説明

送液ポンプ

【課題】圧電素子を用いてダイアフラムを駆動する送液ポンプにおいて、ポンプ室に混入した気泡を容易に除去可能とする。
【解決手段】圧電素子に対して負電圧を印加して圧電素子を収縮させることによってポンプ室の容積を増加させ、印加した負電圧を解除することによってポンプ室の容積を減少させる。このようにポンプ室内の流体を圧送することとすれば、ダイアフラムが変形していない時(初期状態)のポンプ室の容積を幾らでも小さくすることができる。従って、初期状態ではポンプ室の気泡の溜まり易い箇所が潰れるようにすることで、ポンプ室内に気泡が残ることを回避することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を圧送する送液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ室の一部をダイアフラムで構成し、圧電素子でダイアフラムを変形させることによって、ポンプ室内の液体を圧送する送液ポンプが広く知られている。この送液ポンプでは、圧電素子に正電圧を印加すると、圧電素子が伸長してダイアフラムを変形させ、ポンプ室の容積を減少させる。その結果、ポンプ室内の流体が加圧されて送液される。また、印加した電圧を取り除いて圧電素子を元の長さに復帰させると、ダイアフラムが元の形状に復帰してポンプ室の容積が増加し、それに伴ってポンプ室内に液体が供給される。その後、再び圧電素子に電圧を印加すると、ポンプ室に供給された液体が加圧されて圧送される。
【0003】
このような送液ポンプは、ポンプ室内に気泡が混入すると、ダイアフラムを変形させても気泡が潰れて液体を加圧することが困難となり、ポンプ性能が低下する。そこで、ポンプ室に混入した気泡をポンプ室内の液体と一緒に吸引して除去しようとする技術(例えば特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−46015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧電素子を用いてダイアフラムを駆動する送液ポンプは、ポンプ室に混入した気泡を除去することが難しいという問題があった。これは、ダイアフラムという比較的広い面積を有する部材を、圧電素子というストロークの小さなアクチュエーターを用いて変形させる関係上、ポンプ室の周辺部分に液体の流れが滞る箇所が生じ易く、しかも、ダイアフラムの周辺部分は固定されているので、ひとたび気泡が付着すると、ダイアフラムを駆動しても付着した気泡を取り除くことは難しい。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、圧電素子を用いてダイアフラムを駆動する送液ポンプにおいて、ポンプ室に混入した気泡を容易に除去可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の送液ポンプは次の構成を採用した。すなわち、
ポンプ室の容積を増加させることによって該ポンプ室に流体を吸入し、該ポンプ室の容積を減少させることによって該ポンプ室内の流体を圧送する送液ポンプであって、
前記ポンプ室の容積を変更するダイアフラムと、
前記ダイアフラムを変形させる圧電素子と、
前記圧電素子に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記電圧印加手段は、前記圧電素子に負電圧を印加して該圧電素子を収縮させることによって前記ポンプ室の容積を増加させ、該負電圧の印加を解除することによって該ポンプ室の容積を減少させる手段であることを要旨とする。
【0008】
こうした構成を有する本発明の送液ポンプにおいては、圧電素子に負電圧を印加した後に印加した負電圧を解除することにより、ポンプ室の容積を増減させてポンプ室から流体を圧送する。尚、「負電圧の印加を解除する」とは、印加した負電圧の一部を解除するものであってもよい。従って、印加した負電圧を完全に解除することに限らず、例えば、大部分の負電圧を解除する(少しだけ負電圧を残しておく)場合も含まれる。
【0009】
こうすれば、流体で満たされたポンプ室の容積を減少させることによって流体を圧送し、その後、圧送した分の流体をポンプ室に吸い込むのではなく、ポンプ室の容積を増加させて流体を吸い込んだ後、吸い込んだ分の流体を圧送することになる。従って、初期状態(送液ポンプの動作前)のポンプ室の容積は、流体の送液量には影響しないので、初期状態でのポンプ室の容積をいくらでも小さくすることができる。このため、例えば、ポンプ室に気泡の溜まり易い箇所が存在するのであれば、ポンプ室のその部分を初期状態では潰れてしまうようにすることもできる。もちろん、ポンプ室全体を潰してしまうこともできる。その結果、本発明の送液ポンプでは、ポンプ室に気泡が残ることを回避することが可能となる。
【0010】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、ダイアフラムを変形させる圧電素子に、積層型の圧電素子を用いることとしてもよい。こうすれば、圧電素子のストロークを大きくすることで流体の圧送能力を向上させることができるので、高性能の送液ポンプを実現することが可能となる。
【0011】
また、上述した本発明の送液ポンプは、圧電素子を用いることで大きな力でダイアフラムを駆動することができる。従って、液体を圧送するための送液ポンプとして好適に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例の送液ポンプの構造を示した断面図である。
