説明

逆浸透膜分離方法及び逆浸透膜安定化剤

【課題】簡便な方法で、逆浸透膜の透過水量を保ち、逆浸透膜による分離を安定して行う方法と、逆浸透膜の安定化剤とを提供する。
【解決手段】逆浸透膜30に通水する際、被処理水に、ケン化度85%以上のアニオン性ポリビニルアルコール(PVA)を添加する。アニオン性PVAは、逆浸透膜30表面に付着し、有機物の付着を防止する。アニオン性PVAは連続的又は断続的に被処理水に添加されるので、逆浸透膜30からアニオン性PVAが流出しても、追加供給されたアニオン性PVAが新たに付着する。従って、逆浸透膜30の透過水量は低下せず、分離処理を安定して行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜を用いた分離方法と、それに用いられる安定化剤に関する。より詳しくは、逆浸透膜の透過水量を低下させず、水処理を安定して行うことが可能な分離方法と、それに用いる安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水や水道水を原水とした超純水製造プロセスや、排水回収プロセス、海水淡水化製造プロセスにおいて、逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane:RO膜)は幅広く使用されている。逆浸透膜は、スケールの析出、微生物の繁殖、有機物の付着などにより、透過水量が徐々に減少するため、必要に応じてスケール防止剤やスライムコントロール剤を添加し、処理安定化を図っていた。
【0003】
これらのプロセスで特に問題となるスケール物質としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウムなどがある。これまで、カルシウム系やマグネシウム系スケールに対しては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸などを重合したカルボキシル基を有するポリマーが、スケール防止剤に有効であるとして用いられてきた。
【0004】
さらに、必要に応じて、カルボキシル基を有するモノマーとビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマーや、アクリルアミドなどのノニオン性ビニルモノマーを、対象水質に応じて組み合わせたコポリマー(共重合体)が、スケール防止剤として一般的に使用されている。
【0005】
また、特にカルシウム系スケールを対象として、ヘキサメタリン酸ソーダなどの無機ポリリン酸類、ヒドロキシエチリデンホスホン酸や、ホスホノブタントリカルボン酸などのホスホン酸類も一般的に使用されている。
【0006】
しかし、逆浸透膜を安定運転するためには、スケール成分以外の有機物なども、膜を閉塞させる汚染物質として考慮する必要がある。上述したようなスケール防止剤は、スケール成分の析出を防止するものであり、有機物付着を防止するものではないため、有機物濃度が高い原水においては、別途凝集沈殿処理、活性炭処理など有機物を除去する工程が必要であった。
【0007】
有機物付着を防止する方法として、例えば、特許文献1〜4は、逆浸透膜の素材の一部にポリビニルアルコール(PVA)を用いるか、PVAを膜表面に付着させる方法を開示している。PVAにより、タンパク質などの有機物の膜への付着が抑制されて、耐汚染性が向上し、長時間の通水が可能となる。
【0008】
また、特許文献5は、有機物を含有する給水をアルカリ処理してから、逆浸透膜を透過させる水処理方法を開示している。アルカリ処理により、スライムの発生が防止されるだけでなく、非イオン界面活性剤などの逆浸透膜の付着が防止され、フラックス低下を防止する効果もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭51−13388号公報
【特許文献2】特開昭53−28083号公報
【特許文献3】特開平11−28466号公報
【特許文献4】特開2009−101335号公報
【特許文献5】特開2005−169372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。逆浸透膜は定期的に洗浄する必要があるが、特許文献1〜4のように、PVAを用いた逆浸透膜は、酸やアルカリで洗浄すると、膜表面からPVAが流出し、耐汚染性の効果が失われるという問題があった。
【0011】
