近赤外線吸収化合物、それを用いる近赤外線吸収フィルター
アンチモンや砒素などを含まない、耐熱性の優れた近赤外線吸収フィルターを提供する。下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオン(X)が該陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基若しくはヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有することを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は劇物に該当せず、耐熱性に優れた近赤外線吸収化合物、近赤外線吸収フィルター及び近赤外線吸収組成物に関し、特に、該近赤外線吸収フィルターからなるプラズマディスプレーパネル用の近赤外線吸収フィルターに関する。
【背景技術】
従来、近赤外線吸収剤としてのジイモニウム塩化合物、アミニウム塩化合物は、広く知られており(例えば特許文献1〜3参照)、近赤外線吸収フィルター、断熱フィルム及びサングラス等に広く利用されている。しかしながら、これらの化合物の中では対イオンが六フッ化アンチモン酸イオン、六フッ化砒素イオンなどであるものが耐熱性が優れ、中でも六フッ化アンチモン酸イオンの化合物が主に使用されていた。しかしアンチモンは含有するだけで、劇物に該当する為、近年、重金属等が規制を受ける産業分野、特に電気材料分野ではこれらの金属を含まない化合物が望まれていた。これらを解決する手段として、過塩素酸イオン、六フッ化リン酸イオン、ホウフッ化イオン等を用いる方法があるが、耐熱性や耐湿熱性を考えると、これらの対イオンでは不十分である。更にナフタレンジスルホン酸を対イオンとした化合物も提案されているが(例えば特許文献2参照)、モル吸光係数が低く緑味を帯びている為、実際上使用することができなかった。
一方、対イオンとしてトリフルオロメタンスルホン酸イオンを用いたものも知られているが、それらの具体的なデータは示されていない。(例えば特許文献1参照)。
文献リスト
・特許文献1:特公平7−51555号公報(第2頁)
・特許文献2:特開平10−316633号公報(第5頁)
・特許文献3:特公昭43−25335号公報(第7−14頁)
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこの様な状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、アンチモンを含有せず、さらに、アンチモンを含有しないその他の対イオンに比べ優れた安定性、特に耐熱性を有する近赤外線吸収化合物、そのような近赤外線吸収化合物を用いて作製した、プラズマディスプレーパネル用の近赤外吸収フィルターに好適な近赤外線吸収フィルターを提供することにある。
【発明の開示】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意努力した結果、下記式(1)の構造を有する近赤外線吸収化合物が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、
(1)下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオン(X)が該陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基若しくはヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有することを特徴とする近赤外線吸収フィルター、
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
(2)式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物が下記式(4)である(1)に記載の近赤外線吸収フィルター、
(3)環A及びBの1,4−以外が無置換であるか、又は置換基としてそれぞれの環にハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を1〜4個有する、(1)または(2)に記載の近赤外線吸収フィルター、
(4)Xが無置換かフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキルスルホン酸である(1)から(3)のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター、
(5)プラズマディスプレーパネル用である(1)から(4)のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター、
(6)樹脂中に、式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有してなることを特徴とする近赤外線吸収組成物、
(7)下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが該陽イオンを中和させるのに必要な、下記式(2)で示されるアルキルスルホン酸であることを特徴とする近赤外線吸収化合物、
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表す。)
(式(2)中、R10〜R14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を表し、nは1〜7の整数を表す。)
(8)下記式(6)で表される近赤外線吸収化合物、
(式(6)中、R15〜R22はそれぞれ独立に直鎖または分岐の、ブチル基またはペンチル基を表す。)
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の近赤外線吸収フィルターは、前記一般式(1)で示される構造の化合物を応用してなるものである。このような近赤外線吸収化合物の例を化学式で示すと下記式(3)
(式(3)中、環A、環B、R1〜R8、Xは前記と同じ。)
又は下記式(4)
(式(4)中、環A、環B、R1〜R8、Xは前記と同じ。)
で表される化合物である。
一般式(3)及び/または(4)において環A及びBにはそれぞれ、1,4−位以外に1〜4個の置換基を有していても、いなくても良い。結合しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、シアノ基、低級アルキル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基等のC1〜C5のアルコキシ基が挙げられ、低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基等のC1〜C5のアルキル基が挙げられる。A及びBが置換基を有していないか、ハロゲン原子(特に塩素原子、臭素原子)、メチル基若しくはシアノ基で置換されているものが好ましい。
尚、Bに置換基を有する場合は、4つのB環がすべて同じであるもの、更に置換基の位置はA環に結合する窒素原子に対してm−位であるものが合成上好ましい。さらに環A及びBには1,4−位以外に置換基を有していていないものが合成上好ましい。
R1〜R8におけるアルキル基としては例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分は直鎖状あるいは分岐鎖状のいずれでもよい。また置換基を有していてもよい。結合しうる置換基としては、例えばハロゲン原子(例、F、Cl、Br)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、イソブトキシ基など)、アルコキシアルコキシ基(例、メトキシエトキシ基など)、アリール基(例、フェニル基、ナフチル基など)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基など)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキシリルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルキル置換アミノ基(例、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基など)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えばアリル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には炭素数1から8のアルキル基(例、メチル基、エチル基、ブチル基など)、炭素数1から6のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基など)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基、p−クロロフェノキシ基など)、ハロゲン原子(例、F、Cl、Br)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、アミノ基、アルキル置換アミノ基(例、メチルアミノ基など)、アミド基(例、アセトアミド基など)、スルホンアミド基(例、メタンスルホンアミド基など)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基などが挙げられる。このようなアリール基の炭素数は6から12であることが好ましい。
