説明

近接露光装置及び近接露光方法

【課題】比較的簡単な構成で、マスクの撓みを補正しつつマスクを保持することができ、高精度で露光転写することができる近接露光装置及び近接露光方法を提供する。
【解決手段】マスクステージ1は、マスクMを下面に真空吸着して保持するマスクホルダ26と、マスクホルダ26の上面側に保持されるカバーガラス32と、マスクホルダ26、マスクM、及びカバーガラス32によって画成される空間33内の空気を吸引して該空間33内を減圧させる吸引機構40と、減圧された空間33内に外部から空気を供給する少なくとも1つの空気導入溝35と、を備える。そして、マスクMをマスクホルダ26の下面に真空吸着してマスクMを保持し、また、吸引機構40によって空間33内の圧力を吸引するとともに、空気導入溝35を介して外部の空気を空間33に供給することで、空間33内の圧力を所定の圧力に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接露光装置及び近接露光方法に関し、より詳細には、例えば液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の大型のフラットパネルディスプレイ等の基板上にマスクのパターンを露光転写するのに好適な近接露光装置及び近接露光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近接露光は、表面に感光剤を塗布した透光性の基板(被露光材)を露光装置のワークステージ上に保持すると共に、該基板をマスクステージのマスクホルダに保持されたマスクに接近させて両者のギャップを、例えば数10μm〜数100μmにし、マスクの基板と反対側から照射装置によって露光用の光をマスクに向けて照射することによりマスクに描かれたパターンを基板上に露光転写するようにしたものである。
【0003】
ところで、近接露光には、マスクを基板と同じ大きさにして一括で露光する方式があるが、このような方式では、大型基板上にマスクのパターンを露光転写する場合にマスクが大型化し、マスクの撓みによるパターン精度への影響やコスト面等で問題が生じる。このような事情から、従来においては、大型基板上にマスクのパターンを露光転写する場合には、基板より小さいマスクを用い、ワークステージをマスクに対してステップ移動させてステップ毎にマスクを基板に近接配置した状態でパターン露光光を照射し、これにより、マスクに描かれた複数のパターンを基板上に露光転写する、所謂ステップ式の近接露光方式が用いられる場合がある。
【0004】
マスクの撓みは露光精度に与える影響が大きく、特に、大型マスクにおいては、マスクの撓みが大きくなる傾向があり、極力、撓みを小さくすることが望ましい。従来、マスクの撓みを補正するマスク保持装置としては、マスクホルダに形成したマスク吸着路を介してマスクを吸着保持すると共に、マスクとマスクホルダと上蓋で構成された空間にエアー吸引路、及びエアー導入路を接続して、該空間内の圧力をマスクの自重と釣り合う圧力に調整してマスクを重力方向と反対方向へ撓ませてマスクの自重撓みをキャンセルするようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、マスクと透明板と枠状体に囲まれた空間に、排気装置に接続された排気管、及び空気導入装置に接続された導入管を接続して該空間内の空気を排出し、また空気を導入して、マスクの撓みを補正するようにした露光装置が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、マスクを真空吸着する真空吸着枠の枠内に透明板ガラスを固定配置し、透明板ガラスとマスクとの間の空気を真空吸引することにより、真空吸着枠及び透明板ガラスによってマスクを真空吸着し、マスクの保持力を向上させてマスクのずれを防止したものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−277900号公報
【特許文献2】特開平8−82919号公報
