逆浸透膜フィルタ
【課題】耐水性及び耐薬品性に優れた逆浸透膜フィルタを提供する。
【解決手段】逆浸透膜フィルタは、−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えている。上記Xは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和若しくは不飽和アルキル鎖を表す。Si−C結合は水溶液中でも安定であり、加水分解しない。このため、逆浸透膜フィルタは、耐水性に優れる。また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は塩素負荷をかけても分解せず、耐薬品性にも優れる。
【解決手段】逆浸透膜フィルタは、−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えている。上記Xは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和若しくは不飽和アルキル鎖を表す。Si−C結合は水溶液中でも安定であり、加水分解しない。このため、逆浸透膜フィルタは、耐水性に優れる。また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は塩素負荷をかけても分解せず、耐薬品性にも優れる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜とは、ろ過膜の一種であり、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物を透過させない性質を持つ膜であり、例えば、海水から純水を得る際に用いられる。
【0003】
逆浸透膜の実用化技術における最大の問題点は、海水等の膜を通過させる原水中に存在する蛋白質や糖蛋白等の有機物が膜に吸着し、孔を閉塞することによるファウリングである。膜が有機物で汚染されると膜面にバイオフィルムが形成され、塩阻止率及び透過水量の低下を招く。このため、逆浸透膜は連続的或いは間欠的に薬品洗浄されているのが現状であり、主に次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系薬品で処理されている。
【0004】
現在、海水淡水化や排水処理水の再生などに用いられている逆浸透膜のほとんどは、全芳香族ポリアミド膜である。しかし、全芳香族ポリアミドは、塩素によりアミド結合が切断・分解され、短時間で塩阻止率の低下及び透過水量の増加を招く。このため、逆浸透プロセスでは、まず原水に塩素注入して有機物を除去し、原水を逆浸透膜に供給する直前に還元剤を用いて遊離塩素を還元した後に、ポリアミド膜へ供給する操作が行われている。この洗浄システムが造水コスト増加の一因である。
【0005】
このような背景から、上記の洗浄システムが不要な耐薬品性、耐酸化性、耐熱性に優れた逆浸透膜が求められている。
【0006】
無機材料は上記の特性を備える材料であるが、これまで無機材料を逆浸透膜として応用した例はない。無機膜は、その優れた耐熱性が着目されて研究が進められてきた経緯があり、例えば、ガス分離膜として応用されている(例えば、特許文献1)。また、非特許文献1では、n−ブタノールと水との分離への応用について報じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−233540号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hydrothermally stable molecular separation membranes from organically linked silica;Hessel L.Castricum,Ashima Sah,Robert Kreiter,Dave H.A.Blank,Jaap F.Vente and Johan E.ten Elshof;Jornal of Materials Chemistry,2008,18,2150−2158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のガス分離膜は、Si−O結合によるシロキサンネットワークから構成されている。Si−O結合は、水溶液中で加水分解する。したがって、このガス分離膜は耐水性が低く、そのまま逆浸透膜として利用することはできない。
【0010】
また、非特許文献1では、パーベーパレーション法による分離で、1気圧程度の真空引きで水を透過させて分離しており、高い圧力が要求される逆分離膜にそのまま応用できるものではない。
【0011】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐水性及び耐薬品性に優れた逆浸透膜フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る逆浸透膜フィルタは、
−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える、
ことを特徴とする。
(上記Xは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和又は不飽和アルキル鎖を表す。)
【0013】
また、前記Xが炭素数1以上6以下の直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基であってもよい。
【0014】
また、前記XがCnH2n、CnH(2n−2)又はCnH(2n−4)であってもよい。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【0015】
また、前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜が(RO)3SiCnH2nSi(OR)3、(RO)3SiCnH(2n−2)Si(OR)3又は(RO)3SiCnH(2n−4)Si(OR)3で表される化合物を重合して得られた膜であってもよい。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【0016】
また、多孔質基材上に前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えていてもよい。
【0017】
また、前記多孔質基材が無機多孔質基材であってもよい。
【0018】
また、前記無機多孔質基材と前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜との間に、前記無機多孔質基材の細孔より小さく前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜の細孔よりも大きい細孔を有する中間層を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る逆浸透膜フィルタは、−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えている。上記Xは飽和若しくは不飽和アルキル鎖であり、Si−C結合は水溶液中でも安定であり、加水分解しない。このため、逆浸透膜フィルタは、耐水性に優れる。また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は塩素負荷をかけても分解せず、耐薬品性にも優れる。このため、海水から純水を得る際の造水コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】無機有機ハイブリッド逆浸透膜の概略構成を示す模式図である。
【図2】実施例1において、各水溶液に対するBTESE300(M1)(ビストリエトキシシリルエタンを重合し300℃で焼成して得られた無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える逆浸透膜フィルタ)の水透過率及び阻止率を示すグラフである。
【図3】実施例1において、溶質の分子量が異なる各水溶液に対するBTESE300(M1)及びBTESE100(ビストリエトキシシリルエタンを重合し100℃で焼成して得られた無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える逆浸透膜フィルタ)の阻止率のグラフである。
【図4】実施例1において、(A)はNaCl溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフ、(B)はNaCl溶液に対するBTESE100の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例1において、(A)はMgSO4溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフ、(B)はMgSO4溶液に対するBTESE100の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例1において、Glucose溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例1において、IPA溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例1において、NaCl溶液の温度変化に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の変化を示すグラフである。
【図9】実施例1において、(A)はNaCl溶液の供給圧力の変化に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の変化を示すグラフ、(B)はNaCl溶液の供給圧力の変化に対するBTESE100の水透過率及び阻止率の変化を示すグラフである。
