説明

近赤外分光法を用いた玄米中のトリアシルグリセロールの定量方法

【課題】一粒の玄米に含まれるトリアシルグリセロールの非破壊分析法を提供すること。
【解決手段】以下の(1)〜(3)の工程を含む方法によって玄米に含まれるトリアシルグリセロールを定量するための回帰式を得、得られた回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米の近赤外光スペクトルデータとを用いて玄米に含まれるトリアシルグリセロールを定量する。
(1)玄米の近赤外光スペクトルを測定する工程
(2)当該玄米のトリアシルグリセロール含量を定量する工程
(3)近赤外光スペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、定量したトリアシルグリセロール含量とをPLS(partial least squares)回帰分析により解析し、トリアシルグリセロール含量と関係する因子を決定する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外分光法を用いた玄米中のトリアシルグリセロールの定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米糠から抽出して得られる米油(米糠油)は、栄養・生理機能に富み、味質、食感にも優れた食用油として注目され、利用が拡大している。昨今、米油の増産のため、油脂を豊富に含んだ高含油米の育種開発が進められている。高含油米を育種開発するためには、膨大な量の育種資源から有用形質遺伝資源を探索する必要があるため、迅速性に富んだ油(トリアシルグリセロール、以下「TAG」と記す。)含量分析方法が望まれる。また、交配時の選抜においては、穂の米粒の間にも遺伝的な差があるため、米一粒で分析できることが好ましく、非破壊(そのままの状態)で分析することができれば、分析後の種子を作付けできるため育種開発の効率を飛躍的に高めることができる。しかし、今まで玄米一粒に適用できる迅速性に富んだ脂質含量分析方法や非破壊分析法は公表されていない。
【0003】
食品の脂質含量の分析方法として一般的な手法は、脂質の抽出を行い、その重量を測定する重量法である。しかし一般に玄米から抽出された脂質中にはTAG以外にリン脂質、糖脂質などが含まれており、TAGだけを測定する事は困難である。よって、TAGを特異的に検出し、かつ微量分析に適用できる迅速分析法の開発が必要となる。
【0004】
TAGは1分子のグリセリンに3分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールで、中性脂肪の1つである。中性脂肪は動物の体内脂肪組織に蓄えられる脂肪や、食品中の油脂、植物油(種子)などを構成する脂質の8〜9割を占める。その中でもTAGが圧倒的に多い。
試料中の微量のTAGを測定する方法として、酵素による比色定量法が知られている。血中TAG測定用に市販されている試薬キットの多くは、測定が簡便かつ迅速に行える利点から酵素による比色定量法を採用している。しかし酵素による比色定量法を用いた試薬キットは水系試料を適用対象としており、油脂試料や植物体試料には適用されていない。
【0005】
従来、油脂試料や植物体試料に含まれるTAGを測定する場合は、試料を破砕し、溶媒にてTAGを抽出、ガスクロマトグラフィー(GC)または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量するのが一般的である。しかし、TAGは多数の分子種から構成されるため、上記のようなクロマトグラム法ではピークが複数に分かれる事が多く、これらを全て積算する必要がある。また、TAGを特異的に検出するような検出器は現状存在しないので、TAG以外の成分がTAGのピークに重ならないようにカラムや条件を選定する必要もある。その結果、試料ごとに独自の工夫が必要となり、プロトコルを統一できないので、手法としては非常に煩雑である。
【0006】
上記測定方法は全て原試料を破壊して分析する言わば破壊分析法であり、測定した試料を再利用することはできない。一方、非破壊分析法のメリットとしては、迅速に分析できること、分析操作が簡単なこと、化学薬品を使用しないこと、さらに、分析した試料が、そのままの形で残っていること、などが挙げられる。非破壊分析法には、光を使う方法や電気・磁気を使う方法などがあるが、食品の分析に最も多く使われているのは近赤外分光法である。
近赤外分光法は、物質分子による近赤外光(一般的に波長域800〜2500nmを指す)の吸収に基づく分光法である。近赤外光はエネルギーの低い電磁波でありながら、物質を透過しやすい性質を持っている。それゆえ、近赤外分光法では、紫外・可視分光法などで通常用いられる透過測定に加え、透過反射、拡散反射法などの測定方法が多く用いられる。そのため近赤外スペクトルには、それぞれの測定方法のスペクトルが存在する。近赤外分光法は食品の分野で果実、野菜、魚類等の成分測定や加工食品の品質管理などに用いられている。近赤外分光法の利点は第一に、試料を損傷しないことであり、あるがままの状態で分析ができ、多成分の同時定量が可能であるという特徴がある。近赤外分光法は、特に青果物の分析方法として一般的なものである。青果物の非破壊分析法としては糖類の定量方法(例えば特許文献1)、水分の定量方法(例えば特許文献2)、硝酸イオン定量方法(例えば特許文献3)などが報告されている。また、非特許文献1には、近赤外分光法を用いる非破壊分析法が、米のでんぷん、タンパク質、水分、灰分、アミノ酸、食味値に応用されていることが記載されている。しかし、玄米のTAGを非破壊分析法により定量したことは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−098033号公報
【特許文献2】特開2004−020470号公報
