透光性導電膜基板の製造方法
【課題】透明導電膜の光透過率を低下させることなく、且つ製造コストを低減し量産に向いた透光性導電膜基板の製造方法を提供する。
【解決手段】基材上(10)に形成した透明導電膜(1)の表面に互いに分離したパターンを有する透明絶縁材料(2)を形成し、該透明絶縁材料が付着していない透明導電膜の露出部分に電気めっき法により選択的に金属膜(3)を形成することを特徴とする。透明導電膜の透過率の向上のために、透明絶縁材料のパターンを、透明絶縁材料を含む液状物質の粒径の異なる少なくとも2種類のミストの噴霧により形成してもよい。
【解決手段】基材上(10)に形成した透明導電膜(1)の表面に互いに分離したパターンを有する透明絶縁材料(2)を形成し、該透明絶縁材料が付着していない透明導電膜の露出部分に電気めっき法により選択的に金属膜(3)を形成することを特徴とする。透明導電膜の透過率の向上のために、透明絶縁材料のパターンを、透明絶縁材料を含む液状物質の粒径の異なる少なくとも2種類のミストの噴霧により形成してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性導電膜基板の製造方法に関し、特に薄膜太陽電池の下部電極としてのモリブデン等の金属薄膜または上部電極としての酸化インジウム錫等の電極付き透光性導電膜の製造方法に関する。本発明により製造した透光性導電膜基板は、太陽電池の受光面側電極としての利用の他、液晶表示パネル、プラズマ・ディスプレイ・パネル、有機EL素子など各種の表示装置の透光性電極膜として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の集電効率を高めるため、透光性導電膜の電気的抵抗を実効的に低減する技術が使われている。また、ディスプレイ・パネルにおいては透光性導電膜上に薄膜トランジシスタ(TFT)等の駆動素子を形成する必要から、できるだけ薄く且つ抵抗の小さい透光性電極膜が望まれている。
【0003】
透光性導電膜の電気的抵抗を実効的に低減させる手段として、従来、図11〜図13に示すような方法があった。
【0004】
(1)透明導電膜上に金属導体を大きな開口率を有する形状で配線する方法、例えば図11に示すように、金属導線11を基板10上の透明導電膜1表面に導電ペースト12を用いて透光部分の開口率を大きくとるように接着する方法がある。
【0005】
(2)透明導電膜上に導電ペーストを大きな開口率を有する形状で塗布する方法、例えば、図12に示すように、基板10上の透明導電膜1表面に導電ペースト12を透光部分の開口率を大きくするようにスクリーン印刷する方法がある。
【0006】
(3)透明導電膜上に導電ペーストを大きな開口率を有する形状で塗布した後、その上に金属膜を電気めっきする方法、例えば、図3に示すようにスクリーン印刷で基板10上の透明導電膜1表面に導電ペースト12を透光部分の開口率を大きくするようにパターン形成後、その上にめっき膜13を形成する方法。
【0007】
(4)透明導電膜1上に無電解めっき触媒ペーストを大きな開口率を有する形状で塗布した後、その上に金属膜13を無電解めっきする方法、
など、があった。ここで、大きな開口率を有する形状としては、細線状、くし形状、メッシュ形状、などである。
【0008】
透光性導電膜の製造に関する先行技術に示された例としては、次のようなものがある。
【0009】
特許文献1(特開平5−63218号公報)では、基体上に半導体膜を堆積してなる薄膜の太陽電池において、半導体層の上部に高分子樹脂からなるパッシベーション層をコーティングし、このパッシベーション層の上に導電性ペーストからなる上部電極を積層し、この上部電極の上に電気めっきによる集電電極を積層している。
【0010】
特許文献2(特開2003−203681号公報)では、ガラス板上に透明導電膜を設け、この透明導電膜上に格子状又は櫛歯状のグリッドを設け、開口率を90〜99%としている。
【0011】
特許文献3(特開2003−331654号公報)では、基材上に粒径10μm以下の微粒子を含んだ塗液を塗布後、乾燥或いは硬化させることにより、溝幅が10μm以下のメッシュ状となっているクラック層を形成し、これらのクラック層の溝内部に導電性物質を充填している。
【0012】
【特許文献1】特開平5−63218号公報
【特許文献2】特開2003−203681号公報
【特許文献3】特開2003−331654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の従来の金属(電極)膜を有する透光性導電膜の製造方法において、透明導電膜に細線を貼り付ける方法は手間がかかり量産向きではない。リゾグラフィーやマスクを用いて金属膜を配線する方法は多数の工程を必要としコスト高となる。
【0014】
導電ペーストをスクリーン印刷で塗布する方法は量産性は高いがスクリーンが目詰まりしやすいなどの問題がある。また、ペースト材の抵抗は金属膜に比べると少なくとも100倍以上大きく、透光性導電膜の抵抗低減効果が十分ではない。
【0015】
導電ペーストや無電解めっき触媒ペーストをスクリーン印刷する際、スクリーンが目詰まりしやすいという問題がある。導電ペーストや無電解めっきペーストがない部分にも汚れなどの影響によりめっき材料が付着して光透過率が低下するという問題がある。
【0016】
そこで本発明では、上記の従来例の問題点に鑑み、透光性導電膜の光透過率を低下させることなく、且つ製造コストを低減し量産に向いた透光性導電膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、基材上に形成した透明導電膜の表面に互いに分離したパターンを有する透明絶縁材料を形成し、該透明絶縁材料が付着していない透明導電膜の露出部分に電気めっき法により選択的に電極となる金属膜を形成することを特徴とする電極付き透光性導電膜基板の製造方法が提供される。
【0018】
この場合において、透明絶縁材料を含む液状物質を透明導電膜の表面に適量噴霧することにより、互いに分離した透明絶縁材料のパターンを形成することを特徴とする。
【0019】
また、酸化錫を主成分とする透明導電膜上に、硫酸銅を含むめっき液を用いて銅薄膜を析出させることを特徴とする。
【0020】