【図10】実施例1において、BTESE300(M1)の塩素負荷と水透過率及び阻止率との関係を示すグラフである。
【図11】実用化されているポリアミド製逆浸透膜の塩素負荷と阻止率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例2において、溶質の分子量が異なる各水溶液に対するBTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)の阻止率のグラフである。
【図13】実施例2において、NaCl溶液に対するBTESEthy(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態に係る逆浸透膜フィルタは、図1の模式図に示すように、−Si−X−Si−結合(図1では、−Si−C2H4−Si−結合)を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えている。後述するように、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、ビストリエトキシシリルエタン(以下、BTESE)やビストリエトキシシリルエチレン(以下、BTESEthy)等の化合物が加水分解し、脱水縮合により重合して得られ、重合によって形成された細孔(図1に示すpore)を水分子が通過し、水に溶解しているナトリウムイオンや塩化物イオン等の通過を阻止する。
【0022】
無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、無機成分である−Si−O−、及び有機成分である−X−(図1の例では−C2H4−)を備えた膜であるため、後述するように、無機成分による耐熱性や耐薬品性、有機成分による柔軟性や膜成形性といった特性を併せ持つ。
【0023】
無機有機ハイブリッド逆浸透膜が備えるSi−C結合は、水溶液中で加水分解しないので、逆浸透膜フィルタは耐水性に優れる。
【0024】
また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、熱安定性に優れる。高い温度の水溶液を通じても支障はない。更には、高い温度の水溶液を通じて分離すると、阻止率が低下することなく、水透過率が向上する。
【0025】
また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、耐薬品性も優れる。後述の実施例に記すように、逆浸透膜フィルタに35000ppmhの塩素負荷を与えても、水透過率及び溶質の阻止率が維持される。このため、塩水から純水を得る際に、膜上におけるバイオファウリング防止のために注入される塩素によっても分解されない。したがって、原水に塩素注入して有機物を除去した後に還元剤を用いて遊離塩素を還元する操作が不要となるので、増水コストを低減できる。
【0026】
また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は耐熱性が高いので、分離する液体の温度が高くても使用することができるとともに、高温膜洗浄することも可能である。更には、液体の温度が高いほど、水透過率及び阻止率も高い。
【0027】
なお、−Si−X−Si−結合におけるXは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和又は不飽和アルキル鎖である。また、Xは直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基であることが好ましい。例えば、CnH2nで表される直鎖状飽和炭化水素残基や、CnH(2n−2)で表される直鎖状オレフィン系炭化水素残基、CnH(2n−4)で表される直鎖状アセチレン系炭化水素残基が挙げられる。この場合、直鎖状飽和炭化水素残基のn、即ち、炭素数は1以上6以下であることが好ましく、より好ましくは1以上4以下である。また、直鎖状オレフィン系炭化水素残基及び直鎖状アセチレン系炭化水素残基のnは2以上6以下であることが好ましく、より好ましくは、炭素数が2以上4以下である。アルキル鎖が長いと、折れ曲がった構造になり、形成される細孔径が不均一になりやすく、逆浸透膜として機能しなくなるおそれがあるためである。
【0028】
逆浸透膜フィルタは、多孔質基材上に無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える形態であることが好ましい。無機有機ハイブリッド逆浸透膜は自己支持能がさほど高くなく自己支持能を持たせようとすれば膜厚が厚くなり、水透過率の低下を招いてしまうおそれがあるためである。
【0029】
多孔質基材はセラミクス等の無機多孔質基材、耐熱性高分子膜等の有機多孔質基材等、工業的な使用に耐え得る機械的強度を有するものが用いられる。
【0030】
無機多孔質基材として、例えばアルミナ(α−Al2O3(α−アルミナ)、γ−Al2O3(γ−アルミナ))、ムライト、ジルコニア、チタニア、或いはこれらの複合物からなるセラミクスが挙げられる。なかでも安価で入手が容易であり、化学的耐性、耐熱性、強度に優れるα−アルミナを主成分とするセラミクスが好ましい。
【0031】
無機多孔質基材である場合、無機多孔質基材と無機有機ハイブリッド逆浸透膜との間に中間層が設けられた3層構造であることが好ましい。中間層の細孔径は、無機多孔質基材の細孔径よりも小さく、無機有機ハイブリッド逆浸透膜の細孔径よりも大きいことが好ましい。中間層を構成する物質は限定されないが、一例としてシリカ−ジルコニアが挙げられる。このように無機有機ハイブリッド逆浸透膜が形成されることで、無機有機ハイブリッド逆浸透膜の膜厚が均一化され、良好な性能を示す逆浸透膜フィルタとなる。
【0032】
また、多孔質基材が有機多孔質基材である場合、逆浸透膜フィルタは柔軟性に優れるとともに、無機多孔質基材に比べて安価であるため、逆浸透膜フィルタを安価に提供することができる。有機多孔質基材として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。後述の実施例で述べるが、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成する際に、焼成を行うが、焼成温度に耐え得る程度の耐熱性を有する高分子膜であることが好ましい。
【0033】
上述した逆浸透膜フィルタは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0034】
(RO)3SiXSi(OR)3で表される化合物、例えば、(RO)3SiCnH2nSi(OR)3で表されるビスエトキシシリルエタン、ビスエトキシシリルブタン、ビスエトキシシリルオクタンや、(RO)3SiCnH(2n−2)Si(OR)3で表わされるビスエトキシシリルエチレン等の化合物、(RO)3SiCnH(2n−4)Si(OR)3で表わされるビスエトキシシリルアセチレン等の化合物を、水を含む溶媒に加えてゾル状にする。ここで、上記Rはアルキル基を表す。この化合物を水に加えるとアルコキシ基(OR)が加水分解し、隣接する化合物同士がSi−O−Si結合により重合する。より具体的には、上記化合物を、水を含む溶媒(エタノール等)に溶解し、触媒として酸(塩酸、硝酸等)又は塩基(アンモニア等)を添加して、加水分解と縮重合反応に十分な時間攪拌することで、ポリマーゾルが調製できる。
【0035】
このゾルをガラス基板等に塗布して焼成することで膜状の無機有機ハイブリッド逆浸透膜を得ることができる。このガス分離膜をガラス基板等から剥離して逆浸透膜フィルタとして用いることができる。
【0036】
焼成温度は400℃より低い温度とする。400℃以上では、Si−CnH2n−Siのアルキル鎖が消失してしまうからである。好ましい焼成温度は100℃以上300℃以下である。この場合、上記温度範囲で高い焼成温度とすることが好ましい。脱水縮合がより進行し、ネットワークが緻密になるので、溶質の阻止率が向上する。
【0037】
また、上述の無機多孔質基材、中間層、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える3層構造の逆浸透膜フィルタは、以下のようにして得ることができる。
【0038】
まず、無機多孔質基材上に中間層を形成する。無機多孔質基材の表面の均質化を行った上で、中間層を形成することが好ましい。均質化に用いる素材としては、無機多孔質基材と同素材の微粒子を用いるとよく、例えば、無機多孔質基材としてアルミナを用いる場合、これと同素材のアルミナ微粒子を無機多孔質基材表面に担持させて均質化するとよい。無機多孔質基材上へのアルミナ微粒子の担持は、バインダーとして中間層の形成に用いる素材と同素材のゾル(例えば、シリカージルコニアコロイドゾル)を用い、バインダーにアルミナ微粒子を分散させて無機多孔質基材表面に塗布し、乾燥、焼成することにより行えばよい。また、上記の工程を複数回行って無機多孔質基材の表面を均質化することが好ましく、この場合、バインダーに分散させるアルミナ微粒子の大きさを徐々に小さくして行うとよい。
【0039】
続いて、均質化した無機多孔質基材上に、中間層を形成する。中間層の形成は、以下のようにホットコーティング法で形成するとよい。無機多孔質基材を予め170℃〜180℃程度に加熱しておき、シリカージルコニアコロイドゾルの希薄溶液を均質化した無機多孔質基材の表面に塗布し、焼成することにより中間層を形成できる。シリカージルコニアコロイドゾルの塗布は不織布等を用いて行うことができる。なお、所望の厚みの中間層を得るため、上記の工程を複数回繰り返し行ってもよい。
【0040】
そして、中間層の表面に、(RO)3SiCnH2nSi(OR)3で表される化合物を水に溶解したゾルを塗布する。ゾルの塗布は、スピンコート法のほか、溶液に浸した不織布を用いて塗布する等、種々の方法によって行うことができる。
