説明

透光性多結晶材料とその製造方法

【課題】光学特性が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料を製造する。
【解決手段】磁場内に置くと力を受ける単結晶粒子群を含むスラリーを磁束密度が空間に対して変化している磁場内で固定化してから焼結する。例えば、Erを添加したYAGの単結晶粒子群と希土類を添加しないYAGの単結晶粒子群を含むスラリーを、磁場強度が不均一に分布している磁場内で固定化すると、強磁場の位置では、Erを添加したYAGがリッチで結晶方向が揃っているレーザ発振領域となり、弱磁場の位置では、希土類が添加されていないYAGがリッチで光を透光する領域となる。レーザ発振するコアと、コアの周辺にあって励起光をコアに導くガイドを併せ持った多結晶材料を同時に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の単結晶粒子で構成されている多結晶材料とその製造方法に関する。特に、光学材料に利用することができる透光性多結晶材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1と2に、複数個の単結晶粒子から透光性多結晶材料を得る技術が開示されている。これらの技術では、磁気異方性をもっている単結晶粒子群を含むスラリー(懸濁液)を磁場内で固定化してから焼結する。これによって単結晶粒子群の結晶方向が揃っている配向多結晶材料を得る。
本明細書では単結晶粒子群の結晶方向が揃っていることを「配向」という。またスラリーに含まれている単結晶粒子の位置と方向が固定されることを「固定化される」という。水等の溶媒に単結晶粒子群が懸濁している間は、スラリーに含まれている単結晶粒子の位置と方向が変化できるのに対し、溶媒が失われると単結晶粒子の位置と方向が固定される。
本明細書では、特許文献1と2に記載されている事項の重複記載を省略する。特許文献1と2の記載内容を前提にして、本明細書は作成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−160760号公報
【特許文献2】国際公開2010/073712A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1と2の技術は、単結晶粒子群の結晶方向が揃っている配向多結晶材料を得ることを企図しており、磁束密度が均質な一様磁場内でスラリーを固定化する。光学特性が均質な光学材料を得ることができる。
光学材料のなかには、材料中で光学特性が変化(分布)しているものがある。例えば、光ファイバは、屈折率が相違するコアとクラッドで構成されている。レーザを発振するコア部分の組成と、コア部分に励起光を導くガイド部分の組成を変えることで、高効率でレーザを発振するレーザ発振用の結晶材料も提案されている。
特許文献1と2の技術は、材料内で光学特性が変化している材料を製造することを企図していない。材料内で光学特性が変化している材料を製造する場合、既存の技術では、光学特性が相違する領域毎に製造工程を進めていく。既存の技術では、製造工程が複雑となり、領域と領域の境界で光学特性が不連続に変化する。
【0005】
本発明では、光学特性が相違する複数の領域を同時に製造できる製造方法を提供する。また光学特性が不連続に変化するのでなく、連続的に変化する透光性多結晶材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、光学特性が材料中で変化している透光性多結晶材料の製造方法を開示する。この製造方法は、磁場内に置くと力を受ける単結晶粒子群を含むスラリーを磁束密度が空間に対して変化している磁場内で固定化する工程と、固定化した材料を焼結する工程を備えている。本明細書では、磁束密度が空間に対して変化している磁場のことを勾配磁場という。
磁場内に置くと力を受ける単結晶粒子群を含むスラリーを勾配磁場内で固定化すると、固定化した位置によって、単結晶粒子群の組成・配向度・あるいは配向方向が相違する材料が得られる。これを焼結すると、光学特性が材料中で変化している透光性多結晶材料を製造することができる。なお本明細書でいう透光性は、透明なものに限られない。光を散乱するものの光が通過できるものであれば、透光性という。
磁気異方性を有する単結晶粒子を一様磁場内においた場合、回転力は受けても並進力は得られない。これに対して、磁気異方性を有する単結晶粒子を勾配磁場内に置くと、並進力と回転力が作用する。磁気異方性を有しない単結晶粒子の場合、磁場内においても回転力は作用しないが、勾配磁場内に置けば並進力が作用する。本明細書に記載の技術では、勾配磁場と、勾配磁場の下で発生する力の向きと強弱の関係を利用して、様々な多結晶材料を製造する。
【0007】
希土類元素が添加された単結晶粒子群を含むスラリーを用いることが好ましい。例えば磁場内に置いても力を受けない単結晶粒子に希土類を添加すると、磁場から力を受けるようになる。磁場内に置いても力を受けない種類の単結晶粒子群から、光学特性が材料中で変化している透光性多結晶材料を製造することが可能となる。あるいは、希土類を添加すると、磁場から受ける力が増大する。スラリーを固定化する際に用いる磁場の強度を下げるといったことが可能となる。
【0008】
一つの形態では、勾配磁場内に置いたときに受ける並進力が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを用いる。
単結晶粒子を勾配磁場内に置いたときに受ける並進力の強弱は、単結晶粒子の種類によって相違する。また、単結晶粒子に添加されている希土類元素の添加量および/または単結晶粒子に添加されている希土類元素の種類によっても相違する。そこで、例えば単結晶粒子に添加されている希土類元素の添加量が相違する2種類の単結晶粒子群を用意する。あるいは、単結晶粒子に添加されている希土類元素の種類が相違する2種類の単結晶粒子を用意する。あるいは、同一種類の希土類元素が同一量だけ添加されている異種類の単結晶粒子を用意する。種類数は2以上の任意の数であってよい。
【0009】
勾配磁場内に置いたときに強い並進力が作用する粒子と強い並進力が作用しない粒子が混在しているスラリーを用いた場合、強い磁場が作用している位置で固定化した部分には強い並進力が作用する粒子が多く含まれ、弱い磁場が作用している位置で固定化した部分には強い並進力が作用する粒子が少なく含まれる。場所によって単結晶粒子の組成が変化している透光性多結晶材料を得ることができる。例えば、レーザを発振するコア部分と、コア部分に励起光を導くガイド部分をあわせもつ透光性多結晶材料を得ることができる。あるいは、光ファイバを構成するコアとクラッドをあわせもつ透光性多結晶材料を得ることができる。なお、場所によって単結晶粒子に添加されている希土類の種類が相違する場合、場所によって単結晶粒子に添加されている希土類の添加量が相違する場合、あるいは、場所によって母材である単結晶粒子の種類が相違して場合を総称して、場所によって単結晶粒子の組成が変化しているという。
