説明

送り装置

【課題】送り装置の案内装置と送り駆動部の異常を損傷する前に検知できる送り装置を提供する。
【解決手段】送り装置1の送り台5に振動検知センサ8を設け、送り台5の走行方向に加振し、そのときの送り台5の減衰性を振動検知センサ8の出力から演算し測定する。送り台5の減衰性は案内装置と送りねじ7の相対運動部の潤滑剤の量の変動や接触力の変動により変化するので、測定した減衰性とあらかじめデータ化した正常時の減衰性を比較し、あらかじめ定めた所定の値以上に減衰性が変動した場合に案内部もしくは駆動部の異常と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送り装置に関するものであり、詳しくは送り装置の案内装置と送り位置決め装置の潤滑剤の減少などに起因する損傷の防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業機械においては各種装置の運動に送り装置が使用されている。送り装置にはトラックレールとケーシング間に転動体を配置した転がり型の直線運動軸受が、高速送り時の運動抵抗が低いため送り装置の案内として使用されている。送り装置の案内が完全に破損すると送り装置が逸走する恐れがあるため、損傷を検知し、対応を取ることが行われている。直線運動軸受の損傷検知として損傷による構造物の破片を検知する従来技術1(例えば、特許文献1参照)やAE信号を検知する従来技術2(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−92204号公報
【特許文献2】特開2004−263775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、軸受が破損した後の破損片を検知するものであり、従来技術2では破損の初期段階に発生するAE波の増大を検知するものであり、いずれもある程度の破損現象が発生した状態変化を検知する方法であり損傷を完全には防止できない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、破損の主要因となる潤滑剤の不足や相対運動部の接触状態の変化を検知して破損を未然に防止できる送り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、案内装置により回転を伴わない直線運動である並進運動が可能に保持された送り台と、
前記送り台の並進運動方向の位置を定める位置決め手段と、
前記送り台の並進運動方向の振動の減衰性を測定する減衰性測定手段と、
測定された減衰性の値が正常時の前記送り台の減衰性より所定の値以上変化したことにより異常を判定する判定手段とを備えたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記案内装置がトラックレールと、
前記トラックレールと直線的に相対運動可能なケーシングと、
前記トラックレールと前記ケーシングの間で転動可能な転動体とにより構成された直線運動用転がり軸受であることである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記位置決め手段が送りねじと、
前記送りねじを駆動するアクチュエータとにより構成されたことである。
【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項3に係る発明において、 前記アクチュエータを所定の時間駆動することで前記送り台を加振して前記減衰性を測定することである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記減衰性測定手段が前記送り台に設けた振動検出センサと、
前記振動検出センサの出力を用いて減衰性を演算する演算手段とにより構成されたことである。
【0010】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項5に係る発明において、前記減衰性を対数減衰率により演算することである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、案内装置の相対運動部の接触状態と位置決め手段の相対運動部の接触状態により変化する、送り装置の振動の減衰性を計測可能である。現在の減衰性の計測値とあらかじめ計測した正常時の減衰性の計測値を比較することで、案内装置の相対運動部の接触状態と位置決め手段の相対運動部の接触状態の異常を検知できる。減衰性による評価は検出機器の出力特性が変動しても影響を受けないので、検出機器の出力特性が変動した場合にも抵抗力の絶対値比較のような誤差が発生しない。そのため、信頼性の高い異常検出が可能である。