説明

送液ポンプ

【課題】気泡の混入、圧送圧力、気体溶存量、送液量などの動作状態を簡便に検出可能な送液ポンプを提供する。
【解決手段】ポンプ室を、出口流路を介して出口側バッファ室に接続し、出口側バッファ室から液体を圧送する。そして、ポンプ室の内部圧力によって変形する変形部を設けておき、ポンプ室の容積を減少させた時にポンプ室内に生じる圧力振動を、変形部の変位の変動によって検出する。この圧力振動は、気泡の混入、圧送圧力、気体溶存量、送液量など、送液ポンプの動作状態に関する種々の情報を含んでいる。そこで、変形部の変位の変動を検出してやれば、送液ポンプの動作状態に関する各種情報を簡便に検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を圧送する送液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ室の容積を増大させて液体を吸い込んだ後、ポンプ室の容積を減少させて液体を圧送する動作を繰り返す送液ポンプが知られている。また、小型の送液ポンプでは、ポンプ室の容積を増減させるためのアクチュエーターとして、小型で且つ大きな力を発生させることが可能な圧電素子が使用されることも多い(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−103930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ポンプ室の容積を増減させる送液ポンプには、以下のような問題があった。先ず、ポンプ室内に気泡が混入すると、ポンプ室の容積を減少させても気泡が潰れてポンプ室内の液体を加圧することができず、液体を送液することができなくなる。また、送液しようとする液体に、空気などの気体が溶存していると液体の圧縮率が高くなるので、ポンプ室の容積を減少させた時のポンプ室内の圧力が十分に上昇しなくなり、液体の圧送圧力が低下する。これを避けるためには、液体中に溶存した空気量(あるいは気体量)をモニターすることが望ましいが、溶存した空気量を計測することは容易なことではない。加えて、送液ポンプから送液された液体の流路を送液ポンプの吸入側に接続して、循環流路系を形成するような使い方をする場合には、送液ポンプで送液された液体が密閉された流路を流れるので、流量センサーなどを別途に設けない限りは送液量を把握することが困難となる。
【0005】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、送液ポンプの動作状態に関する情報(例えば気泡の混入や、圧送圧力や、気体溶存量や、送液量などの何れか)を簡便に検出可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の送液ポンプは次の構成を採用した。すなわち、
ポンプ室の容積を変更することによって、該ポンプ室内の液体を送液する送液ポンプであって、
前記ポンプ室に接続された出口流路と、
前記ポンプ室よりも大きなコンプライアンスを有し、且つ該ポンプ室に該出口流路を介して接続されることによって該ポンプ室との間で共振系を構成する出口側バッファ室と、
前記ポンプ室の内部圧力によって変形する変形部と、
前記変形部の変位の変動を検出する変位検出部と、
前記変形部の変位の変動に基づいて、前記送液ポンプの動作状態を検出する動作状態検出部と
を備えることを要旨とする。
【0007】
こうした構成を有する本発明の送液ポンプにおいては、ポンプ室の容積を増大させると、入口流路から逆止弁を介してポンプ室に液体が吸い込まれる。その後、ポンプ室の容積を減少させると、ポンプ室から出口流路を介して出口側バッファ室に液体が圧送された後、出口側バッファ室から流体流路に液体が送液される。ここで、ポンプ室と出口側バッファ室とは出口流路を介して接続されており、共振系を構成する。尚、ここでいう共振系とは、系の内部で圧力が変化(圧力の増加あるいは減少)したときに、その圧力の変化を切っ掛けとして暫くの時間に亘って圧力の振動が発生するような範囲をいう。ポンプ室と出口側バッファ室とが出口流路を介して接続されている系では、ポンプ室、出口側バッファ室、出口流路の何れかで生じた圧力変動は、その後、暫くの期間に亘って、ポンプ室、出口側バッファ室、出口流路内での圧力振動を発生させる。このように、ポンプ室と出口側バッファ室とを出口流路を介して接続することによって共振系を構成しておけば、ポンプ室の容積を減少させた後は、ポンプ室内に共振による圧力振動が発生し、この圧力振動によって変形部が変形する。そこで、この変形部の変位の変動を検出して、送液ポンプの動作状態を検出する。尚、変形部はポンプ室の内部圧力によって変形するものであればよく、例えばポンプ室の壁面の一部に変形し易い部分を変形部として設けておき、この部分がポンプ室の内部圧力によって外側あるいは内側に変形するようにすることができる。あるいは、ポンプ室の内部圧力によって直接変形するのではなく、内部圧力の変化によって液体の流れ(例えばポンプ室の内部圧力が減少したことによってポンプ室内に向かう液体の流れ)が生じ、この流れによって間接的に変形するような部材を変形部として設けることもできる。
【0008】
詳細には後述するが、ポンプ室と出口側バッファ室とを出口流路で接続して共振系を構成した場合、ポンプ室の容積増減に伴う共振によってポンプ室内に生じる圧力振動は、送液ポンプの動作状態(例えば気泡の混入や、圧送圧力や、溶存空気量や、送液量など)に関する種々の情報を含んでいる。従って、ポンプ室の圧力振動によって生じる変形部の変位の変動を検出してやれば、送液ポンプの動作状態に関する情報を簡便に検出することが可能となる。
