説明

透光性組成物

【課題】光透過率に優れた光透過性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の光透過性組成物は、光透過性のマトリックスにナノ中空シリカ粒子を分散させてなる、光透過性組成物であって、前記ナノ中空シリカ粒子はその1次粒子径が300nm以下であり、壁厚が30nm以下であり、空隙率が40%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透光性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透光性組成物は光デバイスの光源等の部材を形成するために用いられる。光源からの光がなるべく減衰しないようにするためには、透光性部材における光透過率を高くする必要がある。
従来より、透光性部材に高い光透過率を確保すべく種々の検討がなされてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−257299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光源用の部材に用いられる透光性部材には耐光性や耐熱性等の優れた物理特性や機械的強度が要求される。
本発明者らは、上記要求を満足すべく鋭意検討を重ねてきた結果、下記の本発明に想到した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の光透過性組成物は、光透過性のマトリックスにナノ中空シリカ粒子を分散させてなる、光透過性組成物であって、前記ナノ中空シリカ粒子はその1次粒子径が300nm以下であり、壁厚が30nm以下であり、空隙率が40%以上である、ことを特徴とする。
【0006】
本発明の光透過性組成物では、ナノ中空シリカ粒子が光透過性のマトリックスに分散されている。そして、ナノ中空シリカ粒子の1次粒子径は300nm以下と極めて小さく、且つその壁厚が30nm以下と極めて薄くされている。このため、ナノ中空シリカ粒子の粒子径及び壁厚が可視光や赤外線の波長よりも遥かに短く、可視光や赤外線に対する透明性が失われ難い。また、紫外線に対しても、その波長が300nmを超えれば透明性を有することとなる。さらには、このナノ中空シリカ粒子の空隙率は40%以上と高くされていることも相俟って、高い光透過率を有することとなる。
また、ナノ中空シリカ粒子の散乱は粒子外表面のみならず、粒子内表面でも起こる。さらには、中空構造を有することから、中実粒子とは異なり、粒子内部に入る光のエネルギー減衰も少なく、効率よく散乱が起こる。このため、本発明の光透過性組成物では、透過性を確保しつつ、なおかつ散乱効果をも有することとなる。つまり透過性(粒子内部を通過する分もある)と散乱性(粒子内壁分もある)のバランスが、中実粒子と異なることで、透過性を確保しつつ均一に散乱するという特徴を有することとなるのである。このような特徴は、可視光透明となる凝集塊以下では、ナノ中空シリカ粒子の高透過性・高散乱性が相俟って効率的に均一に起こる。
また、本発明の光透過性組成物中におけるナノ中空シリカ粒子は、光透過性組成物中では500nmから10μm程度の大きな凝集塊となるため、空気を内包した凝集粒子としての特性としても、高透過率と高散乱とを両立させるものと考えられる。また、このような特徴を生かし、凝集塊によって透過及び散乱のバランスを調整することもできる。すなわち、散乱に関しては一粒子からの散乱(粒子内壁分もある)と凝集塊外壁の散乱が重なっているので、この成分を調整するのである。具体的には、ナノ中空シリカ粒子における一次粒子の径、シリカセルの壁厚および空隙率を調整することによって、透過及び散乱のバランスを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態1のLEDパネルの分解斜視図である。
【図2】実施形態1のLEDパネルの斜視図である。
【図3】実施形態1のLEDパネルの拡大模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の光透過性組成物に用いられる光透過性のマトリックスとしては、光を透過する材料であれば特に限定はない。例えば、透明樹脂や無機ガラス等が用いられる。透明樹脂としては、例えばポリカーボネート樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
なお、本明細書において、光とは可視光の他、赤外線や紫外線をも含む。
【0009】
また、本発明の光透過性組成物の形態としては、バルク材料として用いられる他、部材表面(例えばLEDパネルの透光板)の表面に付着するコーティング層や、ドットによる印刷層であってもよい。
【0010】
本発明の光透過性組成物に分散させるナノ中空シリカ粒子は、1次粒子径が300nm以下であり、壁厚が30nm以下であり、空隙率が40%以上である。好ましくは1次粒子径が200nm以下であり、壁厚が25nm以下であり、空隙率が50%以上であり、さらに好ましくは1次粒子径が150nm以下であり、壁厚が20nm以下であり、空隙率が60%以上である。
また、1次粒子径が35nm以上45nm以下の場合、壁厚が3.5nm以上5.5nm以下であり、空隙率が40%以上50%以下が好ましく、1次粒子径が55nm以上65nm以下の場合、壁厚が4.5nm以上9nm以下であり、空隙率が40%以上60%以下が好ましく、1次粒子径が90nm以上110nm以下の場合、壁厚が5nm以上15nm以下であり、空隙率が40%以上70%以下が好ましく、1次粒子径が180nm以上220nm以下の場合、壁厚が16nm以上30nm以下であり空隙率が40%以上70%以下が好ましい。
