説明

近赤外線吸収粘着剤組成物

【課題】可視領域での透明性と高い近赤外線吸収能とを有しうる近赤外線吸収粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、(A)アセトン溶液における最大吸収波長が1060nmを超えて1200nm以下であるジイモニウム色素及び(B)計算ガラス転移温度が−20℃以下である樹脂を含有する。好ましくは、前記ジイモニウム色素は、特定のジイモニウムカチオンと、特定のイミドアニオンとからなる。好ましくは、前記樹脂(B)の酸価が25以下とされる。好ましくは、前記樹脂(B)の計算溶解性パラメータが9.80以下とされる。この近赤外線吸収粘着剤組成物は、薄型ディスプレー用光学フィルター、光半導体素子用光学フィルター、薄型ディスプレー等に好適に用いられうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収粘着剤組成物、該近赤外線吸収粘着剤組成物を含有する近赤外線吸収材、該近赤外線吸収粘着剤組成物または近赤外線吸収材を用いてなる薄型ディスプレー用光学フィルターなどに関する。特に、本発明は、可視領域の透明性と赤外線吸収能に優れた近赤外線吸収粘着剤組成物、該近赤外線吸収粘着剤組成物を含有する近赤外線吸収材、該近赤外線吸収粘着剤組成物または近赤外線吸収材を用いてなる光半導体素子用光学フィルター、該近赤外線吸収粘着剤組成物または近赤外線吸収材を用いてなる薄型ディスプレー用光学フィルターなどに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型で大画面に適用できる液晶ディスプレーやPDP(Plasma Display Panel)等の薄型ディスプレーが注目されている。薄型ディスプレーは波長が800nm〜1100nmの近赤外線を発生させる。この近赤外線が家電用リモコンの誤作動を誘発することが問題となっている。また、CCDカメラ等に使用される光半導体素子も近赤外線領域の感度が高いため、近赤外線の除去が必要である。そこで、近赤外線の吸収能が高く、可視領域の透明性が高い近赤外線吸収材料が求められている。
【0003】
近赤外線を吸収する近赤外線吸収色素としては、従来、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素または無機酸化物粒子が使用されている。中でもジイモニウム系色素は近赤外線の吸収能が高く、可視光領域での透明性が高いことから多用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、PDPは、パネル内部に封入された希ガス、特にネオンを主体としたガス中で放電を発生させ、その際に発生する真空紫外線により、パネル内部のセルに設けられたR、G、Bの蛍光体を発光させる。よって、この発光過程でPDPの作動に不必要な電磁波も同時に放出される。この電磁波も遮蔽されることが必要である。また、反射光を抑えるために反射防止フィルム、ぎらつき防止フィルム(アンチグレアフィルム)も必要である。このため、プラズマディスプレー用光学フィルターは、近赤外線吸収フィルム、電磁波遮蔽フィルム及び反射防止フィルムを、支持体であるガラスや衝撃吸収材の上に積層して作製されることが一般的である。このようなプラズマディスプレー用光学フィルターは、PDPの前面側に載置される。このようなプラズマディスプレー用光学フィルターは、接着剤や粘着剤を用いて、支持体であるガラスや衝撃吸収材の上に直接貼合わされて使用される場合もある。
【0005】
近年、光学フィルターの薄層化や、光学フィルターの製造工程の簡略化を目的として、粘着剤に近赤外線吸収色素を含有させて近赤外線吸収フィルムと粘着剤層とを一体化させる試みがなされている(特許文献3)。
【0006】
また、特開2005−325292号公報にはジイモニウムカチオンのアルキル基にハロゲン原子を導入することにより耐久性を向上させたジイモニウム色素が開示されている(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−96040号公報
【特許文献2】特開2000−80071号公報
【特許文献3】特許第3621322号公報
【特許文献4】特開2005−325292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
少量で高い近赤外線吸収能が得られるジイモニウム系色素は、透明性やコスト等において大きなメリットがある。このようなジイモニウム系色素を、粘着剤樹脂と共に用いることができれば、更に有用である。粘着剤樹脂のようなガラス転移点(Tg)の低い樹脂中において、少量で高い近赤外線吸収能が得られ、且つ実用に供されうる耐久性を有しうるジイモニウム系色素含有粘着剤は未だ得られていない。
【0009】
そこで、本発明は、可視領域の透明性及び近赤外線吸収能に優れた近赤外線吸収材を作製するのに有用な、近赤外線吸収粘着剤組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該組成物を使用した近赤外線吸収材、光半導体素子用光学フィルター、薄型ディスプレー用光学フィルター、および薄型ディスプレーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ジイモニウム色素と樹脂の組み合わせについて鋭意検討を行なった。その結果、特定の最大吸収波長を有するジイモニウム色素と特定の計算ガラス転移温度を有する樹脂とを組み合わせることにより、実用に供されうるような耐久性を有しつつ、近赤外線吸収能に優れた近赤外線吸収粘着剤組成物が得られることを見出した。更に、樹脂の酸価を規定することにより、色素の耐久性が高まることを見出した。
【0011】
すなわち、上記目的は、アセトン溶液における最大吸収波長が1060nmを超えて1200nm以下であるジイモニウム色素と、計算ガラス転移温度が−20℃以下である樹脂を含有する近赤外線吸収粘着剤組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を使用した近赤外線吸収材料は、少量の添加で高い近赤外線吸収能が得られうる。この近赤外線吸収粘着剤組成物を、光半導体素子や薄型ディスプレー用の光学フィルターの作製に使用すると、光学フィルターの薄層化や、光学フィルターの製造工程の簡略化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.ジイモニウム色素
本発明に用いられるジイモニウム色素は、アセトン溶液における最大吸収波長が1060nmを超えて1200nm以下であるジイモニウム色素である。可視領域における透明性の観点から、ジイモニウム色素のアセトン溶液における最大吸収波長は、1065nm以上が好ましく、1070nm以上がより好ましい。近赤外線吸収能の観点から、ジイモニウム色素のアセトン溶液における最大吸収波長は、1100nm以下がより好ましく、1080nm以下が更に好ましい。
【0014】
ジイモニウム色素の具体的な構造としては、下記式(1)で示されるジイモニウムカチオンと、下記式(2)または(3)で示されるアニオンとからなるジイモニウム色素が例示される。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
ただし、式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または置換基を有する炭素数1〜10のアルキル基を表わす。また、式(2)中、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよいフルオロアルキル基を示す。また、式(3)中、Rはフルオロアルキレン基を示す。
【0019】
〜Rを構成する炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖、分岐状又は脂環式アルキル基等が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、等が挙げられる。
【0020】
また、R〜Rのアルキル基に結合しうる置換基としては、シアノ基;ヒドロキシル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基、メトキシブトキシ基、エトキシブトキシ基等の炭素数2〜8のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基等の炭素数3〜15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;アリルオキシ基;フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基等がある。
【0021】
ジイモニウム色素におけるアニオンの種類は特に限定されない。好ましいアニオンは、イミドアニオンである。より好ましいアニオンは、上記式(2)または式(3)で表されるアニオンである。
【0022】
上記式(2)に関し、RまたはRで示されるフルオロアルキル基として、CF、C、C、C等のパーフルオロアルキル基等が挙げられる。RとRとは同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記式(3)に関し、Rで示されるフルオロアルキレン基として、(CF(ただし、nは2から12の整数)等が挙げられる。
【0023】
好ましいイミドアニオンとして、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドイオン、1,3−ジスルホニルヘキサフルオロプロピレンイミド、ペンタフルオロエタンスルホントリフルオロメタンスルホンイミドイオン、ノナフルオロブタンスルホントリフルオロメタンスルホンイミドイオン等が挙げられる。さらに、ジイモニウム色素のアニオンとして、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロ燐酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオンおよび過塩素酸アニオンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のアニオンも使用されうる。
【0024】
ジイモニウム色素の具体的な構造として、前述した特開2005−325292号に記載されているものが挙げられる。
【0025】
ジイモニウム色素の化合物名としては、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1073nm)、ビス{テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1079nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1067nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(iso−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1072nm)、ビスヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1065nm)、ビスヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(iso−プロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1070nm)、ビスヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1071nm)、ビスヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1076nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1078nm)、ビスヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ヘキシル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1077nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ヘキシル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1079nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(ベンジル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1086nm)、ビス(1,3−ジスルホニルヘキサフルオロプロピレンイミド酸)−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1078nm)、ビス{ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1078nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−(n−ペンチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1082nm)、ビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−(iso−ペンチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1083nm)及びビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−(2,2−ジメチルプロピル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(1087nm)が挙げられる。なお、括弧内の数値は、アセトン溶液中での最大吸収波長を示す。
【0026】
本発明に係るジイモニウム色素の具体的な製品としては、日本カーリット社製の商品名「CIR−1085」が挙げられる。このCIR−1085は、アセトン溶液中での最大吸収波長が1073nmである。このCIR−1085は、前述したビス{ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムである。このCIR−1085のジイモニウムカチオンの構造は、上記式(1)中におけるRからRが全てn−ブチル基とされた構造である。
【0027】
アセトン溶液における最大吸収波長は、次のように測定される。測定されるジイモニウム色素を所定量のアセトンに溶解させ、不溶分がないことを確認した後、吸光度測定を行う。スペクトルの測定には、UV−3700(島津製作所製)が使用される。測定には、石英製であり光路長が10mmである測定セルが用いられる。
【0028】
2.樹脂
本発明に係る樹脂は、計算ガラス転移温度が−20℃以下のものであれば特に限定されない。本発明に係る樹脂は、粘着性を有している。この粘着性は、近赤外線吸収粘着剤組成物と被着体との直接的な接着を可能とする。接着剤を介在させることなく、近赤外線吸収粘着剤組成物と被着体とが接着されうる。以下において、この樹脂を粘着剤樹脂ともいう。
【0029】
2−1.計算ガラス転移温度
被着体への粘着性を付与する観点から、粘着剤樹脂の計算ガラス転移温度は、−20℃以下が好ましく、さらに好ましくは−30℃以下であり、より好ましくは−34℃以下である。−20℃よりも高い場合、粘着性が不足することがある。計算ガラス転移温度Tgは、下記のFoxの式により求められる。樹脂の重合に使用される単量体は、下記式で表されるFoxの式を用いて計算された計算ガラス転移温度Tgが所定の値を満足していれば特に限定されない。
1/(Tg+273)=Σ[Wi/(Tgi+273)] : Foxの式
Tg(℃) : 計算ガラス転移温度
Wi : 各単量体の重量分率
Tgi(℃) : 各単量体成分の単独重合体のガラス転移温度
【0030】
2−2.酸価
粘着剤樹脂には、被着体との密着性向上および粘着力アップを目的として、アクリル酸等のカルボキシル基含有単量体が共重合されるのが一般的である。ただし、カルボキシル基等の官能基はジイモニウム色素を劣化させるため、粘着剤の酸価は25以下が好ましく、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上10以下、最も好ましくは0である。「酸価」とは、粘着剤樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg量を言う。
【0031】
2−3.計算溶解性パラメータ
粘着剤樹脂の計算溶解性パラメータが高い場合にはジイモニウム色素の耐久性が劣る場合があるため、溶解性パラメータは9.80以下であることが好ましい。計算溶解性パラメータは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」(1974年、Vol.14、No.2)の147ページから154ページ記載の方法によって計算される値である。以下にその方法を概説する。
【0032】
単独重合体の溶解性パラメータ(δ)は、該重合体を形成している構成単位の蒸発エネルギー(Δei)及びモル体積(Δvi)に基づいて、下式の計算法により算出される。
δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Δei: i成分の原子または原子団の蒸発エネルギー
Δvi: i成分の原子または原子団のモル体積
【0033】
共重合体の溶解性パラメータは、上記式により、その共重合体を構成する各構成単量体のそれぞれの単独重合体の溶解性パラメータを算出し、それらの溶解性パラメータに各構成単量体のモル分率を乗じたものを合算し、その平方根で算出される。
【0034】
2−4.共重合体組成
粘着剤樹脂は、共重合体でもよい。本発明に係る粘着剤樹脂として、脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを5〜40重量%共重合した粘着剤樹脂は、ジイモニウム色素の耐久性がよく好ましい。その理由は不明であるが、これら脂環式、多環性脂環式、芳香環式、多環性芳香環式のアルキル基部分とジイモニウム色素がスタッキング構造を採ることにより、耐熱性や耐湿熱性を向上させるものと考えられる。
【0035】
より好ましい粘着剤樹脂は、下記(m1)および(m2)を共重合してなる樹脂、または、下記(m1)〜(m3)を共重合してなる樹脂である。
(m1)脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル。
(m2)アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル。ただし、このアルキル基は、直鎖型または分岐型であり、このアルキル基の炭素数は1〜10である。
(m3)その他共重合可能な単量体。
【0036】
共重合体の樹脂において、単量体の好ましい比率は、(m1)の(メタ)アクリル酸エステルが5〜40重量%であり、(m2)の(メタ)アクリル酸エステルが60〜95重量%であり、(m3)のその他の単量体が0〜30重量%である。
【0037】
上記(m1)の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
上記(m2)の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
上記(m3)の単量体の例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどに代表されるビニルエーテル系単量体;フマル酸;フマル酸のモノアルキルエステル;フマル酸のジアルキルエステル;マレイン酸;マレイン酸のモノアルキルエステル;マレイン酸のジアルキルエステル;イタコン酸;イタコン酸のモノアルキルエステル;イタコン酸のジアルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;塩化ビニル;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;ビニルケトン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾールなどを挙げることができる。また、カルボキシル基、オキサゾリニル基、ピロリドニル基、フルオロアルキル基等の官能基を有する単量体も、本発明の目的を損なわない範囲で共重合してもよい。
【0040】
粘着剤樹脂の重合に使用される開始剤として、過酸化物系、アゾ系等、市販のものが使用できる。過酸化物系の開始剤としては、パーブチルO、パーヘキシルO(いずれも日本油脂製)などのパーオキシエステル系;パーロイルL、パーロイルO(いずれも日本油脂製)などのパーオキシジカーボネート系;ナイパーBW、ナイパーBMT(いずれも日本油脂製)などのジアシルパーオキサイド系;パーヘキサ3M、パーヘキサMC(いずれも日本油脂製)などのパーオキシケタール系;パーブチルP、パークミルD(いずれも日本油脂製)などのジアルキルパーオキサイド系;パークミルP、パーメンタH(いずれも日本油脂製)などのハイドロパーオキサイド系等が挙げられる。アゾ系の開始剤としてはABN−E、ABN−R、ABN−V(いずれも日本ヒドラジン工業製)等が挙げられる。
【0041】
粘着剤樹脂の重合の際には必要に応じて連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤は特に制約されず、ノルマルドデシルメルカプタン、ジチオグリコール、チオグリコール酸オクチル、メルカプトエタノール等のチオール化合物等が使用できる。
【0042】
また、粘着剤樹脂の重合は無溶媒で行ってもよいし、有機溶媒中で行ってもよい。有機溶媒中で重合する際には、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;その他の公知の有機溶剤が使用できる。使用する有機溶媒の種類は得られる樹脂の溶解性、重合温度を考慮して決められるが、乾燥時の残存溶媒の残りにくさの点からトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の沸点が120℃以下の有機溶媒が好ましい。
【0043】
また、粘着剤樹脂は単一の組成からなるものでもよいし、異なる組成のポリマーを複合化したポリマーアロイやポリマーブレンドであってもよい。
【0044】
分岐型の樹脂を得るためにはマクロモノマー、多官能モノマー、多官能開始剤、多官能連鎖移動剤が使用できる。マクロモノマーとしては、AA−6、AA−2、AS−6、AB−6、AK−5(いずれも東亜合成製)等が使用できる。多官能モノマーとしては、ライトエスエルEG、ライトエスエル1,4BG、ライトエステルNP、ライトエステルTMP(いずれも共栄社化学製)等が挙げられる。多官能開始剤としては、パーテトラA、BTTB−50(いずれも日本油脂製)、トリゴノックス17−40MB、パーカドックス12−XL25(いずれも火薬アクゾ製)等が挙げられる。多官能連鎖移動剤としてはペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が使用できる。
【0045】
3.近赤外線吸収粘着剤組成物
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、アセトン溶液における最大吸収波長が1060nmを超えて1200nm以下であるジイモニウム色素を含有するので、可視領域の透明性と近赤外線吸収能とに優れる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、粘着性を有する樹脂を含有するので、被着体に対して容易に接着されうる。
【0046】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物には、他の近赤外線吸収色素が添加されてもよい。併用されうる他の近赤外線吸収色素としては、公知のシアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素、無機酸化物粒子等が挙げられる。
【0047】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を薄型ディスプレイ用光学フィルターとして使用する場合には、上記のジイモニウム色素とともに最大吸収波長が800〜950nmのフタロシアニン系色素、最大吸収波長が800〜950nmのシアニン系色素または最大吸収波長が800〜950nmの金属ジチオール錯体系色素が併用されるのが好ましい。この併用により、800〜1100nmの近赤外線が効果的に吸収されうる。耐久性の良好な近赤外線吸収粘着剤組成物を得る観点から、フタロシアニン色素が併用されるのが特に好ましい。
【0048】
本発明で使用できるフタロシアニン系化合物としては、近赤外線吸収能に優れるものであれば特に制限されず、公知のフタロシアニン系化合物が使用できる。好ましいフタロシアニン系化合物として、下記式(ア)で表される化合物、または下記式(イ)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
[式(ア)で示されるフタロシアニン系化合物]

