説明

送電系統用の事故特定装置

【課題】CT三次巻線の電流が記憶されていない送電系統の事故特定装置に適用する。
【解決手段】系統の設備データに基づき、各区間で仮想する事故点の電圧・電流算出用の固定マトリックスと事故時の零相電流を算出するための全系零相アドミッタンスYを計算する事前手段11と、各区間の事故模擬により計算した零相電流の1、2L分流比マトリックスH0を計算して記憶する事故模擬計算手段12と、事故時にサンプリングを使用して事故点の零相電流を計算し、これに1、2L分流比を乗じ、1、2L分流を求め、正常なCT値を使用して非線形連立方程式を解き、事故区間、事故回線、事故地点を特定する事故時計算手段15を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並行2回線区間を有する送電系統に適用することができる送電系統用の事故特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線において、事故点位置を精度よく標定することができるマトリックス方式の事故特定装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
このものは、例えば並行2回線の特別高圧送電線に対し、キルヒホッフの第1法則、第2法則を適用して基本式を定立し、マトリックス計算により事故点位置を高速標定する技術であり、事故点位置を標定するフォルトロケータ装置や、事故時の系統擾乱に関する事故データ収集用のオシロ装置などに加えて、事故区間を除去するための遮断器操作用のリレーと組み合わせ、保護リレー装置としても十分実用可能な精度と応答性とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−124297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
送電用事故特定装置は送電線引出口に設置されたPT、CT計測値を記憶し、事故様相を特定するものである。77kV以下の中性点抵抗接地系送電線は地絡電流が少ないために、CTは二次、三次巻線で構成され、通常二次残留回路が開放され、零相電流は三次デルタ回路に流れる結線となっている。下位系送電線にはコストパフォーマンスの面からCT三次回路の電流をオシロ装置で記憶しないケースがある。このような送電線のCT計測値は零相電流が欠落したものとなり、送電線事故の2/3を占める地絡事故の特定は不能となり、事故特定装置を設置する意味がほとんどなくなる。
【0006】
そこで、この発明の目的は、PT計測値と系統零相アドミッタンスから地絡事故電流を算出し、事故区間、事故回線、事故地点を仮想した模擬結果から1、2L の分流比を計算し、欠落した零相電流を補完し、事故を標定することができる送電系統用の事故特定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためのこの発明の構成は、系統の設備データに基づき、各区間の仮想する事故点の事故点電圧、事故点電流算出用の固定マトリックスを作成し、記憶させる事前計算手段と、各区間の事故模擬により計算した零相電流の1、2L 分流比マトリックスを作成し、記憶させる事故模擬計算手段と、データサンプリングごとに作動し、計測端の電圧、電流をサンプリングして更新記憶させる常時監視手段と、事故発生時に常時監視手段によって起動される事故時計算手段とを備えてなり、事前計算手段は各区間の事故点を想定し、固定マトリックスを作成すると共に、系統側の零相アドミッタンスを設定し、事故時計算手段は事前計算手段によって記憶される固定マトリックスと、常時監視手段によって収集される事故時のサンプリングデータとを使用して零相電流を計算し、これと1、2L 分流比マトリックスから1、2L 零相電流を推定し、CT値を補完し、このCT値を使用して非線形連立方程式を解き、事故区間、事故回線、事故地点を特定することをその要旨とする。
【0008】
なお、事故模擬計算手段において、零相電流の1、2L 分流比マトリックスは事故区間、事故回線、事故地点を仮想し、事故模擬計算から作成することができる。
【0009】
事故時計算手段は事故区間における事故点位置を複数個仮想し、仮想した地点と計算結果の差が零となる地点を事故地点として特定することができる。
【発明の効果】
【0010】
送電線用CTの三次巻線電流が使えないと二次巻線電流のみとなり、零相電流がすべて欠落したことになる。これを補完するため、まず、全系の零相アドミッタンスにPT値から求めた零相電圧を乗じ、事故点の零相電流の合計値を求める。次に、事故区間、事故回線、事故地点を仮想した事故模擬計算から求めた1、2L 分流比を乗じ、1、2L の零相電流を求め、CT二次巻線電流に加算し、CT値を補完することができる。
【0011】
送電線の事故特定の基本式は非線形連立方程式になるので、事故区間、事故地点(KF :事故区間における事故地点の相対位置)を仮想した固定マトリックスを準備しておく。この固定マトリックスと計測データ(PT値、補完したCT値、負荷電流)の演算で事故点KA を求め、KA とKF の差が零となるK値を解とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】全体構成ブロック系統図
【図2】プログラムフローチャート(1)
【図3】プログラムフローチャート(2)
【図4】プログラムフローチャート(3)
【図5】プログラムフローチャート(4)
【図6】計算内容説明図(1)
【図7】計算内容説明図(2)
【図8】計算内容説明図(3)
【図9】計算内容説明図(4)
【図10】計算内容説明図(5)
【図11】計算内容説明図(6)
【図12】計算内容説明図(7)
【図13】計算内容説明図(8)
【図14】計算内容説明図(9)
【図15】計算内容説明図(10)
【図16】計算内容説明図(11)
【図17】計算内容説明図(12)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面をもって発明の実施の形態を説明する。
【0014】
零相電流補完形の送電系統用の事故特定装置10は事前計算手段11、事故模擬計算手段12、常時監視手段14、事故時計算手段15を備えてなる(図1)。ただし、事故特定装置10は、並行2回線区間を有する送電系統を対象とするフォルトロケータ装置、オシロ装置として使用するものとする。
【0015】
事前計算手段11には、図示しないデータ入力装置を介し、保護対象となる送電系統の設備データが入力されている。事故模擬計算手段12には、設備データと事故仮想データが入力されている。また、事前計算手段11と事故模擬計算手段12の出力は、それぞれ記憶手段13に接続され、記憶手段13の出力は、事故時計算手段15に接続されている。
【0016】
常時監視手段14の出力は、記憶手段13、事故時計算手段15に個別に接続されている。また、事故時計算手段15の出力は、例えばプリンタ装置、ディスプレー装置などを含む出力手段16に接続されている。なお、常時監視手段14には、送電線の計測端に設ける電圧変成器PT、電流変成器CTの他、テレメーターTMの各計測値が入力されている(図6のモデル系統図)。ただし、図6のモデル系統図には、非計測端の負荷WL のデータを収集するテレメーターTMが併せて図示されている。また、図6〜図17には事前計算手段11、事故模擬計算手段12、常時監視手段14、事故時計算手段15によって実行される一連の計算内容の技術的根拠が数式により詳細に説明されている。
【0017】
事前計算手段11は、送電系統の設備データが入力されると、図2のプログラムフローチャートに従って作動する。
【0018】
すなわち、プログラムは、設備データの入力データを保存すると(図2のプログラムス