【0010】
場所によって磁束密度が相違する勾配磁場内で固定化することから、単一種類の単結晶粒子群しか含んでいないスラリーを用いても、場所によって配向度が異なる多結晶材料を製造することができる。例えば、単一種類の単結晶粒子で形成されているものの、強く配向している領域と弱く配向している領域(あるいは配向していない領域)を併せ持つ透光性多結晶材料を得ることができる。
磁場内に置いたときに受ける回転力が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを用いることもできる。単結晶粒子を磁場内に置いたときに受ける回転力の強弱は、単結晶粒子の種類によって相違する。また、単結晶粒子に添加されている希土類元素の添加量および/または単結晶粒子に添加されている希土類元素の種類によっても相違する。そこで、例えば単結晶粒子に添加されている希土類元素の添加量が相違する2種類の単結晶粒子群を用意する。あるいは、単結晶粒子に添加されている希土類元素の種類が相違する2種類の単結晶粒子を用意する。あるいは、同一種類の希土類元素が同一量だけ添加されている異種類の単結晶粒子を用意する。種類数は2以上の任意の数であってよい。
【0011】
磁場内に置いたときに強い回転力が作用する粒子と強い回転力が作用しない粒子が混在しているスラリーを用いた場合、強い磁場が作用している位置で固定化した単結晶粒子群は強く配向し、弱い磁場が作用している位置で固定化した単結晶粒子群は弱く配向する。
光学的異方性材料の場合には、強く配向している部分、すなわち結晶方向がよく揃っている領域は透明となり、弱く配向している部分、すなわち結晶方向が不揃いな領域は光を散乱させる。透明領域と散乱領域を併せ持つ透光性多結晶材料を製造することができる。光学的には等方性材料の場合でも、励起することで異方性が発現することがある。光学的等方性材料の場合でも、結晶方向が揃っている領域と揃っていない領域を合わせもつ透光性多結晶材料が必要とされる場合がある。
【0012】
強く配向している領域と弱く配向している領域で、単結晶粒子の組成が相違していてもよいし同一であってもよい。組成は同一であるが配向度が場所によって変化している透光性多結晶材料が有用な場合もあれば、組成と配向度の両者が場所によって変化している透光性多結晶材料が有用な場合もある。
【0013】
光学的異方性単結晶群が強く配向している領域では、光学的散乱の小さい透明体(transparent)が得られるのに対し、光学的異方性単結晶群が弱く配向している領域ないしは光学的異方性単結晶群が配向していない領域では、光学的散乱の大きな透光体(translucent)が得られる。後者の場合には、複屈折によって直線透過率が低下する。強く配向している領域と弱く配向している領域を同一の透光性多結晶材料に作り込むことができれば、下記に示す制御ができ、それを利用したデバイスの作製が可能となる。
(1)発振領域制御:たとえばレーザ媒質中に、配向領域と無配向領域を作り分ける。その場合、配向領域でレーザを発振させ、無配向領域でレーザを発振させないといったことが可能となる。一つのレーザ媒質中に複数個の発振スポットを形成したり、ラゲールガウシアンモードなどへビームモードを制御したりすることができる。また、寄生発振を妨げる構造とすれば、レーザ媒質に入射する励起光パワーを従来のレーザ媒質より効率的に利用する事が可能となり、図8を参照して後記するマイクロチップレーザーデバイス等の高出力化が可能となる。
(2)励起光制御:励起光を意図的に無配向領域に入射して散乱させることにより、励起光の照射される面積や強度分布、励起光のパスを制御することができる。
【0014】
光学的に等方性の単結晶が強く配向している部位と弱く配向している部位を同一の透光性多結晶材料に作り込むことも、有用性を備えている。
光学的に等方性の単結晶を強励起すると、光弾性効果によって熱複屈折が生じる。その度合いは、等方性結晶であっても軸依存性を有するため、光学的な異方性の原因となる。配向領域では、特定軸のみの現象となるので、複屈折を補償することができる。それに対して無配向領域では、結晶方向がランダムであるために、複屈折を補償できない。その結果、等方性の単結晶でも、強励起状態では、異方性材料と同様に、配向度を制御することによってロスの大きさを制御することができる。例えば、配向領域では低ロス状態を実現し、無配向領域では高ロス状態を実現することができる。光学的に等方性の立方晶系材料を用いる場合にも、前記した(1)発振領域制御と(2)励起光制御が可能となる。
【0015】
磁場内に置いたときに安定する結晶方向が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを用いることも有効である。
この場合、例えば、厚み方向に配向している領域と、厚みと垂直方向に配向している領域をあわせもつ透光性多結晶材料を製造することができる。配向方向が場所によって異なる透光性多結晶材料が得られれば、屈折率変調によって波長安定化や狭帯域化が可能となる。また、屈折率差を利用してマイクロ共振器機能を実現することもできる。セラミックVBG素子を実現することもできる。
【0016】
本明細書に記載の技術によって、光学特性が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料を得ることができる。
磁場強度が空間中で不連続に変化することはないことから、本明細書に記載の技術によって、光学特性が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料を得ることができる。もっとも、強度が連続的に変化する磁場内で固定化しても、材料が一種の閾値を備えているために、本明細書に記載の技術によって、光学特性が材料中で不連続的に変化している透光性多結晶材料が製造される場合もある。本明細書に記載されている製造方法は、光学特性が不連続的に変化している材料を得るために利用されることがあり、光学特性が連続的に変化している材料を得る場合のみには限定されない。その一方において、光学特性が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料は、本明細書に記載されている技術で初めて実現されたものである。