【特許文献3】特開2010−210355号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】近藤みゆき、「近赤外分光法による食品の化学分析」名古屋文理大学紀要、2007、第7号、p23−28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、玄米、特に玄米一粒中に含まれるTAGの非破壊分析法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]玄米に含まれるトリアシルグリセロールを定量するための回帰式を得る方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする方法。
(1)玄米の近赤外光スペクトルを測定する工程
(2)当該玄米のトリアシルグリセロール含量を定量する工程
(3)近赤外光スペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、定量したトリアシルグリセロール含量とをPLS(partial least squares)回帰分析により解析し、トリアシルグリセロール含量と関係する因子を決定する工程
[2]近赤外光スペクトルが拡散反射スペクトルであることを特徴とする前記[1]に記載の方法。
[3]前記(3)の工程における波長領域が、1000〜2500nmまたはその一部であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記(3)の工程における波長領域が、1638〜2355nmまたはその一部であることを特徴とする前記[3]に記載の方法。
[5]前記(3)の工程における波長領域が、1725±10、1764±10、2317±10nmの少なくとも1つの領域を含むことを特徴とする前記[3]または[4]に記載の方法。
[6]前記(3)の工程における波長領域が、1860±10、1961±10、2276±10nmの少なくとも1つの領域を含むことを特徴とする前記[5]に記載の方法。
[7]前記(2)の工程において、乾燥処理した玄米から粗脂質を抽出し、粗脂質中のトリアシルグリセロールを定量することを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記(2)の工程において、酵素を利用した比色定量法を用いることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記(2)の工程において、玄米から抽出した粗脂質をtert−ブチルアルコールまたはヘキサンに溶解させて得られた試料を、酵素を利用した比色定量法に供することを特徴とする前記[8]に記載の方法。
[10]前記(2)の工程において、玄米から抽出した粗脂質を乾固させた試料を、そのまま酵素を利用した比色定量法に供することを特徴とする前記[8]に記載の方法。
[11]前記[1]〜[10]のいずれかに記載の方法により得られた回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米の近赤外光スペクトルデータとを用いることを特徴とする玄米に含まれるトリアシルグリセロールの定量方法。
[12]被験玄米の水分含量に基づいて被験玄米のトリアシルグリセロール含量を補正する工程をさらに含むことを特徴とする前記[11]に記載の定量方法。
[13]被験玄米の水分含量が、以下の(a)〜(c)の工程により得られた回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米の近赤外光スペクトルデータとを用いることにより得られることを特徴とする前記[12]に記載の定量方法。
(a)玄米の近赤外光スペクトルを測定する工程
(b)当該玄米の水分含量を測定する工程
(c)近赤外光スペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、測定した水分含量とをPLS回帰分析により解析し、水分含量と関係する因子を決定する工程
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、玄米に含まれるTAGの非破壊分析法を提供することができる。特に本発明は、玄米一粒中のTAG含量を非破壊的に定量できる点で、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1(A)】酵素による比色定量法(直接法)により、米サラダ油を標品として作成したTAGの検量線を示す図である。TAG量は米サラダ油の量を示す。
【図1(B)】酵素による比色定量法[溶媒法(ヘキサン)]により、米サラダ油を標品として作成したTAGの検量線を示す図である。TAG量は米サラダ油の量を示す。
【図1(C)】酵素による比色定量法[溶媒法(tert−ブチルアルコール、以下「t−BtOH」と記す。)]により、米サラダ油を標品として作成したTAGの検量線を示す図である。TAG量は米サラダ油の量を示す。
【図1(D)】比較例として、酵素による比色定量法[溶媒法(クロロホルム)]により、米サラダ油を標品として作成したTAGの検量線を示す図である。TAG量は米サラダ油の量を示す。
【図2】玄米一粒中の水分含量について、近赤外光による予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を示す図である。
【図3(A)】玄米一粒中のTAG含量について、波長域1638.8〜2354.8nmにおける近赤外光による予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を示す図である。
【図3(B)】玄米一粒中のTAG含量について、波長域1000〜2500nmにおける近赤外光による予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔玄米に含まれるTAGを定量するための回帰式を得る方法〕
本発明の玄米に含まれるTAGを定量するための回帰式を得る方法(以下、「本発明の回帰式を得る方法」という。)は、以下の(1)〜(3)の工程を含むものであればよい。
(1)玄米の近赤外光(以下「NIR」と記す。)スペクトルを測定する工程
(2)当該玄米のトリアシルグリセロール含量を定量する工程
