説明

送液装置及び送液方法

【課題】 複数のセンサユニットに同じ試料を固定させる際に、より少ない試料、かつ短時間で固定化を行う。
【解決手段】 測定機11には、プリズムと流路部材20とからなる測定ステージ15が複数設けられている。各測定ステージ15は、プリズムと流路部材20とによってセンサユニット12を挟持固定し、センサユニット12に流路16を圧接させる。各流路16の注入口16aには、注入用配管40が接続されており、各排出口16bには、排出用配管42が接続されている。隣り合う測定ステージ15同士は、連結用配管48によって、一方の排出用配管42と他方の注入用配管40とが接続されている。この連結用配管48を介して各センサユニット12を直列に接続するようにしたので、一度の送液で複数のセンサユニット12に試料が接触し、少ない試料、かつ短時間で固定化を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の反応を検出するセンサ面を有するセンサユニットに、試料溶液を送液する送液装置と、その送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。SPR測定装置は、この反射光の減衰を捉えることにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純水、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられる。また、センサ面にはリガンドとなる試料を固定させるためのリンカー膜が設けられており、流路にリガンド溶液を注入してリンカー膜にリガンドを固定(固定工程)させた後、アナライト溶液を注入してリガンドとアナライトとを接触(測定工程)させることにより、その相互作用を調べている。
【0007】
特許文献1記載のSPR測定装置には、装置本体にプリズムと流路とが配置された測定ステージが設けられており、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージに装着することで、前述の固定や測定が行われる。また、このSPR測定装置には、送液チューブとポンプとからなる送液装置が組み込まれており、この送液装置によって容器に保管された試料溶液を流路に送り込んでいる。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の送液装置は、リガンドを固定させる際に、未使用の試料溶液を連続的に流路に送り込んでおり、一度流路に注入した試料溶液は、廃却してしまう。そのため、試料溶液の使いまわしが利かず、複数のセンサユニットに同じリガンドを固定させようとした際にも、多量の試料溶液を用意しなければならなかった。試料溶液の増加は、すなわちそれに含まれる試料の増加に直結してしまうが、リガンドとなる生体試料は非常に高価であるため、より少ない試料で効率よく固定化を行いたいという要望が強かった。
【0009】
また、リガンドの固定化が完了するまでには、1時間程度という長い時間を必要とするが、前述の送液装置は、固定化の間中、試料溶液を流し続けるため、測定ステージを固定化するセンサユニットに占有させてしまい、複数のセンサユニットに固定化を行う場合の作業効率が悪いという問題もある。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、複数のセンサユニットに同じ試料を固定させる際に、より少ない試料、かつ短時間で固定化を行えるように試料溶液を送液する送液装置、及びその送液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の送液装置は、略平板状の誘電体ブロックの一面に試料の反応を検出するためのセンサ面を有するセンサユニットを複数並べてセットし、両端に注入口と排出口とが形成された流路を前記各センサユニットのそれぞれに対面させ、前記各流路のそれぞれの前記注入口に接続される注入用配管と、前記各流路のそれぞれの前記排出口に接続される排出用配管と、一つの前記流路に注入された後、その流路の前記排出用配管に排出される前記試料溶液を、他の前記流路の前記注入用配管へと送り込む連結用配管と、前記連結用配管のそれぞれに対応して設けられ、前記各排出用配管によって形成される排出経路と、前記各連結用配管によって形成される連結経路とで前記試料溶液の流れ方向を選択的に切り替える切替手段とを備え、前記各切替手段による前記試料溶液の流れ方向を前記連結経路側にすることにより、前記各流路が直列に接続されるようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、前記各流路が直列に接続された際に、最後に位置する前記流路の前記排出用配管と、最初に位置する前記流路の前記注入用配管とを接続する循環用配管と、この循環用配管によって形成される循環経路内で前記試料溶液を循環させる循環手段とを設けることが好ましい。
