説明

逆波長分散性を示す光学部材の製造方法

【課題】セルロース誘導体に限られることなく、その他の材料(アクリル重合体、ポリシクロオレフィンなど)を用いた光学部材の製造が可能であるとともに、逆波長分散性を示しかつ当該分散性の制御の自由度が高い光学部材を実現できる製造方法を提供する。
【解決手段】複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂(B)を、(I)正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性を示す基体と積層した後に全体を延伸するか、または、(II)延伸体とした後に、正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、正波長分散性を示す基体と積層する、ことにより、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す、前記基体と前記樹脂(B)の延伸体との積層構造を有する光学部材を得る方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。このような光学部材の一つに、色調の補償、視野角の補償などを目的として画像表示装置に組み込まれる位相差板(位相差フィルム)がある。
【0003】
従来、光学部材には、トリアセチルセルロース(TAC)に代表されるセルロース誘導体、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィンなどが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)波長分散性を示す。
【0004】
表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を示す光学部材が望まれる。本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学部材が示す波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。一方、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性を「正波長分散性」と呼ぶ。
【0005】
逆波長分散性を示す光学部材として、特許文献1に、正の固有複屈折を有する重合体(ポリノルボルネン)と、負の固有複屈折を有する重合体(スチレン系重合体)とを含む樹脂組成物からなる位相差板が開示されている。また、特許文献2には、正の固有複屈折を有する分子鎖(ノルボルネン鎖)と、負の固有複屈折を有する分子鎖(スチレン系鎖)とを有する共重合体からなる位相差板が開示されている。
【0006】
特許文献3には、特定の環構造を有する基により分子構造の一部を置換したセルロース誘導体からなる、逆波長分散性を示す位相差板と、環構造の具体的な一例としてカルバゾール構造とが開示されている。
【0007】
なお、特許文献4には、ビニルカルバゾール系高分子からなる光学フィルムが開示されている。当該文献に開示されている光学フィルムは、その法線方向(厚さ方向)に光学軸を有し、光学的に正の一軸性を示すポジティブCフィルムである。また、ビニルカルバゾール系高分子の溶液をキャスト成形用の基板に塗布し、塗膜を乾燥させるという、延伸工程を含まない製造方法を考慮すると、当該文献に開示の技術から得られる光学フィルムは、正波長分散性を示すポジティブCフィルムに限定される。
【特許文献1】特開2001−337222号公報
【特許文献2】特開2001−235622号公報
【特許文献3】特開2008−75015号公報
【特許文献4】特開2001−91746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に開示の位相差板は、その波長分散性の制御の自由度が必ずしも高いとはいえず、近年要求される幅広い光学特性に対応するためには、波長分散性の制御の自由度が高い光学部材の実現が望まれる。また、特定の環構造を分子内に導入する特許文献3に開示の技術は、あくまでもセルロース誘導体からなる光学部材が対象であり、その他の高分子材料からなる光学部材には適用できない。
【0009】
そこで本発明は、セルロース誘導体に限られることなく、その他の高分子材料を用いた光学部材の製造が可能であるとともに、逆波長分散性を示しかつ当該分散性の制御の自由度が高い光学部材を実現できる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法(第1の方法)は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂(B)を、(I)正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性(正波長分散性)を示す基体と積層した後に全体を延伸するか、または(II)延伸体とした後に、正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、正波長分散性を示す基体と積層する、ことにより、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す、前記基体と前記樹脂(B)の延伸体との積層構造を有する光学部材を得る方法である。
【0011】
別の側面から見た本発明の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法(第2の方法)は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂(B)と、正の固有複屈折を有し、かつ単独で延伸体としたときに、当該延伸体が可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性(正波長分散性)を示す樹脂(D)と、を含む組成物を、成形および延伸して、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す光学部材を得る方法である。
【0012】
