説明

送電設備などにおける架線方法

【課題】静電誘導電流が生じやすい環境下で延線工事を行っても、繊維ロープからなる工事用ロープの静電誘導電流による焼損、切断を回避することでき、安全に架線工事を行える方法を提供する。
【解決手段】架線工事にあたり、高強力繊維で構成され両端に連結用部を形成した短尺繊維ロープ本体の全体に継ぎ目なしの防水樹脂被覆を施してなる防水型柔軟性絶縁継手を使用し、該柔軟性絶縁継手を、繊維ロープからなる工事用ロープライン中に介在させることで誘導電流を縁切りして延線を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送電設備などにおける架線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電設備における架線工事、たとえば変電所に電線を引き込んだり、鉄塔間に電線等を架設したりする場合、メッセンジャーロープ、パイロットロープなどと称される工事用ロープを一端側(ドラム側)から他端側(エンジン側)に渡し、これを引き取って延線すべき電線等を全径間に渡らせるようにしている。この工事用ロープには高強力繊維ロープが使用され、径間が長いときにはロープ相互を接続して延長させている。
【0003】
かかる工事用ロープは繊維で構成されているので電気絶縁性を有している。したがって、メッセンジャーロープ、パイロットロープなどとして使用した際、近くに平行して走っている別の鉄塔の電線や、当該鉄塔の左右に走る電線など活線状態の電線が近くに存在していても、乾燥時においては、静電誘導電流、電圧が発生しないので、これによる問題はない。
しかし、この種の工事用ロープは、靜索でなく動索として使用され、延線経路において鉄塔金車、吊金車などを通過する際に摩擦を受け、また延線車や架線車においてドラムに懸回されることで曲げと摩擦を受ける。このため、繊維がダメージを受けて強度の低下が起きたり、構造に乱れが生じやすい状況におかれる。
【0004】
このため、延線作業中に雨が降ったり、延線作業が高湿度条件や海岸付近の塩分濃度の高い条件などで行われたような場合に、工事用ロープが湿潤し、これにより水を介して大きな静電誘導電流が発生し、ロープにアークが走り、ロープ構成繊維が高温加熱されて焼損し、それによりロープが切断される重大事故が発生することがあった。
この誘導電流対策として有効な方策がなく、従来では工事用ロープを厳重にチェックして頻繁にて新たなものと交換し、降雨が予想される場合には工事を見合わせるといった方法しかなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、静電誘導電流が生じやすい環境下で延線工事を行っても、繊維ロープからなる工事用ロープの静電誘導電流による焼損、切断を回避することでき、安全に架線工事を行える方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、架線工事にあたり、高強力繊維で構成され両端に連結用部を形成した短尺繊維ロープ本体の全体に継ぎ目なしの防水樹脂被覆を施してなる防水型柔軟性絶縁継手を使用し、該柔軟性絶縁継手を、繊維ロープからなる工事用ロープライン中に介在させることで誘導電流を縁切りして延線を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
防水型柔軟性絶縁継手は両端に連結用部を有しているため工事用ロープラインの所望の箇所に容易に介装接続することができ、かつ継手は柔軟性を有し、曲げることができるので、延線経路にある鉄塔金車、吊金車などの金具を円滑に通過することができる。
そして、柔軟性絶縁継手は、両端の連結用部を含む全長が継ぎ目なしの防水樹脂被覆を外層として備えているので良好な碍子機能を発揮し、繊維ロープ製の工事用ロープライン中に水分が浸入して湿潤し、活線状態の他の電線から誘導電流が当該ロープに沿って流れても、前記柔軟性絶縁継手の箇所で電気的に縁が切られるので、ラインを構成している他の工事用ロープには誘導電流が流れなくなる。したがって、工事用ロープの加熱による焼損や切断事故が適切に防止され、安全に延線工事を行えるというすぐれた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
