説明

近赤外線吸収性塗膜及び近赤外線吸収性樹脂組成物

【課題】近赤外線吸収性色素の劣化が抑制され優れた耐候性の近赤外線吸収性塗膜及び近赤外線吸収性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】780nm〜1200nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収性色素を含有する近赤外線吸収性塗膜であって、紫外線オートフェードメーターによる促進耐候性試験における光照射48時間後の近赤外線吸収能残存率が50%以上であり、該近赤外線吸収性塗膜は、特定の単量体を含有する単量体成分を重合してなる重合体を含む近赤外線吸収性樹脂組成物から形成されてなり、該近赤外線吸収性色素は、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラキノン系色素及びナフトキノン系色素からなる群より選択される少なくとも1種の色素である近赤外線吸収性塗膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収性塗膜及び近赤外線吸収性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線吸収性樹脂組成物は、熱線である近赤外線を吸収する性質を有するフィルムやコーティング膜を形成することができ、このようなフィルムやコーティング膜が熱線を遮蔽して温度上昇を防止する熱線吸収フィルムとして省エネルギーの観点から近年注目されている。例えば、近赤外線吸収性樹脂組成物から形成される熱線吸収フィルムを窓ガラス等に貼り付けたり、2枚のガラスの間に挟み込んだり、また、近赤外線吸収性樹脂組成物をコーティング剤として窓ガラス等に塗布して熱線吸収フィルムを形成させたりする等により、ビルや住宅、車両、アーケード、温室等に使用されている。
【0003】
このような近赤外線吸収性樹脂組成物は、通常では熱線吸収剤とバインダー樹脂とを含有させることにより調製され、熱線吸収剤としては、無機系微粒子や有機系色素が用いられている。しかしながら、無機系微粒子では、波長1000nm以下の近赤外線吸収性能が低く、省エネルギーの観点から温度上昇を充分に防止することができないという問題があった。また、有機系色素では、熱線吸収フィルム中で太陽光等により近赤外線吸収性能が次第に失われるために、熱線吸収フィルムの耐候性としては充分ではなく、近赤外線吸収性能を持続させるための研究の余地があった。
【0004】
特許文献1には、透明基材、紫外線遮蔽層及び熱線遮蔽物質を含む熱線遮蔽層を備えた積層体が開示されている。この積層体では、紫外線遮蔽層を熱線遮蔽層よりも光入射側に形成することにより熱線遮蔽層に含まれる熱線遮蔽物質が劣化することを抑制している。しかしながら、熱線遮蔽層自体を工夫することにより、熱線遮蔽物質の劣化を抑制してより簡便にかつ確実に熱線の遮蔽性能を持続させるための研究の余地があった。
【特許文献1】特開2000−177064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、近赤外線吸収性色素が劣化することが抑制されて優れた耐候性を発揮することができる近赤外線吸収性塗膜及び近赤外線吸収性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、780nm〜1200nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収性色素を含有する近赤外線吸収性塗膜であって、紫外線オートフェードメーターによる促進耐候性試験における光照射48時間後の近赤外線吸収能残存率が50%以上である近赤外線吸収性塗膜である。
【0007】
本発明者らは、近赤外線吸収性塗膜や熱線吸収フィルムを形成する近赤外線吸収性樹脂組成物について種々検討するうち、このような近赤外線吸収性塗膜中に含有される水が近赤外線吸収性色素を劣化させる原因の1つであることに着目し、近赤外線吸収性塗膜中の水の含有量を減少させると、近赤外線吸収性色素の劣化を抑制することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。この結果、近赤外線吸収性能を有する積層体を様々な用途に使用できるようになり、本発明に到達したものである。以下に、本発明を詳述する。
【0008】
本発明の近赤外線吸収性塗膜は、780nm〜1200nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収性色素を含有する塗膜である。このような近赤外線吸収性塗膜は、上記近赤外線吸収性色素とバインダー樹脂とを含んでなる近赤外線吸収性樹脂組成物により形成されることになる。上記近赤外線吸収性色素は、780〜1200nmに極大吸収波長を有する色素であり、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。近赤外線の吸収特性が異なる2種以上を併用した場合には、近赤外線の吸収効果が向上する場合がある。なお、近赤外線吸収性は、熱線吸収性と同等の意味で用いられる。また、上記バインダー樹脂は、重合体を必須とし、必要により有機溶剤や不飽和単量体を含有することにより構成され、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0009】
本発明では、近赤外線吸収性色素としては、有機溶剤への溶解性を有する色素、すなわち有機溶剤可溶性の近赤外線吸収性色素を用いることが好ましい。色素が有機溶剤に可溶であると、バインダー樹脂溶液中へ容易に溶解できるため、コーティング剤の作成が容易になる。一方色素が溶解性に乏しいとバインダー樹脂溶液への混合が難しくなるため、コーティング剤の作成も困難となる。有機溶剤に対する溶解度として、有機溶剤を100質量%とした溶解度が0.01質量%以上である近赤外線吸収性色素を用いることが好適である。有機溶剤可溶性における有機溶剤としては特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0010】
上記近赤外線吸収性色素の種類としては、例えば、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラキノン系色素、ナフトキノン系色素等が挙げられるが、これらの中でも、近赤外線吸収性能及び有機溶剤可溶性に優れることから、フタロシアニン系色素を用いることが好ましい。
【0011】
本明細書でいうフタロシアニン系とは、フタロシアニン、フタロシアニン錯体、或いはフタロシアニン及びフタロシアニン錯体であってフタロシアニン骨格のベンゼン環上にOR、SR、NHR、又はNRR′のうちの1種以上の置換基を1個以上有するものである。ここでR、R′は、同一若しくは異なって、置換基を有しても良いフェニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。なお置換基のうちの1個がNHRで置換されたフタロシアニンであることが好ましい。
