説明

追記型情報記録媒体、情報記録装置および情報再生装置

【課題】磁気記録方式で従来と同等の高記録密度を維持しつつ、書き換えを不可能にする追記型情報記録媒体等を提供する。
【解決手段】基板41と、基板上に形成された記録層44とを有し、記録層は、金属、合金または金属化合物からなる多層膜により形成され、多層膜の構造が近接場光等の光照射により崩れることで、磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または磁気特性が強磁性から非磁性に変化することを利用して情報の記録を行う追記型情報記録媒体40。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追記型情報記録媒体等に関し、より詳しくは、特に高密度記録に適した追記型情報記録媒体等に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の発展には目覚しいものがあり、文字情報のみならず音声及び画像情報を高速に処理することができる装置が求められている。その装置の1つとしてコンピュータ等に装着されている磁気記録方式の情報記録装置が知られている。
特に画像情報を扱うためには大容量の記録装置が強く求められており、磁気記録方式の情報記録装置の記録密度向上が強力に進められている。典型的な磁気記録方式の情報記録装置は、複数の情報記録媒体をスピンドル上に回転可能に装着している。
各情報記録媒体は、基板とその上に形成された磁性膜からなり、情報の記録は、特定の磁化方向を有する磁区を磁性膜中に形成することにより行われる。現在は、より高記録密度を目指して、従来面内方向に記録していた面内磁気記録方式から磁化を垂直方向に記録する垂直磁気記録方式の研究開発が活発に行われており、一部実用化も始まっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
磁気記録方式による情報記録装置は他に類をみない大容量のため、様々なデータの記録用途として用いられている。磁気記録方式は磁化の方向によって記録しているために物理的な変化がなく、本質的に無限回の書き換え可能な記録方法である。
しかし、データの種類の中には、例えば医療データのように書き換えを不可能にしなければならないものも存在する。従って、磁気記録方式でこのようなデータを安全に保存するためには何らかの工夫が必要で、現状はソフトウェアで管理している。
【0004】
そこで、本質的に書き換えを不可能にする必要性がある用途には、一般的には追記型の情報記録媒体が使用されている。この追記型情報記録媒体としては、例えば、DVD−R等の有機色素を記録層に用いた光ディスクがある。これはディスクにレーザを照射することで加熱された箇所の有機色素が分解してピットが形成され、レーザの反射率が変化することを利用して信号の記録・再生を実現している。有機色素の分解は不可逆変化であり、いったん形成されたピットは消去することができないため、追記型情報記録媒体として機能する。
【0005】
【非特許文献1】アイ・トリプル・イー・トランサクションズ・オン・マグネティックス(IEEE Trans. Magn.)、2002年、38巻、1976−1978頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような光記録方式では、記録密度は光のスポットサイズに支配される。例えば現在積極的に開発及び実用化が進められている青紫色レーザを用いた光記録においても、記録密度はおおよそ30Gbit/in程度であり、現在実用化されている磁気記録方式を用いた場合の記録密度の約1/4ほどしかない。
また、情報の書き込み(記録)速度、読み込み(再生)速度についても、磁気記録方式より遅いのが現状である。
【0007】
本発明は、上記のような従来の技術が有する種々の問題点に鑑みてなされたものである。その目的とするところは、磁気記録方式で従来と同等の高記録密度を維持しつつ、書き換えを不可能にする追記型情報記録媒体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、従来の磁気記録方式と同等の書き込み速度を維持しつつ、情報の書き換えが不可能な追記型情報記録媒体に記録することができる情報記録装置を提供することにある。