(3)NIRスペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、定量したTAG含量とをPLS(partial least squares)回帰分析により解析し、TAG含量と関係する因子を決定する工程
本発明の回帰式を得る方法は、(1)〜(3)以外の工程を含んでいてもよく、その内容は問わない。
【0014】
工程(1)では、玄米のNIRスペクトルを測定する。NIRスペクトルの測定方法は特に限定されないが、拡散反射法が好ましい。測定には、市販の近赤外分光分析計を用いることができるが、固体測定モジュールを備え、拡散反射光を測定できるものが好ましい。具体的にはMPA(ブルカー・オプティクス)、NIR−Flex N−500(ビュッヒ)、IRAffinity−1(島津製作所)、LAMBDA750/950/1050およびFrontier NIR(パーキンエルマー)、FT−IR4000シリーズおよびFT−IR 6000シリーズ(日本分光)、FT−NIR MB3600(ABB BOMEM)などが挙げられ、MPA(ブルカー・オプティクス)が特に好ましい。得られるスペクトルは、フーリエ変換スペクトルであることが好ましい。
【0015】
回帰式を得るための試料および被験試料は、籾殻が除去された玄米であることが好ましい。籾殻が除去されていれば、白米あるいは精米途中の玄米であっても構わない。試料玄米の品種や形状、大きさ、重量は特に限定されないが、ひびや欠損が無いものが好ましい。玄米一粒中のTAG含量を定量するための回帰式を得るには、一粒の玄米を1試料としてNIR拡散反射光スペクトルを測定することが好ましい。精度の高い回帰式を得るための試料は、被験試料と類似の品種、形態の玄米であって、TAG含量の異なる数種類の玄米を用意することが好ましい。また回帰式を得るための試料数は多いほどよく、好ましくは30試料以上、より好ましくは50試料以上である。
試料は原則的に玄米一粒であることが好ましいが、玄米の重量あたりのTAG含量を測定する目的であれば、複数の玄米を1試料としてもよく、また、玄米を均質に粉砕した粉(玄米粉)を試料としても良い。
【0016】
工程(2)では、工程(1)でNIRスペクトルを測定した玄米のTAG含量を測定する。工程(1)に供した試料単位でTAG含量を測定すればよい。玄米のTAG含量は公知の方法、例えばソックスレー抽出やクロロホルム/メタノール抽出などにて粗脂質を抽出後、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを用いて測定することができる。なお、酵素による比色定量法を用いて玄米中のTAG含量を定量する方法については、後述する。
【0017】
工程(3)では、NIRスペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、定量したTAG含量とをPLS回帰分析により解析し、TAG含量と関係する因子を決定する。NIRスペクトルを測定した波長範囲の一部とはNIRスペクトルを測定した波長範囲に含まれる任意の部分領域である。
NIRスペクトルを測定した波長範囲の一部は特に限定されないが、1000〜2500nmまたはその一部であることが好ましく、1638〜2355nmまたはその一部であることがより好ましい。また、TAGに関連するA群(1725±10、1764±10、2317±10nm)の好ましくは1つ以上、より好ましくは2つ以上の領域を含む領域であり、さらにTAG以外の成分に関連するB群(1860±10、1961±10、2276±10nm)の少なくとも1つの領域を含むものが好ましい。特に好ましくは、TAGに関連するA群(1725±10、1764±10、2317±10nm)の2つ以上の領域を含み、かつ、TAG以外の成分に関連するB群(1860±10、1961±10、2276±10nm)の1つ以上の領域を含む領域である。また、この1つの波長領域は最大波長と最小波長の差が20nm以上の連続した領域であることが好ましく、100nm以上の連続した領域である事がより好ましく、200nm以上であればさらに好ましい。
【0018】
PLS回帰分析は市販のソフトウェアを使用して行うことができる。使用するソフトウェアは例えばThe Unscrambler(株式会社カモソフトウェアジャパン)、OPUS(ブルカー・オプティクス社)、NIRCal(日本ビュッヒ社)、Pirouette(ジーエルサイエンス社)などが例示できる。これらのソフトウェアを利用して、NIR拡散反射光スペクトルを解析し、その結果を本発明の定量法で用いる。使用するスペクトルデータまたはフーリエ変換スペクトルデータは、原スペクトルデータでもよいが、原スペクトルデータを加工したものを使用することが好ましい。データ加工の方法としては、例えば、一次微分、二次微分、三次微分などの多次微分(Derivative)、平滑化(Smoothing)、スペクトルの減算(Subtraction)、正規化(Normalize)、MSC補正(MultiplicativeScatter Correction)、SNV補正(Standard Normal Variate Correction)などが挙げられる。
【0019】
解析に用いる波長領域のスペクトルデータと定量したTAG含量とをPLS回帰分析に供することにより、TAG含量と関係する因子を決定して回帰式を得ることができる。TAG含量と関係する因子とは、スペクトルデータの中に内在するTAG含量の変化と相関の高い仮想的な変量を指す。この因子の回帰係数を用いてスペクトルデータからTAG含量を予測する回帰式を作成する。近赤外分光法では、通常回帰式作成後、検量線作成用試料以外の試料(評価用試料)を用いて、作成された回帰式の測定精度を評価する。回帰式の測定精度は評価用試料の実測値と作成した回帰式によって算出された予測値による分析値との残差(測定誤差)の標準偏差や平均値によって評価する。この予測値(定量値)と実測値の散布図が図3である。検量線回帰式はこの実測値と予測値(定量値)の相関が最大となるように導出された回帰式である。
【0020】
〔NIR分光法を利用したTAGの定量方法〕