【化7】

【0050】
上記式(ア)において、A〜A16は官能基を表す。上記式(ア)において、A〜A16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ヒドロキシスルホニル基、カルボキシル基、チオール基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアラルキルオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基を表す。A〜A16の官能基は同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていてもよく、官能基同士が連結基を介して繋がっていても良い。Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価の置換金属原子、4価の置換金属原子またはオキシ金属を表す。なお、本明細書において、「アシル基」とは、日刊工業新聞社発行の第三版科学技術用語大辞典の17頁に記載される定義と同様であり、具体的には、有機酸からヒドロキシル基が除去された基であり、式:RCO−(Rは、脂肪基、脂環基または芳香族基である)で表される基である。
【0051】
(末端がアミノ基以外の官能基の場合)
上記式(ア)において、官能基A〜A16のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルチオ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基、ジフェニルメチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、iso−プロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、iso−ブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、t−ブチルスルホニル基、n−ペンチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、n−ヘプチルスルホニル基、n−オクチルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキルスルホニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていても良い炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよいアラルキルスルホニル基としては、ベンジルスルホニル基、フェネチルスルホニル基、ジフェニルメチルスルホニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基としてはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基、ベンジルカルボニル基、フェニルカルボニル基等のアリールカルボニル基、ベンゾイル基等のアラルキルカルボニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル、ナフチルカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、ジフェニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールカルボニルオキシ基としては、ベンゾイルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基としては、ベンジルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基としては、ピロール基、イミダゾール基、ピペリジン基、モルホリン基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
また、上記式(ア)において、官能基A〜A16のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基または複素環基が置換されている場合、これらの官能基A〜A16に存在する置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0053】
(末端がアミノ基である官能基の場合)
上記式(ア)において、官能基A〜A16の置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、3−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等のアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基等のアラルキルカルボニル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらの置換基はさらに置換基で置換されていても良い。これらの置換基は0個、1個または2個存在していてもよく、2個存在する場合にはお互いが同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基が2個の場合、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0054】
上記置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基であるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基などに更に存在しても良い置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0055】
また、金属Mとしての2価の金属の例としては、Cu(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Pt(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pb(II)、Sn(II)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。3価の置換金属原子の例としては、Al−F、Al−Cl、Al−Br、Al−I、Fe−Cl、Ga−F、Ga−Cl、Ga−I、Ga−Br、In−F、In−Cl、In−Br、In−I、Tl−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、In−C、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn〔OSi(CH〕、Ru−Cl等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。4価の置換金属原子の例としては、CrCl、SiF、SiCl、SiBr、SiI、ZrCl、GeF、GeCl、GeBr、GeI、SnF、SnCl、SnBr、TiF、TiCl、TiBr、Ge(OH)、Mn(OH)、Si(OH)、Sn(OH)、Zr(OH)、Cr(R、Ge(R、Si(R、Sn(R、Ti(R{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}Cr(OR、Ge(OR、Si(OR、Sn(OR、Ti(OR、{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基またはそれらの誘導体を表す}、Sn(SR、Ge(SR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。オキシ金属の例としては、VO、MnO、TiOなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0056】
[式(イ)で示されるフタロシアニン系化合物]

【化8】

【0057】
上記式(イ)において、B〜B24は官能基を表す。B〜B24は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ヒドロキシスルホニル基、カルボキシル基、チオール基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアラルキルオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基を表す。B〜B24の官能基は同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていてもよく、官能基同士が連結基を介して繋がっていても良い。Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価の置換金属原子、4価の置換金属原子またはオキシ金属を表す。
【0058】
(末端がアミノ基以外の官能基の場合)
上記式(イ)において、官能基B〜B24のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルチオ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基、ジフェニルメチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、iso−プロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、iso−ブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、t−ブチルスルホニル基、n−ペンチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、n−ヘプチルスルホニル基、n−オクチルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキルスルホニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていても良い炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよいアラルキルスルホニル基としては、ベンジルスルホニル基、フェネチルスルホニル基、ジフェニルメチルスルホニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基としてはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基、ベンジルカルボニル基、フェニルカルボニル基等のアリールカルボニル基、ベンゾイル基等のアラルキルカルボニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル、ナフチルカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、ジフェニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールカルボニルオキシ基としては、ベンゾイルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基としては、ベンジルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基としては、ピロール基、イミダゾール基、ピペリジン基、モルホリン基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
上記式(イ)において、官能基B〜B24のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基または複素環基が置換されている場合、これら官能基B〜B24に存在する置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0060】
(末端がアミノ基である官能基の場合)
上記式(イ)において、官能基B〜B24の置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、3−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等のアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基等のアラルキルカルボニル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらの置換基はさらに置換基で置換されていても良い。これらの置換基は0個、1個または2個存在していてもよく、2個存在する場合にはお互いが同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基が2個の場合、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0061】
上記置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基であるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基などに更に存在しても良い置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0062】
また、金属Mとしての2価の金属の例としては、Cu(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Pt(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pb(II)、Sn(II)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。3価の置換金属原子の例としては、Al−F、Al−Cl、Al−Br、Al−I、Fe−Cl、Ga−F、Ga−Cl、Ga−I、Ga−Br、In−F、In−Cl、In−Br、In−I、Tl−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、In−C、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn〔OSi(CH〕、Ru−Cl等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。4価の置換金属原子の例としては、CrCl、SiF、SiCl、SiBr、SiI、ZrCl、GeF、GeCl、GeBr、GeI、SnF、SnCl、SnBr、TiF、TiCl、TiBr、Ge(OH)、Mn(OH)、Si(OH)、Sn(OH)、Zr(OH)、Cr(R1)、Ge(R、Si(R、Sn(R、Ti(R{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}、Cr(OR、Ge(OR、Si(OR、Sn(OR、Ti(OR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基またはそれらの誘導体を表す}、Sn(SR、Ge(SR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、またはその誘導体を表す}などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。オキシ金属の例としては、VO、MnO、TiOなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0063】
具体的なフタロシアニン系化合物として、商品名イーエクスカラーIR−10A、イーエクスカラーIR−12、イーエクスカラーIR−14やTX−EX−906B、TX−EX−910B、TX−EX−902K(いずれも日本触媒製)が挙げられる。
【0064】
また、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物には近赤外線吸収色素としてシアニン系色素が併用されてもよい。シアニン系色素は近赤外線吸収能に優れるものであれば特に制限されないが、インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンと、対アニオンからなる塩が好ましく使用できる。インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンとしては、上記式(a)〜(i)で示されるカチオンが好ましく使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
【化9】

