説明

追尾装置

【課題】従来は、探知データが長時間途絶えた時、推定状態変数ベクトルとモデルにより予測処理を行うが予測誤差が大きい。また、トレンド推定を適用する場合、目標とのジオメトリにより運動モデルの次数変動や、探知データのばらつき具合で多項式の係数が変動する。
【解決手段】目標からの受信データより抽出された探知データから、目標の位置、速度等の運動諸元の推定と、受信データが一定時間以上途絶えた時にデータ間欠と判定する追尾フィルタ手段と、固定区間分の探知データを蓄積し、蓄積探知データより、1〜N次の固定区間フィッティングを並列に行い探知データのトレンドを推定するトレンド推定手段と、トレンド推定手段と追尾フィルタ手段の出力を入力し、追尾フィルタ手段が間欠追尾有効と判定時、モデル適合度が最小となるモデル次数により単位時刻先の予測値を出力する予測手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダまたはセンサによる目標からの探知データを入力し、位置、速度などの目標の運動諸元を推定する追尾フィルタを備えた追尾装置に関するもので、特に長時間目標の探知データが得れない状況時に、探知データが得られた区間からデータのトレンドを推定する処理に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来の追尾装置は、目標の位置、速度などの運動諸元である状態変数ベクトルと運動モデルを定義し、センサからの探知データによって状態変数ベクトルの推定を行う。特に探知データが長時間得られない場合においては推定した状態変数ベクトルとモデルに基づいた予測処理が実施される。運動モデルとは、目標の状態変数ベクトルを定義した場合、目標の運動を考慮して状態変数ベクトルの時間変化を描写するものである。
またトレンド推定の観点から予測する方法も考えられる。この場合においては、探知データの時系列から、定義した多項式のモデルの係数を探知データから推定し、多項式モデルの次数、係数の妥当性を評価し多項式モデルを決定し(例えば、非特許文献1参照)、決定した多項式モデルから探知データの予測を行う。
【0003】
従来のトレンド推定では、設計変数と応答についてデータを得た後、得られたデータをオフラインでモデル式にあてはめる。モデル式における未知パラメータを最小自乗法によって求め、その妥当性をAIC(Akaike's Information Criteria)により評価する。未知パラメータ決定後、得られたモデルに基づき設計変数に対する応答を推定する。
【0004】
【非特許文献1】宮田悟志、工藤啓治、” 情報量基準と段階的回帰テクニックによる高精度RSMの構築、” 計算工学講演会論文集、日本計算工学会、2001年5月,Vol6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の追尾装置において、長時間探知データが得られない場合は、推定した状態変数ベクトルとモデルに基づき予測処理が実施される。そのため長時間探知データが得られない場合は、例えばモデルに線型予測モデルを想定していた場合、予測誤差が大きくなり、予測方法の見直しが必要である。
また、追尾装置に非特許文献1に示すような従来のトレンド推定を適用する場合、多項式モデルの次数は高々知れているが、目標とのジオメトリにより適切な次数が異なる。
また、探知データのばらつき具合により多項式の係数が変動することがあり、リアルタイムでトレンドを推定する必要がある。
さらにAICの判定基準値が次数間で類似した値の場合、最小値のものを選択するのは意味がない。などの問題を持っている。
このため、探知データの分布状況や目標の追尾状況に応じて適切な多項式モデル次数をリアルタイムで選択し、かつモデルの係数が変動して予測誤差が大きくならないような、トレンド推定を実施することが望まれていた。
【0006】
この発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、追尾フィルタの入力となる探知データの時間的な分布状況から探知データのトレンドを毎時刻推定し、目標からの反射信号が長時間得られない場合、推定した最新のトレンドに基づいた予測処理を実施し、予測誤差を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による追尾装置は、