【特許文献3】特開2006−93604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1によると、エアー導入路から供給されるエアーは、マスクホルダとマスクの接合面を介してエアー吸引路、及びマスク吸着路へ供給されるため、接合面からは僅かなエアーしか供給されない。そのため、すぐに、上蓋とマスクがマスクホルダ内部側へ撓み、マスク及び上蓋が折損する可能性がある。また、特許文献2は、排気装置に接続された排気管、及び空気導入装置に接続された導入管を空間に接続して空気を排出し、また導入して空間内の圧力を制御するため、真空発生装置周辺に多くの制御装置が必要となる。また、ゴムパットを用いてマスクを枠状体に取り付けているため、コスト高になる虞がある。特許文献3によると、外部から空気を導入する機構がなく、空間内が過剰に負圧となってマスク及び透明板ガラスが損傷する虞がある。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的簡単な構成で、マスクの撓みを補正しつつマスクを保持することができ、高精度で露光転写することができる近接露光装置及び近接露光方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。(1) 被露光材としての基板を保持する基板ステージと、 露光すべきパターンを有するマスクを保持するマスクステージと、 前記基板に対してパターン露光用の光を前記マスクを介して照射する照射手段と、を備え、前記マスクと前記基板とを近接して所定の露光ギャップで対向配置した状態で、前記基板上に前記マスクのパターンを露光転写する近接露光装置であって、 前記マスクステージは、 前記マスクを下面に真空吸着して保持するマスクホルダと、 前記マスクホルダの上面側に保持されるカバーガラスと、 少なくとも前記マスクホルダ、前記マスク、及び前記カバーガラスによって画成される空間内の空気を吸引して該空間内を減圧させる吸引機構と、 減圧された前記空間内に外部から空気を供給する少なくとも1つの空気導入路と、を備えることを特徴とする近接露光装置。(2) 前記空気導入路は、前記カバーガラスと前記マスクホルダとの接合部に配置される空気導入溝であることを特徴とする上記(1)に記載の近接露光装置。(3) 前記マスクステージは、前記マスクホルダを下面に真空吸着して保持し、マスク駆動部によって駆動されるマスクフレームをさらに備えることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の近接露光装置。(4) 前記マスクホルダは、上面に突起部または凹部を備え、 前記マスクフレームは、下面に凹部または突起部を備え、 前記マスクホルダの前記突起部または凹部が、前記マスクフレームの前記凹部または突起部と係合して、前記マスクホルダが前記マスクフレームの下面に保持されることを特徴とする上記(3)に記載の近接露光装置。(5) 前記マスクフレームは、前記マスクホルダを支持して前記マスクホルダの前記マスクフレームからの落下を防止するマスクホルダバックアップ機構をさらに備えることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の近接露光装置。(6)前記マスクホルダは、前記マスクホルダの所定の位置に前記カバーガラスを保持する保持機構を備えることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の近接露光装置。(7)前記マスクホルダは、その面密度をマスクMの面密度より高くなるように選択することを特徴とする(6)に記載の近接露光装置。(8) 前記マスクステージは、前記マスクホルダが下面に取り付けられると共に、前記カバーガラスを下面に真空吸着して保持するマスクフレームを備え、 前記空間は、前記マスクフレーム、前記マスクホルダ、前記マスク、及び前記カバーガラスによって画成され、 前記空気導入路は、前記マスクフレームと前記マスクホルダとの接合部に配置される空気導入溝であることを特徴とする上記(1)に記載の近接露光装置。(9)前記空気導入路は、マスクホルダの中央部に備えられていることを特徴とする(8)に記載の近接露光装置。(10) 上記(1)〜(9)のいずれかの近接露光装置を用いて、前記マスクと前記基板とを近接して所定の露光ギャップで対向配置した状態で、前記基板上に前記マスクのパターンを露光転写する近接露光方法であって、 前記マスクを前記マスクホルダの下面に真空吸着して前記マスクを保持する工程と、 前記吸引機構によって前記空間内の圧力を吸引するとともに、前記空気導入路を介して前記外部の空気を前記空間に供給することで、前記空間内の圧力を所定の圧力に調整する工程と、を有することを特徴とする近接露光方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の近接露光装置及び近接露光方法によれば、マスクステージは、マスクを下面に真空吸着して保持するマスクホルダと、マスクホルダの上面側に保持されるカバーガラスと、少なくともマスクホルダ、マスク、及びカバーガラスによって画成される空間内の空気を吸引して該空間内を減圧させる吸引機構と、減圧された空間内に外部から空気を供給する少なくとも1つの空気導入路と、を備える。