【0011】
このような中空ナノ粒子は、例えば、特開2005−263550号公報に記載の方法によって製造することができる。すなわち、炭酸カルシウムを調製する第1工程、炭酸カルシウムにシリカをコーティングする第2工程、及び炭酸カルシウムを溶解させる第3工程により、シリカの殻からなる中空粒子を製造する方法において、
(1)第1工程において、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が20〜200nmの炭酸カルシウムを水系にて調製し、静的光散乱法による粒子径が20〜700nmになるように熟成させた後、脱水して含水ケーキの状態とし、
(2)第2工程において、(1)の含水ケーキをアルコール中に分散させ、アンモニア水、水、シリコンアルコキシドを、シリコンアルコキシド/アルコールの体積比を0.002〜0.1、アンモニア水に含有されるNH3を、シリコンアルコキシド1モルに対して、4〜15モル、水をシリコンアルコキシド1モルに対して、25〜200モルとなるように添加することにより、シリカでコーティングされた炭酸カルシウムを調製した後、アルコール及び水による洗浄を行い、再び含水ケーキとし、
(3)第3工程において、(2)の含水ケーキを水に分散させ、酸を添加して、液の酸濃度を0.1〜3モル/Lとすることにより炭酸カルシウムを溶解させることにより、緻密なシリカ殻からなる高分散の中空状粒子である。
【0012】
この方法によれば、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nm、静的光散乱法による粒子径が30〜800nm、壁厚5〜30nm、水銀圧入法により測定される細孔分布において2〜20nmの細孔が検出されない高分散シリカナノ中空粒子を製造することができる。また、上記第1工程において調製される炭酸カルシウムの結晶はカルサイトであり六方晶系であるが、合成条件を制御することにより、あたかも立方晶系であるかのような形状、即ち「立方体状」に成長させることができる。ここで、「立方体状」とは、立方体に限らず面で囲まれた立方体に似た形状も含む意味である。
【0013】
発明者らは、この方法に順じ、適宜薬剤濃度や撹拌方法や温度やアルカリの種類等を調整することにより、以下に示す様々な1次粒子径、壁厚、及び空隙率のナノ中空シリカ粒子を製造できることを確認している。
【0014】
【表1】

【0015】
また、ナノ中空シリカ粒子は、透明性マトリックスに分散し易くするために、表面処理剤で疎水性処理がなされていてもよい。
【0016】
以下、本発明をさらに具体化した実施形態について詳細に説明する。
(実施形態1)
実施形態1は、液晶表示パネルや看板などの背面から光を照射するバックライト装置を構成するために、LED光源が端面や背面に配置されるLEDパネルである。
【0017】
このLEDパネルは、図1及び図2に示すように、光透過性を有する導光板基材1を有し、その一面側にドット状の拡散層2が形成されている。拡散層2は図3に示すように、透光性バインダ3中にナノ中空シリカ粒子4及び光拡散微粒子5が分散されている。また、導光板基材1の裏側には多数のLED6が縦横に配置された発光板7が設置されており、導光板基材1の裏側(すなわち拡散層2側)から光照射可能とされている。
【0018】
透光性バインダ3としては、例えば溶剤型接着剤、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを使用できる。また透光性バインダ3としては、溶剤希釈中は密着せずに溶剤乾燥後に密着力を発現する樹脂成分、例えばアクリル系粘着剤を用いてもよい。
【0019】
また、ナノ中空シリカ粒子4としては、1次粒子径が300nm以下であり、壁厚が30nm以下であり、空隙率が40%以上であるシリカ粒子を用いる。このようなナノ中空シリカ粒子として、例えば、グランデックス株式会社製のナノバルーン(一次粒子径40nmから200nm、壁厚3.5nmから30nm、空隙率40%から70%)を用いることができる。また、このようなナノ中空シリカ粒子の表面を表面処理剤によって処理して、疎水性としたり、官能基を修飾したりして、透光性バインダへの分散性を向上させることもできる。
【0020】
また、光拡散微粒子5としては、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等の無機系微粒子や、シリコーンビーズ、PMMAビーズ、MSビーズ、スチレンビーズ等の有機系微粒子を用いることができる。また、光拡散微粒子5の形状は、真球状、球状、鱗片状、不定形状等であってよく、特に限定されるものではない。さらに、拡散微粒子21の平均粒径は、1μm以上50μm以下が好ましい。当該平均粒径が1μmより小さいと、光を拡散する能力が不足したり、拡散光が着色したりする恐れがある。なた、平均粒径が50μmより大きいと、拡散層2をスプレー塗布する場合、ノズルが目詰まりを起こし易い。
【0021】
また、透光性バインダ3、ナノ中空シリカ粒子4及び光拡散微粒子5の混合割合としては、光透過率、光散乱性率、導光板の形状や大きさ、LEDの輝度等を勘案して、適宜適切な割合を決定すればよい。
【0022】
