説明

近赤外撮影装置

【課題】近赤外光の撮像が可能な簡便な近赤外撮影装置を提供すること、及び既存のデジタル画像撮影装置を用いた近赤外撮影機構を提供すること。
【解決手段】波長が900nmないし1000nmの範囲内で所定の波長の近赤外線を発する発光ダイオードを単数又は複数備えるLED光源手段14と、LED光源手段14が照射する被写体からの反射光のうち波長が900nmより短い成分を遮断するフィルタ手段16と、フィルタ手段16を透過した反射光を撮像し、波長1000nmないし1100nmを感度限界とする分光特性を有する可視光用イメージセンサを備える撮像手段12と、撮像手段の出力を画像表示する画像表示手段13と該各手段で必要な電力を供給する電源手段とを一体的に組み合わせて小型カメラ形状に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線を用いた撮影装置と、デジタル画像撮影装置用の近赤外撮影機構に関し、特に可視光用のイメージセンサを用いて近赤外撮影を可能にする構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線を用いた様々な測定方法が知られている。例えば、近赤外線の吸光度の変化によって測定物の成分を分析したり、測定物中の異物の混入を検出したりする技術が知られている。
具体的には、野菜の硝酸イオン濃度(特許文献1)やみかんの糖度測定(特許文献2)に用いたり、生体の非侵襲計測に利用する方法(特許文献3)などが提案されている。
【0003】
一方、これらの従来の技術では、主に2つの大きな問題がある。1つは、多くの装置が固定式で大型であるため、使用可能な場所が限られること、もう1つは、近赤外光を撮像するカメラは、InGaAsフォトダイオードなどの高価なデバイスを用いるため装置の高額化が避けられないことである。
上記各特許文献においても、農産物の選果ラインに設置する構成や、専用の赤外線カメラを用いる構成が開示されており、これらの問題点を有している。
【0004】
一方、果実や野菜の品質検査において、圃場や流通過程、店頭などでは主に目視による確認に頼らざるを得ないため、手間がかかるだけでなく、傷を見逃して集荷してしまうなど品質上の問題を生じることがあった。
また、医療現場においても、皮膚の表面からは血管が見えにくいため採血時などに困難なことが少なくないが、手軽に利用できる機器は提供されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2005/111583号公報
【特許文献2】特開平7−63674号公報
【特許文献3】特開2009−89876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みて創出されたものであり、近赤外光の撮像が可能な簡便な近赤外撮影装置を提供すること、及び既存のデジタル画像撮影装置を用いた近赤外撮影機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、次のような近赤外撮影装置を提供する。
すなわち、波長が900nmないし1000nmの範囲内で所定の波長の近赤外線を発する発光ダイオードを単数又は複数備えるLED光源手段と、LED光源手段が照射する被写体からの反射光のうち波長が900nmより短い成分を遮断するフィルタ手段と、フィルタ手段を透過した反射光を撮像し、波長1000nmないし1100nmを感度限界とする分光特性を有する可視光用イメージセンサを備える撮像手段と、その出力を画像表示する画像表示手段と、各手段で必要な電力を供給する電源手段とを一体的に組み合わせて小型カメラ形状に構成する。
【0008】
上記の反射光と撮像手段との光路上に位相を選択可能にした偏光フィルタを備える構成でもよい。
【0009】
上記の光源手段と被写体との光路上に位相を選択可能にした偏光フィルタを備える構成でもよい。
【0010】
上記撮像手段が1フレーム撮像する時間だけ上記LED光源手段を同期発光させるようにしてもよい。
【0011】
本発明は、上記近赤外撮影装置と同等の機能を持たせるために、周知のデジタルカメラや撮影機能を有する携帯電話等のデジタル画像撮影装置を利用して、被写体を近赤外線による撮影を行うためのデジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構を提供することもできる。
【0012】
すなわち本機構には、波長が900nmないし1000nmの範囲内で所定の波長の近赤外線を発する発光ダイオードを単数又は複数備えるLED光源手段と、LED光源手段をデジタル画像撮影装置に付属させるための光源付属手段と、光源手段が照射する被写体からの反射光のうち波長が900nmより短い成分を遮断するために、該デジタル画像撮影装置のレンズ前に配置するフィルタ手段とを一体的に組み合わせる。
