説明

送信機及び送受信機

【課題】高調波および相互変調歪みの発生を抑圧しつつ、複数の無線帯域の信号を送信する送信機及び送受信機を提供する。
【解決手段】複数の無線周波数帯域の信号を送信する送信機であって、バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減するための歪み補償部と、前記歪み補償部から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部と、無線帯域のマルチバンド信号を増幅する増幅器とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線帯域を用いて通信を行う送信機及び送受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の用途が高度かつ多様化するのにしたがって、複数の周波数の信号を送信及び受信できる送受信機への要求がある。このような送受信機では無線帯域のマルチバンド化または広帯域化が必要である。
【0003】
しかしながら、対応する無線帯域が広帯域化することから、ある無線帯域の信号の高調波や、複数の無線帯域信号の相互変調歪み、送信ミキサで発生するスプリアスなどの不要波が、他の無線帯域の信号の干渉成分となるという問題がある(図7、図8)。
図7において、fとf(f≧2fである)の所望信号を同時に送信しようとした場合において、増幅器において2f、3fの高調波が発生し、3fがfと同じ周波数帯である場合には、干渉が生じる。
また、図8において、f、f、fの所望信号を同時に送信しようとした場合、増幅器において2f−f、2f−fの相互変調歪みが発生し、2f−fがfと同じ周波数帯である場合には、干渉が生じる(ただし、f<f<・・・<f<・・・<fであり、f≧2f−fであり、iは3以上の整数である)。
【0004】
従来、このような高調波や送信ミキサで発生するスプリアスを除去するためには、SAW(表面弾性波)フィルタや誘電体フィルタ、導波管フィルタなどの無線帯域のバンドパスフィルタが使われている。
【0005】
しかしながら、例えば300MHz帯と900MHz帯の信号を同時に送信しようとした場合、送信用増幅器の非線形性により、300MHz帯の3倍波の高調波が900MHz帯に生じる場合がある。このような場合は、900MHz帯の信号も送信する必要があるため、無線周波数帯の300MHz帯を通すバンドパスフィルタを使用して抑圧することができない。
【0006】
また、例えば300MHz帯と900MHz帯の信号を同時に送信しようとした場合、送信用増幅器の非線形性により、600MHz帯や1200MHz帯に2次の相互変調歪みや1500MHz帯に3次相互変調歪みが生じる場合がある。マルチバンド送信機が600MHz帯、1200MHz帯、1500MHz帯の信号も送信する必要がある場合、上記と同様に無線周波数帯のバンドパスフィルタを使って相互変調歪みを抑圧することができない。
【0007】
よって、マルチバンドを同時に送信する送信機及び送受信機においては、バンドパスフィルタを使うのでは無く、高調波や相互変調歪みの発生そのものを抑圧する必要がある。
【0008】
増幅器で発生する高調波や相互変調歪みを抑圧する方法の1つとして、増幅器の出力飽和電力に対し十分に低い電力の信号のみを出力する方法(線形領域での動作)があるが、増幅器の電力効率が低くなるという課題がある。
【0009】
また、増幅器で発生する高調波や相互変調歪みを抑圧する他の方法として、デジタル前置補償型歪み補償方法、アナログ前置補償型歪み補償方法、フィードバック型歪み補償方法、フィードフォワード型歪み補償方法などの歪み補償技術がある(非特許文献1から4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−123456号公報
【特許文献2】特開2000−234567号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】野島,岡本,大山:「マイクロ波SSB−AM方式用プリディストーション非線形ひずみ補償回路」,電子通信学会論文誌, Vol. J67-B No. 1, pp.78-85, 1984.
【非特許文献2】J.C. Pedro, J. Perez,”An MMIC linearized amplifier using active feedBack,” IEEE Microwave and Millimeter-Wave Monolithic Circuits Symp. Dig., pp.113-116, 1993.
【非特許文献3】S. Andreoli, H.G. McClure, P. Banelli, S. Cacopardi, “Digital linearizer for RF amplifiers,” IEEE Trans. on Broadcasting, vol.43, 1, pp.12-19, 1997.
