説明

送液用パイプ

【課題】持続的な除菌作用を有する送液用パイプを提供する。
【解決手段】送液用パイプ1は、セラミックス焼結体Cからなる管状のパイプ本体10を具備し、セラミックス焼結体Cは、焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面に、銀を含有する非晶質相を具備する。また、パイプ本体10は、内表面11に凹部12及び凸部13の少なくとも一方を備える。更に、送液用パイプ1は、パイプ本体10を貫通する複数の孔部15と、パイプ本体10の一端を着脱可能に閉塞する閉塞部材20とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を輸送するために用いる送液用パイプに関するものであり、特に、除菌作用を有する送液用パイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、銀の除菌作用(抗菌作用)に着眼し、銀系の抗菌砂を充填した抗菌濾過層を備える液体処理装置を提案している(特許文献1参照)。ここで、抗菌砂は、酸化アルミニウム粉末に、銀系無機抗菌剤を分散させたケイ酸ソーダガラスをコーティングしたものであり、液体処理装置には、フエルトタイプフィルターを用いた濾過層、活性炭を用いた吸着濾過層、及び抗菌濾過層が順に配設されている。
【0003】
また、本出願人は、フィルター表面に銀系無機抗菌剤が焼き付けられた抗菌性セラミックフィルターを提案している(特許文献2参照)。これは、多孔質のセラミックス焼結体であるフィルターの表面に、銀系無機抗菌剤のスラリーを付着させた後、熱処理を施したものである。
【0004】
上記のような液体処理装置や抗菌性セラミックフィルターに、水耕栽培に循環式で用いる養液や河川等から取水した農業用水などを通すことにより、銀の除菌作用で液中の細菌を低減することができる。
【0005】
ところが、上記の液体処理装置や抗菌性セラミックフィルターによっても、細菌を100パーセント除くことは不可能であるため、液体処理装置や抗菌性セラミックフィルターによって処理された液体が輸送されて行く配管内で細菌が繁殖し、いったんは除菌処理された液体が再び汚染されてしまうおそれがあった。そのため、液体を輸送するパイプであって、除菌作用を有するものが望まれていた。
【0006】
ここで、従来、水道水を供給する配管内での細菌の繁殖を抑制することを目的として、銀を含有する樹脂を配管の内面にコーティングした浄水システムが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、樹脂によるコーティング層はパイプの内表面から剥離しやすく、持続的な除菌作用は期待できないものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、持続的な除菌作用を有する送液用パイプの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる送液用パイプは、「セラミックス焼結体からなる管状のパイプ本体を具備し、前記セラミックス焼結体は、焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面に、銀を含有する非晶質相を備える」ものである。
【0009】
「セラミックス焼結体」の「セラミックス」の種類は特に限定されないが、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、マグネシア質、炭化珪素質、窒化珪素質のセラミックスを例示することができる。
【0010】
「焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面」に存在する「非晶質相」は、例えば、シリカ成分を含む焼結助剤を用いてセラミックス粒子を焼結することにより形成することができ、この場合、焼結助剤としては、ケイ酸ナトリウム、ガラスフリット、長石等を使用可能である。
【0011】
また、「銀を含有する非晶質相」は、焼結助剤に酸化銀などの銀化合物を添加することにより、或いは、焼結助剤に銀系無機抗菌剤を添加することにより形成することができる。なお、銀系無機抗菌剤としては、ゼオライトや結晶化ガラスの陽イオンを銀イオンとイオン交換して得た抗菌剤、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩を、硝酸銀等の水溶性銀塩に浸漬した後焼成して得た抗菌剤、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン等のリン酸化合物を水溶性銀塩と湿式撹拌した後、洗浄・濾別して得た抗菌剤など、公知の抗菌剤を使用可能である。
