説明

送達装置およびその使用方法

【課題】送達装置から固体前駆体化合物が枯渇するまでのプロセス全体にわたって均一で高濃度の前駆体蒸気を送達することができる送達装置を提供する。
【解決手段】送達装置100は入口104および出口108を含む。この送達装置は入口チャンバー114および出口チャンバー120を含み、出口チャンバーは入口チャンバーに対して反対側にあり、かつ円錐セクション116を介して入口チャンバーと流体連通している。出口チャンバーは迷路110を含み、この迷路は送達装置に収容される固体前駆体化合物の固体粒子が送達装置から出るのを妨げ、一方で同時に固体前駆体化合物の蒸気が出口を通って送達装置から出るのを可能にするように機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は送達装置に関する。特に、本開示は気相中で固体前駆体化合物を反応器に送達するための送達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第III−V族化合物を含む半導体は、レーザー、発光ダイオード(LED)、光検出器などの多くの電子および光電子装置の製造に使用されている。これらの材料は数分の1マイクロメートルから数マイクロメートルの厚み、かつ様々な組成の様々な単結晶相を製造するのに使用される。有機金属化合物を使用する化学蒸着(CVD)方法は概して金属薄膜もしくは半導体薄膜、例えば、第III−V族化合物の膜の堆積のために使用される。このような有機金属化合物は液体もしくは固体であり得る。
【0003】
CVD方法においては、反応ガス流れは概して反応器に送達されて、電子および光電子装置上に所望の膜を堆積させる。この反応ガス流れはキャリアガス、例えば、水素および前駆体化合物蒸気からなる。前駆体化合物が液体である場合には、反応ガス流れは送達装置(すなわち、バブラー)内の液体前駆体化合物にキャリアガスを通す(すなわち、バブリングする)ことにより得られる。
【0004】
しかし、固体前駆体はシリンダー形容器もしくはコンテナ内に配置され、そして前駆体化合物蒸気を同伴し、それを堆積システムに送達するためのキャリアガスに曝される。ほとんどの固体前駆体は、従来のバブラー型前駆体送達容器において使用される場合には、劣ったそして一貫性のない送達速度を示す。このようなバブラーシステムは、特に固体有機金属前駆体化合物が使用される場合には、前駆体蒸気の不安定で不均一な流速をもたらす場合がある。不均一な有機金属気相濃度は膜、特に有機金属気相エピタキシー(MOVPE)反応器内で成長する半導体膜の組成に悪影響を及ぼす。
【0005】
固体前駆体化合物を反応器に送達する課題に取り組むのを試みる送達装置が開発されてきた。均一な流速を提供するいくつかのこれらの送達装置が見いだされてきたが、それらは高濃度の前駆体物質を反応器に一貫して提供することができない。固体前駆体からのフィード蒸気の一貫した高濃度での安定的な供給を達成することができないことは、特に半導体装置製造におけるこのような装置の使用者にとって問題である。不安定な前駆体流速は、蒸発が起こる化学物質の全表面積の漸進的低減と、結果として起こる固体前駆体化合物を貫通するチャネルの形成をはじめとする様々な要因のせいであり得る。固体前駆体化合物の床を貫通するチャネルが現われると、キャリアガスは前駆体化合物の床を通るよりも優先的にそのようなチャンネルを流れるであろうし、その結果キャリアガスと前駆体化合物との接触の低減をもたらすであろう。このようなチャネル形成は固体前駆体化合物の気相濃度を低減させ、結果的に使用されない固体前駆体化合物が送達装置内に残ることとなる。
【0006】
より高いキャリアガス流速は前駆体化合物の気相反応器へのより高い移送速度を生じさせる。このようなより高い流速はより短い時間で膜をより厚く成長させるために必要とされる。例えば、特定の用途においては、成長速度は2.5マイクロメートル/時間(μm/時間)から10μm/時間に増大する。一般に、固体前駆体化合物を伴う、より高いキャリアガス流速の使用は、気相中の前駆体化合物の安定した濃度を維持するのに有害である。よって、他の固体前駆体送達システムによって提供されるよりも高い流速で、気相中で固体前駆体化合物を気相反応器に送達するための改良されたシステムについての必要性が存在する。
【0007】
ランガラジャン(Rangarajan)への米国特許第6,444,038号は、気相中で固体前駆体化合物を反応器に送達するための送達装置を教示する。この送達装置はキャリアガスを送達装置に導入するためのガス入り口を有する。キャリアガスは固体前駆体化合物を通って流れ、キャリアガスを前駆体化合物で実質的に飽和させる。前駆体化合物の蒸気を同伴したキャリアガスは多孔質エレメントを介して反応器に向かってシリンダーを出る。この送達装置は、他の固体前駆体送達システムによって提供されるよりも高い流速で、気相中で固体前駆体化合物を気相反応器に送達することができる。しかし、それは、多孔質エレメントは場合によっては目詰まりし、それにより反応器への固体前駆体化合物の送達の速度を低減させるという欠点に悩まされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,444,038号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、送達装置から固体前駆体化合物が枯渇するまでのプロセス全体にわたって均一で高濃度の前駆体蒸気を送達することができる送達装置を有することが望ましい。固体前駆体化合物が送達装置から枯渇させられ、固体前駆体化合物の蒸気濃度が均一でかつ充分に高い濃度のままである、固体前駆体化合物の蒸気を送達するための改良された送達装置および方法についての必要性が存在したままである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書において開示されるのは、入口、出口、入口チャンバー、および出口チャンバーを含む送達装置であって;出口チャンバーは入口チャンバーに対して反対側に位置しており、かつ円錐セクションを介して入口チャンバーと流体連通しており;出口チャンバーは迷路を含み、この迷路は送達装置内に収容される固体前駆体化合物の粒子が送達装置から出るのを妨げ、同時に、固体前駆体化合物の蒸気が出口を通って送達装置から出るのを可能にするように機能する;送達装置である。
本明細書において開示されるのは膜を堆積させる方法であって、送達装置が入口および出口、それらの間に配置された迷路を有し、前記迷路はリストリクター、円錐セクション、および送達装置の内壁によって形成されており、円錐セクションの一部分は、リストリクターの円周表面を含む面から突出している、送達装置を提供し;キャリアガスを入口から送達装置に導入し;キャリアガスを固体前駆体化合物を通して流し、前駆体化合物でキャリアガスを実質的に飽和させ;前駆体化合物で飽和したキャリアガスが送達装置から出口を通って出て、迷路はキャリアガスを少なくとも2回方向変換させ、その方向変換を行う前のキャリアガスの平均方向に対して測定される場合、各方向変換は約120度以上の平均角度であり;前駆体化合物を伴うキャリアガスを基体を収容している反応器に送達し;並びに、前駆体化合物を分解して基体上に膜を形成するのに充分な条件に前駆体化合物をかけることを含む、膜を堆積させる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は迷路を含む典型的な送達装置を示す。この実施形態においては、キャリアガスは頂部から底部に流れる。
