説明

逆浸透膜の阻止率向上方法、阻止率向上処理剤及び逆浸透膜

【課題】透過流束を大きく低下させることなく、また著しい劣化膜であっても阻止率を効果的に向上させることができる逆浸透膜の阻止率向上方法を提供する。
【解決手段】分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを逆浸透膜に通水する逆浸透膜の阻止率向上方法。第1の有機化合物としてはアミノ酸又はアミノ酸誘導体が好適である。第1の有機化合物と第2の有機化合物との合計の濃度、第3の有機化合物の濃度は、それぞれ1〜500mg/Lが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逆浸透膜の阻止率(脱塩率)向上方法に係り、特に劣化した逆浸透(RO)膜を修復して、その阻止率を効果的に向上させる方法に関する。
【0002】
本発明はまた、この逆浸透膜の阻止率向上方法により阻止率向上処理がなされた逆浸透膜と、この方法に用いられる阻止率向上処理剤に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、水資源を有効に利用するために、排水を回収し、再生、再利用するプロセスや海水、かん水を淡水化するプロセスの導入が進んでいる。このような背景のもと、水質の高い処理水を得るためには、電解質除去、中低分子除去が可能なナノ濾過膜や逆浸透膜(RO膜)等の選択的透過膜の使用が不可欠である。
【0004】
しかし、RO膜等の透過膜の無機電解質や水溶性有機物等の分離対象物に対する阻止率は、水中に存在する酸化性物質や還元性物質などの影響、その他の原因による素材高分子の劣化によって低下し、必要とされる処理水質が得られなくなる。この劣化は、長期間使用しているうちに少しずつ起こることもあり、また事故によって突発的に起こることもある。また、製品としての透過膜の阻止率自体が要求されるレベルに達していない場合もある。
【0005】
特に、RO膜等の透過膜システムにおいては、膜面でのスライムによるバイオファウリングを防止するために、前処理工程において塩素(次亜塩素酸ソーダなど)による原水の処理が行われているが、塩素は強力な酸化作用があるため、残留塩素を十分に処理せずに透過膜に供給すると、透過膜が劣化することが知られている。
【0006】
また、残留塩素を分解させるために、重亜硫酸ソーダなどの還元剤を添加することも行われているが、重亜硫酸ソーダが過剰に添加されている還元環境下においても、Cu、Coなどの金属が共存すると膜が劣化することも知られている(特許文献1、非特許文献1)。膜が劣化すると、透過膜の阻止率が大きく損なわれる。
【0007】
従来、RO膜等の逆浸透膜の阻止率向上方法としては、以下のようなものが提案されている。
【0008】
(1) アニオン又はカチオンのイオン性高分子化合物を膜表面に付着させることにより、透過膜の阻止率を向上させる方法(特許文献2)。
【0009】
本方法は、ある程度の阻止率向上効果を示すが、劣化膜に対する阻止率向上効果は十分ではない。
【0010】
(2) ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を膜表面に付着させることにより、ナノ濾過膜やRO膜の阻止率を向上させる方法(特許文献3)。
【0011】
本方法も、阻止率向上効果は得られるが、劣化膜に対して透過流束を大きく低下させることなく阻止率を向上させるという要求においては、十分に満足し得るものではない。
【0012】
(3) 透過流束が増加した、アニオン荷電を有するナノ濾過膜やRO膜に対し、ノニオン系界面活性剤を用いた処理を行って、その透過流束を適正範囲まで低減させて、膜汚染や透過水質の悪化を防止する方法(特許文献4)。この方法では、透過流束が使用開始時の+20〜−20%の範囲となるように、ノニオン性界面活性剤を膜面に接触、付着させる。
【0013】
本方法の阻止率向上の有効性は、特許文献4に記載される実施例と比較例との対比においても確認できるが、著しく劣化が生じた膜(脱塩率で95%以下)においては、相当量の界面活性剤を膜面に付着させる必要があり、透過流束の劇的な低下を伴うと考えられる。また、この特許文献4の実施例においては、製造時の初期性能が、透過流束で1.20m/m・day、NaCl阻止率が99.7%、シリカ阻止率が99.5%の芳香族系ポリアミドRO膜を2年間使用して酸化劣化した膜を使用するとあるが、NaCl阻止率99.5%、シリカ阻止率98.0%と大きな劣化には至っていない膜を対象としており、この方法で、劣化した透過膜の阻止率を十分に向上させることができるかは不明である。
【0014】
(4) タンニン酸などを劣化膜に付着させて脱塩率を改善させる方法(非特許文献2)。
【0015】
この方法による阻止率の向上効果は大きいとは言えず、例えば、劣化したRO膜であるES20(日東電工社製)、SUL−G20F(東レ社製)の透過水電気伝導度は、処理前後でそれぞれ、82%→88%、92%→94%であり、透過水の溶質濃度を1/2にするまでに阻止率を高めることはできない。
