透光性セラミック
【課題】高い屈折率とともに高い発光効率を有する透光性セラミックを提供する。
【解決手段】 ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有する透光性セラミックであり、希土類元素RがAサイトに含まれる。
【解決手段】 ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有する透光性セラミックであり、希土類元素RがAサイトに含まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には透光性セラミックに関し、特定的には光学部品として有用な蛍光特性を有する透光性セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学部品の材料としてガラス、プラスチック等が用いられている。また、近年、光学部品を用いた光学素子または光学装置には、益々小型化、薄型化が要求されている。しかし、ガラスやプラスチックは屈折率が低いので、これらの材料を用いて光学部品を構成した場合、光学部品を小型化または薄型化するには限界がある。
【0003】
このため、光学部品のさらなる小型化、薄型化を実現するために、高い屈折率を有する透光性セラミックの組成が、たとえば、特開2004−75512号公報(以下、特許文献1という)で提案されている。
【0004】
具体的には、特許文献1に記載された透光性セラミックの組成は、Ba{(Sn,Zr),Mg,Ta}O3系の化合物で、屈折率が2.0以上、直線透過率が20%以上で、複屈折を生じないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−75512号公報
【発明の概要】
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された透光性セラミックの組成では、屈折率が高いが、発光効率が十分でないため、光学部品として有用な蛍光特性を有する透光性セラミックを得ることができない。このため、特許文献1に開示された透光性セラミックは、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の一例として、たとえば、光増幅器に適用することができない。
【0008】
そこで、この発明の目的は、高い屈折率とともに高い発光効率を有する透光性セラミックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従った透光性セラミックは、ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有し、希土類元素RがAサイトに含まれることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の透光性セラミックにおいては、BがMg、Zn、Y、Al、Zr、Sn、Ti、Hf、Ta、Nbから選ばれる少なくとも一種を含むことも好ましい。より好ましくは、ABO3がBa(Zr,Mg,Ta)O3系である。
【0011】
さらに、本発明の透光性セラミックにおいては、希土類元素Rの含有量が、ABO3100モル部に対し、0.1〜10モル部であることが好ましい。特に好ましくは、RはNdである。
【0012】
また、本発明は、本発明の透光性セラミックを用いた発光素子および発光装置にも向けられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透光性セラミックは、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料に適用することができ、光学部品を用いた光学素子または光学装置の小型化や薄型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料について吸収係数を算出した例を示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルを測定するために励起光源として用いられたレーザーダイオードのスペクトル分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルを測定するための装置の概略的な構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例において測定した、Ba、Zr、Taの動径分布関数である。
【図6】本発明の実施例において測定した、Ndの動径分布関数である。
【図7】従来文献より引用した、各化合物における、Bサイト元素のイオン半径と、化合物の格子定数との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例の試料における、Bサイト元素のイオン半径と、XRD測定より求めた、化合物の格子定数との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例の試料15における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例の試料16における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例の試料17における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例の試料18における