また、特許文献4は、荷電反発により汚染物質の吸着を抑えるため、イオン性のPVAを使用するが、イオン性PVAを含むイオン性高分子を膜へ付着させるためには、通水前にカチオン性、アニオン性の高分子に交互に通水し、膜面上にポリイオンコンプレックスを形成する必要があり、膜処理の工程が煩雑である。しかも、この煩雑な膜処理工程を、逆浸透膜を洗浄するたびに実施する必要があり、多大な労力を要する。
【0012】
特許文献5は、強アルカリを使用するため、水処理後にpHの調整が必要である。このように、従来の方法は水処理工程や洗浄工程が煩雑であり、有機物汚染に効果があり、かつ、簡易な方法が求められていた。
【0013】
そこで、本発明は、有機物による汚染を防止し、逆浸透膜を長期的に安定して運転することが可能な方法及び安定化剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者等が鋭意検討を行った結果、ケン化度85%以上のアニオン性ポリビニルアルコールポリマーを通水中に添加することで、逆浸透膜の透過水量が安定することがわかった。係る知見に基づいて成された本発明は、逆浸透膜を有する処理系に被処理水を通水し、前記逆浸透膜で前記被処理水の分離処理を行う逆浸透膜分離方法であって、前記被処理水を通水する通水期間の間に、分離処理される前の前記被処理水に、ケン化度85%以上のアニオン性ポリビニルアルコールを連続的又は断続的に添加する方法である。
分離処理される前の前記被処理水に、更にスケール防止剤を添加することもできる。
前記スケール防止剤としては、ポリリン酸塩と、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸基を有する化合物のいずれか一方又は両方を用いることができる。また、前記スケール防止剤として、カルボキシル基を有するモノマーの重合体を用いることもできる。
【0015】
更に、本発明は、逆浸透膜で分離処理される前の被処理水に添加する逆浸透膜安定化剤であって、ポリビニルアルコールと、スケール防止剤とを有し、前記ポリビニルアルコールは、ケン化度85%以上のアニオン性ポリビニルアルコールである逆浸透膜安定化剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な方法で、有機物汚染と、スケール発生を防止しながら、長期的に逆浸透膜を安定的に運転することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】逆浸透膜を有する処理系(逆浸透膜装置)の一例を説明する模式図である。
【図2】通水時間と初期透過水量比との関係を示すグラフである(実施例1、2、比較例1、2)。
【図3】通水時間と初期透過水量比との関係を示すグラフである(実施例3〜5、比較例3〜5)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る逆浸透膜分離方法について説明する。図1は、逆浸透膜を有する処理系の一例である逆浸透膜装置1を示しており、この逆浸透膜装置1は、水槽15と、水槽15に薬剤を供給する供給系12と、水槽15に直接又は間接的に接続された逆浸透膜30とを有している。逆浸透膜30の形状や材質は限定されないが、例えば、スパイラル状、中空糸状、平膜状などの形状で、スキン層が芳香族ポリイミド等の樹脂製のものを用いる。
【0020】
水槽15は水源11に接続されており、水源11から、工水、市水、井水、雨水等の被処理水(原水)を、水槽15へ供給し、通水を開始する。なお、被処理水は、ろ過や殺菌等の前処理を行ってから、水槽15へ供給してもよい。
【0021】
供給系12は、水源11、水槽15、水源11と水槽15との間の配管のいずれか1以上に接続され、逆浸透膜安定化剤を被処理水に添加する。従って、少なくとも水槽15内では、被処理水に、逆浸透膜安定化剤が均一に混合されている。なお、本実施形態に用いることができる逆浸透膜安定化剤については、後述の第2の実施形態で詳細に説明する。
【0022】
水槽15の被処理水を、送液ポンプ21等の送液装置により、直接、または保安フィルター17等で異物除去してから、加圧ポンプ22等の加圧装置により加圧し、逆浸透膜30を透過させる。
【0023】
逆浸透膜安定化剤としては、ケン化度85%以上のアニオン性PVA(ポリビニルアルコール)を含有するものを使用する。アニオン性PVAは、被処理水と共に逆浸透膜30に到達し、逆浸透膜30の表面に付着し、アニオン性PVAの水酸基により、逆浸透膜30表面の親水性が向上する。
【0024】