なお、樹脂の固有複屈折とは、当該樹脂に含まれる重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えばフィルム)における、分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な方向の光の屈折率n1から、配向軸に垂直な方向の光の屈折率n2を引いた値(即ち、「n1−n2」)をいう。当該値が正のとき樹脂の固有複屈折は正となり、当該値が負のとき樹脂の固有複屈折は負となる。樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる各重合体に由来して生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セルロース誘導体に限られることなく、その他の高分子材料を用い、逆波長分散性を示しかつ当該分散性の制御の自由度が高い光学部材を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料(例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、可塑剤などの添加剤)を含んでいてもよい。
【0015】
[第1の方法]
第1の方法では、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(以下、単に「不飽和単量体単位」ともいう)を構成単位として有する重合体(A)を含み、負の固有複屈折を有する樹脂(B)を、(I)正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、正波長分散性を示す基体と積層した後に全体を延伸するか、または、(II)延伸体とした後に、正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、正波長分散性を示す基体と積層する。これにより、基体と樹脂(B)の延伸体との積層構造が形成されるが、この積層構造では、当該構造に入射した光に対して、基体および延伸体双方の複屈折が互いに打ち消しあう現象が生じる。ここで、複屈折が打ち消しあう程度が波長によって異なるために、逆波長分散性を示す光学部材が得られる。
【0016】
また、不飽和単量体単位は、当該単位を構成単位として含む重合体(A)ならびに重合体(A)を含む樹脂(B)の複屈折の波長分散性を大きく増加させる作用を有する(本願実施例の表3参照。表3に示すように、重合体(A)の全構成単位に占める不飽和単量体単位の割合が低い場合、即ち、重合体(A)における不飽和単量体単位の含有率が低い場合においても、重合体(A)は大きな複屈折の波長分散性を示す。なお、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチルなど、負の固有複屈折を有する一般的な重合体は、ホモポリマーであっても、本願実施例で示す可視光領域内のR/R0値にして、およそ0.95〜1.15程度の範囲に収まる波長分散性しか示さない)。このため、樹脂(B)の延伸体における複屈折の波長分散性は非常に大きい。このような波長分散性を有する延伸体と基体との積層構造を有する本発明の光学部材は、波長分散性の制御の自由度が高く、例えば、用途に応じた良好な逆波長分散性を実現できる。
【0017】
なお、特許文献1(特開2001-337222号公報)に例示されている負の固有複屈折を有する樹脂(スチレン系樹脂)の延伸体を形成し、基体と積層したとしても(あるいは当該樹脂を基体と積層し、全体を延伸したとしても)、当該樹脂の延伸体の波長分散性はそれほど大きくならないため、樹脂(B)を用いたときのような高い波長分散性の制御の自由度を実現できない。
【0018】
また、重合体の波長分散性を大きく増加させる不飽和単量体単位の作用により、本発明の製造方法により得た光学部材の光弾性係数を低く抑えることが可能となる。芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を増大させる作用を有するため、光学部材における芳香環の含有量を抑えることが望まれる。一方、上述したように、重合体(A)における不飽和単量体単位の含有率が低い場合においても、重合体(A)および樹脂(B)は大きな複屈折の波長分散性を示す。このため、本発明の製造方法により得た光学部材では、当該部材における不飽和単量体単位の含有率を低く抑えながら、即ち、当該部材における光弾性係数の上昇を抑えながら、逆波長分散性の実現と、その制御の自由度の確保が可能となる。光弾性係数が低い光学部材は、画像表示装置への使用に好適である。
【0019】
<重合体(A)>
重合体(A)は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する限り、特に限定されない。
【0020】
重合体(A)が構成単位として有する不飽和単量体単位の種類は限定されない。複素芳香族基におけるヘテロ原子は、例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子である。なかでも、重合体(A)の複屈折の波長分散性を増大させる作用が強いことから、窒素原子が好ましい。
【0021】
不飽和単量体単位は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、重合体(A)の複屈折の波長分散性を増大させる作用が強いことから、ビニルカルバゾール単位およびビニルピリジン単位から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビニルカルバゾール単位がより好ましい。
【0022】
ビニルカルバゾール単位を、以下の式(1)に示す。なお、式(1)に示す環上の水素原子の一部が、炭素数1〜20の範囲の有機残基により置換されていてもよい。
【0023】
有機残基は酸素原子を含んでいてもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0024】
【化1】

【0025】
重合体(A)は、構成単位として不飽和単量体単位のみを含むホモポリマーであってもよい。しかし、不飽和単量体単位の含有率が低い場合においても、重合体(A)における複屈折の波長分散性を大きくかつその固有複屈折を負にできること、ならびに不飽和単量体単位の含有率が高くなるほど光弾性係数が増大し、かつ製造コストも増大することを考慮すると、重合体(A)は、不飽和単量体単位以外の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。
【0026】
不飽和単量体以外の構成単位は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位であり、この場合、重合体(A)は、不飽和単量体単位の起源となる不飽和単量体(複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体)と、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体となる。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル単位の例は、樹脂(C)の説明において後述する。