また更に、本発明の他の目的は、従来の磁気記録方式と同等の読み込み速度を維持しつつ、情報の書き換えが不可能な追記型情報記録媒体を再生することができる情報再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、近接場光を用いて微少な光スポットを形成し、この光スポットによるビット記録時に媒体の構造を不可逆的に変化させ書き込みを行ない、また読み取りは磁気抵抗効果素子を用いたヘッドで行えば、高記録密度可能な追記型情報記録媒体を構成することができると考えた。また、この追記型情報記録媒体を使用した高速な情報記録装置、情報再生装置を構成することが可能になる。
そこで、種々の媒体構造を検討した結果、多層膜構造を有し、レーザ光等の熱源による局所的な加熱で多層膜の構造を崩したとき磁化状態に差異を生じる新規な情報媒体構造を採用すれば上記要件を満たすことが出来ることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、基板と、基板上に形成された記録層と、を有し、記録層は、光照射により磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化する追記型情報記録媒体が提供される。
【0010】
ここで、記録層は、金属、合金または金属化合物からなる多層膜により形成されることが好ましく、多層膜の構造が光照射により崩れることで、磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または磁気特性が強磁性から非磁性に変化することが更に好ましい。
また、多層膜は、Mn/AlまたはMn/Biのいずれか1つの組み合わせにより形成されるか、CrOまたはFeのうち少なくとも1つと、V、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Re、Ir、Pd、Ptの中から選択される金属単体または金属単体同士の合金のうち少なくとも1つとの組み合わせにより形成されることがまた更に好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、追記型情報記録媒体に近接場光を照射する光照射部と、磁界を印加し記録を行う記録ヘッドと、追記型情報記録媒体を駆動する情報記録媒体駆動部と、記録ヘッドを駆動するヘッド駆動部と、を備え、光照射部は、近接場光の照射により追記型情報記録媒体の記録層の磁気特性を非磁性から強磁性に変化、または磁気特性を強磁性から非磁性に変化させ、記録ヘッドは、記録層の強磁性を有する箇所の磁気の向きを一定方向にそろえることで情報の記録を行うことを特徴とする情報記録装置が提供される。
【0012】
ここで、光照射部により近接場光が照射される追記型情報記録媒体の記録層は、金属、合金または金属化合物からなる多層膜により形成され、光照射部は、近接場光の照射により多層膜の構造を崩すことで、追記型情報記録媒体の磁気特性を非磁性から強磁性に変化、または磁気特性を強磁性から非磁性に変化させることが好ましい。
【0013】
また更に、本発明によれば、追記型情報記録媒体に記録された情報を読み取る再生ヘッドと、追記型情報記録媒体を駆動する情報記録媒体駆動部と、再生ヘッドを駆動するヘッド駆動部と、を備え、再生ヘッドは、追記型情報記録媒体の記録層の強磁性を有する箇所と非磁性を有する箇所との磁界の差異を読み取ることで情報の再生を行うことを特徴とする情報再生装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い記録密度を実現し、かつ、書き換えが不可能な追記型情報記録媒体等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態(実施の形態)について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
図1は、本実施の形態が適用される情報記録装置および情報再生装置の要部を説明した図である。
図1に示した情報記録装置および情報再生装置は、モータで回転駆動されるスピンドル部(情報記録媒体駆動部)11、スピンドル部11に搭載された本実施の形態が適用される追記型情報記録媒体40、記録ヘッドや再生ヘッド等を備えたヘッド部12、及びヘッド部12を駆動して追記型情報記録媒体40を所望のトラックに位置決めするヘッド駆動部13を有する。
追記型情報記録媒体40はスピンドル部11により、所定の回転数で回転する。ヘッド部12は、追記型情報記録媒体40の回転による空気流で発生する圧力を利用して浮上する。浮上量は、通常約5nm程度である。
ヘッド駆動部13は、ヘッド部12を所定の位置に移動し、情報の後述する記録ヘッドや再生ヘッドにより記録、再生が行われる。
なお、図1に示した追記型情報記録媒体40は固定式のものを例示し説明を行ったが、追記型情報記録媒体40をカートリッジ式にし、複数の追記型情報記録媒体40を入れ替え、記録、再生可能としてもよい。
