透け防止性に優れた丸編物
【課題】薄くて白いシャツ類や下着類などの衣服に使用しても透け防止性に優れた丸編物を提供する。
【解決手段】0.5〜1.0mmの厚み及び120〜160の白度を有する、二つの層からなる丸編物において、構成層中に、ニット組織を含む表側の層と、タック組織を含む裏側の層とを連続的に含み、前記ニット組織のニードルループの隙間が前記タック組織で埋められていること、及び透け防止性が80〜100%であることを特徴とする。
【解決手段】0.5〜1.0mmの厚み及び120〜160の白度を有する、二つの層からなる丸編物において、構成層中に、ニット組織を含む表側の層と、タック組織を含む裏側の層とを連続的に含み、前記ニット組織のニードルループの隙間が前記タック組織で埋められていること、及び透け防止性が80〜100%であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄くて白いTシャツ、ポロシャツ、肌着、運動着などの衣服に最適な透け防止性に優れた丸編物に関するものである。また、本発明は、前記白い衣服の皮脂汚れの酸化による黄変の防止性に優れた丸編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から丸編物の天竺組織や鹿子組織などは、薄くて軽量であり、かつストレッチ性を有することから、Tシャツやポロシャツなどのシャツ類、さらには肌着、運動着などに多く使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの丸編物は薄く軽量にして作られるため、白度の高い白い生地にすると、外から容易に透けてしまうとともに、太陽光の紫外線や可視光線等を十分に遮断できないという問題があった。
【0004】
透け防止性、遮光性、遮熱性を向上させた布帛や編地としては、例えば特許文献1〜5がある。
【0005】
特許文献1では、遮光性に優れ、クッション性および通気性が高く、軽量性を有する遮光性編地が提案されている。遮光性を高める技術として、セラミック系粒子を1〜25重量%分散含有した合成繊維フィラメントを外面層に用いて、中間層に外面層のマルチフィラメントの単繊維繊度の3〜30倍の単繊維繊度を有する単繊維繊度10〜35デニールの合成繊維フィラメントで形成されている多層構造の編地が述べられている。しかし、外面層で遮光性を高める工夫はされているが、中間層ではクッション性と通気性を高めるための工夫しかされておらず、外面層を通過した光を中間層で効率良く遮光することができなかった。
【0006】
また、特許文献2では、布帛の開口率を0.3〜7%にした紫外線遮蔽性布帛が提案されている。しかし、開口率を下げる手段として、合成繊維と人造セルロース繊維を混用すること、合成繊維や人造セルロース繊維に無機酸化物微粒子を0.5〜6重量%含有させることが示されているのみであり、遮光性を高めるためにはハイゲージ編機で高密度に編むしかなかった。
【0007】
また、特許文献3では、パイルが出しやすく蒸れ難い編み組織とし、細い糸でも透けず、冷え性対策に優れた下半身衣類が提案されている。この衣類は、嵩高加工糸を引き揃えて添え編みしてタック編みし、しかも特定のコースの糸をずらせることにより糸の伸縮量差を作り、吸放湿性に優れた紡績糸を主要部の内面側にループ状に突出させて編成しており、使用する糸や編組織が限定される問題があった。
【0008】
また、特許文献4では、遮熱性を有し、しかも伸縮性がある布帛が提案されている。この布帛は、表裏両面に表目が現れた2層構造のよこ編生地であり、表層を形成する糸はコース方向に4〜8目の間隔を開けてタックされて裏層の編目とともに編まれ、該タックはウェール方向に3〜6コース毎に形成されており、前記裏層は編目と浮き編みとからなり、前記表層と裏層とは間隔を開けて点在する前記タックによってのみ繋がれており、他の部分では表層と裏層とは連結されておらず、表層の編目と裏層の編目との間に裏層の前記浮き編みが配置されている。この布帛は、表層と裏層の間に裏層の浮き糸が配置されているので遮光性が高まることが予想されるが、編地が分厚くなり、重くなってしまう問題があった。
【0009】
さらに、特許文献5では、表面と裏面で形成されるジャガード編地であって、衣類の部位に応じて編地の組織を変化させ、通気度を調節した編地が提案されている。具体的には、表面及び裏面は少なくともA糸とB糸との2種類の糸によって構成され、前記A糸とB糸とは繊度が異なる(A糸の繊度>B糸の繊度)と共に、表面においては前記A糸、B糸のうちどちらか一方の糸をニットした度目では、もう一方の糸はミス又はタックしたことを特徴とする。しかし、この編地は、通気度をコントロールしながら意匠性の編柄を得ることを目的としており、太糸に対して細糸を必ず対にして用いているため、透け防止性を高める効果は少なかった。
【0010】
以上のように、薄くて白い衣服において透け防止性、遮光性を達成した丸編物が従来提案されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−137345号公報
【特許文献2】特開2000−282345号公報
【特許文献3】特開2009−161868号公報
【特許文献4】特開2010−53496号公報
【特許文献5】特開2005−290596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、薄くて白いシャツ類や下着類などの衣服に使用しても透け防止性に優れた丸編物を提供することにある。また、本発明の目的は、かかる白い衣服の皮脂汚れの酸化による黄変を効果的に防止できる丸編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、丸編物の透ける主な原因はニット組織のループの隙間にあり、このループの隙間を埋めることによって透け防止を達成できることを見出した。そして、丸編物を表と裏の二つの層で形成し、表側の層のニット組織のループの隙間をその下の裏側の層のタック組織で埋めることによって、薄くて白い生地であっても透け防止を効果的に達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
即ち、本発明は以下の(1)〜(7)の構成を有するものである。
(1)0.5〜1.0mmの厚み及び120〜160の白度を有する、二つの層からなる丸編物において、構成層中に、ニット組織を含む表側の層と、タック組織を含む裏側の層とを連続的に含み、前記ニット組織のニードルループの隙間が前記タック組織で埋められていること、及び透け防止性が80〜100%であることを特徴とする丸編物。
(2)表側の層の編組織におけるニットループの比率が70〜100%であり、裏側の層の編組織におけるタック組織の比率が20〜80%であることを特徴とする(1)に記載の丸編物。
(3)開口遮蔽率が50〜100%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の丸編物。
(4)表編地密度が縦方向40〜60個/inch、横方向35〜60個/inchであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の丸編物。
(5)フルダル繊維の混率が30〜100%であるフルダル糸が、少なくとも片面の層を構成する糸の20〜100%を占めていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の丸編物。
(6)編物がセルロース系繊維及びポリエステル系繊維から構成され、SR加工及びシルケット加工が施されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の丸編物。
(7)酸化防止剤が付着され、生地pHが4〜7であることを特徴とする特徴とする(6)に記載の丸編物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の丸編物は、表と裏の二つの層を設け、その表側の層のニット組織のループを裏側の層のタック組織によって埋めるようにしているので、薄くて軽量で快適な丸編物の特徴を生かしながら、白い生地でも高い透け防止性、遮光性、遮熱性を達成することができる。また、本発明の丸編物は、SR加工により生地を構成する合成繊維の表面を親水化しているので、皮脂などの親油性の汚れが洗濯で落ちやすいとともに、シルケット加工により生地を構成するセルロース繊維の表面を平滑化しているので、皮脂系の汚れが付着しにくく、かかる汚れが付着しても落ちやすい。また、生地を構成する繊維の上に残ってしまった皮脂汚れの変質による黄変を酸化防止剤によって防ぐことが可能である。そのため、白く透け性に優れる生地を使用する場合に問題となりやすい黄変の問題を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1a】従来の丸編物の一般的なループ構成を示す。
【図1b】本発明の丸編物の概念の説明図を示す。
【図2】本発明の丸編物の二つの層の概念の説明図である。
【図3a】本発明の丸編物に使用されるタックリバースの組織を示す。
【図3b】本発明の丸編物に使用される鹿子リバースの組織を示す。
【図3c】本発明の丸編物に使用されるダンボールニットの組織を示す。
【図3d】本発明の丸編物に使用されるウエルトダンボールニットの組織を示す。