【図2】図2は図1の迷路を描くセクションBB’の拡大図である。
【図3】図3は図1の断面AA’の拡大図である。
【図4】図4は図1のセクションBB’に描かれた迷路の別の実施形態を描く。
【図5】図5は図1のセクションBB’に描かれた迷路のさらに別の代替的な実施形態を描く。この実施形態においては、それぞれのリストリクターには向かってくるキャリアガスの流れの方に突出するバッフルが取り付けられている。
【図6】図6は迷路を含む典型的な送達装置の別の実施形態を描く。この実施形態においては、キャリアガスは底部から頂部に流れる。
【図7】図7は、送達装置内に配置されることができかつ修理およびメンテナンスのために容易に取り外されうる円錐セクションのモジュラーバージョンを描く。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明は、様々な実施形態が示される添付図面を参照して以下でより充分に記載される。同様の参照番号は全体を通じて同様の要素を言及する。
【0013】
ある要素が別の要素の「上」にあると称される場合には、それはその他の要素の直接上にあることができるか、または介在する要素がそれらの間に存在してもよいと理解されるであろう。これとは対照的に、ある要素が別の要素の「直接上」にあると称される場合には、介在する要素は存在しない。本明細書において使用される場合、用語「および/または」は関連して列挙されている事項の1以上のいずれかおよび全ての組み合わせを包含する。
【0014】
様々な要素、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために、本明細書においては、第1の、第2の、第3のなどの用語が使用されうるが、これらの要素、成分、領域、層および/またはセクションはこれらの用語によって制限されるべきではないことが理解されるであろう。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層またはセクションを、別の要素、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。よって、以下で論じられる第1の要素、成分、領域、層またはセクションは、本発明の教示から逸脱することなく第2の要素、成分、領域、層またはセクションと称されうる。
【0015】
本明細書において使用される用語は、個々の実施形態を記載するだけの目的のためのものであり、制限的であることを意図していない。本明細書において使用される場合、用語「含む」は示された特徴、領域、整数、工程、操作、要素および/または成分の存在を特定するが、1以上の他の特徴、領域、整数、工程、操作、要素、成分および/またはこれらの群の存在もしくは追加を排除しない。
【0016】
さらに、相対的な用語、例えば、「下部」または「底部」、および「上部」または「頂部」は、図面に示されるような、別の要素に対するある要素の関連性を説明するために本明細書においては使用されうる。相対的な用語は、図面に描かれる方向に加えて、装置の様々な方向も包含することが意図されることが理解されるであろう。例えば、図面の1つにおける装置がひっくり返される場合には、他の要素の「下部」側にあると記載される要素は、結果的に当該他の要素の「上部」側に方向付けられるであろう。よって、典型的な用語「下部」は、その図の具体的な向きに応じて「下部」および「上部」の方向の双方を包含することができる。同様に、図面の1つにおける装置がひっくり返される場合には、他の要素の「下方」または「下」と記載される要素は、結果的に当該他の要素の「上」に方向付けられるであろう。よって、典型的な用語「下方」または「下」は、上および下の方向の双方を包含することができる。
【0017】
他に特定されない限りは、本明細書において使用される全ての用語(科学技術用語を含む)は本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義されるものなどの用語は、関連する技術および本開示の文脈におけるその意味と同じ意味を有するとして解釈されるべきであり、かつ本明細書において明確に定義されない限りは理想化されたもしくは過度に形式的な意味に解釈されないことがさらに理解されるであろう。
【0018】
典型的な実施形態は、理想化された実施形態の略図である断面図を参照して本明細書において記載される。そのようなものとして、例えば、製造技術および/または許容範囲の結果として図の形状からのバリエーションは期待されるべきものである。よって、本明細書に記載される実施形態は、ここで図示される領域の具体的な形状に限定されるとして解釈されるべきではなく、例えば製造の結果生じる形状の差異を包含するものである。例えば、平坦であると図示されまたは記載される領域は、典型的には、起伏のあるおよび/または非直線的な構造を有していてもよい。さらに、図示される鋭角は丸められていてもよい。よって、図面に図示される領域は本質的に概略であって、その形状は領域の正確な形状を図示することを意図しているのではなく、かつ本願の特許請求の範囲を限定することを意図しているのでもない。
【0019】
遷移的な用語「含む」は遷移的な用語「からなる」および「から本質的になる」を包含する。
【0020】
様々な数値範囲が本明細書において記載される。これらの範囲は端点、並びにこれらの端点間の数値を包含する。これらの範囲における数は交換可能である。
【0021】
本明細書において開示されるのは固体前駆体化合物を格納するための送達装置である。送達装置は、送達装置を出るために、迷路を通って移動する何らかの流体を少なくとも2回方向変換させる迷路を含む。それぞれの方向変換は、方向変換する前のキャリアガス(および何らかの同伴蒸気)の移動の平均方向に対して約120度以上の平均角度変化を伴う。これらの方向変換は固体(例えば、固体前駆体化合物の粒子)の捕捉を容易にし、一方で同時に流体(例えば、固体前駆体化合物の蒸気およびキャリアガス)が送達装置を出るのを可能にする。迷路の存在は、長期間にわたって相対的に高濃度での固体前駆体化合物の蒸気の均一な送達を可能にする。
【0022】
図1は固体前駆体化合物を格納するための送達装置100、送達装置100にキャリアガスを導入するための入口104、送達装置100に充填および再充填するための充填口106、および固体前駆体化合物の蒸気を同伴したキャリアガスが送達装置100から出口を通って反応器(示されていない)に放出されるその出口108を図示する。迷路110は入口104と出口108との間に配置される。迷路110はそこを通って移動する何らかの流体を120度以上の角度で少なくとも2回方向変換させる。この方向変換は固体前駆体化合物の固体粒子の捕捉を容易にし、一方で同時に蒸気およびキャリアガスが出口108を通って送達装置を出るのを可能にする。迷路110は有利なことに目詰まりせず、よって長期間にわたって相対的に高濃度での固体前駆体化合物の蒸気の均一な送達を可能にする。