【0012】
本発明においては、上記近赤外線吸収性色素が下記一般式(2);
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、αは、同一若しくは異なって、SR1 、OR2 、NHR3 又はハロゲン原子を表し、NHR3 を必須とする。R1 、R2 及びR3 は、同一若しくは異なって、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。βは、同一若しくは異なって、SR1 、OR2 又はハロゲン原子を表し、SR1 又はOR2 を必須とする。ただし、α及びβのうち少なくとも1つは、ハロゲン原子又はOR2 を必須とする。Mは、無金属、金属、金属酸化物又は金属ハロゲン化物を表す。)で表される化合物であることが好ましい。これにより本発明の作用効果をより充分に発揮させることができる。
【0015】
上記一般式(2)において、炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の直鎖又は分岐状のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基等が挙げられる。炭素数7〜20のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子であることが好ましい。
【0016】
上記R1 、R2 及びR3 におけるフェニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数7〜20のアラルキル基は、置換基を1個又は2個以上有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(2)中のMにおいて、無金属とは、金属以外の原子、例えば、2個の水素原子であることを意味する。具体的には、フタロシアニン構造の中央部分に存在する、置換基を有してもよい相対する2つの窒素原子に水素原子が結合している構造となる。金属としては、例えば、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、チタニル、バナジル等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫、塩化珪素等が挙げられる。Mとしては、金属、金属酸化物又は金属ハロゲン化物であることが好ましく、具体的には、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、鉄、バナジル、ジクロロ錫等が挙げられる。より好ましくは、亜鉛、コバルト、バナジル、ジクロロ錫である。
【0018】
上記一般式(2)で表される化合物の好ましい形態としては、8個のβのうち4〜8個が、同一若しくは異なって、SR1 又はOR2 を表すことである。より好ましくは、8個のβがすべて、同一若しくは異なって、SR1 又はOR2 を表すことである。このような近赤外線吸収性色素としては、例えば、ZnPc(PhS)8 (PhNH)35 、ZnPc(PhS)8 (PhNH)44 、ZnPc(PhS)8 (PhNH)53 、ZnPc(PhS)8 (PhCH2 NH)44 、ZnPc(PhS)8 (PhCH2 NH)53 、ZnPc(PhS)8 (PhCH2 NH)62 、CuPc(PhS)8 (PhNH)7 F、CuPc(PhS)8 (PhNH)62 、CuPc(PhS)8 (PhNH)53、VOPc(PhO)8 (PhCH2 NH)53 、VOPc(PhO)8 (PhCH2 NH)62 、VOPc(PhO)8 (PhCH2 NH)8 、VOPc(PhS)8 (PhCH2 NH)8 、VOPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 {Ph(CH3 )CHNH}3 F、VOPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 {Ph(CH2 NH)4 、CuPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4{Ph(CH2 NH)4 、CuPc(PhS)8 {2,6−(CH32 PhO}4 (PhCH2 NH)4 、VOPc(4−CNPhO)8 {2,6−Br2 −4−(CH3 )PhO}4 {Ph(CH3 )CHNH}4 、ZnPc(2,6−Cl2 PhO)8 {2,6−Br2 −4−(CH3 )PhO}4 {Ph(CH3)CHNH}3 Fの略称で表されるフタロシアニン化合物等が挙げられる。またこれらの化合物の中でも8個のαのうち4個が、同一若しくは異なってOR2 又はハロゲン原子を表す化合物で、例えば、ZnPc(PhS)8 (PhNH)35 、ZnPc(PhS)8 (PhNH)44 、ZnPc(PhS)8 (PhCH2 NH)44 、VOPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 {Ph(CH3 )CHNH}3 F、VOPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 {Ph(CH2 NH)4 、CuPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 {Ph(CH2NH)4 、CuPc(PhS)8 {2,6−(CH32 PhO}4 (PhCH2 NH)4 、VOPc(4−CNPhO)8 {2,6−Br2 −4−(CH3 )PhO}4 {Ph(CH3 )CHNH}4 、ZnPc(2,6−Cl2 PhO)8 {2,6−Br2 −4−(CH3 )PhO}4 {Ph(CH3 )CHNH}3Fの略称で一般的に表される化合物等が挙げられる。
【0019】
上記近赤外線吸収性色素の使用量としては、例えば、バインダー樹脂100重量部に対して、0.0005〜20重量部とすることが好ましい。0.0005重量部未満であると、近赤外線吸収性樹脂組成物から形成される近赤外線吸収性塗膜が充分な近赤外線吸収性能を発揮しないおそれがあり、20重量部を超えると、近赤外線吸収性塗膜の物性が低下するおそれがある。より好ましくは、0.0015〜10重量部であり、更に好ましくは、0.002〜7重量部である。また、近赤外線吸収性塗膜の厚さにより適宜設定することが好ましく、例えば、厚さ10μmでは、0.5〜20重量部とすることが好ましく、1.0〜10重量部とすることがより好ましい。厚さ3mmの近赤外線吸収性塗膜とする場合には、0.002〜0.06重量部とすることが好ましく、0.005〜0.03重量部とすることがより好ましい。厚さ10mmでは、0.0005〜0.02重量部とすることが好ましく、0.0010〜0.01重量部とすることがより好ましい。更に、近赤外線吸収性塗膜の単位面積あたりに含有される重量としては、例えば、0.01〜2.4g/m2 とすることが好ましい。0.01g/m2未満であると、近赤外線吸収性色素の作用が充分に発揮されないおそれがあり、2.4g/m2 を超えると、近赤外線吸収性塗膜の製造コストが高くなるおそれがある。より好ましくは、0.05〜1.0g/m2 である。