て、送電系統の設備データによって決まり、区間毎に算出される(2)。



量で決まる固定データである。プログラムはその後、固定マトリックスと固定データを記憶手段13に出力して記憶する(3)。
【0019】
事故模擬計算手段12は送電系統の設備データと事故仮想データが入力され、仮想した事故区間、事故回線、事故地点に対して事故模擬計算を行い(図3の(2))、CT設置点の零相電流の1、2L 分流比H0 を求め、記憶手段13に出力して記憶する(3)。
【0020】
常時監視手段14は、例えば系統電圧波形の30°ごと、即ち系統周波数の10倍以上の高頻度に設定されるデータサンプリングごとに起動され、図4のプログラムフローチャートに従って作動する。
【0021】
プログラムは、まず、電圧変成器PT、電流変成器CTの各計測値、即ち計測端の電圧VPT、電流ICTと、テレメーターTMを介して収集される非計測端の負荷WL を読み取って、サンプリングデータとして入力し(図4のプログラムステップ(1)、以下単に(1)のように記す)、それらのサンプリングデータを記憶手段13に出力して記憶させる(2)。続いてプログラムは送電系統内に事故が発生しているか否かを判別し(3)、事故発生の時は、事故時計算手段15を起動して終了する(4)。また、事故発生でないときは(3)、そのまま終了し、次回の起動に備えて待機する。ただし、記憶手段13には、事故前の電圧VPT、電流ICT、負荷WL 用のメモリエリアとして、少なくとも系統周波数の1サイクル分相当が用意されており、従って、プログラムはデータサンプリング毎にサイクリックに作動することにより、少なくとも事故直前の過去の1サイクル分のサンプリングデータを記憶手段13に順次更新記憶させることができる。
【0022】
事故時計算手段15は、常時監視手段14のプログラムステップ(4)によって起動されると、図5のプログラムフローチャートに従って作動する。ただし、図5のプログラムステップ(1)〜(12)は、事故時計算手段15に対応しており、プログラムステップ(13)は、出力手段(16)に対応している。
【0023】