そして、マスクをマスクホルダの下面に真空吸着してマスクを保持し、また、吸引機構によって空間内の圧力を吸引するとともに、空気導入路を介して外部の空気を空間に供給することで、空間内の圧力を所定の圧力に調整する。これにより、マスクステージは、比較的簡単な構成で、マスクの撓みを補正しつつマスクを保持することができ、基板上にマスクのパターンを高精度で露光転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る第1実施形態の近接露光装置を説明するための部分破断正面図である。
【図2】図1に示すマスクステージの概略構成を示す断面図である。
【図3】マスクフレームが短いスパンでマスクホルダを保持するマスクステージの断面図である。
【図4】図2に示すマスクステージを分解して示す断面図である。
【図5】第1実施形態の近接露光装置の第1変形例であり、マスクフレームの凹部にマスクホルダの突起部が係合する状態を示すマスクステージの要部断面図である。
【図6】第1実施形態の近接露光装置の第2変形例であり、マスクホルダバックアップ機構の機構説明図である。
【図7】(a)は第1実施形態の第3変形例のマスクステージの要部拡大断面図、(b)は第4変形例のマスクステージの要部拡大断面図である。
【図8】(a)は本発明に係る第2実施形態のマスクステージの概略構成を示す断面図、(b)はマスクフレームとマスクホルダとの接合部に形成された空気導入溝を示す断面図である。
【図9】第2実施形態の変形例のマスクステージの概略構成を示す図8(a)相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る近接露光装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。(第1実施形態) 図1は本発明の第1実施形態である近接露光装置の部分破断正面図である。図1に示すように、近接露光装置PEは、被露光材としての基板Wより小さいマスクMを用い、マスクMをマスクステージ1で保持すると共に、基板Wをワークステージ2で保持し、マスクMと基板Wとを近接させて所定の露光ギャップで対向配置した状態で、照射手段3からパターン露光用の光をマスクMに向けて照射することにより、マスクMのパターンを基板W上に露光転写する。また、ワークステージ2をマスクMに対してX軸方向とY軸方向の二軸方向にステップ移動させて、ステップ毎に露光転写が行われる。
【0012】
ワークステージ2をX軸方向にステップ移動させるため、装置ベース4上には、第1ステージであるX軸送り台5aをX軸方向にステップ移動させるX軸ステージ送り機構5が設置されている。X軸ステージ送り機構5のX軸送り台5a上には、ワークステージ2をY軸方向にステップ移動させるため、第2ステージであるY軸送り台6aをY軸方向にステップ移動させるY軸ステージ送り機構6が設置されている。Y軸ステージ送り機構6のY軸送り台6a上には、ワークステージ2が設置されている。ワークステージ2の上面には、基板Wがワークチャック等で真空吸引された状態で保持される。また、ワークステージ2の側部には、マスクMの下面高さを測定するための基板側変位センサ15が配設されている。従って、基板側変位センサ15は、ワークステージ2と共にX、Y軸方向に移動可能である。
【0013】
装置ベース4上には、複数(図に示す実施形態では4本)のX軸リニアガイドのガイドレール51がX軸方向に配置され、それぞれのガイドレール51には、X軸送り台5aの下面に固定されたスライダ52が跨架されている。これにより、X軸送り台5aは、X軸ステージ送り機構5の第1リニアモータ20で駆動され、ガイドレール51に沿ってX軸方向に往復移動可能である。また、X軸送り台5a上には、複数のY軸リニアガイドのガイドレール53がY軸方向に配置され、それぞれのガイドレール53には、Y軸送り台6aの下面に固定されたスライダ54が跨架されている。これにより、Y軸送り台6aは、Y軸ステージ送り機構6の第2リニアモータ21で駆動され、ガイドレール53に沿ってY軸方向に往復移動可能である。
【0014】