【0013】
なお、本発明の送液装置は、略平板状の誘電体ブロックの一面に試料の反応を検出するためのセンサ面を有するセンサユニットを複数並べてセットし、両端に注入口と排出口とが形成された流路を前記各センサユニットのそれぞれに対面させ、一つの前記流路に注入された後、その流路から排出される前記試料溶液を、他の前記流路の前記注入口へと送り込む連結用配管を設け、前記各流路を直列に接続する構成としてもよい。
【0014】
また、本発明の送液方法は、略平板状の誘電体ブロックの一面に試料の反応を検出するためのセンサ面を有するセンサユニットを複数並べてセットし、両端に注入口と排出口とが形成された流路を前記各センサユニットのそれぞれに対面させ、一つの前記流路に注入された後、その流路から排出される前記試料溶液を、他の前記流路の前記注入口へと送り込む連結用配管を介して、前記各流路を直列に接続し、前記各センサ面に同じ前記試料溶液を送液することを特徴とする。
【0015】
さらには、前記各流路のそれぞれの前記注入口に接続される注入用配管と、前記各流路のそれぞれの前記排出口に接続される排出用配管とを介して前記各センサ面に個別の前記試料溶液を送液する経路と、前記連結用配管を介して前記各流路を直列に接続する経路とを選択的に切り替えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の送液装置、及び送液方法によれば、各連結用配管によって形成される連結経路を介して、複数並べて配置される各流路を直列に接続するようにしたので、各流路に対面して配置される各センサユニットのセンサ面に、同じ試料溶液を送液することができる。これにより、試料溶液中に溶解した試料が、一度の送液で複数のセンサ面に接触し、複数のセンサユニットに同じ試料を固定させる際に、より少ない試料、かつ短時間で固定化を行うことができる。
【0017】
また、連結用配管のそれぞれに対応して、各排出用配管によって形成される排出経路と、各連結用配管によって形成される連結経路とで試料溶液の流れ方向を選択的に切り替える切替手段を設けたので、各センサ面に個別の試料溶液を送液することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に示すように、SPRを利用した測定方法は、大きく分けて、固定工程と、測定工程(データ読み取り工程)と、データ解析工程との3つの工程からなる。SPR測定装置は、固定工程及び測定工程を行う測定機11と、測定機11によって得られたデータを解析するデータ解析機からなる。
【0019】
測定には、チップ型のSPRセンサであるセンサユニット12が用いられる。このセンサユニット12は、測定機11の測定ステージ15にセットされる。センサユニット12は、センサ本体となるチップ型のセンサ(以下、センサチップという)18をケース24に収容したものである。センサチップ18は、誘電体となる略平板状のガラス基板(誘電体ブロック)19上に薄膜として金属膜13を形成したものであり、金属膜13の上面がSPRが発生するセンサ面13aとなり、ガラス基板19と接する下面が光入射面13bとなる。金属膜13としては、例えば、金や銀が使用され、その膜厚は、例えば、50nmである。この膜厚は、金属膜の素材、照射される光の発光波長などに応じて適宜選択される。また、金属膜13は、例えば、蒸着によって形成される。
【0020】
測定ステージ15には、センサ面13aと対向する位置に配置される流路16が形成された流路部材20が配置されており、他方、光入射面13bと対向する位置にプリズム14が配置されている。測定ステージ15において、センサユニット12は、流路部材20とプリズム14とによって上下から挟み込まれる。
【0021】
図2に示すように、ケース24は、センサ面13aを露呈する開口28が形成された上ケース24aと、光入射面13bを露呈する開口29が形成された下ケース24bとからなる。センサチップ18は、これらの上下の各ケース24a,24bによって挟持される形態で収容される。下ケース24bの上面には、開口29の周囲が凹部となっており、センサチップ18の下半分が嵌め込まれる。上ケース24aの下面にも、開口28の周囲に凹部が形成されており、ここに上半分が嵌め込まれる。これにより、センサチップ18の収容位置が位置決めされる。センサチップ18は、このケース24に収容された状態で取り扱われる。