また、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜上に、ピロリン酸銅を含むめっき液を用いて銅薄膜を析出させることを特徴とする。
【0021】
更に、透明絶縁材料のパターンを、透明絶縁材料を含む液状物質の粒径の異なる少なくとも2種類のミストの噴霧により形成してもよい。少なくとも2種類のミストは、それぞれ40〜50%の被覆率で透明導電膜上に噴霧するのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
金属膜めっきのマスクとして機能する透明絶縁材料は光透過率が高いのでそのまま透明導電膜上に残しておいても差し支えなく、製造工程が簡便である。更に、透明絶縁材料が下地である透明導電膜の保護膜として作用するので、めっき工程における透明導電膜の損傷、汚染を防止できる利点がある。
【0023】
マスクを使わずに透明絶縁材料の液滴状パターンを形成するので、大面積基板を高速に処理できるため量産化に適した方法である。
【0024】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜は耐酸性に乏しいため、弱アルカリ性のピロリン酸銅めっき浴を用いる必要がある。これにより、透明導電膜に損傷を与えることなく、良質の銅薄膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1〜図3は、本発明による透光性導電膜の製造方法の実施形態を模式的に示すものである。図1は透明のガラス基板又はプラスチック基板10の上面に透明導電膜1を形成したものである。透明導電膜1としては、フッ素ドープ酸化錫(FTO)又はインジウム・錫酸化物(ITO)である。
【0026】
図2は透明導電膜1上に透明絶縁体2を噴霧した状態を示す。透明導電膜1上の全領域に対する透明導電膜1上に噴霧された透明絶縁体2の占める領域が開口率を規定し、ここでいう透光性導電膜の透過率はこの開口率と等しい。図3は銅めっきにより透明絶縁体2から露出されている透明導電膜1上に銅の薄膜3を形成した状態を示す。
【0027】
本発明によれば、図3に示すようにめっきにより透明絶縁体2から露出されている透明導電膜1上に銅の薄膜3を形成しているので、銅のめっき膜3は薄く形成でき、導電ペーストをスクリーン印刷等で塗布する従来法と比べ、開口率の大きな低抵抗の透光性導電膜を形成することができる。また、図2に示すように、透明絶縁体2を透明導電膜1上に噴霧により形成するので、透明絶縁体2のミクロンサイズの微細なパターンを有する透光性導電膜を製造することができる。
【0028】
本発明により製造される透明絶縁体のミクロンサイズの微細パターンを有する透光性導電膜においては、良好な光学特性と電気特性を得るために、透明絶縁材料が付着していない部分(すなわち電気めっき法で形成した金属膜の部分)が不連続にならないようにしながら、透明絶縁材料の付着部分(すなわち電気めっきによる金属膜の存在しない部分)が大きくなるようにする必要がある。噴霧により単一粒径の絶縁材料のミストを吹き付けて、電気めっきのマスクを形成した場合、透光性導電膜の透光部分の開口率が65〜70%程度に大きくなると、絶縁材料ミストの粒径にもよるが、金属膜(電極膜)のパターンが不連続になってしまう。図8は、粒径300μmの単一粒径のミストを、75%の開口率を与えるまで吹き付けた場合の、透明絶縁材料付着パターン(後に説明するシミュレーションの手法による)を示しており、黒い部分に相当する金属膜パターンが不連続になっているのが分かる。
【0029】
透光性導電膜の透過率を大きくするため、金属膜(電極膜)が不連続になるのを回避しつつ開口率を大きくしようとする場合には、粒径の異なる透明絶縁材料のミストを透明導電膜上に噴霧・塗布して、後の金属膜材料の電気めっきのマスクとなる透明絶縁材料のパターンを形成するのが有利である。例えば、透明絶縁材料の所定の粒径のミストを透明導電膜上に40〜50%の被覆率で噴霧後、別の粒径のミストをその被覆率が40〜50%となるように噴霧することができる。最初に大きい粒径のミストを噴霧後、その粒径の1/10〜1/10000である小さい粒径のミストを噴霧してもよく、あるいは、最初に小さい粒径のミストを噴霧後、その粒径の10〜10000倍の大きな粒径のミストを噴霧してもよい。場合によっては、粒径(大きさ)の異なる2種類のミストを同時に噴霧することも可能である。なお、ここで使用する「被覆率」というのは、噴霧したミストから形成されて透明導電膜上に直接位置する透明絶縁体が占める領域の面積の、透明導電膜の全表面積に対する比率として定義される。この「被覆率」は、先に定義した透光性導電膜の「開口率」又は「透光率」と等しくなる。
【0030】
粒径の異なる2種類のミストを噴霧することによって、粒径の大きなミストに由来する島状の透明絶縁体どうしの隙間に、粒径の小さなミスト由来の島状透明絶縁体を配置することができ、それにより透明絶縁体の付着していない海状部分の連続性を保ったまま、透明絶縁体付着部分の面積を増加させることができる。こうして、透光性導電膜の高い透過率を保持しつつ、低抵抗の金属集電電極を形成することができる。
【0031】
ランダムな確率分布に基づくミスト付着パターンのシミュレーションから、被覆率が最大50%程度までは、付着した透明絶縁体のパターンは全て又はほとんどの各透明絶縁体が孤立した島状であり、従ってそれによりマスクされていない部分、すなわち選択的に電気めっきが施される領域では、被着した金属めっき膜が全面にわたり連続しており、この金属めっき膜を通して十分な電気伝導性を確保できることが示された。例えば、粒径の大きいミストを噴霧する第1工程に引き続き、粒径の小さいミストによる第2工程を実施しても、第1工程に比べてミスト径が有意に小さければ、第1工程でミストが付着しなかった領域に更にスケールダウンした透明絶縁体パターンが形成されることになり、しかもその透明絶縁体パターンは透明絶縁体が全て又はほとんど孤立した島状である。従って、透明絶縁体のパターンでマスクされていない部分、すなわち選択的に金属めっきが施される領域は全面にわたり連続しており、金属めっき膜を通して十分な電気伝導性を確保することができる。
【0032】