【0012】
本発明の送液用パイプでは、パイプ本体を構成するセラミックス焼結体において、セラミックス粒子の表面に銀を含有する非晶質相が存在するため、パイプ本体の内表面に表れる非晶質相の銀の作用によって、パイプ本体内を流通する液体が除菌される。これにより、液体を輸送して行く途中の配管内で除菌処理を行うことができ、除菌処理の施された液体を再度汚染されないうちに使用に供することが可能となる。
【0013】
また、塩化ビニル製や金属製のパイプの内表面に抗菌剤をコーティングした場合は、コーティングされた抗菌材層は剥離しやすいのに対し、本発明では、銀を含有する非晶質相は、焼結によってセラミックス粒子と強固に一体化しているため、剥離するおそれがほとんどない。これにより、銀による除菌作用を長期にわたり持続させることができる。加えて、パイプ本体がセラミックス焼結体であることにより、塩化ビニル製や金属製のパイプに比べ、耐候性や耐腐食性に優れている。
【0014】
そして、本発明では、焼結しているセラミックス粒子の間にも、銀を含有する非晶質相が存在する。これにより、万一、液体に混入して流れる異物との衝突などに起因して、パイプ本体の一部が欠け落ちたとしても、新たにパイプ本体の内表面となる面には、銀を含有する非晶質相が表れるため、銀による除菌作用が失われることがない。
【0015】
更に、銀を含有する非晶質相は、焼結しているセラミックス粒子の間にも存在することから、焼結を経て形成された相である。そのため、非晶質相から液体への銀の溶出量は、極めて小さい。これにより、輸送された液体が環境に負荷を与えるおそれが低減されると共に、輸送される液体が水耕栽培の養液や農業用用水として使用される場合に、過剰に溶出した銀イオンによって植物の根に悪影響を及ぼすおそれが低減される。
【0016】
本発明にかかる送液用パイプは、上記構成に加え、「前記パイプ本体は、内表面に凹部及び凸部の少なくとも一方を備える」ものとすることができる。
【0017】
すなわち、本発明では、パイプ本体の内表面に凹部のみを備える場合、凸部のみを備える場合、凹部と凸部の双方を備える場合の三通りがあり得る。また、凹部及び凸部は、それぞれ複数を設けることができる。
【0018】
上記構成により、本発明の送液パイプでは、凹部及び凸部の一方あるいは双方の存在により、流通する液体の流れに乱れが生じる。これにより、パイプ本体内を流通する液体において、パイプ本体の内表面と接触する部分が入れ替わるため、パイプ本体の内表面に表れている非晶質相における銀の作用によって、効率良く液体を除菌することができる。加えて、凹部、凸部の存在によってパイプ本体の内表面の表面積が増加することにより、輸送される液体との接触面積が増加するため、これによっても、パイプ本体の内表面に表れている非晶質相における銀の作用によって、効率良く液体を除菌することができる。
【0019】
本発明にかかる送液用パイプは、上記構成に加え、「前記パイプ本体を貫通する複数の孔部と、前記パイプ本体の一端を着脱可能に閉塞する閉塞部材を更に具備する」ものとすることができる。
【0020】
「閉塞部材」が「パイプ本体の一端を着脱可能に閉塞する」態様としては、閉塞部材自体がパイプ本体の一端に嵌合し、且つ、分離可能な大きさ及び形状に形成されている態様、閉塞部材は平板状の部材であって、ゴムパッキング等を閉塞部材の外側から取り付けることによってパイプ本体の一端を閉塞する状態が保持される態様を例示することができる。
【0021】
上記構成の送液用パイプは、液体を輸送する流路の最下流に取り付けるのに適している。すなわち、パイプ本体の一端を閉塞部材で閉塞することにより、液体は孔部を介して外部に排出されるため、液体を溜めるプールベッド式の水耕栽培ベッドや、液体を流下させるNFT式の水耕栽培ベッドなど、実際に液体が使用される場所に、孔部を介して液体を供給することができる。換言すれば、上記構成の送液用パイプは、実際に使用される場所に液体が供給される直前で、液体を流通させるパイプとして使用することができる。
【0022】
従って、本発明によれば、実際に使用される場所に液体が供給される直前の段階で、液体を除菌することができ、除菌処理が施されたばかりで再汚染されていない液体を、使用場所に供給することができる。
【0023】
