近赤外線遮蔽性高透光シート及びそれを用いた近赤外線ノイズ遮蔽材
【課題】近赤外線遮蔽性と高い可視光透過性を有する近赤外線遮蔽性高透光シート、及び、光線透過率意匠性に優れた近赤外線ノイズ遮蔽材の提供。
【解決手段】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、近赤外線制御層を含み、前記近赤外線制御層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有することによって得られ、その背面に光源を配したシェード照明とすることで、透過光の色調が自然で意匠性に優れた、近赤外線ノイズ遮蔽材が得られる。
【解決手段】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、近赤外線制御層を含み、前記近赤外線制御層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有することによって得られ、その背面に光源を配したシェード照明とすることで、透過光の色調が自然で意匠性に優れた、近赤外線ノイズ遮蔽材が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外線遮蔽性を有し、かつ高い可視光透過性を有する近赤外線遮蔽性高透光シート、及び、そのシートを用いた意匠性に優れた近赤外線ノイズ遮蔽材に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などにおける天井部材、壁材、壁看板の構築部材に用いるシートに関するものであり、特に光源の存在を目立たなくする光源隠蔽効果と可視光線透過性を併せ持つ照明用シェード機能を有し、さらに光源から発する近赤外線ノイズを低減して、近赤外線を利用したセンサーやワイヤレスリモートコントローラーの誤動作を防ぎ、ワイヤレス音響機器へのノイズ混入や、赤外線通信機器のデータ通信エラーを回避でき、近赤外線遮蔽性を付与することに伴う着色が軽減され、かつ建築基準法に適合する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートと、そのシートを用いた近赤外線ノイズ遮蔽材とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などでは、照明設備自体を極力露出しない照明デザインが採用されているが、最近の新築施設では、より空間の洗練性と明るさを追求した照明手段として、天井のほぼ全面を照明シェード化することによって、天井全体を発光させる方法によって、蛍光灯ユニットの存在を目立たなくした光天井照明の導入が進んでおり、この流れはオフィスビル、マンション、一般住宅へも波及している。光天井としては、無機系繊維織物を基材とする長尺膜材を天井全面に施工してなるものが、特に建築物の耐久性と施工性に融通し、しかも照明シェードとして優れた光拡散効果と光源隠蔽効果とを兼備している。また、コンビニエンスストア、ファーストフード店、居酒屋、カラオケ店、ガソリンスタンド、金融ATMなどの各種販売業、及びサービス業においては、昼夜問わず内照表示する看板表示システムが多用されており、これらの内照式看板は屋号や広告の効果的表示機能と同時に夜間照明としても機能している。更に、駅構内、地下鉄駅構内、地下街、地下連絡通路の壁面には様々な広告看板で埋め尽くされているが、これらの広告看板も照明機能を兼用することで地下空間には欠かせない存在である。また建造物内や地下施設内などにおいては避難誘導などの情報表示も不可欠である。これらの内照式広告看板としては、光拡散性を有するアクリル樹脂板にプリントやマーキングを施し、看板の裏面側に設けた蛍光灯により行燈効果を得るタイプが主流であるが、建築物に附帯する大型看板用途では高い防炎性能と耐衝撃強度が必要であるため、例えば、ポリエステル繊維織物を基材として、その両面を軟質塩化ビニル樹脂フィルムで積層した繊維強化フレキシブル膜材が内照式看板に使用されており、特に屋内用途では無機系繊維織物を基材とする難燃性のフレキシブル膜材が使用されている。
【0003】
ところが、最近、これらの照明器具から放射される近赤外線が、センサーやリモートコントローラーの誤動作やデータ通信におけるノイズの原因として注目される様になってきた。近赤外線は、例えば、自動扉、自動改札、防犯装置、カメラなどに付属するセンサー類、携帯電話、パソコン、音響機器などの光無線データ通信、テレビ、エアコンなど電気・電子機器を制御するためのリモートコントローラー、などに広く利用されているが、それらに利用する近赤外線の波長領域(800〜1200nm)が、照明器具、中でもインバーター蛍光灯から放出される近赤外線の波長領域と近似しているため、照明器具から周辺に放出された近赤外線が、センサーやリモートコントローラーの誤動作を引き起こしたり、ワイヤレス音響機器にノイズを混入させたり、データ通信速度を低下させる、などの問題を引き起こしている。
【0004】
この様ないわゆる近赤外線ノイズへの対策のひとつとして、センサー、リモートコントローラー、データ通信、等に用いる近赤外線の信号強度を大幅に強くする方法がある。近赤外線ノイズよりも、信号の強度が十分に大きければ、ノイズの影響を受け難くなる。しかし、この場合消費電力が増加して環境負荷が高まりかつ不経済であるばかりでなく、センサーやリモートコントローラーから放出される信号自体が、他の隣接する機器へのノイズ源となる問題があった。信号に混入したノイズを受信機側で選択的に除去する試みも開示されている(例えば、特許文献1参照)が、既に設置されている機器を交換する場合には費用負担が重く、また、特定のノイズ源からのノイズを検知して、信号から除去する仕組みであるため、複数のノイズ源が混在する環境では効果が十分ではなかった。
【0005】
タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の微粒子を含有した塗料を用いて、近赤外線を吸収し、かつ可視光線を透過する試みも提案されている。(例えば特許文献2および3参照)これらの塗料を光源や照明シェードに塗布すれば、近赤外線ノイズの影響を低減することが可能であるが、この様な塗膜は、一般に非常に薄く、十分な効果が得られないことがあった。また、溶剤や水に可溶な樹脂をバインダーとする溶液を、単に塗布乾燥した塗膜では、その薄さにより耐久性が不足するため、通常は紫外線、電子線などで硬化した塗膜が求められるが、その様な塗膜を形成するためには特別な設備が必要であり、製造面で汎用性に乏しいものであった。
【0006】
樹脂にタングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の微粒子を分散させたフィルムについても開示されている。(例えば特許文献4参照)このフィルムをそのまま、あるいは補強のための基材と積層して用いれば、十分な厚さの近赤外線遮蔽層を有する耐久性の高い照明用シェードが得られる。しかし、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物は、近赤外線領域だけでなくその近傍の可視領域の赤や橙にも吸収を有するため、それらを加えたフィルムの透過色は強い青みを呈し、自由な色調の照明効果を得ることが困難であり、更に、可視領域が吸収されることで光線透光率が低下する問題も有していた。また、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物は、透明性を得るために非常に細かい微粒子が用いられるが、そのため、それらが添加された樹脂シートを照明用シェードに用いると、レイリー散乱のため角度によって照明の色調が異なって見えたり、他の照明からの光がシェード表面に当たって反射する際に青白く濁って見えるなど、意匠性が損なわれる問題を有していた。レイリー散乱については、タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の粒子径を大きくすれば軽減することができるが、粒子の大きさによっては黄色く着色したり、可視領域の光線透過率が低下するなどの問題を有していた。タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の微粒子と特定の紫外線吸収剤を樹脂中に一緒に分散することで、紫外線および短波長の可視光線(紫や青)を吸収し、レイリー散乱により表面が青白く濁る現象を軽減する方法も提案されており(例えば特許文献5参照)、プラズマディスプレイのカバーとしてはある程度効果が得られている。しかし、照明用シェードに用いる場合には、角度によって照明の色調が異なる現象を抑えることができず、効果が十分であるとは言えなかった。
【0007】
可視光線を透過して赤外線を遮蔽する方法として、この他に、真空蒸着又はスパッタリング法等により、表面にインジウム/スズ酸化物(ITO)やアンチモン/スズ酸化物(ATO)等の金属酸化物薄膜を設けたり、これらの金属酸化物からなる粒子を練りこんだ樹脂層を設ける、などの方法も知られている。しかし、ITOやATOは可視光線をほとんど反射も吸収もしないため透過色に影響は与えないが 、リモートコントローラーやセンサー類で利用される800〜1200nmの波長領域についてもほとんど遮蔽しないため、近赤外線ノイズの対策には用いることができなかった。
【0008】
近赤外線ノイズが問題となるのは主に屋内であり、天井や壁面に設置された照明装置から発生するノイズだけでなく、駅構内、地下商店街、それらに付随する通路、その他公共施設内に設置された内照式の看板や案内板も、近赤外線ノイズ発生源となっている。屋内に設置されたこれらの光源からの近赤外線ノイズを遮蔽するためには、近赤外線を遮蔽し可視光線を透過する機能を有する照明用シェードや看板材を用いる必要があるが、従来から用いられているプラスチック製のカバーや看板は、透光性や光源の隠蔽性には配慮しているものの、近赤外線ノイズ対策は施されておらず、また、建築基準法に適合する不燃性も有さないため、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などの建築部材に用いることができなかった。
【0009】
以上述べた様に現在までのところ、光源隠蔽効果と可視光線透過性を併せ持ち、光源から発する近赤外線ノイズを低減する効果を有し、かつ、透過光の着色が少なく、角度によって色調が変化することのない照明用シェードは存在しておらず、特に上記の特性に併せて、建築基準法に適合する不燃性を有し、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などにおいて、光天井部材、光壁材、内照看板材として広く利用できるシェード照明の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−99932号公報
【特許文献2】特開2006−154516号公報
【特許文献3】特開2006−201463号公報
【特許文献4】特開2008−274047号公報
【特許文献5】特開2007−316336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、近赤外線遮蔽性を有し、かつ高い可視光透過性を有し、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含有することによる青い着色が抑制され、角度によって照明の色調が異なって見えたり、光が当たった時に青白く濁って見えたりすることが無い近赤外線遮蔽性高透光シートの提供を目的とし、特に建築基準法に適合する不燃性を有し、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などにおける天井部材、壁材、壁看板の構築部材に好適に用いる事のできる、近赤外線遮蔽性高透光シート、及びそれを用いた近赤外線ノイズ遮蔽材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討の結果、近赤外線制御層を含む可撓性シートにおいて、前記近赤外線制御層を合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造とし、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方にタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有させる事により、樹脂層全体にこれらの微粒子を含ませるのと同等以上の近赤外線遮蔽性を有しながら可視領域の光線透過性が高く、光源隠蔽効果にも優れ、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含有することにより透過光が青く着色するのを抑え、しかも角度によって照明の色調が異なって見えたり、光が当たった時に青白く濁る現象を抑制した、近赤外線遮蔽性高透光シートが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、近赤外線制御層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線制御層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有するものである。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含むことが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が、ハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物(一般式XB6で表され、XはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zr、Ba、SrおよびCaから選択される1種または2種の元素)粒子から選ばれた一種以上を含むことが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記海島構造において、前記海成分中に分散する前記島成分の平均粒子径が0.4〜20.0μmであることが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、光拡散層を含む積層体であり、前記光拡散層が、平均粒子径0.1〜10μm、屈折率1.55以上の光拡散性物質を含む事が好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、繊維基布を含む積層体である事が好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記繊維基布がガラス繊維、シリカ繊維およびアルミナ繊維から選ばれた少なくとも1種の無機繊維から構成され、前記積層体において、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有することが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、最外層に防汚層が設けられていることが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記防汚層が、光触媒性物質を含み、前記光触媒性物質が、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上であることが好ましい。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、高透光性可撓性シートの背面に光源を配置したシェード照明であり、前記可撓性シートが、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線制御層を含むものである。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含むことが好ましい。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材において、前記高透光性可撓性シートが、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上の光触媒性物質を含む防汚層を有し、前記防汚層を光源側に向けて配置することが好ましい。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材において、前記シェード照明が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記近赤外線遮蔽性高透光シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い近赤外線遮蔽性と、可視光透過性とを有し、更に意匠性にも優れた、照明用シェード機能を有する近赤外線遮蔽性高透光シートを提供することができる。特に建築基準法に適合する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートは、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などで、光天井部材、光壁材、内照看板材に好適に用いることができる。この近赤外線遮蔽性高透光シートを、既設の照明設備、内照式看板、などにシェードとして置き換えることで、近赤外線ノイズに起因する問題を解消することができる。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、光源から発する近赤外線ノイズによるセンサーやワイヤレスリモートコントローラーの誤動作、ワイヤレス音響機器へのノイズ混入、赤外線通信機器のデータ通信エラー、などの問題を引き起こすことがなく、しかもシェード照明として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図2】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図3】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図4】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図5】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図6】島成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含む近赤外線制御層を示す図
【図7】海成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含む近赤外線制御層を示す図
【図8】島成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含み、海成分がベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化 合物から選ばれる一種以上を含む近赤外線制御層を示す図
【図9】島成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含み、海成分がハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物 粒子から選ばれた一種以上を含む近赤外線制御層を示す図
【図10】本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を天井に用いたシェード照明の一例を 示す図
【図11】本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を内照式看板に用いたシェード照明の一例 を示す図
【図12】実施例及び比較例において、評価に用いた光天井モデルの構成を示す図
【図13】実施例及び比較例において、タバコ汚れの落ちやすさ評価を行った時の 蛍光灯とサンプルの配置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シート(1)は、少なくとも1層の近赤外線制御層(2)を含む可撓性シートであって、その近赤外線制御層(2)は、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、海成分または島成分の何れか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子(以下これらを併せてタングステン微粒子と記すことがある)を含有することで、樹脂層全体にこれらの微粒子を含ませるのと同等以上の近赤外線遮蔽性を有しながら可視領域の光線透過性が高く、光源隠蔽効果にも優れ、タングステン微粒子を含有することによる青い着色が抑えられ、しかも光が当たった時に青白く濁る現象を抑制することができるものである。その形態は、樹脂シート(樹脂フィルム)、または、繊維基布(5)と近赤外線制御層(2)を含む繊維基布含有積層体である。樹脂シートはカレンダー成型法、Tダイス押出法、あるいはキャスティング法等の方法により成型することができ、図1の様に近赤外線制御層(2)単層であっても良く、近赤外線制御層を含む複数の樹脂シートを積層した積層体であっても良い。繊維基布含有積層体は、有機溶剤に可溶化した可撓性樹脂、水中で乳化重合された可撓性樹脂エマルジョン(ラテックス)、あるいは可撓性樹脂を水中に強制分散させ安定化したディスパージョン樹脂などの水分散樹脂、軟質ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル、等を用いるディッピング加工(繊維基布への両面加工)、コーティング加工(繊維基布への片面加工、または両面加工)等によって製造することができ、これらのディッピング加工層、コーティング加工層の少なくとも1層が近赤外線制御層であれば良く、例えば、図2の様にディッピング加工により繊維基布に含浸被覆した近赤外線制御層(2)を形成し、その両面に防汚層(8)を形成した構成であっても良い。繊維基布含有積層体はまた、カレンダー成型法、Tダイス押出法またはキャスティング法等により成型されたフィルム又はシートを、繊維基布の片面または両面に接着層を介在して積層する方法、あるいは図3の様に粗目状の繊維基布(5)の両面に目抜け空隙部を介して熱ラミネート積層する方法により製造することもでき、さらにディッピング加工、またはコーティング加工と、フィルム積層の組み合わせによる方法、例えば、図4の様にあらかじめ樹脂を被覆(図4では光拡散性物質を含む光拡散層(7))した樹脂含浸被覆基布(6)の片面(または両面)にフィルム(図4では近赤外線制御層(2))を熱ラミネート積層する方法、によっても製造可能であり、これらのフィルム又はシート、ディッピング加工層、コーティング加工層の少なくとも1層が近赤外線制御層(2)であれば良く、2層以上が近赤外線制御層(2)であっても良い。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、800〜1200nmの近赤外線を遮蔽する能力を有し、具体的には、波長950nmにおける透過率が30%以下であることが好ましく、20%以下であることが更に好ましい。波長950nmにおける透過率が30%を超えると、光源から放出される近赤外線ノイズの遮蔽が不十分となり、近赤外線を使用したセンサーやリモートコントローラー等に誤動作を生じさせることがある。また、本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの光線透過率(JISZ8722.5.4(条件g))は、樹脂シートの場合40〜90%、繊維基布含有積層体である場合15〜80%であることが好ましい。
【0017】
本発明において、近赤外線制御層は、合成樹脂ブレンドの溶融、または合成樹脂ブレンドの液状合成樹脂の攪拌混合物により公知の加工方法によって成型される。本発明で好ましく用いられる合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など、光線透過率が高く可撓性のある熱可塑性樹脂および硬化性樹脂が挙げられる。
【0018】
本発明の近赤外線制御層は、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、この合成樹脂ブレンドの組み合わせについて、非相溶であれば特に制限はない。非相溶の組合せ例としては、塩化ビニル樹脂とポリエチレン、塩化ビニル樹脂とポリプロピレン、塩化ビニル樹脂とスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂とスチレン系共重合樹脂、塩化ビニル樹脂とシリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂とフッ素含有共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂とビニルエステル樹脂、ポリスチレンとポリエチレン、ポリスチレンとポリプロピレン、ウレタン樹脂とポリエチレン、ウレタン樹脂とポリプロピレン、ポリエステル樹脂とポリエチレン、ポリエステル樹脂とポリプロピレン、ポリアミドとポリカーボネート、アクリル樹脂とポリスチレン、アクリル樹脂とポリカーボネート、ポリアミドとスチレン樹脂、ポリアミドとポリプロピレンなど2種類の合成樹脂のブレンドが好ましい。これらの非相溶の可撓性樹脂対に対して、さらに別種の可撓性樹脂を含有することもできる。
【0019】
これらの非相溶混合物は相分離構造を示す白濁概観の海島構造であることが好ましい。この海島構造において海成分と島成分は種類の異なる樹脂で構成され、例えば合成樹脂Aと合成樹脂Bからなる非相溶混合物において、合成樹脂Aと合成樹脂Bとの比率設定により、海成分を合成樹脂Aで構成し、島成分を合成樹脂Bで構成することができ、また海成分を合成樹脂Bで構成し、島成分を合成樹脂Aで構成することもできる。近赤外線制御層が海島構造を有することで、海成分と島成分の界面で可視光線が拡散されて光源隠蔽効果が得られる。また、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン微粒子を含んでいることで、樹脂全体に均一にタングステン微粒子を含むシートに比べて高い光線透過率(JISZ8722.5.4(条件g))を得ながら、800〜1200nmの近赤外線に対しては樹脂全体にタングステン微粒子を含むのと同等の遮蔽性を示す。更に、タングステン微粒子添加により透過光が青く着色するのを抑え、かつ、レイリー散乱により、見る角度によって照明の色調が変化したり、シートに光が当たった時に青白く濁る現象も抑制できる。島成分を構成する合成樹脂の比率は、海成分を構成する合成樹脂の体積に対して3〜50体積%が好ましく、5〜40体積%がより好ましい。海島構造を有する近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は2.9〜33.3体積%が好ましく、4.7〜28.6体積%がより好ましい。海島構造を有する近赤外線制御層全体に対する島成分含有率が2.9体積%未満では、島成分にタングステン微粒子が含まれる場合の近赤外線遮蔽効果が不十分になる事があり、海成分にタングステン微粒子が含まれる場合には、海島構造を有さない場合と差が無くなる。一方33.3体積%を超えると、近赤外線制御層の樹脂強度が低下し、得られるシートの強度や耐久性が低くなるので好ましくない。また非相溶の可撓性樹脂対A−Bに対して、さらに別種の可撓性樹脂Cを含有する場合、海島構造において島成分が可撓性樹脂Bによる島成分と可撓性樹脂Cによる島成分で構成されてもよく、同様に島成分が可撓性樹脂Aによる島成分と可撓性樹脂Cによる島成分で構成されてもよい。本発明において海島構造を有する近赤外線制御層の厚さは、0.03〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.5mmである。近赤外線制御層の厚さが0.03mm未満では、十分な近赤外線遮蔽性が得られないことがあり、1.0mmを超えると柔軟なシートが得られなくなることがある。
【0020】