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図13】本発明の実施例の試料19における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図14】本発明の実施例の試料20における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図15】本発明の実施例の試料21における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図16】本発明の実施例の試料22における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図17】本発明の実施例の試料23における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の透光性セラミックは、ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有し、希土類元素Rは主としてAサイトに含まれる。希土類元素のうち、本発明の目的を損なわない範囲でなら、若干量、粒界に存在したり、Bサイトに存在していても構わない。
【0016】
希土類元素がAサイトに含まれることは、放射光を用いたXAFS測定や、XRDによる格子定数の評価により検出され得る。
【0017】
また、希土類元素をAサイトに主として位置させるためには、たとえば、焼成温度を従来より十分に高い1800℃程度に設定するなどの方法がある。
【0018】
主成分となるABO3の組成は、AにBaが主として存在していれば、波長633nm、肉厚2mm程度における直線透過率が20%以上を有する限り、特に限定されるものではない。基本的には、Aの価数は+2価に近く、Bの価数は+4価に近く、A/Bのモル比は1前後である。好ましくは、Ba(Zr,Mg,Ta)O3が挙げられる。このうち、4価元素Zrの箇所には、Sn、Hf、Ti等が、Mgの箇所にはZn、Y、Al等が、Taの箇所にはNb等が用いられ得る。
【実施例】
【0019】
[実施例1]まず、出発原料として、高純度のBaCO3、SrCO3、CaCO3、SnO3、ZrO3、HfO3、TiO3、MgCO3、ZnO、Ta2O5、Nb2O5、Y2O3、Al2O3、Nd2O3、を準備した。これらの原料を組成式
[BaA1SrA2CaA3][(ZrB1SnB2TiB3HfB4)(MgC1ZnC2)(YD1AlD2)(TaE1NbE2)]vO3 + αNdO1.5
(A1+A2+A3=1、B1+B2+B3+B4+C1+C2+D1+D2+E1+E2=1、すべての係数はモル比)
において、表1の組成になるよう秤量し、ボールミルで20時間湿式混合した。
【0020】
【表1】
【0021】
この混合物を乾燥した後、1300℃で3時間仮焼し、仮焼物を得た。この仮焼物を、水および有機分散剤とともにボールミルに入れ、12時間湿式粉砕した。この粉砕物を用い、湿式成形にて直径30mm、厚さ5mmの円板状に成形した。
【0022】
この成形物を同組成からなる粉体に埋め、酸素雰囲気下(約98%酸素濃度)で、1600℃〜1850℃の各温度にて20時間焼成し焼結体を得た。焼結体より、1600℃の焼成でも焼結は十分に進んでいた。得られた焼結体について、t=2.0mmへ両面鏡面研磨加工を行った。研磨後の試料を評価試料とした。
【0023】
得られた評価試料について、UV−VISの全透過率測定を行った(島津製作所製UV−2500)。得られたスペクトルの最大値で規格化し、基板の内部透過率とした。得られた内部透過率Tを用い、「k=ln(1/T)/0.2」より吸収係数k(cm-1)を算出した。算出した吸収係数の例を図1に示した。
【0024】
次に、図2に示すようなスペクトル分布を有する808nmを中心波長とするレーザーダイオード(以下LDと記す)を用い、図3のような評価系を用い、LDの出力を100mWに固定して蛍光スペクトル測定を行った。試料2の測定結果の例を図4に示した。図3の評価系は、試料厚みtが2mm以上にてかつ試料が透光性を示せば、接眼レンズの焦点位置を試料中央部に設定することで、試料間のスペクトル強度の相対比較が可能となる。
【0025】
次に、α>0である試料2〜14において得られた蛍光スペクトル強度を1000nm〜1200nmの範囲で積分し、試料の発光強度IPL(arb.)を求めた。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
また、808nmLDスペクトル分布と吸収係数の積をとり、LDによる吸収量kLD(arb.)を算出し、表3に示した。
【0028】
【表3】
【0029】
最後に発光効率の簡易指標としてη=IPL/kLD(arb.)を算出し、表4に示した。これより、1800℃以上の焼結体において発光効率が劇的に高くなることが分かった。
【0030】
【表4】
【0031】
次に、発光効率が向上した原因を調べるため、発光効率の異なる試料について、XAFSによるNdの固溶サイトの同定を行った。ここで用いた基板は、No.3の1600℃焼成の試料、1800℃焼成の試料である。分析方法と測定条件の詳細を以下に示す。
<分析方法>
(1)Ndの含まれていない試料No.1について、Ba−K、Zr−K、Ta−L3のXAFS測定を行い、Ba、Zr、Taの各サイトの動径分布関数を求める。
(2)発光効率の異なる試料について、Nd−L3のXAFS測定を行い、各Ndの動径分布関数を求める。