タンパク質のように、表面に疎水部と親水部とを有する有機物は、水中では、疎水部が水分子との接触を避けるため、疎水性材料に付着する傾向がある。本実施形態では、アニオン性PVAにより逆浸透膜30表面の親水性が向上されるため、逆浸透膜30表面の素材が、芳香族ポリアミドのような疎水性材料であっても、有機物の付着が防止される。
【0025】
逆浸透膜安定化剤には、アニオン性PVAに加え、スケール防止剤やスライムコントロール剤などの他の処理剤を含有させてもよい。これらの処理剤により、スケールやスライムの発生も防止されるので、逆浸透膜30の透過水量(フラックス)の低下がより効果的に抑制される。
【0026】
逆浸透膜安定化剤の供給は、被処理水の通水開始から通水終了までの通水期間中、連続的に行うか、2回以上間隔を空けて断続的(パルス的)に行う。すなわち、逆浸透膜安定化剤が被処理水に追加供給される。
【0027】
逆浸透膜30は、多くの場合負に帯電しているため、アニオン性PVAの逆浸透膜30に対する付着力は弱いが、アニオン性PVAが逆浸透膜30から流出しても、追加供給されたアニオン性PVAが新たに逆浸透膜30に付着する。従って、逆浸透膜30をカチオン性物質等で処理しなくても、通水終了までの間、有機物の付着が防止される。
【0028】
逆浸透膜30を透過し、不純物が除去された処理水は、処理水を使用する装置(供給先37)などへ送られる。逆浸透膜30を透過せず、不純物濃度が高い排水は、逆浸透膜装置1から、逆浸透膜装置1外部の排出系38へ排出されるか、逆浸透膜30よりも前の系(水槽15など)へ戻り、逆浸透膜30で再処理される。なお、排水の排出先は、バルブなどの切替手段33、34により適宜選択できる。
【0029】
第1の実施形態においては、逆浸透膜安定化剤によりフラックスの低下が防止されるが、長時間多量の被処理水を処理した場合や、長時間運転を休止した場合は、逆浸透膜30を洗浄する必要がある。
【0030】
上記特許文献1〜5のように、PVAを予め付着させた逆浸透膜は、洗浄の度にPVAを再付着させる工程が必要である。これに対し、本実施形態では、酸及び/又はアルカリを用いて逆浸透膜30を洗浄した場合であっても、PVAを再付着させる工程が不要であるから、逆浸透膜30の洗浄工程が簡便である。
【0031】
なお、逆浸透膜安定化剤を供給する期間は特に限定されず、通水期間の最初、途中、又は最後に、逆浸透膜安定化剤の供給を停止する期間を設けてもよい。しかし、逆浸透膜安定化剤が逆浸透膜30に長時間供給されないと、有機物の付着を効果的に防止できないので、逆浸透膜安定化剤を一時的に添加するのではなく、通水期間の半分以上供給を行うことが望ましい。
【0032】
逆浸透膜安定化剤を供給する供給期間と、逆浸透膜安定化剤の供給を停止する停止期間とを交互に設ける断続的添加の場合は、供給期間を停止期間よりも長く設定することが望ましい。また、図1のように、水槽15で、逆浸透膜安定化剤と被処理水とを一旦貯蔵してから、逆浸透膜30へ送ると、断続的添加の場合であっても逆浸透膜安定化剤の濃度が安定するので、より好ましい。
【0033】
逆浸透膜安定化剤の供給は、流量制御装置14などで制御し、被処理水中の濃度を調整することが望ましい。被処理水中のアニオン性PVA濃度が0.1ppm未満では透過水量の安定化効果が見られず、10ppm以上だと、添加量と比して効果が向上せず、経済性が悪い。従って、アニオン性PVA濃度が、0.1ppm以上10ppm未満の被処理水が、逆浸透膜30へ送られるように、逆浸透膜安定化剤を供給することが望ましい。
【0034】
アニオン性PVA以外の他の処理剤を逆浸透膜安定化剤に用いる場合、他の処理剤は、アニオン性PVAと一緒に被処理水に添加しても、別々に被処理水に添加してもよい。
【0035】
他の処理剤として、スケール防止剤を用いる場合、その最適濃度はスケール成分により異なるが、0.1ppm未満であると、スケール防止効果が不十分で、100ppm以上だと、逆浸透膜30の透過水量が低下する恐れがあるので、スケール防止剤濃度が0.1ppm以上100ppm未満の被処理水が逆浸透膜30へ送られるように、逆浸透膜安定化剤を供給することが望ましい。
【0036】
本実施形態の逆浸透膜分離方法には、前述した逆浸透膜安定化剤に加えて、本発明の目的を阻害しない範囲で、酵素、殺菌剤及び消泡剤などを被処理水に添加してもよい。これらの処理剤は、逆浸透膜安定化剤と一緒に、または別々に被処理水に添加することができる。
【0037】
