説明

近赤外線遮蔽用塗料、それから得られる近赤外線遮蔽積層体及びその製造方法

可視光領域に高い光透過率と、近赤外部に高い遮蔽性とを有し、苛酷な環境下でも色度変化の少ない塗膜を形成できる近赤外線遮蔽用塗料は、ジイモニウム化合物カチオンと式(1)のアニオンとからなる化合物を含む第1近赤外線吸収色素と、異種第2近赤外線吸収色素と、式(2)の化合物が30質量%以上重合している透明性樹脂とを含むものであって、この塗料を用いて近赤外線遮蔽層を有する近赤外線遮蔽積層体を製造する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、近赤外線遮蔽用塗料、それから得られる近赤外線遮蔽積層体及びその製造方法に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、特に可視光領域の高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を兼備し、高温高湿下、および外光の長時間曝露において色度変化の少ない安定な近赤外線遮蔽層を形成する塗料、それを用いて得られる近赤外線遮蔽積層体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
高い可視光透過率と近赤外線領域の高い近赤外線遮蔽性を兼備した近赤外線遮蔽材料として、近赤外線吸収色素を含有する樹脂組成物を、透明性基体上に塗工して、近赤外領域の光を吸収して遮蔽するようにした材料が知られている。
用いられる近赤外線吸収色素としては、ジイモニウム系化合物、アミニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、有機金属錯体系化合物、及びシアニン系化合物等の様々な組合せが提案されている。
また塗膜を形成するために用いられる樹脂材料については、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の様々な熱可塑性樹脂を用いることが知られている。
しかし、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を得るためには、上記の近赤外線吸収色素を単独で用いた場合、可視光領域の透過率が低くなるため、少なくとも2種以上の色素を混合して使用する必要がある。また、高い可視光透過率と850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を両立させるためには、これら近赤外線吸収色素の中でも、特に可視光領域の吸収が小さく、近赤外線領域に大きな吸光係数を有する一般式(5)で示されるジイモニウム系化合物を少なくとも含有することが必須である。
従来、近赤外線遮蔽用樹脂組成物に用いられるジイモニウム系化合物としては、例えば特公昭43−25335号公報(特許文献1)に開示されている下記一般式(5)で表される化合物で、式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、アリール基、又はヒドロキシル基等を表し、Xは過塩素酸イオン、弗化硼素酸イオン、ヘキサフルオロ砒酸イオン、又はヘキサフルオロアンチモン酸イオン等を表す。式(5)の化合物としては、具体的にはN,N,N′,N′−テトラキス(p−ジエチルブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン−ビス(イモニウム)の塩等が用いられていた。

その中でも、近赤外線遮蔽積層体とした場合に、比較的安定した耐候性を示すN,N,N′,N′−テトラキス(p−ジエチルブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン−ビス(イモニウム)のヘキサフルオロアンチモン酸塩が好適に用いられていた。
これらのジイモニウム化合物は、波長850〜1100nmの近赤外線領域に、モル吸光係数が10万程度の強い吸収性を有し、波長400〜500nmの可視光領域に若干吸収があるため、黄褐色の透過色を呈するものの、可視光透過性が他の近赤外線吸収色素よりも優れているため、可視光領域で高い透過率を得ようとする本実施形態の近赤外線遮蔽用組成物には、必須の成分であった。
しかしながら、これらのジイモニウム化合物を樹脂材料と混合した樹脂組成物を透明性基体上に塗工した近赤外線遮蔽層は、高温高湿雰囲気下に長時間放置した場合、特に製品の海上輸送などを想定した80℃−相対湿度95%雰囲気下などの厳しい環境下では、ジイモニウム化合物の組成上の変質が避けられず、色度xおよびyの変化量が大きくなる問題があり、耐久性の改善が求められていた。
一方、高温、高湿下に長時間放置した場合に比較的安定な耐久性を有する塗膜として、ガラス転移点の高いポリエステル系樹脂やポリカーボネート系樹脂を用いた樹脂組成物を、透明性基体上に塗工した近赤外線遮蔽材料が知られているが、これら高いガラス転移点を有する樹脂材料は、概して溶剤に溶解し難いため、樹脂組成物を調製する際にはジクロロメタン、クロロホルム等の毒性が高く、極めて乾燥が早い溶剤を使用する必要があり、塗工の際にブラッシングを起こし易く成膜が困難であること、また塗料自身がゲル化し易い等、樹脂組成物としての安定性に問題があった。また、高温、高湿下における長時間安定性が良い反面、キセノン促進耐候性試験48時間前後の色度xおよびyの変化量が著しく大きくなる問題があった。
【特許文献1】特公昭43−25335号公報、第13頁
【発明の開示】
本発明の目的は、従来の技術における前記問題点に鑑みて成されたものであり、可視光領域の高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を兼備し、高温高湿雰囲気下、および外光の長時間曝露において色度変化が少なく、化学的に安定な、例えば温度60℃−相対湿度90%の高湿度雰囲気下および80℃相対湿度5%以下の高温乾燥雰囲気下、又は80℃−相対湿度95%の高温高湿雰囲気下における1000時間の劣化促進試験、或は放射照度550W/mのキセノンランプ照射48時間の促進耐候性試験の試験前後の色度xおよびyの変化量が0.005以下であるような近赤外線遮蔽層を形成することができ、貯蔵安定性及び塗工安定性に優れた塗料、それを用いた近赤外線遮蔽積層体例えばプラズマディスプレイ用光学フィルターや光学製品の近赤外線遮蔽フィルターなど、並びにそれを製造する方法を提供することにある。