【図4】実施例1で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図5】実施例2で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図6】実施例3で使用したタックリバースの組織を示す。
【図7】実施例4で使用した鹿子リバースの組織を示す。
【図8】実施例5で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図9】比較例1で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図10】比較例2で使用したダンボールニットの組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の丸編物について詳述する。
【0018】
本発明の丸編物は、薄くて白い、Tシャツ、ポロシャツ、肌着、運動着等に使用されるものであり、従って0.5〜1.0mmの厚さ及び120〜160の白度を有するものを対象とする。本発明の丸編物は、好ましくは厚さ0.6〜0.9mmであり、白度130〜160である。丸編物の厚さが上記下限未満では、生地が薄く下着が透けやすくなり、また、上記上限を越えると、肉厚となってしまい下着として嵩張ってしまうため、好ましくない。また、白度が上記範囲から逸脱すると、透け防止性は良くなるが、本発明の白い商品としての価値が低下するため、好ましくない。
【0019】
本発明の丸編物の最大の特徴は、表側の層のニット組織のループの隙間を図1bのように裏側の層のタック組織で埋めて透けを防止することにある。この特徴を図1で説明する。図1aは従来の丸編物の一般的なループ構成を示し、図1bは本発明の丸編物の概念の説明図を示す。従来の丸編物は、図1aに示すように、ニット組織のループ間に隙間があり、生地が薄いとこの隙間を通してその下の下着が容易に透けて見えてしまう。一方、本発明の丸編物は、図1bに示すように、ニットループ組織のループ間の隙間を裏側の層のタック組織で埋めているので、生地が薄かったり、白かったりしても下着が透けて見えることがほとんどない。
【0020】
本発明の丸編物は、表側の層とその層に連続する裏側の層とからなる。本発明の表側の層、裏側の層の概念を図2を用いて説明をする。表側の層は、図2の(イ)、(ロ)ともにA層で示されるものであり、生地表面にニット組織を構成する糸からなる。裏側の層は、(イ)ではA層と連結したB層で示されるものであり、(ロ)ではA層とB層を連結する糸が単独で存在するC層とB層で示されるものである。
【0021】
本発明の丸編物は、二層からなり、例えば図3a〜図3dにそれぞれ示されるようなタックリバース、鹿子リバース、ダンボールニットまたはウエルトダンボールニットなどの組織が使用される。
【0022】
タックリバース組織は、図3aに示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F1で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側の層を構成する糸がF1のシリンダー針1でタック組織として編まれて連結する。
【0023】
鹿子リバース組織は、図3bに示すように、F2、3、5、6で編まれた糸が表側の層となり、F1、4で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側を構成する糸がF1のシリンダー針1でタック組織として編まれて連結する。
【0024】
ダンボールニット組織は、図3cに示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F1、3で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側を構成する糸がF1のシリンダー針1にタック組織として編まれて連結する。また、F3のダイヤル針1でニット組織を編んだ裏側の層を構成する糸に同じく裏側を構成する糸がF1のダイヤル針1でタック組織として編まれて連結する。
【0025】
ウエルトダンボールニット組織は、図3dに示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F1、3で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針3、5でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側を構成する糸がF1のシリンダー針3、5にタック組織として編まれて連結する。また、F3のダイヤル針1、3でニット組織を編んだ裏側の層を構成する糸に同じく裏側を構成する糸がF1のダイヤル針1、3にタック組織として編まれて連結する。
【0026】
本発明の丸編物の表側の層におけるニット組織(ニットループ)の割合は、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、更に好ましくは100%である。ニット組織の割合が上記下限未満になると、表側の一部ループが大きくなり、透け防止性が劣る。また、本発明の丸編物の裏側の層におけるタック組織の割合は、好ましくは20〜80%、より好ましくは50〜80%である。タック組織の割合が上記下限未満になると、表側のループの隙間を埋めきれず、透け防止性が劣り、上記上限を超えると、製編性が困難となり、編地を構成しずらくなる。
【0027】
本発明の丸編物の開孔遮蔽率は、50〜100%が好ましく、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは75〜100%である。開孔遮蔽率が上記下限未満であると、ループの隙間を十分に埋めきれず、透け防止性が劣る。開孔遮蔽率は、表側の層のニットループの全数に対する、表側の層のニットループの隙間を裏側の層のタック組織で埋めているニットループの数の割合を意味し、式で表わすと以下のようになる。
開孔遮蔽率(%)=(表側の層のニットループの隙間を裏側の層のタック組織で埋めているループの数/表側の層のニットループの全数)×100
【0028】
本発明の丸編物の表側の層のニット組織の構成比率と裏側の層のタック組織の構成比率と開孔遮蔽率を図3a〜図3dの組織で以下に具体的に説明する。
【0029】
タックリバース組織では、図3aに示すように、表側の層を構成する糸はF2のみで編まれ、シリンダー針1〜4の計4針でニット組織を編んでいるため、表側の層のニット組織の構成比率は4/4で100%になる。裏側の層を構成する糸はF1のみで編まれ、ダイヤル針1〜4の4針がニット組織、シリンダー針1〜4の4針がタック組織として編まれているため、裏側の層のタック組織の構成比率は4/8となり50%になる。表側の層のニットループはF2のシリンダー針1〜4の4針で全て構成され、そのニットループの隙間を埋める裏側の層のタック組織はF1のシリンダー針1〜4の4針になる。そのため開孔遮蔽率は4/4となり100%になる。
【0030】
鹿子リバース組織では、図3bに示すように、表側の層を構成する糸はF2、3、5、6で編まれ、F2、5のシリンダー針1〜4とF3のシリンダー針2、4とF6のシリンダー針1、3の計12針がニット組織で編まれ、F3のシリンダー針1、3とF6のシリンダー針2、4の計4針がタック組織で編まれているため、表側の層のニット組織の構成比率は12/16で75%になる。裏側の層を構成する糸はF1、4で編まれ、F1、4のダイヤル針1〜4の計8針がニット組織、シリンダー針1〜4の計8針がタック組織として編まれているため、裏側の層のタック組織の構成比率は8/16となり50%になる。表側の層のニットループは上記の通りF2、5のシリンダー針1〜4とF3のシリンダー針2、4とF6のシリンダー針1、3の計12針で構成され、そのうち、F2、5のシリンダー針1〜4の計8針が、裏側の層のF1、4のシリンダー針1〜4のタック組織によりニットループの隙間を埋められている。そのため開孔遮蔽率は8/12となり67%になる。
【0031】
ダンボールニット組織では、図3cに示すように、表側の層を構成する糸はF2のみで編まれ、シリンダー針1〜4の計4針でニット組織を編んでいるため、表側の層のニット組織の構成比率は4/4で100%になる。裏側の層を構成する糸はF1、3で編まれ、F1ではシリンダー針1〜4、ダイヤル針1〜4の計8針がタック組織で編まれ、F3はダイヤル針1〜4の4針がニット組織で編まれている。このため裏側の層のタック組織の構成比率は8/12となり67%になる。表側の層のニットループはF2のシリンダー針1〜4の4針で全て構成され、そのニットループの隙間を埋める裏側の層のタック組織はF1のシリンダー針1〜4の4針になる。そのため開孔遮蔽率は4/4となり100%になる。
【0032】
ウエルトダンボールニット組織では、図3dに示すように、表側の層を構成する糸はF2で編まれ、シリンダー針1〜5の計5針でニット組織を編んでいるため、表側の層のニット組織の構成比率は5/5で100%になる。裏側の層を構成する糸はF1、3で編まれ、F1ではシリンダー針3、5とダイヤル針1,3の計4針がタック組織で編まれ、F1のシリンダー針4とダイヤル針2の計2針がウエル組織として編まれている。F3はダイヤル針1〜5の計5針がニット組織で編まれている。このため、裏側の層のタック組織の構成比率は4/11となり36%になる。表側の層のニットループはF2のシリンダー針1〜5の5針で全て構成されるが、ニットループの隙間を埋める裏側のタック組織はF1のシリンダー針3、5の2針になる。そのため開孔遮蔽率は2/5となり40%になる。