(5) タンニン酸にポリビニルメチルエーテル(PVME)を添加してRO膜の阻止率を向上させる(非特許文献5)。薬剤の使用濃度がそれぞれ10ppm以上と高い。脱塩率は65%を90%まで回復させているが、透過流束の低下は35%、84%を95%に回復させた場合の透過流束の低下は4%である。持続性が低く、新膜98.5%→修復直後99.2%→190時間後98.7%である。
【0016】
なお、透過膜の劣化については、例えばポリアミド膜の酸化剤による劣化で、膜素材のポリアミド結合のC−N結合が分断され、膜本来のふるい構造が崩壊していることが知られている(非特許文献3,4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−308671号公報
【特許文献2】特開2006−110520号公報
【特許文献3】特開2007−289922号公報
【特許文献4】特開2008−86945号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Fujiwara et al.,Desalination,Vol.96(1994),431-439
【非特許文献2】佐藤、田村、化学工学論文集、Vol.34(2008),493-498
【非特許文献3】植村ら,Bulletin of the Society of Sea Water Science,Japan,57,498-507(2003)
【非特許文献4】神山義康,表面,vol.31,No.5(1993),408-418
【非特許文献5】S.T.Mitrouli, A.J.Karabelas, N.P.Isaias, D.C. Sioutopoulos, and A.S. Al Rammah, Reverse Osmosis Membrane Treatment Improves Salt-Rejection Performance, IDA Journal I Second Quarter 2010, p22-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述の如く、従来、逆浸透膜の阻止率向上方法としては各種の方法が提案されているが、従来の阻止率向上方法は、透過膜表面に新たに物質を付着させるため、透過流束の低下が起こる。例えば、阻止率を回復させて透過水の溶質濃度を1/2にするために、透過流束については処理前に対して20%以上も低下させてしまう場合もあった。
【0020】
また、非常に大きな劣化(例えば、電気伝導度阻止率で95%以下)を起こした膜に対しては、既存の技術では、阻止率の回復が困難であった。
【0021】
また、高濃度の薬剤を添加することで、濃縮水TOCを増加させるなどのオペレーション上、コスト上の課題が生じ、被処理水を通水して、採水しながら修復することが容易でないという問題もあった。
【0022】
本発明は上記従来の問題点を解決し、透過流束を大きく低下させることなく、また著しい劣化膜であっても阻止率を効果的に向上させることができる逆浸透膜の阻止率向上方法とその処理剤を提供することを目的とする。
【0023】
本発明はまた、このような逆浸透膜の阻止率向上方法により阻止率向上処理が施された逆浸透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、実機での劣化膜の調査解析を繰り返し行うなどして鋭意検討を重ね、次のような知見を得た。
【0025】
(1) 従来法のように、膜の劣化で膜にあいた穴を、新たな物質(例えば、ノニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤などの化合物)を膜に付着させることにより塞ぐ方法では、膜の疎水化や、高分子物質の付着による膜の透過流束の低下が著しく、水量の確保が困難である。
【0026】
(2) 逆浸透膜、例えばポリアミド膜は、酸化剤による劣化で、ポリアミドのC−N結合が分断され、膜本来のふるい構造が崩壊するが、膜の劣化箇所においては、アミド結合の分断でアミド基は消失してしまうものの、カルボキシル基が一部残存する。
【0027】
(3) この劣化膜のカルボキシル基にアミノ化合物を効率良く付着・結合させることにより、劣化膜を修復して阻止率を回復させることができる。この場合、カルボキシル基に結合させるアミノ化合物として、アミノ基を有する低分子量化合物を用いることにより、膜表面の疎水化や、高分子物質を付着させることによる透過流束の著しい低下を抑制することができる。
【0028】
本発明は、このような知見をもとに完成されたものであり、以下を要旨とする。
【0029】
請求項1の逆浸透膜の阻止率向上方法は、分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを含む水溶液を逆浸透膜に通水する工程を有することを特徴とするものである。
【0030】
請求項2の逆浸透膜の阻止率向上方法は、請求項1において、前記分子量200未満の有機化合物がアミノ酸又はアミノ酸誘導体であることを特徴とするものである。
【0031】
請求項3の逆浸透膜の阻止率向上方法は、請求項1又は2において、前記分子量500以上の有機化合物が環状構造を有することを特徴とするものである。
【0032】