上記目的は、本発明の近赤外線遮蔽用塗料及びそれから得られる近赤外線遮蔽積層体及びその製造方法により達成される。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料は、ジイモニウム化合物カチオンと、下記化学式(1):

により表されるカウンターアニオンとにより構成される少なくとも1種の近赤外線吸収性ジイモニウム系化合物からなる第1近赤外線吸収色素と、
750〜950nmの近赤外波長の領域に吸収極大を有し、可視光波長領域に実質的に吸収を示さず、かつ前記ジイモニウム系化合物とは異種の少なくとも1種の色素化合物からなる第2近赤外線吸収色素と、
少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の重合体を含む透明性樹脂と、を含み、
前記少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体が、下記一般式(2):

〔前記一般式(2)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは6〜25個の炭素原子を有する環状炭化水素基を表す〕
により表される単量体を少なくとも30質量%の含有率で含む、
ことを特徴とするものである。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記第1近赤外線吸収色素用近赤外線吸収性ジイモニウム系化合物が、下記化学式(3):

により表される化合物であることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記第2近赤外線吸収色素が、750〜950nmの波長領域に吸収極大を有し、可視光波長領域に実質的に吸収を示さないジチオール金属錯体化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、シアニン系化合物から選ばれることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記フタロシアニン系化合物が、下記一般式(4):

〔一般式(4)において、
8個のαは、それぞれ互に独立に、−SR,−OR及び、−NHR基並びにハロゲン原子から選ばれた1員を表し、但し、少なくとも1個のαは、−NHR基を表し、8個のβは、それぞれ互に独立に、−SR,−OR及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも1員を表し、但し、少なくとも1個のβは、−SR又は−OR基を表し、かつ前記8個のα及び8個のβの少なくとも1個は、ハロゲン原子及び−OR基を表し、
,R及びRは、それぞれ互に独立に、置換基を有する、又は有していないフェニル基、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、及び7〜20個の炭素原子を有するアラルキル基から選ばれた1員を表し、
Mは1個の金属原子、1個以上の水素原子、1個の金属酸化物及び金属ハロゲン化物から選ばれた1員を表す〕
により表される化合物から選ばれることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記第1近赤外線吸収色素と、前記第2近赤外線吸収色素との配合質量比が、3:2〜29:1であることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記第2近赤外線吸収色素の、前記近赤外波長領域の吸収極大波長における吸収係数の、波長450nm、550nm、及び620nmにおける吸収係数のそれぞれに対する比が、いずれも5.0以上であることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記透明性樹脂が60〜120℃のガラス転移温度と、20,000〜80,000の数平均分子量と、200,000〜400,000の重量平均分子量とを有することが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料において、前記第1及び第2近赤外線吸収色素の合計質量の、前記透明性樹脂に対する乾燥固形分質量比が1:99〜1:4の範囲内にあることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体は、基材と、前記本発明の近赤外線遮蔽用塗料から形成され、かつ前記基材の少なくとも1面上に結着されている近赤外線遮蔽層とを含むものである。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、前記基材が、ポリエステル系樹脂フィルムと、その1面上に形成され、かつ反応性硬化剤を含まない密着性改良層とを有し、この密着性改良層上に前記近赤外線遮蔽層が形成されていることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、波長450nm、525nm及び620nmのそれぞれにおける可視光透過率が、いずれも60%以上であり、波長850〜1,000nmにおける平均近赤外線透過率が10%以下であることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、波長590nmにおける可視光透過率が、波長450nm、525nm及び620nmの各々における可視光透過率よりも10%以上低いことが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、前記基材が紫外線遮蔽性を有し、及び/又は、前記近赤外線遮蔽層上に、紫外線遮蔽層が更に積層されていて、全体として、波長380nm以下の紫外領域における紫外線透過率が2%以下であってもよい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、前記紫外線遮蔽層が、透明固体材料と、その1面上に形成され、紫外線吸収剤と、バインダーとを含む紫外線吸収層とからなることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、温度60℃、相対湿度90%の高湿度雰囲気中における1,000時間の劣化促進試験、温度80℃、相対湿度5%以下の高温乾燥雰囲気中における1,000時間の劣化促進試験、温度80℃、相対湿度95%の高温高湿雰囲気中における48時間の劣化促進試験、及び放射照度550W/mのキセノンランプ照射による48時間の劣化促進耐候性試験の各々において、試験前後における近赤外線遮蔽積層体の色度x及びyの変化量が、0.005以下であることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体の製造方法は、基材の少なくとも1面上に、前記本発明の近赤外線遮蔽用塗料を塗布し、乾燥することを含むものである。