【0033】
本発明の丸編物に用いる素材としては、綿、麻、羊毛のような天然繊維、レーヨン、リヨセル、キュプラ、アセテートに代表されるセルロース系再生繊維や半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリルのような合成繊維等の有機繊維が挙げられる。繊維断面は丸断面以外にも、三角以上の多角形、Y、X形状等の多葉断面、I、W形状、アレイ型等の扁平断面、中空等の断面形態が用いられる。繊維の形態としては、長繊維でも短繊維でもそれらの混合物でも構わない。長繊維として用いる場合、生糸でもよいし、仮撚加工やエアー交絡、カバーリング等の糸加工を施しても良い。短繊維を紡績する方法としては、リング紡積やオープンエンドや村田ボルテックススピナー(MVS)等の空気紡績等の一般的な紡績方法を用いればよいが、薄地の丸編物の外観品位を良くするためリング紡績が好ましい。また、コアスパンヤーンや精紡交撚等の方法を用いて長短複合紡績糸にしたり、紡績糸に長繊維を被覆したカバーリング糸にしてもよい。
【0034】
本発明の丸編物は、表層と裏層の二層のうち少なくとも一層がフルダル繊維を含有する糸で構成されることが好ましい。さらには、裏側の層にフルダル繊維を含有する糸を使用することが好ましい。また、フルダル繊維を含有する糸の構成比率は、表側の層、裏側の層の少なくとも一方の層を構成する糸の20〜100%を占めていることが好ましい。より好ましくは50〜100%である。構成比率が上記下限未満になると、フルダル効果による透け防止性が劣ってしまう。
【0035】
ここでフルダル繊維とは、二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化珪素などの艶消剤を多く含む繊維をいう。本発明では、これらの艶消剤を、繊維を構成する重合体に対し1.3〜3重量%程度混合することが好ましい。例えば、紡糸する前のレジンやドープに上記艶消し剤を練り込んでから紡糸したポリエステル、ナイロン、レーヨン等のフルダル繊維が例示される。本発明では、フルダルのポリエステル長繊維、ポリアミド長繊維や、フルダル短繊維のみで紡績したフルダル繊維100%の糸を編込んで用いてもよいが、フルダル短繊維を通常の短繊維と混紡したり、フルダル長繊維を通常の短繊維と複合紡績する等してフルダル繊維を含む糸(フルダル糸)にして用いてもよい。本発明では、フルダル糸は、フルダル繊維の混率が30%以上であることが好ましい。このようなフルダル糸を裏側の層のタック組織を構成する糸として使用することにより、表側の層のニットループの隙間を通り抜けた光線を遮蔽して透け防止効果をさらに向上することができる。また、表側のニットループを構成する糸をフルダル繊維を含有する糸にすることにより、ニット組織内は繊維間に入り込んだ皮脂や汚れが変色しても目立たなくすることができる。
【0036】
本発明の丸編物に使用する糸の繊度は、紡績糸であれば英式番手80/1(80番単糸)〜40/1が好ましい。より好ましくは50/1〜60/1である。長繊維であれば30〜170dtexが好ましい。より好ましくは50〜80dtexである。紡績糸で80/1,長繊維で30dtexより細い糸では、透け感が高くなりやすい。また、紡績糸で40/1、長繊維で170dtexより太い糸は、生地が分厚くなり、本発明のような薄い編地になりにくい。
【0037】
本発明の丸編物は、表編地密度が縦方向40〜60個/inch、横方向35〜60個/inchであることが好ましい。表編地密度が上記下限未満になると、本発明の透け防止を達成することができなくなり、上記上限を越えると、生地が重くなり、快適性を著しく損なう可能性がある。
【0038】
本発明の丸編物は、目付が120〜250g/m2であることが好ましく、さらに好ましくは150〜200g/m2である。目付が上記上限を超えると、生地が分厚くなり、本発明のような薄い生地にならず、上記下限未満になると、密度が粗くなって隙間が多くなったり、糸が細すぎて透けやすくなる傾向にある。
【0039】
上記のようにして構成された本発明の丸編物は、透け防止性評価が80〜100%、さらには85〜100%を達成することができる。本発明の丸編物のように薄い厚みと高い白度の条件で快適性を維持しながらこのように極めて高い透け防止性を達成したものは従来存在しない。透け防止性の評価は、白台紙の上に編み物を1枚載せた状態および黒台紙の上に編み物を1枚載せた状態で測色を行い、その色差(ΔE1)および白台紙本体と黒台紙本体の色差(ΔE0)を以下の式に代入することにより算出することができる。
透け防止性(%)=100−((ΔE0−ΔE1)×100/ΔE0)
ΔE0:白色台紙本体と黒色台紙本体の色差
ΔE1:白色台紙上および黒色台紙上に編み物をそれぞれ1枚載せた状態で測色を行った時の色差
【0040】
本発明の丸編物は、SR加工及びシルケット加工を施すことができる。SR加工とは、親水性のポリエステル樹脂による表面処理であり、主にポリエステル繊維の表面を親水化することにより、油性成分の洗濯汚れ落ち性を向上する効果を有する。一般的に、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィンなどの合成繊維は、繊維表面が疎水性であるために油汚れが着きやすく、洗濯でも落ちにくい。これらを改善するために、合成繊維と親和性に優れた親水性ポリマーを用いて表面処理をする。具体的には、例えばポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合物である親水性ポリエステル樹脂の水分散溶液を用いて表面処理を実施する。表面処理の方法としては、染色同時吸尽法や染色後にパディング法またはスプレー法などの方法があるが、所定濃度以上の薬剤が付着していれば、どちらでも問題ない。また、より効果を出す必要がある場合には、これらを組み合わせることにより、さらに耐久性、洗濯汚れ落ち性がともに向上する。
【0041】
シルケット加工とは、アルカリ性浴に張力を掛けながら織編物を浸漬処理し、水洗、中和する加工である。アルカリ性浴は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどを溶解させることにより作られる。これらの浴濃度としては、水酸化ナトリウムを用いる時は3〜50重量%が好ましい。また、処理時の浴の温度は0〜100℃の範囲とし、0.2〜30秒間浸漬するのが好ましい。シルケット加工により、セルロース系繊維が膨潤し結晶系が変化し、構造安定性や染色性が向上すると同時に、繊維表面も平滑化し光沢が出てくる。その結果、洗濯汚れ落ち性も向上する。
【0042】
本発明の丸編み地は、これらの加工を実施することにより、一般的な汚れおよび皮脂などの汚れによる生地白度の低下を防ぐことができる。透け性を改善したこれらの生地は一般的に汚れや白度の低下、部分黄変が目立ちやすく、肌着などの用途ではそれらの問題が重要となる。本発明の丸編み地において、SR加工およびシルケット加工を施すことにより、ポリエステル側、綿側のいずれに対しても汚れ落ち性が改善される。肌着などを繰り返し着用した後に蓄積された皮脂汚れは黄変の原因となるが、それらに対しても効果的に改善される。
【0043】
本発明の丸編物は、酸化防止剤を0.1〜10重量%付着することができる。酸化防止剤を施すことにより、皮脂などから来る汚染物質の酸化黄変を抑制できる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤などが挙げられる。これらは、界面活性剤を配合し、水にエマルジョン化することにより、パディング法などで仕上げ工程時に付着することができる。また、同時に酢酸やリンゴ酸、クエン酸などの酸と同時に処理することにより、NOx等によるフェノール黄変も同時に抑制することができる。この場合、最終的に生地pHが4〜6になることが好ましい。酸化防止剤の付着量としては、0.1〜10重量%が好ましい。さらに好ましくは、0.2〜6重量%である。
【実施例】
【0044】
本発明の丸編物の優れた効果を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中の特性値の評価方法は以下に記載の通りである。
【0045】
<生地厚さ>
JIS−L1018−8.5.1の編地の厚さに準じて測定した。
【0046】
<目付>
JIS−L1018−8.4.2の標準状態における単位面積当りの質量に準じて測定した。
【0047】
<表編地密度>
JIS−L1018−8.8の密度に準じて測定した。
【0048】
<白度>
生地を4枚重ねにし、以下の測色条件で白度(CIE WI値)を測定した。
測色条件:測色計CM−2500d(ミノルタ製)、視野10°、D65光源使用、SCI法、CIE WI値
【0049】
<透け防止性>
