説明

送脱血用管状体

【課題】血液と接触する面がすべて一様なe−PTFEなどよりなるチューブにて構成されている送脱血用管状体を提供する
【解決手段】送脱血用管状体1は、チューブとしての人工血管2と、該人工血管2の一端部側に外嵌された筒状体3と、筒状体3に取り付けられたフランジ4等を備えている。樹脂カバー6を有した人工血管2の一端部から筒状体3を該人工血管2に外嵌させる。人工血管2の先端側を反転させ鍔部3aの板面に重ね合わせ、縫合糸8によって鍔部3aに縫合する。次いで、フランジ4を鍔部3aに縫着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓に装着されるカニューレ等の送脱血用管部材として用いるのに好適な送脱血用管状体に関する。
【背景技術】
【0002】
心疾患の治療の一つとして、補助人工心臓装置や人工心肺補助装置を用いた慢性的な心機能補助が行われている。慢性的な心機能補助を行う場合、患者の生体血管に縫合された人工血管と装置との接続や、心臓に挿入したカニューレと装置とを柔軟に繋ぐために人工血管によるバイパス回路との接続が必要となる。これらの接続部位において、各種の人工血管接続構造が用いられている。
【0003】
特開2008−279188号には、心臓に装着するためのカニューレが記載されている。また、特表2002−515301号の図1には、心臓にカニューレが装着された構成が記載されている。
【0004】
カニューレと人工血管との接続構造の従来例としては、下記特許文献3に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−124859号
【特許文献2】特表2002−515301号
【特許文献3】独国特許出願公開第10108813A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)カニューレと人工血管との継目に段差があると、この段差に起因して血栓が生じる。上記特許文献3によると段差がかなり小さいものとなっているものの、接続部位があることは部品が少なくとも一つあるということになる。人工心臓システムの中で、部品点数が多くなれば手術は煩雑になり、血液漏れ、空気の吸い込み、材料の破損などのトラブルや感染リスクが高くなる。また、補助循環システム全体のコストも高くなる。さらに、薬事承認申請も部品ごとの安全性確認や、システム全体での安全性確認など労力と期間を増やすものとなる。
【0007】
(2)人工血管と心尖カニューレとの接続を上手く行っても、カニューレ自体は金属製のものであるところから、人工血管とカニューレとの継目には材料の境界が存在する。組織適合性が良好で、生体組織と接着する性質のあるチタンよりなるカニューレであっても、血液中ではパンヌスの足場となる。従って、チタンを芯尖カニューレとして使用した場合は心壁組織との癒着には優れるものの、その癒着している心内膜の根本からがパンヌスが這い出し、カニューレ先端から破断された組織体が全身の血液循環中へ飛んでしまう。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、血液と接触する面がすべて一様なe−PTFEなどよりなるチューブにて構成されている送脱血用管状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の送脱血用管状体は、樹脂製のチューブと、該チューブの一端部に外嵌した、該チューブよりも硬質材料よりなる筒状体とを備えてなり、該チューブの該一端部が反転されて該チューブの少なくとも先端側の外周面に被さっていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の送脱血用管状体は、請求項1において、該チューブはe−PTFEよりなり、該チューブは金属部材よりなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の送脱血用管状体は、請求項2において、該金属部材はチタン又はチタン合金であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の送脱血用管状体は、請求項1又は2において、該筒状体の後端側に、拡径方向に突出する突部が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の送脱血用管状体は、請求項3において、前記チューブの一端部は、該突部に連結されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の送脱血用管状体は、請求項3又は4において、該突部にフランジが取り付けられていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の送脱血用管状体は、請求項1ないし5のいずれか1項において、該チューブよりも後方側の該チューブ外周に補強リングが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の送脱血用管状体は、樹脂製のチューブの一端部(以下、先端部ということがある。)