【0020】
本発明では、塗膜の吸水率が2質量%以下であることが好ましい。また、塗膜の吸水率が0質量%に近いほど好ましい。塗膜の吸水率が2質量%を超えると、近赤外線吸収性色素の劣化を充分に抑制することができるように、近赤外線吸収性塗膜中の水の含有量を減少させることができず、本発明の作用効果を発揮することができないおそれがある。より好ましくは、1質量%以下であり、更に好ましくは、0.8質量%以下である。塗膜の吸水率とは、バインダー樹脂の他に、近赤外線吸収性色素、必要により硬化剤、各種添加剤等を配合した近赤外線吸収性樹脂組成物により形成された塗膜(コーティング膜)が時間の経過と共に水を含有することにより増加する重量割合(質量%)を示す。塗膜の吸水率は、下記の測定方法により下記式を用いて算出される。
【0021】
塗膜の吸水率の測定方法
厚さ1mmのコーティング膜約3cm×3cmを30mPa以下の減圧条件下、80℃で12時間乾燥後、重量(W0 )を測定し、これを初期値とする。次いで、水に浸漬し、室温(25℃)で20日間保存した後、取り出して重量(W1 )を測定する。下記式を用いて塗膜の吸水率を算出する。
塗膜の吸水率(質量%)={(W1 −W0 )/W0 }×100
【0022】
なお、本発明では、塗膜の吸水率の測定には、例えば、調製した近赤外線吸収性樹脂組成物をガラスの基材に乾燥膜厚が1mmとなるようにコーティング後、下記に示す条件で乾燥し、基材より剥離して作製した塗膜を用いることにより、塗膜の吸水率を一定の条件で測定することが可能である。また、本発明では、硬化剤に関しては、樹脂と硬化剤を架橋させて硬化塗膜とする場合と、硬化剤なしで乾燥塗膜とする場合の2通りの実施形態があるが、硬化剤を架橋させて硬化塗膜とする場合には、下記に示すような硬化剤を配合して近赤外線吸収性樹脂組成物を調製し、下記の条件で塗膜を作製して吸水率の測定に供することにより塗膜の吸水率を一定の条件下で測定することが可能となる。吸水率測定用の塗膜(コーティング膜)作製条件を以下に具体的に示す。
(1)硬化剤なし(ラッカー)
乾燥条件:80℃で3分後、50℃で7日
(2)硬化剤:イソシアネート化合物硬化剤の種類:住友バイエルウレタン社製、「スミジュールN3200」(商品名)
硬化剤配合量:硬化剤のイソシアネート基/バインダー樹脂の水酸基=1/1(モル比)硬化条件:80℃で3分後、50℃で7日
(3)硬化剤:アミノプラスト樹脂硬化剤の種類:三井サイテック社製、「サイメル325」(商品名)
硬化触媒:三井サイテック社製、「キャタリスト296−9」(商品名)
硬化剤配合量:バインダー樹脂/硬化剤/硬化触媒=80/19/1(固形分重量比)
硬化条件:110℃で30分
【0023】
本発明ではまた、上記バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)が−80〜160℃であることが好ましい。これにより、バインダー樹脂自体の耐候性が向上することになり、近赤外線吸収性塗膜中の水の含有量を抑制することと相まって、近赤外線吸収性塗膜の近赤外線吸収性能が持続すると共に、近赤外線吸収性塗膜自体の耐候性や物性がより向上することとなる。好ましくは、−50〜130℃であり、より好ましくは、20〜110℃であり、更に好ましくは、40〜100℃である。
【0024】
上記バインダー樹脂の種類としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、アルキド系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂や、(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、アルキルポリシロキサン系樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンアルキド樹脂、シリコーンウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、シリコーンアクリル樹脂等の変性シリコーン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィンビニルエーテルポリマー等のフッ素系樹脂等が挙げられ、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等の硬化性樹脂でもよい。また、エチレン−プロピレン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の合成ゴム又は天然ゴム等の有機系バインダー樹脂;シリカゾル、アルカリ珪酸塩、シリコンアルコキシドやそれらの(加水分解)縮合物、リン酸塩等の無機系結着剤等の従来公知のバインダー樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、比較的低温で乾燥して近赤外線吸収性塗膜を形成することができ、しかも、バインダー樹脂自体の耐候性に優れる点で、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンアルキド樹脂、シリコーンウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、シリコーンアクリル樹脂等の変性シリコーン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィンビニルエーテルポリマー等のフッ素系樹脂であることが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂である。なお、アクリル系樹脂とメタクリル系樹脂をアクリル系樹脂ともいう。
【0025】
上記(メタ)アクリル系樹脂のなかでも本発明では、上記バインダー樹脂が、下記一般式(1);
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、R4 は、水素原子又はメチル基を表す。Zは、炭素数4〜25の炭化水素基を表す。)で表される単量体を必須とする単量体成分を重合してなる重合体をバインダー樹脂として用いると好ましい。一般式(1)で表される単量体は1種用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これにより、近赤外線吸収性色素の耐久性が向上することに加えてバインダー樹脂自体の耐候性も優れたものとなるため、近赤外線吸収性塗膜の耐候性をより向上させることができる。この場合には、上記近赤外線吸収性塗膜が上記一般式(1)で表される単量体を含有する単量体成分を重合してなる重合体を含む近赤外線吸収性樹脂組成物から形成されてなることになる。