白台紙の上に生地を1枚載せた状態および黒台紙の上に編み物を1枚載せた状態で測色計により測色を実施し、それぞれの色のL*値、a値、b値からその色差(ΔE1)を算出した。また、同条件で白台紙本体と、黒台紙本体の色差(ΔE0)を測定した。このとき、白台紙のL*値=96.03、a*値=−0.66、b*値=2.02、黒台紙のL*値=20.91、a*値=0.02、b*値=−0.53となり、ΔE0は75.17であった。また、生地を台紙に載せる場合、ニットループが多い面が上側になるようにした(タックの多い面を台紙に当てる)。これらΔE0、ΔE1の値から以下の式により透け防止性を算出した。
透け防止性(%)=100−((ΔE0−ΔE1)×100/ΔE0)
ΔE0:白色台紙本体と黒色台紙本体の色差
ΔE1:白色台紙上および黒色台紙上に編み物をそれぞれ1枚載せた状態で測色を行った時の色差
測色条件:測色計CM−2500d(ミノルタ製)、視野10°、D65光源使用、SCI法、測色系L*a*b*系
白台紙、黒台紙:ColorChecker(xrite社製)に用いられる、No.19white(0.05*) Hue Value/Croma N 9.5/ を白台紙として、No.25black(1.50*) Hue Value/Croma N 2/ を黒台紙として用いた。
【0050】
<黄変性>
皮脂黄変性
6cm×6cmに切り出した試料にオレイン酸100%溶液を430mg均一に塗布し、20℃65%RH環境下で1時間乾燥を行う。その後、洗濯処理をJIS−L−0217−105法(洗剤:アタック(花王製))に準じて実施し、風乾後、さらに送風定温恒温器DKM400(ヤマト科学(株)社製)に入れ、80℃環境下で3日間放置し、皮脂黄変を発現させる。その黄変度合いを堅牢度変色(汚染)用グレースケールを用いて判定した。
【0051】
耐光黄変性
JIS−L−0841の日光に対する染色堅牢度試験に準じて試料に第3露光法、および第4露光法を実施し、等級判定を行った。
【0052】
フェノール黄変性
コートルズ社のフェノール黄変テストに準じて実施し、等級判定を行った。
【0053】
<生地pH>
JIS−L−1018の付属書2(規定)の繊維製品−水抽出pHの測定に準じて測定した。
【0054】
(実施例1)
超長綿100重量%をOHARA製混綿機を用いて混綿した。その後、混綿した繊維を石川製作所製カード機を用いてカードスライバーとし、原織機製練条機に2回通して250ゲレン/6ydのスライバーとした。さらに、豊田自動織機製粗紡機に通して40ゲレン/15ydの粗糸を作成した。その後、電気開繊装置付きの豊田自動織機製リング精紡機を用いてドラフト45倍で紡出し、同時にフルダルポリエステルフィラメント33dtex36フィラメント(酸化チタン添加量1.7重量%)を精紡機のガイドを経て電極に供給し、3000Vを印加して開繊させ、ドラフトされている綿糸に重なるように供給位置を制御しつつ、トラベラ回転数10000rpmで綿番手60番手の複合糸を得た。そのときの撚係数(K)は3.8(撚数29.4T/inch)であった。交編するフルダルエステル加工糸は56dtex72フィラメント(酸化チタン添加量1.7重量%)を用いた。次いで前記複合糸と前記フルダルエステル加工糸を用い、33“−32G LIL4(福原精機製)でダンボールニット組織(図4)の丸編み生機を製編した。編成時の条件は、F1、4を220mm/100ウェル、F2、5、6を235mm/100ウェル、F3を225mm/100ウェルとした。
【0055】
次に、この丸編み生機を開反機で開き、さらに連続ヒートセッターを用いて熱セット(180℃×45秒)し、連続精練機で精練漂白を行い、さらに連続シルケット機でシルケットを実施し、その後、液流染色機を用いて、蛍光染料による染色と同時にSR加工剤による処理を実施した。
染色浴処方は以下の通りである。
染料:ハッコールBRK(昭和化学工業製) 0.2%owf
SR加工剤:SR1800(高松油脂製) 2.25%owf
染色条件:120℃×40分
【0056】
その後、脱水、乾燥し、ヒートセットにて仕上げを実施した(wpu%=100%)。
仕上げセット処方は以下の通りである。
酸化防止剤:UMIDOL APY(クラリアント製) 20g/L
SR加工剤:SR1800(高松油脂製) 20g/L
pH調整剤:リンゴ酸 10g/L
得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
表糸に綿100%の60番手を用い、表組織を鹿の子柄とし、継糸のタック率を75%にしたダンボールニット組織(図5)を作成した。表糸、表組織を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を作成した。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
表糸に綿100%の60番手、裏糸にフルダルエステル加工糸84T−72fを交編して実施例1と同編機にてタックリバース編地(図6)を編成し、同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
表糸に綿100%の60番手、裏糸にフルダルエステル加工糸84T−72fを交編して実施例1と同編機にて鹿子リバース編地(図7)を編成し、同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
表糸に綿100%の60番手を用い、継糸のタック率を84%にしたダンボールニット編地(図8)を得た。表糸、継組織を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を作成した。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例6)
以下の方法で加工を実施した以外は、実施例1と同条件で編地を得た。丸編み生機を開反機で開き、さらに連続ヒートセッターを用いて熱セット(180℃×45秒)し、連続精練機で精練漂白を行い、その後、液流染色機を用いて、蛍光染料による染色を実施した。
染色浴処方
染料:ハッコールBRK(昭和化学工業製) 0.2%owf
染色条件:120℃×40℃
【0062】
その後、脱水、乾燥し、ヒートセットにて仕上げを実施した。仕上げセット時には、薬剤は付けず、水だけを付着してセットを実施した(wpu%=100%)。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
表糸に綿100%の60番手を用い、表組織を実施例1のニットループを1/2とし、継糸のタック率を66%としたダンボールニット編地(図9)を得た。表糸、表組織を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0064】
(比較例2)
表糸に綿100%の60番手を用い、継糸のタック率を20%としたダンボールニット編地(図10)を作成した。表糸、継糸のタック率を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0065】
(比較例3)
表糸に綿100%の100番手を用いた以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0066】
(比較例4)
表糸に綿100%の40番手を用いた以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
上記の表1、表2から明らかなように、実施例1〜6は、薄くて白い編地でありながら透け防止性に極めて優れているのに対し、比較例1〜4は白い編地において薄さと透け防止性を両立できていない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の丸編地は、薄くて軽い編地において高い白度と透け防止性を併せ持つので、白いTシャツ、ポロシャツ、肌着、運動着などの衣服に好適に使用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄くて白いTシャツ、ポロシャツ、肌着、運動着などの衣服に最適な透け防止性に優れた丸編物に関するものである。また、本発明は、前記白い衣服の皮脂汚れの酸化による黄変の防止性に優れた丸編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から丸編物の天竺組織や鹿子組織などは、薄くて軽量であり、かつストレッチ性を有することから、Tシャツやポロシャツなどのシャツ類、さらには肌着、運動着などに多く使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの丸編物は薄く軽量にして作られるため、白度の高い白い生地にすると、外から容易に透けてしまうとともに、太陽光の紫外線や可視光線等を十分に遮断できないという問題があった。
【0004】
透け防止性、遮光性、遮熱性を向上させた布帛や編地としては、例えば特許文献1〜5がある。
【0005】
特許文献1では、遮光性に優れ、クッション性および通気性が高く、軽量性を有する遮光性編地が提案されている。遮光性を高める技術として、セラミック系粒子を1〜25重量%分散含有した合成繊維フィラメントを外面層に用いて、中間層に外面層のマルチフィラメントの単繊維繊度の3〜30倍の単繊維繊度を有する単繊維繊度10〜35デニールの合成繊維フィラメントで形成されている多層構造の編地が述べられている。しかし、外面層で遮光性を高める工夫はされているが、中間層ではクッション性と通気性を高めるための工夫しかされておらず、外面層を通過した光を中間層で効率良く遮光することができなかった。