(3)上記(1)(2)の動径分布関数を比較検討することで、両試料におけるNdの置換サイトを判断する。
<測定条件>
実験施設名称:「大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設」
・Ba−K吸収端(37452eV)
実験ステーション・・・NW10A
分光器・・・Si(3 1 1)2結晶分光器
検出法・・・透過法
・Zr−K吸収端(17998.9eV)
実験ステーション・・・NW10A
分光器・・・Si(3 1 1)2結晶分光器
検出法・・・蛍光収量法
・Ta−L3吸収端(9876.6eV)
実験ステーション・・・BL12C
分光器・・・Si(1 1 1)2結晶分光器
検出法・・・蛍光収量法
・Nd−L3吸収端(6209.2eV)
実験ステーション・・・BL12C
分光器・・・Si(1 1 1)2結晶分光器
検出法・・・蛍光収量法
Ba−K、Zr−K、Ta−L3の動径分布関数を図5に、Nd−L3の動径分布関数を図6に示した。図5より、ピークa、bの強度により、各元素の固溶サイトの判断が可能となる。図6より、1800℃焼成の試料では、1600℃焼成の試料と比較しBサイトに相当するピークaの強度が相対的に小さくなっていることがわかる。すなわち、1800℃焼成の試料では1600℃焼成の試料と比較して、Bサイトに存在するNd量が少なく、Aサイトに存在するNd量が多いことが示唆される。
【0032】
次いで、XRDにより希土類元素RがAサイトに存在することを確認した。
【0033】
図7にBa系ペロブスカイト材料である、「Ba2+M4+O2-3系」「Ba2+M13+M25+O2-3系」(ここでM、M1、M2は図7中の金属元素)についてBサイト平均イオン半径と格子定数の関係を示した。ここでBサイト平均イオン半径とは、各種Bサイト構成元素のイオン半径とその存在比率の積により、平均イオン半径として算出した値である。また、格子定数はF.S.ガラッソー著「ファインセラミックスの結晶化学」より引用した値(単純立方換算)である。図7のように、Bサイト平均イオン半径と格子定数の間には線形相関があり、その傾きは約1.5程度であることがわかる。
【0034】
一方、本実施例における試料No.1〜4についても、Bサイト平均イオン半径を算出し、また、XRDより格子定数を求めた。ここでBサイト平均イオン半径は、添加した希土類が全てBサイトに固溶すると仮定して算出した。結果を表5、表6、図8に示した。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
図8より、1750℃以下焼成の試料では上述の傾きが1.5程度であるものの、1800℃以上の焼成温度になると1.5より大きく下回ることがわかる。このように傾きが変化する原因として、Bサイト平均イオン半径の算出の前提条件であったNdの価数と固溶サイトが変化したと考えられる。このうち価数変化の可能性については、図2の吸収係数の結果より考えにくいため、固溶サイトがBサイトからAサイトに変化したと考えるのが妥当である。
【0038】
[実施例2]
試料No.2の組成において、添加する希土類としてNdの代わりに等量のCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybの各元素を用い、作製方法は実施例1と同様の方法にて評価試料(試料15〜24)を作製した。
【0039】
各試料のBサイト平均イオン半径の算出値とXRDによる格子定数分析値を表7、表8に示した。
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
得られた表7、8の試料15〜24のデータ、および表5、6の試料1(Nd無添加品)のデータを「Bサイト平均イオン半径vs格子定数」の形でプロットし、試料1と試料15〜24の各点を結ぶ直線の傾きを求めた。結果を表9に示した。
【0043】
【表9】
【0044】
得られた試料について、各種励起波長にて蛍光分光測定を行った(堀場製作所製FluoroMax−4P)。得られたスペクトルを図9〜図17に示した。
【0045】
以上の結果より、Nd以外の希土類元素でも、Aサイト固溶により発光効率が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の透光性セラミックは、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料、たとえば、光増幅器の材料に適用することができる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には透光性セラミックに関し、特定的には光学部品として有用な蛍光特性を有する透光性セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学部品の材料としてガラス、プラスチック等が用いられている。また、近年、光学部品を用いた光学素子または光学装置には、益々小型化、薄型化が要求されている。しかし、ガラスやプラスチックは屈折率が低いので、これらの材料を用いて光学部品を構成した場合、光学部品を小型化または薄型化するには限界がある。
【0003】
このため、光学部品のさらなる小型化、薄型化を実現するために、高い屈折率を有する透光性セラミックの組成が、たとえば、特開2004−75512号公報(以下、特許文献1という)で提案されている。
【0004】