【0041】
そして電気炉等で焼成することにより、無機有機ハイブリッド逆浸透膜が形成され、3層構造の逆浸透膜フィルタを得ることができる。
【実施例1】
【0042】
(逆浸透膜の作製)
まず、無機多孔質基材として多孔性α−アルミナ管(長さ:100mm,外径:10mm,平均細孔径:1μm,空効率:50%)を準備し、以下に記すように、α−アルミナ管の外表面の均質化を行った後に、順次、中間層、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成した。
【0043】
(多孔質基材の均質化)
まず、α−アルミナ管の外表面にアルミナ微粒子を担持することで、α−アルミナ管の外表面を均質化した。アルミナ微粒子の担持は、以下のように、用いるアルミナ微粒子の平均粒径を異ならせ(1.9μm、0.2μm)、2段階の工程により行った。
【0044】
シリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものに、平均粒径1.9μmのアルミナ微粒子(住友化学工業(株))を約10wt%程度となるように分散させた(以下、これをシリカ−ジルコニアコロイドゾルAと記す)。また、シリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものに、平均粒径0.2μmのアルミナ微粒子(住友化学工業(株))を約10wt%程度となるように分散させた(以下、これをシリカ−ジルコニアコロイドゾルBと記す)。
【0045】
シリカ−ジルコニアコロイドゾルAを不織布(ベンコット(登録商標),旭化成(株))を用いてアルミナ管の外表面に塗布した。そして、20分間の室温乾燥、10分間180℃で乾燥した後、電気管状炉(EKR−29K,いすゞ製作所(株))で550℃,空気中で15分間焼成した。この操作を計2回行った。
【0046】
続いて、シリカ−ジルコニアコロイドゾルBを、不織布を用いてアルミナ管の外表面に塗布した。そして、20分間の室温乾燥、10分間180℃で乾燥した後、電気管状炉(EKR−29K,いすゞ製作所(株))で550℃,空気中で15分間焼成した。この操作を計3回行った。以上のようにして、α−アルミナ管の外表面を均質化した。
【0047】
(中間層の形成)
次に、外表面を均質化したα−アルミナ管を予め高温(170〜180℃)に加熱し、不織布を用いて、α−アルミナ管の外表面にシリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものを塗布し(ホットコーティング法)、空気中で550℃の温度で15分間焼成した。この操作を数回繰り返し、分離膜支持体の外表面に細孔径が数nm程度の中間層(シリカ−ジルコニア)を形成した。
【0048】
(逆浸透膜の形成)
次に、BTESEを水に加えてBTESEゾルを調製した。なお、BTESEゾルの分子量は、Zetasizer Nano(Malverm社製)により測定したところ、5000〜20000wt/mol程度であった。
【0049】
このBTESEゾルを中間層上に被覆した。そして、乾燥した後、窒素雰囲気下、300℃で30分間焼成し、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成した。このようにして、逆浸透膜フィルタを作製した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESE300(M1)と記す。
【0050】
また、100℃で焼成した以外、上記と同様の条件で無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成し、逆浸透膜フィルタを作製した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESE100と記す。
【0051】
BTESE300(M1)及びBTESE100をSEM写真で観察したところ、ひび割れは確認できなかった。また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜の厚みは100nm以下であった。
【0052】
以上のようにして作製したBTESE300(M1)及びBTESE100を用い、以下の実験を行った。
【0053】
(実験条件)
電解質水溶液として、NaCl水溶液(2000ppm)、及び、MgSO4水溶液(2000ppm)、中性溶質水溶液として、メタノール水溶液(500ppm)、エタノール水溶液(500ppm)、IPA(イソプロピルアルコール)水溶液(500ppm)、n−ブタノール水溶液(500ppm)、及び、グルコース水溶液(500ppm)を用意した。
【0054】
各水溶液をBTESE300(M1)及びBTESE100に供給し、クロスフロー濾過を行った。各水溶液の供給圧力は1.15MPa、各水溶液の温度は25℃で行った。そして、BTESE300(M1)及びBTESE100の各水溶液に対する水透過率(Water permeability)及び各溶質の阻止率(Rejection)を求め、特性を評価した。
【0055】
水透過率Lp(m3/(m2・s・Pa))は、下式(1)により求めた。
Lp=Jv/(ΔP−σΔπ) ・・・(1)
Jvは、フィルタを通す水溶液の流量(L/(m2・h))、ΔP−σΔπは、有効膜透過圧である。
また、Δπ(浸透圧差)は、ファントホフ式(下式(2))から求めた。
Δπ=2RT(Cf−Cp)・・・(2)
Rは気体定数、Tは絶対温度、Cpは透過液体の濃度、Cfは供給水溶液の濃度である。Cp及びCfは、電気伝導率計(ES−51,HORIBA Ltd.)及び全有機炭素計(TOC−VE、島津製作所)にてそれぞれ測定した。
【0056】
阻止率R(%)は、下式(3)から求めた。
R(%)=(1−Cp/Cf)×100・・・(3)
【0057】
(各種水溶液の水透過性及び阻止率の検証)
図2に、BTESE300(M1)の各水溶液に対する水透過率及び阻止率を示している。NaCl水溶液、MgSO4水溶液、イソプロパノール水溶液、グルコース水溶液について、95%以上の阻止率を示した。一方、エタノール水溶液では、阻止率が76%以下であった。これは、エタノールのストークス径が0.4nmと、他の中性溶質(IPA:0.48nm、グルコース:0.73nm)よりも小さいためと考えられる。この結果から、BTESE300(M1)の分離プロセスでは、分子ふるい効果が主要な要因であると考えられる。
【0058】
(分画分子量の検証)
続いて、図3に、BTESE300(M1)及びBTESE100における各溶液の溶質の分子量と阻止率との関係を示す。なお、図3中、SW30HR及びES10は、実用化されているポリアミド製の逆浸透膜のデータであり、「E. S. Hatakeyama, C. J. Gabriel, B. R. Wiesenauer, J. L. Lohr, M. J. Zhou, R. D. Noble, D. L. Gin, J. Membr. Sci. 2011, 366, 62-72.」、「Y. Kiso, K. Muroshige, T. Oguchi, M. Hirose, T. Ohara, T. Shintani, J. Membr. Sci. 2011, 369, 290-298.」からそれぞれ引用している。
【0059】
図3中、破線で示す90%の阻止率が所謂分画分子量(MWCO:molecular weight cut−off)であるが、BTESE100では約84g/molと、実用化されている浸透膜とほぼ同等であり、BTESE300(M1)では約55g/molであった。したがって、実用化されている浸透膜と同等、若しくはそれ以上の良好な分子ふるい特性を有することがわかる。
【0060】
(経時的安定性の検証)
NaCl水溶液、MgSO4水溶液、IPA水溶液、Glucose水溶液を継続して供給し、BTESE300(M1)及びBTESE100の経時的安定性を検証した。
【0061】
図4にNaCl水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(図4(A)がBTESE300(M1)、図4(B)がBTESE100)を示す。また、図5にMgSO4水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(図5(A)がBTESE300(M1)、図5(B)がBTESE100)を示す。また、図6にIPA水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(BTESE300(M1))を示す。また、図7にGlucose水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(BTESE300(M1))を示す。
【0062】
いずれにおいても、時間経過に伴う水透過率及び阻止率の変化はほとんどないことがわかる。したがって、BTESE300(M1)及びBTESE100は、長時間の連続使用でもその分離性能が低下することなく用い得ることがわかる。
【0063】
(熱安定性の検証)
NaCl水溶液の供給圧力は一定(1.15Pa)のまま、NaCl水溶液の温度を25℃から90℃に昇温させた後、90℃から25℃へと降温させ、熱安定性を検証した。
【0064】
図8に、BTESE300(M1)における供給したNaCl水溶液の温度変化に対する水透過率及び阻止率の変化を示している。図8を見ると、NaCl水溶液の温度が高くなると水透過率も向上した。また、阻止率についても、25℃では97.3%であったが、90℃では98.2%とこちらも向上した。
【0065】
一般的なポリアミド製の浸透膜では、温度が高くなると阻止率が低下する傾向にある。その理由は以下のように考えられる。高温では、膜の細孔径が大きくなり大きな分子でも通りやすくなること、また、Naイオン及びClイオンがエネルギーを得て膜を通りやすくなることから、相対的に水の透過率が低下し、その結果阻止率が低下するものと考えられる。
