説明

近赤外発光蛍光体、それを用いた生体物質標識剤

【課題】700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体を提供する。更に、生体物質標識剤に適したナノサイズであり、「生体の窓」を通過する近赤外発光をし、発光精度の高い蛍光体ナノ粒子を提供する。また、それを用いた生体物質標識剤を提供する。
【解決手段】700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体であって、その組成の少なくとも一部が下記一般式(1)で表されることを特徴とする近赤外発光蛍光体。
一般式(1):A1-x-yNdxYby(PO33(式中、AはY,LuおよびLaから選択される元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外発光蛍光体、それを用いた生体物質標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質を標識する手段として、分子標識物質をマーカー物質に結合した生体物質標識剤を用いる方法が検討されている。マーカー物質に蛍光材料が用いられる場合には励起光として用いられる波長の短い紫外域の光が細胞にダメージを与えることが問題となっており、ダメージの少ない長波長励起・発光の蛍光体が求められている。
【0003】
一方、特に近年、小動物を対象としたin vivo光イメージングが注目されており、小動物の生体内の細胞を外部より、生体を傷つけることなく(非侵襲で)観察するような光学系装置が各メーカから販売され始めている。これは、生体内の観察したい部位に選択的に集まるような標識をつけた蛍光材料を生体内に注入し、外部より励起光を照射し出てきた発光を外部でモニターする方法である。
【0004】
このように、生体内の蛍光材料を励起し、発光を外部に取り出すためには、励起光及び発光が生体を透過する必要がある。紫外光及び可視光は、生体の吸収が高く、ほとんど透過することができないので好ましくない。また、1000nm以上の波長では、水の吸収が立ち上がり透過率が低くなり、好ましくない。しかしながら、近赤外線の700〜1000nmは、「生体の窓」及び「分光領域の窓」と呼ばれる生体の透過率が特異的に高い領域であり、この範囲内で励起及び発光を示す蛍光材料が求められている。
【0005】
上記方法で従来使用されてきた有機蛍光色素などのマーカー物質は、励起光照射時の劣化が激しく寿命が短いことが欠点であり、また発光効率が低く、感度も十分ではなかった。
【0006】
そのため、近年、上記マーカー物質として半導体ナノ粒子を用いる方法が注目されている。例えば、極性官能基を有する高分子を半導体ナノ粒子の表面に物理的および/または化学的に吸接合した生体物質標識剤が検討されている(例えば特許文献1参照)。また、有機分子をSi/SiO2型半導体ナノ粒子の表面に結合した生体物質標識剤が検討されている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、これら従来の半導体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤には発光精度等において未解決の問題が存在した。
【0008】
例えば、特許文献1で実質的にその効果も含めて開示されている半導体ナノ粒子は、(CdSe/ZnS型)半導体ナノ粒子であるが、一般的に量子ドットと呼ばれボーア励起子のサイズよりも小さな粒径を持つ場合に、バンドギャップがサイズに依存して変化するという性質、すなわち、同一組成で粒子サイズを変化させることで発光波長が変化するという特徴を持っている。このような量子ドット蛍光材料はサイズにより発光波長を自在に変化させることが可能であるという長所を持つ一方、粒径制御の精度が発光波長の精度につながるという短所があった。
【0009】
一方、近赤外励起で発光する近赤外発光蛍光体は、近年、現金に変わる支払い方法として用いられているクレジットカードやプリペイドカードの偽造防止用の潜像形成インクとして一般的に使用されている。公知例としては、A1-x-yNdxYbyPO4
(式中、AはY、LuおよびLaから選ばれる少なくとも1種であって、0<x≦0.5、0<y≦0.5、x+y<1.0である。)などが知られている(特許文献3)これらはいずれも、近赤外発光ダイオード(中心波長880nm)で励起、980nmで発光するため、励起光及び発光のどちらも「生体の窓」を通過し、好ましい組成であることがわかる。しかしながら、潜像形成インクとして使用される場合には蛍光体粒子のサイズは数ミクロンからサブミクロンの範囲で形成されることが一般的であり、生体標識剤として好適に用いることのできる100nm以下の粒子は従来用いられていなかった(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−329686号公報
