透かしの読取装置
【課題】人間の五感では「透かし」自体を施したことを検出することが出来ないような透かしの読取装置の提供。
【解決手段】対象物に付着された複数種類の材料を検出する検出手段と、検出手段に受容された物質の組成を特定する制御手段(90)とを有し、検出手段は、材料と生化学反応を行う生体材料が固定された複数のバイオセンサ(50、50C、50L、50−1〜50−N)を備え、制御手段(90)は、どのバイオセンサから出力された検出信号及び材料の濃度を判定する分析手段(104)と、バイオセンサの出力信号が飽和する所定時間が経過した後に、分析手段による比較及び判定を開始させる計時手段(103)と、分析手段の判定結果に基づいて、検出コード決定手段(108)による透かしの組成と予め記憶手段(106)に記憶された組成とを比較して透かしの真偽を判定する比較判定手段(110)とを備える。
【解決手段】対象物に付着された複数種類の材料を検出する検出手段と、検出手段に受容された物質の組成を特定する制御手段(90)とを有し、検出手段は、材料と生化学反応を行う生体材料が固定された複数のバイオセンサ(50、50C、50L、50−1〜50−N)を備え、制御手段(90)は、どのバイオセンサから出力された検出信号及び材料の濃度を判定する分析手段(104)と、バイオセンサの出力信号が飽和する所定時間が経過した後に、分析手段による比較及び判定を開始させる計時手段(103)と、分析手段の判定結果に基づいて、検出コード決定手段(108)による透かしの組成と予め記憶手段(106)に記憶された組成とを比較して透かしの真偽を判定する比較判定手段(110)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる「透かし」を用いた真偽判定の技術に関する。より詳細には、本発明は、例えば人間の嗅覚では感知出来ない無臭ガスを生体材料(例えば酵素)等を用いて検知するバイオセンサ(バイオ・スニファ)の、応用技術としての「透かし」の技術及びその「透かし」を読み取る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
「透かし」は物体が真正なものであるのか否かを判定する一手法として用いられた技術であり、紙幣の「透かし」は、いわゆる「偽札」による被害防止や、紙幣自体の真偽の鑑定の際に、威力を発している。
しかし、例えば紙幣の「透かし」の場合には、その様な「透かし」を施すためには非常に高度な技術が必要とされ、その様な「透かし」を行うための施設を建設するのに莫大な費用が必要となる。
【0003】
紙幣ほど「偽造」の可能性や被害が少ない物品であれば、識別タグ等を流用し、当該「タグ」の有無により安価に真偽判定を行うことが可能である。
しかしながら、タグ等の有無は極めて容易に視認することが出来るので、タグ自体を偽造されてしまう可能性が有る。また、視認が容易なタグは、一瞥すれば真偽判断用の部材であることが理解されてしまう。
【0004】
これに対して、例えば、特殊な化学物質を「透かし」として対象物に塗布し、その様な化学物質が検出されたか否かにより真偽判定を行うことも提案されている。その様な手法であれば、「透かし」の付加が容易であり、且つ、「透かし」の読み取りも極めて簡単に行うことが出来る。
しかし、化学物質を検出するためのセンサは「透かし」として実用化するに十分な反応選択性を有しておらず、「透かし」として塗布された化学物質以外にも反応して、「透かし」である化学物質が塗布されていないのにも拘らず、「化学物質を検出」した旨の信号を発生してしまう、という問題が存在した。
【0005】
近年のデジタル技術の広範な普及に伴い、各種著作物の違法コピーの問題が顕在化している。
係るデジタル技術による違法コピーに対処するために、真の著作権者を特定し、且つ、正当な権限無き者による違法コピーされたデータが違法コピーの産物であることを表示する、いわゆる「電子透かし」の技術が提案されている(例えば、特許文献1、2)
【0006】
係る「電子透かし」の技術は有用なものであるが、著作物に「電子透かし」を施すための設備に必要なコストが比較的効果であるのに加えて、「透かし」を付加する対象がデジタル化されたデータ或いはそのプリントアウトに限られており、電子機器と接続されていない有体物に対して「電子透かし」を付加することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−295458号公報
【特許文献2】特開2003−203994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、高度な技術や多大なコストを必要とすること無く対象物に対して「透かし」を施すことが出来、有体物全般に広く「透かし」を施して真偽判断の一助とすることが出来て、しかも、人間の五感では「透かし」自体を施したことを検出することが出来ないような「透かし」技術(その装置)の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は種々研究の結果、生体材料(例えば酵素)が生化学反応を行う際に、反応の選択性が非常に強いという事実に着目し、係る選択性を応用して、従来の「透かし」技術とは全く異なる斬新且つ実用的な透かしの読取装置を創作するに至った。
【0010】
本発明の透かしの読取装置は、対象物に付着された複数種類の材料であって且つ大気中に拡散している材料を検出する検出手段と、当該検出手段の検出信号を分析処理して検出手段に受容された物質の組成を特定する制御手段(90)とを有し、前記検出手段は、前記材料とそれぞれ生化学反応を行う生体材料が固定された複数のバイオセンサ(50、50C、50L、50−1〜50−N)を備えており、前記制御手段(90)は、前記バイオセンサが発生した検出信号と前記バイオセンサの計測特性とを比較し、その検出信号がどのバイオセンサから出力された信号であるのかを判定すると共に、前記バイオセンサで検出された材料の濃度をも合わせて判定する分析手段(104)と、前記バイオセンサの出力信号が飽和する所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過した後に、前記分析手段による比較及び判定を開始させる計時手段(103)と、前記分析手段の判定結果に基づいて、前記バイオセンサの出力信号により得られた透かしの組成を決定する検出コード決定手段(108)と、前記検出コード決定手段で決定された透かしの組成と予め記憶手段(106)に記憶されていた透かしの組成とを比較して透かしの真偽を判定する比較判定手段(110)とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透かしの読取装置によれば、生体材料(例えば酵素)を用い、バイオセンサ(50、50C、50L、50−1〜50−N)を備えた検出手段により対象物から前記材料が拡散しているか否かを検出するという簡便な手法で、「透かし」の有無を確認出来るので、例えば紙幣に施された「透かし」等と比較して、簡単に実施することが出来る。
換言すれば、「透かし」を構成する材料を対象物に塗布し、当該材料が検出された場合には真偽決定の対象物は真正なものと判定され、当該材料が検出されない場合には、対象物は偽造物、紛い物であると判定される。そして、簡単な手法により「透かし」を対象物に付加し、且つ、真偽鑑定を行う事が出来るので、「透かし」付加と、真偽鑑定のための労力及びコストを遥かに低く抑える事が出来る。
【0012】
ここで、「透かし」の有無の判定に際して、感応の選択性が極めて高い酵素等の生体材料における生化学的反応を利用しているので、検出手段が「透かし」を構成する材料や基質以外のものに反応して、誤判定をしてしまう恐れが極めて少ない。
しかも、特定の材料を「透かし」(S)として付加する対象物(W)は、有体物全般であり、「電子透かし」に比較して、その適用範囲が広範である。
【0013】
さらに、本発明において、特に無臭の材料、基質を使用すれば、「透かし」の存在が把握され難い。従って、「透かし」自体を偽造する等の各種不正行為が行われ難く、真正なものであるか否かの判定精度が向上し、真偽判定の効果が発揮され易くなる。
【0014】
ここで、透かし(S)から拡散される物質に複数種類の前記材料の各々が包含されているか否かを判定し、複数種類の前記材料の各々の有無から透かし(S)の組成(コード)を特定する様に構成することにより、単一の材料を塗布する場合に比較して透かし(S)自体のバリエーションが豊富になり、その分だけ、透かし(S)自体の偽造が困難となり、真偽鑑定に寄与する度合いがさらに向上する。
この場合でも、「透かし」を構成する複数の材料を、予め決定された組成(コード)に従って混合し、混合物を対象物に塗布するという簡単な行為により、「透かし」を真偽鑑定の対象物に付加する事が出来るので、「透かし」付加のための労力及びコストを遥かに低く抑える事が出来る。
【0015】
すなわち、「透かし」を構成する材料、基質の一部が、他の材料や基質を分解したり、反応してしまう場合を除き、「透かし」を構成する材料や基質同士を混合して、その混合物を「透かし」として使用することが出来る。従って、「透かし」の製造作業、対象物への付着作業の労力が、極めて低減化される。
そして、この様に混合した場合においても、個々の材料や基質を検出対象とするバイオセンサは、大気中に拡散する材料、基質を正確に検出して、大気中に拡散或いは揮発する材料や基質の量、すなわち当該混合物中における材料や基質の組成量に対応する出力信号を発生する。その結果、混合物で構成された「透かし」であっても、その真偽を容易に判定し、或いは読み取ることが出来る。
【0016】
さらに本発明において、「透かし」を構成する材料、基質の拡散量を適宜調整して、材料の拡散量と添加量とが1:1の対応関係となる様に調整すれば、拡散した材料を定量分析して「透かし」の同一性を判定する様に構成することが出来る。そのように構成すれば、「透かし」を偽造しようとする者が「透かし」を構成する材料や基質の種類を特定して、同一の構成材料を用いて偽造しても、各々の材料の添加量(拡散量に対応する)が相違すれば、適正の「透かし」とは組成(コード)が異なると判定される。そのため、「透かし」の偽造が困難になる。