請求項4の逆浸透膜の阻止率向上方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記逆浸透膜の前記水溶液を通水する前の脱塩率が90%以下であることを特徴とするものである。
【0033】
請求項5の逆浸透膜の阻止率向上方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第1の有機化合物と第2の有機化合物との合計の濃度が1〜500mg/Lであり、第3の有機化合物の濃度が1〜500mg/Lであることを特徴とするものである。
【0034】
請求項6の逆浸透膜は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の逆浸透膜の阻止率向上方法により阻止率向上処理が施されたことを特徴とするものである。
【0035】
請求項7の逆浸透膜の阻止率向上剤は、分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを含むものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、酸化剤等により劣化した逆浸透膜に、分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを含む水溶液を通水することにより、この逆浸透膜の透過流束を大きく低下させることなく、膜の劣化部分を修復し、阻止率を効果的に向上させることができる。
【0037】
以下に、本発明による劣化膜の修復のメカニズムを図1を参照して説明する。
【0038】
逆浸透膜、例えば、ポリアミド膜の正常なアミド結合は図1(a)に示すような構造をとっている。この膜が塩素などの酸化剤で劣化した場合、アミド結合のC−N結合が分断され、最終的には図1(b)に示すような構造となる。
【0039】
図1(b)に示されるように、アミド結合の分断で、アミノ基は消失することがあるが、この分断部分にカルボキシル基は形成される。
【0040】
劣化が進行すると、間隙が大きくなり、様々な大きさの間隙が形成されるが、間隙の大きさに応じて第1〜第3の有機化合物を定着させることにより、劣化膜の種々のサイズの各穴が修復され、阻止率が回復する。
【0041】
有機化合物を膜に透過させる際には、分子量や骨格(構造)の異なるアミノ化合物を複数種類併用し、これらを同時に透過させることにより、各々の化合物が膜を透過する際に互いに障害となり、膜内の劣化箇所に滞留する時間が長くなることにより、膜のカルボキシル基と低分子量アミノ化合物のアミノ基との接触確率が高くなり、膜の修復効率が高められる。
【0042】
また、分子量500以上の第3の有機化合物を併用することにより、膜の大きな劣化箇所を塞ぐことができ、修復効率が高まる。この第3の有機化合物としては、膜のカルボキシル基と作用する官能基(カチオン基:1〜4級アミノ基)、添加しているアミノ基を有する化合物と作用するもの(アニオン基:カルボキシル基、スルホン基)、あるいは、ポリアミド膜と作用する官能基(ヒドロキシル基)、環状構造を有するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による阻止率向上処理のメカニズムを示す、化学構造式の説明図である。
【図2】実施例で用いた平膜試験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0045】
[逆浸透膜の阻止率向上方法]
本発明の逆浸透膜の阻止率向上方法は、分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを含む水溶液を透過膜に通水する工程を有することを特徴とするものである。
【0046】
<阻止率向上処理剤>
本発明において、分子量200未満の第1の有機化合物、分子量200以上500未満の第2の有機化合物としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0047】
・ 芳香族アミノ化合物:例えば、アニリン、ジアミノベンゼンなどのベンゼン骨格とアミノ基を有するもの
・ 芳香族アミノカルボン酸化合物:例えば、3,5−ジアミノ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノ安息香酸、2,5−ジアミノ安息香酸、2,4,6−トリアミノ安息香酸などのベンゼン骨格と2つ以上のアミノ基とアミノ基の数より少ないカルボキシル基を有するもの。
【0048】
・ 脂肪族アミノ化合物:例えば、メチルアミン、エチルアミン、オクチルアミン、1,9−ジアミノノナン(本明細書中では「NMDA」と略記することがある。)(C18(NH)等の炭素数1〜20程度の直鎖炭化水素基と1個又は複数のアミノ基を有するもの、及び、アミノペンタン(本明細書中では「IAAM」と略記することがある。)(NH(CHCH(CH)、2−メチルオクタジアミン(本明細書中では「MODA」と略記することがある。)(NHCHCH(CH)(CHNH)等の炭素数1〜20程度の分岐炭化水素基と1個又は複数のアミノ基を有するもの。
【0049】
・ 脂肪族アミノアルコール:モノアミノイソペンタノール(本明細書中では「AMB」と略記することがある。)(NH(CHCH(CH)CHOH)等の直鎖又は分岐の炭素数1〜20の炭化水素基にアミノ基と水酸基を有するもの。
