説明

近赤外線吸収性粘着剤組成物及び近赤外線吸収性粘着シート

【課題】近赤外線遮蔽性が高く、ガラス等の部材に対して良好な接着性を示すだけでなく、耐久性に優れ、高温や高温高湿の環境下で長時間使用しても、凝集破壊や界面破壊することなく、被着体から容易に剥離することが可能な近赤外線吸収性粘着剤組成物及び近赤外線吸収性粘着シートを提供すること。
【解決手段】本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物は、樹脂と、近赤外線吸収色素と、イオン性液体とを含有し、前記イオン性液体の含有量が0.00005〜0.2質量%の範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線を吸収する粘着剤組成物に関するものであり、詳細には、耐熱性及び耐湿熱性に優れた近赤外線吸収性粘着剤組成物、及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型テレビ等の種々の電子機器の表示パネルとして、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する場合がある。)の需要が増大している。PDPは、2枚のガラス板の間に封入したキセノンとネオンとを含む混合ガスに、高電圧がかけられることで紫外線が発生し、この紫外線がガラス板に塗布された蛍光体に当たることで発光する。しかしながら、この紫外線と同時に発生する波長800〜1000nmの領域を含む近赤外線は、マイクやリモコン等の赤外線を利用したワイヤレス機器の誤作動を引き起こす原因となる。そこで、PDPの前面に、近赤外線吸収シートを設けることで、近赤外線の透過率を低減させることが行われている。
【0003】
近赤外線吸収シートとしては、近赤外線吸収色素が練り込まれた樹脂シートや、透明基材シート上に近赤外線吸収色素を含有するバインダー樹脂が塗工されたシートが一般的に用いられている。しかしながら、これらの近赤外線吸収シートでは、PDPのガラス面等に貼付させるために粘着剤層を別途、形成する必要があり、生産効率を考慮すると好ましいとはいえない。このような生産効率の問題を解消する試みとして、近赤外線吸収色素を粘着剤層に含有させたものが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、例えば、代表的な近赤外線吸収色素であるジインモニウムを粘着剤層に含有させた近赤外線吸収シートは、長時間湿熱環境下にさらされると、近赤外線遮蔽機能が低下したり、ヘイズが上昇したりし、耐久性の点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−207142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、近赤外線吸収シート等の光学シートをPDPのガラス面等に貼合する工場と、光学シートを貼合したPDPを用いて製品を組み立てる工場とが異なる場所(地域、国)に存在することも珍しくない。そのため、PDPのガラス面等への貼合から長時間経過後に、貼合位置の誤りや異物の混入等の不具合を発見することがある。しかしながら、貼合から長時間経過した光学シートは剥離が困難であるため、高価な部材を廃棄しなければならない場合がある。また、長時間使用した製品を廃棄する際に、分別処理を目的として、光学シートをPDPのガラス面等から剥離させることもある。そのため、近赤外線吸収色素を粘着剤層に含有させた近赤外線吸収シートは、高い耐久性と、長時間使用後の再剥離性が求められる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、近赤外線遮蔽性が高く、色度、明度、ヘイズ等の光学特性に優れ、被着体であるガラス等の部材に対して良好な接着性を示すだけでなく、耐久性に優れ、高温や高温高湿の環境下で長時間使用しても、凝集破壊や界面破壊することなく、被着体から容易に剥離することが可能な近赤外線吸収性粘着剤組成物及び近赤外線吸収性粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上のような課題を解決するために鋭意研究を重ね、近赤外線吸収色素を、バインダー樹脂と、ある特定量のイオン性液体とともに含有させた近赤外線吸収性粘着剤組成物によれば、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 樹脂と、近赤外線吸収色素と、イオン性液体とを含有し、上記イオン性液体の含有量が0.00005〜0.2質量%の範囲内であることを特徴とする近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【0010】
(2) 上記樹脂のガラス転移温度が−60〜15℃の範囲内である(1)に記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【0011】
(3) 上記イオン性液体の含有量が0.00005〜0.05質量%の範囲内である(1)又は(2)に記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【0012】
(4) 上記近赤外線吸収色素として少なくともジインモニウム塩化合物を含有する(1)〜(3)いずれかに記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【0013】
(5) 上記樹脂は、アクリル系樹脂である(1)〜(4)いずれかに記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【0014】
(6) 上記(1)〜(5)いずれかに記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を少なくとも有する近赤外線吸収性粘着シート。
【0015】
(7) プラズマディスプレイパネル用光学シートとして用いられる(6)に記載の近赤外線吸収性粘着シート。
【0016】
(8) 上記(6)又は(7)に記載の近赤外線吸収性粘着シートが、プラズマディスプレイパネルの画像表示ガラス板前面に配置されているプラズマディスプレイ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物によれば、近赤外線遮蔽性が高く、色度、明度、ヘイズ等の光学特性に優れ、且つ被着体であるガラス等の部材に対して良好な接着性を示す近赤外線吸収性粘着シートを形成することができる。また、本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物によれば、耐久性に優れ、高温や高温高湿の環境下で長時間使用しても、色度、明度、ヘイズ等の光学特性や近赤外線遮蔽性の低下が生じ難く、被着体から剥離する必要が生じた場合には、凝集破壊や界面破壊することなく、容易に剥離可能な近赤外線吸収性粘着シートを形成することができる。更に、近赤外線吸収能を有する色素を粘着剤層中に配合しているので、従来の近赤外線吸収層を備える近赤外線吸収シートに比べて積層数が少なくなるため、生産効率も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