【0028】
重合体(A)における不飽和単量体単位の含有率は、例えば、0.1〜30重量%であり、0.5〜20重量%が好ましい。
【0029】
重合体(A)における不飽和単量体単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
【0030】
不飽和単量体と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である重合体(A)の一例は、ヒドロキシル基を有する第1の(メタ)アクリル酸エステル単位と、ヒドロキシル基を有さない第2の(メタ)アクリル酸エステル単位とを構成単位として有する重合体であって、当該重合体における不飽和単量体単位の含有率X、第1の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Yおよび第2の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Zが、重量%で表示して、以下の式を満たす重合体である。
0.1≦X≦30
5≦Y≦40
30≦Z≦94.9
【0031】
この場合、(メタ)アクリル酸エステル単位の環化によって、主鎖に環構造を有する重合体(A)とすることができ、樹脂(B)およびその延伸体として十分なガラス転移温度(Tg)および耐熱性が確保される。また、光学部材としての複屈折の波長分散性の制御もより容易となる。
【0032】
第1の(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)単位、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル(EHMA)単位である。
【0033】
第2の(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)単位である。
【0034】
重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有していてもよい。この場合、樹脂(B)およびその延伸体の耐熱性が向上し、本発明の製造方法により得た光学部材の耐熱性が向上する。具体的には、樹脂(B)およびその延伸体のTgが例えば110℃以上となり、環構造の種類および重合体(A)における環構造の含有率によっては、115℃以上、120℃以上さらには130℃以上となる。Tgは、JIS K7121に準拠して求めることができる。
【0035】
耐熱性が向上した光学部材は、例えば画像表示装置において光源などの発熱部に近接した配置が可能となる。また、耐熱性の向上によって、後加工の際、例えばコーティングなどの表面処理を行う際に加工温度を上げられるため、光学部材の生産性が高くなる。
【0036】
重合体(A)は、公知の方法により製造できる。例えば、構成単位として不飽和単量体単位(例えばビニルカルバゾール単位)および(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体(例えば以下の式(2)に示すビニルカルバゾール単量体)とを含む単量体群を重合して形成できる。単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステルの種類を選択し、形成した重合体を環化縮合させることにより、不飽和単量体単位を構成単位として有するとともに、主鎖に環構造を有する重合体(A)としてもよい。
【0037】
【化2】

【0038】
式(2)に示す環上の水素原子の一部は、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0039】
<樹脂(B)>
樹脂(B)は、固有複屈折が負であり、かつ不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む限り特に限定されない。
【0040】
<基体>
基体の構成は、正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなり、正波長分散性を示す限り特に限定されない。
【0041】
樹脂(C)は、例えば、(メタ)アクリル重合体、ポリシクロオレフィンおよびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む。これらの重合体は透明性に優れるため、これらの重合体を含む樹脂(C)からなる基体とすることで、最終的に得られる光学部材は画像表示装置への使用に好適となる。
【0042】
なお、この場合、正の固有複屈折を有する限り、樹脂(C)は上記少なくとも1種の重合体以外の重合体を含んでもよい。ただし、樹脂(C)における上記少なくとも1種の重合体の含有率は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。
【0043】
基体は、例えば樹脂(C)からなるフィルムである。基体は、樹脂(C)からなる延伸フィルムであってもよく、この場合、樹脂(C)の延伸状態の制御により、最終的に得られる光学部材の光学特性を制御できる。なお、(I)の方法で光学部材を製造する場合、樹脂(B)と積層した後に全体を延伸するため、基体は、未延伸のフィルムであることが好ましい。基体が延伸フィルムであると、基体の破断を防ぐために、樹脂(B)との積層後の延伸が制限されることがある。
【0044】
基体は、樹脂(C)を用いて公知の方法により形成でき、例えばフィルムに成形した樹脂(C)を延伸することで、延伸フィルムである基体が得られる。樹脂(C)をフィルムに成形するには、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法を用いればよい。
【0045】
セルロース誘導体は、例えばトリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレートであり、ポリシクロオレフィンは、例えばポリノルボルネンである。
【0046】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造をさらに含んでいてもよく、この場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、(メタ)アクリル重合体となる。
【0047】