【図2】送液ポンプが流体を圧送する動作を示した説明図である。
【図3】従来の送液ポンプの構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.送液ポンプの構成:
B.送液ポンプの動作:
【0014】
A.送液ポンプの構成 :
図1は、本実施例の送液ポンプ100の構造を示した断面図である。図示されているように、本実施例の送液ポンプ100は、おおまかには、圧電素子ケース110と、流路ブロック120とから構成されている。
【0015】
圧電素子ケース110の内部には、圧電素子112が収納されている。圧電素子112の底面は圧電素子ケース110の底部に接着されており、圧電素子112の上面には補強板114が接着されている。圧電素子112は、電圧が印加されると電圧値に応じて伸縮する性質を有している。そして、補強板114および圧電素子ケース110は、圧電素子112に電圧が印加されていない状態で、補強板114の上面と圧電素子ケース110の上面とが面位置となるように研磨加工されている。
【0016】
また、補強板114および圧電素子ケース110の上面には、ステンレス鋼薄板で形成された円板形状のダイアフラム116が、それぞれ補強板114および圧電素子ケース110に接着される。
【0017】
流路ブロック120は、圧電素子ケース110の上面に載せられて、ネジ止めなどによって圧電素子ケース110に堅固に取り付けられる。流路ブロック120の図面左側の側面には、出口接続管122が立設している。出口接続管122の内部には出口流路123が形成されており、この出口流路123は、流路ブロック120の底面側に開口している。また、流路ブロック120の上面側(圧電素子ケース110とは反対側)には、入口側バッファー室124が形成されている。入口側バッファー室124の中心部分には、底面側(圧電素子ケース110側)に貫通する通路が形成されており、この通路が流路ブロック120の底面側に開口する位置に逆止弁121が設けられている。さらに、流路ブロック120の図面右側の側面には、入口接続管125が立設しており、入口接続管125の内部には入口流路126が形成されており、この入口流路126は入口側バッファー室124に開口している。入口接続管125は、例えばチューブなどを介して流体の供給源(図示せず)に接続される。
【0018】
B.送液ポンプの動作 :
図2は、送液ポンプ100が流体を圧送する動作を示した説明図である。流体の圧送を開始する際には、先ず、負電圧を印加して圧電素子112を収縮させることにより、ダイアフラム116を圧電素子ケース110側に引き込んで、流路ブロック120の底面とダイアフラム116との間の空間(ポンプ室130)の容積を増加させる。そして、図2(a)に示されるように、ポンプ室130、入口側バッファー室124、入口流路126、出口流路123を全て流体で満たしておく。
【0019】
その後、圧電素子112に印加した負電荷を取り除くと、図2(b)に示されるように、圧電素子112が元の長さに復帰してダイアフラム116が元の形状に復帰しようとすることにより、ポンプ室130内の流体が加圧される。ここで、ポンプ室130と入口側バッファー室124との間には逆止弁121が設けられているので、ポンプ室130内の流体が入口側バッファー室124に逆流することはない。その結果、ダイアフラム116によって加圧された流体が出口流路123から押し出される。
【0020】
続いて、図2(c)に示されるように圧電素子112に負電圧を印加すると、圧電素子112が収縮してポンプ室130の容積が増加して、ポンプ室130が負圧となる。この負圧は、入口側バッファー室124にある流体(入口側の流体)をポンプ室130に吸い込む方向に作用すると同時に、出口流路123内にある流体(出口側の流体)を吸い込む方向にも作用する。しかし実際には、出口側の流体が吸い込まれることはほとんど無く、図2(c)に示されるように、もっぱら入口側の流体がポンプ室130に吸い込まれる。これは、出口側の流路(出口流路123)のイナータンスに比べて、入口側の流路(入口側バッファー室124および入口側バッファー室124から流路ブロック120の底面側に貫通する通路部分)のイナータンスが大幅に小さいことに因る。
【0021】
ここでイナータンスとは、流路の特性値であり、流路の一端に圧力が加わったことによって流路内の流体が流れようとする時の、流体の流れ易さを示している。たとえば、最も単純な場合として、断面積がSで長さがLの流路に密度ρの流体(ここでは液体とする)が満たされており、流路の一端に圧力P(正確には、両端での圧力差P)が加わったものとする。流路内の流体には圧力P×断面積Sの力が作用し、その結果、流路内の流体が流れ出す。その時の流体の加速度をaとすると、流路内の流体の質量は密度ρ×断面積S×長さLだから、運動方程式を立てて変形すると、
P=ρ×L×a ・・・(1)
が得られる。更に、流路を流れる体積流量をQ、流路を流れる流体の流速をvとすると、
Q=v×S だから、
dQ/dt=a×S ・・・(2)
が成り立つ。(2)式を(1)式に代入すると、
P=(ρ×L/S)×(dQ/dt) ・・・(3)
となる。この式は、流路内の流体についての運動方程式を、流路の一端に加わる圧力P(正確には両端での圧力差)と、dQ/dtとを用いて表した式である。(3)式は、同じ圧力Pが加わるのであれば、(ρ×L/S)が小さくなるほど、dQ/dtが大きくなる(すなわち、流速が大きく変化する)ことを表している。この(ρ×L/S)が、イナータンスと呼ばれる値である。