【0023】
送達装置100は入口チャンバー114および出口チャンバー120を含む。固体前駆体化合物は入口チャンバー114内に格納されるが出口チャンバー120内には格納されない。キャリアガスは入口チャンバー114および出口チャンバー120を通って、送達装置100から放出される前に固体前駆体化合物の蒸気を同伴する。送達装置100は第1の末端202および第2の末端204を含む。ある実施形態においては、キャリアガスは送達装置から反応器に放出される前に、送達装置の頂部から底部に移動しうる。別の実施形態においては、キャリアガスは反応器に放出される前に送達装置の底部から頂部に移動することができる。
【0024】
第1の末端202は概して送達装置が設置されている建物の床より高い位置にあるが、第2の末端204は第1の末端202よりも建物の床により近い位置にある。キャリアガスが送達装置100内で頂部から底部に流れる場合には、入口104は第1の末端202に固定的に取り付けられており、一方、出口108は第2の末端204に固定的に取り付けられている。一方(図6において詳細に論じられる)、キャリアガスが送達装置100内で底部から頂部に流れる場合には、出口108は第1の末端202に固定的に取り付けられており、一方、入口104は第2の末端204に固定的に取り付けられている。充填口106は送達装置100の第1の末端202に固定的に取り付けられている。送達装置100は好ましくは、第1の末端202と第2の末端204との間に配置されるパッキング材料112を含む。
【0025】
ある実施形態においては、送達装置100は伸長したシリンダー形部分であり、このシリンダー形部分はシリンダー形部分の長さに渡って実質的に一定の断面を画定する内面を有する。図1に認められうるように、送達装置100は任意の円錐形下部116(以下、「円錐セクション116」)をさらに含む。この円錐セクション116は送達装置の第1の末端202から第2の末端204に向かうにつれて断面が小さくなっていて、入口チャンバー114と出口チャンバー120とを部分的に分けている。入口チャンバー114は出口チャンバー120と円錐セクション116を介して流体連通している。言い換えれば、円錐セクション116はその下部であって、入口チャンバー114と出口チャンバー120との間に開口を有する。固体前駆体化合物は入口チャンバー114および出口チャンバー120内に収容される。
【0026】
送達装置100は任意の好適なサイズのものであることができる。送達装置100の具体的なサイズは、この装置が使用される設備(すなわち、反応器)、並びに送達装置100に収容される固体前駆体化合物の量に応じて変化するであろう。ある実施形態においては、送達装置100は直径に対する高さの比率3以上、より具体的には5以上を有する。ある実施形態においては、送達装置100は8〜20センチメートル、具体的には10〜13センチメートルの直径を有するシリンダー形である。例えば、トリメチルインジウムが固体前駆体化合物である場合には、送達装置100は概して、0.25〜20キログラムの搭載量、および具体的には0.50〜10キログラムの搭載量のトリメチルインジウムを搭載する。他の固体前駆体化合物が使用される場合には、送達装置100に搭載される具体的な重量は使用される送達装置100のサイズおよび使用される固体前駆体化合物の密度に応じて変化するであろう。送達装置100は垂直線に対して垂直の方向に円形の断面積を有するが、この断面積は楕円、正方形、矩形、三角形などをはじめとする何らかの好適な形状のものであることができる。
【0027】
別の実施形態においては、入口チャンバー114および出口チャンバー120は同心である。入口および出口チャンバーが同心である場合には、入口チャンバーは出口チャンバーの内側であることができ、または望まれる場合には出口チャンバーは入口チャンバーの内側であることができる。
【0028】
入口104は入口チャンバー114と流体連通している。入口チャンバーは入口104のすぐ下方に配置された任意的なデフレクター122をさらに含む。デフレクター122は入ってくるキャリアガスの一部分の方向をそらせて、固体前駆体化合物の表面全体にわたるキャリアガスの分布を容易にする。デフレクター122はキャリアガスが固体前駆体化合物の一部分だけに衝突して、固体のこの部分を固体前駆体化合物の他の部分に対して不均一に除去するのも妨げる。入口チャンバー114は入口チャンバー内に位置する好ましいパッキング材料112をさらに含む。パッキング材料112と出口チャンバー120の床との間に固体前駆体化合物が配置される。キャリアガスが頂部から底部に流れる場合には、パッキング材料112の使用は固体前駆体の不均一性がチャネルまたは空隙を形成するのを妨げるのに有効である。キャリアガスが底部から頂部に流れる場合には、パッキング材料は任意である。
【0029】
出口チャンバー120は円錐セクション116に対して入口チャンバー114の反対側に配置され、1以上のリストリクター(restrictor)118を含み、このリストリクターは円錐セクション116の下部と一緒になって蛇行経路を形成し、この蛇行径路は迷路110を構成する。ある実施形態においては、迷路は円錐セクション116、リストリクター118および送達装置100の内壁によって形成される。別の実施形態においては、迷路は円錐セクション116の下部、リストリクター118および送達装置100の内壁によって形成される。
【0030】
図2および3は、それぞれ、図1の円で囲まれたセクションBB’および断面AA’に含まれる出口チャンバー120の部分を示す。リストリクター118は、図2および3に認められうるような、出口チャンバーの床上に配置されており、そして円錐形状の下部116の下部末端を囲んでいる壁である。ある実施形態においては、リストリクター118は円錐セクション116を囲むリングである。言い換えれば、円錐セクション116は、リストリクター118の円周表面を含む面から突出している。リストリクター118は円錐セクション116を完全に囲んでいる必要はなく、出口108を見通す直接線を有する円錐セクション116のこれらの部分を囲んでいるだけでよい。
【0031】
リストリクター118は出口チャンバー120の内面の床からの高さ「h」を有する。高さhは概して出口チャンバーの床から(あるいは、図6における天井から)円錐の最も小さな直径での円錐まで測定される。円錐セクション116の下部末端は、出口チャンバー120の内面の床からの高さ「h」に配置され、その結果、hは常にhより大きい。hはhよりも大きいので、円錐セクション116を出る流体は送達装置100を出るためにジグザグ経路を通らなければならないであろう。要するに、このジグザグ経路は、リストリクター118の表面の頂部面を含む平面から突出している円錐セクション116によって造り出される。キャリアガスおよび同伴される固体前駆体化合物の蒸気の移動の経路は図1および2において点線によって示される。
【0032】