さらに、「透かし」を構成する材料、基質の種類を増加させれば、同一の「透かし」を偽造することがさらに困難となる。従って、「透かし」自体を「偽造」使用という不正行為に対して、極めて有効に対処することが出来る。
【0017】
さらに本発明によれば、「透かし」を構成する材料、基質からの揮発量或いは徐放量を好適に調節する処理を行えば、「透かし」として有効に作用する期間を長期化することが出来る。
また、「透かし」が不要になった場合や、「透かし」を再付着させる場合等には、「透かし」を構成する材料、基質を、対象物から極めて簡単に除去することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図示の実施形態に係る「透かし」の概要を説明する図。
【図2】「透かし」の付着手順をフローチャートで示す図。
【図3】図示の実施形態に係る「透かし」の読取装置の概要を示す図。
【図4】「透かし」の読取手順をフローチャートで示す図。
【図5】過酸化水素検出用バイオセンサの構成図。
【図6】図5のバイオセンサの構成要素であるカタラーゼ固定化膜の1製造工程を示す工程図。
【図7】カタラーゼ固定化膜の製造における図6とは別の工程を示す工程図。
【図8】図5の過酸化水素検出用バイオセンサの検出実験装置の1例を示す図。
【図9】図5の過酸化水素検出用バイオセンサの検出結果の1例を示す図。
【図10】図5の過酸化水素検出用バイオセンサにおける過酸化水素濃度−検出信号出力特性図。
【図11】乳酸検出用バイオセンサの検出結果の1例を示す図。
【図12】乳酸検出用バイオセンサにおける乳酸濃度−検出信号出力特性図。
【図13】コリン検出用バイオセンサの検出結果の1例を示す図。
【図14】コリン検出用バイオセンサにおけるコリン濃度−検出信号出力特性図。
【図15】過酸化水素検出用バイオセンサと、乳酸検出用バイオセンサと、コリン検出用バイオセンサとを用いた読取実験の実験装置を示す図。
【図16】過酸化水素、乳酸、コリンの有無による混合パターンと、過酸化水素検出用バイオセンサ、乳酸検出用バイオセンサ、コリン検出用バイオセンサの検出信号有無のパターンとを、表にして示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1を用いて、本発明の実施形態に係る「透かし」の概要について説明する。
【0020】
「透かし」を用いて真偽判定する対象物は、図1では符号Wで示されている。
図示の実施形態において、「透かし」の構成材料として、符号A〜Dで示す4種類の材料(或いは基質)が選択される。
ここで、材料(基質)A〜Dは、通常の人間が感知出来る程度の臭いを有する材料(有臭材料)を選択することが可能であるが、真偽判定という「透かし」の本質的な機能を考慮すれば、材料A〜Dは、過酸化水素や乳酸やコリンのような無臭材料で構成されるのが好ましい。無臭であれば、対象物Wに「透かし」が付加されていること自体が第三者には把握出来ないため、「透かし」の偽造その他の「透かし」自体に対する不正行為が行われる可能性も少なくなるからである。
【0021】
次に、選択された材料A〜Dを混合して混合物Mを生成し、所定量の混合物Mを対象物Wに付着する。
図1では、ピペットPにより混合物Mを滴下して示されているが、ピペットによる滴下以外の手法であっても所定量の混合物Mを対象物Wに付着できる手法であれば、特に限定するものではない。
【0022】
対象物Wに付着された混合物M(図1では、符号Sで示す)からは、材料A〜Dが拡散或いは蒸発し、「透かし」を構成する。
「透かし」Sから拡散される材料A〜Dを、バイオセンサ等により検出することにより、当該「透かし」Sの有無が判定される。すなわち、「透かし」Sが有ると判定されれば、対象物Wは適正なものであり、「真」である。これに対して、「透かし」Sが無いと判定されれば、当該対象物は適正な対象物に似せた紛い物、すなわち「偽」である。
【0023】
ここで、「透かし」Sが、N種類(Nは自然数)の材料を混合して生成されたものであれば、当該N種類の材料の有無により、「2N」通りの組み合わせについて検出可能である。
これに加えて、当該N種類の材料から成る「透かし」Sからの拡散量(或いは揮発量、徐放量)が調整する場合には、さらに多くの組み合わせを検出可能である。
N種類の材料の各々において、拡散量を正確に定量分析できる範囲において、設定可能な濃度が100通りずつ存在するものと仮定すれば、当該N種類の材料から成る「透かし」Sの組み合わせの数は、「100N」通りとなる。
【0024】
次に、図2をも参照して、係る「透かし」Sを対象物Wに付着させる作業について、さらに詳細に説明する。
「透かし」を対象物Wに施すに際しては、先ず、「透かし」を構成する材料、図1の例では材料A〜Dを選択する。より詳細には、「透かし」を構成する材料として、材料の種類の数(何種類の材料を選択するのか?:図1の例では、4種類の材料)と、どの材料を選択するのか(材料の種類:図1の例では、材料A〜D)の双方を決定する(図2のステップS1)。
【0025】
なお、選択される材料は、図3におけるバイオセンサ50−1〜50−Nの何れかにより、検知可能な材料から選択される。そして、図1に関連して上述した様に、無臭の材料から選択されるのが好ましい。
【0026】
「透かし」Sを一種の識別コードと考えた場合、そのコード数が多いほど、「透かし」Sの偽造は困難となり、「透かし」Sを用いた真偽判定の精度が向上する。そして、「選択される材料の種類の数」と、「選択された材料の種類」とは、共に、「透かし」Sのコード数を決定する要因である。
【0027】
次に、ステップS2において、選択された各材料毎に、その添加量を決定する。ここで、決定されるべき添加量は、「透かし」Sから拡散した当該材料が、後述するバイオセンサにより、正確に検出できる数値である。
また、「透かし」Sからの拡散量(或いは揮発量、徐放量)を調整する場合には、バイオセンサにより定量分析可能な拡散量に対応する材料添加量を選択する。
【0028】
ここで、「透かし」Sを構成する材料同士が反応しあって、一方が他方を分解したり、化学反応により「透かし」Sとして不適当な化合物を生成してしまうことが無いかどうかを検討する(ステップS3)。
その様な材料同士の反応が生じないのであれば(ステップS3がYES)、選択された材料同士を混合して(ステップS4)、対象物Wに付着する(ステップS5)。
【0029】
材料同士が反応してしまう場合には(ステップS3がNO)、反応する材料同士を混合することが無い様に、一方の材料をその他の材料から分離して、他方の材料のみをその他の材料と混合する(ステップS6)。
「透かし」Sとして混合物を対象物Wに付着する際にも、ステップS6で分離された材料と、他の材料の混合物とが接触しない様に、両者が離隔するように、すなわち、「透かし」Sは、複数箇所に亘って対象物Wへ付着される(ステップS7)。
以上により、「透かし」Sの付着が完了する。
【0030】
図1、図2で説明した「透かし」Sの読取について、図3、図4を参照して説明する。
図3は、「透かし」Sの読取装置の構成を示しており、図4は、「透かし」Sの読取手順を示している。
【0031】
図3において、読取装置は、センサ部100と、例えばコンピュータで構成された制御手段90と、判定結果や計測結果を表示する表示手段(例えば、ディスプレイ)112を有している。
センサ部100は、その内部に複数のバイオセンサ50−1〜50−Nを包含しており、複数のバイオセンサ50−1〜50−Nは、その検出信号が電流測定装置82−1〜82−Nでアナログ電流信号に変換され、A/Dコンバータ84−1〜84−Nでデジタル信号に変換されて、制御手段90に入力される。
ここで、雑音を消去し、誤作動の可能性を少なくするため、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号伝達回路にフィルタを設け、所定レベル以下の信号を遮断する様に構成しても良い。
【0032】
バイオセンサ50−1〜50−Nの構造は、例えば、図5を参照して後述されるものと同様である。
ここで、図3では明示されていないが、バイオセンサ50−1〜50−Nは相違する生化学材料(例えば、酵素)を具備しており、検出対象となる物質の選択性が極めて高い。従って、既存・市販のガスセンサの様に、選択対象物以外の物質に反応して、検出信号を発生してしまうことは無い。
【0033】
「透かし」Sから拡散した材料(図2のステップS1で選択された材料)はセンサ部100で、バイオセンサ50−1〜50−Nの何れかに検知される。
図3において、拡散した材料は、湾曲して表示されている矢印Vで表現されている。
【0034】
拡散した材料Vの存在を検出したバイオセンサ50−1〜50−Nは検出信号を発生し、該検出信号は、電流測定装置82−1〜82−N、A/Dコンバータ84−1〜84−Nを介して、制御手段90に入力される。
制御手段90に入力された検出信号(デジタル信号)は、インターフェース102−1〜102−Nを介して分析手段104に入力される。
一方、分析手段104には、記憶手段(例えばデータベース)106からバイオセンサ50−1〜50−Nの各々における計測特性(後述する実施例における図9〜図14参照)が送られる。
【0035】
分析手段104は、記憶手段106から送られるバイオセンサ50−1〜50−Nの計測特性と、インターフェース102−1〜102−Nを介して送られる計測結果とを比較して、入力された検出信号が、どのバイオセンサから出力された信号であるのかを判定する。それと共に、バイオセンサで検出された材料の濃度をも合わせて判定する。
【0036】
ここで、分析手段104は、インターフェース102−1〜102−Nを介して検出信号が入力されてから、所定時間が経過した後に、上述の比較、判定を開始する。
後述する実施例における図9〜図14を参照すれば明らかなように、バイオセンサ50−1〜50−Nは、その出力が一定する(飽和する)まで、3分〜4分を必要とすることがあり、上述の判定、特に濃度の判定は、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和した以降でなければ、正確には行われないことによる。
なお、上述した所定時間(バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和するのに必要な時間)については、計時手段103により計測する。