に筒状体が外嵌され、このチューブの一端部が反転されて該筒状体に被さっている。従って、この送脱血用管状体の内周面は全て該樹脂チューブにて一様に構成されている。このチューブの先端部に硬質な筒状体が外嵌されているところから、送脱血用管状体の先端部は硬質であり、芯尖カニューレとして用いることができる。この送脱血用管状体の先端部の外周面も、反転された樹脂チューブにて覆われている。従って、この樹脂としてe−PTFEなど血栓や心内膜を形成しない材料を選択することにより、この送脱血用管状体の先端部が血液と接触しても血栓や心内膜が生じない。
【0017】
なお、e−PTFEは弾性的な延伸性に優れているので、e−PTFE製チューブは、その先端部を容易に反転させて筒状体に被せることができる。
【0018】
この筒状体の後部に突部を設けておくと、フランジを取り付けることができる。このフランジとして繊維材料製など縫着可能なものを用いることにより、フランジを心臓組織と縫合することができる。このフランジは、心臓の外側に配置されるので、血液とは接触しない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る送脱血用管状体を製造するのに用いられる人工血管の斜視図と断面図である。
【図2】筒状体の斜視図と断面図である。
【図3】製造途中の送脱血用管状体の断面図である。
【図4】製造途中の送脱血用管状体の断面図である。
【図5】送脱血用管状体の断面図である。
【図6】送脱血用管状体を心臓に装着した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
第1図(a)は実施の形態に係る送脱血用管状体を製造するのに用いられる人工血管の斜視図、同(b)はその長手方向の断面図、第2図(a)は筒状体の斜視図、同(b)はその断面図、第3図及び第4図は製造途中の送脱血用管状体の断面図、第5図は送脱血用管状体の断面図、第6図は送脱血用管状体を心臓に装着した状態の断面図である。
【0022】
第5図の通り、この送脱血用管状体1は、樹脂製チューブよりなる人工血管2と、該人工血管2の一端部(先端部)側に外嵌された筒状体3と、筒状体3に取り付けられたフランジ4等を備えている。
【0023】
人工血管2は、合成樹脂好ましくはe−PTFE製である。この人工血管には、補強リング5が設けられている。この補強リング5は環状又はコイル状のものであり、人工血管2の外周に巻きつけられている。市販品を購入した場合、補強リング5は人工血管の一端から他端にまで設けられているが、この実施の形態では、人工血管2の一端部において補強リング5を切断除去しており、筒状体3よりも後方側においてのみ人工血管2に補強リング5が設けられている。
【0024】
筒状体3は、略円筒形であり、その後部近傍において突部としての鍔部3aが設けられている。この鍔部3aは筒状体3の外周を周回する円環状である。この鍔部3aには、筒状体3の筒軸心線方向と平行方向に該鍔部3aを貫く孔3bが複数個設けられている。
【0025】
この孔3bは、後述の通り縫合糸を通すためのものである。鍔部3aよりも先端側の筒状体3の前部3dの外周面に凹溝3cが周設されている。
【0026】
筒状体3は、金属、硬質合成樹脂などの所定の強度及び剛性を有した硬質材量よりなり、最も好ましくはチタンまたはチタン合金よりなる。
【0027】
フランジ4は、鍔部3aの外径よりも大きい外径を有し、また筒状体3の鍔部3a以外の部分と同程度の内径を有した円環形部材である。フランジ4は、好ましくはポリエステルなどの合成繊維の不織布(例えばフェルト)よりなるが、発泡ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂製とされてもよい。
【0028】
この送脱血用管状体1を製造するには、第1図の通り、先端部において補強リング5を除去した人工血管2を用意する。
【0029】
この実施の形態では、この人工血管2の外周に合成樹脂フィルム、例えばポリウレタンなどの合成樹脂フィルムよりなる円筒状の樹脂カバー6を被せる。この樹脂カバー6は、合成樹脂を可溶解性溶媒に溶解させた後、円柱形マンドレルに塗布し、溶媒を蒸発させて円筒形に成膜したものが好適である。
【0030】
この樹脂カバーは、アセトンなどの不溶解性溶媒中に浸漬させて膨潤させることにより、マンドレルから容易に抜き出すことができる。
【0031】
この樹脂カバー6を、第1図の人工血管2の一端部から他端側まで被せる。