L を記憶手段13から読み出して入力する(図4のプログラムステップ(1)、以下、単に(1)のように記す)。ただし、負荷WL は事故発生から系統周波数の1サイクル前のデータを記憶手段13から読み出すものとする。また、電圧VPT、電流ICTは、事故発生から例えば位相角90°相当程度の時間経過後のデータを読み出すものとする。
【0024】
その後、プログラムは電圧VPT、電流ICTをフーリエ変換してベクトル値としての電圧VPT、電流ICTを求め(2)、負荷WL から潮流計算によってベクトル値としての負荷電流IL を推定する(3)。
【0025】
続いてプログラムは、零相電流補完(4)の処理に入り、図13の(4.4)式によって零相電流I0 を推定し、CT三次巻線不使用の第一段対策をする。
【0026】
CTの三次巻線で計測される零相電流は回線毎であり、プログラムステップ(4)で補完されたI0 を1、2L に配分する必要がある。この分流比は事故を仮想して予め求められているテーブルH0 (NS 、n、iK )に記憶されており、この値にI0 を乗じて1、2L のI0 分I0n(1) 、I0n(2) を求める(8)。つづいてCT二次巻線計測値ICT2 にI0n(1) 、I0n(2) を加算し、補完されたCT値ICT(i) を作成する(9)。ここで、iは相番号を表している。
【0027】


演算でK値を求め、事故線の平均値KA を得る(図16の(5.12)式)。当初仮想したK値のKF との差を誤差EK (NS 、n、iK )としてプログラムステップ(6)、(7)を繰り返し計算する。
【0028】
その後プログラムは、プログラムステップ(11)において、KA とKF の誤差EK (NS 、n、iK )を零とするK値を図17の補間法によって求め、それを区間での解KS(NS) とする。
【0029】
S は区間毎に求まり、プログラムステップ(12)の判定で事故区間候補を絞り込むことができる。多端子送電線の分岐点近傍の事故は複数解となるから候補と呼ぶことにする。
【0030】
プログラムはその後、計算結果の事故区間、事故回線、事故の位置Kをディスプレーやプリンタに出力し(13)、演算を終了する。
【0031】
この発明の技術的特長をまとめると、次のとおりである。

0 を乗じて推定している。
b.事故様相を予め与え、仮想した区間、回線、事故地点(K値)に対し、1、2L の I0 配分率H0 を乗じ、1、2L の零相電流をI0n(1) =H0(1)・I0 、I0n(2) =H0(2)・I0 で求め、I0 の欠落したCT値を補完している。
c.I0 を補完し、方程式で解いたKA と当初仮想したKF の差が零となるK値を区間 の解KS としているので、標定誤差が低減されている。
【符号の説明】
【0032】
PT…電圧
CT…電流
0 …零相電圧
0 …零相電流
L …負荷


0 …1、2L 分流比
11…事前計算手段
12…事故模擬計算手段
14…常時監視手段
15…事故時計算手段

特許出願人 株式会社 キューキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統の設備データに基づき、各区間の仮想する事故点における事故点電圧、事故点電流算出用の固定マトリックスを作成し、記憶させる事前計算手段と、各区間の事故模擬により計算した零相電流の1号線、2号線(以降、1、2L と表現)分流比マトリックスを作成し、記憶させる事故模擬計算手段と、データサンプリング毎に作動し、計測端の電圧、電流をサンプリングして更新記憶させる常時監視手段と、事故発生時に前記常時監視手段によって起動される事故時計算手段とを備えてなり、前記事前計算手段は各区間の事故点を想定し、固定マトリックスを作成すると共に、系統側の零相アドミッタンスを設定し、前記事故時計算手段は前記事前計算手段によって記憶される固定マトリックスと、前記常時監視手段によって収集される事故時のサンプリングデータを使用して零相電流を計算し、これと1、2L 分流比マトリックスから1、2L 零相電流を推定し、CT値を補完し、このCT値を使用して非線形連立方程式を解き、事故区間、事故回線、事故地点を特定することを特徴とする送電系統用の事故特定装置。
【請求項2】
前記事故模擬計算手段において、零相電流の1、2L 分流比マトリックスは事故区間、事故回線、事故地点を仮想し、事故模擬計算から作成することを特徴とする請求項1記載の送電系統用の事故特定装置。
【請求項3】
前記事故時計算手段は事故区間における事故点位置を複数個仮想し、仮想した地点と計算結果の差が零となる地点を事故地点として特定することを特徴とする請求項1記載の送電系統用の事故特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−31332(P2013−31332A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167156(P2011−167156)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000164391)九電テクノシステムズ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】