具体的には、特許文献1に記載された透光性セラミックの組成は、Ba{(Sn,Zr),Mg,Ta}O3系の化合物で、屈折率が2.0以上、直線透過率が20%以上で、複屈折を生じないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−75512号公報
【発明の概要】
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された透光性セラミックの組成では、屈折率が高いが、発光効率が十分でないため、光学部品として有用な蛍光特性を有する透光性セラミックを得ることができない。このため、特許文献1に開示された透光性セラミックは、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の一例として、たとえば、光増幅器に適用することができない。
【0008】
そこで、この発明の目的は、高い屈折率とともに高い発光効率を有する透光性セラミックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従った透光性セラミックは、ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有し、希土類元素RがAサイトに含まれることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の透光性セラミックにおいては、BがMg、Zn、Y、Al、Zr、Sn、Ti、Hf、Ta、Nbから選ばれる少なくとも一種を含むことも好ましい。より好ましくは、ABO3がBa(Zr,Mg,Ta)O3系である。
【0011】
さらに、本発明の透光性セラミックにおいては、希土類元素Rの含有量が、ABO3100モル部に対し、0.1〜10モル部であることが好ましい。特に好ましくは、RはNdである。
【0012】
また、本発明は、本発明の透光性セラミックを用いた発光素子および発光装置にも向けられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透光性セラミックは、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料に適用することができ、光学部品を用いた光学素子または光学装置の小型化や薄型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料について吸収係数を算出した例を示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルを測定するために励起光源として用いられたレーザーダイオードのスペクトル分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルを測定するための装置の概略的な構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例において測定した、Ba、Zr、Taの動径分布関数である。
【図6】本発明の実施例において測定した、Ndの動径分布関数である。
【図7】従来文献より引用した、各化合物における、Bサイト元素のイオン半径と、化合物の格子定数との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例の試料における、Bサイト元素のイオン半径と、XRD測定より求めた、化合物の格子定数との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例の試料15における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例の試料16における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例の試料17における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例の試料18における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図13】本発明の実施例の試料19における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図14】本発明の実施例の試料20における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図15】本発明の実施例の試料21における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図16】本発明の実施例の試料22における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【図17】本発明の実施例の試料23における、蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の透光性セラミックは、ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有し、希土類元素Rは主としてAサイトに含まれる。希土類元素のうち、本発明の目的を損なわない範囲でなら、若干量、粒界に存在したり、Bサイトに存在していても構わない。
【0016】
希土類元素がAサイトに含まれることは、放射光を用いたXAFS測定や、XRDによる格子定数の評価により検出され得る。
【0017】