短尺繊維ロープ本体は、好適には編組(組紐)構造からなる。これによれば、撚り構造ロープの場合に比べて外面の凹凸が少ないので外層の防水樹脂被覆と一体化しやすく、また、自転しないので、接続した工事用ロープにねじれを生じさせず、鉄塔金車、吊金車などの金具を円滑に通過することができ、また、防水樹脂被覆があるためによりキンク、型崩れも防止される。
【0009】
短尺繊維ロープ本体は、1本のロープの両端にアイをプライスしたロープか、1本のロープをエンドレス加工したロープのいずれかである。
前者によれば、継手径を細くできるので曲げやすくなり、ドラム等に対する巻回がスムーズになる。後者によれば、素材ロープ径を細くすることができ、それが平らに平行に並ぶので見かけ上の継手径が小さくなり、それでいてアイは細めの1本のロープで構成されるので、連結用などの金具として小さい寸法のものが使用可能となる。
【0010】
好適には、電気絶縁性防水樹脂被覆はウレタン系樹脂をスプレーして作られたものである。
これによれば、被覆樹脂がウレタン系であるため耐摩耗性、耐候性が良好であり。また、常温で被覆を行え、短尺繊維ロープ本体の柔軟性を損なわないように全体、全長に継ぎ目のない防水被覆を比較的簡易に形成することができる。
【実施例1】
【0011】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1ないし図3は本発明に使用する柔軟性絶縁継手の第1の例を示し、図4と図5は、柔軟性絶縁継手の第2の例を示している。
いずれも、両端に連結用部としてアイ1a、1aを形成した高強力繊維の編組構造からなる短尺繊維ロープ本体1と、前記アイ1a、1aを含めた外面全長を継ぎ目なしに被覆した電気絶縁性防水樹脂被覆層2とからなっており、アイ1a、1aを含めた全長は2500mm以下となっている。電気絶縁性防水樹脂被覆層2を含めた外径はたとえば10〜16mm、引張り強さは73.2〜112knである。
前記短尺繊維ロープ本体1の高強力繊維は、破断強度が20g/d以上、弾性係数500g/d以上の高強度低伸度特性を有するもので、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、全芳香族ポリエステル繊維(ポリアリレート繊維)などから選ばれる。
前記短尺繊維ロープ本体1は、前記繊維からなる原糸を集合したヤーンを集めて束にし、その束を平行に引きそろえるか甘い撚りをかけたストランド100を編組したもので、この例では表面の凹凸を少なくするため2×8打としているが、そのほか、2×4,2×6、1×8などであってもよい。
【0012】
第1の例では、短尺繊維ロープ本体1は1本のロープ素体(シングル)からなり、アイ1a、1aはロープ素体の両端をuターンさせ、解撚して主体側にアイスプライスして作られ、そのアイスプライス部分は糸で固縛するかあるいはテープを巻着するなどして平滑化部10を設けている。アイスプライスの代わりにストレートタックであってもよい。
第2の例では、短尺繊維ロープ本体1は、図4(b)のように、1本のロープ素体を2回uターンして端部をスプライスなどによりエンドレス加工し、左右のuターン部分を糸で固縛するかあるいはテープを巻着するなどして固縛部12を形成することでアイ1a、1aを形成し、それらアイ1a、1a間の2本のロープ部分1b,1bを平行に引き揃え、糸で固縛するかあるいはテープを巻着するなどして結束したものである。
【0013】
防水樹脂被覆層2は短尺繊維ロープ本体1の繊維に接着されて一体化し、アイ1aの分岐基端部分も繊維を露出させることなく十分覆っている。第2の例では、防水樹脂被覆層2は2本のロープ部分1b,1bを取り囲むように施される。
防水樹脂被覆層2は、電気絶縁性と耐磨耗性を良好に維持しつつ、柔軟性を損なわないような厚さたとえば1〜3mm程度から選択される。
防水樹脂被覆層2の樹脂は、熱可塑性でしかも短尺繊維ロープ本体1の繊維と接着性がよいこと、電気絶縁性、耐摩耗性、耐候性にすぐれた特性を有していることが好ましく、その例としては、ウレタン系樹脂やテフロン(登録商標)系樹脂などが挙げられる。
防水樹脂被覆層2はアイ1a、1aを形成した状態の短尺繊維ロープ本体1を包むように施されたもので、施す方法は任意である。
