支柱17aが伸縮する。同様に、フィンガー電極17b,17c,17dの各電極と、電極18との間に生じる電圧変化に応じて、支柱20b,20c,20dのそれぞれが伸縮する。これによって、波長選択エミッタ14と、発電部12との間の距離が調整される。
【0032】
したがって、この近接場光発電素子11においては、まず、赤外線放射面である波長選択エミッタ14に面して、発電部12を、近接場効果が顕著となる距離まで近づけ、波長選択エミッタ14と発電部12とが接触しない範囲で、フィンガー電極17b,17c,17dの各電極と、電極18との間に生じる発電電圧の最高値を、波長選択エミッタ14の表面温度とともに記録する。そして、実際に使用する場合には、このフィンガー電極17b,17c,17dの各電極と、電極18との間に生じる4つの電圧を独立に計測し、常に、発電電圧が前記最高値に近い値となるように支柱20a,20b,20c,20dのそれぞれに設けられたピエゾアクチュエーターを駆動して支柱20a,20b,20c,20dを伸縮させ、波長選択エミッタ14と、発電部12との間の距離が、発電電圧が前記最高値となるように調整することが可能となる。これによって、波長選択エミッタ3と、発電部2との間を所定の距離に保つことができる。
【0033】
また、距離Wを、波長選択エミッタ3と、発電部2との間の誘電率の測定等の非接触的な方法によって計測し、計測された距離Wに応じて、支柱20a,20b,20c,20dのそれぞれに設けられたピエゾアクチュエーターを駆動して支柱20a,20b,20c,20dを伸縮させ、波長選択エミッタ14と、発電部12との間の距離が、発電電圧が前記最高値となるように調整することも可能である。
【0034】
この近接場光発電素子1は、波長選択エミッタ3の外側(図1(B)中、紙面上側)に配置される赤外線放射体(図示せず)によって加熱され、マイクロキャビティ4の近傍に加熱温度に応じた赤外線領域の波長の近接場光を発生する。このとき、マイクロキャビティ4のキャビティの大きさ(キャビティの側辺の長さ)Lによって、発生する近接場光の波長を調整してp型半導体部5が発電可能な波長の近接場光を発生させることが可能となる。発生した近接場光は、発電部2のp型半導体部5に入射し、これによって、p型半導体部5を構成する化合物半導体によって発電する。発電した電気は、発電部2に電気的に接続された電極(図示せず)を介して、外部に供給される。
【0035】
次に、図3(A)は、本発明の実施形態に係る近接場光発電装置21の構成例を示す模式断面図、図3(B)は、その近接場光発電装置21の一部を切り欠いて示す斜視図である。
この近接場光発電装置21は、図3(A)に示すように、コジェネレーションシステムの発電機EG、例えば、ディーゼル発電機の排気ガス路24の外周に、排気ガス路24の外側を覆うように、断面円弧状の近接場光発電素子22を並列および直列に複数配置した構成を有するものである。
【0036】
この近接場発電装置21において、近接場光発電素子22は、図3(B)に示すように、円筒状の排気ガス路24の外周に密接するように形成された断面円弧状の波長選択エミッタ23と、その波長選択エミッタ23の外側に配置された発電部25とを有する。
【0037】
波長選択エミッタ23は、その外周、すなわち、発電部25に対面する側に、外周方向に刻設されたマイクロキャビティ26を有する。マイクロキャビティ26のキャビティの大きさは、発電部2を構成する化合物半導体のカットオフ波長程度、すなわち、必要な近接場光の波長の半波長と同程度に形成されている。このマイクロキャビティ26によって、発生する近接場光の波長を調整してp型半導体部28(図2(B)参照)が発電可能な波長の近接場光をp型半導体部28に入射させて近接場光を効率的に電気に変換することが可能となる。
【0038】
発電部25は、波長選択エミッタ23の外側に微少の間隙Gを挟んで配置され、その波長選択エミッタ23を覆う断面円弧状に形成される。この発電部25は、断面円弧状のn型半導体部27と、波長選択エミッタ23に対面する側に設けられたp型半導体部28とを有するものである。
【0039】
p型半導体部28は、チョクラルスキー法等によって形成されたn型半導体部27の表面に、分子線エピタキシー成長等によって、前記化合物半導体からなる膜を成膜して形成される。
【0040】
この近接場光発電装置21において、排気ガス路24を流通する排気ガスによって、波長選択エミッタ23が加熱され、波長選択エミッタ23のマイクロキャビティ26によって、発生する近接場光の波長を調整して発電部25が発電可能な波長の近接場光を発電部25に入射させて近接場光を効率的に電気に変換する。そして、並列および直列に配列された複数の近接場光発電素子22によって、所要の電圧値または電流値の発電が行われ、電気的に接続された電流路によって、外部に電気を供給することが可能となる。
【0041】