本発明の海島構造を有する近赤外線制御層において、海成分と島成分の界面における屈折散乱現象により光が散乱される。このとき、780nmを超える近赤外線を選択的に散乱させることができれば、近赤外線遮蔽性を更に向上させる効果が期待できる。その様な効果を得るためには、島成分の平均粒子径が0.4〜20.0μmであることが好ましい。ここで、海成分と島成分を構成する非相溶の樹脂の組み合わせにおいて、それぞれの樹脂の屈折率に差を有し、その屈折率差が0.04以上であることが好ましい。海成分と島成分の屈折率は、いずれの側が高くてもかまわないが、海成分よりも島成分の屈折率が高いことが好ましい。島成分の好ましい平均粒子径は、上記範囲内で海成分と島成分の屈折率差によって異なり、例えば屈折率差が0.05であれば、島成分の平均粒子径は5〜19μmである事が好ましく、屈折率差が0.2であれば、島成分の平均粒子径は1〜5μmであることが好ましい。島成分の平均粒子径が0.4μm未満であると、界面における屈折散乱現象により可視光領域の一部で光の散乱が大きくなり、可視領域の光を部分的に散乱することにより、近赤外線遮蔽層が着色されているように見えることがある。島成分の平均粒子径が20μmを超えると、近赤外線遮蔽層の強度が低下することがあり、また、可視光線全域に亘る散乱を起こし、光線透過率が低下することがある。島成分の形状は球状、歪んだ球状、碁石状、ラグビーボール状などである。なお、島成分の平均粒子径は、顕微鏡拡大写真から一定面積中に分布する島成分の径を測定し、平均する事で求められる。また、屈折率はD線を光源とするアッベ屈折率計により求めることができる。
【0021】
本発明に用いられるタングステン酸化物は、WyOzで表記したとき(ただしW:タングステン、O:酸素)、2.2≦z/y<3.0である事が好ましい。三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、近赤外線遮蔽材料としてはあまり有効ではない。z/yが2.2以上であれば、タングステン酸化物中にWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来る。本発明に用いられる複合タングステン酸化物微粒子は、式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Csの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素)で表され、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3であることが好ましい。タングステン酸化物へ、元素Mを添加して複合タングステン酸化物とすることで、複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となる。ここで、元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線遮蔽効果を得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。一方酸素量の制御を示すz/yの値については、上述したタングステン酸化物同様2.2≦z/y<3.0である事が好ましいが、複合タングステン酸化物の場合、z/y=3.0であっても、元素Mが加えられた事による自由電子の供給があるため、近赤外線遮蔽材料として有効である。
【0022】
本発明においてタングステン微粒子の粒子径は、1〜1000nmである事が好ましく、2〜200nmであることがより好ましい。1000nmを越えると粒子を含む樹脂の隠蔽性が高くなり、可視領域の光線透過率が低下することがある。粒子径が小さいほど隠蔽性が低くなり、200nm以下であれば光線透過率の高い樹脂層を得ることができるが、1nm未満の粒子は入手が困難であり、また樹脂中への分散が困難である。海成分または島成分に含まれるタングステン微粒子は、海成分または島成分を構成する合成樹脂100質量部に対して0.001〜5質量部が好ましく、0.005〜3質量部がより好ましい。0.001質量部未満では添加による近赤外線遮蔽効果が不充分となって、充分な近赤外線遮蔽性が得られないことがある。5質量部を超えて添加しても近赤外線遮蔽効果の向上はわずかであり、添加量が多くなることで透過色が濃い青色を示し、光線透過率が低下し、かつ、経済的にも不利となる。
【0023】
本発明の近赤外線制御層において、海島構造の海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含む事が好ましい。ここで、「340〜410nmの波長領域に吸収帯を有する」とは、分光光度計で測定したときに、少なくともこの波長領域全てにわたって吸光度を有することである。340nm未満及び410nmを超える波長領域に吸光度を有してもかまわないが、340〜410nmの波長領域に吸光度のピーク(最大吸収波長)を有することが好ましい。これらの化合物を含むことで、レイリー散乱の原因となる紫外線や短波長の可視光(紫や青)の一部を吸収し、角度によって照明の色調が変わったり、近赤外線制御層に光が当たった際に青白く濁る現象を更に抑制することができる。構成としては(i)海成分にタングステン微粒子を含み島成分にこれらの化合物を含む構成、(ii)島成分にタングステン微粒子を含み海成分にこれらの化合物を含む構成、のいずれでも本発明の目的を達成することができるが、特に(ii)の構成は、レイリー散乱を抑制する効果がより高く、好ましい。上記ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2'−ヒドロキシ−3',5'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレン−ビス〔4−メチル−6−(ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕等を挙げることができる。また、上記安息香酸エステル化合物としては、例えばジエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、メチルエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、ジメチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、エチルプロピルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、ジプロピルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート等を挙げることができる。これらの化合物は、一種を単独で用いても、二種以上を併用して用いても良く、その添加量は海成分または島成分を構成する樹脂100質量部に対して、0.2〜3.0質量部であることが好ましく、0.4〜2.5質量部がより好ましい。添加量が0.2質量部未満であるとレイリー散乱を抑制する効果が不十分になることがあり、3.0質量部を超えるとこれらの化合物が樹脂表面に移行してシートの外観を損なうことがある。
【0024】
本発明の近赤外線制御層において、海島構造の海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン微粒子を含み、かつ、もう一方の相がハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物粒子から選ばれた一種以上を含むことが好ましい。本発明に用いる、ハイドロタルサイト類化合物は、一般式[M2+1−xM3+x(OH)2][An−x/n・mH2O]で表される層構造を有する複水酸化物である。(式中M2+はMg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等の2価の金属イオンを表し、M3+はAl3+、Fe3+、Mn3+、In3+、Ce3+等の3価の金属イオンを表し、An−はOH−、F−、Cl−、Br−、NO3−、CO32−、SO42−、Fe(CN)63−、CH3COO−、シュウ酸イオン、サリチン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン等のn価の層間陰イオンを表し、x及びmはそれぞれ0<x<0.5、0≦m、の範囲にある)ハイドロタルサイト類化合物は、屈折率が1.5程度と一般的な樹脂の屈折率に近いため、ハイドロタルサイト類化合物と樹脂との界面での光散乱がほとんど無く、可視光領域での光の吸収がほとんど無いので、樹脂に添加しても色相の変化や光線透過率の低下がほとんど無い。しかも赤外線領域に吸収を有するため、これを加えることで、色相や光線透過率への影響を最小限に抑えながら、近赤外線の遮蔽性を向上させることができる。海成分または島成分を構成する樹脂100質量部に対するハイドロタルサイト類化合物の添加量は、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。添加量が0.01質量部未満では添加の効果が得られないことがあり、10質量部を超えて添加しても近赤外線の遮蔽性向上効果はわずかであり、また、樹脂層が硬くなり柔軟性が損なわれる事がある。ハイドロタルサイト類化合物粒子の平均粒子径は0.01〜10μmであることが樹脂への分散性の観点から好ましく、0.1〜2μmがより好ましい。本発明に用いる、6ホウ化物は、一般式XB6で表される化合物である。(XはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zr、Ba、SrおよびCaから選択される1種または2種の元素、Bはホウ素)6ホウ化物粒子は、近赤外線領域に吸収を有するため、添加することで近赤外線の遮蔽性を向上させることができる。また、タングステン微粒子同様可視領域の一部に吸収を有するが、その透過色はタングステン微粒子の青色とは異なり緑色であり、海島構造の海成分または島成分のいずれか一方の相に透過色が青色となるタングステン微粒子を含み、もう一方の相に透過色が緑色となる6ホウ化物粒子を含むことで、吸収のピーク巾が拡がり、より彩色性の低いニュートラルな色調の近赤外線制御層を得ることができる。海成分または島成分を構成する樹脂に対する6ホウ化物粒子の添加量を調整することにより、透過色を好みの色調に調整し、かつ近赤外線遮蔽性を向上させることができる。海成分または島成分を構成する樹脂100質量部に対する6ホウ化物粒子の添加量は0.001〜5質量部が好ましく、0.005〜3質量部がより好ましい。添加量が0.001質量部未満では添加の効果が得られないことがあり、5質量部を超えて添加しても近赤外線の遮蔽性向上効果はわずかであり、また、光線透過率が低下することがある。6ホウ化物粒子の平均粒子径は1〜800nmであることが好ましく、2〜200nmであることがより好ましい。粒子径が1nm未満では樹脂への均一な分散が困難となることがあり、800nmを超えると、光線透過率が大きく低下することがある。樹脂へのハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物粒子の添加は、単独でも良く、併用しても良い。ハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物粒子は、樹脂への分散性を向上させるために、表面をシリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、及び高級脂肪酸で被覆されたものを用いても良い。
【0025】
本発明の近赤外線制御層において、海成分または島成分のいずれか一方にタングステン微粒子を含む海島構造を形成するには、例えば、非相溶混合物を構成する2種類の合成樹脂を含むゾル、溶液、分散液、未硬化液等の樹脂混合液のいずれか一方にタングステン微粒子を分散し、このタングステン微粒子分散樹脂混合液とタングステン微粒子非分散樹脂混合液を合わせて撹拌混合して、島成分の平均粒子径を0.4〜20.0μmに調製した非相溶樹脂混合物液を、繊維基布に対してディッピング加工あるいはコーティング加工により被覆する方法や、非相溶混合物を構成する2種類の合成樹脂のいずれか一方にあらかじめタングステン微粒子を分散し、タングステン微粒子非分散合成樹脂とタングステン微粒子分散合成樹脂とを溶融混合して、島成分の平均粒子径を0.4〜20.0μmに調製した非相溶樹脂混合物を、カレンダー成型法、またはTダイス押出法によりシートに成型したり、そのようにして得られたシートを繊維基布に積層する方法などを採ることができる。これらの方法により、タングステン微粒子分散海成分とタングステン微粒子非分散島成分による構成、またはタングステン微粒子非分散海成分とタングステン微粒子分散島成分による構成の近赤外線制御層を得ることができる。本発明の混合物ではタングステン微粒子分散合成樹脂成分は非相溶対のタングステン微粒子非分散合成樹脂成分と交じり合うことは無いから、タングステン微粒子分散合成樹脂成分に含まれるタングステン微粒子が、タングステン微粒子非分散合成樹脂成分側に混入する事は無い。また本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートにおいて近赤外線制御層は、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン微粒子を含んでいることで、良好な近赤外線遮蔽性を得ながら、近赤外線制御層全体にタングステン微粒子を含むのに比べて可視光線の透過性を向上させることができ、更に、高価なタングステン微粒子の使用量を減らすことでコスト面でも有利である。また、これらタングステン微粒子を含む樹脂層は通常青みの色調を帯び、また、可視領域の光線透過率も下がるため、その影響を抑えるには、島成分にタングステン微粒子を含むことが好ましい。島成分の側にタングステン微粒子を含むことで、海成分を通して可視領域の光線透過率の高い近赤外線遮蔽性高透光シートを得ることができ、更にレイリー散乱の影響、すなわち、角度によって照明の色調が変わって見えたり、表面が青白く濁って見える現象を抑えることができる。
【0026】
本発明の近赤外線遮蔽性シートにおいて、近赤外線制御層は、この他に必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、充填剤、接着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、蛍光増白剤、蛍光顔料、有機顔料、蓄光顔料などが例示される。
【0027】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、近赤外線制御層とは別に光拡散層を含むことが好ましい。光拡散層を含むことで、近赤外線遮蔽性高透光シートの背後に配した光源を、より目立ちにくくすることができる。光拡散層は、可撓性樹脂中に平均粒子径0.1〜10μm、屈折率1.55以上の光拡散性物質を含む層であることが好ましい。光拡散層を構成する可撓性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など、光線透過率が高く可撓性のある熱可塑性樹脂および硬化性樹脂から選択して用いることができる。可撓性樹脂中に含まれる光拡散性物質は、白色顔料、パール顔料、ガラスビーズ、ガラス粒子、樹脂ビーズおよび樹脂粒子から選ばれた少なくとも一種の粒子である。白色顔料は、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸バリウム(BaSO4)などの白色顔料の他、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タングステン(WO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)などの白色の無機粒子を包含する。パール顔料は、天然雲母に高屈折率の金属酸化物(例えば酸化チタン)をコートした顔料が例示される。ガラスビーズは、中空ガラスビーズ、中実ガラスビーズが例示され、ガラス粒子は、ガラス粉末、ガラスビーズ破砕体が例示される。樹脂ビーズは、スチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、エポキシ系樹脂等からなる樹脂ビーズが例示され、特に光拡散層を構成する可撓性樹脂と非相溶の樹脂を用いる。これらの樹脂ビーズはコア−シェル複層構造を有していてもよく、架橋構造を有していてもよい。また樹脂粒子とはこれらの樹脂ビーズを破砕して得られる不定形粒子である。これらの光拡散性物質の平均粒子径は、0.1〜50μmが好ましく、白色顔料、ガラスビーズ、ガラス粒子、樹脂ビーズ、及び樹脂粒子のアスペクト比は1〜6が好ましく、特にパール顔料においてのアスペクト比は6〜60が好ましい。また可撓性樹脂100質量部に対する光拡散性物質の添加量は、0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜50質量部がさらに好ましい。添加量が0.1質量部未満では添加した効果が得られないことがある。また添加量が100質量部を超えると光線透過率が低下して、光天井部材、光壁材、内照看板材に用いた場合、十分な照明機能が発揮できなくなることがあり、また、光拡散層の樹脂強度が低下し、得られるシートの強度や耐久性が低くなることがある。
【0028】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートにおいて、光拡散層は、この他に必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、充填剤、接着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、蛍光増白剤、蛍光顔料、有機顔料、蓄光顔料などが例示される。
【0029】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、強度、耐久性、寸法安定性などを付与するために、繊維基布含有積層体である事が好ましい。繊維基布に用いられる繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維などの合成繊維、木綿、麻などの天然繊維、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの無機繊維が挙げられ、これらは単独または2種以上からなる混用繊維によって構成されていてもよい。その形状はマルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、モノフィラメント糸条、スプリットヤーン糸条、テープヤーン糸条などいずれであってもよいが、得られるシートの柔軟性及び強度の観点から、マルチフィラメント糸条が好ましい。本発明に使用される繊維基布は、織布、編布、不織布のいずれでもよい。織布を用いる場合、平織、綾織、繻子織、模紗織などいずれの構造をとるものでもよいが、平織織物は、得られる近赤外線遮蔽性高透光シートの縦緯物性バランスに優れているため好ましく用いられる。編布を用いるときはラッセル編の緯糸挿入トリコットが好ましく用いられる。これら編織物は、少なくともそれぞれ、糸間間隙をおいて平行に配置された経糸及び緯糸を含む糸条により構成された粗目状の編織物(空隙率は最大80%、好ましくは5〜50%)、及び非粗目状編織物(糸条間に実質上間隙が形成されていない編織物)を包含する。不織布としてはスパンボンド不織布などが使用できる。繊維基布には必要に応じて撥水処理、吸水防止処理、接着処理、難燃処理などが施されていても良い。
【0030】
上記の内特にガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維からなる非粗目状の編織物を繊維基布として用いることで、建築基準法に規定される不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートを得ることが可能となる。具体的には、輻射電気ヒーターを用いて50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、かつ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないことを満足する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートであり、例えばガラス繊維織布(目付質量200〜300g/m2、空隙率1%以下の非目抜け平織)を繊維基布として、この1面以上に近赤外線制御層を設けることで得られる。この不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートは、特に高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける大面積の天井、エレベーターかご内の天井、及び鉄道車両の天井などに設置された照明用シェードや、光天井用膜材に用いることができ、また、屋内外に設置され、不燃性を要求される内照式看板用の膜材にも用いることができる。
【0031】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートにおいて、経時的な汚れの付着による光線透過性の低下を防止し、且つ美観を維持するために、可撓性シートの最外層に少なくとも1層の防汚層が設けられていることが好ましい。防汚層は近赤外線遮蔽性高透光シートの光線透過性を損なわず、極度の隠蔽性を伴わないものである限り、その形成方法及び素材に特に限定はない。このような防汚層は例えば、溶剤に可溶化されたアクリル系樹脂もしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種以上からなる樹脂溶液あるいは樹脂分散液を塗布して形成した塗膜、これらにシリカ微粒子、またはコロイダルシリカを含む塗膜、オルガノシリケート及び/又はその縮合体を含む塗布剤で塗布し親水性被膜層を形成したもの、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン)と結着剤とを含む塗布剤を塗布し光触媒層を形成したもの、少なくとも最外表面がフッ素系樹脂により形成されたフィルムを接着剤もしくは熱溶融加工により積層したもの、等から適宜選択することができ、可撓性シートの一方の面に設けても良く、必要に応じて表裏両面に設けても良い。
【0032】
防汚層には特に光触媒性物質を含むことが好ましく、その光触媒性物質としては、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒などから選ばれた1種以上を含むことがさらに好ましい。これらの光触媒性物質は可視光応答型光触媒として知られ、これらを含む防汚層を有することで、光天井や光壁、内照式看板などの屋内用途において、セルフクリーニングによる防汚性が付与され、メンテナンスの負担を大幅に軽減することができるばかりでなく、高気密の屋内において問題になっているVOCを分解する効果も得られる。また、可視光応答型光触媒は紫外線だけでなく短波長側の可視光も吸収して活性を示すものであり、そのためレイリー散乱の原因となる紫外線および短波長の可視光線(紫や青)が一部遮蔽され、角度によって照明の色調が変わったり、表面が青白く濁る現象も抑制することもできる。
【0033】
可撓性シートと防汚層との間には、必要に応じて、可撓性シート表面(ひょうめん)と防汚層の接着性を付与するための接着層、防汚層が光触媒性物質を含む場合に光触媒によって樹脂が分解するのを妨げるための保護層、可撓性シートを構成する樹脂に含まれる添加剤が防汚層に移行するのを妨げるための添加剤移行防止層、等を形成してもよい。また、防汚層が形成された面とは反対の面には、近赤外線遮蔽性高透光シートの傷つきを防ぐための傷つき防止層、汚れを防ぐための防汚層、近赤外線遮蔽性高透光シートをロール状に巻き取って保管している間に、反対面側の樹脂層に含まれる添加剤が防汚層上に移行するのを防ぐための添加剤移行防止層、意匠性を付与するための印刷層、等を従来公知の方法で形成しても良い。
【0034】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、高透光性可撓性シート(近赤外線遮蔽性高透光シート)の背面に光源を配置したシェード照明であり、前記可撓性シートが、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線制御層を含むものである。光源から発した可視光線は高透光性可撓性シートによって適度に拡散されるため、照度が均一で、光源の存在が目立ち難いシェード照明が得られる。一方、光源やそれに付随する装置(例えば蛍光灯のインバーター)から発した近赤外線は、近赤外線制御層によって吸収・散乱され、シェード照明周辺において、センサーやリモートコントローラーの誤動作を引き起こしたり、ワイヤレス音響機器にノイズを混入させたり、データ通信速度低下などの問題を引き起こすことが無い。近赤外線制御層において、タングステン微粒子が、海成分または島成分の何れか一方に含有されることで、全体に含有するのに比べて高透光性可撓性シートを透過した光が青く着色することが抑えられ、自由な色調の照明効果を得ることが可能となり、シートの光線透過率が高くなることで、より明るい空間を演出することができる。また、タングステン微粒子が海成分または島成分の何れか一方のみに含有されるので、全体にタングステン微粒子を含むのに比べて、角度によって照明の色調が変わって見えたり、青白く濁って見える現象も抑制される。ここで、海成分または島成分の内、タングステン微粒子を含まない相に、340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含むことで、その抑制効果をより高いものとすることができ、更に、走光性昆虫がシェード照明内に誘引されて迷込むのを防ぐ効果ももたらされる。
【0035】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材において、高透光性可撓性シートが、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上の光触媒性物質を含む防汚層を有することで、高所に設置されたシェード照明や、大型のシェード照明、分解掃除が困難なシェード照明などのメンテナンスの負担が大幅に軽減されると共に、高気密の屋内において問題になっているVOCを分解する効果が得られる。上記の光触媒性物質は紫外線だけでなく短波長側の可視光を吸収して活性を示すものであり、そのためレイリー散乱の原因となる紫外線および短波長の可視光線(紫や青)が一部遮蔽され、角度によって照明の色調が変わって見えたり、光が当たったときに青白く濁る現象を更に抑制することができる。
【0036】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において、高透光性可撓性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えないことで、建築基準法に定められる不燃性を求められる用途に応用することができる。
【0037】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材における光源としては、特に限定は無く、白熱電球、蛍光灯(熱陰極管、冷陰極管)、外部電極型蛍光灯、ハロゲンランプ、HIDランプ、水銀灯、発光ダイオード(LED)、有機・無機ELなど、従来公知の照明から適宜選択して用いることができる。高透光性可撓性シートに対する光源の配置方法としては、高透光性可撓性シートの背面に複数個の光源を配置しても良く、板状の導光部材の側端面に冷陰極管を配置したエッジライト方式の面発光ユニットを、高透光性可撓性シートの背面に配して用いても良い。
【0038】
図10は、本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を用いた光天井の一例を示すものである。図10において、高透光性可撓性シート(近赤外線遮蔽性高透光シート)(1)が天井から吊り具(10)により吊り下げられた固定枠(11)に固定されており、高透光性可撓性シート(1)の背面には光源として蛍光灯(9−1)が配置されている。高透光性可撓性シート(1)が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、その海成分または島成分の何れか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する少なくとも1層の近赤外線制御層を含むことで、照度が均一で、光源の存在が目立ち難いシェード照明が得られ、光源やそれに付随する装置(例えば蛍光灯のインバーター)から発した近赤外線ノイズを遮蔽することができる。特に本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、建築基準法に適合する不燃性を有することで、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける大面積の天井に適して用いることが可能となり、更にはエレベーターかご内や鉄道車両の天井、一般家庭の天井などにも用いることができる。高透光性可撓性シート(1)の表裏両面に光触媒性物質を含む防汚層(8)を形成すれば、高所に設置された近赤外線ノイズ遮蔽材の掃除など、メンテナンスにかかる負担を軽減することができ、更に高気密の屋内において問題になっているVOCを分解する効果も得られる。近赤外線ノイズ遮蔽材は天井の全面に用いても良いし、所望の一部分だけに用いても良い。高透光性可撓性シートの背面に配置する蛍光灯は400nmから800nmの波長の光を放射する照明用蛍光灯であれば特に限定は無く、三波長形蛍光灯、高演色形蛍光灯、一般型蛍光灯のいずれの形式も使用でき、これらの色温度は、昼光色(5700K〜7100K)、昼白色(4600K〜5400K)、白色(3900K〜4500K)、温白色(3200K〜3700K)、電球色(2600K〜3150K)など、好みのタイプを選択して用いることができる。また、蛍光灯の代わりに白熱電球、HIDランプ、水銀灯、LEDなどを用いることもできる。天井の形状としては、図10の様な平面状に限らず、アーチ型やドーム型など曲面状の天井であっても良い。