【0066】
しかしながら、BTESE300(M1)では、上述のように水透過率及び阻止率は温度が高いほど高い。BTESE300(M1)では、上記温度範囲では膜の細孔径が変化せず、水の粘度の低下により水がNaイオン及びClイオンよりも相対的に通過しやすくなったためと考えられる。このように、BTESE300(M1)は熱安定性が高いとともに、適応温度範囲が広いことがわかる。また、熱安定性が高いことから、高温膜洗浄も可能である。
【0067】
(圧力依存性の検証)
NaCl水溶液を用い、供給圧力を0.7MPa〜1.5MPaの範囲で変化させ、BTESE300(M1)及びBTESE100の圧力依存性を検証した。
【0068】
図9にNaCl水溶液の供給圧力の変化に対する水透過率及び阻止率の変化(図9(A)がBTESE300(M1)、図9(B)がBTESE100)を示している。
【0069】
供給圧力を上げると、阻止率はやや向上するものの、水透過率はほぼ一定の特性を維持している。
【0070】
(耐薬品性の検証)
市販の次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO,活性塩素:10%)を用い、BTESE300(M1)の耐薬品安定性を検証した。
【0071】
次亜塩素酸ナトリウム溶液は、塩素濃度100ppm,500ppm,1000ppmに調製して用いた。また、次亜塩素酸ナトリウム溶液のpHは、0.2M KH2PO4緩衝液を用いて7に調整した。
【0072】
調整した次亜塩素酸ナトリウム溶液中にBTESE300(M1)を所定時間浸し種々の塩素負荷を与えた。その後、BTESE300(M1)を取り出して洗浄し、次亜塩素酸ナトリウム溶液を除去した後に、上記同様にNaCl溶液(2000ppm,1.15MPa)を供給して、水透過率及び阻止率を求めた。
【0073】
図10に、塩素負荷(Chlorine exposure)と水透過率及び阻止率との関係を示す。また、図11に、参考例として、実用化されているポリアミド製逆浸透膜(SW30HR,Dow FilmTec)の塩素負荷と阻止率との関係を示している。なお、図11に示すグラフは、「Ho Bum Park, Benny D. Freeman, Zhong-Bio Zhang, Mehmet Sankir, and James E. McGrath; Angew. Chem. 2008, 120, 6108-6113」から引用した。
【0074】
図11を見ると、ポリアミド製逆浸透膜では、5000ppmhを超えた後では、塩素負荷が大きくなるにつれて大幅に阻止率が低下している。塩素によってアミド結合が切断・分解されてしまい、耐薬品性がないことがわかる。
【0075】
一方、図10を見ると、BTESE300(M1)では、塩素負荷35000ppmh(1ppmの塩素溶液に4年間さらされていた状態に相当)であっても、水透過率及び阻止率はほとんど変わらず、安定した性能を維持している。したがって、BTESE300(M1)は耐薬品性に優れ、ポリアミド製浸透膜では不可能な次亜塩素酸等の殺菌剤の使用が可能である。
【実施例2】
【0076】
BTESEtyを用いて無機有機ハイブリッド逆浸透膜を作製した。まず、実施例1と同様にして、α−アルミナ管の外表面を均質化した。
【0077】
外表面を均質化したα−アルミナ管を予め高温(170〜180℃)に加熱し、不織布を用いて、α−アルミナ管の外表面にシリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものを塗布し(ホットコーティング法)、空気中で550℃の温度で15分間焼成した。この操作を12回繰り返し、均質化したα−アルミナ管の外表面に中間層(シリカ−ジルコニア)を形成した。
【0078】
(逆浸透膜の形成)
次に、BTESEthy、水、エタノール及び触媒として塩酸を混合し、40℃で1.5時間攪拌してBTESEthyゾルを調製した。なお、BTESEthy、水、エタノール、塩酸の混合比は、モル比で1:60:122:0.2とした。
【0079】
このBTESEthyゾルを中間層上に被覆した。そして、乾燥した後、窒素雰囲気下、300℃で20分間焼成した。この操作を2回行い、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成した。このようにして、逆浸透膜フィルタを作製した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESEthy(M1)と記す。
【0080】
また、再現性を確認するため、上記と全く同様にして逆浸透膜フィルタを作成した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESEthy(M2)と記す。
【0081】
また、BTESEthyをBTESEに代える以外、上記と同様にして逆浸透膜フィルタを作成した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESE300(M2)と記す。
【0082】
以上のようにして作製したBTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)を用い、以下の実験を行った。
【0083】
(分画分子量の検証)
メタノール水溶液(500ppm)、エタノール水溶液(500ppm)、IPA(イソプロピルアルコール)水溶液(500ppm)、及び、グルコース水溶液(500ppm)を用意した。各水溶液をBTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)に供給し、クロスフロー濾過を行った。各水溶液の供給圧力は1.15MPa、各水溶液の温度は25℃で行った。そして、BTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)の各水溶液に対する各溶質の阻止率を求めた。阻止率は実施例1と同様の手法で求めた。
【0084】
図12に、BTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)における各溶液の溶質の分子量と阻止率との関係を示す。なお、図12中、SW30HRは、実用化されているポリアミド製の逆浸透膜のデータであり、「E. S. Hatakeyama, C. J. Gabriel, B. R. Wiesenauer, J. L. Lohr, M. J. Zhou, R. D. Noble, D. L. Gin, J. Membr. Sci. 2011, 366, 62-72.」、「Y. Kiso, K. Muroshige, T. Oguchi, M. Hirose, T. Ohara, T. Shintani, J. Membr. Sci. 2011, 369, 290-298.」から引用している。
【0085】
BTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)の分画分子量(図12中、破線で示す阻止率90%の分子量)は、いずれも60g/mol程度であり、実用化されている浸透膜(SW30HR)よりも良好な分子ふるい特性を有することがわかる。
【0086】
(経時的安定性の検証)
BTESEthy(M1)にNaCl水溶液(2000ppm、25℃)を継続して供給し(供給圧力1.15MPa)、水透過率及び阻止率を経時的に測定し、BTESEthy(M1)の経時的安定性を検証した。なお、水透過率及び阻止率は、それぞれ実施例1と同様の手法で求めた。
【0087】
その結果を図13に示す。時間経過に伴う水透過率及び阻止率はほぼ一定で変化がないことがわかる。したがって、BTESEthyの分離機能は損なわれることがないので、長時間の連続使用にも用い得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
逆浸透膜フィルタは、海水から純水を分離する等、様々な液体の分離に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜とは、ろ過膜の一種であり、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物を透過させない性質を持つ膜であり、例えば、海水から純水を得る際に用いられる。
【0003】
逆浸透膜の実用化技術における最大の問題点は、海水等の膜を通過させる原水中に存在する蛋白質や糖蛋白等の有機物が膜に吸着し、孔を閉塞することによるファウリングである。膜が有機物で汚染されると膜面にバイオフィルムが形成され、塩阻止率及び透過水量の低下を招く。このため、逆浸透膜は連続的或いは間欠的に薬品洗浄されているのが現状であり、主に次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系薬品で処理されている。
【0004】
現在、海水淡水化や排水処理水の再生などに用いられている逆浸透膜のほとんどは、全芳香族ポリアミド膜である。しかし、全芳香族ポリアミドは、塩素によりアミド結合が切断・分解され、短時間で塩阻止率の低下及び透過水量の増加を招く。このため、逆浸透プロセスでは、まず原水に塩素注入して有機物を除去し、原水を逆浸透膜に供給する直前に還元剤を用いて遊離塩素を還元した後に、ポリアミド膜へ供給する操作が行われている。この洗浄システムが造水コスト増加の一因である。
【0005】
このような背景から、上記の洗浄システムが不要な耐薬品性、耐酸化性、耐熱性に優れた逆浸透膜が求められている。
【0006】