一方、各工程における透明絶縁体の被覆率が低いほど、金属めっき膜の連続性は更に良好となるが、それに対して透光性導電膜の透過率は低くなる。従って、透明絶縁体の被覆率を極端に小さくすることは不適当であり、各工程における透明絶縁体の被覆率は実用的にはそれぞれ約40%以上であるのが好ましい。
【0033】
このように、異なる粒径のミストを噴霧する場合、それぞれの粒径のミストで形成する透明絶縁体の被覆率は40〜50%の範囲内になるよう制御するのが好ましい。異なる粒径のミストを噴霧する2つの工程における透明絶縁体の被覆率がともに40%である場合、2つの工程の終了後に金属めっきを施した透光性導電膜の透過率は、0.4+(1−0.4)×0.4=0.64、すなわち64%となる。また、2つの工程における透明絶縁体の被覆率がともに50%である場合、2つの工程の終了後に金属めっきを施した透光性導電膜の透過率は、0.5+(1−0.5)×0.5=0.75、すなわち75%となる。
【0034】
第2工程後に、第2工程で噴霧した粒径と異なる粒径のミストを更に噴霧する第3の工程を加えることにより、透光性導電膜の最終的な透過率を更に向上できることは容易に類推できる。従って、必要とされる透過率に応じて、粒径の異なるミストの噴霧工程の数を適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
5cm角のガラス基板10上に厚さ1μmの酸化錫膜(FTO)を塗布した導電基材を使用した。次に透明絶縁材を酸化錫膜の表面に付着させた。その方法として、アクリル樹脂と有機溶剤の混合液をスプレーガンを用いて約1m離れた位置に置いた導電基材の酸化錫膜の表面上に噴霧し、液滴を適量付着させた。その様子を図4に示す。図4において、1は酸化錫膜表面、2はアクリル樹脂を示す。
【0036】
これを室温、大気中に30分間放置して溶剤を蒸発させ、アクリル樹脂を固化させた。次に図5に示すような一般的な銅めっき浴を用いてアクリル樹脂を付着させた酸化錫膜上に銅めっきを行った。めっき液の組成は、硫化銅5水和物:150g/L、硫酸:50g/Lであり、電流密度:1A/dmで約5分間めっきを行った。なお、図5において、5はアクリル樹脂を付着させた導電基板、6は銅板、7はめっき液である。
【0037】
この結果、酸化錫膜の露出部(アクリル樹脂が付着していない部分)に銅膜が析出した。その厚さは、1〜2μm程度であった。アクリル樹脂が絶縁性であるためアクリル樹脂上には銅膜は析出せず、結果として図6及び図7に示すような網目状のめっき膜3が形成された。
【0038】
この膜のシート抵抗値を共和理研、K−705RS(4端子法)を用いて測定した結果、シート抵抗は0.1Ω/□であった。また、光透過率を日立、分光光度計U−4100型を用いて測定した結果、57%であった。一方、加工前の酸化錫膜のシート抵抗は10Ω/□、光透過率は82%であった。銅めっき膜の開口率を見積もったところ約70%であった。これより、加工後の光透過率は銅めっき膜の開口率によって支配されることは明らかである。
【0039】
本発明では、アクリル樹脂付着粒子(透明絶縁材)の形状・密度を変えることにより、透光性導電膜を最適な透光性と導電性を有するものに調整できる。また、アクリル樹脂付着粒子は透光性が高く且つ下地膜に対して腐食や汚れを防ぐ保護膜として機能するので、銅めっき工程の後これを除去する必要がない。
【0040】
透明絶縁材としてはこの実施例で用いたアクリル樹脂以外にも、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などの透明性の高い他の材料を用いることができる。また、金属めっき膜として銅以外に白金、金、パラジウム、銀、ニッケル、コバルトなどの材料及びそれらの合金材料や複合材料の膜を用いても差し支えない。
【0041】
〔実施例2〕
透明導電膜が酸化亜鉛を主成分とする材料で構成されていること、及び、ピロリン酸銅を含む銅めっき液を用いること以外は、実施例1と同様の条件・方法で透光性導電膜を作製した。具体的には、図7に示した透明導電膜1をアルミニウム・ドープ酸化亜鉛薄膜ZnO:Al2O3(98.2wt%)で、透明絶縁膜2をアクリル樹脂で、金属膜3を銅めっき膜で構成した。
【0042】
アルミニウム・ドープ酸化亜鉛薄膜はスパッタ法で作製した。ガラス基板10上に作製した酸化亜鉛膜の膜厚は0.7μmで、シート抵抗は20Ω/□、光透過率は80%であった。
【0043】
次に実施例1の場合と同様の条件・方法によりアクリル樹脂を酸化亜鉛膜表面に噴霧し、図4に示すような島状の構造に付着させた。これを1時間程度の気中乾燥により溶媒を飛散させた後、銅めっき処理を行った。
【0044】
一般に、酸化亜鉛を主成分とする透明導電材料は耐酸性に乏しいことが知られており、実際にアルミニウム・ドープ酸化亜鉛薄膜表面に硫酸銅液を用いて銅めっきを試みたところ、酸化亜鉛薄膜そのものが溶解してしまうことや、かろうじて銅が析出したとしても酸化亜鉛薄膜がガラス基板から剥離してしまうなどの不具合が生じた。そこで中性のめっき液を用いて亜鉛薄膜表面に銅めっきを行うこととした。検討の結果、以下の組成のめっき液を用いると、下地の酸化亜鉛膜にほとんど損傷を与えることなく良質の銅めっき膜が得られることがわかった。
【0045】
[中性電解銅めっき液の組成]
ピロリン酸銅 100g/L
ピロリン酸銅カリウム 350g/L
アンモニア水 4ml/L
こうして図6に示すような網目状の銅めっき膜3を形成した。このようにして得られた透光性導電膜のシート抵抗を共和理研、K−705RS(4端子法)を用いて測定した結果、シート抵抗は0.4Ω/□であった。また、光透過率を日立、分光光度計U−4100型を用いて測定した結果、55%であった。
【0046】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜として、アルミニウムドープ酸化亜鉛以外にガリウムドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化亜鉛、酸化亜鉛・酸化インジウム混合膜、酸化亜鉛・酸化錫混合膜などがあるが、これらの材料に対しても上記のように、中性めっき液を用いて銅めっきをすることが可能であることは容易に類推できる。
【0047】
〔実施例3〕
