説明

透かし彫り陶磁器の製造方法及びテンプレート

【課題】透かし彫りの陶磁器を高度の技術を要することなく簡単に製作できるようにすると共に、透かしを重層させてデザインのバリエーションを豊富にする。
【解決手段】抜きパターン41が幅約3mmの縁42を設けて縦横に複数設けられたテンプレート4を粘土板(タタラ)3に載せ、針等の鋭利な道具で抜き型の輪郭に沿って粘土を切り抜いて透かし板31を得る。この透かし板31の縁32の交点33に他の透かし板の縁32を位置させて重ね合わせて重層させ、重ね合わせた透かし板31を所望の形状に組合わせる。曲面が必要な場合は、凹面の型によって透かし板を曲面に形成する。組み上げて所望の形状としたものを乾燥し、釉かけ、焼成して透かし彫りの陶磁器を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透かし彫り陶磁器の製造方法に関し、透かしを重層構造とするものであり、デザイン性に優れ、繊細さを表現することができる透かし彫り陶磁器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陶磁器の透かし彫りは、原材料の粘土を花瓶、鉢、皿等の所望の形状に成形し、粘土が柔らかい間に透かしとなる部分を剣先で彫り抜いて形成していた。
【0003】
精緻な透かし彫りとして、薩摩焼の沈寿官による伝統技法等があり、香炉等の器全体に亀甲模様の透かし彫りを施したものなどがあるが、透かしは、成形した粘土を彫り抜くものであって高度の技術を要するものである。
【0004】
特許文献1(特開2011−140417号公報)には、竹細工や編み目細工の外観を得るため、粘土を付着させた糸で透かし模様を作成し、焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−140417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の透かし彫り陶磁器においては、成形した粘土を彫り込んで透かしを形成するものであり、透かしは1層しか形成することができず、透かしを何層にも重ねた複雑なものを作成することは技術的に不可能であった。また、特許文献1に記載の方法は、竹細工などのように細い線を表現するためのものであり、高度な技量と多くの時間が必要とされ、誰でも簡単には実施できない技法である。
【0007】
本発明は、前述の従来技術の欠点を解消し、高度の技能を必要とすることなく簡単に透かしを形成できるようにすると共に、透かしを重層構造として複雑な透かしを形成することができるようにし、デザイン性に優れ、繊細な形状を有する透かし彫り陶磁器を製作できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
粘土板(タタラ)を抜きパターンに従って一定幅の縁を残して切り抜いて透かし板を複数作成し、この透かし板の抜きパターンを組合わせて重層構造の透かしとなるように透かし板を重ね合わせて一体化し、この重ね合わせた透かし板を組合わせて所望の形状とするものである。
【0009】
透かし板の重ね合せの枚数は特に限定されないが、3枚以上重ね合わせると透かしの領域が少なくなり趣に欠けるようになるが、粘土板を薄くすることによって5枚程度までの重ね合せが可能である。
【0010】
重ね合わせた透かし板は、平板のまま、または、整形型を利用して曲面に形成したり、円筒に巻き付けて筒状にするなど自由に所望の形状に形成することが可能である。
【0011】
重ね合わせた透かし板の組み立ての際の接着は、接着面に泥漿(ドベ)を塗って貼り合わせ、意図したデザインの形状とする。組み立て整形を完了したら、通常の陶磁器と同様に、乾燥させ、釉かけして焼き上げる。
【0012】
粘土板に透かしを切り抜くには、同一の抜きパターンが一定幅の縁を設けて繰り返してあるテンプレート(型板)を粘土板の上に載せ、抜きパターンに沿って小刀や針、または剣先などで粘土を切り抜く。
【0013】
また、粘土に効率的に透かしを形成するには、抜きパターンを切り抜くのではなく、抜き型を粘土板に押し付けて抜きパターンを抜き取るのがよく、更に抜き型を縦横に複数連続させた抜き型を使用することによって効率よく透かし板が得られるので、大量生産には向いている。
【0014】
このようにして製造した複数の透かし板を貼り合わせて抜きパターンが重層された複雑な形状の透かしを形成することができる。
【0015】
透かし板の貼り合わせに当たっては、貼り合わせ部分の表面を目荒ししてから、泥漿を塗って貼り合わせるのが好ましい。
【0016】
透かし板を使用して函体などの立体に形成するには、函体を構成する透かし板の接合端面を接合角度に合わせて切り取り、接合面に泥漿を塗って組み立て接合することによって角を綺麗に仕上げることができる。
四角形の場合は、透かし板の交差角は90°であるので、端面を45°に形成する。
【0017】
透かし板が柔らかい間に円筒状の中子に巻き付けて端部を接合することによって円筒形の陶磁器が得られる。接合部において透かしの形状が途切れないように粘土板に抜きパターンを形成することが必要である。