【0037】
分析手段104の分析・判定結果は、検出コード決定手段108に送られ、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号により得られた「透かし」Sの組成、すなわち「透かし」Sを構成する材料(拡散量が調節されている場合には、「透かし」Sを構成する材料及びその添加量)を決定する。
上述した通り、「透かし」Sの「組成」は単一のものではなく、複数通りの組み合わせが可能であるため、本明細書では、「コード」と表現している。
【0038】
検出コード決定手段108で決定されたコード、すなわちバイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号に基いて決定された「透かし」Sの組成は、比較判定手段110に送られて、予め記憶手段106に記憶されていた「透かし」Sのコード(組成)と比較される。
両者が一致した場合には、比較判定手段110は、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正なものである、と判定する。
両者が一致しない場合には、比較判定手段110は、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正な「透かし」ではなく、偽造された「透かし」であり、対象物Wも真正なものではなく、紛いものである、と判定する。
【0039】
比較判定手段110の判定結果と、分析手段104の分析・判定結果は、表示手段112で表示され、ユーザー(図示せず)は、表示手段112の表示により、真偽を知ることが出来る。
【0040】
次に、図4をも参照して、図3の読取装置による「透かし」Sの読取について説明する。
先ず、センサ部100を、対象物Wの「透かし」S上方に位置させて、拡散した材料Vをセンサ部100内のバイオセンサ50−1〜50−Nが受容される様にせしめる(図4のステップS11)。
【0041】
そして、計時手段103により所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS12)。所定時間が経過するまでは(ステップS12がNO)、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和しないため、待機する。
ここで、ステップS12の始点は、バイオセンサ50−1〜50−Nの何れかから出力信号が発生した時点とする。但し、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号伝達回路にフィルタを設け、所定レベル以下の信号を遮断している場合や、「透かし」Sがブランクテストに係る「透かし」である場合、すなわち、「透かし」Sは何等材料を拡散していない場合には、計時手段103による時間計測の始点は、センサ部100が対象物Wの「透かし」S上方に位置した瞬間とする。
【0042】
所定時間が経過し、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和して安定したならば、分析手段104により、記憶手段106に予め記憶されたバイオセンサ50−1〜50−Nの計測特性を参照して、定量分析を行う(ステップS13)。すなわち、どのバイオセンサから検出信号が出力されたのかを判定し、材料の濃度をも合わせて決定する。
【0043】
そして検出コード決定手段108において、定量分析(検出された材料とその濃度に関するデータ)を用いて、「透かし」Sのコード(組成)、すなわち「透かし」Sを構成する材料を決定する(ステップS14)。ここで、「透かし」Sの種類として、材料の拡散量に対応する添加量をも組み合わせに含んでいる場合(材料の拡散量が調節されている場合)には、「透かし」Sを構成する材料及びその添加量が決定される。
【0044】
ステップS14で決定された「透かし」Sのコード(検出コード決定手段108で決定されたコード)は、比較判定手段110において、予め記憶手段106に記憶されていた「透かし」Sのコード(組成)と比較される(ステップS15、ステップS16)。
両者が一致した場合(ステップS16がYES)には、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正なものである、と判定される(ステップS17)。
一方、ステップS14で決定された「透かし」Sのコードが予め記憶されていたコードと一致しない場合(ステップS16がNO)には、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正な「透かし」ではなく、偽造された「透かし」であり、対象物Wも真正なものではなく、紛いものである、と判定される(ステップS18)。
【実施例】
【0045】
次に、上述した実施形態の作用を実験装置を用いて確認した実施例について、説明する。
以下に説明する実施例においては、情報コードとして使用する無色・無臭の物質として、過酸化水素(H2O2)、乳酸、コリンの3種類を使用した。
ここで、過酸化水素は衣料等の漂白や消毒剤として使用される薬剤であり、乳酸は短期の無酸素運動により筋肉中に蓄積される物質であり、コリンはビタミンB複合体の一種であり、脂肪代謝の調節を行う作用を有している。
【0046】
図5〜図7は、実施例で使用したバイオセンサ、特に過酸化水素検出用バイオセンサ50の構成を示している。
図5において、全体を符号50で示すバイオセンサは、感応部52を有する酸素電極54を具備しており、感応部52は、カタラーゼなる酵素(EC1.11.1.6)を固定した膜状部材であるカタラーゼ固定化膜56と、カタラーゼ固定化膜56を感応部52に取り付けるための止め輪として作用するシリコーン製O−リング58を有している。
【0047】
酸素電極54は、いわゆる「クラーク型酸素電極」として構成されている。正確には図示されていないが、酸素電極54は、電解液(塩化カリウム溶液)を充填した円筒形容器内に2つの電極(白金の電極と、銀の電極)が設けられており、2つの電極における電気化学反応により、円筒形容器の一端から流入する酸素分子を検出する様に構成されている。そして、一定の電位(−700mVvs.Ag)を2電極間に印加して、酸素分子存在下で生じる電気化学反応の際における電流値の変化により、酸素を定量分析する。
【0048】
カタラーゼ固定化膜56は、図6及び図7で示す要領にて製造される。
すなわち、先ず、図6で示す様に、厚さ15μmの透析膜58を、カタラーゼと光架橋性樹脂(PVA−SbQ)との混合物60を塗布して被覆する。ここで、図6において、カタラーゼは複数の粒子61・・・で示されている。そして、塗布された混合物60が乾燥した後、図7で示す様に蛍光灯62により照射すれば、カタラーゼ61が透析膜58に包括固定化されるのである。
【0049】
図5で示すバイオセンサ50により、過酸化水素を検出する原理を説明する。
過酸化水素H2O2は、カタラーゼの存在下では、次の反応式で示す様に、H2OとO2とに分解される。
2H2O2→2H2O+O2
すなわち、過酸化水素が存在する雰囲気にカタラーゼを存在させれば、カタラーゼの作用により酸素濃度が増加する。そして、酸素濃度が増加すると、酸素電極54内の2電極(図示せず)間に一定の電位(−700mVvs.Ag)が印加され、電流値の変化として酸素濃度を検出することが出来る。
【0050】
ここで、図5で示すバイオセンサ50による過酸化水素濃度の検出実験の一例が、図8で示されている。
図8の(A)において、密閉容器70内に過酸化水素溶液を含浸させた濾紙片70を放置して、図8の(B)で示す様に、室温にて過酸化水素を密閉容器70内に拡散させた。
そして、図8の(C)で示す様に、過酸化水素で充満した密閉容器70内に過酸化水素検出用バイオセンサ50を挿入した。
【0051】
バイオセンサ50の出力信号は、信号伝達ラインCL1を介して電流測定装置(例えば、ポテンシオスタット)82で計測され、電流測定装置82の計測結果は信号伝達ラインCL2を介してA/Dコンバータ84でデジタル化され、デジタル化された信号は信号伝達ラインCL3を介して制御手段(例えばコンピュータ)90に入力され、処理される。
なお、密閉容器70内の過酸化水素は、チューブ86を介して市販の過酸化水素ガス用センサ88に供給され、校正が行われる様に構成されている。
【0052】
図8で示す実験装置による検出実験の結果が、図9で示されている。
図9から明らかなように、バイオセンサ50の出力信号は、検出開始から所定時間経過すれば略々飽和した状態となり、過酸化水素濃度ごとに一定の数値をとる。係る数値(検出開始から所定時間、例えば2分、経過した状態における飽和した状態の数値)を用いて、過酸化水素−バイオセンサ50の出力信号特性を図示したものが、図10である。
図9から明らかな様に、飽和状態の出力信号を求めれば、過酸化水素濃度と出力信号とは1:1の対応関係が得られる。
【0053】
乳酸検出用のバイオセンサや、コリン検出用のバイオセンサの構造は、基本的には、図5で示す過酸化水素検出用バイオセンサ50と同様である。
過酸化水素検出用バイオセンサにおいてはカタラーゼ(catalase)なる酵素を使用しているが、乳酸検出用バイオセンサにおいては、乳酸オキシダーゼ(lactic acid oxidase)なる酵素を使用し、コリン検出用バイオセンサにおいては、コリンオキシダーゼ(choline oxidase)なる酵素を使用する。
【0054】
乳酸オキシダーゼを使用したバイオセンサにより乳酸を検出する原理について説明する。
乳酸オキシダーゼの存在下においては、乳酸は酸素を消費して、ピルビン酸(pyruvic acid)と二酸化炭素(CO2)と水(H2O)とに分解する。すなわち、
乳酸+O2→ピルビン酸+CO2+H2O
という反応が行われる。その結果、酸素濃度が減少するので、図5で示すのと同様な構成の酸素電極を用いて、当該酸素濃度の減少を検出することにより、乳酸の定量分析が可能となるのである。
【0055】
コリンオキシダーゼを使用したバイオセンサによりコリンを検出する原理も同様である。
コリンオキシダーゼの存在下においては、コリンも酸素を消費して、脂肪酸(fatty acid)と二酸化炭素(CO2)と過酸化水素(H2O2)とに分解する。すなわち、