【0039】
図11は、本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を用いた内照式看板の一例を示すものである。内照式看板のハウジング(12)に高透光性可撓性シート(近赤外線遮蔽性高透光シート)(1)を装着したもので、ハウジング(12)内部には蛍光灯(9−1)が配置されている。蛍光灯は400nmから800nmの波長の光を放射する照明用蛍光灯であれば特に限定は無く、三波長形蛍光灯、高演色形蛍光灯、一般型蛍光灯のいずれの形式も使用でき、これらの色温度は、昼光色(5700K〜7100K)、昼白色(4600K〜5400K)、白色(3900K〜4500K)、温白色(3200K〜3700K)、電球色(2600K〜3150K)など、好みのタイプを選択して用いることができる。光源としては、蛍光灯の他にLED、導光板の端部に光源(LED、冷陰極管等)を配置した面発光体、有機・無機ELなどを用いることもできる。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、建築基準法の指導に適合する不燃性を有することで、特に駅構内、地下商店街、それらに付随する通路、その他公共施設内に設置された内照式の看板や案内板などにも適して用いることができる。
【実施例】
【0040】
本発明を下記実施例、および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
下記実施例及び比較例で作成したシートについて、以下の評価を行った。
(I)光線透過率
JIS Z8722.5.4(条件g)に従いミノルタ分光測色計CM−3600dを用いて測定した。
(II)近赤外線遮蔽性
島津製作所UV−3600を用いて波長950nmの近赤外線の透過率を測定した。
透過率が低いほど近赤外線遮蔽性が高いものと判断し、以下の様に判定した。
1:透過率10%以下(近赤外線遮蔽性が非常に優れる)
2:透過率が10%を超え20%以下(近赤外線遮蔽シートとして十分効果あり)
3:透過率が20を超え30%以下(近赤外線遮蔽シートとして使用できる)
4:透過率が30%を超える(近赤外線遮蔽性が不十分)
(III)燃焼試験(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)
輻射電気ヒーターによる50kW/m2の輻射熱を産業資材構造物に20分間照射し、
この発熱性試験において、20分間の総発熱量と発熱速度を測定し、試験後の膜材外観
を観察した。
(a)総発熱量:8MJ/m2以下のものを適合とした。
(b)発熱速度:10秒以上継続して200kW/m2を超えないものを適合とした。
(c)外観観察:直径0.5mmを超えるピンホール陥没痕の発生がないものを適合と
した。
(IV)背面の光源の隠蔽性
実施例及び比較例で作成したシート(13)について図12に示した光天井モデルを
作製し、シート中央部真下の、シートの面に対して垂直の角度で2m離れた位置(A)
から観察し、以下の基準で光源の隠蔽性を評価した。光天井に用いたシート(13)の
サイズはたて150cm×よこ150cm、であり、シート(13)が床面から3mの
高さになる様に平面施工し、背面に光源として36ワット40型の直管3波長形昼白色
蛍光灯(9−1)を6本並行に25cm間隔で均等に配置し点灯した状態で評価した。
なお、図12において、シートと蛍光灯以外の要素(蛍光灯器具、ハウジング、電源、
配線など)の表現は省略した。
1:シート全面がほぼ均一に光り、蛍光灯がまったく視認できず、位置もわからない
2:蛍光灯の位置は概ね見当をつけられるが、ほとんど視認できない
3:シートを通して蛍光灯が視認でき、光源隠蔽効果に劣る
(V)光源の色調に対する透過光の色調の変化
実施例及び比較例で作成したシート(13)について図12の光天井モデルを用い、
蛍光灯(9−1)を点灯した状態で下方の、シートの面に対して垂直の角度で2m離れ
た位置(A)から観察し、3波長形昼白色蛍光灯の色調に対する透過光の変化を目視で
確認し、以下の様に評価した。
1:透過光の色調は、ほとんど変化が無く、自然な色調の照明効果が得られる
2:透過光にわずかに着色が見られるが、シェード照明として問題なく使用できる
3:透過光に明らかな着色が見られ、自然な色調の照明効果が得られない
(VI)斜め方向から観察したシートの色調
実施例及び比較例で作成したシート(13)について図12の光天井モデルを用い、
下方の、シートの面に対して15度の角度で5m離れた位置(B)からシート表面を観
察し、位置(A)から垂直に観察した場合との色調の変化を、以下の基準で評価した。
1:垂直の角度から観察した色調と変わらない
2:色調がわずかに変化して見えるが、シェード照明として問題なく使用できる
3:垂直の角度から観察したのに比べ、色調が不自然に変わり、照明シェードとして
意匠性に劣る
(VII)粉体汚れ防止性及び汚れの落ちやすさ
空気中の粉塵や花粉などに対する粉体汚染物質に対する汚れ防止性を試験するため、
JISL1919:2006に従い、人工汚染物質は粉体汚染物質−2を用いA−2
法の汚れにくさ試験を行った。初期の試験片表面の色を基準とし、試験後の試験片との
色差ΔE(JIS K7105.5.4)を測定し、以下の様に評価した。
1:汚れの付着が極めて少なく汚れ防止性が非常に優れている(ΔEが5以下)
2:汚れ防止性が優れている(ΔEが5を超え10以下)
3:汚れ防止性が劣る(ΔEが10を超える)
上記試験に続いて、汚れの落ちやすさを以下の様に試験した。
水を含ませ、しずくが垂れない程度に軽く絞った紙ワイパーを用いて、上記(VII)の
汚れにくさ評価後の試料片表面の中央を、一定方向に10回軽くふき取り、次いで水を
含ませない紙ワイパーを軽く押し付けて試験片の表面に残った水分を除き、その後常温
で1時間乾燥させてから、初期の試料片表面の色を基準とし、試験後の試料片との色差
ΔE(JISK7105.5.4)を測定し、以下の様に評価した。なお、紙ワイパーとしては日本
製紙クレシア(株)製の商品名:キムワイプS−200を用いた。
1:汚れを落としやすい(ΔEが3以下)
2:汚れをある程度落とすことができる(ΔEが3を超え5以下)
3:ふき取り後も汚れが残る(ΔEが5を超える)
(VIII)タバコ汚れ防止性および汚れの落ちやすさ
タバコ汚れを想定した汚れ防止性を以下の様に試験した。
内側のサイズが幅50cm×高さ20cm×奥行き20cmの透明なアクリル製の箱の
底面中央部に、実施例・比較例で作成した幅10cm×長さ10cmのシート(12)
を置き、箱内部にタバコ5本分の煙を送り込み30分間煙を付着させてからシートを取
り出し、初期の試料片表面の色を基準とし、試験後の試験片との色差ΔEを測定
(JISK7105.5.4)し、以下の様に評価した。なお、タバコの煙は、ダイヤフラムポンプ
に連結したチューブを煙草のフィルター側に取り付け、タバコに着火してから、ダイヤ
フラムポンプを1,800cm3/分の風量で駆動させて、煙草のフィルターを通過した煙
をポンプの吐出側から箱内部に送り込んだ。
1:汚れの付着が少なく汚れ防止性が優れている(ΔEが5以下)
2:汚れ防止性が優れている(ΔEが5を超え10以下)
3:汚れ防止性が劣る(ΔEが10を超える)
次に、メンテナンスの容易さを評価するため、蛍光灯の光を当て続けた場合の汚れの分
解性及び汚れの落ちやすさを以下の様に評価した。
箱内部に残ったタバコの煙を完全に排除してから、タバコ汚れが付着した試験片を箱の
底面中央部に戻し、底面から10cmの位置に図13の様に、15ワット15型の直管
3波長形昼白色蛍光灯を1本配置した。次いで蛍光灯を1日あたり16時間点灯して、
60日経過後に、初期の試料片表面の色を基準とし色差ΔEを測定した。この時点で汚
れが残っていた場合には更にふき取り試験を行って、以下の様に評価した。なお、箱に
はフィルターを通してファンで空気を送り込むことで、内部の圧力を外部よりも高く保
ち、蛍光灯の配線のための穴や、箱の隙間などから虫やほこりが侵入しない様にすると
ともに、箱内部の温度上昇を抑えた。(図13において、配線、蛍光灯器具、ファン、
箱、などに関しては表現を省略した)また、ふき取り試験は、紙ワイパーに、水を含ま
せ、しずくが垂れない程度に軽く絞って一定方向に10回ふき取りを行い、更に汚れが
残っていた(ΔEが4を超える)場合には、中性洗剤を10%含む水溶液を紙ワイパー
に水を含ませ、しずくが垂れない程度に軽く絞って、水でふき取ったのとは違う位置で
一定方向に10回ふき取りを行った。なお、紙ワイパーとしては日本製紙クレシア
(株)製の商品名:キムワイプS−200を用いた。
1:蛍光灯の光だけで60日後に汚れがほぼ消えていた(ΔEが3以下)
2:60日後に汚れが残っていた(ΔEが3を超える)が、水でふき取ることができ
た(ΔEが3以下)
3:60日後に汚れが残っていた(ΔEが3を超える)が、中性洗剤を10%含む水
溶液でふき取ることができた(ΔEが3以下)
4:60日後に汚れが残っており(ΔEが3を超える)、水でも中性洗剤を10%含
む水溶液でもふき取ることができなかった(ΔEが3を超える)
【0042】
[実施例1]
下記配合1の軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合2のタングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマー(SBS)の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物1を得た。配合2においてタングステン酸化物微粒子として平均粒子径80nmのWO2.72を用いた。この非相溶樹脂混合物1を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.3mmの近赤外線遮蔽性高透光シートを成型した。このシートを顕微鏡観察すると、タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。シート全体(近赤外線制御層全体)に対する島成分含有率は6.5体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。
<配合1>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
<配合2>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 1.5質量部
【0043】
[実施例2]
配合1の軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物の代わりに、下記配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を用いた以外は、実施例1と同様に、厚さ0.3mmの近赤外線遮蔽性高透光シートを成型した。このシートを顕微鏡観察すると、タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。シート全体(近赤外線制御層全体)に対する島成分含有率は6.5体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。
<配合3>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
【0044】
[実施例3]
下記配合4のベンゾトリアゾール化合物含有軟質フッ素樹脂の熱溶融混練物に、下記配合5の複合タングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、軟質フッ素樹脂単体の質量に対して10質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、塩化ビニル樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物3を得た。配合5において、複合タングステン酸化物微粒子としては平均粒子径80nmのセシウム・タングステン複合酸化物(Cs0.33WO3)を用いた。この樹脂混合物3を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線制御層用フィルム3−1を成型した。一方、下記配合6の光拡散性物質含有軟質フッ素樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの光拡散層用フィルム3−2を成型した。配合6において、光拡散性物質として粒子径400nm、屈折率2.75の二酸化チタン粒子を用いた。次いで、得られたフィルム3−1とフィルム3−2の中間に下記基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状の近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。フィルム3−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.548の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質フッ素樹脂が屈折率1.360の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は13.5体積%、島成分の平均粒子径は1.7μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合4>
軟質フッ素樹脂 100質量部
(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂)
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN326/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
<配合5>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
複合タングステン酸化物微粒子(Cs0.33WO3:平均粒子径80nm)
1.5質量部
<配合6>
軟質フッ素樹脂 100質量部
(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂)
二酸化チタン粒子(粒子径400nm、屈折率2.75) 1質量部
(基布1)
ポリエステル833dtexマルチフィラメントを用いた粗目状平織り布
密度 たて(経糸) 19本/インチ よこ(緯糸) 20本/インチ
【0045】
[実施例4]
下記配合7の安息香酸エステル化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合8の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物4を得た。この非相溶樹脂混合物4を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線制御層用フィルム4−1を成型した。一方、下記配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの光拡散層用フィルム4−2を成型した。配合9の光拡散性物質として、平均粒子径6μm、屈折率1.590の架橋ポリスチレンビーズを用いた。次いで、得られたフィルム4−1とフィルム4−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム4−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、安息香酸エステル化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は6.4体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次に、下記配合10の組成物液をグラビアコーターで塗布し、120℃で1分間乾燥後冷却し、5g/m2の樹脂中間層を両面に形成した。さらに前記樹脂中間層の上に、配合10の樹脂組成物からシリカを除いた溶剤希釈液を、グラビヤコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥後冷却して追加樹脂層を形成し、それによって、樹脂中間層と追加樹脂層とからなる、合計10g/m2の添加剤移行防止層を両面に形成した。次いで下記配合11の接着・保護層形成用塗布液を添加剤移行防止層上にグラビアコーターで塗布し、100℃×1分乾燥後冷却して、両面に1.5g/m2の接着・保護層を形成し、さらに、その接着・保護層上に下記配合12の防汚層形成用塗布液をグラビアコーターで塗布し、120℃で2分間乾燥後冷却して1.5g/m2の光触媒性物質含有防汚層が両面に形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合7>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
安息香酸エステル化合物(商品名:ユビナールAプラス/BASFジャパン(株)製)
0.5質量部
<配合8>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
複合タングステン酸化物微粒子(Cs0.33WO3:平均粒子径80nm)
1.5質量部
<配合9>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
架橋ポリスチレンビーズ(平均粒子径6μm、屈折率1.59) 15質量部
<配合10>
ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂 20質量部
(商標:カイナー7201:エルフ・アトケム・ジャパン(株))
シリカ:(商標:ニップシールE−75:東ソー・シリカ(株)) 5質量部
MEK(溶剤) 80質量部
<配合11>
シリコン含有量3mol%のアクリルシリコン樹脂を8質量%(固形分)含有する
エタノール−酢酸エチル(50/50質量比)溶液 100質量部
メチルシリケートMS51(コルコート(株))の
20%エタノール溶液(ポリシロキサン) 8質量部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤) 1質量部
<配合12>
スノーテックスO(コロイダルシリカ:日産化学工業(株)製) 67質量部
メチルトリメトキシシラン 33質量部
酸化タングステン(WO3)微粒子 27質量部
酸化銅(CuO)微粒子 3質量部
希釈溶剤(メチルアルコール) 50質量部
【0046】
[実施例5]
下記配合13のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物に、下記配合14の複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して25質量%加えて撹拌し、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂を均一分散させた近赤外線制御層用非相溶樹脂混合物液5を得た。配合14において、複合タングステン酸化物微粒子としては平均粒子径80nmのナトリウム・タングステン複合酸化物(Na0.33WO3)を用いた。この非相溶樹脂混合物液5を充満させた浴槽に下記基布2を浸漬し、基布2に非相溶樹脂混合物液5を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2の両面の余分な液を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に非相溶樹脂混合物液5を合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布5を得た。この含浸被覆層(近赤外線制御層)を顕微鏡で観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂が屈折率1.592の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.548の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は8.8体積%、島成分の平均粒子径は7.3μmであった。次いで、このシートの、両面に、下記配合15のフッ素樹脂含有防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で3分間乾燥した。これによって両面に塗布量:5g/m2の防汚層が形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。
<配合13>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
<配合14>
ビニルエステル樹脂 100質量部
(日本ユピカ(株)製 商品名:ネオポール8319)
硬化剤 1質量部
(ジ−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パ−オキシジカ-ボネ-ト)
複合タングステン酸化物微粒子(Na0.33WO3:平均粒子径80nm)3質量部
<配合15>
フルオロオレフィンビニルエーテル樹脂 100質量部
(商標:フロロトップ1053:旭硝子(株):固形分50質量%)
イソホロン系イソシアネート硬化剤 10質量部
(商標:タケネートD−140N:武田薬品工業(株):固形分75質量%)
シリカ(商標:ファインシールX37:(株)トクヤマ) 5質量部
メチルエチルケトン 100質量部
(基布2)
フィラメント直径9μm/750dtexのガラス繊維を用いた非粗目状平織り布
織密度 たて(経糸) 40本/インチ よこ(緯糸) 30本/インチ
精練(ヒートクリーニング)
シランカップリング処理 メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウ
コーニング社製Z6030)
【0047】
[実施例6]
配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの光拡散層用カレンダーフィルムを成型し、得られたカレンダーフィルムを、実施例5と同様にして得た樹脂含浸被覆基布5の一方の面に熱圧着により積層してシートを得た。次いで、このシートの、両面に、配合15のフッ素樹脂含有防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で3分間乾燥した。これによって両面に塗布量:5g/m2の防汚層が形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、光拡散層を形成しなかった側を光源に向けて配置して評価した。
【0048】
[実施例7]
下記配合16の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に軟質塩化ビニル樹脂ペーストを完全に含浸させた。配合16において、光拡散性物質として平均粒子径6μm、屈折率1.590の架橋ポリスチレンビーズを用いた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な樹脂ペーストを掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に配合16の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストを合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布7を得た。次いで配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合17の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して25質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物7を得た。配合17において、複合タングステン酸化物微粒子としては平均粒子径80nmのナトリウム・タングステン複合酸化物(Na0.33WO3)を用いた。この非相溶樹脂混合物7を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの近赤外線制御層用カレンダーフィルムを成型し、得られたカレンダーフィルムを先に作成した樹脂含浸被覆基布7の一方の面に熱圧着により積層してシートを得た。このカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は7.8体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次いで、このシートの、両面に、配合15のフッ素樹脂含有防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で3分間乾燥した。これによって両面に塗布量:5g/m2の防汚層が形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合16>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
架橋ポリスチレンビーズ(平均粒子径6μm、屈折率1.59) 20質量部
<配合17>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
複合タングステン酸化物微粒子(Na0.33WO3:平均粒子径80nm)2質量部
【0049】
[実施例8]
下記配合18の軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に軟質塩化ビニル樹脂ペーストを完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な樹脂ペーストを掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に配合18の軟質塩化ビニル樹脂ペーストを合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布8を得た。次いで配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、配合17の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して30質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物8を得た。この非相溶樹脂混合物8を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの近赤外線制御層用カレンダーフィルム8−1を成型した。一方、配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの光拡散層用カレンダーフィルム8−2を成型した。次いで、得られたフィルム8−1とフィルム8−2の中間に先に作成した樹脂含浸被覆基布8を挿入し、熱圧着により積層してシートを得た。フィルム8−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次に実施例4と同様にしてシート両面に添加剤移行防止層、接着・保護層、光触媒性物質含有防汚層を形成して近赤外線遮蔽性高透光シートを得た(図5参照)。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合18>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