【特許文献2】特開2005−172429号公報
【特許文献3】特許第3336572号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体を提供することである。更に、生体物質標識剤に適したナノサイズであり、「生体の窓」を通過する近赤外発光をし、発光精度の高い蛍光体ナノ粒子を提供することである。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、蛍光体を特定の組成及び特定の粒径にすることにより、近赤外発光蛍光体、更には近赤外発光蛍光体ナノ粒子が得られることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体であって、その組成の少なくとも一部が下記一般式(1)で表されることを特徴とする近赤外発光蛍光体。
一般式(1):A1-x-yNdxYby(PO33
(式中、AはY,LuおよびLaから選択される元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である。)
2.前記近赤外発光蛍光体が、平均粒径が2〜50nmである近赤外発光蛍光体ナノ粒子であることを特徴とする前記1に記載の近赤外発光蛍光体。
【0014】
3.前記近赤外発光蛍光体の表面が親水化処理されていることを特徴とする前記1又は2に記載の近赤外発光蛍光体。
【0015】
4.前記2又は3に記載の近赤外発光蛍光体ナノ粒子と分子標識物質とを有機分子を介して結合させたことを特徴とする生体物質標識剤。
【0016】
5.前記分子標識物質がヌクレオチド鎖であることを特徴とする前記4に記載の生体物質標識剤。
【0017】
6.前記近赤外発光蛍光体ナノ粒子と分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることを特徴とする前記4又は5に記載の生体物質標識剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記手段により、700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体を提供することができる。更に、生体物質標識剤に適したナノサイズであり、「生体の窓」を通過する近赤外発光をし、発光精度の高い蛍光体ナノ粒子を提供することができる。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の近赤外発光蛍光体は、700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体であって、その組成の少なくとも一部が前記記一般式(1)で表されることを特徴とする。この特徴は請求項1〜6に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0020】
本発明の実施態様としては、前記近赤外発光蛍光体が、平均粒径が2〜50nmである近赤外発光蛍光体ナノ粒子である態様が好ましい。また、前記近赤外発光蛍光体が、その表面が親水化処理されていることが好ましい。
【0021】
本発明の近赤外発光蛍光体ナノ粒子は、分子標識物質と有機分子を介して結合させることにより生体物質標識剤とすることができる。なお、生体物質標識剤において、前記分子標識物質がヌクレオチド鎖であることが好ましい。また、前記有機分子が、ビオチン及びアビジンであることが好ましい。
【0022】
なお、本願において、「ナノ粒子」とは、平均粒径(直径)が、100nm未満の粒子をいい、本発明において好ましい平均粒径は、2〜50nmである。
【0023】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための最良の形態・態様等について詳細な説明をする。
【0024】
(近赤外発光蛍光体)
本発明の近赤外発光蛍光体は、700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体であって、その組成の少なくとも一部が下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
一般式(1):A1-x-yNdxYby(PO33
(式中、AはY,LuおよびLaから選択される元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である。)
本発明の近赤外発光蛍光体を製造するための原料としては、上記一般式(1)に含まれている各種元素の酸化物やハロゲン化物等を用いることができる。例えば、酸化ネオジム、塩化ネオジム、硝酸ネオジム、酸化イッテルビウム、塩化イッテルビウム、硝酸イッテルビウム、酸化ランタン、塩化ランタン、硝酸ランタン、酸化イットリウム、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、塩化プラジオセム、塩化テルビウム、オルトリン酸、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等を用いることができる。