無機材料は上記の特性を備える材料であるが、これまで無機材料を逆浸透膜として応用した例はない。無機膜は、その優れた耐熱性が着目されて研究が進められてきた経緯があり、例えば、ガス分離膜として応用されている(例えば、特許文献1)。また、非特許文献1では、n−ブタノールと水との分離への応用について報じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−233540号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hydrothermally stable molecular separation membranes from organically linked silica;Hessel L.Castricum,Ashima Sah,Robert Kreiter,Dave H.A.Blank,Jaap F.Vente and Johan E.ten Elshof;Jornal of Materials Chemistry,2008,18,2150−2158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のガス分離膜は、Si−O結合によるシロキサンネットワークから構成されている。Si−O結合は、水溶液中で加水分解する。したがって、このガス分離膜は耐水性が低く、そのまま逆浸透膜として利用することはできない。
【0010】
また、非特許文献1では、パーベーパレーション法による分離で、1気圧程度の真空引きで水を透過させて分離しており、高い圧力が要求される逆分離膜にそのまま応用できるものではない。
【0011】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐水性及び耐薬品性に優れた逆浸透膜フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る逆浸透膜フィルタは、
−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える、
ことを特徴とする。
(上記Xは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和又は不飽和アルキル鎖を表す。)
【0013】
また、前記Xが炭素数1以上6以下の直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基であってもよい。
【0014】
また、前記XがCnH2n、CnH(2n−2)又はCnH(2n−4)であってもよい。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【0015】
また、前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜が(RO)3SiCnH2nSi(OR)3、(RO)3SiCnH(2n−2)Si(OR)3又は(RO)3SiCnH(2n−4)Si(OR)3で表される化合物を重合して得られた膜であってもよい。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【0016】
また、多孔質基材上に前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えていてもよい。
【0017】
また、前記多孔質基材が無機多孔質基材であってもよい。
【0018】
また、前記無機多孔質基材と前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜との間に、前記無機多孔質基材の細孔より小さく前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜の細孔よりも大きい細孔を有する中間層を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る逆浸透膜フィルタは、−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えている。上記Xは飽和若しくは不飽和アルキル鎖であり、Si−C結合は水溶液中でも安定であり、加水分解しない。このため、逆浸透膜フィルタは、耐水性に優れる。また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は塩素負荷をかけても分解せず、耐薬品性にも優れる。このため、海水から純水を得る際の造水コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】無機有機ハイブリッド逆浸透膜の概略構成を示す模式図である。
【図2】実施例1において、各水溶液に対するBTESE300(M1)(ビストリエトキシシリルエタンを重合し300℃で焼成して得られた無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える逆浸透膜フィルタ)の水透過率及び阻止率を示すグラフである。
【図3】実施例1において、溶質の分子量が異なる各水溶液に対するBTESE300(M1)及びBTESE100(ビストリエトキシシリルエタンを重合し100℃で焼成して得られた無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える逆浸透膜フィルタ)の阻止率のグラフである。
【図4】実施例1において、(A)はNaCl溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフ、(B)はNaCl溶液に対するBTESE100の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例1において、(A)はMgSO4溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフ、(B)はMgSO4溶液に対するBTESE100の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例1において、Glucose溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例1において、IPA溶液に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例1において、NaCl溶液の温度変化に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の変化を示すグラフである。
【図9】実施例1において、(A)はNaCl溶液の供給圧力の変化に対するBTESE300(M1)の水透過率及び阻止率の変化を示すグラフ、(B)はNaCl溶液の供給圧力の変化に対するBTESE100の水透過率及び阻止率の変化を示すグラフである。
【図10】実施例1において、BTESE300(M1)の塩素負荷と水透過率及び阻止率との関係を示すグラフである。
【図11】実用化されているポリアミド製逆浸透膜の塩素負荷と阻止率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例2において、溶質の分子量が異なる各水溶液に対するBTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)の阻止率のグラフである。
【図13】実施例2において、NaCl溶液に対するBTESEthy(M1)の水透過率及び阻止率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態に係る逆浸透膜フィルタは、図1の模式図に示すように、−Si−X−Si−結合(図1では、−Si−C2H4−Si−結合)を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備えている。後述するように、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、ビストリエトキシシリルエタン(以下、BTESE)やビストリエトキシシリルエチレン(以下、BTESEthy)等の化合物が加水分解し、脱水縮合により重合して得られ、重合によって形成された細孔(図1に示すpore)を水分子が通過し、水に溶解しているナトリウムイオンや塩化物イオン等の通過を阻止する。
【0022】
無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、無機成分である−Si−O−、及び有機成分である−X−(図1の例では−C2H4−)を備えた膜であるため、後述するように、無機成分による耐熱性や耐薬品性、有機成分による柔軟性や膜成形性といった特性を併せ持つ。
【0023】
無機有機ハイブリッド逆浸透膜が備えるSi−C結合は、水溶液中で加水分解しないので、逆浸透膜フィルタは耐水性に優れる。
【0024】
また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、熱安定性に優れる。高い温度の水溶液を通じても支障はない。更には、高い温度の水溶液を通じて分離すると、阻止率が低下することなく、水透過率が向上する。
【0025】
また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は、耐薬品性も優れる。後述の実施例に記すように、逆浸透膜フィルタに35000ppmhの塩素負荷を与えても、水透過率及び溶質の阻止率が維持される。このため、塩水から純水を得る際に、膜上におけるバイオファウリング防止のために注入される塩素によっても分解されない。したがって、原水に塩素注入して有機物を除去した後に還元剤を用いて遊離塩素を還元する操作が不要となるので、増水コストを低減できる。
【0026】
また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜は耐熱性が高いので、分離する液体の温度が高くても使用することができるとともに、高温膜洗浄することも可能である。更には、液体の温度が高いほど、水透過率及び阻止率も高い。