この近接場光発電装置21を有するコジェネレーションシステムにおいて、図2(A)に示すように、通常、発電機EGで発生するエネルギの内、発電に使われるエネルギの割合、すなわち、発電効率は規模に依存するが20〜50%であるので、出力100kW級以上のシステムであれば、概略40%となる。そして、発電機の冷却によって失われるエネルギが30%程度であるので、排気ガスは、発電機EGで発生するエネルギの内の30%程度の熱エネルギを有し、温度が600〜700℃程度となる。この排気ガスが有する熱エネルギを利用して、排気ガス路24に設けた近接場光発電装置21によって発電して、排気ガスが有する熱エネルギのおよそ40%程度、すなわち、全体の10%程度のエネルギを電気エネルギに変換することができる。これによって、コジェネレーションシステムにおいて、電力への変換効率を向上させることができる。そして、従来のコジェネレーションシステムにおいては、電力の供給に比べて熱供給が多量となる熱余り状態となる、といった非効率的であったものを、近接場光発電装置をオン・オフすることで、電力供給と熱供給のバランスをスイッチ一つで容易に選択することが可能となるため、全体として、エネルギを有効に利用することが可能となる。
【0042】
また、本発明の近接場光発電装置は、前記のコジェネレーションシステムの排熱エネルギを利用するものに制限されず、各種の発熱体による発電に適用することができる。例えば、定置型のコジェネレーションシステムにおけるガスタービン、デーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関の排ガス路、あるいは乗用車、バス、トラック等の移動用自動車に搭載される内燃機関の排ガス路、また、鉄鋼業における均熱炉や予熱炉の炉壁、ガラス溶融炉における炉壁、さらに、各種の燃焼炉における炉壁などの、例えば、600℃程度以上の温度に加熱される部位、部材、部分等に適用して、発電を行うことが可能となり、エネルギの有効利用、あるいは熱電供給のバランスの最適化に有用である。これらの近接場光発電装置において、本発明の素子をモジュール化し、そのモジュールユニットを発熱体に合わせて配設することによって、発電を行うことができる。さらに、モジュールユニットを配列して、排気ガス流路等の排熱路としてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図3(A)に示すように、10−4Paに減圧された真空容器(図示せず)内に、赤外線放射体(赤外線放射体)32と、電池部33とを対面して配置した構成の近接場光発電の実験装置31を用いて、近接場光による発電を行った。
【0045】
この実験装置31において、赤外線放射体装置32は、ゴニオメータ34と、ゴニオメータ34の端面に搭載されたタングステンブロック赤外線放射体35とを有する。ゴニオメータ34は、タングステンブロック35のZ軸方向の傾き角度を調整可能である。また、この赤外線放射体32は、ゴニオメータ34の上方から、ゴニオメータ34を貫通してタングステンブロック35の上面に達するレーザ通路36(図3(B)参照)を有する。
【0046】
また、電池部33は、マイクロメータ37の基台38と、基台38上に搭載された銅ブロック39と、銅ブロック39の上部に貼り付けられた、ガリウム・アンチモン系化合物半導体からなる光起電力電池素子40とを有する。光起電力電池素子40は、前記発電部と同様に、タングステンブロック赤外線放射体35に対面する側にp型半導体部、その反対側にn型半導体部を有するものである。銅ブロック39の内部には、冷却水流路(図示せず)が設けられている。また、光起電力電池素子40の表面には、格子状の集電用電極(図示せず)が、光起電力電池素子40の表面と平行に貼り付けられている。さらに、マイクロメータ37は、X軸,Y軸およびZ軸方向の基台38の位置調整、ならびにZ軸方向の基台38の回転角度が調整可能である。
【0047】
この実験装置31において、図3(B)に示すように、まず、ゴニオメータ34に搭載されたタングステンブロック赤外線放射体35と、マイクロメータ37に搭載された光起電力電池素子40とを向かい合わせた。次に、タングステンブロック赤外線放射体35の温度が常温の状態で、ゴニオメータ34によってタングステンブロック赤外線放射体35の表面を傾け、光起電力電池素子40の表面に貼り付けられた集電用電極と、タングステンブロック赤外線放射体35と接触したときの通電を検知し、そのときのタングステンブロック赤外線放射体35の傾き角度を測定した。さらに、ゴニオメータ34によってタングステンブロック赤外線放射体35の表面を、逆方向に傾け、タングステンブロック赤外線放射体35が集電用電極に接触したときの通電を検知し、そのときのタングステンブロック赤外線放射体35の傾き角度を測定した。そして、それらの2つの傾き角度から、タングステンブロック赤外線放射体35と、集電用電極が表面に貼り付けられた光起電力電池素子40とが平行となるタングステンブロック赤外線放射体35の傾き角度および位置を求めた。この操作をZ軸方向(図3中、紙面上下方向)に直交する2軸方向(X軸方向、Y軸方向)について行った。なお、この集電用電極にタングステンブロック赤外線放射体35が接しないように、タングステンブロック赤外線放射体35の表面には溝が設けてある。
さらに、タングステンブロック赤外線放射体35と集電用電極との接触による通電の有無を検知しながら、マイクロメータ37によって、タングステンブロック赤外線放射体35と光起電力電池素子40とが、接触せず、かつ平行となるように光起電力電池素子40の位置決めを行った。
【0048】