光学部材としたときに、その光学特性ならびに成型加工性および表面硬度などの諸特性を向上できることから、樹脂(C)は、(メタ)アクリル重合体を含むことが好ましい。光学部材としての機械的強度に着目すると、樹脂(C)は、セルロース誘導体および/またはポリシクロオレフィンを含むことが好ましい。
【0048】
また、樹脂(C)が(メタ)アクリル重合体を含む場合、本発明の製造方法により得た光学部材における波長分散性の制御の自由度がより向上する。(メタ)アクリル重合体が示す複屈折の波長分散性は、不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)ならびに重合体(A)を含む樹脂(B)が示す複屈折の波長分散性に比べてかなり小さい。このように、複屈折の波長分散性が大きく異なる樹脂(B)の延伸体と基体との積層構造とすることで、波長分散性の制御の自由度がより向上する。
【0049】
樹脂(C)は、主鎖に環構造を有する重合体を含んでもよい。この場合、基体の耐熱性が向上し、本発明の製造方法により得た光学部材の耐熱性が向上する。具体的には、基体のガラス転移温度(Tg)が例えば110℃以上となり、環構造の種類および樹脂(C)における環構造の含有率によっては、115℃以上、120℃以上さらには130℃以上となる。
【0050】
樹脂(C)は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含んでもよい。以下、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体について説明する。
【0051】
環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。
【0052】
より具体的な環構造の例は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、配向によって大きな正の固有複屈折を示すため、当該重合体を含む樹脂(C)からなる基体とし、当該基体と樹脂(B)の延伸体との積層構造とすることで、波長分散性の制御の自由度がより向上した光学部材となる。
【0053】
環構造は、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。ラクトン環構造またはグルタルイミド構造、特にラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体では、配向により生じる複屈折の波長分散性が非常に小さい。このため、当該重合体を含む樹脂(C)からなる基体とし、当該基体と樹脂(B)の延伸体との積層構造とすることで、波長分散性の制御の自由度がさらに向上した光学部材となる。
【0054】
(メタ)アクリル重合体が有していてもよい具体的なラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(3)により示される構造である。
【0055】
【化3】

【0056】
上記式(3)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基と同様の基である。
【0057】
式(3)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0058】
以下の式(4)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
【0059】
【化4】

【0060】
上記式(4)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR6は存在せず、X1が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0061】
1が窒素原子のとき、式(4)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0062】
1が酸素原子のとき、式(4)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0063】
以下の式(5)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
【0064】
【化5】

【0065】
上記式(5)におけるR7およびR8は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR9は存在せず、X2が窒素原子のとき、R9は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0066】
2が窒素原子のとき、式(5)により示される環構造はN−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、例えばN−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合により形成できる。
【0067】
2が酸素原子のとき、式(5)により示される環構造は無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、例えば(メタ)アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合により形成できる。
【0068】
なお、式(4)、(5)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、各々の環構造の形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有するため、当該方法により得た重合体は(メタ)アクリル重合体となる。
【0069】
樹脂(C)が主鎖に環構造を有する重合体を含む場合、当該重合体における環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましい。当該含有率は、30〜90重量%、35〜90重量%、40〜80重量%および45〜75重量%になるほど、さらに好ましい。環構造の含有率は、特開2001−151814号公報に記載の方法により求めることができる。
【0070】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、公知の方法により製造できる。
【0071】
例えば、環構造としてラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を任意の触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて得ることができる。
【0072】