アニオン性PVAを配合した逆浸透膜安定化剤を添加することで、特許文献1〜5記載の方法に比べて、ポンプやタンクなどの注入設備を減らすことができ、また、逆浸透膜30の洗浄工程の工程数も減らせるので、簡便に逆浸透膜30を安定化することが可能である。なお、本実施形態の逆浸透膜分離方法で処理する被処理水の水質条件及び水系の運転条件には、特に制限はない。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る逆浸透膜安定化剤について説明する。本実施形態に係る逆浸透膜安定化剤は、ケン化度85%以上のアニオン性PVAと、スケール防止剤の両方を含有する。
【0039】
[アニオン性PVA]
アニオン性PVAは、水酸基、酢酸基以外の変性基としてアニオン基を有するPVAである。アニオン基は特に限定されず、例えば、カルボキシル基と、スルホン酸基と、リン酸基などがあるが、経済性、製造容易性を考慮すると、カルボキシル基とスルホン酸基のいずれか一方又は両方を有するものが好ましい。
【0040】
PVAにカルボキシル基を導入する方法としては、酢酸ビニルなどのビニルエステルと共重合しうる不飽和塩基性酸、不飽和二塩基性酸、これらの無水物、またはこれらのエステルや塩、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などを共重合させて得られる共重合体を加水分解(ケン化)する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
PVAにスルホン酸基を導入する場合には、PVAと濃硫酸を接触させる方法、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはそれらのエステルや塩と、酢酸ビニルとを共重合させた後ケン化し、スルホン酸基を有するPVAを得ることができる。ただし、スルホン酸基を有するPVAを得る方法は、この限りではない。
【0042】
本実施形態及び第1の実施形態においては、ケン化度が85%以上のアニオン性PVAを用いる。ケン化度を85%以上にすることで、水酸基が増え、逆浸透膜に付着した際に、逆浸透膜の親水性がより向上し、優れた耐汚染性を得る。
【0043】
なお、ケン化度は、滴定法、核磁気共鳴装置を使用する方法(Polymer Perprints, Japan,35, 10(1986)、赤外領域の特定波数の吸収強度を測定する方法など、多様な方法で測定できるが、本発明のケン化度は、JIS K6726に準拠した滴定法により測定される値である。
【0044】
アニオン性PVAのアニオン基と水酸基との比率(モル比)は、特に限定されないが、水酸基の量が少なすぎると、親水化が不十分で耐汚染効果が足りず、逆にアニオン基の量が少なすぎると、ポリマー鎖が十分に伸びきった状態とならないため、逆浸透膜に均一に付着しないので、アニオン基1に対し、水酸基0.7〜6.0であることが好ましい。
【0045】
アニオン性PVAの重量平均分子量も特に限定されないが、1万以上100万未満のものを用いることが好ましい。分子量が1万未満であると、親水化効果が得られず、分子量100万以上であると、逆に透過水量が低下してしまう場合がある。より好ましい重量平均分子量は、3万〜50万である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフにより測定される値であり、ポリアクリル酸ナトリウムを標準物質として用いて測定される値である。
【0046】
アニオン性PVAは、市販品を用いることが可能である。市販品としては、クラレ社製の「KL−318」、「KL−118」、「KM−618」、「KM−118」、日本合成化学工業株式会社製のゴーセナール(登録商標)シリーズの「T−330H」、「T−340」、「T−330」、「T−350」、「T−215」、「T−HS−1」、日本合成化学工業株式会社製のゴーセラン(登録商標)シリーズの「L−3266」などが挙げられる。
【0047】
これらのアニオン性PVAは1種類だけを被処理水に添加してもよいし、2種類以上を被処理水に添加してもよい。
【0048】
[スケール防止剤]
スケール防止剤は、特に限定されず、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛等のスケール種用のものを広く用いることができる・
【0049】
アニオン性PVAと一緒に用いるスケール防止剤としては、透過水量の低下を効果的に抑制できるという理由で、
(a)ポリリン酸塩、
(b)ホスホン酸基及び/又はホスフィン酸基を有するリン系化合物、或いは
(c)カルボキシル基含有モノマーの重合体
のうち、いずれか1種以上を用いることが望ましい。
【0050】