本発明の玄米に含まれる、NIR分光法を利用したTAGの定量方法(以下、「本発明の定量方法」という。)は、上記本発明の回帰式を得る方法により得られた回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米のNIRスペクトルデータとを用いる定量方法である。具体的には、まず、被験玄米のNIRスペクトルを測定する。NIRスペクトルを測定する波長範囲は、回帰式の作成に使用した波長領域を含むものであればよく、1000〜2500nmであることが好ましい。
【0021】
被験玄米のNIRスペクトルデータは、上記本発明の回帰式を得る方法においてNIRスペクトルデータを取得する場合と同様にして取得することができる。すなわち、市販の近赤外分光分析計を用いてNIRスペクトルを測定しスペクトルデータ、好ましくはフーリエ変換スペクトルデータを取得する。スペクトルデータまたはフーリエ変換スペクトルデータは、原スペクトルデータでもよいが、原スペクトルデータを加工したものを使用することが好ましい。データ加工の方法としては、例えば、一次微分、二次微分、三次微分などの多次微分(Derivative)、平滑化(Smoothing)、スペクトルの減算(Subtraction)、正規化(Normalize)、MSC補正(Multiplicative Scatter Correction)、SNV補正(Standard Normal Variate Correction)などが挙げられる。
【0022】
被験玄米のNIRスペクトルデータ(好ましくは前項の加工を施されたもの)を解析して、先に得られた回帰式を適用することにより、被験玄米のTAG含量の予測値を算出する。この予測値がNIRによる被験玄米のTAGの定量値となる。ここでのスペクトルデータの解析と予測値(定量値)の算出は市販のソフトウェアを使用して行うことができる。使用するソフトウェアは例えばThe Unscrambler(株式会社カモソフトウェアジャパン)、OPUS(ブルカー・オプティクス社)、NIRCal(日本ビュッヒ社)、Pirouette(ジーエルサイエンス社)などが例示できる。
【0023】
本発明の定量方法において、被験玄米の水分含量に基づいて被験玄米のTAG含量を補正する工程をさらに含むことが好ましい。被験玄米の水分含量は、玄米の水分含量を定量するための回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米のNIRスペクトルデータとを用いることにより定量することができる。
【0024】
玄米の水分含量を定量するための回帰式は、以下の(a)〜(c)の工程により得ることができる。
(a)玄米のNIRスペクトルを測定する工程
(b)当該玄米の水分含量を測定する工程
(c)NIRスペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、測定した水分含量とをPLS回帰分析により解析し、水分含量と関係する因子を決定する工程
すなわち、上記本発明の回帰式を得る方法において、玄米の水分含量を定量し、PLS回帰分析に供することで玄米の水分含量を定量するための回帰式を得ることができる。
玄米の水分含量を定量する方法は特に限定されないが、例えば、乾燥減量法などを好適に用いることができる。
【0025】
〔酵素による比色定量法を用いる玄米中のTAG含量の定量方法〕
本発明者らは、本発明の回帰式を得る方法および本発明の定量方法を完成させる過程において、玄米中のTAG含量を酵素による比色定量法を用いて定量する方法を新たに考案した。前述のとおり、酵素による比色定量法は、測定が簡便かつ迅速に行えることから、血中TAG測定用の試薬キットに多く採用されているが、これらのキットは水系試料を適用対象としており、油脂試料や植物体試料には適用されていない。
本発明者らは、玄米中のTAG含量を酵素による比色定量法を用いて測定するために試行錯誤を繰り返した結果、比色定量法の油脂試料への適用が難しい原因が、油脂試料をそのまま酵素液と混合した場合は油脂試料が酵素液中に均質に分散しないために反応効率が悪くなることにあることに至った。また、油脂試料を溶媒に溶解して添加する場合には溶媒が酵素活性に影響を及ぼす結果、再現性が得られないことに至った。そこで、油脂試料を酵素液中に均質に分散させること、溶媒を用いない、あるいは酵素活性に影響を及ぼさない溶媒を用いることにより、酵素による比色定量法を用いて玄米中のTAG含量を定量する方法(以下「玄米TAG比色定量法」という。)を完成させた。
【0026】
玄米TAG比色定量法に用いられる酵素反応としては、例えば以下に示す酵素反応が挙げられる。以下の酵素反応において、第一反応(R1反応)を行わずに(遊離グリセロールを除去せずに)第二反応(R2反応)のみを行ってもよい。玄米TAG比色定量法に用いることができる市販のキットとしては、例えば、トリグリセライドE−テストワコー、LタイプワコーTG・M(和光純薬)、デタミナーL TGII(協和メデックス)、アクアオートカイノスTGII、TG−ENカイノス(カイノス)、血清トリグリセリド測定キット(シグマ)、Triglyceride Quanitification Kit(Bio Vision)、セロテックTG−L、セロテックTG−S、セロテックTG−CL(セロテック)、ネスコートTG−GN(アズウェル)、セラテスタムTG(日立化成)、コレステストTG(積水メディカル)、富士ドライケムスライドTG−III(富士フイルム)、ネスコートVLII TG(アルフレッサファーマ)、スポットケムIIトリグリセライド(アークレイ)などが挙げられる。
【0027】
【化1】

【0028】
玄米TAG比色定量法では、玄米を乾燥処理し、乾燥玄米から粗脂質を抽出して乾固させ、この粗脂質を酵素反応に供してTAGを定量することが好ましい。玄米の乾燥方法は、凍結乾燥、常圧下での加熱、減圧条件下での加熱、乾燥助剤の利用等が挙げられるが、凍結乾燥がより好ましい。乾燥玄米からの粗脂質の抽出は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、乾燥玄米から適当な溶媒を用いて抽出する方法が挙げられる。そのような抽出法としては、ソックスレー抽出法、クロロホルム−メタノール抽出法、酸分解法などが挙げられ、なかでもソックスレー抽出法が好ましい。乾燥玄米は、そのまま溶媒で抽出してもよいが、圧迫により押しつぶす、あるいはすり鉢などですりつぶす、あるいは何らかの器具を用いて粉砕するなどして抽出効率を上げることが好ましく、圧迫により押しつぶすのが回収率と利便性の点でより好ましい。