【0017】
図2は、本実施の形態が適用される情報記録装置におけるヘッド部12の構造を説明した図である。
図2において示したヘッド部12は、近接場光を照射する光照射部21と、磁界を印加し記録を行う記録ヘッド22から構成される。
追記型情報記録媒体40は、後に詳述するように、光照射により磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化する特性を有する記録層を備えており、本実施の形態のように近接場光を照射することにより磁気特性が変化する。
【0018】
記録層が、光照射により磁気特性が非磁性から強磁性に変化する特性を有する場合は、近接場光による光照射を行った部分は、強磁性に変化し、光照射を行わなかった部分は、非磁性を維持する。強磁性に変化した部分を記録ヘッド22により磁気を印加し、磁気の向きを一定方向にそろえる。このようにして、ビットパターンを形成し、情報の記録を行うことができる。
一方、記録層が、光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化する特性を有する場合は、近接場光による光照射を行った部分は非磁性に変化し、光照射を行わなかった部分は、強磁性を維持する。強磁性の部分は、記録ヘッド22により磁界を印加し、磁気の向きを一定方向にそろえる。このようにして、上記と同様にビットパターンを形成し、情報の記録を行うことができる。
【0019】
光の回折限界を超えた記録密度を可能にし、高密度記録が実現するため、光照射としては近接場光を用いるのが好ましい。例えば、30nm程度の微少な光スポットの形成が可能である。
近接場光を照射する光照射部21としては、特に限定されるものではないが、例えば、レーザをPlanar型のヘッドに照射して近接場光を発生させるような一般的な方式の装置が使用できる。また、記録ヘッド22としては、通常のハードディスク装置等で使用される記録用の磁気ヘッドが使用できる。この磁気ヘッドは、一部にギャップを設けたリング状のコア(磁極)にコイルを巻いた構造を有し、コイルに書き込み電流を流すことで、磁気の向きを変更することができる。
また、スピンドル部(情報記録媒体駆動部)11、ヘッド駆動部13なども、通常の磁気記録方式の情報記録媒体であるハードディスク装置等と同様であるため、本実施の形態が適用される情報記録装置は、従来のハードディスク装置等と同様の書き込み(記録)速度が実現可能である。
【0020】
また、図3は、本実施の形態が適用される情報再生装置におけるヘッド部12の構造を説明した図である。
図3に示したヘッド部12は、再生ヘッドであり、追記型情報記録媒体40に記録された情報を読み取る磁気抵抗効果素子31、およびその両側に磁気抵抗効果素子31の真下の部分だけからの信号磁界を再生に寄与させるための磁気シールド層32が備えられている。
強磁性であるか非磁性であるかで磁界が異なるため、この磁気抵抗効果素子31により漏洩磁束を検出し、磁界の差異を読み取ることで、追記型情報記録媒体40に記録された情報を読み取ることができる。
【0021】
磁気抵抗効果素子31としては、通常のハードディスク装置等で使用される磁気抵抗効果素子が使用できるが、中でも巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetic Resistive:GMR効果)を用いたGMR膜を用いるのが再生信号出力が大きいという観点から好適である。
情報の読み取りはこのように通常の磁気記録方式の情報記録媒体であるハードディスク装置等と同様であるため、本実施の形態が適用される情報再生装置は、ハードディスク装置等と同様の読み取り(再生)速度が実現可能である。
なお、上記の例では、情報記録装置と情報再生装置は、別個の装置として説明したが、例えば、光照射部21、記録ヘッド22(図2参照)、磁気抵抗効果素子31を一体的にヘッド部12(図1参照)に設け、1つの装置で情報の記録および再生ができる情報記録再生装置としての形態も考えられる。
【0022】
次に本実施の形態が適用される追記型情報記録媒体40について詳述する。
磁気記録方式では、巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用した高感度な読み取り素子を用いることで、線記録密度がビット長30nmクラスの850kFCIでも読み取りが可能である。これが磁気記録の高記録密度化を進めることを可能にしている大きな理由である。