【0006】
また、特許文献2では、布帛の開口率を0.3〜7%にした紫外線遮蔽性布帛が提案されている。しかし、開口率を下げる手段として、合成繊維と人造セルロース繊維を混用すること、合成繊維や人造セルロース繊維に無機酸化物微粒子を0.5〜6重量%含有させることが示されているのみであり、遮光性を高めるためにはハイゲージ編機で高密度に編むしかなかった。
【0007】
また、特許文献3では、パイルが出しやすく蒸れ難い編み組織とし、細い糸でも透けず、冷え性対策に優れた下半身衣類が提案されている。この衣類は、嵩高加工糸を引き揃えて添え編みしてタック編みし、しかも特定のコースの糸をずらせることにより糸の伸縮量差を作り、吸放湿性に優れた紡績糸を主要部の内面側にループ状に突出させて編成しており、使用する糸や編組織が限定される問題があった。
【0008】
また、特許文献4では、遮熱性を有し、しかも伸縮性がある布帛が提案されている。この布帛は、表裏両面に表目が現れた2層構造のよこ編生地であり、表層を形成する糸はコース方向に4〜8目の間隔を開けてタックされて裏層の編目とともに編まれ、該タックはウェール方向に3〜6コース毎に形成されており、前記裏層は編目と浮き編みとからなり、前記表層と裏層とは間隔を開けて点在する前記タックによってのみ繋がれており、他の部分では表層と裏層とは連結されておらず、表層の編目と裏層の編目との間に裏層の前記浮き編みが配置されている。この布帛は、表層と裏層の間に裏層の浮き糸が配置されているので遮光性が高まることが予想されるが、編地が分厚くなり、重くなってしまう問題があった。
【0009】
さらに、特許文献5では、表面と裏面で形成されるジャガード編地であって、衣類の部位に応じて編地の組織を変化させ、通気度を調節した編地が提案されている。具体的には、表面及び裏面は少なくともA糸とB糸との2種類の糸によって構成され、前記A糸とB糸とは繊度が異なる(A糸の繊度>B糸の繊度)と共に、表面においては前記A糸、B糸のうちどちらか一方の糸をニットした度目では、もう一方の糸はミス又はタックしたことを特徴とする。しかし、この編地は、通気度をコントロールしながら意匠性の編柄を得ることを目的としており、太糸に対して細糸を必ず対にして用いているため、透け防止性を高める効果は少なかった。
【0010】
以上のように、薄くて白い衣服において透け防止性、遮光性を達成した丸編物が従来提案されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−137345号公報
【特許文献2】特開2000−282345号公報
【特許文献3】特開2009−161868号公報
【特許文献4】特開2010−53496号公報
【特許文献5】特開2005−290596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、薄くて白いシャツ類や下着類などの衣服に使用しても透け防止性に優れた丸編物を提供することにある。また、本発明の目的は、かかる白い衣服の皮脂汚れの酸化による黄変を効果的に防止できる丸編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、丸編物の透ける主な原因はニット組織のループの隙間にあり、このループの隙間を埋めることによって透け防止を達成できることを見出した。そして、丸編物を表と裏の二つの層で形成し、表側の層のニット組織のループの隙間をその下の裏側の層のタック組織で埋めることによって、薄くて白い生地であっても透け防止を効果的に達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
即ち、本発明は以下の(1)〜(7)の構成を有するものである。
(1)0.5〜1.0mmの厚み及び120〜160の白度を有する、二つの層からなる丸編物において、構成層中に、ニット組織を含む表側の層と、タック組織を含む裏側の層とを連続的に含み、前記ニット組織のニードルループの隙間が前記タック組織で埋められていること、及び透け防止性が80〜100%であることを特徴とする丸編物。
(2)表側の層の編組織におけるニットループの比率が70〜100%であり、裏側の層の編組織におけるタック組織の比率が20〜80%であることを特徴とする(1)に記載の丸編物。
(3)開口遮蔽率が50〜100%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の丸編物。
(4)表編地密度が縦方向40〜60個/inch、横方向35〜60個/inchであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の丸編物。
(5)フルダル繊維の混率が30〜100%であるフルダル糸が、少なくとも片面の層を構成する糸の20〜100%を占めていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の丸編物。
(6)編物がセルロース系繊維及びポリエステル系繊維から構成され、SR加工及びシルケット加工が施されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の丸編物。
(7)酸化防止剤が付着され、生地pHが4〜7であることを特徴とする特徴とする(6)に記載の丸編物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の丸編物は、表と裏の二つの層を設け、その表側の層のニット組織のループを裏側の層のタック組織によって埋めるようにしているので、薄くて軽量で快適な丸編物の特徴を生かしながら、白い生地でも高い透け防止性、遮光性、遮熱性を達成することができる。また、本発明の丸編物は、SR加工により生地を構成する合成繊維の表面を親水化しているので、皮脂などの親油性の汚れが洗濯で落ちやすいとともに、シルケット加工により生地を構成するセルロース繊維の表面を平滑化しているので、皮脂系の汚れが付着しにくく、かかる汚れが付着しても落ちやすい。また、生地を構成する繊維の上に残ってしまった皮脂汚れの変質による黄変を酸化防止剤によって防ぐことが可能である。そのため、白く透け性に優れる生地を使用する場合に問題となりやすい黄変の問題を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1a】従来の丸編物の一般的なループ構成を示す。
【図1b】本発明の丸編物の概念の説明図を示す。
【図2】本発明の丸編物の二つの層の概念の説明図である。
【図3a】本発明の丸編物に使用されるタックリバースの組織を示す。
【図3b】本発明の丸編物に使用される鹿子リバースの組織を示す。
【図3c】本発明の丸編物に使用されるダンボールニットの組織を示す。
【図3d】本発明の丸編物に使用されるウエルトダンボールニットの組織を示す。
【図4】実施例1で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図5】実施例2で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図6】実施例3で使用したタックリバースの組織を示す。
【図7】実施例4で使用した鹿子リバースの組織を示す。
【図8】実施例5で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図9】比較例1で使用したダンボールニットの組織を示す。
【図10】比較例2で使用したダンボールニットの組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の丸編物について詳述する。
【0018】
本発明の丸編物は、薄くて白い、Tシャツ、ポロシャツ、肌着、運動着等に使用されるものであり、従って0.5〜1.0mmの厚さ及び120〜160の白度を有するものを対象とする。本発明の丸編物は、好ましくは厚さ0.6〜0.9mmであり、白度130〜160である。丸編物の厚さが上記下限未満では、生地が薄く下着が透けやすくなり、また、上記上限を越えると、肉厚となってしまい下着として嵩張ってしまうため、好ましくない。また、白度が上記範囲から逸脱すると、透け防止性は良くなるが、本発明の白い商品としての価値が低下するため、好ましくない。
【0019】
本発明の丸編物の最大の特徴は、表側の層のニット組織のループの隙間を図1bのように裏側の層のタック組織で埋めて透けを防止することにある。この特徴を図1で説明する。図1aは従来の丸編物の一般的なループ構成を示し、図1bは本発明の丸編物の概念の説明図を示す。従来の丸編物は、図1aに示すように、ニット組織のループ間に隙間があり、生地が薄いとこの隙間を通してその下の下着が容易に透けて見えてしまう。一方、本発明の丸編物は、図1bに示すように、ニットループ組織のループ間の隙間を裏側の層のタック組織で埋めているので、生地が薄かったり、白かったりしても下着が透けて見えることがほとんどない。
【0020】
本発明の丸編物は、表側の層とその層に連続する裏側の層とからなる。本発明の表側の層、裏側の層の概念を図2を用いて説明をする。表側の層は、図2の(イ)、(ロ)ともにA層で示されるものであり、生地表面にニット組織を構成する糸からなる。裏側の層は、(イ)ではA層と連結したB層で示されるものであり、(ロ)ではA層とB層を連結する糸が単独で存在するC層とB層で示されるものである。