【0027】
なお、−Si−X−Si−結合におけるXは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和又は不飽和アルキル鎖である。また、Xは直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基であることが好ましい。例えば、CnH2nで表される直鎖状飽和炭化水素残基や、CnH(2n−2)で表される直鎖状オレフィン系炭化水素残基、CnH(2n−4)で表される直鎖状アセチレン系炭化水素残基が挙げられる。この場合、直鎖状飽和炭化水素残基のn、即ち、炭素数は1以上6以下であることが好ましく、より好ましくは1以上4以下である。また、直鎖状オレフィン系炭化水素残基及び直鎖状アセチレン系炭化水素残基のnは2以上6以下であることが好ましく、より好ましくは、炭素数が2以上4以下である。アルキル鎖が長いと、折れ曲がった構造になり、形成される細孔径が不均一になりやすく、逆浸透膜として機能しなくなるおそれがあるためである。
【0028】
逆浸透膜フィルタは、多孔質基材上に無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える形態であることが好ましい。無機有機ハイブリッド逆浸透膜は自己支持能がさほど高くなく自己支持能を持たせようとすれば膜厚が厚くなり、水透過率の低下を招いてしまうおそれがあるためである。
【0029】
多孔質基材はセラミクス等の無機多孔質基材、耐熱性高分子膜等の有機多孔質基材等、工業的な使用に耐え得る機械的強度を有するものが用いられる。
【0030】
無機多孔質基材として、例えばアルミナ(α−Al2O3(α−アルミナ)、γ−Al2O3(γ−アルミナ))、ムライト、ジルコニア、チタニア、或いはこれらの複合物からなるセラミクスが挙げられる。なかでも安価で入手が容易であり、化学的耐性、耐熱性、強度に優れるα−アルミナを主成分とするセラミクスが好ましい。
【0031】
無機多孔質基材である場合、無機多孔質基材と無機有機ハイブリッド逆浸透膜との間に中間層が設けられた3層構造であることが好ましい。中間層の細孔径は、無機多孔質基材の細孔径よりも小さく、無機有機ハイブリッド逆浸透膜の細孔径よりも大きいことが好ましい。中間層を構成する物質は限定されないが、一例としてシリカ−ジルコニアが挙げられる。このように無機有機ハイブリッド逆浸透膜が形成されることで、無機有機ハイブリッド逆浸透膜の膜厚が均一化され、良好な性能を示す逆浸透膜フィルタとなる。
【0032】
また、多孔質基材が有機多孔質基材である場合、逆浸透膜フィルタは柔軟性に優れるとともに、無機多孔質基材に比べて安価であるため、逆浸透膜フィルタを安価に提供することができる。有機多孔質基材として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。後述の実施例で述べるが、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成する際に、焼成を行うが、焼成温度に耐え得る程度の耐熱性を有する高分子膜であることが好ましい。
【0033】
上述した逆浸透膜フィルタは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0034】
(RO)3SiXSi(OR)3で表される化合物、例えば、(RO)3SiCnH2nSi(OR)3で表されるビスエトキシシリルエタン、ビスエトキシシリルブタン、ビスエトキシシリルオクタンや、(RO)3SiCnH(2n−2)Si(OR)3で表わされるビスエトキシシリルエチレン等の化合物、(RO)3SiCnH(2n−4)Si(OR)3で表わされるビスエトキシシリルアセチレン等の化合物を、水を含む溶媒に加えてゾル状にする。ここで、上記Rはアルキル基を表す。この化合物を水に加えるとアルコキシ基(OR)が加水分解し、隣接する化合物同士がSi−O−Si結合により重合する。より具体的には、上記化合物を、水を含む溶媒(エタノール等)に溶解し、触媒として酸(塩酸、硝酸等)又は塩基(アンモニア等)を添加して、加水分解と縮重合反応に十分な時間攪拌することで、ポリマーゾルが調製できる。
【0035】
このゾルをガラス基板等に塗布して焼成することで膜状の無機有機ハイブリッド逆浸透膜を得ることができる。このガス分離膜をガラス基板等から剥離して逆浸透膜フィルタとして用いることができる。
【0036】
焼成温度は400℃より低い温度とする。400℃以上では、Si−CnH2n−Siのアルキル鎖が消失してしまうからである。好ましい焼成温度は100℃以上300℃以下である。この場合、上記温度範囲で高い焼成温度とすることが好ましい。脱水縮合がより進行し、ネットワークが緻密になるので、溶質の阻止率が向上する。
【0037】
また、上述の無機多孔質基材、中間層、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える3層構造の逆浸透膜フィルタは、以下のようにして得ることができる。
【0038】
まず、無機多孔質基材上に中間層を形成する。無機多孔質基材の表面の均質化を行った上で、中間層を形成することが好ましい。均質化に用いる素材としては、無機多孔質基材と同素材の微粒子を用いるとよく、例えば、無機多孔質基材としてアルミナを用いる場合、これと同素材のアルミナ微粒子を無機多孔質基材表面に担持させて均質化するとよい。無機多孔質基材上へのアルミナ微粒子の担持は、バインダーとして中間層の形成に用いる素材と同素材のゾル(例えば、シリカージルコニアコロイドゾル)を用い、バインダーにアルミナ微粒子を分散させて無機多孔質基材表面に塗布し、乾燥、焼成することにより行えばよい。また、上記の工程を複数回行って無機多孔質基材の表面を均質化することが好ましく、この場合、バインダーに分散させるアルミナ微粒子の大きさを徐々に小さくして行うとよい。
【0039】
続いて、均質化した無機多孔質基材上に、中間層を形成する。中間層の形成は、以下のようにホットコーティング法で形成するとよい。無機多孔質基材を予め170℃〜180℃程度に加熱しておき、シリカージルコニアコロイドゾルの希薄溶液を均質化した無機多孔質基材の表面に塗布し、焼成することにより中間層を形成できる。シリカージルコニアコロイドゾルの塗布は不織布等を用いて行うことができる。なお、所望の厚みの中間層を得るため、上記の工程を複数回繰り返し行ってもよい。
【0040】
そして、中間層の表面に、(RO)3SiCnH2nSi(OR)3で表される化合物を水に溶解したゾルを塗布する。ゾルの塗布は、スピンコート法のほか、溶液に浸した不織布を用いて塗布する等、種々の方法によって行うことができる。
【0041】
そして電気炉等で焼成することにより、無機有機ハイブリッド逆浸透膜が形成され、3層構造の逆浸透膜フィルタを得ることができる。
【実施例1】
【0042】
(逆浸透膜の作製)
まず、無機多孔質基材として多孔性α−アルミナ管(長さ:100mm,外径:10mm,平均細孔径:1μm,空効率:50%)を準備し、以下に記すように、α−アルミナ管の外表面の均質化を行った後に、順次、中間層、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成した。
【0043】
(多孔質基材の均質化)
まず、α−アルミナ管の外表面にアルミナ微粒子を担持することで、α−アルミナ管の外表面を均質化した。アルミナ微粒子の担持は、以下のように、用いるアルミナ微粒子の平均粒径を異ならせ(1.9μm、0.2μm)、2段階の工程により行った。
【0044】
シリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものに、平均粒径1.9μmのアルミナ微粒子(住友化学工業(株))を約10wt%程度となるように分散させた(以下、これをシリカ−ジルコニアコロイドゾルAと記す)。また、シリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものに、平均粒径0.2μmのアルミナ微粒子(住友化学工業(株))を約10wt%程度となるように分散させた(以下、これをシリカ−ジルコニアコロイドゾルBと記す)。
【0045】
シリカ−ジルコニアコロイドゾルAを不織布(ベンコット(登録商標),旭化成(株))を用いてアルミナ管の外表面に塗布した。そして、20分間の室温乾燥、10分間180℃で乾燥した後、電気管状炉(EKR−29K,いすゞ製作所(株))で550℃,空気中で15分間焼成した。この操作を計2回行った。
【0046】
続いて、シリカ−ジルコニアコロイドゾルBを、不織布を用いてアルミナ管の外表面に塗布した。そして、20分間の室温乾燥、10分間180℃で乾燥した後、電気管状炉(EKR−29K,いすゞ製作所(株))で550℃,空気中で15分間焼成した。この操作を計3回行った。以上のようにして、α−アルミナ管の外表面を均質化した。
【0047】
(中間層の形成)
次に、外表面を均質化したα−アルミナ管を予め高温(170〜180℃)に加熱し、不織布を用いて、α−アルミナ管の外表面にシリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものを塗布し(ホットコーティング法)、空気中で550℃の温度で15分間焼成した。この操作を数回繰り返し、分離膜支持体の外表面に細孔径が数nm程度の中間層(シリカ−ジルコニア)を形成した。
【0048】
(逆浸透膜の形成)
次に、BTESEを水に加えてBTESEゾルを調製した。なお、BTESEゾルの分子量は、Zetasizer Nano(Malverm社製)により測定したところ、5000〜20000wt/mol程度であった。
【0049】