【0013】
本発明は以上の近赤外撮影装置又はデジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構を次のような用途に用いることも提案する。
すなわち、被写体が青果であって、検査者が、上記記載の近赤外撮影装置又は、デジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構を装着したデジタル画像撮影装置を手で持ちながら青果を撮影し、画像表示を見ながら品質検査を行うために用いることができる。
【0014】
あるいは、被写体が生体の血管であって、検査者が、上記記載の近赤外撮影装置又は、デジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構を装着したデジタル画像撮影装置を手で持ちながら血管を撮影し、画像表示を見ながら血管位置を視認するために用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上の構成をとることによって次のような効果を奏する。
発光ダイオードは、近赤外領域の波長で発光する製品が多く市販されており、用途に応じて最適な波長を容易に、かつ安価で利用することができる。また、電力消費が少なく、装置の小型化にも寄与し、充電池等でも十分に稼働することができる。
【0016】
次に、本発明のフィルタ手段と、可視光用イメージセンサの組み合わせは、近赤外撮影において特段の効果を奏する。すなわち、デジタルカメラやビデオカメラに限らず、近年では携帯電話にも一般的にデジタル画像撮影機能を有しており、可視光線を主とする感度を有する可視光用イメージセンサは大量に生産されているため、非常に安く入手が可能である。一方、このような可視光用イメージセンサのほとんどは、1000nmないし1100nm程度の波長光まで感度があるため、近赤外撮影が可能である。
【0017】
そこで、本発明では、被写体からの反射光のうち波長が900nmより短い成分、すなわち可視光の成分を遮断するフィルタ手段を組み合わせることで、簡便かつ安価に利用が可能な可視光用イメージセンサを用いて近赤外撮影装置を提供することができる。また、このような装置構成は、すでに小型化が十分に進んでおり、本発明の装置の小型化も容易である。
本発明によれば、従来効果であった近赤外撮影装置を、小型かつ安価で大量に提供することが可能となるので、様々な用途において利用の普及が図られるものである。
【0018】
本発明に係る近赤外撮影装置において、光源側又はレンズ側のいずれか、又は両方に偏光フィルタを備えることで、迷光の除去やコントラストの調整などに寄与することができる。また光源側に偏光フィルタを備えて、レンズ側で偏光解消度を測定することにより、被写体の状態を得ることができる。
【0019】
本発明の近赤外撮影の際に、1フレーム撮像する時間だけ上記LED光源手段を同期発光させるようにすることで、LEDに対する電力供給を最小限に抑制でき、省電力化に寄与する。また、動きのある被写体の場合に、ブレのない鮮明な画像を得ることができる。
さらに、近赤外線を連続照射することによる被写体の温度上昇を防止することができる。
【0020】
本発明のデジタル画像撮影装置用の近赤外撮影機構によれば、既存のデジタルカメラやビデオカメラ、携帯電話等のレンズや可視光イメージセンサ、画像表示装置などを利用しながら、簡便かつ低廉に、近赤外撮影機能を実現することができ、本発明で提案する各種の用途にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る近赤外撮影装置の斜視図である。
【図2】本発明に係る近赤外撮影装置のブロック図である。
【図3】可視光イメージセンサの分光特性を示すグラフである。
【図4】900nm光学フィルタの分光特性を示すグラフである。
【図5】各物質の近赤外スペクトルである。
【図6】本発明によるいちごの撮影サンプルである。
【図7】本発明による腕部血管の撮影サンプルである。
【図8】本発明に係るデジタル画像撮影装置の近赤外撮影機構の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態は以下に限定されず、適宜変更することができる。