図2からは、円錐セクション116を出るキャリアガス(および同伴蒸気)はリストリクターを超えるために、約120度を超える、具体的には約140度以上、より具体的には約160度以上である角度θでの平均第1方向変換を行わなければならない。第1方向変換のこの角度は、キャリアガスが円錐セクション116を出る際の当初の平均移動方向から測定される。出口チャンバー120を出るためには、キャリアガスがその第1方向変換を完了した後の当初の平均移動方向から測定される場合に、キャリアガス(同伴蒸気)は約120度を超える、具体的には約140度以上、より具体的には約160度以上である第1方向変換後の角度θでの第2方向変換を行わなければならないであろう。キャリアガスが同伴蒸気と共に送達装置100を出るために、これらの方向変換は固体を捕捉し、一方で同時に流体が放出されるのを可能にしなければならない。
【0033】
ある実施形態においては、送達装置100を出る同伴蒸気を含むキャリアガスが、送達装置100から出るために、より蛇行した経路を移動しなければならないように、迷路110はより多くのリストリクター(または、他の障害物)を含むように配置されることができる。図4は、必要な場合に図2に認められる迷路の代わりに使用されることができたこのような迷路の1つを図示する。図4は、出口チャンバー120の床上に配置された2つのリストリクター118aおよび118bと共に、円錐セクション116の外側面上に配置された第3のリストリクター118cを示しており、この第3のリストリクター118cはリストリクター118aとリストリクター118bとの間の空間に突出している。この実施形態においては、円錐セクション116の下部はリストリクター118aの上部表面を含む面から突出している。出口チャンバー120の床から測定される場合に、別のリストリクター118bはリストリクター118aよりも高い場合がある。
【0034】
この配置は、円錐セクション116から広がる流体が、送達装置100を出るために、少なくとも4回以上方向変換、具体的には5回以上方向変換、より具体的には6回以上方向変換しなければならないようにする。キャリアガスおよび同伴される固体前駆体化合物の蒸気の移動の経路は図4において点線で示される。
【0035】
図5に示されるある実施形態においては、各リストリクターはキャリアガスの移動の経路に突出しているバッフルを備えて提供され、その結果、出口108への経路の長さを増大させる。例えば、リストリクター118aはその上に配置されたバッフル119aを有し、リストリクター118bはその上に配置されたバッフル119bを有し、一方で、リストリクター118cはその上に配置されたバッフル119cを有する。バッフル119aはリストリクター118aの軸に対して角度θで傾けられており、キャリアガスの経路内に突出している。バッフルは近づいてくるキャリアガスの経路の方に突出している。迷路内でのキャリアガスの流れにより引き起こされる遠心力は、より重い固体前駆体粒子を流れの場の外側に向けて移動させて、バッフルと接触させ、それによりそれらの速度を遅くし、それらが出口チャンバー120を出るのを妨げるであろう。キャリアガスおよび同伴される固体前駆体化合物の蒸気の移動の経路はこの場合も点線で示される。図4および5を比べると、キャリアガスの経路がバッフルの存在によって増大させられることが認められうる。
【0036】
図1〜5においては、キャリアガスは、固体前駆体化合物の蒸気を同伴し、それらを反応器に放出するために、送達装置100の頂部から底部に移動する。しかし、図4および5に示される設計においては、送達装置100は逆さまでも同様に操作されうる。これは図6に示される。
【0037】
固体前駆体化合物の蒸気を反応器に移送する有利な方法は、キャリアガスを送達装置の底部から頂部に移動させることである。キャリアガスが底部から頂部に移動する場合には、キャリアガスは、入ってくるキャリアガスと重力による力との間の競合する力に固体前駆体化合物がかけられるように固体前駆体化合物に一定の動きをさせる。この方法は、前駆体が受ける一定の攪拌のせいで、固体前駆体化合物を貫通するチャンネル形成の可能性を低減させる。それは、長時間にわたって比較的高濃度での固体前駆体化合物の蒸気の均一な送達の連続した一定の供給も可能にする。
【0038】
図6は、キャリアガスを送達装置100の底部から頂部に移動させつつ、固体前駆体化合物の蒸気を運び出す1つの方法を図示する。図6においては、入口104は送達装置100の第2の末端204上に配置され、一方、出口108は送達装置の第1の末端202上に配置される。送達装置は入口チャンバー114および出口チャンバー120を含む。入口チャンバーおよび出口チャンバーの双方は固体前駆体化合物を収容する。充填口106は第1の末端202上に配置され、この充填口から入口チャンバーおよび出口チャンバーは充填および再充填される。
【0039】
出口チャンバー120は複数のリストリクター118a、118bおよび118cを含み、これらリストリクターは同心円的に並べられており、同伴した固体前駆体化合物の蒸気を含むキャリアガスが、送達装置100を出るために、ジグザグの様式で移動するのを可能にする。リストリクターは、あるいは、図6に認められるような出口チャンバー120の天井および円錐セクション116上に配置される。例えば、第1のリストリクター118aおよび第3のリストリクター118bは出口チャンバー120の天井に配置されており、一方、第2のリストリクター118cは円錐セクション116の表面上に配置されている。第2のリストリクターは第1のリストリクターと第3のリストリクターとの間にあり、第1のリストリクターと第3のリストリクターとの間の空間に突出している。この突出は同伴した固体前駆体化合物の蒸気を含むキャリアガスを少なくとも2回方向変換させ、各方向変換は方向を変換する前の平均移動方向から約120度以上の角度で移動することを伴う。これら方向変換は固体粒子が迷路において捕捉されることとなるようにし、同時に、キャリアガス(同伴蒸気を含む)は固体前駆体化合物の固体粒子を含まずに出口チャンバー120を出る。この実施形態においては、円錐セクション116の頂部端はリストリクター118aの下面を含む面から突出している。
【0040】
送達装置100並びに入口104および出口108は、キャリアガスもしくは固体前駆体化合物によって劣化せず、ひいてはキャリアガスもしくは固体前駆体化合物の組成を変化させない材料から製造されうる。その材料が操作温度および圧力に耐えることも望ましい。送達装置は好適な材料、例えば、ガラス、ポリテトラフルオロエチレンおよび/または金属などから製造されうる。ある実施形態においては、送達装置は金属から構成される。典型的な金属には、ニッケル合金およびステンレス鋼が挙げられる。好適なステンレス鋼にはSS304、SS304L、SS316、SS316L、SS321、SS347およびSS430が挙げられる。典型的なニッケル合金には、限定されないがINCONEL、MONELおよびHASTELLOYが挙げられる。
【0041】