[近赤外線吸収性粘着剤組成物]
本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物(以下、粘着剤組成物とする。)は、樹脂と、近赤外線吸収色素と、イオン性液体とを含有し、上記イオン性液体の含有量が0.00005〜0.2質量%の範囲内であることを特徴とする。本発明の粘着剤組成物は、近赤外線吸収色素を、バインダーとなる樹脂及び0.00005〜0.2質量%のイオン性液体とともに含有させることで、耐久性に優れ、高温や高温高湿の環境下で長時間使用しても、色度、明度、ヘイズ等の光学特性や近赤外線遮蔽性の低下が生じ難く、被着体から剥離する必要が生じた場合には、凝集破壊や界面破壊することなく、容易に剥離可能な近赤外線吸収性粘着シートを形成することができる点に意義がある。
【0020】
<樹脂>
本発明の粘着剤組成物において、バインダーとなる樹脂は、透明性を有していれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、樹脂のガラス転移温度(Tg)が−60〜15℃の範囲内である、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がより好ましい。これらの樹脂は、透明性、耐久性等に優れ、光学部材用途として好ましい特性を有するだけでなく、接着性(粘着性)が良好であり、また、コストパフォーマンスも良いからである。ガラス転移温度の測定方法としては、例えば、示差走査熱量計を用いて測定する方法や、動的粘弾性測定により損失正接(tanδ)の極大値を示す温度を求める方法もあるが、本発明におけるガラス転移温度は、下記Foxの式により求められる計算ガラス転移温度を意味する。
【0021】
1/(Tg+273)=Σ[Wi/(Tgi+273)]
Tg(℃):計算ガラス転移温度
Wi:樹脂を構成する各単量体の質量分率
Tgi(℃):樹脂を構成する各単量体成分の単独重合体のガラス転移温度
【0022】
バインダー樹脂としてアクリル系樹脂を含有する場合、アクリル系樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステルと他の単量体とを共重合させたアクリル酸エステル共重合体を好適に用いることができる。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸2−ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、上記アクリル酸エステルの中でも、特に、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸2−ヒドロキシルエチルが好ましい。透明性、耐久性、塗工適性、コストパフォーマンス等がより優れるからである。
【0023】
他の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−tert−ブチルアミノエチル、メタクリル酸n−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、上記他の単量体の中でも、メタクリル酸シクロヘキシルが好ましい。
【0024】
アクリル酸エステルと他の単量体との共重合比(質量比)は、特に限定されないが、接着性の観点から、95/5〜5/95の範囲内であることが好ましい。なお、上記共重合比は、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。
【0025】
アクリル系樹脂がアクリル酸エステル共重合体の場合、該アクリル酸エステル共重合体の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、耐久性と接着性とを勘案し、適宜選択するとよい。一般に、耐久性を求める場合には、質量平均分子量の高い樹脂を選択し、接着性を求める場合には、質量平均分子量の低い樹脂を選択する。本発明の粘着剤組成物では、10万〜180万の範囲内であることが好ましく、20万〜150万の範囲内であることがより好ましい。なお、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際の、ポリスチレン換算の値である。
【0026】
<近赤外線吸収色素>
本発明の粘着剤組成物では、近赤外線吸収色素は、少なくとも近赤外線領域に極大吸収を有し、且つ、上記樹脂に配合可能なものであれば、特に限定されず、任意の化合物から選択することができる。好ましくは、ジインモニウム塩系化合物、ポリメチン系化合物、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ジチオール系化合物、アミニウム系化合物、ピリリウム系化合物、セリリウム系化合物、スクワリリウム系化合物、銅錯体類、ニッケル錯体類、ジチオール系金属錯体類等の有機系近赤外線吸収色素である。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることにより、近赤外線の遮蔽域の調整が可能である。これらの中でも、可視域の光透過率が高く、且つ、近赤外線の遮蔽域が広いジインモニウム塩系化合物がより好ましい。
【0027】
ジインモニウム塩系化合物は、近赤外線吸収色素として広く一般に使用されている。しかしながら、ジインモニウム塩系化合物を近赤外線吸収色素として使用した近赤外線吸収シートでは、ジインモニウム塩系化合物を含有する層と、ガラス面とが接すると、近赤外線遮蔽性が低下することが知られている。また、近赤外線吸収色素を含有するバインダー樹脂のガラス転移温度が環境温度よりも低いと、近赤外線遮蔽性が低下することも知られている。本発明の粘着剤組成物によれば、近赤外線吸収色素としてジインモニウム塩系化合物を選択し、上記のような環境下で使用した場合であっても、近赤外線遮蔽性が低下し難い近赤外線吸収シートを形成することができる。
【0028】