【0066】
【化10】

【0067】
【化11】

【0068】
【化12】

【0069】
【化13】

【0070】
【化14】

【0071】
【化15】

【0072】
【化16】

【0073】
【化17】

【0074】
インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンの対アニオンは、特に制限されず、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、プロピル硫酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ベンゼンスルフィン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、マロン酸イオン、オレイン酸イオン、ステアリン酸イオン、クエン酸イオン、一水素二リン酸イオン、二水素一リン酸イオン、ペンタクロロスズ酸イオン、クロロスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、硫酸イオン、バナジン酸イオン、ホウ酸イオンなどが使用できる。
【0075】
より具体的には、上記一般式(a)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、アメリカンダイソース社製のADS812MI(対アニオンはヨウ化物イオン);上記一般式(b)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0712(対アニオンはヘキサフルオロリン酸イオン);上記一般式(c)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0726(対アニオンは塩化物イオン);上記一般式(d)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、アメリカンダイソース社製のADS780MT(対アニオンはp−トルエンスルホン酸イオン);上記一般式(e)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0006(対アニオンは過塩素酸イオン);上記一般式(f)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0081(対アニオンは過塩素酸イオン);上記一般式(g)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0773(対アニオンはテトラフルオロホウ酸イオン);上記一般式(h)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製の商品名S0772(対アニオンはテトラフルオロホウ酸イオン);上記一般式(i)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製の商品名S0734(対アニオンはテトラフルオロホウ酸イオン)等の市販されているものを用いることができる。シアニン系色素を使用することにより可視領域の透明性が高い近赤外線吸収粘着剤組成物が得られる。
【0076】
本発明のジイモニウム色素の配合量、または本発明のジイモニウム色素とその他の近赤外線吸収色素とを合計した配合量は、色素の種類と用途によって適宜選択することが出来る。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を10〜30μmの薄膜として使用する場合、配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10重量%であり、より好ましくは0.1〜5重量%である。例えば、ジイモニウム色素とフタロシアニン系色素とを併用する場合、これらの色素を合計した配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10重量%であり、より好ましくは0.1〜5重量%である。配合量が0.01重量%未満であると、十分な近赤外線吸収能が達成できなくなる可能性がある。逆に10重量%を超えると、添加に見合う効果が得られず経済的でない上、逆に可視領域での透明性が損なわれる可能性がある。
【0077】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は可視領域の透明性、高い近赤外線吸収能とその持続性、良好な粘着性を特徴とする。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物には、必要に応じて可視光を吸収する色素が添加されてもよい。可視光を吸収する色素としては、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ポルフィリン系、テトラアザポルフィリン系、金属ジチオール錯体系、スクアリリウム系、アズレニウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯体系、ビスアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、ニトロソ系、インジコ系、アゾメチン系、キサンテン系、オキサノール系、インドアニリン系、キノリン系、ジケトピロロピロール系等、従来公知の色素を広く使用することができる。
【0078】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物をPDP用の光学フィルターとして使用する場合は、不要なネオン発光を吸収するために最大吸収波長が550〜650nmの可視吸収色素を併用するのが好ましい。ネオン発光を吸収する色素の種類は特に限定されないが、シアニン色素、テトラアザポルフィリン色素が使用できる。具体的にはアデカアークルズTY−102(旭電化工業社製)、アデカアークルズTY−14(旭電化工業社製)、アデカアークルズTY−15(旭電化工業社製)、TAP−2(山田化学工業製)、TAP−18(山田化学工業製)、TAP−45(山田化学工業製)、商品名NK−5451(林原生物化学研究所製)、NK−5532(林原生物化学研究所製)、NK−5450(林原生物化学研究所製)等が挙げられる。ネオン発光を吸収するための色素の添加量は、色素の種類によって異なるが、最大吸収波長での透過率が20〜80%程度になるように添加するのが好ましい。
【0079】
また、近赤外線吸収粘着剤組成物からなる薄膜の色調を調整するために、調色用の可視光吸収色素を添加してもよい。調色用の色素の種類は特に限定されないが、1:2クロム錯体、1:2コバルト錯体、銅フタロシアニン、アントラキノン、ジケトピロロピロール等が使用できる。具体的には、オラゾールブルーGN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールブルーBL(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールレッド2B(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールレッドG(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールブラックCN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールイエロー2GLN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールイエロー2RLN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、マイクロリスDPPレッドB−K(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、等が挙げられる。
【0080】
更に、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、必要に応じて、その性能を失わない範囲で溶剤や添加剤、硬化剤を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0081】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、近赤外線吸収色素が樹脂中に固体(例えば、粉末)の形態で混合されたものであってもよい。近赤外線吸収粘着剤組成物がフィルム上にコーティングされる場合は、近赤外線吸収色素が溶剤中に溶解、分散または懸濁した形態であることが好ましい。
【0082】
コーティングの際に使用できる溶剤としては、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族系;トルエン、キシレンなどの芳香族系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトニトリル等のニトリル系;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系;ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系等が使用できる。これらを単独で使用しても混合して使用してもよい。色素の耐久性を向上させるためにはメチルエチルケトン、酢酸エチル等の沸点が100℃以下の溶媒が好適である。また、コーティング時の塗膜外観を向上させるためにはトルエン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル等の沸点が100〜150℃の溶媒が好適である。塗膜の耐クラック性を向上させるにはブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の沸点が150〜200℃の溶媒が好適である。
【0083】
コーティング剤の粘度は塗工機の種類によって適宜選択されるが、マイクログラビアコーター等のような小径グラビアキスリバース方式で塗工する場合は1〜1000mPa・s、ダイコーター等押し出し方式で塗工する場合は100〜10000mPa・sが一般的である。コーティング剤の固形分は塗料粘度に合わせて調整される。
【0084】
また、添加剤としては、フィルムやコーティング膜等を形成する樹脂組成物に使用される従来公知の添加剤が用いられうる。この添加剤として、分散剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤、つや消し剤、粘着付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収材、光安定化剤、消光剤、硬化剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。なお、硬化剤としてはイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤、UV硬化剤等を使用することができる。
【0085】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、光学用、農業用、建築用または車両用の近赤外線吸収材料、感光紙などの画像記録材料、光ディスク用などの情報記録用材料、色素増感型太陽電池などの太陽電池、半導体レーザー光などを光源とする感光材料、眼精疲労防止材に使用されうる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、特にフィルムやシート状での使用が好ましい。