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料は、可視光領域で高い透過率を有し、かつ近赤外域で高い遮蔽効果を達成し、しかも苛酷な環境条件下で、高い安定性を示すことができる被覆層を形成することができ、かつ上記この被覆層を有する積層体を提供し、かつその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明者等は、前記の課題を解決するため鋭意検討した結果、一般式(5)で表されるジイモニウム化合物の高温高湿雰囲気下における変質のメカニズムが、樹脂組成物塗膜中における水分の介在と、加熱による熱エネルギーとにより、ジイモニウム化合物中のカウンターアニオンが分解することによることを見出し、さらに化学式(1)で示される特定のカウンターアニオンを有するジイモニウム系カチオン性化合物第1近赤外線吸収色素、それとは異種の、近赤外域に吸収極大を有し、可視光域に実質上吸収を示さない第2近赤外線吸収色素と、一般式(2)で示される特定の単量体成分を用いて得られる透明性樹脂とを含有する近赤外線遮蔽用膜は、高温高湿雰囲気下、および外光の長時間曝露において色度変化が少なく、可視光領域に高い透過率と、850〜1000nm領域に高い近赤外線遮蔽性を兼備する近赤外線遮蔽層を形成し得ることを見出した。
本発明の近赤外線遮蔽積層体は、本発明の製造方法に従って、本発明の近赤外線遮蔽用塗料を基材上に被覆し、これを乾燥固化して製造することができる。本発明の近赤外線遮蔽用塗料は、ジイモニウム化合物カチオンと、前記化学式(1)により表されるカウンターアニオンとにより構成される少なくとも1種の近赤外線吸収性ジイモニウム系化合物からなる第1近赤外線吸収色素と、
750〜950nmの近赤外波長の領域に吸収極大を有し、可視光波長領域に実質的に吸収を示さず、かつ前記ジイモニウム系化合物とは異種の少なくとも1種の色素化合物からなる第2近赤外線吸収色素と、
少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の重合体を含む透明性樹脂と、を含み、
前記少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体が、前記一般式(2)により表される単量体を少なくとも30質量%の含有率で含むものである。また一般式(2)において、Xにより表されるC−C25環状炭化水素基は、脂環式及び芳香族C−C25環状炭化水素基を包含する。
第1の近赤外線吸収色素として、化学式(1)のカウンターアニオンと、ジイモニウム化合物カチオンにより構成される化合物が用いられる。前記ジイモニウム系カチオン性化合物は、化学式(1)で示される特定のカウンターアニオンを有しているため、近赤外線遮蔽層中に含まれたとき、水分の介在と、加熱による熱エネルギーとによって、ジイモニウム化合物中のカウンターアニオンが分解しにくいため、組成上の変質を抑制することができる。
近赤外線遮蔽用塗料を用いて形成された近赤外線遮蔽膜において、実用上十分な近赤外線遮蔽性を発現させるために、波長850nm〜900nmの平均透過率を20%以下にコントロールする必要がある。前記ジイモニウム系化合物のみを近赤外線遮蔽膜中に含有させた場合には、前記波長領域で十分な近赤外線遮蔽性を得ることができない、また、近赤外線遮蔽性を上げるために第1近赤外線吸収色素を過度に含有させると、各試験前後の色度xおよびyの変化量が大きくなるため好ましくない。
そこで、本発明の塗料には、波長750〜950nmに吸収極大を有し、しかし可視光領域に実質的に吸収のない第2近赤外線吸収色素を添加する。第1近赤外線吸収色素と第2近赤外線吸収色素とを含有することにより、本発明の近赤外線遮蔽用塗料は、850nm〜1000nmの近赤外線領域において、優れた近赤外線遮蔽性を有し、さらに可視光部分での優れた透過性を有する塗膜を形成することができる。
本発明に用いられる第2近赤外線吸収色素は、吸収極大波長における吸光係数の、波長450nm(青色光の中心波長)、525nm(緑色光の中心波長)および620nm(赤色光の中心波長)におけるそれぞれの吸光係数に対する比が、いずれも5.0以上であるものが好ましく8.0以上であることがより好ましい。前記吸光係数の比のいずれかが5.0未満であるときは、波長850nm〜900nmの平均透過率が20%以下である場合、波長450nm(青色光の中心波長)、525nm(緑色光の中心波長)および620nm(赤色光の中心波長)における可視光透過率のいずれかが60%未満となり、可視光領域での透過率が不十分になる。
本発明に用いられる第2近赤外線吸収色素としては、例えば、ジチオール金属錯体系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、シアニン系化合物等が挙げられる。特に、フタロシアニン系化合物が有機溶剤への可溶性が優れるため好適に用いられる。
近年、フタロシアニン骨格にフェニル基等の共役π電子系置換基を導入したり、アルコキシ基等の電子供与性置換基を多数導入することにより、近赤外線領域に吸収極大を有するフタロシアニン系化合物が多数提案されており、中でも前記一般式(4)で表されるフタロシアニン系化合物は、上記吸光係数の比が各々5.0以上となるため、好適に用いることができる。
また、第1近赤外線吸収色素、及び第2近赤外線吸収色素として、それぞれ2種以上の近赤外線吸収色素を用いてもよく、さらに必要に応じ他の色素を添加してもよい。
また、第1近赤外線吸収色素と第2近赤外線吸収色素との配合質量比は、3:2〜29:1であることが好ましく、より好ましくは、2:1〜9:1である。上記配合比が3/2未満であると、可視光領域光線の透過率が不十分になることがあり、またそれが29/1を超えると、各種信頼性試験前後の色度変化量が大きくなることがある。