粒径300μmのミストを基板に被覆率50%で吹きつける第1工程と、その後粒径20μmのミストを同じ被覆率50%で基板に吹き付ける第2工程のシミュレーションを実施した。このシミュレーションでは、一定の粒径(300μm又は20μm)のミストを、被覆率が50%に至るまでランダムに配置していくことで、仮想の透明絶縁体パターンを作製した。第1工程と第2工程をそれぞれ単独に行ったときのパターンを、それぞれ図9(a)と9(b)に示す。図9(b)の第2工程により得られたパターンには、分かりやすくするため、第1工程で形成した大きい透明絶縁体のパターンを示していない。2つの工程の終了後の透明絶縁体パターンは、図9(c)に示すとおりであり、この状態で、透過率(基板表面積に対する透明絶縁体の占める領域の面積比)は、先に示した計算に基づく理論値どおり、75%となった。
【0048】
図9(c)のパターンでの金属電極膜(黒く表示されている部分)の電気特性評価の結果を、同じく2工程で形成し透過率の異なるその他のパターンでの結果、及び単一粒径のミストのみで形成したパターンでの結果とともに、図10に示す。この電気特性評価は、シミュレーションで求めたパターンを銅箔付き基板に転写し、銅箔をエッチングして、金属膜パターンを備えた基板を作製し、その金属膜パターンの対向する両端間の電気抵抗を実際に測定して行った。電気抵抗は、KEITHLEY社のModel 2000 Digital Multimeterを 用いて、四端子法により測定した。基板の透過率(開口率)が大きくなればなるほど、電気抵抗は増大し、単一粒径のミストのみを用いた場合、透過率が60%を超えると銅箔は不連続となった。粒径が10倍程度異なる2種類のミストで形成した複合パターンと比較すると、同一透過率のときの電気抵抗は、異径粒子を複合した場合の方が低いことが分かる。言い換えれば、グラフから見て、粒径の異なるミストを併用して塗布することにより、同一コンダクタンス条件での開口率を2割程度向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明によれば、金属膜めっきのマスクとして機能する透明絶縁材料は光透過率が高いのでそのまま透明導電膜上に残しておいても差し支えなく、製造工程が簡便である。更に、透明絶縁材料が下地である透明導電膜の保護膜として作用するので、めっき工程における透明導電膜の損傷、汚染を防止できる利点がある。
【0050】
マスクを使わずに透明絶縁材料の液滴状パターンを形成するので、大面積基板を高速に処理できるため量産化に適した方法である。
【0051】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜は耐酸性に乏しいため、弱アルカリ性のピロリン酸銅めっき浴を用いる必要がある。これにより、透明導電膜に損傷を与えることなく、良質の銅薄膜を形成できる。
【0052】
よって、本発明によれば、透光性導電膜の光透過率を低下させることなく、且つ製造コストを低減し量産に向いた(低抵抗の)透光性導電膜の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】基板に透明導電膜を形成した基材を示す平面図及断面図である。
【図2】透明導電膜上に透明絶縁材を付着させた状態を示す平面図及断面図である。
【図3】透明導電膜上に銅めっきを施した状態の平面図及断面図である。
【図4】透明導電膜上に透明絶縁材を付着させた状態を示す。
【図5】電解銅めっき工程を示す。
【図6】銅めっき膜を形成した状態を示す。
【図7】銅めっき膜を形成した状態の断面図である。
【図8】シミュレーションにより求めた粒径300μmの単一粒径のミストを75%の開口率を与えるまで吹き付けたときの透明絶縁体のミスト付着パターンを示す図である。
【図9】シミュレーションにより求めた異なる粒径のミストの噴霧により形成した透明絶縁体のミスト付着パターンを示す図であって、(a)は粒径300μmのミストを基板に被覆率50%で吹きつける第1工程で形成したパターン、(b)は粒径20μmのミストを同じ被覆率50%で基板に吹き付ける第2工程で形成したパターン、(c)は最終的に得られる透明絶縁体パターンを示している。
【図10】粒径の異なるミストを用いて2工程で形成した透明絶縁体パターンと、単一粒径のミストのみで形成したパターンの、種々の透過率での電気特性評価の結果を示すグラフである。
【図11】透明導電膜上に金属細線を貼り付け、金属電極を形成した従来例を示す。
【図12】透明導電膜上に導電ペーストを塗布し、金属電極を形成した従来例を示す。
【図13】透明導電膜上の導電ペースト上に金属めっきを施し、金属電極を形成した従来例を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 透明導電膜
2 透明絶縁材
3 金属薄膜
6 銅板
7 めっき液
10 ガラス基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性導電膜基板の製造方法に関し、特に薄膜太陽電池の下部電極としてのモリブデン等の金属薄膜または上部電極としての酸化インジウム錫等の電極付き透光性導電膜の製造方法に関する。本発明により製造した透光性導電膜基板は、太陽電池の受光面側電極としての利用の他、液晶表示パネル、プラズマ・ディスプレイ・パネル、有機EL素子など各種の表示装置の透光性電極膜として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の集電効率を高めるため、透光性導電膜の電気的抵抗を実効的に低減する技術が使われている。また、ディスプレイ・パネルにおいては透光性導電膜上に薄膜トランジシスタ(TFT)等の駆動素子を形成する必要から、できるだけ薄く且つ抵抗の小さい透光性電極膜が望まれている。
【0003】
透光性導電膜の電気的抵抗を実効的に低減させる手段として、従来、図11〜図13に示すような方法があった。
【0004】
(1)透明導電膜上に金属導体を大きな開口率を有する形状で配線する方法、例えば図11に示すように、金属導線11を基板10上の透明導電膜1表面に導電ペースト12を用いて透光部分の開口率を大きくとるように接着する方法がある。
【0005】
(2)透明導電膜上に導電ペーストを大きな開口率を有する形状で塗布する方法、例えば、図12に示すように、基板10上の透明導電膜1表面に導電ペースト12を透光部分の開口率を大きくするようにスクリーン印刷する方法がある。