本発明の粘着剤組成物では、ジインモニウム塩系化合物の中でも、ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’,−テトラキス−{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジインモニウム等のヘキサフルオロリン酸イオン(PF6−)を対イオンとする芳香族ジインモニウム塩化合物が好ましい。
【0029】
本発明の粘着剤組成物では、上記近赤外線吸収色素の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.1〜20.0質量部であることが好ましく、0.1〜10.0質量部であることがより好ましい。上記範囲内であれば、十分な近赤外線吸収能を発揮することができ、また、十分な量の可視光を透過させることもできる。
【0030】
<イオン性液体>
本発明の粘着剤組成物は、イオン性液体を含有し、その含有量は0.00005〜0.2質量%の範囲内であり、0.00005〜0.05質量%であることが好ましく、0.0001〜0.05質量%であることがより好ましい。上記量のイオン性液体を、上記樹脂及び上記近赤外線吸収色素とともに含有させることで、高温や高温高湿の環境下で長時間使用しても、色度、明度、ヘイズ等の光学特性や近赤外線遮蔽性の低下が生じ難い耐久性と、被着体から剥離する必要が生じた場合には、凝集破壊や界面破壊することなく、人の手や機械によって容易に剥離可能な程度の易剥離性とを、近赤外線吸収性粘着シートに付与することができる。特に、イオン性液体の含有量が0.00005〜0.05質量%の場合には、高温や高温高湿の環境下での長時間の使用によるヘイズの上昇が顕著に抑制されるので、光量を上げなくても映像を明瞭に表示することが可能な近赤外線吸収性粘着シートを形成することができ、消費電力の低減が可能となる。
【0031】
具体的には、イオン性液体の含有量が0.00005〜0.2質量%である本発明の粘着剤組成物によれば、該粘着剤組成物からなる粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、80℃で1000時間放置したり、60℃、95%RHで1000時間放置したりしても、近赤外線吸収性粘着シートのヘイズを2.5未満とすることができ、また、イオン性液体の含有量が0.00005〜0.05質量%である本発明の粘着剤組成物によれば、ヘイズを2.0未満とすることができる。なお、ここでいうヘイズは、後述の実施例にて記載の耐熱性試験及び耐湿熱性試験を行い、測定装置に濁度計(製品名:NDH−200,日本電飾工業社製)を用い、JIS K7136に準拠した方法にて測定した値である。
【0032】
本発明の粘着剤組成物では、イオン性液体を構成するアニオン及びカチオンの種類は、特に限定されないが、イオン性液体を構成するアニオンは、上記近赤外線吸収色素の対イオンと同一であることが好ましく、例えば、近赤外線吸収色素としてヘキサフルオロリン酸イオン(PF6−)を対イオンとする芳香族ジインモニウム塩化合物を選択した場合には、ヘキサフルオロリン酸イオンをアニオンとするイオン性液体を選択することが好ましい。イオン性液体を構成するアニオンと、上記近赤外線吸収色素の対イオンとが同一であると、より高い耐久性効果が得られるからである。これは、イオン性液体を構成するアニオンが、近赤外線吸収色素を含有する層に含まれる成分や該層と接する層に含まれる成分に由来するイオンと、近赤外線吸収色素の対イオンとのイオン交換を妨げることで、近赤外線吸収色素の構造が変化を防止し、近赤外線吸収能の低下が抑制されるためと考えられる。
【0033】
本発明の粘着剤組成物では、イオン性液体を構成するアニオン種としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、ビス(フルオロスルホニル)イミド酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。また、カチオン種としては、例えば、ピロリジニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム等が挙げられる。
【0034】
<その他の成分>
本発明の粘着剤組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、樹脂や近赤外線吸収色素を良好に溶解又は分散させるための各種分散剤を配合してもよい。また、粘着剤層を形成した場合に、該粘着剤層の経時劣化を防止するための安定剤や紫外線吸収剤を配合してもよい。更に、色補正色素、ネオン光吸収色素等を配合してもよく、これらの機能を有する物質を粘着剤組成物に配合することは、複数の機能層を別途、設ける必要がなくなり、シートの総厚み、製造工程数、原価を低減することができるので好ましい。
【0035】
[近赤外線吸収性粘着シート]
本発明の近赤外線吸収性粘着シート(以下、粘着シートとする。)は、上記した本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を少なくとも有することを特徴とする。本発明の粘着シートによれば、近赤外線吸収能を有する色素を粘着剤層中に配合しているので、従来の近赤外線吸収層を備える近赤外線吸収シートに比べて積層数が少なくなるため、生産効率が良好である。本発明の粘着シートは、例えば、基材/粘着剤層/剥離フィルムのように基材上に粘着剤層が形成されている構成であってもよいし、剥離フィルム/粘着剤層/剥離フィルムのように基材レス型の両面粘着テープの構成であってもよい。以下、基材、剥離フィルム、及び粘着シートについて順に説明する。
【0036】
<基材>
本発明の粘着シートが基材を備える場合には、該基材は、透明であることを要する。ここで、透明とは、必ずしも無色透明である必要はなく、着色された透明であってもよいが、光透過性は高いほどよい。好ましくは、全光線透過率が80%以上であり、より好ましくは、85%以上である。なお、光透過率は、市販の分光光度計、例えば、島津製作所社製のUV−3100PCを用いて測定することができる。
【0037】
基材は、上記のような光透過性、必要な強度、及び柔軟性を有していれば、特に限定されず、適宜選択することができる。一般的には、合成樹脂フィルムが用いられる。合成樹脂フィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、単層であってもよいし、2層以上の積層体であってもよい。機械的強度の観点から、1軸延伸や2軸延伸した延伸フィルムが好ましい。なお、本発明では、上記合成樹脂の中でも、透明性、耐熱性、耐湿熱性、寸法安定性、剛性、柔軟性、積層適性、価格等の観点から、ポリエステル系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0038】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等が挙げられるが、この中でも、取り扱いが容易で、低価格であるという観点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0039】