重合体(a)は、例えば、以下の式(6)に示される単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
【0073】
【化6】

【0074】
上記式(6)において、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基と同様の基である。
【0075】
式(6)に示す単量体の具体的な例は、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する基体となる、即ち、高い透明性および耐熱性を有する光学部材が形成されることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。
【0076】
なお、これら(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位は、環化により、当該単位を有する重合体に対して正の固有複屈折を与える作用を有する。重合体に負(あるいは正)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が負(あるいは正)となる構成単位をいう。重合体自体の固有複屈折の正負は、当該単位に由来して生じる複屈折と、重合体が有するその他の構成単位に由来して生じる複屈折との兼ね合いにより決定される。
【0077】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(6)により示される単量体を2種以上含んでもよい。
【0078】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(6)により示される単量体以外の単量体を含んでもよい。このような単量体は、式(6)により示される単量体と共重合できる単量体である限り特に限定されず、例えば、式(6)に示す単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである。
【0079】
このような(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸カルバゾイルエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸アントラセニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸カルバゾイルエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸アントラセニルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する基体となる、即ち、高い透明性および耐熱性を有する光学部材が形成されることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
【0080】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、これら(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでもよい。
【0081】
(I)の方法において、基体と樹脂(B)とを積層する方法は特に限定されない。例えば、フィルムである基体と、樹脂(B)からなるフィルムとを積層すればよく、このとき、双方のフィルム同士を単純に積層しても、アクリル系などの接着剤を用いて接着してもよい。樹脂(B)からなるフィルムは延伸フィルムであってもよいが、基体と積層した後に全体を延伸するため、未延伸のフィルムであることが好ましい。当該フィルムが延伸フィルムである場合、その破断を防ぐために、基体との積層後における延伸が制限されることがある。
【0082】
また例えば、樹脂(C)と樹脂(B)との共押出成形により、基体を成形するとともに当該基体に樹脂(B)からなる層を成形、積層してもよい。共押出成形には、フィードブロック法、マルチマニホールド法などの公知の方法を適用できる。フィードブロック法を用いた場合、例えば、フィードブロックを通過した溶融状態の樹脂(B)、(C)は、Tダイなどのシート成形ダイに導かれてシートに成形された後、表面が鏡面処理または型加工された成形ロール(ポリッシングロール)に流入してバンクを形成し、ロール通過中に冷却されて、基体と樹脂(B)からなる層との積層構造を有する積層フィルムとなる。マルチマニホールド法を用いた場合、例えば、マルチマニホールドダイを通過した溶融状態の樹脂(B)、(C)は、当該ダイ内でシートに成形された後、成形ロールにて表面仕上げおよび冷却が行われ、基体と樹脂(B)からなる層との積層構造を有する積層フィルムとなる。
【0083】
また例えば、基体に、樹脂(B)を含む溶液を塗布し、塗膜を乾燥させて、基体上に樹脂(B)からなる層を積層してもよい。溶液の溶媒は、樹脂(B)を溶解できる限り特に限定されず、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフランである。これら溶媒を1種、または2種以上用いてもよい。
【0084】
溶液を塗布する方法も特に限定されず、例えば、キスコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート、カーテンコート、バーコート、ドクターブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、オフセットグラビアコート、リップコート、スプレーコート、コンマコートなどの各種の方法を適用できる。
【0085】
基体と樹脂(B)とを積層した後の延伸の方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。
【0086】
(II)の方法において、基体と樹脂(B)の延伸体とを積層する方法は特に限定されない。例えば、フィルムあるいは延伸フィルムである基体に、樹脂(B)の延伸体を接合すればよい。
【0087】
樹脂(B)の延伸体は、例えば樹脂(B)からなる延伸フィルムである。樹脂(B)の延伸体は公知の方法により形成でき、例えば延伸フィルムである樹脂(B)の延伸体は、フィルムに成形した樹脂(B)を延伸して得られる。樹脂(B)をフィルムに成形するには、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法を用いればよい。
【0088】