【0025】
(近赤外発光蛍光体ナノ粒子)
本発明の近赤外発光蛍光体ナノ粒子は、当該ナノ粒子の平均粒径を2〜50nmにすることが好ましい。また、好ましい態様としては、共賦活剤として、Pr及びTbのうちの少なくともいずれかの元素を含有させる。
【0026】
なお、最終的に形成する近赤外発光蛍光体ナノ粒子が50nm以下の粒子である場合、構成元素中の金属元素の数が4種類以上となったときや、10原子(atom)%以下の共賦活剤を含有すると、従来の固相法で製造された粒子に比べて、また、金属元素が3種類のときや、共賦活剤を含有しないときにと比べて、格段に発光強度が高くなる。
【0027】
なお、本発明の近赤外発光蛍光体ナノ粒子を製造するための原料は、上記近赤外発光蛍光体の原料と同様である。
【0028】
本発明において、上記近赤外発光蛍光体ナノ粒子の平均粒径は本来3次元で求める必要があるが、微粒子過ぎるため難しく、現実には二次元画像で評価せざるを得ないため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡写真の撮影シーンを変えて数多く撮影し平均化することで求めることが好ましい。従って、本発明において、当該平均粒径は、TEMを用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めて、その算術平均を平均粒径とした。TEMで撮影する粒子数としては20個以上が好ましく、100個の粒子を撮影するのが更に好ましい。
【0029】
(近赤外発光蛍光体ナノ粒子の製造方法)
本発明の特徴であるナノサイズの近赤外発光蛍光体は、原料を溶媒に溶解した状態で、噴霧焼成炉を通過させることにより、乾燥及び焼成する製造方法により達成される。
【0030】
噴霧・乾燥熱分解法は、一般的には原料溶液をノズル、超音波により霧化して微小な液滴にし、この液滴の溶媒を高温で蒸発させると共に、得られた固体粒子を高温で熱分解して目的とする化合物の微粒子(以下、単に「粒子」ともいう。)を得る方法である。蛍光体の粒径は、液滴サイズと原料溶液濃度によりコントロールすることが出来る。
【0031】
さらに、この際に、リン酸フラックスを蛍光体原料として同時に噴霧することで、粒子同士の凝集による大サイズ化を防ぐことが出来る。蛍光体粒子はフラックスに包まれた状態で回収されるため、仮に噴霧焼成後の粒子が凝集してしまっても、フラックス部分がくっついた状態であり、内部の粒子は単体のまま保たれるため、フラックスを溶解・除去することで、ナノ粒子化を達成することが出来た。
【0032】
フラックスとしては、原料であるリン酸塩を化学量論比の1.5〜10倍を添加することが好ましい。フラックスは少ないと蛍光体の融着が起こる。過剰であると原料の濃度が希薄となり、反応に時間がかかる、収率が下がるなどの問題が生じる
〔近赤外発光蛍光体ナノ粒子集合体の親水化処理〕
上述した近赤外発光蛍光体ナノ粒子は集合体として得られるが、当該集合体表面は、一般的には、疎水性であるため、例えば生体物質標識剤として使用する場合は、このままでは水分散性が悪く、粒子が凝集してしまう等の問題があるため、当該ナノ粒子の表面を親水化処理することが好ましい。親水化処理の方法としては例えば、表面の親油性基をピリジン等で除去した後に粒子表面に表面修飾剤を化学的及び/又は物理的に結合させる方法がある。表面修飾剤としては、親水基として、カルボキシル基・アミノ基を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオールなどがあげられる。
【0033】
具体的には、例えば、近赤外発光蛍光体ナノ粒子10-5gをメルカプトウンデカン酸0.2gが溶解した純水10ml中に分散させて、40℃、10分間攪拌し、シェルの表面を処理することで近赤外発光蛍光体ナノ粒子の表面をカルボキシル基で修飾することができる。
【0034】
〔生体物質標識剤〕
本発明に係る生体物質標識剤は、上述した親水化処理された近赤外発光蛍光体ナノ粒子と、分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0035】
〈分子標識物質〉
本発明に係る生体物質標識剤は分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0036】
当該分子標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原およびシクロデキストリン等が挙げられる。
【0037】
〈有機分子〉