基材の厚みは、特に限定されず、用途に応じて、適宜選択することができる。通常、12〜250μm程度であるが、好ましくは25〜250μmである。上記範囲であれば、機械的強度が十分であり、反り、弛み、破断等を生じ難く、且つ、作業性が良好である。また、連続帯状で供給して加工することも可能である。なお、上記の厚さを超えると、過剰性能でコスト高になる場合がある。
【0040】
基材の形成方法は、特に限定されず、例えば、溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法等の従来公知の製膜方法を用いることができる。また、上記方法によりあらかじめフィルム状に製膜された市販の基材を使用してもよい。
【0041】
なお、基材には、粘着剤との濡れ性を向上させるために、その片面又は両面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理等の公知の易接着処理を施してもよい。
【0042】
<剥離フィルム>
本発明の粘着シートでは、上記近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層の一方又は両方の面に剥離フィルムを備えていてもよい。本発明の粘着シートでは、剥離フィルムは、剥離性を有する剥離部材からなり、粘着剤層の表面を保護する機能を有し、使用に際して剥離除去されるものである。剥離部材は、必要な強度や柔軟性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルムに、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。なお、剥離フィルムの厚みは、特に限定されないが、好ましくは25〜100μmである。
【0043】
<粘着シート>
本発明の粘着シートは、耐熱性及び耐湿熱性が高く、粘着剤層と、ガラス板とを貼合させ、高温や高温高湿の環境下に置いた場合であっても、色度、明度、ヘイズ等の変化が少ないので、光学シートとして好適である。具体的には、後述する実施例に記載の方法にしたがい、本発明の粘着シートの粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、80℃で1000時間放置する耐熱性試験を行った場合における、色度変化(Δx,Δy)を0.002以下に抑制することができる。また、本発明の粘着シートの粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、60℃、95%RHで1000時間放置する耐湿熱性試験を行った場合における、色度変化(Δx,Δy)も0.002以下に抑制することができる。
【0044】
なお、上記色度変化(Δx,Δy)は、次式により算出する。
色度変化(Δx)=|xint−xend
色度変化(Δy)=|yint−yend
【0045】
ここで、xint及びyintは、耐熱性試験前又は耐湿熱性試験前の透過光の色度を表し、xend及びyendは、耐熱性試験後又は耐湿熱性試験後の透過光の色度を表す。色度(x,y)は、市販の分光色彩計、例えば、日本電色工業社製のSD 5000を用い、JIS Z8722に準拠した方法で測定することができる。
【0046】
また、本発明の粘着シートによれば、後述する実施例に記載の方法にしたがい、粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、80℃で1000時間放置する耐熱性試験を行った場合における、明度変化(ΔY)を1.0以下に抑制することができる。また、粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、60℃、95%RHで1000時間放置する耐湿熱性試験を行った場合における、明度変化(ΔY)を1.0以下に抑制することができる。
【0047】
なお、上記明度変化(ΔY)は、次式により算出する。
明度変化(ΔY)=|Yint−Yend
【0048】
ここで、Yintは、耐熱性試験前又は耐湿熱性試験前の明度を表し、Yendは、耐熱性試験後又は耐湿熱性試験後の明度を表す。明度(Y)は、市販の分光色彩計、例えば、日本電色工業社製のSD 5000を用い、JIS Z8722に準拠した方法で測定することができる。
【0049】
本発明の粘着シートは、近赤外線遮蔽性が高く、その効果は、高温や高温高湿の環境下に長期間さらされても低下し難い。具体的には、後述する実施例に記載の方法にしたがい、粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、80℃で1000時間放置する耐熱性試験を行った場合における、波長域850〜900nmの光透過率変化(ΔT)の平均値を5%以下に抑制することができる。また、粘着剤層と、ガラス板とを貼り合わせ、60℃、95%RHで1000時間放置する耐湿熱性試験を行った場合における、波長域850〜900nmの光透過率変化(ΔT)の平均値を5%以下に抑制することができる。
【0050】
なお、上記光透過率変化(ΔT)は、次式により算出する。
光透過率変化(ΔT)=|Tint(W)−Tend(W)
【0051】
ここで、Tint(W)は、耐熱性試験前又は耐湿熱性試験前の波長(W)での光透過率を表し、Tend(W)は、耐熱性試験後又は耐湿熱性試験後の波長(W)での光透過率を表す。光透過率(T)は、市販の分光光度計、例えば、島津製作所社製のUV−3100PCを用い、JIS Z8701に準拠した方法で測定することができる。
【0052】
本発明の粘着シートによれば、表面が平滑なガラス板に貼合し、80℃で1000時間放置したり、60℃、95%RHで1000時間放置したりした場合の剥離強度を3〜20N/25mmの範囲内にすることができる。剥離強度が上記範囲内であれば、例えば、PDPのガラス面と、粘着剤層面との間で自然剥離したり、気泡が入ったりするおそれが生じない。また、例えば、PDPのガラス面に貼合してから長時間経過した後に、位置ずれ等の不具合を発見した場合であっても、凝集破壊や界面破壊を生じさせることなく、人の手又は機械により容易に剥離することができる。
【0053】