【0050】
・ 複素環アミノ化合物:テトラヒドロフルフリルアミン(本明細書中では「FAM」と略記することがある。)(下記構造式)などの複素環とアミノ基を有するもの。
【0051】
【化1】

・ アミノ酸化合物:例えば、アルギニンやリシン等の塩基性アミノ酸化合物、アスパラギンやグルタミン等のアミド基を有するアミノ酸化合物、グリシンやフェニルアラニン等のその他アミノ酸化合物。
【0052】
第1の有機化合物(分子量200未満)としては、これらのうちアミノ酸又はアミノ酸化合物(アミノ酸誘導体)が好適である。
【0053】
例えば、塩基性アミノ酸である、アルギニン(分子量174)、リシン(分子量146)、ヒスチジン(分子量155)を第1の有機化合物として有効に用いることができる。また、ペプチドあるいはその誘導体として、例えば、フェニルアラニンとアスパラギン酸のジペプチドのメチルエステルであるアスパルテーム(分子量294)を第2の有機化合物として有効に用いることができる。
【0054】
これらの低分子量アミノ化合物は、水に対する溶解性が高く、安定な水溶液として逆浸透膜に通水することができ、前述の如く、膜のカルボキシル基と反応して逆浸透膜に結合し、不溶性の塩を形成して、膜の劣化により生じた穴を塞ぎ、これにより膜の阻止率を高める。
【0055】
これらの低分子量アミノ化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。特に、本発明においては、分子量や骨格構造の異なる低分子量アミノ化合物を2種以上併用し、これらを同時に透過膜に透過させることにより、各々の化合物が膜を透過する際に互いに障害となり、膜内の劣化箇所に滞留する時間が長くなることにより、膜のカルボキシル基と低分子量アミノ化合物のアミノ基との接触確率が高くなり、膜の修復効果が高められるため好ましい。
【0056】
阻止率向上処理水中の第1及び第2の有機化合物の含有量は、膜の劣化の度合により異なるが、過度に多いと透過流束を大きく低下させることがあり、過度に少ないと修復が不十分になるため、阻止率向上処理水中の第1及び第2の有機化合物の合計の濃度が、0.2〜500mg/L、特に1〜200mg/L程度となるようにすることが好ましい。
【0057】
また、分子量500以上(好ましくは500〜500,000特に好ましくは500〜50,000)の有機化合物としては、カルボキシル基、アミノ基、あるいはヒドロキシル基を有するものが好適である。例として、タンニン酸やペプチドを挙げることができる。タンニン酸としては、加水分解型の五倍子、没食子、縮合型のケブラチョ、ミモザなどを挙げることができる。ペプチドとしては、分子量500以上のポリグリシン、ポリリシン、ポリトリプトファン、ポリアラニンなどを挙げることができる。
【0058】
阻止率向上処理水中における第3の有機化合物の濃度は0.1〜500mg/L特に0.5〜100mg/L程度が好適である。
【0059】
阻止率向上処理水には、トレーサーとして、食塩(NaCl)等の無機電解質やイソプロピルアルコールやグルコース等の中性有機物及びポリマレイン酸などの低分子ポリマーなどを添加してもよく、これにより、逆浸透膜の透過水への食塩やグルコースの透過の程度を分析して、膜の修復の程度を確認することができる。
【0060】
また、阻止率向上処理水を逆浸透膜に通水するときの給水圧力は、過度に高いと劣化していない箇所への吸着が進むという問題があり、過度に低いと劣化箇所への吸着も進まないことから、当該逆浸透膜の通常運転圧力の30〜150%、特に50〜130%とすることが好ましい。
【0061】
この阻止率向上処理工程は、常温、例えば10〜35℃程度の温度で行うことができ、また、その処理時間としては、逆浸透膜中を各有機化合物が十分に透過して、透過水側に有機化合物が検出される程度の時間であれば良く、特に制限とりわけ上限はないが、通常0.5〜100時間、特に1〜50時間程度とすることが好ましい。
【0062】
阻止率向上処理は、阻止率向上処理剤を逆浸透膜装置の定常運転時に被処理水に添加することにより行われてもよい。薬剤添加の時間は、1〜500時間程度であるが、常時添加も可能である。
【0063】
長時間運転を行っている場合、膜汚染により透過流束が低下している場合は、洗浄を行った後に実施することが望ましいが、その限りではない。
【0064】
洗浄の薬剤としては、酸洗浄では、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸、クエン酸、シュウ酸といった有機酸を上げることができる。アルカリ洗浄では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを上げることができる。一般的に、酸洗浄ではpH2付近とし、アルカリ洗浄ではpH12付近とする。
【0065】
[逆浸透膜]
逆浸透膜(RO膜)は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過する液体分離膜である。RO膜の膜構造としては、非対称膜、複合膜などの高分子膜などを挙げることができる。RO膜の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材、酢酸セルロースなどのセルロース系素材などを挙げることができる。これらの中で、芳香族系ポリアミド素材の透過膜であって、劣化することによりC−N結合の分断でカルボキシル基を多く有する膜に、本発明の逆浸透膜の阻止率向上方法を特に好適に適用することができる。