本発明の近赤外線遮蔽用塗料に用いられる透明性樹脂は少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の重合体の少なくとも1種を含むもので、前記重合体を形成する少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の少なくとも30質量%、好ましくは50〜100質量%は、前記一般式(2)の単量体である。上記の構成を有する透明性樹脂は、各種有機溶剤(例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メソイソブチルケトン、シクロヘキサン、及びテトラヒドロフラン)などに高い溶解度を示し、かつ高い耐透湿性及び耐紫外線性を有する塗膜を形成することができる。一般式(2)で表される単量体において、Xで表されるC−C25環状炭化水素基、例えば、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロドデシル基、ボルニル基、イソボルニル基等であることが好ましい。
一般式(2)で表わされる単量体を30重量%以上含有する単量体成分を重合してなる透明性樹脂としては、X=C−C25環状炭化水素基を有するメタアクリレート系樹脂であることが好ましい。他の一般的なメタアクリレート系樹脂、例えばメチルメタアクリレート樹脂に前記第1及び第2近赤外線吸収色素を分散した塗料から形成される熱可塑性の塗膜は、それが高温高湿度下に長時間曝された場合、環境中の水分の影響により、樹脂塗膜の劣化が起こり、それに付随して、第1近赤外線吸収色素の変質により、塗膜の色度が大きく変化するという問題を生ずる。これに反して、上記一般式(2)で表される単量体を必須重合成分として含む重合体を透明性樹脂として用いることにより、前記第1近赤外線吸収色素の高温高湿度下における耐久性が向上し、それに加えて、紫外線照射に対する耐久性も向上させることができる。
また、本発明に用いられる透明性樹脂は、熱可塑性のメタアクリレート系樹脂であることが好ましい。他の熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂を用いると、樹脂中に含まれる反応活性基と前記第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物が容易に反応し、樹脂組成物中において、あるいは塗膜形成過程において色素の変性を生ずることがある。
上記一般式(2)で表される単量体の全単量体に対する含有量は、重合体形成に用いられた全単量体の合計質量に対し、30質量%以上である。それが30%未満の場合は、第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物の変質による塗膜の色度変化を十分には抑制できない。一般式(2)の単量体の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80〜100質量%以上である。
上記一般式(2)で表される単量体を必須重合成分として含む熱可塑性のメタアクリレート系樹脂は、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン等の汎用有機溶剤中における溶液重合で容易に合成することができる。また、塗料中の第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物及び透明性樹脂自体の溶解性が十分高く、塗料として安定な樹脂組成物を得ることができる。
一般式(2)で表わされる単量体を30質量%以上含有する単量体重合成分を重合して得られる透明性樹脂は、そのガラス転移点が60℃以上120℃以下であることが好ましく、80〜100℃であることがさらに好ましい。ガラス転移点が60℃未満であると、塗膜が80℃以上の高温に長時間曝された場合、樹脂が軟化すると同時に、塗膜中の第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物が変質し易く、塗膜の色度が大きく変化したり、塗膜の近赤外線遮蔽性が低下して、長期の耐熱性に悪影響を与えることがある。しかし、ガラス転移点が60℃以上であると、熱による第1及び第2近赤外線吸収色素、特にジイモニウム系化合物の変質を抑制することができる。一方、ガラス転移温度が120℃を超えると、塗膜が硬くて脆いものとなり、耐屈曲性の低下やハンドリング等で容易に割れを生じる等、実用上の問題を生ずることがある。
本発明に用いられる透明性樹脂は、そのガラス転移点が60℃以上120℃以下の熱可塑性のメタアクリレート系樹脂であることが好ましい。
更に、本発明に用いられる透明性樹脂の分子量は、数平均分子量が20,000以上80,000以下、且つ重量平均分子量が200,000以上400,000以下であることが好ましい。尚、数および重量平均分子量は、ポリスチレン標準GPCを用いて得られた測定値である。重量平均分子量が200,000末満の場合、形成される近赤外線遮蔽塗膜の柔軟性が不十分となり、耐屈曲性が劣り、また耐薬品性に劣るものとなることがある。また、重量平均分子量が400,000を超える場合は、重合体そのものを溶液重合させることが難しくなることがある。一方、数平均分子量が20,000未満あるいは80,000を超える場合には、耐薬品性が不十分になることがある。
また、本発明に用いられる透明性樹脂には、塗料塗布の基材となるポリエステル系樹脂フィルムとの密着性を付与することが必要な場合には、カルボキシル基を含有する単量体に由来する適量の酸価を有することが好ましい。この酸価は、樹脂固形分に対して、1mgKOH以上、20mgKOH以下であることが好ましい。酸価が1mgKOH未満の場合、塗膜と基材との十分な密着性が得られないことがあり、一方、それが20mgKOHを超える場合には、高温下における第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物の安定性に悪影響を及ぼすことがある。
本発明の塗料において、第1及び第2近赤外線吸収色素の合計質量の前記透明性樹脂に対する乾燥固形分質量比が1:99〜1:4の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、1:49〜1:24である。この質量比が1/99未満であると、高度な近赤外線遮蔽率を得るために、近赤外線遮蔽層の乾燥膜厚を20μm以上に厚くすることが必要であるが、このような厚い膜の形成は困難であることがあり、またそれが1/4を超えると、近赤外線遮蔽塗膜の形成過程において、赤外線吸収色素の偏析による遮蔽性能の低下及びヘイズ値の上昇という不都合を生ずることがある。