目標からの反射パルスを受信し、受信データをA/D変換する受信手段と、A/D変換後のディジタル受信データを入力し、目標の探知データを出力する信号処理手段と、信号処理手段の出力である探知データを入力し、目標の位置、速度を含む運動諸元の推定と、目標からの受信データが一定時間以上途絶えた場合にデータ間欠と判定する追尾フィルタ手段と、固定区間分の探知データを蓄積しておき、蓄積された探知データより、1〜N次の多項式モデルに固定区間フィッティングを並列に行い、探知データのトレンドを推定するトレンド推定手段と、トレンド推定手段ならびに追尾フィルタ手段の出力を入力し、追尾フィルタ手段によって間欠追尾有効と判定された場合にモデルの適合度が最小となるモデル次数に従って単位時刻先の予測値を出力する予測手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、探知データのトレンドに基づいて予測するので予測精度が改善できる。また従来のトレンド推定のように次数までの推定は行わず考えられる次数のモデルを並列処理することで処理を効率化することができ、かつ状況に応じたモデル次数を選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、図を用いてこの発明に係る実施の形態1について説明する。
図1は実施の形態1による追尾装置の構成を示している。追尾装置は、受信手段1、信号処理手段2、追尾フィルタ手段3、トレンド推定手段4、予測手段5を備えて構成される。受信手段1は目標からの反射パルスを受信し、受信データをA/D変換する。信号処理手段2はA/D変換後のディジタル受信データを入力し、目標の探知データを出力する。
なお、この実施の形態は信号処理手段2による信号処理後の処理に特徴を有するものであるので、センサを含む信号処理の詳細説明は省略する。
【0010】
図1において、追尾フィルタ手段3は追尾フィルタ部31と間欠判定部32よりなり、追尾フィルタ部31は信号処理手段2からの信号処理結果を入力し平滑処理と予測処理を実施する。
平滑処理とは、信号処理手段2の出力を入力し、信号処理結果が得られた時刻における目標の位置、速度などの運動諸元(以下、状態変数ベクトルと呼ぶ)を推定する処理である。目標の状態変数ベクトルを推定する推定値を平滑値ベクトルと呼ぶ。また平滑値ベクトルの目標真値に対する誤差共分散行列を意味する平滑誤差共分散行列を出力する。
さらに予測処理は、1信号処理周期先の信号処理結果が得られる以前に目標の状態変数の予測値を推定する処理であり、予測値ベクトルの目標真値に対する誤差共分散行列を意味する予測誤差共分散行列を出力する。
追尾フィルタ手段3では、信号処理結果が得られない場合はメモリトラックとなる。このメモリトラック状態が一定時間以上継続する場合は、間欠判定部32により間欠追尾状態(間欠追尾判定有効)と判断する。
【0011】
トレンド推定手段4は、追尾フィルタ手段3の入力である探知データを入力し、レジスタ41によって所定時間分の探知データを蓄積する(探知データがレジスタ41に蓄積される所定の時間を固定区間とする)。レジスタ41によって蓄積された探知データより、421〜42Nに示す初期化用フィッティング部によって最大N次までの時刻tに関する多項式フィッティングを実施し、最小自乗法によって1〜N次までの多項式モデルにおけるフィッティング係数を並列に算出する。
但しフィッティング係数の算出は初回のみとし、それ以降においては蓄積された探知データを入力毎に431〜43Nに示す係数平滑部によってカルマンフィルタの理論に従いフィッティング係数を更新する。
また441〜44Nは適合度判定部であり、蓄積された探知データとフィッティング係数を入力し、多項式モデル次数の妥当性についてAIC(Akaike's Information Criterion)の判定基準に従って評価する。
【0012】
予測手段5は、追尾フィルタ手段3の出力である予測値と、トレンド推定手段4の出力であるモデル適合度と多項式モデルにおける各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、予測値を選択する。
予測手段5において、51はモデル次数選択部であり、トレンド推定手段4の出力であるモデル適合度を入力し、適合度の最小となる多項式モデル次数を選択する。52は予測値算出部であり、モデル次数選択部51によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を実施する。但し、追尾フィルタ手段3内の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合、または状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段3の予測値を選択する。
【0013】
以下に、動作に関する説明をする。
まず、追尾フィルタ手段3の動作について説明する。
説明のため、信号処理手段2の出力である探知データをzkと表す。ここでkは信号処理時刻tkを表す。追尾フィルタ手段3にて推定する目標の状態変数ベクトルをxkとおく。
【0014】
追尾フィルタ手段3は信号処理手段2の出力である探知データzkを入力し、平滑処理と予測処理を実施する。平滑、予測処理にあたり、式(1)および(2)に示す運動モデル、観測モデルを定義する。
運動モデルとは、目標自身の運動あるいは外部から受ける摂動を考慮したとき、状態変数ベクトルの時間的変化を描写するものである。