また、閉塞部材はパイプ本体に対して着脱可能であるため、パイプ本体の内部に落ち葉やゴミが堆積した場合、或いは、パイプ本体の内表面に藻や汚れが付着した場合であっても、送液用パイプ自体を流路から取り外すことなく内部の清掃を行うことができる。これにより、メンテナンスを行うことが容易な、送液用パイプを提供することができる。
【0024】
本発明にかかる送液用パイプは、上記構成において、「前記閉塞部材は、前記セラミックス焼結体からなる」ものとすることができる。
【0025】
上記構成の本発明では、閉塞部材を構成するセラミックス焼結体においても、焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面に、銀を含有する非晶質相が存在する。なお、閉塞部材を構成するセラミックス焼結体のセラミックスと、パイプ本体を構成するセラミックス焼結体のセラミックスとは、種類が同一であっても異なっていても良い。
【0026】
従って、本発明によれば、閉塞部材も除菌作用を有している。これにより、液体の流れを堰き止めることにより液体が滞留しやすい閉塞部材の近傍において、細菌が繁殖することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の効果として、持続的な除菌作用を有する送液用パイプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態の送液用パイプの(a)正面図、(b)断面図、及び、(c)変形例の断面図である。
【図2】図1の送液用パイプのパイプ本体を構成するセラミックス焼結体を模式的に説明する図である。
【図3】図1の送液用パイプの使用状態を説明する一部を省略した斜視図である。
【図4】図1の送液用パイプと液体処理装置を併用した養液循環システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態である送液用パイプについて、図1乃至図4を用いて説明する。ここでは、水耕栽培用の栽培ベッドに、循環式で養液を供給するために用いる送液用パイプに、本発明を適用する場合を例示する。
【0030】
本実施形態の送液用パイプ1は、セラミックス焼結体Cからなる管状のパイプ本体10を具備し、セラミックス焼結体Cは、焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面に、銀を含有する非晶質相を備えるものである。また、本実施形態では、パイプ本体10は内表面11に凹部12を備えている。更に、送液用パイプ1は、パイプ本体10を貫通する複数の孔部15と、パイプ本体10の一端を着脱可能に閉塞する閉塞部材20とを具備している。
【0031】
より詳細に説明すると、パイプ本体10は軸方向に直交する断面の外形が円形の円管状であり、軸方向に沿って一直線上に、複数の孔部15が所定間隔をあけて設けられている。そして、パイプ本体10の内表面11には、複数の凹部12が設けられており、この複数の凹部12は、軸方向に沿って一定の間隔をあけると共に、周方向に180度ずれるように設けられている。
【0032】
また、閉塞部材20は、パイプ本体10の内径より僅かに直径の小さな円盤状であり、パイプ本体10と同一の種類のセラミックス焼結体Cからなる。従って、閉塞部材20を構成するセラミックス焼結体Cにおいても、焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面に、銀を含有する非晶質相を具備している。
【0033】
上記構成のパイプ本体10は、例えば、次のように製造することができる。まず、セラミックス粒子を焼結助剤と混練する。このとき、焼結助剤には、予め銀系無機抗菌剤を添加しておく。銀系無機抗菌剤は、平均粒子径が0.5μm〜10μmであれば焼結助剤に均一に分散させやすく好適である。得られた混練物を、肉厚5mm〜10mm、外径30mm〜50mmの円管状に成形し、成形体の段階で穿孔用工具を用いて孔部15を穿設する。ここで、孔部15は、例えば、直径1mm〜10mmの大きさとすることができる。また、成形の際に、パイプ本体10の内表面11に複数の凹部12を形成する。一方、上記の混練物から、円盤状の閉塞部材20を成形する。
【0034】
その後、パイプ本体10の成形体及び閉塞部材20の成形体を焼成し、緻密質のセラミックス焼結体C(見掛け気孔率10%〜40%)とする。このセラミックス焼結体Cにおいては、図2に模式的に示すように、セラミックス粒子Mとセラミックス粒子Mとの間、及び、セラミックス粒子Mの表面には、銀を含む粒子Aを含有する非晶質相Gが形成される。ここで、銀を含む粒子Aは、銀の単体粒子または銀化合物の粒子である。