【0017】
一つの態様の透光性多結晶材料は、複数種類の単結晶粒子群を含み、単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化していることを特徴にしている。勾配磁場内に置いたときに受ける並進力が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを勾配磁場内で固定化すると、単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料を得ることができる。
【0018】
この技術を用いると、場所によって組成が変化している透光性多結晶材料を得ることができる。例えば、発光中心物質が添加された材料で形成されているためにレーザを発振するコア部分と、発光中心物質が添加されていない材料で形成されているためにレーザを発振しない代わりにコア部分に励起光を導くガイド部分をあわせもつ透光性多結晶材料を得ることができる。あるいは、媒質内の希土類元素の添加濃度の空間分布を制御することにより、所望のレーザビームプロファイルにあわせた励起エネルギー分布を形成することができる。例えば、希土類の濃度がレーザ媒質の中心部(ビーム中心部)で最大となっている透光性多結晶材料、あるいは、同一レーザ媒質内に複数個の発光スポットを形成した多点発振レーザ媒質を製造することができる。
【0019】
単結晶粒子群の配向度が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料も有用性を発揮する。組成は均一であっても配向度が変化している材料が有用性を発揮することもあれば、組成と配向度の両者が変化している材料が有用性を発揮することもある。
例えば、無配向領域における光散乱を利用して励起光を制御すること(アパーチャ機能)によって発振領域を制御することができる。光学的に等方性の単結晶を用いる場合でも、強励起状態では光弾性効果によって異方性が発現するので、配向度を場所によって変化させることが意味を持つ。光学的に等方性の単結晶を用いて、励起光の強度分布を制御したり、発振領域を制御したりすることができる。
【0020】
単結晶粒子群の配向方向が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料も有用性を発揮する。
配向方向が場所によって異なる透光性多結晶材料が得られれば、屈折率変調によって波長安定化や狭帯域化が可能となる。また、屈折率差を利用してマイクロ共振器機能を実現することもできる。セラミックVBG素子を実現することもできる。
【0021】
「単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化しているとともに単結晶粒子群の配向度が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料」と、「単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化しているとともに単結晶粒子群の配向方向が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料」、あるいは「単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化する一方において、単結晶粒子群の配向方向が揃っている透光性多結晶材料」も有用性を発揮する。
例えば、発振に寄与しない光を減衰させてレーザ光路を制御したり、発振波長の異なる希土類の2種類以上を添加したり、寄生発振を抑制するパターニングを実現したり、単一媒質内に複数の共振器を有するレーザ媒質を実現するといったことができる。
【発明の効果】
【0022】
本明細書に開示されている技術によると、材料中で光学特性が連続的に変化している材料を提供することが可能となる。例えば、発振効率が向上したレーザ発振材料を提供するといったことが可能となる。また材料中で光学特性が変化している材料の製造過程が簡単化される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】透光性多結晶材料の製造プロセスを示す図。
【図2】スラリーが含む単結晶粒子群と、得られる多結晶材料を対比して示す。
【図3】スラリーの固定化プロセスに用いる装置を示す。
【図4】スラリーの固定化プロセスに用いる他の装置を示す。
【図5】スラリーの固定化プロセスに用いるさらに他の装置を示す。
【図6】一様磁場内で固定化した単結晶粒子群と、勾配磁場内で固定化した単結晶粒子群を対比して示す。
【図7】実施例で用いたスラリーの種類と、勾配磁場と、得られた多結晶材料を示す。
【図8】コアと励起光ガイドを持つレーザ発振装置の分解斜視図を示す。
【図9】実施例のスラリーが含む単結晶を示す。
【図10】希土類元素の添加することで得られる磁化率の上昇量が大きい順番を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は下記の様々な形態で実施することができる。
(形態1)立方晶系等の光学的等方性単結晶に希土類元素を添加して磁気異方性を発現させている。
(特徴2)六方晶系等の異方性結晶の磁気異方性を利用する。
(形態3)六方晶系等の異方性結晶に希土類元素を添加することで顕著化した磁気異方性を利用する。
(形態4)単一種類の単結晶粒子のみを含むスラリーを利用する。
(形態5)単一種類の単結晶粒子群を含むスラリーを勾配磁場内で固定化すると、磁束密度の高低に応じて配向状態が変化する。例えば磁束密度が高い領域では単結晶粒子の結晶方向がよく揃い、磁束密度が低い領域では単結晶粒子の結晶方向がランダムである材料を得ることができる。結晶方向が揃っている程度を配向度ということにすると、材料中で配向度が変化している材料を得ることができる。
(形態6)正方晶系や六方晶系といった異方性単結晶の配向度が位置によって変化している材料は、高い配向度の位置では光が直線的に進行するのに対し、低い配向度の位置では光が散乱する光学材料となる。レーザ発振領域の形状が制御された光学材料等を実現できる。
(形態7)立方晶系のような等方性単結晶群から、結晶方向が揃っている部分と、結晶方向がランダムな部分が共存する光学材料が得られる。結晶方向は揃っている部分では複屈折現象を補償できるのに、結晶方向がランダムな部分では複屈折現象を補償できないことから、レーザ発振時に光が直線的に進行する領域と光が散乱する領域が並存している光学材料を実現することができる。