【非特許文献4】H. Seidel, “A feedforward experiment applied to an L-4 Carrier System Amplifier”, IEEE Trans. on Communication Technology, Vol.COM-19, No.3, pp.320-325, June 1971.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した歪み補償技術は、ある1つの送信帯域と同じ帯域内に生じる相互変調歪みを低減することを目的としており、他の周波数帯域に生じる高調波や相互変調歪みを低減するものではない。
従って、複数の無線帯域を用いて通信を行う送信機及び送受信機に関しては、他の周波数帯域に生じる高調波や相互変調歪みに対しても、発生を抑制させる必要がある。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、高調波および相互変調歪みの発生を抑圧しつつ、複数の無線帯域の信号を送信する送信機及び送受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する送信機であって、バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減するための歪み補償部と、前記歪み補償部から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部と、前記DAC部から出力されるアナログ信号を無線帯域に周波数変換する周波数変換器と、前記無線帯域のマルチバンド信号を増幅する増幅器とを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する送信機であって、バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減するための歪み補償部と、前記歪み補償部から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部と、前記DAC部から出力されるアナログ信号を無線帯域に周波数変換する周波数変換器と、前記無線帯域のマルチバンド信号を増幅する増幅器と、を有し、前記歪み補償部は、前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みが生じるバンドにおいて、当該高調波および当該相互変調歪みの逆特性となる信号を付加することによって、歪み補償を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する送信機であって、バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減するための歪み補償部と、前記歪み補償部から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部と、前記DAC部から出力されるアナログ信号を無線帯域に周波数変換するM(Mは2以上の整数)個の周波数変換器と、前記M個の周波数変換器の出力を合成する合成器と、前記合成器から出力される無線周波数帯域の信号を増幅する増幅器とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する送信機であって、バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部の信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減するための歪み補償部と、前記歪み補償部から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部と、前記DAC部から出力されるアナログ信号を無線帯域に周波数変換するM(Mは2以上の整数)個の周波数変換器と、前記M個の周波数変換器の出力を合成し、L個の出力に分配する分配合成器と、前記分配合成器のL個の出力が、無線周波数帯域の信号を増幅するL個の増幅器に各々対応して接続されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上述の送信機において、前記バンド1からバンドNのうち第1のバンドに起因する高調波または相互変調歪みの補償信号を、第1のバンドに対応した周波数変換器を経由して付加する、または、前記バンド1からバンドNのうち前記第1のバンドとは異なるバンドである第2のバンドに対応した周波数変換器を経由して付加することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上述の送受信機において、ある帯域の送信信号部の出力を受信し、受信した信号の結果をもとに、歪み補償部の調整を行う受信回路部を有することを特徴とする。この構成により、受信回路部においてある帯域の送信信号部の出力をモニタし、歪み補償部の調整を行う。
【0020】
