説明

透光性セラミックスの製造方法および光学素子

【課題】 高屈折率低分散の光学特性を有する透光性セラミックスの製造方法およびその製造方法により得られた透光性セラミックスからなる光学素子を提供する。
【解決手段】 LaAl(2−x)(xは0.75≦x≦0.80を表す。)から成る結晶粒子の成形体を1650℃以上1800℃以下で焼結する工程を有する透光性セラミックスの製造方法。前記製造方法により得られた透光性セラミックスからなる光学素子。前記透光性セラミックスの屈折率が2.00以上、アッべ数が35以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性セラミックスの製造方法および光学素子に関し、特にレンズ等に使用される高精度な光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラを始めとするカメラの生産量が増し、より高性能の光学レンズが要求されており、中でも高屈折率低分散の光学材料が必要となってきている。LaAlO結晶は、従来の光学ガラスには無い高屈折率低分散の性能を有しているが、これまでに光学レンズとして実用化された例はない。
【0003】
結晶材料を用いて光学レンズを作製するには2つの構造形体が考えられる。ひとつは単結晶、もうひとつは微細な結晶粒を焼結した多結晶体(以下、セラミックスと称す。)である。
【0004】
単結晶は、高い透過率を有するが、単結晶の製造には融点以上、例えばLaAlOの場合であれば2000℃以上の耐熱性を持つ特殊な装置が必要となる。更に装置1台から取れる個数も少ない上、結晶成長に時間を要するため製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
一方のセラミックスは、気孔、粒界、不純物によって透過率の低下が生じたり、レンズ形状に加工する際に粒子が欠落することによりレンズ表面に欠陥が生じたりして、良好な光学レンズが得られにくいという問題があった。
【0006】
光学部品材料としての透光性セラミックスとしては、特許文献1に記載されているLnAl[x+y]×1.5系(Lnは希土類族元素、xは1≦x≦10、yは1≦y≦5を表す)のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−85736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
透光性セラミックスを作製するには、散乱の原因となる気孔を十分に排除して粉末充填率を100%に近づける必要がある。しかしながら、菱面体構造を有するLaAlO結晶から成るセラミックスは、焼結中に気孔や粒界が残りやすいために散乱が多く、透過率の高いものを得るのが難しかった。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、高屈折率低分散の光学特性を有する透光性セラミックスの製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明は、上記の製造方法により得られた透光性セラミックスからなる光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する透光性セラミックスの製造方法は、LaAl(2−x)(xは0.75≦x≦0.80を表す。)から成る結晶粒子の成形体を1650℃以上1800℃以下で焼結する工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の製造方法により得られた透光性セラミックスからなることを特徴とする光学素子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高屈折率低分散の光学特性を有する透光性セラミックスの製造方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られた透光性セラミックスからなる光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る透光性セラミックスの製造方法は、LaAl(2−x)(xは0.75≦x≦0.80を表す。)から成る結晶粒子の成形体を1650℃以上1800℃以下で焼結する工程を有することを特徴とする。本発明の製造方法により得られた透光性セラミックスは、高屈折率低分散の光学特性を有する。
【0017】
また、本発明は、上記の製造方法により得られた透光性セラミックスからなる、高屈折率低分散の光学特性を有する光学素子を提供することを特徴とする。
【0018】
本発明の光学素子は、例えば光学系に用いられるレンズ、プリズムなどが挙げられる。
【0019】
本発明に係る透光性セラミックスの製造方法について説明する。
【0020】
まず、光学グレードの酸化物粉末を用いて、プラズマ溶融などの方法により、平均粒径が10μm以下の球状のLaAl(2−x)(xは0.75≦x≦0.80を表す)結晶粒子を作製する。
【0021】
酸化物粉末には、LaとAlの酸化物を用いるのが好ましい。LaAl(2−x)において、xは0.75≦x≦0.80である。
【0022】
本発明におけるLaAl(2−x)は、LaAlOよりもAlを多く含む組成からなる。Alを多く含む組成にしているのは、結晶構造を立方晶に近づけて降温過程における立方晶から菱面体晶への相転移が起きないようにするためである。構造変化を抑えることで結晶粒界は低減する。
【0023】
次に、結晶粒子の成形体を1650℃以上1800℃以下で焼結する工程を行う。具体的には、球状の結晶粒子を、放電プラズマ焼結法により加圧しながら1650℃以上1800℃以下で焼結する。また、結晶粒子を型に充填し、加圧下で1650℃以上1800℃以下で焼結を行うのが好ましい。
【0024】
焼結により得られた焼結体を900℃以上1300℃以下の温度でアニールした後、研削、研磨工程を経て、透光性セラミックスを得る。透光性セラミックスは、光学レンズ等の光学素子とする。
【0025】
放電プラズマ焼結法などによる焼結温度は、1650℃以上1800℃以下、好ましくは1700℃以上1750℃以下が望ましい。1650℃より低い温度では粒成長が進まないため透光性が得られず、1800℃より高くなると材料の多くが揮発したり焼結型に融着して破損したりする。
【0026】
透光性セラミックスの屈折率は2.00以上、アッべ数は35以上である。透光性セラミックスの透光性は、バリアン社製分光光度計CARY4Gで測定した透過率により確認することができる。
【実施例】
【0027】
以下、透光性セラミックスの製造方法の実施例を示して、本発明を具体的に説明する。表1には、製造条件、製造したセラミックスを示す。
【0028】
<測定方法>
(1)屈折率
屈折率は、エリプソメーター(商品名「M−2000」、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社)を用いて波長587nmで測定して求めた値(nd)を示す。
(2)アッべ数