【0009】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、変形部の変位が所定の閾値に基づいて二値信号を生成し、二値信号に基づいて、送液ポンプの動作状態を検出するようにしてもよい。
【0010】
共振によってポンプ室内に生じる圧力振動が生じると変形部の変位が変動するので、二値信号は複数のパルスを有する信号となる。これらパルスの有無、あるいはパルスとパルスとの間の時間間隔などにも、送液ポンプの動作状態に関する種々の情報が含まれている。更に、変形部の変位を二値信号に変換してやれば信号の取り扱いが容易となる。このため、変形部の変位の変動を二値信号に変換することで、送液ポンプの動作状態に関する種々の情報を容易に検出することが可能となる。
【0011】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、ポンプ室の容積を減少させた後に生じた二値信号のパルスの有無に基づいて、ポンプ室に混入した気泡の有無を検出してもよい。ここで二値信号のパルスは、Low状態の二値信号が短時間だけHi状態になるパルスであってもよいし、逆に、Hi状態の二値信号が短時間だけLow状態になるパルスであってもよい。
【0012】
ポンプ室に気泡が存在していない場合は、ポンプ室の容積を減少させた後にポンプ室内に圧力振動が発生するが、気泡が存在する場合はポンプ室内に圧力振動は発生しない。従って、ポンプ室の容積を減少させた後の二値信号にパルスが存在するか否かに基づいて、ポンプ室に混入した気泡の有無を簡便に検出することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、ポンプ室の容積を減少してから二値信号のパルスが検出されるまでの時間に基づいて、送液ポンプから液体を圧送する圧力(圧送圧力)を検出することとしてもよい。
【0014】
詳細なメカニズムについては後述するが、ポンプ室の容積を減少してから、二値信号のパルスが検出されるまでの時間は、出口側バッファ室内での液体の圧力によって決定されている。そして、出口側バッファ室内での液体の圧力は、液体を圧送する圧力となる。従って、ポンプ室の容積を減少してから、二値信号のパルスが検出されるまでの時間に基づいて液体の圧送圧力を検出してやれば、圧送圧力を簡便に検出することが可能となる。加えて、変形部の変位の変動による二値信号が検出できれば十分なので、たとえば送液ポンプが循環流路系に組み込まれて密閉された流路内を液体が流れる等の場合でも、液体の圧送圧力を簡便に検出することが可能となる。
【0015】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、ポンプ室の容積を減少させた後の二値信号に生じた複数のパルスの時間間隔に基づいて、液体中の気体溶存量を検出することとしてもよい。
【0016】
詳細なメカニズムについては後述するが、ポンプ室の容積を減少させた後の二値信号に生じる複数のパルスの時間間隔は、液体中の気体溶存量と強い相関がある。従って、ポンプ室の容積を減少させた後に生じる複数のパルスの時間間隔を検出すれば、液体中の気体溶存量を簡便に検出することが可能となる。加えて、変形部の変位の変動による二値信号が検出できれば十分なので、たとえば送液ポンプが循環流路系に組み込まれて密閉された流路内を液体が流れる等の場合でも、気体溶存量を簡便に検出することが可能となる。
【0017】
また、上述した本発明の送液ポンプにおいては、ポンプ室の容積を減少させた後の二値信号に生じた複数のパルスの時間間隔に基づいて、時間あたりの液体の送液量を検出するようにしてもよい。
【0018】
詳細なメカニズムについては後述するが、ポンプ室の容積を減少させた後の二値信号に生じる複数のパルスの時間間隔は、時間あたりの液体の送液量にも強い相関がある。従って、ポンプ室の容積を減少させた後に生じる複数のパルスの時間間隔を検出すれば、液体の送液量を簡便に検出することが可能となる。加えて、変形部の変位の変動による二値信号が検出できれば十分なので、たとえば送液ポンプが循環流路系に組み込まれて密閉された流路内を液体が流れる等の場合でも、送液量を簡便に検出することが可能となる。
【0019】
また、上述した本発明の送液ポンプは、効率よく液体を送液することが可能で、圧電素子に投入した電気エネルギーのロスを大幅に削減することが可能である。このため、循環装置に組み込む送液ポンプ、あるいは医療機器に組み込む送液ポンプとして特に優れている。
【0020】
尚、本発明の送液ポンプは、次のような態様で把握することも可能である。すなわち、
ポンプ室の容積を変更することによって、該ポンプ室内の液体を送液する送液ポンプであって、
前記ポンプ室に接続された出口流路と、
前記ポンプ室よりも大きなコンプライアンスを有し、且つ該ポンプ室に該出口流路を介して接続されることによって該ポンプ室との間で共振系を構成する出口側バッファ室と、
前記ポンプ室の内部圧力によって変形する変形部と、
前記ポンプ室の容積減少後の前記変形部の変位の変動を検出する変位検出部と、
前記変形部の変位の変動に基づいて、前記送液ポンプの動作状態を検出する動作状態検出部と
を備えることを要旨とする。
【0021】
ポンプ室と出口側バッファ室とを出口流路で接続して共振系を構成した場合、ポンプ室の容積減少(あるいは増加)後に、共振によってポンプ室内に生じる圧力振動は、送液ポンプの動作状態(例えば気泡の混入や、圧送圧力や、溶存空気量や、送液量など)に関する種々の情報を含んでいる。従って、ポンプ室の容積減少後の圧力振動によって生じる変形部の変位の変動を検出してやれば、送液ポンプの動作状態に関する情報を簡便に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施例の送液ポンプの構成を示した説明図である。