コリン+O2→脂肪酸+CO2+H2O2
という反応が行われ、酸素濃度が減少する。そして、図5で示すのと同様な構成の酸素電極を用いて、当該酸素濃度の減少を検出することにより、乳酸の定量分析が行われる。
【0056】
乳酸検出用のバイオセンサの検出結果及び検出特性と、コリン検出用のバイオセンサの検出結果及び検出特性は、過酸化水素検出用バイオセンサ50における図9或いは図10と同様である。
すなわち、乳酸検出用のバイオセンサにおける検出結果が図11で示されており、当該乳酸検出用のバイオセンサにおける乳酸濃度−センサ出力信号特性が図12である。ここで、図11において、乳酸検出用バイオセンサの出力信号が飽和状態となるのは、検出開始後4分を経過した時点であった。
そして、コリン検出用のバイオセンサにおける検出結果が図13で示されており、当該コリン検出用のバイオセンサにおけるコリン濃度−センサ出力信号特性が図14である。図13において、コリン検出用バイオセンサの出力信号が飽和状態となるのは、検出後3分経過した時点以降である。
【0057】
以上により、実施例で用いられたバイオセンサ、すなわち過酸化水素検出用バイオセンサ、乳酸検出用バイオセンサ、コリン検出用バイオセンサにおいて、各々の検出対象物に対する検出特性の評価を完了した。
【0058】
図15は、特性評価を完了したバイオセンサ(過酸化水素検出用バイオセンサ50、乳酸検出用バイオセンサ50L、コリン検出用バイオセンサ50C)を用いて作成した無臭透かしの読取装置の実施例を示している。
図15で示す装置の構成は、図8(3)で示す装置の構成と共通している点があるので、図15及び図8において、同様な部材には同様な符号を付している。
【0059】
図8(3)では、過酸化水素検出用バイオセンサ50のみが密閉容器70に挿入されているのに対して、図15の無臭透かしの読取装置では、過酸化水素検出用バイオセンサ50に加えて、乳酸検出用バイオセンサ50Lとコリン検出用バイオセンサ50Cとが、密閉容器70に挿入されている。
また、図15で用いられる過酸化水素検出用バイオセンサ50、乳酸検出用バイオセンサ50L、コリン検出用バイオセンサ50Cは、何れも、図5〜図14で説明した通り、検出対象物に対する検出特性評価を完了しているので、図15では、図8(3)で示す構成のための構成(チューブ86、市販の過酸化水素ガス用センサ88)は設ける必要が無い。
【0060】
これに加えて、図15では、過酸化水素検出用バイオセンサ50、乳酸検出用バイオセンサ50L、コリン検出用バイオセンサ50Cの各々について、電流測定装置及びA/Dコンバータを介して制御手段90へデータ(デジタル処理された検出信号)を送出するデータ伝送回路が構成されている。
すなわち、バイオセンサ50の出力信号は、信号伝達ラインCL1、電流測定装置82、伝達ラインCL2、A/Dコンバータ84、信号伝達ラインCL3を介して制御手段90に入力され、その途中、A/Dコンバータ84でデジタル化されるが、乳酸検出用バイオセンサ50Lの検出信号、コリン検出用バイオセンサ50Cの検出信号も、同様にデジタル化されて、制御手段90に送られる。ここで、乳酸検出用バイオセンサ50Lの検出信号を伝達する回路の構成要素には添字「−L」が付されており、コリン検出用バイオセンサ50Cの検出信号を伝達する回路の構成要素には添字「−C」が付されている。
その他の構成については、図15の実施例の装置は、図8(3)の装置と概略同様である。
【0061】
図8(3)及び図15では図示されていないが、制御手段90における処理は、バイオセンサ50、50L、50Cの何れかが検出信号を発生した直後には行われず、当該検出信号が飽和して安定してから必要な処理が行われる。
そのため、制御手段90には、図示しない計時手段(図3の計時手段103と同様)が設けられ、バイオセンサ50、50L、50Cの検出信号が飽和するまで、処理を中断或いは遅延させている。
【0062】
上述した通り、本発明によれば、添加された材料或いは基質(過酸化水素や乳酸、コリンのような無臭の材料が好ましいが、有臭のものでも適用可能)の量或いは濃度を定量的に検出して、パターンを認識するように構成することが出来るが、本実施例では、過酸化水素、乳酸、コリンという3種類の材料の有無を判定することにより、パターンの認識を行っている。
【0063】
過酸化水素、乳酸、コリンの有無(材料或いは基質の有無)により、23=8通りのパターンが定義される。係る8通りのパターンについて、図16(1)で示す。
一方、過酸化水素検出用バイオセンサ50により過酸化水素が検出されたか否か(換言すれば、過酸化水素検出用バイオセンサ50の出力信号が、飽和状態において一定以上の電流レベルに到達しているか否か)、乳酸検出用バイオセンサ50Lにより乳酸が検出されたか否か(換言すれば、乳酸検出用バイオセンサ50Lの出力信号が、飽和状態において一定以上の電流レベルに到達しているか否か)、コリン検出用バイオセンサ50Cによりコリンが検出されたか否か(換言すれば、コリン検出用バイオセンサ50Cの出力信号が、飽和状態において一定以上の電流レベルに到達しているか否か)についても、23=8通りのパターンが定義される。係るパターンについて、図16(2)で表示されている。
従って、過酸化水素、乳酸、コリンの有無と、バイオセンサ50、50L、50Cによる検出の有無(一定以上の電流レベルに到達している検出信号の有無)とを、1:1の関係で対応させることが出来る。
【0064】
図15の読取装置を用いた実験では、先ず、密閉容器70内に、図16(1)の8パターンのうちの何れか1つのパターンのガスを充満し、バイオセンサ50、50L、50Cによる検出を行い、一定以上の電流レベルに到達している検出信号の有無により、図16(2)の8通りのパターンの何れかに分類した。
そして、検出信号の有無により分類されたパターンが、密閉容器70内に充満したガスのパターンと一致するか否かを検討した。
係る実験において、8通りのパターンの全てにおいて、検出信号の有無により分類されたパターンが、密閉容器70内に充満したガスのパターンと一致した。すなわち、図15の読取装置を用いた実験では、密閉容器70内に充満したガスの組成が、図16(1)の何れのパターンに該当するのかを正確に判定することが出来た。
【0065】
このことから、過酸化水素、乳酸、コリンを適宜選択して、混合した混合物を、一種の「透かし」として識別するべき対象に付着せしめ、当該混合物からの揮発ガスを図15の読取装置で読み取れば、付着された混合物の組成が把握できる、すなわち「透かし」の読取が可能であることが実験的に照明された。
【0066】
以上の実施例では、過酸化水素、乳酸、コリンの有無により、「透かし」の同一性を識別しており、「透かし」の種類としては23=8通りであるが、過酸化水素、乳酸、コリンの各々の拡散量(揮発量、徐放量)を一定に調節できるのであれば、「透かし」の種類は飛躍的に増加する。
【0067】
図10から、正確に定量分析できる過酸化水素濃度は0.4ppm〜15.0ppmであることが理解される。ここで、濃度を正確に計測するためには、少なくとも0.5ppm程度の濃度差が必要である。従って、過酸化水素濃度については、30種類の拡散量に対応する添加量を設定出来る。
同様に、図12から、正確に定量分析できる乳酸濃度は0.1ppm〜10.0ppmであり、少なくとも0.5ppm程度の濃度差が必要であれば、20種類の拡散量に対応する添加量を設定することが可能である。
さらに、図14から、正確に定量分析できるコリン濃度は1.0ppm〜30.0ppmであり、少なくとも1.0ppm程度の濃度差が必要であれば、30種類の拡散量に対応する添加量を設定することが可能である。
【0068】
その結果、実施例における3つの材料(過酸化水素、乳酸、コリン)で「透かし」を作成する場合、拡散量を制御できるのであれば、各材料の添加量毎に「透かし」の種類を変更できるので、30×20×30=18000種類の「透かし」を生成することが出来る。
「透かし」の種類が増加すれば、「透かし」の偽造が困難となり、「透かし」による真偽判定がより実効的となる。
【0069】
図示の実施形態や実施例は例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない旨を付記する。
例えば、図示の実施形態や実施例では、無臭の材料を「透かし」に利用しているが、人間の嗅覚で感知出来る程度に臭いを有する材料であっても、本発明の「透かし」に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
S・・・透かし
A〜D・・・「透かし」で用いられる材料(基質)
W・・・「透かし」を付着する対象物
M・・・混合物
50、50C、50L、50−1〜50−N・・・バイオセンサ
70・・・密閉容器
82、82C、82L、82−1〜82−N・・・電流測定装置
84、84C、84L、84−1〜84−N・・・A/Dコンバータ
90・・・制御手段
100・・・センサ部
102−1〜102−N・・・インターフェース
103・・・計時手段
104・・・分析手段
106・・・記憶手段(データベース)
108・・・検出コード決定手段
110・・・比較判定手段
112・・・表示手段(ディスプレイ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる「透かし」を用いた真偽判定の技術に関する。より詳細には、本発明は、例えば人間の嗅覚では感知出来ない無臭ガスを生体材料(例えば酵素)等を用いて検知するバイオセンサ(バイオ・スニファ)の、応用技術としての「透かし」の技術及びその「透かし」を読み取る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
「透かし」は物体が真正なものであるのか否かを判定する一手法として用いられた技術であり、紙幣の「透かし」は、いわゆる「偽札」による被害防止や、紙幣自体の真偽の鑑定の際に、威力を発している。
しかし、例えば紙幣の「透かし」の場合には、その様な「透かし」を施すためには非常に高度な技術が必要とされ、その様な「透かし」を行うための施設を建設するのに莫大な費用が必要となる。
【0003】
紙幣ほど「偽造」の可能性や被害が少ない物品であれば、識別タグ等を流用し、当該「タグ」の有無により安価に真偽判定を行うことが可能である。