たとえば、短尺繊維ロープ本体1を金型に入れて樹脂を圧入する金型成形法や、樹脂を収容した槽中に短尺繊維ロープ本体1を浸漬する浸漬法などでもよいが、短尺繊維ロープ本体1を中空に保持した状態で周囲から吹付け手段によりスプレーする方法が推奨される。この場合、ウレタン系樹脂は溶剤型とりわけ2液混合型のものが好適であり、硬化剤を添加して吹付ければ常温で短時間で硬化して被覆層になるので、架線工事現場でも柔軟性絶縁継手を容易に作ることができる。
【0014】
本発明の柔軟性絶縁継手の具体例とその性能を示すと次のとおりである。
アラミド繊維を使用し、2×8打ちした短尺編組ロープの両端にアイをスプライス加工で作り、スプライス部分をアラミド繊維糸で固縛して全長2mの短尺繊維ロープ本体を得た。この短尺繊維ロープ本体の全体に2液混合型ウレタンをスプレーで吹付け、全長にわたり継ぎ目のない厚さ約2mmの防水樹脂被覆を施し、径12mm、14mm、および16mmの柔軟性絶縁継手とした。
【0015】
前記柔軟性絶縁継手の引張り試験を行った結果、12mm径試料は73.2kn、14mm径試料は98.1kn、16mm径試料は112knであった。
前記14mm径の柔軟性絶縁継手について一連の性能試験を行った。
(1)直線荷重負荷試験
2tfを6回負荷する直線荷重負荷試験を行った結果、異常がなかった。
(2)金車通過試験
前記直線荷重負荷試験を合格したものについて、金車通過試験を行った。
該試験は、図17のようなs曲げ試験機を使用し、a点からb点まで両端、または片端が通過するまで往復を繰り返す動作とし、シーブ(金車)の接触角度は90度以上とした。張力は4knとし、シーブ径は400mmφとし、速度は15往復/分以下、通過回数6往復(これは工事における飛び金車の24回通過に相当する)。
この試験を行った後、外観観察で判定したところ、損傷は見られなかった。
【0016】
(3)耐電圧試験
前記金車通過試験を合格したものについて、耐電圧試験を行った。
a.水道水浸漬形式
この試験手順は、1)柔軟性絶縁継手とこれを介在すべき繊維ロープ(アラミド繊維、2×8打ち、11.5mm径)を、全長を水槽に24時間漬ける。2)水槽から取り出した継手の両端に繊維ロープを接続する。3)図18のように、接続点から繊維ロープ側50cmの位置に電極を取り付ける。4)電極間に電圧85kvを10分間印加し、漏れ電流を測定する。5)試験後そのままの状態で外観を観察し、継手に亀裂、傷、穴、材質変化などの異常があるかの検査、および漏れ電流を測定する。試験用変圧器の過電流保護が作動した場合は電極間の導通があったことを意味し、不合格である。6)再度、表面が十分に濡れた状態にし、前記4)5)の試験を行う。7)上記4)〜6)の手順で20回繰り返す。
この結果、柔軟性絶縁継手は、電圧に耐え、有害な傷は見られず、試験中に沿面放電は確認できず、漏れ電流は50μa以下で、電極間の導通は生じなかった。このことから、きわめて良好な絶縁性能が得られることがわかる。
【0017】
b.塩水浸漬方式
前記水道水による耐電圧試験を経た柔軟性絶縁継手を5%塩水に24時間浸漬し、この柔軟性絶縁継手を水道水の耐電圧試験に準じた方法で耐電圧試験した。
その結果、沿面放電による電極間導通は全く生じず、傷もなかった。
以上のように、本発明の柔軟性絶縁継手は過酷な曲げに耐える柔軟性,耐疲労性を備えつつ、厳しい条件でもすぐれた絶縁性を発揮し、柔軟碍子として実用性が高いことがわかる。
【0018】
次に、柔軟性絶縁継手を使用した本発明の架線方法を説明する。以下において、柔軟性絶縁継手(前記第1例と第2例のいずれを含む)を符号3と表示する。
本発明は、架線工事に際して、繊維ロープからなる工事用ロープライン中に前記柔軟性絶縁継手3を少なくとも一箇所介在させ、その状態で延線を行うることで、工事用ロープが湿潤状態にあって静電誘導電流が流れても、静電誘導電流を柔軟性絶縁継手3の箇所で遮断し、それ以降には流れないようにすることを特徴としている。
【0019】
ここで、「架線工事」とは、延線工事が主であるが、防護設備工事も含む。
「工事用ロープ」は、通常、延線用ロープであるが、防護設備用のロープを含んでいる。
「延線用ロープ」の代表的なものとしては、手延線用ロープ、メッセンジャーロープ、パイロットロープ、付けロープ、連結ロープ、吊金車ロープ、支持線ロープなどが挙げられる。防護設備用のロープとしては、母線ロープ、横ロープ、展開ロープなどが挙げられる。