図1に、第1の方法により得た光学部材の一例を示す。図1に示す光学部材1は、2つの層2、3が積層された構造を有する。層2は、正の固有複屈折を有しかつ正波長分散性を示す基体フィルムであり、層3は、樹脂(B)からなる延伸フィルムである。光学部材1は、固有複屈折の符号が互いに異なる層2、3の積層構造に基づき、複屈折の逆波長分散性を示す。また、層3が不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む樹脂(B)からなるため、光学部材1は、複屈折の波長分散性の制御の自由度が高い。
【0089】
光学部材1では、層2、3が各々独立して配置されており、固有複屈折の符号が互いに異なる樹脂間の相容性を考慮する必要がないため、それぞれの層がとりうる組成範囲が広い。これにより、波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度をさらに向上できる。
【0090】
光学部材1が有する層2、3の数は特に限定されない。また、層2と層3とは必ずしも接していなくてもよく、それぞれの層の間に任意の層が配置されていてもよい。
【0091】
層2および3の積層状態(例えば、層2および3の積層パターン、あるいは光学部材1の表面に垂直な方向から見た、層2の配向軸と層3の配向軸とがなす角度など)は特に限定されず、光学的な設計事項に合わせて適宜選択、調整できる。
【0092】
光学フィルム1は、必要に応じ、層2、3以外の任意の層を有してもよい。
【0093】
[第2の方法]
第2の方法では、不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含み、負の固有複屈折を有する樹脂(B)と、正の固有複屈折を有し、かつ単独で延伸体としたときに、当該延伸体が正波長分散性を示す樹脂(D)とを含む組成物を、成形および延伸することで、逆波長分散性を示す光学部材が得られる。第2の方法により、逆波長分散性を示す光学部材が得られる理由は以下の通りである。
【0094】
樹脂組成物が延伸されると、当該組成物に含まれる樹脂(重合体)に配向が加えられる。樹脂(B)は負の、樹脂(D)は正の固有複屈折を有しているため、配向によって各々の樹脂に含まれる重合体の遅相軸(あるいは進相軸)が直交することで、互いの複屈折が打ち消しあう。ここで、複屈折が打ち消しあう程度が波長によって異なるために、複屈折、例えば位相差、の逆波長分散性が生じる。
【0095】
また上述したように、不飽和単量体単位は、当該単位を構成単位としてふくむ重合体(A)ならびに重合体(A)を含む樹脂(B)の複屈折の波長分散性を大きく増加させる作用を有する。第2の方法では、このような複屈折の波長分散性が大きい樹脂(B)を含む組成物を延伸するため、得られた光学部材における波長分散性の制御の自由度が高くなり、例えば、用途に応じた良好な逆波長分散性を実現できる。
【0096】
なお、特許文献1(特開2001-337222号公報)に例示されている負の固有複屈折を有する樹脂(スチレン系樹脂)の波長分散性はそれほど大きくなく、樹脂(B)を用いたときのような高い波長分散性の制御の自由度を実現できない。
【0097】
第2の方法における重合体(A)および樹脂(B)は、第1の方法における重合体(A)および樹脂(B)と同様である。また、樹脂(D)が含む重合体は、例えば、樹脂(C)の説明において示した、(メタ)アクリル重合体、ポリシクロオレフィンおよびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種である。
【0098】
樹脂(B)および(D)を含む組成物を成形、延伸する方法は特に限定されず、公知の手法を用いればよい。
【0099】
図2に、第2の方法により得た光学部材の一例を示す。図2に示す光学部材11は1つの層12からなり、層12は、樹脂(B)および(D)を含む組成物を成形および延伸して得た層である(樹脂(B)および(D)を含む組成物の延伸体であるともいえる)。光学部材11は、固有複屈折の符号が互いに異なる2種の樹脂を含むことにより、複屈折の波長分散性を示す。また、樹脂(B)が、不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含むことにより、複屈折の波長分散性の制御の自由度が高い。
【0100】
光学部材11は、単層でありながら逆波長分散性を示す。このため、薄膜化しながら望む光学特性を得ることができ、光学部材を備える画像表示装置のさらなる小型化、軽量化などの実現が可能となる。また光学部材11は、複数の層の積層により逆波長分散性を実現した光学部材に比べて、各層の接合角度の調整が不要となるため、生産性が高い。
【0101】
(光学部材の用途)
本発明の製造方法により得た光学部材は、逆波長分散性を示す。このような広帯域の光学部材によって、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
【0102】
この光学部材は、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4とすることで、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
【0103】
本発明の製造方法により得た光学部材の用途は特に限定されず、従来の光学部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)における使用が可能である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0105】
(製造例1:重合体(A−1)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、18重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、72重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに3時間の加温、熟成を行った。
【0106】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0107】
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、ビニルカルバゾール単位を構成単位として有しかつ主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(A−1)を得た。
【0108】