しかしながら、タグ等の有無は極めて容易に視認することが出来るので、タグ自体を偽造されてしまう可能性が有る。また、視認が容易なタグは、一瞥すれば真偽判断用の部材であることが理解されてしまう。
【0004】
これに対して、例えば、特殊な化学物質を「透かし」として対象物に塗布し、その様な化学物質が検出されたか否かにより真偽判定を行うことも提案されている。その様な手法であれば、「透かし」の付加が容易であり、且つ、「透かし」の読み取りも極めて簡単に行うことが出来る。
しかし、化学物質を検出するためのセンサは「透かし」として実用化するに十分な反応選択性を有しておらず、「透かし」として塗布された化学物質以外にも反応して、「透かし」である化学物質が塗布されていないのにも拘らず、「化学物質を検出」した旨の信号を発生してしまう、という問題が存在した。
【0005】
近年のデジタル技術の広範な普及に伴い、各種著作物の違法コピーの問題が顕在化している。
係るデジタル技術による違法コピーに対処するために、真の著作権者を特定し、且つ、正当な権限無き者による違法コピーされたデータが違法コピーの産物であることを表示する、いわゆる「電子透かし」の技術が提案されている(例えば、特許文献1、2)
【0006】
係る「電子透かし」の技術は有用なものであるが、著作物に「電子透かし」を施すための設備に必要なコストが比較的効果であるのに加えて、「透かし」を付加する対象がデジタル化されたデータ或いはそのプリントアウトに限られており、電子機器と接続されていない有体物に対して「電子透かし」を付加することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−295458号公報
【特許文献2】特開2003−203994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、高度な技術や多大なコストを必要とすること無く対象物に対して「透かし」を施すことが出来、有体物全般に広く「透かし」を施して真偽判断の一助とすることが出来て、しかも、人間の五感では「透かし」自体を施したことを検出することが出来ないような「透かし」技術(その装置)の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は種々研究の結果、生体材料(例えば酵素)が生化学反応を行う際に、反応の選択性が非常に強いという事実に着目し、係る選択性を応用して、従来の「透かし」技術とは全く異なる斬新且つ実用的な透かしの読取装置を創作するに至った。
【0010】
本発明の透かしの読取装置は、対象物に付着された複数種類の材料であって且つ大気中に拡散している材料を検出する検出手段と、当該検出手段の検出信号を分析処理して検出手段に受容された物質の組成を特定する制御手段(90)とを有し、前記検出手段は、前記材料とそれぞれ生化学反応を行う生体材料が固定された複数のバイオセンサ(50、50C、50L、50−1〜50−N)を備えており、前記制御手段(90)は、前記バイオセンサが発生した検出信号と前記バイオセンサの計測特性とを比較し、その検出信号がどのバイオセンサから出力された信号であるのかを判定すると共に、前記バイオセンサで検出された材料の濃度をも合わせて判定する分析手段(104)と、前記バイオセンサの出力信号が飽和する所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過した後に、前記分析手段による比較及び判定を開始させる計時手段(103)と、前記分析手段の判定結果に基づいて、前記バイオセンサの出力信号により得られた透かしの組成を決定する検出コード決定手段(108)と、前記検出コード決定手段で決定された透かしの組成と予め記憶手段(106)に記憶されていた透かしの組成とを比較して透かしの真偽を判定する比較判定手段(110)とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透かしの読取装置によれば、生体材料(例えば酵素)を用い、バイオセンサ(50、50C、50L、50−1〜50−N)を備えた検出手段により対象物から前記材料が拡散しているか否かを検出するという簡便な手法で、「透かし」の有無を確認出来るので、例えば紙幣に施された「透かし」等と比較して、簡単に実施することが出来る。
換言すれば、「透かし」を構成する材料を対象物に塗布し、当該材料が検出された場合には真偽決定の対象物は真正なものと判定され、当該材料が検出されない場合には、対象物は偽造物、紛い物であると判定される。そして、簡単な手法により「透かし」を対象物に付加し、且つ、真偽鑑定を行う事が出来るので、「透かし」付加と、真偽鑑定のための労力及びコストを遥かに低く抑える事が出来る。
【0012】
ここで、「透かし」の有無の判定に際して、感応の選択性が極めて高い酵素等の生体材料における生化学的反応を利用しているので、検出手段が「透かし」を構成する材料や基質以外のものに反応して、誤判定をしてしまう恐れが極めて少ない。
しかも、特定の材料を「透かし」(S)として付加する対象物(W)は、有体物全般であり、「電子透かし」に比較して、その適用範囲が広範である。
【0013】
さらに、本発明において、特に無臭の材料、基質を使用すれば、「透かし」の存在が把握され難い。従って、「透かし」自体を偽造する等の各種不正行為が行われ難く、真正なものであるか否かの判定精度が向上し、真偽判定の効果が発揮され易くなる。
【0014】
ここで、透かし(S)から拡散される物質に複数種類の前記材料の各々が包含されているか否かを判定し、複数種類の前記材料の各々の有無から透かし(S)の組成(コード)を特定する様に構成することにより、単一の材料を塗布する場合に比較して透かし(S)自体のバリエーションが豊富になり、その分だけ、透かし(S)自体の偽造が困難となり、真偽鑑定に寄与する度合いがさらに向上する。
この場合でも、「透かし」を構成する複数の材料を、予め決定された組成(コード)に従って混合し、混合物を対象物に塗布するという簡単な行為により、「透かし」を真偽鑑定の対象物に付加する事が出来るので、「透かし」付加のための労力及びコストを遥かに低く抑える事が出来る。
【0015】
すなわち、「透かし」を構成する材料、基質の一部が、他の材料や基質を分解したり、反応してしまう場合を除き、「透かし」を構成する材料や基質同士を混合して、その混合物を「透かし」として使用することが出来る。従って、「透かし」の製造作業、対象物への付着作業の労力が、極めて低減化される。
そして、この様に混合した場合においても、個々の材料や基質を検出対象とするバイオセンサは、大気中に拡散する材料、基質を正確に検出して、大気中に拡散或いは揮発する材料や基質の量、すなわち当該混合物中における材料や基質の組成量に対応する出力信号を発生する。その結果、混合物で構成された「透かし」であっても、その真偽を容易に判定し、或いは読み取ることが出来る。
【0016】
さらに本発明において、「透かし」を構成する材料、基質の拡散量を適宜調整して、材料の拡散量と添加量とが1:1の対応関係となる様に調整すれば、拡散した材料を定量分析して「透かし」の同一性を判定する様に構成することが出来る。そのように構成すれば、「透かし」を偽造しようとする者が「透かし」を構成する材料や基質の種類を特定して、同一の構成材料を用いて偽造しても、各々の材料の添加量(拡散量に対応する)が相違すれば、適正の「透かし」とは組成(コード)が異なると判定される。そのため、「透かし」の偽造が困難になる。
さらに、「透かし」を構成する材料、基質の種類を増加させれば、同一の「透かし」を偽造することがさらに困難となる。従って、「透かし」自体を「偽造」使用という不正行為に対して、極めて有効に対処することが出来る。
【0017】
さらに本発明によれば、「透かし」を構成する材料、基質からの揮発量或いは徐放量を好適に調節する処理を行えば、「透かし」として有効に作用する期間を長期化することが出来る。
また、「透かし」が不要になった場合や、「透かし」を再付着させる場合等には、「透かし」を構成する材料、基質を、対象物から極めて簡単に除去することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図示の実施形態に係る「透かし」の概要を説明する図。
【図2】「透かし」の付着手順をフローチャートで示す図。
【図3】図示の実施形態に係る「透かし」の読取装置の概要を示す図。
【図4】「透かし」の読取手順をフローチャートで示す図。
【図5】過酸化水素検出用バイオセンサの構成図。
【図6】図5のバイオセンサの構成要素であるカタラーゼ固定化膜の1製造工程を示す工程図。
【図7】カタラーゼ固定化膜の製造における図6とは別の工程を示す工程図。
【図8】図5の過酸化水素検出用バイオセンサの検出実験装置の1例を示す図。
【図9】図5の過酸化水素検出用バイオセンサの検出結果の1例を示す図。
【図10】図5の過酸化水素検出用バイオセンサにおける過酸化水素濃度−検出信号出力特性図。
【図11】乳酸検出用バイオセンサの検出結果の1例を示す図。
【図12】乳酸検出用バイオセンサにおける乳酸濃度−検出信号出力特性図。
【図13】コリン検出用バイオセンサの検出結果の1例を示す図。
【図14】コリン検出用バイオセンサにおけるコリン濃度−検出信号出力特性図。
【図15】過酸化水素検出用バイオセンサと、乳酸検出用バイオセンサと、コリン検出用バイオセンサとを用いた読取実験の実験装置を示す図。
【図16】過酸化水素、乳酸、コリンの有無による混合パターンと、過酸化水素検出用バイオセンサ、乳酸検出用バイオセンサ、コリン検出用バイオセンサの検出信号有無のパターンとを、表にして示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1を用いて、本発明の実施形態に係る「透かし」の概要について説明する。
【0020】
「透かし」を用いて真偽判定する対象物は、図1では符号Wで示されている。
図示の実施形態において、「透かし」の構成材料として、符号A〜Dで示す4種類の材料(或いは基質)が選択される。