【図2】圧電素子に駆動信号を印加した時に変形部が変形することによる変位の変動および二値信号を例示した説明図である。
【図3】ポンプ室に気泡が存在する場合に得られる変形部の変位および二値信号を例示した説明図である。
【図4】二値信号の第1パルスから第2パルスまでの時間と出口側バッファ室内の圧力との関係を示す実測結果である。
【図5】送液ポンプを用いて形成した循環流路系を例示した説明図である。
【図6】実測によって得られた液体中の気体溶存量と固有振動周期との関係を示した説明図である。
【図7】実測によって得られた液体中の気体溶存量と送液量との関係を示した説明図である。
【図8】実測によって得られた固有振動周期と送液量との関係を示した説明図である。
【図9】変形例の送液ポンプの構成を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.気泡の検出方法:
C.圧送圧力の検出方法:
D.気体溶存量および送液量の検出方法:
E.変形例:
【0024】
A.装置構成 :
図1は、本実施例の送液ポンプ100の構成を示した説明図である。本実施例の送液ポンプ100は、ポンプ室102の一部がダイアフラム104で形成されており、ケース108には圧電素子106が収められ、また、ポンプ室102の上部には、逆止弁110を介して入口側バッファ室112が設けられている。入口側バッファ室112には、入口流路114から液体が供給される。また、ポンプ室102は、出口流路116を介して出口側バッファ室118に接続されており、出口側バッファ室118には、流体流路122が接続されている。更に、圧電素子106には制御回路150が接続されており、制御回路150から圧電素子106に駆動信号を印加することができる。
【0025】
また、ポンプ室102の一部には、他の箇所よりも肉厚が薄く形成された変形部102dが設けられており、ポンプ室102の内部圧力が高くなると変形部102dが外側に向けて変形し、逆に内部圧力が低くなると変形部102dが内側に向けて変形する。更に、変形部102dの外側には、いわゆる反射式のフォトカプラー130が設けられている。フォトカプラー130には、発光素子と受光素子とがほぼ同じ方向に向けて組み込まれており、フォトカプラー130に対して対象物が適切な距離にあれば、発光素子から放射した光が対象物で反射して受光素子で検出される。本実施例では、変形部102dが変形していない状態(ポンプ室102の内部圧力が大気圧の状態)では、フォトカプラー130の受光素子が反射光を受光しないが、変形部102dが一定以上、外側に変形すると反射光を受光するようになっている。そして、フォトカプラー130は、受光素子で受光したか否かを表す二値の信号(二値信号)を、制御回路150に向かって出力する。
【0026】
尚、本実施例では、フォトカプラー130を用いて変形部102dの変位を検出することによって二値信号を出力するものとして説明するが、フォトカプラー130に限らず、たとえば接点スイッチを用いて二値信号を生成してもよい。すなわち、変形部102dの変位が一定以上に大きくなると接点スイッチがONになり、変形部102dの変位が一定以下になると接点スイッチがOFFになるようにすることで、二値信号を生成することもできる。あるいは、フォトカプラー130の代わりに端子板を設けて変形部102dとの間でコンデンサーを構成し、変形部102dの変位によるコンデンサーの静電容量の変化を検出するなどの電気的な手法を用いて、変形部102dの変位そのものを検出し、得られた変位を所定の閾値と比較することによって二値信号を出力しても良い。更には、検出した変位をそのまま(二値化することなく)制御回路150に向かって出力しても良い。
【0027】
図示した送液ポンプ100では、圧電素子106に駆動信号を印加して圧電素子106を伸張させると、ダイアフラム104が変形してポンプ室102の容積が減少する。すると、ポンプ室102内の液体が出口流路116を介して出口側バッファ室118に流入し、出口側バッファ室118から流体流路122に送液される。ここで、本実施例の制御回路150は図示しないCPUを搭載しており、圧電素子106に駆動信号を印加するだけでなく、フォトカプラー130からの二値信号を受け取って、送液ポンプ100の動作状態に関する各種の情報を取得する機能も有している。尚、本実施例では、フォトカプラー130が、本発明における「変位検出部」および「二値信号生成部」に対応し、制御回路150が、本発明における「動作状態検出部」に対応する。
【0028】
図2は、駆動信号を圧電素子106に印加したときのポンプ室102の変形部102dの変位Dpを実測した結果を示した説明図である。図2(a)には圧電素子106に印加する駆動信号が例示されている。また、図2(b)には変形部102dの変位Dpの実測結果が示されている。尚、図2(b)に示したプラスの変位Dpは、ポンプ室102の内部圧力が増加して変形部102dが外側に膨らむように変形したことを表しており、マイナスの変位Dpは、ポンプ室102の内部圧力が減少して変形部102dが内側に縮むように変形したことを表している。
【0029】