【0006】
(3)透明導電膜上に導電ペーストを大きな開口率を有する形状で塗布した後、その上に金属膜を電気めっきする方法、例えば、図3に示すようにスクリーン印刷で基板10上の透明導電膜1表面に導電ペースト12を透光部分の開口率を大きくするようにパターン形成後、その上にめっき膜13を形成する方法。
【0007】
(4)透明導電膜1上に無電解めっき触媒ペーストを大きな開口率を有する形状で塗布した後、その上に金属膜13を無電解めっきする方法、
など、があった。ここで、大きな開口率を有する形状としては、細線状、くし形状、メッシュ形状、などである。
【0008】
透光性導電膜の製造に関する先行技術に示された例としては、次のようなものがある。
【0009】
特許文献1(特開平5−63218号公報)では、基体上に半導体膜を堆積してなる薄膜の太陽電池において、半導体層の上部に高分子樹脂からなるパッシベーション層をコーティングし、このパッシベーション層の上に導電性ペーストからなる上部電極を積層し、この上部電極の上に電気めっきによる集電電極を積層している。
【0010】
特許文献2(特開2003−203681号公報)では、ガラス板上に透明導電膜を設け、この透明導電膜上に格子状又は櫛歯状のグリッドを設け、開口率を90〜99%としている。
【0011】
特許文献3(特開2003−331654号公報)では、基材上に粒径10μm以下の微粒子を含んだ塗液を塗布後、乾燥或いは硬化させることにより、溝幅が10μm以下のメッシュ状となっているクラック層を形成し、これらのクラック層の溝内部に導電性物質を充填している。
【0012】
【特許文献1】特開平5−63218号公報
【特許文献2】特開2003−203681号公報
【特許文献3】特開2003−331654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の従来の金属(電極)膜を有する透光性導電膜の製造方法において、透明導電膜に細線を貼り付ける方法は手間がかかり量産向きではない。リゾグラフィーやマスクを用いて金属膜を配線する方法は多数の工程を必要としコスト高となる。
【0014】
導電ペーストをスクリーン印刷で塗布する方法は量産性は高いがスクリーンが目詰まりしやすいなどの問題がある。また、ペースト材の抵抗は金属膜に比べると少なくとも100倍以上大きく、透光性導電膜の抵抗低減効果が十分ではない。
【0015】
導電ペーストや無電解めっき触媒ペーストをスクリーン印刷する際、スクリーンが目詰まりしやすいという問題がある。導電ペーストや無電解めっきペーストがない部分にも汚れなどの影響によりめっき材料が付着して光透過率が低下するという問題がある。
【0016】
そこで本発明では、上記の従来例の問題点に鑑み、透光性導電膜の光透過率を低下させることなく、且つ製造コストを低減し量産に向いた透光性導電膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、基材上に形成した透明導電膜の表面に互いに分離したパターンを有する透明絶縁材料を形成し、該透明絶縁材料が付着していない透明導電膜の露出部分に電気めっき法により選択的に電極となる金属膜を形成することを特徴とする電極付き透光性導電膜基板の製造方法が提供される。
【0018】
この場合において、透明絶縁材料を含む液状物質を透明導電膜の表面に適量噴霧することにより、互いに分離した透明絶縁材料のパターンを形成することを特徴とする。
【0019】
また、酸化錫を主成分とする透明導電膜上に、硫酸銅を含むめっき液を用いて銅薄膜を析出させることを特徴とする。
【0020】
また、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜上に、ピロリン酸銅を含むめっき液を用いて銅薄膜を析出させることを特徴とする。
【0021】
更に、透明絶縁材料のパターンを、透明絶縁材料を含む液状物質の粒径の異なる少なくとも2種類のミストの噴霧により形成してもよい。少なくとも2種類のミストは、それぞれ40〜50%の被覆率で透明導電膜上に噴霧するのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
金属膜めっきのマスクとして機能する透明絶縁材料は光透過率が高いのでそのまま透明導電膜上に残しておいても差し支えなく、製造工程が簡便である。更に、透明絶縁材料が下地である透明導電膜の保護膜として作用するので、めっき工程における透明導電膜の損傷、汚染を防止できる利点がある。
【0023】
マスクを使わずに透明絶縁材料の液滴状パターンを形成するので、大面積基板を高速に処理できるため量産化に適した方法である。
【0024】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜は耐酸性に乏しいため、弱アルカリ性のピロリン酸銅めっき浴を用いる必要がある。これにより、透明導電膜に損傷を与えることなく、良質の銅薄膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1〜図3は、本発明による透光性導電膜の製造方法の実施形態を模式的に示すものである。図1は透明のガラス基板又はプラスチック基板10の上面に透明導電膜1を形成したものである。透明導電膜1としては、フッ素ドープ酸化錫(FTO)又はインジウム・錫酸化物(ITO)である。
【0026】
図2は透明導電膜1上に透明絶縁体2を噴霧した状態を示す。透明導電膜1上の全領域に対する透明導電膜1上に噴霧された透明絶縁体2の占める領域が開口率を規定し、ここでいう透光性導電膜の透過率はこの開口率と等しい。図3は銅めっきにより透明絶縁体2から露出されている透明導電膜1上に銅の薄膜3を形成した状態を示す。
【0027】
本発明によれば、図3に示すようにめっきにより透明絶縁体2から露出されている透明導電膜1上に銅の薄膜3を形成しているので、銅のめっき膜3は薄く形成でき、導電ペーストをスクリーン印刷等で塗布する従来法と比べ、開口率の大きな低抵抗の透光性導電膜を形成することができる。また、図2に示すように、透明絶縁体2を透明導電膜1上に噴霧により形成するので、透明絶縁体2のミクロンサイズの微細なパターンを有する透光性導電膜を製造することができる。