ここで、材料(基質)A〜Dは、通常の人間が感知出来る程度の臭いを有する材料(有臭材料)を選択することが可能であるが、真偽判定という「透かし」の本質的な機能を考慮すれば、材料A〜Dは、過酸化水素や乳酸やコリンのような無臭材料で構成されるのが好ましい。無臭であれば、対象物Wに「透かし」が付加されていること自体が第三者には把握出来ないため、「透かし」の偽造その他の「透かし」自体に対する不正行為が行われる可能性も少なくなるからである。
【0021】
次に、選択された材料A〜Dを混合して混合物Mを生成し、所定量の混合物Mを対象物Wに付着する。
図1では、ピペットPにより混合物Mを滴下して示されているが、ピペットによる滴下以外の手法であっても所定量の混合物Mを対象物Wに付着できる手法であれば、特に限定するものではない。
【0022】
対象物Wに付着された混合物M(図1では、符号Sで示す)からは、材料A〜Dが拡散或いは蒸発し、「透かし」を構成する。
「透かし」Sから拡散される材料A〜Dを、バイオセンサ等により検出することにより、当該「透かし」Sの有無が判定される。すなわち、「透かし」Sが有ると判定されれば、対象物Wは適正なものであり、「真」である。これに対して、「透かし」Sが無いと判定されれば、当該対象物は適正な対象物に似せた紛い物、すなわち「偽」である。
【0023】
ここで、「透かし」Sが、N種類(Nは自然数)の材料を混合して生成されたものであれば、当該N種類の材料の有無により、「2N」通りの組み合わせについて検出可能である。
これに加えて、当該N種類の材料から成る「透かし」Sからの拡散量(或いは揮発量、徐放量)が調整する場合には、さらに多くの組み合わせを検出可能である。
N種類の材料の各々において、拡散量を正確に定量分析できる範囲において、設定可能な濃度が100通りずつ存在するものと仮定すれば、当該N種類の材料から成る「透かし」Sの組み合わせの数は、「100N」通りとなる。
【0024】
次に、図2をも参照して、係る「透かし」Sを対象物Wに付着させる作業について、さらに詳細に説明する。
「透かし」を対象物Wに施すに際しては、先ず、「透かし」を構成する材料、図1の例では材料A〜Dを選択する。より詳細には、「透かし」を構成する材料として、材料の種類の数(何種類の材料を選択するのか?:図1の例では、4種類の材料)と、どの材料を選択するのか(材料の種類:図1の例では、材料A〜D)の双方を決定する(図2のステップS1)。
【0025】
なお、選択される材料は、図3におけるバイオセンサ50−1〜50−Nの何れかにより、検知可能な材料から選択される。そして、図1に関連して上述した様に、無臭の材料から選択されるのが好ましい。
【0026】
「透かし」Sを一種の識別コードと考えた場合、そのコード数が多いほど、「透かし」Sの偽造は困難となり、「透かし」Sを用いた真偽判定の精度が向上する。そして、「選択される材料の種類の数」と、「選択された材料の種類」とは、共に、「透かし」Sのコード数を決定する要因である。
【0027】
次に、ステップS2において、選択された各材料毎に、その添加量を決定する。ここで、決定されるべき添加量は、「透かし」Sから拡散した当該材料が、後述するバイオセンサにより、正確に検出できる数値である。
また、「透かし」Sからの拡散量(或いは揮発量、徐放量)を調整する場合には、バイオセンサにより定量分析可能な拡散量に対応する材料添加量を選択する。
【0028】
ここで、「透かし」Sを構成する材料同士が反応しあって、一方が他方を分解したり、化学反応により「透かし」Sとして不適当な化合物を生成してしまうことが無いかどうかを検討する(ステップS3)。
その様な材料同士の反応が生じないのであれば(ステップS3がYES)、選択された材料同士を混合して(ステップS4)、対象物Wに付着する(ステップS5)。
【0029】
材料同士が反応してしまう場合には(ステップS3がNO)、反応する材料同士を混合することが無い様に、一方の材料をその他の材料から分離して、他方の材料のみをその他の材料と混合する(ステップS6)。
「透かし」Sとして混合物を対象物Wに付着する際にも、ステップS6で分離された材料と、他の材料の混合物とが接触しない様に、両者が離隔するように、すなわち、「透かし」Sは、複数箇所に亘って対象物Wへ付着される(ステップS7)。
以上により、「透かし」Sの付着が完了する。
【0030】
図1、図2で説明した「透かし」Sの読取について、図3、図4を参照して説明する。
図3は、「透かし」Sの読取装置の構成を示しており、図4は、「透かし」Sの読取手順を示している。
【0031】
図3において、読取装置は、センサ部100と、例えばコンピュータで構成された制御手段90と、判定結果や計測結果を表示する表示手段(例えば、ディスプレイ)112を有している。
センサ部100は、その内部に複数のバイオセンサ50−1〜50−Nを包含しており、複数のバイオセンサ50−1〜50−Nは、その検出信号が電流測定装置82−1〜82−Nでアナログ電流信号に変換され、A/Dコンバータ84−1〜84−Nでデジタル信号に変換されて、制御手段90に入力される。
ここで、雑音を消去し、誤作動の可能性を少なくするため、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号伝達回路にフィルタを設け、所定レベル以下の信号を遮断する様に構成しても良い。
【0032】
バイオセンサ50−1〜50−Nの構造は、例えば、図5を参照して後述されるものと同様である。
ここで、図3では明示されていないが、バイオセンサ50−1〜50−Nは相違する生化学材料(例えば、酵素)を具備しており、検出対象となる物質の選択性が極めて高い。従って、既存・市販のガスセンサの様に、選択対象物以外の物質に反応して、検出信号を発生してしまうことは無い。
【0033】
「透かし」Sから拡散した材料(図2のステップS1で選択された材料)はセンサ部100で、バイオセンサ50−1〜50−Nの何れかに検知される。
図3において、拡散した材料は、湾曲して表示されている矢印Vで表現されている。
【0034】
拡散した材料Vの存在を検出したバイオセンサ50−1〜50−Nは検出信号を発生し、該検出信号は、電流測定装置82−1〜82−N、A/Dコンバータ84−1〜84−Nを介して、制御手段90に入力される。
制御手段90に入力された検出信号(デジタル信号)は、インターフェース102−1〜102−Nを介して分析手段104に入力される。
一方、分析手段104には、記憶手段(例えばデータベース)106からバイオセンサ50−1〜50−Nの各々における計測特性(後述する実施例における図9〜図14参照)が送られる。
【0035】
分析手段104は、記憶手段106から送られるバイオセンサ50−1〜50−Nの計測特性と、インターフェース102−1〜102−Nを介して送られる計測結果とを比較して、入力された検出信号が、どのバイオセンサから出力された信号であるのかを判定する。それと共に、バイオセンサで検出された材料の濃度をも合わせて判定する。
【0036】
ここで、分析手段104は、インターフェース102−1〜102−Nを介して検出信号が入力されてから、所定時間が経過した後に、上述の比較、判定を開始する。
後述する実施例における図9〜図14を参照すれば明らかなように、バイオセンサ50−1〜50−Nは、その出力が一定する(飽和する)まで、3分〜4分を必要とすることがあり、上述の判定、特に濃度の判定は、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和した以降でなければ、正確には行われないことによる。
なお、上述した所定時間(バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和するのに必要な時間)については、計時手段103により計測する。
【0037】
分析手段104の分析・判定結果は、検出コード決定手段108に送られ、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号により得られた「透かし」Sの組成、すなわち「透かし」Sを構成する材料(拡散量が調節されている場合には、「透かし」Sを構成する材料及びその添加量)を決定する。
上述した通り、「透かし」Sの「組成」は単一のものではなく、複数通りの組み合わせが可能であるため、本明細書では、「コード」と表現している。
【0038】
検出コード決定手段108で決定されたコード、すなわちバイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号に基いて決定された「透かし」Sの組成は、比較判定手段110に送られて、予め記憶手段106に記憶されていた「透かし」Sのコード(組成)と比較される。
両者が一致した場合には、比較判定手段110は、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正なものである、と判定する。
両者が一致しない場合には、比較判定手段110は、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正な「透かし」ではなく、偽造された「透かし」であり、対象物Wも真正なものではなく、紛いものである、と判定する。
【0039】
比較判定手段110の判定結果と、分析手段104の分析・判定結果は、表示手段112で表示され、ユーザー(図示せず)は、表示手段112の表示により、真偽を知ることが出来る。
【0040】
次に、図4をも参照して、図3の読取装置による「透かし」Sの読取について説明する。
先ず、センサ部100を、対象物Wの「透かし」S上方に位置させて、拡散した材料Vをセンサ部100内のバイオセンサ50−1〜50−Nが受容される様にせしめる(図4のステップS11)。
【0041】
そして、計時手段103により所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS12)。所定時間が経過するまでは(ステップS12がNO)、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和しないため、待機する。
ここで、ステップS12の始点は、バイオセンサ50−1〜50−Nの何れかから出力信号が発生した時点とする。但し、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号伝達回路にフィルタを設け、所定レベル以下の信号を遮断している場合や、「透かし」Sがブランクテストに係る「透かし」である場合、すなわち、「透かし」Sは何等材料を拡散していない場合には、計時手段103による時間計測の始点は、センサ部100が対象物Wの「透かし」S上方に位置した瞬間とする。