【0018】
凹面状の整形用の型に透かし板を押し当てて整形すると、透かし部分にひび割れや破断を生ずることなく凹面に合致した曲面状の透かし板を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
型板を使用して粘土板を縁を残して抜きパターンを抜いて透かし板とし、この透かし板を重ね合わせて重層構造としたものであるので、高度の技量を必要とせず、陶芸の初心者でも透かし彫りの陶磁器を製作することができる。
単純な形状のパターンを抜いた透かし板を重ね合せることによって重層の透かしが形成され、複雑な透かし彫りが得られ、繊細なデザインの陶磁器が得られる。
【0020】
更に、透かし板に形成された透かしの縁の交点に他の透かし板の縁を位置させて重ね合わせてあるので、強度が低く変形しやすい細い幅の縁が形成されている透かし板であっても、変形しやすい縁の交点が補強されているので、組立作業中に透かし板が変形したり、また、焼成によって透かしが変形したり、破壊されることが防止され、意図した透かし彫りを完全な形で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の製法に従って作成した陶磁器の斜視図。
【図2】本発明の製法の工程説明図。
【図3】型抜きによる透かし板の製作概念図。
【図4】テンプレートの組合せの実施例。
【図5】テンプレートの組合せの他の実施例。
【図6】曲面透かし板の製造方法の説明図。
【図7】円形テンプレート実施例。
【図8】円形テンプレートを使用した透かし彫り皿の実施例。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に従って製作した陶磁器製枕元灯1の完成斜視図であり、透かし2を4つの側面11及び天板12に有し、天板12は蓋として取り外し可能としてあり、電球の交換時に使用するものである。
【0023】
側面11及び天板12の透かし2から光が漏れ出るようにしたものであり、透かし2を形成した4つの側面11は、照明具の形状寸法に合わせた粘土板3から抜きパターンを切り取って透かし2を形成した透かし板31を箱状に接合し、蓋となる天板12は頂面を部分的に曲面状に整形して透かし2を形成したものである。透かし2を形成した透かし板31を組み立てて焼成し、釉薬をスプレーで塗布したものである。
【0024】
本発明の陶磁器の製造方法の手順を説明する。
図2(1)に示すように厚さ5mm程度の粘土板(タタラ)3を製作する物品の構成部材に合わせて粘土板3を切り取る。図1の枕元灯の場合は、箱状であるので、4つの側面、天板、及び底板が必要であり、製作する物品の寸法に粘土板3を切り取る。透かし2を設ける部分を二層とする場合は、その部分の粘土板は2枚ずつ必要なので、4つの側面に対して粘土板3を各面2枚ずつ、合計8枚の粘土板3と、透かし2を設ける天板用の粘土板を2枚、底板用に1枚準備する。
【0025】
図4及び図5に示すものは、透かし2を粘土板3に形成するために使用する抜きパターン41を複数繰り返して形成してあるテンプレート4であり、三角形、菱形、台形、六角形、または円形などの抜きパターン41が繰り返し形成されたものである。テンプレート4は、自作する場合は厚紙を利用して作成することによって独自の抜きパターン41を形成することができる。テンプレート4の基板は、厚紙に限らず、プラスチックや金属板でもよく、その厚さは粘土板3を切り抜く際に、抜きパターン41に切り抜き用のカッターや針が正確に追随できるものであればよく、取り扱いや整理保存を容易にするには、1〜5mmとするのが好ましい。
【0026】
抜きパターン41、41の間には透かし2の縁取りとなる幅3〜5mm程度の縁線42が形成してある。この縁線42が透かし2の縁となるものであり、透かし2の繊細さを表現することができるようにするためには幅が細いものがよいが、あまり細くすると強度的に弱くなり、透かし2を粘土板に形成した透かし板31の組み立ての際に変形したり、また、焼成の際に破損するので、3mm以上とするのが好ましい。
【0027】
複数の抜きパターンを重ね合わせて重層させた透かし2を形成するので、それらの上下関係を示すマークをテンプレート4に付すと共に抜きパターン41に従って粘土を切り取って形成した透かし板31にマークを付しておくことにより、上下左右を取り違えて重ね合わせてしまうことを防止できる。
【0028】
図2(3)に示すように、準備した粘土板3に形成する透かし2に従ってテンプレート4を選択して粘土板3の上に載せ、極細の剣先やカッターで抜型に沿って切りこんで、縁42に対応する部分の粘土を残して抜きパターン41の部分の粘土を取り除いて図2(4)に示す透かし板31を形成する。
テンプレート4の抜きパターン41に対応する粘土板の部分が透かし2となり、縁42に対応する部分が縁32となり、縁32の交差する部分が交点33である。
【0029】