【0022】
流路部材20は、流路16と開口28とが対向する位置で、上ケース24aの上面と圧接する。流路16の底部は開放されており、流路部材20がセンサユニット12に圧接すると、前記底部がセンサ面13a及び開口28の内壁面によって覆われて密閉される。これにより、流路16,開口28の内壁及びセンサ面13aによってセンサセル17が構成され、流路16を通じてセンサ面13aへ送液することが可能となる。流路部材20の上面には、流路16の注入口16aと排出口16bとが形成されており、それぞれに送液用の配管40、42が接続されている。流路16へのリガンドやアナライトの注入及び排出は、これらの配管40、42を介して行われる。
【0023】
プリズム14の上面は、下ケース24bの開口29内へ進入してガラス基板19の底面に圧接されて接合する。なお、図示しないが、プリズム14の上面には、ガラス基板19との屈折率マッチングをとるための光学面平滑剤、例えば、ゲルやオイルが塗られている。センサユニット12を測定ステージ15にセットすると、この光学面平滑剤がプリズム14とガラス基板19との間に挟み込まれ、これらの間に生じる微細なエアギャップを充填する。プリズム14の下方には、照明部32と検出器33からなる測定部31が配置されている。プリズム14は、全反射条件を満たすように照射部32から光入射面13bに向けて照射された光を集光する。プリズム14によって集光された光は、ガラス基板19を介して光入射面13bに入射される。このプリズム14の形状は、例えば、三角柱型(図2参照)をしている。なお、プリズム14の形状は三角柱型に限らず、光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させ得るものであれば、半球型、かまぼこ型(断面が半円)、ピラミッド型など他の形状としてもよい。
【0024】
測定部31は、照明部32と検出器33からなる。上述したとおり、リガンドとアナライトの反応状況は、共鳴角(光入射面に対して照射された光の入射角)の変化として顕れるので、照明部32は、全反射条件を満足する様々な入射角の光を光入射面13bに対して照射する。照明部32は、例えば、光源と、集光レンズ、拡散板、偏光板を含む光学系とからなり、配置位置および設置角度は、照明光の入射角が、上記全反射条件を満足するように調整される。
【0025】
光源34としては、例えば、LED(Light Emitting Diode),LD(Laser Diode),SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が使用される。拡散板は、光源34からの光を拡散して、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうち、SPRを生じさせるp偏光のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源が発する光線自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過することにより、偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きが揃えられる。こうして拡散および偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム14に照射される。これにより、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光線を光入射面13bに入射させることができる。
【0026】
検出器33は、光入射面13bで反射する光を受光して、その光強度を検出する。光入射面13bには、様々な角度で光線が入射するので、光入射面13bでは、それらの光線が、それぞれの入射角に応じて様々な反射角で反射する。アナライトとリガンドの反応状況に応じて共鳴角が変化すると、光強度が減衰する反射角も変化する。検出器33は、例えば、CCDエリアセンサが使用され、この反射角の変化を、受光面内における反射光の減衰位置の推移として捉える。検出器33は、こうして得た、反応状況を表す測定データを、データ解析機に出力する。データ解析工程では、測定機11で得た測定データを解析して、アナライトの特性を分析する。
【0027】