また、観測モデルとは、運動する目標をレーダなどで観測する場合に、観測値ベクトルと状態変数ベクトルの関係と観測雑音が付与される過程をモデル化したものである。
ここでΦkは状態遷移行列,ωkは駆動雑音ベクトル,Γ1は駆動雑音変換行列を表す。
またHkは観測値ベクトル,vkは観測雑音ベクトル,Γ2は観測雑音変換行列である。
【0015】
追尾フィルタ手段3では、まず予測処理を実施し、目標の状態変数ベクトルを式(3)によって探知データが入力される探知データ入力時刻に合わせる。また式(4)に従い予測誤差共分散行列を算出する。
【0016】
【数1】

【0017】
次に、平滑処理を実施し、探知データが入力されると、目標の状態変数ベクトルを式(5)によって更新する。また式(6)に従い平滑誤差共分散行列を算出する。
ここでKkはゲイン行列を表しており、式(7)に従って算出される。
但し、探知データが得られない場合には式(8)および(9)によってメモリトラック処理を実施し、予測値ベクトル、予測誤差行分散行列を平滑値ベクトル、平滑誤差共分散行列に置き換える。
【0018】
【数2】

【0019】
追尾フィルタ手段3において式(8)および(9)に従うメモリトラック処理が一定時間続く場合は間欠判定部32が探知データが間欠状態とみなし、予測手段5に間欠追尾状態であることを出力する。
【0020】
次に、トレンド推定手段4の動作について説明する。
トレンド推定手段4においてレジスタ41によって蓄積された探知データの集まりをZkとおく。Zkは一定時間分(この一定時間を固定区間とする)の探知データzkを蓄積したものであり、式(10)のように表現する。
図2に示すように探知データは時刻tの関数であるものとし、例えば位置座標に関して式(11)のように時刻tに関する多項式で表されるものとする。式(11)のa0、a1,・・は多項式の係数を表している。
【0021】
【数3】

【0022】
従来技術では多項式の次数と係数を推定するが、この発明においては、多項式モデル次数に対する推定は行わず、多項式モデルの次数は高々N次までとする。
例えば位置ベクトルに関する状態変数ベクトルをykとし、多項式係数を状態変数ベクトルとして式(12)のように定義する。
このとき、トレンド推定手段4においても追尾フィルタ手段3と同様、多項式モデルに関する運動モデルと観測モデルの定義が必要となる。
多項式モデルにおける運動モデル、観測モデルを式(13)および(15)のように定義する。
【0023】
【数4】

【0024】
カルマンフィルタの理論に従い、式(17)〜(19)による平滑処理と式(22)〜(23)による予測処理を繰り返すことで多項式係数を推定する。
【0025】
【数5】

【0026】
【数6】

【0027】
以上のトレンド推定手段4の処理を図1を使って説明する。
まず、初期化用1次フィッティング部421〜初期化用N次フィッティング部42Nは式(20)及び(21)に従い1次からN次までの多項式モデルとした場合の多項式係数と誤差共分散行列の初期値を並列に算出する。
次に、新たな蓄積された探知データが入力されると1次の係数平滑部431〜N次の係数平滑部43Nにより式(17)(18) に従い平滑処理を、式(22)(23)に従い予測処理を行い多項式係数を並列に推定する。
【0028】
さらに、フィッティング値推定後、適合度判定部441〜44Nにより、AICによって蓄積探知データに対する各多項式モデル次数の適合度を算出する。算出処理は式(24)(25)に従う。
【0029】
【数7】

【0030】
予測手段5では、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾状態が無効、すなわち目標からの反射信号が得られている状態においては追尾フィルタ手段3の予測値を選択する。
一方、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾状態が有効である場合は以下の処理に従う。
まず、モデル次数選択部51が、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、式(24)(25)で評価される多項式モデル適合度AICiに従いそれが最小となるモデル次数を選択する。
次に、予測値算出部52で、モデル次数選択部51によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を式(22)に従い実施する。但し、追尾フィルタ手段3によって間欠追尾判定が無効と判定された場合または、状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段3の予測値を上述の式(3)に従って選択する。
【0031】
従来の追尾装置では追尾フィルタ手段3によって定義された状態変数ベクトルと運動モデルによる予測処理では図3に示す破線部のように予測値を誤るが、この実施の形態1の構成によれば、以上述べたように探知データのトレンドに基づいて予測値を予測するので予測精度が改善できる。