(形態8)空間に対して磁束密度が変化している磁場は、種々の方法で実現することができる。例えばスラリーの固定化空間に比して小さな磁石(永久磁石または電磁石)あるいは強磁性体を利用して磁場を生成すると、スラリーの固定化空間内で磁束密度が変化している勾配磁場を作ることができる。磁石を置く位置、磁石の形状を調整することによって、種々の形状の空間分布を持つ勾配磁場を実現することができる。複数の磁石を分散して配置する場合、個々の磁石の起磁力を調整することによっても、種々の形状の空間分布を持つ勾配磁場を実現することができる。
【実施例】
【0025】
図1は、下記に説明する実施例に共通する製造プロセスを示している。
ステップ1:単結晶粒子群を調整する。ここでは磁場内に置くと力(回転力又は並進力)を受ける単結晶粒子群を調整する。磁場内に置くと力を受ける単結晶には下記を利用することができる
1)立方晶系等の光学的等方性結晶に希土類元素を添加した結晶。
2)正方晶系・六方晶系等の光学的異方性結晶。
3)正方晶系・六方晶系等の光学的異方性結晶に希土類元素を添加した結晶。
希土類元素が添加された単結晶粒子の準備方法は特に限定されない。例えば、予備混合や仮焼きによる固相反応、あるいは湿式合成法により、希土類元素が添加された単結晶粒子群を用意することができる。例えば、粉体を合成することによって、希土類元素が添加された単結晶粒子群を用意することができる。あるいは市販されている単結晶粒子群を処理することによって、希土類元素が添加された単結晶粒子群を用意することもできる。
ステップ2:スラリーを調整する。単一種類の単結晶粒子を懸濁させてもよいし、2種類以上の単結晶粒子を懸濁させてもよい。スラリーに懸濁している単結晶粒子は、並進力を受けると移動し、回転力を受けると結晶方向を回転させる。結晶粒子を懸濁させるのに用いる溶媒と分散剤の種類、並びに分散剤の添加濃度については、特に限定されない。原料粉末の状態に応じて適宜選択することができる。
ステップ3:例えば、スラリーを石膏型に注入し、場所によって磁束密度が変化している勾配磁場内に石膏型を置く。スラリーに含まれていた水分は石膏型に吸水され、スラリーに含まれていた単結晶粒子群が固定化される。スリップキャスティング等によって、スラリーを固定化することができる。固定化された単結晶粒子の組成・配向度・配向方向は、固定化の際に加えた磁場の強度等に依存して変化する。
ステップ4:ステップ3で得られた材料を焼結する。この結果、光学特性が材料中で変化している透光性多結晶材料が得られる。
【0026】
以下に説明する実施例は、図2のように場合分けすることができる。
ケース1:スラリーが、磁気異方性をもつ(回転力が作用する)一種類の単結晶粒子を含む。
ケース2:スラリーが、並進力が作用する単結晶粒子と、並進力が作用しない単結晶粒子を含んでいる。ここでいう、並進力が作用しない単結晶粒子には、弱い並進力しか作用しない単結晶粒子も含まれる。並進力の大きさが相違する3種類以上の単結晶粒子がスラリーに含まれていてもよい。ケース2はさらに場合分けされる。
ケース2−1:ともに磁気異方性を有しない(回転力が作用しない)場合。ここでいう、磁気異方性を有しない単結晶粒子には、弱い磁気異方性しか発揮しない単結晶粒子も含まれる。
ケース2−2:並進力が作用する単結晶粒子は磁気異方性を有し(回転力が作用し)、並進力が作用しない単結晶粒子は磁気異方性を有しない(回転力が作用しない)。
ケース2−3:ともに磁気異方性を有する(回転力が作用する)場合。ケース2−3は、さらに場合分けされる。
ケース2−3−a:磁化容易軸が同じである。
ケース2−3−b:磁化容易軸が異なっている。
【0027】
(第1実施例)ケース1に相当する。空間的に磁場強度が変化している勾配磁場内でスラリーを固定化し、組成については均一であるが、配向度が材料中で分布している透光性多結晶材料を製造した。
<用いた単結晶>
Nd:FAP(Nd:Ca(PO)Fの化学式で示されるフルオロアパタイト)を用いた。Nd:FAPは六方晶系であり、光学的異方性を持ち、磁場内に置くと回転力を受ける。Ndが添加されていなくても磁場内に置くと回転力を受けるが、Ndが添加されていると磁場内で受ける回転力が増大する。Nd:FAPを用意するために、市販のFAPの単結晶群を利用した。市販されているFAPの単結晶群は凝集しているので、乳鉢で粉砕し、その後にNdを添加した。
<スラリー調整>
3gのNd:FAPの単結晶粒子群に、水9mlと、分散剤(日本触媒製のアクアリック(登録商標))1mlを加えてスラリーを作成した。
<固定化>
図3に示すように、直方体形状の石膏型5にスラリーを注ぎこみ、スラリーに含まれていた水分を石膏型5で吸水することによって、スラリーに含まれていた単結晶粒子群の位置と方位を固定した。吸水のために、石膏型5の底板5aを厚くした。
<固定化が進行した磁場>
図3に示すように、一対の電磁石3a,3bの間を磁束が水平方向に伸びている磁場内に、スラリーを固定化中の石膏型5を置いた。一対の電磁石3a,3bの中心を貫通するz軸上に石膏型5を置いて固定化した。図中の7a,7bは永久磁石であり、z軸上に置かれている。z軸上に置かれている永久磁石7a,7bの影響で、電磁石3a,3bの磁場が歪む。z軸に直交するr軸に沿って測定した磁束密度を図(b)に示す。z軸上で強い磁場を持ち、石膏型5の側壁に接近するほど弱くなっている。図(b)に示すように、z軸(r=0)上での磁束密度は1.35T(テスラ)であり、石膏型5の側壁に接する位置での磁束密度は0.86T(テスラ)であった。最大強度の64%に減少している。なお、固定化中の石膏型5を296Kの温度に置いてスラリーを固定化した。
<固定化した単結晶粒子群の配向状態>
Nd:FAPの磁化容易軸はc軸である。そのために、磁場内で固定化すると、結晶のc軸が磁束線に沿った姿勢で固定化されやすい。配向の程度は、磁束密度に対応する。磁場が強い位置で固定化したNd:FAPの単結晶粒子群はよく配向するのに対し、磁場が弱い位置で固定化したNd:FAPの単結晶粒子群の配向度は低い。この結果、石膏型5の中心軸上では配向度が高い単結晶粒子群が得られ、石膏型5の壁に接近するほど配向度が低い単結晶粒子群が得られた。Nd:FAPの単結晶群を焼結すると、配向粒子間の優先的成長によって、焼結体の配向度は向上する。固定化によって生じた配向度の相違が強調される。この結果、焼結後に、石膏型5の中心軸上にあった単結晶粒子群からは配向度が高い多結晶が得られ、石膏型5の壁に近い位置にあった単結晶粒子群からは配向度が低い多結晶が得られる。配向度が高い多結晶は直線透過性が高く、いわゆる透明度が高い。配向度が低い多結晶は直線透過性が低く、透光性ではあるものの散乱しやすい。実施例1で得られた多結晶材料のバルク体を加圧焼結することによって、中心で透明性が高く、周辺に近づくほど光散乱性が高くなる透光性多結晶を得ることができる。