固定工程は、センサ面13aにリガンドを固定する工程であり、測定工程に先立って行われる。固定工程では、配管64を通じて、流路16へリガンドを溶媒に溶かしたリガンド溶液21が注入される。センサ面13aのほぼ中央部には、リガンドと結合するリンカー膜22が形成されている。このリンカー膜22は、センサユニット12の製造段階において予め形成される。リンカー膜22は、リガンドを固定するための固定基となるので、固定するリガンドの種類に応じて適宜選択される。
【0028】
リガンド溶液21を注入するリガンド固定化処理を行う前に、前処理として、まず、リンカー膜22に対して、固定用バッファ液を送液してリンカー膜22を湿らせた後、リンカー膜22へリガンドが結合しやすくするためにリンカー膜22の活性化処理が施される。例えば、アミンカップリング法では、リンカー膜22としてカルボキシメチルデキストランが使用され、リガンド内のアミノ基をこのデキストランに直接共有結合させる。この場合の活性化液としては、N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)との混合液が使用される。この活性化処理の後、固定用バッファ液によって流路16が洗浄される。
【0029】
固定用バッファ液や、リガンド溶液21の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度等は、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、リガンドとして生体物質を使用する場合には、pHを中性付近に調整した生理的食塩水が使用される場合が多い。しかし、上記アミンカップリング法では、リンカー膜22は、カルボキシメチルデキストランにより負(マイナス)に帯電するので、このリンカー膜22と結合しやすいようにタンパク質を陽(プラス)に帯電させるため、生理的とはいえない高濃度のリン酸塩を含む緩衝作用の強いリン酸緩衝溶液(PBS:phosphatic−buffered,saline)などが使用される場合もある。
【0030】
こうした活性化処理及び洗浄が行われた後、センサセル17へリガンド溶液21が注入されてリガンド固定化処理が行われる。リガンド溶液21がセンサセル17へ注入されると、溶液中で拡散しているリガンド21aがリンカー膜22に接触して結合する。こうしてセンサ面13aにリガンド21aが固定される。なお、リガンド溶液21や固定用バッファ液は、各液体毎に予め決められた所定時間、連続的に送液が行われる。
【0031】
センサ面13aへのリガンド21aの固定化が完了すると、前記センサセル17からリガンド溶液21が排出される。固定化が完了したセンサ面13aは、センサセル17へ洗浄液が注入されて洗浄処理が行われる。この洗浄後、必要に応じて、ブロッキング液を流路16へ注入して、リンカー膜22のうち、リガンドが結合しなかった反応基を失活させるブロッキング処理が行われる。ブロッキング液としては、例えば、エタノールアミン−ヒドロクロライドが使用される。このブロッキング処理の後、再びセンサセル17が洗浄される。
【0032】
リガンドの固定が終了すると、測定工程が行われる。測定工程では、まず、センサセル17へ測定用バッファ液が注入され、所定時間連続的に送液された後、アナライトを溶媒に溶かしたアナライト溶液27を注入し、所定時間連続的に送液される。この後、再び測定用バッファ液が注入され、所定時間連続的に送液される。なお、最初に測定用バッファ液を注入する前に、一度センサセル17の洗浄を行ってもよい。データの読み取りは、基準となる信号レベルを検出するために、最初に測定用バッファ液を注入した直後から開始され、アナライト溶液27の注入後、再び測定用バッファ液が注入されて、その送液が終了するまでの間行われる。これにより、基準レベルの検出、アナライトとリガンドの反応状況(結合状況)、測定用バッファ液の注入による結合したアナライトとリガンドの脱離までの信号を測定することができる。
【0033】
また、図示しないが、リンカー膜22上には、リガンドが固定されアナライトとリガンドとの反応が生じる反応領域(act)と、リガンドが固定されず、前記反応領域の信号測定に際しての参照信号を得るためのリファレンス領域(ref)とが形成される。このリファレンス領域は、上述したリンカー膜22を製膜する際に形成される。形成方法としては、例えば、リンカー膜22に対して表面処理を施して、リンカー膜22の半分程度の領域について、リガンドと結合する結合基を失活させる。これにより、リンカー膜22の半分が反応領域となり、残りの半分がリファレンス領域となる。
【0034】