以上のように構成された実施形態1のLEDパネルでは、LED6に電流を流して発光させると導光板基材1の裏側から光が侵入し、光の一部は拡散層2中の透光性バインダ3やナノ中空シリカ粒子4中を進行し、光拡散微粒子5に当たって拡散する。さらに拡散光は導光板基材1の拡散層2と反対側に進行する。こうして導光板基材1の全面が均一に発光することとなる。ここで、ナノ中空シリカ粒子4は1次粒子径が300nm以下と極めて小さく、且つその壁厚が30nm以下と極めて薄くされているため、可視光や赤外線に対する透明性が失われ難い。また、紫外線に対しても、その波長が300nm以上であれば透明性を有することとなる。さらには、ナノ中空シリカ粒子4の空隙率は40%以上と高くされていることから、高い光透過率を有することとなる。また、ナノ中空シリカ粒子4は中実のシリカより屈折率が低く、光透過性に優れ、シリカの壁の存在によってレンズの役割を果たし拡散する。
【0023】
溶媒に対する光拡散微粒子5及び透光性バインダ3の混合体の混合比率は、2wt
%以上50wt%以下が好ましい。当該混合比率が50wt%より多いと、塗工性に劣る場合がある。また、当該混合比率が2wt%より少ないと、溶媒の使用量増大によるコスト増が問題になる場合がある。特に当該混合比率は3wt%以上30wt%以下が好ましい。
【0024】
光拡散微粒子5及び透光性バインダ3は溶媒によって薄めて、スプレー法等によって導光板基材上に拡散層を形成することができる。スプレー塗布した導光板基材1は、当該溶剤を自然風乾や熱風などによって乾燥させる。透光性バインダ3が紫外線硬化樹脂からなる場合は、その後の工程にて紫外線を照射して当該透光性バインダ3を硬化させる。その結果、導光板基材1の塗工面に付着する。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
実施例1では、以下の組成からなる塗料を調製し、透明アクリル板の一面側にドット印刷を行い、LEDパネル用の透光パネルを作製した。
有機溶媒のキシレン80重量部にアクリル樹脂を11重量部溶解させて、アクリル樹脂溶液を作製する。このアクリル樹脂溶液中に、グランデックス株式会社製のナノバルーン(一次粒子径90〜110nm、壁厚8〜10nm、空隙率50〜60%、比表面積130〜150nm2/g、粒子密度0.6〜0.7、かさ密度0.06〜0.09g/ml)を5重量部、光拡散微粒子(例えばMBX5:積水化成品工業(株)製、架橋アクリル粒子、XX03BZ:積水化成品 工業(株)製、架橋アクリル粒子、XX02BZ:積水化成品工業(株)製、架橋アクリツ樹脂等))を5重量部混合する。そして、攪拌することによって、ナノ中空シリカ粒子としてのナノバルーンおよび光拡散微粒子がアクリル樹脂溶液中に均一に分散したコーティング剤を得る。
【0026】
所定形状の透明アクリル板を用意し、その一面側に上記コーティング剤をドット状に印刷する。その後、乾燥させてLEDパネルを作製した。
【0027】
(比較例1)
比較例1では、ナノバルーンを添加しなかった。それ以外については実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0028】
上記実施例1及び比較例1のLEDパネルについて、LEDパネルの背面側あるいは両側面からLED照明を行い、ミノルタ製色彩色差計を用いて輝度を測定した。その結果、実施例1のLEDパネルは比較例1のLEDパネルに比べて、いずれの照明方法においても輝度が15%高かった。
【0029】
上記実施例では、LED用のパネルについて説明したが、同様に光拡散を必要とする用途全てに適用できる。具体的には、導光板(液晶TV用、広告用、看板用、照明用、自動車のメーターパネル用など)やLED透過光による自動車の計器類や家電製品の表示板に用いたり、液晶TV用拡散板や、液晶TV用反射シートや、蛍光灯/ハロゲンランプのレンズ及びその表面コーティングや、LED電球/LED照明や、各種照明・看板機器や、自動車や自転車などのヘッドライト・テールランプに用いることができる。これらの使用には、光透過材料の表面にスクリーン印刷等の方法によってコーティングして用いるほか、バルク材として使用することもできる。
【0030】
また、上記実施例では、主に光拡散微粒子5によって光を拡散させたが、光拡散粒子5を添加せずにナノ中空シリカ粒子4によって光を拡散させてもよい。ナノ中空シリカ粒子4の粒子径は光の波長よりも小さいが、拡散層2の中では500nmから10μmに大きな凝集塊となり、空気を内包した凝集粒子としての特性では高透過と高散乱を両立させることができるからである。
【0031】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…導光板基材
2…拡散層(光透過性組成物)
3…透光性バインダ
4…ナノ中空シリカ粒子
5…光拡散微粒子
6…LED
7…発光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性のマトリックスにナノ中空シリカ粒子を分散させてなる、光透過性組成物であって、
前記ナノ中空シリカ粒子はその1次粒子径が300nm以下であり、壁厚が30nm以下であり、空隙率が40%以上である、ことを特徴とする光透過性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57003(P2012−57003A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199544(P2010−199544)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(504067365)グランデックス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】