【0032】
次いで、第3図の通り、この樹脂カバー6を有した人工血管2の先端側に筒状体3を外嵌させる。筒状体3は図示の通り人工血管2の先端から所定距離離隔するまで人工血管2に嵌め通す。
【0033】
次いで、まず樹脂カバー6のみを反転させて筒状体3の前部3dに被せる。そして、この樹脂カバー6を取り巻くようにバンド状部材7(第4図)を巻き付けて樹脂カバー6を抑え付ける。なお、バンド状部材7は凹条3cの部分に巻き付ける。
【0034】
次いで、第4図の通り、人工血管2の先端側を反転させる。この際、人工血管2の先端側を拡径させながら後方に引っ張り、筒状体3に被せるようにするのが好ましい。そして、人工血管2の先端部を鍔部3aの板面に重ね合わせ、縫合糸8によって鍔部3aに縫合する。この縫合糸7は、前記孔3bに通される。
【0035】
次いで、第4図の通り、フランジ4を筒状体3付き人工血管2の先端側に外嵌させるように装着する。フランジ4は円形の開口4aを備えた薄板状であり、該開口4aに筒状体3付き人工血管2の先端側を差し込む。このフランジ4を鍔部3aに重ね合わせ、鍔部3aに対し、縫合糸9で縫合する。縫合糸9は孔3bに挿通される。これにより、送脱血用管状体1が得られる。
【0036】
この送脱血用管状体1は、樹脂製のチューブよりなる人工血管2の先端側に筒状体3が外嵌され、この人工血管2の先端部が反転されて筒状体3に被さっている。従って、この送脱血用管状体1の内周面は全て樹脂チューブよりなる人工血管2にて一様に構成されている。この人工血管2の先端部に硬質な筒状体3が外嵌されているところから、送脱血用管状体1の先端部は硬質であり、芯尖カニューレとして用いることができる。この送脱血用管状体の先端部の外周面も、反転された人工血管2にて覆われている。従って、この樹脂としてe−PTFEなど血栓や心内膜を形成しない材料を選択することにより、この送脱血用管状体1の先端部が血液と接触しても血栓や心内膜が生じない。
【0037】
なお、e−PTFEは弾性的な延伸性に優れているので、e−PTFE製人工血管2は、その先端部を容易に反転させて筒状体3に被せることができる。
【0038】
この実施の形態では、筒状体3の後部に鍔部3aを設けてあり、フランジ4を取り付けることができる。このフランジ4として繊維材料製など縫着可能なものを用いることにより、フランジ4を心臓組織と縫合することができる。このフランジ4は、次に説明する第6図の通り、心臓の外側に配置されるので、血液とは接触しない。
【0039】
この送脱血用管状体1は、第6図のように心臓10に装着される。送脱血用管状体1のフランジ4が心臓壁の外面に重ね合わされ、このフランジ4が縫合糸11によって心臓壁に縫合される。
【0040】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 送脱血用管状体
2 人工血管(樹脂製チューブ)
3 筒状体
3a 鍔部(突部)
3b 孔
4 フランジ
5 補強リング
6 樹脂カバー
7 バンド状部材
8,9,11 縫合糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のチューブと、
該チューブの一端部に外嵌した、該チューブよりも硬質材料よりなる筒状体と
を備えてなり、該チューブの該一端部が反転されて該チューブの少なくとも先端側の外周面に被さっていることを特徴とする送脱血用管状体。
【請求項2】
請求項1において、該チューブはe−PTFEよりなり、該チューブは金属部材よりなることを特徴とする送脱血用管状体。
【請求項3】
請求項2において、該金属部材はチタン又はチタン合金であることを特徴とする送脱血用管状体。
【請求項4】
請求項1又は2において、該筒状体の後端側に、拡径方向に突出する突部が設けられていることを特徴とする送脱血用管状体。
【請求項5】
請求項3において、前記チューブの一端部は、該突部に連結されていることを特徴とする送脱血用管状体。
【請求項6】
請求項3又は4において、該突部にフランジが取り付けられていることを特徴とする送脱血用管状体。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該チューブよりも後方側の該チューブ外周に補強リングが設けられていることを特徴とする送脱血用管状体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−279490(P2010−279490A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134210(P2009−134210)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】