テンプレート4を使用して粘土板3を抜きパターン41に従って切り取る方法に代え、図3に示すように透かしの形状に合わせた抜き型45を使用し、テンプレート4に従って粘土板1に抜き型45を押し当てて透かし2となるパターンを粘土板3から除去するようにしてもよい。また、粘土板3の全体を抜き取ることができる抜き型を使用すれば、粘土板3から透かし板31を形成する効率を上げることができる。
【0030】
図2(5)に示すように、異なる抜きパターン41のテンプレート4を使用して作成した透かし板31、31を重ね合わせる。予め重ね合わせた際の透かし2を想定してテンプレート4を選択する。
例えば、図4(a)に示す六角形と三角形の抜きパターン41が繰り返されているテンプレート4と、図4(b)の三角形の抜きパターンが繰り返されているテンプレート4を使用して作成した透かし板31を重ね合わせると、図4(c)に示すように、六角形の透かしを通して*印の縁が見え、六角形の中には更に小さな6個の三角形の透かし2が形成されており、複雑な透かし2が形成されることになる。
【0031】
図5に示すテンプレート4は、図5(a)の斜め45度の四角形を配列したテンプレート4と図5(b)の四角形を縦横に配列したテンプレート4であり、両者を重ね合わせると、図5(c)に示すように、格子体の上に斜め格子体が配置され、三角形の透かし2が形成される。
本発明の方法によれば、透かし板4を重ね合わせることによって粘土板3に形成した抜きパターン41に従った透かしよりも小さな形状の透かしとなるので、観る者に精細な透かし模様が施されているように見えることになる。
【0032】
製作する製品に曲面部分を設けることによって更にデザインのバリエーションを増加させることができる。
図6は、重ね合わせた透かし板31を曲面に整形するための、凹面51を有する整形型5である。
整形型5の内部の凹面51に透かし板31をいれて凹面51に透かし板31に密着するようにゆっくりと変形させて曲面状の部材とする。
【0033】
製品の構成部材の準備が整ったところで各部材をつなぎ合わせて所望の形状の製品に仕上げる。
透かし板31の接合部となる部分は端部処理をおこなう。四辺形の箱状とする場合は透かし板31の端面の角度を45度とし、接合部に突起や凸凹ができないようにし、組合わせた各部材の透かし板31がきれいな四角形となるように、接合部の表面を目荒しして泥漿を塗って接合し、角部を整形して仕上げる。
図1の枕元灯1は、以上の手順で構成部材を準備し、天板は図6に示した凹面型5を使用して上に凸となる曲面に仕上げ、側面部材は四角形に接合して組み上げ、底板には、電源コードの導入口を形成して四角形の底部に貼り付け、四角形の上端は蓋となる天板が嵌るように段差を形成してある。
【0034】
図7は、皿などの円形の製品の作成に使用するテンプレート4であり、抜きパターン41は、図4と同じものであるが、円形としたときの周縁部の透かし2が滑らかな形状となると共に、全体のバランスを考慮して抜きパターン41の配列を決定する。また、抜きパターン41の縁42の強度が保持できるように、縁42の終端が交点となるように配列するのが好ましい。
このテンプレート4を使用して作成した透かし彫り皿10を図8に示す。
【符号の説明】
【0035】
1 陶磁器
10 透かし彫り皿
2 透かし
3 粘土板(タタラ)
31 透かし板
4 テンプレート
41 抜きパターン
42 縁
43 交点
5 整形型
51 凹面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形成する透かしの周囲に一定幅の縁を残して粘土板を切り抜き、または抜き取って透かし板を作成し、異なる抜きパターンを形成した別の透かし板を重ね合わせ、重ね合わせた透かし板を単独または組合わせて所望の形状とする透かし彫り陶磁器の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、透かし板に形成された縁の交点に別の透かし板の縁を位置させて重ね合わせる透かし彫り陶磁器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、粘土板に形成したパターンの縁の幅が少なくとも3mmである透かし彫り陶磁器の製造方法。
【請求項4】
複数の抜きパターンの周囲に一定幅の縁を残して配列してある透かし陶磁器製造用のテンプレート。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43289(P2013−43289A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180169(P2011−180169)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【特許番号】特許第4885328号(P4885328)
【特許公報発行日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(504143315)
【Fターム(参考)】