【0050】
[実施例9]
配合13のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物に、配合14の複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して15質量%加えて撹拌し、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂を均一分散させた近赤外線制御層用非相溶樹脂混合物液9を得た。この非相溶樹脂混合物液9を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に非相溶樹脂混合物液9を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な液を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に非相溶樹脂混合物液9を合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布9を得た。この含浸被覆層(近赤外線制御層)を顕微鏡で観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂が屈折率1.592の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.548の海成分を構成していた。の含浸被覆層(近赤外線制御層)全体に対する島成分含有率は5.5体積%、島成分の平均粒子径は7.3μmであった。次いで配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、配合17の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物9を得た。この非相溶樹脂混合物9を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの近赤外線制御層用カレンダーフィルム9−1を成型した。一方、配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの光拡散層用カレンダーフィルム9−2を成型した。次いで、得られたフィルム9−1とフィルム9−2の中間に先に作成した樹脂含浸被覆基布9を挿入し、熱圧着により積層してシートを得た。フィルム9−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。フィルム9−1からなる近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は6.5体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次に実施例4と同様にしてシート両面に添加剤移行防止層、接着・保護層、光触媒性物質含有防汚層を形成して近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、フィルム9−1からなる近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
【0051】
[実施例10]
実施例8と同様にして近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。ただし、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の代わりに、下記配合19のベンゾトリアゾール化合物・6ホウ化物粒子含塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を用いた。この近赤外線遮蔽性高透光シートの近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物・6ホウ化物粒子含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合19>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
6ホウ化物粒子(LaB6:平均粒子径80nm) 0.5質量部
【0052】
[実施例11]
実施例8と同様にして近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。ただし、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の代わりに、下記配合20の安息香酸エステル化合物・ハイドロタルサイト類化合物粒子含塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を用いた。この近赤外線遮蔽性高透光シートの近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、安息香酸エステル化合物・ハイドロタルサイト類化合物粒子含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合20>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
安息香酸エステル化合物(商品名:ユビナールAプラス/BASFジャパン(株)製)
0.5質量部
ハイドロタルサイト類化合物(商品名:MIZUKALAC/水澤化学工業(株)製)
2質量部
【0053】
実施例1及び2は、島成分にタングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線遮蔽性高透光シート(全体が近赤外線制御層)である。海島構造の一方の相のみにタングステン酸化物微粒子を含有するため高い光線透過率が得られ、かつ近赤外線遮蔽性の優れるシートであった。図12の光天井モデルを用いた評価においては、背面の蛍光灯の位置は概ね見当をつけられるものの、海相・島相界面での散乱効果により蛍光灯の形状は視認できず、海島構造を有することで透過光の色調変化もわずかであり、照明用シェードとしての機能を満たしていた。斜め方向から見た色調に関して、実施例1は垂直方向から観察した色調よりもわずかに青白く濁っていたが不自然な色調ではなく、照明用シェードに問題なく使用できるシートであった。一方、実施例2は垂直方向・斜め方向から観察してもほとんど色調に変化はみられなかった。これは実施例2で海成分に含まれるベンゾトリアゾール系化合物が、340〜410nmの波長領域に吸収帯を有し、レイリー散乱の原因となる紫外線と短波長の可視光を吸収することで、斜め方向から観察した際の、レイリー散乱による色調の変化が抑制されたためであると考えられる。
実施例3及び4は中間にポリエステルマルチフィラメント粗目状平織り布(基布1)を含み、その一方の側に島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を有し、もう一方の側に光拡散性物質を含むカレンダーフィルムからなる光拡散層を有する、ターポリン状の近赤外線遮蔽性高透光シートである。光線透過率、近赤外線遮蔽性共に優れており、図12の光天井モデルを用いた評価においては、シート全体がほぼ均一に光り、蛍光灯が全く視認できず、透過光の色調変化もほとんど認識することができず、かつ、斜め方向からの観察においても垂直方向からの観察と色調に変化は無く、照明用シェードに好適に用いることのできるシートであった。また、実施例3は、近赤外線制御層の海成分用の樹脂及び光拡散層用の樹脂として軟質フッ素樹脂を用いたため、汚れ防止性・及び汚れの落ちやすさ共に優れたシートが得られたが、実施例4についても、両面に光触媒性物質を含む防汚層を設けることで、汚れ防止性・及び汚れの落ちやすさに優れたシートが得られた。特に光触媒性物質を含む防汚層を設けた実施例4については、セルフクリーニングによる汚れ防止性が付与され、メンテナンスの負担を大幅に軽減することができるシートであった。
実施例5は、ガラスマルチフィラメントからなる非粗目状平織り布(基布2)に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造の近赤外線制御層を含浸被覆により形成した樹脂含浸被覆基布の、両面に防汚層を設けた近赤外線遮蔽性高透光シートである。実施例1〜4に比べて近赤外線制御層が薄いが、波長950nmの近赤外線透過率は20%以下であり、必要な近赤外線遮蔽性は得られていた。図12の光天井モデルを用いた評価においては、蛍光灯の位置は概ね見当をつけられるものの、蛍光灯はほとんど視認できず、透過光の色調に変化は無く、斜め方向の観察においても色調が変わらない、照明用シェードに問題なく使用できるシートであった。実施例6は、実施例5と同様にして得た樹脂含浸被覆基布の一方の面に、光拡散性物質を含有するカレンダーフィルム光拡散層を積層してから、両面に防汚層を設けた構成であり、実施例5に比べて光源の隠蔽性が向上し、照明用シェードとしてより機能性に優れた近赤外線遮蔽性高透光シートであった。実施例7は、基布2に光拡散性物質を含有する光拡散層を含浸被覆し、得られた樹脂含浸被覆基布の一方の側に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を積層してから、両面に防汚層を設けた近赤外線遮蔽性高透光シートであり、光線透過率、近赤外線遮蔽性共に優れており、図12の光天井モデルを用いた評価においては、シート全体がほぼ均一に光り、蛍光灯が全く視認できず、透過光の色調変化もほとんど認識することができず、かつ、斜め方向からの観察においても垂直方向からの観察と色調に変化は無く、照明用シェードに好適に用いることのできるシートであった。また、実施例5〜7は、両面にフッ素樹脂を含む防汚層を設けることで、汚れ防止性・及び汚れの落ちやすさに優れたシートであった。
実施例8は、基布2に光拡散性物質もタングステン微粒子も含有しない樹脂層を含浸被覆により形成し、その樹脂含浸被覆基布の一方の側に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を、もう一方の側に光拡散性物質を含むカレンダーフィルムからなる光拡散層を積層し、さらにその両面に防汚層を形成した近赤外線遮蔽性高透光シートであり、実施例9は、ガラスマルチフィラメントからなる非粗目状平織り布(基布2)に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造の近赤外線制御層を含浸被覆により形成し、得られた樹脂含浸被覆基布の一方の側に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を、もう一方の側に光拡散性物質を含むカレンダーフィルムからなる光拡散層を積層したシートの、両面に防汚層を形成した近赤外線遮蔽性高透光シートであり、それぞれ実施例7同様照明用シェードに好適に用いることのできるシートであった。実施例10は、実施例8の近赤外線制御層を、島成分にタングステン酸化物微粒子を含有し、海成分にベンゾトリアゾール化合物及び6ホウ化物(6ホウ化ランタン)粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムに置き換えた構成であり、実施例11は、実施例8の近赤外線制御層を、島成分にタングステン酸化物微粒子を含有し、海成分に安息香酸エステル化合物及びハイドロタルサイト類化合物粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムに置き換えた構成であり、それぞれ実施例8よりも更に近赤外線遮蔽性の優れた近赤外線遮蔽性高透光シートであった。また、実施例8〜11は、両面に光触媒性物質を含む防汚層を設けることで、汚れ防止性に優れたシートが得られ、更にセルフクリーニングによる汚れ防止性が付与され、メンテナンスの負担を大幅に軽減することができるシートであった。なお、実施例5〜11のシートは、いずれも燃焼試験(ASTM−E1354)に適合する不燃性のシートであり、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける天井部材、壁材、壁看板の構築部材に好適に用いる事のできる近赤外線遮蔽性高透光シートであった。
【0054】
[比較例1]
下記配合21のタングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.3mmのシートを成型した。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
<配合21>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 0.27質量部
【0055】
比較例1のシートは、面積当たりのタングステン酸化物微粒子添加量が実施例1と同等であるが、海島構造を有さないため、近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として効果の得られないシートであった。また、光線透過率もやや劣り、図12の光天井モデルを用いた評価においては、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面の蛍光灯がはっきりと視認でき、照明用シェードに用いることのできないシートであった。また、光源の色調に対して垂直の角度から観察した場合の色調の変化はわずかであったが、斜め方向から見た色調に関して、垂直方向から観察した色調に対して明らかに青白く濁っており、意匠性に劣るシートであった。
【0056】
[比較例2]
下記配合配合22のタングステン酸化物微粒子・ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.3mmのシートを成型した。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
<配合22>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 0.27質量部
【0057】
比較例2のシートは、比較例1のタングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂に、更にベンゾトリアゾール化合物を加えた熱溶融混練物から得たシートであるが、比較例1同様海島構造を有さないため、実施例2と比較して近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として用いることのできないシートであった。一方、図12の光天井モデルを用いた評価においては、ベンゾトリアゾール化合物を含むため、斜め方向から見た色調に関して比較例1に比べ改善が見られるが、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面の蛍光灯がはっきりと視認でき、照明用シェードに用いることのできないシートであった。
【0058】
[比較例3]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、配合17から複合タングステン酸化物微粒子を省略したスチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して30質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物比―2を用いた。非相溶樹脂混合物比―2から形成されたカレンダーフィルムを顕微鏡観察すると、スチレンブタジエンブロックコポリマーが島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が海成分を構成していた。非相溶樹脂混合物比―2から形成されたカレンダーフィルム全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.3μmであった。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
【0059】
比較例3のシートは、光拡散層を含み、光源隠蔽性に優れるため照明用シェードとして用いる事は可能であるが、海島構造の海相・島相何れにもタングステン微粒子を含まないため近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として効果の得られないシートであった。
【0060】
[比較例4]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合23のタングステン酸化物微粒子含有アクリル樹脂の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、軟質塩化ビニル樹脂とアクリル樹脂とタングステン酸化物粒子が均一に分散した相溶樹脂混合物比―4を用いた。この相溶樹脂混合物比−4から成型したカレンダーフィルムを顕微鏡観察すると、軟質塩化ビニル樹脂とアクリル樹脂が相溶して混合され、その樹脂混合物中にタングステン酸化物微粒子が分散し、海島構造は確認されなかった。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
<配合23>
アクリル樹脂(熱分解温度265℃、酸価6.5mgKOH/g) 100質量部
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 2質量部
【0061】
比較例4のシートは、樹脂混合物が相溶性であり、海島構造を有する近赤外線制御層が形成されなかったため、近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として用いることのできないシートであった。
【0062】
[比較例5]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、下記配合24のベンゾトリアゾール化合物・6ホウ化物粒子含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物比―5を用いた。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、熱溶融混練物比―5からなるカレンダーフィルムを積層した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合24>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
6ホウ化物粒子(LaB6:平均粒子径80nm) 0.45質量部
【0063】
比較例5は、面積当たりの6ホウ化物粒子添加量が実施例10と同等であるが、熱溶融混練物比―5からなるカレンダーフィルムが海島構造を有さず、タングステン微粒子も含まないため、近赤外線の透過率が高く、近赤外線遮蔽シートとして用いることのできないものであった。図12の光天井モデルを用いた評価においては、シェード照明に用いることは可能であるが、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面光源隠蔽性・透過光色調変化・斜め方向から観察したシートの色調、それぞれが実施例10より、やや劣る結果であった。
【0064】
[比較例6]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、下記配合25のベンゾトリアゾール化合物・ハイドロタルサイト類化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物比―6を用いた。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、熱溶融混練物比―6からなるカレンダーフィルムを積層した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合25>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
ハイドロタルサイト類化合物(商品名:MIZUKALAC/水澤化学工業(株)製)
2質量部
【0065】
比較例6は、熱溶融混練物比―6からなるカレンダーフィルムが海島構造を有さず、タングステン微粒子も含まないため、近赤外線の透過率が高く、近赤外線遮蔽シートとして用いることのできないものであった。図12の光天井モデルを用いた評価においては、シェード照明に用いることは可能であるが、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面光源隠蔽性が実施例11より、やや劣る結果であった。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、高い近赤外線遮蔽性と可視光透過性とを有していおり、更に、光源の隠蔽性や意匠性にも優れているため、光天井、光壁、内照看板向けに用いて、近赤外線ノイズに起因する問題を解消することができる。特に、建築基準法に適合する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートは、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などで、光天井部材、光壁材、内照看板材に好適に用いられ、これを用いることで、近赤外線ノイズによる問題を解消することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:近赤外線遮蔽性高透光シート(高透光性可撓性シート)
2:海島構造を有する近赤外線制御層
3:島成分
3−1:タングステン酸化物、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有
する島成分
3−2:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれた一種以
上を含有する島成分
3−3:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ハイドロタルサイト類化合物粒子及び6ホウ化物粒子から選ばれた一種以上
を含有する島成分
3−4:タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子、ベンゾトリア
ゾール化合物、安息香酸エステル化合物、ハイドロタルサイト類化合物粒子
、6ホウ化物粒子、を含有しない島成分
4:海成分
4−1:タングステン酸化物、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有
する海成分
4−2:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれた一種以
上を含有する海成分
4−3:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ハイドロタルサイト類化合物粒子及び6ホウ化物粒子から選ばれた一種以上
を含有する海成分
4−4:タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子、ベンゾトリア
ゾール化合物、安息香酸エステル化合物、ハイドロタルサイト類化合物粒子
、6ホウ化物粒子、を含有しない海成分
5:繊維基布
6:樹脂含浸被覆基布
7:光拡散層
8:防汚層
9:光源
9−1:蛍光灯
10:光天井吊り具
11:光天井における可撓性シートの固定枠
12:内照式看板のハウジング
13:実施例・比較例で作成したシート
A:シートの面に垂直で2m離れた観察位置
B:シートの面に対して15度の角度で5m離れた観察位置
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外線遮蔽性を有し、かつ高い可視光透過性を有する近赤外線遮蔽性高透光シート、及び、そのシートを用いた意匠性に優れた近赤外線ノイズ遮蔽材に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などにおける天井部材、壁材、壁看板の構築部材に用いるシートに関するものであり、特に光源の存在を目立たなくする光源隠蔽効果と可視光線透過性を併せ持つ照明用シェード機能を有し、さらに光源から発する近赤外線ノイズを低減して、近赤外線を利用したセンサーやワイヤレスリモートコントローラーの誤動作を防ぎ、ワイヤレス音響機器へのノイズ混入や、赤外線通信機器のデータ通信エラーを回避でき、近赤外線遮蔽性を付与することに伴う着色が軽減され、かつ建築基準法に適合する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートと、そのシートを用いた近赤外線ノイズ遮蔽材とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などでは、照明設備自体を極力露出しない照明デザインが採用されているが、最近の新築施設では、より空間の洗練性と明るさを追求した照明手段として、天井のほぼ全面を照明シェード化することによって、天井全体を発光させる方法によって、蛍光灯ユニットの存在を目立たなくした光天井照明の導入が進んでおり、この流れはオフィスビル、マンション、一般住宅へも波及している。光天井としては、無機系繊維織物を基材とする長尺膜材を天井全面に施工してなるものが、特に建築物の耐久性と施工性に融通し、しかも照明シェードとして優れた光拡散効果と光源隠蔽効果とを兼備している。また、コンビニエンスストア、ファーストフード店、居酒屋、カラオケ店、ガソリンスタンド、金融ATMなどの各種販売業、及びサービス業においては、昼夜問わず内照表示する看板表示システムが多用されており、これらの内照式看板は屋号や広告の効果的表示機能と同時に夜間照明としても機能している。更に、駅構内、地下鉄駅構内、地下街、地下連絡通路の壁面には様々な広告看板で埋め尽くされているが、これらの広告看板も照明機能を兼用することで地下空間には欠かせない存在である。また建造物内や地下施設内などにおいては避難誘導などの情報表示も不可欠である。これらの内照式広告看板としては、光拡散性を有するアクリル樹脂板にプリントやマーキングを施し、看板の裏面側に設けた蛍光灯により行燈効果を得るタイプが主流であるが、建築物に附帯する大型看板用途では高い防炎性能と耐衝撃強度が必要であるため、例えば、ポリエステル繊維織物を基材として、その両面を軟質塩化ビニル樹脂フィルムで積層した繊維強化フレキシブル膜材が内照式看板に使用されており、特に屋内用途では無機系繊維織物を基材とする難燃性のフレキシブル膜材が使用されている。
【0003】
ところが、最近、これらの照明器具から放射される近赤外線が、センサーやリモートコントローラーの誤動作やデータ通信におけるノイズの原因として注目される様になってきた。近赤外線は、例えば、自動扉、自動改札、防犯装置、カメラなどに付属するセンサー類、携帯電話、パソコン、音響機器などの光無線データ通信、テレビ、エアコンなど電気・電子機器を制御するためのリモートコントローラー、などに広く利用されているが、それらに利用する近赤外線の波長領域(800〜1200nm)が、照明器具、中でもインバーター蛍光灯から放出される近赤外線の波長領域と近似しているため、照明器具から周辺に放出された近赤外線が、センサーやリモートコントローラーの誤動作を引き起こしたり、ワイヤレス音響機器にノイズを混入させたり、データ通信速度を低下させる、などの問題を引き起こしている。
【0004】
この様ないわゆる近赤外線ノイズへの対策のひとつとして、センサー、リモートコントローラー、データ通信、等に用いる近赤外線の信号強度を大幅に強くする方法がある。近赤外線ノイズよりも、信号の強度が十分に大きければ、ノイズの影響を受け難くなる。しかし、この場合消費電力が増加して環境負荷が高まりかつ不経済であるばかりでなく、センサーやリモートコントローラーから放出される信号自体が、他の隣接する機器へのノイズ源となる問題があった。信号に混入したノイズを受信機側で選択的に除去する試みも開示されている(例えば、特許文献1参照)が、既に設置されている機器を交換する場合には費用負担が重く、また、特定のノイズ源からのノイズを検知して、信号から除去する仕組みであるため、複数のノイズ源が混在する環境では効果が十分ではなかった。
【0005】
タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の微粒子を含有した塗料を用いて、近赤外線を吸収し、かつ可視光線を透過する試みも提案されている。(例えば特許文献2および3参照)これらの塗料を光源や照明シェードに塗布すれば、近赤外線ノイズの影響を低減することが可能であるが、この様な塗膜は、一般に非常に薄く、十分な効果が得られないことがあった。また、溶剤や水に可溶な樹脂をバインダーとする溶液を、単に塗布乾燥した塗膜では、その薄さにより耐久性が不足するため、通常は紫外線、電子線などで硬化した塗膜が求められるが、その様な塗膜を形成するためには特別な設備が必要であり、製造面で汎用性に乏しいものであった。
【0006】
樹脂にタングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の微粒子を分散させたフィルムについても開示されている。(例えば特許文献4参照)このフィルムをそのまま、あるいは補強のための基材と積層して用いれば、十分な厚さの近赤外線遮蔽層を有する耐久性の高い照明用シェードが得られる。しかし、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物は、近赤外線領域だけでなくその近傍の可視領域の赤や橙にも吸収を有するため、それらを加えたフィルムの透過色は強い青みを呈し、自由な色調の照明効果を得ることが困難であり、更に、可視領域が吸収されることで光線透光率が低下する問題も有していた。また、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物は、透明性を得るために非常に細かい微粒子が用いられるが、そのため、それらが添加された樹脂シートを照明用シェードに用いると、レイリー散乱のため角度によって照明の色調が異なって見えたり、他の照明からの光がシェード表面に当たって反射する際に青白く濁って見えるなど、意匠性が損なわれる問題を有していた。レイリー散乱については、タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の粒子径を大きくすれば軽減することができるが、粒子の大きさによっては黄色く着色したり、可視領域の光線透過率が低下するなどの問題を有していた。タングステン酸化物や、複合タングステン酸化物の微粒子と特定の紫外線吸収剤を樹脂中に一緒に分散することで、紫外線および短波長の可視光線(紫や青)を吸収し、レイリー散乱により表面が青白く濁る現象を軽減する方法も提案されており(例えば特許文献5参照)、プラズマディスプレイのカバーとしてはある程度効果が得られている。しかし、照明用シェードに用いる場合には、角度によって照明の色調が異なる現象を抑えることができず、効果が十分であるとは言えなかった。
【0007】
可視光線を透過して赤外線を遮蔽する方法として、この他に、真空蒸着又はスパッタリング法等により、表面にインジウム/スズ酸化物(ITO)やアンチモン/スズ酸化物(ATO)等の金属酸化物薄膜を設けたり、これらの金属酸化物からなる粒子を練りこんだ樹脂層を設ける、などの方法も知られている。しかし、ITOやATOは可視光線をほとんど反射も吸収もしないため透過色に影響は与えないが 、リモートコントローラーやセンサー類で利用される800〜1200nmの波長領域についてもほとんど遮蔽しないため、近赤外線ノイズの対策には用いることができなかった。
【0008】
近赤外線ノイズが問題となるのは主に屋内であり、天井や壁面に設置された照明装置から発生するノイズだけでなく、駅構内、地下商店街、それらに付随する通路、その他公共施設内に設置された内照式の看板や案内板も、近赤外線ノイズ発生源となっている。屋内に設置されたこれらの光源からの近赤外線ノイズを遮蔽するためには、近赤外線を遮蔽し可視光線を透過する機能を有する照明用シェードや看板材を用いる必要があるが、従来から用いられているプラスチック製のカバーや看板は、透光性や光源の隠蔽性には配慮しているものの、近赤外線ノイズ対策は施されておらず、また、建築基準法に適合する不燃性も有さないため、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などの建築部材に用いることができなかった。
【0009】
以上述べた様に現在までのところ、光源隠蔽効果と可視光線透過性を併せ持ち、光源から発する近赤外線ノイズを低減する効果を有し、かつ、透過光の着色が少なく、角度によって色調が変化することのない照明用シェードは存在しておらず、特に上記の特性に併せて、建築基準法に適合する不燃性を有し、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などにおいて、光天井部材、光壁材、内照看板材として広く利用できるシェード照明の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−99932号公報
【特許文献2】特開2006−154516号公報
【特許文献3】特開2006−201463号公報
【特許文献4】特開2008−274047号公報
【特許文献5】特開2007−316336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、近赤外線遮蔽性を有し、かつ高い可視光透過性を有し、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含有することによる青い着色が抑制され、角度によって照明の色調が異なって見えたり、光が当たった時に青白く濁って見えたりすることが無い近赤外線遮蔽性高透光シートの提供を目的とし、特に建築基準法に適合する不燃性を有し、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などにおける天井部材、壁材、壁看板の構築部材に好適に用いる事のできる、近赤外線遮蔽性高透光シート、及びそれを用いた近赤外線ノイズ遮蔽材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討の結果、近赤外線制御層を含む可撓性シートにおいて、前記近赤外線制御層を合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造とし、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方にタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有させる事により、樹脂層全体にこれらの微粒子を含ませるのと同等以上の近赤外線遮蔽性を有しながら可視領域の光線透過性が高く、光源隠蔽効果にも優れ、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含有することにより透過光が青く着色するのを抑え、しかも角度によって照明の色調が異なって見えたり、光が当たった時に青白く濁る現象を抑制した、近赤外線遮蔽性高透光シートが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、近赤外線制御層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線制御層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有するものである。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含むことが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が、ハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物(一般式XB6で表され、XはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zr、Ba、SrおよびCaから選択される1種または2種の元素)粒子から選ばれた一種以上を含むことが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記海島構造において、前記海成分中に分散する前記島成分の平均粒子径が0.4〜20.0μmであることが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、光拡散層を含む積層体であり、前記光拡散層が、平均粒子径0.1〜10μm、屈折率1.55以上の光拡散性物質を含む事が好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、繊維基布を含む積層体である事が好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記繊維基布がガラス繊維、シリカ繊維およびアルミナ繊維から選ばれた少なくとも1種の無機繊維から構成され、前記積層体において、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有することが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、最外層に防汚層が設けられていることが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、前記防汚層が、光触媒性物質を含み、前記光触媒性物質が、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上であることが好ましい。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、高透光性可撓性シートの背面に光源を配置したシェード照明であり、前記可撓性シートが、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線制御層を含むものである。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含むことが好ましい。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材において、前記高透光性可撓性シートが、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上の光触媒性物質を含む防汚層を有し、前記防汚層を光源側に向けて配置することが好ましい。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材において、前記シェード照明が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記近赤外線遮蔽性高透光シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い近赤外線遮蔽性と、可視光透過性とを有し、更に意匠性にも優れた、照明用シェード機能を有する近赤外線遮蔽性高透光シートを提供することができる。特に建築基準法に適合する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートは、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などで、光天井部材、光壁材、内照看板材に好適に用いることができる。この近赤外線遮蔽性高透光シートを、既設の照明設備、内照式看板、などにシェードとして置き換えることで、近赤外線ノイズに起因する問題を解消することができる。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、光源から発する近赤外線ノイズによるセンサーやワイヤレスリモートコントローラーの誤動作、ワイヤレス音響機器へのノイズ混入、赤外線通信機器のデータ通信エラー、などの問題を引き起こすことがなく、しかもシェード照明として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図2】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図3】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図4】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図5】本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの一例を示す図
【図6】島成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含む近赤外線制御層を示す図
【図7】海成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含む近赤外線制御層を示す図
【図8】島成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含み、海成分がベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化 合物から選ばれる一種以上を含む近赤外線制御層を示す図
【図9】島成分がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化 物微粒子を含み、海成分がハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物 粒子から選ばれた一種以上を含む近赤外線制御層を示す図
【図10】本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を天井に用いたシェード照明の一例を 示す図
【図11】本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を内照式看板に用いたシェード照明の一例 を示す図
【図12】実施例及び比較例において、評価に用いた光天井モデルの構成を示す図
【図13】実施例及び比較例において、タバコ汚れの落ちやすさ評価を行った時の 蛍光灯とサンプルの配置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シート(1)は、少なくとも1層の近赤外線制御層(2)を含む可撓性シートであって、その近赤外線制御層(2)は、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、海成分または島成分の何れか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子(以下これらを併せてタングステン微粒子と記すことがある)を含有することで、樹脂層全体にこれらの微粒子を含ませるのと同等以上の近赤外線遮蔽性を有しながら可視領域の光線透過性が高く、光源隠蔽効果にも優れ、タングステン微粒子を含有することによる青い着色が抑えられ、しかも光が当たった時に青白く濁る現象を抑制することができるものである。その形態は、樹脂シート(樹脂フィルム)、または、繊維基布(5)と近赤外線制御層(2)を含む繊維基布含有積層体である。樹脂シートはカレンダー成型法、Tダイス押出法、あるいはキャスティング法等の方法により成型することができ、図1の様に近赤外線制御層(2)単層であっても良く、近赤外線制御層を含む複数の樹脂シートを積層した積層体であっても良い。繊維基布含有積層体は、有機溶剤に可溶化した可撓性樹脂、水中で乳化重合された可撓性樹脂エマルジョン(ラテックス)、あるいは可撓性樹脂を水中に強制分散させ安定化したディスパージョン樹脂などの水分散樹脂、軟質ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル、等を用いるディッピング加工(繊維基布への両面加工)、コーティング加工(繊維基布への片面加工、または両面加工)等によって製造することができ、これらのディッピング加工層、コーティング加工層の少なくとも1層が近赤外線制御層であれば良く、例えば、図2の様にディッピング加工により繊維基布に含浸被覆した近赤外線制御層(2)を形成し、その両面に防汚層(8)を形成した構成であっても良い。繊維基布含有積層体はまた、カレンダー成型法、Tダイス押出法またはキャスティング法等により成型されたフィルム又はシートを、繊維基布の片面または両面に接着層を介在して積層する方法、あるいは図3の様に粗目状の繊維基布(5)の両面に目抜け空隙部を介して熱ラミネート積層する方法により製造することもでき、さらにディッピング加工、またはコーティング加工と、フィルム積層の組み合わせによる方法、例えば、図4の様にあらかじめ樹脂を被覆(図4では光拡散性物質を含む光拡散層(7))した樹脂含浸被覆基布(6)の片面(または両面)にフィルム(図4では近赤外線制御層(2))を熱ラミネート積層する方法、によっても製造可能であり、これらのフィルム又はシート、ディッピング加工層、コーティング加工層の少なくとも1層が近赤外線制御層(2)であれば良く、2層以上が近赤外線制御層(2)であっても良い。本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、800〜1200nmの近赤外線を遮蔽する能力を有し、具体的には、波長950nmにおける透過率が30%以下であることが好ましく、20%以下であることが更に好ましい。波長950nmにおける透過率が30%を超えると、光源から放出される近赤外線ノイズの遮蔽が不十分となり、近赤外線を使用したセンサーやリモートコントローラー等に誤動作を生じさせることがある。また、本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートの光線透過率(JISZ8722.5.4(条件g))は、樹脂シートの場合40〜90%、繊維基布含有積層体である場合15〜80%であることが好ましい。
【0017】
本発明において、近赤外線制御層は、合成樹脂ブレンドの溶融、または合成樹脂ブレンドの液状合成樹脂の攪拌混合物により公知の加工方法によって成型される。本発明で好ましく用いられる合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など、光線透過率が高く可撓性のある熱可塑性樹脂および硬化性樹脂が挙げられる。
【0018】
本発明の近赤外線制御層は、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、この合成樹脂ブレンドの組み合わせについて、非相溶であれば特に制限はない。非相溶の組合せ例としては、塩化ビニル樹脂とポリエチレン、塩化ビニル樹脂とポリプロピレン、塩化ビニル樹脂とスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂とスチレン系共重合樹脂、塩化ビニル樹脂とシリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂とフッ素含有共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂とビニルエステル樹脂、ポリスチレンとポリエチレン、ポリスチレンとポリプロピレン、ウレタン樹脂とポリエチレン、ウレタン樹脂とポリプロピレン、ポリエステル樹脂とポリエチレン、ポリエステル樹脂とポリプロピレン、ポリアミドとポリカーボネート、アクリル樹脂とポリスチレン、アクリル樹脂とポリカーボネート、ポリアミドとスチレン樹脂、ポリアミドとポリプロピレンなど2種類の合成樹脂のブレンドが好ましい。これらの非相溶の可撓性樹脂対に対して、さらに別種の可撓性樹脂を含有することもできる。
【0019】
これらの非相溶混合物は相分離構造を示す白濁概観の海島構造であることが好ましい。この海島構造において海成分と島成分は種類の異なる樹脂で構成され、例えば合成樹脂Aと合成樹脂Bからなる非相溶混合物において、合成樹脂Aと合成樹脂Bとの比率設定により、海成分を合成樹脂Aで構成し、島成分を合成樹脂Bで構成することができ、また海成分を合成樹脂Bで構成し、島成分を合成樹脂Aで構成することもできる。近赤外線制御層が海島構造を有することで、海成分と島成分の界面で可視光線が拡散されて光源隠蔽効果が得られる。また、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン微粒子を含んでいることで、樹脂全体に均一にタングステン微粒子を含むシートに比べて高い光線透過率(JISZ8722.5.4(条件g))を得ながら、800〜1200nmの近赤外線に対しては樹脂全体にタングステン微粒子を含むのと同等の遮蔽性を示す。更に、タングステン微粒子添加により透過光が青く着色するのを抑え、かつ、レイリー散乱により、見る角度によって照明の色調が変化したり、シートに光が当たった時に青白く濁る現象も抑制できる。島成分を構成する合成樹脂の比率は、海成分を構成する合成樹脂の体積に対して3〜50体積%が好ましく、5〜40体積%がより好ましい。海島構造を有する近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は2.9〜33.3体積%が好ましく、4.7〜28.6体積%がより好ましい。海島構造を有する近赤外線制御層全体に対する島成分含有率が2.9体積%未満では、島成分にタングステン微粒子が含まれる場合の近赤外線遮蔽効果が不十分になる事があり、海成分にタングステン微粒子が含まれる場合には、海島構造を有さない場合と差が無くなる。一方33.3体積%を超えると、近赤外線制御層の樹脂強度が低下し、得られるシートの強度や耐久性が低くなるので好ましくない。また非相溶の可撓性樹脂対A−Bに対して、さらに別種の可撓性樹脂Cを含有する場合、海島構造において島成分が可撓性樹脂Bによる島成分と可撓性樹脂Cによる島成分で構成されてもよく、同様に島成分が可撓性樹脂Aによる島成分と可撓性樹脂Cによる島成分で構成されてもよい。本発明において海島構造を有する近赤外線制御層の厚さは、0.03〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.5mmである。近赤外線制御層の厚さが0.03mm未満では、十分な近赤外線遮蔽性が得られないことがあり、1.0mmを超えると柔軟なシートが得られなくなることがある。
【0020】
本発明の海島構造を有する近赤外線制御層において、海成分と島成分の界面における屈折散乱現象により光が散乱される。このとき、780nmを超える近赤外線を選択的に散乱させることができれば、近赤外線遮蔽性を更に向上させる効果が期待できる。その様な効果を得るためには、島成分の平均粒子径が0.4〜20.0μmであることが好ましい。ここで、海成分と島成分を構成する非相溶の樹脂の組み合わせにおいて、それぞれの樹脂の屈折率に差を有し、その屈折率差が0.04以上であることが好ましい。海成分と島成分の屈折率は、いずれの側が高くてもかまわないが、海成分よりも島成分の屈折率が高いことが好ましい。島成分の好ましい平均粒子径は、上記範囲内で海成分と島成分の屈折率差によって異なり、例えば屈折率差が0.05であれば、島成分の平均粒子径は5〜19μmである事が好ましく、屈折率差が0.2であれば、島成分の平均粒子径は1〜5μmであることが好ましい。島成分の平均粒子径が0.4μm未満であると、界面における屈折散乱現象により可視光領域の一部で光の散乱が大きくなり、可視領域の光を部分的に散乱することにより、近赤外線遮蔽層が着色されているように見えることがある。島成分の平均粒子径が20μmを超えると、近赤外線遮蔽層の強度が低下することがあり、また、可視光線全域に亘る散乱を起こし、光線透過率が低下することがある。島成分の形状は球状、歪んだ球状、碁石状、ラグビーボール状などである。なお、島成分の平均粒子径は、顕微鏡拡大写真から一定面積中に分布する島成分の径を測定し、平均する事で求められる。また、屈折率はD線を光源とするアッベ屈折率計により求めることができる。
【0021】
本発明に用いられるタングステン酸化物は、WyOzで表記したとき(ただしW:タングステン、O:酸素)、2.2≦z/y<3.0である事が好ましい。三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、近赤外線遮蔽材料としてはあまり有効ではない。z/yが2.2以上であれば、タングステン酸化物中にWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来る。本発明に用いられる複合タングステン酸化物微粒子は、式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Csの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素)で表され、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3であることが好ましい。タングステン酸化物へ、元素Mを添加して複合タングステン酸化物とすることで、複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となる。ここで、元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線遮蔽効果を得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。一方酸素量の制御を示すz/yの値については、上述したタングステン酸化物同様2.2≦z/y<3.0である事が好ましいが、複合タングステン酸化物の場合、z/y=3.0であっても、元素Mが加えられた事による自由電子の供給があるため、近赤外線遮蔽材料として有効である。
【0022】
本発明においてタングステン微粒子の粒子径は、1〜1000nmである事が好ましく、2〜200nmであることがより好ましい。1000nmを越えると粒子を含む樹脂の隠蔽性が高くなり、可視領域の光線透過率が低下することがある。粒子径が小さいほど隠蔽性が低くなり、200nm以下であれば光線透過率の高い樹脂層を得ることができるが、1nm未満の粒子は入手が困難であり、また樹脂中への分散が困難である。海成分または島成分に含まれるタングステン微粒子は、海成分または島成分を構成する合成樹脂100質量部に対して0.001〜5質量部が好ましく、0.005〜3質量部がより好ましい。0.001質量部未満では添加による近赤外線遮蔽効果が不充分となって、充分な近赤外線遮蔽性が得られないことがある。5質量部を超えて添加しても近赤外線遮蔽効果の向上はわずかであり、添加量が多くなることで透過色が濃い青色を示し、光線透過率が低下し、かつ、経済的にも不利となる。
【0023】
本発明の近赤外線制御層において、海島構造の海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含む事が好ましい。ここで、「340〜410nmの波長領域に吸収帯を有する」とは、分光光度計で測定したときに、少なくともこの波長領域全てにわたって吸光度を有することである。340nm未満及び410nmを超える波長領域に吸光度を有してもかまわないが、340〜410nmの波長領域に吸光度のピーク(最大吸収波長)を有することが好ましい。これらの化合物を含むことで、レイリー散乱の原因となる紫外線や短波長の可視光(紫や青)の一部を吸収し、角度によって照明の色調が変わったり、近赤外線制御層に光が当たった際に青白く濁る現象を更に抑制することができる。構成としては(i)海成分にタングステン微粒子を含み島成分にこれらの化合物を含む構成、(ii)島成分にタングステン微粒子を含み海成分にこれらの化合物を含む構成、のいずれでも本発明の目的を達成することができるが、特に(ii)の構成は、レイリー散乱を抑制する効果がより高く、好ましい。上記ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2'−ヒドロキシ−3',5'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレン−ビス〔4−メチル−6−(ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕等を挙げることができる。また、上記安息香酸エステル化合物としては、例えばジエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、メチルエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、ジメチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、エチルプロピルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、ジプロピルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート等を挙げることができる。これらの化合物は、一種を単独で用いても、二種以上を併用して用いても良く、その添加量は海成分または島成分を構成する樹脂100質量部に対して、0.2〜3.0質量部であることが好ましく、0.4〜2.5質量部がより好ましい。添加量が0.2質量部未満であるとレイリー散乱を抑制する効果が不十分になることがあり、3.0質量部を超えるとこれらの化合物が樹脂表面に移行してシートの外観を損なうことがある。