好ましいR1〜R8は、無置換のアルキル基、シアノ置換アルキル基、アルコキシ置換アルキル基、アリル基である。特にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等の(C1〜C8)アルキル基、シアノメチル基、2−シアノエチル基、3−シアノプロピル基、2−シアノプロピル基、4−シアノブチル基、3−シアノブチル基、2−シアノブチル基、5−シアノペンチル基、4−シアノペンチル基、3−シアノペンチル基、2−シアノペンチル基等のシアノ置換(C1〜C6)アルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、4−メトキシブチル基、4−エトキシブチル基、5−エトキシペンチル基、5−メトキシペンチル基等のアルコキシ置換(C1〜C6)アルキル基であり、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基が特に好ましい。
Xは式(1)の化合物を酸化して得られる陽イオン(電荷)を中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸を表し、直鎖状でも分岐状でもよい。電荷を中和するには、式(3)の化合物の場合には1分子、式(4)の化合物の場合には2分子が必要になる。これらの炭素数1〜8のアルキルスルホン酸の具体例としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、ノナンスルホン酸等が挙げられる。これらには前述したハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい。ハロゲン原子で置換された化合物としては、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、2−ブロモエタンスルホン酸、2−クロロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、3−ブロモプロパンスルホン酸、3−クロロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸等が、シアノ基で置換された化合物としては、例えばシアノメタンスルホン酸、2−シアノエタンスルホン酸、4−シアノブタンスルホン酸等が、ヒドロキシル基で置換された化合物としては、例えばヒドロキシメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、4−ヒドロキシブタンスルホン酸等がそれぞれ挙げられる。好ましくは、無置換かハロゲン原子で置換されたアルキルスルホン酸であり、ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。
これらの中で特に好ましいものはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホンである。
次に、本発明の一般式(3)で示される近赤外線吸収化合物の具体例を表1〜3に、一般式(4)の具体例を表4〜6に示す。表1〜6中、R1〜R8に関し、i−はiso−のように分岐の状態を表し、Phはフェニル基、cyは環状であることを表す。A及びBに関し、1,4−位以外が無置換の場合は「4H」と表記し、置換位置はA環に結合する窒素原子に対しての置換位置である。また、R1〜R8に関し、R1〜R8が全てブチル基である場合には「4(n−C4H9,n−C4H9)」と略記し、また例えば、1つがiso−ペンチル基で残りがn−ブチル基である場合、即ち、4組の置換基の組み合わせの一つにiso−ペンチル基が含まれ、残りの3組が全てn−ブチル基である場合には「3(n−C4H9,n−C4H9)(n−C4H9,i−C5H11)」と略記する。
本発明の近赤外線吸収フィルターに使用される一般式(3)及び/または(4)で表される化合物は、例えば特許文献3に記載された方法に準じた方法で得ることができる。即ち、p−フェニレンジアミンと1−クロロ−4−ニトロベンゼンをウルマン反応させて得られた生成物を還元することにより得られる下記式(5)
(式(5)中、環A及びBは前記で定義された通りである。)で表されるアミノ体を有機溶媒中、好ましくはDMF、DMI又はNMP等の水溶性極性溶媒中、30〜160℃、好ましくは50〜140℃で、所望のR1〜R8に対応するハロゲン化化合物(例えば、R1がn−C4H9のときはBrC4H9)と反応させて、全ての置換基(R1〜R8)が同一である化合物(以下、全置換体と記す)を得ることができる。また、R1からR8のすべてが同じ置換基である化合物以外ものを合成する場合(例えばNo.28の化合物)には、先に所定のモル数(上記式(5)のアミン体1モル当たり7モル)の試薬(BrC4H9)と反応させてR1〜R8のうち7つにn−ブチル基を導入した後、残りの置換基(i−ペンチル基)を導入するのに必要なモル数(上記式(5)のアミン体1モル当たり1モル)の対応する試薬(BrC5H11)と反応させる。例示したNo.28の化合物の製造方法と同様の方法により、全置換体以外の任意の化合物を得ることができる。
その後、上記で合成した化合物を、有機溶媒中、好ましくはDMF、DMI、NMP等の水溶性極性溶媒中、0〜100℃、好ましくは5〜70℃で式(3)または(4)のXに対応する酸化剤(例えば銀塩)を添加して酸化反応を行う。一般的には酸化剤の当量を2当量にすれば一般式(4)で表される化合物が得られ、当量を1当量にすれば一般式(3)で表せられる化合物が得られる。
また、上記で合成した化合物を硝酸銀、過塩素酸銀、塩化第二銅等の酸化剤で酸化した後、その反応液に、所望のアニオンの酸もしくは塩を添加して塩交換を行う方法によっても一般式(3)または(4)で表される化合物を合成することが出来る。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、上記の近赤外線吸収化合物を含有する層を基材上に設けたものでもよく、また基材自体が近赤外線吸収化合物を含有する樹脂組成物(又その硬化物)からなる層であっても良い。基材としては、一般に近赤外線吸収フィルターに使用し得るものであれば特に制限されないが、通常、樹脂製の基材が使用される。近赤外線吸収化合物含有層の厚みは一般に0.1μm〜10mm程度であるが、近赤外線カット率等の目的に応じて適宜決定される。また、近赤外線吸収化合物の含有量も目的とする近赤外線カット率に応じて、適宜決定される。
基材となる樹脂としては、樹脂板又は樹脂フィルムに成形した場合、できるだけ透明性の高いものが好ましく、その具体例として、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、及びそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体、等のビニル化合物又はフッ素系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
本発明の近赤外線吸収フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次のような、それ自体公知の方法が利用できる。例えば、(1)樹脂に本発明における近赤外線吸収化合物を混練し、加熱成形して樹脂板又はフィルムを作製する方法(2)上記化合物と樹脂モノマー又は樹脂モノマーの予備重合体を重合触媒の存在下にキャスト重合し、樹脂板又はフィルムを作製する方法(3)上記化合物を含有する塗料を作製し、透明樹脂板、透明フィルム、又は透明ガラス板にコーティングする方法及び、(4)化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、又は合わせガラス板を作製する方法等である。
(1)の作製方法としては、用いる樹脂によって加工温度、フィルム化(樹脂板化)条件等が多少異なるが、通常、本発明における近赤外線吸収化合物を基材樹脂の粉体又はペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、押し出し機によりフィルム化(樹脂板化)する方法等が挙げられる。上記の近赤外線吸収化合物の添加量は、作製する樹脂板又はフィルムの厚み、吸収強度、可視光透過率等によって異なるが、一般的にバインダー樹脂の重量に対して、0.01〜30重量%、好ましくは0.03〜15重量%の量で使用される。
上記の化合物と樹脂モノマー又は樹脂モノマーの予備重合体を重合触媒の存在下にキャスト重合し、作製する(2)の方法において、それらの混合物を型内に注入し、反応させて硬化させるか、又は金型に流し込んで型内で硬い製品となるまで固化させて成形する。多くの樹脂がこの過程で成形可能であり、その様な樹脂の具体例としてアクリル樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコン樹脂、等が挙げられる。その中でも、硬度、耐熱性、耐薬品性に優れたアクリルシートが得られるメタクリル酸メチルの塊状重合によるキャスティング法が好ましい。