本願発明では、増幅器の非線形性に対応する逆特性を用いて、各バンドの送信信号に対してプリディストーションを処理しておくことによって、干渉波による歪みを補償する。特に、例えば、300MHz帯の信号による3次歪みの高調波を300MHz帯の信号に対して処理を施すのではなく、被干渉となる帯域である900MHz帯において生じる干渉波を推定して歪補償を行う。これにより、被干渉となる帯域に入ってくる高調波又は相互変調歪みのみを抑圧すればよいという効果が生じる。換言すると、干渉を与える高調波又は相互変調歪み以外を処理の対象とする必要がないため、効率的に干渉除去を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、この発明によれば、複数の無線信号を同時に送信した場合においても、高調波や相互変調歪みが低減され、低スプリアスの送信信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による送受信機の構成を示す構成図である。
【図2】第2実施形態における送受信機の構成を示す構成図である。
【図3】第3実施形態における送受信機の構成を示す構成図である。
【図4】第4実施形態における送受信機4の構成を示す構成図である。
【図5】第5実施形態における送受信機の構成を示す構成図である。
【図6】第6実施形態における送受信機6の構成を示す構成図である。
【図7】マルチバンドの増幅器で発生する高調波と所望信号の干渉を説明する図である。
【図8】マルチバンドの増幅器で発生する相互変調歪みと所望信号の干渉を説明する図である。
【図9】従来の前置補償型歪み補償方法で使われている手法を示す図である。
【図10】不要波が生じる場合について説明する図である。
【図11】不要信号を抑える場合を説明する図である。
【図12】本発明の一実施形態による送受信機の構成を示す構成図である。
【図13】本発明の一実施形態による送受信機の構成を示す構成図である。
【図14】図5における送受信機5の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態による送受信機について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態による送受信機の構成を示す構成図である。
この図において、送受信機1は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する機能と受信機能とを有する。
信号生成部10は、バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する。この時点では信号成分は0、1、1・・・のデジタルデータである。信号生成部10は、歪み補償部11に接続される。
【0024】
歪み補償部11は、信号生成部11から出力される信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減する。この歪み補償部11では、信号生成部10から出力される信号を、送信用高出力増幅器が持つ非線形特性の逆特性となる信号に変換する。
【0025】
次に、図9に前置補償型歪み補償方法で使われている手法を示す。
図9(b)に示すように、一般に無線帯域の高出力増幅器は、入力電力が増加し飽和領域に近づくと、利得が低下し非線形な入出力特性となる。非線形な入出力特性は周波数スペクトルでみた場合、図10に示すように相互変調歪みなどの不要波(2f−f、2f−f)を生じ、他のバンドへの干渉成分となる。このような不要信号を抑えるため、アナログやデジタルの前置型歪み補償装置(図9(a))を用いることにより、図9(c)に示すように、増幅器の入出力特性の補償を行う。この前置型歪み補償装置の出力をスペクトラムで見ると、図11に示すように、不要波と逆位相となる信号を付加し、増幅器へ出力している。同図において、補償された増幅器からの出力をスペクトラムで見ると、不要信号が抑えられていることがわかる。
【0026】
ここで、上述の前置型歪み補償装置では、信号と同じ帯域内に生じる相互変調歪み成分を抑圧しているが、本実施形態及び以降の実施形態における歪み補償部11では、信号と同じ帯域内に生じる相互変調歪みだけでなく、他のバンドに生じる任意の高調波や相互変調歪みをバンドごとに推定して歪み補償部11において予め補償する点が従来と異なる。
【0027】
図1に戻り、DAC部12は、歪み補償部11から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。増幅部13は、DAC部12の後段に接続され、無線帯域のマルチバンド信号を増幅する。この増幅部13の出力信号においては、任意の高調波や相互変調歪みの出力が低減されている。アンテナ14は、増幅部13から出力されたマルチバンド信号を無線によって送信する。
【0028】
(第2実施形態)
次に、図2を参照し、第2実施形態における送受信機の周波数変換について説明する。
図2は、第2実施形態における送受信機の構成を示す構成図である。この図において、送受信機2は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する機能と受信機能とを有する。信号生成部21は、バンド1からバンドNまでの信号を生成する。
【0029】