【0022】
本実施例の送液ポンプ100では、出口流路123のイナータンスは、内径が小さく且つ通路長が長いので大きな値となる。これに対してポンプ室130の入口側の流路のイナータンスは、入口側バッファー室124から流路ブロック120の底面側に貫通する通路部分の通路長が短いので小さな値となる。このため、ポンプ室130が負圧となったときに、合成イナータンスの大きな出口側の液体はほとんど吸い込まれず、もっぱら合成イナータンスの小さな入口側の液体がポンプ室130に吸い込まれるのである。
【0023】
こうしてポンプ室130内に流体を吸い込んだら、圧電素子112に印加した負電圧を取り除いてダイアフラム116を元の形状に復帰させることでポンプ室130内の流体を出口流路123から押し出し、その後、圧電素子112に再び負電圧を印加することでポンプ室130内に流体を吸い込む。こうして圧電素子112に対して負電圧を印加したり、印加した負電圧を取り除いたりすることを繰り返し、入口側の流路からポンプ室130に吸い込んだ流体を出口側の流路に押し出す動作を繰り返すことで、流体を圧送する。
【0024】
このように流体を圧送する本実施例の送液ポンプ100では、ポンプ室130の容積を増加させることでポンプ室130内に流体を吸い込んだ後、吸い込んだ分の流体をポンプ室130から圧送する。従って、流体を吸い込む前の状態(初期状態)のポンプ室130の容積は、流体の送液量には影響しないので、初期状態のポンプ室130の容積をいくらでも小さくすることができる。このため、例えば初期状態のポンプ室130の容積をほとんど0とすることも可能であり、これによりポンプ室130内に気泡が混入した場合でも、ポンプ室130内に気泡が残ることを回避することができる。その結果、ダイアフラム116を元の形状に復帰させたときに、ポンプ室130内の気泡が潰れて流体を加圧することが困難となることを回避することができるので、送液ポンプ100が流体を圧送する能力を維持することが可能となる。
【0025】
図3は、従来の送液ポンプ300の構造を示した断面図である。図3(a)に示されているように、従来の送液ポンプ300では、ダイアフラム316の上側にポンプ室330が形成されており、圧電素子312に正電圧を印加して圧電素子312を伸長させることに因ってポンプ室330内の流体を加圧する。また、圧電素子312に印加した正電圧を取り除いて圧電素子312を元の長さに復帰させると、入口側バッファー室324からポンプ室330に流体が供給される。
【0026】
このような従来の送液ポンプ300では、圧電素子312を伸長させてダイアフラム316を変形させても、ダイアフラム316によって潰すことのできない領域がポンプ室330の周辺部分に発生する(図3(b)を参照)。このような部分に気泡が入り込んでしまうと、いくらダイアフラム316を変形させても気泡を追い出すことは困難である。これに対して、本実施例の送液ポンプ100では、そのような部分は生じない。その結果、ポンプ室130内に気泡が留まってポンプ性能が低下することを、確実に回避することが可能となる。
【0027】
また、本実施例の送液ポンプ100では、圧電素子112に電圧を印加していない状態で、ダイアフラム116の上面と流路ブロック120の底面との間にごく僅かな隙間が空くようになっている(図1を参照)。従って、流体を圧送中にダイアフラム116が元の形状に復帰する度に、流路ブロック120の底面とダイアフラム116とが接触することが無く、接触によってダイアフラム116が劣化することを防止することができる。
【0028】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
100…送液ポンプ、 110…圧電素子ケース、 112…圧電素子、
116…ダイアフラム、 120…流路ブロック、 121…逆止弁、
122…出口接続管、 123…出口流路、 124…入口側バッファー室、
125…入口接続管、 126…入口流路、 127…凹部、
130…ポンプ室、 300…送液ポンプ、 312…圧電素子、
316…ダイアフラム、 320…流路ブロック、 323…出口流路、
324…入口側バッファー室、 330…ポンプ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室の容積を増加させることによって該ポンプ室に流体を吸入し、該ポンプ室の容積を減少させることによって該ポンプ室内の流体を圧送する送液ポンプであって、
前記ポンプ室の容積を変更するダイアフラムと、
前記ダイアフラムを変形させる圧電素子と、
前記圧電素子に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記電圧印加手段は、前記圧電素子に負電圧を印加して該圧電素子を収縮させることによって前記ポンプ室の容積を増加させ、該負電圧の印加を解除することによって該ポンプ室の容積を減少させる手段である送液ポンプ。
【請求項2】
前記圧電素子は、積層型圧電素子である請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項3】
前記流体は液体である請求項1または請求項2に記載の送液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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