【0029】
抽出に用いる溶媒は、TAGを溶解できるものならばどんなものでもよく、例えばエーテル類、低級アルコール類、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トリフルオロ酢酸、ベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、石油エーテル、これらの混合溶媒(均一に混合されたもの)などを好適に用いることができる。これらの中でも、TAGの溶解性に優れ、低毒性かつ低沸点で加温により容易に留去できる点で、エーテル類、ヘキサン、アセトンがより好ましく、ジエチルエーテルがさらに好ましい。脂質の抽出条件については特に限定されないが、加温部の温度は抽出溶媒の沸点を超える温度に設定することが好ましい。例えばジエチルエーテルを抽出溶媒に用いる場合、30〜150℃の範囲に設定することが好ましく、60〜120℃がさらに好ましい。抽出時間は特に限定されないが、1〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましく、1〜6時間がさらに好ましい。試料の乾燥方法は特に限定されないが、空気酸化を避けるため減圧条件下または不活性ガス雰囲気下で加温することにより、溶媒を除去することが好ましく、減圧条件下での加温がさらに好ましい。減圧条件下での加温により乾燥を行う場合は、試料のロスを避けるため、遠心エバポレーターを使用することが好ましい。加温条件は特に限定されないが、温度は20〜100℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。また乾燥時間は0.5〜24時間が好ましく、6〜24時間がより好ましく、12〜24時間がさらに好ましい。減圧条件は特に限定されないが、20hPa以下が好ましく、10hPa以下がより好ましい。本発明者らは、粉砕した凍結乾燥玄米からエーテルを用いてソックスレー抽出し、ロータリーエバポレーターで乾固させ、クロロホルムに溶解して遠心エバポレーターにより濃縮乾固することで粗脂質を得ているが(実施例1参照)、これに限定されるものではない。
【0030】
酵素反応に供する試料として、乾固させた状態の粗脂質をそのまま試料としてもよく、溶媒に溶解させた粗脂質を試料としてもよい。以下、乾固させた状態の粗脂質をそのまま試料とする場合を「直接法」と称し、溶媒に溶解させた粗脂質を試料とする場合を「溶媒法」と称する。
【0031】
直接法では、乾固した粗脂質が入った反応容器に酵素を含む試薬を直接添加し、均質な溶液とするための処理を行う。この際、既に乾固した粗脂質を反応容器に投入してもよいが、粗脂質を適当な溶媒に溶解して所望の分量を反応容器に入れた後に反応容器中で乾固させるのがより好ましい。この時用いる溶媒についてはTAGを溶解できるものならばどのようなものでもよく、例えばエーテル類、低級アルコール類、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トリフルオロ酢酸、ベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、石油エーテル、これらの混合溶媒(均一に混合されたもの)などを好適に用いることができる。反応容器中で粗脂質を乾固させる際には、空気酸化を避けるため減圧条件下または不活性ガス雰囲気下で加温することにより乾固することが好ましく、減圧条件下で乾固することがさらに好ましい。減圧条件での加温により乾燥を行う場合は、試料のロスを避けるため、遠心エバポレーターを使用することが好ましい。加温条件は特に限定されないが、温度は20〜100℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。また乾燥時間は特に限定されないが、10〜120分が好ましく、30〜80分がさらに好ましい。減圧条件は特に限定されないが、20hPa以下が好ましく、10hPa以下がより好ましい。
【0032】
均質な溶液とするための処理としては、例えば超音波処理、転倒混和、攪拌処理、界面活性剤の添加などが挙げられ、これらの方法を必要に応じて併用することが好ましい。中でも、適宜攪拌処理を行いながら、超音波処理を行うことが好ましい。超音波処理を行う場合、温度は特に限定されないが、30〜60℃の範囲に加温して行うことが好ましい。超音波処理の時間は特に限定されないが、5秒〜30分が好ましく、10秒〜1分がより好ましく、20秒〜40秒がさらに好ましい。攪拌処理の方法は特に限定されないが、ボルテックスミキサーを利用して5〜60秒程度行うのが好ましく、反応容器の天地を入れ替えながら行うのがさらに好ましい。また、これらの均質化処理の後には5〜60秒間の遠心分離(スピンダウン)により、容器の蓋面や側面に付着した液を容器の底面に落とすことが好ましい。反応容器として用いる容器の材質は使用する溶剤に耐性を持つものであればよく、例えば耐久性を重視してガラス製容器、あるいは利便性を重視してプラスチック製容器などを適宜選択して用いることが好ましい。これらの反応容器は10hPa以下の減圧条件での使用に適したものが好ましく、1hPa以下の減圧条件での使用に適したものがより好ましい。また200G以上の遠心分離に適したものが好ましく、2000G以上の遠心分離に適したものがより好ましい。反応容器の形状については、蓋が可能で対称な形状のものであれば特に問わないが、底の構造が尖形なものよりは平底ないし丸底のものの方が好ましい。反応容器の容量については、特に限定されないが、0.5mL〜10mLが好ましく、1mL〜5mLがさらに好ましい。酵素を含む試薬が複数ある場合は、酵素を含む試薬を添加するごとに、均質な溶液とするための処理を行うことが好ましい。測定操作は試薬キットの取扱説明書に従って行えばよいが、反応容器の容量に合わせて、試料量と試薬量を調整するのが好ましい。具体的には、最終的な反応溶液の体積が反応容器の容量の1/2〜1/40であることが好ましく、1/4〜1/20であることがさらに好ましい。