また従来のトレンド推定のように次数までの推定は行わず、考えられる次数の多項式モデルを並列処理することで処理を効率化することができ、かつ状況に応じたモデル次数を選択することができる。
【0032】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2による追尾装置の構成を示している。ここではこの実施の形態の要旨とする部分のみを説明する。
図4において、予測手段6は、 追尾フィルタ手段3の出力である予測値と、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、予測値を選択する。
予測手段6において、61はモデル次数選択部であり、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度を入力し、適合度が最小となるモデル次数を選択する。62は累積判定部であり、モデル次数選択部61のモデル選択結果を入力し、固定サンプル内のモデル選択結果を参照し、多項式モデル次数を選択する。63は予測値算出部であり、累積判定部62のモデル選択結果を入力し、選択されたモデルに従って予測値を算出する。
その他の構成は図1に示す実施の形態1と同様である。
【0033】
以下に、動作に関する説明をする。
予測手段6では、まず、モデル次数選択部61が、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度と各多項式次数モデルによるフィッティング係数を入力し、上述の式(24)(25)で評価される多項式モデル適合度AICNに従いそれが最小となる多項式モデル次数を選択する。
【0034】
次に、累積判定部62で、モデル次数選択部61のモデル選択結果を入力し、特定の多項式モデルの選択有効となってから固定サンプル(ここではLサンプルとおく)中一定サンプル以上(ここではMサンプルとおく)あるいはMサンプル連続して、同じ多項式モデル次数を選択している場合に限り、選択された多項式モデル次数を選択する。そうでない場合は、現在選択されている多項式モデル次数を維持する。なお、モデル次数選択部61の初期値は1次とする。
次に、63は予測値算出部であり、累積判定部62によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を上述の式(22)に従い実施する。
但し、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合、または、状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段3の予測値を上述の式(3)に従って選択する。
【0035】
以上のように実施の形態2の構成によれば、予測手段6によって多項式モデルの次数選択を累積判定によって実施するので、選択される次数を安定化させることができ、予測値の変動を抑えることができる。
【0036】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3による追尾装置の構成を示している。ここではこの実施の形態の要旨とする部分のみを説明する。
図5において、予測手段7は、追尾フィルタ手段3の出力である予測値と、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、予測値を選択する。
予測手段7において、71は適合度評価部であり、トレンド推定手段4の出力であるモデル適合度を入力し、モデル適合度の最小値と最大値の差を評価する。72はモデル次数選択部であり、適合度評価部71によって算出された多項式モデル適合度の差を入力し、多項式モデル次数を選択する。差が閾値以上の場合は多項式モデル適合度が最小となるモ多項式デル次数を選択する。一方、両者の差が閾値未満の場合は、適切なモデル次数なしとする。
73は予測値算出部であり、モデル次数選択部72の多項式モデル次数選択結果を入力し、モデル次数選択部72により最適な多項式モデル次数が出力された場合は、そのモデル次数に基づき予測値を算出する。一方、モデル次数選択部72により最適な多項式モデル次数なしと判断された場合は、各多項式モデルに基づく予測値を多項式モデル適合度によって重み付けされた値を予測値として出力する。
その他の構成は図1に示す実施の形態1と同様である。
【0037】
以下に、動作に関する説明をする。
予測手段7では、まず、適合度評価部71が、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、式(26)(27)で評価される多項式モデル適合度AICiに従い、それが最小となる多項式モデル次数ならびに評価値AICminと最大となる多項式モデル次数と評価値AICmaxの差を評価する。差が閾値以上の場合は適合度が最小となる多項式モデル次数を選択する。一方、両者の差が閾値未満の場合は、適切な多項式モデル次数なしとする。
【0038】
【数8】

【0039】