図2(a)に示すように、1パルスの駆動信号を印加したものとする。圧電素子106は、駆動信号の電圧(駆動電圧)が上昇すると伸張するので、ポンプ室102の容積が減少する。その結果、駆動信号の電圧が立ち上がると同時にポンプ室102の内部圧力が急激に上昇して、図2(b)に示されるように、変形部102dの変位Dpがプラス側に急激に増加する。また、駆動信号の電圧が最大電圧で保たれている間は圧電素子106の変形量は変わらず、従って、ポンプ室102の容積も変わらない。このため、ポンプ室102から液体が流出するに従ってポンプ室102の内部圧力が減少し、これに伴って変形部102dの変位Dpも減少する。このとき、出口流路116のイナータンスにより出口流路116を通過する液体には慣性力が働くため、ポンプ室102の内部圧力が負圧となって、変形部102dの変位Dpがマイナスとなる。本実施例では、このポンプ室102の内部圧力が負圧となっている間に、駆動信号の電圧を立ち下げているので、圧電素子106の変位が縮まっている。その後は、駆動信号が変化していないにも拘わらず、図2(b)に示されるように変形部102dの変位Dpが一定周期で振動する。このことは、ポンプ室102の内部圧力が一定周期で振動していることを示している。
【0030】
このような圧力振動が発生するのは、次のようなメカニズムによる。先ず、駆動信号が印加されることによって圧電素子106が伸張し、ポンプ室102の内部圧力が急激に上昇する。このとき、出口流路116と流体流路122との間には出口側バッファ室118があるために、ポンプ室102で加圧された液体が出口側バッファ室118に移動して、ポンプ室102の内部圧力が直ぐに下降する。この現象をポンプ室102側から見ると、出口側バッファ室118の向こう側に存在する流体流路122は、出口側バッファ室118が存在するためにポンプ室102にはほとんど影響を与えることが無く、単に出口流路116が接続されているのと同じような状態となる。このため、ポンプ室102の容積が減少して排除体積分の液体が流出しようとするときに、出口流路116の流路抵抗およびイナータンスのみの影響しか受けないため、排除体積分の液体が流れるために要する時間が短くなる。そして、出口流路116を移動した液体は、出口流路116のイナータンスによって慣性力が働くため、ポンプ室102の内部圧力が負圧となり、入口側バッファ室112からポンプ室102に液体を供給することが可能となる。このとき、出口流路116のイナータンスは、入口側バッファ室112とポンプ室との間の連通路のイナータンスに比べて大きいため、出口流路116を移動する液体は殆どポンプ室102に戻ることはなく、もっぱら入口側バッファ室112の液体がポンプ室102に供給される。これは、出口側の流路(出口流路116)のイナータンスに比べて、入口側の流路(逆止弁110が設けられた通路部分)のイナータンスが大幅に小さいことに因る。
【0031】
ここでイナータンスとは、流路の特性値であり、流路の一端に圧力が加わったことによって流路内の流体が流れようとする時の、流体の流れ易さを示している。たとえば、最も単純な場合として、断面積がSで長さがLの流路に密度ρの流体(ここでは液体とする)が満たされており、流路の一端に圧力P(正確には、両端での圧力差P)が加わったものとする。流路内の流体には圧力P×断面積Sの力が作用し、その結果、流路内の流体が流れ出す。その時の流体の加速度をaとすると、流路内の流体の質量は密度ρ×断面積S×長さLだから、運動方程式を立てて変形すると、
P=ρ×L×a ・・・(1)
が得られる。更に、流路を流れる体積流量をQ、流路を流れる流体の流速をvとすると、
Q=v×S だから、
dQ/dt=a×S ・・・(2)
が成り立つ。(2)式を(1)式に代入すると、
P=(ρ×L/S)×(dQ/dt) ・・・(3)
となる。この式は、流路内の流体についての運動方程式を、流路の一端に加わる圧力P(正確には両端での圧力差)と、dQ/dtとを用いて表した式である。(3)式は、同じ圧力Pが加わるのであれば、(ρ×L/S)が小さくなるほど、dQ/dtが大きくなる(すなわち、流速が大きく変化する)ことを表している。この(ρ×L/S)が、イナータンスと呼ばれる値である。
【0032】
図1に示した本実施例の送液ポンプ100では、出口流路116のイナータンスは、内径が小さく且つ通路長が長いので大きな値となる。これに対してポンプ室102の入口側の流路のイナータンスは、逆止弁110が設けられた通路部分の通路長が短いので小さな値となる。このため、ポンプ室102が負圧となったときに、合成イナータンスの大きな出口側の液体はほとんど吸い込まれず、もっぱら合成イナータンスの小さな入口側の液体がポンプ室122に吸い込まれるのである。
【0033】
一方、出口側バッファ室118に流入した液体は流体流路122の流路抵抗が高いためになかなか流れ出ないので、出口側バッファ室118の内部圧力が上昇する。このとき、ポンプ室102の内部圧力が下降しているため、出口流路116内の液体の慣性力は次第に減少する。ポンプ室102から出口側バッファ室118との間には逆止弁が設けられていないので、やがて出口側バッファ室118からポンプ室102への逆流が生じる。ポンプ室102に液体が逆流しても、逆止弁110によって入口側バッファ室112へは液体が流れ出ないので、ポンプ室102の内部圧力が再び上昇し、逆流していた液体が出口側バッファ室118に向けて流れ出す。これにより、再びポンプ室102が負圧となり、入口側バッファ室112からポンプ室102に更に液体を供給することが可能となる。このような振動を繰り返すことによって、一度の駆動で逆止弁110を複数回(図2に示した例では2回)開いて、ポンプ室102に液体を供給することが可能となる。
【0034】
この現象は、通常、ポンプ室102と出口側バッファ室118との間で伝播する液体中の圧力波による伝播と理解されがちである。しかし、本実施例の送液ポンプ100は、ポンプ室102と出口側バッファ室118との距離が短く(どんなに長くても10cm(センチメートル)程度であり)、液体中の音速を約1000m/sec(メートル/秒)としても、圧力波の伝播による振動周期は最大でも0.2msec(ミリ秒)となる筈である。しかしながら、図2(b)に示す振動の固有振動周期は約0.4msecとなっており、圧力波の伝播によっては説明することができない。