【0021】
本発明の丸編物は、二層からなり、例えば図3a〜図3dにそれぞれ示されるようなタックリバース、鹿子リバース、ダンボールニットまたはウエルトダンボールニットなどの組織が使用される。
【0022】
タックリバース組織は、図3aに示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F1で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側の層を構成する糸がF1のシリンダー針1でタック組織として編まれて連結する。
【0023】
鹿子リバース組織は、図3bに示すように、F2、3、5、6で編まれた糸が表側の層となり、F1、4で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側を構成する糸がF1のシリンダー針1でタック組織として編まれて連結する。
【0024】
ダンボールニット組織は、図3cに示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F1、3で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側を構成する糸がF1のシリンダー針1にタック組織として編まれて連結する。また、F3のダイヤル針1でニット組織を編んだ裏側の層を構成する糸に同じく裏側を構成する糸がF1のダイヤル針1でタック組織として編まれて連結する。
【0025】
ウエルトダンボールニット組織は、図3dに示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F1、3で編まれた糸が裏側の層を構成する。組織としては、F2のシリンダー針3、5でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に裏側を構成する糸がF1のシリンダー針3、5にタック組織として編まれて連結する。また、F3のダイヤル針1、3でニット組織を編んだ裏側の層を構成する糸に同じく裏側を構成する糸がF1のダイヤル針1、3にタック組織として編まれて連結する。
【0026】
本発明の丸編物の表側の層におけるニット組織(ニットループ)の割合は、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、更に好ましくは100%である。ニット組織の割合が上記下限未満になると、表側の一部ループが大きくなり、透け防止性が劣る。また、本発明の丸編物の裏側の層におけるタック組織の割合は、好ましくは20〜80%、より好ましくは50〜80%である。タック組織の割合が上記下限未満になると、表側のループの隙間を埋めきれず、透け防止性が劣り、上記上限を超えると、製編性が困難となり、編地を構成しずらくなる。
【0027】
本発明の丸編物の開孔遮蔽率は、50〜100%が好ましく、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは75〜100%である。開孔遮蔽率が上記下限未満であると、ループの隙間を十分に埋めきれず、透け防止性が劣る。開孔遮蔽率は、表側の層のニットループの全数に対する、表側の層のニットループの隙間を裏側の層のタック組織で埋めているニットループの数の割合を意味し、式で表わすと以下のようになる。
開孔遮蔽率(%)=(表側の層のニットループの隙間を裏側の層のタック組織で埋めているループの数/表側の層のニットループの全数)×100
【0028】
本発明の丸編物の表側の層のニット組織の構成比率と裏側の層のタック組織の構成比率と開孔遮蔽率を図3a〜図3dの組織で以下に具体的に説明する。
【0029】
タックリバース組織では、図3aに示すように、表側の層を構成する糸はF2のみで編まれ、シリンダー針1〜4の計4針でニット組織を編んでいるため、表側の層のニット組織の構成比率は4/4で100%になる。裏側の層を構成する糸はF1のみで編まれ、ダイヤル針1〜4の4針がニット組織、シリンダー針1〜4の4針がタック組織として編まれているため、裏側の層のタック組織の構成比率は4/8となり50%になる。表側の層のニットループはF2のシリンダー針1〜4の4針で全て構成され、そのニットループの隙間を埋める裏側の層のタック組織はF1のシリンダー針1〜4の4針になる。そのため開孔遮蔽率は4/4となり100%になる。
【0030】
鹿子リバース組織では、図3bに示すように、表側の層を構成する糸はF2、3、5、6で編まれ、F2、5のシリンダー針1〜4とF3のシリンダー針2、4とF6のシリンダー針1、3の計12針がニット組織で編まれ、F3のシリンダー針1、3とF6のシリンダー針2、4の計4針がタック組織で編まれているため、表側の層のニット組織の構成比率は12/16で75%になる。裏側の層を構成する糸はF1、4で編まれ、F1、4のダイヤル針1〜4の計8針がニット組織、シリンダー針1〜4の計8針がタック組織として編まれているため、裏側の層のタック組織の構成比率は8/16となり50%になる。表側の層のニットループは上記の通りF2、5のシリンダー針1〜4とF3のシリンダー針2、4とF6のシリンダー針1、3の計12針で構成され、そのうち、F2、5のシリンダー針1〜4の計8針が、裏側の層のF1、4のシリンダー針1〜4のタック組織によりニットループの隙間を埋められている。そのため開孔遮蔽率は8/12となり67%になる。
【0031】
ダンボールニット組織では、図3cに示すように、表側の層を構成する糸はF2のみで編まれ、シリンダー針1〜4の計4針でニット組織を編んでいるため、表側の層のニット組織の構成比率は4/4で100%になる。裏側の層を構成する糸はF1、3で編まれ、F1ではシリンダー針1〜4、ダイヤル針1〜4の計8針がタック組織で編まれ、F3はダイヤル針1〜4の4針がニット組織で編まれている。このため裏側の層のタック組織の構成比率は8/12となり67%になる。表側の層のニットループはF2のシリンダー針1〜4の4針で全て構成され、そのニットループの隙間を埋める裏側の層のタック組織はF1のシリンダー針1〜4の4針になる。そのため開孔遮蔽率は4/4となり100%になる。
【0032】
ウエルトダンボールニット組織では、図3dに示すように、表側の層を構成する糸はF2で編まれ、シリンダー針1〜5の計5針でニット組織を編んでいるため、表側の層のニット組織の構成比率は5/5で100%になる。裏側の層を構成する糸はF1、3で編まれ、F1ではシリンダー針3、5とダイヤル針1,3の計4針がタック組織で編まれ、F1のシリンダー針4とダイヤル針2の計2針がウエル組織として編まれている。F3はダイヤル針1〜5の計5針がニット組織で編まれている。このため、裏側の層のタック組織の構成比率は4/11となり36%になる。表側の層のニットループはF2のシリンダー針1〜5の5針で全て構成されるが、ニットループの隙間を埋める裏側のタック組織はF1のシリンダー針3、5の2針になる。そのため開孔遮蔽率は2/5となり40%になる。
【0033】
本発明の丸編物に用いる素材としては、綿、麻、羊毛のような天然繊維、レーヨン、リヨセル、キュプラ、アセテートに代表されるセルロース系再生繊維や半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリルのような合成繊維等の有機繊維が挙げられる。繊維断面は丸断面以外にも、三角以上の多角形、Y、X形状等の多葉断面、I、W形状、アレイ型等の扁平断面、中空等の断面形態が用いられる。繊維の形態としては、長繊維でも短繊維でもそれらの混合物でも構わない。長繊維として用いる場合、生糸でもよいし、仮撚加工やエアー交絡、カバーリング等の糸加工を施しても良い。短繊維を紡績する方法としては、リング紡積やオープンエンドや村田ボルテックススピナー(MVS)等の空気紡績等の一般的な紡績方法を用いればよいが、薄地の丸編物の外観品位を良くするためリング紡績が好ましい。また、コアスパンヤーンや精紡交撚等の方法を用いて長短複合紡績糸にしたり、紡績糸に長繊維を被覆したカバーリング糸にしてもよい。
【0034】
本発明の丸編物は、表層と裏層の二層のうち少なくとも一層がフルダル繊維を含有する糸で構成されることが好ましい。さらには、裏側の層にフルダル繊維を含有する糸を使用することが好ましい。また、フルダル繊維を含有する糸の構成比率は、表側の層、裏側の層の少なくとも一方の層を構成する糸の20〜100%を占めていることが好ましい。より好ましくは50〜100%である。構成比率が上記下限未満になると、フルダル効果による透け防止性が劣ってしまう。
【0035】
ここでフルダル繊維とは、二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化珪素などの艶消剤を多く含む繊維をいう。本発明では、これらの艶消剤を、繊維を構成する重合体に対し1.3〜3重量%程度混合することが好ましい。例えば、紡糸する前のレジンやドープに上記艶消し剤を練り込んでから紡糸したポリエステル、ナイロン、レーヨン等のフルダル繊維が例示される。本発明では、フルダルのポリエステル長繊維、ポリアミド長繊維や、フルダル短繊維のみで紡績したフルダル繊維100%の糸を編込んで用いてもよいが、フルダル短繊維を通常の短繊維と混紡したり、フルダル長繊維を通常の短繊維と複合紡績する等してフルダル繊維を含む糸(フルダル糸)にして用いてもよい。本発明では、フルダル糸は、フルダル繊維の混率が30%以上であることが好ましい。このようなフルダル糸を裏側の層のタック組織を構成する糸として使用することにより、表側の層のニットループの隙間を通り抜けた光線を遮蔽して透け防止効果をさらに向上することができる。また、表側のニットループを構成する糸をフルダル繊維を含有する糸にすることにより、ニット組織内は繊維間に入り込んだ皮脂や汚れが変色しても目立たなくすることができる。