重合触媒としては公知のラジカル熱重合開始剤が利用でき、例えばベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。その使用量は混合物の総量に対して、一般的に0.01〜5重量%である。熱重合における加熱温度は、一般的に40〜200℃であり、重合時間は一般的に30分〜8時間程度である。また熱重合以外に、光重合開始剤や増感剤を添加して光重合する方法も利用できる。
(3)の方法としては、本発明における近赤外線吸収化合物をバインダー樹脂及び有機溶媒に溶解させて塗料化する方法、上記化合物を微粒子化して分散して、水系塗料とする方法等がある。前者の方法では例えば、脂肪族エステル樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル変性樹脂等、又はそれらの共重合樹脂をバインダーとして用いる事ができる。
溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系の溶媒、又はそれらの混合物の溶媒を用いることができる。本発明の近赤外線吸収化合物の濃度は、作製するコーティングの厚み、吸収強度、可視光透過率によって異なるが、バインダー樹脂に対して、一般的に0.1〜30重量%である。
このように作製した塗料を用いて透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、スプレー等でコーティングして近赤外線吸収フィルターを得ることができる。
(4)の方法において、接着剤としては、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂用、又は合わせガラス用のポリビニルブチラール接着剤、エチレン−酢酸ビニル系接着剤等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。本発明における近赤外線吸収化合物を0.1〜30重量%添加した接着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着して、フィルターを作製する。
尚、それぞれの方法で混練、混合の際、紫外線吸収剤、可塑剤等、樹脂成形に用いる通常の添加剤を加えても良い。
このように(1)から(4)のそれぞれの方法において、樹脂中に式(3)及び/または式(4)で表される化合物を添加した近赤外線吸収組成物も、本発明に含まれる。
又、フィルターの色調を変えるために、可視領域に吸収を持つ色素(調色用色素)を、本発明の効果を阻害しない範囲で加えてもよい。又、調色用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で本発明の近赤外線吸収フィルターを貼り合わせることもできる。
この様な近赤外線吸収フィルターは、プラズマディスプレーの前面板に用いられる場合には、可視光の透過率は高いほどよく少なくとも40%以上、好ましくは50%以上の透過率が必要である。近赤外線のカット領域は、好ましくは800〜900nm、より好ましくは800〜1000nmであり、その領域の近赤外線の平均透過率が50%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下になることが望ましい。
本発明においては、一般に可視光の透過率が高い傾向にある式(4)の化合物を用いることが好ましいが式(3)の化合物を用いてもよいし、式(3)と式(4)の混合物であってもよい。さらにこれらの化合物と、他の近赤外線吸収化合物を併用して作製しても良い。併用し得る他の近赤外線吸収化合物としては、例えばフタロシアニン系色素、シアニン系色素、ジチオールニッケル錯体等があげられる。また、使用しうる無機金属の近赤外線吸収化合物としては、例えば金属銅又は硫化銅、酸化銅等の銅化合物、酸化亜鉛を主成分とする金属混合物、タングステン化合物、ITO、ATO等が挙げられる。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、ディスプレーの前面板の様な用途に限らず、赤外線をカットする必要があるフィルターやフィルム、例えば断熱フィルム、光学製品、サングラス等にも使用することが出来る。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、可視光領域は非常に高い透過率でありアンチモンを含有せず、近赤外領域は幅広く吸収する優れた近赤外線吸収フィルターである。また従来のアンチモンを含有しない過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ホウフッ化イオンからなる近赤外線吸収フィルターに比べ安定性に優れている。特に、本発明の近赤外線吸収フィルターは耐熱性において非常に優れており、熱による分解などの反応を起こしにくいため、可視部の着色がほとんど起こらない近赤外線吸収フィルターを得る事ができる。更にこの様な特徴を有していることから、近赤外線吸収フィルターや例えば断熱フィルム及びサングラスのような近赤外線吸収フィルムに好適に用いることができ、特にプラズマディスプレー用の近赤外線吸収フィルターに好適である。
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
実施例1(合成例1)
(表4におけるNo.37の化合物の合成)
DMF10部中にN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン1.8部を加え、60℃に加熱溶解した後、DMF10部中に溶解したトリフルオロメタンスルホン酸銀1.08部を加え、30分反応させた。冷却後析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水20部をゆっくりと滴下し、滴下終了後15分撹拌した。生成した黒色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキを乾燥し、No.37の化合物2.3部を得た。
λmax 1100nm(ジクロロメタン)
合成例2
(表4におけるNo.39の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(i−アミル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代えた以外は同様に反応し、No.39の化合物を得た。
λmax 1104nm(ジクロロメタン)
合成例3
(表4におけるNo.38の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(i−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代えた以外は同様に反応し、No.38の化合物を得た。
λmax 1106nm(ジクロロメタン)
合成例4
(表4におけるNo.41の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代えた以外は同様に反応し、No.41の化合物を得た。
λmax 1068nm(ジクロロメタン)
合成例5
(表1におけるNo.5の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代え、トリフルオロメタンスルホン酸銀の使用量を1当量に代えた以外は同様に反応し、No.5の化合物を得た。
λmax 880nm(アセトン)
実施例2(合成例6)
(表5におけるNo.49の化合物の合成)
DMF17部中にN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン3部、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム2.3部を加え、60℃に加熱溶解した後、DMF17部中に溶解した硝酸銀1.2部を加え、1時間反応させた。冷却後析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水35部をゆっくりと滴下し、滴下終了後15分撹拌した。生成した黒色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキを乾燥し、No.49の化合物4.6部を得た。
λmax 1100nm(ジクロロメタン)
実施例3(合成例7)
(表2におけるNo.17の化合物の合成)
DMF17部中にN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン3部、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム1部を加え、60℃に加熱溶解した後、DMF17部中に溶解した硝酸銀0.5部を加え、1時間反応させた。冷却後析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水35部をゆっくりと滴下し、滴下終了後15分撹拌した。生成した緑色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキを乾燥し、No.17の化合物3.6部を得た。