【0028】
上記一般式(1)中、Zで表される炭素数4〜25の炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロドデシル基等の脂環式炭化水素基;ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等の直鎖又は分枝鎖のアルキル基;ボルニル基、イソボルニル基等の多環式炭化水素基等が挙げられる。これらの中でも、脂環式炭化水素基、分枝鎖のアルキル基、炭素数6以上の直鎖アルキル基であることが好ましい。更に好ましくは炭素数6以上の脂環式炭化水素基である。
【0029】
上記一般式(1)で表される単量体としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
上記一般式(1)で表される単量体の使用量としては、例えば、すべての単量体成分を100質量%とすると、30質量%以上とすることが好ましい。30質量%未満であると、バインダー樹脂自体の耐候性が充分に向上しないおそれがある。より好ましくは、40質量%以上であり、更に好ましくは、60質量%以上であり、最も好ましくは、80質量%以上である。上記単量体成分に用いることができるその他の共重合可能な不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、下記の単量体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有する不飽和単量体;2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル系不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製、商品名「プラクセルFM」)等の活性水素をもつ基を有する不飽和単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する不飽和単量体。
【0032】
(メタ)アクリルアミド、N,N′−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート等の窒素原子を有する不飽和単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の2個以上の重合性二重結合を有する不飽和単量体;塩化ビニル等のハロゲン原子を有する不飽和単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族不飽和単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルエーテル。
【0033】
本発明はまた、780nm〜1200nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収性色素と上記一般式(1)で表される単量体を30質量%以上含有する単量体成分を重合してなる重合体を含んでなる近赤外線吸収性樹脂組成物でもある。このような近赤外線吸収性樹脂組成物は、本発明の近赤外線吸収性塗膜を形成する樹脂組成物として好適に用いられることになる。
【0034】
本発明においては、近赤外線吸収性塗膜の耐候性向上のために、バインダー樹脂に共重合させる不飽和単量体として、重合性紫外線吸収性単量体、重合性紫外線安定単量体を使用することができる。特に本発明の近赤外線吸収性塗膜に更に紫外線遮断能が必要な場合は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等の紫外線吸収性基を有する不飽和単量体を使用すればよい。具体的には「RUVA93」(商品名、大塚化学社製)、「BP−1A」(商品名、大阪有機化学社製)等が挙げられ、これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。またバインダー樹脂の更なる耐候性向上が必要な場合には、立体障害ピペリジン基を有する紫外線安定性基を有する不飽和単量体を使用すればよい。具体的には「アデカスタブLA−82」、「アデカスタブLA−87」(いずれも商品名、旭電化工業社製)等が挙げられ、これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0035】
上記バインダー樹脂を製造するための重合方法としては、例えば、重合開始剤を用いて、溶液重合、分散重合、懸濁重合、乳化重合等の従来公知の重合方法により行うことができる。溶液重合を行う場合の溶媒としては特に限定されず、例えば、上述したような有機溶剤を1種又は2種以上用いることができる。溶媒の使用量としては、重合条件やバインダー樹脂中の重合体の重量割合等により適宜設定すればよい。
【0036】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、2,2′−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の通常のラジカル重合開始剤が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。使用量としては、所望する重合体の特性値等から適宜設定すればよいが、例えば、単量体成分を100質量%とすると、0.01〜50質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜20質量%である。
【0037】
上記重合方法における重合条件としては、重合方法により適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、重合温度としては、室温〜200℃とすることが好ましい。より好ましくは、40〜140℃である。反応時間としては、単量体成分の組成や重合開始剤の種類等に応じて、重合反応が完結するように適宜設定すればよい。
【0038】
上記バインダー樹脂を構成する重合体の数平均分子量としては、例えば、1000〜100000であることが好ましい。より好ましくは、2000〜80000であり、更に好ましくは、4000〜60000である。なお、重量平均分子量は、ポリスチレン標準GPCでの測定値である。
【0039】
上記バインダー樹脂の使用量としては、例えば、近赤外線吸収性樹脂組成物100質量%とすると、50〜99.9995質量%とすることが好ましい。50質量%未満であると、近赤外線吸収性樹脂組成物から形成される近赤外線吸収性塗膜の物性が充分でなくなるおそれがあり、99.9995質量%を超えると、近赤外線吸収性色素の重量割合が少なくなるため、近赤外線吸収性塗膜の近赤外線吸収性能が充分でなくなるおそれがある。より好ましくは、60〜99.9985質量%であり、更に好ましくは、70〜99.998質量%である。