Y軸ステージ送り機構6とワークステージ2の間には、ワークステージ2を上下方向に移動させるため、比較的位置決め分解能は粗いが移動ストローク及び移動速度が大きな上下粗動装置7と、上下粗動装置7と比べて高分解能での位置決めが可能でワークステージ2を上下に微動させてマスクMと基板Wとの対向面間のギャップを所定量に微調整する上下微動装置8が設置されている。
【0015】
上下粗動装置7は後述の微動ステージ6bに設けられた適宜の駆動機構によりワークステージ2を微動ステージ6bに対して上下動させる。ワークステージ2の底面の4箇所に固定されたステージ粗動軸14は、微動ステージ6bに固定された直動ベアリング14aに係合し、微動ステージ6bに対し上下方向に案内される。なお、上下粗動装置7は、分解能が低くても、繰り返し位置決め精度が高いことが望ましい。
【0016】
上下微動装置8は、Y軸送り台6aに固定された固定台9と、固定台9にその内端側を斜め下方に傾斜させた状態で取り付けられたリニアガイドの案内レール10とを備えており、該案内レール10に跨架されたスライダ11を介して案内レール10に沿って往復移動するスライド体12にボールねじのナット(図示せず)が連結されると共に、スライド体12の上端面は微動ステージ6bに固定されたフランジ12aに対して水平方向に摺動自在に接している。
【0017】
そして、固定台9に取り付けられたモータ17によってボールねじのねじ軸を回転駆動させると、ナット、スライダ11及びスライド体12が一体となって案内レール10に沿って斜め方向に移動し、これにより、フランジ12aが上下微動する。 なお、上下微動装置8は、モータ17とボールねじによってスライド体12を駆動する代わりに、リニアモータによってスライド体12を駆動するようにしてもよい。
【0018】
この上下微動装置8は、Z軸送り台6aのY軸方向の一端側(図1の左端側)に1台、他端側に2台、合計3台設置されてそれぞれが独立に駆動制御されるようになっている。これにより、上下微動装置8は、後述するマスク側変位センサ27を構成するギャップセンサによる複数箇所でのマスクMと基板Wとのギャップ量の計測結果に基づき、3箇所のフランジ12aの高さを独立に微調整してワークステージ2の高さ及び傾きを微調整する。 なお、上下微動装置8によってワークステージ2の高さを十分に調整できる場合には、上下粗動装置7を省略してもよい。
【0019】
また、Y軸送り台6a上には、ワークステージ2のY方向の位置を検出するY軸レーザ干渉計18に対向するバーミラー19と、ワークステージ2のX軸方向の位置を検出するX軸レーザ干渉計に対向するバーミラー(共に図示せず)とが設置されている。Y軸レーザ干渉計18に対向するバーミラー19は、Y軸送り台6aの一側でX軸方向に沿って配置されており、X軸レーザ干渉計に対向するバーミラーは、Y軸送り台6aの一端側でY軸方向に沿って配置されている。
【0020】
Y軸レーザ干渉計18及びX軸レーザ干渉計は、それぞれ常に対応するバーミラーに対向するように配置されて装置ベース4に支持されている。なお、Y軸レーザ干渉計18は、X軸方向に離間して2台設置されている。2台のY軸レーザ干渉計18により、バーミラー19を介してY軸送り台6a、ひいてはワークステージ2のY軸方向の位置及びヨーイング誤差を検出する。また、X軸レーザ干渉計により、対向するバーミラーを介してX軸送り台5a、ひいてはワークステージ2のX軸方向の位置を検出する。
【0021】
図2も参照して、マスクステージ1は、略長方形状の枠体からなるマスク基枠24と、該マスク基枠24の中央部開口にギャップを介して挿入されてX,Y,θ方向(X,Y平面内)に移動可能に支持されたマスクフレーム25とを備えており、マスク基枠24は装置ベース4から突設された支柱4aによってワークステージ2の上方の定位置に保持されている。
【0022】
マスクフレーム25の中央部開口の下面には、枠状のマスクホルダ26が設けられている。即ち、マスクフレーム25の下面には、図示しない真空式吸着装置に接続される複数のマスクホルダ吸着溝30が設けられており、マスクホルダ26が複数のマスクホルダ吸着溝30を介してマスクフレーム25に吸着保持される。
【0023】
マスクホルダ26の下面には、マスクMのマスクパターンが描かれていない周縁部を吸着するための複数のマスク吸着溝31が開設されており、マスクMは、マスク吸着溝31を介して図示しない真空式吸着装置によりマスクホルダ26の下面に着脱自在に保持される。また、マスクホルダ26の上面には、マスクホルダ26の開口を覆うようにカバーガラス32が載置される。これにより、マスクホルダ26、マスクM、及びカバーガラス32によって空間33が画成される。
【0024】