これら各領域のact信号とref信号は、基準レベルの検出から結合反応を経て脱離に至るまで、同時に計測される。データ解析は、こうして得られたact信号とref信号の差や比を求めて行われる。データ解析機は、act信号とref信号との差分データを求め、この差分データを測定データとし、これに基づいて解析を行う。こうすることで、センサユニットや各センサセルの個体差や、装置の機械的な変動や、液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルすることが可能となり、S/N比の良好な信号が得られる。
【0035】
なお、この例では、1つの流路内にact領域とref領域の2つの領域を設けた例で説明したが、1つのセンサセルの同一金属膜上に少なくとも2つの流路を設け、一方の流路に対応するセンサ面にリガンドを固定したact領域を設定し、他方の流路に対応するセンサ面にリガンドを固定しないref領域を設定し、各領域の信号を検出するようにしてもよい。この場合の各流路は、一端が直列に接続されて、全体として略U字形を形成する。こうすることで、各流路に同じ液体を流すことができる。
【0036】
測定用バッファ液や、アナライト溶液27の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度等は、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、アナライトを溶けやすくするために、生理的食塩水にDMSO(ジメチル−スルホ−オキシド)を含ませてもよい。このDMSOは、信号レベルに大きく影響する。上述したとおり測定用バッファ液は基準レベルの検出に用いられるので、アナライトの溶媒中にDMSOが含まれる場合には、そのDMSO濃度と同程度のDMSO濃度を持つ測定用バッファ液を使用することが好ましい。
【0037】
なお、アナライト溶液27は、長期間(例えば、1年)保管されることも多く、そうした場合には、経時変化によって、初期のDMSO濃度と測定時のDMSO濃度との間に濃度差が生じてしまう場合がある。厳密な測定を行う必要がある場合には、こうした濃度差をアナライト溶液27を注入したときのref信号レベルから推定し、測定データに対して補正(DMSO濃度補正)が行われる。このDMSO濃度補正のための補正データは、アナライト溶液27を注入する前に、DMSO濃度が異なる複数種類の測定用バッファ液をセンサセル17に注入して、このときのDMSO濃度変化に応じた、ref信号レベルとact信号レベルのそれぞれの変化量を調べることにより求められる。
【0038】
図3に示すように、測定機11には、複数(本例では4つ)の測定ステージ15が設けられている。各流路16の注入口16aには、注入用配管40が接続されており、各排出口16bには、排出用配管42が接続されている。各排出用配管42は、一本の廃液用配管44にまとめられ、廃液タンク46に接続される。また、隣り合う測定ステージ15同士は、連結用配管48によって、一方の排出用配管42と他方の注入用配管40とが接続されている。なお、測定ステージ15の数は、4つに限ることなく、2つ又は3つでもよいし、5つ以上でもよい。
【0039】
各排出用配管42と各連結用配管48との接合部には、各排出用配管42を開閉するバルブ60と、各連結用配管48を開閉するバルブ61とが設けられている。また、各連結用配管48と各注入用配管40との接合部にも、各連結用配管48を開閉するバルブ62と、各注入用配管40を開閉するバルブ63とが設けられている。これにより、各バルブ60、63を閉栓し、各バルブ61、62を開栓することで、各測定ステージ15の各流路16が直列に接続される(図4(a)参照)とともに、各バルブ60、63を開栓し、各バルブ61、62を閉栓することで、各流路16毎の送液(図4(b)参照)が可能となる。
【0040】
すなわち、各排出口16bから排出された液体が各排出用配管42を通って廃液用配管44へと向かう経路が請求項記載の排出経路に相当し、各排出口16bから排出された液体が各排出用配管42の一部と各連結用配管48とを通って注入用配管40へと向かう経路が請求項記載の連結経路に相当する。さらには、各バルブ60〜63によって、請求項記載の切替手段が構成される。
【0041】
各流路16が直列に接続された際に、最後に位置する流路16の排出用配管42と、最初に位置する流路16の注入用配管40とは、循環用配管50によって接続されている。排出用配管42と循環用配管50との接合部には、排出用配管42を開閉するバルブ64と、循環用配管50を開閉するバルブ65とが設けられており、循環用配管50と注入用配管40との接合部には、循環用配管50を開閉するバルブ66と、注入用配管40を開閉するバルブ67とが設けられている。また、循環用配管50の経路上には、この循環用配管50内の液体を矢線A方向に送る循環ポンプ(循環手段)52が設けられている。これにより、図4(a)に示すように、各流路16を直列に接続した各連結経路と循環用配管50とによって閉塞したループ(請求項記載の循環経路に相当)を構成し、このループ内で液体を循環させることができる。この循環ポンプ52としては、例えば、プランジャーポンプや遠心ポンプなどの一般的な送液用のポンプを用いればよい。