【0035】
そして、パイプ本体10の一端を閉塞するように、パイプ本体10の端部に閉塞部材20を嵌め込み、その外側から、弾性変形させたゴムパッキング21をパイプ本体10の端部に押し込む。これにより、パイプ本体10が閉塞部材20によって閉塞された状態が、ゴムパッキング21によって保持される。
【0036】
パイプ本体10の他方の端部、すなわち、閉塞部材20によって閉塞されていない側の端部は、塩化ビニル製のソケット30に嵌め込み、ソケット30を介して塩化ビニル製のパイプ31に連結する。本実施形態では、図3に示すように、三方ジョイント式のソケット30を使用し、二本の送液用パイプ1が、一本のパイプ31と連結される場合を図示している。そして、二本の送液用パイプ1は、栽培ベッド35の一辺に沿うように、且つ、孔部15が栽培ベッド35側に開口する向きに配される。なお、本実施形態では、栽培ベッド35として、対向する一対の辺から中央に向かって、底部が徐々に低くなっているNFT方式のベッドを用い、上記の一対の辺のそれぞれに、ソケット30で連結された二本の送液用パイプ1が配される場合を例示している。
【0037】
そして、栽培ベッド35内を流下した養液は、例えば、液体処理装置40を使用した循環システム2によって循環させ、再び栽培ベッド35に供給することができる。図4に概略図を示す例では、栽培ベッド35の底部における最低部に、塩化ビニル製のパイプ38の一端が取り付けられ、パイプ38の他端は複数のパイプの連結により形成された下流側配管39を介して液体処理装置40の流入口41と連結されている。この液体処理装置40は、流入口41から流出口45に向かって、フエルトタイプフィルターを用いた濾過層42、活性炭を用いた吸着濾過層43、及び、銀系無機抗菌剤を使用した抗菌砂を充填した抗菌濾過層44を順に備えており、液体処理装置40の流出口45は、複数のパイプの連結により形成された上流側配管32を介して、パイプ31と連結されている。
【0038】
上記構成により、液体処理装置40において除菌及び不純物の濾別がなされた養液は、図示しないポンプにより、上流側配管32及びパイプ31を介して、送液用パイプ1に流入する。送液用パイプ1のパイプ本体10はセラミックス焼結体Cからなり、図2に模式的に示すように、パイプ本体10の内表面11には銀を含有する非晶質相Gが存在するため、非晶質相Gから露呈している銀を含む粒子Aの作用により、養液が除菌される。
【0039】
このとき、パイプ本体10の内表面11には複数の凹部12が形成されているため、養液の流れに乱れが生じ、パイプ本体10の内表面11と接触する部分の養液が入れ替わり、銀による除菌作用を効率良く作用させることができる。加えて、凹部12の存在によってパイプ本体10の内表面11の表面積が増加しているため、養液との接触面積が大きく、これによっても、銀の除菌作用が効率の良いものとなっている。
【0040】
そして、除菌処理の施された養液は、孔部15を介して排出され、栽培ベッド35に流入する。栽培ベッド35に流入した養液は、栽培ベッド35の底部に形成された傾斜に従って流下し、パイプ38及び下流側配管39を介して液体処理装置40の流入口41より流入し、再び、液体処理装置40で処理される。以降は、上記のような流れで処理が繰り返され、養液は循環して使用される。
【0041】
上記では、パイプ本体10の内表面11に複数の凹部12が形成されている場合を例示したが、図1(c)に断面図を示すように、内表面11に複数の凸部13が形成されたパイプ本体10bを備える送液パイプ1bとすることもできる。また、図示は省略するが、パイプ本体の内表面に凹部と凸部の両方を備える送液パイプとすることもできる。なお、凹部12や凸部13は、例えば、焼成時に焼失する焼失材料を使用して形成することができる。すなわち、焼失材料で形成されたシート上に、予め凹部12に対応する凸型の焼失材料、または凸部13に対応する凹型の焼失材料を所定間隔で配置しておき、このシートを心棒金型に巻いた状態でパイプ本体の成形体を成形する。その後、シートを残して心棒金型を抜き取り、成形体を焼成すれば、シート及び凸型または凹型の焼失材料が燃焼し、内表面11に凹部12または凸部13が形成されたパイプ本体の焼結体を得ることができる。
【0042】