マスクホルダ26には、空間33に連通する吸引路34が形成されており、該吸引路34が吸引機構40に接続されている。更に、マスクホルダ26の上面には、載置されたカバーガラス32と接触する接合部の一部に、空間33と外部とを連通する少なくとも一つ(本実施形態では、複数)の空気導入溝(空気導入路)35が形成されている。従って、空間33は、空気導入溝35の部分を除いて、外部から閉塞された状態となっている。 なお、図2では、マスク吸着溝31、吸引路34、空気導入溝35を同一断面に示しているが、これに限らず、吸引路34、空気導入溝35は、上面視で所望の位置に形成することができる。例えば、吸引路34は、空間33をマスクホルダ26の外部と連通する構成であれば、任意の位置に形成されればよい。また、空気導入溝35の寸法、即ち、空気導入溝35とカバーガラス32とによって形成される断面寸法は、吸引機構40によって十分に圧力調整可能な大きさに設定されている。
【0025】
吸引機構40は、接続パイプ41を介して空間33に接続されて空間33内の空気を吸引するブロア42及び負圧補助タンク43を備える。接続パイプ41の途中には、流量計44、流量調整機構45、及び圧力調整機構46が設けられており、これらを用いて空間33の圧力を所定の圧力に調整する。
【0026】
具体的には、流量調整機構45や圧力調整機構46を調整して、ブロア42や負圧補助タンク43によって空間33内の空気を吸引して該空間33内の圧力を減圧することにより、自重によって下方に撓もうとするマスクMの撓みが補正される。また、空間33内の減圧に伴って外部の空気が空気導入溝35を介して空間33内に流入するので、空間33内の圧力は、ブロア42や負圧補助タンク43による空間33からの空気吸引量と、空気導入溝35から流入する外部空気の流入量と、のバランスによって決まる。また、マスクMの自重によりマスクホルダ26が撓まないように、マスクホルダ26の厚さtを、その面密度がマスクMの面密度より高くなるように選択してもよい。
【0027】
従って、空間33内の圧力は、空間33内の圧力と大気圧との圧力差、または空間33内の圧力とマスク吸着溝31との圧力差を、不図示の圧力計で計測しながら、流量計44、流量調整機構45または圧力調整機構46を調整することで所定の圧力に調整可能である。また、空気導入溝35と吸引機構40とで上記バランスを図る初期の立ち上げ時を除けば、運用時には、吸引機構40により空間33から空気を連続吸引するだけであるので、簡単な機構によって空間33内の安定した圧力が得られ、これにより、マスクMの撓みを補正することができる。
【0028】
さらに、空間33内の圧力が低下すると、空気導入溝35を介して外部の空気が空間33内に流入するので、ブロア42や負圧補助タンク43によって空間33内の空気を連続して吸引し続けても空間33内の圧力が過度に低下することがなく、マスクM及びカバーガラス32が過度な圧力差によって損傷することはない。 なお、吸引機構40は、流量計44を少なくとも一つ有する構成であってもよく、また、流量調整機構45と圧力調整機構46のいずれか一方を有する構成であってもよい。
【0029】
また、マスクフレーム25は、図3に示すように、複数に分割形成して互いに接近および離間可能に構成してもよい。これにより、マスクM(マスクホルダ26)の大きさに合わせてマスクフレーム25が短いスパンでマスクホルダ26を保持することができ、マスクホルダ26の撓みを補正することができる。この結果、マスクホルダ26の撓みによる影響も抑制することができ、露光精度がさらに向上する。
【0030】
また、図4に示すように、マスクステージ1を構成する各部材は、真空吸着によって吸着保持されているので、容易に分解することができる。従って、例えば、マスクMを不図示のロボットなどでマスクホルダ26に吸着保持させる際、マスクMとマスクホルダ26との干渉によりマスクホルダ26のマスク保持面(下面)に傷を付けた場合など、分解して該マスク保持面を研磨して補修することが容易となる。
【0031】