【0042】
なお、注入用配管40、排出用配管42、連結用配管48、及び循環用配管50は、金属やプラスチックなどで成形されたリジットなパイプでもよいし、ゴムチューブなどであってもよい。また、これらの各配管の内壁面には、試料溶液中に溶解した試料の吸着を防止するため、非特異吸着の少ない材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば、非晶質ポリオレフィンエラストマーや、ポリプロピレンなどの晶質ポリオレフィンが知られている。
【0043】
また、循環ポンプ52の駆動・停止の切り替えや、各バルブ60〜67の開栓・閉栓の切り替えは、手動によるものでもよいし、図示せぬコントローラなどによって自動で制御されるものでもよい。
【0044】
次に、図5に示すフローチャートを参照しながら、上記構成による測定機11の作用について説明する。各センサユニット12のリンカー膜22にリガンドを固定する際には、まず、バルブ60〜65の開栓・閉栓を切り替えて、図4(a)に示すように、各流路16を直列に接続するとともに、循環用配管50によって閉塞したループが形成されるように送液経路を構成する。
【0045】
送液経路を構成した後、開栓状態にあるバルブ67を介してループ内にリガンド溶液21を注入し、ループ内にリガンド溶液21を充填させて、バルブ67を閉栓する。ループ内に閉じ込められたリガンド溶液21は、循環ポンプ52によってループ内を循環し、各流路16を通過して各リンカー膜22と接触する。これにより、4つのセンサユニット12に対して、同時に固定化が進められる。所定時間経過(例えば、1時間)して、各リンカー膜22に充分なリガンドを固定させた後、各バルブ60、及びバルブ64を開栓して、ループ内のリガンド溶液21を廃液タンク46に排出し、固定工程が終了する。
【0046】
次に、オペレータから測定開始指示が入力されると、まず、送液経路が図4(b)に示すように、各流路16に個別に送液が行える形態に切り替えられる。これと同時に、各測定ステージ15の測定部31によるデータの読み取りが開始される。データ読み取りが開始されると、各注入用配管40を介して各センサユニット12毎に、基準レベル検知用のバッファ液と、アナライト溶液27と、解離用のバッファ液とが順に送液され、4つのセンサユニット12の測定が同時に行われる。各測定部31は、送液される液体毎に、基準レベルの信号と、リガンドとアナライトとの反応状況の信号と、アナライトの解離反応の信号とを取得する。それぞれの信号を取得した後、各測定部31のデータ読み取りが停止され、測定工程が終了する。
【0047】
このように、本実施形態の測定機11によれば、各連結用配管48によって形成される連結経路を介して4つのセンサユニット12を直列に接続するようにしたので、一度の送液で4つのセンサユニット12にリガンドを接触させることができ、4つのセンサユニット12に個別にリガンド溶液21を送液する場合と比較して、必要となるリガンド溶液21の量を減らすことができる。また、4つのセンサユニット12に同時に固定化を行うことができるので、個別に固定化を行う場合と比較して、当然より短時間で複数のセンサユニット12を効率よく処理することができる。
【0048】
また、循環用配管50によって閉塞したループを形成し、このループ内でリガンド溶液21を循環させるようにしたので、連続送液しながらより長い時間固定化させようとした際にも、ループ内を充填する分のリガンド溶液21を用意すればよい。もちろん、バルブ64を開栓状態にしておいて、リガンド溶液21を廃液タンク46に排出しながら固定化を行うようにしてもよい。
【0049】
さらに、バルブ60〜64の切り替えによって、各流路16毎の送液も行えるようにしたので、測定工程の際には、各センサユニット12毎に個別のアナライト溶液27を送液して、従来と同様の測定を行うことができる。なお、上記実施形態では、プリズム14や測定部31も複数設けて、複数のセンサユニット12に対して同時に測定工程を行うようにしているが、プリズム14と測定部31とを可動式にし、各センサユニット12の位置に移動して逐次的に測定を行うようにしてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、全反射減衰を利用した測定装置の一例として、SPR測定装置を示したが、全反射減衰を利用した測定装置としては、この他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】SPR測定方法の説明図である。