【0036】
本発明の丸編物に使用する糸の繊度は、紡績糸であれば英式番手80/1(80番単糸)〜40/1が好ましい。より好ましくは50/1〜60/1である。長繊維であれば30〜170dtexが好ましい。より好ましくは50〜80dtexである。紡績糸で80/1,長繊維で30dtexより細い糸では、透け感が高くなりやすい。また、紡績糸で40/1、長繊維で170dtexより太い糸は、生地が分厚くなり、本発明のような薄い編地になりにくい。
【0037】
本発明の丸編物は、表編地密度が縦方向40〜60個/inch、横方向35〜60個/inchであることが好ましい。表編地密度が上記下限未満になると、本発明の透け防止を達成することができなくなり、上記上限を越えると、生地が重くなり、快適性を著しく損なう可能性がある。
【0038】
本発明の丸編物は、目付が120〜250g/m2であることが好ましく、さらに好ましくは150〜200g/m2である。目付が上記上限を超えると、生地が分厚くなり、本発明のような薄い生地にならず、上記下限未満になると、密度が粗くなって隙間が多くなったり、糸が細すぎて透けやすくなる傾向にある。
【0039】
上記のようにして構成された本発明の丸編物は、透け防止性評価が80〜100%、さらには85〜100%を達成することができる。本発明の丸編物のように薄い厚みと高い白度の条件で快適性を維持しながらこのように極めて高い透け防止性を達成したものは従来存在しない。透け防止性の評価は、白台紙の上に編み物を1枚載せた状態および黒台紙の上に編み物を1枚載せた状態で測色を行い、その色差(ΔE1)および白台紙本体と黒台紙本体の色差(ΔE0)を以下の式に代入することにより算出することができる。
透け防止性(%)=100−((ΔE0−ΔE1)×100/ΔE0)
ΔE0:白色台紙本体と黒色台紙本体の色差
ΔE1:白色台紙上および黒色台紙上に編み物をそれぞれ1枚載せた状態で測色を行った時の色差
【0040】
本発明の丸編物は、SR加工及びシルケット加工を施すことができる。SR加工とは、親水性のポリエステル樹脂による表面処理であり、主にポリエステル繊維の表面を親水化することにより、油性成分の洗濯汚れ落ち性を向上する効果を有する。一般的に、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィンなどの合成繊維は、繊維表面が疎水性であるために油汚れが着きやすく、洗濯でも落ちにくい。これらを改善するために、合成繊維と親和性に優れた親水性ポリマーを用いて表面処理をする。具体的には、例えばポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合物である親水性ポリエステル樹脂の水分散溶液を用いて表面処理を実施する。表面処理の方法としては、染色同時吸尽法や染色後にパディング法またはスプレー法などの方法があるが、所定濃度以上の薬剤が付着していれば、どちらでも問題ない。また、より効果を出す必要がある場合には、これらを組み合わせることにより、さらに耐久性、洗濯汚れ落ち性がともに向上する。
【0041】
シルケット加工とは、アルカリ性浴に張力を掛けながら織編物を浸漬処理し、水洗、中和する加工である。アルカリ性浴は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどを溶解させることにより作られる。これらの浴濃度としては、水酸化ナトリウムを用いる時は3〜50重量%が好ましい。また、処理時の浴の温度は0〜100℃の範囲とし、0.2〜30秒間浸漬するのが好ましい。シルケット加工により、セルロース系繊維が膨潤し結晶系が変化し、構造安定性や染色性が向上すると同時に、繊維表面も平滑化し光沢が出てくる。その結果、洗濯汚れ落ち性も向上する。
【0042】
本発明の丸編み地は、これらの加工を実施することにより、一般的な汚れおよび皮脂などの汚れによる生地白度の低下を防ぐことができる。透け性を改善したこれらの生地は一般的に汚れや白度の低下、部分黄変が目立ちやすく、肌着などの用途ではそれらの問題が重要となる。本発明の丸編み地において、SR加工およびシルケット加工を施すことにより、ポリエステル側、綿側のいずれに対しても汚れ落ち性が改善される。肌着などを繰り返し着用した後に蓄積された皮脂汚れは黄変の原因となるが、それらに対しても効果的に改善される。
【0043】
本発明の丸編物は、酸化防止剤を0.1〜10重量%付着することができる。酸化防止剤を施すことにより、皮脂などから来る汚染物質の酸化黄変を抑制できる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤などが挙げられる。これらは、界面活性剤を配合し、水にエマルジョン化することにより、パディング法などで仕上げ工程時に付着することができる。また、同時に酢酸やリンゴ酸、クエン酸などの酸と同時に処理することにより、NOx等によるフェノール黄変も同時に抑制することができる。この場合、最終的に生地pHが4〜6になることが好ましい。酸化防止剤の付着量としては、0.1〜10重量%が好ましい。さらに好ましくは、0.2〜6重量%である。
【実施例】
【0044】
本発明の丸編物の優れた効果を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中の特性値の評価方法は以下に記載の通りである。
【0045】
<生地厚さ>
JIS−L1018−8.5.1の編地の厚さに準じて測定した。
【0046】
<目付>
JIS−L1018−8.4.2の標準状態における単位面積当りの質量に準じて測定した。
【0047】
<表編地密度>
JIS−L1018−8.8の密度に準じて測定した。
【0048】
<白度>
生地を4枚重ねにし、以下の測色条件で白度(CIE WI値)を測定した。
測色条件:測色計CM−2500d(ミノルタ製)、視野10°、D65光源使用、SCI法、CIE WI値
【0049】
<透け防止性>
白台紙の上に生地を1枚載せた状態および黒台紙の上に編み物を1枚載せた状態で測色計により測色を実施し、それぞれの色のL*値、a値、b値からその色差(ΔE1)を算出した。また、同条件で白台紙本体と、黒台紙本体の色差(ΔE0)を測定した。このとき、白台紙のL*値=96.03、a*値=−0.66、b*値=2.02、黒台紙のL*値=20.91、a*値=0.02、b*値=−0.53となり、ΔE0は75.17であった。また、生地を台紙に載せる場合、ニットループが多い面が上側になるようにした(タックの多い面を台紙に当てる)。これらΔE0、ΔE1の値から以下の式により透け防止性を算出した。
透け防止性(%)=100−((ΔE0−ΔE1)×100/ΔE0)
ΔE0:白色台紙本体と黒色台紙本体の色差
ΔE1:白色台紙上および黒色台紙上に編み物をそれぞれ1枚載せた状態で測色を行った時の色差
測色条件:測色計CM−2500d(ミノルタ製)、視野10°、D65光源使用、SCI法、測色系L*a*b*系
白台紙、黒台紙:ColorChecker(xrite社製)に用いられる、No.19white(0.05*) Hue Value/Croma N 9.5/ を白台紙として、No.25black(1.50*) Hue Value/Croma N 2/ を黒台紙として用いた。
【0050】
<黄変性>
皮脂黄変性
6cm×6cmに切り出した試料にオレイン酸100%溶液を430mg均一に塗布し、20℃65%RH環境下で1時間乾燥を行う。その後、洗濯処理をJIS−L−0217−105法(洗剤:アタック(花王製))に準じて実施し、風乾後、さらに送風定温恒温器DKM400(ヤマト科学(株)社製)に入れ、80℃環境下で3日間放置し、皮脂黄変を発現させる。その黄変度合いを堅牢度変色(汚染)用グレースケールを用いて判定した。
【0051】
耐光黄変性
JIS−L−0841の日光に対する染色堅牢度試験に準じて試料に第3露光法、および第4露光法を実施し、等級判定を行った。
【0052】
フェノール黄変性
コートルズ社のフェノール黄変テストに準じて実施し、等級判定を行った。
【0053】
<生地pH>
JIS−L−1018の付属書2(規定)の繊維製品−水抽出pHの測定に準じて測定した。
【0054】
(実施例1)
超長綿100重量%をOHARA製混綿機を用いて混綿した。その後、混綿した繊維を石川製作所製カード機を用いてカードスライバーとし、原織機製練条機に2回通して250ゲレン/6ydのスライバーとした。さらに、豊田自動織機製粗紡機に通して40ゲレン/15ydの粗糸を作成した。その後、電気開繊装置付きの豊田自動織機製リング精紡機を用いてドラフト45倍で紡出し、同時にフルダルポリエステルフィラメント33dtex36フィラメント(酸化チタン添加量1.7重量%)を精紡機のガイドを経て電極に供給し、3000Vを印加して開繊させ、ドラフトされている綿糸に重なるように供給位置を制御しつつ、トラベラ回転数10000rpmで綿番手60番手の複合糸を得た。そのときの撚係数(K)は3.8(撚数29.4T/inch)であった。交編するフルダルエステル加工糸は56dtex72フィラメント(酸化チタン添加量1.7重量%)を用いた。次いで前記複合糸と前記フルダルエステル加工糸を用い、33“−32G LIL4(福原精機製)でダンボールニット組織(図4)の丸編み生機を製編した。編成時の条件は、F1、4を220mm/100ウェル、F2、5、6を235mm/100ウェル、F3を225mm/100ウェルとした。