λmax 882nm(アセトン)
実施例4(合成例8)
(表5におけるNo.56の化合物の合成)
前記実施例2の反応でノナフルオロブタンスルホン酸カリウムの代わりにヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸テトラエチルアンモニウム塩に代えた以外は実施例2と同様に反応させ、No.56の化合物を得た。
λmax 1098nm(ジクロロメタン)
実施例5(合成例9)
(表2におけるNo.19の化合物の合成)
前記実施例3の反応でノナフルオロブタンスルホン酸カリウムの代わりにヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸テトラエチルアンモニウム塩に代えた以外は実施例3と同様に反応させ、No.19の化合物を得た。
λmax 884nm(アセトン)
合成例10
(表6におけるNo.73の化合物の合成)
DMF35部中にN,N,N′,N′−テトラキス(アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン5.3部、炭酸カリウム20部、ヨウ化カリウム10部、n−ブチルブロミド5部、イソブチルブロミド35部を加え、90℃で3時間反応、その後130℃で1時間反応させた。冷却後、液濾過し、この反応液にメタノール40部を加え、5℃以下で1時間撹拌した。生成した結晶を濾過し、メタノールで洗浄した後、乾燥し薄茶色結晶で中間体7.1部を得た。
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりに上記置換反応で得た中間体に代えた以外は同様に反応し、No.73の化合物を得た。
λmax 1104nm(ジクロロメタン)
その他の化合物例についても上記合成例1〜合成例8と同様に対応するフェニレンジアミン誘導体を、Xに対応する銀塩はじめ前記した種々の酸化剤で酸化した後、対応するアニオンと反応させることにより、合成できる。
実施例6、7
前記実施例で得られた化合物のそれぞれについて、ジクロロメタン中でのモル吸光係数(ε)を測定した。実施例6ではNo.37の化合物の、実施例7ではNo.49の化合物のモル吸光係数とする。この結果を表7に示す。
比較例1、2
特許文献2に記載の化合物であるN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの1,5−ナフタレンジスルホン酸塩(特許文献2、実施例1に記載の化合物)(比較例1)及び1−ヒドロキシ−2,5−ナフタレンジスルホン酸塩(比較例2)を用いた以外は同様にしてジクロロメタン中でのモル吸光係数(ε)を測定した。この結果を表7に示す。
実施例8、9、10(近赤外線吸収フィルター及び耐熱安定性試験)
MEK18.8部に、前記各実施例で得られた各化合物1.2部をそれぞれ溶解させた。この溶解液に、MEK75部中にアクリル系樹脂(ダイヤナールBR−80、三菱レイヨン社製)25部を加え溶解させた樹脂液を80部を混合し、塗工用溶液を得た。これをポリエステルフィルムに厚さ2〜4μmになるように塗工し、80℃で乾燥させて本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
得られた近赤外線吸収フィルターを80℃の熱風乾燥機中で所定の時間、耐熱安定性試験を行い、また60℃、95%RHの条件の恒温恒湿機中で所定の時間、耐湿熱安定性試験を行った。試験後、そのフィルターを分光光度計にて測色し、L*、a*、b*値を算出し、b*値の変化から安定性評価を行った。実施例8ではNo.37の化合物を、実施例9ではNo.49の化合物を、実施例10ではNo.73の化合物を用いたものとする。得られた耐熱試験の結果を表8に示す。
比較例3、4
上記化合物の代わりに特許文献1に記載の化合物であるN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの六フッ化リン酸塩(比較例3)、N,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムのホウフッ化塩(比較例4)を用いた以外は実施例8、9と同様にしてフィルターを作製し、同様に評価して、結果を表8に示した。
実施例9(近赤外線吸収フィルター)
前記実施例1で得られたNo.37の化合物をPMMA(ポリメタクリル酸メチル)に対して、0.03%の量で添加し、温度200℃で射出成形し、厚さ1mmと3mmの本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。得られたフィルターの800〜1000nmでの平均光線透過率を、分光光度計にて測定したところ、厚さ1mmのフィルターでは20%、3mmのフィルターでは3%であった。
表7より、本発明で使用する近赤外線吸収化合物はモル吸光係数が9万以上と高いことが判る。また表8より、これらの化合物を含有する本発明の近赤外線吸収フィルターは比較試料に対してb*値の変化が小さいことから、高温高湿の条件での安定性に非常に優れていることが判る。
本発明の近赤外線吸収化合物は、アンチモン及び砒素などを含まず、モル吸光係数が9万以上と高く優れた化合物である。また従来のアンチモン等を含まない六フッ化リン酸イオン、過塩素酸イオン、ホウフッ化イオンを有するジイモニウム塩に比べ、環境安定性、特に耐熱性に優れている。これを用いた近赤外線吸収フィルターは、アンチモン等を含有せず耐熱性に極めて優れた近赤外線吸収フィルターであり、熱による分解などの反応を起こしにくく、可視部の着色がほとんど認められない。この様な特徴を有していることから、本発明の近赤外線吸収化合物は、近赤外線吸収フィルターや、例えば断熱フィルム及びサングラスのような近赤外吸収フィルムに好適に用いることができ、特に、プラズマディスプレー用の近赤外線吸収フィルターに好適である。
【技術分野】
本発明は劇物に該当せず、耐熱性に優れた近赤外線吸収化合物、近赤外線吸収フィルター及び近赤外線吸収組成物に関し、特に、該近赤外線吸収フィルターからなるプラズマディスプレーパネル用の近赤外線吸収フィルターに関する。
【背景技術】
従来、近赤外線吸収剤としてのジイモニウム塩化合物、アミニウム塩化合物は、広く知られており(例えば特許文献1〜3参照)、近赤外線吸収フィルター、断熱フィルム及びサングラス等に広く利用されている。しかしながら、これらの化合物の中では対イオンが六フッ化アンチモン酸イオン、六フッ化砒素イオンなどであるものが耐熱性が優れ、中でも六フッ化アンチモン酸イオンの化合物が主に使用されていた。しかしアンチモンは含有するだけで、劇物に該当する為、近年、重金属等が規制を受ける産業分野、特に電気材料分野ではこれらの金属を含まない化合物が望まれていた。これらを解決する手段として、過塩素酸イオン、六フッ化リン酸イオン、ホウフッ化イオン等を用いる方法があるが、耐熱性や耐湿熱性を考えると、これらの対イオンでは不十分である。更にナフタレンジスルホン酸を対イオンとした化合物も提案されているが(例えば特許文献2参照)、モル吸光係数が低く緑味を帯びている為、実際上使用することができなかった。
一方、対イオンとしてトリフルオロメタンスルホン酸イオンを用いたものも知られているが、それらの具体的なデータは示されていない。(例えば特許文献1参照)。
文献リスト
・特許文献1:特公平7−51555号公報(第2頁)
・特許文献2:特開平10−316633号公報(第5頁)
・特許文献3:特公昭43−25335号公報(第7−14頁)
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこの様な状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、アンチモンを含有せず、さらに、アンチモンを含有しないその他の対イオンに比べ優れた安定性、特に耐熱性を有する近赤外線吸収化合物、そのような近赤外線吸収化合物を用いて作製した、プラズマディスプレーパネル用の近赤外吸収フィルターに好適な近赤外線吸収フィルターを提供することにある。
【発明の開示】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意努力した結果、下記式(1)の構造を有する近赤外線吸収化合物が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、
(1)下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオン(X)が該陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基若しくはヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有することを特徴とする近赤外線吸収フィルター、