次に予測値算出部73において、モデル次数選択部72のモデル次数選択結果を入力し、モデル次数選択部72により最適なモデル次数が出力された場合は、その多項式モデル次数に基づき予測値を算出する。一方、モデル次数選択部72により最適な多項式モデル次数なしと判断された場合は、各多項式モデルに基づく予測値を多項式モデル適合度によって重み付けされた値を予測値として出力する。即ち、式(28)(29)により多項式モデルの信頼度をAICiから算出し、式(30)によって重み付け統合する。
【0040】
【数9】

【0041】
但し、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合または、状態変数ベクトルと同じ次数のモデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段の予測値を上述の式(3)に従って選択する。
【0042】
以上のように、実施の形態3の構成によれば、予測手段7によって多項式モデルの次数選択をモデル適合度によって実施する。多項式モデル間の適合度がどれも類似した値を示す場合はそれらの重み付けを予測値とし、いずれかのモデル適合度が高い場合は、その多項式モデルを選択することで、適切な予測値を出力することができる。
【0043】
実施の形態4.
図6は、実施の形態4による追尾装置の構成を示している。ここではこの実施の形態の要旨とする部分のみを説明する。
図6において、トレンド推定手段8は、追尾フィルタ手段3の出力を入力し、レジスタ81によって一定時間分の追尾フィルタ平滑値と予測値を蓄積する。レジスタ81によって蓄積された追尾フィルタ平滑値と予測値より、固定区間平滑化部82により固定区間スムージング処理を実施し、蓄積されたデータ区間における追尾結果の平滑化を実施する。固定区間平滑化部82の出力は821〜82Nに示す初期化用フィッティング部によって最大N次までの時刻tに関する多項式フィッティングを実施し、最小自乗法によって1〜N次までのフィッティング係数を並列に算出する。
但しフィッティング係数の算出は初回のみとし、それ以降においては蓄積された探知データを入力毎に係数平滑部831〜83Nによってカルマンフィルタの理論に従いフィッティング係数を更新する。
また841〜84Nは適合度判定部であり、蓄積された探知データとフィッティング係数を入力し、多項式モデル次数の妥当性についてAIC(Akaike's Information Criterion)の判定基準に従って評価する。
【0044】
予測手段5は、追尾フィルタ手段3の出力である予測値と、トレンド推定手段8の出力である多項式モデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、予測値を選択する。
予測手段5において、51はモデル次数選択部であり、トレンド推定手段8の出力である多項式モデル適合度を入力し、モデル適合度の最小となる多項式モデル次数を選択する。52は予測値算出部であり、モデル次数選択部51によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を実施する。但し、追尾フィルタ手段3内の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合または、状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段3の予測値を選択する。
【0045】
以下に、動作に関する説明をする。
トレンド推定手段8においてレジスタ81によって追尾フィルタ手段3の出力である平滑値、予測値を蓄積する。
次に蓄積された平滑値、予測値によって固定区間平滑化手段82により蓄積区間の平滑値を式(31)〜(33)に従って算出する。
【0046】
【数10】

【0047】
また、初期化用1次フィッティング部421〜初期化用N次フィッティング部42Nは上述の式(20)及び(21)に従い1次からN次までの多項式モデルとした場合の多項式係数と誤差共分散行列の初期値を並列に算出する。
【0048】
次に、新たな蓄積された探知データが入力されると1次の係数平滑部431〜N次の係数平滑部43Nにより上述の式(17) 〜(19)に従い平滑処理を、同じく上述の式(22)(23)に従い予測処理を行い多項式係数を並列に推定する。
さらに、フィッティング値推定後、適合度判定部441〜44Nにより、AICによって蓄積探知データに対する各多項式モデル次数の適合度を算出する。算出処理は上述の式(24)(25)に従う。
【0049】
予測手段5では、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾状態が無効、すなわち目標からの反射信号が得られている状態においては追尾フィルタ手段3の追尾フィルタ部31の予測値を選択する。一方、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾状態が有効である場合は以下の処理に従う。