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、トラックレールとケーシング間の転動体の接触圧力変動や転動体部の潤滑剤の減少などの変化を減衰性の変動で検知でき、簡易な構成で直線運動用転がり軸受の相対運動部の接触圧力、潤滑状態等の異常を検知できる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、送りねじの相対運動部の接触圧力変動やの潤滑剤の減少などの変化を減衰性の変動で検知でき、簡易な構成で送りねじの相対運動部の接触圧力、潤滑状態等の異常を検知できる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、特別な加振装置を付加することなく減衰性測定時の加振ができ安価に減衰性の測定ができる。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、検出された振動から各種の演算方法により各種の減衰性の値を求めることが可能で、最適な減衰性の評価ができる。
【0016】
請求項6に係る発明によれば、送り台の振動振幅の連続する振幅を比較することで減衰性の演算を行うので,減衰率を簡単で短時間に演算可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の送り装置を示す概略図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】本実施形態の直線運動用ころ軸受を示す概略図である。
【図4】本実施形態の振動減衰性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図4に基づき本発明の実施の形態を説明する。
図1、図2に示すように、送り装置1はベッド2上にトラックレール3とケーシング4で構成される直線運動用ころ軸受10を備え送り台5を移動可能に支持する。送り台5は送りモータ6で駆動される送りねじ7により前後方向に送られる。送り台5の前面には振動検出センサ8を設置し、検出出力を制御装置20に転送する。ここで、振動検出センサ8はケーシング4に設置してもよい。
制御装置20の機能的構成として、送り台5の送りを制御する送り台制御手段201、減衰性を演算する演算手段202、減衰性の比較により異常判定を行う判定手段203、判定結果を外部に出力する異常表示手段204などを具備している。
【0019】
直線運動用ころ軸受10の詳細構造は、図3に示すようにトラックレール3の両側面にV字状軌道溝11を配置し、内側にV字状軌道溝12を配置した鞍形のケーシング4の内部にV字状軌道溝12と結合した円筒ころ14の無限循環路15を形成したケーシング4を備えている。V字状軌道面11とV字状軌道面12により予圧を付与された円筒ころ14が転動軸を直交するように交互に配置されている。直線運動用ころ軸受10のV字状軌道面11とV字状軌道面12に囲まれた領域には図示しない潤滑用のグリスが充填されている。円筒ころ14がV字状軌道面11とV字状軌道面12で構成される軌道を転動することでケーシング4を直線運動可能に保持している。
本実施例の送りねじ7はボールねじであり、ねじ軸とナットの間にボールを循環させる構造であり、ボールはねじ軸とナットにより予圧を与えられており、ボール循環部にはグリスが充填されている。
【0020】
減衰性の測定により送り装置の異常を検出できるのは以下の原理による。直線運動用ころ軸受10の減衰性に影響を与える抵抗はグリスの粘性抵抗と円筒ころの転がり抵抗である。グリスの粘性抵抗はグリスの充填量により変動しグリスが減少すると抵抗が小さくなる、結果として減衰性は低下する。円筒ころの転がり抵抗は円筒ころに加わる負荷により変動し負荷が小さくなると抵抗が小さくなる、結果として減衰性は低下する。このことから、減衰性の変動を検出することでグリス量の減少や円筒ころ転動部の磨耗による予圧量の減少を検知でき、減少量が所定の値を越えた場合に異常として検知できる。
同様に、送りねじ7も減衰性の変動を検出することでボール循環部のグリス量の減少やボール転動部の磨耗による予圧量の減少を検知でき、減少量が所定の値を越えた場合に異常として検知できる。
【0021】
減衰性は以下のように測定される。送り台5を静止させた状態で、送りねじ7を送りモータ6で所定の時間(通常1秒以下)駆動した後静止させることで、送り台5の送り方向に衝撃荷重を与え送り台5を振動させる。同時に振動検出センサ8で振動の検出を始める、振動検出センサ8は送り装置1の可動部の質量と送りねじ7部のばね定数で決まる周波数の固有振動を検出する。この振動は、トラックレール3とケーシング4間の接触部と送りねじ7のナット(図示せず)との接触部の摩擦抵抗により、図4に示すように時間と共に減衰し振幅が小さくなる。
ここで、振動検出のため送りモータ6を所定の時間駆動することで送り台5を加振したが、ハンマーによる打撃など別の手段で加振してもよい。
【0022】
減衰性は演算手段202により以下のように演算される。図4に示すようにn番目の振動の振幅Xとn+1番目の振動の振幅Xn+1を比較することで対数減衰率Δを演算する。演算式はΔ=log(X/Xn+1)を用いる。