【0086】
4.近赤外線吸収材
本発明に係る近赤外線吸収材は、前記近赤外線吸収粘着剤組成物を含む。本発明の近赤外線吸収材は、前記近赤外線吸収粘着剤組成物をフィルム状に成形したものであってもよいし、透明基材上に前記近赤外線吸収粘着剤組成物を含む塗膜を積層したものであってもよい。
【0087】
透明基材としては、一般に光学材に使用し得るものであって、実質的に透明であれば特に制限はない。具体的な例としてはガラス;シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のメタクリル系ポリマー;酢酸ビニルやハロゲン化ビニル等のビニル系ポリマー;PET等のポリエステル;ポリカーボネート、ブチラール樹脂等のポリビニルアセタール;ポリアリールエーテル系樹脂等が挙げられる。ジイモニウム色素の耐久性を向上させる観点から、透明基材の材質は、樹脂が好ましく、PETがより好ましい。PET等の樹脂は、ソーダ石灰ガラス等のアルカリガラスと比較して、イオン成分の溶出が少ないと考えられる。イオン成分とジイモニウムカチオンとが結合し、ジイモニウムカチオンが2価でなくなった(例えば1価となった)場合、ジイモニウム色素による近赤外線吸収能が減少する。イオン成分の溶出が少ないPET等の樹脂と、本発明のジイモニウム色素との組み合わせにより、実用に供されうる程度の耐久性が得られやすくなると考えられる。
【0088】
上記透明基材には、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理等の従来公知の方法による表面処理や、アンカーコート剤やプライマー等のコーティングが施されてもよい。また、上記透明基材を構成する基材樹脂には、公知の添加剤、耐熱老化防止剤、滑剤、帯電防止剤等の配合が可能である。上記透明基材は、公知の射出成形、Tダイ成形、カレンダー成形、圧縮成形等の方法や、有機溶剤に溶融させてキャスティングする方法などを用い、フィルムまたはシート状に成形される。かかる透明基材を構成する基材は、未延伸でも延伸されていてもよく、また他の基材と積層されていてもよい。
【0089】
コーティング法で近赤外線吸収フィルムを得る場合の透明基材としてはPETフィルムが好ましく、特に易接着処理をしたPETフィルムが好適である。具体的にはコスモシャインA4300(東洋紡績製)、ルミラーU34(東レ製)、メリネックス705(帝人デュポン製)等が挙げられる。また、ラクトン環含有樹脂フィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、反射防止フィルム、ぎらつき防止フィルム、衝撃吸収フィルム、電磁波シールドフィルム、紫外線吸収フィルムなどの機能性フィルムも透明基材として使用できる。これにより、簡便に薄型ディスプレー用や光半導体素子用の光学フィルターを作製することができる。透明基材は、フィルムであることが好ましい。
【0090】
これらのうち、ガラス、PETフィルム、易接着性PETフィルム、ラクトン環含有樹脂フィルム、TACフィルム、反射防止フィルム及び電磁波シールドフィルムが透明基材として好ましく使用される。透明基材として、ガラス等の無機基材を使用する場合には、アルカリ成分が少ないものが近赤外線吸収色素の耐久性の観点から好ましい。
【0091】
本発明の近赤外線吸収材の厚みは、一般に0.1μmから10mm程度とされるが、目的に応じて適宜決定される。また近赤外線吸収材に含まれる近赤外線吸収色素の含有量も目的に応じて、適宜決定される。
【0092】
本発明の近赤外線吸収材を作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次の方法が利用できる。例えば、(I)樹脂と本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物とを混練し、加熱成形して樹脂板又はフィルムを作製する方法;(II)本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物とモノマー又はオリゴマーを重合触媒の存在下にキャスト重合し、樹脂板又はフィルムを作製する方法;(III)本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物を上記の透明基材上にコーティングする方法等である。
【0093】
(I)の作製方法としては、用いる樹脂によって加工温度、フィルム化(樹脂板化)条件等が多少異なるが、通常、本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物を樹脂の粉体又はペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、押し出し機によりフィルム化(樹脂板化)する方法等が挙げられる。
【0094】
(II)の作製方法としては、本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物とモノマー又はオリゴマーとを重合触媒の存在下にキャスト重合し、それらの混合物を型内に注入し、反応させて硬化させるか、又は金型に流し込んで型内で硬い製品となるまで固化させて成形する方法が挙げられる。多くの樹脂がこの過程で成形可能である。その様な樹脂の具体例としてアクリル樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコン樹脂、等が挙げられる。その中でも、硬度、耐熱性、耐薬品性に優れたアクリルシートが得られるメタクリル酸メチルの塊状重合によるキャスティング法が好ましい。
【0095】
重合触媒としては公知のラジカル熱重合開始剤が利用でき、例えばベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。その使用量は混合物の総量に対して、一般的に0.01〜5重量%である。熱重合における加熱温度は、一般的に40〜200℃であり、重合時間は一般的に30分〜8時間程度である。また熱重合以外に、光重合開始剤や増感剤を添加して光重合する方法も利用できる。
【0096】
(III)の方法としては、本発明の近赤外吸収材料を透明基材上にコーティングする方法、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を微粒子に固定化し、該微粒子を分散させた塗料を透明基材上にコーティングする方法等がある。
【0097】
基材に近赤外線吸収粘着剤組成物を塗布する際には公知の塗工機が使用できる。例えばコンマコーター等のナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、マイクログラビアコーター等のキスコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等のロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーターが挙げられる。塗布前にコロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法で基材の表面処理を行ってもよい。乾燥・硬化方法としては、熱風、遠赤外線、UV硬化等公知の方法が使用できる。乾燥・硬化後は公知の保護フィルムとともに巻き取ってもよい。
【0098】
乾燥方法は特に限定されないが、熱風乾燥や遠赤外線乾燥を用いることができる。乾燥温度は乾燥ラインの長さ、ライン速度、塗布量、残存溶剤量、基材の種類等を考慮して決めればよい。基材がPETフィルムであれば、一般的な乾燥温度は50〜150℃である。1ラインに複数の乾燥機がある場合は、それぞれの乾燥機を異なる温度、風速に設定してもよい。塗工外観の良好な塗膜を得るためには、入り口側の乾燥条件をマイルドにするのが好ましい。
【0099】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、可視領域の透明性及び近赤外線の吸収能が高い優れた光学フィルターの構成材料となりうる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、近赤外線吸収能が高く、且つ、粘着剤組成物中において実用的な耐久性を発揮しうる。さらに、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、シートやフィルム状にするのが容易なため、薄型ディスプレー用や光半導体素子用に有効である。そのほかに、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、赤外線をカットする必要があるフィルターやフィルム、例えば農業用フィルム、断熱フィルム、サングラス、光記録材料等にも使用することができる。
【0100】
5.光学フィルター
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は光学フィルターに好適である。この光学フィルターは、前記近赤外線吸収材を用いてなる。この光学フィルターは、光半導体素子用光学フィルターまたは薄型ディスプレー用光学フィルターとして好適である。このような光学フィルターは、可視領域の全光線透過率が40%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上であり、波長800〜1100nmの近赤外線の透過率が30%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0101】
本発明の光学フィルターには、上記の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収層のほかに、電磁波遮蔽層、反射防止層、ぎらつき防止(アンチグレア)層、傷付き防止層、色調整層、ガラス等の支持体などが設けられていてもよい。
【0102】
光学フィルターの各層の構成は任意に選択すればよい。例えば、好ましくは反射防止層とぎらつき防止層のうち少なくともどちらか一層と、近赤外線吸収層の少なくとも2層を組み合わせた光学フィルターが好適であり、より好ましくは更に電磁波遮蔽層を組み合わせた少なくとも3層を有する光学フィルターである。
【0103】
反射防止層、またはぎらつき防止層が人側の最表層とされるのが好ましい。近赤外線吸収層と電磁波遮蔽層相互間の積層順序は任意である。また、3層の間には傷付き防止層、色調整層、衝撃吸収層、支持体、透明基材等の他の層が挿入されていてもよい。
【0104】
各層を張り合わせる際にはコロナ処理、プラズマ処理等の物理的な処理をしてもよいし、ポリエチレンイミン、オキサゾリン系ポリマー、ポリエステル、セルロース等の公知の高極性ポリマーをアンカーコート剤として使用してもよい。
【0105】
薄型ディスプレー用光学フィルターには、画面を見やすくするために、反射防止層またはぎらつき防止層を人側の最表層に設けることが好ましい。
【0106】
反射防止層は、表面の反射を抑えて、表面への蛍光灯などの外光の写り込みを防止するためのものである。反射防止層は、金属酸化物、フッ化物、ケイ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物の薄膜からなる場合と、アクリル樹脂、フッ素樹脂などの屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させたものからなる場合とがあり、前者の場合の製造方法として、蒸着やスパッタリング法を用いて単層あるいは多層の形態で、透明基材上に反射防止コーティングを形成させる方法がある。また、後者の場合の製造方法として、透明フィルム上に、コンマコーター等のナイフコーター、スロットコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、グラビアコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーターを用いて透明基材の表面に反射防止コーティングを塗布する方法がある。