【0050】
まず、モデル次数選択部51が、トレンド推定手段8の出力である多項式モデル適合度と各多項式モデル次数によるフィッティング係数を入力し、上述の式(24)(25)で評価されるモデル適合度AICiに従いそれが最小となる多項式モデル次数を選択する。
次に、予測値算出部52で、モデル次数選択部51によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を上述の式(22)に従い実施する。但し、追尾フィルタ手段3の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合または、状態変数ベクトルと同じ次数のモデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段の予測値を上述の式(3)に従って選択する。
【0051】
以上のように、実施の形態4の構成によれば、トレンド推定手段8によって固定区間平滑化処理を実施後、多項式モデル当て嵌めを行うので選択される多項式モデル次数を安定化させることができ、予測値の変動を抑えることができる。
【0052】
実施の形態5.
図7は、実施の形態5による追尾装置の構成を示している。ここではこの実施の形態の要旨とする部分のみを説明する。
【0053】
トレンド推定手段9は、追尾フィルタ手段3の入力である探知データを入力し、レジスタ91によって一定時間分の探知データを蓄積する。レジスタ91によって蓄積された探知データより、初期化用フィッティング部92NによってN次の時刻tに関する多項式フィッティングを実施し、最小自乗法によってN次のフィッティング係数を算出する。
但しフィッティング係数の算出は初回のみとし、それ以降においては蓄積された探知データを入力毎にN次の係数平滑部93Nによってカルマンフィルタの理論に従いフィッティング係数を更新する。
【0054】
予測手段10では、まず、モデル係数調整部101において、トレンド推定手段9の出力であるモデル次数の係数を入力し、有効な次数の判定を行う。
次に、適合度判定部102により、モデル係数調整部101にて判定された有効な多項式モデル次数に対し、多項式モデル適合度を評価する。多項式モデル適合度が妥当と判断された場合は予測値算出部103へ処理をすすめる。一方、多項式モデル適合度が妥当でない場合は、モデル係数調整部101に戻り、次数の調整を再度実施する。
予測値算出部103では、追尾フィルタ手段3の出力である予測値と、適合度判定部102により妥当と判断されたモデル係数調整部101の出力である多項式モデル係数によるフィッティング係数を入力し、予測値を選択する。
予測値算出部103では、モデル係数調整部101によって選択されたモデル次数に従い予測処理を実施する。但し、追尾フィルタ手段3内の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合、または状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段の予測値を選択する。
【0055】
以下に、動作に関する説明をする。
予測手段10では、まず、モデル係数調整部101において、トレンド推定手段9の出力であるモデル次数の係数を入力し、有効な次数の判定を行う。
すなわち多項式モデル次数の係数a0〜aNに対し、それらの大きさが式(34)のように閾値未満である場合は強制的に0とする。
この処理は係数毎に実施し、各次数の係数毎にモデル係数調整部101による処理実施後、適合度判定部102にて多項式モデル適合度を評価し、係数の調整が妥当であるかを判定する。例えば定数項a0の値が閾値未満の場合、a0を0とし、によりAICによって式(35)、(36)のように多項式モデル適合度を算出する。AICの値が閾値未満である場合は係数調整は有効であるとみなし、次の係数の調整にすすむ。一方、閾値以上である場合は係数調整は無効とし、係数a0の調整は実施せずに次の次元a1の調整処理にすすむ。
以上の処理をN次まで繰り返し、次数を調整する。
【0056】
【数11】

【0057】
予測値算出部103では、モデル係数調整部101によって選択されたモデル次数に従い予測処理を上述の式(22)に従い実施する。但し、追尾フィルタ手段3内の間欠判定部32によって間欠追尾判定が無効と判定された場合または、状態変数ベクトルと同じ次数のモデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段の予測値を上述の式(3)に従って選択する。
【0058】
以上のように、実施の形態5の構成によれば、トレンド推定手段9では、N次の多項式モデルによってトレンドを推定する。推定された多項式係数の値から適切な次数を判定するため、これまでの実施の形態のように異なる次数のモデルを並列処理させる必要がなく、処理または構成が簡略化できる。
【0059】
実施の形態6.