(a)ポリリン酸塩としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、又はヘキサメタリン酸の塩を用いることができる。(b)ホスホン酸及び/またはホスフィン酸を有する化合物としては、2−ホスホノ−1,2,4−トリカルボキシブタン、2−ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、またはこれらの塩を用いることもできる。また、これらの化合物以外にも、正リン酸塩などの他のリン系化合物を用いることもできる。
【0051】
上記のようなリン系化合物を有する市販品には、例えばBWA社製の「Belclene400」、「Belsperse164」、「Belclene630」、 「Belclene640」、「Belclene650」、「Belclene660A」や、サーモフォスジャパン社製の「Dequest2000」、「Dequest2000EG」、「Dequest2000LC」、「Dequest2006」、「Dequest2010」、「Dequest2010CS」、「Dequest2010LA」、「Dequest2010LC」、「Dequest2014」、「Dequest2016」、「Dequest2016D」、「Dequest2016DG」などが挙げられるがこの限りではない。
【0052】
(c)カルボキシル基含有モノマーの重合体は、ポリアクリル酸のようにカルボキシルを有するモノマーを単一で重合した化合物(ホモポリマー)、カルボキシル基を有する複数のモノマーを重合した化合物、カルボキシル基を有するモノマーとスルホン酸基を有するモノマーを重合した化合物など、様々な形態をとることができる。
【0053】
カルボキシル基を有する高分子の構成素材のうち、カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、p−ビニル安息香酸、アトロバ酸などや、それらの塩、無水物などを挙げることができるが、この限りではない。
【0054】
カルボキシル基を有する構成素材と共重合する素材、例えばスルホン基を有するモノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸−4−スルホブチル、アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸などや、それらの塩などを挙げることができる。
【0055】
上記カルボキシル基を有するモノマーは、1種類又は2種類以上を重合に用いる。また、スルホン酸基を有するモノマーを用いる場合は、1種以上を用いて、カルボキシル基を有するモノマーと共重合させる。
【0056】
スケールを分散させるためには、水酸基は必要なく、アニオン基をできるだけ増やすことで、分散効果が高まる。そのため、カルボキシル基、スルホン酸基などのアニオン基と、水酸基との比率(アニオン基:水酸基)が、モル比で1:0〜0.1になるよう、重合させることが望ましい
【0057】
カルボキシル基含有モノマーの重合体は、重量平均分子量が1000以上50000未満であることが好ましい。1000未満だと十分な分散効果が得られず、50000以上だと液体の粘度が高くなり、ゲル化しやすくなる。
【0058】
アニオン性PVAとこれらのスケール防止剤は、いずれもアニオン性を有するため、配合してもお互いに反応することはなく、使用目的に合わせて自由に配合割合を決定することが可能であるが、その配合割合(アニオン性PVA:スケール配合剤)は、重量比で1:0.5〜50にすることが好ましい。
【0059】
アニオン性PVAは、膜表面のコーティング効果により、逆浸透膜を安定化させるため、被処理水への添加濃度は、0.1ppm以上10ppm未満とすることが好ましい。0.1ppm未満では、安定化効果が見られず、10ppm以上だと、添加量が増える割に、効果の向上が見られないため、経済的でない。
【0060】
また、スケール防止剤の添加濃度は、使用するスケール防止剤のスケール成分濃度によって異なるが、0.1ppm以上100ppm未満とすることが好ましい。0.1ppm未満では分散効果が不十分で、100ppm以上だと、逆浸透膜の透過水量が低下する恐れがある。
【0061】
本実施形態の逆浸透膜安定化剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の処理剤と併用することができる。他の処理剤としては、酵素、殺菌剤及び消泡剤などがあるが、こられに限定されるものではない。これらの処理剤は、逆浸透膜安定化剤に添加し、使用することもできるし、逆浸透膜安定化剤とは分離し、使用することもできる。
【0062】