歪み補償部22は、信号生成部21から出力される信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減する。DAC部23は、歪み補償部22から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。周波数変換部24は、DAC部23から出力されたアナログ信号を無線帯域に周波数変換する。増幅部25は、周波数変換部24の出力のうち、無線周波数帯域のマルチバンド信号を増幅する、アンテナ26は、増幅部25から出力されたマルチバンド信号を無線によって送信する。
【0030】
ここで、図1に示す送受信機1と異なる点は、周波数変換器(周波数変換部24)が構成に加えられている点である。周波数変換器を用いることで、信号処理部(図示せず)や、DAC部23の処理負荷を低減している。また、マルチバンドのRF(Radio Frequensy)信号を1つの周波数変換器で実現することができる。
【0031】
(第3実施形態)
次に、図3を参照し、第3実施形態における送受信機について説明する。
図3は、第3実施形態における送受信機の構成を示す構成図である。この図において、送受信機3は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する機能と受信機能とを有する。信号生成部31は、バンド1からバンドNまでの信号を生成する。
【0032】
歪み補償部32は、信号生成部31から出力される信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減する。DAC部33は、歪み補償部32から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。周波数変換部34は、DAC部33の出力にM(Mは2以上の整数)個設けられ、それぞれの周波数変換部34がDAC部33から出力されたアナログ信号を無線帯域に周波数変換する。ここでは、M個ある周波数変換部34のそれぞれが、異なるバンドの周波数変換を行うことで、バンド毎の周波数変換が行われる。合成部35は、M個の周波数変換器34の出力を合成する。この合成部35は、合波器を用いてもよい。増幅部36は、合成部35から出力される無線周波数帯域の信号を増幅する。アンテナ37は、増幅部36から出力される信号を無線によって送信する。
【0033】
ここで、図2に示す送受信機2と異なる点は、複数の周波数変換器(周波数変換器34〜周波数変換器34M)を用いて、バンド毎に周波数変換を行うように構成した点である。バンド毎に周波数変換器を用いることで、バンド毎に不要波の発生を抑圧している。
【0034】
(第4実施形態)
次に、図4を参照し、第4実施形態における送受信機について説明する。
図4は、第4実施形態における送受信機4の構成を示す構成図である。この図において、送受信機4は、複数の無線周波数帯域の信号を送信する機能と受信機能とを有する。信号生成部41は、バンド1からバンドNまでの信号を生成する。
【0035】
歪み補償部42は、信号生成部41から出力される信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減する。DAC部43は、歪み補償部42から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。周波数変換部44は、DAC部43の出力にM個設けられ、それぞれの周波数変換器44が、DAC部43から出力されたアナログ信号を無線帯域に周波数変換する。ここでは、M個ある周波数変換部44のそれぞれが、異なるバンドの周波数変換を行うことで、バンド毎の周波数変換が行われる。
【0036】
分配合成部45は、M個の周波数変換部44の出力を合成し、L(Lは2以上の整数)個ある後段の増幅部46へ分配して出力する。増幅部46は、分配合成部45の出力にL個設けられ、分配合成部45からのL個の出力が、それぞれ対応するL個の増幅部46に接続されており、それぞれの増幅部46が、無線周波数帯域の信号を増幅する。アンテナ47は、L個のアンテナ47が、L個ある増幅部46の出力にそれぞれ1つずつ設けられ、対応する増幅部46から出力される信号を無線によって送信する。
【0037】
ここで、図3に示す送受信機3と異なる点は、複数の増幅器およびアンテナを用いて、アレーアンテナやMIMO(Multiple Input Multiple Output)などの複数アンテナ方式に対応するように構成されている点である。
【0038】
(第5実施形態)
次に、図5を参照し、第5実施形態における送受信機について説明する。
図5は、第5実施形態における送受信機の構成を示す構成図である。信号生成部51は、バンド1からバンドNまでの信号を生成する。
【0039】
歪み補償部52は、信号生成部31から出力される信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減する。DAC部53は、歪み補償部52の出力にP(Pは2以上の整数)個設けられ、それぞれのDAC部53が、歪み補償部32から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。周波数変換部54は、P個の設けられており、P個のDAC部53に、それぞれ1つずつ接続され、周波数変換部54がDAC部53から出力されたアナログ信号を無線帯域に周波数変換する。ここでは、P個ある周波数変換部54のそれぞれが、異なるバンドの周波数変換を行うことで、バンド毎の周波数変換が行われる。