上記剥離強度は、以下のように測定することができる。粘着シートの粘着剤層の面と、表面が平滑なガラス板面とを貼り合わせ、80℃で1000時間、又は60℃、95%RHで1000時間放置する。その後、引張り試験機を用いて、JIS Z0237に準拠した方法(剥離角度:180°,引張速度:300mm/分,剥離距離:150mm)で測定する。なお、表面が平滑なガラス板としては、例えば、フロートガラス、液晶やPDPで使用するガラスが挙げられる。具体的には、プラズマディスプレイメーカー各社が共通に使用しているPDP用の前面ガラス板である、旭硝子社製の高歪点ガラス板(商品名:PD−200,厚み:2.8mm)が挙げられる。
【0054】
[粘着シートの製造方法]
上記した本発明の近赤外線吸収性粘着剤組成物を使用した粘着シートの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。ここでは、上記基材上に、上記近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層が形成されている構成の粘着シートである場合について説明する。まず、上記樹脂と、上記近赤外線吸収色素と、上記イオン性液体と、必要に応じて各種添加剤とを混合し、必要に応じて有機溶剤で希釈することにより、粘着剤層形成用塗工液を調製する。そして、上記基材上に、上記塗工液をアプリケータ等により全面塗工し、粘着剤層を形成する。その後、乾燥し、溶媒を揮発させて、上記剥離フィルムをラミネートすることにより、本発明の粘着シートを形成することができる。
【0055】
希釈に使用する有機溶剤としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロパノール、メチルセロソロブ、テトラヒドロフラン等が挙げられる。上記基材上に、上記粘着剤層形成用塗工液を塗工する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。印刷による形成方法としては、例えば、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法等が挙げられる。コーティングによる方法としては、例えば、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート等が挙げられる。
【0056】
粘着剤層の厚みは、特に限定されず、通常、5〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。上記範囲であれば、ガラス面に対して高い密着性を示す粘着シートを形成することができる。
【0057】
本発明の近赤外線吸収性粘着シートの厚みは、特に限定されるものではないが、42〜500μmであることが好ましく、55〜450μmであることがより好ましい。上記範囲であれば、適度な柔軟性を有するので、取り扱いが容易となる。
【0058】
本発明の近赤外線吸収性粘着シートは、例えば、光学用、農業用、建築用、車両用、画像記録用等のシートや窓材等として用いることができるが、特に、PDP用光学シートとして好適に用いることができる。一般に、光学シートとして用いるためには、耐熱性、耐湿熱性が高いことが好ましい。本発明の近赤外線吸収性粘着シートは、上記したように高温や高温高湿の環境下に長時間設置した場合であっても、色度、明度、ヘイズ等の変化が少ないので、光学シートとして好適である。また、本発明の近赤外線吸収性粘着シートは、PDPのガラス面に、粘着剤に起因する糊残りを生じさせることなく、容易に剥離することができるので、剥離後のPDP等の部材を廃棄することなく再利用が可能となる。そして、貼付対象を最終的に廃棄する場合には、近赤外線吸収性粘着シートを剥離することで、分別処理することも可能となる。
【0059】
本発明のプラズマディスプレイは、上記近赤外線吸収性粘着シートがPDPの画像表示ガラス板前面に配置されていることを特徴とする。上記近赤外線吸収性粘着シートをPDPの画像表示ガラス板前面に配置することで、ディスプレイから放射される近赤外線が遮蔽されるので、近赤外線を利用したリモコンやマイク等のワイヤレス機器の誤作動を防止することができる。そして、上記近赤外線吸収性粘着シートは、優れた耐熱性及び耐湿熱性を有するので、長期間配置してもディスプレイから発せられる色調や近赤外線遮蔽効果の低下が少ない。上記近赤外線吸収性粘着シートをPDPの画像表示ガラス板前面に配置する方法としては、特に限定されるものではなく、通常、圧着方式により貼付する。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0061】
<製造例1>
モノマーとして、360.6gの2−エチルヘキシルアクリレートと、60gのブチルアクリレートと、156gのシクロヘキシルメタクリレートと、18gのアクリル酸と、5.4gの2−ヒドロキシエチルアクリレートとを、十分に混合して重合性モノマーの混合物を得た。該重合性モノマー混合物300gと、酢酸エチル160gとを、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器、及び滴下ロートを備えたフラスコに入れ、また、上記滴下ロートに、上記重合性モノマー混合物300gと、酢酸エチル16gと、ナイパーBMT−K40(重合開始剤、日本油脂社製)0.15gとを入れ、十分に混合し、滴下用混合物とした。
【0062】
窒素ガスを20ml/分で流しながら、フラスコの内温を95℃まで上昇させ、該フラスコ内に、重合開始剤であるナイパーBMT−K40を0.15g投入し、重合反応を開始させた。重合開始剤の投入から30分後に、滴下ロートから上記滴下用混合物の滴下を開始した。上記滴下用混合物を、90分かけて均等に滴下した。上記滴下用混合物の滴下終了後、粘度の上昇に応じて酢酸エチルで適宜、希釈を行いながら還流温度を維持しながら6時間熟成させた。
【0063】
反応終了後、不揮発分が約45%になるように酢酸エチルで反応液を希釈し、計算ガラス転移温度(Tg)が−38.5℃、計算溶解性パラメータが9.08である粘着性樹脂を得た。該粘着性樹脂の質量平均分子量(Mw)は43万であり、酸価は23.4であった。なお、計算ガラス転移温度はFoxの式により算出し、計算溶解性パラメータは「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」(1974年,Vol.14,No.2,p.147−p.154)に記載の方法により算出した。
【0064】
<製造例2>
100質量部のDMFに、10質量部のN,N,N’,N’,−テトラキス−(p−アミノフェニル)−p−フェニレンジアミンと、63質量部のシクロヘキシルメチルヨーダイドと、30質量部の炭酸カリウムとを加え、120℃で10時間反応させた。次いで、該反応により得られた反応液を、500質量部の水に加え、生じた沈殿を濾過し、500質量部のメチルアルコールで洗浄後、100℃にて乾燥し、24.1質量部のN,N,N’,N’,−テトラキス−{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンを得た。