【0024】
本発明の近赤外線制御層において、海島構造の海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン微粒子を含み、かつ、もう一方の相がハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物粒子から選ばれた一種以上を含むことが好ましい。本発明に用いる、ハイドロタルサイト類化合物は、一般式[M2+1−xM3+x(OH)2][An−x/n・mH2O]で表される層構造を有する複水酸化物である。(式中M2+はMg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等の2価の金属イオンを表し、M3+はAl3+、Fe3+、Mn3+、In3+、Ce3+等の3価の金属イオンを表し、An−はOH−、F−、Cl−、Br−、NO3−、CO32−、SO42−、Fe(CN)63−、CH3COO−、シュウ酸イオン、サリチン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン等のn価の層間陰イオンを表し、x及びmはそれぞれ0<x<0.5、0≦m、の範囲にある)ハイドロタルサイト類化合物は、屈折率が1.5程度と一般的な樹脂の屈折率に近いため、ハイドロタルサイト類化合物と樹脂との界面での光散乱がほとんど無く、可視光領域での光の吸収がほとんど無いので、樹脂に添加しても色相の変化や光線透過率の低下がほとんど無い。しかも赤外線領域に吸収を有するため、これを加えることで、色相や光線透過率への影響を最小限に抑えながら、近赤外線の遮蔽性を向上させることができる。海成分または島成分を構成する樹脂100質量部に対するハイドロタルサイト類化合物の添加量は、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。添加量が0.01質量部未満では添加の効果が得られないことがあり、10質量部を超えて添加しても近赤外線の遮蔽性向上効果はわずかであり、また、樹脂層が硬くなり柔軟性が損なわれる事がある。ハイドロタルサイト類化合物粒子の平均粒子径は0.01〜10μmであることが樹脂への分散性の観点から好ましく、0.1〜2μmがより好ましい。本発明に用いる、6ホウ化物は、一般式XB6で表される化合物である。(XはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zr、Ba、SrおよびCaから選択される1種または2種の元素、Bはホウ素)6ホウ化物粒子は、近赤外線領域に吸収を有するため、添加することで近赤外線の遮蔽性を向上させることができる。また、タングステン微粒子同様可視領域の一部に吸収を有するが、その透過色はタングステン微粒子の青色とは異なり緑色であり、海島構造の海成分または島成分のいずれか一方の相に透過色が青色となるタングステン微粒子を含み、もう一方の相に透過色が緑色となる6ホウ化物粒子を含むことで、吸収のピーク巾が拡がり、より彩色性の低いニュートラルな色調の近赤外線制御層を得ることができる。海成分または島成分を構成する樹脂に対する6ホウ化物粒子の添加量を調整することにより、透過色を好みの色調に調整し、かつ近赤外線遮蔽性を向上させることができる。海成分または島成分を構成する樹脂100質量部に対する6ホウ化物粒子の添加量は0.001〜5質量部が好ましく、0.005〜3質量部がより好ましい。添加量が0.001質量部未満では添加の効果が得られないことがあり、5質量部を超えて添加しても近赤外線の遮蔽性向上効果はわずかであり、また、光線透過率が低下することがある。6ホウ化物粒子の平均粒子径は1〜800nmであることが好ましく、2〜200nmであることがより好ましい。粒子径が1nm未満では樹脂への均一な分散が困難となることがあり、800nmを超えると、光線透過率が大きく低下することがある。樹脂へのハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物粒子の添加は、単独でも良く、併用しても良い。ハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物粒子は、樹脂への分散性を向上させるために、表面をシリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、及び高級脂肪酸で被覆されたものを用いても良い。
【0025】
本発明の近赤外線制御層において、海成分または島成分のいずれか一方にタングステン微粒子を含む海島構造を形成するには、例えば、非相溶混合物を構成する2種類の合成樹脂を含むゾル、溶液、分散液、未硬化液等の樹脂混合液のいずれか一方にタングステン微粒子を分散し、このタングステン微粒子分散樹脂混合液とタングステン微粒子非分散樹脂混合液を合わせて撹拌混合して、島成分の平均粒子径を0.4〜20.0μmに調製した非相溶樹脂混合物液を、繊維基布に対してディッピング加工あるいはコーティング加工により被覆する方法や、非相溶混合物を構成する2種類の合成樹脂のいずれか一方にあらかじめタングステン微粒子を分散し、タングステン微粒子非分散合成樹脂とタングステン微粒子分散合成樹脂とを溶融混合して、島成分の平均粒子径を0.4〜20.0μmに調製した非相溶樹脂混合物を、カレンダー成型法、またはTダイス押出法によりシートに成型したり、そのようにして得られたシートを繊維基布に積層する方法などを採ることができる。これらの方法により、タングステン微粒子分散海成分とタングステン微粒子非分散島成分による構成、またはタングステン微粒子非分散海成分とタングステン微粒子分散島成分による構成の近赤外線制御層を得ることができる。本発明の混合物ではタングステン微粒子分散合成樹脂成分は非相溶対のタングステン微粒子非分散合成樹脂成分と交じり合うことは無いから、タングステン微粒子分散合成樹脂成分に含まれるタングステン微粒子が、タングステン微粒子非分散合成樹脂成分側に混入する事は無い。また本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートにおいて近赤外線制御層は、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン微粒子を含んでいることで、良好な近赤外線遮蔽性を得ながら、近赤外線制御層全体にタングステン微粒子を含むのに比べて可視光線の透過性を向上させることができ、更に、高価なタングステン微粒子の使用量を減らすことでコスト面でも有利である。また、これらタングステン微粒子を含む樹脂層は通常青みの色調を帯び、また、可視領域の光線透過率も下がるため、その影響を抑えるには、島成分にタングステン微粒子を含むことが好ましい。島成分の側にタングステン微粒子を含むことで、海成分を通して可視領域の光線透過率の高い近赤外線遮蔽性高透光シートを得ることができ、更にレイリー散乱の影響、すなわち、角度によって照明の色調が変わって見えたり、表面が青白く濁って見える現象を抑えることができる。
【0026】
本発明の近赤外線遮蔽性シートにおいて、近赤外線制御層は、この他に必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、充填剤、接着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、蛍光増白剤、蛍光顔料、有機顔料、蓄光顔料などが例示される。
【0027】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、近赤外線制御層とは別に光拡散層を含むことが好ましい。光拡散層を含むことで、近赤外線遮蔽性高透光シートの背後に配した光源を、より目立ちにくくすることができる。光拡散層は、可撓性樹脂中に平均粒子径0.1〜10μm、屈折率1.55以上の光拡散性物質を含む層であることが好ましい。光拡散層を構成する可撓性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など、光線透過率が高く可撓性のある熱可塑性樹脂および硬化性樹脂から選択して用いることができる。可撓性樹脂中に含まれる光拡散性物質は、白色顔料、パール顔料、ガラスビーズ、ガラス粒子、樹脂ビーズおよび樹脂粒子から選ばれた少なくとも一種の粒子である。白色顔料は、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸バリウム(BaSO4)などの白色顔料の他、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タングステン(WO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)などの白色の無機粒子を包含する。パール顔料は、天然雲母に高屈折率の金属酸化物(例えば酸化チタン)をコートした顔料が例示される。ガラスビーズは、中空ガラスビーズ、中実ガラスビーズが例示され、ガラス粒子は、ガラス粉末、ガラスビーズ破砕体が例示される。樹脂ビーズは、スチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、エポキシ系樹脂等からなる樹脂ビーズが例示され、特に光拡散層を構成する可撓性樹脂と非相溶の樹脂を用いる。これらの樹脂ビーズはコア−シェル複層構造を有していてもよく、架橋構造を有していてもよい。また樹脂粒子とはこれらの樹脂ビーズを破砕して得られる不定形粒子である。これらの光拡散性物質の平均粒子径は、0.1〜50μmが好ましく、白色顔料、ガラスビーズ、ガラス粒子、樹脂ビーズ、及び樹脂粒子のアスペクト比は1〜6が好ましく、特にパール顔料においてのアスペクト比は6〜60が好ましい。また可撓性樹脂100質量部に対する光拡散性物質の添加量は、0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜50質量部がさらに好ましい。添加量が0.1質量部未満では添加した効果が得られないことがある。また添加量が100質量部を超えると光線透過率が低下して、光天井部材、光壁材、内照看板材に用いた場合、十分な照明機能が発揮できなくなることがあり、また、光拡散層の樹脂強度が低下し、得られるシートの強度や耐久性が低くなることがある。
【0028】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートにおいて、光拡散層は、この他に必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、充填剤、接着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、蛍光増白剤、蛍光顔料、有機顔料、蓄光顔料などが例示される。
【0029】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、強度、耐久性、寸法安定性などを付与するために、繊維基布含有積層体である事が好ましい。繊維基布に用いられる繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維などの合成繊維、木綿、麻などの天然繊維、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの無機繊維が挙げられ、これらは単独または2種以上からなる混用繊維によって構成されていてもよい。その形状はマルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、モノフィラメント糸条、スプリットヤーン糸条、テープヤーン糸条などいずれであってもよいが、得られるシートの柔軟性及び強度の観点から、マルチフィラメント糸条が好ましい。本発明に使用される繊維基布は、織布、編布、不織布のいずれでもよい。織布を用いる場合、平織、綾織、繻子織、模紗織などいずれの構造をとるものでもよいが、平織織物は、得られる近赤外線遮蔽性高透光シートの縦緯物性バランスに優れているため好ましく用いられる。編布を用いるときはラッセル編の緯糸挿入トリコットが好ましく用いられる。これら編織物は、少なくともそれぞれ、糸間間隙をおいて平行に配置された経糸及び緯糸を含む糸条により構成された粗目状の編織物(空隙率は最大80%、好ましくは5〜50%)、及び非粗目状編織物(糸条間に実質上間隙が形成されていない編織物)を包含する。不織布としてはスパンボンド不織布などが使用できる。繊維基布には必要に応じて撥水処理、吸水防止処理、接着処理、難燃処理などが施されていても良い。
【0030】
上記の内特にガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維からなる非粗目状の編織物を繊維基布として用いることで、建築基準法に規定される不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートを得ることが可能となる。具体的には、輻射電気ヒーターを用いて50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、かつ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないことを満足する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートであり、例えばガラス繊維織布(目付質量200〜300g/m2、空隙率1%以下の非目抜け平織)を繊維基布として、この1面以上に近赤外線制御層を設けることで得られる。この不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートは、特に高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける大面積の天井、エレベーターかご内の天井、及び鉄道車両の天井などに設置された照明用シェードや、光天井用膜材に用いることができ、また、屋内外に設置され、不燃性を要求される内照式看板用の膜材にも用いることができる。
【0031】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートにおいて、経時的な汚れの付着による光線透過性の低下を防止し、且つ美観を維持するために、可撓性シートの最外層に少なくとも1層の防汚層が設けられていることが好ましい。防汚層は近赤外線遮蔽性高透光シートの光線透過性を損なわず、極度の隠蔽性を伴わないものである限り、その形成方法及び素材に特に限定はない。このような防汚層は例えば、溶剤に可溶化されたアクリル系樹脂もしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種以上からなる樹脂溶液あるいは樹脂分散液を塗布して形成した塗膜、これらにシリカ微粒子、またはコロイダルシリカを含む塗膜、オルガノシリケート及び/又はその縮合体を含む塗布剤で塗布し親水性被膜層を形成したもの、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン)と結着剤とを含む塗布剤を塗布し光触媒層を形成したもの、少なくとも最外表面がフッ素系樹脂により形成されたフィルムを接着剤もしくは熱溶融加工により積層したもの、等から適宜選択することができ、可撓性シートの一方の面に設けても良く、必要に応じて表裏両面に設けても良い。
【0032】
防汚層には特に光触媒性物質を含むことが好ましく、その光触媒性物質としては、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒などから選ばれた1種以上を含むことがさらに好ましい。これらの光触媒性物質は可視光応答型光触媒として知られ、これらを含む防汚層を有することで、光天井や光壁、内照式看板などの屋内用途において、セルフクリーニングによる防汚性が付与され、メンテナンスの負担を大幅に軽減することができるばかりでなく、高気密の屋内において問題になっているVOCを分解する効果も得られる。また、可視光応答型光触媒は紫外線だけでなく短波長側の可視光も吸収して活性を示すものであり、そのためレイリー散乱の原因となる紫外線および短波長の可視光線(紫や青)が一部遮蔽され、角度によって照明の色調が変わったり、表面が青白く濁る現象も抑制することもできる。
【0033】
可撓性シートと防汚層との間には、必要に応じて、可撓性シート表面(ひょうめん)と防汚層の接着性を付与するための接着層、防汚層が光触媒性物質を含む場合に光触媒によって樹脂が分解するのを妨げるための保護層、可撓性シートを構成する樹脂に含まれる添加剤が防汚層に移行するのを妨げるための添加剤移行防止層、等を形成してもよい。また、防汚層が形成された面とは反対の面には、近赤外線遮蔽性高透光シートの傷つきを防ぐための傷つき防止層、汚れを防ぐための防汚層、近赤外線遮蔽性高透光シートをロール状に巻き取って保管している間に、反対面側の樹脂層に含まれる添加剤が防汚層上に移行するのを防ぐための添加剤移行防止層、意匠性を付与するための印刷層、等を従来公知の方法で形成しても良い。
【0034】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、高透光性可撓性シート(近赤外線遮蔽性高透光シート)の背面に光源を配置したシェード照明であり、前記可撓性シートが、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線制御層を含むものである。光源から発した可視光線は高透光性可撓性シートによって適度に拡散されるため、照度が均一で、光源の存在が目立ち難いシェード照明が得られる。一方、光源やそれに付随する装置(例えば蛍光灯のインバーター)から発した近赤外線は、近赤外線制御層によって吸収・散乱され、シェード照明周辺において、センサーやリモートコントローラーの誤動作を引き起こしたり、ワイヤレス音響機器にノイズを混入させたり、データ通信速度低下などの問題を引き起こすことが無い。近赤外線制御層において、タングステン微粒子が、海成分または島成分の何れか一方に含有されることで、全体に含有するのに比べて高透光性可撓性シートを透過した光が青く着色することが抑えられ、自由な色調の照明効果を得ることが可能となり、シートの光線透過率が高くなることで、より明るい空間を演出することができる。また、タングステン微粒子が海成分または島成分の何れか一方のみに含有されるので、全体にタングステン微粒子を含むのに比べて、角度によって照明の色調が変わって見えたり、青白く濁って見える現象も抑制される。ここで、海成分または島成分の内、タングステン微粒子を含まない相に、340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含むことで、その抑制効果をより高いものとすることができ、更に、走光性昆虫がシェード照明内に誘引されて迷込むのを防ぐ効果ももたらされる。
【0035】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材において、高透光性可撓性シートが、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上の光触媒性物質を含む防汚層を有することで、高所に設置されたシェード照明や、大型のシェード照明、分解掃除が困難なシェード照明などのメンテナンスの負担が大幅に軽減されると共に、高気密の屋内において問題になっているVOCを分解する効果が得られる。上記の光触媒性物質は紫外線だけでなく短波長側の可視光を吸収して活性を示すものであり、そのためレイリー散乱の原因となる紫外線および短波長の可視光線(紫や青)が一部遮蔽され、角度によって照明の色調が変わって見えたり、光が当たったときに青白く濁る現象を更に抑制することができる。
【0036】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において、高透光性可撓性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えないことで、建築基準法に定められる不燃性を求められる用途に応用することができる。
【0037】
本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材における光源としては、特に限定は無く、白熱電球、蛍光灯(熱陰極管、冷陰極管)、外部電極型蛍光灯、ハロゲンランプ、HIDランプ、水銀灯、発光ダイオード(LED)、有機・無機ELなど、従来公知の照明から適宜選択して用いることができる。高透光性可撓性シートに対する光源の配置方法としては、高透光性可撓性シートの背面に複数個の光源を配置しても良く、板状の導光部材の側端面に冷陰極管を配置したエッジライト方式の面発光ユニットを、高透光性可撓性シートの背面に配して用いても良い。
【0038】
図10は、本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を用いた光天井の一例を示すものである。図10において、高透光性可撓性シート(近赤外線遮蔽性高透光シート)(1)が天井から吊り具(10)により吊り下げられた固定枠(11)に固定されており、高透光性可撓性シート(1)の背面には光源として蛍光灯(9−1)が配置されている。高透光性可撓性シート(1)が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、その海成分または島成分の何れか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する少なくとも1層の近赤外線制御層を含むことで、照度が均一で、光源の存在が目立ち難いシェード照明が得られ、光源やそれに付随する装置(例えば蛍光灯のインバーター)から発した近赤外線ノイズを遮蔽することができる。特に本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、建築基準法に適合する不燃性を有することで、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける大面積の天井に適して用いることが可能となり、更にはエレベーターかご内や鉄道車両の天井、一般家庭の天井などにも用いることができる。高透光性可撓性シート(1)の表裏両面に光触媒性物質を含む防汚層(8)を形成すれば、高所に設置された近赤外線ノイズ遮蔽材の掃除など、メンテナンスにかかる負担を軽減することができ、更に高気密の屋内において問題になっているVOCを分解する効果も得られる。近赤外線ノイズ遮蔽材は天井の全面に用いても良いし、所望の一部分だけに用いても良い。高透光性可撓性シートの背面に配置する蛍光灯は400nmから800nmの波長の光を放射する照明用蛍光灯であれば特に限定は無く、三波長形蛍光灯、高演色形蛍光灯、一般型蛍光灯のいずれの形式も使用でき、これらの色温度は、昼光色(5700K〜7100K)、昼白色(4600K〜5400K)、白色(3900K〜4500K)、温白色(3200K〜3700K)、電球色(2600K〜3150K)など、好みのタイプを選択して用いることができる。また、蛍光灯の代わりに白熱電球、HIDランプ、水銀灯、LEDなどを用いることもできる。天井の形状としては、図10の様な平面状に限らず、アーチ型やドーム型など曲面状の天井であっても良い。
【0039】
図11は、本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材を用いた内照式看板の一例を示すものである。内照式看板のハウジング(12)に高透光性可撓性シート(近赤外線遮蔽性高透光シート)(1)を装着したもので、ハウジング(12)内部には蛍光灯(9−1)が配置されている。蛍光灯は400nmから800nmの波長の光を放射する照明用蛍光灯であれば特に限定は無く、三波長形蛍光灯、高演色形蛍光灯、一般型蛍光灯のいずれの形式も使用でき、これらの色温度は、昼光色(5700K〜7100K)、昼白色(4600K〜5400K)、白色(3900K〜4500K)、温白色(3200K〜3700K)、電球色(2600K〜3150K)など、好みのタイプを選択して用いることができる。光源としては、蛍光灯の他にLED、導光板の端部に光源(LED、冷陰極管等)を配置した面発光体、有機・無機ELなどを用いることもできる。本発明の近赤外線ノイズ遮蔽材は、建築基準法の指導に適合する不燃性を有することで、特に駅構内、地下商店街、それらに付随する通路、その他公共施設内に設置された内照式の看板や案内板などにも適して用いることができる。
【実施例】
【0040】
本発明を下記実施例、および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
下記実施例及び比較例で作成したシートについて、以下の評価を行った。
(I)光線透過率
JIS Z8722.5.4(条件g)に従いミノルタ分光測色計CM−3600dを用いて測定した。
(II)近赤外線遮蔽性
島津製作所UV−3600を用いて波長950nmの近赤外線の透過率を測定した。
透過率が低いほど近赤外線遮蔽性が高いものと判断し、以下の様に判定した。
1:透過率10%以下(近赤外線遮蔽性が非常に優れる)
2:透過率が10%を超え20%以下(近赤外線遮蔽シートとして十分効果あり)
3:透過率が20を超え30%以下(近赤外線遮蔽シートとして使用できる)
4:透過率が30%を超える(近赤外線遮蔽性が不十分)
(III)燃焼試験(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)
輻射電気ヒーターによる50kW/m2の輻射熱を産業資材構造物に20分間照射し、
この発熱性試験において、20分間の総発熱量と発熱速度を測定し、試験後の膜材外観
を観察した。
(a)総発熱量:8MJ/m2以下のものを適合とした。
(b)発熱速度:10秒以上継続して200kW/m2を超えないものを適合とした。
(c)外観観察:直径0.5mmを超えるピンホール陥没痕の発生がないものを適合と
した。
(IV)背面の光源の隠蔽性
実施例及び比較例で作成したシート(13)について図12に示した光天井モデルを
作製し、シート中央部真下の、シートの面に対して垂直の角度で2m離れた位置(A)
から観察し、以下の基準で光源の隠蔽性を評価した。光天井に用いたシート(13)の
サイズはたて150cm×よこ150cm、であり、シート(13)が床面から3mの
高さになる様に平面施工し、背面に光源として36ワット40型の直管3波長形昼白色
蛍光灯(9−1)を6本並行に25cm間隔で均等に配置し点灯した状態で評価した。
なお、図12において、シートと蛍光灯以外の要素(蛍光灯器具、ハウジング、電源、
配線など)の表現は省略した。
1:シート全面がほぼ均一に光り、蛍光灯がまったく視認できず、位置もわからない
2:蛍光灯の位置は概ね見当をつけられるが、ほとんど視認できない
3:シートを通して蛍光灯が視認でき、光源隠蔽効果に劣る
(V)光源の色調に対する透過光の色調の変化
実施例及び比較例で作成したシート(13)について図12の光天井モデルを用い、
蛍光灯(9−1)を点灯した状態で下方の、シートの面に対して垂直の角度で2m離れ
た位置(A)から観察し、3波長形昼白色蛍光灯の色調に対する透過光の変化を目視で
確認し、以下の様に評価した。
1:透過光の色調は、ほとんど変化が無く、自然な色調の照明効果が得られる
2:透過光にわずかに着色が見られるが、シェード照明として問題なく使用できる
3:透過光に明らかな着色が見られ、自然な色調の照明効果が得られない
(VI)斜め方向から観察したシートの色調
実施例及び比較例で作成したシート(13)について図12の光天井モデルを用い、
下方の、シートの面に対して15度の角度で5m離れた位置(B)からシート表面を観
察し、位置(A)から垂直に観察した場合との色調の変化を、以下の基準で評価した。
1:垂直の角度から観察した色調と変わらない
2:色調がわずかに変化して見えるが、シェード照明として問題なく使用できる
3:垂直の角度から観察したのに比べ、色調が不自然に変わり、照明シェードとして