工事用ロープは、いずれも繊維ロープから構成されている。その繊維ロープは充電部接近作業に使用される種類のもので、材質的には、アラミドロープで代表される高強度繊維 (275〜1000kvの作業用)のほか、ナイロン繊維(66〜154kvの作業用)、ポリエステル繊維(154〜275kvの作業用)などが挙げられる。
【0020】
図6は本発明を引抜き工法に適用した例を示している。
架線すべき複数本の鉄塔tに金車wが設けられており、延線方向で上流のドラム場dに延線車aとリールワインダーbが設置され、延線方向で下流のエンジン場eには巻取型延線機cとリールワインダーb´が設置されている。
架線に当たっては、メッセンジャーロープないしパイロットロープとして工事用ロープがラインとして用いられ、通常では、リールワインダーbに巻収されている工事用ロープは延線機aのドラムに1回以上巻回されてから第1の鉄塔tの金車wに導かれ、これから順次下流の鉄塔の金車wに渡されて最終の鉄塔の金車wから、ガイドローラgを経て水平状になり、巻取型延線機cで1回以上巻回された後、リールワインダーb´に巻き取られる経路となる。リールワインダーbに巻回されている工事用ロープの端末に電線5が接続され、前記経路を経て鉄塔間に架線線が行われる。
【0021】
本発明は、前記工事用ロープ4aをラインとしてドラム場dからエンジン場eに前記経路で延線する際に、前記した柔軟性絶縁継手3を、両端のアイ1a、1aを介して所要長さの前後の工事用ロープ(単位ロープ)4a,4aの端部と接続し、工事用ロープライン4中に少なくとも1つ碍子として介在させるのである。
図7はその介在部分を示しており、接続手段として方向性のないコネクター8が使用される。該コネクター8は、長手方向に延びる突片80を有する自在継手部8aと、u状をなし前記突片80に組み合わされ、挿脱自在なピン8dで連結される第1金具部8bと、u状をなし基端側が自在継手部8aに挿脱自在なピン8eで連結される第2金具部8cとを備えており、第2金具部8cと第1金具部8bは90度位相が異なっている。
【0022】
工事用ロープ4aの端部のアイ40は、ピン8dが取り外されて分離された第1金具部8bに交合され、この状態でピン8dを挿入することで連結される。柔軟性絶縁継手3は、一端部のアイ1aがピン8eを取り外された状態の第2金具部8cに交合され、この状態でピン8eを挿入することで連結される。柔軟性絶縁継手3の他端部のアイ1aは同様に次のコネクター8のに連結され、該コネクターに次の工事用ロープ4aの端部が連結される。これで前後の工事用ロープ4a、4a間に柔軟性絶縁継手3が介在させられたことになる。ピンの挿脱とアイの交合操作ですむので、作業は簡単、迅速に行える。
以下の各工法においても柔軟性絶縁継手3と工事用ロープ4a、4aの接続は既述したものと同様であるから、説明は省略する。
【0023】
静電誘導電流は径間中央付近が零で両端の接地箇所(鉄塔など)が最大となる直線分布となるので、延線の終了時に鉄塔近傍に柔軟性絶縁継手3が位置するように挿入するのが好ましく、これは、工事用ロープライン4の間に1径間あたり2本以上介在させるのが適当である。
このときの柔軟性絶縁継手3の接続は、ドラム場dにおける延線車aとリールワインダーbの間で、先行する工事用ロープ4aの後端と後行の工事用ロープ4aの先端に対して行う。
工事用ロープ4aが長尺である場合には必要長さ位置で切断し、切り離された前後間に柔軟性絶縁継手3を介在させるが、予め介在位置が決まっていて、工事用ロープ4aがそれに応じた単位長さである場合には、単位長さの工事用ロープ4aの終わりと次の単位長さの工事用ロープ4aの始まりを介在箇所とすればよい。
【0024】
このようにして所定長さごとに柔軟性絶縁継手3を介在させた工事用ロープライン4は鉄塔の金車wを経由して延線され、柔軟性絶縁継手3はその柔軟性により鉄塔の金車wの曲げになじんで移動してゆく。そして、工事用ロープライン4は全径間を過ぎ、ガイドローラgから巻取型延線機cを経てリールワインダーb´に向うが、この巻取型延線機cとリールワインダーb´の間で前後の工事用ロープ4a,4aと柔軟性絶縁継手3の接続を解き、柔軟性絶縁継手3を撤去して、工事用ロープ4a,4aのみをリールワインダーb´に巻収する。
延線用の電線5は最後尾の工事用ロープ4aに直接接続されるか、あるいは、柔軟性絶縁継手3を介して工事用ロープaに接続され、工事用ロープで誘導されて全径間に架設される。
【0025】