上記第1の実施形態と同様に、本実施形態においても、アニオン性PVAを配合した逆浸透膜安定化剤により、簡便に逆浸透膜30を安定化することが可能である。また、逆浸透膜30の安定化をより向上させるためには、アニオン性PVAにスケール防止剤を添加した逆浸透膜安定化剤が使用できる。なお、本実施形態の逆浸透膜安定化剤が使用される被処理水の水質条件及び水系の運転条件には、特に制限はない。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、本発明の範囲内の実施例1、2の逆浸透膜安定化剤及び本発明の範囲から外れる比較例1、2の逆浸透膜安定化剤について、その性能を評価した。
【0064】
<実施例1>
工水をろ過処理して濁質を除去した水を被処理水とし、図1の逆浸透膜装置1で分離処理を行った。被処理水の水質を下記表1に記載する。
【0065】
【表1】

【0066】
逆浸透膜30は、日東電工株式会社製の「ES20-D4」を1本使用した。処理水流量は4L/分、濃縮水流量は10L/分とし、濃縮水のうち2L/分は系外に排出し、残りの8L/分は水槽15に戻した。被処理水(ろ過処理水)には、アニオン性PVAと、スケール防止剤と、スライムコントロール剤とからなる逆浸透膜安定化剤を添加した。
【0067】
スライムコントロール剤としては、栗田工業株式会社製の「クリバーターEC−503」を、濃度が3ppmになるよう供給した。アニオン性PVAとしては、株式会社クラレ製の「KM−118」を、スケール防止剤はとしては1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を用いた。アニオン性PVAとスケール防止剤は、重量比(アニオン性PVA:スケール防止剤)が1:2、アニオン性PVA濃度が2ppmになるよう供給した。
【0068】
なお、実施例1、2、比較例1、2と、後述する実施例3〜5、比較例3〜5における濃度は、一時的なものではなく、通水開始から通水終了までの間、その濃度になるよう維持した値である。また、実施例1で使用した「KM−118」は、ケン化度95.0〜99.0%のアニオン性PVAである。
【0069】
<実施例2>
アニオン性PVAとして日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセランL−3266」を使用し、スケール防止剤として、アクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモル比66:34の共重合体(分子量10000)を使用し、重量比(アニオン性PVA:スケール防止)を1:4、アニオン性PVAの濃度が2ppmになるよう被処理水に添加し、その他の条件は実施例1と同じにし、分離処理を行った。なお、「ゴーセランL−3266」は、ケン化度86.5〜89.0%のアニオン性PVAである。
【0070】
<比較例1>
実施例1、2の逆浸透膜安定化剤の代わりに、スケール防止剤である1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を、濃度が4ppmになるように添加した以外は実施例1と同じ条件で通水を行った。
【0071】
<比較例2>
実施例1、2の逆浸透膜安定化剤の代わりに、実施例2で用いたスケール防止剤のみを使用し、その濃度が8ppmになるよう添加した以外は、実施例1と同じ条件で通水を行った。
【0072】
上記実施例1、2、比較例1、2の通水試験において、透過水量が低下したら、1日ごとに圧力を上昇させ、水量を維持しながら1000時間の通水を行った。1000時間までの透過水量(0.74MPa、25℃換算時)の推移を初期の透過水量の比として図2に示す。
【0073】
図2に示されるように、実施例1、2の通水試験は、透過水量の低下が殆ど見られず、アニオン性PVAとスケール防止剤を含む逆浸透膜安定化剤のフラックス安定性が非常に高いことが確認できた。
【0074】
比較例1、2は、スケールの発生は防止できていると考えられるが、有機物の付着防止効果はなく、結果的に透過水量は低下した。
【0075】
次に、本発明の範囲内の実施例3〜5の逆浸透膜安定化剤及び本発明の範囲から外れる比較例3〜5の逆浸透膜安定化剤について、その性能を評価した。実施例3〜5、比較例3〜5においては、被処理水として、液晶パネルの洗浄水排水を、凝集沈殿、ろ過処理して濁質を除去した回収水を用いた。この被処理水の水質を下表2に記載する。
【0076】
【表2】

【0077】
<実施例3>