【0065】
24.1質量部の上記N,N,N’,N’,−テトラキス−{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジアミンに、200質量部のDMFと、7.9質量部のヘキサフルオロリン酸銀を加え、60℃で3時間反応させ、生成した銀を濾別した。次いで、得られた濾液に200質量部の水を加え、生成した沈殿を濾過し、乾燥し、27.0質量部のヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’,−テトラキス−{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジインモニウム(以下、ジインモニウム塩と称する。)を得た。なお、酢酸エチル中におけるジインモニウム塩の溶解度は、0.01質量%以下であった。
【0066】
0.5質量部の上記ジインモニウム塩と、9.5質量部の酢酸エチルと、70質量部のジルコニアビーズ(粒径:0.3mm)とを50mlのガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで2時間振とうした後、ジルコニアビーズを濾別し、色素濃度を2質量%に調整して、液状の分散体を得た。
【0067】
なお、上記ジインモニウム塩の濃度が100mg/Lとなるように、上記分散体を酢酸エチルで希釈した。該希釈液の極大吸収波長(λmax)は、1093nmであった。また、該λmaxにおけるモル吸光係数は、75300mol−1・L・cm−1であった。
【0068】
<実施例1>
製造例1にて得た粘着性樹脂と、製造例2にて得たジインモニウム塩の分散体とを、固形分質量比で100/1.5となるように混合し、固形分が30.8質量%となるように酢酸エチルで希釈して、近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂を得た。
【0069】
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に、1.6質量部の架橋剤(商品名:E−5XM,固形分:5%,綜研化学社製)と、0.0462質量部のネオンカット色素(商品名:PD320,固形分:100%,山本化成社製)と、1.848質量部の紫外線吸収剤(商品名:TINUVIN 477,固形分:80%,BASF社製)と、0.031質量部の樹脂着色用染料A(商品名:Kayaset Green A−B,固形分:100%,日本化薬社製)と、0.0077質量部の樹脂着色用染料B(商品名:Kayaset Red 130,固形分:100%,日本化薬社製)と、0.00015質量部のイオン性液体(商品名:BMI−PF6,固形分:100%,日本合成化学社製)と、50質量部の酢酸エチルとを加え、十分に混合して、近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.00047質量%)を得た。そして、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を、剥離フィルム(商品名:セラピール BX9(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)の面上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケータを用いて全面塗工し、粘着剤層を形成した。オーブンにて希釈溶剤を揮発させ後、塗工面に剥離フィルム(商品名:セラピール MFA(RX),膜厚:38μm,東レフィルム加工社製)をラミネートした。次いで、40℃のオーブンにて3日間エージング処理し、実施例1の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0070】
<実施例2>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.0015質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.0047質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて実施例2の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0071】
<実施例3>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.00308質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.00948質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて実施例3の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0072】
<実施例4>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.015質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.047質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて実施例4の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0073】
<実施例5>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.0308質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.0948質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて実施例5の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0074】
<実施例6>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.0539質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.165質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて実施例6の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0075】