しかしながら、前述したように、磁気記録方式は本質的に物質の物理的、化学的変化の生じない記録方法であるため、原理的には無限回書き換え可能である。従って、追記型にするには、記録媒体の物理的、または化学的な構造を変化させる必要がある。
【0023】
図4は、本実施の形態が適用される追記型情報記録媒体の概略断面図である。
図4に示した追記型情報記録媒体40は、基板41、SiN層42、Alヒートシンク層43、記録層44、及び保護層45を順次積層した多層膜構造を有する。この追記型情報記録媒体40は、基板41と記録層44の2つを基本構造とするが、下記理由により他の層を設ける方がより好ましい。
【0024】
基板41は、ガラス、アルミニウム、ポリカーボネート等の樹脂が使用できる。しかし、表面粗さが小さく高密度記録を行うのが容易であり、強度と硬度に優れるガラス基板を使用するのがより好ましい。
【0025】
また、SiN層42は、近接場光等の光照射による熱を蓄積する層であり、Alヒートシンク層43は逆に放熱するための層である。この2つの層の膜厚のバランスにより、記録層44に伝熱する熱量を制御することができる。
保護層45は、記録層44を保護するための層であり、カーボン等が使用できる。
【0026】
また、記録層44は、前述の通り近接場光等の光照射により磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化する特性を有している。
具体的には、記録層は、金属、合金または金属化合物からなる多層膜により形成されており、この多層膜が、光照射による加熱により拡散等して崩れることにより、磁気特性の変化が生じる。
【0027】
光照射により磁気特性が非磁性から強磁性に変化する多層膜としては、MnとAlを多層膜にしたもの、またはMnとBiを多層にしたものが例示される。この場合、MnとAlの多層膜、またはMnとBiの多層膜は非磁性である。しかし、光照射により加熱することで、強磁性であるMnAl合金、MnBi合金が形成され、磁性特性が強磁性に変化する。
また、光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化する多層膜としては、CrOとCrを多層膜にしたもの、またはFeとCrを多層膜にしたものが例示される。この場合、CrOとFeが強磁性であるため、CrOとCrの多層膜、またはFeとCrの多層膜は、強磁性である。しかし、光照射により加熱することで、CrOとFeの結晶構造が崩れ非磁性となる。
光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化する多層膜は、他にもCrOまたはFeのうち少なくとも1つと、V、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Re、Ir、Pd、Ptの中から選択される金属単体またはこれらの金属単体同士の合金のうち少なくとも1つとの組み合わせにより形成してもよい。
CrやV等の金属単体またはその合金は強磁性層を磁気的につなげるための層として機能する。
このような変化は、物理的、化学的変化を伴うものであり、非可逆的である。よって、いったん情報が記録されると書き換えはできなくなる。
なおここで、強磁性とは、フェロ磁性のみならずフェリ磁性も含む意味であるものとする。
【0028】
また、強磁性−非磁性間の磁性特性の変化を行うため、他の磁性特性の変化、例えば、硬磁性−軟磁性間の磁性特性の変化に比べ、より微少な磁気状態の変化をとらえやすくなる。このためより高密度化が容易である。
【0029】
図5は、硬磁性−軟磁性間の磁性特性の変化を利用した追記型情報記録媒体の概略断面図である。
図5に示した追記型情報記録媒体50は、基板51、Fe−O層52、Fe層53、Pt層54、及び保護層55を順次積層した構造を有する。
この追記型情報記録媒体50の記録層はFe層およびPt層であり、この状態では、磁気特性として軟磁性を示す。しかし光照射等による加熱によりこの2つの層間の相互拡散が進行し、FePt合金が形成される。このFePt合金は硬磁性を示す。そしてこの変化は非可逆的であるので、上記構造を採ることで、追記型情報記録媒体が作製できる。本実施の形態の追記型情報記録媒体40との違いは、本質的には、強磁性−非磁性間の磁性特性の変化を利用するか、硬磁性−軟磁性間の磁性特性の変化を利用するかの違いである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
追記型情報記録媒体として、図4に示した構造のものを作製した。基板41には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状の結晶化ガラス基板を用いた。