図8は、実施の形態6による追尾装置の構成を示している。これまでの実施の形態の説明では追尾フィルタ手段の間欠判定部の判定が追尾判定有効(探知データが一定時間続いて得られない間欠状態とみなされる)時における処理であったが、この実施の形態では通常追尾(間欠追尾無効)においてもトレンド推定手段4の処理を実施し、出力から予測値を算出する。
【0060】
図8は実施の形態6による追尾装置の構成を示している。
図8において、追尾フィルタ手段11は信号処理手段2からの信号処理結果を入力し、平滑処理と予測処理を実施する。
【0061】
トレンド推定手段4は、追尾フィルタ手段11の入力である探知データを入力し、レジスタ41によって一定時間分の探知データを蓄積する。レジスタ41によって蓄積された探知データより、421〜42Nに示す初期化用フィッティング部によって最大N次までの時刻tに関する多項式フィッティングを実施し、最小自乗法によって1〜N次までのフィッティング係数を並列に算出する。
但しフィッティング係数の算出は初回のみとし、それ以降においては蓄積された探知データを入力毎に431〜43Nに示す係数平滑部によってカルマンフィルタの理論に従いフィッティング係数を更新する。
また441〜44Nは適合度判定部であり、蓄積された探知データとフィッティング係数を入力し、多項式モデル次数の妥当性についてAIC(Akaike's Information Criterion)の判定基準に従って評価する。
【0062】
予測手段12は、追尾フィルタ手段11の出力である予測値と、トレンド推定手段4の出力であるモデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、予測値を選択する。
予測手段12において、121はモデル次数選択部であり、トレンド推定手段4の出力である多項式モデル適合度を入力し、適合度の最小となる多項式モデル次数を選択する。122は予測値算出部であり、モデル次数選択部121によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を実施する。
但し、状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段11の予測値を選択する。
【0063】
以下に、動作に関する説明をする。
予測手段12では、まず、モデル次数選択部121が、トレンド推定手段4の出力であるモデル適合度と各次数モデルによるフィッティング係数を入力し、上述の式(24)(25)で評価されるモデル適合度AICNに従いそれが最小となる多項式モデル次数を選択する。
次に、予測値算出部122で、次数選択部によって選択された多項式モデル次数に従い予測処理を上述の式(22)に従い実施する。但し、状態変数ベクトルと同じ次数の多項式モデルが選択された場合に限っては追尾フィルタ手段11の予測値を上述の式(3)に従って選択する。
【0064】
以上のように、実施の形態6の構成によれば、通常追尾においてもトレンド推定手段4の出力を予測値に使用することができ、予測精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
パッシブレーダ、航空機搭載レーダ等高速移動目標を検出する機種に適用されることで、検出性能の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】この発明の実施の形態1を示す追尾装置の構成図である。
【図2】この発明における探知データの多項式近似を示す説明図である。
【図3】この発明におけるトレンド予測の特徴を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2を示す追尾装置の構成図である。
【図5】この発明の実施の形態3を示す追尾装置の構成図である。
【図6】この発明の実施の形態4を示す追尾装置の構成図である。
【図7】この発明の実施の形態5を示す追尾装置の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態6を示す追尾装置の構成図である。
【符号の説明】
【0067】