意匠性に劣る
(VII)粉体汚れ防止性及び汚れの落ちやすさ
空気中の粉塵や花粉などに対する粉体汚染物質に対する汚れ防止性を試験するため、
JISL1919:2006に従い、人工汚染物質は粉体汚染物質−2を用いA−2
法の汚れにくさ試験を行った。初期の試験片表面の色を基準とし、試験後の試験片との
色差ΔE(JIS K7105.5.4)を測定し、以下の様に評価した。
1:汚れの付着が極めて少なく汚れ防止性が非常に優れている(ΔEが5以下)
2:汚れ防止性が優れている(ΔEが5を超え10以下)
3:汚れ防止性が劣る(ΔEが10を超える)
上記試験に続いて、汚れの落ちやすさを以下の様に試験した。
水を含ませ、しずくが垂れない程度に軽く絞った紙ワイパーを用いて、上記(VII)の
汚れにくさ評価後の試料片表面の中央を、一定方向に10回軽くふき取り、次いで水を
含ませない紙ワイパーを軽く押し付けて試験片の表面に残った水分を除き、その後常温
で1時間乾燥させてから、初期の試料片表面の色を基準とし、試験後の試料片との色差
ΔE(JISK7105.5.4)を測定し、以下の様に評価した。なお、紙ワイパーとしては日本
製紙クレシア(株)製の商品名:キムワイプS−200を用いた。
1:汚れを落としやすい(ΔEが3以下)
2:汚れをある程度落とすことができる(ΔEが3を超え5以下)
3:ふき取り後も汚れが残る(ΔEが5を超える)
(VIII)タバコ汚れ防止性および汚れの落ちやすさ
タバコ汚れを想定した汚れ防止性を以下の様に試験した。
内側のサイズが幅50cm×高さ20cm×奥行き20cmの透明なアクリル製の箱の
底面中央部に、実施例・比較例で作成した幅10cm×長さ10cmのシート(12)
を置き、箱内部にタバコ5本分の煙を送り込み30分間煙を付着させてからシートを取
り出し、初期の試料片表面の色を基準とし、試験後の試験片との色差ΔEを測定
(JISK7105.5.4)し、以下の様に評価した。なお、タバコの煙は、ダイヤフラムポンプ
に連結したチューブを煙草のフィルター側に取り付け、タバコに着火してから、ダイヤ
フラムポンプを1,800cm3/分の風量で駆動させて、煙草のフィルターを通過した煙
をポンプの吐出側から箱内部に送り込んだ。
1:汚れの付着が少なく汚れ防止性が優れている(ΔEが5以下)
2:汚れ防止性が優れている(ΔEが5を超え10以下)
3:汚れ防止性が劣る(ΔEが10を超える)
次に、メンテナンスの容易さを評価するため、蛍光灯の光を当て続けた場合の汚れの分
解性及び汚れの落ちやすさを以下の様に評価した。
箱内部に残ったタバコの煙を完全に排除してから、タバコ汚れが付着した試験片を箱の
底面中央部に戻し、底面から10cmの位置に図13の様に、15ワット15型の直管
3波長形昼白色蛍光灯を1本配置した。次いで蛍光灯を1日あたり16時間点灯して、
60日経過後に、初期の試料片表面の色を基準とし色差ΔEを測定した。この時点で汚
れが残っていた場合には更にふき取り試験を行って、以下の様に評価した。なお、箱に
はフィルターを通してファンで空気を送り込むことで、内部の圧力を外部よりも高く保
ち、蛍光灯の配線のための穴や、箱の隙間などから虫やほこりが侵入しない様にすると
ともに、箱内部の温度上昇を抑えた。(図13において、配線、蛍光灯器具、ファン、
箱、などに関しては表現を省略した)また、ふき取り試験は、紙ワイパーに、水を含ま
せ、しずくが垂れない程度に軽く絞って一定方向に10回ふき取りを行い、更に汚れが
残っていた(ΔEが4を超える)場合には、中性洗剤を10%含む水溶液を紙ワイパー
に水を含ませ、しずくが垂れない程度に軽く絞って、水でふき取ったのとは違う位置で
一定方向に10回ふき取りを行った。なお、紙ワイパーとしては日本製紙クレシア
(株)製の商品名:キムワイプS−200を用いた。
1:蛍光灯の光だけで60日後に汚れがほぼ消えていた(ΔEが3以下)
2:60日後に汚れが残っていた(ΔEが3を超える)が、水でふき取ることができ
た(ΔEが3以下)
3:60日後に汚れが残っていた(ΔEが3を超える)が、中性洗剤を10%含む水
溶液でふき取ることができた(ΔEが3以下)
4:60日後に汚れが残っており(ΔEが3を超える)、水でも中性洗剤を10%含
む水溶液でもふき取ることができなかった(ΔEが3を超える)
【0042】
[実施例1]
下記配合1の軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合2のタングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマー(SBS)の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物1を得た。配合2においてタングステン酸化物微粒子として平均粒子径80nmのWO2.72を用いた。この非相溶樹脂混合物1を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.3mmの近赤外線遮蔽性高透光シートを成型した。このシートを顕微鏡観察すると、タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。シート全体(近赤外線制御層全体)に対する島成分含有率は6.5体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。
<配合1>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
<配合2>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 1.5質量部
【0043】
[実施例2]
配合1の軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物の代わりに、下記配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を用いた以外は、実施例1と同様に、厚さ0.3mmの近赤外線遮蔽性高透光シートを成型した。このシートを顕微鏡観察すると、タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。シート全体(近赤外線制御層全体)に対する島成分含有率は6.5体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。
<配合3>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
【0044】
[実施例3]
下記配合4のベンゾトリアゾール化合物含有軟質フッ素樹脂の熱溶融混練物に、下記配合5の複合タングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、軟質フッ素樹脂単体の質量に対して10質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、塩化ビニル樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物3を得た。配合5において、複合タングステン酸化物微粒子としては平均粒子径80nmのセシウム・タングステン複合酸化物(Cs0.33WO3)を用いた。この樹脂混合物3を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線制御層用フィルム3−1を成型した。一方、下記配合6の光拡散性物質含有軟質フッ素樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの光拡散層用フィルム3−2を成型した。配合6において、光拡散性物質として粒子径400nm、屈折率2.75の二酸化チタン粒子を用いた。次いで、得られたフィルム3−1とフィルム3−2の中間に下記基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状の近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。フィルム3−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.548の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質フッ素樹脂が屈折率1.360の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は13.5体積%、島成分の平均粒子径は1.7μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合4>
軟質フッ素樹脂 100質量部
(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂)
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN326/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
<配合5>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
複合タングステン酸化物微粒子(Cs0.33WO3:平均粒子径80nm)
1.5質量部
<配合6>
軟質フッ素樹脂 100質量部
(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂)
二酸化チタン粒子(粒子径400nm、屈折率2.75) 1質量部
(基布1)
ポリエステル833dtexマルチフィラメントを用いた粗目状平織り布
密度 たて(経糸) 19本/インチ よこ(緯糸) 20本/インチ
【0045】
[実施例4]
下記配合7の安息香酸エステル化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合8の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物4を得た。この非相溶樹脂混合物4を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線制御層用フィルム4−1を成型した。一方、下記配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの光拡散層用フィルム4−2を成型した。配合9の光拡散性物質として、平均粒子径6μm、屈折率1.590の架橋ポリスチレンビーズを用いた。次いで、得られたフィルム4−1とフィルム4−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム4−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、安息香酸エステル化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は6.4体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次に、下記配合10の組成物液をグラビアコーターで塗布し、120℃で1分間乾燥後冷却し、5g/m2の樹脂中間層を両面に形成した。さらに前記樹脂中間層の上に、配合10の樹脂組成物からシリカを除いた溶剤希釈液を、グラビヤコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥後冷却して追加樹脂層を形成し、それによって、樹脂中間層と追加樹脂層とからなる、合計10g/m2の添加剤移行防止層を両面に形成した。次いで下記配合11の接着・保護層形成用塗布液を添加剤移行防止層上にグラビアコーターで塗布し、100℃×1分乾燥後冷却して、両面に1.5g/m2の接着・保護層を形成し、さらに、その接着・保護層上に下記配合12の防汚層形成用塗布液をグラビアコーターで塗布し、120℃で2分間乾燥後冷却して1.5g/m2の光触媒性物質含有防汚層が両面に形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表1に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合7>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
安息香酸エステル化合物(商品名:ユビナールAプラス/BASFジャパン(株)製)
0.5質量部
<配合8>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
複合タングステン酸化物微粒子(Cs0.33WO3:平均粒子径80nm)
1.5質量部
<配合9>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
架橋ポリスチレンビーズ(平均粒子径6μm、屈折率1.59) 15質量部
<配合10>
ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂 20質量部
(商標:カイナー7201:エルフ・アトケム・ジャパン(株))
シリカ:(商標:ニップシールE−75:東ソー・シリカ(株)) 5質量部
MEK(溶剤) 80質量部
<配合11>
シリコン含有量3mol%のアクリルシリコン樹脂を8質量%(固形分)含有する
エタノール−酢酸エチル(50/50質量比)溶液 100質量部
メチルシリケートMS51(コルコート(株))の
20%エタノール溶液(ポリシロキサン) 8質量部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤) 1質量部
<配合12>
スノーテックスO(コロイダルシリカ:日産化学工業(株)製) 67質量部
メチルトリメトキシシラン 33質量部
酸化タングステン(WO3)微粒子 27質量部
酸化銅(CuO)微粒子 3質量部
希釈溶剤(メチルアルコール) 50質量部
【0046】
[実施例5]
下記配合13のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物に、下記配合14の複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して25質量%加えて撹拌し、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂を均一分散させた近赤外線制御層用非相溶樹脂混合物液5を得た。配合14において、複合タングステン酸化物微粒子としては平均粒子径80nmのナトリウム・タングステン複合酸化物(Na0.33WO3)を用いた。この非相溶樹脂混合物液5を充満させた浴槽に下記基布2を浸漬し、基布2に非相溶樹脂混合物液5を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2の両面の余分な液を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に非相溶樹脂混合物液5を合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布5を得た。この含浸被覆層(近赤外線制御層)を顕微鏡で観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂が屈折率1.592の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.548の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は8.8体積%、島成分の平均粒子径は7.3μmであった。次いで、このシートの、両面に、下記配合15のフッ素樹脂含有防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で3分間乾燥した。これによって両面に塗布量:5g/m2の防汚層が形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。
<配合13>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
<配合14>
ビニルエステル樹脂 100質量部
(日本ユピカ(株)製 商品名:ネオポール8319)
硬化剤 1質量部
(ジ−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パ−オキシジカ-ボネ-ト)
複合タングステン酸化物微粒子(Na0.33WO3:平均粒子径80nm)3質量部
<配合15>
フルオロオレフィンビニルエーテル樹脂 100質量部
(商標:フロロトップ1053:旭硝子(株):固形分50質量%)
イソホロン系イソシアネート硬化剤 10質量部
(商標:タケネートD−140N:武田薬品工業(株):固形分75質量%)
シリカ(商標:ファインシールX37:(株)トクヤマ) 5質量部
メチルエチルケトン 100質量部
(基布2)
フィラメント直径9μm/750dtexのガラス繊維を用いた非粗目状平織り布
織密度 たて(経糸) 40本/インチ よこ(緯糸) 30本/インチ
精練(ヒートクリーニング)
シランカップリング処理 メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウ
コーニング社製Z6030)
【0047】
[実施例6]
配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの光拡散層用カレンダーフィルムを成型し、得られたカレンダーフィルムを、実施例5と同様にして得た樹脂含浸被覆基布5の一方の面に熱圧着により積層してシートを得た。次いで、このシートの、両面に、配合15のフッ素樹脂含有防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で3分間乾燥した。これによって両面に塗布量:5g/m2の防汚層が形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、光拡散層を形成しなかった側を光源に向けて配置して評価した。
【0048】
[実施例7]
下記配合16の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に軟質塩化ビニル樹脂ペーストを完全に含浸させた。配合16において、光拡散性物質として平均粒子径6μm、屈折率1.590の架橋ポリスチレンビーズを用いた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な樹脂ペーストを掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に配合16の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストを合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布7を得た。次いで配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合17の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して25質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物7を得た。配合17において、複合タングステン酸化物微粒子としては平均粒子径80nmのナトリウム・タングステン複合酸化物(Na0.33WO3)を用いた。この非相溶樹脂混合物7を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの近赤外線制御層用カレンダーフィルムを成型し、得られたカレンダーフィルムを先に作成した樹脂含浸被覆基布7の一方の面に熱圧着により積層してシートを得た。このカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は7.8体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次いで、このシートの、両面に、配合15のフッ素樹脂含有防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で3分間乾燥した。これによって両面に塗布量:5g/m2の防汚層が形成された近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合16>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
架橋ポリスチレンビーズ(平均粒子径6μm、屈折率1.59) 20質量部
<配合17>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
複合タングステン酸化物微粒子(Na0.33WO3:平均粒子径80nm)2質量部
【0049】
[実施例8]
下記配合18の軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に軟質塩化ビニル樹脂ペーストを完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な樹脂ペーストを掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に配合18の軟質塩化ビニル樹脂ペーストを合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布8を得た。次いで配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、配合17の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して30質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物8を得た。この非相溶樹脂混合物8を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの近赤外線制御層用カレンダーフィルム8−1を成型した。一方、配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの光拡散層用カレンダーフィルム8−2を成型した。次いで、得られたフィルム8−1とフィルム8−2の中間に先に作成した樹脂含浸被覆基布8を挿入し、熱圧着により積層してシートを得た。フィルム8−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次に実施例4と同様にしてシート両面に添加剤移行防止層、接着・保護層、光触媒性物質含有防汚層を形成して近赤外線遮蔽性高透光シートを得た(図5参照)。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合18>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
【0050】
[実施例9]
配合13のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物に、配合14の複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して15質量%加えて撹拌し、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂を均一分散させた近赤外線制御層用非相溶樹脂混合物液9を得た。この非相溶樹脂混合物液9を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に非相溶樹脂混合物液9を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な液を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に非相溶樹脂混合物液9を合わせて70g/m2被覆した樹脂含浸被覆基布9を得た。この含浸被覆層(近赤外線制御層)を顕微鏡で観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有ビニルエステル樹脂が屈折率1.592の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.548の海成分を構成していた。の含浸被覆層(近赤外線制御層)全体に対する島成分含有率は5.5体積%、島成分の平均粒子径は7.3μmであった。次いで配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、配合17の複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物9を得た。この非相溶樹脂混合物9を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの近赤外線制御層用カレンダーフィルム9−1を成型した。一方、配合9の光拡散性物質含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.15mmの光拡散層用カレンダーフィルム9−2を成型した。次いで、得られたフィルム9−1とフィルム9−2の中間に先に作成した樹脂含浸被覆基布9を挿入し、熱圧着により積層してシートを得た。フィルム9−1からなる近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。フィルム9−1からなる近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は6.5体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。次に実施例4と同様にしてシート両面に添加剤移行防止層、接着・保護層、光触媒性物質含有防汚層を形成して近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、フィルム9−1からなる近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
【0051】
[実施例10]
実施例8と同様にして近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。ただし、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の代わりに、下記配合19のベンゾトリアゾール化合物・6ホウ化物粒子含塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を用いた。この近赤外線遮蔽性高透光シートの近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物・6ホウ化物粒子含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合19>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
6ホウ化物粒子(LaB6:平均粒子径80nm) 0.5質量部
【0052】
[実施例11]
実施例8と同様にして近赤外線遮蔽性高透光シートを得た。ただし、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の代わりに、下記配合20の安息香酸エステル化合物・ハイドロタルサイト類化合物粒子含塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を用いた。この近赤外線遮蔽性高透光シートの近赤外線制御層を顕微鏡観察すると、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーが屈折率1.572の島成分を構成しており、安息香酸エステル化合物・ハイドロタルサイト類化合物粒子含有軟質塩化ビニル樹脂が屈折率1.520の海成分を構成していた。近赤外線制御層全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.2μmであった。この近赤外線遮蔽性高透光シートについて、構成を表2に、各種評価を行った結果を表4にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、近赤外線制御層を形成した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合20>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