【0040】
本発明の近赤外線吸収性塗膜は、更に、脱水剤を含んでなることが好ましい。これにより、近赤外線吸収性塗膜中の水の含有量をバインダー樹脂と共に効果的に抑制することができる。脱水剤としては、無機化合物あるいは有機化合物において種々のものがあるが、本発明に用いる場合には、塗膜形成時に揮発し形成後には残存しない方が、塗膜の性能低下がない点で好ましい。このような点で、比較的揮発しやすい有機系の脱水剤を用いるのがよい。このような脱水剤の例として、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、メチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルシリケート、エチルシリケート等の加水分解性エステル化合物が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。このような脱水剤の化学構造の好ましい形態は、例えば、下記一般式(3);
【0041】
【化3】

【0042】
(式中、R5 、R6 、R7 及びR8 は、同一若しくは異なって、炭素数1〜8の有機基を表し、好ましくは、炭素数1〜3の有機基である。)で表される。また、脱水剤の使用量としては、例えば、バインダー樹脂100重量部に対して、1〜20重量部とすることが好ましい。1重量部未満であると、脱水剤の作用効果を充分に発揮することができないおそれがあり、20重量部を超えると、近赤外線吸収性塗膜の物性が低下するおそれがある。より好ましくは、2〜10重量部であり、更に好ましくは、3〜7重量部である。
【0043】
本発明の近赤外線吸収性塗膜は、架橋、未架橋のいずれでも使用可能であるが、色素の耐久性向上の点で架橋塗膜が好ましく、例えばそれ自体が単独で架橋したり架橋剤を配合して硬化塗膜を形成した方が好ましい。本発明の近赤外線吸収性塗膜を形成することになる近赤外線吸収性樹脂組成物は、それが用いられる用途や架橋剤の種類によって様々な硬化条件で硬化させることができるものであり、常温硬化型、加熱硬化型、紫外線又は電子線硬化型等として用いることができる。また、架橋剤の使用量や、添加及び分散方法等は特に限定されず、例えば、バインダー樹脂が1分子内に水酸基を複数有するポリオールにより構成される場合では、ポリオールに通常用いられる使用量や、添加及び分散方法とすればよい。
【0044】
上記架橋剤としては、バインダー樹脂がポリオールにより構成される場合では、例えば、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミノプラスト樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記(ブロック)ポリイソシアネート化合物とは、ポリイソシアネート化合物及び/又はブロックポリイソシアネート化合物を意味する。上記ポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を分子内に少なくとも2つ有する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネート;これらのポリイソシアネートのアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体等のポリイソシアネートの誘導体(変性物)等が挙げられる。
【0046】
上記ブロックポリイソシアネート化合物とは、近赤外線吸収性樹脂組成物を加熱乾燥するときに架橋させ、かつ、常温での貯蔵安定性を向上させるために、通常、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック化剤でブロックしたものである。上記ブロック化剤としては特に限定されず、例えば、ε−カプロラクタム、フェノール、クレゾール、オキシム、アルコール等の化合物等が挙げられる。上記(ブロック)ポリイソシアネート化合物の市販品としては、例えば、スミジュールN3200、スミジュールN3300、スミジュールBL3175、デスモジュールN3400、デスモジュールN3600、デスモジュールVPLS2102(商品名、住友バイエルウレタン社製)、デュラネートE−402−90T(商品名、旭化成工業社製)等が挙げられる。また、近赤外線吸収性樹脂組成物から形成される近赤外線吸収性塗膜の黄変を防止するために、芳香環に直接結合したイソシアネート基を有しない無黄変性ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0047】
上記(ブロック)ポリイソシアネート化合物の使用量としては特に限定されないが、例えば、バインダー樹脂中の水酸基1モルに対して、(ブロック)ポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基が0.6〜1.4モルとなるようにすることが好ましい。0.6モル未満であると、近赤外線吸収性樹脂組成物中に末反応の水酸基が多く残存するので、得られる近赤外線吸収性樹脂組成物を用いて形成される近赤外線吸収性塗膜の耐候性が低下することがある。1.4モルを超えると、未反応のイソシアネート基が近赤外線吸収性塗膜中に多く残存し、これが塗膜硬化時に空気中の水分と反応して、塗膜が発泡や白化を起こすことがある。より好ましくは、0.8〜1.2モルである。
【0048】
上記アミノプラスト樹脂は、メラミンやグアナミン等のアミノ基を有する化合物とホルムアルデヒドとの付加縮合物であり、アミノ樹脂とも呼ばれているものである。上記アミノプラスト樹脂としては特に限定されず、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、完全アルキル型メチル化メラミン、完全アルキル型ブチル化メラミン、完全アルキル型イソブチル化メラミン、完全アルキル型混合エーテル化メラミン、メチロール基型メチル化メラミン、イミノ基型メチル化メラミン、メチロール基型混合エーテル化メラミン、イミノ基型混合エーテル化メラミン等のメラミン樹脂;ブチル化ベンゾグアナミン、メチル/エチル混合アルキル化ベンゾグアナミン、メチル/ブチル混合アルキル化ベンゾグアナミン、ブチル化グリコールウリル等のグアナミン樹脂等が挙げられる。
【0049】
上記アミノプラスト樹脂の市販品としては、例えば、サイメル1128、サイメル303、マイコート506、サイメル232、サイメル235、サイメル771、サイメル325、サイメル272、サイメル254、サイメル1170(いずれも商品名、三井サイテック社製)等が挙げられる。
【0050】