【0028】
本発明により製造される透明絶縁体のミクロンサイズの微細パターンを有する透光性導電膜においては、良好な光学特性と電気特性を得るために、透明絶縁材料が付着していない部分(すなわち電気めっき法で形成した金属膜の部分)が不連続にならないようにしながら、透明絶縁材料の付着部分(すなわち電気めっきによる金属膜の存在しない部分)が大きくなるようにする必要がある。噴霧により単一粒径の絶縁材料のミストを吹き付けて、電気めっきのマスクを形成した場合、透光性導電膜の透光部分の開口率が65〜70%程度に大きくなると、絶縁材料ミストの粒径にもよるが、金属膜(電極膜)のパターンが不連続になってしまう。図8は、粒径300μmの単一粒径のミストを、75%の開口率を与えるまで吹き付けた場合の、透明絶縁材料付着パターン(後に説明するシミュレーションの手法による)を示しており、黒い部分に相当する金属膜パターンが不連続になっているのが分かる。
【0029】
透光性導電膜の透過率を大きくするため、金属膜(電極膜)が不連続になるのを回避しつつ開口率を大きくしようとする場合には、粒径の異なる透明絶縁材料のミストを透明導電膜上に噴霧・塗布して、後の金属膜材料の電気めっきのマスクとなる透明絶縁材料のパターンを形成するのが有利である。例えば、透明絶縁材料の所定の粒径のミストを透明導電膜上に40〜50%の被覆率で噴霧後、別の粒径のミストをその被覆率が40〜50%となるように噴霧することができる。最初に大きい粒径のミストを噴霧後、その粒径の1/10〜1/10000である小さい粒径のミストを噴霧してもよく、あるいは、最初に小さい粒径のミストを噴霧後、その粒径の10〜10000倍の大きな粒径のミストを噴霧してもよい。場合によっては、粒径(大きさ)の異なる2種類のミストを同時に噴霧することも可能である。なお、ここで使用する「被覆率」というのは、噴霧したミストから形成されて透明導電膜上に直接位置する透明絶縁体が占める領域の面積の、透明導電膜の全表面積に対する比率として定義される。この「被覆率」は、先に定義した透光性導電膜の「開口率」又は「透光率」と等しくなる。
【0030】
粒径の異なる2種類のミストを噴霧することによって、粒径の大きなミストに由来する島状の透明絶縁体どうしの隙間に、粒径の小さなミスト由来の島状透明絶縁体を配置することができ、それにより透明絶縁体の付着していない海状部分の連続性を保ったまま、透明絶縁体付着部分の面積を増加させることができる。こうして、透光性導電膜の高い透過率を保持しつつ、低抵抗の金属集電電極を形成することができる。
【0031】
ランダムな確率分布に基づくミスト付着パターンのシミュレーションから、被覆率が最大50%程度までは、付着した透明絶縁体のパターンは全て又はほとんどの各透明絶縁体が孤立した島状であり、従ってそれによりマスクされていない部分、すなわち選択的に電気めっきが施される領域では、被着した金属めっき膜が全面にわたり連続しており、この金属めっき膜を通して十分な電気伝導性を確保できることが示された。例えば、粒径の大きいミストを噴霧する第1工程に引き続き、粒径の小さいミストによる第2工程を実施しても、第1工程に比べてミスト径が有意に小さければ、第1工程でミストが付着しなかった領域に更にスケールダウンした透明絶縁体パターンが形成されることになり、しかもその透明絶縁体パターンは透明絶縁体が全て又はほとんど孤立した島状である。従って、透明絶縁体のパターンでマスクされていない部分、すなわち選択的に金属めっきが施される領域は全面にわたり連続しており、金属めっき膜を通して十分な電気伝導性を確保することができる。
【0032】
一方、各工程における透明絶縁体の被覆率が低いほど、金属めっき膜の連続性は更に良好となるが、それに対して透光性導電膜の透過率は低くなる。従って、透明絶縁体の被覆率を極端に小さくすることは不適当であり、各工程における透明絶縁体の被覆率は実用的にはそれぞれ約40%以上であるのが好ましい。
【0033】
このように、異なる粒径のミストを噴霧する場合、それぞれの粒径のミストで形成する透明絶縁体の被覆率は40〜50%の範囲内になるよう制御するのが好ましい。異なる粒径のミストを噴霧する2つの工程における透明絶縁体の被覆率がともに40%である場合、2つの工程の終了後に金属めっきを施した透光性導電膜の透過率は、0.4+(1−0.4)×0.4=0.64、すなわち64%となる。また、2つの工程における透明絶縁体の被覆率がともに50%である場合、2つの工程の終了後に金属めっきを施した透光性導電膜の透過率は、0.5+(1−0.5)×0.5=0.75、すなわち75%となる。
【0034】
第2工程後に、第2工程で噴霧した粒径と異なる粒径のミストを更に噴霧する第3の工程を加えることにより、透光性導電膜の最終的な透過率を更に向上できることは容易に類推できる。従って、必要とされる透過率に応じて、粒径の異なるミストの噴霧工程の数を適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
5cm角のガラス基板10上に厚さ1μmの酸化錫膜(FTO)を塗布した導電基材を使用した。次に透明絶縁材を酸化錫膜の表面に付着させた。その方法として、アクリル樹脂と有機溶剤の混合液をスプレーガンを用いて約1m離れた位置に置いた導電基材の酸化錫膜の表面上に噴霧し、液滴を適量付着させた。その様子を図4に示す。図4において、1は酸化錫膜表面、2はアクリル樹脂を示す。
【0036】
これを室温、大気中に30分間放置して溶剤を蒸発させ、アクリル樹脂を固化させた。次に図5に示すような一般的な銅めっき浴を用いてアクリル樹脂を付着させた酸化錫膜上に銅めっきを行った。めっき液の組成は、硫化銅5水和物:150g/L、硫酸:50g/Lであり、電流密度:1A/dmで約5分間めっきを行った。なお、図5において、5はアクリル樹脂を付着させた導電基板、6は銅板、7はめっき液である。
【0037】
この結果、酸化錫膜の露出部(アクリル樹脂が付着していない部分)に銅膜が析出した。その厚さは、1〜2μm程度であった。アクリル樹脂が絶縁性であるためアクリル樹脂上には銅膜は析出せず、結果として図6及び図7に示すような網目状のめっき膜3が形成された。
【0038】