基板41上に、SiN層42、Al層43、記録層44を順次形成した。各層はいずれもDCスパッタ法で作製を行った。SiN層42は、ArとNの混合ガスをスパッタガスとして用い、その他の層はArガスをスパッタガスとして用いた。
各層の膜厚は、SiN層42を10nm、Alヒートシンク層43を10nmとした。記録層44として、Mn/Alの多層膜を用いた。Mn層とAl層の各々の厚さは各々1.5nmとし、積層周期は4周期とした。
そして、記録層44上に、保護層45として、カーボン保護層をガス圧0.5PaのArガス中でスパッタ法により2nm形成した。
【0032】
(実施例2)
記録層44として、CrO/Crの多層膜を用い、CrO層とCr層の各々の厚さはそれぞれ1.5nm、0.5nmとした以外は実施例1と同様にして、追記型情報記録媒体の作製を行った。
【0033】
(比較例)
追記型情報記録媒体として、図5に示した構造のものを作製した。基板51には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状の結晶化ガラス基板を用いた。
基板51上に、Fe−O層52、Fe層53、Pt層54を順次形成した。各層はいずれもDCスパッタ法で作製を行った。Fe−O層52は、ArとOの混合ガス中でFeターゲットをスパッタすることにより形成し、Fe層53とPt層54のスパッタはArガス中で行った。Fe−O層52、Fe層53およびPt層54のスパッタ時のガス圧は0.9Paとした。
各層の膜厚は、Fe−O層52を3nm、Fe層53とPt層54は各々3nmとした。
そしてPt層54上に、保護層55として、カーボン保護層をガス圧0.5PaのArガス中でスパッタ法により2nm形成した。
【0034】
[評価]
次に、上記追記型情報記録媒体の記録、再生特性を評価した。
実施例1、実施例2、及び比較例で作製した追記型情報記録媒体の保護層上に1nmの厚さの潤滑剤を塗布した後、これらの追記型情報記録媒体(ディスク)を、図1〜図3で説明した情報記録装置、情報再生装置内に装着して記録、再生特性を評価した。
情報記録装置に用いられる近接場光は、レーザとして波長780nmを発生する半導体レーザを用い、Planar型のヘッドに照射して近接場光を発生させ、光照射部21から照射を行った。
また、記録ヘッド22は、トレーリングシールド付で、トレーリングシールドギャップ長Gts=35nm、トラック幅Tw=70nm−100nm、磁束密度2.4Tのものを使用し、リング型ヘッド構造を採用した。
そして、磁気抵抗効果素子31は、トラック幅Twr=60nm、再生ギャップGs=50nm、MR(磁気抵抗)比=13%のものを使用し、スピンバルブ型磁気抵抗効果膜を一対の磁気シールド膜で挟んだ構造を有したものを採用した。この磁気抵抗効果素子31は、直下の記録ビットから漏れる磁束を検出することができる。
【0035】
情報の記録は、光照射部21へのレーザの投入パワーを80mwに固定し、線記録密度を500kFCIから1200kFCIまで変化させながら行い、近接場光を照射後に、記録ヘッド22で一方向に磁場を印加した。
情報の再生は、再生ヘッドにより出力を測定した。スペクトルアナライザを用いて、出力を周波数解析し、記録線記録密度に相当する周波数での出力をキャリア(C)、ベース値をノイズ(N)、キャリアとノイズの比をC/N比と定義して、電気信号特性を評価した。
【0036】
図6は、以上のようにして評価した線記録密度とC/N比との関係をまとめた図である。
全ての線記録密度において、実施例1及び実施例2の方が比較例よりもC/N比が高いことが分かる。
【0037】
また、近接場光を照射した前後の媒体の違いを調べるため、ビット長40nm、ビットスペース80nmのビットパターンを記録し、MFM(Magnetic Force Microscopy:磁気力顕微鏡)観察を行った。
その結果、実施例1の場合、ビット形成部のみから磁束が発生するために、コントラストの強い像が得られた。また、実施例2の場合は実施例1と異なり、ビット形成部で磁束が弱く、ビット非形成部で磁束が強く観測される像が得られた。一方、比較例の場合、ビット形成部でコントラストの強い磁束が検出される一方で、記録されていない領域であるビット未形成部は斑模様の磁区構造が観測された。
【0038】
これは、例えば、実施例1の場合、ビット形成部のみが強磁性であるのに対し、比較例の場合には、ビット形成部は硬磁性、ビット非形成部は軟磁性であることによるためと考えられる。つまり、比較例の場合は、ビット非形成部の磁化は面内に配向しており、かつ、ランダムに磁化は向いている。この状態をMFMで観察すると、面内に磁化が揺らいだ領域の中に、一方向に磁化が向いている領域(ビット)が存在する状態になる。