【0033】
溶媒法では、溶媒に溶解した粗脂質を試料とする。ここでの溶媒としては、TAGを溶解できるものならどの様なものでもよく、例えばエーテル類、低級アルコール類、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トリフルオロ酢酸、ベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、石油エーテルおよびこれらの混合溶媒(ただし均一に混合されたもの)などを好適に用いることができるが、酵素活性への影響が小さい低級アルコール類およびヘキサンが好ましく、t−BtOHとヘキサンが再現性や精度の点からさらに好ましい。溶液状の試料と酵素を含む試薬とを混合し、均質な溶液とするための処理を行う。均質な溶液とするための処理としては特に限定されないが、例えば超音波処理、転倒混和、攪拌処理、界面活性剤の添加などが挙げられ、これらの方法を必要に応じて併用することが好ましい。中でも、適宜攪拌処理を行いながら、超音波処理を行うことが好ましい。超音波処理を行う場合、温度は特に限定されないが、30〜80℃の範囲に加温して行うことが好ましい。超音波処理の時間は特に限定されないが、5秒〜30分が好ましく、10秒〜1分がより好ましく、20秒〜40秒がさらに好ましい。攪拌処理の方法は特に限定されないが、ボルテックスミキサーを利用して10秒〜1分程度行うのが好ましく、反応容器の天地を入れ替えながら行うのがさらに好ましい。また、これらの均質化処理の後には5〜60秒間の遠心分離(スピンダウン)により、容器の蓋面や側面に付着した液を容器の底面に落とすことが好ましい。反応容器として用いる容器の材質は使用する溶剤に耐性を持つものであればよく、例えば耐久性を重視してガラス製容器、あるいは利便性を重視してプラスチック製容器などを適宜選択して用いることが好ましい。これらの反応容器は200G以上の遠心分離に適したものが好ましく、2000G以上の遠心分離に適したものがより好ましい。反応容器の形状については、蓋が可能で対称な形状のものであれば特に問わないが、底の構造が尖形なものよりは平底ないし丸底のものの方が好ましい。反応容器の大きさについては特に限定されないが、0.5〜10mLが好ましく、1〜5mLがさらに好ましい。酵素を含む試薬が複数ある場合は、酵素を含む試薬を添加するごとに、均質な溶液とするための処理を行うことが好ましい。測定操作は試薬キットの取扱説明書に従って行えばよいが、反応容器の容量に合わせて、試料量と試薬量を調整するのが好ましい。具体的には、最終的な反応溶液の体積が反応容器の容量の1/2〜1/40であることが好ましく、1/4〜1/20であることがさらに好ましい。
【0034】
直接法および溶媒法のいずれの場合も、標準試料(例えば、段階希釈した米油を含む試料)を同時に測定して検量線を作成し、この検量線を用いて被験試料のTAG含量を定量することができる。標準試料は、TAGを主成分とし、その濃度が既知であるものならば特に限定されない。例えばトリオレイン、トリリノレインなどのTAGの市販試薬、あるいは市販のサラダ油などが利用可能であるが、TAG濃度が既知の植物油であることが好ましく、米油であることがさらに好ましい。この米油は原油でも、製油後のサラダ油でも、精製途中の油であっても構わない。また、米油の原料となる米の品種については特に限定されない。
本玄米TAG比色定量法は、直接法および溶媒法のいずれを用いても、玄米一粒中のTAG含量を、簡便かつ再現性よく定量できる点で非常に有用である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1:玄米一粒中のTAG含量の定量〕
1.粗脂質の抽出
(1) 玄米一粒を秤量した後凍結乾燥処理し、ろ紙に包んで、薬さじにて押しつぶした。
(2) 押しつぶした試料をろ紙ごと抽出用円筒ガラスフィルターに入れ、セミ・ミクロ脂肪抽出器セットを用いて、エーテル25mLを用いて、加温機を100℃に設定し、6時間ソックスレー抽出を行った。
(3) 抽出液をナシ型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにより乾固した。
(4) ナシ型フラスコの粗脂質をクロロホルム1.2mLに溶解し、脂質のクロロホルム溶液を2mLバイアル瓶に移し、遠心エバポレーターにより濃縮乾固することで玄米一粒の粗脂質を得た。
【0037】
2.TAG含量の測定
(2−a)直接法によるTAG含量の測定
(1)米サラダ油(築野食品工業(株))のクロロホルム溶液(0〜2.0mg/mL)を調製し、標準溶液とした。
(2) 上記1.(4)で濃縮乾固した玄米粗脂質に500μLのクロロホルムを加えて攪拌し、次いで超音波処理(50℃、30秒)を行って完全に溶解させ、試料溶液とした。
(3) 反応容器に標準溶液または試料溶液を25μLずつ分注し、遠心エバポレーターを用いて乾固した。
(4) TAG含量の測定には、デタミナーL TGII(協和メデックス)を用いた。デタミナーL TGIIは以下の成分を持つ二つの試薬(試薬R1、R2)から構成される。
[試薬R1]
・グリセロールキナーゼ
・グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ
・カタラーゼ
・N−(3、5−ジメトキシフェニル)−N’−サクシニルエチレンジアミンNa塩(DOSE)
・アデノシン−5’−三リン酸二ナトリウム(ATP)
[試薬R2]
・リポプロテインリパーゼ
・パーオキシダーゼ
・4−アミノアンチピリン(4−AA)
(5) 乾固した粗脂質が入った反応容器に上記試薬R1を240μL加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて5分間静置した。