この膜のシート抵抗値を共和理研、K−705RS(4端子法)を用いて測定した結果、シート抵抗は0.1Ω/□であった。また、光透過率を日立、分光光度計U−4100型を用いて測定した結果、57%であった。一方、加工前の酸化錫膜のシート抵抗は10Ω/□、光透過率は82%であった。銅めっき膜の開口率を見積もったところ約70%であった。これより、加工後の光透過率は銅めっき膜の開口率によって支配されることは明らかである。
【0039】
本発明では、アクリル樹脂付着粒子(透明絶縁材)の形状・密度を変えることにより、透光性導電膜を最適な透光性と導電性を有するものに調整できる。また、アクリル樹脂付着粒子は透光性が高く且つ下地膜に対して腐食や汚れを防ぐ保護膜として機能するので、銅めっき工程の後これを除去する必要がない。
【0040】
透明絶縁材としてはこの実施例で用いたアクリル樹脂以外にも、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などの透明性の高い他の材料を用いることができる。また、金属めっき膜として銅以外に白金、金、パラジウム、銀、ニッケル、コバルトなどの材料及びそれらの合金材料や複合材料の膜を用いても差し支えない。
【0041】
〔実施例2〕
透明導電膜が酸化亜鉛を主成分とする材料で構成されていること、及び、ピロリン酸銅を含む銅めっき液を用いること以外は、実施例1と同様の条件・方法で透光性導電膜を作製した。具体的には、図7に示した透明導電膜1をアルミニウム・ドープ酸化亜鉛薄膜ZnO:Al2O3(98.2wt%)で、透明絶縁膜2をアクリル樹脂で、金属膜3を銅めっき膜で構成した。
【0042】
アルミニウム・ドープ酸化亜鉛薄膜はスパッタ法で作製した。ガラス基板10上に作製した酸化亜鉛膜の膜厚は0.7μmで、シート抵抗は20Ω/□、光透過率は80%であった。
【0043】
次に実施例1の場合と同様の条件・方法によりアクリル樹脂を酸化亜鉛膜表面に噴霧し、図4に示すような島状の構造に付着させた。これを1時間程度の気中乾燥により溶媒を飛散させた後、銅めっき処理を行った。
【0044】
一般に、酸化亜鉛を主成分とする透明導電材料は耐酸性に乏しいことが知られており、実際にアルミニウム・ドープ酸化亜鉛薄膜表面に硫酸銅液を用いて銅めっきを試みたところ、酸化亜鉛薄膜そのものが溶解してしまうことや、かろうじて銅が析出したとしても酸化亜鉛薄膜がガラス基板から剥離してしまうなどの不具合が生じた。そこで中性のめっき液を用いて亜鉛薄膜表面に銅めっきを行うこととした。検討の結果、以下の組成のめっき液を用いると、下地の酸化亜鉛膜にほとんど損傷を与えることなく良質の銅めっき膜が得られることがわかった。
【0045】
[中性電解銅めっき液の組成]
ピロリン酸銅 100g/L
ピロリン酸銅カリウム 350g/L
アンモニア水 4ml/L
こうして図6に示すような網目状の銅めっき膜3を形成した。このようにして得られた透光性導電膜のシート抵抗を共和理研、K−705RS(4端子法)を用いて測定した結果、シート抵抗は0.4Ω/□であった。また、光透過率を日立、分光光度計U−4100型を用いて測定した結果、55%であった。
【0046】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜として、アルミニウムドープ酸化亜鉛以外にガリウムドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化亜鉛、酸化亜鉛・酸化インジウム混合膜、酸化亜鉛・酸化錫混合膜などがあるが、これらの材料に対しても上記のように、中性めっき液を用いて銅めっきをすることが可能であることは容易に類推できる。
【0047】
〔実施例3〕
粒径300μmのミストを基板に被覆率50%で吹きつける第1工程と、その後粒径20μmのミストを同じ被覆率50%で基板に吹き付ける第2工程のシミュレーションを実施した。このシミュレーションでは、一定の粒径(300μm又は20μm)のミストを、被覆率が50%に至るまでランダムに配置していくことで、仮想の透明絶縁体パターンを作製した。第1工程と第2工程をそれぞれ単独に行ったときのパターンを、それぞれ図9(a)と9(b)に示す。図9(b)の第2工程により得られたパターンには、分かりやすくするため、第1工程で形成した大きい透明絶縁体のパターンを示していない。2つの工程の終了後の透明絶縁体パターンは、図9(c)に示すとおりであり、この状態で、透過率(基板表面積に対する透明絶縁体の占める領域の面積比)は、先に示した計算に基づく理論値どおり、75%となった。
【0048】
図9(c)のパターンでの金属電極膜(黒く表示されている部分)の電気特性評価の結果を、同じく2工程で形成し透過率の異なるその他のパターンでの結果、及び単一粒径のミストのみで形成したパターンでの結果とともに、図10に示す。この電気特性評価は、シミュレーションで求めたパターンを銅箔付き基板に転写し、銅箔をエッチングして、金属膜パターンを備えた基板を作製し、その金属膜パターンの対向する両端間の電気抵抗を実際に測定して行った。電気抵抗は、KEITHLEY社のModel 2000 Digital Multimeterを 用いて、四端子法により測定した。基板の透過率(開口率)が大きくなればなるほど、電気抵抗は増大し、単一粒径のミストのみを用いた場合、透過率が60%を超えると銅箔は不連続となった。粒径が10倍程度異なる2種類のミストで形成した複合パターンと比較すると、同一透過率のときの電気抵抗は、異径粒子を複合した場合の方が低いことが分かる。言い換えれば、グラフから見て、粒径の異なるミストを併用して塗布することにより、同一コンダクタンス条件での開口率を2割程度向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明によれば、金属膜めっきのマスクとして機能する透明絶縁材料は光透過率が高いのでそのまま透明導電膜上に残しておいても差し支えなく、製造工程が簡便である。更に、透明絶縁材料が下地である透明導電膜の保護膜として作用するので、めっき工程における透明導電膜の損傷、汚染を防止できる利点がある。
【0050】
マスクを使わずに透明絶縁材料の液滴状パターンを形成するので、大面積基板を高速に処理できるため量産化に適した方法である。