上記アミノプラスト樹脂の使用量としては特に限定されず、例えば、バインダー樹脂とアミノプラスト樹脂との固形分重量比が9/1〜6/4となるように配合することが好ましい。バインダー樹脂が6/4より少なくなると、得られる近赤外線吸収性塗膜が硬くなりすぎ、塗膜の性能が低下するおそれがある。バインダー樹脂が9/1より多くなると、架橋が充分に進まないので、得られる近赤外線吸収性塗膜が、耐水性や耐溶剤性に劣るものとなるおそれがある。
【0051】
上記近赤外線吸収性樹脂組成物は、必要に応じて、バインダー樹脂と、架橋剤との架橋反応を促進させるための硬化触媒を1種又は2種以上含んでもよい。このような硬化触媒としては特に限定されるものではないが、例えば、上記(ブロック)ポリイソシアネート化合物を用いる場合には、ジブチル錫ジラウレート、第3級アミン等の触媒を使用することが好ましく、上記アミノプラスト樹脂を使用する場合には、酸性又は塩基性の硬化触媒を使用することが好ましい。
【0052】
本発明の近赤外線吸収性塗膜を形成することになる近赤外線吸収性樹脂組成物には、上述した以外の配合物として、例えば、溶剤や添加剤等を1種又は2種以上含んでいてもよい。このような溶剤としては、上述したのと同様の有機溶剤等が挙げられ、また、添加剤としては、フィルムやコーティング膜等を形成する樹脂組成物に一般に使用される従来公知の添加剤等を用いることができ、例えば、レベリング剤;コロイド状シリカ、アルミナゾル等の無機微粒子、消泡剤、タレ性防止剤、シランカップリング剤、チタン白、複合酸化物顔料、カーボンブラック、有機顔料、顔料中間体等の顔料;顔料分散剤;抗酸化剤;粘性改質剤;紫外線安定剤;金属不活性化剤;過酸化物分解剤;充填剤;補強剤;可塑剤;潤滑剤;防食剤;防錆剤;蛍光性増白剤;有機及び無機系紫外線吸収剤、無機系熱線吸収剤;有機・無機防炎剤;静電防止剤等が挙げられる。
【0053】
本発明の近赤外線吸収性塗膜の使用形態としては、例えば、近赤外線吸収性樹脂組成物から形成される近赤外線吸収性塗膜を近赤外線吸収層として、透明基材上に設けた積層体や2枚の透明基材で挟んだ積層体等が挙げられる。上記透明基材としては特に限定されず、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の有機系基材;ガラス等の無機系基材が挙げられる。また上記、透明基材は着色されていてもよいし、各種意匠が印刷されていてもよい。
【0054】
上記近赤外線吸収層の形成方法としては、例えば、(1)近赤外線吸収性樹脂組成物を透明基板上に塗布し、その後に塗布した近赤外線吸収性樹脂組成物を硬化させて近赤外線吸収層を形成する方法、(2)近赤外線吸収性樹脂組成物を成形してフィルム化し、透明基材に貼りつけることにより積層体とする方法等が挙げられ、(1)の方法が簡便であることから好ましい。
【0055】
上記近赤外線吸収層の形成方法において、近赤外線吸収性樹脂組成物を透明基材上に塗布する方法としては、例えば、浸漬、吹き付け、刷毛塗り、カーテンフローコート、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、ブレードコート、バーコート、リバースコート、ダイコート、スプレーコート、静電塗装等の方法が挙げられる。これらの場合には、近赤外線吸収性樹脂組成物に上述した有機溶剤を適宜混合させて塗布することができる。また、近赤外線吸収性樹脂組成物を硬化させる方法としては、バインダー樹脂の種類等により適宜設定すればよく、例えば、加熱する方法、紫外線や電子線を照射する方法等が挙げられる。
【0056】
上記近赤外線吸収層の厚さとしては、使用用途等により適宜設定すればよく特に限定されるものではない。例えば、乾燥時の厚さを0.5〜1000μmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、1〜100μmである。更に好ましくは1〜50μm、特に好ましくは、1〜20μmである。
【0057】
上記積層体においては、近赤外線吸収層の光入射側に、紫外線吸収層を設けることが好ましい。これにより、太陽光による近赤外線吸収性色素の劣化をより効果的に抑制することができる。このような積層体の積層構造としては特に限定されず、例えば、(1)光入射側から紫外線吸収層、近赤外線吸収層、基材の順に積層された形態、(2)光入射側から紫外線吸収層、基材、近赤外線吸収層の順に積層された形態、等が挙げられる。また、耐擦り傷性及び耐汚染性を向上させるために、積層体表面にシリコン系や有機系のハードコート層、光触媒機能層等の表面保護層を更に設けてもよく、必要により基材と積層体との間や積層体の各層間にプライマー層を設けてもよい。このような紫外線吸収層や表面保護層、プライマー層の組成や厚さとしては、特に限定されるものではない。
【0058】
本発明の近赤外線吸収性塗膜はまた、近赤外線吸収性能の劣化が少ないことを特長としており、塗膜が持つ物性として、促進耐候性試験後の近赤外線吸収性色素の近赤外線吸収性能の低下が少ない、すなわち吸収能残存率が高いことが挙げられ、紫外線オートフェードメーターによる促進耐候性試験における光照射63℃、48時間後の近赤外線吸収能残存率が50%以上である。具体的には、近赤外線吸収性樹脂組成物を用いて形成された塗膜を用いて紫外線フェードメーターによる促進耐候性試験を行い、次の評価方法により求められる吸収能残存率が、50%以上である。好ましくは、60%以上であり、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。なお、近赤外線吸収性能残存率の実際の測定は、ガラス、PETフィルム等の近赤外線領域に吸収をもたない基材にコーティングした塗膜で行うことになる。
【0059】
近赤外線吸収能残存率の評価方法
基材上に、近赤外線吸収性塗膜を形成し、得られた積層体の近赤外領域における極大吸収波長での光の透過率を、分光光度計により測定する(Ti 初期値)。また基材の当該波長での透過率を測定する(T0 )。この積層体を用い、紫外線オートフェードメーター(スガ試験機社製、商品名「FAL−AU−B」)による照射試験を63℃で48時間、連続照射を行い、促進耐候性試験とし、試験後の近赤外領域における極大吸収波長での透過率を測定する(T)。これらの測定値から、吸収能残存率R(%)を次式により求める。
R(%)=(T0 −T)/(T0 −Ti
【0060】