なお、図1に戻って、マスクホルダ26の上方には、基板Wの上面の高さを測定すると共に、マスクMと基板Wとの対向面間のギャップを測定するギャップセンサを構成するマスク側変位センサ27、及びマスクMのアライメントマーク(図示せず)と、基板W側に設けられたアライメントマーク(図示せず)、又はワークステージ2、若しくはマスク基枠24に設けられた基準アライメントマーク(図示せず)とを撮像する手段としてのアライメントカメラ28がそれぞれ移動可能に配置されている。また、マスキングアパチャー機構29は、マスクフレーム25に保持されたマスクM上の任意の範囲の露光光を必要に応じて遮光することで、露光範囲を制限する遮光ブレード(図示せず)を有する。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の近接露光装置PEによれば、マスクステージ1は、マスクMを下面に真空吸着して保持するマスクホルダ26と、マスクホルダ26の上面側に保持されるカバーガラス32と、マスクホルダ26、マスクM、及びカバーガラス32によって画成される空間33内の空気を吸引して該空間33内を減圧させる吸引機構40と、減圧された空間33内に外部から空気を供給する少なくとも1つの空気導入溝35と、を備える。そして、マスクMをマスクホルダ26の下面に真空吸着してマスクMを保持し、また、吸引機構40によって空間33内の圧力を吸引するとともに、空気導入溝35を介して外部の空気を空間33に供給することで、空間33内の圧力を所定の圧力に調整する。 これにより、マスクステージ1は、簡単な構成で、マスクMの撓みを補正しつつマスクMを保持することができ、基板W上にマスクMのパターンを高精度で露光転写することができる。
【0033】
また、空気導入溝35が、カバーガラス32とマスクホルダ26との接合部に配置されているので、マスクホルダ26に僅かな加工を施すだけで、安価且つ簡単に空気導入溝35を設けることができる。
【0034】
更に、マスクステージ1は、マスクホルダ26を下面に真空吸着して保持し、マスク駆動部によって駆動されるマスクフレーム25を備えるので、マスクフレーム25とマスクホルダ26とを容易に分解することができ、マスクホルダ26が損傷したときの補修作業を簡単に行うことができる。
【0035】
図5は、第1実施形態の第1変形例であり、マスクフレーム25は、マスクホルダ26との接合面に凹部25aが形成されている。また、マスクホルダ26には、凹部25aに対向して突起部26aが形成されている。そして、マスクフレーム25にマスクホルダ26を真空吸着する際、突起部26aを凹部25aに係合させて吸着することで、位置精度よくマスクフレーム25をマスクホルダ26に保持させることができる。
【0036】
また、マスクホルダ26に撓みが生じると、マスクホルダ26とマスクMとの間に滑が発生してマスクMの撓み状態が変化する可能性があるが、マスクフレーム25の凹部25aとマスクホルダ26の突起部26aとを係合させることで、マスクホルダ26の撓みが抑制され、マスクMに与える影響が低減する。更に、凹部25aと突起部26aとの係合は、マスクホルダ26の落下防止装置としても機能する。なお、マスクフレーム25に凹部25aを形成し、マスクホルダ26に突起部26aを形成するようにしたが、逆にマスクフレーム25に突起部を設け、マスクホルダ26に凹部を設け、両者を係合するようにしてもよい。
【0037】
図6は、第1実施形態の第2変形例であり、マスクホルダバックアップ機構の機構説明図である。マスクホルダバックアップ機構60は、マスクホルダ支持体61と、駆動機構62とからなる。マスクホルダ支持体61の先端には、マスクホルダ26の下部外周縁部に設けられた傾斜面26bに係合可能な傾斜面であるマスクホルダ受け部61aが形成されている。マスクホルダ支持体61は、マスクフレーム25の下面に設けられたガイド部材63によりガイドされて、マスクホルダ26に接近または離間する方向に移動可能となっている。
【0038】
駆動機構62は、エアーシリンダ機構よりなり、マスクホルダ支持体61が、エアーシリンダ64のピストンロッド65に固定されている。そして、エアーシリンダ64を作動させてピストンロッド65を伸長させることで、マスクホルダ支持体61のマスクホルダ受け部61aをマスクホルダ26の傾斜面26bに係合させてマスクホルダ26を下方から支持し、万一、マスクホルダ吸着溝30の圧力が変動した場合でも、マスクフレーム25からマスクホルダ26が落下することを確実に防止することができる。
【0039】
なお、マスクホルダ26に、マスクホルダバックアップ機構60と同様の機構を有し、マスクMの下面より下方に突出しないように構成されたマスクバックアップ機構を配置してマスクMの下面を支持して、マスクMの落下や撓みを防止するようにしてもよい。
【0040】