安息香酸エステル化合物(商品名:ユビナールAプラス/BASFジャパン(株)製)
0.5質量部
ハイドロタルサイト類化合物(商品名:MIZUKALAC/水澤化学工業(株)製)
2質量部
【0053】
実施例1及び2は、島成分にタングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線遮蔽性高透光シート(全体が近赤外線制御層)である。海島構造の一方の相のみにタングステン酸化物微粒子を含有するため高い光線透過率が得られ、かつ近赤外線遮蔽性の優れるシートであった。図12の光天井モデルを用いた評価においては、背面の蛍光灯の位置は概ね見当をつけられるものの、海相・島相界面での散乱効果により蛍光灯の形状は視認できず、海島構造を有することで透過光の色調変化もわずかであり、照明用シェードとしての機能を満たしていた。斜め方向から見た色調に関して、実施例1は垂直方向から観察した色調よりもわずかに青白く濁っていたが不自然な色調ではなく、照明用シェードに問題なく使用できるシートであった。一方、実施例2は垂直方向・斜め方向から観察してもほとんど色調に変化はみられなかった。これは実施例2で海成分に含まれるベンゾトリアゾール系化合物が、340〜410nmの波長領域に吸収帯を有し、レイリー散乱の原因となる紫外線と短波長の可視光を吸収することで、斜め方向から観察した際の、レイリー散乱による色調の変化が抑制されたためであると考えられる。
実施例3及び4は中間にポリエステルマルチフィラメント粗目状平織り布(基布1)を含み、その一方の側に島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を有し、もう一方の側に光拡散性物質を含むカレンダーフィルムからなる光拡散層を有する、ターポリン状の近赤外線遮蔽性高透光シートである。光線透過率、近赤外線遮蔽性共に優れており、図12の光天井モデルを用いた評価においては、シート全体がほぼ均一に光り、蛍光灯が全く視認できず、透過光の色調変化もほとんど認識することができず、かつ、斜め方向からの観察においても垂直方向からの観察と色調に変化は無く、照明用シェードに好適に用いることのできるシートであった。また、実施例3は、近赤外線制御層の海成分用の樹脂及び光拡散層用の樹脂として軟質フッ素樹脂を用いたため、汚れ防止性・及び汚れの落ちやすさ共に優れたシートが得られたが、実施例4についても、両面に光触媒性物質を含む防汚層を設けることで、汚れ防止性・及び汚れの落ちやすさに優れたシートが得られた。特に光触媒性物質を含む防汚層を設けた実施例4については、セルフクリーニングによる汚れ防止性が付与され、メンテナンスの負担を大幅に軽減することができるシートであった。
実施例5は、ガラスマルチフィラメントからなる非粗目状平織り布(基布2)に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造の近赤外線制御層を含浸被覆により形成した樹脂含浸被覆基布の、両面に防汚層を設けた近赤外線遮蔽性高透光シートである。実施例1〜4に比べて近赤外線制御層が薄いが、波長950nmの近赤外線透過率は20%以下であり、必要な近赤外線遮蔽性は得られていた。図12の光天井モデルを用いた評価においては、蛍光灯の位置は概ね見当をつけられるものの、蛍光灯はほとんど視認できず、透過光の色調に変化は無く、斜め方向の観察においても色調が変わらない、照明用シェードに問題なく使用できるシートであった。実施例6は、実施例5と同様にして得た樹脂含浸被覆基布の一方の面に、光拡散性物質を含有するカレンダーフィルム光拡散層を積層してから、両面に防汚層を設けた構成であり、実施例5に比べて光源の隠蔽性が向上し、照明用シェードとしてより機能性に優れた近赤外線遮蔽性高透光シートであった。実施例7は、基布2に光拡散性物質を含有する光拡散層を含浸被覆し、得られた樹脂含浸被覆基布の一方の側に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を積層してから、両面に防汚層を設けた近赤外線遮蔽性高透光シートであり、光線透過率、近赤外線遮蔽性共に優れており、図12の光天井モデルを用いた評価においては、シート全体がほぼ均一に光り、蛍光灯が全く視認できず、透過光の色調変化もほとんど認識することができず、かつ、斜め方向からの観察においても垂直方向からの観察と色調に変化は無く、照明用シェードに好適に用いることのできるシートであった。また、実施例5〜7は、両面にフッ素樹脂を含む防汚層を設けることで、汚れ防止性・及び汚れの落ちやすさに優れたシートであった。
実施例8は、基布2に光拡散性物質もタングステン微粒子も含有しない樹脂層を含浸被覆により形成し、その樹脂含浸被覆基布の一方の側に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を、もう一方の側に光拡散性物質を含むカレンダーフィルムからなる光拡散層を積層し、さらにその両面に防汚層を形成した近赤外線遮蔽性高透光シートであり、実施例9は、ガラスマルチフィラメントからなる非粗目状平織り布(基布2)に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造の近赤外線制御層を含浸被覆により形成し、得られた樹脂含浸被覆基布の一方の側に、島成分に複合タングステン酸化物微粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムからなる近赤外線制御層を、もう一方の側に光拡散性物質を含むカレンダーフィルムからなる光拡散層を積層したシートの、両面に防汚層を形成した近赤外線遮蔽性高透光シートであり、それぞれ実施例7同様照明用シェードに好適に用いることのできるシートであった。実施例10は、実施例8の近赤外線制御層を、島成分にタングステン酸化物微粒子を含有し、海成分にベンゾトリアゾール化合物及び6ホウ化物(6ホウ化ランタン)粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムに置き換えた構成であり、実施例11は、実施例8の近赤外線制御層を、島成分にタングステン酸化物微粒子を含有し、海成分に安息香酸エステル化合物及びハイドロタルサイト類化合物粒子を含有する海島構造のカレンダーフィルムに置き換えた構成であり、それぞれ実施例8よりも更に近赤外線遮蔽性の優れた近赤外線遮蔽性高透光シートであった。また、実施例8〜11は、両面に光触媒性物質を含む防汚層を設けることで、汚れ防止性に優れたシートが得られ、更にセルフクリーニングによる汚れ防止性が付与され、メンテナンスの負担を大幅に軽減することができるシートであった。なお、実施例5〜11のシートは、いずれも燃焼試験(ASTM−E1354)に適合する不燃性のシートであり、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける天井部材、壁材、壁看板の構築部材に好適に用いる事のできる近赤外線遮蔽性高透光シートであった。
【0054】
[比較例1]
下記配合21のタングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.3mmのシートを成型した。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
<配合21>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 0.27質量部
【0055】
比較例1のシートは、面積当たりのタングステン酸化物微粒子添加量が実施例1と同等であるが、海島構造を有さないため、近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として効果の得られないシートであった。また、光線透過率もやや劣り、図12の光天井モデルを用いた評価においては、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面の蛍光灯がはっきりと視認でき、照明用シェードに用いることのできないシートであった。また、光源の色調に対して垂直の角度から観察した場合の色調の変化はわずかであったが、斜め方向から見た色調に関して、垂直方向から観察した色調に対して明らかに青白く濁っており、意匠性に劣るシートであった。
【0056】
[比較例2]
下記配合配合22のタングステン酸化物微粒子・ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.3mmのシートを成型した。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
<配合22>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 0.27質量部
【0057】
比較例2のシートは、比較例1のタングステン酸化物微粒子含有軟質塩化ビニル樹脂に、更にベンゾトリアゾール化合物を加えた熱溶融混練物から得たシートであるが、比較例1同様海島構造を有さないため、実施例2と比較して近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として用いることのできないシートであった。一方、図12の光天井モデルを用いた評価においては、ベンゾトリアゾール化合物を含むため、斜め方向から見た色調に関して比較例1に比べ改善が見られるが、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面の蛍光灯がはっきりと視認でき、照明用シェードに用いることのできないシートであった。
【0058】
[比較例3]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、配合17から複合タングステン酸化物微粒子を省略したスチレンブタジエンブロックコポリマーの熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して30質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子含有スチレンブタジエンブロックコポリマーを均一分散させた非相溶樹脂混合物比―2を用いた。非相溶樹脂混合物比―2から形成されたカレンダーフィルムを顕微鏡観察すると、スチレンブタジエンブロックコポリマーが島成分を構成しており、ベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂が海成分を構成していた。非相溶樹脂混合物比―2から形成されたカレンダーフィルム全体に対する島成分含有率は9.3体積%、島成分の平均粒子径は6.3μmであった。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
【0059】
比較例3のシートは、光拡散層を含み、光源隠蔽性に優れるため照明用シェードとして用いる事は可能であるが、海島構造の海相・島相何れにもタングステン微粒子を含まないため近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として効果の得られないシートであった。
【0060】
[比較例4]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、配合3のベンゾトリアゾール化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合23のタングステン酸化物微粒子含有アクリル樹脂の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、軟質塩化ビニル樹脂とアクリル樹脂とタングステン酸化物粒子が均一に分散した相溶樹脂混合物比―4を用いた。この相溶樹脂混合物比−4から成型したカレンダーフィルムを顕微鏡観察すると、軟質塩化ビニル樹脂とアクリル樹脂が相溶して混合され、その樹脂混合物中にタングステン酸化物微粒子が分散し、海島構造は確認されなかった。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。
<配合23>
アクリル樹脂(熱分解温度265℃、酸価6.5mgKOH/g) 100質量部
タングステン酸化物微粒子(WO2.72:平均粒子径80nm) 2質量部
【0061】
比較例4のシートは、樹脂混合物が相溶性であり、海島構造を有する近赤外線制御層が形成されなかったため、近赤外線透過率が高く、近赤外線遮蔽材として用いることのできないシートであった。
【0062】
[比較例5]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、下記配合24のベンゾトリアゾール化合物・6ホウ化物粒子含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物比―5を用いた。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、熱溶融混練物比―5からなるカレンダーフィルムを積層した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合24>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
6ホウ化物粒子(LaB6:平均粒子径80nm) 0.45質量部
【0063】
比較例5は、面積当たりの6ホウ化物粒子添加量が実施例10と同等であるが、熱溶融混練物比―5からなるカレンダーフィルムが海島構造を有さず、タングステン微粒子も含まないため、近赤外線の透過率が高く、近赤外線遮蔽シートとして用いることのできないものであった。図12の光天井モデルを用いた評価においては、シェード照明に用いることは可能であるが、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面光源隠蔽性・透過光色調変化・斜め方向から観察したシートの色調、それぞれが実施例10より、やや劣る結果であった。
【0064】
[比較例6]
実施例8と同様にしてシートを得た。ただし、非相溶樹脂混合物8の代わりに、下記配合25のベンゾトリアゾール化合物・ハイドロタルサイト類化合物含有軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物比―6を用いた。このシートについて、構成を表3に、各種評価を行った結果を表5にそれぞれ示す。なお、図12の光天井モデルにおいては、熱溶融混練物比―6からなるカレンダーフィルムを積層した側を光源に向けて配置して評価した。
<配合25>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 120質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ベンゾトリアゾール化合物(商品名:TINUVIN 234/チバ・ジャパン(株)製)
0.5質量部
ハイドロタルサイト類化合物(商品名:MIZUKALAC/水澤化学工業(株)製)
2質量部
【0065】
比較例6は、熱溶融混練物比―6からなるカレンダーフィルムが海島構造を有さず、タングステン微粒子も含まないため、近赤外線の透過率が高く、近赤外線遮蔽シートとして用いることのできないものであった。図12の光天井モデルを用いた評価においては、シェード照明に用いることは可能であるが、海相・島相界面での散乱効果が得られないことから、背面光源隠蔽性が実施例11より、やや劣る結果であった。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の近赤外線遮蔽性高透光シートは、高い近赤外線遮蔽性と可視光透過性とを有していおり、更に、光源の隠蔽性や意匠性にも優れているため、光天井、光壁、内照看板向けに用いて、近赤外線ノイズに起因する問題を解消することができる。特に、建築基準法に適合する不燃性を有する近赤外線遮蔽性高透光シートは、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、マンション、一般住宅、及び各種公共施設などで、光天井部材、光壁材、内照看板材に好適に用いられ、これを用いることで、近赤外線ノイズによる問題を解消することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:近赤外線遮蔽性高透光シート(高透光性可撓性シート)
2:海島構造を有する近赤外線制御層
3:島成分
3−1:タングステン酸化物、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有
する島成分
3−2:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれた一種以
上を含有する島成分
3−3:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ハイドロタルサイト類化合物粒子及び6ホウ化物粒子から選ばれた一種以上
を含有する島成分
3−4:タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子、ベンゾトリア
ゾール化合物、安息香酸エステル化合物、ハイドロタルサイト類化合物粒子
、6ホウ化物粒子、を含有しない島成分
4:海成分
4−1:タングステン酸化物、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有
する海成分
4−2:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれた一種以
上を含有する海成分
4−3:タングステン酸化物微粒子及び複合タングステン酸化物微粒子を含有せず、
ハイドロタルサイト類化合物粒子及び6ホウ化物粒子から選ばれた一種以上
を含有する海成分
4−4:タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子、ベンゾトリア
ゾール化合物、安息香酸エステル化合物、ハイドロタルサイト類化合物粒子
、6ホウ化物粒子、を含有しない海成分
5:繊維基布
6:樹脂含浸被覆基布
7:光拡散層
8:防汚層
9:光源
9−1:蛍光灯
10:光天井吊り具
11:光天井における可撓性シートの固定枠
12:内照式看板のハウジング
13:実施例・比較例で作成したシート
A:シートの面に垂直で2m離れた観察位置
B:シートの面に対して15度の角度で5m離れた観察位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線制御層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線制御層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有することを特徴とする、近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項2】
前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含む、請求項1に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項3】
前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が、ハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物(一般式XB6で表され、XはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zr、Ba、SrおよびCaから選択される1種または2種の元素)粒子から選ばれた一種以上を含む、請求項1または2に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項4】
前記海島構造において、前記海成分中に分散する前記島成分の平均粒子径が0.4〜20.0μmである、請求項1〜3いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項5】
前記可撓性シートが、光拡散層を含む積層体であり、前記光拡散層が、平均粒子径0.1〜10μm、屈折率1.55以上の光拡散性物質を含む、請求項1〜4いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項6】
前記可撓性シートが、繊維基布を含む積層体である、請求項1〜5いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性シート。
【請求項7】
前記繊維基布がガラス繊維、シリカ繊維およびアルミナ繊維から選ばれた少なくとも1種の無機繊維から構成され、前記積層体において、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有することを特徴とする、請求項6に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項8】
前記可撓性シートの最外層に防汚層が設けられている、請求項1〜7いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項9】
前記防汚層が、光触媒性物質を含み、前記光触媒性物質が、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上である、請求項8に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項10】
高透光性可撓性シートの背面に光源を配置したシェード照明であり、前記可撓性シートが、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線制御層を含むことを特徴とする、近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項11】
前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含む、請求項10に記載の近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項12】
前記高透光性可撓性シートが、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上の光触媒性物質を含む防汚層を有し、前記防汚層を光源側に向けて配置してなる、請求項10または11に記載の近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項13】
前記シェード照明が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記高透光性可撓性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有する、請求項10〜12いずれか1項に記載の近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項1】
近赤外線制御層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線制御層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有することを特徴とする、近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項2】
前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含む、請求項1に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項3】
前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が、ハイドロタルサイト類化合物粒子および6ホウ化物(一般式XB6で表され、XはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Zr、Ba、SrおよびCaから選択される1種または2種の元素)粒子から選ばれた一種以上を含む、請求項1または2に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項4】
前記海島構造において、前記海成分中に分散する前記島成分の平均粒子径が0.4〜20.0μmである、請求項1〜3いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項5】
前記可撓性シートが、光拡散層を含む積層体であり、前記光拡散層が、平均粒子径0.1〜10μm、屈折率1.55以上の光拡散性物質を含む、請求項1〜4いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項6】
前記可撓性シートが、繊維基布を含む積層体である、請求項1〜5いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性シート。
【請求項7】
前記繊維基布がガラス繊維、シリカ繊維およびアルミナ繊維から選ばれた少なくとも1種の無機繊維から構成され、前記積層体において、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有することを特徴とする、請求項6に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項8】
前記可撓性シートの最外層に防汚層が設けられている、請求項1〜7いずれか1項に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項9】
前記防汚層が、光触媒性物質を含み、前記光触媒性物質が、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上である、請求項8に記載の近赤外線遮蔽性高透光シート。
【請求項10】
高透光性可撓性シートの背面に光源を配置したシェード照明であり、前記可撓性シートが、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線制御層を含むことを特徴とする、近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項11】
前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方の相がタングステン酸化物微粒子、及び/または、複合タングステン酸化物微粒子を含み、かつ、もう一方の相が340〜410nmの波長領域に吸収帯を有するベンゾトリアゾール化合物及び安息香酸エステル化合物から選ばれる一種以上を含む、請求項10に記載の近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項12】
前記高透光性可撓性シートが、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒から選ばれた1種以上の光触媒性物質を含む防汚層を有し、前記防汚層を光源側に向けて配置してなる、請求項10または11に記載の近赤外線ノイズ遮蔽材。
【請求項13】
前記シェード照明が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記高透光性可撓性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/m2で照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/m2を超えない不燃特性を有する、請求項10〜12いずれか1項に記載の近赤外線ノイズ遮蔽材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−133586(P2011−133586A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291656(P2009−291656)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
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