上記のように、本実施形態によれば、栽培ベッド35に養液を供給する直前の段階で、栽培ベッド35の上流に送液用パイプ1が設けられるため、仮に上流側配管32内で細菌が繁殖したとしても、栽培ベッド35に供給する前に、送液用パイプ1内で除菌処理を施すことができる。
【0043】
また、送液用パイプ1においては、銀を含有する非晶質相は、焼結によってセラミックス粒子と強固に一体化しているため、剥離するおそれがほとんどなく、銀による除菌作用を長期にわたり持続させることができる。
【0044】
そして、焼結しているセラミックス粒子間にも、銀を含有する非晶質相が存在するため、養液に混入して流れる根や枝などの異物との衝突に起因してパイプ本体10の管壁の一部が欠け落ちたとしても、新たにパイプ本体10の内表面11となる面には、銀を含有する非晶質相が表れ、銀による除菌作用を継続的に発揮させることができる。
【0045】
更に、銀を含有する非晶質相は焼結を経て形成された相であるため、非晶質相から養液への銀の溶出量は極めて小さい。これにより、過剰に溶出した銀イオンによって水耕栽培される植物の根に悪影響を及ぼすおそれがほとんどないものとなっている。
【0046】
また、閉塞部材20はゴムパッキング21の着脱に伴いパイプ本体10に対して容易に着脱できるため、上流側配管32と接続されたパイプ31と連結されたソケット30から送液用パイプ1を取り外すことなく、内部の清掃を行うことができ、メンテナンスが容易である。
【0047】
加えて、閉塞部材20もパイプ本体10と同一のセラミックス焼結体Cからなるため、除菌作用を有し、養液が滞留しやすい閉塞部材20の近傍において、細菌が繁殖することが抑制されている。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の実施例1及び実施例2の送液用パイプの除菌作用を、比較例1及び比較例2と対比した結果を説明する。まず、実施例1の送液用パイプは、次のように作製した。焼結助剤としてのケイ酸ナトリウム(平均粒子径約5μm)に銀系無機抗菌剤(平均粒子径約1μm)を混合し、100メッシュの標準篩い(目開き約0.15mm)を通過したアルミナ粒子と混練した。ここで、焼結助剤、銀系無機抗菌剤、及びアルミナ粒子の割合は、これらの合計質量に対しそれぞれ12重量%、3重量%、85重量%とした。混練物を肉厚10mm、外径30mm、全長60mmの円管状に成形し、得られたパイプ本体の成形体に、直径8mmの円形の孔部を長軸方向に沿って等間隔で10個穿設した。また、パイプ本体と同一の材料で、厚さ10mmの円盤状の閉塞部材を成形した。その後、パイプ本体の成形体及び閉塞部材の成形体を、共に約1000℃で2時間焼成した。焼結体の見掛け気孔率は約25%であった。パイプ本体の焼結体の一端に閉塞部材の焼結体を嵌入した上で外側からゴムパッキングを嵌めて閉塞し、パイプ本体の他端は塩化ビニル製の三方ジョイント式のソケットに接続した。
【0049】
実施例2の送液用パイプは、パイプ本体の内表面に凹部を設けた以外は、実施例1と同様に作製した。ここで、凹部は、パイプ本体の長軸方向に沿って等間隔に、且つ、隣接する凹部が周方向に180度ずれるように5個を設けた。また、それぞれの凹部の大きさ及び形状は直径約10mmの半円球面状とした。そして、パイプ本体の焼結体の一端を実施例1と同一の閉塞部材で閉塞し、他端は実施例1と同様に塩化ビニル製のソケットに接続した。
【0050】
比較例1の送液用パイプは、焼結助剤としてのケイ酸ナトリウムに銀系無機抗菌剤を添加しない他は、実施例1と同様に作製した。また、閉塞部材についても、同様に銀系無機抗菌剤を添加することなく作製し、パイプ本体の焼結体の一端をこの閉塞部材で閉塞し、他端は実施例1及び実施例2と同様に塩化ビニル製のソケットに接続した。
【0051】
比較例2の送液用パイプは、塩化ビニル製の直管20A(外径3/4インチ=約27.2mm)を長さ60mmに切断し、実施例1、実施例2及び比較例1と同様の大きさ及び形状の孔部を、同位置に同数穿設したものをパイプ本体とした。パイプ本体の一端を比較例1と同一の閉塞部材で閉塞し、他端は実施例1、実施例2、及び比較例1と同様に塩化ビニル製のソケットに接続した。
【0052】
実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の送液用パイプを、図3を用いて上述したように、栽培ベッドに養液を供給するパイプとして使用した。すなわち、単一の養液源から配管内を輸送された養液を、三方ジョイント式の塩化ビニル製ソケットを介してそれぞれの送液用パイプのパイプ本体内に流入させ、孔部から栽培ベッドに向けて養液を排出させるパイプとして、同時期に同時間使用した。そして、それぞれの送液用パイプにおいて、最も閉塞部材に近い孔部から排出される養液を一定量採取し、一般細菌の数を計測した。