本発明の近赤外線遮蔽積層体は基材と、前記本発明の近赤外線遮蔽用塗料から形成され、かつ前記基材の少なくとも1面上に結着されている近赤外線遮蔽層とを含むものである。本発明の近赤外線遮蔽積層体は、前記基材と近赤外線遮蔽層とのみから構成されていてもよく、基材及び近赤外線遮蔽層に加えて、他の追加層(例えば紫外線遮蔽層)が形成されていてもよく、この追加層は、近赤外線遮蔽層の外側に配置されていてもよく、近赤外線遮蔽層と基材との間に配置されていてもよく、或は基材の裏面側(近赤外線遮蔽層の配置側に対し、反対側)に配置されていてもよい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、前記基材としては、プラスチック板、プラスチックフィルム、ガラス等種々のものを用いることができるが、基材として透明プラスチックを用いることが好ましい。特に、近赤外線遮蔽層が、透明プラスチックフィルム上に形成されていることが好ましく、なかでも透明性ポリエステル系樹脂フィルム上に形成されていることがより好ましい。透明性ポリエステル系樹脂フィルムは、耐溶剤性、コスト、及び生産性等の点で優れ、特に塗工により近赤外線遮蔽層を形成して本発明の近赤外線遮蔽積層体を形成する場合に、優れた基材として用いられる。
本発明の近赤外線遮蔽積層体において、前記ポリエステル系樹脂フィルムを基材として用いる場合、近赤外線遮蔽層との実用上の密着性を向上させるために、フィルム上に有機樹脂成分よりなる密着性改良層を形成しておくことが好ましい。密着改良層を形成しない場合は、ポリエステル系樹脂フィルムと近赤外線遮蔽層との界面で、近赤外線遮蔽層が容易に剥離することがある。
本発明に用いることができる密着性改良層は、有機樹脂成分を主成分として含有しているが、近赤外線遮蔽積層体の使用中の色度変化を抑制するためには、反応性硬化剤を含まないものであることが好ましい。
前記密着改良層中の有機樹脂成分については、前記近赤外線遮蔽層とポリエステル系樹脂フィルムとの間に、実用上十分な密着性が得られる限り特に制限はなく、例えば、アクリル系樹脂、アクリル−メラニン共重合樹脂、アクリル−ポリエステル共重合、ポリエステル系樹脂等を単体で、或はそれらの2種以上の混合物を用いることができる。また、塗工工程におけるフィルムの巻取り性の向上、及びブロッキングおよびスクラッチの発生の防止のために、密着改良層中にシリカ微粒子、タルク等の微粒子を適宜含有させてもよい。
前記密着性改良層中に、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物等の反応性硬化剤が含まれる場合、これが80℃以上の高温に長時間曝されると、近赤外線遮蔽層中の第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物が、これらの反応性硬化剤と反応して変質し易く、近赤外線遮蔽層の色度が大きく変化し、及び/又は近赤外線遮蔽性が低下するなどを生じ、その長期耐熱性に悪影響を与えることがある。
本発明の近赤外線遮蔽積層体は、波長450nm、550nm、および620nmの各々における可視透過率がいずれも60%以上であり、且つ、波長850〜1000nmにおける平均近赤外線透過率が10%以下であることが好ましい。波長450nm、550nm、および620nmの各々における可視透過率がいずれも60%以上であり、かつ、波長850〜1000nmにおける平均近赤外線透過率が10%以下であると、本発明の積層体をプラズマディスプレイ等の各種ディスプレイに用いた場合、優れた近赤外線遮蔽性と視認性とを発揮する。
更に、本発明の近赤外線遮蔽積層体において、波長590nmにおける可視光透過率が、波長450nm、525nm、620nmの各々における可視光透過率よりも10%以上低いことが好ましい。このようにすると、本発明の近赤外線遮蔽積層体を用いて構成された、プラズマディスプレイ等のディスプレイのコントラスト性を向上させ、色調補正機能が高くなる。本発明の近赤外線遮蔽積層体の波長590nmにおける可視光透過率を、波長450nm、525nm、620nmの各々における可視光透過率よりも10%以上低くするためには、近赤外線遮蔽層中に選択吸収性色材を含有させることが好ましい。波長590nmの可視光を選択的に吸収する色材には、前記ジイモニウム化合物の組成上の変質に悪影響を与えるものでない限り、特に制限はないが、例えばキナクリドン顔料、アゾメチン系化合物、シアニン系化合物、及びポルフィリン化合物等を用いることが好ましい。
前記の近赤外線遮蔽用積層体において、前記基材が、紫外線遮蔽性を有し、及び/又は、前記近赤外線遮蔽層上に紫外線遮蔽層が形成されていて、全体として、380nm以下の紫外領域において、紫外線透過率が2%以下であることが好ましい。本発明の近赤外線遮蔽積層体を、プラズマディスプレイ用光学フィルターや光学製品の近赤外線遮蔽フィルター等として使用する場合、これをガラス板、透明性硬質樹脂基板等の透明性硬質基板に貼合接着して使用されることが一般的である。このため、透明性粘着性組成物又は透明性接着性組成物よりなる接着層に、紫外線遮蔽機能を付与するか、或は透明性硬質樹脂基板を基材として用いる場合、この基板自体に紫外線遮蔽機能を付与するか、あるいは前記近赤外線遮蔽層が塗工されるポリエステル系樹脂フィルム基材自体に紫外線遮蔽機能を付与するかのいずれかを採用することが好ましい。
紫外線遮蔽のために、本発明の近赤外線遮蔽積層体に付与すべき紫外線遮蔽能は、波長380nm以下の紫外領域における紫外線透過率を2%以下にすることが好ましい。波長380nm以下の紫外領域における紫外線透過率が2%より大きい場合には、近赤外線遮蔽層中に含有される近赤外線吸収色素の紫外線による褪色劣化を十分に抑制することができないことがある。より好ましくは波長380nm以下の紫外領域における紫外線透過率は1%以下である。
また、紫外線遮蔽層をさらに設ける場合、外側からの光が、紫外線遮蔽層を経由して、近赤外線遮蔽層に入射されるように、紫外線遮蔽層を配置することが好ましい。
また、本発明の近赤外線遮蔽積層体は温度60℃、相対湿度90%の高湿度雰囲気中における1,000時間の劣化促進試験、温度80℃、相対湿度5%以下の高温乾燥雰囲気中における1,000時間の劣化促進試験、温度80℃、相対湿度95%の高温高湿雰囲気中における48時間の劣化促進試験、及び放射照度550W/mのキセノンランプ照射による48時間の劣化促進耐候性試験の各々において、試験前後における近赤外線遮蔽積層体の色度x及びyの変化量が、0.005以下であることが好ましく、0〜0.003であることがより好ましい。このような特性を有していると、本発明の積層体をプラズマディスプレイ等の各種ディスプレイに用いる場合、その近赤外線遮蔽性、可視光透過性、色調等の特性が、長期間にわたり、温度変化、湿気、さらには外部からの光照射により劣化することがなく、長期間安定した画像を表示することができる。