(6) 続いて、上記試薬R2を80μL加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて10分間静置した。
(7) 反応溶液を遠心分離し、上清をシリンジフィルターでろ過した後、分光光度計にて585nmの吸光度を測定した。
(8) 各濃度の標準溶液の吸光度から検量線(図1(A))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を米サラダ油換算で定量した。
【0038】
(2−b)溶媒法(ヘキサン)によるTAG含量の測定
(1) 米サラダ油のヘキサン溶液(0〜5.0mg/mL)を調製し、標準溶液とした。
(2) 上記1.(4)で濃縮乾固した玄米粗脂質に500μLのヘキサンを加えて攪拌し、次いで超音波処理(50℃、30秒)を行って完全に溶解させ、試料溶液とした。
(3) デタミナーL TGII(協和メデックス)を用いて、TAG含量を測定した。
(4)反応容器に上記試薬R1を240μL入れ、試料溶液10μLを加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて5分間静置した。
(5) 続いて、上記試薬R2を80μL加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて10分間静置した。
(6) 反応溶液を遠心分離し、上清をシリンジフィルターでろ過した後、分光光度計にて585nmの吸光度を測定した。
(7) 各濃度の標準溶液の吸光度から検量線(図1(B))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を米サラダ油換算で定量した。
【0039】
(2−c)溶媒法(t-BtOH)によるTAG含量の測定
上記(2−b)のヘキサンをt-BtOHに変えて同様の処理を行い、検量線(図1(C))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を定量した。
【0040】
(比較例1)溶媒法(クロロホルム)によるTAG含量の測定
上記(2−b)のヘキサンをクロロホルムに変えて同様の処理を行い、検量線(図1(D))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を定量した。
【0041】
図1(A)〜(D)において、縦軸は585nmの吸光度、横軸はTAG量(米サラダ油の量、μg)を表す。ここでのTAG量は標品の米サラダ油の重量で示している。図1(A)、(B)、(C)からわかるように、直接法、溶媒法(ヘキサン)および溶媒法(t-BtOH)で得られたTAGの検量線の傾きに有意な差はなかった。一方、図1(D)から明らかなように、比較例1の溶媒法(クロロホルム)で得られたTAGの検量線の傾きは顕著に小さくなった。この原因はクロロホルムが試薬中の酵素の活性を低下させているためと推測された。
表1に、直接法、溶媒法(ヘキサン)、溶媒法(t-BtOH)および溶媒法(クロロホルム、比較例1)によりキヌヒカリ玄米一粒中のTAG含量の測定結果を示した。表1から、直接法、溶媒法(ヘキサン)および溶媒法(t-BtOH)の定量結果には有意な差はなかったが、比較例1の溶媒法(クロロホルム)では測定誤差が大きくなっていることが示された。これらの結果から、クロロホルムのように試薬中の酵素の活性に影響を及ぼす溶媒は、本発明に適していないことが明らかとなった。
【0042】
【表1】

【0043】
〔実施例2:水分含量検量線回帰式の作成〕
(1) 19品種のイネの玄米を各15粒用意した。
(2) 水分含量の範囲を広げるため、乾燥器を用いて40℃にて0〜360分間乾燥した。
(3) 分析装置としてFT型近赤外分析計MPA(ブルカー・オプティクス社)を用いた。玄米試料のNIR拡散反射光を1000nmから2500nm(10000〜4000cm−1)の範囲で測定した。
(4) スペクトルを取得した各玄米の水分含量を、乾燥減量法(135℃、15時間)で測定した。
(5) 得られた原スペクトルの前処理(SNV補正)を行い、前処理スペクトル(1333〜1836nm)の波長データを説明変数とし、測定した水分含量を目的変数とするPLS回帰分析により、玄米一粒の水分検量モデルを作成した。NIRによる予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を図2に示した。ここでのNIRによる予測値(%、定量値)は水分の検量線回帰式とNIRスペクトルのデータから測定装置によって導出される計算値である。
【0044】
〔実施例3:TAG含量検量線回帰式の作成〕
(1) 20品種のイネの玄米を各三粒用意した。
(2) 実施例2の(3)と同様に、玄米試料のNIR拡散反射光を測定した。
(3) スペクトルを取得した玄米について、実施例1のTAG含量の測定法(直接法)を用いて、各玄米一粒中のTAG含量を定量した。
(4) 得られた原スペクトルの前処理(二次微分処理)を行い、種々の波長範囲の前処理スペクトルの波長データを説明変数とし、測定したTAG含量を目的変数とするPLS回帰分析により、玄米一粒のTAG検量モデルを作成した。
【0045】
得られた検量モデルの全条件の決定係数R2を表2に示した。波長は用いた波長範囲を示しており、最小波長と最大波長で区切られた1区間(条件No.5、8以外)ないし2区間(条件No.5、8)のデータを用いて解析を行った。表2からわかるように各条件でNIR予測値(定量値)と化学分析値には高い相関関係が見られた。中でも、条件No.1、2、3、4、5、6、7)のような、TAGに関連するA群(1725±10、1764±10、2317±10nm)の領域を2つ以上含み、かつ、TAG以外の成分に関連するB群(1860±10、1961±10、2276±10nm)の領域を1つ以上含む検量線にて相関係数が高くなり、最も高い相関(R2=0.926)が得られた波長範囲は、条件No.1の1638.8〜2354.8nmであった。
【0046】
【表2】

【0047】