(製造例2:重合体(D)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部のMHMA、35重量部のMMA、および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.3重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
【0109】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0110】
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(D)を得た。
【0111】
(製造例3:重合体(A−2)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、6重量部のMHMA、74重量部のMMA、20重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を4時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに3時間の加温、熟成を行った。
【0112】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0113】
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、ビニルカルバゾール単位を構成単位として有しかつ主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(A−2)を得た。
【0114】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(A−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所製)により、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、厚さ45μmの延伸フィルム(F1)を得た。
【0115】
これとは別に、セルロースアセテートプロピオネート(アルドリッチ社製、Mn=15000)の塩化メチレン溶液(濃度15重量%)をガラス板上に流延し、乾燥させて、厚さ70μmのフィルムを得た。得られたフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が1.8倍となるように延伸温度160℃で自由端一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルム(F2)を得た。
【0116】
次に、1枚の延伸フィルム(F1)と2枚の延伸フィルム(F2)とを、F2によってF1を狭持するように、各々のフィルムの延伸方向(延伸軸)を合わせながら積層した。得られた延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性を、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を以下の表1に示す。なお、表1ならびに以降の比較例、参照例における各表では、測定波長を590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。各表に示す位相差は、フィルム厚100μmあたりに換算した値である。
【0117】
【表1】

【0118】
表1に示すように、実施例1で作製した延伸フィルムの積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
【0119】
(比較例)
実施例1で作製した延伸フィルム(F2)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した結果を以下の表2に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
表2に示すように、延伸フィルム(F2)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる正波長分散性を示した。
【0122】
なお、これとは別に、延伸フィルム(F2)の配向角を全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて評価したところ、配向角(φ)は1.4°であり、即ち、セルロースアセテートプロピオネートの固有複屈折は正であった。
【0123】
(参照例)
実施例1で作製した延伸フィルム(F1)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した結果を以下の表3に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
表3に示すように、延伸フィルム(F1)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる正波長分散性を示し、その波長分散性は非常に大きかった。
【0126】
なお、これとは別に、延伸フィルム(F1)の配向角を全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて評価したところ、配向角(φ)は−86.4°であり、即ち、重合体(A−1)の固有複屈折は負であった。
【0127】
(実施例2)
製造例1で作製した重合体(A−1)20重量部と製造例2で作製した重合体(D)10重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させ、全体を攪拌して、均一に混合した。次に、得られた混合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、固形の樹脂組成物を得た。
【0128】
次に、得られた組成物をプレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約90μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度143℃で自由端一軸延伸して、厚さ49μmの延伸フィルム(F3)を得た。
【0129】
得られた延伸フィルム(F3)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した結果を以下の表4に示す。
【0130】
【表4】

【0131】
表4に示すように、延伸フィルム(F3)は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その波長分散性は大きかった。
【0132】
(実施例3)