また、希土類元素をAサイトに主として位置させるためには、たとえば、焼成温度を従来より十分に高い1800℃程度に設定するなどの方法がある。
【0018】
主成分となるABO3の組成は、AにBaが主として存在していれば、波長633nm、肉厚2mm程度における直線透過率が20%以上を有する限り、特に限定されるものではない。基本的には、Aの価数は+2価に近く、Bの価数は+4価に近く、A/Bのモル比は1前後である。好ましくは、Ba(Zr,Mg,Ta)O3が挙げられる。このうち、4価元素Zrの箇所には、Sn、Hf、Ti等が、Mgの箇所にはZn、Y、Al等が、Taの箇所にはNb等が用いられ得る。
【実施例】
【0019】
[実施例1]まず、出発原料として、高純度のBaCO3、SrCO3、CaCO3、SnO3、ZrO3、HfO3、TiO3、MgCO3、ZnO、Ta2O5、Nb2O5、Y2O3、Al2O3、Nd2O3、を準備した。これらの原料を組成式
[BaA1SrA2CaA3][(ZrB1SnB2TiB3HfB4)(MgC1ZnC2)(YD1AlD2)(TaE1NbE2)]vO3 + αNdO1.5
(A1+A2+A3=1、B1+B2+B3+B4+C1+C2+D1+D2+E1+E2=1、すべての係数はモル比)
において、表1の組成になるよう秤量し、ボールミルで20時間湿式混合した。
【0020】
【表1】
【0021】
この混合物を乾燥した後、1300℃で3時間仮焼し、仮焼物を得た。この仮焼物を、水および有機分散剤とともにボールミルに入れ、12時間湿式粉砕した。この粉砕物を用い、湿式成形にて直径30mm、厚さ5mmの円板状に成形した。
【0022】
この成形物を同組成からなる粉体に埋め、酸素雰囲気下(約98%酸素濃度)で、1600℃〜1850℃の各温度にて20時間焼成し焼結体を得た。焼結体より、1600℃の焼成でも焼結は十分に進んでいた。得られた焼結体について、t=2.0mmへ両面鏡面研磨加工を行った。研磨後の試料を評価試料とした。
【0023】
得られた評価試料について、UV−VISの全透過率測定を行った(島津製作所製UV−2500)。得られたスペクトルの最大値で規格化し、基板の内部透過率とした。得られた内部透過率Tを用い、「k=ln(1/T)/0.2」より吸収係数k(cm-1)を算出した。算出した吸収係数の例を図1に示した。
【0024】
次に、図2に示すようなスペクトル分布を有する808nmを中心波長とするレーザーダイオード(以下LDと記す)を用い、図3のような評価系を用い、LDの出力を100mWに固定して蛍光スペクトル測定を行った。試料2の測定結果の例を図4に示した。図3の評価系は、試料厚みtが2mm以上にてかつ試料が透光性を示せば、接眼レンズの焦点位置を試料中央部に設定することで、試料間のスペクトル強度の相対比較が可能となる。
【0025】
次に、α>0である試料2〜14において得られた蛍光スペクトル強度を1000nm〜1200nmの範囲で積分し、試料の発光強度IPL(arb.)を求めた。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
また、808nmLDスペクトル分布と吸収係数の積をとり、LDによる吸収量kLD(arb.)を算出し、表3に示した。
【0028】
【表3】
【0029】
最後に発光効率の簡易指標としてη=IPL/kLD(arb.)を算出し、表4に示した。これより、1800℃以上の焼結体において発光効率が劇的に高くなることが分かった。
【0030】
【表4】
【0031】
次に、発光効率が向上した原因を調べるため、発光効率の異なる試料について、XAFSによるNdの固溶サイトの同定を行った。ここで用いた基板は、No.3の1600℃焼成の試料、1800℃焼成の試料である。分析方法と測定条件の詳細を以下に示す。
<分析方法>
(1)Ndの含まれていない試料No.1について、Ba−K、Zr−K、Ta−L3のXAFS測定を行い、Ba、Zr、Taの各サイトの動径分布関数を求める。
(2)発光効率の異なる試料について、Nd−L3のXAFS測定を行い、各Ndの動径分布関数を求める。
(3)上記(1)(2)の動径分布関数を比較検討することで、両試料におけるNdの置換サイトを判断する。
<測定条件>
実験施設名称:「大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設」
・Ba−K吸収端(37452eV)
実験ステーション・・・NW10A
分光器・・・Si(3 1 1)2結晶分光器
検出法・・・透過法
・Zr−K吸収端(17998.9eV)
実験ステーション・・・NW10A
分光器・・・Si(3 1 1)2結晶分光器
検出法・・・蛍光収量法
・Ta−L3吸収端(9876.6eV)
実験ステーション・・・BL12C
分光器・・・Si(1 1 1)2結晶分光器
検出法・・・蛍光収量法
・Nd−L3吸収端(6209.2eV)
実験ステーション・・・BL12C
分光器・・・Si(1 1 1)2結晶分光器
検出法・・・蛍光収量法
Ba−K、Zr−K、Ta−L3の動径分布関数を図5に、Nd−L3の動径分布関数を図6に示した。図5より、ピークa、bの強度により、各元素の固溶サイトの判断が可能となる。図6より、1800℃焼成の試料では、1600℃焼成の試料と比較しBサイトに相当するピークaの強度が相対的に小さくなっていることがわかる。すなわち、1800℃焼成の試料では1600℃焼成の試料と比較して、Bサイトに存在するNd量が少なく、Aサイトに存在するNd量が多いことが示唆される。