様々なパッキング材料112が送達装置100に使用されうるが、ただしパッキング材料は固体前駆体化合物およびシリンダーに対して、使用条件下で不活性である。概して、パッキング材料が流動性であることが望ましい。例えば、固体前駆体化合物がシリンダーから枯渇すると、シリンダー内の固体前駆体化合物の量が低下するであろうし、パッキング材料は、前駆体化合物層の表面における何らかのくぼみを満たすように流れる必要がある。好適なパッキング材料には、セラミックス、ガラス、クレイ、有機ポリマーおよび上述の少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。好適なセラミックパッキング材料の例にはアルミナ、シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ホウケイ酸塩、アルミナケイ酸塩、および上述の少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。
【0042】
ある実施形態においては、パッキング材料はニッケルのような元素金属またはステンレス鋼のような金属合金ではない。パッキング材料には、非金属元素と組み合わせられた金属を含む他の材料および前駆体化合物が挙げられる。別の実施形態においては、パッキング材料として使用される有機金属化合物は前駆体化合物と同じであることができる。例えば、粉体である固体前駆体化合物は圧縮されてペレットを形成することができる。ペレット化された前駆体化合物は同じ前駆体化合物(ペレット化形態ではない)の層上のパッキング材料として使用されうる。
【0043】
別の実施形態においては、安定化剤のような追加の利点を提供するパッキング材料が使用されることができ、ただし、パッキング材料は使用条件下で固体前駆体化合物およびシリンダーに対して不活性である。典型的な安定化剤には、これに限定されないが、酸素スカベンジャー(ゲッター)、熱安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、フリーラジカルスカベンジャー、およびタギング(マーキング)剤が挙げられる。好適なゲッター材料には、ナトリウム、カリウム、リチウム、アルミニウム、インジウム、ガリウム、マンガン、コバルト、銅、バリウム、カルシウム、ランタン、トリウム、マグネシウム、クロムおよびジルコニウムのような酸素反応性金属の化合物を含む化合物および配合物が挙げられる。
【0044】
ある実施形態においては、安定化剤は非極性および不揮発性であるイオン性塩の種類のメンバーであり、例えば、有機アルミニウムと混合されたテトラオルガニルアンモニウム化合物;アルミニウムの塩、インジウムの塩、およびガリウムの塩;有機リチウム;マグネシウム、ジルコニウムおよびランタンの有機リチウムメタロセン;金属ベータ−ジケトナート、例えば、アルミニウム、インジウム、ガリウム、バリウム、ストロンチウムおよび銅のジピバロイルメタナト(dpm)化合物;並びに、アルミニウム、インジウム、ガリウム、バリウム、ストロンチウムおよび銅のヘキサフルオロアセチルアセトナト(hfac)化合物である。パッキング材料は安定化剤を含むことができ、または安定化剤自体であることができる。
【0045】
パッキング材料は様々な形状、例えば、ビーズ、ロッド、チューブ、馬蹄形、リング、サドル、ディスク、ソーサーなどのいずれか、または他の好適な形態、例えば、針状、十字形、およびらせん形(コイルおよびスパイラル)のいずれであってもよい。所望の場合には様々な形状の組み合わせが使用されうる。パッキング材料は概して様々なソースから市販されている。パッキング材料はそのまま使用されうるが、それは使用前に洗浄されうる。
【0046】
0.05ミリメートル(mm)以上、例えば、5mm以下、またはそれより大きいなどの様々なサイズ(例えば、直径)を有するパッキング材料が使用されうる。パッキング材料についてのサイズの好適な範囲は0.1〜5mmである。パッキング材料は均一なサイズのものであってよく、または複数のサイズの混合物であってよい。ある実施形態においては、パッキング材料のサイズは固体前駆体化合物の粒子サイズと実質的に同じであるように、すなわち、パッキング材料の平均サイズが前駆体化合物の平均粒子サイズの25%以内であるように選択される。ある実施形態においては、パッキング材料の平均サイズは前駆体化合物の粒子サイズの20%以内、より具体的には15%以内、さらにより具体的には10%以内である。
【0047】
キャリアガスがまずパッキング材料を通過し、その後固体前駆体化合物を通過するするような様式でパッキング材料は送達装置内に配置される。送達装置100内でのキャリアガスの流れが頂部から底部(図1に示されるように)である場合には、前駆体化合物は概して、固体前駆体化合物の層を送達装置に導入し、次いで固体前駆体化合物層の表面上にパッキング材料の層を堆積させることによって準備される。
【0048】
一方で、送達装置100内のキャリアガスの流れが底部から頂部(図6に示されるように)である場合には、前駆体化合物は概して、パッキング材料の層を送達装置内に導入し、次いでその装置内に固体前駆体化合物の層を導入することにより準備される。
【0049】
固体前駆体材料は何らかの好適な手段によって送達装置に入れられうる。同様に、パッキング材料は何らかの好適な手段によって固体前駆体化合物上で層にされうる。固体前駆体化合物がフリット化される場合(これは以下に論じられる)には、パッキング材料はフリット化工程前、工程中、または工程後に加えられうる。別の実施形態においては、固体前駆体化合物とパッキング材料との双方を送達装置に導入し、次いでキャリアガスの流れ方向に従って、固体前駆体化合物に対して上流にパッキング材料を存在させる条件に送達装置をかけることによって前駆体組成物が準備される。
【0050】
固体前駆体化合物:パッキング材料の体積比は広範囲にわたって変化することができ、例えば、10:1〜1:10である。ある実施形態においては、この体積比は1:4〜4:1の範囲である。
【0051】
キャリアガスは固体前駆体化合物と反応しない限りは、あらゆる好適なキャリアガスが送達装置100と共に使用されうる。キャリアガスの具体的な選択は様々な要因、特に、使用される前駆体化合物および使用される具体的な化学蒸着システムに応じて変化する。好適なキャリアガスには、水素、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。キャリアガスは既存のシリンダーと共に様々な流速で使用されうる。このような流速はシリンダー断面寸法と圧力との関数である。より大きな断面寸法は、所定の圧力でのより高いキャリアガスフロー、すなわち、線速度を可能にする。例えば、シリンダーが5センチメートル(cm)の断面寸法を有している場合には、500標準立方センチメートル(sccm)以下、およびそれより大きいキャリアガス流速が使用されうる。シリンダーに入る、シリンダーを出る、またはシリンダーに入りおよびシリンダーから出る双方のキャリアガスフローは制御手段によって調節されうる。従来の制御手段、例えば、手動で作動させられる制御バルブまたはコンピューターで作動させられる制御バルブが使用されうる。
【0052】
上述のように、固体前駆体化合物は送達装置の入口チャンバーおよび出口チャンバー内に収容される。このような固体前駆体化合物は前駆体化合物蒸気のソースである。蒸気送達システムに使用するのに好適な固体前駆体化合物は送達装置内で使用されうる。好適な前駆体化合物には、インジウム化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物、ガリウム化合物および上記化合物の少なくとも1種を含む組み合わせが挙げられる。