図1は本発明に係る近赤外撮影装置(以下、本装置)(10)の斜視図、図2は本装置(10)のブロック図である。本装置(10)は、本体(11)上に、撮像手段である白黒カメラ(12)と、画像表示手段である液晶モニタ(13)、LED光源手段である4個のLED(14)、LEDの発光量を調整する調光つまみ(15)を備えている。白黒カメラ(12)のレンズ直前には、フィルタ手段である900nm光学フィルタ(16)を付設している。
本体(11)内には、充電池を内蔵して電源を供給する電源回路(17)と、調光つまみ(15)の位置に従ってLED(14)への電流を調整する電流制御回路(18)を備えている。
【0023】
本実施例では、容易かつ低廉に入手可能な白黒カメラ(12)を用いており、周知のようにレンズ部と、レンズ部の背後に可視光イメージセンサを備えている。可視光イメージセンサとしては、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を用いたイメージセンサが一般的である。本実施例の白黒カメラ(12)にもCCDイメージセンサを備えている。
【0024】
これらの可視光イメージセンサは、図3に示すような分光特性を有する。本来可視光線を撮像するためのセンサであるため、波長600nmあたりの感度が最も優れるが、可視光線である波長800nm前後よりも長波長の領域まで感度をもつことが分かる。実際には、波長1000nmないし1100nmの近赤外領域が感度限界となっているものが一般的である。
本発明ではこの本来使われなかった領域の特性を利用しようというものである。
【0025】
また、LED(14)には、波長が900nmないし1000nmの範囲内で所定の波長の近赤外線を発する物を用いる。発光ダイオードは、原理的に波長選択性が強く、本装置(10)で撮像する対象の物性に応じて、最適な波長を自由に選択することができる。後述するように、例えば波長が930nm±20nm程度、970nm±20nm程度の発光ダイオードを用いることもできる。
【0026】
白黒カメラ(12)のレンズの直前には、光学フィルタ(16)を装着している。用いた光学フィルタ(16)の分光特性を図4に示す。図示されるように、880nm程度まではほとんど光を透過しないが、900nm付近で急峻に透過率が向上し、910nm程度から長波長の領域では80%以上の光を透過する。
このように可視光の領域の光を遮断するような光学フィルタ(16)は安価かつ容易に入手することができる。
【0027】
以上の白黒カメラ(12)と光学フィルタ(16)の組み合わせによると、本装置(10)で撮像可能な波長領域は、光学フィルタ(16)が透過する900nm付近から、白黒カメラ(12)の感度限界である1000nm〜1100nm付近の近赤外領域に限ることができる。従って、安価で入手しやすい可視光イメージセンサと、光学フィルタの組み合わせのみによって、近赤外撮影装置を実現することができるものである。
さらに、LED(14)からは所定の波長の近赤外光を被写体に照射することで、特定の波長成分が強い反射光を、撮像することができる。
【0028】
本実施例では、さらに調光つまみ(15)で発光量を調整可能とすることで、被写体を照らす環境光との光量とのバランスを調整して白黒カメラ(12)での撮像画像のコントラストを見やすくすることもできる。
例えば、太陽光の強い日中の屋外での撮影では、周辺環境から近赤外領域の光が多量に照射するため、LED(14)による所定波長の光を相対的に強く照射する必要がある。一方、暗闇や蛍光灯だけのような近赤外領域の光がほとんどない環境では、光量を少なくすることで適度なコントラストの画像を得ることができる。
【0029】
撮影画像は、本装置(10)に備える液晶モニタ(13)でリアルタイムに確認することができる。すなわち、LED(14)から連続的に光を照射しながら白黒カメラ(12)で撮像し、その画像を液晶モニタ(13)上で視認できる。このため、本装置(10)や被写体の向きを自由に変えながら撮影することができるので、見やすい視角で、適切な光量に調整した画像を撮像可能である。
【0030】
白黒カメラ(12)やLED(14)の発光には電源回路(17)が用いられるが、これらのデバイスは省電力化されており、一般的な充電式バッテリで十分に長時間の駆動をすることができる。本実施例では容量が2000mAhの単3ニッケル水素充電池4本で駆動させており、この電源でも数時間の連続使用が可能である。
【0031】
図1に示すように、本装置(10)は以上のような構成を小型カメラ形状に構成している。片手でも十分に支えることができ、被写体に回り込まなければならないような場所でも容易に撮像することができる。本装置(10)は安価に提供することができるので、多数の使用者がそれぞれ1台ずつ持って使用することもできる。