このBTESEゾルを中間層上に被覆した。そして、乾燥した後、窒素雰囲気下、300℃で30分間焼成し、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成した。このようにして、逆浸透膜フィルタを作製した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESE300(M1)と記す。
【0050】
また、100℃で焼成した以外、上記と同様の条件で無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成し、逆浸透膜フィルタを作製した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESE100と記す。
【0051】
BTESE300(M1)及びBTESE100をSEM写真で観察したところ、ひび割れは確認できなかった。また、無機有機ハイブリッド逆浸透膜の厚みは100nm以下であった。
【0052】
以上のようにして作製したBTESE300(M1)及びBTESE100を用い、以下の実験を行った。
【0053】
(実験条件)
電解質水溶液として、NaCl水溶液(2000ppm)、及び、MgSO4水溶液(2000ppm)、中性溶質水溶液として、メタノール水溶液(500ppm)、エタノール水溶液(500ppm)、IPA(イソプロピルアルコール)水溶液(500ppm)、n−ブタノール水溶液(500ppm)、及び、グルコース水溶液(500ppm)を用意した。
【0054】
各水溶液をBTESE300(M1)及びBTESE100に供給し、クロスフロー濾過を行った。各水溶液の供給圧力は1.15MPa、各水溶液の温度は25℃で行った。そして、BTESE300(M1)及びBTESE100の各水溶液に対する水透過率(Water permeability)及び各溶質の阻止率(Rejection)を求め、特性を評価した。
【0055】
水透過率Lp(m3/(m2・s・Pa))は、下式(1)により求めた。
Lp=Jv/(ΔP−σΔπ) ・・・(1)
Jvは、フィルタを通す水溶液の流量(L/(m2・h))、ΔP−σΔπは、有効膜透過圧である。
また、Δπ(浸透圧差)は、ファントホフ式(下式(2))から求めた。
Δπ=2RT(Cf−Cp)・・・(2)
Rは気体定数、Tは絶対温度、Cpは透過液体の濃度、Cfは供給水溶液の濃度である。Cp及びCfは、電気伝導率計(ES−51,HORIBA Ltd.)及び全有機炭素計(TOC−VE、島津製作所)にてそれぞれ測定した。
【0056】
阻止率R(%)は、下式(3)から求めた。
R(%)=(1−Cp/Cf)×100・・・(3)
【0057】
(各種水溶液の水透過性及び阻止率の検証)
図2に、BTESE300(M1)の各水溶液に対する水透過率及び阻止率を示している。NaCl水溶液、MgSO4水溶液、イソプロパノール水溶液、グルコース水溶液について、95%以上の阻止率を示した。一方、エタノール水溶液では、阻止率が76%以下であった。これは、エタノールのストークス径が0.4nmと、他の中性溶質(IPA:0.48nm、グルコース:0.73nm)よりも小さいためと考えられる。この結果から、BTESE300(M1)の分離プロセスでは、分子ふるい効果が主要な要因であると考えられる。
【0058】
(分画分子量の検証)
続いて、図3に、BTESE300(M1)及びBTESE100における各溶液の溶質の分子量と阻止率との関係を示す。なお、図3中、SW30HR及びES10は、実用化されているポリアミド製の逆浸透膜のデータであり、「E. S. Hatakeyama, C. J. Gabriel, B. R. Wiesenauer, J. L. Lohr, M. J. Zhou, R. D. Noble, D. L. Gin, J. Membr. Sci. 2011, 366, 62-72.」、「Y. Kiso, K. Muroshige, T. Oguchi, M. Hirose, T. Ohara, T. Shintani, J. Membr. Sci. 2011, 369, 290-298.」からそれぞれ引用している。
【0059】
図3中、破線で示す90%の阻止率が所謂分画分子量(MWCO:molecular weight cut−off)であるが、BTESE100では約84g/molと、実用化されている浸透膜とほぼ同等であり、BTESE300(M1)では約55g/molであった。したがって、実用化されている浸透膜と同等、若しくはそれ以上の良好な分子ふるい特性を有することがわかる。
【0060】
(経時的安定性の検証)
NaCl水溶液、MgSO4水溶液、IPA水溶液、Glucose水溶液を継続して供給し、BTESE300(M1)及びBTESE100の経時的安定性を検証した。
【0061】
図4にNaCl水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(図4(A)がBTESE300(M1)、図4(B)がBTESE100)を示す。また、図5にMgSO4水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(図5(A)がBTESE300(M1)、図5(B)がBTESE100)を示す。また、図6にIPA水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(BTESE300(M1))を示す。また、図7にGlucose水溶液を供給した際の水透過率及び阻止率の経時変化(BTESE300(M1))を示す。
【0062】
いずれにおいても、時間経過に伴う水透過率及び阻止率の変化はほとんどないことがわかる。したがって、BTESE300(M1)及びBTESE100は、長時間の連続使用でもその分離性能が低下することなく用い得ることがわかる。
【0063】
(熱安定性の検証)
NaCl水溶液の供給圧力は一定(1.15Pa)のまま、NaCl水溶液の温度を25℃から90℃に昇温させた後、90℃から25℃へと降温させ、熱安定性を検証した。
【0064】
図8に、BTESE300(M1)における供給したNaCl水溶液の温度変化に対する水透過率及び阻止率の変化を示している。図8を見ると、NaCl水溶液の温度が高くなると水透過率も向上した。また、阻止率についても、25℃では97.3%であったが、90℃では98.2%とこちらも向上した。
【0065】
一般的なポリアミド製の浸透膜では、温度が高くなると阻止率が低下する傾向にある。その理由は以下のように考えられる。高温では、膜の細孔径が大きくなり大きな分子でも通りやすくなること、また、Naイオン及びClイオンがエネルギーを得て膜を通りやすくなることから、相対的に水の透過率が低下し、その結果阻止率が低下するものと考えられる。
【0066】
しかしながら、BTESE300(M1)では、上述のように水透過率及び阻止率は温度が高いほど高い。BTESE300(M1)では、上記温度範囲では膜の細孔径が変化せず、水の粘度の低下により水がNaイオン及びClイオンよりも相対的に通過しやすくなったためと考えられる。このように、BTESE300(M1)は熱安定性が高いとともに、適応温度範囲が広いことがわかる。また、熱安定性が高いことから、高温膜洗浄も可能である。
【0067】
(圧力依存性の検証)
NaCl水溶液を用い、供給圧力を0.7MPa〜1.5MPaの範囲で変化させ、BTESE300(M1)及びBTESE100の圧力依存性を検証した。
【0068】
図9にNaCl水溶液の供給圧力の変化に対する水透過率及び阻止率の変化(図9(A)がBTESE300(M1)、図9(B)がBTESE100)を示している。
【0069】
供給圧力を上げると、阻止率はやや向上するものの、水透過率はほぼ一定の特性を維持している。
【0070】
(耐薬品性の検証)
市販の次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO,活性塩素:10%)を用い、BTESE300(M1)の耐薬品安定性を検証した。
【0071】
次亜塩素酸ナトリウム溶液は、塩素濃度100ppm,500ppm,1000ppmに調製して用いた。また、次亜塩素酸ナトリウム溶液のpHは、0.2M KH2PO4緩衝液を用いて7に調整した。
【0072】
調整した次亜塩素酸ナトリウム溶液中にBTESE300(M1)を所定時間浸し種々の塩素負荷を与えた。その後、BTESE300(M1)を取り出して洗浄し、次亜塩素酸ナトリウム溶液を除去した後に、上記同様にNaCl溶液(2000ppm,1.15MPa)を供給して、水透過率及び阻止率を求めた。
【0073】
図10に、塩素負荷(Chlorine exposure)と水透過率及び阻止率との関係を示す。また、図11に、参考例として、実用化されているポリアミド製逆浸透膜(SW30HR,Dow FilmTec)の塩素負荷と阻止率との関係を示している。なお、図11に示すグラフは、「Ho Bum Park, Benny D. Freeman, Zhong-Bio Zhang, Mehmet Sankir, and James E. McGrath; Angew. Chem. 2008, 120, 6108-6113」から引用した。
【0074】
図11を見ると、ポリアミド製逆浸透膜では、5000ppmhを超えた後では、塩素負荷が大きくなるにつれて大幅に阻止率が低下している。塩素によってアミド結合が切断・分解されてしまい、耐薬品性がないことがわかる。
【0075】
一方、図10を見ると、BTESE300(M1)では、塩素負荷35000ppmh(1ppmの塩素溶液に4年間さらされていた状態に相当)であっても、水透過率及び阻止率はほとんど変わらず、安定した性能を維持している。したがって、BTESE300(M1)は耐薬品性に優れ、ポリアミド製浸透膜では不可能な次亜塩素酸等の殺菌剤の使用が可能である。
【実施例2】
【0076】