【0040】
合成部55は、P個の周波数変換部54の出力を合成する。この合成部55は、合波器を用いてもよい。増幅部56は、合成部55から出力される無線周波数帯域の信号を増幅する。フィルタ部57は、増幅部56から出力される信号をアンテナ58に出力する。アンテナ58は、フィルタ部57から出力される信号を無線によって送信する。
【0041】
ここで、第3実施形態、第4実施形態と異なる点は、歪み補償部52が、あるバンドAに起因する高調波または相互変調歪みの補償信号を
(a)バンドAに対応した周波数変換器を経由して付加する
(b)バンドM(M≠A)に対応した周波数変換器を経由して付加する
のいずれかを行う点である。
【0042】
例えば、300MHz帯のRF信号の8倍波を抑圧するための信号を、300MHz帯用の周波数変換器の経路で付加するか(上述の(a)の場合)、2.4GHz帯用の周波数変換器の経路で付加する場合(上述の(b)の場合)等、補償信号を加える経路を適宜選択して切り替えることが可能である。
【0043】
図14は、図5における送受信機5の動作を説明するフローチャートである。
送受信機5は、送信信号があると(ステップS10)、その複数信号で生じる高調波、相互変調歪みの周波数帯を計算し(ステップS11)、外付けフィルタでは除去できない周波数帯域であるか否かを判定する(ステップS12)。外付けフィルタでは除去できない場合、送受信機5は、どの周波数変換器を経由して付加するかを選択し(ステップS13)、選択された周波数変換器の周波数帯に応じて後段の歪み補償部によって補償信号を生成する(ステップS15)。一方、外付けフィルタで除去できる周波数帯域である場合、補償信号付加を行わない(ステップS14)。
【0044】
(第6実施形態)
次に、図6を参照し、第6実施形態における送受信機の周波数変換について説明する。
図6は、第6実施形態における送受信機6の構成を示す構成図である。この実施形態においては、送受信機6の受信回路部80において、ある帯域の送信信号部の出力を受信し、受信した信号の結果をもとに、歪み補償部62の調整を行う。信号生成部61、歪み補償部62、DAC部63、周波数変換部64(周波数変換部64M)は、図4における信号生成部41、歪み補償部42、DAC部43、周波数変換部44(周波数変換部44M)と同様の機能を有する。
【0045】
合成部65、増幅部66は、図3の合成部35、増幅部36の機能と同様である。分配部67は、増幅部66から出力される信号をアンテナ68と切替部69とに分配する。切り替え部69に分配された信号は、可変移相部70、可変減衰部71を介して受信回路部80の合成部75に供給される。アンテナ72は、送信される無線信号を受信する。
【0046】
受信回路部80は、スイッチ部73、LNA部74、合成部75、周波数変換部76、ADC部77、信号処理部78を有する。スイッチ部73は、アンテナ72によって受信した信号を、LNA部74を介して合成部75に供給する。合成部75は、可変減衰部71からの信号とLNA部74からの信号とを合成し、周波数変換部76に出力する。周波数変換部76は、合成部75から出力された信号を周波数変換し、ADC部77に出力する。ADC部77は、周波数変換部76から出力されるアナログの信号をデジタル信号にして信号処理部78に供給する。信号処理部78は、ADC部77から出力された信号を基に、歪み補償部62の調整を行う。
【0047】
歪み補償の方法としては、例えば、受信回路部で補償する歪み成分の電力を検出し、その歪み成分の電力を最小化するように送信回路部の歪み補償部のパラメータを調整する方法などが考えられる。この際に希望波の送信信号の電力が低下しないように、希望波の送信信号電力も検出し、「送信信号電力はある一定値以上となる範囲で、歪み成分電力は最小化する」、というアルゴリズムを用いる。
【0048】
このように、受信回路やクローズドループを用いることで、低減したい歪み成分をフィードバックして解析し、歪み補償の効果を安定化させることができる。
【0049】
図12は、本発明の一実施形態による送受信機の構成を示す構成図である。
この図における送受信機7は、信号源から供給される1.8GHzの信号を分周器(1/2)によって900MHzの信号を得てATT(減衰器)を介して周波数変換部に供給するとともに、分周器(1/6)によって300MHzの信号を得てATTを介して周波数変換部に供給する。増幅部から出力される信号は、マルチバンドフィルタを介してアンテナから無線信号として出力される。
【0050】
ここで、300MHz帯と900MHz帯の信号を同時に送信しようとした場合、送信用増幅器の非線形により、300MHz帯の3倍波の高調波が900MHz帯に生じる場合がある。この場合、900MHz帯の信号も送信する必要があるため、無線周波数帯の300MHz帯を通すバンドフィルタを使用して抑圧することができない。ここでは、図2の送受信機2の機能を用いて、歪み補償部によって、高調波の歪み発生を抑圧することができる。
【0051】
図13は、本発明の一実施形態による送受信機の構成を示す構成図である。