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
(2)式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物が下記式(4)である(1)に記載の近赤外線吸収フィルター、
(3)環A及びBの1,4−以外が無置換であるか、又は置換基としてそれぞれの環にハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を1〜4個有する、(1)または(2)に記載の近赤外線吸収フィルター、
(4)Xが無置換かフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキルスルホン酸である(1)から(3)のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター、
(5)プラズマディスプレーパネル用である(1)から(4)のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター、
(6)樹脂中に、式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有してなることを特徴とする近赤外線吸収組成物、
(7)下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが該陽イオンを中和させるのに必要な、下記式(2)で示されるアルキルスルホン酸であることを特徴とする近赤外線吸収化合物、
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表す。)
(式(2)中、R10〜R14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を表し、nは1〜7の整数を表す。)
(8)下記式(6)で表される近赤外線吸収化合物、
(式(6)中、R15〜R22はそれぞれ独立に直鎖または分岐の、ブチル基またはペンチル基を表す。)
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の近赤外線吸収フィルターは、前記一般式(1)で示される構造の化合物を応用してなるものである。このような近赤外線吸収化合物の例を化学式で示すと下記式(3)
(式(3)中、環A、環B、R1〜R8、Xは前記と同じ。)
又は下記式(4)
(式(4)中、環A、環B、R1〜R8、Xは前記と同じ。)
で表される化合物である。
一般式(3)及び/または(4)において環A及びBにはそれぞれ、1,4−位以外に1〜4個の置換基を有していても、いなくても良い。結合しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、シアノ基、低級アルキル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基等のC1〜C5のアルコキシ基が挙げられ、低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基等のC1〜C5のアルキル基が挙げられる。A及びBが置換基を有していないか、ハロゲン原子(特に塩素原子、臭素原子)、メチル基若しくはシアノ基で置換されているものが好ましい。
尚、Bに置換基を有する場合は、4つのB環がすべて同じであるもの、更に置換基の位置はA環に結合する窒素原子に対してm−位であるものが合成上好ましい。さらに環A及びBには1,4−位以外に置換基を有していていないものが合成上好ましい。
R1〜R8におけるアルキル基としては例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分は直鎖状あるいは分岐鎖状のいずれでもよい。また置換基を有していてもよい。結合しうる置換基としては、例えばハロゲン原子(例、F、Cl、Br)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、イソブトキシ基など)、アルコキシアルコキシ基(例、メトキシエトキシ基など)、アリール基(例、フェニル基、ナフチル基など)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基など)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキシリルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルキル置換アミノ基(例、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基など)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えばアリル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には炭素数1から8のアルキル基(例、メチル基、エチル基、ブチル基など)、炭素数1から6のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基など)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基、p−クロロフェノキシ基など)、ハロゲン原子(例、F、Cl、Br)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、アミノ基、アルキル置換アミノ基(例、メチルアミノ基など)、アミド基(例、アセトアミド基など)、スルホンアミド基(例、メタンスルホンアミド基など)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基などが挙げられる。このようなアリール基の炭素数は6から12であることが好ましい。
好ましいR1〜R8は、無置換のアルキル基、シアノ置換アルキル基、アルコキシ置換アルキル基、アリル基である。特にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等の(C1〜C8)アルキル基、シアノメチル基、2−シアノエチル基、3−シアノプロピル基、2−シアノプロピル基、4−シアノブチル基、3−シアノブチル基、2−シアノブチル基、5−シアノペンチル基、4−シアノペンチル基、3−シアノペンチル基、2−シアノペンチル基等のシアノ置換(C1〜C6)アルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、4−メトキシブチル基、4−エトキシブチル基、5−エトキシペンチル基、5−メトキシペンチル基等のアルコキシ置換(C1〜C6)アルキル基であり、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基が特に好ましい。
Xは式(1)の化合物を酸化して得られる陽イオン(電荷)を中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸を表し、直鎖状でも分岐状でもよい。電荷を中和するには、式(3)の化合物の場合には1分子、式(4)の化合物の場合には2分子が必要になる。これらの炭素数1〜8のアルキルスルホン酸の具体例としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、ノナンスルホン酸等が挙げられる。これらには前述したハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい。ハロゲン原子で置換された化合物としては、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、2−ブロモエタンスルホン酸、2−クロロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、3−ブロモプロパンスルホン酸、3−クロロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸等が、シアノ基で置換された化合物としては、例えばシアノメタンスルホン酸、2−シアノエタンスルホン酸、4−シアノブタンスルホン酸等が、ヒドロキシル基で置換された化合物としては、例えばヒドロキシメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、4−ヒドロキシブタンスルホン酸等がそれぞれ挙げられる。好ましくは、無置換かハロゲン原子で置換されたアルキルスルホン酸であり、ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。
これらの中で特に好ましいものはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホンである。