図7(a)は第1実施形態の第3変形例のマスクステージの要部拡大断面図であり、マスクホルダ26の上面に載置されたカバーガラス32を、所定の位置に保持する保持機構70を備える。保持機構70は、マスクホルダ26の上面に固定された基部71と、基部71に設けられたピン72を中心として回動自在であり、マスクホルダ26の全周に亘って配設されるガラス押え73と、を有する。ガラス押え73は、図中破線で示すように、垂直に立てられた状態でカバーガラス32をマスクホルダ26の上面に載置した後、略90°回動させて水平状態にしてカバーガラス32の上面を押えることで、カバーガラス32をマスクホルダ26の所定の位置に固定する。これにより、カバーガラス32のズレが防止されて、カバーガラス32のズレに起因する露光精度への影響が排除される。
【0041】
図7(b)は第1実施形態の第4変形例のマスクステージの要部拡大断面図であり、保持機構として、カバーガラス32の周囲とマスクホルダ26の段部との間には、ゴムなどの弾性体で形成されるパッキン74が配置されている。これにより、カバーガラス32はマスクホルダ26の所定の位置に固定され、カバーガラス32のズレを防止することができる。 なお、第3及び第4変形例において、空気導入溝35が確保されるように保持機構70やパッキン74が配置されてもよく、或いは、カバーガラス32の全周に形成された保持機構70やパッキン74を迂回するように空気導入溝35が形成されてもよい。
【0042】
(第2実施形態) 図8(a)は、本発明の第2実施形態のマスクステージの概略構成を示す断面図、(b)は空気導入溝を示す断面図である。なお、本実施形態は、マスクステージの構成において第1実施形態と異なり、その他の部分については、第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0043】
マスクフレーム25の下面には、カバーガラス32の周縁部を吸着するための複数のカバーガラス吸着溝36が開設されており、カバーガラス32は、カバーガラス吸着溝36を介して図示しない真空式吸着装置によりマスクフレーム
25に真空吸着して保持される。また、マスクフレーム25の下面には、ボルトなどの締結部材によってマスクホルダ26がマスクフレーム25と実質的に一体に固定されている。これにより、マスクフレーム25、マスクホルダ26、マスクM、及びカバーガラス32によって空間33が画成される。
【0044】
また、図8(b)に示すように、カバーガラス吸着溝36が開設されていないマスクフレーム25の辺には、マスクホルダ26との接合部の一部に、空間33と外部とを連通する少なくとも一つの空気導入溝(空気導入路)35が形成されている。マスクホルダ26の内部で圧力差が生じないように、空気導入溝(空気導入路)35をマスクホルダ26の中央部に設ける方が良い。従って、空間33は、空気導入溝35の部分を除いて、外部から閉塞された状態となっている。 なお、本実施形態では、空気導入溝35は、マスクフレーム25側に形成されているが、マスクホルダ26側に形成されてもよく、また、空気導入溝35の数も任意である。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の近接露光装置PEによれば、マスクステージ1は、マスクホルダ26が下面に取り付けられると共にカバーガラス32を下面に真空吸着して保持するマスクフレーム25を備え、マスクフレーム25、マスクホルダ26、マスクM、及びカバーガラス32によって画成された空間33は、マスクフレーム25とマスクホルダ26との接合部に設けられた空気導入溝35によって外部と連通するので、図2に示す第1実施形態の近接露光装置PEと同様に効果を奏する。
【0046】
図9は、第2実施形態の変形例のマスクステージの概略構成であり、図8(a)相当の断面図である。本変形例のマスクステージ1は、真空吸着して保持されるカバーガラス32とマスクフレーム25との接合部において、カバーガラス吸着溝36より外側にOリングなどのシール部材37が配設されて、エア漏れが防止されている。なお、不図示の空気導入溝は、図8(b)と同様に、カバーガラス吸着溝36が開設されていないマスクフレーム25の辺において、マスクフレーム25とマスクホルダ26との接合部の一部に形成されている。
【0047】
尚、本発明は、前述した各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。 なお、本発明の空気導入路は、上記実施形態では、空気導入溝35によって構成されているが、これに限らず、例えば、空間33と外部とを連通する貫通孔をマスクホルダ26やカバーガラス32に形成することで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