【0107】
ぎらつき防止層は、シリカ、メラミン樹脂、アクリル樹脂等の微粉体をインキ化し、従来公知の塗布法で、本発明のフィルターのいずれかの層上に塗布し、熱或いは光硬化させることにより形成される。また、アンチグレア処理したフィルムを該フィルター上に貼りつけてもよい。
【0108】
また、傷付き防止層は、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、多官能アクリレート等のアクリレートと光重合開始剤を有機溶剤に溶解或いは分散させた塗布液を従来公知の塗布法で、本発明のフィルターのいずれかの層上に、塗布し、乾燥させ、光硬化させることにより形成される。
【0109】
反射防止層またはぎらつき防止層と近赤外線吸収層とを有する光学フィルターは、反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムの裏面に本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物又は近赤外線吸収材からなる層を積層させることで得られる。積層させる方法としては、フィルム状にした本発明に係る近赤外線吸収層と反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムとを直接張り合わせてもよいし、溶液化した本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムの裏面に直接塗布してもよい。反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムの裏面に近赤外線吸収層を設ける場合には、紫外線による色素の劣化を抑えるために、透明基材として紫外線吸収フィルムを使用するのが好ましい。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は粘着性を有している。よって、近赤外線吸収層と、他の層とが接着される場合、粘着剤や接着剤が不要とされうる。近赤外線吸収層は、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を含む層である。
【0110】
プラズマディスプレー用光学フィルターには、パネルから発生する電磁波を除去するために、電磁波遮蔽層を設けることが好ましい。
【0111】
電磁波遮蔽層はエッチング、印刷等の手法で金属のメッシュをフィルム上にパターニングしたものを樹脂で平滑化したフィルムや、繊維メッシュの上に金属を蒸着させたものを樹脂中に抱埋したフィルムが使用される。
【0112】
近赤外線吸収層と電磁波遮蔽層の2層を有する光学フィルターは電磁波防止材料と近赤外線吸収粘着剤組成物とを複合化することで得られる。複合化させる方法としては、フィルム状にした本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物と電磁波遮蔽フィルムを張り合わせてもよいし、溶液化した本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を電磁波遮蔽フィルムに直接塗布してもよい。また、フィルム上の金属のメッシュを平滑化する際に本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を使用することもできる。また、金属を蒸着した繊維を抱埋する際に、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を使用することもできる。
【0113】
近赤外線吸収層、反射またはぎらつき防止層および電磁波遮蔽層の3層を有する光学フィルターとしては、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収フィルム、反射またはぎらつき防止フィルム、電磁波遮蔽フィルムの3枚を張り合わせたものが使用できる。好ましくは、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収フィルムが、反射またはぎらつき防止フィルムと、電磁波遮蔽フィルムとで挟まれた構造を有する光学フィルターが好ましい。この光学フィルターは、近赤外線吸収フィルムの粘着性を利用して積層されているため、従来フィルム同士の張り合わせのためだけに設けられていた粘着層を省略して製造されうる。必要に応じてガラス等の支持体や色調整フィルム等の機能性フィルムを張り合わせてもよい。
【0114】
光学フィルターの製造工程やフィルム構成をさらに簡略化するためには、複数の機能を有する複合化フィルムを使用するのが良い。好ましい光学フィルターは、1枚のフィルムに電磁波遮蔽層と反射またはぎらつき防止層とを含む複合化フィルムに、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収粘着層を張り合わせた光学フィルターである。
【0115】
本発明の薄型ディスプレー用光学フィルターは表示装置から離して設置してもよいし、表示装置に直接貼り付けてもよい。表示装置から離して設置する場合は支持体としてガラスを使用するのが好ましい。表示装置に直接張り合わせる場合にはガラスを使用しない光学フィルターが好ましい。
【0116】
6.薄型ディスプレー
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を積層した光学フィルターを薄型ディスプレーに搭載すると、長期間にわたり良好な画質が維持される。薄型ディスプレーに係る本発明は、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物、本発明の近赤外線吸収材、または本発明の光学フィルターを用いてなる、薄型ディスプレーである。表示体に直接、光学フィルターを張り合わせた薄型ディスプレーはより鮮明な画質が得られる。光学フィルターを直接張り合わせる場合は表示体のガラスが強化ガラスを使用するか、衝撃吸収層を設けた光学フィルターを使用するのが好ましい。
【0117】
本発明の光学フィルターを表示装置に貼り付ける際の粘着剤としては、スチレンブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等のゴム類やポリアクリル酸メチル、ボリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のポリアクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、これらは単独で用いられてもよいし、さらに粘着付与剤としてピッコライト、ポリベール、ロジンエステル等を添加したものを用いてもよい。また、特開2004−263084号公報で示されているように衝撃吸収能を有する粘着剤を使用することができるが、これに限定されるものではない。粘着剤を用いることなく、近赤外線吸収層の粘着性を利用して、本発明の光学フィルターが表示装置に貼り付けられても良い。
【0118】
この粘着層の厚みは、通常5〜2000μm、好ましくは10〜1000μmである。粘着剤層の表面に剥離フィルムを設け、この剥離フィルムにより、光学フィルターを薄型ディスプレーの表面に張り付けるまでの間、粘着剤層を保護し、粘着剤層にゴミ等が付着しないようにするのもよい。この場合、フィルターの縁綾部の粘着剤層と剥離フィルムとの間に、粘着剤層を設けない部分を形成したり非粘着性のフィルムを挟む等して非粘着部分を形成し、この非粘着部分を剥離開始部とすれば、貼着時の作業がやりやすい。
【0119】
衝撃吸収層は表示装置を外部からの衝撃から保護するためのものである。支持体を使用しない光学フィルターで使用するのが好ましい。衝撃吸収材としては特開2004−246365号公報、特開2004−264416号公報に示されているような、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ウレタン系、シリコン系樹脂等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0120】
以下において、実施例により本発明が具体的に説明される。これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。近赤外線吸収能、耐熱性、耐湿熱性及び酸価の評価方法は以下の通りである。なお、特に説明しない限り、以下において「部」とは「重量部」を意味し、「%」は「重量%」を意味する。
【0121】
(1)近赤外線吸収能(近赤外線透過率)の評価
試験体をUV−3700(島津製作所製)を使用して、350〜1250nmの透過スペクトルを測定した。近赤外線吸収能は、波長1000nmでの透過率により評価した。下記の表2において、波長1000nmでの透過率は、「1000nm透過率」と表記されている。
【0122】
(2)耐熱性の評価
試験体を80℃の恒温恒湿器中に500時間静置し、試験前後での350〜1250nmの透過スペクトルを測定した。透過スペクトルの測定にはUV−3700(島津製作所製)を使用した。得られた試験前後の透過スペクトルから、波長1000nmでの透過率の変化を評価した。また、得られた試験前後の透過スペクトルから色差を計算し、b*の変化を評価した。この評価結果が下記の表3に示されている。試験後の値から試験前の値を引いた値が、下記の表3に示されている。
【0123】
(3)耐湿熱性の評価
試験体を60℃90%RHの恒温恒湿器中に500時間静置し、試験前後での350〜1250nmの透過スペクトルを測定した。透過スペクトルの測定にはUV−3700(島津製作所製)を使用した。得られた試験前後の透過スペクトルから、波長1000nmでの透過率の変化を評価した。また、得られた試験前後の透過スペクトルから色差を計算し、b*の変化を評価した。この評価結果が下記の表3に示されている。試験後の値から試験前の値を引いた値が、下記の表3に示されている。
【0124】
(4)酸価の測定
粘着剤樹脂溶液0.5gを精秤し、トルエン50gを加えて均一に溶解させた。指示薬としてフェノールフタレイン/アルコール溶液を2〜3滴加え、0.1N水酸化カリウム/アルコール溶液で滴定し、液の赤みが約30秒で消えなくなったときを終点とした。このときの滴定量と樹脂の固形分から酸価を求めた。酸価は、樹脂固形分1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmgで表される。
【0125】
[合成例1]:
モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート286.65部、n−ブチルアクリレート162.50部、シクロヘキシルメタクリレート195.0部及びヒドロキシエチルアクリレート5.85部を混合し、モノマー混合物1を得た。BMT−K40(日本油脂社製)0.13部と酢酸エチル5.40部とを混合し、開始剤溶液1を得た。260.0の部モノマー混合物1と167.90部の酢酸エチルとをフラスコに入れ、このフラスコに、温度計、攪拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器及び滴下漏斗をセットした、0.2部のBMT−K40と17.36部の酢酸エチルとを混合して滴下用開始剤溶液2を作り、この滴下用開始剤溶液2に390.00部の上記モノマー混合物1を混合して、上記滴下漏斗に入れた。窒素ガスを20ml/分で流通させながらフラスコ内を加熱して、フラスコ内の温度を90℃とした。開始剤溶液1をフラスコに添加し、重合反応を開始した。開始剤溶液1の投入から10分後に、上記滴下漏斗内の混合物(モノマー混合物1と滴下用開始剤溶液2との混合物)を90分かけてフラスコ内に添加した。その後、粘度の上昇に応じて酢酸エチルで希釈を適宜行いながら、還流温度を維持しつつ300分間熟成を行い、樹脂溶液1を得た。この樹脂溶液1を、不揮発分が約45%となるように酢酸エチルで希釈し、粘着剤樹脂1を得た。この粘着剤樹脂1は、計算ガラス転移温度(Tg)が−34.7℃であり、計算溶解度パラメータ(Sp)が9.64であった。なお、この粘着剤樹脂1の重量平均分子量(Mw)は42万であった。
【0126】
[合成例2]:
モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート286.65部、n−ブチルアクリレート162.50部、ベンジルアクリレート195.0部及びヒドロキシエチルアクリレート5.85部を混合し、モノマー混合物2を得た。このモノマー混合物2が上記モノマー混合物1に代えて用いられた他は上記樹脂溶液1と同様にして、樹脂溶液2を得た。この樹脂溶液2を、不揮発分が約40%となるように酢酸エチルで希釈し、粘着剤樹脂2を得た。この粘着剤樹脂2は、計算ガラス転移温度(Tg)が−47.2℃であり、計算溶解度パラメータが9.80であった。この粘着剤樹脂2の重量平均分子量(Mw)は93万であった。
【0127】
[合成例3]:
モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート351.65部、n−ブチルアクリレート162.50部、シクロヘキシルメタクリレート130.0部及びヒドロキシエチルアクリレート5.85部を混合し、モノマー混合物3を得た。このモノマー混合物3が上記モノマー混合物1に代えて用いられた他は上記樹脂溶液1と同様にして、樹脂溶液3を得た。この樹脂溶液3を、不揮発分が約45%となるように酢酸エチルで希釈し、粘着剤樹脂3を得た。この粘着剤樹脂3は、計算ガラス転移温度(Tg)が−46.2℃であり、計算溶解度パラメータが9.73であった。この粘着剤樹脂3の重量平均分子量(Mw)は59万であった。
【0128】
[合成例4]:
モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート323.05部、n−ブチルアクリレート325.0部及びヒドロキシエチルアクリレート1.95部を混合し、モノマー混合物4を得た。このモノマー混合物4が上記モノマー混合物1に代えて用いられた他は上記樹脂溶液1と同様にして、樹脂溶液4を得た。この樹脂溶液4を、不揮発分が約40%となるように酢酸エチルで希釈し、粘着剤樹脂4を得た。この粘着剤樹脂4は、計算ガラス転移温度(Tg)が−62.6℃であり、計算溶解度パラメータが9.50であった。この粘着剤樹脂4の重量平均分子量(Mw)は83万であった。
【0129】
表1における「組成」は、モノマー混合物全体の重量に対する各モノマーの重量%を示す。なお、表1において、2EHAは2−エチルヘキシルアクリレート(Tg:−70℃)を示し、BAはn−ブチルアクリレート(Tg:−55℃)を示し、CHMAはシクロヘキシルメタクリレート(Tg:83℃)を示し、BzAはベンジルアクリレート(Tg:6℃)を示し、HEAはヒドロキシエチルアクリレート(Tg:−15℃)を示す。
【0130】
実施例1:
ジイモニウム色素として、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオンを有し、アセトン溶液における最大吸収波長が1073nmである「CIR−1085」(日本カーリット社製)をメチルエチルケトンに溶解し、固形分5%のジイモニウム溶液1を調整した。次に、フタロシアニン色素である商品名「イーエクスカラーIR−10A」(日本触媒製)をトルエンに溶解し、固形分5%のフタロシアニン溶液1を調整した。また、架橋剤としてコロネートL−55E(日本ポリウレタン社製)、架橋促進剤としてジラウリン酸ジ−n−ブチルスズをそれぞれメチルエチルケトンに溶解し、固形分1%の架橋剤溶液1と、固形分1%の架橋促進剤溶液1とを調整した。合成例1で得られた粘着剤樹脂1、ジイモニウム溶液1、フタロシアニン溶液1、架橋剤溶液1および架橋促進剤溶液1を、固形分重量比で100/1.46/1.1/0.5/0.05となるように混合し、近赤外線吸収粘着剤組成物A1を得た。なお、この固形分重量比は、(粘着剤樹脂1/ジイモニウム溶液1/フタロシアニン溶液1/架橋剤溶液1/架橋促進剤溶液1)の順で標記されている。
【0131】
近赤外線吸収粘着剤組成物A1をアプリケーターにて、易接着処理PETフィルム(東洋紡績社製、コスモシャインA4300)上に塗工した。塗工厚みは、乾燥後の厚みが25μmとなるように設定した。次いで、100℃の熱風循環オーブン中にて2分間乾燥させた。この近赤外線吸収粘着剤組成物A1からなる層に離型フィルム(シリコン処理されたPETフィルム)を張り合わせた後、23℃で7日間養生させて近赤外線吸収材A1を得た。離型フィルムを剥がした後、この近赤外線吸収材A1をPETフィルムに貼り付けて、実施例1に係る試験体を得た。この試験体について、近赤外線透過率の評価を行った。この評価結果が下記の表2に示される。
【0132】
実施例2から4:
上記粘着剤樹脂1を、粘着剤樹脂2から4に変更した以外は、実施例1と同様にして、近赤外線吸収粘着剤組成物A2からA4、近赤外線吸収材A2からA4および実施例2から4に係る試験体を得た。これらの試験体について、実施例1と同様の評価を行った。実施例2から4の仕様と評価結果が下記の表2に示される。
【0133】
ジイモニウム色素Aの合成例:
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム(日本触媒製の商品名「TEPBNa」)1.05部と、ビスヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム(日本化薬社製の商品名「IRG−022」)0.70部とを、温度25℃でメチルエチルケトン(MEK)10部に溶解させてホウ酸塩溶液1を調製した。引き続き、このホウ酸塩溶液1を脱イオン水500部中に一括添加し、これを25℃で1時間静置した。生成した析出物をろ過によって回収し、80℃で乾燥させて、黒色固体0.83部を得た。この黒色固体が、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンを有し、アセトン溶液における最大吸収波長が1079nmであるビス{テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムである。以下、このビス{テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムが、ジイモニウム色素Aとも称される。
【0134】
実施例5:
ジイモニウム色素として、上記合成例により得られたジイモニウム色素Aを用いた。このジイモニウム色素Aをメチルエチルケトンに溶解し、固形分5%のジイモニウム溶液2を調整した。合成例1で得られた粘着剤樹脂1、ジイモニウム溶液2、フタロシアニン溶液1、架橋剤溶液1および架橋促進剤溶液1を固形分重量比で100/1.46/1.1/0.5/0.05となるように混合し、近赤外線吸収粘着剤組成物A5を得た。なお、この固形分重量比は、(粘着剤樹脂1/ジイモニウム溶液2/フタロシアニン溶液1/架橋剤溶液1/架橋促進剤溶液1)の順で標記されている。近赤外線吸収粘着剤組成物A1に代えて、この近赤外線吸収組成物A5を用いた以外は、実施例1と同様にして、近赤外線吸収材A5および実施例5に係る試験体を得た。これらの試験体について、実施例1と同様の評価を行った。この評価結果が下記の表2で示される。なお、表2及び表3において、上記ビス{テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸}−N,N,N’,N’−テトラキス−{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムが、「ジイモニウム色素A」と表記されている
【0135】
比較例1:
ジイモニウム色素として、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオンを有し、アセトン溶液における最大吸収波長が1049nmである「CIR−1085F」(日本カーリット社製)を用いた。この「CIR−1085F」をメチルエチルケトンに溶解し、固形分5%のジイモニウム溶液3を調整した。合成例1で得られた粘着剤樹脂1、ジイモニウム溶液3、フタロシアニン溶液1、架橋剤溶液1および架橋促進剤溶液1を、固形分重量比で100/1.46/1.1/0.5/0.05となるように混合し、近赤外線吸収粘着剤組成物B1を得た。なお、この固形分重量比は、(粘着剤樹脂1/ジイモニウム溶液3/フタロシアニン溶液1/架橋剤溶液1/架橋促進剤溶液1)の順で標記されている。近赤外線吸収粘着剤組成物A1に代えて、この近赤外線吸収粘着剤組成物B1を用いた以外は、実施例1と同様にして、近赤外線吸収材B1および比較例1に係る試験体を得た。この試験体について、実施例1と同様の評価を行った。この評価結果が下記の表2で示される。
【0136】
比較例2:
合成例2で得られた粘着剤樹脂2、ジイモニウム溶液3、フタロシアニン溶液1、架橋剤溶液1および架橋促進剤溶液1を、固形分重量比で100/1.46/1.1/0.5/0.05となるように混合し、近赤外線吸収粘着剤組成物B2を得た。なお、この固形分重量比は、(粘着剤樹脂2/ジイモニウム溶液3/フタロシアニン溶液1/架橋剤溶液1/架橋促進剤溶液1)の順で標記されている。近赤外線吸収粘着剤組成物A1に代えて、この近赤外線吸収粘着剤組成物B2を用いた以外は、実施例1と同様にして、近赤外線吸収材B2および比較例2に係る試験体を得た。この試験体について、実施例1と同様の評価を行った。この評価結果が、下記の表2で示される。
【0137】
上記実施例1から4に係る試験体について、耐熱性と耐湿熱性とが評価された。これらの評価方法については前述した通りである。これらの評価結果が下記の表3に示される。
【0138】
上記実施例1から4に加えて、次の比較例3についても、耐熱性及び耐湿熱性が評価された。
【0139】
比較例3:
合成例2で得られた粘着剤樹脂2、ジイモニウム溶液3、フタロシアニン溶液1、架橋剤溶液1および架橋促進剤溶液1を、固形分重量比で100/1.88/1.1/0.5/0.05となるように混合し、近赤外線吸収粘着剤組成物B3を得た。なお、この固形分重量比は、(粘着剤樹脂2/ジイモニウム溶液3/フタロシアニン溶液1/架橋剤溶液1/架橋促進剤溶液1)の順で標記されている。近赤外線吸収粘着剤組成物A1に代えてこの近赤外線吸収粘着剤組成物B3が用いられ、且つ、PETフィルムに代えてガラスが用いられた他は、実施例1と同様にして、近赤外線吸収材B3および比較例3に係る試験体を得た。この試験体について、実施例1と同様の評価を行った。この評価結果が、下記の表2で示される。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