ここで、対数減衰率で減衰性を演算したが、半値幅法による損失係数の演算や、インピーダンス法による損失係数の演算を用いてもよい。
いずれの減衰性の評価も、同一測定データの振動特性の違いから減衰性を判定するので経年や環境変動による検出機器の出力特性変動の影響を受けにくく、抵抗力の比較のような誤差が発生しない。具体的には、対数減衰率の場合は対数減衰率Δ=log(X/Xn+1)であり、同一振幅に対する検出出力がA倍変動した検出センサによる検出値を使用してもΔ=log(A・X/(A・Xn+1))=log(X/Xn+1)となり減衰率は同じで誤差を発生しない。
一方、抵抗力による評価では正常時の抵抗力Pは検出出力がA倍変動した検出センサで計測すると同一抵抗力でもA・PとなりA倍の誤差が発生する。
【0023】
送り装置1の異常は判定手段により以下のように判定される。正常な状態の送り装置1の対数減衰率Δを上記の方法で測定してその値を判定手段203の内部に記録しておく。異常判定のために測定した対数減衰率Δと正常時の対数減衰率Δを比較し所定の値Kを越える変動が起きた場合に異常と判定する。判定の方法としては|Δ−Δ|≧Kで異常判定、|(Δ−Δ)/Δ|≧Kで異常判定、Δ/Δ≧K1またはΔ/Δ≦K2で異常判定、などを適宜選択すればよい。Kの値は送り装置1に損傷が発生する変動の値より安全な側の値を設定しておく。
異常判定がなされた場合は、異常表示手段に異常表示をし、送り装置の運転を終了するなどのあらかじめ定められた異常処置を実行する。
【0024】
以上の説明では、案内装置にクロスローラ型の直線運動用ころ軸受10を用い、位置決め手段にボールねじ型の送りねじ7を用いた事例について述べたが、これ以外の転がり直線運動用ころ軸受を用いた案内装置や位置決め手段にも適用できる。また、流体軸受型の直線運動用軸受にも適用できる、この場合は軸受部の浮き上がりの低下にともなう固体接触による摩擦力の増大に伴う減衰性の増大で異常を検知できる。
送りねじを静圧送りねじとした場合も、ねじ軸に対するナットの浮き上がりの低下にともなう固体接触による摩擦力の増大を、減衰性の増大で検知できる。
位置決め手段はリニアモータでもよい、この場合は案内装置の減衰性の変化をより正確に検出可能となる。
また、本実施例では1個の振動検出センサ8を送り台5に備えているが、送り装置の可動部に複数の振動検出センサ8を備えて、各部の減衰性を各々比較することでより詳細な異常検知をしてもよい。
本送り装置を組み込んだシステムの場合は、制御装置20の機能をシステムの制御装置に合体させて、一体として制御装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1:送り装置 3:トラックレール 4:ケーシング 5:送り台 7:送りねじ 6:モータ 8:振動検出センサ 10:直線運動用ころ軸受 20:制御装置 201:送り台制御装置 202:演算手段 203:判定手段 204:異常表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内装置により回転を伴わない直線運動である並進運動が可能に保持された送り台と、
前記送り台の並進運動方向の位置を定める位置決め手段と、
前記送り台の並進運動方向の振動の減衰性を測定する減衰性測定手段と、
測定された減衰性の値が正常時の前記送り台の減衰性より所定の値以上変化したことにより異常を判定する判定手段とを備えた送り装置。
【請求項2】
前記案内装置がトラックレールと、
前記トラックレールと直線的に相対運動可能なケーシングと、
前記トラックレールと前記ケーシングの間で転動可能な転動体とにより構成された直線運動用転がり軸受である請求項1記載の送り装置。
【請求項3】
前記位置決め手段が送りねじと、
前記送りねじを駆動するアクチュエータとにより構成された請求項1もしくは請求項2のいずれかに記載の送り装置。
【請求項4】
前記アクチュエータを所定の時間駆動することで前記送り台を加振して前記減衰性を測定する請求項4記載の送り装置。
【請求項5】
前記減衰性測定手段が前記送り台に設けた振動検出センサと、
前記振動検出センサの出力を用いて減衰性を演算する演算手段とにより構成された請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の送り装置。
【請求項6】
前記減衰性を対数減衰率により演算する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の送り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−226956(P2011−226956A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97878(P2010−97878)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】