そのため、従来の高価で大型の近赤外撮影装置に比して、手軽に、さまざまな場面で近赤外撮影の用途を提供することができるようになる。
【0032】
次に、本装置(10)の用途として好適な使用方法を説明する。第1は、いちご等の果実の検査に用いる方法であり、第2は血管等の位置確認に用いる方法である。
図5はいくつかの物質の近赤外スペクトルを示しており、横軸が波長(nm)、縦軸が各物質の吸光度である。吸光度が高い波長光の光は物質に吸収されて反射光量が少なくなるので、異なる物質からなる被写体に、判別したい物質の吸光度が高い波長の近赤外光を照射すれば、判別したい物質の部分だけ反射光量が少なくなり、液晶モニタ(13)上でその部分を視認することができるようになる。
【0033】
第1の用途である果実の検査について説明する。
果実は、表面から一部分に外力を加えると、加えた直後には見た目で変化がなくても、その部位から傷みが進行することはよく知られている。例えば、イチゴの場合、生育中に枝や栽培設備と干渉したり、摘果時に指でつまむ際に、一部分に強い外力が加わってしまう場合がある。肉眼で見ても、色に変化がないため、品質検査で見逃され、流通途中になって傷みが出てくることになる。
【0034】
そこで、本装置(10)による撮像を行ってみた結果、970nmのLED(14)で照射しながらいちごを撮像すると、外力の加わった部分が明認できることが明らかとなった。図6にはこのときの撮影画像を示す。肉眼では表面上傷がなくても、本装置(10)で撮像すると、中央部分に黒く写る部位があることが分かる。この部分は外力等によってイチゴが傷んでいることを示し、時間が経過すると味や外観が損なわれる可能性が高い。
【0035】
970nmで視認しやすい理由は必ずしも明らかではないが、図5のスペクトルにみるように水の吸光度が970〜990nm付近で高くなることから、水分に関係しているものと考えられる。例えば、一部分に外力が加わることで組織が柔らかくなり、果実内の水分が当該部分に集中することによって、近赤外撮影によって変化が出ることも考えられる。
【0036】
本装置(10)は上述したように良好な可搬性を有することから、イチゴ圃場内で、作業者が撮像しながらイチゴの選果を行うことができる。樹木内部の果実であっても、小型カメラ形状の本装置(10)は回り込んで撮像することができるので、生育途中の選果などにも用いることができる。摘果した際には、片手でイチゴを回しながら、片手で本装置を保持し、傷がないかどうかの検査に用いることもできる。
【0037】
本発明は、以上のような実証結果に基づいて、本装置(10)の用途として青果の検査に用いることが好適であることを見出した。特に、970nm±20nmのLED(14)を用いることで良好な結果が得られた。
なお、青果としては、イチゴに限らず任意の果実や野菜を対象とすることができる。特に桃やバナナ、キウイ、葡萄、みかんなどの柔らかい野菜の他、リンゴや梨などの検査にも好適である。野菜としては、レタスやキャベツ、トマト、ナスなどの検査にも用いることができる。
【0038】
従来から上記特許文献のように、果実等の品質管理に近赤外光を用いることは提案されているが、従来の方法では近赤外撮影装置が高価であったり、大型であったため、大規模な選果場等に導入することはできても、作業者がそれぞれの圃場で持ち運びながら使用することはできなかった。本発明は、デジタルカメラ等と同様の構成により、広く普及可能な構成を提案するものである。
【0039】
本発明の第2の用途である生体の血管の撮影に用いる構成を説明する。
医療現場で血管注射を行う際に、腕部の静脈位置を確認することが人によって難しいことがある。このため、近赤外光を利用した血管可視化装置がいくつか市販されている。例えば、血管可視化装置 Christie Medical Holdings社製"VeinViewer"(非特許文献1)は、近赤外線を利用して血管の撮像を行い、光源から皮膚上に撮像した画像を投影する製品である。一方、スタンドを含む比較的大型の装置であり、病室間を移動する際に用いることや、同時に多数の装置を導入することは困難である。
【0040】
【非特許文献1】インターネットURL http://www.veinviewer.com/veinviewer-vision 2010年12月1日検索
【0041】
これに対し、本発明の構成によれば、小型カメラ形状のため、医療者が自在に持ち運んで病床を回る際に用いたり、看護士ひとりずつに配備することもでき、近赤外光を利用した血管位置の確認を広く普及させることができる。
【0042】