製造例2で作製した重合体(D)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約80μmのフィルム(F4)とした。次に、得られたフィルム(F4)の表面に、バーコーター#58により、製造例3で作製した重合体(A−2)のトルエン溶液(濃度30重量%)を均一に塗布した。次に、全体を60℃で1時間、および120℃で15分乾燥させて、フィルム(F4)と重合体(A−2)からなる層との積層構造を有する積層体を得た。次に、作製した積層体を、オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、フィルム(F4)の延伸体と重合体(A−2)の延伸体との積層構造を有する厚さ約70μmの延伸フィルム(F5)を得た。
【0133】
得られた延伸フィルム(F5)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した結果を以下の表5に示す。
【0134】
【表5】

【0135】
表5に示すように、延伸フィルム(F5)は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その波長分散性は大きかった。
【0136】
これとは別に、重合体(A−2)の溶液を塗布することなく、フィルム(F4)のみを同様に延伸して得た延伸フィルムの位相差(面内位相差)の波長分散性を評価したところ、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる正波長分散性であった。また、その配向角(φ)は0°近傍であり、即ち、重合体(D)の固有複屈折は正であった。
【0137】
また、重合体(A−2)からなる延伸フィルムを、実施例1の延伸フィルム(F1)と同様に作製し、その位相差(面内位相差)の波長分散性を評価したところ、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる正波長分散性を示し、その波長分散性は非常に大きかった。さらに、その配向角(φ)はー90°近傍であり、即ち、重合体(A−2)の固有複屈折は負であった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の製造方法により得た光学部材は、複屈折の逆波長分散性を示すともに、その制御の自由度が高く、画像表示装置に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の製造方法(第1の方法)により形成した光学部材の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法(第2の方法)により形成した光学部材の別の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0140】
1、11 光学フィルム
2、3、12 層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂(B)を、
(I)正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性(正波長分散性)を示す基体と積層した後に全体を延伸するか、または、
(II)延伸体とした後に、正の固有複屈折を有する樹脂(C)からなる、正波長分散性を示す基体と積層する、ことにより、
可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す、前記基体と前記樹脂(B)の延伸体との積層構造を有する光学部材を得る、逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
【請求項2】
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(A)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂(B)と、
正の固有複屈折を有し、かつ単独で延伸体としたときに、当該延伸体が可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性(正波長分散性)を示す樹脂(D)と、を含む組成物を、成形および延伸して、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す光学部材を得る、逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位である請求項3に記載の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記重合体(A)が、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する請求項1または2に記載の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
【請求項6】
前記重合体(A)が、ヒドロキシル基を有する第1の(メタ)アクリル酸エステル単位と、ヒドロキシル基を有さない第2の(メタ)アクリル酸エステル単位とを構成単位として有し、
前記重合体(A)におけるα,β−不飽和単量体単位の含有率X、第1の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Yおよび第2の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Zが、重量%で表示して、以下の式を満たす請求項5に記載の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
0.1≦X≦30
5≦Y≦40
30≦Z≦94.9
【請求項7】
前記樹脂(C)が、(メタ)アクリル重合体、ポリシクロオレフィンおよびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂(D)が、(メタ)アクリル重合体、ポリシクロオレフィンおよびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む請求項2に記載の逆波長分散性を示す光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−54784(P2010−54784A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219330(P2008−219330)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】