次に、本発明の一般式(3)で示される近赤外線吸収化合物の具体例を表1〜3に、一般式(4)の具体例を表4〜6に示す。表1〜6中、R1〜R8に関し、i−はiso−のように分岐の状態を表し、Phはフェニル基、cyは環状であることを表す。A及びBに関し、1,4−位以外が無置換の場合は「4H」と表記し、置換位置はA環に結合する窒素原子に対しての置換位置である。また、R1〜R8に関し、R1〜R8が全てブチル基である場合には「4(n−C4H9,n−C4H9)」と略記し、また例えば、1つがiso−ペンチル基で残りがn−ブチル基である場合、即ち、4組の置換基の組み合わせの一つにiso−ペンチル基が含まれ、残りの3組が全てn−ブチル基である場合には「3(n−C4H9,n−C4H9)(n−C4H9,i−C5H11)」と略記する。
本発明の近赤外線吸収フィルターに使用される一般式(3)及び/または(4)で表される化合物は、例えば特許文献3に記載された方法に準じた方法で得ることができる。即ち、p−フェニレンジアミンと1−クロロ−4−ニトロベンゼンをウルマン反応させて得られた生成物を還元することにより得られる下記式(5)
(式(5)中、環A及びBは前記で定義された通りである。)で表されるアミノ体を有機溶媒中、好ましくはDMF、DMI又はNMP等の水溶性極性溶媒中、30〜160℃、好ましくは50〜140℃で、所望のR1〜R8に対応するハロゲン化化合物(例えば、R1がn−C4H9のときはBrC4H9)と反応させて、全ての置換基(R1〜R8)が同一である化合物(以下、全置換体と記す)を得ることができる。また、R1からR8のすべてが同じ置換基である化合物以外ものを合成する場合(例えばNo.28の化合物)には、先に所定のモル数(上記式(5)のアミン体1モル当たり7モル)の試薬(BrC4H9)と反応させてR1〜R8のうち7つにn−ブチル基を導入した後、残りの置換基(i−ペンチル基)を導入するのに必要なモル数(上記式(5)のアミン体1モル当たり1モル)の対応する試薬(BrC5H11)と反応させる。例示したNo.28の化合物の製造方法と同様の方法により、全置換体以外の任意の化合物を得ることができる。
その後、上記で合成した化合物を、有機溶媒中、好ましくはDMF、DMI、NMP等の水溶性極性溶媒中、0〜100℃、好ましくは5〜70℃で式(3)または(4)のXに対応する酸化剤(例えば銀塩)を添加して酸化反応を行う。一般的には酸化剤の当量を2当量にすれば一般式(4)で表される化合物が得られ、当量を1当量にすれば一般式(3)で表せられる化合物が得られる。
また、上記で合成した化合物を硝酸銀、過塩素酸銀、塩化第二銅等の酸化剤で酸化した後、その反応液に、所望のアニオンの酸もしくは塩を添加して塩交換を行う方法によっても一般式(3)または(4)で表される化合物を合成することが出来る。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、上記の近赤外線吸収化合物を含有する層を基材上に設けたものでもよく、また基材自体が近赤外線吸収化合物を含有する樹脂組成物(又その硬化物)からなる層であっても良い。基材としては、一般に近赤外線吸収フィルターに使用し得るものであれば特に制限されないが、通常、樹脂製の基材が使用される。近赤外線吸収化合物含有層の厚みは一般に0.1μm〜10mm程度であるが、近赤外線カット率等の目的に応じて適宜決定される。また、近赤外線吸収化合物の含有量も目的とする近赤外線カット率に応じて、適宜決定される。
基材となる樹脂としては、樹脂板又は樹脂フィルムに成形した場合、できるだけ透明性の高いものが好ましく、その具体例として、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、及びそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体、等のビニル化合物又はフッ素系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
本発明の近赤外線吸収フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次のような、それ自体公知の方法が利用できる。例えば、(1)樹脂に本発明における近赤外線吸収化合物を混練し、加熱成形して樹脂板又はフィルムを作製する方法(2)上記化合物と樹脂モノマー又は樹脂モノマーの予備重合体を重合触媒の存在下にキャスト重合し、樹脂板又はフィルムを作製する方法(3)上記化合物を含有する塗料を作製し、透明樹脂板、透明フィルム、又は透明ガラス板にコーティングする方法及び、(4)化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、又は合わせガラス板を作製する方法等である。
(1)の作製方法としては、用いる樹脂によって加工温度、フィルム化(樹脂板化)条件等が多少異なるが、通常、本発明における近赤外線吸収化合物を基材樹脂の粉体又はペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、押し出し機によりフィルム化(樹脂板化)する方法等が挙げられる。上記の近赤外線吸収化合物の添加量は、作製する樹脂板又はフィルムの厚み、吸収強度、可視光透過率等によって異なるが、一般的にバインダー樹脂の重量に対して、0.01〜30重量%、好ましくは0.03〜15重量%の量で使用される。
上記の化合物と樹脂モノマー又は樹脂モノマーの予備重合体を重合触媒の存在下にキャスト重合し、作製する(2)の方法において、それらの混合物を型内に注入し、反応させて硬化させるか、又は金型に流し込んで型内で硬い製品となるまで固化させて成形する。多くの樹脂がこの過程で成形可能であり、その様な樹脂の具体例としてアクリル樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコン樹脂、等が挙げられる。その中でも、硬度、耐熱性、耐薬品性に優れたアクリルシートが得られるメタクリル酸メチルの塊状重合によるキャスティング法が好ましい。
重合触媒としては公知のラジカル熱重合開始剤が利用でき、例えばベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。その使用量は混合物の総量に対して、一般的に0.01〜5重量%である。熱重合における加熱温度は、一般的に40〜200℃であり、重合時間は一般的に30分〜8時間程度である。また熱重合以外に、光重合開始剤や増感剤を添加して光重合する方法も利用できる。
(3)の方法としては、本発明における近赤外線吸収化合物をバインダー樹脂及び有機溶媒に溶解させて塗料化する方法、上記化合物を微粒子化して分散して、水系塗料とする方法等がある。前者の方法では例えば、脂肪族エステル樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル変性樹脂等、又はそれらの共重合樹脂をバインダーとして用いる事ができる。
溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系の溶媒、又はそれらの混合物の溶媒を用いることができる。本発明の近赤外線吸収化合物の濃度は、作製するコーティングの厚み、吸収強度、可視光透過率によって異なるが、バインダー樹脂に対して、一般的に0.1〜30重量%である。
このように作製した塗料を用いて透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、スプレー等でコーティングして近赤外線吸収フィルターを得ることができる。
(4)の方法において、接着剤としては、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂用、又は合わせガラス用のポリビニルブチラール接着剤、エチレン−酢酸ビニル系接着剤等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。本発明における近赤外線吸収化合物を0.1〜30重量%添加した接着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着して、フィルターを作製する。
尚、それぞれの方法で混練、混合の際、紫外線吸収剤、可塑剤等、樹脂成形に用いる通常の添加剤を加えても良い。
このように(1)から(4)のそれぞれの方法において、樹脂中に式(3)及び/または式(4)で表される化合物を添加した近赤外線吸収組成物も、本発明に含まれる。
又、フィルターの色調を変えるために、可視領域に吸収を持つ色素(調色用色素)を、本発明の効果を阻害しない範囲で加えてもよい。又、調色用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で本発明の近赤外線吸収フィルターを貼り合わせることもできる。
この様な近赤外線吸収フィルターは、プラズマディスプレーの前面板に用いられる場合には、可視光の透過率は高いほどよく少なくとも40%以上、好ましくは50%以上の透過率が必要である。近赤外線のカット領域は、好ましくは800〜900nm、より好ましくは800〜1000nmであり、その領域の近赤外線の平均透過率が50%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下になることが望ましい。