【0066】
なお、阻止率向上処理前のRO膜の脱塩率が90%以下である場合、本発明方法を適用するのに好適である。
【0067】
また、逆浸透膜のモジュール形式に特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを挙げることができる。
【0068】
本発明の方法で処理された逆浸透膜は、電子デバイス製造分野、半導体製造分野、その他の各種産業分野で排出される高濃度ないし低濃度TOC含有排水の回収・再利用のための水処理、あるいは工業用水や市水からの超純水製造、その他の分野の水処理に有効に適用される。処理対象とする被処理水は特に限定されるものではないが、有機物含有水に好適に用いることができ、例えばTOC=0.01〜100mg/L、好ましくは0.1〜30mg/L程度の有機物含有水の処理に好適に用いられる。このような有機物含有水としては電子デバイス製造工場排水、輸送機械製造工場排水、有機合成工場排水又は印刷製版・塗装工場排水など、あるいはそれらの一次処理水など挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0069】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0070】
まず、比較例1〜6,実施例1〜6について説明する。
[比較例1]
以下の条件で被処理水を図2に示す平膜試験装置に通水した。
【0071】
この平膜試験装置は、有底有蓋の円筒状容器1の高さ方向の中間位置に平膜セル2を設けて容器内を原水室1Aと透過水室1Bとに仕切り、この容器1をスターラー3上に設置し、ポンプ4で被処理水を配管11を介して原水室1Aに給水すると共に、容器1内の攪拌子5を回転させて原水室1A内を攪拌し、透過水を透過水室1Bより配管12を介して取り出すと共に、濃縮水を原水室1Aより配管13を介して取り出すものである。濃縮水取り出し配管13には圧力計6と開閉バルブ7が設けられている。
【0072】
劣化膜:日東電工社製超低圧逆浸透膜ES20を、次亜塩素酸ナトリウム(遊離塩素1
mg/L)を含む溶液に24時間浸漬して加速劣化させたもの。オリジナル膜
の透過流束、脱塩率、IPA除去率はそれぞれ0.81m/(m・d)
0.972、0.875である。
被処理水:野木町水を活性炭で脱塩素処理し、NaClを500mg/L、IPAを10
0mg/L添加したもの
運転圧力:0.75 MPa
温度:24℃±2℃
【0073】
[比較例2]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にタンニン酸(シグマ・アルドリッチ社製403040−50G)1mg/L添加したものを被処理水とすること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0074】
[比較例3]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にポリエチレングリコール(分子量4000、和光純薬製)1mg/L添加したものを被処理水として2時間通水すること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0075】
[比較例4]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(分子量708、和光純薬製)1mg/L添加したものを被処理水として2時間通水すること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0076】
[比較例5]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にアスパルテーム(味の素製、食品添加物グレード、分子量294)1mg/L添加したものを被処理水として2時間通水すること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0077】
[比較例6]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にアルギニン(味の素製、食品添加物グレード、分子量174)1mg/L添加したものを被処理水とすること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0078】
[比較例7]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にアルギニンを2mg/L、アスパルテーム1mg/L添加したものを被処理水とすること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0079】