このような状態で延線を行った場合、近傍に活線電線があり、しかも降雨などにより工事用ロープライン4が濡れて湿潤し、これを構成している工事用ロープ4aが部分的に擦過されていたりすると、ロープ内に水が浸透する。これにより静電誘導電流が工事用ロープ4aに沿って流れる。
工事用ロープライン4が一連である場合、ライン全体に静電誘導電流が流れて、ダメージを受けている箇所の繊維が加熱され、ラインの多数箇所で切断されて分断される危険がある。
これに対して本発明では、外面全長に継ぎ目なしに電気絶縁性防水樹脂被覆層2を有する柔軟性絶縁継手3が、工事用ロープライン4の一体長さごとに介在している。したがって、上流または下流の工事用ロープ4a、4aに誘導電流が流れても、柔軟性絶縁継手3で伝播が遮断され、それ以降には誘導電流が流れなくなり、ライン全体で弱い箇所が熱で切断されることがない。
【0026】
図8は本発明による柔軟性絶縁継手3を配置したときの静電誘導電流分布を模式的に示しており、iaは誘起静電誘導電流(ma/m),ieは許容静電誘導電流(ma)、xは鉄塔からの距離(m)、sは径間長(m)、aは柔軟性絶縁継手を用いない場合、bは柔軟性絶縁継手を用いた場合である。
前述したように、静電誘導電流は径間中央付近が零で両端の接地箇所(鉄塔など)が最大となる直線分布となるが、この図8から、柔軟性絶縁継手3をロープラインに配置した場合、誘起静電誘導電流を著しく低減できることがわかる。
柔軟性絶縁継手3を配置する場合の誘起静電誘導電流ia、許容静電誘導電流ieおよび鉄塔からの距離xの関係は、工事用ロープが防水型絶縁タイプでない場合、x=ie/ia(m)であり、この関係を満足するように工事用ロープライン4間に配置すればよいのである。
【0027】
いくつかの例を挙げると、電圧275kv、ロープに流れる誘起静電誘導電流ia:0.1120ma/mの場合,工事用ロープとしてアラミドを用いると、許容静電誘導電流ieは6.6ma以下であり、鉄塔から柔軟性絶縁継手3までの許容距離(最大距離)は29m以下である。
電圧500kv、ロープに流れる誘起静電誘導電流ia:0.1220ma/mの場合,工事用ロープとしてアラミド繊維を用いると、許容静電誘導電流ieは4.8ma以下であり、鉄塔から柔軟性絶縁継手3までの許容距離(最大距離)は20m以下である。
【0028】
図9は本発明を別の引抜き工法に適用した例を示しており、図6の例と異なる点は、柔軟性絶縁継手3の取り外し撤去位置と手段である。
すなわちこの例では、エンジン場eのガイドローラgの下流で、架線車cの外部またはその近傍にロープ仮把持器(カムラー)fを設け、これでガイドローラgを通過した柔軟性絶縁継手3の後端に近い工事用ロープ4aを把持し、柔軟性絶縁継手3との接続を解除する。
その他の構成と延線方法および柔軟性絶縁継手3の作用は記述した例と同様であるから、説明は援用する。
【0029】
なお、工事用ロープ4aの延線開始までの工程は、既知のものと同様である。
例を挙げると、グランドワイヤーや電線がない場合には、図10のように、第1ステップとして、ヘリコプターなどを使用して、ナイロンロープなどからなる先導ロープr1を鉄塔間に渡す。
次いで第2ステップとして、図11(a)のように、渡した先導ロープr1にリードロープr2とメッセンジャーロープをつないで延線し、この後端にグランドワイヤーgwをつないで塔頂に架設する。次いで、第3ステップとして、(b)のようにグランドワイヤーgwを利用して、搬器によりパイロットロープr3を延線し、これに本発明で対象とする工事用ロープ4aの始端をコネクタ8などで接続し、所要長さごとに柔軟性絶縁継手3を介在させ延線を行う。これが(c)の状態である。
【0030】
図12は本発明を吊金工法に適用した例を示しており、鉄塔t,t間の高位にある支持用の母線hに吊金車iを所定間隔ごとに吊持させ、それらの吊金車iで工事用ロープライン4の中間を支持ガイドさせつつ延線する方法であるが、この工法においても、工事用ロープライン4を構成するリードロープあるいはメッセンジャーロープといった工事用ロープ4a、4a間に柔軟性絶縁継手3を介在させて接続し、延線してゆくのである。延線の終了時に鉄塔近傍に柔軟性絶縁継手3が位置するように、工事用ロープライン4の間に1径間あたり2本以上介在させている。
この工法においては、工事用ロープライン4は延線時に吊金車iと摩擦されつつ曲げられるが、柔軟性絶縁継手3は柔軟性、可撓性があるため、碍子として作用しつつ円滑に延線を行える。