本発明の近赤外線吸収性塗膜や、該近赤外線吸収性塗膜を近赤外線吸収性層として含む積層体は、透明性を高くすることが好ましく、例えば、ヘーズ(曇価)を3.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、2.0%以下であり、更に好ましくは、1.0%以下である。このような近赤外線吸収性塗膜や積層体は、ビルや住宅の窓用、電車や自動車等の車両の窓用、アーケード、温室等に好適に用いることができる他、プラズマディスプレイにおける赤外線リモコン誤作動防止用、太陽電池パネルの保護用や、サングラス、一般眼鏡、保護眼鏡、コンタクトレンズ等にも用いることができる。また上記の物品や構造体の所望の部分に(例えば窓等のガラス面に)、近赤外線吸収性樹脂組成物を塗布して使用することもできる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の近赤外線吸収性塗膜は、上述の構成よりなるので、近赤外線吸収性色素が劣化することが抑制されて優れた耐候性を発揮することができる積層体を形成して、ビルや住宅の窓用、電車や自動車等の車両の窓用、アーケード、温室等に好適に用いることができる他、プラズマディスプレイにおける赤外線リモコン誤作動防止用、太陽電池パネルの保護用や、サングラス、一般眼鏡、保護眼鏡、コンタクトレンズ等にも用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
合成例1
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた500ミリリットルのフラスコにトルエン84gを加えて105℃に加熱した。これにメタクリル酸シクロヘキシル69g、アクリル酸2−エチルヘキシル16.5g、メタクリル酸0.5g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル14g、開始剤として2,2′−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)2gを3時間かけて連続滴下し、更に2時間加熱した。その後、トルエン18gを加えてアクリル樹脂の50%溶液を得た。なお、このアクリル樹脂を構成する重合体の数平均分子量は、5800であった。アクリル樹脂の合成に用いた単量体成分の組成及び得られたアクリル樹脂の特性値を表1に示す。
【0064】
合成例2、4及び5
アクリル樹脂の合成に用いる単量体成分の組成を表1に示すようにした以外は、合成例1と同様の方法でアクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂の特性値を表1に示す。
【0065】
合成例3
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた500ミリリットルのフラスコにトルエン84gを加えて115℃に加熱した。これにメタクリル酸シクロヘキシル81g、アクリル酸2−エチルヘキシル18.5g、メタクリル酸0.5g、開始剤として、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1gを3時間かけて連続滴下し、更に2時間加熱させ、その後トルエン18gを加えてアクリル樹脂の50%溶液を得た。なお、このアクリル樹脂を構成する重合体の数平均分子量は17000であった。アクリル樹脂の合成に用いた単量体成分の組成及び得られたアクリル樹脂の特性値を表1に示す。
【0066】
合成例6
アクリル樹脂の合成に用いる単量体成分の組成を表1に示すようにした以外は、合成例3と同様の方法でアクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂の特性値を表1に示す。
【0067】
合成例7
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた500ミリリットルのフラスコにメチルエチルケトン100g、2− [2′−ヒドロキシ−5′−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル] −2H−ベンゾイトリアゾール(商品名「RUVA93」、大塚化学社製)18g、メタクリル酸シクロヘキシル34g、スチレン3g、メタクリル酸2−エチルヘキシル3g、アクリル酸ブチル2g、開始剤(2,2′−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル))0.2gを仕込み、窒素ガスを導入し攪拌しながら還流温度に加熱した。これにメチルエチルケトン80g、2− [2′−ヒドロキシ−5′−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル] −2H−ベンゾトリアゾール(商品名「RUVA93」、大塚化学社製)18g、メタクリル酸シクロヘキシル34g、スチレン3g、メタクリル酸2−エチルヘキシル3g、アクリル酸ブチル2g、開始剤0.2gの混合物を2時間かけて滴下し、更に2時間加熱して、アクリル樹脂の50%溶液を得た。なお、このアクリル樹脂を構成する重合体の数平均分子量は20000であった。
【0068】
合成例8
単量体成分を表1に示すようにした以外は、合成例3と同様の方法でアクリル樹脂を得た。得られた樹脂の特性値を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1について、以下に説明する。
1)CHMAは、メタクリル酸シクロヘキシルであり、2)2−EHAは、アクリル酸2−エチルヘキシルであり、3)MMAは、メタクリル酸メチルであり、4)EAは、アクリル酸エチルであり、5)MAAは、メタクリル酸であり、6)HEMAは、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルであり、7)開始剤1は、2,2′−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)であり、8)開始剤2は、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートである。
【0071】
実施例1
バインダー樹脂として合成例1のアクリル樹脂10部、色素1を0.23部、トルエン4.3部、硬化剤として住友バイエルウレタン社製、スミジュールN3200(商品名)を1部を混合し、近赤外線吸収性樹脂組成物を調製した。これを基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーT60」、50μm)に塗工し80℃で乾燥させて膜厚5μmの近赤外線吸収層を形成した。また、紫外線吸収層として合成例7のアクリル樹脂10部、メチルエチルケトン3部、スミジュールN3200を0.3部を混合し、上記近赤外線吸収層の上に塗工し80℃で乾燥させて膜厚5μmの紫外線吸収層を形成した。以上の方法で作製した試料を50℃で7日間保管後、促進耐候性試験を実施した。また、試験試料のヘーズ(曇価)の測定を行った。
【0072】
実施例2〜7、9