1;受信手段、2;信号処理手段、3、11;追尾フィルタ手段、31;追尾フィルタ部、32;間欠判定部、4、8、9;トレンド推定手段、41、81、91;レジスタ、421、821;初期化用1次フィッティング部、42N、82N、92N;初期化用N次フィッティング部、431、831;1次の係数平滑化部、43N、83N、93N;N次の係数平滑化部、441、841、102;適合度判定部、 44N、84N;適合度判定部、 5、6、7、10、12;予測手段、 51、61、72、121;モデル次数選択部、 52、63、73、103、122;予測値算出部、62 累積判定部、71;適合度評価部、82;固定区間平滑化部、101;モデル係数調整部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標からの反射パルスを受信し、受信データをA/D変換する受信手段と、A/D変換後のディジタル受信データを入力し、目標の探知データを出力する信号処理手段と、信号処理手段の出力である探知データを入力し、目標の位置、速度を含む運動諸元の推定と、目標からの受信データが所定時間以上途絶えた場合にデータ間欠と判定する追尾フィルタ手段と、信号処理手段からの探知データを固定区間分蓄積しておき、蓄積された探知データより、1〜N次の固定区間フィッティングを並列に行い探知データのトレンドを推定するトレンド推定手段と、トレンド推定手段と追尾フィルタ手段の出力を入力し、追尾フィルタ手段によって間欠追尾有効と判定された場合に多項式モデルの適合度が最小となる多項式モデル次数に従って単位時刻先の予測値を出力する予測手段とを備えたことを特徴とする追尾装置。
【請求項2】
予測手段は、トレンド推定手段の出力からモデル適合度が最小となる多項式モデル次数を選択するモデル次数選択部と、モデル次数選択部で選択されたモデル次数を累積し、所定区間のモデル次数選択結果が所定値以上同じモデル次数を選択している場合に、当該モデル次数を選択し、異なる場合は、現在選択されているモデル次数を維持する累積判定部を備えることを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項3】
予測手段は、トレンド推定手段の出力である多項式モデルの適合度を入力し、多項式モデルの適合度の最小値と最大値の差を算出する適合度評価部と、
適合度評価部によって算出された多項式モデルの適合度の差を入力し、多項式モデルの適合度の差が閾値以上のときは多項式モデルの適合度が最小となる多項式モデルの次数を選択し、差が閾値未満の場合は、多項式モデルの次数なしとするモデル次数選択部と、
モデル次数選択部により多項式モデルの次数が選択された場合は、その多項式モデルの次数に基づき予測値を算出し、多項式モデルの次数なしの場合は、各多項式モデルに基づく予測値を多項式モデルの適合度によって重み付けされた値を予測値として出力する予測値算出部を備えたことを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項4】
トレンド推定手段は、追尾フィルタ手段によって間欠追尾判定有効と判断された場合、追尾フィルタ手段の結果を固定区間平滑化する固定区間平滑化部を備え、固定区間平滑化後の平滑値のトレンドを推定する構成にされたことを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項5】
トレンド推定手段は、固定区間分の探知データを蓄積し、蓄積された探知データより、N次の固定区間フィッティングを行い探知データのトレンドを推定する構成にされ、
予測手段はトレンド推定手段によって得られた多項式モデル係数の値によって多項式モデルの次数を調整するモデル係数調整部を備え、モデル係数調整部で調製された状態変数ベクトルによって予測処理を実施する構成にされたことを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項6】
予測手段は、追尾フィルタ手段の予測値と、トレンド推定手段の出力を入力し、トレンド推定手段の出力から多項式モデル次数を選択して予測処理行い、選択された多項式モデルの次数が状態変数ベクトルと同じ次数の場合は追尾フィルタ手段の予測値を選択し、それ以外はトレンド推定手段の出力を基に予測処理された予測値を選択する構成にされたことを特徴とする請求項1記載の追尾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−333514(P2007−333514A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164703(P2006−164703)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】