<固定化した単結晶粒子群の処理>
前記では焼結後の説明をしたが、実際には、石膏型5内で単結晶粒子群が固定化することで得られた成形体を石膏型5から取出し、室温で24時間自然乾燥させ、長さ25mm、幅5mm、厚さ2mmの成形体を得た。
<一次焼結>
得られた成形体を、大気雰囲気下で1時間焼結した。加熱温度は1873Kとした。一次焼結体の相対密度は90%以上であった。
【0028】
<得られた多結晶材料>
得られたサンプルの表面の配向度を粉末X線回折装置により評価した。X線照射は磁場印加方向と平行な面に対して行った。強磁場印加部分のa面とc面の回折強度比(300)/(002)は29.3であり、低磁場印加領域の同回折強度比は9.88であった。粉末FAPの同回折強度比は2.41であった。従って、本実施例の試料は、全領域において一軸配向傾向を有するが、高磁場を印加した領域での配向度は高く、低磁場を印加した領域では配向のランダム性が相対的に上昇した。
<二次焼結>
本手法で得られた一次焼結体を、加熱温度1873K、196MPaに加圧されたアルゴン雰囲気下で1時間焼結すれば、一次焼結体をカプセルに封入しない(カプセルフリーの)HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方加圧成形)処理により、透光性多結晶材料とすることができる。二次焼結の詳細は、特許文献2に記載されている。
<透光性多結晶材料の用途>
実施例1によって、中心で直線透過率が高く周辺で散乱率が高い透光性多結晶を得ることができる。例えば光学的フィルタを得ることができる。
透明領域の存在位置は、永久磁石7a,7bを置く位置で調整することができる。透明領域の形状は、永久磁石7a,7bの形状を調整することパターンニングできる。直線透過率の分布カーブは、外部磁石(電磁石3a,3b)による磁束密度と、内部磁石(永久磁石7a、7b)による磁束密度の強度比を調整することで調整することができる。種々にパターニングされた光学的フィルタを実現することができる。
【0029】
(第1実施例の変形例1)
FAPは磁気異方性を有することから、希土類を添加しなくてもよい。しかしながら、希土類を添加すると磁気異方性が顕著化されるので、固定化に用いる磁束密度の変化幅を小さくしても、配向度分布を形成できる。
単結晶粒子に作用する回転力が弱く、強い磁場を印加しないと配向しない場合には、図4の磁場印加装置を利用することができる。図4において、2は超伝導磁石であり、6は永久磁石であり、4は石膏型である。超伝導磁石2と永久磁石6によって、石膏型4の配置位置に、強い強度の勾配磁場を発現することができる。
FAPに、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホロミウム(Ho)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を添加した場合、磁化容易軸がc軸となることから、図3または図4の固定化プロセスを採用する。
この場合、中心で透明性が高くて周囲に向かうほど散乱しやすい特性を備えている希土類添加型のFAP多結晶が得られる。透明な中心部は発光中心となる希土類を含むことからレーザ発振領域となる。周辺部では散乱しやすいことから、レーザ発振領域にはならない。しかしながら、透光性であることから励起光ガイドとなる。励起光ガイドを利用して励起光を制御することができる。例えば励起光を意図的に無配向領域に入射し散乱させることにより、励起光の照射される面積や強度分布、励起光のパスを制御することができる。例えば寄生発振を妨げる構造とすれば、レーザ媒質に入射する励起光パワーを従来のレーザ媒質より効率的に利用する事が可能となる。マイクロチップレーザーデバイス等の高出力化が可能となる。
【0030】
(第1実施例の変形例2)
FAPに、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を添加した場合、磁化容易軸がa軸となる。この場合には、図5の固定化プロセスを採用する。
図5に示すように、磁化容易軸がa軸である単結晶粒子を固定化する場合、超伝導磁石2の磁場空間2aを水平に置く。磁場空間2a内にターンテーブル8を置き、その上に石膏型4を置く。ターンテーブル8は磁場空間2a内に固定された下板8bに対して上板8aがz軸の周りに回転することから、石膏型4もz軸の周りに回転する。永久磁石6は、磁場空間2a内に固定されている。この場合、石膏型4内のスラリーは回転磁場に置かれた状態で固定化される。磁化容易軸がa軸である単結晶粒子は、水平面内で回転する回転磁場内で固定化されると、c軸がz軸に沿った姿勢で固定化される。この場合、石膏型4の回転中心に近い位置では、常に高強度の磁場にさらされ、石膏型4の壁に近い位置では、主に低強度の磁場にさらされる。この結果、石膏型4の回転中心に近い位置にあった単結晶粒子群は、そのc軸がz軸方向によく揃っており、焼結すると透明化する。それに対して石膏型4の壁に近い位置にあった単結晶粒子群のc軸はz軸方向からそれたものが多くあり、配向度が低下し、光散乱が増大する。
(第1実施例の変形例3)
図9に示すように、FAPに代えてYVO(バナデート系結晶構造を持つ、イットリウムオルソバナデート)を用いてもよい。YVOに、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホロミウム(Ho)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を添加した場合、磁化容易軸がa軸となることから、図5の固定化プロセスを採用する。YVOに、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を添加した場合、磁化容易軸がc軸となる。この場合には、図3または図4の固定化プロセスを採用する。
一般的に、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホロミウム(Ho)よりなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されているアパタイト系単結晶の磁化容易軸はc軸であり、この場合は静磁場を加える図3または図4の装置を用いる。プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されているバナデート系単結晶の磁化容易軸もc軸であり、図3または4の装置を用いる。