本発明に係る生体物質標識剤は、親水化処理された近赤外発光蛍光体ナノ粒子と、分子標識物質とが有機分子により結合されている。該有機分子としては近赤外発光蛍光体ナノ粒子と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、タンパク質中でも、アルブミン、ミオグロビンおよびカゼイン等、またタンパク質の一種であるアビジンをビオチンと共に用いることも好適に用いられる。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0038】
具体的には、近赤外発光蛍光体ナノ粒子をメルカプトウンデカン酸で親水化処理した場合は、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いることができる。この場合親水化処理された当該ナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンがさらにビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさらに生体物質標識剤と結合することにより生体物質標識剤となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下においては、近赤外発光蛍光体ナノ粒子を単に「蛍光体」と称する。
【0040】
得られた蛍光体の組成分析はX線回折(XRD)(PANalytical社製)により行い、組成の同定は、得られた回折ピークとリファレンスデータベースとして比較を行った。具体的には、PANalytical社製解析ソフトX’pert High Scoreを使用し、リファレンスデータベースとしてICDD PDF2を用い、一致の程度を示すスコアを求め、スコアが80以上のものを該蛍光体の母体組成と同定した。
【0041】
〈実施例1〉蛍光体1:Nd01Yb0108(PO33の製造方法
リン酸二水素アンモニウム59.8g、酸化ネオジム3.5g、酸化イッテルビウム4.0g、酸化イットリウム18.0gを乳鉢にいれ、十分混合した後、アルミナ製のフタ付きルツボに充填した後、電気炉に入れ、室温から700℃迄、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、しかる後700℃で3時間焼成した。焼成終了後、ただちに電気炉から取り出し空気中で冷却した。次いで、ルツボ内に水を入れ、80℃の熱水中に10時間浸漬した。冷却後、1Nの硝酸で洗浄し、その後水洗して蛍光体1を得た。XRD解析の結果蛍光体母体組成は、Y(PO33であった。
【0042】
〈実施例2〉蛍光体2:Nd01Yb0108(PO33の製造方法
実施例1の組成で、焼成条件を室温から1000℃迄、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、しかる後1000℃で5時間焼成したほかは同様の操作を行い、蛍光体2を得た。
【0043】
XRD解析の結果蛍光体母体組成は、Y(PO33であった。
【0044】
〈比較例1〉蛍光体3:Nd01Yb0108PO4の製造方法
リン酸二水素アンモニウム23g、酸化ネオジム3.5g、酸化イッテルビウム4.0g、酸化イットリウム 18.0gを乳鉢にいれ、十分混合した後、アルミナ製のフタ付きルツボに充填した後、電気炉に入れ、室温から700℃迄、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、しかる後700℃で5時間焼成したほかは、実施例1と同様の操作を行い、蛍光体3を得た。XRD解析の結果粉末の母体組成は、YPO4であった。
【0045】
〈比較例2〉蛍光体4:Nd01Yb0108PO4の製造方法
比較例1の組成にし、焼成条件を室温から1200℃迄、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、しかる後1200℃で5時間焼成したほかは実施例1と同様の操作を行い、蛍光体4を得た。XRD解析の結果粉末母体組成は、YPO4であった。
【0046】
上記のようにして形成した蛍光体1、2、3および4について励起光810nmでの発光スペクトルを測定した。結果を表1にまとめて示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示した結果から、本発明に係る母体組成がY(PO33のもの(実施例1および2)は母体組成がYPO4のものより低温、短時間の焼成で赤外発光蛍光体が得られることがわかる。
【0049】
〈実施例3〉蛍光体5:Nd01Yb0108(PO33の製造方法
リン酸二水素アンモニウム115g、硝酸ネオジム44g、硝酸イッテルビウム41g、硝酸イットリウム 30.6gを希硝酸に溶解し200mlとしA液とする。
【0050】