至適条件(条件No.1)および最大範囲の1000〜2500nm(条件No.6)におけるNIRによる予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を、それぞれ図3(A)および(B)に示した。なお、ここでの実測値は、
実測値=玄米粗脂質の中のTAG重量(mg)/玄米一粒の重量(mg)×100(%)
として算出している。また、NIRによる予測値(%、定量値)はTAGの検量線回帰式とNIRスペクトルのデータから測定装置によって導出される計算値である。
【0048】
〔実施例4:玄米一粒中のTAG含量の定量〕
(1) FT型近赤外分析計MPA(ブルカー・オプティクス社)を用いて、玄米試料のNIR拡散反射光を1000nmから2500nm(10000〜4000cm−1)の範囲で測定した。
(2) 実施例2で作成した水分検量モデルに(1)で測定したNIRスペクトルデータを当てはめて、水分含量を定量した。
(3) 実施例3で作成したTAG検量モデルに(1)で測定したNIRスペクトルデータを当てはめて、TAG含量を定量した。
(4) (2)で定量した水分含量および(3)で定量したTAG含量に基づいて、玄米試料の乾物重量当たりのTAG含量を得た。
【0049】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米に含まれるトリアシルグリセロールを定量するための回帰式を得る方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする方法。
(1)玄米の近赤外光スペクトルを測定する工程
(2)当該玄米のトリアシルグリセロール含量を定量する工程
(3)近赤外光スペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、定量したトリアシルグリセロール含量とをPLS(partial least squares)回帰分析により解析し、トリアシルグリセロール含量と関係する因子を決定する工程
【請求項2】
近赤外光スペクトルが拡散反射スペクトルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(3)の工程における波長領域が、1000〜2500nmまたはその一部であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(3)の工程における波長領域が、1638〜2355nmまたはその一部であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記(3)の工程における波長領域が、1725±10、1764±10、2317±10nmの少なくとも1つの領域を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記(3)の工程における波長領域が、1860±10、1961±10、2276±10nmの少なくとも1つの領域を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(2)の工程において、乾燥処理した玄米から粗脂質を抽出し、粗脂質中のトリアシルグリセロールを定量することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記(2)の工程において、酵素を利用した比色定量法を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記(2)の工程において、玄米から抽出した粗脂質をtert−ブチルアルコールまたはヘキサンに溶解させて得られた試料を、酵素を利用した比色定量法に供することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(2)の工程において、玄米から抽出した粗脂質を乾固させた試料を、そのまま酵素を利用した比色定量法に供することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により得られた回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米の近赤外光スペクトルデータとを用いることを特徴とする玄米に含まれるトリアシルグリセロールの定量方法。
【請求項12】
被験玄米の水分含量に基づいて被験玄米のトリアシルグリセロール含量を補正する工程をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の定量方法。
【請求項13】
被験玄米の水分含量が、以下の(a)〜(c)の工程により得られた回帰式と、当該回帰式の作成に使用した波長領域における被験玄米の近赤外光スペクトルデータとを用いることにより得られることを特徴とする請求項12に記載の定量方法。
(a)玄米の近赤外光スペクトルを測定する工程
(b)当該玄米の水分含量を測定する工程
(c)近赤外光スペクトルを測定した波長範囲の全部または一部の波長領域で得られたスペクトルデータと、測定した水分含量とをPLS回帰分析により解析し、水分含量と関係する因子を決定する工程

【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図1(C)】
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【図1(D)】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【公開番号】特開2013−72726(P2013−72726A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211455(P2011−211455)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出基礎的研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591066362)築野食品工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】