本発明の近赤外線遮蔽層形成用塗料は、溶剤に、前記第1の近赤外線吸収色素と、前記第2の近赤外線吸収色素と、前記透明性樹脂とを、従来公知の方法にて溶解または分散して得られる。
溶剤としては、前記第1の近赤外線吸収色素と、前記第2の近赤外線吸収色素を十分溶解させることができ、かつ前記透明性樹脂との親和性が良いものであれば特に制限はないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が好適に用いられ、適宜単独あるいは混合して用いることができる。
本発明に用いられる第1近赤外線吸収色素に用いられ、化学式(1)で示されるカウンターアニオンを有するジイモニウム系化合物の、近赤外線遮蔽層中への添加量は、近赤外線遮蔽層の厚さに依存して変化するが、実用上十分な近赤外線遮蔽性を発現するためには、波長900〜1000nmの近赤外線領域における平均近赤外線透過率が2%以上、10%以下になるようにコントロールされることが好ましい。そのためには、近赤外線遮蔽層の厚さを5〜50μm程度に設計する場合、透明性樹脂100重量部に対する前記ジイモニウム系化合物の配合量を、0.5〜5.0重量部程度にコントロールすることが好ましい。波長900〜1000nmの近赤外線領域の平均近赤外線透過率が2%未満であると、温度80℃、相対湿度95%の雰囲気下、およびキセノン促進耐候性試験48時間の各試験前後の色度xおよびyの変化量が過大になる傾向があることがある。また、波長900〜1000nmの近赤外線領域における平均近赤外線透過率が10%を超えると、実用上、近赤外線遮蔽機能が不十分になることがある。また、前記ジイモニウム系化合物の配合量を0.5重量部より小さくすると、波長900〜1000nmの近赤外線領域における平均近赤外線透過率を10%以下にすることが困難になることがあり、またそれが5.0重量部より大きくなると、近赤外線遮蔽層中において、前記ジイモニウム系化合物の偏析を生じたり、或は、近赤外線遮蔽層の可視光透明性が不十分になることがある。
化学式(1)で示されるカウンターアニオンを有するジイモニウム系化合物は、前記化学式(3)で表わされるジイモニウム系化合物を用いることが好ましい。
本発明の近赤外線遮蔽積層体の製造方法は、基材の少なくとも1面上に、前記本発明の近赤外線遮蔽用塗料を塗布し、乾燥して、近赤外線遮蔽層を形成することを含むものである。
必要により、近赤外線遮蔽層の外側、基材の裏面側、又は近赤外線遮蔽層と基材との間に他の追加層(例えば紫外線遮蔽層)を形成することを含んでいてもよい。
本発明方法において、近赤外線遮蔽層の好適な形成方法として、前記の近赤外線遮蔽用塗料を基材上に、バーコーター、グラビアリバースコーター、スリットダイコーター等の通常の塗工装置を用いて、塗布した後、溶剤を乾燥蒸発させる方法を用いることができる。
【実施例】
本発明を下記実施例により具体的に説明する。
実施例および比較例の各々で用いられた近赤外線遮蔽積層体の光学特性は下記方法により測定された。
(1)分光透過率の測定
日本分光(株)製分光光度計V−570を用い、各試料の波長380nm、450nm、525nm、590nm、620nm、850nm、900nm、950nm、1000nmにおける透過率を、室内の空気の透過率を比較対照として測定した。尚、波長380nmの透過率は、紫外線遮蔽層のみでの測定値とする。
(2)色度の測定
東京電色工業(株)製カラーアナライザーTOPSCAN TC−1800−MkIIを用い、各試料の色度x,yを、標準光としてC光源、2度視野にて測定した。
各実施例および比較例で実施した各耐久性試験の条件は、次の通りである。
(3)高温高湿試験1
60℃−相対湿度90%に設定した恒温恒湿試験器に、各試料を入れ1000時間試験した。
(4)高温高湿試験2
80℃−相対湿度95%に設定した恒温恒湿試験器に、各試料を入れ48時間試験した。
(5)耐熱性試験
80℃に設定した恒温器に、各試料を入れ1000時間試験した。
(6)耐候性試験
ヘレウス(株)製キセノン促進耐候性試験器SUNTEST CPS+を用い、器内の黒体表面温度を63℃に設定し、雨無しの条件下で、550W/mの照射量で48時間試験を行った。
尚、光の照射は、各試料の紫外線遮蔽層側から施して試験を行った。
[実施例1]
(近赤外線遮蔽用組成物の調製)
第1近赤外線吸収色素用の一般式(1)で表されるカウンターアニオンを有するジイモニウム系化合物として、N,N,N′,N′−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン−ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)イモニウム塩(日本カーリット(株)製、商標:CIR−1085)2重量部と、第2近赤外線吸収色素としてフタロシアニン系色素((株)日本触媒製、商標:イーエクスカラーIR−10A、吸収極大波長855nmにおける吸光係数と、波長450nm、550nmおよび620nmの各々における吸光係数、の比が、それぞれ10.2、8.3及び9.1である)1重量部と、一般式(2)においてXがイソボルニル基を表す単量体50重量を含有する単量体成分を重合して得られた透明性樹脂(ガラス転移点:90℃、数平均分子量:40,000、重量平均分子量:330,000)の30質量%溶液(樹脂固形分:30質量%、トルエン:40質量%、酢酸エチル:30質量%)50質量部とを、メチルエチルケトンとトルエンとの混合溶剤(質量比:80:20)に溶解混合し、近赤外線遮蔽用塗料として樹脂組成物を調製した。
(近赤外線遮蔽層の塗工)
反応性硬化剤を含まない密着性改良層が形成されているポリエステル系樹脂フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製、商標:O−300E100(ILC36))の上に、上記近赤外線遮蔽用塗料を、乾燥後の膜厚が10μmになるように塗工し、熱風乾燥炉で溶剤を蒸発させて、近赤外線遮蔽層を形成した。
(近赤外線遮蔽用積層体の作製)