A液を、特開2003−277745号明細書記載の噴霧焼成装置を用い、乾燥工程200℃・焼成工程700℃で反応を行ったのち、得られた粉体を80℃の熱水中に10時間浸漬した。冷却後、1Nの硝酸で洗浄し、その後水洗して蛍光体5を得た。XRD解析の結果蛍光体母体組成は、Y(PO33であった。
【0051】
〈比較例3〉蛍光体6:Nd01Yb0108PO4の製造方法
リン酸二水素アンモニウム115g、硝酸ネオジム44g、硝酸イッテルビウム41g、硝酸イットリウム 30.6gを希硝酸に溶解し200mlとしC液とした以外は、実施例1と同様にして蛍光体6を得た。XRD解析の結果粉末母体組成は、YPO4であった。
【0052】
〈比較例4〉蛍光体7:Nd01Yb0108PO4の製造方法
リン酸二水素アンモニウム115g、硝酸ネオジム44g、硝酸イッテルビウム41g、硝酸イットリウム30.6gを希硝酸に溶解し200mlとしD液とし、焼成工程を1200℃とした以外は、実施例1と同様にして蛍光体7を得た。XRD解析の結果粉末母体組成は、YPO4であった。
【0053】
上記のようにして形成した蛍光体5、6および7のTEM観察を行い、粒子100個について粒径を測定し、平均粒径を求めた。
【0054】
また、励起光810nmでの発光スペクトルを測定した。蛍光体1の発光ピーク強度を100とした相対発光強度を示す。
【0055】
以上の結果を表2まとめて示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示した結果から、本発明に係る母体がY(PO33の蛍光体は、噴霧焼成を行うことにより、平均粒径が2〜50nmの範囲にある。さらに母体がYPO4である蛍光体に比べ、低温焼成で高い発光強度を示すナノ粒子が得られることがわかる。
【0058】
〈実施例4〉
蛍光体2:1.0×10-5mol/lの水分散液にアビジン25mgを添加し40℃で10分間攪拌を行い、アビジンコンジュゲートナノ粒子を作製した。
【0059】
得られたアビジンコンジュゲートナノ粒子溶液にビオチン化された塩基配列が既知であるオリゴヌクレオチドを混合攪拌し、ナノ粒子で標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドを作製した。
【0060】
さまざまな塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを固定化したDNAチップ上に上記の標識(ラベリング)したオリゴヌクレオチドを滴下・洗浄したところ、標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつオリゴヌクレオチドのスポットのみが810nmの励起光により発光した。
【0061】
このことより、ナノ粒子でのオリゴヌクレオチドの標識(ラベリング)を確認することができた。すなわち、この結果により、本発明の近赤外発光蛍光体ナノ粒子を用いた生体物質標識剤を提供することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
700〜900nmの範囲内の波長の近赤外光により励起されたときに、700〜2000nmの範囲内の波長の近赤外光の発光を示す近赤外発光蛍光体であって、その組成の少なくとも一部が下記一般式(1)で表されることを特徴とする近赤外発光蛍光体。
一般式(1):A1-x-yNdxYby(PO33
(式中、AはY,LuおよびLaから選択される元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である。)
【請求項2】
前記近赤外発光蛍光体が、平均粒径が2〜50nmである近赤外発光蛍光体ナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外発光蛍光体。
【請求項3】
前記近赤外発光蛍光体の表面が親水化処理されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の近赤外発光蛍光体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の近赤外発光蛍光体ナノ粒子と分子標識物質とを有機分子を介して結合させたことを特徴とする生体物質標識剤。
【請求項5】
前記分子標識物質がヌクレオチド鎖であることを特徴とする請求項4に記載の生体物質標識剤。
【請求項6】
前記近赤外発光蛍光体ナノ粒子と分子標識物質とを結合させる有機分子が、ビオチン及びアビジンであることを特徴とする請求項4又は5に記載の生体物質標識剤。

【公開番号】特開2009−138120(P2009−138120A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316739(P2007−316739)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】