【0035】
しかしこの現象は、液体の圧縮性を考慮する(すなわち、液体を圧縮性流体として取り扱う)ことによって説明することができる。すなわち、ポンプ室102のコンプライアンス、出口流路116のイナータンス、出口側バッファ室118のコンプライアンスで形成される共振を考えれば、その固有振動周期Tは以下の(4)式で表すことができる。
T=2π(MC)1/2 ・・・(4)
ここで、Mは出口流路116のイナータンス、Cはポンプ室102および出口側バッファ室118の合成コンプライアンスである。また、ポンプ室102のコンプライアンスをC、出口側バッファ室118のコンプライアンスをCとすると、合成コンプライアンスCは、以下の(5)式によって与えられる。
C=1/{1/C+1/C} ・・・(5)
上記の(4)式の固有振動周期Tを有する共振を想定すれば、図2(b)に示したポンプ室102の内部圧力が振動する現象を説明することが可能となる。
【0036】
ここで、コンプライアンスとは、流体室内に圧力が加わった時の、流体室の変形による容積の膨張や流体の圧縮を示している。例えば、最も単純な場合として、容積がVで体積弾性率がKの流体室に圧縮率κの流体(ここでは液体とする)で満たされており、流体室内の液体に圧力Pが加わったものとする。このとき、流体室の変形による容積の変化量ΔV1は、
ΔV1=V/K×P ・・・(6)
となる。また、液体の圧縮による体積の変化量ΔV2は、
ΔV2=V×κ×P ・・・(7)
となる。よって、圧力Pに対する見かけ上の流体室の容積の変化量ΔVは、
ΔV=V×(1/K+κ)×P ・・・(8)
となり、このV×(1/K+κ)がコンプライアンスと呼ばれる値である。ここで、流体室が同じ弾性率を持つ部材で、液体が同じ圧縮率を持つ流体であるとき、(5)式は、同じ圧力Pが加わるのであれば、見かけ上の流体室の容積の変化量ΔVは流体室の容積Vに比例することを表している。
【0037】
また、(4)式および(5)式からは、ポンプ室102のコンプライアンス(容積)や、出口側バッファ室118のコンプライアンス(容積)によって固有振動周期Tが変化することが予想され、実際にそうした現象が確かめられている。
【0038】
圧電素子106に駆動信号を印加すると、以上のメカニズムに基づく共振によって、ポンプ室102内には圧力振動が発生し、その結果、図2(b)に示すように、変形部102dの変位の変動が発生する。また、図1を用いて前述したように、本実施例では変形部102dの変位の変動を、フォトカプラー130を用いて検出しており、変形部102dの変位が閾値Dthよりも小さい間は、フォトカプラー130の受光素子が変形部102dからの反射光を受光しないが、変形部102dの変位が閾値Dthよりも大きくなると受光素子が反射光を受光するようになっている。その結果、フォトカプラー130からは、受光素子が反射光を受光していない間はLow状態で、受光素子が反射光を受光している間はHi状態となる二値信号Dsが制御回路150に出力される。図2(c)には、圧電素子106に駆動信号を印加したときに、フォトカプラー130から二値信号Dsが出力される様子が示されている。本実施例では、このような圧力振動による変形部102dの変位の変動を検出して、送液ポンプ100の動作状態に関する各種情報を検出する。尚、本実施例の二値信号Dsは、変形部102dの変位Dpが小さい時(あるいはマイナスの時)にはLow状態で、変位Dpが大きくなるとHi状態となるものとしているが、変位Dpが小さい時(あるいはマイナスの時)にはHi状態で、変位Dpが大きくなるとLow状態となる信号を、二値信号Dsとして用いても構わない。
【0039】
B.気泡の検出方法 :
図3は、ポンプ室102に気泡が存在する場合に得られる変形部102dの変位Dp、およびフォトカプラー130から出力される二値信号Dsを例示した説明図である。図3(a)には圧電素子106に印加する駆動信号が示されており、図3(b)には変形部102dの変位Dpが、図3(c)には二値信号Dsが示されている。
【0040】
図2に示した気泡が存在しない場合と比較すると明らかなように、ポンプ室102に気泡が存在する場合、圧電素子106に駆動信号を印加することによってポンプ室102の内部圧力は上昇するが、気泡の圧縮によって圧電素子106の変位が吸収されてしまい、内部圧力の上昇量が低下する。このため、ポンプ室102と出口流路116と出口側バッファ室118との間での上述した共振による圧力振動(および変形部102dの変位の変動)はほとんど発生しない。すなわち、駆動信号の電圧を上昇させた時の内部圧力の上昇に伴う変形部102dの変位Dpの増減(以下では、これを第1波と呼ぶ)は、図2(b)および図3(b)の何れにおいても観測することができるが、その後の共振による圧力振動に伴う変形部102dの変位Dpの増減(以下では、これらを先頭から順番に第2波、第3波、第4波と呼ぶ)は、気泡が存在する図3(b)ではほとんど発生しない。その結果、第1波に対応する二値信号Dsのパルスは、図2(c)および図3(c)の何れにおいても発生するが、その後の第2波に対応するパルスや、第3波に対応するパルスは、気泡が存在する図3(c)では見られない。尚、以下では、第1波に対応する二値信号Dsのパルスを第1パルスと呼び、第2波に対応するパルスを第2パルスと呼び、第3波に対応するパルスを第3パルスと呼び、第4波に対応するパルスを第4パルスと呼ぶ。従って、二値信号Dsに第2パルスが検出できればポンプ室102内に気泡は無く、逆に、第2パルスが検出できなければポンプ室102に気泡が存在するものと判断することが可能となる。