本発明においては、一般に可視光の透過率が高い傾向にある式(4)の化合物を用いることが好ましいが式(3)の化合物を用いてもよいし、式(3)と式(4)の混合物であってもよい。さらにこれらの化合物と、他の近赤外線吸収化合物を併用して作製しても良い。併用し得る他の近赤外線吸収化合物としては、例えばフタロシアニン系色素、シアニン系色素、ジチオールニッケル錯体等があげられる。また、使用しうる無機金属の近赤外線吸収化合物としては、例えば金属銅又は硫化銅、酸化銅等の銅化合物、酸化亜鉛を主成分とする金属混合物、タングステン化合物、ITO、ATO等が挙げられる。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、ディスプレーの前面板の様な用途に限らず、赤外線をカットする必要があるフィルターやフィルム、例えば断熱フィルム、光学製品、サングラス等にも使用することが出来る。
本発明の近赤外線吸収フィルターは、可視光領域は非常に高い透過率でありアンチモンを含有せず、近赤外領域は幅広く吸収する優れた近赤外線吸収フィルターである。また従来のアンチモンを含有しない過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ホウフッ化イオンからなる近赤外線吸収フィルターに比べ安定性に優れている。特に、本発明の近赤外線吸収フィルターは耐熱性において非常に優れており、熱による分解などの反応を起こしにくいため、可視部の着色がほとんど起こらない近赤外線吸収フィルターを得る事ができる。更にこの様な特徴を有していることから、近赤外線吸収フィルターや例えば断熱フィルム及びサングラスのような近赤外線吸収フィルムに好適に用いることができ、特にプラズマディスプレー用の近赤外線吸収フィルターに好適である。
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
実施例1(合成例1)
(表4におけるNo.37の化合物の合成)
DMF10部中にN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン1.8部を加え、60℃に加熱溶解した後、DMF10部中に溶解したトリフルオロメタンスルホン酸銀1.08部を加え、30分反応させた。冷却後析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水20部をゆっくりと滴下し、滴下終了後15分撹拌した。生成した黒色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキを乾燥し、No.37の化合物2.3部を得た。
λmax 1100nm(ジクロロメタン)
合成例2
(表4におけるNo.39の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(i−アミル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代えた以外は同様に反応し、No.39の化合物を得た。
λmax 1104nm(ジクロロメタン)
合成例3
(表4におけるNo.38の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(i−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代えた以外は同様に反応し、No.38の化合物を得た。
λmax 1106nm(ジクロロメタン)
合成例4
(表4におけるNo.41の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代えた以外は同様に反応し、No.41の化合物を得た。
λmax 1068nm(ジクロロメタン)
合成例5
(表1におけるNo.5の化合物の合成)
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりにN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに代え、トリフルオロメタンスルホン酸銀の使用量を1当量に代えた以外は同様に反応し、No.5の化合物を得た。
λmax 880nm(アセトン)
実施例2(合成例6)
(表5におけるNo.49の化合物の合成)
DMF17部中にN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン3部、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム2.3部を加え、60℃に加熱溶解した後、DMF17部中に溶解した硝酸銀1.2部を加え、1時間反応させた。冷却後析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水35部をゆっくりと滴下し、滴下終了後15分撹拌した。生成した黒色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキを乾燥し、No.49の化合物4.6部を得た。
λmax 1100nm(ジクロロメタン)
実施例3(合成例7)
(表2におけるNo.17の化合物の合成)
DMF17部中にN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(シアノプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミン3部、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム1部を加え、60℃に加熱溶解した後、DMF17部中に溶解した硝酸銀0.5部を加え、1時間反応させた。冷却後析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水35部をゆっくりと滴下し、滴下終了後15分撹拌した。生成した緑色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキを乾燥し、No.17の化合物3.6部を得た。
λmax 882nm(アセトン)
実施例4(合成例8)
(表5におけるNo.56の化合物の合成)
前記実施例2の反応でノナフルオロブタンスルホン酸カリウムの代わりにヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸テトラエチルアンモニウム塩に代えた以外は実施例2と同様に反応させ、No.56の化合物を得た。
λmax 1098nm(ジクロロメタン)
実施例5(合成例9)
(表2におけるNo.19の化合物の合成)
前記実施例3の反応でノナフルオロブタンスルホン酸カリウムの代わりにヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸テトラエチルアンモニウム塩に代えた以外は実施例3と同様に反応させ、No.19の化合物を得た。
λmax 884nm(アセトン)
合成例10
(表6におけるNo.73の化合物の合成)
DMF35部中にN,N,N′,N′−テトラキス(アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン5.3部、炭酸カリウム20部、ヨウ化カリウム10部、n−ブチルブロミド5部、イソブチルブロミド35部を加え、90℃で3時間反応、その後130℃で1時間反応させた。冷却後、液濾過し、この反応液にメタノール40部を加え、5℃以下で1時間撹拌した。生成した結晶を濾過し、メタノールで洗浄した後、乾燥し薄茶色結晶で中間体7.1部を得た。
前記実施例1でN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンの代わりに上記置換反応で得た中間体に代えた以外は同様に反応し、No.73の化合物を得た。
λmax 1104nm(ジクロロメタン)
その他の化合物例についても上記合成例1〜合成例8と同様に対応するフェニレンジアミン誘導体を、Xに対応する銀塩はじめ前記した種々の酸化剤で酸化した後、対応するアニオンと反応させることにより、合成できる。
実施例6、7
前記実施例で得られた化合物のそれぞれについて、ジクロロメタン中でのモル吸光係数(ε)を測定した。実施例6ではNo.37の化合物の、実施例7ではNo.49の化合物のモル吸光係数とする。この結果を表7に示す。
比較例1、2
特許文献2に記載の化合物であるN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの1,5−ナフタレンジスルホン酸塩(特許文献2、実施例1に記載の化合物)(比較例1)及び1−ヒドロキシ−2,5−ナフタレンジスルホン酸塩(比較例2)を用いた以外は同様にしてジクロロメタン中でのモル吸光係数(ε)を測定した。この結果を表7に示す。
実施例8、9、10(近赤外線吸収フィルター及び耐熱安定性試験)
MEK18.8部に、前記各実施例で得られた各化合物1.2部をそれぞれ溶解させた。この溶解液に、MEK75部中にアクリル系樹脂(ダイヤナールBR−80、三菱レイヨン社製)25部を加え溶解させた樹脂液を80部を混合し、塗工用溶液を得た。これをポリエステルフィルムに厚さ2〜4μmになるように塗工し、80℃で乾燥させて本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。