本装置(10)において、血管の撮影を行う場合、930nm±20nmのLED(14)を用いることが好ましいことが分かった。図5を参照すると、血液の吸光度は近赤外光領域で高くなり、特に波長910〜940nm近傍の吸光度が最も高くなる。そこで、930nmのLED(14)が最も好適なものと考えられる。
【0043】
従来の近赤外光による血管の撮影方法に比して、本装置(10)は構成が簡便で小型化、低価格化できる反面、可視光イメージセンサを用いているため、LED(14)の選択は上記のように被写体の物性に応じて使い分けることが好ましい。この点で、光源の波長について、本装置(10)では特に重要な要素となる。
【0044】
図7は本構成による腕部の血管撮影画像である。写真から明らかなように、血管の位置がリアルタイムで表示されるので、さまざまな医療現場における活用が可能である。
なお、写真では人間の腕部を撮影しているが、本発明の対象としては、注射や手術の際の施術位置を自在に撮影することができる。また、犬や猫の愛玩動物、牛や鶏など家畜をはじめとするいかなる動物でもよい。
【0045】
本発明では、被写体と白黒カメラ(12)との光路上に偏光フィルタを備えることができる。最も簡便な位置は、白黒カメラ(12)のレンズ直前に偏光フィルタを装着する構成である。
従来からカメラに装着する偏光フィルタは周知の製品であり、水面からの反射光を遮断するなど、特定の位相の光線を遮断したり、あるいは特定の位相の光線のみを撮影することに用いられている。
【0046】
本発明における偏光フィルタにおいても同様に、特定の位相の反射光を遮断したり、特定の位相の反射光のみを撮像することを目的として偏光フィルタを備えるが、一般的な小型カメラと異なり、本発明では環境光の反射光を撮像するのではない点に特徴がある。
すなわち、本発明ではLED(14)から照射する所定の波長の近赤外光の反射光を撮像し、他の様々な波長の反射光は除去することが画像の鮮明化に寄与する。そのため、偏光フィルタを用いて散乱光(迷光)による効果が、可視光の小型カメラに比して格段に高い。
【0047】
さらに、LED(14)と被写体と光路上に偏光フィルタを備えることもできる。この場合最も簡便な構成は、LED(14)の直前に偏光フィルタを配置することである。図1においては4つ全てのLED(14)の前に円盤状の小型の偏光フィルタを装着してもよいし、特定の位相の光が強くなるだけでも効果が期待できるので、例えば2つなど、一部だけでもよい。
【0048】
本構成の最も実際的な使用例は、上記白黒カメラ(12)のレンズ直前に偏光フィルタを備える構成と組み合わせ、LED(14)から照射する特定の位相の近赤外光の反射光を、対応する位相の偏光フィルタを介して撮像する方法である。
上述した通り、本発明では光源であるLED(14)から照射した光の反射光だけを撮像すれば十分であることから、このように偏光フィルタを組み合わせることは効果的である。
【0049】
また、偏光フィルタを光源側だけに備える構成でもよい。周知のように結晶材料に偏光光を照射することで分光特性に応じた反射光を撮像することができる。特定の結晶材料の撮像を本装置(10)で行う際に、有効である。
【0050】
上記の実施例では、LED(14)から連続的に近赤外光を照射することを前提に説明したが、省電力化や、被写体の温度上昇を防ぐために可視光イメージセンサでの撮像と同期してLED(14)を発光する構成でもよい。通常のフラッシュと異なり、近赤外光は頻繁に発行しても目への負担が少なく、圃場等での撮影時に多数回発光させても作業性を損なうことがない。可視光イメージセンサと同期発光することで、省電力化に寄与し、使用時間を延長することができる。
【0051】
また、同期発光することで、動きのある被写体でも発光の瞬間だけ静止させて観察しやすくなる利点もある。例えば生産ラインで流れのある被写体を定点で撮影する場合に有効である。
【0052】
本発明に係る近赤外撮影装置の構成は以上説明した通りである。本装置(10)は小型カメラ形状として一体的に構成することで撮影しやすく、かつ低価格で提供することができる。
一方、可視光イメージセンサやレンズ部分など、公知のデジタルカメラと共通の構成要素も多く備えていることから、デジタルカメラに装着する近赤外撮影機構として提供することも合わせて提案する。
【0053】
図8は、近赤外撮影機構の一実施例である。市販のデジタルカメラ(20)に着脱自在に装着する本機構は、フィルタ手段であるフィルタ部(21)と、デジタルカメラ(20)の上面に懸架するカメラ装着部(22)と、光源手段である4個のLED(23)と、デジタルカメラ(20)から発光に必要な電力を取り出す電源ケーブル(24)とを備えている。
【0054】
デジタルカメラ(20)には可視光イメージセンサが備えられており、上述したようにこれを用いて近赤外領域の撮像が可能である。そこで、被写体に新たに備えたLED