【0053】
典型的な前駆体化合物には、トリアルキルインジウム化合物、例えば、トリメチルインジウム(TMI)およびトリターシャリーブチルインジウム;トリアルキルインジウム−アミン付加物;ジアルキルハロインジウム化合物、例えば、ジメチルクロロインジウム;アルキルジハロインジウム化合物、例えば、メチルジクロロインジウム;シクロペンタジエニルインジウム;トリアルキルインジウム;トリアルキルアルシン付加物、例えば、トリメチルインジウム−トリメチルアルシン付加物;トリアルキルインジウム−トリアルキル−ホスフィン付加物、例えば、トリメチルインジウム−トリメチルホスフィン付加物;アルキル亜鉛ハライド、例えば、エチル亜鉛ヨージド;シクロペンタジエニル亜鉛;エチルシクロペンタジエニル亜鉛;アラン−アミン付加物;アルキルジハロアルミニウム化合物、例えば、メチルジクロロアルミニウム;アルキルジハロガリウム化合物、例えば、メチルジクロロガリウム;ジアルキルハロガリウム化合物、例えば、ジメチルクロロガリウム、およびジメチルブロモガリウム;ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg);四臭化炭素;金属ベータ−ジケトナート、例えば、ハフニウム、ジルコニウム、タンタルおよびチタンのベータ−ジケトナート;金属ジアルキルアミド化合物、例えば、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム;ケイ素化合物およびゲルマニウム化合物、例えば、ビス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)ゲルマニウムが挙げられる。上記前駆体化合物においては、用語「アルキル」は(C−C)アルキルをいう。前駆体化合物の混合物が本送達装置において使用されうる。
【0054】
場合によっては、固体前駆体化合物はフリット化されうる。本明細書において使用される場合、「フリット化」とは固体前駆体化合物の融合をいう。送達装置内の固体前駆体化合物のフリットは気相中でより一貫した安定な濃度の前駆体化合物を可能にし、および他の従来技術もしくは他の市販の装置と比較してシリンダーからの固体前駆体化合物のより良好な枯渇をもたらすことが見いだされている。「固体前駆体化合物のフリット」とは、実質的に平坦な上面を有し、かつキャリアガスがケーキを通過できるのに充分な多孔度を有する固体前駆体化合物の融合ケーキをいう。一般に、固体前駆体化合物のフリットが最初に形成される場合には、フリットはシリンダーの内側寸法に一致し、すなわち、そのフリットは入口チャンバーの内側寸法に実質的に等しい幅を有する。フリットの高さは使用される固体前駆体化合物の量に応じて変化するであろう。
【0055】
フリット化は、実質的に平坦な表面を有する固体前駆体化合物のフリットを提供する条件に固体前駆体化合物をかけることによって達成される。一般に、固体前駆体化合物はまずシリンダーに(例えば、入口チャンバーに)入れられ、このシリンダーは攪拌されて実質的に平坦な表面を有する固体前駆体化合物を提供し、次いで、固体前駆体化合物はフリット化されて、固体前駆体化合物のフリットを形成する。このようなフリット化工程は、場合によっては、加熱しつつ行われることができ、および好ましくは加熱しつつ行われる。別の実施形態においては、攪拌工程は加熱しつつ行われうる。攪拌はタッピング、バイブレーティング、回転、オシレーティング、ロッキング、ステアリング、加圧、電歪もしくは磁歪変換器によるバイブレーティング、またはシリンダーのシェイキングなどの任意の好適な手段によって行われることができ、前駆体化合物の平坦な上面を提供することができる。このような攪拌方法の組み合わせが使用されうる。
【0056】
加熱工程は固体前駆体化合物の分解温度未満の温度で行われる。ある実施形態においては、加熱工程は固体前駆体化合物の分解温度より5℃低い温度までで、より具体的には、固体前駆体化合物の分解温度より10℃低い温度までで行われる。例えば、トリメチルインジウムは約35〜約50℃の温度でフリット化されうる。このような制御された加熱は水浴、油浴、加熱空気、加熱マントルなどを用いて行われうる。フリット化工程は固体前駆体化合物をフリットに融合するのに充分な時間行われる。フリット化工程に使用される時間は、いくつかある因子の中で特に、使用される具体的な固体前駆体化合物、固体前駆体化合物の量、および使用される具体的な温度に応じて変動する。あるいは、フリット化工程は減圧下で行われうる。
【0057】
前駆体化合物フリットの具体的な多孔度は、いくつかある因子の中で特に、使用されるフリット化温度、使用される具体的な前駆体化合物および前駆体化合物の出発粒子サイズに応じて変動する。より小さな粒子の固体前駆体化合物は、概して、同じ固体前駆体化合物のより大きな粒子から形成されたフリットと比較してより小さな孔を有するフリットを提供する。本明細書において使用される場合、「孔」とは融合した固体前駆体化合物の粒子間の空間をいう。
【0058】
固体前駆体化合物の望まれる粒子サイズは様々な方法、例えば、結晶化、粉砕およびふるい分けによって得られうる。固体前駆体化合物は溶媒中に溶解され、そして冷却によって、非溶媒の添加によって、またはこれら双方によって結晶化されて、所望の粒子を提供することができる。粉砕は手動で、例えば、乳鉢および乳棒を用いて、または機械によって、例えば、粉砕ミルを用いることによって行われうる。固体前駆体化合物の粒子はふるい分けされて、実質的に均一な粒子サイズを有する固体前駆体化合物を提供することができる。このような方法の組み合わせが使用されて、所望の粒子サイズの前駆体化合物を得ることができる。別の実施形態においては、異なる粒子サイズを有する粒子を有する固体前駆体化合物が使用されうる。このような異なる粒子サイズの使用は様々な孔サイズを有する固体前駆体化合物のフリットを提供することができる。
【0059】
さらなる実施形態においては、固体前駆体化合物のフリットは多孔度の勾配、すなわち、孔サイズの勾配を含むことができる。このような孔サイズ勾配は、様々なサイズを有する固体前駆体化合物の粒子の勾配をフリット化することにより得られうる。このような勾配はサイズが増大(または減少)する粒子を逐次的にシリンダーに添加し;シリンダーを攪拌して平坦な表面を有する固体前駆体化合物を提供し;および固体前駆体化合物をフリット化することにより形成されうる。
【0060】
さらに他の実施形態においては、固体前駆体化合物のフリットは様々な孔サイズの領域を含むことができる。例えば、相対的に大きな孔サイズ、例えば、5μm(マイクロメートル)を有する領域、および相対的に小さな孔サイズ、例えば、2μmを有する領域を含むことができる。それぞれの領域の1つ以上が存在しうる。それぞれのこのような領域の2以上が存在する場合には、それぞれの領域は互いに交互にされうる。追加的に、さらに異なる孔サイズを有する1以上の他の領域が存在することができる。
【0061】