その他の構成と延線方法および柔軟性絶縁継手3の作用は記述した2つの例と同様であるから、説明は援用する。
なお、この工法において、曳行ロープにも繊維ロープが用いられるが、この曳行ロープライン4‘中にも柔軟性絶縁継手jを介在させることが好適である。
図13(a)(b)は、吊金工法における延線途中の状態を示している。
【0031】
図14は本発明をopgw延線工法に適用した例を示しており、この場合、工事用ロープ4aは連結ロープである。
ドラム場dにはopgw6を巻収して繰り出すリールワインダーjが配置される。また、ドラム場dには架線車bと鉄塔下部のガイドローラgとの間にロープ仮把持器fが配置され、これで架線車aの下流で連結ロープの所定長さの後端をクランプし、柔軟性絶縁継手3を介在させて接続し、これのアイに後続連結ロープ4aの先端を接続することで、連結ロープライン4中に複数箇所、柔軟性絶縁継手3を介在させるのである。
【0032】
両端の鉄塔tの頂部には端部金具が設けられ、これらと中間鉄塔の頂部に設けた中間支持金具w´により鉄塔間に支持線(地線)hを架設し、この支持線(地線)に風車型搬器kを支持させる。支持線よりも下方には、既設電線lが架設されている。
前記opgw6は連結ロープライン(3本の中間のライン)4と連結されて風車型搬器kにより延線され、連結ロープライン4はエンジン場eの架線車cとリールワインダーb´によって延線される。
この延線時に連結ロープライン4の近傍に既設の電線lが存在するため、連結ロープが湿潤したりしていると、誘導電流、電圧が印加されダメージを受けている部分が加熱、焼損するが、柔軟性絶縁継手3を介在させているため、誘導電流が遮断され、ライン全体に及ばない。また、柔軟性絶縁継手3は柔軟性と可撓性を有しているため、中間支持金具w´をスムーズに通過できる。
【0033】
図15は手延線工法に適用した例を示しており、各鉄塔には金車wを設け、ドラム場dには延線車aとリールワインダーbを、エンジン場eにおいては巻取型延線機cとリールワインダーb´を設置し、これらにより鉄塔間に工事用ロープライン(手延線ロープライン)を仮想線のようにたるませておくが、この状態での工事用ロープライン4を構成する工事用ロープ4a、4a間に柔軟性絶縁継手3を介在させて接続する。
仮上げ時に鉄塔近傍に柔軟性絶縁継手3が位置するように、工事用ロープライン4の間に1径間あたり2本以上介在させる。電線5はドラム場dのリールワインダーbに巻収されている工事用ロープ4aの後端に接続される。
そして、ドラム場dとエンジン場eの延線車aとリールワインダーb、巻取型延線機cとリールワインダーb´で左右から前記ラインを牽引して長さを短縮させ、実線のように仮上げするのである。
このときに降雨があったり、鉄塔間の基盤に水溜まりがたったりし、たるみ状態の延線工事用ロープライン4が濡れ、それによって誘導電流、電圧が印加されても、柔軟性絶縁継手3でそれが遮断されるので、ロープライン全体の焼損、切断が防止される。
【0034】
図16は本発明を防護ネットの母線の延線に適用した例を示している。
道路や鉄道線路nの上空を横断して既設高圧電線路lが架設している場合、その既設高圧電線路lの取替えや増設あるいは補修等を行う際には、安全対策として、道路や鉄道線路nの上空に防護ネットを張設する。
この防護ネットの張設は、道路や鉄道線路nの幅員方向両側に支柱(鉄塔)t、tを立て、ドラム場dからエンジン場eに繊維ロープからなる工事用ロープライン4(防護ネット用母線、横ロープ、展開ロープなど)を延線させることになる。
その際には、ドラム場dからエンジン場eにパイロットロープ4´を渡し、そのパイロットロープ4´に工事用ロープ4を接続してエンジン場eの架線車cで巻き取ることにより延線が行われるが、本発明は、ドラム場dの架線車aと支柱下部のガイドローラgとの間にロープ仮把持器fを配置し、架線車aの下流でパイロットロープ後端をクランプし、柔軟性絶縁継手3を介在させて接続し、これのアイに工事用ロープ4の先端を接続して延線を行い、この状態で延線したのち工事用ロープ4の後端にも柔軟性絶縁継手3を接続介在させるのである。
こうすれば、既設高圧電線路lから誘導電流がパイロットロープ4´に流れても、柔軟性絶縁継手3があるため工事用ロープ4には流れることがなく、安全性を高くすることができる。