(23)からの近赤外光を照射し、その反射光をフィルタ部(21)を介して撮像することで、上記と同様の画像を得ることができる。
【0055】
デジタルカメラ(20)は図示の形状に限らず、任意のデジタルカメラに対応した構造とすることができる。また、携帯電話や、スマートフォンなども可視光イメージセンサを備えたものが多く流通しており、これらに本機構を装着する構成でもよい。
【0056】
電源ケーブル(23)は、図示のようにデジタルカメラ(20)から給電する構成でも良いし、別に備えたバッテリから給電してもよい。公知のフラッシュ端子と接続してデジタルカメラ(20)による撮影とLED
(23)を同期発光するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 近赤外撮影装置
11 本体
12 白黒カメラ
13 液晶モニタ
14 LED
15 調光つまみ
16 光学フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が900nmないし1000nmの範囲内で所定の波長の近赤外線を発する発光ダイオードを単数又は複数備えるLED光源手段と、
該LED光源手段が照射する被写体からの反射光のうち波長が900nmより短い成分を遮断するフィルタ手段と、
該フィルタ手段を透過した該反射光を撮像し、波長1000nmないし1100nmを感度限界とする分光特性を有する可視光用イメージセンサを備える撮像手段と、
該撮像手段の出力を画像表示する画像表示手段と
該各手段で必要な電力を供給する電源手段と
を一体的に組み合わせて小型カメラ形状に構成した近赤外撮影装置。
【請求項2】
前記反射光と前記撮像手段との光路上に位相を選択可能にした偏光フィルタを備えた
請求項1に記載の近赤外撮影装置。
【請求項3】
前記光源手段と前記被写体との光路上に位相を選択可能にした偏光フィルタを備えた
請求項1又は2に記載の近赤外撮影装置。
【請求項4】
前記撮像手段が1フレーム撮像する時間だけ前記LED光源手段を同期発光させるようにした
請求項1ないし3のいずれかに記載の近赤外撮影装置。
【請求項5】
デジタルカメラや撮影機能を有する携帯電話等のデジタル画像撮影装置に装着して被写体を近赤外線による撮影を行うためのデジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構であって、
波長が900nmないし1000nmの範囲内で所定の波長の近赤外線を発する発光ダイオードを単数又は複数備えるLED光源手段と、
該LED光源手段を該デジタル画像撮影装置に付属させるための光源付属手段と、
該光源手段が照射する被写体からの反射光のうち波長が900nmより短い成分を遮断するために、該デジタル画像撮影装置のレンズ前に配置するフィルタ手段と、
を一体的に組み合わせたデジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構。
【請求項6】
前記被写体が青果であって、
検査者が、前記請求項1ないし5のいずれかに記載の近赤外撮影装置又は、デジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構を装着したデジタル画像撮影装置を手で持ちながら該青果を撮影し、前記画像表示を見ながら品質検査を行うために用いられる
請求項1ないし5のいずれかに記載の近赤外撮影装置又はデジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構。
【請求項7】
前記被写体が、生体の血管であって、
検査者が、前記請求項1ないし5のいずれかに記載の近赤外撮影装置又は、デジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構を装着したデジタル画像撮影装置を手で持ちながら該血管を撮影し、前記画像表示を見ながら血管位置を視認するために用いられる
請求項1ないし5のいずれかに記載の近赤外撮影装置又はデジタル画像撮影装置用近赤外撮影機構。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−147279(P2012−147279A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4467(P2011−4467)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(510193027)有限会社スペクトルデザイン (4)
【Fターム(参考)】