厚さ2mmのソーダライムガラス基板に、紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商標:TINUVIN−384)3質量部と酸化防止剤(同社製、商標:IRGANOX−1010)1質量部と、アクリル系粘着剤(東洋インキ製造(株)製、商標:オリバインBPS5448)96質量部とを含有するアクリル系透明性粘着層(乾燥後の膜厚が25μm)を形成し、その上に前記近赤外線遮蔽層が形成されているポリエステル系樹脂フィルムの非塗工面を貼合して、近赤外線遮蔽用積層体を製造した。前記アクリル系透明性粘着層の、波長380nmの紫外線透過率は、1%であった。
この近赤外線遮蔽用積層体の初期および各試験後の光学特性の測定結果を、表1に示す。
[実施例2]
実施例1と同様に近赤外線遮蔽用積層体を形成した。但し、実施例1の近赤外線遮蔽用組成物中に、波長590nmの可視光を選択的に吸収する色材(旭電化工業社製、商標:TY171)0.2質量部を追加配合した。得られた近赤外線遮蔽積層体の初期および各試験後の光学特性の測定結果を、表1に記す。
比較例1
実施例1と同様にして近赤外線遮蔽積層体を作製した。但し、第1近赤外線吸収色素用ジイモニウム系化合物として、N,N,N′,N′−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン−ビス(六弗化アンチモン酸)イモニウム塩(日本カーリット(株)製、商標:CIR−1081)2質量部を用いた。
得られた近赤外線遮蔽用積層体の初期光学特性を表1に記す。
比較例2
実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽用積層体を作製した。但し、近赤外線遮蔽用組成物に配合する第2の近赤外線吸収色素として、(株)日本触媒製、商標:イーエクスカラーIR−1(吸収極大波長806nmにおける吸収係数と、波長450nm、550nmおよび620nmの各々における吸光係数との比がそれぞれ、12.3、4.7及び4.9であった)1質量部を用いた。この第2の近赤外線吸収色素は、可視光波長領域に実質的に吸収を有する色素である。
得られた近赤外線遮蔽用積層体の初期光学特性を表1に記す。
比較例3
実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽用積層体を作製した。但し、近赤外線遮蔽用組成物に配合する透明性樹脂として、ブチルメタアクリレート樹脂(ガラス転移点103℃、数平均分子量80,000)15質量部を用いた。
得られた近赤外線遮蔽用積層体の初期および各試験後の光学特性の測定結果を、表1に記す。
比較例4
実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽用積層体を作製した。但し、近赤外線遮蔽用組成物に配合する透明性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(ガラス転移点150℃、数平均分子量63,000)15質量部を用い、溶剤として、メチルエチルケトンとトルエンの混合溶剤の代わりに、ジクロロメタンを用いた。
得られた近赤外線遮蔽用積層体の初期および各試験後の光学特性の測定結果を、表1に記す。








評価結果
実施例1の近赤外線遮蔽用積層体は、初期特性において可視光領域の高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を有していた。
また、いずれの試験項目においても、色度x,yの変化量が0.005ポイント以下であり、優れた耐久性を有していた。
実施例2の近赤外線遮蔽用積層体は、初期特性において590nmの選択的な吸収と450nm、525nm、620nmの高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を有していた。
また、実施例1及び2においてはいずれの試験項目においても、色度x,yの変化量が0.005ポイント以下であり、優れた耐久性を有していた。
これに対して、比較例1の近赤外線遮蔽用積層体は、初期特性において可視光領域の高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を有していたが、80℃−相対湿度95%での高温高湿試験2において色度変化が大きく、耐久性が十分でなかった。
比較例2の近赤外線遮蔽用積層体は、初期特性において850〜1000nm領域の比較的高い近赤外線遮蔽性を有していたが、波長450nm、525nm、620nmにおいて各々60%以下の低い値であり、光学特性に劣るものであった。
また、比較例3の近赤外線遮蔽用積層体は、初期特性において可視光領域の高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を有していたが、各試験前後の色度変化量が大きく、特に高温高湿試験での色度変化が大きく、耐久性の乏しいものであった。
更に、比較例4の近赤外線遮蔽用積層体は、初期特性において可視光領域の高い透過率と、850〜1000nm領域の高い近赤外線遮蔽性を有し、高温高湿試験および耐熱性試験において優れた耐久性を有していたが、耐光性試験前後の色度変化量が大きく、外光に対する耐久性に乏しいものであった。
【産業上の利用可能性】
本発明は、可視光領域で高い透過率を有し、かつ近赤外域で高い遮蔽効果を達成し、しかも苛酷な環境条件下で、高い安定性を示すことができる被覆層を形成することができる近赤外線遮蔽用塗料。上記被覆層を有する積層体及びその製造方法を提供するものであって、産業上高い実用性を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイモニウム化合物カチオンと、下記化学式(1):

により表されるカウンターアニオンとにより構成される少なくとも1種の近赤外線吸収性ジイモニウム系化合物からなる第1近赤外線吸収色素と、
750〜950nmの近赤外波長の領域に吸収極大を有し、可視光波長領域に実質的に吸収を示さず、かつ前記ジイモニウム系化合物とは異種の少なくとも1種の色素化合物からなる第2近赤外線吸収色素と、
少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の重合体を含む透明性樹脂と、を含み、
前記少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体が、下記一般式(2):

〔前記一般式(2)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは6〜25個の炭素原子を有する環状炭化水素基を表す〕
により表される単量体を少なくとも30質量%の含有率で含む、