【0143】
表2の結果から理解されるように、実施例は、比較例よりも1000nm透過率が小さく、近赤外線吸収能に優れている。実施例と比較例とで、ジイモニウム色素の固形分の重量部は同一である。ジイモニウム色素の固形分の重量部が同一であるという条件下において、実施例は、比較例よりも近赤外線吸収能に優れる。仮に、実施例と比較例とで1000nm透過率が同一であればよいとすると、実施例のジイモニウム色素の量を減らすことができる。このように実施例は、近赤外線吸収能が高い。また表3の結果から理解されるように、実施例は、実用に供されうる程度の耐久性を有している。実施例が実用的な耐久性を有していることは、比較例3の結果からも理解される。即ち比較例3では、耐熱性及び耐湿熱性に優れるCIR−1085Fが用いられているが、実施例は、この比較例3に近い評価結果となっている。
【0144】
(実施例6)
1.重合性ポリシロキサン(M−1)の合成
攪拌機、温度計および冷却管を備えた300mlの四つ口フラスコにテトラメトキシシラン144.5部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン23.6部、水19.0部、メタノール30.0部およびアンバーリスト15(商品名:オルガノ社製の陽イオン交換樹脂)5.0部を入れ、65℃で2時間攪拌し、反応させた。反応混合物を室温まで冷却した後、冷却管に代えて蒸留塔、これに接続させた冷却管および流出口を設け、常圧下でフラスコ内温約80℃まで2時間かけて昇温し、メタノールが流出しなくなるまで同温度で保持した。さらに、2.67×10kPaの圧力下90℃の温度で、メタノールが流出しなくなるまで保持し、反応を更に進行させた。再び、室温まで冷却した後、アンバーリスト15を濾過し、数平均分子量が1,800の重合性ポリシロキサン(M−1)を得た。
【0145】
2.有機ポリマー(P−1)の合成
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管およびN2ガス導入口を備えた1リットルのフラスコに、有機溶剤として酢酸n−ブチル260部を入れ、N2ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温を110℃まで加熱した。ついで重合性ポリシロキサン(M−1)12部、tert−ブチルメタクリレート19部、ブチルアクリレート94部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート67部、パーフルオトオクチルエチルメタクリレート(ライトエステルFM−108、共栄社化学社製)48部および2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)2.5部を混合した溶液が、滴下口より3時間かけて滴下された。滴下後も同温度で1時間攪拌を続けた後、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.1部を30分おきに2回添加し、さらに2時間加熱して共重合を行なった。その結果、数平均分子量が12,000であり重量平均分子量が27,000である有機ポリマー(P−1)が酢酸n−ブチルに溶解した溶液を得た。得られた溶液の固形分は48.2%であった。
【0146】
3.有機ポリマー複合無機微粒子分散体(S−1)の合成
攪拌機、2つの滴下口(滴下口αと滴下口β)、温度計を備えた500mlの四つ口フラスコに、酢酸n−ブチル200部およびメタノール500部を入れておき、内温を40℃に調整した。ついでフラスコ内を攪拌しながら、有機ポリマー(P−1)の酢酸n−ブチル溶液10g、テトラメトキシシラン30部および酢酸n−ブチル5部の混合液(原料液A)を滴下口αから2時間かけて滴下すると同時に、25%アンモニア水5部、脱イオン水10部およびメタノール15部の混合液(原料液B)を滴下口βから2時間かけて滴下した。滴下後、冷却管に代えて蒸留塔、これに接続させた冷却管および流出口を設け、40kPaの圧力下、フラスコ内温を100℃まで昇温し、アンモニア、メタノールおよび酢酸n−ブチルを固形分が30%となるまで留去して、有機ポリマー複合無機微粒子が酢酸n−ブチルに分散した分散体(S−1)を得た。この分散体(S−1)において、上記有機ポリマー複合無機微粒子中の無機微粒子と有機ポリマーとの比率は、70/30であった。この比率は、重量比である。得られた有機ポリマー複合無機微粒子の平均粒子径は23.9nmであった。なお、有機ポリマー複合無機微粒子中の無機微粒子と有機ポリマーの比率は、有機ポリマー複合微粒子分散体を1.33×10kPaの圧力下、130℃で24時間乾燥したものについて元素分析を行ない、灰分を有機ポリマー複合無機微粒子含有量として求めた。また、平均粒子径は、有機ポリマー複合無機微粒子分散体(S−1)1部を酢酸n−ブチル99部で希釈した溶液を用いて、透過型電子顕微鏡により粒子を撮影し、任意の100個の粒子の直径を読み取り、その平均を平均粒子径として求めた。
【0147】
4.反射フィルム
ジぺンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPE−6A、共栄社化学社製)8部およびペンタエリスリトールトリアクリレート(PE−3A、共栄社化学社製)2部を混合し、メチルエチルケトン40部に溶解した溶液を作製した。この溶液に、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)0.5部をメチルエチルケトン2部に溶解した溶液を加え、ハードコート層塗布液を調製した。
【0148】
有機ポリマー複合無機微粒子分散体(S−1)9部、デスモジュールN3200(商品名、住化バイエルウレタン社製のイソシアネート硬化剤)0.3部、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ0.003部およびメチルイソブチルケトン110部を混合し、低屈折率層塗布液を調製した。
【0149】
厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績社製)に上記ハードコート層塗布液を、バーコーターを用いて塗布し、塗布層hを得た。この塗布層hを、100℃で15分乾燥した後、高圧水銀灯で200mJ/cmの紫外線を照射することにより硬化させ、膜厚5μmのハードコート層を形成した。このハードコート層の上に低屈折率塗布液をバーコーターを用いて塗布し、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に反射防止膜を作成した。
【0150】
フィルムの反射防止膜側とは反対側の面をスチールウールで粗面化した。この粗面化された面に黒インキを塗った。反射防止膜側の面の入射角5°における鏡面反射スペクトルを紫外可視分光光度計(UV−3100、島津製作所製)を用いて測定し、反射率が最小値を示す波長およびその波長における反射率(最小反射率)を求めた。得られた反射防止フィルムにおいて、反射率が最小値を示す波長は波長550nmであり、その波長における反射率(最小反射率)は0.45%であった。
【0151】
5.光学フィルター
得られた反射防止フィルムの裏面側に、実施例1で得られた近赤外線吸収粘着剤組成物A1について、実施例1と同様に塗工および乾燥し、光学フィルター1を得た。光学フィルター1の近赤外線透過率、全光線透過率、耐熱性、耐クラック性および耐溶剤性は良好だった。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、近赤外線吸収能及び可視領域の透明性が高いことから、薄型ディスプレー用の光学フィルターとして有用である。また、光情報記録材料としても使用することがきる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アセトン溶液における最大吸収波長が1060nmを超えて1200nm以下であるジイモニウム色素及び
(B)計算ガラス転移温度が−20℃以下である樹脂
を含有する近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ジイモニウム色素が、下記式(1)で示されるジイモニウムカチオンと、下記式(2)または(3)で示されるアニオンとからなる請求項1記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。