BTESEtyを用いて無機有機ハイブリッド逆浸透膜を作製した。まず、実施例1と同様にして、α−アルミナ管の外表面を均質化した。
【0077】
外表面を均質化したα−アルミナ管を予め高温(170〜180℃)に加熱し、不織布を用いて、α−アルミナ管の外表面にシリカ−ジルコニアコロイドゾル(平均粒径約50nm、濃度2.0wt%)を蒸留水で4倍に希釈したものを塗布し(ホットコーティング法)、空気中で550℃の温度で15分間焼成した。この操作を12回繰り返し、均質化したα−アルミナ管の外表面に中間層(シリカ−ジルコニア)を形成した。
【0078】
(逆浸透膜の形成)
次に、BTESEthy、水、エタノール及び触媒として塩酸を混合し、40℃で1.5時間攪拌してBTESEthyゾルを調製した。なお、BTESEthy、水、エタノール、塩酸の混合比は、モル比で1:60:122:0.2とした。
【0079】
このBTESEthyゾルを中間層上に被覆した。そして、乾燥した後、窒素雰囲気下、300℃で20分間焼成した。この操作を2回行い、無機有機ハイブリッド逆浸透膜を形成した。このようにして、逆浸透膜フィルタを作製した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESEthy(M1)と記す。
【0080】
また、再現性を確認するため、上記と全く同様にして逆浸透膜フィルタを作成した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESEthy(M2)と記す。
【0081】
また、BTESEthyをBTESEに代える以外、上記と同様にして逆浸透膜フィルタを作成した。以下、この逆浸透膜フィルタをBTESE300(M2)と記す。
【0082】
以上のようにして作製したBTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)を用い、以下の実験を行った。
【0083】
(分画分子量の検証)
メタノール水溶液(500ppm)、エタノール水溶液(500ppm)、IPA(イソプロピルアルコール)水溶液(500ppm)、及び、グルコース水溶液(500ppm)を用意した。各水溶液をBTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)に供給し、クロスフロー濾過を行った。各水溶液の供給圧力は1.15MPa、各水溶液の温度は25℃で行った。そして、BTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)の各水溶液に対する各溶質の阻止率を求めた。阻止率は実施例1と同様の手法で求めた。
【0084】
図12に、BTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)における各溶液の溶質の分子量と阻止率との関係を示す。なお、図12中、SW30HRは、実用化されているポリアミド製の逆浸透膜のデータであり、「E. S. Hatakeyama, C. J. Gabriel, B. R. Wiesenauer, J. L. Lohr, M. J. Zhou, R. D. Noble, D. L. Gin, J. Membr. Sci. 2011, 366, 62-72.」、「Y. Kiso, K. Muroshige, T. Oguchi, M. Hirose, T. Ohara, T. Shintani, J. Membr. Sci. 2011, 369, 290-298.」から引用している。
【0085】
BTESEthy(M1)、BTESEthy(M2)及びBTESE300(M2)の分画分子量(図12中、破線で示す阻止率90%の分子量)は、いずれも60g/mol程度であり、実用化されている浸透膜(SW30HR)よりも良好な分子ふるい特性を有することがわかる。
【0086】
(経時的安定性の検証)
BTESEthy(M1)にNaCl水溶液(2000ppm、25℃)を継続して供給し(供給圧力1.15MPa)、水透過率及び阻止率を経時的に測定し、BTESEthy(M1)の経時的安定性を検証した。なお、水透過率及び阻止率は、それぞれ実施例1と同様の手法で求めた。
【0087】
その結果を図13に示す。時間経過に伴う水透過率及び阻止率はほぼ一定で変化がないことがわかる。したがって、BTESEthyの分離機能は損なわれることがないので、長時間の連続使用にも用い得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
逆浸透膜フィルタは、海水から純水を分離する等、様々な液体の分離に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える、
ことを特徴とする逆浸透膜フィルタ。
(上記Xは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和又は不飽和アルキル鎖を表す。)
【請求項2】
前記Xが炭素数1以上6以下の直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基である、
ことを特徴とする請求項1に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項3】
前記XがCnH2n、CnH(2n−2)又はCnH(2n−4)である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の逆浸透膜フィルタ。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【請求項4】
前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜が(RO)3SiCnH2nSi(OR)3、(RO)3SiCnH(2n−2)Si(OR)3又は(RO)3SiCnH(2n−4)Si(OR)3で表される化合物を重合して得られた膜である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の逆浸透膜フィルタ。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【請求項5】
多孔質基材上に前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項6】
前記多孔質基材が無機多孔質基材である、
ことを特徴とする請求項5に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項7】
前記無機多孔質基材と前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜との間に、前記無機多孔質基材の細孔より小さく前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜の細孔よりも大きい細孔を有する中間層を備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項1】
−Si−X−Si−結合を有する無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える、
ことを特徴とする逆浸透膜フィルタ。
(上記Xは、一つ以上の水素が置換されていてもよい飽和又は不飽和アルキル鎖を表す。)
【請求項2】
前記Xが炭素数1以上6以下の直鎖状飽和炭化水素残基、直鎖状オレフィン系炭化水素残基又は直鎖状アセチレン系炭化水素残基である、
ことを特徴とする請求項1に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項3】
前記XがCnH2n、CnH(2n−2)又はCnH(2n−4)である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の逆浸透膜フィルタ。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【請求項4】
前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜が(RO)3SiCnH2nSi(OR)3、(RO)3SiCnH(2n−2)Si(OR)3又は(RO)3SiCnH(2n−4)Si(OR)3で表される化合物を重合して得られた膜である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の逆浸透膜フィルタ。
(上記nは1以上6以下の整数を表す。)
【請求項5】
多孔質基材上に前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項6】
前記多孔質基材が無機多孔質基材である、
ことを特徴とする請求項5に記載の逆浸透膜フィルタ。
【請求項7】
前記無機多孔質基材と前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜との間に、前記無機多孔質基材の細孔より小さく前記無機有機ハイブリッド逆浸透膜の細孔よりも大きい細孔を有する中間層を備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の逆浸透膜フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−254449(P2012−254449A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112239(P2012−112239)
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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