表2に示した原材料の構成で、実施例1と同様の方法で試験試料の作製、促進耐候性試験を実施した。すなわち、実施例2では、バインダー樹脂に合成例2で得られたアクリル樹脂を用いた、実施例3では、バインダー樹脂に合成例3で得られたアクリル樹脂を用い、スミジュールN3200を配合せず、実施例4では、近赤外線吸収色素に色素2を0.16部用い、実施例5では、近赤外線吸収色素に色素3を0.13部用い、実施例6では、合成例1のアクリル樹脂10部に対して脱水剤としてオルトギ酸トリメチル(OFM)を0.5部添加し、1日後に使用したこと以外は実施例1と同様の方法で試験試料の作製を行い、促進耐候性試験を実施した。また、実施例7では、紫外線吸収層を設けなかったこと以外は実施例1と同様の方法で試験試料の作製を行い、促進耐候性試験を実施した。実施例9ではバインダー樹脂に合成例8で得られたアクリル樹脂を用い、スミジュールN3200を配合せず、また紫外線吸収層を設けなかったこと以外は実施例1と同様の方法で試験試料の作製を行い、促進耐候性試験を実施した。また、試験試料のヘーズ(曇価)の測定を行った。
【0073】
実施例8
実施例1と同様にしてPETフィルム上に近赤外線吸収層を形成した。更に実施例1と同じ条件で近赤外線吸収層とは反対側のPETフィルム上に紫外線吸収層を形成した。この試料を50℃で7日間保管後、促進耐候性試験を実施した。また試験試料のヘーズ(曇価)の測定を行った。
【0074】
比較例1〜3
表2に示した原材料の構成で、実施例1と同様の方法で試験材料の作製、促進耐候性試験を実施した。すなわち、比較例1では、バインダー樹脂に合成例4を用い、比較例2では、バインダー樹脂に合成例5を用い、比較例3では、バインダー樹脂に合成例6を用いスミジュールN3200を配合しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で試験試料の作製を行い、促進耐候性試験を実施した。
【0075】
評価方法
塗膜の吸水率の測定
実施例1で調製した近赤外線吸収性樹脂組成物を乾燥膜厚が1mmとなる様にコーティング後80℃で3分間乾燥し、基材より剥離し、3cm×3cmの近赤外線吸収性塗膜を作製した。これを50℃で7日間保存後、減圧条件(約20mPa)下で80℃に加熱し、12時間乾燥後、重量を測定した(W0 とする)。この膜を水に浸漬し、室温で20日間保存した後、取り出して重量を測定した(W1 とする)。これらの測定値より、次式に従って吸水率を測定した。
塗膜の吸水率(質量%)={(W1 −W0 )/W0 }×100実施例2〜8、比較例1〜3についても同様に測定を行った。結果を表2に示した。実施例3、9及び比較例3は硬化剤(スミジュールN3200)を用いないものである。
【0076】
色素の耐候性
実施例1〜9及び比較例1〜3の方法で作製した試験試料の極大吸収波長での光の透過率を、分光光度計により測定した(Ti 初期値)。また基材フィルムの当該波長での透過率を測定した(T0 )。この試験試料を用い、紫外線オートフェードメーター(スガ試験機社製、商品名「FAL−AU−B」)による連続照射試験を63℃で48時間行い、促進耐候性試験とし、試験後の極大吸収波長での透過率を測定した(T)。なお、照射試験において、実施例7以外は紫外線吸収層側から、また、実施例7は近赤外線吸収層側から光(紫外線)照射を行った。これらの測定値から、近赤外線吸収能残存率R(%)を次式により求めた。結果を表2に示した。
R(%)=(T0 −T)/(T0 −Ti
【0077】
【表2】

【0078】
表2について、以下に説明する。色素1は、VOPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 {Ph(CH3 )CHNH}3 Fであり、色素2は、VOPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 (PhCH2 NH)4 であり、色素3は、:CuPc(2,5−Cl2 PhO)8 {2,6−(CH32 PhO}4 (PhCH2 NH)4 であり、脱水剤のOFMは、は、オルトギ酸トリメチルである。
【0079】
ヘーズ(曇価)の測定
実施例1〜9の方法で作製した試験試料のヘーズの測定を、JIS K7105に従い、日本電色社製のヘーズメーターを用いて行った。結果を表3に示した。
【0080】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
780nm〜1200nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収性色素を含有する近赤外線吸収性塗膜であって、
紫外線オートフェードメーターによる促進耐候性試験における光照射48時間後の近赤外線吸収能残存率が50%以上であり、
該近赤外線吸収性塗膜は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、R4 は、水素原子又はメチル基を表す。Zは、炭素数6〜25の脂環式炭化水素基を表す。)で表される単量体を含有する単量体成分を重合してなる重合体を含む近赤外線吸収性樹脂組成物から形成されてなり、
該近赤外線吸収性色素は、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラキノン系色素及びナフトキノン系色素からなる群より選択される少なくとも1種の色素であることを特徴とする近赤外線吸収性塗膜。
【請求項2】
前記近赤外線吸収性塗膜は、下記一般式(1);
【化2】

(式中、R4 は、水素原子又はメチル基を表す。Zは、炭素数6〜25の炭化水素基を表す。)で表される単量体を30質量%以上含有する単量体成分を重合してなる重合体を含む近赤外線吸収性樹脂組成物から形成されてなることを特徴とする請求項1記載の近赤外線吸収性塗膜。
【請求項3】
前記近赤外線吸収性色素は、フタロシアニン系色素であることを特徴とする請求項1又は2記載の近赤外線吸収性塗膜。
【請求項4】
780nm〜1200nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収性色素と下記一般式(1);
【化3】

(式中、R4 は、水素原子又はメチル基を表す。Zは、炭素数6〜25の炭化水素基を表す。)で表される単量体を含有する単量体成分を重合してなる重合体とを含んでなり、
該近赤外線吸収性色素は、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラキノン系色素及びナフトキノン系色素からなる群より選択される少なくとも1種の色素であることを特徴とする近赤外線吸収性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−169658(P2007−169658A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27193(P2007−27193)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【分割の表示】特願2001−51078(P2001−51078)の分割
【原出願日】平成13年2月26日(2001.2.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】