【0042】
所定時間が経過し、バイオセンサ50−1〜50−Nの出力信号が飽和して安定したならば、分析手段104により、記憶手段106に予め記憶されたバイオセンサ50−1〜50−Nの計測特性を参照して、定量分析を行う(ステップS13)。すなわち、どのバイオセンサから検出信号が出力されたのかを判定し、材料の濃度をも合わせて決定する。
【0043】
そして検出コード決定手段108において、定量分析(検出された材料とその濃度に関するデータ)を用いて、「透かし」Sのコード(組成)、すなわち「透かし」Sを構成する材料を決定する(ステップS14)。ここで、「透かし」Sの種類として、材料の拡散量に対応する添加量をも組み合わせに含んでいる場合(材料の拡散量が調節されている場合)には、「透かし」Sを構成する材料及びその添加量が決定される。
【0044】
ステップS14で決定された「透かし」Sのコード(検出コード決定手段108で決定されたコード)は、比較判定手段110において、予め記憶手段106に記憶されていた「透かし」Sのコード(組成)と比較される(ステップS15、ステップS16)。
両者が一致した場合(ステップS16がYES)には、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正なものである、と判定される(ステップS17)。
一方、ステップS14で決定された「透かし」Sのコードが予め記憶されていたコードと一致しない場合(ステップS16がNO)には、対象物Wに付着された「透かし」Sは真正な「透かし」ではなく、偽造された「透かし」であり、対象物Wも真正なものではなく、紛いものである、と判定される(ステップS18)。
【実施例】
【0045】
次に、上述した実施形態の作用を実験装置を用いて確認した実施例について、説明する。
以下に説明する実施例においては、情報コードとして使用する無色・無臭の物質として、過酸化水素(H2O2)、乳酸、コリンの3種類を使用した。
ここで、過酸化水素は衣料等の漂白や消毒剤として使用される薬剤であり、乳酸は短期の無酸素運動により筋肉中に蓄積される物質であり、コリンはビタミンB複合体の一種であり、脂肪代謝の調節を行う作用を有している。
【0046】
図5〜図7は、実施例で使用したバイオセンサ、特に過酸化水素検出用バイオセンサ50の構成を示している。
図5において、全体を符号50で示すバイオセンサは、感応部52を有する酸素電極54を具備しており、感応部52は、カタラーゼなる酵素(EC1.11.1.6)を固定した膜状部材であるカタラーゼ固定化膜56と、カタラーゼ固定化膜56を感応部52に取り付けるための止め輪として作用するシリコーン製O−リング58を有している。
【0047】
酸素電極54は、いわゆる「クラーク型酸素電極」として構成されている。正確には図示されていないが、酸素電極54は、電解液(塩化カリウム溶液)を充填した円筒形容器内に2つの電極(白金の電極と、銀の電極)が設けられており、2つの電極における電気化学反応により、円筒形容器の一端から流入する酸素分子を検出する様に構成されている。そして、一定の電位(−700mVvs.Ag)を2電極間に印加して、酸素分子存在下で生じる電気化学反応の際における電流値の変化により、酸素を定量分析する。
【0048】
カタラーゼ固定化膜56は、図6及び図7で示す要領にて製造される。
すなわち、先ず、図6で示す様に、厚さ15μmの透析膜58を、カタラーゼと光架橋性樹脂(PVA−SbQ)との混合物60を塗布して被覆する。ここで、図6において、カタラーゼは複数の粒子61・・・で示されている。そして、塗布された混合物60が乾燥した後、図7で示す様に蛍光灯62により照射すれば、カタラーゼ61が透析膜58に包括固定化されるのである。
【0049】
図5で示すバイオセンサ50により、過酸化水素を検出する原理を説明する。
過酸化水素H2O2は、カタラーゼの存在下では、次の反応式で示す様に、H2OとO2とに分解される。
2H2O2→2H2O+O2
すなわち、過酸化水素が存在する雰囲気にカタラーゼを存在させれば、カタラーゼの作用により酸素濃度が増加する。そして、酸素濃度が増加すると、酸素電極54内の2電極(図示せず)間に一定の電位(−700mVvs.Ag)が印加され、電流値の変化として酸素濃度を検出することが出来る。
【0050】
ここで、図5で示すバイオセンサ50による過酸化水素濃度の検出実験の一例が、図8で示されている。
図8の(A)において、密閉容器70内に過酸化水素溶液を含浸させた濾紙片70を放置して、図8の(B)で示す様に、室温にて過酸化水素を密閉容器70内に拡散させた。
そして、図8の(C)で示す様に、過酸化水素で充満した密閉容器70内に過酸化水素検出用バイオセンサ50を挿入した。
【0051】
バイオセンサ50の出力信号は、信号伝達ラインCL1を介して電流測定装置(例えば、ポテンシオスタット)82で計測され、電流測定装置82の計測結果は信号伝達ラインCL2を介してA/Dコンバータ84でデジタル化され、デジタル化された信号は信号伝達ラインCL3を介して制御手段(例えばコンピュータ)90に入力され、処理される。
なお、密閉容器70内の過酸化水素は、チューブ86を介して市販の過酸化水素ガス用センサ88に供給され、校正が行われる様に構成されている。
【0052】
図8で示す実験装置による検出実験の結果が、図9で示されている。
図9から明らかなように、バイオセンサ50の出力信号は、検出開始から所定時間経過すれば略々飽和した状態となり、過酸化水素濃度ごとに一定の数値をとる。係る数値(検出開始から所定時間、例えば2分、経過した状態における飽和した状態の数値)を用いて、過酸化水素−バイオセンサ50の出力信号特性を図示したものが、図10である。
図9から明らかな様に、飽和状態の出力信号を求めれば、過酸化水素濃度と出力信号とは1:1の対応関係が得られる。
【0053】
乳酸検出用のバイオセンサや、コリン検出用のバイオセンサの構造は、基本的には、図5で示す過酸化水素検出用バイオセンサ50と同様である。
過酸化水素検出用バイオセンサにおいてはカタラーゼ(catalase)なる酵素を使用しているが、乳酸検出用バイオセンサにおいては、乳酸オキシダーゼ(lactic acid oxidase)なる酵素を使用し、コリン検出用バイオセンサにおいては、コリンオキシダーゼ(choline oxidase)なる酵素を使用する。
【0054】
乳酸オキシダーゼを使用したバイオセンサにより乳酸を検出する原理について説明する。
乳酸オキシダーゼの存在下においては、乳酸は酸素を消費して、ピルビン酸(pyruvic acid)と二酸化炭素(CO2)と水(H2O)とに分解する。すなわち、
乳酸+O2→ピルビン酸+CO2+H2O
という反応が行われる。その結果、酸素濃度が減少するので、図5で示すのと同様な構成の酸素電極を用いて、当該酸素濃度の減少を検出することにより、乳酸の定量分析が可能となるのである。
【0055】
コリンオキシダーゼを使用したバイオセンサによりコリンを検出する原理も同様である。
コリンオキシダーゼの存在下においては、コリンも酸素を消費して、脂肪酸(fatty acid)と二酸化炭素(CO2)と過酸化水素(H2O2)とに分解する。すなわち、
コリン+O2→脂肪酸+CO2+H2O2
という反応が行われ、酸素濃度が減少する。そして、図5で示すのと同様な構成の酸素電極を用いて、当該酸素濃度の減少を検出することにより、乳酸の定量分析が行われる。
【0056】
乳酸検出用のバイオセンサの検出結果及び検出特性と、コリン検出用のバイオセンサの検出結果及び検出特性は、過酸化水素検出用バイオセンサ50における図9或いは図10と同様である。
すなわち、乳酸検出用のバイオセンサにおける検出結果が図11で示されており、当該乳酸検出用のバイオセンサにおける乳酸濃度−センサ出力信号特性が図12である。ここで、図11において、乳酸検出用バイオセンサの出力信号が飽和状態となるのは、検出開始後4分を経過した時点であった。
そして、コリン検出用のバイオセンサにおける検出結果が図13で示されており、当該コリン検出用のバイオセンサにおけるコリン濃度−センサ出力信号特性が図14である。図13において、コリン検出用バイオセンサの出力信号が飽和状態となるのは、検出後3分経過した時点以降である。
【0057】
以上により、実施例で用いられたバイオセンサ、すなわち過酸化水素検出用バイオセンサ、乳酸検出用バイオセンサ、コリン検出用バイオセンサにおいて、各々の検出対象物に対する検出特性の評価を完了した。
【0058】
図15は、特性評価を完了したバイオセンサ(過酸化水素検出用バイオセンサ50、乳酸検出用バイオセンサ50L、コリン検出用バイオセンサ50C)を用いて作成した無臭透かしの読取装置の実施例を示している。
図15で示す装置の構成は、図8(3)で示す装置の構成と共通している点があるので、図15及び図8において、同様な部材には同様な符号を付している。
【0059】
図8(3)では、過酸化水素検出用バイオセンサ50のみが密閉容器70に挿入されているのに対して、図15の無臭透かしの読取装置では、過酸化水素検出用バイオセンサ50に加えて、乳酸検出用バイオセンサ50Lとコリン検出用バイオセンサ50Cとが、密閉容器70に挿入されている。
また、図15で用いられる過酸化水素検出用バイオセンサ50、乳酸検出用バイオセンサ50L、コリン検出用バイオセンサ50Cは、何れも、図5〜図14で説明した通り、検出対象物に対する検出特性評価を完了しているので、図15では、図8(3)で示す構成のための構成(チューブ86、市販の過酸化水素ガス用センサ88)は設ける必要が無い。
【0060】
これに加えて、図15では、過酸化水素検出用バイオセンサ50、乳酸検出用バイオセンサ50L、コリン検出用バイオセンサ50Cの各々について、電流測定装置及びA/Dコンバータを介して制御手段90へデータ(デジタル処理された検出信号)を送出するデータ伝送回路が構成されている。