【化1】


【化2】


【化3】


ただし、式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または置換基を有する炭素数1〜10のアルキル基を表わす。また、式(2)中、RおよびRは、それぞれ同一または異なっていてもよいフルオロアルキル基を示す。また、式(3)中、Rはフルオロアルキレン基を示す。
【請求項3】
前記樹脂(B)の酸価が25以下である請求項1または2のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項4】
前記樹脂(B)の計算溶解性パラメータが9.80以下である請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項5】
前記樹脂(B)が、下記単量体(1)〜(3)を下記の比率で共重合してなるポリマーである請求項1から4のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
(1)脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル:5〜40重量%
(2)炭素数が1〜10であり且つ直鎖型または分岐型であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル:60〜95重量%
(3)その他共重合可能な単量体:0〜30重量%
【請求項6】
さらに、フタロシアニン系色素を含む請求項1から5のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物を含む近赤外線吸収材。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物が透明基材に積層されてなる請求項7に記載の近赤外線吸収材。
【請求項9】
前記透明基材は、ガラス、PETフィルム、易接着性PETフィルム、ラクトン環含有樹脂フィルム、TACフィルム、反射防止フィルムまたは電磁波シールドフィルムである、請求項8に記載の近赤外線吸収材。
【請求項10】
前記透明基材は、PETフィルム又は易接着性PETフィルムである、請求項9に記載の近赤外線吸収材。
【請求項11】
請求項7から10のいずれかに記載の近赤外線吸収材を用いてなる、薄型ディスプレー用光学フィルター。
【請求項12】
請求項7から10のいずれかに記載の近赤外線吸収材を用いてなる、光半導体素子用光学フィルター。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかに記載の近赤外線吸収粘着剤組成物、請求項7から10のいずれかに記載の近赤外線吸収材または請求項11に記載の光学フィルターを用いてなる、薄型ディスプレー。

【公開番号】特開2009−203301(P2009−203301A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45542(P2008−45542)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】