次に、一旦、ゴニオメータ34によって、タングステンブロック赤外線放射体35を、光起電力電池素子40から離した後、レーザ通路36を通って炭酸ガスレーザを照射してタングステンブロック赤外線放射体35を加熱した。タングステンブロック赤外線放射体35の温度が650℃に達した後、炭酸ガスレーザによる加熱量を一定にして、ゴニオメータ34によって、タングステンブロック赤外線放射体35を光起電力電池素子40の表面に近接させた。このとき、光起電力電池素子40と対面する、タングステンブロック赤外線放射体35の面積は0.2cm×0.8cmであり、光起電力電池素子40が赤外線を受光する面積、すなわち、発電に寄与する有効面積(タングステンブロック赤外線放射体35と光起電力電池素子40とが実際に対面している面積)も0.2cm×0.8cmであった。
【0049】
この実験装置31において、測定された光起電力電池素子の電流−電圧特性を図4に示す。図5に示されるように、発熱体であるタングステンブロック赤外線放射体35と、光起電力電池素子40との間の距離が50μm以下になると、形態係数(タングステンブロック赤外線放射体35の表面から放射されたエネルギが光起電力電池素子40の表面に到達する割合;2つの無限平板であれば、一方から放射された光は必ずもう一方の面に到達するので形態係数は常に1となる)はほぼ1となり、さらに、タングステンブロック赤外線放射体35と光起電力電池素子40とが近接して、両者の間の距離が1μm以下になると、伝播光による発電に比べて、開放電圧が1.4倍に、短絡電流が4倍にまで跳ね上がった。光起電力電池素子の表面と、タングステンブロックの表面との間の距離は、マイクロメーターの移動距離から求めた。また、比較のために、発熱体の表面温度の4乗に比例する伝播光による発電量を、図5に黒丸で示す。この伝播光による発電量は、図5に示すとおり、距離に依らず、電池の出力は一定となる。
【0050】
この実験装置における光起電力電池素子の電流−電圧特性は、伝播光であっても近接場光であっても変わることはないので、近接場効果による電流−電圧特性は、図5に示されるようになる、と考えられる。ここで、発電量は、それら増大分の掛け算で表現できることから、近接場効果により、伝播光による場合よりも5.6倍の発電量が見込まれることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)は、本発明の実施形態に係る近接場光発電素子の構造を示す分解斜視図、(B)は、その近接場光発電素子の断面模式図である。
【図2】(A)は、本発明の実施形態に係る近接場光発電素子における発電部の位置を調整するための構造を説明する分解斜視図、(B)は、その近接場光発電素子の断面模式図である。
【図3】(A)は、本発明の実施形態に係る近接場光発電装置の構成例を示す模式断面図、(B)は、その近接場光発電装置の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図4】(A)は、実施例で用いた近接場光発電の実験装置の構成を示す分解斜視図、(B)は、その実験装置による実験方法を説明する図である。
【図5】実施例における近接場光による発電結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 近接場光発電素子
2 発電部
3 波長選択エミッタ
4 マイクロキャビティ
5 p型半導体部
6 n型半導体部
11 近接場光発電素子
12 発電部
13 電池セル
14 波長選択エミッタ
15 p型半導体部
16 n型半導体部
17a,17b,17c,17d フィンガー電極
18 電極
19 天井壁
20a,20b,20c,20d 支柱
21 近接場発電装置
22 近接場光発電素子
23 波長選択エミッタ23
24 排気ガス路
25 発電部
26 マイクロキャビティ
27 基板
28 p型半導体部
31 実験装置
32 赤外線放射体装置
33 電池部
34 ゴニオメータ
35 タングステンブロック赤外線放射体
36 レーザ通路
37 マイクロメータ37
38 基台
39 銅ブロック
40 光起電力電池素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線放射体の近傍に発生する赤外線領域の近接場光によって発電を行う発電素子であって、
前記赤外線放射体に対して、前記近接場光の効果が顕著となる距離に離隔して対面配置された発電部を備えることを特徴とする近接場光発電素子。
【請求項2】
前記発電部が、GaSb系化合物半導体、GaInAs系化合物半導体、GaInAsSb系化合物半導体、InPAsSb系化合物半導体から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の近接場光発電素子。
【請求項3】
前記赤外線放射体によって加熱され、前記発電部に入射して発電が可能な波長の近接場光を発生する波長選択エミッタを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の近接場光発電素子。
【請求項4】
前記波長選択エミッタは、前記発電部に対面する側に前記近接場光の波長の半波長と同程度の大きさのキャビティサイズを有するマイクロキャビティを備えることを特徴とする請求項3に記載の近接場光発電素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の近接場光発電素子を赤外線放射体の周囲に直列および/または並列に配置してなる電池部を有することを特徴とする近接場光発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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