【0035】
なお、本発明は次の発明を含むものである。
1)高強力繊維で構成され両端にアイを形成した短尺な繊維ロープ本体の全体に継ぎ目なしに電気絶縁性防水樹脂被覆を施していることを特徴とする電設工事用柔軟性継手(碍子)。
2)1)において、碍子用ロープ本体が編組構造からなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による架線方法に使用する柔軟性絶縁継手の第1の例を示す部分切欠平面図である。
【図2】図1の部分的拡大図である。
【図3】図1のx−x線に沿う断面図である。
【図4】(a)は本発明による架線方法に使用する柔軟性絶縁継手の第2の例を示す平面図、(b)は短尺繊維ロープ本体の平面図である。
【図5】図4のy−y線に沿う拡大断面図である。
【図6】本発明を引抜き延線工法に適用した例を示す側面図である。
【図7】柔軟性絶縁継手と工事用ロープの接続例を示す平面図である。
【図8】柔軟性絶縁継手を用いた場合の静電誘導電流分布を示す説明図である。
【図9】本発明を引抜き延線工法に適用した例を示す模式的側面図である。
【図10】引抜き延線工法の最初のステップを示す説明図である。
【図11】(a)(b)(c)は引抜き延線工法の途中のステップを示す説明図である。
【図12】本発明を吊金工法に適用した例を示す模式的側面図である。
【図13】(a)(b)は吊金工法の実施途中の状態を示す説明図である。
【図14】本発明をopgw延線工法に適用した例を示す模式的側面図である。
【図15】本発明を手延線工法に適用した例を示す模式的側面図である。
【図16】本発明を防護ネット工法に適用した例を示す模式的側面図である。
【図17】金車通過試験方法を示す説明図である。
【図18】耐電圧試験方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 短尺繊維ロープ本体
1a アイ
2 防水樹脂被覆層
3 柔軟性絶縁継手
4 工事用ロープライン
4a 工事用ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線工事にあたり、高強力繊維で構成され両端に連結用部を形成した短尺繊維ロープ本体の全体に継ぎ目なしの防水樹脂被覆を施してなる防水型柔軟性絶縁継手を使用し、該柔軟性絶縁継手を、繊維ロープからなる工事用ロープライン中に介在させることで誘導電流を縁切りして延線を行うことを特徴とする送電設備などにおける架線方法。
【請求項2】
短尺繊維ロープ本体が、編組構造からなる1本のロープの両端にアイを形成したロープである請求項1に記載の送電設備などにおける架線方法。
【請求項3】
短尺繊維ロープ本体が編組構造からなる1本のロープをエンドレス加工したロープである請求項1に記載の送電設備などにおける架線方法。
【請求項4】
電気絶縁性防水樹脂被覆が、両端にアイを形成した短尺繊維ロープ本体の全体にウレタン系樹脂をスプレーして作られたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の送電設備などにおける架線方法。
【請求項5】
架線工事が、手延線工法、引抜き延線工法、吊金工法、opgw延線工法、防護ネット延線工法のいずれかで行われる請求項1ないし4のいずれかに記載の送電設備などにおける架線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−67769(P2006−67769A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250777(P2004−250777)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【出願人】(592091529)東光電気工事株式会社 (10)
【出願人】(390031934)千歳電気工業株式会社 (7)
【出願人】(592009409)株式会社サンテック (3)
【出願人】(591045541)岳南建設株式会社 (6)
【出願人】(504328521)古河電気工業株式会社 (1)
【出願人】(591020412)佐藤建設工業株式会社 (4)
【出願人】(000220468)東京製綱繊維ロープ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】