固体前駆体化合物のフリットにおける孔サイズは、1種以上の特定の多孔性形成助剤、例えば、有機溶媒または他の除去可能な薬剤によって制御されることもできる。前駆体化合物と反応しない有機溶媒が使用されうる。好適な有機溶媒には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アミン、エステル、アミドおよびアルコールが挙げられる。このような有機溶媒は固体前駆体化合物を溶解することを必要としていないが、固体前駆体化合物を溶解してもよい。ある実施形態においては、前駆体化合物および溶媒のスラリーがシリンダーに入れられる。スラリーの実質的に平坦な面が形成される。次いで、溶媒は除去され、固体前駆体化合物がフリット化される。フリット化工程の前、その間またはその後で溶媒が除去されうることが当業者に認識されているであろう。
【0062】
ある実施形態においては、送達装置100を製造する一方法において、送達装置を形成するシリンダー形の囲いが最初に所望の寸法に機械加工される。送達装置100は好ましくはシリンダー形である(すなわち、その断面積が円形である)が、望まれる場合には、他の断面形状を有していてもよい。
【0063】
次いで、円錐セクション116は送達装置100内に配置される。円錐セクション116は送達装置100内に溶接されまたはねじ止めされうる。あるいは、円錐セクション116は、送達装置の端に第1の末端202または第2の末端204を配置する前に、送達装置100内に配置されるあらかじめ製造されたセクション(例えば、モジュラーインサート)を含むことができる。典型的なあらかじめ製造された円錐セクション300が図7において示されている。
【0064】
あらかじめ製造された円錐セクション300はフレーム140を含み、そのフレーム上にリストリクター118および円錐セクション116が配置される。フレーム140は3つ以上の支柱を含み、その支柱はU字型である。支柱の相対する複数の末端は円錐セクション116に取り付けられており、一方で、リストリクター118は支柱の水平部分に固定されている。ある実施形態(示されていない)においては、あらかじめ製造された円錐セクション300はU字型支柱の代わりにベースプレートを含んでいてもよい。このベースプレートは出口に対応した孔を有している。支柱の一方の端はベースプレートに取り付けられるが、他方の端は円錐セクション116に取り付けられる。リストリクター118はベースプレートに固定される。あらかじめ製造された円錐セクション300は、それがシリンダーの内側上に円錐セクション116を溶接するような面倒な製造プロセスを回避する点で有利である。あらかじめ製造された円錐セクション300は、第1もしくは第2の末端204が送達装置100に取り付けられた後で、シリンダー形送達装置100の中に落とし入れられるだけでよい。
【0065】
第1の末端202および/または第2の末端204は、次いで、場合によっては、シリンダー形送達装置上にその末端に配置される。あらかじめ製造された円錐セクション300が使用されない場合には、第1の末端202および/または第2の末端204を送達装置100の上に配置する前に、リストリクター118は望まれるように第1もしくは第2の末端上に配置されることができる。第1の末端202および/または第2の末端204を送達装置100上に配置する前に、円錐セクション116は送達装置内に配置されることもできる。
【0066】
第1の末端202および第2の末端204はシリンダー形送達装置100の末端に固定的にもしくは移動可能に取り付けられうる。ある実施形態においては、第1の末端202および第2の末端204はシリンダー形送達装置100の末端に溶接されうる。別の実施形態においては、第1の末端202および第2の末端204はシリンダー形送達装置の端部にネジ止めもしくはボルト止めされうる。送達装置が使用される態様に応じて、第1の末端202、もしくは第2の末端204、もしくは第1および第2の末端の双方上に充填口106が配置される。
【0067】
キャリアガスが頂部から底部に流れるようにされるであろう場合には、充填口を第1の末端202に配置することが望ましいが、一方で、キャリアガスが底部から頂部に流れるようにされるであろう場合には、第2の末端204に充填口を配置することが望ましい。別の実施形態においては、キャリアガスが頂部から底部に移動する場合には充填口106は第2の末端204に配置されることができ、一方で、キャリアガスが底部から頂部に移動する場合には充填口106は第1の末端202に配置されることができる。望まれる場合には、送達装置100を充填もしくは再充填することを容易にするために、充填口106は送達装置100の第1の末端202および第2の末端204上に配置されることもできる。
【0068】
次いで、キャリアガスの流れの方向に応じて、入口104および出口108が送達装置のそれぞれの末端上に配置される。キャリアガスが頂部から底部に流れる場合には、入口104は第1の末端202上に配置され、一方で、キャリアガスが底部から頂部に流れる場合には、入口104は送達装置100の第2の末端204上に配置される。それぞれの口はキャリアガスの流れを制御するためのバルブを有する。
【0069】
送達装置100を操作する一方法においては、固体前駆体化合物は送達装置内に配置されうる。固体前駆体化合物が粉体形態である場合には、それは充填口106を介して入口チャンバー114内に注ぎこまれうる。この粉体は入口チャンバー114に入り、そして円錐セクション116における開口を通って出口チャンバー120に流れこむ。円錐セクション116は、粉体がリストリクター118の内側に集まるようにするためのガイドとして機能する。リストリクター118の高さ「h」は出口チャンバーの床からの円錐セクション(図1を参照)の深さhよりも大きいので、この粉体はリストリクター118を超えて流れない。固体前駆体化合物が粉体ではなくて、固まりである場合には、この前駆体化合物の固体ブロックは入口チャンバー114内に直接配置されうる。
【0070】
固体前駆体化合物の必要量が送達装置100内に配置された後で、パッキング材料112がその固体前駆体化合物上に配置される。充填口106は次いで閉じられる。
【0071】
送達装置は所望の温度に平衡化されて、次いで、キャリアガスの流れが開始される。キャリアガスは入口104を通って入り、任意であるパッキング材料112を通って、次いで固体前駆体化合物を通り、ここで固体前駆体化合物の蒸気がキャリアガス中に同伴される。リストリクター118および迷路は前駆体化合物の固体粒子が送達装置100から出るのを妨げ、一方で同時に固体前駆体化合物の蒸気が送達装置を出て反応器に移動するのを可能にする。
【0072】
典型的な反応器は化学蒸着システムである。化学蒸着システムは堆積チャンバーを含み、この堆積チャンバーはその中で少なくとも1種の、および場合によっては多くの基体が配置される加熱容器である。堆積チャンバーは出口を有し、この出口はチャンバーから副生成物を抜き出しかつ好適な減圧を提供するために、典型的には真空ポンプと接続されている。金属有機化学蒸着(MOCVD)は大気圧もしくは減圧で行われうる。堆積チャンバーは気化した固体前駆体化合物の分解を引き起こすのに充分高い温度に維持される。堆積チャンバーは300〜1000℃の温度を有し、正確な温度は堆積を最適化するように選択される。基体が高温に維持されるか、またはラジオ周波数(RF)エネルギーのような他のエネルギーがRF源によって発生させられる場合には、場合によっては、堆積チャンバー内の温度は全体として低減されうる。