【0041】
尚、ポンプ室102内に気泡が存在すると第1波の大きさが小さくなることから、変形部102dの変位Dpの大きさを検出して、気泡の有無を判別することも可能である。しかし、この方法は、第1波の大きさがある程度まで低下した場合に、気泡が存在すると判断するものであり、どの程度まで低下すると気泡が発生したと判断するのか(すなわち、閾値の設定)によって判断精度が左右される。これに対して、上述した本実施例の方法では、第2波に基づく第2パルスが発生したか否かに基づいて判断することができるので、気泡の有無を精度良く判別することが可能となる。
【0042】
また、上述した実施例では、フォトカプラー130を用いて変形部102dの変位を検出しているので、制御回路150にはフォトカプラー130からの二値信号Dsが入力される。このため、変形部102dの変位Dpの第2波に対応する第2パルスが発生したか否かに基づいて、ポンプ室102内の気泡の有無を判断した。これに対して、例えば静電容量の変化を利用した電気的な手法などによって、変形部102dの変位Dpそのものを検出して制御回路150に入力される場合には、変位Dpの第2波が発生したか否かに基づいて、ポンプ室102内の気泡の有無を判断しても構わない。
【0043】
C.圧送圧力の検出方法 :
図2(c)に例示したように二値信号Dsの第1パルスに続いて第2パルスが検出された場合、第1パルスが発生してから第2パルスが発生するまでの時間の長さは、送液ポンプ100が液体を圧送する圧力(正確には、出口側バッファ室118内の圧力)に関する情報を有している。何故なら、上述したように二値信号Dsの第1パルスは、変形部102dの変位Dpの第1波に対応するパルスであり、第2パルスは第2波に対応するパルスである。また、前述したように、変位Dpの第2波は、出口流路116内をポンプ室102から出口側バッファ室118に向かって流れる液体が、ポンプ室102と出口側バッファ室118との圧力差によってポンプ室102内に引き戻されることによって発生する。従って、ポンプ室102と出口側バッファ室118との圧力差が大きくなると、出口流路116内の液体を引き戻す力が大きくなるので第2波が早く発生し、従って第2パルスも早く発生する。
【0044】
ここで、第1波が終了して(変形部102dの変位Dpが初期レベルに戻って)から第2波が発生するまでの期間は、ポンプ室102から出口側バッファ室118に向けて流出した液体が、出口側バッファ室118から押し戻されて戻ってくるまでの期間である。従って、第2波が発生するまでのポンプ室102内は概ね負圧となっている。また、ポンプ室102は逆止弁110を介して入口側バッファ室112と接続されているので、第2波が発生するまでの期間にポンプ室102の圧力が大きく変動することはない。このため、第1波が終了してから第2波が発生するまでの期間(以下では、この期間を負圧期間と呼ぶ)でのポンプ室102と出口側バッファ室118との圧力差は、出口側バッファ室118内の圧力が主に決定している。すなわち、出口側バッファ室118内の圧力が高ければ、負圧期間が短くなる。逆から言えば、負圧期間が短ければ、出口側バッファ室118内の圧力が高いと言うことができる。更に、第1波が発生してから終了するまでの時間(第1パルスのパルス幅)は、ほとんど変化しないことが実験によって確かめられている。従って、第1波(第1パルス)が発生してから第2波(第2パルス)が発生するまでの時間についても、出口側バッファ室118内の圧力が高いほど、時間が短くなるということができる。
【0045】
図4は、第1パルスから第2パルスまでの時間と、出口側バッファ室118内の圧力との関係を示す実測結果である。尚、図4に示した例では、第1パルスから第2パルスまでの時間として、第1パルス終了から第2パルス発生までの時間が計測されている。しかし、第1パルス発生から第2パルス発生までの時間を用いた場合にも、ほとんど同じ傾向が成立する。
【0046】
図4に示されるように、出口側バッファ室118内の圧力(従って、流体流路122に液体が圧送される圧力)が低くなると、第1パルスから第2パルスまでの時間が長くなる。このことから、二値信号Dsの第1パルスに続いて第2パルスが検出された場合には、第1パルスから第2パルスまでの時間を検出することによって、送液ポンプ100が液体を圧送する圧力(圧送圧力)を検出することができる。すなわち、予め閾値の時間を設定しておき、検出した時間が閾値の時間よりも長くなった場合には、液体の圧送圧力が低下したものと判断することができる。あるいは、図4に示すような関係(検出時間と圧送圧力との関係)を、制御回路150内にルックアップテーブルとして記憶しておき、このルックアップテーブルを参照することによって、圧送圧力を検出することもできる。
【0047】
また、図5に例示したように、流体流路122を流れる液体を入口流路114に還流させて循環流路を構成した場合には、液体が密閉された流路を流れることになるので圧送圧力が低下したことに気付きにくい。この点で、本実施例では、第1パルスから第2パルスまでの時間を検出することによって、出口側バッファ室118内の圧力をモニターすることができるので、圧送圧力が低下したことを直ちに認識することが可能となる。
【0048】
D.気体溶存量および送液量の検出方法 :
また、図2(c)に例示したように、二値信号Dsの第3パルスおよび第4パルスが検出された場合、第3パルスが発生してから第4パルスが発生するまでの時間を検出することで、液体中に溶存する空気などの気体の溶存量(気体溶存量)を検出することが可能である。これは次の理由による。
【0049】