アッべ数は、エリプソメーターを用いて、波長587nm、486nm、656nmの屈折率nd,nF,nCを求め、アッべ数νdをνd=(nd−1)/(nF−nC)の式で求めた値を示す。
【0029】
実施例1
純度99.9%以上のLaとAlの酸化物原料を用意し、La0.75Al1.25の比率になるように原料を調整、混合する。この混合原料を反応させるため1500℃で4時間処理した後、ボールミルで粉砕する。粉砕した粉末を熱プラズマ中に導入し、加熱、溶融した後に冷却して平均粒径が2μmの球状粒子に加工する。
【0030】
球状粒子をグラファイトからなる型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1750℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させる。この時、最高温度に到達するまでの昇温速度は40℃/分以上、最高温度での保持時間は30分とした。最高温度での保持時間は3分以上60分以下が好ましい。焼結手段については上記条件で焼結できる方法であれば何を用いてもよいが、今回の実験では放電プラズマ焼結を用いた。
【0031】
得られた透光性の焼結体に900℃、1時間以上のアニールを施した後、研削、研磨すして厚さ1mmの光学素子とした。光学素子の屈折率およびアッべ数は、それぞれ2.04と35であった。また、光学素子の透光性は、バリアン社製分光光度計CARY4Gで測定した透過率により確認した。
【0032】
実施例2
実施例1と同様の方法で、La0.80Al1.20の球状粒子を作製する。球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1750℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0033】
得られた透光性の焼結体に900℃、1時間以上のアニールを施した後、研削、研磨して厚さ1mmの光学素子とした。得られた光学素子の屈折率、アッべ数はそれぞれ2.04と36であった。また、光学素子の透光性は、バリアン社製分光光度計CARY4Gで測定した透過率により確認した。
【0034】
比較例1
実施例1と同様の方法で、La0.88Al1.12の球状粒子を作製する。球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1750℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0035】
得られた透光性の焼結体に900℃、1時間以上のアニールを施した後、研削、研磨して厚さ1mmの光学素子とした。得られた光学素子は気孔が残存しているため光学素子としての使用には不適切であった。
【0036】
比較例2
実施例1と同様の方法で、LaAlOの球状粒子を作製する。球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1200℃または1750℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0037】
得られた透光性の焼結体に900℃、1時間以上のアニールを施した後、研削、研磨して厚さ1mmの光学素子とした。得られた光学素子は気孔が残存しているため光学素子としての使用には不適切であった。
【0038】
実施例3
実施例1と同様の方法で、La0.75Al1.25の球状粒子を作製する。球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1650℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0039】
得られた透光性の焼結体に900℃、1時間以上のアニールを施した後、研削、研磨して厚さ1mmの光学素子とした。得られた光学素子の屈折率、アッべ数は実施例1と同様であった。また、光学素子の透光性は、バリアン社製分光光度計CARY4Gで測定した透過率により確認した。
【0040】
実施例4
実施例1と同様の方法で、La0.75Al1.25の球状粒子を作製する。
球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1800℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0041】
得られた透光性の焼結体に900℃、1時間以上のアニールを施した後、研削、研磨して厚さ1mmの光学素子とした。得られた光学素子の屈折率、アッべ数は実施例1と同様であった。また、光学素子の透光性は、バリアン社製分光光度計CARY4Gで測定した透過率により確認した。
【0042】
比較例3
実施例1と同様の方法で、La0.75Al1.25の球状粒子を作製する。球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1250℃または1600℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0043】
得られた焼結体は焼結温度が低いため気孔が多数残存し、光学素子としての使用には不適切であった。
【0044】
比較例4
実施例1と同様の方法で、La0.75Al1.25の球状粒子を作製する。球状粒子を型に充填し、真空または窒素雰囲気の下、最高温度1850℃、圧力1MPa以上の圧力で焼結させた。
【0045】
得られた焼結体は焼結温度が高いため型に融着して破損してしまい、光学素子としての使用には不適切であった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法により得られた透光性セラミックスは高屈折率低分散の光学特性を有するので、光学系に用いられるレンズ、プリズムなどの光学素子に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaAl(2−x)(xは0.75≦x≦0.80を表す。)から成る結晶粒子の成形体を1650℃以上1800℃以下で焼結する工程を有することを特徴とする透光性セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記結晶粒子を型に充填し、加圧下で1650℃以上1800℃以下で焼結することを特徴とする請求項1に記載の透光性セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記透光性セラミックスの屈折率が2.00以上、アッべ数が35以上であることを特徴とする請求項1または2記載の透光性セラミックスの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法により得られた透光性セラミックスからなることを特徴とする光学素子。

【公開番号】特開2012−218974(P2012−218974A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86142(P2011−86142)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】