[実施例1]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にアルギニンを2mg/L、アスパルテーム1mg/L添加、ポリグリシン(シグマ・アルドリッチ社製P8791−500MG、分子量500〜5000)1mg/L添加したものを被処理水として24時間通水すること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0080】
[実施例2]
比較例1の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にアルギニンを2mg/L、アスパルテーム1mg/L添加、食添タンニン酸AL(富士化学工業社製、分子量500以上)1mg/L添加したものを被処理水として24時間通水すること以外は比較例1の条件で通水を行った。
【0081】
なお、透過流束、脱塩率、IPA除去率は以下の式より算出した。
透過流束[m/(md)]=透過水量[m/d]/膜面積[m]×温度換算係数[−]
脱塩率[%]=(1−透過液の導電率[mS/m]/濃縮液の導電率[mS/m])×100
IPA除去率[%]=(1−透過液のTOC[mg/L]/濃縮液のTOC[mg/L])×100
【0082】
表1に結果を示す。本発明では、脱塩率向上効率及びIPA除去率の向上効率が高く、オリジナルあるいはオリジナル以上の値が得られていることが分かる。
【0083】
【表1】

【0084】
次に比較例8,9、実施例3について説明する。
【0085】
[比較例8]
次の条件で被処理水を図2に示す平膜試験装置に2時間通水した。
劣化膜:排水回収に使用した8インチ日東電工社製低圧逆浸透膜NTR759HRをpH12NaOH水溶液に15時間浸漬、純水リンスした後、2%クエン酸で2時間浸漬、純水リンスしたもの。
被処理水:純水にNaClを500mg/L、IPAを100mg/L溶解させたもの。
運転圧力:1.4 MPa
温度:24℃±2℃
【0086】
[比較例9]
比較例8の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にPEG(ポリエチレングリコール)4000(分子量4000、和光純薬製)5mg/L添加したものを被処理水として2時間通水すること以外は比較例8の条件で通水を行った。
【0087】
[実施例3]
比較例8の条件で通水を行い劣化状態を確認した後、被処理水にアルギニンを20mg/L、アスパルテーム20mg/L添加、食添タンニン酸AL(富士化学工業社製、分子量500以上)10mg/L添加したものを被処理水として2時間通水すること以外は試験方法2の条件で通水を行った。
【0088】
表2に結果を示す。表2の通り、本発明によると、透過流束の低下を10%以内に止め、脱塩率及びIPA除去率を大きく向上させることができる。
【0089】
【表2】

【0090】
以上の実施例及び比較例からも明らかな通り、本発明によれば、被処理水に薬剤を添加して通常の運転圧力で通水することによって、採水を行いながら、劣化膜を大きく透過水量を低下させることなく、脱塩率を回復することができる。また、脱塩率90%以下の著しい劣化膜においても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 容器
1A 原水室
1B 透過水室
2 平膜セル
3 スターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを含む水溶液を逆浸透膜に通水する工程を有することを特徴とする逆浸透膜の阻止率向上方法。
【請求項2】
請求項1において、前記分子量200未満の有機化合物がアミノ酸又はアミノ酸誘導体であることを特徴とする逆浸透膜の阻止率向上方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記分子量500以上の有機化合物が環状構造を有することを特徴とする逆浸透膜の阻止率向上方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記逆浸透膜の前記水溶液を通水する前の脱塩率が90%以下であることを特徴とする逆浸透膜の阻止率向上方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第1の有機化合物と第2の有機化合物との合計の濃度が1〜500mg/Lであり、第3の有機化合物の濃度が1〜500mg/Lであることを特徴とする逆浸透膜の阻止率向上方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の逆浸透膜の阻止率向上方法により阻止率向上処理が施されたことを特徴とする逆浸透膜。
【請求項7】
分子量200未満の第1の有機化合物と、分子量200以上500未満の第2の有機化合物と、分子量500以上の第3の有機化合物とを含む逆浸透膜の阻止率向上剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187469(P2012−187469A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51530(P2011−51530)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】