これに対して、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されているアパタイト系単結晶の磁化容易軸はa軸であり、この場合は図5の装置を用いて回転磁場を加えながらスラリーを固定化する。セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホロミウム(Ho)よりなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されているバナデート系単結晶の磁化容易軸もa軸であり、図5の装置を用いる。
(第1実施例の変形例4)
図9に示すように、FAP,YVOに代えて、希土類元素を添加したYAGを用いてもよい。YAGは磁気異方性をもたない。しかしながら希土類元素を添加すると異方性を発揮する。等方性のYAGでも強励起すると、光弾性効果によって熱複屈折が生じる。その度合いは、等方性結晶であっても軸依存性を有する。YAGの配向領域では、複屈折を補償することができる。YAGの無配向領域では、複屈折を補償できない。等方性の単結晶でも、強励起状態では、配向度によって異なる光学特性となる。この性質を利用すると、例えば配向領域では低ロス状態を実現し、無配向領域では高ロス状態を実現することができる。光学的に等方性の立方晶系材料を用いる場合にも、前記した(1)発振領域制御と(2)励起光制御が可能となる。
【0031】
(第2実施例)ケース2−1に相当する。空間内で強度が変化している磁場内でスラリーを固定化し、配向状態は均一である(一様に無配向)が、組成は材料中で変化している透光性多結晶材料を製造した。
<固定化が進行した磁場>
図4に示すように、円筒形の超伝導磁石2の磁場空間2a内に、スラリーを固定化中の石膏型4を置いた。磁場空間2a内の磁束は、基本的に磁場空間2aの長手方向に沿っている。石膏型4は、磁場空間2a中心軸(z軸)上に置き、z軸方向の中心位置に置いた。z軸に沿って測定した本装置の最大出力における磁束密度分布を(b)図に示す。超伝導磁石6のz軸方向の長さは860mmであり、中心位置の近傍(約50mm)ではz軸に沿った磁束密度の変化が小さい。図中の6は永久磁石であり、磁場空間2aの中心軸上に置かれている。中心軸上に置かれている永久磁石6の影響で超伝導磁石2の磁場が歪み、(c)に示すように、中心軸上で強い磁場を持ち、磁場空間2aの壁に近づくにつれて磁場が弱くなっている。本実施例では石膏型4の中心軸上での磁束密度を1.6T(テスラ)に設定した。なお、固定化中の石膏型4は、296Kの温度に置いてスラリーを固定化した。
<用いた単結晶>
Erを添加したYAGの単結晶粒子群と、Erを添加しないYAGの単結晶粒子群を含むスラリーを用いた。
Erを添加しないYAGの単結晶粒子は磁気異方性を持たない。また磁化率が低く、勾配磁場内に置いたときに受ける並進力は小さい。
Erを添加したYAGの単結晶粒子は磁気異方性を持つ。ただし、その磁気異方性は低温環境下で顕在化し、室温かつ低強度磁場環境では磁気異方性が小さいことから、回転トルクは作用しない。その一方において磁化率は高く、勾配磁場内に置いたときに受ける並進力は大きい。室温かつ低強度磁場環境でも並進力は作用する。
<固定化>
図4の装置で2種類の単結晶粒子群(Er:YAG(Erが添加されているYAG)とUD:YAG(希土類が添加されていないYAG))を含むスラリーを固定化したところ、磁束密度の大きな領域には大きな並進力が作用するErを添加したYAGの単結晶粒子が優先的に移動し、Erを添加したYAGの存在比率が高い組成となった。その結果、磁束密度が小さい領域ではErを添加しないYAGの存在比率が高い組成となった。結晶方向については、一様に無配向であった。
図6は、Er:YAGを含むスラリーを一様磁場内で固定化した単結晶粒子群と、勾配磁場内で固定化した単結晶粒子群を対比して示す。実験では、アクリル製の直方体の容器内にEr:YAGの粒子群を含むスラリーを入れ、これを磁場中に設置し、その後に磁場から取り出し、裏側から光を当てながら撮影した。Er:YAG粒子が多く集まっているところでは光の透過率が低いために画像が暗くなり、Er:YAG粒子の集積密度が低いところでは光の透過率が高いために画像が明るくなる。右図は中央付近で極大となる勾配磁場をかけた場合の写真であり、中央で黒く、中央ではEr:YAG粒子の集積密度が高いことがわかる。それに対して周囲では明るく、YAG粒子の集積密度が低いことが確認できる。左図は、一様磁場内で固定化した場合の写真を示し、Er:YAG粒子が一様に分布した状態で固定化される。大きな並進力が作用する単結晶粒子は、磁束密度が大きな領域に優先的に集中することが確認される。
<得られた多結晶材料>
スラリーを固定化し、直径18mm、厚さ1mmの円板を得た。中心ではErを添加したYAGがリッチであり、周囲ではErを添加しないYAGがリッチな組成分布であった。結晶方向については、一様に無配向であったが、YAGは等方性であることから、焼結することによって透明多結晶を得ることができる。
図8は、国際公開W02005/091447号公報に開示されているレーザ発生装置を示す。同公報に記載のレーザ発生装置は、図8に示すように、中心部のコア20とそれを取り巻く励起光ガイド22で構成されている円板26と、水冷式のヒートシンク30が、高熱伝導接合層28で接合された構造を備えている。円板26の下面には、レーザ用の高反射膜24が形成されている。
コア20は、希土類イオンが添加されたYAGで形成されている。希土類イオンが発光中心となってレーザ光を発振する。励起光ガイド22は、希土類が添加されていないYAGで形成されている。発光中心と持たないことからレーザ光を発振しない。代わりに、半径方向外側から照射される励起光をコア20にガイドする。
図8のレーザ発生装置は、レーザ光の発生効率が高く、効率的に冷却できる。高輝度・高出力・高効率で動作する小型の固体レーザ装置である。
国際公開W02005/091447号公報には、コア20の製造プロセスと、励起光ガイド22の製造プロセスを順に続けて円板26を製造する技術が記載されている。前記した第2実施例の技術によると、円板26の製造プロセスが簡単化される。また、コア20から励起光ガイド22まで連続的に変化する特性(コア20と励起光ガイド22の境界が存在しない特性)が得られる。また、コア22内における希土類元素の添加量分布を制御することもできる。レーザビームの中心部で希土類イオン濃度が最大となるコアを得ることもできる。