先ず、ポンプ室102と出口側バッファ室118とが出口流路116を介して発生させる共振の固有振動周期Tは、前述した(4)式で表される。また、(4)式中に現れる合成コンプライアンスCは、前述した(5)式で表される。そして、(5)式中に現れるコンプライアンスC(ポンプ室102のコンプライアンス)、およびコンプライアンスC(出口側バッファ室118のコンプライアンス)は、(8)式を用いてそれぞれ次式で与えられる。
=V×(1/K+κ) ・・・(9)
=V×(1/K+κ) ・・・(10)
ここで、Vはポンプ室102の容積であり、Vは出口側バッファ室118の容積である。また、本実施例では、ポンプ室102や出口流路116、出口側バッファ室118はステンレス鋼などの非常に硬い部材で構成されており、その弾性率Kは大変に大きいので、(9)式及および(10)式ではポンプ室102や出口側バッファ室118の容積の変化は殆ど無視される。(9)式および(10)式を、(5)式および(4)式に代入して整理すると、固有振動周期Tは液体の圧縮率κの平方根に比例することが分かる。そして、液体の圧縮率κは、液体中の気体の溶存量が増加するに従って高くなるから、液体中の気体の溶存量が増加する程、固有振動周期Tが長くなると考えられる。また、液体中の気体の溶存量が増加すると液体の圧縮率κが高くなるから、ポンプ室102で液体を効果的に加圧することができなくなり、送液ポンプ100の送液量が低下するものと考えられる。そこで、液体中の気体溶存量を変えながら送液ポンプ100の送液量および固有振動周期Tを実測した。
【0050】
図6は、実測によって得られた液体中の気体溶存量と固有振動周期Tとの関係を示した説明図である。図6に示されるように、気体溶存量が増加するに従って固有振動周期Tが長くなっている。固有振動周期Tは、二値信号Dsの第3パルスが検出されてから第4パルスが検出されるまでの時間に相当するから、第3パルスが発生してから第4パルスが発生するまでの時間を検出することで、液体中に溶存する空気などの気体の溶存量(気体溶存量)を検出することが可能である。
【0051】
また、図7は、実測によって得られた液体中の気体溶存量と送液ポンプ100の送液量との関係を示した説明図である。図7に示されるように、気体溶存量が増加するに従って送液量が減少している。そして、図6に示したように気体溶存量と固有振動周期Tとの間には強い対応関係(相関)があるから、送液量と固有振動周期Tとの間にも相関が存在している可能性がある。そこで、同じ気体溶存量に対して実測された固有振動周期Tと送液量との関係を整理すると図8が得られた。図8に示されるように、固有振動周期T(本実施例では、第3パルスが発生してから第4パルスが発生するまでの時間)と送液量との間には強い相関が成立している。このことから、二値信号Dsで第3パルスが発生してから第4パルスが発生するまでの時間を検出することで、送液ポンプ100の送液量を検出することも可能である。
【0052】
このように本実施例の送液ポンプ100では、二値信号Dsの第3パルスから第4パルスまでの時間を計測することで、送液量や液体中の気体溶存量を検出することができる。このため、送液量を検出するための流量計などを別途備える必要がない。また、液体中の気体溶存量を検出するためには特別な装置が必要となるが、本実施例では、特別な装置を用いることなく、液体中の気体溶存量を検出することができる。特に、図5に例示したように、送液ポンプ100を循環流路に組み込んで用いる場合には、液体が密閉された流路を流れることになるので、送液量や気体溶存量を検出することは困難である。この点で、本実施例では、固有振動周期Tを検出することで、送液量や気体溶存量を常にモニターしておくことが可能となる。
【0053】
尚、以上の説明では、二値信号Dsの第2パルスから第3パルスまでの時間ではなく、第3パルスから第4パルスまでの時間を計測して、固有振動周期Tを求めることとした。これは、次のような理由による。図1に示したように、本実施例の送液ポンプ100では、ポンプ室102が逆止弁110を介して入口側バッファ室112に接続されており、ポンプ室102が負圧になると、逆止弁110が開いてポンプ室102と入口側バッファ室112とが連通する。ポンプ室102と入口側バッファ室112とが連通すると、あたかもポンプ室102のコンプライアンスCが大幅に増加したような状態となって固有振動周期Tがずれてしまう。そして、図2(b)に示されるように、第2パルスと第3パルスとの間ではポンプ室102が負圧になっている期間(すなわち、ポンプ室102と入口側バッファ室112とが連通している期間)が長いので、正確な固有振動周期Tを計測することができない。これに対して第3パルスと第4パルスとの間では、ポンプ室102が負圧になる期間が発生しない(発生しても僅かな期間に過ぎない)ので、正確な固有振動周期Tを計測することができる。以上の理由から、本実施例では二値信号Dsの第3パルスと第4パルスとの間の時間を計測することによって、固有振動周期Tを求めている。もちろん、それほどの計測精度が必要でない場合は、二値信号Dsの第2パルスと第3パルスとの間の時間を計測することによって固有振動周期Tを求めるようにしても良い。あるいは、出口流路116での減衰が強くなると変形部102dの変位Dpの第3波の振幅が小さくなり、二値信号Dsの第4パルスが発生しなくなる場合も起こり得る。このような場合には、二値信号Dsの第2パルスと第3パルスとの間の時間を計測して(場合によっては、第1パルスと第2パルスとの間の時間を計測して)固有振動周期Tを求めるようにしても良い。
【0054】
E.変形例 :
上述した実施例では、ポンプ室102の壁面の一部に設けられた変形部102dが、ポンプ室102の内部圧力が増加すると外側に変形するものとして説明した。しかし、ポンプ室102の内部圧力によって変形する部材であれば、どのような部材であっても変形部102dとして用いることができる。