【0032】
次いで、XRDにより希土類元素RがAサイトに存在することを確認した。
【0033】
図7にBa系ペロブスカイト材料である、「Ba2+M4+O2-3系」「Ba2+M13+M25+O2-3系」(ここでM、M1、M2は図7中の金属元素)についてBサイト平均イオン半径と格子定数の関係を示した。ここでBサイト平均イオン半径とは、各種Bサイト構成元素のイオン半径とその存在比率の積により、平均イオン半径として算出した値である。また、格子定数はF.S.ガラッソー著「ファインセラミックスの結晶化学」より引用した値(単純立方換算)である。図7のように、Bサイト平均イオン半径と格子定数の間には線形相関があり、その傾きは約1.5程度であることがわかる。
【0034】
一方、本実施例における試料No.1〜4についても、Bサイト平均イオン半径を算出し、また、XRDより格子定数を求めた。ここでBサイト平均イオン半径は、添加した希土類が全てBサイトに固溶すると仮定して算出した。結果を表5、表6、図8に示した。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
図8より、1750℃以下焼成の試料では上述の傾きが1.5程度であるものの、1800℃以上の焼成温度になると1.5より大きく下回ることがわかる。このように傾きが変化する原因として、Bサイト平均イオン半径の算出の前提条件であったNdの価数と固溶サイトが変化したと考えられる。このうち価数変化の可能性については、図2の吸収係数の結果より考えにくいため、固溶サイトがBサイトからAサイトに変化したと考えるのが妥当である。
【0038】
[実施例2]
試料No.2の組成において、添加する希土類としてNdの代わりに等量のCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybの各元素を用い、作製方法は実施例1と同様の方法にて評価試料(試料15〜24)を作製した。
【0039】
各試料のBサイト平均イオン半径の算出値とXRDによる格子定数分析値を表7、表8に示した。
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
得られた表7、8の試料15〜24のデータ、および表5、6の試料1(Nd無添加品)のデータを「Bサイト平均イオン半径vs格子定数」の形でプロットし、試料1と試料15〜24の各点を結ぶ直線の傾きを求めた。結果を表9に示した。
【0043】
【表9】
【0044】
得られた試料について、各種励起波長にて蛍光分光測定を行った(堀場製作所製FluoroMax−4P)。得られたスペクトルを図9〜図17に示した。
【0045】
以上の結果より、Nd以外の希土類元素でも、Aサイト固溶により発光効率が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の透光性セラミックは、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料、たとえば、光増幅器の材料に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有する透光性セラミックであり、
希土類元素RがAサイトに含まれることを特徴とする、透光性セラミック。
【請求項2】
BがMg、Zn、Y、Al、Zr、Sn、Ti、Hf、Ta、Nbから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の透光性セラミック。
【請求項3】
ABO3がBa(Zr,Mg,Ta)O3である、請求項1または2に記載の透光性セラミック。
【請求項4】
希土類元素Rの含有量が、ABO3100モル部に対し、0.1〜10モル部である、請求項1〜3に記載の透光性セラミック。
【請求項5】
希土類元素RがNdである、請求項4に記載の透光性セラミック。
【請求項6】
請求項1〜5の透光性セラミックを用いた発光素子または発光装置。
【請求項1】
ペロブスカイト型化合物ABO3(ただし、AはBaを含む)を主成分とし、希土類元素R(RはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも一種)を含む組成を有する透光性セラミックであり、
希土類元素RがAサイトに含まれることを特徴とする、透光性セラミック。
【請求項2】
BがMg、Zn、Y、Al、Zr、Sn、Ti、Hf、Ta、Nbから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の透光性セラミック。
【請求項3】
ABO3がBa(Zr,Mg,Ta)O3である、請求項1または2に記載の透光性セラミック。
【請求項4】
希土類元素Rの含有量が、ABO3100モル部に対し、0.1〜10モル部である、請求項1〜3に記載の透光性セラミック。
【請求項5】
希土類元素RがNdである、請求項4に記載の透光性セラミック。
【請求項6】
請求項1〜5の透光性セラミックを用いた発光素子または発光装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−46542(P2011−46542A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194156(P2009−194156)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]