【図2】センサユニットの構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】測定機の構成を概略的に示す説明図である。
【図4】送液経路の切り替えによる液体の流れ方の違いを示す説明図である。
【図5】固定工程と測定工程との手順を概略的に示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
11 測定機
12 センサユニット
13 金属膜
13a センサ面
15 測定ステージ
16 流路
16a 注入口
16b 排出口
17 センサセル
18 センサチップ
19 ガラス基板(誘電体ブロック)
21 リガンド溶液
27 アナライト溶液
40 注入用配管
42 排出用配管
48 連結用配管
50 循環用配管
52 循環ポンプ(循環手段)
60〜67 バルブ(切替手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状の誘電体ブロックの一面に試料の反応を検出するためのセンサ面を有するセンサユニットを複数並べてセットし、両端に注入口と排出口とが形成された流路を前記各センサユニットのそれぞれに対面させ、前記試料が溶解した試料溶液を前記流路に注入して前記センサ面に送液する送液装置において、
前記各流路のそれぞれの前記注入口に接続される注入用配管と、
前記各流路のそれぞれの前記排出口に接続される排出用配管と、
一つの前記流路に注入された後、その流路の前記排出用配管に排出される前記試料溶液を、他の前記流路の前記注入用配管へと送り込む連結用配管と、
前記連結用配管のそれぞれに対応して設けられ、前記各排出用配管によって形成される排出経路と、前記各連結用配管によって形成される連結経路とで前記試料溶液の流れ方向を選択的に切り替える切替手段とを備え、
前記各切替手段による前記試料溶液の流れ方向を前記連結経路側にすることにより、前記各流路が直列に接続されるようにしたことを特徴とする送液装置。
【請求項2】
前記各流路が直列に接続された際に、最後に位置する前記流路の前記排出用配管と、最初に位置する前記流路の前記注入用配管とを接続する循環用配管と、
この循環用配管によって形成される循環経路内で前記試料溶液を循環させる循環手段とを設けたことを特徴とする請求項1記載の送液装置。
【請求項3】
略平板状の誘電体ブロックの一面に試料の反応を検出するためのセンサ面を有するセンサユニットを複数並べてセットし、両端に注入口と排出口とが形成された流路を前記各センサユニットのそれぞれに対面させ、前記試料が溶解した試料溶液を前記流路に注入して前記センサ面に送液する送液装置において、
一つの前記流路に注入された後、その流路から排出される前記試料溶液を、他の前記流路の前記注入口へと送り込む連結用配管を設け、
前記各流路を直列に接続したことを特徴とする送液装置。
【請求項4】
略平板状の誘電体ブロックの一面に試料の反応を検出するためのセンサ面を有するセンサユニットを複数並べてセットし、両端に注入口と排出口とが形成された流路を前記各センサユニットのそれぞれに対面させ、前記試料が溶解した試料溶液を前記流路に注入して前記センサ面に送液する送液方法において、
一つの前記流路に注入された後、その流路から排出される前記試料溶液を、他の前記流路の前記注入口へと送り込む連結用配管を介して、前記各流路を直列に接続し、前記各センサ面に同じ前記試料溶液を送液することを特徴とする送液方法。
【請求項5】
前記各流路のそれぞれの前記注入口に接続される注入用配管と、前記各流路のそれぞれの前記排出口に接続される排出用配管とを介して前記各センサ面に個別の前記試料溶液を送液する経路と、
前記連結用配管を介して前記各流路を直列に接続する経路とを選択的に切り替えることを特徴とする請求項4記載の送液方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−250846(P2006−250846A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70531(P2005−70531)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】