すなわち、バイオセンサ50の出力信号は、信号伝達ラインCL1、電流測定装置82、伝達ラインCL2、A/Dコンバータ84、信号伝達ラインCL3を介して制御手段90に入力され、その途中、A/Dコンバータ84でデジタル化されるが、乳酸検出用バイオセンサ50Lの検出信号、コリン検出用バイオセンサ50Cの検出信号も、同様にデジタル化されて、制御手段90に送られる。ここで、乳酸検出用バイオセンサ50Lの検出信号を伝達する回路の構成要素には添字「−L」が付されており、コリン検出用バイオセンサ50Cの検出信号を伝達する回路の構成要素には添字「−C」が付されている。
その他の構成については、図15の実施例の装置は、図8(3)の装置と概略同様である。
【0061】
図8(3)及び図15では図示されていないが、制御手段90における処理は、バイオセンサ50、50L、50Cの何れかが検出信号を発生した直後には行われず、当該検出信号が飽和して安定してから必要な処理が行われる。
そのため、制御手段90には、図示しない計時手段(図3の計時手段103と同様)が設けられ、バイオセンサ50、50L、50Cの検出信号が飽和するまで、処理を中断或いは遅延させている。
【0062】
上述した通り、本発明によれば、添加された材料或いは基質(過酸化水素や乳酸、コリンのような無臭の材料が好ましいが、有臭のものでも適用可能)の量或いは濃度を定量的に検出して、パターンを認識するように構成することが出来るが、本実施例では、過酸化水素、乳酸、コリンという3種類の材料の有無を判定することにより、パターンの認識を行っている。
【0063】
過酸化水素、乳酸、コリンの有無(材料或いは基質の有無)により、23=8通りのパターンが定義される。係る8通りのパターンについて、図16(1)で示す。
一方、過酸化水素検出用バイオセンサ50により過酸化水素が検出されたか否か(換言すれば、過酸化水素検出用バイオセンサ50の出力信号が、飽和状態において一定以上の電流レベルに到達しているか否か)、乳酸検出用バイオセンサ50Lにより乳酸が検出されたか否か(換言すれば、乳酸検出用バイオセンサ50Lの出力信号が、飽和状態において一定以上の電流レベルに到達しているか否か)、コリン検出用バイオセンサ50Cによりコリンが検出されたか否か(換言すれば、コリン検出用バイオセンサ50Cの出力信号が、飽和状態において一定以上の電流レベルに到達しているか否か)についても、23=8通りのパターンが定義される。係るパターンについて、図16(2)で表示されている。
従って、過酸化水素、乳酸、コリンの有無と、バイオセンサ50、50L、50Cによる検出の有無(一定以上の電流レベルに到達している検出信号の有無)とを、1:1の関係で対応させることが出来る。
【0064】
図15の読取装置を用いた実験では、先ず、密閉容器70内に、図16(1)の8パターンのうちの何れか1つのパターンのガスを充満し、バイオセンサ50、50L、50Cによる検出を行い、一定以上の電流レベルに到達している検出信号の有無により、図16(2)の8通りのパターンの何れかに分類した。
そして、検出信号の有無により分類されたパターンが、密閉容器70内に充満したガスのパターンと一致するか否かを検討した。
係る実験において、8通りのパターンの全てにおいて、検出信号の有無により分類されたパターンが、密閉容器70内に充満したガスのパターンと一致した。すなわち、図15の読取装置を用いた実験では、密閉容器70内に充満したガスの組成が、図16(1)の何れのパターンに該当するのかを正確に判定することが出来た。
【0065】
このことから、過酸化水素、乳酸、コリンを適宜選択して、混合した混合物を、一種の「透かし」として識別するべき対象に付着せしめ、当該混合物からの揮発ガスを図15の読取装置で読み取れば、付着された混合物の組成が把握できる、すなわち「透かし」の読取が可能であることが実験的に照明された。
【0066】
以上の実施例では、過酸化水素、乳酸、コリンの有無により、「透かし」の同一性を識別しており、「透かし」の種類としては23=8通りであるが、過酸化水素、乳酸、コリンの各々の拡散量(揮発量、徐放量)を一定に調節できるのであれば、「透かし」の種類は飛躍的に増加する。
【0067】
図10から、正確に定量分析できる過酸化水素濃度は0.4ppm〜15.0ppmであることが理解される。ここで、濃度を正確に計測するためには、少なくとも0.5ppm程度の濃度差が必要である。従って、過酸化水素濃度については、30種類の拡散量に対応する添加量を設定出来る。
同様に、図12から、正確に定量分析できる乳酸濃度は0.1ppm〜10.0ppmであり、少なくとも0.5ppm程度の濃度差が必要であれば、20種類の拡散量に対応する添加量を設定することが可能である。
さらに、図14から、正確に定量分析できるコリン濃度は1.0ppm〜30.0ppmであり、少なくとも1.0ppm程度の濃度差が必要であれば、30種類の拡散量に対応する添加量を設定することが可能である。
【0068】
その結果、実施例における3つの材料(過酸化水素、乳酸、コリン)で「透かし」を作成する場合、拡散量を制御できるのであれば、各材料の添加量毎に「透かし」の種類を変更できるので、30×20×30=18000種類の「透かし」を生成することが出来る。
「透かし」の種類が増加すれば、「透かし」の偽造が困難となり、「透かし」による真偽判定がより実効的となる。
【0069】
図示の実施形態や実施例は例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない旨を付記する。
例えば、図示の実施形態や実施例では、無臭の材料を「透かし」に利用しているが、人間の嗅覚で感知出来る程度に臭いを有する材料であっても、本発明の「透かし」に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
S・・・透かし
A〜D・・・「透かし」で用いられる材料(基質)
W・・・「透かし」を付着する対象物
M・・・混合物
50、50C、50L、50−1〜50−N・・・バイオセンサ
70・・・密閉容器
82、82C、82L、82−1〜82−N・・・電流測定装置
84、84C、84L、84−1〜84−N・・・A/Dコンバータ
90・・・制御手段
100・・・センサ部
102−1〜102−N・・・インターフェース
103・・・計時手段
104・・・分析手段
106・・・記憶手段(データベース)
108・・・検出コード決定手段
110・・・比較判定手段
112・・・表示手段(ディスプレイ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に付着された複数種類の材料であって且つ大気中に拡散している材料を検出する検出手段と、当該検出手段の検出信号を分析処理して検出手段に受容された物質の組成を特定する制御手段とを有し、前記検出手段は、前記材料とそれぞれ生化学反応を行う生体材料が固定された複数のバイオセンサを備えており、前記制御手段は、前記バイオセンサが発生した検出信号と前記バイオセンサの計測特性とを比較し、その検出信号がどのバイオセンサから出力された信号であるのかを判定すると共に、前記バイオセンサで検出された材料の濃度をも合わせて判定する分析手段と、前記バイオセンサの出力信号が飽和する所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過した後に、前記分析手段による比較及び判定を開始させる計時手段と、前記分析手段の判定結果に基づいて、前記バイオセンサの出力信号により得られた透かしの組成を決定する検出コード決定手段と、前記検出コード決定手段で決定された透かしの組成と予め記憶手段に記憶されていた透かしの組成とを比較して透かしの真偽を判定する比較判定手段とを備えることを特徴とする透かしの読取装置。
【請求項1】
対象物に付着された複数種類の材料であって且つ大気中に拡散している材料を検出する検出手段と、当該検出手段の検出信号を分析処理して検出手段に受容された物質の組成を特定する制御手段とを有し、前記検出手段は、前記材料とそれぞれ生化学反応を行う生体材料が固定された複数のバイオセンサを備えており、前記制御手段は、前記バイオセンサが発生した検出信号と前記バイオセンサの計測特性とを比較し、その検出信号がどのバイオセンサから出力された信号であるのかを判定すると共に、前記バイオセンサで検出された材料の濃度をも合わせて判定する分析手段と、前記バイオセンサの出力信号が飽和する所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過した後に、前記分析手段による比較及び判定を開始させる計時手段と、前記分析手段の判定結果に基づいて、前記バイオセンサの出力信号により得られた透かしの組成を決定する検出コード決定手段と、前記検出コード決定手段で決定された透かしの組成と予め記憶手段に記憶されていた透かしの組成とを比較して透かしの真偽を判定する比較判定手段とを備えることを特徴とする透かしの読取装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−92206(P2011−92206A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3554(P2011−3554)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【分割の表示】特願2004−260452(P2004−260452)の分割
【原出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月8日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会2004年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【分割の表示】特願2004−260452(P2004−260452)の分割
【原出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月8日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会2004年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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