【0051】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜は耐酸性に乏しいため、弱アルカリ性のピロリン酸銅めっき浴を用いる必要がある。これにより、透明導電膜に損傷を与えることなく、良質の銅薄膜を形成できる。
【0052】
よって、本発明によれば、透光性導電膜の光透過率を低下させることなく、且つ製造コストを低減し量産に向いた(低抵抗の)透光性導電膜の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】基板に透明導電膜を形成した基材を示す平面図及断面図である。
【図2】透明導電膜上に透明絶縁材を付着させた状態を示す平面図及断面図である。
【図3】透明導電膜上に銅めっきを施した状態の平面図及断面図である。
【図4】透明導電膜上に透明絶縁材を付着させた状態を示す。
【図5】電解銅めっき工程を示す。
【図6】銅めっき膜を形成した状態を示す。
【図7】銅めっき膜を形成した状態の断面図である。
【図8】シミュレーションにより求めた粒径300μmの単一粒径のミストを75%の開口率を与えるまで吹き付けたときの透明絶縁体のミスト付着パターンを示す図である。
【図9】シミュレーションにより求めた異なる粒径のミストの噴霧により形成した透明絶縁体のミスト付着パターンを示す図であって、(a)は粒径300μmのミストを基板に被覆率50%で吹きつける第1工程で形成したパターン、(b)は粒径20μmのミストを同じ被覆率50%で基板に吹き付ける第2工程で形成したパターン、(c)は最終的に得られる透明絶縁体パターンを示している。
【図10】粒径の異なるミストを用いて2工程で形成した透明絶縁体パターンと、単一粒径のミストのみで形成したパターンの、種々の透過率での電気特性評価の結果を示すグラフである。
【図11】透明導電膜上に金属細線を貼り付け、金属電極を形成した従来例を示す。
【図12】透明導電膜上に導電ペーストを塗布し、金属電極を形成した従来例を示す。
【図13】透明導電膜上の導電ペースト上に金属めっきを施し、金属電極を形成した従来例を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 透明導電膜
2 透明絶縁材
3 金属薄膜
6 銅板
7 めっき液
10 ガラス基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成した透明導電膜の表面に互いに分離したパターンを有する透明絶縁材料を形成し、
該透明絶縁材料が付着していない透明導電膜の露出部分に電気めっき法により選択的に電極となる金属膜を形成することを特徴とする電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項2】
透明絶縁材料を含む液状物質を透明導電膜の表面に適量噴霧することにより、互いに分離した透明絶縁材料のパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項3】
酸化錫を主成分とする透明導電膜上に、硫酸銅を含むめっき液を用いて金属膜となる銅を析出させることを特徴とする請求項1に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項4】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜上に、ピロリン酸銅を含むめっき液を用いて金属膜となる銅を析出させることを特徴とする請求項1に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項5】
前記透明絶縁材料のパターンを、該透明絶縁材料を含む液状物質の粒径の異なる少なくとも2種類のミストの噴霧により形成することを特徴とする、請求項2に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも2種類のミストをそれぞれ40〜50%の被覆率で透明導電膜上に噴霧することを特徴とする、請求項5に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項1】
基材上に形成した透明導電膜の表面に互いに分離したパターンを有する透明絶縁材料を形成し、
該透明絶縁材料が付着していない透明導電膜の露出部分に電気めっき法により選択的に電極となる金属膜を形成することを特徴とする電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項2】
透明絶縁材料を含む液状物質を透明導電膜の表面に適量噴霧することにより、互いに分離した透明絶縁材料のパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項3】
酸化錫を主成分とする透明導電膜上に、硫酸銅を含むめっき液を用いて金属膜となる銅を析出させることを特徴とする請求項1に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項4】
酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜上に、ピロリン酸銅を含むめっき液を用いて金属膜となる銅を析出させることを特徴とする請求項1に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項5】
前記透明絶縁材料のパターンを、該透明絶縁材料を含む液状物質の粒径の異なる少なくとも2種類のミストの噴霧により形成することを特徴とする、請求項2に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも2種類のミストをそれぞれ40〜50%の被覆率で透明導電膜上に噴霧することを特徴とする、請求項5に記載の電極付き透光性導電膜基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2007−149633(P2007−149633A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90963(P2006−90963)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】
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