<比較例1>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂にイオン性液体を加えなかった以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例1の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0076】
<比較例2>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.077質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.237質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例2の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0077】
<比較例3>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.1155質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.354質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例3の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0078】
<比較例4>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.154質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.472質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例4の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0079】
<比較例5>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.231質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.707質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例5の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0080】
<比較例6>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.308質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.940質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例6の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0081】
<比較例7>
100質量部の上記近赤外線吸収色素を含有する粘着性樹脂に加えたイオン性液体の量が0.000015質量部である以外は、実施例1と同様の組成の近赤外線吸収性粘着剤組成物(イオン性液体の含有量:0.000047質量%)を得た後、該近赤外線吸収性粘着剤組成物を用い、実施例1と同様の方法にて比較例7の近赤外線吸収性粘着シートを得た。
【0082】
[耐久性試験]
<耐熱性試験>
上記実施例1〜6、比較例1〜7の近赤外線吸収性粘着シートの剥離フィルム(商品名:セラピール MFA(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)を剥がし、基材(PETフィルム,商品名:コスモシャインA4100,膜厚:50μm,全光線透過率:92%,東洋紡社製)に貼り合わせた後、25mm×70mmに切断し、試験片とした。次いで、この試験片の剥離フィルム(商品名:セラピール BX9(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)を剥がし、ガラス板(商品名:PD−200,厚さ:2.8mm,旭硝子社製)に2kgのローラーを用いて貼合し、温度80℃の雰囲気下にて1000時間放置した。
【0083】
<耐湿熱性試験>
上記実施例1〜6、比較例1〜7の近赤外線吸収性粘着シートの剥離フィルム(商品名:セラピール MFA(RX),膜厚:38μm,東レフィルム加工社製)を剥がし、基材(PETフィルム,商品名:コスモシャインA4100,膜厚:50μm,全光線透過率:92%,東洋紡社製)に貼り合わせた後、25mm×70mmに切断し、試験片とした。次いで、この試験片の剥離フィルム(商品名:セラピール BX9(RX),膜厚:38μm、東レフィルム加工社製)を剥がし、ガラス板(商品名:PD−200,厚さ:2.8mm,旭硝子社製)に2kgのローラーを用いて貼合し、温度60℃、湿度95%の雰囲気下にて1000時間放置した。
【0084】
[評価]
<近赤外線遮蔽性>
上記耐熱性試験及び耐湿熱性試験に供した近赤外線吸収性粘着シートの、850〜900nmにおける試験前及び試験後の光透過率(T)を測定した。測定は、装置に分光光度計(製品名:UV−3100PC,島津製作所社製)を用い、JIS Z8701に準拠した方法にて行った。そして、試験前後の光透過率(T)の測定値から、光透過率変化(ΔT)を求めた。850〜900nmにおける試験前の光透過率(T)の平均値と、試験前後の光透過率変化(ΔT)の平均値とを表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示すように、イオン性液体の有無にかかわらず、いずれの近赤外線吸収性粘着シート(実施例1〜6,比較例1〜7)も850〜900nmの近赤外線領域の光を良好に遮蔽した。しかしながら、イオン性液体を含有しない近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シート(比較例1)は、高温の環境下にて長期間使用すると近赤外線遮蔽性が著しく低下した。また、イオン性液体の含有量が0.000047質量%の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シート(比較例7)についても、高温の環境下にて長期間使用すると近赤外線遮蔽性が大きく低下した。これに対して、実施例1〜6及び比較例2〜6の近赤外線吸収性粘着シートでは、高温の環境下での長時間の使用による近赤外線遮蔽性の低下の抑制が認められた。このことから、近赤外線吸収性粘着シートに耐熱性を付与するためには、イオン性液体を含有させることが有効ではあるが、その含有量は0.000047質量%では足りないものと考えられた。