得られた近赤外線吸収フィルターを80℃の熱風乾燥機中で所定の時間、耐熱安定性試験を行い、また60℃、95%RHの条件の恒温恒湿機中で所定の時間、耐湿熱安定性試験を行った。試験後、そのフィルターを分光光度計にて測色し、L*、a*、b*値を算出し、b*値の変化から安定性評価を行った。実施例8ではNo.37の化合物を、実施例9ではNo.49の化合物を、実施例10ではNo.73の化合物を用いたものとする。得られた耐熱試験の結果を表8に示す。
比較例3、4
上記化合物の代わりに特許文献1に記載の化合物であるN,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムの六フッ化リン酸塩(比較例3)、N,N,N′,N′−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}フェニレンジイモニウムのホウフッ化塩(比較例4)を用いた以外は実施例8、9と同様にしてフィルターを作製し、同様に評価して、結果を表8に示した。
実施例9(近赤外線吸収フィルター)
前記実施例1で得られたNo.37の化合物をPMMA(ポリメタクリル酸メチル)に対して、0.03%の量で添加し、温度200℃で射出成形し、厚さ1mmと3mmの本発明の近赤外線吸収フィルターを得た。得られたフィルターの800〜1000nmでの平均光線透過率を、分光光度計にて測定したところ、厚さ1mmのフィルターでは20%、3mmのフィルターでは3%であった。
表7より、本発明で使用する近赤外線吸収化合物はモル吸光係数が9万以上と高いことが判る。また表8より、これらの化合物を含有する本発明の近赤外線吸収フィルターは比較試料に対してb*値の変化が小さいことから、高温高湿の条件での安定性に非常に優れていることが判る。
本発明の近赤外線吸収化合物は、アンチモン及び砒素などを含まず、モル吸光係数が9万以上と高く優れた化合物である。また従来のアンチモン等を含まない六フッ化リン酸イオン、過塩素酸イオン、ホウフッ化イオンを有するジイモニウム塩に比べ、環境安定性、特に耐熱性に優れている。これを用いた近赤外線吸収フィルターは、アンチモン等を含有せず耐熱性に極めて優れた近赤外線吸収フィルターであり、熱による分解などの反応を起こしにくく、可視部の着色がほとんど認められない。この様な特徴を有していることから、本発明の近赤外線吸収化合物は、近赤外線吸収フィルターや、例えば断熱フィルム及びサングラスのような近赤外吸収フィルムに好適に用いることができ、特に、プラズマディスプレー用の近赤外線吸収フィルターに好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオン(X)が該陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基若しくはヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有することを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
【請求項2】
式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物が下記式(4)である請求項1に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項3】
環A及びBの1,4−以外が無置換であるか、又は置換基としてそれぞれの環にハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を1〜4個有する、請求項1または2に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項4】
Xが無置換かフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキルスルホン酸である請求項1から3のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項5】
プラズマディスプレーパネル用である請求項1から4のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項6】
樹脂中に、式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有してなることを特徴とする近赤外線吸収組成物。
【請求項7】
下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが該陽イオンを中和させるのに必要な、下記式(2)で示されるアルキルスルホン酸であることを特徴とする近赤外線吸収化合物。
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表す。)
(式(2)中、R10〜R14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を表し、nは1〜7の整数を表す。)
【請求項8】
下記式(6)で表される近赤外線吸収化合物。
(式(6)中、R15〜R22はそれぞれ独立に直鎖または分岐の、ブチル基またはペンチル基を表す。)
【請求項1】
下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオン(X)が該陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基若しくはヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有することを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
【請求項2】
式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物が下記式(4)である請求項1に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項3】
環A及びBの1,4−以外が無置換であるか、又は置換基としてそれぞれの環にハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を1〜4個有する、請求項1または2に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項4】
Xが無置換かフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキルスルホン酸である請求項1から3のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項5】
プラズマディスプレーパネル用である請求項1から4のいずれか一項に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項6】
樹脂中に、式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが陽イオンを中和させるのに必要な、無置換、又はハロゲン原子、低級アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキルスルホン酸イオンである化合物を含有してなることを特徴とする近赤外線吸収組成物。
【請求項7】
下記式(1)を酸化して得られた陽イオンと、陰イオンとの塩からなる化合物であって、該陰イオンが該陽イオンを中和させるのに必要な、下記式(2)で示されるアルキルスルホン酸であることを特徴とする近赤外線吸収化合物。
(式(1)中、環A及びBは置換基を有していてもよく、R1〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜8の置換もしくは未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表す。)
(式(2)中、R10〜R14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基又はヒドロキシル基を表し、nは1〜7の整数を表す。)
【請求項8】
下記式(6)で表される近赤外線吸収化合物。
(式(6)中、R15〜R22はそれぞれ独立に直鎖または分岐の、ブチル基またはペンチル基を表す。)
【国際公開番号】WO2004/068199
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504683(P2005−504683)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000535
【国際出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/000535
【国際出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】
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