第2実施例で製造したYAGは配向していない。しかしながらYAGは等方性であり、配向していなくても透明である。レーザ発振に伴って発熱すると複屈折現象が生じる。その複屈折現象を補償するにはYAGが配向していることが有利である。第2実施例では、効果的に冷却するので、YAGが配向していなくても高効率でレーザ発振する。
【0032】
(第2実施例の変形1)
上記では、YAGにErを添加しているが、Er以外の希土類元素を添加してもよい。
図10に、添加することで磁化率を増大させる希土類元素をその順序で示している。図10に含まれる任意の種類の希土類元素を添加することができる。
固定化中のスラリーを置く磁場の強度分布を調整することで、希土類元素が添加されたYAGをリッチに含む領域、すなわち発振スポットとなるコアの形状を制御したり、発振スポットとなるコアの存在数を制御したりすることができる。
(第2実施例の変形2)
希土類を添加したYと希土類を添加しないYが混在するスラリーを用いても、希土類を添加したYをリッチに含む領域と希土類を添加しないYをリッチに含む領域が制御された透光性多結晶光学材料を製造することができる。Yは基本的に磁気異方性をもたないことから、一様に無配向な透光性多結晶光学材料となる。
【0033】
(第3実施例)ケース2−2に相当する。空間に対して強度が変化している勾配磁場内でスラリーを固定化し、組成と配向状態の両者が材料中で変化している透光性多結晶材料を製造した。
<用いた単結晶>
Dyを添加したFAPの単結晶粒子群と、希土類を添加しないFAPの単結晶粒子群を含むスラリーを用いた。
FAPは磁気異方性を持っている。しかしながら希土類を添加しないFAPの磁気異方性は小さく、固定中のスラリーを置く磁場の強度を調整すると、希土類を添加しないFAPは回転しない関係を得ることができる。
希土類を添加したFAPは、大きな磁気異方性を持っている。希土類を添加しないFAPが回転しない強度の磁場のもとでも、希土類を添加したFAPは回転する。また、希土類を添加しないFAPが回転しない強度の磁場内において、希土類を添加したFAPには強い並進力が作用し、希土類を添加しないFAPには弱い並進力が作用する。
<固定化>
Dyを添加したFAPの磁化容易軸はc軸となることから、図4の固定化プロセスを採用した。中心部の磁束密度を3.5Tとした。
なお、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Dy)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホロミウム(Ho)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を添加したFAPの磁化容易軸はc軸となることから、図4の固定化プロセスを採用する。
また、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を添加したFAPの磁化容易軸はa軸となることから、図5の固定化プロセスを採用する。
いずれの場合も、希土類を添加しないFAPは回転せず、希土類を添加したFAPは回転する強度の磁場のもとで固定化する。
<得られた多結晶材料>
スラリーを固定化し、直径15mm、厚さ2mmの円板を得た。中心ではDyを添加したFAPがリッチであり、周囲では希土類を添加しないFAPがリッチな組成分布であった。また、中心ではDyを添加したFAPが配向した。周囲では希土類を添加しないFAPが無配向であった。
この透光性多結晶材料は、図8に示したレーザ発振装置をさらに改良する。図7に示すように、周辺の領域12は発光中心を備えていないことからレーザ発振しない。ただし散乱性であるとはいえ透光性であり、励起光をガイドすることができる。中心領域は、発光中心を備えているとともに透明であることから、レーザ発振する。周辺は励起光ガイド12となり、中心はコア10となる。励起光ガイド12の側面を半径方向外側から励起光14で照射すると、コア10からレーザ光が発振する。
図7の透光性多結晶材料は、下記の特長を備えている。
(1)コア10を異方性を持つFAPで形成でき、レーザ発振効率を上昇できる。
(2)コア10と励起光ガイド12の境界が存在しない構造を実現できる。
(3)コア10の形状・個数を制御できる。
(4)光を散乱させる励起光ガイド12を利用して励起光を制御することができる。例えば、レーザビームの強度分布にあわせた励起光の強度分布を作ることができる。あるいは、光散乱を意識的に利用するアパーチャ効果を得ることもできる。
(5)コア10内における希土類元素の添加量分布を制御することもできる。レーザビームの中心部で希土類濃度が最大となるコア10を得ることもできる。
(6)コア10内における配向度分布を制御することもできる。
ケース2−2の材料は、組成分布を持つ材料の用途と、配向度分布を持つ材料の用途に兼用することができる。また、両者を組み合わせた材料、例えば、透明で発光中心を持つコアと、散乱性で発光中心を持たない励起光ガイドを併せ持つ光学材料を実現することもできる。
【0034】
(第4実施例)ケース2−3−aに相当する。組成は材料中で変化しているものの、結晶方向は材料中で一様に揃っている透光性多結晶材料を製造した。
<用いた単結晶>
Dyを添加したFAPの単結晶粒子群と、Ndを添加したFAPの単結晶粒子群を含むスラリーを用いた。
Dyを添加したFAPもNdを添加したFAPも、磁化容易軸はc軸である。勾配磁場内に置いたときに、Dyを添加したFAPには強い並進力が作用し、Ndを添加したFAPには弱い並進力が作用する。
<固定化>
磁化容易軸はc軸であることから、図4の固定化プロセスを採用し、中心部の磁束密度を10Tとした。強い磁場が印加される中心部に、強い並進力が作用するDyを添加したFAPが多く集まった。
<得られた多結晶材料>
スラリーを固定化し、直径15mm、厚さ2mmの円板を得た。中心ではDyを添加したFAPがリッチであり、周囲ではNdを添加したFAPがリッチな組成分布であった。また、中心でも周辺でもFAPが一様にc軸配向していた。
<焼結>
本手法で得られバルク体を仮焼結後に、加熱温度1873K、196MPaに加圧されたアルゴン雰囲気下で1時間焼結することによって、一次焼結体をカプセルに封入しない(カプセルフリーの)HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方加圧成形)処理によって、透光性多結晶材料とすることができる。
【0035】
(第5実施例)ケース2−3−bに相当する。組成と結晶方向が材料中で変化している透光性多結晶材料を製造した。
<用いた単結晶>