【0073】
堆積のための典型的な基体は、電子装置製造の場合には、サファイア(Al)、ケイ素、ガリウムヒ素およびインジウムホスフィドでありうる。他の物質を含む基体も好適に使用されうる。このような基体はLED、ダイオードレーザーおよび集積回路の製造に特に有用である。
【0074】
所望の特性を有する金属膜を生じさせることが望まれる限りは、堆積は継続される。ある実施形態においては、堆積が停止させられるときに、膜の厚みは数百から数千オングストローム、またはそれより大きくてもよい。
【0075】
本発明によって、送達装置が入口および出口、それらの間に配置された迷路を有する上記送達装置を提供し;キャリアガスを入口から送達装置に導入し;キャリアガスをパッキング材料および固体前駆体化合物を通して流し、前駆体化合物でキャリアガスを実質的に飽和させ;前駆体化合物で飽和したキャリアガスが出口を通って送達装置から出て、迷路はキャリアガスを少なくとも2回方向変換させ、その方向変換を行う前のキャリアガス(および同伴した固体蒸気)の平均方向に対して測定される場合、各方向変換は約120度以上の平均角度であり;基体を収容している反応器に前駆体化合物飽和キャリアガスを送達し;並びに、前駆体化合物を分解して基体上に膜を形成するのに充分な条件に前駆体化合物飽和キャリアガスをかけることを含む、膜を堆積させる方法も提供される。
【0076】
さらに別の実施形態においては、本発明は、伸長したシリンダー形部分を有する送達装置にキャリアガスを導入し;互いに流体連通しており、かつ円錐セクションによって部分的に分けられている入口チャンバーおよび出口チャンバー;入口チャンバーは入口と流体連通しており、キャリアガスはこの入口を通って導入され;出口チャンバーは迷路を介して出口と流体連通しており、この迷路は出口チャンバーの床上に配置されたリストリクターを含み;リストリクターの上面の全ての部分と接する面から円錐セクションが突出するようにリストリクターは円錐セクションの下部を囲んでおり;キャリアガスをパッキング材料と入口チャンバーおよび出口チャンバー内に収容されている固体前駆体化合物とを通して流し、固体前駆体化合物と接触させて、前駆体化合物でキャリアガスを実質的に飽和させ;飽和したキャリアガスが迷路を介して出口を通って送達装置から出て;基体を収容している反応器に前駆体化合物飽和キャリアガスを送達し;並びに、前駆体化合物を分解して基体上に膜を形成するのに充分な条件に前駆体化合物飽和キャリアガスをかける工程を含む、基体上に膜を堆積させる方法も提供する。
【0077】
本明細書において開示される設計は、それが長期間にわたって、キャリアガスに対して一定の比率の同伴した固体前駆体化合物の蒸気を供給することができる点で有利である。迷路は多孔質セクションが起こすような目つまりを起こさず、このことは固体粒子が出口から逃れ出るのを妨げることも意味する。よって、迷路の存在は、長期間にわたる固体前駆体化合物の蒸気の比較的高濃度での均一な送達を可能にし、その一方で、固体粒子が送達装置から反応器に移送されるのを妨げる。
【符号の説明】
【0078】
100 送達装置
104 入口
106 充填口
108 出口
110 迷路
112 パッキング材料
114 入口チャンバー
116 円錐セクション
118、118a、118b、118c リストリクター
119a、119b、119c バッフル
120 出口チャンバー
122 デフレクター
140 フレーム
202 第1の末端
204 第2の末端
300 あらかじめ製造された円錐セクション


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口、出口、入口チャンバー、および出口チャンバーを含む送達装置であって;
出口チャンバーは入口チャンバーに対して反対側に位置しており、かつ円錐セクションを介して入口チャンバーと流体連通しており;
出口チャンバーは迷路を含み、当該迷路は送達装置内に収容される固体前駆体化合物の粒子が送達装置から出るのを妨げ、一方で同時に、固体前駆体化合物の蒸気が出口を通って送達装置から出るのを可能にするように機能する;
送達装置。
【請求項2】
迷路がリストリクター、円錐セクションおよび送達装置の内壁によって形成されており、円錐セクションの一部分がリストリクターの表面を含む面から突出している、請求項1に記載の送達装置。
【請求項3】
出口チャンバーの床もしくは天井から測定した場合に、リストリクターの高さが円錐セクションの最も小さい直径での高さより大きい、請求項2に記載の送達装置。
【請求項4】
出口チャンバーが複数のリストリクターを含み、少なくとも1つのリストリクターが円錐セクションの表面上に配置されている、請求項3に記載の送達装置。
【請求項5】
リストリクターがバッフルをさらに含み、当該バッフルは入口から出口に移動するキャリアガスの経路に突出している、請求項4に記載の送達装置。
【請求項6】
入口から出口に移動するキャリアガスを迷路が2回以上方向変換させ;各方向変換が約120度以上の平均角度を通るものであり;方向変換は方向変換を行う前の移動の平均方向に対して測定されるものである、請求項1に記載の送達装置。
【請求項7】
リストリクターが円錐セクションを囲むリングである、請求項2に記載の送達装置。
【請求項8】
膜を堆積させる方法であって、
送達装置が入口および出口、それらの間に配置された迷路を有し、前記迷路はリストリクター、円錐セクション、および送達装置の内壁によって形成されており、円錐セクションの一部分は、リストリクターの表面を含む面から突出している、送達装置を提供し;
キャリアガスを入口から送達装置に導入し;
キャリアガスを固体前駆体化合物を通して流し、前駆体化合物でキャリアガスを実質的に飽和させ;前駆体化合物で飽和したキャリアガスは送達装置から出口を通って出て;迷路はキャリアガスを少なくとも2回方向変換させ、各方向変換は、方向変換を行う前のキャリアガスの平均方向に対して測定される場合、約120度以上の平均角度であり;
前駆体化合物を伴うキャリアガスを、基体を収容している反応器に送達し;並びに、
前駆体化合物を分解して基体上に膜を形成するのに充分な条件に前駆体化合物をかける
ことを含む、膜を堆積させる方法。
【請求項9】
キャリアガスが送達装置を頂部から底部に通って流れる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
キャリアガスが送達装置を底部から頂部に通って流れる請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−52226(P2012−52226A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−169725(P2011−169725)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】