【0055】
図9は、逆止弁110の弁部を構成する部材(弁部材)を変形部102dとして用いた変形例を例示した説明図である。すなわち、逆止弁110は、ポンプ室102の内部圧力が負圧に(入口側バッファ室112の圧力よりも低く)なると開弁し、その他の場合は閉弁している。そこで、逆止弁110の上方にフォトカプラー132を設けておき、逆止弁110が閉弁状態の時には、フォトカプラー132の発光素子からの光が逆止弁110の弁部材で反射して受光素子で受光されるようにしておく。
【0056】
こうすれば、ポンプ室102の内部圧力が負圧になると逆止弁110が開弁(すなわち変形部102dが変形)して、フォトカプラー132の受光素子が反射光を受光しなくなるので、前述した負圧期間を直接的に検出することができる。その結果、送液ポンプ100の圧送圧力を検出することが可能となる。また、上述した変形例においては、フォトカプラー132ではなく他の方法、例えば、逆止弁110の弁部材との間の静電容量の変化や、薄膜の圧電部材を塗布した逆止弁110の歪みを利用した電気的な方法などを用いて、弁部材の変位を検出しても良い。
【0057】
以上、本実施例の送液ポンプ100について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。たとえば、プロジェクターなどで発生する熱源を、冷媒液などの流体を循環させることによって冷却する流体循環装置に適用することができる。また、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる流体吐出装置や、流体流路の先端の径を細くして、流体(水、生理食塩水、薬液など)をその先端から高圧のジェット状に噴射させて対象物を切除するジェットメスなどの手術具や薬液噴射具を含む医療機器など、様々な電子機器に適用することができる。また、本実施例の送液ポンプ100における出口側バッファ室118や入口側バッファ室112は、必ずしもステンレス鋼などの大変に硬い部材で構成されている必要はなく、弾性率の小さい部材を用いれば、その容積が小さくても十分に大きなコンプライアンスを得ることができ、非常に小さな送液ポンプを実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
100…送液ポンプ、 102…ポンプ室、 102d…変形部、
104…ダイアフラム、 106…圧電素子、 108…ケース、
110…逆止弁、 112…入口側バッファ室、 114…入口流路、
116…出口流路、 118…出口側バッファ室、 122…流体流路、
130…フォトカプラー、 132…フォトカプラー、 150…制御回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室の容積を変更することによって、該ポンプ室内の液体を送液する送液ポンプであって、
前記ポンプ室に接続された出口流路と、
前記ポンプ室よりも大きなコンプライアンスを有し、且つ該ポンプ室に該出口流路を介して接続されることによって該ポンプ室との間で共振系を構成する出口側バッファ室と、
前記ポンプ室の内部圧力によって変形する変形部と、
前記変形部の変位の変動を検出する変位検出部と、
前記変形部の変位の変動に基づいて、前記送液ポンプの動作状態を検出する動作状態検出部と
を備える送液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の送液ポンプであって、
前記変形部の変位が所定の閾値に基づいて二値信号を生成する二値信号生成部を備え、
前記動作状態検出部は、前記二値信号に基づいて前記送液ポンプの動作状態を検出する検出部である送液ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の送液ポンプであって、
前記動作状態検出部は、前記ポンプ室の容積を減少させた後に生じた前記二値信号のパルスの有無に基づいて、該ポンプ室に混入した気泡の有無を検出する検出部である送液ポンプ。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の送液ポンプであって、
前記動作状態検出部は、前記ポンプ室の容積を減少してから前記二値信号のパルスが検出されるまでの時間に基づいて、液体を圧送する圧力を検出する検出部である送液ポンプ。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4の何れか一項に記載の送液ポンプであって、
前記動作状態検出部は、前記ポンプ室の容積を減少させた後の前記二値信号に生じた複数のパルスの時間間隔に基づいて、前記液体中の気体溶存量を検出する検出部である送液ポンプ。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5の何れか一項に記載の送液ポンプであって、
前記動作状態検出部は、前記ポンプ室の容積を減少させた後の前記二値信号に生じた複数のパルスの時間間隔に基づいて、前記液体の時間あたりの送液量を検出する検出部である送液ポンプ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか一項に記載の送液ポンプを用いた循環装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6の何れか一項に記載の送液ポンプを用いた医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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