この図における送受信機8は、信号源から供給される4.8GHzの信号を分周器(1/16)によって300MHzの信号を得て第1の周波数変換部に供給するとともに、分周器(1/2)によって2.4GHzの信号を得て第2の周波数変換部に供給する。第1及び第2の周波数変換部から出力される信号は、合成部によって合成された後、増幅部、マルチバンドフィルタを介し、アンテナから無線信号として送信される。
ここで、300MHz帯と2.4GHz帯の信号を同時に送信しようとした場合、送信用増幅器の非線形により、相互変調歪みが生じる場合がある。ここでは、図3の送受信機3の機能を用いて、歪み補償部によって、相互変調歪みの発生を抑圧することができる。
【0052】
以上説明した第1〜第5実施形態においては、送受信機である場合について説明したが、図1〜図5のいずれかの機能を搭載した送信機として構成してもよい。
【0053】
また、上述した実施形態によれば、複数の無線信号を同時に送信した場合においても、高調波や相互変調歪みが低減され、低スプリアスの送信信号を得ることができる。これにより、増幅器などのハードウェアを複数の無線信号帯域で共用できるため、ハードウェアを簡易化することができる。
また、新しい無線帯域の追加が必要となった際に、高調波や相互変調歪みの新たな成分が問題となった場合でも、デジタル歪み補償回路部のソフトウェアの変更をすることで対応できる。高調波や相互変調歪みの発生そのものを抑圧するため、送信側のアナログRFフィルタを削減もしくは数や回路規模を減らすことができる。
【0054】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1、2、3、4、5、6 送受信機
10、21、31、41、51、61 信号生成部
11、22、32、42、52、62 歪み補償部
12、23、33、43、53、63 DAC部
13、25、36、46、56、66 増幅部
14、26、37、47、58、68、72 アンテナ
24、34、44、54、64、76 周波数変換部
35、55、65、75 合成部
45 分配合成部
57 フィルタ部
67 分配部
69 切替部
70 可変移相部
71 可変減衰部
73 スイッチ部
74 LNA部
77 ADC部
78 信号処理部
80 受信回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線周波数帯域の信号を送信する送信機であって、
バンド1からバンドN(Nは2以上の整数)までの信号を生成する信号生成部と、
前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みを低減するための歪み補償部と、
前記歪み補償部から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC部と、
前記DAC部から出力されるアナログ信号を無線帯域に周波数変換する周波数変換器と、
無線帯域のマルチバンド信号を増幅する増幅器とを有することを特徴とする送信機。
【請求項2】
前記歪み補償部は、前記信号生成部によって生成された信号の高調波、およびバンド1からバンドNの信号間に生じる相互変調歪みが生じるバンドにおいて、当該高調波および当該相互変調歪みの逆特性となる信号を付加することによって、歪み補償を行うことを特徴とする請求項1記載の送信機。
【請求項3】
前記DAC部は、M(Mは2以上の整数)個の出力を有し、
前記周波数変換器はM個設けられ、当該周波数変換器が前記DAC部のそれぞれの出力に対応して接続され、それぞれが異なる無線帯域に周波数変換し、
前記送信機は、さらに、
前記M個の周波数変換器の出力を合成する合成器を有し、
前記増幅器が、前記合成器から出力される無線周波数帯域の信号を増幅する
ことを特徴とする請求項2記載の送信機。
【請求項4】
前記合成器は、合成された前記M個の周波数変換器の出力を、L個の出力に分配し、
前記増幅器は、L(Lは2以上の整数)個設けられ、当該増幅器が前記合成器のそれぞれの出力に対応して接続され、それぞれが、前記合成器から出力される無線周波数帯域の信号を増幅する
ことを特徴とする請求項3記載の送信機。
【請求項5】
前記バンド1からバンドNのうち第1のバンドに起因する高調波または相互変調歪みの補償信号を、
第1のバンドに対応した周波数変換器を経由して付加する、または、前記バンド1からバンドNのうち前記第1のバンドとは異なるバンドである第2のバンドに対応した周波数変換器を経由して付加する
ことを特徴とする請求項3または4記載の送信機。
【請求項6】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の送信機を備えた送受信機であり、
第1の帯域の送信信号部の出力を受信し、受信した信号の結果をもとに、歪み補償部の調整を行う受信回路部
を有することを特徴とする送受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−227881(P2012−227881A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96247(P2011−96247)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】