【0055】
次に、この丸編み生機を開反機で開き、さらに連続ヒートセッターを用いて熱セット(180℃×45秒)し、連続精練機で精練漂白を行い、さらに連続シルケット機でシルケットを実施し、その後、液流染色機を用いて、蛍光染料による染色と同時にSR加工剤による処理を実施した。
染色浴処方は以下の通りである。
染料:ハッコールBRK(昭和化学工業製) 0.2%owf
SR加工剤:SR1800(高松油脂製) 2.25%owf
染色条件:120℃×40分
【0056】
その後、脱水、乾燥し、ヒートセットにて仕上げを実施した(wpu%=100%)。
仕上げセット処方は以下の通りである。
酸化防止剤:UMIDOL APY(クラリアント製) 20g/L
SR加工剤:SR1800(高松油脂製) 20g/L
pH調整剤:リンゴ酸 10g/L
得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
表糸に綿100%の60番手を用い、表組織を鹿の子柄とし、継糸のタック率を75%にしたダンボールニット組織(図5)を作成した。表糸、表組織を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を作成した。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
表糸に綿100%の60番手、裏糸にフルダルエステル加工糸84T−72fを交編して実施例1と同編機にてタックリバース編地(図6)を編成し、同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
表糸に綿100%の60番手、裏糸にフルダルエステル加工糸84T−72fを交編して実施例1と同編機にて鹿子リバース編地(図7)を編成し、同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
表糸に綿100%の60番手を用い、継糸のタック率を84%にしたダンボールニット編地(図8)を得た。表糸、継組織を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を作成した。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例6)
以下の方法で加工を実施した以外は、実施例1と同条件で編地を得た。丸編み生機を開反機で開き、さらに連続ヒートセッターを用いて熱セット(180℃×45秒)し、連続精練機で精練漂白を行い、その後、液流染色機を用いて、蛍光染料による染色を実施した。
染色浴処方
染料:ハッコールBRK(昭和化学工業製) 0.2%owf
染色条件:120℃×40℃
【0062】
その後、脱水、乾燥し、ヒートセットにて仕上げを実施した。仕上げセット時には、薬剤は付けず、水だけを付着してセットを実施した(wpu%=100%)。得られた編地の詳細と評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
表糸に綿100%の60番手を用い、表組織を実施例1のニットループを1/2とし、継糸のタック率を66%としたダンボールニット編地(図9)を得た。表糸、表組織を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0064】
(比較例2)
表糸に綿100%の60番手を用い、継糸のタック率を20%としたダンボールニット編地(図10)を作成した。表糸、継糸のタック率を変更した以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0065】
(比較例3)
表糸に綿100%の100番手を用いた以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0066】
(比較例4)
表糸に綿100%の40番手を用いた以外は、実施例1と同じ条件で編地を得た。得られた編地の詳細と評価結果を表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
上記の表1、表2から明らかなように、実施例1〜6は、薄くて白い編地でありながら透け防止性に極めて優れているのに対し、比較例1〜4は白い編地において薄さと透け防止性を両立できていない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の丸編地は、薄くて軽い編地において高い白度と透け防止性を併せ持つので、白いTシャツ、ポロシャツ、肌着、運動着などの衣服に好適に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5〜1.0mmの厚み及び120〜160の白度を有する、二つの層からなる丸編物において、構成層中に、ニット組織を含む表側の層と、タック組織を含む裏側の層とを連続的に含み、前記ニット組織のニードルループの隙間が前記タック組織で埋められていること、及び透け防止性が80〜100%であることを特徴とする丸編物。
【請求項2】
表側の層の編組織におけるニットループの比率が70〜100%であり、裏側の層の編組織におけるタック組織の比率が20〜80%であることを特徴とする請求項1に記載の丸編物。
【請求項3】
開口遮蔽率が50〜100%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の丸編物。
【請求項4】
表編地密度が縦方向40〜60個/inch、横方向35〜60個/inchであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の丸編物。
【請求項5】
フルダル繊維の混率が30〜100%であるフルダル糸が、少なくとも片面の層を構成する糸の20〜100%を占めていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の丸編物。
【請求項6】
編物がセルロース系繊維及びポリエステル系繊維から構成され、SR加工及びシルケット加工が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の丸編物。
【請求項7】
酸化防止剤が付着され、生地pHが4〜7であることを特徴とする特徴とする請求項6に記載の丸編物。
【請求項1】
0.5〜1.0mmの厚み及び120〜160の白度を有する、二つの層からなる丸編物において、構成層中に、ニット組織を含む表側の層と、タック組織を含む裏側の層とを連続的に含み、前記ニット組織のニードルループの隙間が前記タック組織で埋められていること、及び透け防止性が80〜100%であることを特徴とする丸編物。
【請求項2】
表側の層の編組織におけるニットループの比率が70〜100%であり、裏側の層の編組織におけるタック組織の比率が20〜80%であることを特徴とする請求項1に記載の丸編物。
【請求項3】
開口遮蔽率が50〜100%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の丸編物。
【請求項4】
表編地密度が縦方向40〜60個/inch、横方向35〜60個/inchであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の丸編物。
【請求項5】
フルダル繊維の混率が30〜100%であるフルダル糸が、少なくとも片面の層を構成する糸の20〜100%を占めていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の丸編物。
【請求項6】
編物がセルロース系繊維及びポリエステル系繊維から構成され、SR加工及びシルケット加工が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の丸編物。
【請求項7】
酸化防止剤が付着され、生地pHが4〜7であることを特徴とする特徴とする請求項6に記載の丸編物。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−67404(P2012−67404A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211953(P2010−211953)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(508179545)東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(508179545)東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
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