Ndを添加したFAPの単結晶粒子群と、無添加のFAPの単結晶粒子群を含むスラリーを用いた。
Ndを添加したFAPの磁化容易軸はc軸であり、無添加のFAPの磁化容易軸はa軸である。磁場内に置いたときに、強磁場内に置いたときに、無添加のFAPには弱い並進力(反発力)が作用し、Ndを添加したFAPには強い並進力(求心力)が作用する。
<固定化>
図4の装置を用い、中心部の磁束密度を10Tとした。
<得られた多結晶材料>
スラリーを固定化し、直径15mm、厚さ2mmの円板を得た。中心ではNdを添加したFAPがリッチであり、周囲では無添加のFAPがリッチな組成分布であった。
また中心ではNdを添加したFAPが厚み方向に配向しているのに対し、周辺では無添加のFAPのc軸が円板面内に揃っていた。周辺のFAPは、円板の垂直方向から観察すると配向していない。そのために透光性ではあるが散乱性となる。
<焼結>
本手法で得られバルク体を仮焼結後に、加熱温度1873K、196MPaに加圧されたアルゴン雰囲気下で1時間焼結することによって、一次焼結体をカプセルに封入しない(カプセルフリーの)HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間等方加圧成形)処理によって、透光性多結晶材料とすることが可能である。この材料は、屈折率変調によって波長を安定化させる場合、あるいは屈折率変調によって狭帯域化させる場合に有用である。また屈折率の差を利用したマイクロ共振機の実現にも有効である。
【0036】
上記では、YAG,FAPを利用する場合を説明したが、本発明で利用可能な単結晶は上記に限られない。例えば、YVOの化学式で示されるイットリウムオルトバナデート、GdVO4の化学式で示されるガドリニウムオルトバナデート、LuVO4の化学式で示されるルテチウムオルトバナデート、SFAP,SVAP,アルミナ系化合物よりなる単結晶,イットリウムリチウムフロライド系化合物よりなる単結晶,Y,Sc等々が利用可能である。
なかでも、α5(βO4)3γ2(α:Ca又はSr、β:P又はV、γ:OH又はF)の化学式で示されるフッ素アパタイト、水酸アパタイト又はバナジウムアパタイト等、例えば、Ca5(PO4)3F、Sr5(PO4)3F、Sr5(VO4)3F、Ca5(VO4)3F、Ca5(PO4)3OH、Sr5(PO4)3OH、Sr5(VO4)3OH、Ca5(VO4)3OHなどは利用に適している。
複数種類の希土類元素が各単結晶粒子に添加されていてもよい。スラリーに2種類以上の単結晶粒子が含まれていてもよい。
また本発明で製造される透光性多結晶材料は、レーザ媒質、光学基板、窓、レンズ、プリズム、ビームスプリッタ、導波路、フィルタ等の各種光学製品の製造に利用できる。
【0037】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
また下記に記載する特許請求の範囲の技術的範囲は、実施例に限定されない。実施例はあくまで実施例を例示するものである。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
S1:単結晶粒子群の調整工程
S2:スラリー調整工程
S3:固定化工程
S4:焼結工程
2:超伝導磁石
2a:磁場空間
3a,3b:電磁石
4,5:石膏型
6,7a,7b:永久磁石
8:回転テーブル
10:コア
12:励起光ガイド
14:励起光
16:レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場内に置くと力を受ける単結晶粒子群を含むスラリーを磁束密度が空間に対して変化している磁場内で固定化する工程と、
固定化した材料を焼結する工程を備えている、
光学特性が材料中で変化している透光性多結晶材料の製造方法。
【請求項2】
希土類元素が添加された単結晶粒子群を含むスラリーを用いることを特徴とする請求項1に記載の透光性多結晶材料の製造方法。
【請求項3】
勾配磁場内に置いたときに受ける並進力が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の透光性多結晶材料の製造方法。
【請求項4】
磁場内に置いたときに受ける回転力が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかの1項に記載の透光性多結晶材料の製造方法。
【請求項5】
磁場内に置いたときに安定する結晶方向が相違する複数種類の単結晶粒子群を含むスラリーを用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかの1項に記載の透光性多結晶材料の製造方法。
【請求項6】
光学特性が材料中で連続的に変化している透光性多結晶材料。
【請求項7】
複数種類の単結晶粒子群を含み、単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化していることを特徴とする請求項6に記載の透光性多結晶材料。
【請求項8】
単結晶粒子群の配向度が材料中で連続的に変化していることを特徴とする請求項6または7に記載の透光性多結晶材料。
【請求項9】
複数種類の単結晶粒子群を含み、単結晶粒子群の配向方向が材料中で連続的に変化していることを特徴とする請求項6から8のいずれかの1項に記載の透光性多結晶材料。
【請求項10】
複数種類の単結晶粒子群を含み、単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化し、単結晶粒子群の配向度が材料中で連続的に変化していることを特徴とする請求項6に記載の透光性多結晶材料。
【請求項11】
複数種類の単結晶粒子群を含み、単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化し、単結晶粒子群の配向方向が材料中で連続的に変化していることを特徴とする請求項6に記載の透光性多結晶材料。
【請求項12】
複数種類の単結晶粒子群を含み、単結晶粒子の組成が材料中で連続的に変化する一方において、単結晶粒子群の配向方向が揃っていることを特徴とする請求項6に記載の透光性多結晶材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−166433(P2012−166433A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28685(P2011−28685)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【Fターム(参考)】