このような理由により、線記録密度を上げていくと、ビット間のこの磁化が揺らいだ成分の影響が相対的に強くなってくるため、比較例の場合、C/N比が実施例の場合と比べて劣化すると考えられる。一方、実施例1及び2においては、強磁性と非磁性の違いを読み取るため、比較例に比べて、C/N比が向上するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施の形態が適用される情報記録装置および情報再生装置の要部を説明した図である。
【図2】本実施の形態が適用される情報記録装置におけるヘッド部の構造を説明した図である。
【図3】本実施の形態が適用される情報再生装置におけるヘッド部の構造を説明した図である。
【図4】本実施の形態が適用される追記型情報記録媒体の概略断面図である。
【図5】硬磁性−軟磁性間の磁性特性の変化を利用した追記型情報記録媒体の概略断面図である。
【図6】線記録密度とC/N比との関係をまとめた図である。
【符号の説明】
【0040】
11…スピンドル部、12…ヘッド部、13…ヘッド駆動部、21…光照射部、22…記録ヘッド、31…磁気抵抗効果素子、32…磁気シールド層、40,50…追記型情報記録媒体、41,51…基板、42…SiN層、43…Alヒートシンク層、44…記録層、45,55…保護層、52…Fe−O層、53…Fe層、54…Pt層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された記録層と、を有し、
前記記録層は、光照射により磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または光照射により磁気特性が強磁性から非磁性に変化することを特徴とする追記型情報記録媒体。
【請求項2】
前記記録層は、金属、合金または金属化合物からなる多層膜により形成されることを特徴とする請求項1に記載の追記型情報記録媒体。
【請求項3】
前記多層膜の構造が前記光照射により崩れることで、磁気特性が非磁性から強磁性に変化、または磁気特性が強磁性から非磁性に変化することを特徴とする請求項2に記載の追記型情報記録媒体。
【請求項4】
前記多層膜は、Mn/AlまたはMn/Biのいずれか1つの組み合わせにより形成されることを特徴とする請求項2に記載の追記型情報記録媒体。
【請求項5】
前記多層膜は、CrOまたはFeのうち少なくとも1つと、V、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Re、Ir、Pd、Ptの中から選択される金属単体または当該金属単体同士の合金のうち少なくとも1つとの組み合わせにより形成されることを特徴とする請求項2に記載の追記型情報記録媒体。
【請求項6】
追記型情報記録媒体に近接場光を照射する光照射部と、
磁界を印加し記録を行う記録ヘッドと、
前記追記型情報記録媒体を駆動する情報記録媒体駆動部と、
前記記録ヘッドを駆動するヘッド駆動部と、を備え、
前記光照射部は、前記近接場光の照射により前記追記型情報記録媒体の記録層の磁気特性を非磁性から強磁性に変化、または磁気特性を強磁性から非磁性に変化させ、
前記記録ヘッドは、前記記録層の強磁性を有する箇所の磁気の向きを一定方向にそろえることで情報の記録を行うことを特徴とする情報記録装置。
【請求項7】
前記光照射部により前記近接場光が照射される追記型情報記録媒体の前記記録層は、金属、合金または金属化合物からなる多層膜により形成され、
前記光照射部は、前記近接場光の照射により前記多層膜の構造を崩すことで、前記追記型情報記録媒体の磁気特性を非磁性から強磁性に変化、または磁気特性を強磁性から非磁性に変化させることを特徴とする請求項6に記載の情報記録装置。
【請求項8】
追記型情報記録媒体に記録された情報を読み取る再生ヘッドと、
前記追記型情報記録媒体を駆動する情報記録媒体駆動部と、
前記再生ヘッドを駆動するヘッド駆動部と、を備え、
前記再生ヘッドは、前記追記型情報記録媒体の記録層の強磁性を有する箇所と非磁性を有する箇所との磁界の差異を読み取ることで情報の再生を行うことを特徴とする情報再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−299910(P2008−299910A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142214(P2007−142214)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】