M マスクPE 近接露光装置W 基板1 マスクステージ2 ワークステージ(基板ステージ)3 照射手段25 マスクフレーム25a 凹部26 マスクホルダ26a 突起部32 カバーガラス33 空間35 空気導入溝(空気導入路)40 吸引機構60 マスクホルダバックアップ機構70 保持機構73 ガラス押え(保持機構)74 パッキン(保持機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被露光材としての基板を保持する基板ステージと、 露光すべきパターンを有するマスクを保持するマスクステージと、 前記基板に対してパターン露光用の光を前記マスクを介して照射する照射手段と、を備え、前記マスクと前記基板とを近接して所定の露光ギャップで対向配置した状態で、前記基板上に前記マスクのパターンを露光転写する近接露光装置であって、 前記マスクステージは、 前記マスクを下面に真空吸着して保持するマスクホルダと、 前記マスクホルダの上面側に保持されるカバーガラスと、 少なくとも前記マスクホルダ、前記マスク、及び前記カバーガラスによって画成される空間内の空気を吸引して該空間内を減圧させる吸引機構と、 減圧された前記空間内に外部から空気を供給する少なくとも1つの空気導入路と、を備えることを特徴とする近接露光装置。
【請求項2】
前記空気導入路は、前記カバーガラスと前記マスクホルダとの接合部に配置される空気導入溝であることを特徴とする請求項1に記載の近接露光装置。
【請求項3】
前記マスクステージは、前記マスクホルダを下面に真空吸着して保持し、マスク駆動部によって駆動されるマスクフレームをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の近接露光装置。
【請求項4】
前記マスクホルダは、上面に突起部または凹部を備え、 前記マスクフレームは、下面に凹部または突起部を備え、 前記マスクホルダの前記突起部または凹部が、前記マスクフレームの前記凹部または突起部と係合して、前記マスクホルダが前記マスクフレームの下面に保持されることを特徴とする請求項3に記載の近接露光装置。
【請求項5】
前記マスクフレームは、前記マスクホルダを支持して前記マスクホルダの前記マスクフレームからの落下を防止するマスクホルダバックアップ機構をさらに備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の近接露光装置。
【請求項6】
前記マスクホルダは、前記マスクホルダの所定の位置に前記カバーガラスを保持する保持機構を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の近接露光装置。
【請求項7】
前記マスクホルダは、その面密度をマスクMの面密度より高くなるように選択することを特徴とする請求項6に記載の近接露光装置。
【請求項8】
前記マスクステージは、前記マスクホルダが下面に取り付けられると共に、前記カバーガラスを下面に真空吸着して保持するマスクフレームを備え、 前記空間は、前記マスクフレーム、前記マスクホルダ、前記マスク、及び前記カバーガラスによって画成され、 前記空気導入路は、前記マスクフレームと前記マスクホルダとの接合部に配置される空気導入溝であることを特徴とする請求項1に記載の近接露光装置。
【請求項9】
前記空気導入路は、マスクホルダの中央部に備えられていることを特徴とする請求項8に記載の近接露光装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の近接露光装置を用いて、前記マスクと前記基板とを近接して所定の露光ギャップで対向配置した状態で、前記基板上に前記マスクのパターンを露光転写する近接露光方法であって、 前記マスクを前記マスクホルダの下面に真空吸着して前記マスクを保持する工程と、 前記吸引機構によって前記空間内の圧力を吸引するとともに、前記空気導入路を介して前記外部の空気を前記空間に供給することで、前記空間内の圧力を所定の圧力に調整する工程と、を有することを特徴とする近接露光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−54343(P2013−54343A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158204(P2012−158204)
【出願日】平成24年7月16日(2012.7.16)
【出願人】(311011449)NSKテクノロジー株式会社 (51)
【Fターム(参考)】