ことを特徴とする近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項2】
前記第1近赤外線吸収色素用近赤外線吸収性ジイモニウム系化合物が、下記化学式(3):

により表される化合物である、請求の範囲第1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項3】
前記第2近赤外線吸収色素が、750〜950nmの波長領域に吸収極大を有し、可視光波長領域に実質的に吸収を示さないジチオール金属錯体化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、シアニン系化合物から選ばれる、請求の範囲第1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項4】
前記フタロシアニン系化合物が、下記一般式(4):

〔一般式(4)において、8個のαは、それぞれ互に独立に、−SR,−OR及び、−NHR基並びにハロゲン原子から選ばれた1員を表し、但し、少なくとも1個のαは、−NHR基を表し、8個のβは、それぞれ互に独立に、−SR,−OR及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも1員を表し、但し、少なくとも1個のβは、−SR又は−OR基を表し、かつ前記8個のα及び8個のβの少なくとも1個は、ハロゲン原子及び−OR基を表し、
,R及びRは、それぞれ互に独立に、置換基を有する、又は有していないフェニル基、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、及び7〜20個の炭素原子を有するアラルキル基から選ばれた1員を表し、
Mは1個の金属原子、1個以上の水素原子、1個の金属酸化物及び金属ハロゲン化物から選ばれた1員を表す〕
により表される化合物から選ばれる、請求の範囲第3項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項5】
前記第1近赤外線吸収色素と、前記第2近赤外線吸収色素との配合質量比が、3:2〜29:1である、請求の範囲第1〜4項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項6】
前記第2近赤外線吸収色素の、前記近赤外波長領域の吸収極大波長における吸収係数の、波長450nm、550nm、及び620nmにおける吸収係数のそれぞれに対する比が、いずれも5.0以上である、請求の範囲第1,3,4及び5項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項7】
前記透明性樹脂が60〜120℃のガラス転移温度と、20,000〜80,000の数平均分子量と、200,000〜400,000の重量平均分子量とを有する、請求の範囲第1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項8】
前記第1及び第2近赤外線吸収色素の合計質量の、前記透明性樹脂に対する乾燥固形分質量比が1:99〜1:4の範囲内にある、請求の範囲第1〜7項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料。
【請求項9】
基材と、請求の範囲第1〜8項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料から形成され、かつ前記基材の少なくとも1面上に結着されている近赤外線遮蔽層とを含む、近赤外線遮蔽積層体。
【請求項10】
前記基材が、ポリエステル系樹脂フィルムと、その1面上に形成され、かつ反応性硬化剤を含まない密着性改良層とを有し、この密着性改良層上に前記近赤外線遮蔽層が形成されている、請求の範囲第9項に記載の近赤外線遮蔽積層体。
【請求項11】
波長450nm、525nm及び620nmのそれぞれにおける可視光透過率が、いずれも60%以上であり、波長850〜1,000nmにおける平均近赤外線透過率が10%以下である、請求の範囲第9又は10項に記載の近赤外線遮蔽積層体。
【請求項12】
波長590nmにおける可視光透過率が、波長450nm、525nm及び620nmの各々における可視光透過率よりも10%以上低い、請求の範囲第9〜11項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽積層体。
【請求項13】
前記基材が紫外線遮蔽性を有し、及び/又は、前記近赤外線遮蔽層上に、紫外線遮蔽層が更に積層されていて、全体として、波長380nm以下の紫外領域における紫外線透過率が2%以下である、請求の範囲第9〜12項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽積層体。
【請求項14】
前記紫外線遮蔽層が、透明固体材料と、その1面上に形成され、紫外線吸収剤と、バインダーとを含む紫外線吸収層とからなる、請求の範囲第13項に記載の近赤外線遮蔽積層体。
【請求項15】
温度60℃、相対湿度90%の高湿度雰囲気中における1,000時間の劣化促進試験、温度80℃、相対湿度5%以下の高温乾燥雰囲気中における1,000時間の劣化促進試験、温度80℃、相対湿度95%の高温高湿雰囲気中における48時間の劣化促進試験、及び放射照度550W/mのキセノンランプ照射による48時間の劣化促進耐候性試験の各々において、試験前後における近赤外線遮蔽積層体の色度x及びyの変化量が、0.005以下である、請求の範囲第9〜13項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽積層体。
【請求項16】
基材の少なくとも1面上に、請求の範囲第1〜8項のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽用塗料を塗布し、乾燥して近赤外線遮蔽層を形成することを含む、近赤外線遮蔽積層体の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/037940
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514883(P2005−514883)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015760
【国際出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】