被処理水に回収水を用い、更に、スライムコントロール剤である「クリバーターEC−503」の濃度を変え、5ppmになるよう供給した以外は、実施例1と同じ条件で通水を行った。
【0078】
<実施例4>
アニオン性PVAとして日本合成化学製ゴーセランL−3266を使用し、スケール防止剤として、アクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモル比66:34の共重合体(重量平均分子量10,000)を使用した。アニオン性PVAと、スケール防止剤の重量比(アニオン性PVA:スケール防止剤)を1:4、アニオン性PVAの濃度が2ppmになるように被処理水に添加し、その他の条件は実施例3と同じ条件で通水を行った。
【0079】
<実施例5>
逆浸透膜安定化剤として、スケール防止剤は使用せずに、日本合成化学製ゴーセナールT−330のみを使用し、その濃度が1ppmになるよう被処理水に添加した以外は、実施例3と同じ条件で通水を行った。なお、ゴーセナールT−330は、ケン化度95.0〜98.0%のアニオン性PVAである。
【0080】
<比較例3>
逆浸透膜安定化剤を添加しなかった以外は、実施例3と同じ条件で通水を行った。
【0081】
<比較例4>
実施例3〜5の逆浸透膜安定化剤の代わりに、実施例3で用いたスケール防止剤(1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸)のみを使用し、その濃度が4ppmとなるよう添加した以外は実施例3と同様の条件で通水を行った。
【0082】
<比較例5>
実施例3〜5の逆浸透膜安定化剤の代わりに、実施例4で用いたスケール防止剤(アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体)のみを使用し、その濃度が8ppmとなるよう添加した以外は実施例3と同様の条件で通水を行った。
【0083】
上記実施例3〜5、比較例3〜5の通水試験において、透過水量が低下したら、1日毎に圧力を上昇させ、水量を維持しながら1000時間の通水を行った、1000時間までの透過水量(0.74MPa、25℃換算時)の推移を初期の透過水量の比として図3に示す。
【0084】
図3に示すように、実施例3、4および5の通水試験は、透過水量の低下が殆ど見られず、アニオン性PVAとスケール防止剤或いはアニオン性PVAのみを含む逆浸透膜安定化剤のフラックス安定性が非常に高いことが確認できた。
【0085】
以上の結果から、本発明によれば、有機物の付着が防止され、透過水量の低下を効果的に防止可能な逆浸透膜分離方法及び逆浸透膜安定化剤を実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0086】
1 逆浸透膜装置
11 水源
12 供給系
14 流量制御装置
15 水槽
17 保安フィルター
21 送液ポンプ
22 加圧ポンプ
30 逆浸透膜
33、34 切替手段
37 供給先
38 排出系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜を有する処理系に被処理水を通水し、前記逆浸透膜で前記被処理水の分離処理を行う逆浸透膜分離方法であって、
前記被処理水を通水する通水期間の間に、分離処理される前の前記被処理水に、ケン化度85%以上のアニオン性ポリビニルアルコールを連続的又は断続的に添加する逆浸透膜分離方法。
【請求項2】
分離処理される前の前記被処理水に、更にスケール防止剤を添加する請求項1記載の逆浸透膜分離方法。
【請求項3】
前記スケール防止剤として、
ポリリン酸塩と、
ホスホン酸及び/又はホスフィン酸基を有する化合物のいずれか一方又は両方を用いる請求項2記載の逆浸透膜分離方法。
【請求項4】
前記スケール防止剤として、カルボキシル基を有するモノマーの重合体を用いる請求項2又は請求項3のいずれか1項記載の逆浸透膜分離方法。
【請求項5】
逆浸透膜で分離処理される前の被処理水に添加する逆浸透膜安定化剤であって、
ポリビニルアルコールと、スケール防止剤とを有し、
前記ポリビニルアルコールは、ケン化度85%以上のアニオン性ポリビニルアルコールである逆浸透膜安定化剤。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213686(P2012−213686A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79605(P2011−79605)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】