【0053】
菌数の最も多かった比較例2の送液用パイプを基準(除菌率0%)とし、以下のように除菌率を算出した。その結果を表1に示す。
除菌率(%)=((b−a)/b)×100
a:実施例1、実施例2、または比較例1の送液用パイプから排出された養液単位体積当たりの菌数
b:比較例2の送液用パイプから排出された養液単位体積当たりの菌数
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示したように、焼結助剤に銀系無機抗菌剤を添加し焼成したセラミックス焼結体によって、パイプ本体及び閉塞部材を構成させた実施例1及び実施例2の送液用パイプでは、焼結助剤に銀系無機抗菌剤を添加しなかったセラミックス焼結体でパイプ本体及び閉塞部材を構成させた比較例1の送液用パイプに比べて、極めて高い除菌率を示した。これにより、同じセラミックス質のパイプであっても、セラミックス粒子間及びセラミックス粒子表面に銀を含有する非晶質相を有することにより、高い除菌作用を示すことが確認された。
【0056】
また、パイプ本体の内表面に凹部を備える実施例2の送液用パイプは、そのような凹部を備えない実施例1の送液用パイプより高い除菌率を示した。このことから、パイプ本体の内表面に凹部が存在することによって、更に除菌作用が高められることが確認された。
【0057】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0058】
例えば、上記では、送液用パイプ1が貫通する孔部15及び閉塞部材20を備え、栽培ベッド35に養液を供給するパイプとして使用される場合を例示したが、これに限定されず、孔部15及び閉塞部材20を備えない配管用の送液用パイプとして使用することができる。例えば、図4に例示した養液の循環システム2において、パイプ31、パイプ38、あるいは上流側配管32のパイプ、下流側配管39のパイプとして使用することができる。
【0059】
更に、上記では、循環式の養液を除菌処理するために送液用パイプ1が使用される場合を例示したが、送液用パイプ1の用途はこれに限定されない。例えば、河川等から取水した農業用用水、浄水場で浄化処理される水、機械加工において循環使用されるクーラント液、魚の養殖場で循環使用される水、循環使用される温泉水、などを輸送しながら除菌するパイプとして使用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,1b 送液用パイプ
10 パイプ本体
12 凹部
13 凸部
15 孔部
20 閉塞部材
C セラミックス焼結体
M セラミックス粒子
G 銀を含有する非晶質相
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【特許文献1】特開2004−290874号公報
【特許文献2】特開平11−114331号公報
【特許文献3】特開平8−193342号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス焼結体からなる管状のパイプ本体を具備し、
前記セラミックス焼結体は、焼結しているセラミックス粒子の間及びセラミックス粒子の表面に、銀を含有する非晶質相を備える
ことを特徴とする送液用パイプ。
【請求項2】
前記パイプ本体は、内表面に凹部及び凸部の少なくとも一方を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の送液用パイプ。
【請求項3】
前記パイプ本体を貫通する複数の孔部と、
前記パイプ本体の一端を着脱可能に閉塞する閉塞部材と
を更に具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の送液用パイプ。
【請求項4】
前記閉塞部材は、前記セラミックス焼結体からなることを特徴とする請求項3に記載の送液用パイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179614(P2011−179614A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45423(P2010−45423)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】