【0087】
<色度>
上記耐熱性試験及び耐湿熱性試験に供した近赤外線吸収性粘着シートの、試験前及び試験後における色度(x,y)を測定した。測定は、装置に分光色彩計(製品名:SD 5000,日本電色工業社製)を用い、JIS Z8722に準拠した方法(光源:C光源,光の進入角:2°,照明及び受光条件:透過,測定面積:28mmφ)にて行った。そして、試験前後の色度(x,y)の測定値から、色度変化(Δx,Δy)を求めた。試験前の色度と、試験前後の色度変化(Δx,Δy)とを表2に示す。
【0088】
<明度>
上記耐熱性試験及び耐湿熱性試験に供した近赤外線吸収性粘着シートの、試験前及び試験後における明度(Y)を測定した。測定は、装置に分光色彩計(製品名:SD 5000,日本電色工業社製)を用い、JIS Z8722に準拠した方法(光源:C光源,光の進入角:2°,照明及び受光条件:透過,測定面積:28mmφ)にて行った。そして、試験前後の明度(Y)の測定値から、明度変化(ΔY)を求めた。試験前の明度と、試験前後の色度変化(ΔY)とを表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2に示すように、実施例1〜6の近赤外線吸収性粘着シートは、耐熱性試験及び耐湿熱性試験の前後における色度及び明度の変化が小さく、高温や高温高湿の環境下にて長期間使用しても色度及び明度の変化が生じ難いことが明らかとなった。
【0091】
<ヘイズ>
上記耐熱性試験及び耐湿熱性試験に供した近赤外線吸収性粘着シートの、試験前及び試験後におけるヘイズを測定した。測定は、装置に濁度計(製品名:ヘイズメーター NDH2000,日本電飾工業社製)を用い、JIS K7136に準拠した方法にて行った。なお、ヘイズの評価基準は以下の通りとした。◎:ヘイズが2.0未満、○:ヘイズが2.0以上且つ2.5未満、×:ヘイズが2.5以上。試験前及び試験後のヘイズと、評価結果とを表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表3に示すように、実施例1〜6の近赤外線吸収性粘着シートは、ヘイズが低く、高温環境下で長期間放置してもその値は上昇しなかった。特に、実施例1〜4の近赤外線吸収性粘着シートでは、高温高湿環境下で長期間放置した場合であっても、ヘイズの上昇が小さかった。
イオン性液体を含まない近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シート(比較例1)と、イオン性液体を含み、且つその含有量が0.237質量%以上の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シート(比較例2〜6)は、イオン性液体を含み、且つその含有量が0.237質量%未満の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シート(実施例1〜6,比較例7)と比較して、試験前のヘイズが高く、高温環境下で長期間使用すると、その値はかなり高いものとなった。
【0094】
<剥離性>
上記耐熱性試験及び耐湿熱性試験に供した近赤外線吸収性粘着シートの、試験後の剥離強度を測定した。測定は、装置に引張り試験機(製品名:RTF−1150H,A&D社製)を用い、JIS Z0237に準拠した方法(剥離角度:180°,引張速度:300mm/分,剥離距離:150mm)にて行った。試験前の剥離強度と、試験後の剥離強度及び剥離部位とを表4に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
表4に示すように、実施例1〜6の近赤外線吸収性粘着シートは、高温や高温高湿の環境下に長期間放置しても、自然剥離する程度に粘着力が低下したり、人の手や機械によって剥離不可能な程度に粘着力が上昇したり、また、剥離の際に凝集破壊や界面破壊を生じないことが明らかとなった。これに対して、イオン性液体の含有量が0.237質量%以上の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する近赤外線吸収性粘着シート(比較例2〜6)は、高温や高温高湿の環境下に長期間放置すると、剥離の際に凝集破壊や界面破壊を生じ、ガラスから良好に剥離することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、近赤外線吸収色素と、イオン性液体とを含有し、
前記イオン性液体の含有量が0.00005〜0.2質量%の範囲内であることを特徴とする近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記樹脂のガラス転移温度が−60〜15℃の範囲内である請求項1に記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【請求項3】
前記イオン性液体の含有量が0.00005〜0.05質量%の範囲内である請求項1又は2に記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【請求項4】
前記近赤外線吸収色素として少なくともジインモニウム塩化合物を含有する請求項1〜3いずれかに記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【請求項5】
前記樹脂は、アクリル系樹脂である請求項1〜4いずれかに記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の近赤外線吸収性粘着剤組成物からなる粘着剤層を少なくとも有する近赤外線吸収性粘着シート。
【請求項7】
プラズマディスプレイパネル用光学シートとして用いられる請求項6に記載の近赤外線吸収性粘着シート。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の近赤外線吸収性粘着シートが、プラズマディスプレイパネルの画像表示ガラス板前面に配置されているプラズマディスプレイ。

【公開番号】特開2012−197365(P2012−197365A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62639(P2011−62639)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】